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特許7207392アクリルゴム組成物、架橋ゴム積層体及び燃料ホース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】アクリルゴム組成物、架橋ゴム積層体及び燃料ホース
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20230111BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20230111BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20230111BHJP
   C08F 22/16 20060101ALI20230111BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20230111BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08L33/06
C08K5/17
C08K5/05
C08F22/16
B32B25/14
F16L11/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020501630
(86)(22)【出願日】2019-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2019003415
(87)【国際公開番号】W WO2019163468
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018029159
(32)【優先日】2018-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】成田 智幸
(72)【発明者】
【氏名】茂▲崎▼ 紫穂
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-009384(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132130(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0037175(US,A1)
【文献】特開2013-028754(JP,A)
【文献】国際公開第2011/021641(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/030859(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/084235(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08F 6/00-246/00
B32B25/14
F16L11/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有アクリルゴムと、
多価アミン化合物と、
ヘテロ原子含有アルコールを含み、
前記ヘテロ原子含有アルコールは、アミノアルコールである、アクリルゴム組成物
【請求項2】
前記カルボキシル基含有アクリルゴムに対する前記ヘテロ原子含有アルコールの質量比が1~5%である、請求項に記載のアクリルゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアクリルゴム組成物と、フッ素ゴム組成物が架橋接着している、架橋ゴム積層体。
【請求項4】
前記フッ素ゴム組成物は、有機過酸化物系架橋剤を含む、請求項に記載の架橋ゴム積層体。
【請求項5】
前記フッ素ゴム組成物は、フッ素原子の含有量が69質量%以上であるフッ素ゴムを含む、請求項又はに記載の架橋ゴム積層体。
【請求項6】
請求項乃至のいずれか一項に記載の架橋ゴム積層体を有する、燃料ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴム組成物、架橋ゴム積層体及び燃料ホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料ホース用材料として、アクリルゴム組成物とフッ素ゴム組成物が架橋接着している架橋ゴム積層体が知られている。
【0003】
このようなアクリルゴム組成物は、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物を含むが、フッ素ゴム組成物に対する架橋接着性を付与するために、添加剤が添加されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-9384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のアクリルゴム組成物は、フッ素ゴム組成物に対する架橋接着性をさらに向上させることが望まれている。
【0006】
本発明の一態様は、フッ素ゴム組成物に対する架橋接着性に優れるアクリルゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、アクリルゴム組成物において、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ヘテロ原子含有アルコールを含む。
【0008】
上記ヘテロ原子含有アルコールは、アミノアルコールであ

【0009】
上記カルボキシル基含有アクリルゴムに対する上記ヘテロ原子含有アルコールの質量比が1~5%であることが好ましい。
【0010】
本発明の他の態様は、架橋ゴム積層体において、上記アクリルゴム組成物と、フッ素ゴム組成物が架橋接着している。
【0011】
上記フッ素ゴム組成物は、有機過酸化物系架橋剤を含むことが好ましい。
【0012】
上記フッ素ゴム組成物は、フッ素原子の含有量が69質量%以上であるフッ素ゴムを含むことが好ましい。
【0013】
本発明の他の態様は、燃料ホースにおいて、上記架橋ゴム積層体を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、フッ素ゴム組成物に対する架橋接着性に優れるアクリルゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
<アクリルゴム組成物>
本実施形態に係るアクリルゴム組成物は、カルボキシル基含有アクリルゴムと、多価アミン化合物と、ヘテロ原子含有アルコールを含む。
【0017】
本実施形態に係るアクリルゴム組成物は、後述するように、フッ素ゴム組成物と架橋接着させることにより、架橋ゴム積層体を製造することができる。
【0018】
<カルボキシル基含有アクリルゴム>
カルボキシル基含有アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有し、かつ、カルボキシル基を有する。
【0019】
本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを意味する。
【0020】
また、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を1個有する単官能単量体を意味する。
【0021】
なお、カルボキシル基含有アクリルゴムが有するカルボキシル基は、多価アミン化合物が有するアミノ基と反応することで、アクリルゴム組成物が架橋してアクリルゴム架橋物が生成する。これにより、アクリルゴム架橋物の耐熱性が向上する。
【0022】
カルボキシル基含有アクリルゴムの合成方法としては、例えば、(a)(メタ)アクリル酸エステルと、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸を共重合する方法、(b)ラジカル重合開始剤の存在下で、カルボキシル基を有しないアクリルゴムに対して、カルボキシル基を有する炭素-炭素不飽和結合含有化合物を付加反応させる方法、(c)カルボキシル基を有しないアクリルゴム中のカルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基等のカルボキシル基から誘導される基の一部を加水分解する方法等が挙げられる。これらの中でも、上記(a)の合成方法が好ましい。
【0023】
<(メタ)アクリル酸エステル>
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル等が挙げられる。
【0024】
(メタ)アクリル酸アルキルとしては、特に限定されないが、炭素数1~8のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。
【0025】
炭素数1~8のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸エチル、及び(メタ)アクリル酸n-ブチルが好ましく、アクリル酸エチル及びアクリル酸n-ブチルが特に好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルとしては、特に限定されないが、炭素数2~8のアルコキシアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルが好ましい。
【0027】
炭素数2~8のアルコキシアルキルアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸3-メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-メトキシブチル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル及び(メタ)アクリル酸2-メトキシエチルが好ましく、アクリル酸2-エトキシエチル及びアクリル酸2-メトキシエチルが特に好ましい。
【0028】
なお、(メタ)アクリル酸エステルは、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0029】
カルボキシル基含有アクリルゴムの全構成単位に対する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位の割合は、好ましくは50~99.9質量%であり、より好ましくは60~99.5質量%であり、さらに好ましくは70~99.5質量%である。カルボキシル基含有アクリルゴムの全構成単位に対する(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位の割合が50質量%以上であると、アクリルゴム架橋物の耐候性が向上し、99.9質量%以下であると、アクリルゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性が向上する。
【0030】
なお、カルボキシル基含有アクリルゴムは、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位に対する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位の割合が30~100質量%であり、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位に対する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル由来の構成単位の割合が70~0質量%であることが好ましい。
【0031】
<α,β-エチレン性不飽和カルボン酸>
α,β-エチレン性不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸エステルと共重合することが可能な架橋性単官能単量体であれば、特に限定されないが、例えば、炭素数3~12のα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸、炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸、炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1~8のアルカノールのモノエステル等が挙げられる。
【0032】
炭素数3~12のα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等が挙げられる。
【0033】
炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸の具体例としては、フマル酸、マレイン酸等のブテンジオン酸;イタコン酸;シトラコン酸;クロロマレイン酸等が挙げられる。
【0034】
なお、炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸は、無水物であってもよい。
【0035】
炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1~8のアルカノールとのモノエステルの具体例としては、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノn-プロピル、フマル酸モノイソプロピル、フマル酸モノn-ブチル、フマル酸モノイソブチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノn-プロピル、マレイン酸モノイソプロピル、マレイン酸モノn-ブチル、マレイン酸モノイソブチル等のブテンジオン酸モノ鎖状アルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘキセニル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘキセニル等の脂環構造を有するブテンジオン酸モノエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノn-ブチル、イタコン酸モノシクロヘキシル等のイタコン酸モノエステル等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、フッ素ゴム組成物に対する架橋接着性の点から、炭素数4~12のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸と炭素数1~8のアルカノールとのモノエステルが好ましく、フマル酸モノイソプロピル、フマル酸モノイソブチル、フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノイソプロピル、マレイン酸モノイソブチル、マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル等の炭素数4のα,β-エチレン性不飽和ジカルボン酸の2級アルキルエステルが特に好ましい。
【0037】
なお、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0038】
カルボキシル基含有アクリルゴムの全構成単位に対するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位の割合は、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.5~7質量%であり、さらに好ましくは0.5~5質量%である。カルボキシル基含有アクリルゴムの全構成単位に対するα,β-エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位の割合が0.1質量%以上であると、アクリルゴム架橋物の機械的特性及び耐熱性が向上し、10質量%以下であると、アクリルゴム架橋物の破断伸び及び耐圧縮永久歪み性が向上する。
【0039】
カルボキシル基含有アクリルゴム中のカルボキシル基の含有量(カルボキシル基含有アクリルゴム100g当たりのカルボキシル基のモル数[ephr])は、好ましくは4×10-4~4×10-1ephrであり、より好ましくは1×10-3~2×10-1ephrであり、さらに好ましくは5×10-3~1×10-1ephrである。カルボキシル基含有アクリルゴム中のカルボキシル基の含有量が4×10-4ephr以上であると、アクリルゴム架橋物の機械的特性及び耐熱性が向上し、4×10-1ephr以下であると、アクリルゴム架橋物の破断伸び及び耐圧縮永久歪み性が向上する。
【0040】
また、カルボキシル基含有アクリルゴムは、アクリルゴム組成物の加工性、スコーチ安定性の点から、2級アルキルエステル構造を有することが好ましい。
【0041】
<他の架橋性単官能単量体>
カルボキシル基含有アクリルゴムは、必要に応じて、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸以外の架橋性単官能単量体(以下、他の架橋性単官能単量体という)由来の構成単位をさらに有していてもよい。
【0042】
他の架橋性単官能単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸と共重合することが可能な架橋性単官能単量体であれば、特に限定されないが、例えば、ハロゲン原子を有する単量体;エポキシ基を有する単量体;水酸基を有する単量体等が挙げられる。
【0043】
なお、他の架橋性単官能単量体は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0044】
カルボキシル基含有アクリルゴムの全構成単位に対する他の架橋性単官能単量体由来の構成単位の割合は、特に限定されず、適宜決定することができる。
【0045】
<他の単官能単量体>
カルボキシル基含有アクリルゴムは、必要に応じて、上述した(メタ)アクリル酸エステル、架橋性単官能単量体以外の単官能単量体(以下、他の単官能単量体という)由来の構成単位をさらに有していてもよい。
【0046】
他の単官能単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸と共重合することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、芳香族ビニル化合物、α,β-エチレン性不飽和ニトリル化合物、オレフィン系化合物、ビニルエステル化合物、ビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0047】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン等が挙げられる。
【0048】
α,β-エチレン性不飽和ニトリル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
【0049】
オレフィン系化合物の具体例としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン等が挙げられる。
【0050】
ビニルエステル化合物の具体例としては、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0051】
ビニルエーテル化合物の具体例としては、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル等が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エチレン及び酢酸ビニルが好ましく、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及びエチレンがより好ましい。
【0053】
なお、他の単官能単量体は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0054】
カルボキシル基含有アクリルゴムの全構成単位に対する他の単官能単量体由来の構成単位の割合は、好ましくは49.9質量%以下であり、より好ましくは39.5質量%以下であり、さらに好ましくは29.5質量%以下である。
【0055】
<多官能単量体>
カルボキシル基含有アクリルゴムは、単官能単量体由来の構成単位以外に、多官能単量体由来の構成単位をさらに有していてもよい。
【0056】
ここで、多官能単量体は、(メタ)アクリル酸エステル、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸と共重合することが可能な基を2個以上有する化合物である。
【0057】
多官能単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸と共重合することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチルロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0058】
なお、多官能単量体は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0059】
カルボキシル基含有アクリルゴムの全構成単位に対する多官能単量体由来の構成単位の割合は、好ましくは10.0質量%以下であり、より好ましくは7.5質量%以下であり、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
【0060】
<カルボキシル基含有アクリルゴムの合成方法>
カルボキシル基含有アクリルゴムの合成方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法等の公知の合成方法を用いることができる。これらの中でも、常圧下における重合が可能であることから、乳化重合法が好ましい。
【0061】
乳化重合法は、回分式、半回分式、連続式のいずれであってもよい。
【0062】
なお、カルボキシル基含有アクリルゴムは、単量体を乳化重合した後、凝固工程、乾燥工程を経て、固形物として、得られる。
【0063】
<カルボキシル基含有アクリルゴムの特性>
カルボキシル基含有アクリルゴムのムーニー粘度ML1+4(100℃)は、好ましくは10~80であり、より好ましくは20~70であり、さらに好ましくは25~60である。
【0064】
<多価アミン化合物>
多価アミン化合物は、架橋剤として、機能する。
【0065】
多価アミン化合物とは、アミノ基を2個以上有する化合物、又は、架橋時に、2個以上のアミノ基を有する化合物に変換することが可能な化合物であるが、グアニジン等の非共役の窒素-炭素二重結合における炭素原子にアミノ基が結合している化合物(ただし、非共役の窒素-炭素二重結合における炭素原子以外の炭素原子に結合しているアミノ基を2個以上有する化合物を除く。)を含まない。
【0066】
多価アミン化合物としては、カルボキシル基含有アクリルゴムを架橋することが可能であれば、特に限定されないが、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン等の脂肪族多価アミン化合物又はその炭酸塩;4,4’-メチレンジアニリン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、2,2’-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,3,5-ベンゼントリアミン等の芳香族多価アミン化合物等が挙げられる。これらの中でも、フッ素ゴム組成物に対する架橋接着性の点から、脂肪族多価アミン化合物又はその炭酸塩が好ましく、ヘキサメチレンジアミンカーバメートがより好ましい。
【0067】
なお、多価アミン化合物は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0068】
本実施形態に係るアクリルゴム組成物中のカルボキシル基含有アクリルゴムに対する多価アミン化合物の質量比は、好ましくは0.05~20%であり、より好ましくは0.1~10%であり、さらに好ましくは0.3~5%である。本実施形態に係るアクリルゴム組成物中のカルボキシル基含有アクリルゴムに対する多価アミン化合物の質量比が0.05%以上であると、アクリルゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性が向上し、20%以下であると、アクリルゴム架橋物の破断伸びが向上する。
【0069】
<ヘテロ原子含有アルコール>
ヘテロ原子含有アルコールは、本実施形態に係るアクリルゴム組成物のフッ素ゴムに対する架橋接着性を向上させることができる。
【0070】
ヘテロ原子含有アルコールとは、アルキレン基、アリーレン基等の2価の炭化水素基を介して、1個以上のヒドロキシル基と、ヘテロ原子が結合している化合物である。
【0071】
ヘテロ原子としては、特に限定されないが、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、塩素原子等が挙げられる。
【0072】
ヘテロ原子含有アルコールは、本実施形態に係るアクリルゴム組成物のフッ素ゴムに対する架橋接着性の点で、アミノアルコールが好ましい。
【0073】
アミノアルコールとしては、特に限定されないが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジブチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチルプロパノール、3-アミノプロパノール、2-アミノプロパノール等が挙げられる。これらの中でも、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが好ましく、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンがより好ましく、トリエタノールアミンがさらに好ましい。
【0074】
アミノアルコール以外のヘテロ原子含有アルコールとしては、2-クロロエタノール、2-メルカプトエタノール等が挙げられる。
【0075】
なお、ヘテロ原子含有アルコールは、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0076】
本実施形態に係るアクリルゴム組成物中のカルボキシル基含有アクリルゴムに対するヘテロ原子含有アルコールの質量比は、好ましくは0.5~5%であり、より好ましくは1~5%であり、さらに好ましくは1~4%であり、特に好ましくは1~3%である。本実施形態に係るアクリルゴム組成物中のカルボキシル基含有アクリルゴムに対するヘテロ原子含有アルコールの質量比が0.5%以上であると、アクリルゴム組成物のフッ素ゴムに対する架橋接着性が向上し、5%以下であると、アクリルゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性が向上する。
【0077】
<配合剤>
本実施形態に係るアクリルゴム組成物は、必要に応じて、ゴム加工分野において、通常使用される配合剤をさらに含んでいてもよい。
【0078】
配合剤としては、架橋促進剤、充填剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤等が挙げられる。
【0079】
架橋促進剤としては、公知の架橋促進剤を用いることができるが、例えば、グアニジン化合物、第4級オニウム塩、第3級ホスフィン化合物、弱酸のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0080】
充填剤としては、公知の充填剤を用いることができるが、例えば、カーボンブラック、黒鉛(グラファイト)等の炭素系材料;アルミニウム粉末等の金属粉;ハードクレー、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機粉末;デンプン、ポリスチレン粉末等の有機粉末等の粉体;ガラス繊維(ミルドファイバー)、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカー等の短繊維;シリカ、マイカ等が挙げられる。
【0081】
老化防止剤としては、公知の老化防止剤を用いることができるが、例えば、フェノール系化合物、アミン系化合物、リン酸系化合物、硫黄系化合物等が挙げられる。
【0082】
可塑剤としては、公知の可塑剤を用いることができるが、例えば、ビス(ブトキシエトキシエチル)アジペート、ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ビス(2-エチルヘキシル)フタレート、アジピン酸エーテルエステル、ポリエーテルエステル等が挙げられる。
【0083】
加工助剤としては、公知の加工助剤を用いることができるが、例えば、脂肪酸系ワックス、脂肪酸アミド系ワックス、脂肪酸エステル系ワックス、脂肪アルコール系ワックス、脂肪酸と多価アルコールとの部分エステル系ワックス等が挙げられる。
【0084】
<ゴム、エラストマー、樹脂>
本実施形態に係るアクリルゴム組成物は、必要に応じて、アクリルゴム以外のゴム、エラストマー、樹脂をさらに含んでいてもよい。
【0085】
本実施形態に係るアクリルゴム組成物中のアクリルゴムに対するアクリルゴム以外のゴム、エラストマー、樹脂の質量比は、好ましくは50%以下であり、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。
【0086】
アクリルゴム以外のゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、溶液重合SBR(溶液重合スチレンブタジエンゴム)、乳化重合SBR(乳化重合スチレンブタジエンゴム)、低シスBR(ブタジエンゴム)、高シスBR、高トランスBR(ブタジエン部のトランス結合含有量70~95%)、スチレン-イソプレン共重合ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合ゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、乳化重合スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、ポリイソプレン-SBRブロック共重合ゴム、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エチレン-プロピレンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0087】
エラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリシロキサン系エラストマー等が挙げられる。
【0088】
樹脂としては、例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド等が挙げられる。
【0089】
<アクリルゴム組成物の製造方法>
本実施形態に係るアクリルゴム組成物を製造する際には、ロール、バンバリーミキサー、スクリュー混合機等の混合機を適宜使用することができる。
【0090】
<架橋ゴム積層体>
本実施形態に係る架橋ゴム積層体は、本実施形態に係るアクリルゴム組成物と、フッ素ゴム組成物が架橋接着している。
【0091】
<フッ素ゴム組成物>
フッ素ゴム組成物は、フッ素ゴムと、架橋剤を含む。このため、フッ素ゴム組成物を架橋すると、フッ素ゴム架橋物が生成する。
【0092】
<フッ素ゴム>
フッ素ゴムは、含フッ素単量体の単独重合体、二種以上の含フッ素単量体の共重合体、又は、一種以上の含フッ素単量体と、一種以上の含フッ素単量体と共重合することが可能なフッ素原子を含まない単量体との共重合体である。
【0093】
含フッ素単量体としては、例えば、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、ビニルフルオライド、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロエチルビニルエーテル、臭素化及び/又はヨウ素化されている不飽和フルオロ炭化水素等の架橋性単量体等が挙げられる。
【0094】
含フッ素単量体と共重合することが可能なフッ素原子を含まない単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン等が挙げられる。
【0095】
フッ素ゴムとしては、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロメチルビニルエーテル共重合体等の二元共重合体;ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体の三元共重合体、三元共重合体を構成する単量体と、架橋性単量体の共重合体等が挙げられる。
【0096】
フッ素ゴム中のフッ素原子の含有量は、好ましくは65質量%以上であり、より好ましくは67質量%以上であり、さらに好ましくは69質量%以上である。フッ素ゴム中のフッ素原子の含有量が65質量%以上であると、フッ素ゴム架橋物の耐油性、耐燃料油性、耐化学薬品安定性が向上する。
【0097】
<架橋剤>
架橋剤としては、フッ素ゴムを架橋することが可能であれば、特に限定されないが、ポリオール系架橋剤、有機過酸化物系架橋剤、アミン系架橋剤等が挙げられる。これらの中でも、アクリルゴム組成物との架橋接着性の点から、有機過酸化物系架橋剤が好ましい。
【0098】
なお、架橋剤は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0099】
有機過酸化物系架橋剤としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3-ヘキシン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等のジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;2,5-ジメチル-2,5-ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル等が挙げられる。これらの中でも、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0100】
フッ素ゴムに対する架橋剤の質量比は、好ましくは0.01~10%であり、より好ましくは0.05~5%であり、さらに好ましくは0.1~5%である。フッ素ゴムに対する架橋剤の質量比が0.01%以上であると、フッ素ゴム架橋物の耐圧縮永久歪み性が向上し、10%以下であると、フッ素ゴム架橋物の破断伸びが向上する。
【0101】
<配合剤>
フッ素ゴム組成物は、必要に応じて、ゴム加工分野において、通常使用される配合剤をさらに含んでいてもよい。
【0102】
配合剤としては、例えば、架橋助剤、充填剤等が挙げられる。
【0103】
架橋助剤としては、公知の架橋助剤を用いることができるが、例えば、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0104】
充填剤としては、公知の充填剤を用いることができるが、例えば、カーボンブラック、黒鉛(グラファイト)等の炭素系材料;アルミニウム粉末等の金属粉;ハードクレー、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等の無機粉末;デンプン、ポリスチレン粉末等の有機粉末等の粉体;ガラス繊維(ミルドファイバー)、炭素繊維、アラミド繊維、チタン酸カリウムウィスカー等の短繊維;シリカ、マイカ等が挙げられる。
【0105】
<フッ素ゴム組成物の製造方法>
フッ素ゴム組成物を製造する際には、ロール、バンバリーミキサー、スクリュー混合機等の混合機を適宜使用することができる。
【0106】
<架橋ゴム積層体の製造方法>
架橋ゴム積層体は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0107】
まず、アクリルゴム組成物及びフッ素ゴム組成物を、それぞれシート状に成形し、あるいは、層押出法により、アクリルゴム組成物及びフッ素ゴム組成物を積層チューブに成形し、成形体を製造する。
【0108】
アクリルゴム組成物及びフッ素ゴム組成物の成形方法としては、例えば、プレス成形、ロール成形、押出成形等の公知の方法を用いることができる。
【0109】
アクリルゴム組成物及びフッ素ゴム組成物の成形体の厚さは、それぞれ独立に、好ましくは0.1~5mmであり、より好ましくは0.5~3mmである。
【0110】
なお、アクリルゴム組成物及びフッ素ゴム組成物の成形体の厚さは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0111】
次に、アクリルゴム組成物の成形体と、フッ素ゴム組成物の成形体が、互いに接触している状態で、ホットプレス又は加硫缶を用いて、加圧加熱し、架橋接着させることにより、架橋ゴム積層体を製造することができる。
【0112】
ホットプレスを用いる場合は、通常、0.2~15MPaで加圧しながら、140~200℃で5~60分間加熱する。
【0113】
また、加硫缶を用いる場合は、通常、0.18MPaで加圧しながら、130~160℃で30~120分間加熱する。
【0114】
なお、アクリルゴム組成物の成形体と、フッ素ゴム組成物の成形体が、互いに接触している状態で一次架橋させた後、熱処理(ポストキュア)して二次架橋させることにより、架橋ゴム積層体を製造してもよい。これにより、一次架橋させる時間が短縮すると共に、架橋ゴム積層体の耐圧縮永久歪み性が向上する。
【0115】
なお、本実施形態に係る架橋ゴム積層体は、アクリルゴム架橋物とフッ素ゴム架橋物が一層ずつ積層されている構成に限定されず、アクリルゴム組成物とフッ素ゴム組成物が架橋接着している構造を有していればよく、複数層のアクリルゴム架橋物及び/又はフッ素ゴム架橋物を有していてもよい。
【0116】
また、本実施形態に係る架橋ゴム積層体は、アクリルゴム及びフッ素ゴム以外のゴムの架橋物を含む層をさらに有していてもよい。
【0117】
アクリルゴム及びフッ素ゴム以外のゴムとしては、例えば、エピクロロヒドリンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムとポリ塩化ビニルのブレンドゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム等が挙げられる。
【0118】
本実施形態に係る架橋ゴム積層体の用途としては、例えば、自動車等の輸送機械、一般機器、電気機器等の幅広い分野において、O-リング、ガスケット、パッキン、オイルシール、ベアリングシール等のシール材;オイルチューブ、燃料ホース、エアーホース、ターボエアーホース、PCVホース、インレットホース等のホース類;伝達ベルト、エンドレスベルト等の工業用ベルト類;緩衝材、防振材;電線被覆材;シート類;ブーツ類;ダストカバー類等が挙げられる。これらの中でも、燃料ホースが特に好ましい。
【実施例
【0119】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。なお、「部」及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0120】
後述する方法により製造したアクリルゴム組成物及びフッ素ゴム組成物を用いて、以下の方法により、アクリルゴム架橋物の常態物性を評価し、架橋ゴム積層体の剥離試験を実施した。
【0121】
(1)アクリルゴム架橋物の常態物性
アクリルゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら、170℃で20分間プレスして一次架橋させ、一次架橋物を得た。次に、ギヤー式オーブンを用いて、一次架橋物を170℃で4時間加熱して二次架橋させ、シート状のアクリルゴム架橋物を得た。得られたシート状のアクリルゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて、試験片を作製した。
【0122】
次に、JIS K6253に準拠して、硬さ(ピーク値)を測定した。また、JIS 6251に準拠して、破断強度、破断伸び及び100%応力を測定した。
【0123】
(2)架橋ゴム積層体の剥離試験
オープンロールを用いて、アクリルゴム組成物、フッ素ゴム組成物を、それぞれシート状に成形し、縦6cm×横10cm×厚さ約2mmの成形体を得た。次に、剥離試験を実施する時のつかみ部分に予めセロファン紙を挟んだ状態で、アクリルゴム組成物の成形体と、フッ素ゴム組成物の成形体を張り合わせ、縦6cm×横10cm×深さ0.4cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら、170℃で20分間プレスして一次架橋させ、一次架橋物積層体を得た。次に、オーブンを用いて、一次架橋物積層体を170℃で4時間加熱して二次架橋させ、シート状の架橋ゴム積層体を得た。
【0124】
次に、架橋ゴム積層体を、幅25.4mm、長さ100mmの短冊状に打ち抜いた後、架橋ゴム積層体の端部のつかみ部分を引張試験機のつかみ具に取り付け、23℃の環境下、50mm/分の速さで、180°剥離試験を実施した。このとき、JIS K6854-3に準拠して、剥離強度を測定した。また、剥離試験を実施した後、フッ素ゴム架橋物の表面に残留したアクリルゴム架橋物の割合を測定した。ここで、剥離強度が大きく、フッ素ゴム架橋物の表面に残留したアクリルゴム架橋物の割合が大きい場合に、アクリルゴム組成物のフッ素ゴム組成物に対する架橋接着性が良好である。
【0125】
まず、架橋ゴム積層体の剥離試験に用いるフッ素ゴム組成物を調製した。
【0126】
[フッ素ゴム組成物の調製]
オープンロールを用いて、フッ素原子の含有量70.2質量%のフッ素ゴム「バイトン(登録商標)GF600S」(デュポン社製)100部に、充填剤(カーボンブラック)「N-990(MT)」(デグサ社製)30部、純度40%の架橋剤(2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン)「パーヘキサ(登録商標)25B-40」(日油社製)1.5部、架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート)「タイク(登録商標)」(日本化成社製)3部を添加し、50℃で混練することで、フッ素ゴム組成物を調製した。
【0127】
次に、アクリルゴム組成物の調製に用いるカルボキシル基含有アクリルゴムを合成した。
【0128】
[カルボキシル基含有アクリルゴム(1)の合成]
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び減圧装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部、アクリル酸エチル58.1部、アクリル酸n-ブチル40.4部、及びフマル酸モノn-ブチル1.5部を仕込んだ。次に、減圧による脱気及び窒素置換を繰り返して酸素を十分除去した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.002部及びクメンハイドロパーオキシド0.005部を加えて、常圧常温下、乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続した。得られた乳化重合液を塩化カルシウム水溶液で凝固させた後、水洗し、乾燥させて、カルボキシル基含有アクリルゴム(1)を得た。得られたカルボキシル基含有アクリルゴム(1)の組成は、アクリル酸エチル由来の構成単位58.1質量%、アクリル酸n-ブチル由来の構成単位40.4質量%、及びフマル酸モノn-ブチル由来の構成単位1.5質量%である。
【0129】
[カルボキシル基含有アクリルゴム(2)の合成]
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び減圧装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部及びアクリル酸エチル64.7部、アクリル酸n-ブチル33.7部、及びフマル酸モノシクロヘキシル1.6部を仕込んだ。次に、減圧による脱気及び窒素置換を繰り返して酸素を十分除去した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.002部及びクメンハイドロパーオキシド0.005部を加えて、常圧常温下、乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続した。得られた乳化重合液を塩化カルシウム水溶液で凝固させた後、水洗し、乾燥させて、カルボキシル基含有アクリルゴム(2)を得た。得られたカルボキシル基含有アクリルゴム(2)の組成は、アクリル酸エチル由来の構成単位64.7質量%、アクリル酸n-ブチル由来の構成単位33.7質量%、及びフマル酸モノシクロヘキシル由来の構成単位1.6質量%である。
【0130】
[カルボキシル基含有アクリルゴム(3)の合成]
温度計、攪拌装置、窒素導入管及び減圧装置を備えた重合反応器に、水200部、ラウリル硫酸ナトリウム3部及びアクリル酸エチル65.5部、アクリル酸n-ブチル33.5部、及びフマル酸モノシクロヘキシル1.0部を仕込んだ。次に、減圧による脱気及び窒素置換を繰り返して酸素を十分除去した後、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.002部及びクメンハイドロパーオキシド0.005部を加えて、常圧常温下、乳化重合反応を開始させ、重合転化率が95%に達するまで反応を継続した。得られた乳化重合液を塩化カルシウム水溶液で凝固させ、水洗、乾燥して、カルボキシル基含有アクリルゴム(3)を得た。得られたカルボキシル基含有アクリルゴム(3)の組成は、アクリル酸エチル由来の構成単位65.5質量%、アクリル酸n-ブチル由来の構成単位33.5質量%、及びフマル酸モノシクロヘキシル由来の構成単位1.0質量%である。
【0131】
[実施例1]
カルボキシル基含有アクリルゴム(1)100部に、充填剤(カーボンブラック)「シーストSO(登録商標)(FEF)」(東海カーボン社製)60部、加工助剤(ステアリン酸)2部、加工助剤「グレック(登録商標)G-8205」(日辰貿易社製)1部、老化防止剤(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)「ノクラック(登録商標)CD」(大内新興化学工業社製)2部、可塑剤(アジピン酸エーテルエステル系化合物)「アデカサイザー(登録商標)RS-107」(ADEKA社製)5部、トリエタノールアミン1部を添加した後、バンバリーミキサーを用いて、50℃で5分間混練し、混練物を得た。
【0132】
得られた混練物に、架橋剤(ヘキサメチレンジアミンカーバメート)「ダイアック#1」(デュポン社製)0.5部、架橋促進剤(1,3-ジ-o-トリルグアニジン)「ノクセラー(登録商標)DT」(大内新興化学工業社製)2部を添加した後、オープンロールを用いて、50℃で混練し、アクリルゴム組成物を調製した。
【0133】
[実施例2]
トリエタノールアミンの添加量を3部に変更した以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を調製した。
【0134】
[実施例3]
トリエタノールアミンの添加量を5部に変更した以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を調製した。
【0135】
[実施例4]
充填剤(カーボンブラック)として、「シースト116(登録商標)(MAF)」(東海カーボン社製)を用い、トリエタノールアミンの代わりに、ジエタノールアミンを用いた以外は、実施例3と同様にして、アクリルゴム組成物を調製した。
【0136】
[実施例5]
カルボキシル基含有アクリルゴム(1)の代わりに、カルボキシル基含有アクリルゴム(2)を用い、可塑剤(アジピン酸エーテルエステル系化合物)の代わりに、可塑剤(ポリエーテルエステル系化合物)「アデカサイザー(登録商標)RS-735」(ADEKA社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を調製した。
【0137】
[実施例6]
得られた混練物に、加工助剤(ステアリルアミン)「ファーミン80V」(花王社製)0.3部をさらに添加した以外は、実施例5と同様にして、アクリルゴム組成物を調製した。
【0138】
[実施例7]
カルボキシル基含有アクリルゴム(1)の代わりに、カルボキシル基含有アクリルゴム(3)を用いた以外は、実施例5と同様にして、アクリルゴム組成物を調製した。
【0139】
[比較例1]
トリエタノールアミンを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を調製した。
【0140】
[比較例2]
カルボキシル基含有アクリルゴム(1)100部に、充填剤(カーボンブラック)「シーストSO(登録商標)(FEF)」(東海カーボン社製)50部、加工助剤(ステアリン酸)1部、加工助剤「グレック(登録商標)G-8205」(日辰貿易社製)1部、老化防止剤(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)「ノクラック(登録商標)CD」(大内新興化学工業社製)2部、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカ-7-エンのフェノール塩0.5部、トリアリルイソシアヌレート1部を添加した後、バンバリーミキサーを用いて、50℃で5分間混練し、混練物を得た。
【0141】
得られた混練物を用いた以外は、実施例1と同様にして、アクリルゴム組成物を調製した。
【0142】
表1に、アクリルゴム架橋物の常態物性、架橋ゴム積層体の剥離試験の評価結果を示す。
【0143】
【表1】
表1から、実施例1~7のアクリルゴム組成物は、フッ素ゴム組成物に対する架橋接着性に優れることがわかる。
【0144】
これに対して、比較例1のアクリルゴム組成物は、ヘテロ原子含有アルコールを含まないため、フッ素ゴム組成物に対する架橋接着性が低い。
【0145】
また、比較例2のアクリルゴム組成物は、ヘテロ原子含有アルコールの代わりに、イソシアヌレート化合物及びジアザビシクロアルケン化合物を含むため、フッ素ゴム組成物に対する架橋接着性が若干低い。
【0146】
以上、本発明の実施形態、実施例を説明したが、本発明は、特定の実施形態、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0147】
本願は、日本特許庁に2018年2月21日に出願された基礎出願2018-029159号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。