IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シェンズェン カプチェム テクノロジー カンパニー リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許-リチウムイオン電池用非水電解液 図1
  • 特許-リチウムイオン電池用非水電解液 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-10
(45)【発行日】2023-01-18
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用非水電解液
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20230111BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230111BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230111BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/052
H01M10/0569
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021169184
(22)【出願日】2021-10-14
(62)【分割の表示】P 2020136214の分割
【原出願日】2016-12-30
(65)【公開番号】P2022009163
(43)【公開日】2022-01-14
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】201611055698.2
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201611063485.4
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201611054855.8
(32)【優先日】2016-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513222359
【氏名又は名称】シェンズェン カプチェム テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN CAPCHEM TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Shabo Tongfuyu Industry Zone, Maluan Street, Pingshan District, Shenzhen, Guangdong 518118 China
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】シー チァオ
(72)【発明者】
【氏名】リン ムーチョン
(72)【発明者】
【氏名】フー シーグァン
(72)【発明者】
【氏名】リン ショングェイ
(72)【発明者】
【氏名】ユン ジャオジャオ
(72)【発明者】
【氏名】ゾン チャンアン
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/030008(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104468(WO,A1)
【文献】特開2008-243642(JP,A)
【文献】特表2014-525667(JP,A)
【文献】国際公開第2014/027572(WO,A1)
【文献】特表2016-519400(JP,A)
【文献】特開2011-096462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/052
H01M 10/0569
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式3によって表される第一化合物から選ばれる少なくとも1つ及び化学式4によって表される第二化合物から選ばれる少なくとも1つを含み、
【化3】
化学式3において、R9、R10は独立に炭素数1~5の炭化水素基およびフッ化炭化水素基から選ばれ、R9、R10の少なくとも一つは前記フッ化炭化水素基であり、前記フッ化炭化水素基において、少なくとも二つの水素がフッ素に置換されており、
【化4】
化学式4において、R11、R12、R13は独立に炭素数1~5の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基およびハロゲン化炭化水素基から選ばれ、R11、R12およびR13の少なくとも一つは不飽和炭化水素基であり、
前記非水電解液において、
前記第一化合物の含有量は非水電解液の総重量の10%~80%であり、
前記第二化合物の含有量は非水電解液の総重量の0.01%~5%であることを特徴とするリチウムイオン電池用非水電解液。
【請求項2】
前記第一化合物は、H3CCOOCH2CF2H、H3CH2CCOOCH2CF2H、HF2CH2CCOOCH3、HF2CH2CCOOCH2CH3、HF2CH2CH2CCOOCH2CH3、H3CCOOCH2CH2CF2H、H3CH2CCOOCH2CH2CF2H、CH3COOCH2CF3、HCOOCH2CHF2、HCOOCH2CF3およびCH3COOCH2CF2CF2Hからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記第二化合物は、トリプロパルギルホスフェート、ジプロパギルメチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート、ジプロパルギルプロピルホスフェート、ジプロパルギルトリフルオロメチルホスフェート、ジプロパルギル2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジプロパルギル3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、ジプロパルギルヘキサフルオロイソプロピルホスフェート、トリアリルホスフェート、ジアリルメチルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート、ジアリルプロピルホスフェート、ジアリルトリフルオロメチルホスフェート、ジアリル2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジアリル3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、およびジアリルヘキサフルオロイソプロピルホスフェートからなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池用非水電解液。
【請求項3】
前記非水電解液は、環状不飽和炭酸エステル、不飽和酸無水物、環状硫酸エステル、環状スルトン及びスルホンからなる群から選択される1つまたは2以上を含み、
前記環状不飽和炭酸エステルは、ビニレンカーボネートおよびビニルエチレンカーボネートの少なくとも1つであり、
前記不飽和酸無水物は、無水琥珀酸、無水マレイン酸および2-メチルマレイン酸無水物の少なくとも1つであり、
前記環状硫酸エステルは、硫酸ビニルおよび硫酸プロピレンのうちの1つまたは2つであり、
前記環状スルトンは、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトン及びメチレンメタンジスルホネートからなる群から選択される少なくとも1つであり、
前記スルホンはスルホランであることを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン電池用非水電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の技術分野に関し、特にリチウムイオン電池用非水電解液及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、比エネルギーが高く、比出力が大きく、サイクル寿命が長い等の特徴を有する。現在、主に情報通信機器や家電商品など、新エネルギー自動車及びエネルギー貯蔵の分野に用いられている。新エネルギー車の走行距離についての要求が益々高まっていること、及びデジタル電子製品が小型化されていることに伴い、現在のリチウムイオン電池の主な開発動向は、高エネルギー密度化である。リチウムイオン電池の動作電圧を高くすることは、電池のエネルギー密度を高める有効な方法である。
【0003】
しかしながら、リチウムイオン電池の動作電圧が高い場合、電池特性が低下しやすい。高電圧では、電池正極の結晶構造が不安定になるため、充放電時に結晶構造が崩れ、電池特性が低下する。また、高電圧では、正極表面が高酸化状態になり、活性がより高まるため、電解液が酸化分解しやすい。これにより、正極表面に、電解液の分解産物が堆積し、リチウムイオンの離脱(deintercalation)通路が塞がれる。これにより、電池の特性が低下する。
【0004】
電解液は、電池の総合特性に影響する重要な要素である。特に、電解液に含まれる添加剤は、電池の各特性に極めて重要である。したがって、ニッケル-コバルト-マンガンの三元系材料の電池の特性を十分に発揮させるためには、電解液の組合せが重要である。現在、実用化されているリチウムイオン電池の電解液は、ビニレンカーボネート(略称:VC)やフルオロエチレンカーボネート(略称:FEC)といった一般的な成膜添加剤が添加された非水電解液である。VCやFECを添加することによって、電池のサイクル特性が良好になる。しかしながら、高電圧ではVCの安定性が低く、高温下ではFECが分解してガスが生成しやすい。したがって、高電圧下及び高温下の条件では、これらの添加剤が添加されていても、高電圧下及び高温下におけるリチウムイオン電池のサイクル特性の要件を満たすことは難しい。
【0005】
中国特許出願201410534841.0号には、新規の成膜添加剤として、三重結合を有するリン酸エステル化合物が開示されている。この化合物は、高温サイクル特性を向上させるだけでなく、保存性能を大幅に向上させる。しかしながら、本願発明者らの研究により、三重結合を有するリン酸エステルの添加剤は、正極だけでなく、負極にも成膜することがわかった。負極の成膜は、負極の抵抗を大幅に増大させ、低温下での特性を大幅に低下させることがわかった。
【0006】
一方、リチウムイオン電池用電解液の添加剤である環状不飽和カルボン酸無水化合物は、複数の関連文献及び特許にも開示されている。環状不飽和カルボン酸無水化合物と三重結合を有するリン酸エステルは、同様の機能特性を有し、高温特性を大幅に向上させる。しかし、電池の抵抗を大幅に増大させ、低温特性を低下させるため、低温下における非水リチウムイオン電池の使用が制限される。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、リチウムイオン電池用の非水電解液及びその非水電解液をリチウムイオン電池に使用することを目的とする。
【0008】
本発明は、上記の目的を実現するために、以下の技術的解決手段を提供する。
<1>本発明の第一観点に係るリチウムイオン電池用非水電解液は、不飽和リン酸エステル化合物及び環状不飽和カルボン酸無水物化合物を含むリチウムイオン電池の非水電解液である。前記不飽和リン酸エステル化合物は、下記化学式4によって表される構造を有する。
【化4】
式中、R11、R12及びR13は、独立に、炭素数1~5の炭化水素基から選ばれ、R11、R12及びR13の少なくとも1つは二重結合又は三重結合を有する不飽和炭化水素基である。
前記環状不飽和カルボン酸無水物化合物は、下記化学式5によって表される構造を有する。
【化5】
式中、R14は、炭素数2~4のアルケニレン基又は炭素数2~4のフッ化アルケニレン基(フッ素置換アルケニレン基)である。
【0009】
一般的に、高温特性が良好であり、抵抗が大きく、低温特性が低い二種類の添加剤を組み合わせて使用することにより、電池の高温特性は更に良好になるが、抵抗は更に増大し、低温特性は更に低下する。しかしながら、本願発明者らの研究により、リチウムイオン電池の非水電解液に、三重結合を有するリン酸エステル化合物及び環状不飽和カルボン酸無水化合物の両方を添加した場合、三重結合を有するリン酸エステル系化合物を単独で使用した場合より、高温特性が大幅に向上し、且つ、界面抵抗が大幅に低下するとともに低温特性が大幅に向上することがわかった。
【0010】
不飽和リン酸エステル化合物と環状不飽和カルボン酸無水物化合物の両方を添加する技術原理は以下の通りである。初回充電時に、不飽和リン酸エステル化合物は、負極に膜を形成する。不飽和リン酸エステル化合物によって負極に形成された不動態膜は、導電性が低いため、負極の抵抗を大幅に増大させる。これにより、電池全体の抵抗が大幅に増大し、低温特性が低下する。環状不飽和カルボン酸無水物化合物も、初回充電時に強い負極成膜性能を有する。この種の化合物は、主に、負極の成膜電位が高い。そのため、環状不飽和カルボン酸無水物化合物は、不飽和リン酸エステル化合物より優先的に負極に膜を形成する。これにより、不飽和リン酸エステル化合物が、その後、負極に膜を形成することが抑制される。これにより、電池の抵抗が低い。本出願は、不飽和リン酸エステル化合物及び環状不飽和カルボン酸無水物化合物の両方を使用することにより、これらの化合物の相乗作用が起こる。これにより、一方の化合物のみを使用したときには得られない特殊な効果が得られる。
【0011】
上述した不飽和リン酸エステル化合物及び環状不飽和カルボン酸無水物化合物の両方を添加したときの作用効果は、図1及び図2を参照して説明することができる。図1及び図2中の「Blank」は、ブランク電解液である。ブランク電解液は、EC/EMC/DEC=1/1/1(体積比)であり、LiPF6:1Mである。図1及び図2から、初回充電時、不飽和リン酸エステル(化合物1)が、約2.7Vで負極に膜を形成し始めることがわかった。また、この時点で負極に形成された膜は、負極の抵抗を大幅に増大させることがわかった。不飽和リン酸エステル(化合物1)と環状不飽和カルボン酸無水物化合物(CA)を添加することにより、1.5V及び2V前後で、環状不飽和カルボン酸無水物化合物(CA)が優先的に負極表面に膜を形成する。また、環状不飽和カルボン酸無水物化合物(CA)によって優先的に形成された膜は、その後、2.7Vにおいて不飽和リン酸エステル(化合物1)が膜を形成することを抑制する。これにより負極の抵抗が低下する。
【0012】
上記化学式4で表される不飽和リン酸エステル化合物は、具体的には、下記化学式によって表される化合物から選択される。
以下において、化学式A1によって表される化合物を「化合物1」と称し、化学式A2によって表される化合物を「化合物2」と称し、化学式A3によって表される化合物を「化合物3」と称し、化学式A4によって表される化合物を「化合物4」と称し、化学式A5によって表される化合物を「化合物5」と称し、化学式A6によって表される化合物を「化合物6」と称することがある。
【化A1】
【化A2】
【化A3】
【化A4】
【化A5】
【化A6】
化学式4によって表される不飽和リン酸エステル化合物及び化合物1~6の不飽和リン酸エステル化合物は、本出願の好ましい技術的解決手段であり、類似の性質を有する他の不飽和リン酸エステル化合物を除するものではないことが理解できる。
【0013】
上記化学式5で表される環状不飽和カルボン酸無水物化合物は、具体的には、無水マレイン酸(略称:MA)及び2-メチル無水マレイン酸(略称:CA)から選択される1つ又は2つ以上でもよい。
【0014】
化学式5によって表される環状不飽和カルボン酸無水物化合物、MA及びCAは、本出願の好ましい技術的解決手段であり、類似の性質を有する他の環状不飽和カルボン酸無水物化合物を排除するものではないことが理解できる。
【0015】
好ましくは、本願のリチウムイオン電池非水電解液において、不飽和リン酸エステル化合物は、リチウムイオン電池の非水電解液の総重量の0.1%~3%であり、より好ましくは0.1%~2%である。
【0016】
不飽和リン酸エステル化合物の含有量が0.1%未満の場合、正極に膜を形成する効果が低い。また、正極を保護する効果が弱く、性能を向上させる効果が低い。含有量が2%を超えると、電極界面に形成される膜の厚さが厚くなり、電極界面の抵抗が大幅に増大する。特に、負極界面の抵抗が高くなり、電池全体の抵抗が高くなることにより、電池の特性が低下する。
【0017】
好ましくは、本願のリチウムイオン電池非水電解液において、環状不飽和カルボン酸無水物化合物は、リチウムイオン電池の非水電解液の総重量の0.1%~3%であり、より好ましくは0.1%~2%である。
【0018】
環状不飽和カルボン酸無水物化合物の含有量が0.1%である場合、負極への成膜効果が低く、不飽和リン酸エステル化合物による負極への成膜を効果的に抑止することが難しい。環状不飽和カルボン酸無水物化合物の含有量が2%を超えると、電極界面に形成される膜の厚さが厚くなり、電極界面の抵抗が増大する。特に、負極界面の抵抗が高くなり、電池全体の抵抗が高くなることにより、電池の性能が低下する。
【0019】
更に、本願のリチウムイオン電池の非水電解液は、環状不飽和炭酸エステル、環状スルトン及び環状硫酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つを含む。
【0020】
更に、前記環状不飽和炭酸エステル(環状不飽和炭酸エステル化合物)の含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~5%である。環状スルトン(環状スルトン化合物)の含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~5%である。環状硫酸エステル(環状硫酸エステル化合物)の含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~5%である。
【0021】
更に、前記環状不飽和炭酸エステルは、ビニレンカーボネート及びエチレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0022】
前記環状スルトンは、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、1,3-プロペンスルトン及びメチレンメタンジスルホネートからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0023】
前記環状硫酸エステルは、硫酸ビニル及び硫酸プロピレンからなる群から選ばれる1つ又は2つである。
【0024】
本願における非水電解液は、非水有機溶媒を含む。前記非水有機溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボーネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート及びメチルプロピルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0025】
更に、本願の非水電解液に含まれるリチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド及びリチウムビスフルオロスルホニルイミドからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0026】
本願の第1の観点に係るリチウムイオン電池は、正極、負極、正極と負極との間に配置されたセパレータ及び電解液を含むリチウムイオン電池であり、前記電解液は、本願のリチウムイオン電池の非水電解液である。
【0027】
本願のリチウムイオン電池の充電終止電圧は、4.3V以上である。
【0028】
更に、本願のリチウムイオン電池において、正極は、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiCo1-yy2、LiNi1-yy2、LiMn2-yy4及びLiNixCoyMnz1-x-y-z2からなる群から選ばれる少なくとも1つである。MはFe、Co、Ni、Mn、Mg、Cu、Zn、Al、Sn、B、Ga、Cr、Sr、V及びTiからなる群から選ばれる少なくとも1つである。また、0≦y≦1,0≦x≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1である。
【0029】
なお、本願の非水電解液は、各種のリチウムイオン電池に適用することができ、本願に挙げられたものに限定されるものではない。
【0030】
<2>現在、リチウムイオン電池の電解液は、溶媒として炭酸エステルを使用している。リチウムイオン電池の充電電圧が4.2Vを超えると、炭酸エステル溶媒が正極材料表面で酸化分解され、ガスやその他の分解生成物が発生する。発生したガスは電池を膨らませ、電池の安全性を低下させる。一方、分解生成物は電池の抵抗を増大させ、それによって電池の性能が低下する。そのため、高電圧リチウムイオン電池には、炭酸エステルが酸化する電位よりも高い電位の溶媒を開発する必要がある。文献(Electrochemistry Communications 44 (2014) 34-37)には、フッ化炭酸エステルは、高電圧リチウムイオン電池の高温サイクル特性を著しく向上させることが報告されている。しかしながら、本出願人は、フッ化炭酸エステルを用いた場合、高温サイクル特性が向上するが、電池を高温で保存したときにガスが発生するという問題があることがわかった。そのため、安全上の懸念があることがわかった。中国特許CN104704657Aには、フッ素置換カルボン酸を含む電解液が開示されている。この文献には、この電解液を用いた場合、高電圧リチウムイオン電池の高温サイクル特性が向上することが開示されている。しかしながら、本出願人は、フッ素置換カルボン酸エステルと炭素負極材料の相性がよくないこと、電池を充電したとき、負極表面で還元分解し、大量のガスが発生することがわかった。これにより、電池の特性が著しく低下するとともに、安全上の懸念があることがわかった。中国特許201410534841.0には、三重結合を有するリン酸エステル化合物の新規な成膜添加剤が開示されている。この添加剤は、高温サイクル性能を向上させるだけでなく、保存性能を大幅に向上させる。しかしながら、本発明者らの研究の結果、三重結合を有するリン酸エステルの添加剤が電極界面に形成する不動態膜は、導電性が低いため、電極界面の抵抗を増大させ、低温特性を大幅に低下させる。そのため、非水リチウムイオン電池の低温条件での使用が制限される。特許文献には、環状カルボン酸無水物は高温保存性能を向上させることが記載されている。しかしながら、本発明者らは、環状カルボン酸無水物を、炭酸エステルを溶媒とする電解液に加えると、電池の抵抗が大幅に増加し、低温放電特性及びレート特性を低下させることを見出した。
【0031】
これに対して、本願の一の観点に係るリチウムイオン電池用の非水電解液は、成分A及び成分Bを含む。前記成分Aは、化学式1によって表されるフッ化環状炭酸エステルから選ばれる少なくとも1つ、化学式2によって表されるアルキル置換環状炭酸エステルから選ばれる少なくとも1つ及び/又は化学式3によって表されるフッ化カルボン酸エステルから選ばれる少なくとも1つを含む。
【化1】
ここで、R1はフッ素又は炭素数1~4のフッ化炭化水素基(フッ素を含む炭化水素基)であり、R2、R3及びR4は独立に水素、フッ素、炭素数1~4の炭化水素基及び炭素数1~4のフッ化炭化水素基(フッ素を含む炭化水素基)から選ばれる。
【化2】
ここで、R5は炭素数1~4の炭化水素基であり、R6、R7、R8は、独立に水素及び炭素数1~4の炭化水素基から選ばれる。
【化3】
ここで、R9及びR10は独立に炭素数1~4の炭化水素基及び炭素数1~4のフッ化炭化水素基から選ばれる。また、R9及びR10の少なくとも一つは前記フッ化炭化水素基であり、前記フッ化炭化水素基は、少なくとも二つのフッ素原子を含む。
【化4】
ここで、R11は炭素数1~4の不飽和炭化水素基であり、R12及びR13は独立に炭素数1~4の飽和炭化水素基、炭素数1~4の不飽和炭化水素基及び炭素数1~4のフッ化炭化水素基から選ばれる。
【化5】
ここで、R14は、炭素数2~4のアルキレン基又はアルケニレン基、或いは、炭素数2~4のフッ化アルキレン基(フッ素を含むアルキレン基)又はフッ化アルケニレン基(フッ素を含むアルケニレン基)である。
【0032】
本願の重要な点は、本願の非水電解液では、成分Aとともに成分Bを使用することにより、両成分の相乗作用が生じることである。成分Aにおけるフッ化炭酸エステル及びフッ化カルボン酸エステルは、炭酸エステルよりも耐酸化性が高いため、電解液の酸化還元電位を向上させる。また、フッ化炭酸エステル及びフッ化カルボン酸エステルは、負極表面に不動態膜を形成し、電解液の分解反応を抑制することができる。しかしながら、フッ化炭酸エステル溶媒を含む電池を高温貯蔵したとき、不動態膜の熱安定性が良くなく、大量のガスが発生し、電池の高温貯蔵性能が低い。フッ化カルボン酸エステル溶媒は、電池の初回充電時に、負極表面で分解し、大量のガスを発生させる。これにより、電極シート間の接触性が低下し、電池特性が低下する。成分Bにおける不飽和リン酸エステル又は環状不飽和カルボン酸無水物化合物は、正負極表面に不動態膜を形成するが、電池の抵抗を大幅に増大させ、電池の低温特性を大幅に低下させる。本願では、成分A及び成分Bの両方を使用したとき、成分Aによる正負極表面での成膜反応が起きるときに、成分Bも正負極の成膜反応に関与することにより、正負極に形成された不動態膜が成分Aの分解産物及び成分Bの分解産物を含み、正負極の界面が改善される。負極に形成された不動態膜の熱安定性が向上し、電池の高温特性が維持されるとともに、電池の抵抗を大幅に増加させることなく、電池の低温特性を向上させる。本出願では、成分Aとともに成分Bを使用することにより、両成分の相乗作用によって、一方の成分だけを使用した場合には得られない特殊な効果が得られる。
【0033】
前記電解液における成分Aの含有量は、非水電解液の総重量の10~90%であり、成分Bの含有量は、非水電解液の総重量の0.1~3%である。
【0034】
本発明において、化学式1で表される化合物は必須成分であり、化学式2で表される物質及び/又は化学式3で表される物質と共に、溶媒として使用される。すなわち、本発明では、成分Aが、化学式1で表される化合物及び化学式2で表される化合物を含むものであってもよく、化学式1で表される化合物及び化学式3で表される化合物を含むものであってもよく、化学式1で表される化合物、化学式2で表される化合物及び化学式3で表される化合物をすべて含むものであってもよい。
【0035】
好ましくは、化学式1で表される化合物の含有量は非水電解液の総重量の5%~80%である。
【0036】
成分Aが化学式2で表される化合物を含む場合、化学式2で表される化合物の含有量は、好ましくは、非水電解液の総重量の5%~80%であり、5%~30%がより好ましい。成分Aが化学式3で表される化合物を含む場合、化学式3で表される化合物の含有量は、好ましくは、非水電解液の総重量の5%~80%であり、20%~70%がより好ましい。
【0037】
本発明において、成分Bは、化学式4で表される化合物及び/又は化学式5で表される化合物である。成分Bが化学式4で表される化合物を含む場合、化学式4で表される化合物の含有量は、好ましくは、非水電解液の総重量の0.1%~3%である。成分Bが化学式5で表される化合物を含む場合、化学式5で表される化合物の使用量は、好ましくは、非水電解液総重量の0.1%~3%である。
【0038】
好ましくは、前記環状不飽和炭酸エステルは、ビニレンカーボネート及びビニルエチレンカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0039】
化学式1で表される化合物は、好ましくは、フッ化環状炭酸エステルである。化学式1で表される化合物は、好ましくは、下記化学式によって表される化合物の1つ又は複数である。化学式1-1によって表される化合物をFECと略称する。化学式1-2によって表される化合物をDFECと略称する。
【化1-1】
【化1-2】
【化1-3】
【化1-4】
化学式2によって表される化合物は、好ましくは、アルキル置換環状炭酸エステルである。化学式2によって表される化合物は、好ましくは、下記化学式で表される化合物の1つ又は複数である。化学式2-1によって表される化合物をPCと略称する。
【化2-1】
【化2-2】
【化2-3】
好ましくは、前記化学式3において、炭素数1~5の炭化水素基は、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基から選ばれ、前記フッ化炭化水素基は、フルオロメチル基、フルオロエチル基、フルオロプロピル基及びフルオロブチル基から選ばれる。
【0040】
好ましくは、化学式3で表されるフッ化カルボン酸エステル化合物は、H3CCOOCH2CF2H(3-1、略称DFEA)、H3CH2CCOOCH2CF2H(3-2、略称DFEP)、HF2CH2CCOOCH3(3-3、略称MDFP)、HF2CH2CCOOCH2CH3(3-4、略称EDFP)、HF2CH2CH2CCOOCH2CH3(3-5、略称EDFB)、H3CCOOCH2CH2CF2H(3-6、略称DFPA)、H3CH2CCOOCH2CH2CF2H(3-7、略称DFPP)、CH3COOCH2CF3(3-8、略称TFEA)、HCOOCH2CHF2(3-9、略称DFEF)、HCOOCH2CF3及びCH3COOCH2CF2CF2H(3-10、略称TFPA)からなる群から選択される1つ又は複数である。
【0041】
化学式4で表される炭素数1~4の飽和炭化水素基は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基を含むが、これらに限定されるものではない。炭素数1~4の不飽和炭化水素基は、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、イソブテニル基、エチニル基、プロパルギル基、3-ブチニル基及び1-メチル-2-プロピニル基を含むが、これらに限定されるものではない。前記ハロゲン化炭化水素基は、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3-ジフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基及びヘキサフルオロイソプロピル基を含むが、これらに限定されるものではない。
【0042】
好ましくは、化学式4で表される不飽和リン酸エステル化合物は、トリプロパルギルホスフェート(4-1)、ジプロパルギルメチルホスフェート(4-2)、ジプロパルギルエチルホスフェート(4-3)、ジプロピルプロピルホスフェート(4-4)、ジプロパルギルトリフルオロメチルホスフェート(4-5)、ジプロパルギル2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート(4-6)、ジプロパルギル3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート(4-7)、ジプロパルギルヘキサフルオロイソプロピルホスフェート(4-8)、トリアリルホスフェート(4-9)、ジアリルメチルホスフェート(4-10)、ジアリルエチルホスフェート(4-11)、ジアリルプロピルホスフェート(4-12)、ジアリルトリアリルトリフルオロメチルホスフェート(4-13)、ジアリル2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート(4-14)、ジアリル3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート(4-15)及びジアリルヘキサフルオロイソプロピルホスフェート(4-16)からなる群から選択される1つ又は複数である。
【0043】
好ましくは、化学式5で表される環状カルボン酸無水物化合物は、無水琥珀酸(5-1、略称SA)、無水マレイン酸(5-2、略称MA)及び2-メチルマレイン酸無水物(5-3、略称CA)から選択される1つ又は複数である。化学式B1によって表される化合物をDTDと略称する。化学式B2によって表される化合物をTSと略称する。
【0044】
好ましくは、前記非水電解液は、環状不飽和炭酸エステル、環状スルホン酸ラクトン及び環状硫酸エステルの少なくとも一つを含む。
【0045】
好ましくは、前記環状不飽和炭酸エステルの含有量は非水電解液の総重量の0.1%~5%であり、環状スルトンの含有量は非水電解液の総重量の0.1%~5%であり、環状硫酸エステル化合物の含有量は非水電解液の総重量の0.1%~5%である。
【0046】
前記環状不飽和炭酸エステルは、好ましくは、ビニレンカーボネート及びビニルエチレンカーボネートからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0047】
前記環状硫酸エステルは、好ましくは、以下の物質からなる群から選択される少なくとも1つである。
【化B1】
【化B2】
【化B3】
【化B4】
好ましくは、前記環状スルトンは、1,3-プロパンスルトン(略称PS)、1,4-ブタンスルトン(略称BS)、1,3-プロペンスルトン(略称PST)及びメチレンメタンジスルホネート(略称MMDS)からなる群から選ばれる少なくとも1つである。
【0048】
好ましくは、非水電解液は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボーネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート及びメチルプロピルカーボネートからなる群から選択される少なくとも1つを更に含む。その含有量は、広い範囲で変更可能である。その含有量は、好ましくは、非水電解液の総重量の1%~40%である。前記物質の複数が含まれている場合、前記含有量は複数の前記物質の合計含有量である。
【0049】
本願の別の観点に係るリチウムイオン電池は、正極、負極、正極と負極との間に配置されたセパレータ及び電解液を含むリチウムイオン電池である。前記電解液は、本願のリチウムイオン電池の非水電解液である。
【0050】
好ましくは、正極の活性物質は、LiNixCoyMnz(1-x-y-z)2、LiCox'(1-x')2及びLiNix''L'y'Mn(2-x''-y')4からなる群から選択される少なくとも1つである。ここで、LはAl、Sr、Mg、Ti、Ca、Zr、Zn、Si又はFeであり、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0<x+y+z≦1、0<x'≦1、0.3≦x''≦0.6、0.01≦y'≦0.2、L'はCo、Al、Sr、Mg、Ti、Ca、Zr、Zn、Si又はFeである。
【0051】
<3>現在、リチウムイオン電池の電解液は、溶媒として炭酸エステルを使用している。リチウムイオン電池の充電電圧が4.2Vを超えると、炭酸エステル溶媒が正極材料表面で酸化分解し、ガスとその他の分解生成物が発生する。発生したガスにより電池が膨らみ、電池の安全性が低下する。分解生成物が電池の抵抗を増大させることにより、電池の性能が低下する。このため、高電圧リチウムイオン電池には、炭酸エステルが酸化する電位よりも高い酸化電圧を有する溶媒を開発する必要がある。中国特許CN104704657Aには、フッ素置換カルボン酸エステル及びリン酸エステルを含む電解液が開示されている。この電解液により、高電圧リチウムイオン電池の高温サイクル特性が向上することが開示されている。しかしながら、本出願人は、フッ化カルボン酸エステルと負極炭素材料の相性がよくないこと、電池の充電時に負極表面で還元分解し、大量のガスが生成すること、これにより電池の特性が大幅に低下するとともに、安全性が低下することがわかった。リン酸エステルにより、フッ化カルボン酸エステルの分解をある程度抑制することができる。しかし、高温サイクル特性と高温貯蔵性能をさらに向上させる必要がある。
【0052】
本願の別の観点の発明はリチウムイオン電池用の非水電解液であり、化学式3によって表される第一化合物から選ばれる少なくとも一つ、及び化学式4に表される第二化合物から選ばれる少なくとも一つを含む。
【化3】
化学式3において、R9、R10は独立に炭素数1~5の炭化水素基又はフッ化炭化水素基であり、R9、R10の少なくとも一方は前記フッ化炭化水素基であり、前記フッ化炭化水素基において、少なくとも二つの水素がフッ素に置換されている。
【化4】
11、R12、R13はそれぞれ独立に炭素数1~5の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基又はハロゲン化炭化水素基であり、また、R11、R12及びR13の少なくとも一つは、不飽和炭化水素基である。
【0053】
本願の重要な点は、本願の非水電解液は、化学式3によって表される第一化合物と化学式4によって表される第二化合物との両方を用いることにより、両化合物の相乗作用が生じることである。第一化合物の酸化電位は高いため、第一化合物は、高電圧下で、正極材料表面で電解液の分解反応が起こることを低減させるが、第一化合物は負極表面で分解することにより、大量のガスが発生するため、安全性が低い。第二化合物は不飽和結合を含む分子構造であるため、リチウムイオン電池の初回充電時に、正負極の表面で重合反応が起こることにより、不動態膜が形成される。この不動態膜は、抵抗が高いため、電池の低温放電特性とレート特性を低下させる。本願では、第一化合物と第二化合物とを併用することにより、負極表面で、第二化合物が、優先的に重合反応し、不導体膜が形成される。そのため、負極表面で、第一化合物の分解反応が抑制される。これによって、リチウムイオン電池の充電過程において、負極表面で化学式1のものが分解してガスが発生することを抑制することができる。また、第一化合物も負極の成膜反応に部分的に関与する。これにより、負極界面が改善される。本出願によると、第一化合物及び第二化合物を併用することにより、両化合物の相乗作用が生じる。これにより、一方の化合物だけを使用した場合には得られない特殊な効果が得られる。
【0054】
本願において、第一化合物及び第二化合物を一緒に使用する。ここで、第一化合物の含有量は、通常の量でよい。例えば、第一化合物の含有量は、好ましくは、非水電解液の総重量の10%~80%である。第二化合物の含有量は、非水電解液における添加剤の通常の量でよい。例えば、非水電解液の総重量の約0.8~1.2%であってもよい。一般的な含有量である、非水電解液総重量の0.01~5%であってもよい。第一化合物を、単独で、非水電解液の非水有機溶媒として使用してもよく、他の一般的な有機溶媒と併用してもよい。他の有機溶媒との併用については、後述で詳細に説明する。
【0055】
本願で重要な点は、非水電解液に、第一化合物及び第二化合物を使用することであり、例えばリチウム塩といった他の成分については、従来の非水電解液を参考にするとよい。所望の機能を高めるため、非水電解液に、一般的に使用される添加剤を添加してもよい。これについて、具体的に限定されない。しかしながら、本願の好ましい形態では、より良好な効果を得るための非水有機溶媒以外の有機溶媒、リチウム塩、及び添加剤は特定される。これについて後述で詳細に説明する。
【0056】
前記化学式1において、炭素数1~5の炭化水素基は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、イソブテニル基、4-ペンテニル基、エチニル基、プロパルギル基、3-ブチニル基及び1-メチル-2-プロピニル基を含むが、これらに限定されない。前記フッ化炭化水素基は、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3-ジフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基及びヘキサフルオロイソプロピル基を含むが、これらに限定されるものではない。
【0057】
前記化学式2で表される炭素数1~5の飽和炭化水素基は、メチル基、エチル基及びプロピル基を含むが、これらに限定されるものではない。炭素数1~5の不飽和炭化水素基は、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、イソブテニル基、4-ペンテニル基、エチニル基、プロパルギル基、3-ブチニル基及び1-メチル-2-プロピニル基を含むが、これらに限定されるものではない。前記炭素数は1~5のハロゲン化炭化水素基は、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2-ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3-ジフルオロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基及びヘキサフルオロイソプロピル基を含むが、これらに限定されるものではない。
【0058】
第一化合物は、好ましくは、H3CCOOCH2CF2H(3-1、略称DFEA)、H3CH2CCOOCH2CF2H(3-2、略称DFEP)、HF2CH2CCOOCH3(3-3、略称MDFP)、HF2CH2CCOOCH2CH3(3-4、略称EDFP)、HF2CH2CH2CCOOCH2CH3(3-5、略称EDFB)、H3CCOOCH2CH2CF2H(3-6、略称DFPA)、H3CH2CCOOCH2CH2CF2H(3-7、略称DFPP)、CH3COOCH2CF3(3-8、略称TFEA)、HCOOCH2CHF2(3-9、略称DFEF)、HCOOCH2CF3及びCH3COOCH2CF2CF2H(3-10、略称TFPA)から選ばれる。
【0059】
第二化合物は、好ましくは、トリプロパルギルホスフェート、ジプロパギルメチルホスフェート、ジプロパルギルエチルホスフェート、ジプロパルギルプロピルホスフェート、ジプロパルギルトリフルオロメチルホスフェート、ジプロパルギル2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジプロパルギル3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート、ジプロパルギルヘキサフルオロイソプロピルホスフェート、トリアリルホスフェート、ジアリルメチルホスフェート、ジアリルエチルホスフェート、ジアリルプロピルホスフェート、ジアリルトリフルオロメチルホスフェート、ジアリル2,2,2-トリフルオロエチルホスフェート、ジアリル3,3,3-トリフルオロプロピルホスフェート及びジアリルヘキサフルオロイソプロピルホスフェートからなる群から選ばれる少なくとも一つである。
【0060】
前記非水電解液は、好ましくは、環状不飽和炭酸エステル、不飽和酸無水物、環状硫酸エステル、環状スルトン及びスルホンからなる群から選ばれる1つ又は2つ以上を含む。
【0061】
前記環状不飽和炭酸エステルは、ビニレンカーボネート(略称:VC)及びエチレンカーボネート(略称:VEC)の少なくとも1つを含む。
【0062】
前記環状スルトンは、好ましくは、1,3-プロパンスルトン(略称1,3-PS)、1,4-ブタンスルトン(略称BS)、1,3-プロペンスルトン(略称PST)及びメチレンメタンジスルホネート(略称MMDS)の少なくとも1つを含む。
【0063】
前記不飽和酸無水物は、好ましくは、無水琥珀酸(略称SA)、無水マレイン酸(略称MA)及び2-メチルマレイン酸無水物(略称CA)の少なくとも1つを含む。
【0064】
前記環状硫酸エステルは、好ましくは、硫酸ビニル(略称DTD)及び硫酸プロピレン(略称TS)の1つ又は2つを含む。
【0065】
前記スルホンは、好ましくは、スルホラン(略称SL)を含む。
【0066】
ビニレンカーボネート(略称:VC)、ビニルエチレンカーボネート(略称:VEC)、フルオロエチレンカーボネート(略称:FEC)、又は、1,3-プロパンスルトン(略称:1,3PS)、1,4-ブタンスルトン(略称:BS)、1,3-プロペンスルトン(略称:PST)、メチレンメタンジスルホネート(略称:MMDS)、無水琥珀酸(略称:SA)、無水マレイン酸(略称:MA)、2-メチルマレイン酸無水物(略称:CA)、硫酸ビニル(略称:DTD)、硫酸プロピレン(略称:TS)、スルホラン(略称:SL)及び1,4-ブチロラクトン(略称:GBL)は、非水電解液用の試薬として従来から知られている。これらのうちいくつか、例えばFECは、添加剤としても溶媒としても使用される。含有量が比較的多い場合、非水有機溶媒として使用されていると考えられる。含有量が比較的少ない場合、添加剤と使用されていると考えられる。例えば、本発明において、好ましくは、VCの含有量は非水電解液の総重量の0.1%~4%であり、より好ましくは、0.5~1.5%である。VECの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~3%であり、より好ましくは、0.2~1.5%である。1,3-PSの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~10%であり、より好ましくは、1~3%である。BSの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~10%であり、より好ましくは、1~3%である。PSTの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~3%であり、より好ましくは、0.5~2%である。MMDSの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~4%であり、より好ましくは、0.5~2%である。SAの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~4%であり、より好ましくは、0.5~2%である。MAの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~4%であり、より好ましくは、0.5~2%である。CAの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~4%であり、より好ましくは、0.5~2%である。DTDの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~5%であり、より好ましくは、0.5~3%である。TSの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~4%であり、より好ましくは、0.5~3%である。SLの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~30%であり、より好ましくは、2~15%である。GBLの含有量は、非水電解液の総重量の0.1%~30%であり、より好ましくは、2~15%である。
【0067】
非水電解液は、好ましくは、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(略称FEC)、プロピレンカーボーネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート及びメチルプロピルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1つを更に含む。その含有量は、広い範囲で変更可能である。その含有量は、好ましくは、非水電解液の総重量の1%~40%である。複数の前記物質が含まれている場合、上記含有量は複数の前記物質の合計含有量であると理解される。
【0068】
より好ましくは、非水電解液は、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート及びプロピレンカーボーネートの少なくとも1つを含む。
【0069】
本願の別の観点に係る発明は、リチウムイオン電池又は貯蔵コンデンサに本願の非水電解液を使用することである。
【0070】
本願の別の観点に係るリチウムイオン電池は、正極、負極、正極と負極との間に配置されたセパレータ及び電解液を含むリチウムイオン電池である。前記電解液は、本願のリチウムイオン電池非水電解液である。
【0071】
本願のリチウムイオン電池は、本願の非水電解液を含み、正負極表面に不動態膜が形成される。これによって、正負極表面で電解液の分解反応が起こることを効果的に抑制することができる。正極材料の構造が崩れることが抑制される。リチウムが析出する現象を減少させることができる。電池の高温特性及び低温特性並びに電池のレート特性を維持できる。例えば、正極、負極及びセパレータといったリチウムイオン電池の他の構成は、従来のリチウムイオン電池の構成を参照するとよい。本願の好ましい実施形態では、正極の活物質は特定される。
【0072】
正極の活物質は、好ましくは、LiNixCoyMnz(1-x-y-z)2、LiCox'(1-x')2及びLiNix''L'y'Mn(2-x''-y')4の少なくとも一つである。ここで、LはAl、Sr、Mg、Ti、Ca、Zr、Zn、Si又はFeである。0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0<x+y+z≦1、0<x'≦1、0.3≦x''≦0.6、0.01≦y'≦0.2である。L'はCo、Al、Sr、Mg、Ti、Ca、Zr、Zn、Si又はFeである。
【0073】
以上の技術的解決手段を採用することにより、本願によって得られる有用な効果は以下の通りである。
本願の非水電解液では、化学式1によって表される第一化合物と化学式2によって表される第二化合物とを併用することにより、両化合物の相乗作用が生じることによって、高電圧下でのリチウムイオン電池の高温サイクル特性が改善される。また、負極表面の分解を抑制でき、ガスが発生することを抑制できる。また、第一化合物は負極への成膜反応に寄与し、負極界面を改善し、電池の低温放電特性及びレート特性を維持する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】ブランク電解液、実験No.6及び実験No.19の初回充電容量の微分値を示す図である。
図2】ブランク電解液、実験No.6及び実験No.19の交流抵抗を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
以下、具体的な実施例及び図面により、本発明についてさらに詳細に説明する。以下、実施例により本願について詳細に説明するが、本願は以下に限定されるものではない。
<1>
実施例
本例では、表1に記載された成分及び配合比で電解液を作製した。ここでは、本願の複数の実施例のリチウムイオン電池用非水電解液を作製した。また、複数の比較例のリチウムイオン電池用非水電解液を作製した。表1に詳細を示している。
【0076】
本実施例では、リチウム塩として、六フッ化リン酸リチウムを使用した。本実例で使用したリチウム塩は、一つの具体的な実施例であり、当業者に一般的に使用されるリチウム塩、例えば、LiBF4、LiBOB、LiDFOB、LiPO22、LiSbF6、LiAsF6、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiC(SO2CF33及びLiN(SO2F)2を使用してもよい。これらに限定されるものではない。
【0077】
本例の電解液の作製方法は以下の通りである。EC/EMC/DEC=1/1/1(体積比)で非水有機溶媒を準備した。この溶媒に六フッ化リン酸リチウムを添加し、最終濃度が1.0mol/Lとなるようにし、表1に示す添加剤を添加した。表1におけるパーセントは重量パーセントであり、電解液の総重量に対する添加剤の割合である。
【0078】
【表1】
【0079】
本例において、リチウムイオン電池の正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.32を用い、負極として人造黒鉛を用い、セパレータとして、ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリプロピレンの三層のセパレータを用いた。4.35Vのリチウムイオン電池を作製した。詳細は次の通りである。
【0080】
正極の作製方法:正極活物質のLiNi0.5Co0.2Mn0.32、導電剤のカーボンブラック及び結着剤のポリフッ化ビニリデンを、96.8:2.0:1.2の質量比で混合した。混合物をN-メチル-2-ピロリドンに分散させ、正極スラリーを得た。正極スラリーをアルミ箔の両面に均一に塗布し、乾燥し、圧延し、真空乾燥した。その後、超音波溶接機を用いてアルミリード線を溶接し、厚み120-150μmの正極板を得た。
【0081】
負極の作製方法:グラファイト、導電性カーボンブラック、結着剤のスチレン・ブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースを、96:1:1.2:1.8の質量比で混合した。混合物を脱イオン水に分散させ、負極スラリーを得た。負極スラリーを銅箔の両面に塗布し、乾燥し、圧延し、真空乾燥した。その後、超音波溶接機を用いてニッケルリード線を溶接し、厚み120-150μmの負極板を得た。
【0082】
セパレータの作製方法:ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリプロピレンの三層のセパレータを用いた。セパレータの厚みは20μmであった。
【0083】
電池の組立方法:正極板と負極板の間に、厚み20μmの三層のセパレータを配置し、正極板、負極板及びセパレータをサンドイッチ構造にした状態で、これらを捲回した。捲回されたものは扁平状である。これをアルミ箔包装袋に入れ、75℃で48時間真空焼成することにより、電解液が注入される電池コアを作製した。準備した電解液を電池コアに注入し、真空封口し、24時間放置した。
【0084】
電池の作製:0.05Cで180分間定電流充電した後、0.1Cで3.95Vまで定電流充電した。真空封口を2回行い、45℃環境下で48時間放置した後、0.2Cの電流で4.4Vまで定電流充電し、0.2Cの電流で3.0Vまで定電流放電した。
【0085】
本例において、各電解液を有する電池にそれぞれ、45℃環境下で、1C、300サイクル後の容量維持率と、常温環境下で、1C、500サイクルの容量維持率と、電池を60℃環境下で30日間保存した後の容量維持率、容量回復率及び厚さ膨張率と、-20℃の環境下での1Cの放電率と、常温及び低温の直流抵抗を調べる試験を実施した。詳細は次の通りである。
(1)45℃環境下、1C、300サイクル後の容量維持率は、実際に測定した電池の高温サイクル性能である。具体的な試験方法は次の通りである。45℃環境下で、作製した電池を1Cで4.35Vになるまで定電流定電圧充電し、電流が0.01Cに至った後、1Cで3.0Vになるまで定電流放電した。充電/放電サイクルを300回繰り返した後、300サイクル目の容量維持率を算出し、高温サイクル特性を評価した。45℃環境下、1C、300サイクル後の容量維持率の計算式は、次の通りとした。
300サイクル目の容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100%
【0086】
(2)常温サイクル特性試験:作製した電池を、25℃環境下で、1Cで4.35Vになるまで定電流定電圧充電し、1Cで3.0Vになるまで定電流放電した。充電/放電サイクルを500回繰り返した後、500サイクル目の容量維持率を算出し、常温サイクル特性を評価した。計算式は、次の通りとした。
500サイクル目の容量維持率(%)=(500サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100%。
【0087】
(3)60℃で30日間保存した後の、電池の容量維持率、容量回復率及び厚さ膨張率の試験方法を以下に示す。常温環境下で、作製した電池を1Cで4.35Vまで定電流定電圧充電し、電流が0.01Cに至った後、1Cで3.0Vになるまで定電流放電し、電池の初期放電容量を測定した。次に電池を1Cで4.35Vになるまで定電流定電圧充電して、電流が0.01Cに至った後、電池の初期厚みを測定し、電池を60℃で30日間保存した後、電池の厚みを測定した。そして、1Cで3.0Vになるまで定電流定電圧充電し、電池の維持容量を測定した後、1Cで4.35Vになるまで定電流定電圧充電し、電流が0.01Cに至った後、1Cで3.0Vになるまで定電流放電し、回復容量を測定する。容量維持率、容量回復率及び厚さ膨張率の計算式は以下の通りである。
電池容量維持率(%)=保持容量/初期容量 ×100%
電池容量回復率(%)=回復容量/初期容量 ×100%
電池厚み膨張率(%)=(30日間保存後の厚み-初期厚み)/初期電池厚み ×100%
【0088】
(4)低温放電特性試験:作製した電池を、25℃環境下で、1Cで4.35Vになるまで定電流定電圧充電し、その後、1Cで3.0Vになるまで定電流放電し、放電容量を測定した。次に、1Cで定電流定電圧充電し、-20℃環境下で12時間放置した後、1Cで3.0Vになるまでで定電流放電し、放電容量を測定した。
【0089】
-20℃の低温放電効率値=1Cの放電容量(-20℃)/1Cの放電容量(25℃)
【0090】
(5)常温直流抵抗(DCIR)性能試験:作製した電池を、25℃環境下、1CでSOC=50%の状態になるまで充電し、0.1C、0.2C、0.5C、1C及び2Cの各々で10秒間充放電した後、各々の充放電の終止電圧を記録した。そして、横軸が異なる速度における充放電電流(単位:A)であり、縦軸が充放電電流に対応する終止電圧(単位:mV)である線形関係図を作成した。
【0091】
放電DCIR値=異なる放電電流と対応する終止電圧の関係を示す線の傾き
【0092】
試験結果を、下記表2に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
試験により、ブランク電解液、実験No.6及び実験No.19の初回充電容量の微分値(図1)及び交流抵抗値(図2)が得られた。
【0095】
図1及び図2から、初回充電時に、2.7V付近で、不飽和リン酸エステル系(化合物1)が負極に膜を形成し始めた。このときの負極の膜形成が、負極の抵抗を著しく増大させることがわかった。不飽和リン酸エステル系(化合物1)に環状不飽和カルボン酸無水物化合物(CA)を添加することにより、1.5V付近及び2V付近で、環状不飽和カルボン酸無水物化合物(CA)が、優先的に負極に膜を形成する。また、環状不飽和カルボン酸無水物化合物(CA)によって優先的に形成された膜は、その後、2.7V付近で、不飽和リン酸エステル系(化合物1)が膜を形成することを抑制する。これにより、負極の抵抗がより低下する。
【0096】
実験No.19と実験No.20の試験結果を比較すると、不飽和リン酸エステル化合物を単独で使用した場合、サイクル特性及び高温貯蔵性能が比較的良好であるが、低温特性が低いことがわかる。環状不飽和カルボン酸無水物化合物を単独で使用する場合、抵抗が低く、低温特性が比較的に良好であるが、サイクル特性及び高温貯蔵性能が低い。
【0097】
本出願の実験No.1~18の試験結果において、実験No.2、6、8と実験No.19とを比較すると、以下のことがわかった。不飽和リン酸エステル化合物に環状不飽和カルボン酸無水物化合物を添加すると、サイクル特性と高温特性が大幅に向上しただけでなく、低温特性も大幅に向上し、抵抗も大幅に低下した。
【0098】
本出願の実験No.1~18の試験結果を、実験No.19と比べると、不飽和リン酸エステル化合物及び環状不飽和カルボン酸無水物化合物を使用した全ての実施例(実験No.1~18)において、高温特性及び低温特性が向上した。実験No.2、5と実験No.6、7を比較すると、不飽和リン酸エステル化合物が増加するにつれて、高温特性が向上するようになるが、使用量が増加するにつれて、低温特性は比較的低くなり、抵抗が増加する。特に不飽和リン酸エステル化合物の含有量が非常に多く、環状不飽和カルボン酸無水物化合物の含有量が非常に少ない場合、抵抗が大きく、低温特性が著しく低い。
【0099】
上記より、本出願では、不飽和リン酸エステル化合物と環状不飽和カルボン酸無水物化合物とを適切な比率で組み合わせることにより、高温特性及びサイクル特性に優れるとともに、低温特性が良好な電池が得られる。
【0100】
<2>
表3に示す成分及び配合比で電解液を作製した。ここでは、本願の複数のリチウムイオン電池用非水電解液及び複数の比較例を作製した。表3に詳細を示している。
【0101】
本例の電解液の作製方法は以下の通りである。表3に示す体積比で非水有機溶媒を調製し、六フッ化リン酸リチウムを溶媒に添加し、最終濃度が1.0mol/Lになるようにした。そして、表3に示す添加剤を添加した。表3におけるパーセントは重量パーセントであり、電解液の総重量における添加剤の割合である。電解液のリチウム塩の含有量は12.5%であり、他は溶媒系添加剤である。
【0102】
【表3】
【0103】
本例では、リチウムイオン電池の正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.32を用い、負極に黒鉛及び導電性カーボンブラックを用い、セパレータとしてポリプロピレン、ポリエチレン及びポリプロピレンの三層のセパレータを用いた。詳細は次の通りである。
【0104】
正極の作製方法:正極活物質のLiNi0.5Co0.2Mn0.32、導電性カーボンブラック及び結着剤のポリフッ化ビニリデンを、96.8:2.0:1.2の質量比で混合した。混合物をN-メチル-2-ピロリドンに分散させ、正極スラリーを得た。正極スラリーをアルミ箔の両面に均一に塗布し、乾燥し、圧延し、真空乾燥した。その後、超音波溶接機を用いてアルミリード線を溶接し、厚み120-150μmの正極板を得た。
【0105】
負極の作製方法:グラファイト、導電性カーボンブラック、結着剤のスチレン・ブタジエンゴムカルボキシメチルセルロースを、96:1:1.2:1.8の質量比で混合し、混合物を脱イオン水に分散させ、負極スラリーを得た。負極スラリーを銅箔の両面に塗布し、乾燥し、圧延し、真空乾燥した。超音波溶接機を用いてニッケルリード線を溶接し、厚み120-150μmの負極板を得た。
【0106】
セパレータの作製方法:ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリプロピレンの三層のセパレータを使用した。このセパレータの厚みは20μmである。
【0107】
電池の組立方法:正極板と負極板の間に、厚み20μmの三層のセパレータを配置し、正極板、負極板及びセパレータをサンドイッチ構造にした状態で、これらを捲回した。捲回されたものは扁平状である。これをアルミ箔包装袋に入れ、75℃で48時間真空焼成することにより、電解液が注入される電池コアを作製した。準備した電解液を電池コアに注入し、真空封口し、24時間放置した。
【0108】
電池の作製:0.05Cで180分間定電流充電した後、0.1Cで3.95Vまで定電流充電した。真空封口を2回行い、45℃環境下で48時間放置した後、0.2Cの電流で4.4Vまで定電流充電し、0.2Cの電流で3.0Vまで定電流放電した。
【0109】
本例において、各電解液を有するリチウムイオン電池にそれぞれ、45℃環境下、1C、400サイクルの容量維持率と、60℃環境下で30日間保存した後の容量維持率、容量回復率及び厚さ膨張率を調べる試験を実施した。「60℃環境下で30日間保存した後」とは、比較例の電解液を有するリチウムイオン電池を60℃環境下で30日間保存した後、試験を実施したことであり、60℃環境下で30日間保存後に試験を実施することである。詳細な試験方法は次の通りである。
【0110】
(1)45℃、1C、400サイクル後の容量維持率は、実際に測定した電池の高温サイクル性能である。具体的な試験方法は次の通りである。作製した電池を、45℃環境下、1Cで4.4Vになるまで定電流定電圧充電し、電流が0.01Cに至った後、1Cで3.0Vになるまで定電流放電した。400サイクル行った。容量維持率の計算式は以下の通りである。
【0111】
容量維持率(%)=(400サイクル目の放電容量/1サイクルの放電容量)×100%
【0112】
(2)60℃で30日間保存した後の、電池の容量維持率、容量回復率及び厚さ膨張率の試験方法を以下に示す。作製した電池を、常温下で、1C、4.4Vまで定電流定電圧充電し、電流が0.01Cに至った後、1Cで3.0Vになるまで定電流放電し、電池の初回放電容量を測定した。次に電池を1Cで4.4Vになるまで定電流定電圧充電し、電流が0.01Cに至った後、初期電池厚みを測定した。その後、電池を60℃環境下で30日間保存した後、電池の厚みを測定した。そして、1Cで3.0Vになるまで定電流放電し、回復容量を測定した。さらに1Cで電流を0.01Cになるまで定電流定電圧充電した後、1Cの電流で3.0Vになるまで定電流放電し、回復容量を測定した。計算式は、次の通りとした。
電池容量維持率(%)=保持容量/初期容量 ×100%
電池容量回復率(%)=回復容量/初期容量 ×100%
電池厚み膨張率(%)=(30日間保存後の厚み-初期厚み)/初期電池厚み ×100%。
【0113】
(3)低温放電特性試験
25℃環境下、作製した電池を1Cで4.4Vまで定電流定電圧充電した後、電流を0.01Cまで低下させて定電圧充電し、その後、1Cで3.0Vまで定電流放電し、常温放電容量を測定した。次いで、電池を1Cで4.4Vまで定電流充電し、電流を0.01Cまで低下させて定電圧充電した後、-20℃環境下に12時間放置した。その後、0.2Cで3.0Vまで定電流放電し、-20℃の放電容量を測定した。
【0114】
-20℃の低温放電効率=0.2C放電容量(-20℃)/1C放電容量(25℃) ×100%
【0115】
試験結果を、下記表4に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
表4の試験結果から以下のことがわかった。フッ化溶媒を用いた場合、炭酸エステル溶媒を用いた場合と比較すると、電池の高温サイクル特性及び低温放電特性を向上したが、高温保存時のガス発生量が多く、安全性が低いという問題があることがわかった。不飽和リン酸エステル及び/又は環状カルボン酸無水物化合物の添加剤は、高温サイクル特性及び高温保存特性の両方を向上させるが、向上する量が限られ、更に向上させる必要がある。また、低温放電特性が比較的低い。フッ化溶媒と不飽和リン酸エステル及び/又は環状カルボン酸無水物化合物とを組み合わせることにより、高温サイクル特性及び高温保存特性を著しく向上するとともに、低温放電特性が向上する。フッ化溶媒と不飽和リン酸エステル及び/又は環状カルボン酸無水物化合物とによるある種の相乗効果がある。これは、一方の成分では得られない効果である。環状不飽和炭酸エステル、環状スルトン又は環状硫酸エステルを添加することにより、電池の高温保存特定及び高温サイクル特性をさらに向上させることができる。
【0118】
<3>
電解液に関する一連の研究から以下のことがわかった。非水有機溶媒として第一化合物を使用した場合、負極で分解し、ガスが発生し、安全上の問題がある。第二化合物は、高温特性を向上させるが、正極及び負極の表面で重合反応が起こり、不動態膜が形成される。この不動態膜の抵抗は比較的に高いため、電池の低温放電特性及びレート特性を低下させる。多くの研究及び試験を経て、本願は、第一化合物及び第二化合物を併用することにより、両化合物の相乗作用が生じることによって、第一化合物と第二化合物の利点及び機能を維持しつつ、第一化合物が負極で分解し、ガスが発生するという問題を解消し、第二化合物による電池の低温放電特性とレート特性への影響を低減させる。これにより電池特性が大幅に向上する。
【0119】
表5に示す成分及び配合比で電解液を作製した。ここでは、本願のリチウムイオン電池用非水電解液を複数作製した。また、複数の比較例を作製した。表5に詳細を示している。
【0120】
本例の電解液の作製方法は以下の通りである。表5に示す配合で非水有機溶媒を準備し、溶媒に六フッ化リン酸リチウムを添加し、最終濃度が1.0mol/Lとなるようにした。また、表5に示す添加剤を添加した。表5におけるパーセントは重量パーセントであり、電解液の総重量に対する添加剤の割合である。電解液のリチウム塩の含有量は12.5%であり、その他は溶媒系添加剤である。
【0121】
【表5】
【0122】
本例では、リチウムイオン電池の正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.32を用い、負極に黒鉛及び導電性カーボンブラックを用い、セパレータとしてポリプロピレン、ポリエチレン及びポリプロピレンの三層セパレータを用いた。詳細は次の通りである。
正極の作製方法:正極活物質のLiNi0.5Co0.2Mn0.32、導電性カーボンブラック及び接着剤のポリフッ化ビニリデンを、96.8:2.0:1.2の質量比で混合し、混合物をN-メチル-2-ピロリドンに分散させ、正極スラリーを得た。正極スラリーをアルミ箔の両面に均一に塗布し、乾燥し、圧延し、真空乾燥した。超音波溶接機を用いてアルミリード線を溶接し、厚み120-150μmの正極板を得た。
【0123】
負極の作製方法:グラファイト、導電性カーボンブラック、接着剤のスチレン・ブタジエンゴム及びカルボキシメチルセルロースを、96:1:1.2:1.8の質量比で混合し、混合物を脱イオン水に分散させ、負極スラリーを得た。負極スラリーを銅箔混合物の両面に塗布し、乾燥し、圧延し、真空乾燥した。超音波溶接機を用いてニッケルリード線を溶接し、厚み120-150μmの負極板を得た。
【0124】
セパレータの作製方法:ポリプロピレン、ポリエチレン及びポリプロピレン三層のセパレータを使用した。このセパレータの厚みは20μmであった。
【0125】
電池の組立方法:正極板と負極板の間に、厚み20μmの三層のセパレータを配置し、正極板、負極板及びセパレータをサンドイッチ構造にした状態で、これらを捲回した。捲回されたものは扁平状である。これをアルミ箔包装袋に入れ、75℃で48時間真空焼成することにより、電解液が注入される電池コアを作製し、準備した。電解液を電池コアに注入し、真空封口し、24時間放置した。
【0126】
電池の作製:0.05Cで180分間定電流充電した後、0.1Cで3.95Vまで定電流充電した。真空封口を2回行い、45℃環境下で48時間放置した後、0.2Cの電流で4.4Vまで定電流充電し、0.2Cの電流で3.0Vまで定電流放電した。
【0127】
本例において、各電解液を有するリチウムイオン電池のそれぞれに、45℃環境下、1Cで、サイクル容量維持率が80%まで低下した時のサイクル数を調べるとともに、60℃で14日間保存した後の容量維持率、容量回復率及び厚さ膨張率を調べる試験を実施した。60℃で数日間保存したとは、比較例(実験No.41~46)の電解液を用いたリチウムイオン電池を、60℃環境下で、7日間保存した後、試験を実施したことを示し、実施例(実験No.21~40)の電解液を用いた電池を、60℃環境下で14日間保存した後、試験を実施したことを示す。詳細は次の通りである。
(1)45℃環境下、1Cで、サイクル容量維持率が80%に低下するまでのサイクル数は、実際に測定された電池の高温サイクル性能である。具体的な試験方法は次の通りである。45℃環境下で、作製した電池を1Cで4.4Vになるまで定電流定電圧充電し、電流が0.01Cに至った後、1Cで3.0Vになるまで定電流放電した。このサイクルを、容量維持率が80%に低下するまで実施し、サイクル数をカウントした。容量維持率の計算式は以下の通りである。
容量維持率(%)=(Nサイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100%
【0128】
(2)60℃環境下で、14日間、電池を保存した後の、電池の容量維持率、容量回復率及び厚さ膨張率の試験方法を以下に示す。常温下で、作製した電池を1Cで4.4Vまで定電流定電圧充電し、電流が0.01Cに至った後、1Cで3.0Vになるまで定電流放電し、電池の初回放電容量を測定した。次に、電池を1Cで4.4Vになるまで定電流定電圧充電し、電流が0.01Cに至った後、初期電池厚みを測定した。その後、60℃環境下で、14日間、電池を保存した後、電池の厚みを測定した。そして、1Cで3.0Vになるまで定電流放電し、回復容量を測定した。さらに、1Cで電流が0.01Cになるまで定電流定電圧充電した後、1Cの電流で3.0Vになるまで定電流放電し、回復容量を測定した。計算式は、次の通りとした。
電池容量維持率(%)=保持容量/初期容量 ×100%
電池容量回復率(%)=回復容量/初期容量 ×100%
電池厚み膨張率(%)=(14日間後の厚み-初期厚み)/初期電池厚み ×100%
【0129】
(3)低温放電特性試験
25℃環境下で、作製した電池を、1Cで4.4Vまで定電流定電圧充電した後、電流を0.01Cまで低下させて定電圧充電し、1Cで3.0Vまで定電流放電し、常温放電容量を測定した。次いで、1Cで4.4Vまで定電流充電し、電流を0.01Cまで低下させて定電圧充電した後、電池を-20℃環境下に12時間放置した。その後、0.2Cで3.0Vまで定電流放電し、-20℃の放電容量を測定した。
【0130】
-20℃の低温放電効率=0.2C放電容量(-20℃)/1C放電容量(25℃) ×100%
【0131】
試験結果を、下記表6に示す。
【0132】
【表6】
【0133】
表6の結果から以下のことがわかった。実験No.47では、添加剤として第二化合物のみを使用し、溶媒として第一化合物を使用していない。実験No.47では、高温サイクル特性が低い。290サイクル後の容量維持率の残量は80%であった。さらに、60℃環境下で14日間保存した後の維持容量及び回復容量は十分なものではなかった。特に、低温放電特性が低かった。実験No.48では、溶媒として第一化合物を使用し、添加剤として第二化合物を使用しなかった。実験No.48では、高温サイクル特性及び高温保存特性のどちらも低かった。実験No.49~55では、溶媒として第一化合物を使用し、添加剤として飽和リン酸エステルを使用するとともに、溶媒の組み合わせを最適にした。実験No.49~55では、電池の高温サイクル特性と保存性能が大幅に向上したが、電池として必要な条件を満たさなかったため、更なる改善が必要である。実験No.56~76では、溶媒として第一化合物を使用し、添加剤として第二化合物を使用するとともに、溶媒の組み合わせ及び添加剤の組み合わせを最適にした。実験No.56~76では、低温放電特性を維持しつつ、高温サイクル特性及び高温保存性能が大幅に向上した。実験No.76の高温サイクル特性が最も優れている。実験No.76では、容量維持率が80%まで低下したときのサイクル数は662であり、高温保存性能も優れていた。
【0134】
上記内容は、具体的な実施例と共に本出願について詳細に説明したものであり、本出願の具体的な実施はこれらの説明に限定されない。当業者であれば本出願の構想を逸脱せずに想到し得るいくつかの簡単な変形や置換は、本出願の保護範囲に属すべきである。
図1
図2