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特許7209960振動特性検出装置、および振動特性検出方法
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  • 特許-振動特性検出装置、および振動特性検出方法 図1
  • 特許-振動特性検出装置、および振動特性検出方法 図2
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  • 特許-振動特性検出装置、および振動特性検出方法 図4
  • 特許-振動特性検出装置、および振動特性検出方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】振動特性検出装置、および振動特性検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 13/00 20060101AFI20230116BHJP
【FI】
G01H13/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018216081
(22)【出願日】2018-11-19
(65)【公開番号】P2020085515
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 司
(72)【発明者】
【氏名】内堀 裕之
(72)【発明者】
【氏名】ヘン サルピソット
(72)【発明者】
【氏名】ホアン チョン クエン
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/185934(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/064854(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象の振動特性を検出する振動特性検出装置であって、
複数の振動センサと、
各振動センサの検出波形に基づいて、卓越振動数を求める卓越振動数演算部と、
上記複数の振動センサの複数の組み合わせごとに、卓越振動数のばらつき程度を求め、上記ばらつき程度が最も小さい振動センサの組み合わせについて、卓越振動数の代表値を求める代表値演算部と、
を備えたことを特徴とする振動特性検出装置。
【請求項2】
請求項1の振動特性検出装置であって、
上記卓越振動数演算部は、全ての振動センサの検出波形について、卓越振動数を求めることを特徴とする振動特性検出装置。
【請求項3】
請求項1から請求項2のうち何れか1項の振動特性検出装置であって、
上記代表値演算部は、上記最も小さいばらつき程度が所定の閾値以下である場合に、上記卓越振動数の代表値を求めることを特徴とする振動特性検出装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうち何れか1項の振動特性検出装置であって、
さらに、上記卓越振動数の代表値に最も近い卓越振動数を固有振動数として求める固有振動数決定部を有することを特徴とする振動特性検出装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうち何れか1項の振動特性検出装置であって、
さらに、請求項1から4における上記卓越振動数の代表値と、過去の卓越振動数の代表値との差、または請求項4における上記固有振動数と、過去の固有振動数との差が、所定の下限閾値を超える場合に、請求項1から4における上記卓越振動数の代表値、または請求項4における上記固有振動数を有効と判定する有効性判定部を有することを特徴とする振動特性検出装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうち何れか1項の振動特性検出装置であって、
さらに、請求項1から4における上記卓越振動数の代表値と、過去の卓越振動数の代表値との差、または請求項4における上記固有振動数と、過去の固有振動数との差に基づいて、上記計測対象の振動特性の変化を検出する振動特性変化検出部を有することを特徴とする振動特性検出装置。
【請求項7】
計測対象の振動特性を検出する振動特性検出方法であって、
複数の振動センサの検出波形に基づいて、卓越振動数を求める卓越振動数演算ステップと、
上記複数の振動センサの複数の組み合わせごとに、卓越振動数のばらつき程度を求め、上記ばらつき程度が最も小さい振動センサの組み合わせについて、卓越振動数の代表値を求める代表値演算ステップと、
を実行することを特徴とする振動特性検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物や橋梁、機械装置等を含む構造物や建造物などの計測対象の振動特性を検出する振動特性検出装置、および振動特性検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁の安全性を判定するための技術として、橋梁に外部より振動を加えて、この振動を振動検出部で検出し、その振動波形を有線で伝送して中継局に一時蓄積してから無線で計測部に伝送し、この計測部の判定部で、振動波形から橋梁の安全性を判定する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-128182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように強制的に振動を加える構成では、消費電力が大きくなり、長期間の検出を行うことが困難である。一方、強制的な振動を与えない場合に検出されるような微弱な振動は、ノイズの影響が大きいため、検出結果のばらつきを低減することなどが困難である。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、微弱な振動であっても、振動特性の検出精度を向上させ得るようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、
本発明は、
計測対象の振動特性を検出する振動特性検出装置であって、
複数の振動センサと、
各振動センサの検出波形に基づいて、卓越振動数を求める卓越振動数演算部と、
上記複数の振動センサの複数の組み合わせごとに、卓越振動数のばらつき程度を求め、上記ばらつき程度が最も小さい振動センサの組み合わせについて、卓越振動数の代表値を求める代表値演算部と、
を備えたことを特徴とする。
【0007】
これにより、複数の振動センサが用いられ、ばらつき程度が小さい振動センサの組み合わせについて卓越振動数の代表値が求められることによって、検出される加速度の大きさ等によって計測データを大幅に除外したりせずに、高い検出精度を得ることが容易にできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微弱な振動であっても、振動特性の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】振動特性検出装置の概略構成を示す説明図である。
図2】検出データの加速度の大きさと固有振動数の分布を示すグラフである。
図3】他の検出データの加速度の大きさと固有振動数の分布を示すグラフである。
図4】検出処理を示すフローチャートである。
図5】センサの組み合わせの固有振動数抽出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態として、建築構造物の振動特性を検出する振動特性検出装置の例を図面に基づいて説明する。
【0011】
上記振動特性検出装置は、例えば図1に示すように、ビルディングや橋梁などの建築構造物100に設置された複数、例えば20個程度の振動センサ101と、各振動センサ101の検出波形に基づいて、建築構造物100の固有振動数等を検出する検出部102と、検出結果を図示しないサーバ装置等に送信する送信部103とを備えて構成されている。ここで、上記振動センサ101の設置場所は、固有振動数を求めるためには、通常、特に限定されず、建築構造物100のどの箇所で計測しても同じ固有振動数を求めることができる。
【0012】
上記検出部102は、具体的には、例えば演算部や記憶部などを有するマイクロコンピュータを用いて構成され、以下に詳述するような処理により、各振動センサ101の検出波形に基づいて、卓越振動数(スペクトルピーク)を求める卓越振動数演算部、および上記複数の振動センサ101の複数の組み合わせごとに、卓越振動数のばらつき程度を求め、上記ばらつき程度が最も小さい振動センサの組み合わせについて、卓越振動数の代表値を求める代表値演算部として機能するようになっている。また、卓越振動数の代表値に最も近い卓越振動数を固有振動数として求める固有振動数決定部や、卓越振動数の代表値、または上記固有振動数と、過去の卓越振動数の代表値、または固有振動数との差が、所定の下限閾値以上、かつ、所定の上限閾値以下である場合に、上記卓越振動数の代表値、または上記固有振動数を有効と判定する有効性判定部、卓越振動数の代表値、または上記固有振動数と、過去の卓越振動数の代表値、または固有振動数との差に基づいて、上記建築構造物の振動特性の変化を検出する振動特性変化検出部としても、機能し得るようになっている。なお、検出部102は振動センサ101によって得られた検出データをそのままサーバ等に送って、サーバ等で上記のような処理が行われるようにしたり、検出部102とサーバ等との組み合わせによって、上記のような処理が行われるようにしたりしてもよい。
【0013】
上記のような振動特性検出装置では、特に強制振動を加えない状態でも、通常、種々の要因によって微小な振動、すなわち常時微動が検出される。そのような微小な振動は、例えば、鉛直方向の振動、およびこれに直角方向の振動についての加速度の大きさ(RMS:二乗平均平方根)と固有振動数との関係の例を図2図3に示すように、加速度が相対的に非常に小さな振動の検出頻度が非常に多く、かつ、そのような振動はノイズの影響が大きく固有振動数のばらつきも大きくなるのが通常である。そこで、従来一般には、固有振動数のばらつきが小さくなるような加速度の大きな(加速度のRMSが小さいものを除去した)計測値や、SN比の大きな計測値を抽出したり、強制振動を加えたりして、振動特性の検出が行われる。これに対して、本実施形態の振動特性検出装置は、固有振動数のばらつきは大きくても、複数の振動センサ101についての検出波形に基づく平均値等の代表値を求めることによって、ノイズの影響を低減して振動特性の検出精度を高めることが可能となるものである。以下、検出部102で行われる具体的な処理内容の例を図4図5に基づいて説明する。
【0014】
(S101) まず、各振動センサ101による振動波形データが入力される。
【0015】
(S102) 次に、ノイズがある一定値以下もしくは信号がある一定値以上、または検出加速度レベルが所定の閾値以上の振動センサ101の振動波形データが選択される。なお、ノイズの影響は以下のように代表値を求めることによって軽減することができるので、この処理は必ずしも行われなくてもよい。また、行われる場合でも、上記閾値を小さく設定することができる。これらによって、例えば下記(表1)に示すように、主として検出レベルが低いデータを除外することによってノイズの影響を低減する場合などに比べ、選択されるデータの量を多く保つことが容易にできる。
【0016】
【表1】
【0017】
(S103) 選択された各振動センサ101の振動波形データに基づいて、離散フーリエ変換等の振動数分析が行われる。
【0018】
(S104) 上記振動数分析の結果に基づいて、卓越振動数が検出される。
【0019】
(S105) 次に、複数の振動センサ101の組み合わせに基づいて固有振動数が抽出される。具体的には、例えば図5に示す(S201)~(S206)のような処理が行われる。
【0020】
(S201) まず、複数の振動センサ101の組み合わせが設定される。具体的には、例えば20個程度の振動センサ101が数個ずつに分けられてもよいし、重複して選択され得る、より多くの個数の組が設定されたりしてもよい。また、振動モードごとに、選択されないセンサがあったりしてもよい。
【0021】
(S202) 振動センサ101の上記各組み合わせについて、卓越振動数のばらつき程度が求められる。具体的には、例えば平均値に対するばらつき(分散)や、中央値に対するばらつき、平均値等との差分の絶対値和などが求められる。
【0022】
(S203) 上記ばらつき程度が最も小さい振動センサ101の組み合わせが選択される。
【0023】
(S204) 上記選択された振動センサ101の組み合わせにおけるばらつき程度が、所定の閾値以下であるかどうかが判定され、所定の閾値を超える場合には、例えば大きな外乱が加わっている可能性等を考慮して、この時点での振動波形データに基づく検出処理は終了される。
【0024】
(S205) 上記ばらつき程度が所定の閾値以下であれば、平均値や中央値などの代表値が求められる。
【0025】
(S206) 上記代表値に最も近い、何れかの振動センサ101についての卓越振動数が、建築構造物100の固有振動数として選択される。なお、上記代表値がそのまま固有振動数とされるなどしてもよい。
【0026】
(S106)(図4) 上記のようにして求められた固有振動数と、過去に求められた固有振動数との差が所定の下限閾値よりも小さいほど、それらの固有振動数が高精度に一致するか、より具体的には例えば有効数字で3桁以上が一致するかどうかなどが確認され、一致していれば、検出処理は終了される。すなわち、そのような高精度に一致する検出結果が生じる場合には、外部から強い強制振動が作用していることなどが想定されるので、そのような検出結果は除外することが考えられる。
【0027】
(S107) 上記(S105)で求められた固有振動数と、過去に求められた固有振動数との差が、所定の下限閾値を超える場合には、求められた固有振動数が、建築構造物100の振動特性としての固有振動数として出力される。
【0028】
上記のように、複数の振動センサ101を用いるとともに、検出される加速度の大きさ等によって計測データを大幅に除外せず、複数の振動センサ101の複数の組み合わせごとに求められた卓越振動数のばらつき程度に応じて固有振動数が求められるようにすることにより、固有振動数の微小な変化を残したまま、信頼性の低い計測データの影響を除外することが容易にでき、少ない計測回数(短時間の計測)でも、高い検出精度を得ることが容易にできる。
【0029】
それゆえ、上記のような計測を継続して行うことにより、上記のようにして求められた固有振動数と、過去に求められた固有振動数との差に基づいて、建築構造物100の振動特性の変化を検出し、建築構造物100の劣化等による固有振動数の変化が小さいような場合でも、検出の確実性を高めることができる。
【0030】
また、外来雑振動(車両等による被定常振動など)がある場合には、通常、ある特定のセンサの振動にのみ影響が出て、そのような1つのセンサだけに現われる卓越振動数は構造物の固有振動数にならないが、他のセンサには構造物の固有振動数以外の卓越振動数は出ない可能性が高いので、外来雑振動の影響を低減することもできる。
【符号の説明】
【0031】
100 建築構造物
101 振動センサ
102 検出部
103 送信部
図1
図2
図3
図4
図5