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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】管理装置
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/06 20230101AFI20230116BHJP
   G06Q 50/10 20120101ALI20230116BHJP
【FI】
G06Q10/06
G06Q50/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021009558
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022113362
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】513072215
【氏名又は名称】株式会社インティ
(73)【特許権者】
【識別番号】516088215
【氏名又は名称】広沢電機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 亨
【審査官】石坂 博明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-192326(JP,A)
【文献】特開2001-331571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを有し、複数の資源管理を用いるファシリティマネジメントのための管理装置であって、
前記複数の資源管理のいずれかにおいて運用が決定された場合、前記複数の資源管理のそれぞれで行われる運用のうち、前記決定された運用と対立する運用の中から、実施対象の運用を決定する決定部を備え、
前記決定部は、
前記複数の資源管理のそれぞれで行われる運用のうちの各運用間の相対的な重要度と、前記資源管理のそれぞれが管理に用いている評価項目であって、決定された前記運用に係る評価項目の評価結果とを掛け合わせて総合評価値を算出し、最も総合評価値が高い運用を、前記実施対象の運用として決定する
ことを特徴とする管理装置。
【請求項2】
前記各運用についての第2の一対比較行列が予め設定されており、
前記決定部は、
前記最も総合評価値が高い運用に対応した前記第2の一対比較行列と、評価値演算部が演算した、前記最も総合評価値が高い運用に係る前記評価項目の評価値とに基づいて総合評価値を算出し、最も総合評価値が高い実施内容を、実施する実施内容として決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記実施対象の運用を自動実行する自動実行部を備える、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の管理装置。
【請求項4】
前記複数の資源管理のいずれかにおいて決定された異常を伴う管理資源についての運用を選別して前記決定部に入力し、又は、異常を伴う管理資源に関するデータを選別して選別した前記データを前記資源管理の運用を決定する評価部に入力する選別部を備える
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、事業場構内のファシリティを管理するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-149284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ファシリティマネジメント(以下、「FM」という)は、設備機器の運転・保守や、省エネルギー運用、セキュリティー(防災や防犯)といった多岐に亘る管理資源を管理するため、意思決定のために評価すべき項目(以下、「評価項目」という)が、単一の管理資源の管理よりも複雑なものとなっている。
例えば、事業場内のエネルギー管理は、省エネルギー化に係る評価項目の評価だけを用いれば必要十分な管理が可能である。このエネルギー管理に事業場内の機器の保守管理が加わった場合、機器の寿命に係る評価項目が評価項目に追加される。そして、FMにおける意思決定は、省エネルギー化の実施によって得られる利益、および、機器の保守の実施によって得られる利益を、全ての評価項目の評価結果に基づき特定し、それぞれの利益に基づいて、どちらを実施かを決定する、というプロセスにしたがって行われることになる。
しかしながら、意思決定のプロセスは、長年の経験と勘を頼りに人間によって実施されているのが実状である。
【0005】
一方、人員の高齢化や人員不足、昨今の新型コロナウィルス等の感染症への対策を取り入れた業務形態の普及により、FMについても、人の手による管理から自動化による管理への移行が急務となっている。
また、FMの自動化については、FMに携わる人員の合理化が得られるシステムでないと導入が進み難く、従来のシステムは、このようなニーズに十分に対応するものではなかった。
【0006】
本発明は、ファシリティマネジメントに要する労力を削減できる管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、コンピュータを有し、複数の資源管理を用いるファシリティマネジメントのための管理装置であって、前記複数の資源管理のいずれかにおいて運用が決定された場合、前記複数の資源管理のそれぞれで行われる運用のうち、前記決定された運用と対立する運用の中から、実施対象の運用を決定する決定部を備え、前記決定部は、前記複数の資源管理のそれぞれで行われる運用のうちの各運用間の相対的な重要度と、前記資源管理のそれぞれが管理に用いている評価項目であって、決定された前記運用に係る評価項目の評価結果とを掛け合わせて総合評価値を算出し、最も総合評価値が高い運用を、前記実施対象の運用として決定することを特徴とする管理装置。

【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ファシリティマネジメントに要する労力を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係るFM統合管理システムの構成を示す図である。
図2】統合管理装置の機能的構成を示すブロック図である。
図3】ある熱源機器nの、ある時刻Tにおける稼働に係る運用を決定するための意思決定階層モデルの一例を示す図である。
図4図3の意思決定階層モデルについての第1の一対比較行列の一例を示す図である。
図5図3の「省エネルギー」および「劣化レベル」についての第2の一対比較行列の一例を示す図である。
図6】ある空調機器mの室内機の、ある時刻Tにおける温度設定に係る運用を決定するための意思決定階層モデルの一例を示す図である。
図7図6の意思決定階層モデルについての第1の一対比較行列の一例を示す図である。
図8図6の意思決定階層モデルにおける「省エネルギー」ついての第2の一対比較行列の一例を示す図である。
図9】ARデータを用いた一次連絡または作業指示に係る運用を決定するための意思決定階層モデルの一例を示す図である。
図10図9の意思決定階層モデルについての第1の一対比較行列の一例を示す図である。
図11図9の意思決定階層モデルにおける「劣化レベル」についての第2の一対比較行列の一例を示す図である。
図12】本発明の変形例に係るFM統合管理システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係るFM統合管理システム1の構成を示す図である。
本実施形態において、FM(ファシリティマネジメント)は、事業場構内にある機器や施設、建物などの管理対象の資源(以下、「管理資源2」という)の管理(以下、「資源管理」という)を通じて、経済的又は経営戦略的な利益がより多く得られるように管理資源2を運用することを言う。
機器は、例えば熱源機器や、空調機器、照明機器、セキュリティ機器、防災機器、エレベータ装置、受変電機器、衛生機器、放送機器、電話機器、ネットワーク通信機器、監視装置などである。なお、機器は、1又は複数の機器を含む設備やシステムでもよい。
施設は、例えば会議施設や、喫茶施設、宿泊施設、娯楽施設なである。
【0011】
資源管理は、例えば、「機器運用・省エネルギー管理」や、「機器保守メンテナンス・修繕管理」、「セキュリティ管理」、「施設運用管理」などである。
【0012】
「機器運用・省エネルギー管理」は、機器の運転状況および消費エネルギーの評価に用いる各種のデータの収集と、当該データに基づく運転状況およびエネルギー消費に係る各種の評価項目の評価と、これらの評価項目の評価結果に基づく機器に関する運用の実施と、を含む管理である。
機器に関する運用の具体例は、熱源機器や空調機器、給排気ファンの運転および停止、外気冷房運転の運転および停止、照明機器の点灯および消灯、といった機器の発停である。また機器に関する運用は、熱源機器における送水温度の設定や、空調温度の設定、照明機器の照度設定などの各種設定などもある。
【0013】
「機器保守メンテナンス・修繕管理」は、機器の劣化および故障の評価に用いる各種のデータの収集と、当該データに基づく劣化や故障に係る各種の評価項目の評価と、これらの評価項目の評価結果に基づく保守およびメンテナンス、あるいは、修繕の実施と、を含む管理である。当該実施の具体例は、作業者への保守作業などの作業内容を指示する作業指示や、保守などのためのメーカへの連絡などでる。
【0014】
「セキュリティ管理」は、事業場構内のセキュリティの評価に用いる各種のデータの収集と、当該データに基づくセキュリティに係る各種の評価項目の評価と、これらの評価項目の評価結果に基づくセキュリティ機器および防災機器の操作(例えば、施錠/解錠に係る操作)と、必要に応じての外部通報動作と、を含む管理である。なお、セキュリティは、事業場内で発生する犯罪、事故、および災害(火災や地震など)に対して安全性を確保することを言う。
【0015】
「施設運用管理」は、施設の利用および予約に係る各種のデータの収集と、当該データに基づく施設利用に係る各種の評価項目の評価と、これらの評価項目の評価結果に基づく施設運用の実施と、を含む管理である。施設運用は、予約に対する施設の割当などを含む。
【0016】
一般に、これらの資源管理は、互いに独立した管理システムを用いて行われている。しなしながら、FMは、これらの資源管理をそれぞれ独立して行うだけでは不十分であり、それぞれの資源管理が他の資源管理の評価結果を踏まえて運用を決定する必要がある。
【0017】
例えば、「機器保守メンテナンス・修繕管理」において、ある機器が「故障している」と評価された場合、「機器運用・省エネルギー管理」において、故障した機器の代替の機器を運転させる、といった運用を実施する必要がある。
また例えば、「施設運用管理」において、ある施設が「予定確定」と評価された場合、「機器運用・省エネルギー管理」において、利用時間前に施設の空調機器や照明機器を稼働させたり、室内の温度や明るさを施設の利用人数などに応じて設定する、といった運用を実施する必要があり、また、「セキュリティ管理」において、利用時間に基づき施設の出入口の施錠または解錠する、といった運用を実施する必要がある。
また例えば、「セキュリティ管理」において、火災などの災害が「発生している」と評価された場合、「機器運用・省エネルギー管理」において、災害の拡大防止のために、適宜の機器の運転を停止したり、外部に通報したり、といった運用を実施する必要がある。
【0018】
そこで、本実施形態のFM統合管理システム1は、これら「機器運用・省エネルギー管理」、「機器保守メンテナンス・修繕管理」、「セキュリティ管理」および「施設運用管理」の4つの資源管理を統合的に行い、さらに、それぞれの資源管理が独立して運用の実施を要求している場合でも、適切な運用を決定する機能を有し、これらの機能によって、FMに要する労力の削減化が図られるシステムとなっている。加えて、FM統合管理システム1は、幾つかの運用を自動的に実行する自動化機能を備えることで、FMに要する労力を更に削減可能となっている。
【0019】
以下、かかるFM統合管理システム1について詳細に説明する。なお、FM統合管理システム1が統合可能な、FMに係る資源管理は、上述の4つの資源管理に限定されるものではない。
【0020】
FM統合管理システム1は、図1に示すように、データ収集部10と、データベース部20と、評価部30と、運用部40と、統合管理装置50と、を備えている。
データ収集部10は、複数の資源管理それぞれが管理に要する各種のデータを収集する手段を有し、これらのデータをデータベース部20へ入力する。
データベース部20は、データ収集部10によって収集されたデータを蓄積する手段を有する。このデータベース部20は、保有する管理資源2が異なる任意の建物に対応するために、それらの建物における各資源管理で利用可能な標準のフォーマットでデータを蓄積している。なお、データベース部20は、データを蓄積する手段を資源管理ごとに備えてもよいし、これら資源管理ごとのデータを一括して蓄積してもよい。
評価部30は、資源管理ごとに設定されている各種の評価項目の評価値をデータベース部20のデータに基づき演算する評価値演算部32と、実施対象の運用を各評価値に基づいて一次決定する運用一次決定部34と、有する。評価値演算部32による評価値の演算には、例えば、シミュレーションやAI(Artificial Intelligence)等の適宜の手法を用いることができる。
運用の実施要否判断に用いる評価基準値22が資源管理ごとに予めデータベース部20に格納されており、運用一次決定部34は、データベース部20を参照することで、各資源管理のそれぞれが実施すべき運用を決定(一次決定)する。評価基準値22は、評価項目についての基準値であり、資源管理ごとに設定され、その資源管理において、その運用を実施すべきと判断する基準となる値である。
運用部40は、各資源管理の運用を実施するための手段を備える。
統合管理装置50は、いずれかの資源管理についての運用(一次決定運用という)を評価部30が一次決定した場合、資源管理のそれぞれで行われる全ての運用のうち、意思決定運用と関連する運用の中から、実施対象の運用を決定する機能と、運用部40を用いて当該実施対象の運用を自動実行する機能と、を有した装置である。
【0021】
FM統合管理システム1の各部の構成について、より詳細には、データ収集部10は、機器や施設といった管理資源2に関するデータを収集する適宜の手段を備える。かかる手段は、適宜の物理量を計測する計器類や、管理資源2を観測する観測機器であり、当該手段によって計測または観測されたデータが通信ネットワークを介して、あるいは、作業員などによってデータベース部20を入力される。
観測機器は、作業員の現場での観察による管理資源2の状態確認の代替となる手段であり、例えば、管理資源2の様子を撮影する撮影装置、管理資源2の動作に伴う振動を検出する振動センサ、管理資源2の動作音を検出するマイク、管理資源2の動作に伴う発熱を検出する温度センサなどである。
【0022】
データベース部20は、データを蓄積するHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)といった記憶装置を備える。
【0023】
運用部40は、機器を遠隔制御する機器コントロール装置42と、施設の運用を管理する施設運用管理装置44と、機器のメンテナンスおよび建物の修繕のための一次対応として業者へ連絡し、また、セキュリティに係る一次対応として防災関連施設(警備会社や消防署、警察署など)に連絡する連絡装置46と、を含む。なお、一次対応のために連絡することを「一次連絡対応」とも言う。
【0024】
本実施形態では、資源管理のシステムであるビル管理システム、および施設運用管理システムが既設の管理システムとして既に導入されているものとし、データ収集部10、データベース部20、評価部30、および運用部40は、既設のビル管理システムおよび施設運用管理システムが備える手段や装置を適宜に用いて構成されている。
【0025】
具体的には、ビル管理システムは、機器に関する各種のデータを収集する収集手段と、建物に係る各種の管理機能を有した中央監視装置と、を含むシステムであり、例えばBEMS(Building and Energy Management System)である。
かかる中央監視装置は、プロセッサや、メモリデバイス、記憶装置、通信装置などを備えたコンピュータを備え、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムをプロセッサが実行することで、ビル管理に係る各種の管理機能を提供する装置である。
かかる管理機能は、例えば、機器のメンテナンス保守管理機能や、消費エネルギー管理機能、セキュリティ管理機能などである。
また、これらの管理機能を実現するために、中央監視装置は、データベース機能と、評価機能と、評価結果提示機能と、機器コントロール機能とを有する。
データベース機能は、収集手段によって収集されたデータや、各種管理機能に要するデータを記憶装置に蓄積する機能である。
評価機能は、上記評価部30に相当する機能であり、管理機能ごとに予め設定された評価項目の評価値を、収集手段によって取得されたデータに基づいて演算し、実施すべき運用を評価値に基づいて決定する。
評価結果提示機能は、評価値や、実施すべき運用を表示装置などの出力装置に出力することで作業員に提示する機能である。
機器コントロール機能は、機器コントロール装置42に相当する機能である。
【0026】
なお、かかるビル管理システムは、中央監視装置における例えば省エネルギー管理といった各種の管理機能を補完する装置や、中央監視装置を操作して運用を自動的に実行する装置を備えてもよい。かかるビル管理システムは、例えば特許第6664817号公報に記載されたエネルギー管理コンピュータや遠隔管理システムの技術を用いて構成することができる。
【0027】
施設運用管理システムは、施設の予約や使用状況を管理する上述の施設運用管理装置44に相当する装置を有したシステムである。
施設運用管理装置44は、プロセッサや、メモリデバイス、記憶装置、通信装置などを備えたコンピュータを備え、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムをプロセッサが実行することで、施設運用管理に係る各種の管理機能を提供する装置である。
かかる管理機能は、例えば、施設の予約管理(予約の受付、予約状況の確認)や使用状況管理(空き状況確認)、利用者管理などである。
また、施設運用管理装置44に相当する装置は、これらの管理機能に用いられる各種データを記憶装置に蓄積するデータベース機能を有する。
【0028】
そして、FM統合管理システム1において、運用部40は、上述した中央監視装置と、施設運用管理装置に相当する装置と、を含み、データ収集部10は、ビル管理システムの収集手段を含んで構成されている。データベース部20は、ビル管理システムおよび施設運用管理システムのそれぞれが備えるデータベース機能を含んで構成されている。また評価部30は、中央監視装置の評価機能を含んで構成されている。
【0029】
換言すれば、本実施形態のFM統合管理システム1は、図示を省略するが、資源管理のためのシステムであるビル管理システムおよび施設運用管理システムと、統合管理装置50と、を備え、統合管理装置50は、ビル管理システムおよび施設運用管理システムのそれぞれとの間で適宜の通信ネットワークを介して通信することで、各種のデータや、評価項目の評価結果(評価値)、実施が決定(一次決定)された運用(一次決定運用)などの情報をビル管理システムおよび施設運用管理システムのそれぞれから取得し、また統合管理装置50は、一次決定運用と、ビル管理システムおよび施設運用管理システムのそれぞれの運用のうち、一次決定運用と関連する運用との中から、実施対象の運用を決定し、決定した運用に係る各種の指示をビル管理システムおよび施設運用管理システムのそれぞれに出力する構成となっている。
かかる構成によれば、資源管理のためのシステムが既に設置されている場合であっても、各システムにおける運用についての判断結果が統合管理装置50によって管理されるため、既設のシステムに変更を加えずとも運用が適切に管理される。
【0030】
なお、FM統合管理システム1の各部に利用可能な既設のシステムは、上述のビル管理システムおよび施設管理システムに限定されない。
【0031】
図2は、統合管理装置50の機能的構成を示すブロック図である。
統合管理装置50は、CPUやMPUなどのプロセッサと、ROMやRAMなどのメモリデバイスと、HDDやSSDなどのストレージ装置と、適宜の通信ネットワークを通じて通信する通信装置と、を有したコンピュータを有する。そして、プロセッサがメモリデバイス又はストレージ装置に記憶されているコンピュータプログラムを実行することで、図2に示す各種の機能を実現する。
すなわち、統合管理装置50は、決定部54と、自動実行部56と、を機能的構成として備えている。
【0032】
決定部54は、資源管理ごとに一次決定された、ある管理資源2についての一次決定運用が評価部30から入力された場合、当該一次決定運用と、各資源管理において一次決定運用と対立する各運用との中から実施対象の運用(以下、「最終決定運用」という)を決定するものである。決定部54の詳細は後述する。
【0033】
自動実行部56は、運用部40が備える各部を制御することで最終決定運用の実施を自動実行する。
具体的には、自動実行部56は、各種の機器の操作に係る最終決定運用を自動実行する場合、運用部40の中央監視装置を自動制御することで、運用を自動的に実施する。中央監視装置の自動制御は、例えば上記特許第6664817号公報に記載されたRPA(Robotic Process Automation)技術を用いて行うことができる。
【0034】
また自動実行部56は、機器の保守作業などの作業内容を作業員へ指示する、という運用を自動実行する場合、連絡装置を制御して、作業内容を含む作業指示を作業員へ送る。この場合、自動実行部56は、AR(Augmented Reality)データを用いて作業内容を指示するデータを生成し、当該データを作業員へ送信する。ARデータは、対象の機器の画像(動画および静止画のいずれでもよい)に、作業内容を適宜の表示態様で重畳して表示するデータである。かかるARデータの表示により、作業員は作業内容を正確に把握することができる。
【0035】
また自動実行部56は、メーカへの一次連絡対応を自動実行する場合、連絡装置を制御してメーカに連絡を行う。この場合、自動実行部56は、機器の状況を把握可能にするためのデータをメーカに送信し、メーカ側が機器の状況に応じた適切な対応を速やかに実施可能にする。かかるデータは、対象の機器を仮想現実的に再現したVR(Virtual Reality)データであり、当該機器を観測する観測機器のデータに基づいて生成される。機器のVRデータがメーカ側に送られることで、メーカ側は、機器の状況を、より正確に把握することができる。
【0036】
次いで決定部54について詳述する。
決定部54における最終決定運用の決定は、ある管理資源2についての複数の運用の候補の中から適切なものを決定するための適宜の意思決定手法を用いて行うことができ、本実施形態では、意思決定手法の一例であるAHP(Analytic Hierarchy Process)法を用いて行われる。このAHPに用いられる意思決定の階層構造は、ISM(InterpretiveStructural Modeling )法を用いて特定できる。
【0037】
詳細には、先ず、適宜の設計者が意思決定階層モデル60を設計する。
意思決定階層モデル60は、ある管理資源2について、複数の資源管理のそれぞれの間で関連する運用の関係を、ISM法を用いて階層構造化したモデルである。本実施形態において、かかる意思決定階層モデル60は、個々の機器や、個々の施設、個々の建物ごと、および、時刻T(日時や、日付、時期といった他の時間要素でもよい)ごとに設計されている。
次いで、FMの熟練者などの適宜の評価者が、AHP法にしたがい、各運用の重要度(ウエイト)の「比」を一対比較によって定量化する。
そして、かかる定量化の結果に基づき第1の一対比較行列62が作成される。
【0038】
図3は、意思決定階層モデル60の一例を示す図である。
この意思決定階層モデル60は、ある熱源機器nの、ある時刻Tにおける稼働(「運転」または「停止」)に係る運用を決定するためのモデルである。
同図に示す意思決定階層モデル60は、1層の階層構造を有し、当該階層の中の「省エネルギー」、「劣化レベル」、「保守時期」、および「施設運用」が、ある時刻Tにおける熱源機器nの稼働に係り、かつ、互いに対立する運用であることを示している。
なお、「省エネルギー」は「機器運用・省エネルギー管理」に対応する運用であり、「劣化レベル」および「保守時期」は「機器保守メンテナンス・修繕管理」に対応する運用であり、「防災」は「セキュリティ管理」に対応する運用であり、「施設運用」は「施設運用管理」に対応する運用である。また、階層構造の階層数は図示例のような1層に限定されない。
【0039】
図4は、図3の意思決定階層モデル60についての第1の一対比較行列62の一例を示す図である。なお、図3および図4の例において参照される評価項目は、例えば、エネルギー管理に係る評価項目(「機器保守メンテナンス・修繕管理」において設定された評価項目)や、施設の予約状況や使用状況に係る評価項目(施設運用管理において設定された評価項目)、熱源機器nの「保守時期」に係る評価項目(機器保守メンテナンス・修繕管理において設定された評価項目)、防災に係る評価項目(セキュリティ管理において設定された評価項目)である。
【0040】
第1の一対比較行列62は、意思決定階層モデル60の各運用についての重み係数を行列形式に並べたものである。重み係数は、ある運用を他の運用と一対比較することで定量化した数値である。そして、第1の一対比較行列62は、行列における対角要素より右上部分に、定量化された数値が付与され、当該対角要素より左下部分に、その対称成分の数値の逆数が付与されることで作成される。
図示例の第1の一対比較行列62によれば、例えば行列要素(1行、2列)に付与された数値により、「省エネルギー」は、「劣化レベル」よりも重要度が高い(重み係数「3」)というように、かかる第1の一対比較行列62によって各運用間の相対的な重要度が定量的に表現されている。
【0041】
本実施形態において、決定部54は、これら意思決定階層モデル60、および第1の一対比較行列62を予め記憶している。
そして、ある管理資源2についての一次決定運用が評価部30によって決定された場合、決定部54は、これら意思決定階層モデル60、および第1の一対比較行列62を用いて、その管理資源2について対立する各資源管理の運用の中から最終決定運用を決定する。
具体的には、決定部54は、それぞれの運用の候補に係る評価項目について上記評価値演算部32によって演算された評価値と、第1の一対比較行列62における各重要度とに基づき(一般的には両者を掛け合わせ)、各運用の候補の総合評価値を算出し、最も総合評価値が高い運用(図4の例では、「防災」)を最終決定運用として実施対象に決定する。
これにより、互いに対立関係にある運用の中で、各運用間の相対的な重要度と、各評価項目の評価値とに照らして最も適切な運用が決定されることとなる。
【0042】
次いで、決定部54は、「省エネルギー」または「劣化レベル」の運用を最終決定運用として決定した場合、時刻Tにおける熱源機器nの「運転」および「停止」のいずれか(すなわち、その運用の実施内容)を、図5に示す第2の一対比較行列64を用いて決定する。
【0043】
詳述すると、「省エネルギー」の運用において実施される実施内容の候補(「運転」および「停止」)の中から、最良な省エネルギー効果が得られる実施内容が決定される。また「劣化レベル」の運用においても、その運用において実施される実施内容の候補の中から、劣化への影響が抑制されるように実施内容が決定される。
【0044】
具体的には、実施内容の候補(「運転」および「停止」)それぞれについての時間ごとの省エネルギー効果および劣化への影響は、コンピュータシミュレーションなどの適宜のコンピュータ解析によって予測可能なファクターである。
そこで、本実施形態では、「省エネルギー」および「劣化レベル」の運用ごとに、省エネルギー効果、および劣化への影響を実施内容の候補ごとに予測して一対比較にしたがって定量化することで、各運用についての第2の一対比較行列64(図5)が予め設定されている。予測には適宜の評価者による評価結果が適宜に反映されてもよい。
【0045】
決定部54は、かかる第2の一対比較行列64を予め記憶し、最終決定運用が「省エネルギー」または「劣化レベル」である場合、その運用に対応した第2の一対比較行列64と、当該運用に係る評価項目の評価値とに基づいて総合評価値を算出し、最も総合評価値が高い実施内容を決定する。
【0046】
例えば「省エネルギー」が最終決定運用である場合、図5の例では、総合評価値が高い「運転」が実施内容として決定される。
また例えば「劣化レベル」が最終決定運用である場合、図5の例では、総合評価値が高い「停止」が実施内容として決定される。
【0047】
これにより、運用において実施される実施内容の中で、各実施内容間の相対的な重要度と、各評価項目の評価値とに照らして最も適切な実施内容が決定されることとなる。
【0048】
図6は、ある空調機器mの室内機の、ある時刻Tにおける温度設定に係る運用を決定するための意思決定階層モデル60の一例を示す図である。図7は、図6の意思決定階層モデル60についての第1の一対比較行列62の一例を示す図である。また図8は、図6の意思決定階層モデル60における「省エネルギー」ついての第2の一対比較行列64の一例を示す図である。
図6の意思決定階層モデル60において、「防犯」は「セキュリティ管理」における運用を示し、その他の運用は図4と同様である。
そして、決定部54は、ある空調機器mの室内機について時刻Tにおける温度設定の運用を決定する際には、第1の一対比較行列62と、各運用に係る評価項目について上記評価値演算部32によって演算された評価値とに基づき、各運用の総合評価値を求め、最も総合評価値が高い運用を最終決定運用として決定する。
【0049】
また、「省エネルギー」に係る温度設定の運用については、図8に示すように、設定温度(実施内容)を決定するための第2の一対比較行列64がAHP法を用いて予め設定されており、決定部54は、この第2の一対比較行列64と、「省エネルギー」に係る評価項目の評価値とに基づいて総合評価値を算出し、最も総合評価値が設定温度(図8の例では、22℃)を決定する。
【0050】
図9は、ARデータを用いた一次連絡または作業指示に係る運用を決定するための意思決定階層モデル60の一例を示す図である。図10は、図9の意思決定階層モデル60についての第1の一対比較行列62の一例を示す図である。また図11は、図9の意思決定階層モデル60における「劣化レベル」についての第2の一対比較行列64の一例を示す図である。
なお、図9の意思決定階層モデル60において、「補修時期」は「機器保守メンテナンス・修繕管理」における運用を示し、その他の運用は図4図6と同様である。
図10において、「コード」は、一次連絡または作業指示に係る運用において、相手に伝えるメッセージ(連絡内容や指示内容など)ごとに予め設定された識別子である。
【0051】
決定部54は、一次連絡または作業指示に係る運用を決定する場合、第1の一対比較行列62と、各運用に係る評価項目について上記評価値演算部32によって演算された評価値とに基づき、各運用の総合評価値を求め、最も総合評価値が高い運用(図10の例では、「劣化レベル」)を最終決定運用として決定する。
また、「劣化レベル」に係る一次連絡の運用については、図11に示すように、一次連絡の内容を規定するコード(すなわち実施内容)を決定するための第2の一対比較行列64がAHP法を用いて予め設定されており、決定部54は、この第2の一対比較行列64と、「劣化レベル」に係る評価項目の評価値とに基づいて総合評価値を算出し、最も総合評価値がコード(図11の例では、「コード1」)を決定する。
【0052】
本実施形態によれば、次の効果を奏する。
【0053】
本実施形態の統合管理装置50は、複数の資源管理のいずれかにおいて運用が決定された場合、これら複数の資源管理のそれぞれで行われる運用のうち、決定された上記運用と関連する運用の中から、実施対象の運用を決定する決定部54を備える。また、決定部54は、運用間の相対的な重要度と、資源管理のそれぞれが管理に用いている評価項目であって、決定された上記運用に係る評価項目の評価結果と、に基づいて実施対象の運用を決定する。
【0054】
この構成によれば、個々の資源管理が独立して運用を決定した場合でも、決定された当該運用に関連する全ての運用の中から適切なものが実施対象の運用として決定部54によって決定される。
したがって、ユーザが適切な運用を判断する必要はなく、FMに要する労力を削減できる。
【0055】
本実施形態において、決定部54は、実施対象の運用において実施される複数の実施内容の候補の中から、これら実施内容間の相対的な重要度と、当該実施対象の運用に係る評価項目の評価結果とに基づいて、実施する実施内容を決定する。
この構成によれば、実施対象の運用についての実施内容が適切に決定されるため、ユーザが実施内容を決める必要がなく、FMに要する労力を、より一層、削減できる。
【0056】
本実施形態において、実施内容間の相対的な重要度は、機器および時刻ごとに設定されている。これにより、個々の機器の動作をコンピュータ解析し易くなるため、コンピュータ解析を用いて重要度を精度よく求めることができる。
【0057】
本実施形態において、統合管理装置50は、実施対象の運用の実施を自動実行する自動実行部56を備える。
これにより、無人による運用の実施が可能となり、FMに携わる人員のコストを低減することができる。
【0058】
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様の例示であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲において任意に変形、及び応用が可能である。
【0059】
(変形例1)
図12は、本変形例に係るFM統合管理システム100の構成を示す図である。
同図に示すように、FM統合管理システム100は、選別部90を備える点で上述した実施形態と相違する。
選別部90は、評価部30において一次決定された一次決定運用のうち、異常を伴う管理資源2についての運用を選別し、当該運用を統合管理装置50に入力するものであり、データ収集部10によって収集されたデータ(すなわち、データベース部20に蓄積されたデータ)に基づいて、機器などの管理資源2に生じている異常(電流値の異常や動作温度の異常、振動発生、異音発生など)を検知する機能と、異常を検知した管理資源2についての一次決定運用を選別し、当該一次決定運用を統合管理装置50に入力する機能と、を備えた装置である。これにより、統合管理装置50は、異常を伴う管理資源2についての運用を意思決定することになる。
なお、選別部90は、データベース部20と評価部30の間に介在し、データベース部20に蓄積されているデータの中から、異常を伴う管理資源2に関するデータのみを選別し、当該データを評価部30に入力する構成でもよい。この構成よれば、異常を伴う管理資源2に関する運用(一次決定運用)を評価部30が一次決定し、この一次決定運用が統合管理装置50に入力されるため、結果として、異常を伴う管理資源2についての運用を統合管理装置50が意思決定することになる。
【0060】
かかる選別部90を構成する装置は、CPUやMPUなどのプロセッサと、ROMやRAMなどのメモリデバイスと、HDDやSSDなどのストレージ装置と、適宜の通信ネットワークを通じて通信する通信装置と、を有し、メモリデバイスまたはストレージ装置に格納されているプログラムを実行することで各種の機能を実現するコンピュータによって構成可能である。
また、かかる装置は、建物に設置された制御盤や動力盤などの据置型の装置、あるいは、管理資源2についての各種のデータを収集する手段を搭載した巡回ロボット等の適宜の移動体等に組み込むこともことできる。制御盤は、各種の機器に電力を供給する電力供給システムと、これらの機器を自動制御する自動制御システムとを箱型の筐体に収めた装置であり、この自動制御システムに、上記選別部90の機能を有した装置を組み込むことができる。
【0061】
本変形例のFM統合管理システム100によれば、管理資源2に異常が発生した場合に、統合管理装置50が、その管理資源2に対する適切な運用を決定し、当該運用が運用部40を通じて速やかに実施可能になる。
さらに、収集された異常に関するデータに基づき、異常の原因を推定することが可能となる。
【0062】
なお、異常を伴う管理資源2の資源管理は、主に「機器保守メンテナンス・修繕管理」が該当する。しかしながら、選別部90は、異常を伴う管理資源2についての運用に限らず、所定の運用を一次決定運用の中から選別して統合管理装置50に入力し、あるいは、データベース部20の中から所定のデータを評価部30に入力することで、統合管理装置50が意思決定する運用をコントロールしてもよい。
これら所定の運用、および、所定のデータには、「機器保守メンテナンス・修繕管理」や、その他の資源管理において、管理対象の管理資源2の運用の、より効果的な実施に繋がる適宜のものを設定できる。
【0063】
(他の変形例)
例えば、統合管理装置50において、運用間の相対的な重要度に基づいて意思決定するために決定部54が用いる手法には、AHPやISMに代えて、AIやナレッジデータベースを用いた手法や、予め定められたルールにしたがって意思決定するシナリオ型決定手法といった適宜の手法を用いることができる。
また例えば、統合管理装置50において、自動実行部56は、運用を自動的に実施する際にRPAを用いて中央監視装置を自動制御する代わりに、または、当該自動制御に加えて、中央監視装置と機器と間の通信網であるバックネットに直接、制御命令を出力して機器をコントロールしてもよい。
【0064】
また例えば、図1および図2に示す機能ブロックは、本願発明を理解容易にするために、構成要素を主な処理内容に応じて分類して示した概略図であり、1つの構成要素は、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0065】
また、各構成要素の処理は、1つのハードウェアで実行されてもよいし、複数のハードウェアにより実行されてもよい。また、各構成要素の処理は、1つのプログラムで実現されてもよいし、複数のプログラムで実現されてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 FM統合管理システム
2 資源
10 データ収集部
20 データベース部
22 評価基準値
30 評価部
32 評価値演算部
34 運用一次決定部
40 運用部
50 統合管理装置(管理装置)
54 決定部
56 自動実行部
60 意思決定階層モデル
62 第1の一対比較行列
64 第2の一対比較行列
90 選別部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12