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特許7208737カメラ評価値測定装置およびカメラ評価値測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-11
(45)【発行日】2023-01-19
(54)【発明の名称】カメラ評価値測定装置およびカメラ評価値測定方法
(51)【国際特許分類】
   H04N 17/00 20060101AFI20230112BHJP
   G01M 11/02 20060101ALI20230112BHJP
【FI】
H04N17/00 200
G01M11/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018149417
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020025224
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】林田 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】正岡 顕一郎
【審査官】佐野 潤一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-116039(JP,A)
【文献】特開2008-256869(JP,A)
【文献】特開2001-324413(JP,A)
【文献】特開2004-295691(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 17/00
H04N 5/222
G01M 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラの空間周波数特性を表すMTFを予め定めた所定レベルに調整して、前記カメラが撮影する映像信号と雑音の比率を表すSNRを測定するカメラ評価値測定装置であって、
前記映像信号の変調度をパラメータに基づいて調整する信号処理手段と、
前記信号処理手段で変調度が調整された映像信号において前記MTFを測定するMTF測定手段と、
前記MTFが前記所定レベルになるように前記パラメータを制御するパラメータ制御手段と、
前記パラメータに基づいて前記信号処理手段で変調度が調整された映像信号において前記SNRを測定するSNR測定手段と、を備えることを特徴とするカメラ評価値測定装置。
【請求項2】
前記所定レベルは、予め定めた空間周波数における予め定めたMTF値とすることを特徴とする請求項1に記載のカメラ評価値測定装置。
【請求項3】
前記所定レベルを、予め定めた基準を満たすMTFカーブにおける空間周波数ごとのMTF値の総和とし、前記パラメータ制御手段は、前記MTF測定手段で測定される空間周波数ごとのMTF値の総和が、前記所定レベルと予め定めた誤差内で一致するように前記パラメータを制御することを特徴とする請求項1に記載のカメラ評価値測定装置。
【請求項4】
前記パラメータ制御手段は、3タップの1次元または2次元のフィルタを特定する係数を前記パラメータとして用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のカメラ評価値測定装置。
【請求項5】
前記フィルタは、前記パラメータをαとする
【数1】
あるいは、
【数2】
であることを特徴とする請求項4に記載のカメラ評価値測定装置。
【請求項6】
カメラの空間周波数特性を表すMTFを予め定めた所定レベルに調整して、前記カメラが撮影する映像信号と雑音の比率を表すSNRを測定するカメラ評価値測定方法であって、
MTF測定手段によって、前記カメラで撮影され、信号処理手段で変調度が調整された映像信号において前記MTFを測定するMTF測定ステップと、
パラメータ制御手段によって、前記MTFが前記所定レベルになるように信号処理手段で使用するパラメータを制御するパラメータ制御ステップと、
前記信号処理手段によって、前記パラメータに基づいて前記映像信号の変調度を調整する信号処理ステップと、を順次繰り返し、
前記MTFが前記所定レベルに調整された後に、SNR測定手段によって、前記信号処理手段で変調度が調整された映像信号において前記SNRを測定するSNR測定ステップと、を含むことを特徴とするカメラ評価値測定方法。
【請求項7】
カメラが撮影する映像信号と雑音の比率を表すSNRを予め定めた所定レベルに調整して、カメラの空間周波数特性を表すMTFを測定するカメラ評価値測定装置であって、
前記映像信号の変調度をパラメータに基づいて調整する信号処理手段と、
前記信号処理手段で変調度が調整された映像信号において前記SNRを測定するSNR測定手段と、
前記SNRが前記所定レベルになるように前記パラメータを制御するパラメータ制御手段と、
前記パラメータに基づいて前記信号処理手段で変調度が調整された映像信号において前記MTFを測定するMTF測定手段と、を備えることを特徴とするカメラ評価値測定装置。
【請求項8】
カメラが撮影する映像信号と雑音の比率を表すSNRを予め定めた所定レベルに調整して、カメラの空間周波数特性を表すMTFを測定するカメラ評価値測定方法であって、
SNR測定手段によって、前記カメラで撮影され、信号処理手段で変調度が調整された映像信号において前記SNRを測定するSNR測定ステップと、
パラメータ制御手段によって、前記SNRが前記所定レベルになるように信号処理手段で使用するパラメータを制御するパラメータ制御ステップと、
前記信号処理手段によって、前記パラメータに基づいて前記映像信号の変調度を調整する信号処理ステップと、を順次繰り返し、
前記SNRが前記所定レベルに調整された後に、MTF測定手段によって、前記信号処理手段で変調度が調整された映像信号において前記MTFを測定するMTF測定ステップと、を含むことを特徴とするカメラ評価値測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラの性能評価値を測定するカメラ評価値測定装置およびカメラ評価値測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カメラの性能評価の指標として、空間周波数特性を表すMTF(Modulation Transfer Function)や、信号と雑音の比率を表す信号対雑音比(SNR:Signal-to-Noise Ratio)が用いられている。
MTFの測定には、チャートサイズが比較的小さくてフレーミングが不要なSlanted-edge法(傾斜エッジ法)が提案されている。Slanted-edge法は、撮像素子に対して垂直(または水平)方向から数度傾いた境界が直線となる白黒パターンをカメラで撮像し、撮像画像中の所定領域(ROI:Region Of Interest〔関心領域〕)の画像(ROI画像)を用いて、周波数特性(MTF)を測定する手法である(特許文献1,2、非特許文献1~4参照)。
SNRの測定には、種々の手法がある。例えば、デジタルカメラのノイズ評価方法として、ISO 15739が規定されている(非特許文献5参照)。また、SNRは、放送用カメラの場合、100%の信号出力に対して暗時撮影時のノイズレベルとして表される。
また、MTFおよびSNRの測定では、性能評価の正確性から、入力した信号に対してエンハンス等の信号処理を行わずに測定を行うのが通例である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-237177号公報
【文献】特開2018-13416号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】ISO 12233:2017,“Photography - Electronic still picture imaging - Resolution and spatial frequency responses”
【文献】K. Masaoka et al., “Real-Time Measurement of Ultra-High Definition Camera Modulation Transfer Function,” SMPTE 2017 Annual Technical Conference & Exhibition, Hollywood, CA, October 2017
【文献】K. Masaoka et. al., Modified slanted-edge method and multidirectional modulation transfer function estimation,” Optics Express 22(5):6040-6046, March 2014
【文献】「テレビジョンカメラシステムの解像度特性測定法 技術資料(ARIB TR-B41)」、1.0版、P3-7、一般社団法人電波産業会、平成28年9月29日策定
【文献】ISO 15739:2013(E),“Photography - Electronic still-picture imaging - Noise measurements”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、MTFおよびSNRが異なるカメラ同士の場合、カメラの優劣を評価することは困難であるという問題がある。例えば、MTFは良いがSNRが悪い、あるいは、MTFは悪いがSNRは良いといったカメラが存在する場合、一元的にカメラの優劣を評価することはできない。
また、前記したようにMTFやSNRを測定する際には、カメラ内部の信号処理を行わない状態(信号処理フィルタを切った状態)で測定する。しかし、単板カメラ等、信号処理フィルタ(デモザイキング処理等)が常に介在するカメラも存在する。この信号処理フィルタは、カメラメーカにより多種多様であり、フィルタ設計によってはMTFを犠牲にしてSNRを高めることも可能であるため、総合的なカメラ評価はさらに難しくなる。そのため、MTFおよびSNRを総合して一元的にカメラ評価を行うことが可能な手法が望まれていた。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、MTFを予め定めた所定レベルに揃えた状態でSNRを測定する、あるいは、SNRを予め定めた所定レベルに揃えた状態でMTFを測定することで、一元的にカメラの優劣を評価することが可能なカメラ評価値測定装置およびカメラ評価値測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明に係るカメラ評価値測定装置は、カメラの空間周波数特性を表すMTFを予め定めた所定レベルに調整して、前記カメラが撮影する映像信号と雑音の比率を表すSNRを測定するカメラ評価値測定装置であって、信号処理手段と、MTF測定手段と、パラメータ制御手段と、SNR測定手段と、を備える構成とした。
【0008】
かかる構成において、カメラ評価値測定装置は、信号処理手段によって、測定対象のカメラが撮影した映像信号の変調度をパラメータに基づいて調整する。
このパラメータは、映像信号に対するフィルタを特定する係数である。信号処理手段は、このフィルタを用いて、映像信号を畳み込むことで映像信号の変調度を調整する。
そして、カメラ評価値測定装置は、MTF測定手段によって、信号処理手段で変調度が調整された映像信号においてMTFを測定する。
そして、カメラ評価値測定装置は、パラメータ制御手段によって、MTFが予め定めた所定レベルになるように、信号処理手段に出力するパラメータを制御する。
そして、カメラ評価値測定装置は、SNR測定手段によって、パラメータに基づいて信号処理手段で変調度が調整された映像信号においてSNRを測定する。
これによって、カメラ評価値測定装置は、測定対象の複数のカメラの評価を行う際に、MTFを基準として、SNRを測定することができる。
【0009】
なお、カメラ評価値測定装置は、パラメータ制御手段によって、SNRが予め定めた所定レベルになるように、信号処理手段に出力するパラメータを制御し、パラメータに基づいて信号処理手段で変調度が調整された映像信号において、MTF測定手段によって、MTFを測定することとしてもよい。
【0010】
また、前記課題を解決するため、本発明に係るカメラ評価値測定方法は、カメラの空間周波数特性を表すMTFを予め定めた所定レベルに調整して、前記カメラが撮影する映像信号と雑音の比率を表すSNRを測定するカメラ評価値測定方法であって、MTF測定ステップと、パラメータ制御ステップと、信号処理ステップと、SNR測定ステップと、を含む手順とした。
【0011】
かかる手順において、カメラ評価値測定方法は、MTF測定ステップで、MTF測定手段によって、カメラで撮影され、信号処理手段で変調度が調整された映像信号においてMTFを測定する。
そして、カメラ評価値測定方法は、パラメータ制御ステップで、パラメータ制御手段によって、MTFが予め定めた所定レベルになるように信号処理手段で使用するパラメータを制御する。
そして、カメラ評価値測定方法は、信号処理ステップで、信号処理手段によって、パラメータに基づいて映像信号の変調度を調整する。
以上の動作を繰り返すことで、カメラ評価値測定方法は、カメラが撮影した映像信号のMTFを所定のレベルに調整することができる。
そして、カメラ評価値測定方法は、SNR測定ステップで、MTFが所定のレベルに調整された後に、SNR測定手段によって、信号処理手段で変調度が調整された映像信号においてSNRを測定する。
これによって、カメラ評価値測定方法は、測定対象の複数のカメラの評価を行う際に、MTFのレベルを揃えた状態で、SNRを測定することができる。
【0012】
なお、カメラ評価値測定方法は、パラメータ制御ステップで、SNRが予め定めた所定レベルになるように、信号処理手段で使用するパラメータを制御し、パラメータに基づいて信号処理ステップで変調度が調整された映像信号において、MTF測定ステップでMTFを測定することとしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
本発明によれば、測定対象の複数のカメラにおいて、MTFのレベルを揃えた状態でSNRを測定する、または、SNRのレベルを揃えた状態でMTFを測定することができる。
本発明は、MTFのレベルを揃えてカメラのSNRを測定する、または、SNRのレベルを揃えてMTFを測定することで、同一条件下でカメラの総合的な優劣を評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るカメラ評価値測定装置の構成を示すブロック構成図である。
図2】ROIを説明するための図であって、(a)は垂直のROI(垂直エッジ画像)、(b)は水平のROI(水平エッジ画像)である。
図3】パラメータαによる画素値の変化を説明するための横軸にx座標、縦軸に画素値をとったグラフで、(a)はα=0、(b)はα>0、(c)はα<0の状態のグラフである。
図4】ROI画像の各画素位置と投影軸のビンとの対応を説明するための説明図である。
図5】エッジプロファイルを生成する手法を説明するための説明図である。
図6】横軸に空間周波数、縦軸にMTF値をとったMTFのグラフの例を示す図である。
図7】理想のMTFカーブを説明するためのMTFのグラフである。
図8】理想のMTFカーブよりもMTF値が小さい状態を示すMTFのグラフである。
図9】理想のMTFカーブに調整する状態を説明するためのMTFのグラフである。
図10】本発明の実施形態に係るカメラ評価値測定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
[カメラ評価値測定装置の構成]
最初に、図1を参照して、本発明の実施形態に係るカメラ評価値測定装置1の構成について説明する。
【0016】
カメラ評価値測定装置1は、カメラ2の評価値として、MTFを予め定めた所定レベルに調整してSNRを測定するものである。
ここで、カメラ評価値測定装置1は、カメラ2と表示装置3とを接続する。
【0017】
カメラ2は、測定対象のカメラであって、チャートCHを撮像した映像信号をカメラ評価値測定装置1に出力する。例えば、カメラ2は、HD(High Definition)カメラである。
【0018】
チャート(MTFチャート)CHは、境界でコントラストの異なるチャートであって、カメラ2の撮像素子(不図示)に対して垂直方向または水平方向から所定角度傾いた境界が直線となる白黒パターンを有するSlanted-edge法で用いるチャートである。カメラ2は、チャートCHの白黒の境界線が、所定角度(数度程度)傾いた状態で撮像する。
【0019】
ここで、MTFとして、水平方向の周波数特性を測定する場合、カメラ2は、図2(a)のように、境界線を斜め垂直方向にした状態でチャートCHを撮像する。また、垂直方向の周波数特性を測定する場合、カメラ2は、図2(b)のように、境界線を斜め水平方向にした状態でチャートCHを撮像する。
【0020】
表示装置3は、カメラ評価値測定装置1を操作するユーザインタフェースを提供するとともに、カメラ2が撮像したチャート画像、MTFの測定結果、SNRの測定結果等を表示するものである。例えば、表示装置3は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等である。
なお、表示装置3は、カメラ2が撮像したチャート画像を表示する表示装置と、測定結果を表示する表示装置とをそれぞれ別に設けてもよい。
以下、カメラ2が出力する映像信号によって、カメラ2のMTFを調整してSNRを測定するカメラ評価値測定装置1の構成について詳細に説明する。
図1に示すように、カメラ評価値測定装置1は、信号処理手段10と、MTF測定手段11と、SNR測定手段12と、を備える。
【0021】
信号処理手段10は、パラメータに基づいて、カメラ2から出力される映像信号の変調度を調整して、見かけ上の解像度を変更するものである。
信号処理手段10は、MTF測定手段11のパラメータ制御手段113から出力されるパラメータで、映像信号の変調度を調整する。
例えば、信号処理手段10は、エンハンスフィルタの係数を調整可能にした以下の式(1)に示すタップ数3の1次元フィルタ(1行3列)を用いて、映像信号に畳み込み演算を行う。
【0022】
【数1】
【0023】
αは、変調度を調整するスカラのパラメータであって、MTF測定手段11のパラメータ制御手段113から入力される。
ここで、図3(a)(b)(c)を参照して、パラメータαを用いた映像信号の画素値の変化について説明する。図3(a)(b)(c)において、横軸は水平座標値(x座標値)、縦軸は画素値を示す。
図3(a)は、α=0の状態で、水平座標値xにおいて、エッジが存在する映像信号の例を示している。
【0024】
このαの値を大きくする(α>0、例えば、“+0.2”等)ことで、図3(b)に示すように、水平座標値xの左の水平座標値x-1において画素値が小さくなり、水平座標値xの右の水平座標値xにおいて画素値が大きくなる。これによって、映像信号のエッジが強調され、解像度を高めることができる。
また、αの値を小さくする(α<0、例えば、“-0.2”等)ことで、図3(c)に示すように、水平座標値xの左の水平座標値x-1において画素値が大きくなり、水平座標値xの右の水平座標値xにおいて画素値が小さくなる。これによって、映像信号のエッジがなまり、解像度を低くすることができる。
なお、図2(b)のように、境界線を斜め水平方向にした状態でチャートCHを撮像した場合、信号処理手段10は、以下の式(2)に示すタップ数3の1次元フィルタ(3行1列)を用いて、映像信号に畳み込み演算を行えばよい。
【0025】
【数2】
【0026】
あるいは、信号処理手段10は、以下の式(3)に示すタップ数3の2次元フィルタ(3行3列)を用いて、映像信号に畳み込み演算を行うこととしてもよい。
【0027】
【数3】
【0028】
このように、パラメータを変数とするフィルタを用いて畳み込み演算を行うことで、信号処理手段10は、パラメータの値に応じて映像信号の変調度を変化させることができる。
なお、前記式(1)~式(3)は、以下の式(4)~式(6)に示すように、αの符号を変えたものであっても構わない。
【0029】
【数4】
【数5】
【数6】
【0030】
この場合、映像信号の変調度を調整するためのパラメータの値の大小が逆になるだけである。もちろん、パラメータαをスカラとして特定可能なフィルタであれば、前記式(1)~式(6)に限定されるものではない。
図1に戻って、カメラ評価値測定装置1の構成について説明を続ける。
【0031】
MTF測定手段11は、信号処理手段10で変調度が調整されたチャートCHの映像信号からMTFを測定するものである。
MTF測定手段11は、図1に示すように、ROI設定手段110と、ROI画像抽出手段111と、MTF算出手段112と、パラメータ制御手段113と、を備える。
【0032】
ROI設定手段110は、カメラ2が撮像したチャート画像内で、境界(エッジ)を含む関心領域(ROI)を設定するものである。例えば、ROI設定手段110は、表示装置3が表示しているチャート画像内において、測定者が操作するポインティングデバイス(不図示)で矩形領域を指定されることで、ROIの領域(位置、大きさ等)をROI情報として設定する。
【0033】
ここで、水平方向の周波数特性を測定する場合、ROI設定手段110は、測定者によって、図2(a)のように、チャートCHを撮像したチャート画像から、縦長の矩形領域(ROI)を指定されることで、ROI情報を設定する。この場合、ROIによって、水平方向で明度が異なるROI画像(垂直エッジ画像)Rが特定されることになる。
【0034】
また、垂直方向の周波数特性を測定する場合、ROI設定手段110は、測定者によって、図2(b)のように、チャートCHを撮像したチャート映像から、横長の矩形領域(ROI)を指定されることで、ROI情報を設定する。この場合、ROIによって、垂直方向で明度が異なるROI画像(水平エッジ画像)Rが特定されることになる。
なお、ROI設定手段110によるROIの設定は、順次入力されるチャート画像において、ROIを変更する必要がなければ、一度の設定でよい。また、ROI設定手段110が設定するROIは、領域の形状が特定できれば、必ずしも矩形である必要はない。
ROI設定手段110は、設定したROIの領域(位置、大きさ等)を示すROI情報をROI画像抽出手段111に出力する。
【0035】
ROI画像抽出手段111は、信号処理手段10で変調度が調整された映像信号から、ROI設定手段110で設定されたROI情報で示されるROIの領域(位置、大きさ等)の画像を、ROI画像として抽出するものである。
ROI画像抽出手段111は、抽出したROI画像を、MTF算出手段112に出力する。
【0036】
MTF算出手段112は、MTF算出手段112は、ROI画像抽出手段111で抽出されたROI画像から、MTFを算出するものである。
MTF算出手段112は、一般的なSlanted-edge法によりMTFを算出する。
【0037】
具体的には、MTF算出手段112は、ROI画像における水平方向および垂直方向の軸を2軸とする座標系(xy座標系)において、エッジの傾きを求める。
そして、MTF算出手段112は、図4に示すように、エッジeの傾きθeと同じ角度で水平軸(x軸)にROI画像の画素を投影する。このとき、投影軸の座標の幅(ビン幅)は、画素よりも小さいサブピクセル単位(例えば、1画素の1/4の幅)とする。
そして、MTF算出手段112は、図5に示すように、投影軸のビンごとに画素値を平均化することで、エッジの特性を示すエッジプロファイルを生成する。
そして、MTF算出手段112は、エッジプロファイルを微分することで、線広がり関数(LSF:Line Spread Function)を求め、そのLSFをフーリエ変換することでMTFを求める。
これによって、MTF算出手段112は、ROI画像から、MTFを算出することができる。
【0038】
MTF算出手段112は、算出したMTFの測定結果を表示装置3に表示する。ここで、MTF算出手段112は、MTFをグラフ化し、例えば、図6に示すように、横軸を空間周波数(cycles/pixel)、縦軸をMTF値(%)として、表示装置3に表示する。
【0039】
パラメータ制御手段113は、信号処理手段10が行う変調度を調整するためのパラメータを制御することで、MTFの値を変化させるものである。
ここでは、パラメータ制御手段113は、予め定めた空間周波数におけるMTF値が所定値となるように、外部からの調整でパラメータを変化させる。一般的なHDカメラでは、800TV本の空間周波数でMTFが35%以上となることが推奨されており、より一般的には、図7に示すように、空間周波数0.37(cycles/pixel)で、MTF値が35%以上となるMTFが推奨される。この値が、一般的な放送用HDカメラや4K/8KカメラのMTFを決める基準となる。そのため、本実施形態では、一例として35%のMTF値を所定値として説明する。
【0040】
測定者は、表示装置3上で、MTFを確認し、例えば、図8に示すように、空間周波数が0.37(cycles/pixel)で、MTF値が35%未満であれば、パラメータαの値を大きくする方向に調整する。これによって、図9に示すように、MTFの値が全体的に押し上げられ、基準を満たすMTFカーブとなるように調整される。
一方、空間周波数が0.37(cycles/pixel)で、MTF値が35%よりも大きければ、測定者は、パラメータαの値を小さくする方向に調整する。
パラメータ制御手段113は、適宜調整されるパラメータαを信号処理手段10に出力する。なお、ここでは、信号処理手段10で使用するフィルタが、前記式(1)、式(2)または式(3)の例で説明したが、前記式(4)、式(5)または式(6)のフィルタであれば、パラメータαの調整方向が逆になるだけである。
【0041】
このように、測定者は、空間周波数が0.37(cycles/pixel)で、MTF値が35%となるようにパラメータを調整することで、映像信号のMTF値を所定値に調整することができる。
このαの調整は、例えば、図示を省略したボリューム用つまみ等で行うことができる。
なお、ここでは、αの調整を測定者が行うこととしたが、パラメータ制御手段113は、MTF値が所定値(35%)となるように、αの値をPID制御することとしてもよい。また、パラメータ制御手段113は、必ずしもMTF測定手段11の内部に備える必要はなく、MTF測定手段11とは独立した構成としてもよい。
【0042】
SNR測定手段12は、信号処理手段10で変調度が調整された映像信号の信号対雑音比(SNR)を測定するものである。
SNR測定手段12は、図1に示すように、SNR算出手段120を備える。
【0043】
SNR算出手段120は、信号処理手段10で変調度が調整された映像信号のSNRを算出するものである。
このSNR算出手段120は、MTF測定手段11において、所定の空間周波数におけるMTF値を所定値に調整した後、測定者によって、起動が指示される。なお、MTFの値を小さくすることで、ノイズが低減され、SNRの値は大きくなる。また、MTFの値を大きくすることで、ノイズが強調され、SNRの値は小さくなる。
【0044】
SNR算出手段120におけるSNRの算出手法は、一般的な手法を用いればよい。例えば、カメラ2が放送用カメラであれば、SNR算出手段120は、カメラ2のシャッタ(不図示)を閉じた状態(暗時)で信号強度を測定し、予め定めた測定領域内の信号強度の平均と、その領域内における信号強度の標準偏差との比を求める等により行う。なお、カメラ2のシャッタを閉じるには、測定者が手動でカメラ2を操作してもよいし、SNR測定手段12がカメラ2に対してシャッタを閉じる制御信号を送出してもよい。
また、カメラ2が一般的なデジタルカメラであれば、SNR算出手段120は、ISO 15739で規定されている手法によってSNRを算出する。
SNRの算出手法は、算出したSNRの測定結果を表示装置3に表示する。
【0045】
なお、カメラ評価値測定装置1は、カメラ2のMTFおよびSNRをそれぞれ独立して測定することも可能である。その場合、パラメータ制御手段113が信号処理手段10に出力するパラメータαの値を“0”とすればよい。
【0046】
以上説明したようにカメラ評価値測定装置1を構成することで、カメラ評価値測定装置1は、カメラ評価値として、MTF値を所定値に調整した後、SNRを測定することができる。
これによって、カメラ評価値測定装置1は、MTF値を揃えた状態で、カメラ2のSNRを測定することで、一元的にカメラ2の優劣を評価することができる。
なお、カメラ評価値測定装置1は、コンピュータを、前記した各手段として機能させるためのプログラム(カメラ評価値測定プログラム)により動作させることができる。
【0047】
[カメラ評価値測定装置の動作]
次に、本発明の実施形態に係るカメラ評価値測定装置1の動作について説明する。なお、測定対象のカメラ2は、チャートCHを撮像した映像信号をカメラ評価値測定装置1に出力した状態とする。また、カメラ2から入力される映像信号は、逐次、信号処理手段10によって、パラメータαに応じた変調度の調整が行われる。
【0048】
ステップS1において、MTF測定手段11のROI設定手段110は、ROIの領域(位置、大きさ等)をROI情報として設定する。例えば、ROI設定手段110は、表示装置3が表示しているチャート画像内において、測定者が操作するポインティングデバイス(不図示)で矩形領域を指定されることでROI情報を設定する。
【0049】
ステップS2において、ROI画像抽出手段111は、映像信号から、ステップS1で設定されたROI情報で示されるROIの領域(位置、大きさ等)の画像を、ROI画像として抽出する。
【0050】
ステップS3において、MTF算出手段112は、ステップS2で抽出されたROI画像から、MTFを算出する。具体的には、MTF算出手段112は、ROI画像から、エッジプロファイルを生成し、エッジプロファイルを微分することで、線広がり関数(LSF)を求め、LSFをフーリエ変換することでMTFを算出する。
【0051】
ステップS4において、MTF算出手段112は、MTFをグラフ化し、表示装置3に表示する。
ステップS5において、測定者は、グラフにより、所定の空間周波数(例えば、0.37〔cycles/pixel〕)において、MTF値が所定値(例えば、35%)であるか否かを判定する。
【0052】
ここで、MTFが所定値でない場合(ステップS5でNo)、ステップS6において、パラメータ制御手段113は、測定者の指示により、MTFが所定値となる方向にパラメータαを制御する。
そして、ステップS7において、信号処理手段10は、ステップS6で制御されたパラメータαで、映像信号の変調度を調整する。
その後、カメラ評価値測定装置1は、ステップS2に戻って、新たなROI画像からMTFを測定する。
このように、カメラ評価値測定装置1は、パラメータの制御を順次繰り返すことで、MTFを所定値となるように調整する。
【0053】
一方、MTFが所定値となった場合(ステップS5でYes)、ステップS8において、測定者は、カメラ2のシャッタを閉じる。
そして、ステップS9において、SNR測定手段12のSNR算出手段120は、所定の空間周波数(例えば、0.37〔cycles/pixel〕)におけるMTF値が所定値(例えば、35%)となるように調整された映像信号のSNRを算出する。
そして、ステップS10において、SNR算出手段120は、算出したSNRを表示装置3に表示する。
【0054】
以上の動作によって、カメラ評価値測定装置1は、MTF値を所定値に調整した後、SNRを測定することができる。
なお、ここでは、測定者が、MTF値が所定値か否かを判定し、パラメータを制御することとした。しかし、カメラ評価値測定装置1は、測定者を介さずに、自動でパラメータを制御することとしてもよい。
その場合、ステップS4を省略し、ステップS5において、パラメータ制御手段113が、ステップS3で算出されたMTF値が所定値であるか否かを判定し、ステップS6において、MTF値が所定値となる方向にパラメータαを制御すればよい。
【0055】
また、ステップS8は、必ずしも測定者が手動で行う必要はなく、MTF値が所定値となった段階(ステップS5でYes)で、MTF測定手段11がSNR測定手段12にSNRの測定を指示し、SNR測定手段12が、カメラ2に対してシャッタを閉じる制御信号を送出してもよい。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
例えば、ここでは、パラメータ制御手段113が、予め定めた空間周波数におけるMTF値が所定値(所定レベル)となるように、パラメータを制御した。
しかし、パラメータ制御手段113は、例えば、MTF算出手段112(MTF測定手段11)で算出(測定)される空間周波数ごとのMTF値の総和が、予め定めた基準を満たすMTFカーブ(図7参照)における空間周波数ごとのMTF値の総和と予め定めた誤差内で一致するように、パラメータを制御しても構わない。
【0057】
また、ここでは、カメラ評価値測定装置1は、MTF(予め定めた空間周波数におけるMTF値、空間周波数ごとのMTF値の総和)を揃えて、SNRを測定した。
しかし、カメラ評価値測定装置1は、SNRを予め定めた所定レベルに揃えた状態で、MTFを測定することとしてもよい。
その場合、カメラ評価値測定装置1は、最初にSNR測定手段12によって、SNRの測定を行い、パラメータ制御手段113によって、測定されるSNRが予め定めた値(所定レベル)となるように、外部からの指示、あるいはPID制御によりパラメータを制御する。そして、カメラ評価値測定装置1は、SNRが予め定めた値(所定レベル)となった後に、MTF測定手段11によって、MTFを測定すればよい。
これによって、カメラ評価値測定装置1は、SNRを揃えた状態で、カメラ2のMTFを測定することで、一元的にカメラ2の優劣を評価することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 カメラ評価値測定装置
10 信号処理手段
11 MTF測定手段
110 ROI設定手段
111 ROI画像抽出手段
112 MTF算出手段
113 パラメータ制御手段
12 SNR測定手段
120 SNR算出手段
2 カメラ
3 表示装置
CH チャート画像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10