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特許7209981触覚刺激に対する幸福感の評価を補助するための方法及び触覚刺激に対する幸福感を評価するためのデータ取得方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】触覚刺激に対する幸福感の評価を補助するための方法及び触覚刺激に対する幸福感を評価するためのデータ取得方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20230116BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20230116BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20230116BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
G01N33/68
C12Q1/68
G01N33/50 G
G01N33/53 P
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021522890
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021261
(87)【国際公開番号】W WO2020241809
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2019102056
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】山口 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】関根 崇泰
(72)【発明者】
【氏名】津久井 秀
(72)【発明者】
【氏名】中塚 晋一郎
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第07/094472(WO,A1)
【文献】特表2014-503533(JP,A)
【文献】国際公開第2018/215528(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/119769(WO,A1)
【文献】特開2010-096751(JP,A)
【文献】特表平06-509418(JP,A)
【文献】特表2011-520095(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0200151(US,A1)
【文献】松永昌宏 他,主観的幸福感に着目した心身相関の新展開,心身医学,2011年,Vol.51, No.2,pp.135-140
【文献】MATSUNAGA, Masahiro et al.,Association between perceived happiness levels and peripheral circulating pro-inflammatory cytokine levels in middle-aged adults in Japan,Neuroendocrinology Letters,2011年,Vol.32, No.4,pp.458-463
【文献】松永昌宏 他,主観的幸福感と急性ストレス負荷時の免疫系の活性化との関連,心身医学,2009年,Vol.49, No.6,Page.534
【文献】JHA, Manish K. et al.,Association of T and non-T cell cytokines with anhedonia: Role of gender differences,Psychoneuroendocrinology,2018年,Vol.95,pp.1-7
【文献】CAHN, B. Rael et al.,Yoga, Meditation and Mind-Body Health: Increased BDNF, Cortisol Awakening Response, and Altered Inflammatory Marker Expression after a 3-Month Yoga and Meditation Retreat,Frontiers in Human Neuroscience,2017年,Vol.11, Article 315,pp.1-13
【文献】MATSUNAGA, Masahiro et al.,Association between salivary serotonin and the social sharing of happiness,PLoS ONE,2017年,Vol.12, No.7 : e0180391,pp.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/68
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を、前記評価対象が触覚刺激に対して幸福感を有しているか否かに関する評価を補助するための指標として提供する提供工程を含み、
前記サイトカインが、IL-9とIL-17Aとの組合せ及びIL-17Aからなる群から選択されるいずれかであり、
前記評価対象由来の試料が、唾液であることを特徴とする、評価対象が触覚刺激に対して幸福感を有しているか否か評価を補助するための方法。
【請求項2】
前記提供工程が、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量と、基準値とを比較する処理を含み、
前記基準値が、触覚刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値及び触覚刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値の少なくともいずれかであり、
前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記触覚刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値より多い場合、及び前記触覚刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値と同量以上の場合の少なくともいずれかの場合に、前記評価対象が、触覚刺激に対して幸福感を有しているとする工程である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記提供工程が、前記サイトカインの量のデータに基づいて幸福感を有しているか否かを評価することが可能な評価式に前記サイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記サイトカインの量のデータが代入される少なくとも1つの変数が含まれている請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を更に含む請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記触覚刺激が、肩甲骨の間を手の指先を使って、左右に秒速5cmの速さ、200g重の強さで撫でる触覚刺激である請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を含み、
前記サイトカインが、IL-9とIL-17Aとの組合せ及びIL-17Aからなる群から選択されるいずれかであり、
前記評価対象由来の試料が、唾液であることを特徴とする、評価対象が触覚刺激に対して幸福感を有しているか否かを評価するためのデータを取得する方法。
【請求項7】
前記触覚刺激が、肩甲骨の間を手の指先を使って、左右に秒速5cmの速さ、200g重の強さで撫でる触覚刺激である請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価対象が幸福感を有しているか否かを評価する方法、及び評価対象が幸福感を有しているか否かを評価するためのデータを取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、ヒトの感情状態を推定する方法として、例えば、カラオケ映像を編集する装置において、顔画像から、「微笑んだ」、「笑った」、「哀しい」、「驚いた」、「幸せそうな」、「ぼんやりとした」といった表情を、感性表現カテゴリに分類する方法などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、表情などの外面的な要素は意図的に変えることも可能であり、必ずしも感情状態を適切に表しているとは言えないという問題がある。
【0004】
一方、客観的な評価の手段として、バイオマーカーを用いることが考えられるが、幸福感を有しているか否か(幸福な気持ちであるか否か)を評価することができるようなバイオマーカーは、未だ発見されていない。
【0005】
なお、サイトカインについては、ストレスの表皮細胞に対する影響の評価方法において、その発現量の増減をストレス負荷の程度の指標として評価する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)ものの、サイトカインと幸福感との関係については全く知られていない。
【0006】
したがって、評価対象が幸福感を有しているか否かを高い精度で評価することができる新たな技術の速やかな提供が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-288446号公報
【文献】特開平11-341993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、評価対象が幸福感を有しているか否かを高い精度で評価することができる評価方法、及び評価対象が幸福感を有しているか否かを高い精度で評価するためのデータを取得する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、触覚刺激を受け、幸福感が得られた対象由来の試料中の特定のサイトカインの量が、前記触覚刺激を受けていない対象由来の試料中の対応するサイトカインの量と比べて有意に異なることを知見した。
【0010】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、幸福感を有しているか否かを評価する評価工程を含むことを特徴とする、評価対象が幸福感を有しているか否かを評価する方法である。
<2> 評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、評価対象が幸福感を有しているか否かを評価するためのデータを取得する方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、評価対象が幸福感を有しているか否かを高い精度で評価することができる評価方法、及び評価対象が幸福感を有しているか否かを高い精度で評価するためのデータを取得する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、実施例1において、検出限界以下であった6種類のサイトカインを除いた残りの21種類のサイトカインについて、1回目に採取した唾液に含まれる濃度平均値を示したグラフである。なお、「実線」は触覚刺激あり群、「点線」は触覚刺激なし群から採取した唾液に含まれるサイトカイン濃度平均値を示す。
図1B図1Bは、実施例1において、検出限界以下であった6種類のサイトカインを除いた残りの21種類のサイトカインについて、2回目に採取した唾液に含まれる濃度平均値を示したグラフである。なお、「実線」は触覚刺激あり群、「点線」は触覚刺激なし群から採取した唾液に含まれるサイトカイン濃度平均値を示す。
図1C図1Cは、実施例1において、検出限界以下であった6種類のサイトカインを除いた残りの21種類のサイトカインについて、3回目に採取した唾液に含まれる濃度平均値を示したグラフである。なお、「実線」は触覚刺激あり群、「点線」は触覚刺激なし群から採取した唾液に含まれるサイトカイン濃度平均値を示す。
図1D図1Dは、実施例1において、検出限界以下であった6種類のサイトカインを除いた残りの21種類のサイトカインについて、4回目に採取した唾液に含まれる濃度平均値を示したグラフである。なお、「実線」は触覚刺激あり群、「点線」は触覚刺激なし群から採取した唾液に含まれるサイトカイン濃度平均値を示す。
図2A図2Aは、幸福度平均値を示すグラフである。
図2B図2Bは、覚醒度平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(幸福感の評価方法)
本発明の評価対象が幸福感を有しているか否かを評価する方法(以下、「幸福感の評価方法」と称することがある。)は、評価工程を少なくとも含み、必要に応じて更に、測定工程等のその他の工程を含む。
本発明において、幸福感とは、何らかの刺激によって生じる覚醒度の高い幸福感のことをいう。
【0014】
<評価工程>
前記幸福感の評価方法における評価工程は、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量(以下、「濃度」と称することもある。)を指標として、前記評価対象が、幸福感を有しているか否か(「幸福な気持ちであるか否か」と称することもある。)を評価する工程である。
本発明において、前記幸福感を有しているか否かには、幸福感の程度も含まれる。
【0015】
前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量は、後述する測定工程で測定されたものであってもよいし、別途測定されたものであってもよい。
前記サイトカインの量のデータの単位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、モル濃度、重量濃度、これらの濃度に任意の定数を加減乗除することで得られるものなどが挙げられる。
【0016】
-評価対象-
前記評価対象としては、幸福感を有しているか否かの評価が求められる対象であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記評価対象の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ヒトであってもよいし、ヒト以外の動物であってもよい。
前記評価対象の性別としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、男であってもよいし、女であってもよい。
前記評価対象の年齢としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0017】
-評価対象由来の試料-
前記評価対象由来の試料としては、特に制限はなく、評価対象から採取された細胞、組織、又はその一部等を含む試料を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、血液、血清、脳脊髄液、唾液、咽頭ぬぐい液、汗、尿、涙、リンパ液、精液、腹水、母乳などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、血液、唾液、汗、尿が好ましく、非侵襲的に得ることができる点で、唾液、汗、尿がより好ましく、唾液が特に好ましい。
【0018】
前記試料の調製方法(以下、「採取方法」と称することもある。)としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
例えば、前記試料が血液の場合は、例えば、通常のシリンジを用いて採血する方法などが挙げられる。
また、前記試料が、唾液の場合は、例えば、唾液を直接採取する方法、サリベットや市販の採取用器具を用いる方法などが挙げられる。
【0019】
前記評価対象由来の試料の採取時期(以下、「採取時間帯」と称することもある。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、評価工程において比較する対象から試料を採取した時期と同程度の時期とすることが好ましい。特に、前記試料が唾液の場合には、唾液中に含まれるサイトカインの量の日内変動が大きいことがあるため、一日のうち一定の時間帯に行うことが好ましい。
【0020】
前記評価対象由来の試料は、必要に応じて、希釈などの処理が施されてもよい。
【0021】
-サイトカイン-
前記サイトカインは、細胞シグナリングにおいて重要な役割を果たす、比較的小型のタンパク質(およそ5~20kDa)の総称である。
前記評価工程に用いるサイトカインとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インターロイキン;リンフォカイン;RANTES(regulated on activation、normal T cell expressed and secreted)等のケモカイン;インターフェロン;コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、エリスロポエチン(EPO)等の造血因子;上皮成長因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、肝細胞成長因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)等の細胞増殖因子;腫瘍壊死因子(TNF-α)、リンフォトキシン(TNF-β)等の細胞障害因子;レプチン、TNF-α等のアディポカイン;神経成長因子(NGF)等の神経栄養因子などが挙げられる。
【0022】
前記サイトカインは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記サイトカインの中でも、より評価の精度を高めることができる点で、インターロイキン-1受容体アンタゴニストタンパク質(IL-1ra)、インターロイキン-1β(IL-1β)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-12 p70(IL-12 p70)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-17A(IL-17A)、エオタキシン(Eotaxin)、FGF-2、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、TNF-α、インターフェロン誘導タンパク質10(IP-10)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症性タンパク質1α(MIP-1α)、マクロファージ炎症性タンパク質1β(MIP-1β)、血小板由来増殖因子(PDGF-BB)、RANTES、及び血管内皮増殖因子(VEGF)からなる群から選択される1種以上が好ましく、IL-1ra、IL-1β、IL-2、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12 p70、IL-17A、エオタキシン、FGF-2、G-CSF、IFN-γ、TNF-α、IP-10、MCP-1、MIP-1α、MIP-1β、RANTES、及びVEGFからなる群から選択される1種以上がより好ましく、IL-2、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12 p70、IL-17A、エオタキシン、FGF-2、TNF-α、MCP-1、MIP-1α、MIP-1β、RANTES、及びVEGFからなる群から選択される1種以上が更に好ましく、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12 p70、IL-17A、FGF-2、MCP-1、MIP-1α、MIP-1β、及びVEGFからなる群から選択される1種以上が更により好ましく、IL-9とIL-17Aとの組合せ及びIL-17Aからなる群から選択されるいずれかが特に好ましい。
【0024】
-評価-
前記評価の方法としては、評価対象が、幸福感を有しているか否かを評価することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
例えば、前記評価の方法の一例としては、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量と、基準値とを比較する処理を含む方法が挙げられる。
【0026】
前記基準値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(I)刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量(以下、「幸福感なし値」と称することがある。)に基づく値、(II)刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量(以下、「幸福感あり値」と称することがある。)に基づく値などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記刺激としては、幸福感を得られることが確認されている刺激であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、視覚刺激、聴覚刺激、触覚刺激、味覚刺激、嗅覚刺激などが挙げられる。
具体例としては、後述する実施例の項目に記載したような、肩甲骨の間を手の指先を使って、左右に秒速5cmの速さ、200g重の強さで撫でる触覚刺激などが挙げられる。
【0028】
前記基準値に用いる刺激を受けていない対象又は前記刺激を受けた対象は、前記評価対象と同一であってもよいし、異なる対象であってもよい。前記基準値に用いる対象が前記評価対象と異なる対象である場合は、前記評価対象と同一種類の個体であって、年齢が近しい個体が好ましい。
【0029】
前記基準値は、本明細書に記載の事項から、例えば、以下のようにして当業者は容易に決定することができる。
【0030】
前記(I)幸福感なし値に基づく値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記幸福感なし値を参考に、前記幸福感なし値と同じ値又は前記幸福感なし値に近い値に設定するなどが挙げられる。
【0031】
前記(II)幸福感あり値に基づく値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記幸福感あり値を参考に、前記幸福感あり値と同じ値又は前記幸福感あり値に近い値に設定するなどが挙げられる。
【0032】
前記処理では、前記基準値が(I)幸福感なし値に基づく値の場合には、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記幸福感なし値に基づく値より多い場合に、評価対象が、幸福感を有していると評価することができる。
【0033】
また、前記基準値が(II)幸福感あり値に基づく値の場合には、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記幸福感あり値に基づく値と同量以上の場合に、評価対象が、幸福感を有していると評価することができる。
【0034】
前記評価工程において、例えば、「サイトカインの濃度が高い(サイトカインの量が多い)」ということは、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの濃度が、前記基準値(例えば、刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの濃度に基づく値)を上回るか否かによって判断することができ、「サイトカインの濃度が低い(サイトカインの量が少ない)」ということは、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの濃度が、前記基準値を下回るか否かによって判断することができる。
【0035】
前記基準値は、前記幸福感の評価方法を実施する際に併せて測定した試料におけるサイトカインの量に基づいて設定したものを用いてもよいし、既に測定された試料におけるサイトカインの量に基づいて設定したものを用いてもよい。
【0036】
--評価式--
また、前記評価の方法としては、幸福感を有しているか否かを評価することが可能な評価式を用いる方法も挙げられる。
【0037】
例えば、前記サイトカインの量のデータに基づいて、幸福感を有しているか否かを評価することが可能な評価式に前記サイトカインの量のデータを代入して、前記評価対象が、幸福感を有しているか否かを評価する方法が挙げられる。
ここで、前記評価式には、前記サイトカインの量のデータ(以下、「サイトカインの濃度値」と称することもある。)が代入される変数が含まれている。
前記変数の数としては、少なくとも1つあれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、より評価の精度を高めることができる点で、少なくとも2つが好ましい。即ち、前記サイトカインから選択される2種以上のサイトカインの量のデータに基づいて幸福感を有しているか否かを評価することが可能な評価式に、前記サイトカインから選択される2種以上のサイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記サイトカインから選択される2種以上の物質の量のデータが代入される少なくとも2つの変数が含まれていることが好ましい。
前記サイトカインから選択される2種以上のサイトカインの態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
前記評価式としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロジスティック回帰式、分数式、線形判別式、重回帰式、サポートベクターマシンで作成された式、マハラノビス距離法で作成された式、正準判別分析で作成された式、決定木で作成された式などが挙げられる。これにより、幸福感を知る上で参考となり得る情報の更なる信頼性向上を実現することができる。
【0039】
また、評価式として採用する式とは、一般に多変量解析で用いられる式の形式を意味するものであり、例えば、分数式、重回帰式、多重ロジスティック回帰式、線形判別関数、マハラノビス距離、正準判別関数、サポートベクターマシン、決定木、異なる形式の式の和で示されるような式などが挙げられる。ここで、重回帰式、多重ロジスティック回帰式、正準判別関数においては各変数に係数及び定数項が付加されるが、この係数及び定数項は、好ましくは実数であれば構わず、より好ましくは、データから前記の各種分類を行うために得られた係数及び定数項の99%信頼区間の範囲に属する値であれば構わず、さらに好ましくは、データから前記の各種分類を行うために得られた係数及び定数項の95%信頼区間の範囲に属する値であれば構わない。また、各係数の値及びその信頼区間は、それを実数倍したものでもよく、定数項の値及びその信頼区間は、それに任意の実定数を加減乗除したものでもよい。ロジスティック回帰、線形判別、重回帰分析などの表示式を評価式として用いる場合、表示式の線形変換(定数の加算、定数倍)及び単調増加(減少)の変換(例えばlogit変換など)は評価性能を変えるものではなく変換前と同等であるので、この表示式には、これらの変換が行われた後のものも含まれる。
【0040】
例えば、算出式としては、2種のサイトカインの濃度データを用いて評価する場合は(サイトカインAの濃度)+(サイトカインBの濃度)という式などが挙げられる。これによれば、幸福感を有しているか否かの評価を具体的な数値として定量化することができる。また、前もって、様々なサイトカインと幸福感との相関を調べて得られた結果に基づき、サイトカインの種類ごとに重みづけを行ってもよい。さらには、(評価対象の各サイトカインの濃度データの値)/(刺激を受けていない対象の各サイトカインの濃度データの平均値)を用いて(あるいは、その値に一定の重みづけをして)加算した値によって評価を行ってもよい。また、年齢、性別、人種などによって、サイトカイン濃度の値を補正してもよい。これらの補正の程度や補正の有無は、サイトカインの種類によって変更してもよい。以上のようにして得られた評価の値を一般的な人の値(例えば日本人の平均値)と比較をして、その倍率によって幸福感を有しているか否かを評価してもよい。
【0041】
前記評価式を用いる方法における前記サイトカインとしては、上記した-サイトカイン-の項目に記載したものと同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
また、前記サイトカインを抽出するにあたり、例えば、ROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve;受信者動作特性曲線)のAUC(Area Under the Curve)などを用いることができる。なお、本発明においては、例えば、変数減少法によってAUCが最大となるサイトカイン、又はサイトカインの組合せを求めることができる。
【0042】
<その他の工程>
前記幸福感の評価方法におけるその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、測定工程、試料調製工程などが挙げられる。
【0043】
<<測定工程>>
前記幸福感の評価方法における測定工程は、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する工程である。
【0044】
前記測定工程における試料及びサイトカインは、上記した<評価工程>の項目に記載したものと同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
前記測定工程は、前記サイトカイン以外の物質の量の測定と組み合わせて行ってもよい。
【0045】
-測定-
前記試料における前記サイトカインの量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、タンパク質の量を測定する方法、mRNAの量を測定する方法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお、前記サイトカインのアミノ酸配列や塩基配列は、GenBank(NCBI)などの公共データベースを通じて容易に入手することができる。
【0046】
前記サイトカインのタンパク質の量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、前記サイトカインを特異的に認識する抗体を用いて、免疫学的手法により測定する方法などが挙げられる。
【0047】
前記免疫学的手法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、抗体アレイ、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ドットブロット法、免疫核酸アッセイ法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが挙げられる。
【0048】
前記ELISA法の具体例としては、マイクロプレートに標的サイトカインを固相化し、標識した当該サイトカインを認識する抗体を作用させる直接法、抗サイトカイン抗体を認識する標識二次抗体を用いる間接法、抗サイトカイン抗体を固相化し、さらに標識した抗サイトカイン抗体を用いるサンドイッチ法、抗サイトカイン抗体を固相化し、目的タンパク質および濃度があらかじめ分かっている酵素標識抗原を、同一マイクロプレート内で同時に反応させる競合法などが挙げられる。
【0049】
前記mRNAの量を測定する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、PCR法、リアルタイムPCR法、DNAアレイ法、ノーザンブロット法などが挙げられる。
【0050】
前記試料における前記サイトカインの量は、市販されているサイトカイン量の測定キットを使用して測定することもできる。
【0051】
<<試料調製工程>>
前記幸福感の評価方法における試料調製工程は、前記評価対象由来の試料を調製する工程であり、前記試料の種類に応じて、公知の方法を適宜選択することができる。
【0052】
本発明の幸福感の評価方法は、問診等の他の手段による評価と組み合わせて行うこともできる。
【0053】
本発明の幸福感の評価方法によれば、評価対象由来の試料における前記サイトカインの量を指標とすることで、前記評価対象が幸福感を有しているか否かを高い精度で評価することができる。
【0054】
また、後述する実施例の項目に記載したように、当該実施例において触覚刺激を受けた個体はサイトカインの量が触覚刺激を受けることで変動しており、前記触覚刺激により、心地良さも感じていた。
したがって、本発明は、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、心地良さを感じているか否かを評価する評価工程を含み、必要に応じて更に前記その他の工程を含む、評価対象が心地良さを感じているか否かを評価する方法(以下、「心地良さの評価方法」と称することがある。)にも関する。
前記心地良さの評価方法は、本発明の幸福感の評価方法と同様にして行うことができる。
【0055】
また、後述する実施例の項目に記載したように、当該実施例において触覚刺激を受けた個体はサイトカインの量が触覚刺激を受けることで変動しており、前記触覚刺激により、覚醒状態が変化していた。
したがって、本発明は、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、覚醒状態を評価する評価工程を含み、必要に応じて更に前記その他の工程を含む、評価対象の覚醒状態を評価する方法(以下、「覚醒状態の評価方法」と称することがある。)にも関する。
前記覚醒状態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エネルギー覚醒の状態が高いか否か、緊張覚醒の状態が低いか否かなどが挙げられる。
前記覚醒状態の評価方法は、本発明の幸福感の評価方法と同様にして行うことができる。
【0056】
また、本発明は、評価対象が幸福感を有しているか否か評価するため、評価対象が心地良さを感じているか否かを評価するため、又は評価対象の覚醒状態を評価するためのバイオマーカーであって、サイトカインからなるバイオマーカーにも関する。
【0057】
(評価用データ取得方法)
本発明の評価対象が幸福感を有しているか否かを評価するためのデータを取得する方法(以下、「評価用データ取得方法」と称することがある。)は、測定工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0058】
<測定工程>
前記評価用データ取得方法における測定工程は、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する工程であり、上記した本発明の(幸福感の評価方法)の<その他の工程>の項目に記載した<<測定工程>>と同様にして行うことができ、好ましい態様も同様とすることができる。
【0059】
<その他の工程>
前記評価用データ取得方法におけるその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、試料調製工程などが挙げられる。
【0060】
<<試料調製工程>>
前記評価用データ取得方法における試料調製工程は、前記評価対象由来の試料を調製する工程であり、上記した本発明の(幸福感の評価方法)の<その他の工程>の項目に記載した<<試料調製工程>>と同様にして行うことができる。
【0061】
前記評価用データ取得方法は、前記サイトカイン以外の物質の量の測定と組み合わせて行ってもよい。
【0062】
本発明の評価用データ取得方法によれば、評価対象が幸福感を有しているか否かを高い精度で評価するために有用なデータを収集することができる。
【0063】
また、本発明は、上述したように、「心地良さの評価方法」、又は「覚醒状態の評価方法」にも関するものでもあることから、本発明は、「評価対象が心地良さを感じているか否かを評価するためのデータを取得する方法」、又は「評価対象の覚醒状態を評価するためのデータを取得する方法」にも関する。
前記「評価対象が心地良さを感じているか否かを評価するためのデータを取得する方法」、又は「評価対象の覚醒状態を評価するためのデータを取得する方法」は、前記評価対象が幸福感を有しているか否かを評価するためのデータを取得する方法と同様にして行うことができる。
【0064】
(幸福感の評価用キット)
上記したように、本発明の幸福感の評価方法によれば、評価対象由来の試料における前記サイトカインの量を指標とすることで、前記評価対象が幸福感を有しているか否かを高い精度で評価することができるので、本発明は、評価対象が幸福感を有しているか否かの評価用キット(以下、「幸福感の評価用キット」と称することがある。)にも関する。
【0065】
前記幸福感の評価用キットは、サイトカイン検出手段を少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の構成を含む。
【0066】
<サイトカイン検出手段>
前記サイトカイン検出手段としては、前記試料における目的のサイトカインを検出することができる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記サイトカインを免疫学的に検出するために、前記サイトカインに対する抗体を固定した検出器具が含まれることが好ましい。
【0067】
前記サイトカインとしては、本発明の幸福感の評価方法における<評価工程>の-サイトカイン-の項目に記載したものと同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0068】
前記サイトカインに対する抗体を固定する対象としては、固体又は不溶性材料である担体であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、濾過、沈殿、磁性分離などにより反応混合物から分離することができる担体などが挙げられる。
【0069】
前記担体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビーズ、磁性ビーズ、薄膜、微細管、フィルター、プレート、マイクロプレート、カーボンナノチューブ、センサーチップなどが挙げられる。前記薄膜やプレート等の平坦な担体は、ピット、溝、フィルター底部などを設けてもよい。
【0070】
<その他の構成>
前記その他の構成としては、特に制限はなく、公知の診断用キットなどに含まれる構成を目的に応じて適宜選択することができ、例えば、免疫学的測定法に用いる試薬、キットの取扱説明書などが挙げられる。
【0071】
前記幸福感の評価用キットによれば、評価対象が幸福感を有しているか否かを高い精度で評価することができる。
【0072】
また、本発明は、上述したように、「心地良さの評価方法」、又は「覚醒状態の評価方法」にも関するものであることから、本発明は、「心地良さの評価用キット」、又は「覚醒状態の評価用キット」にも関する。
前記「心地良さの評価用キット」、又は「覚醒状態の評価用キット」は、前記幸福感の評価用キットと同様の構成とすることができる。
【0073】
(刺激のスクリーニング方法)
後述する実施例の項目に記載のように、刺激を付与された対象では、幸福感、特に、覚醒度が高い幸福感が得られ、また、心地良さを感じ、更に、覚醒状態が変化していた。
したがって、本発明は、対象に幸福感を付与する刺激、対象に心地良さを付与する刺激、及び対象の覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激のスクリーニング方法にも関する。
前記覚醒状態を変化させる刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エネルギー覚醒の状態を高める刺激、緊張覚醒の状態を低くする刺激などが挙げられる。
【0074】
前記刺激のスクリーニング方法は、評価工程を少なくとも含み、必要に応じて更に、刺激付与工程、測定工程等のその他の工程を含む。
【0075】
<評価工程>
前記刺激のスクリーニング方法における評価工程は、刺激を付与された対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、前記刺激が、幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを評価する工程である。
本発明において、前記刺激に該当するか否かには、幸福感の程度、心地良さの程度、及び覚醒状態の程度も含まれる。
【0076】
-刺激-
前記刺激としては、前記幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを評価したい刺激であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、視覚刺激、聴覚刺激、触覚刺激、味覚刺激、嗅覚刺激などが挙げられる。
【0077】
前記対象への刺激の付与は、後述する刺激付与工程で行われたものであってもよいし、別途行われたものであってもよい。
【0078】
前記刺激を付与された対象由来の試料におけるサイトカインの量は、後述する測定工程で測定されたものであってもよいし、別途測定されたものであってもよい。
前記サイトカインの量のデータの単位としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、モル濃度、重量濃度、これらの濃度に任意の定数を加減乗除することで得られるものなどが挙げられる。
【0079】
-対象-
前記刺激を付与する対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述の(幸福感の評価方法)の-評価対象-の項目に記載のものと同様とすることができ、好ましい態様も同様とすることができる。
【0080】
-対象由来の試料-
前記刺激を付与された対象由来の試料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述の(幸福感の評価方法)の-評価対象由来の試料-の項目に記載のものと同様とすることができ、好ましい態様も同様とすることができる。
【0081】
-サイトカイン-
前記サイトカインとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述の(幸福感の評価方法)の-サイトカイン-の項目に記載のものと同様とすることができ、好ましい態様も同様とすることができる。
【0082】
-評価-
前記評価の方法としては、前記刺激が、幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを評価することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述の(幸福感の評価方法)の-評価-の項目に記載のものと同様とすることができ、好ましい態様も同様とすることができる。
【0083】
例えば、前記評価の方法の一例としては、前記対象由来の試料におけるサイトカインの量と、参照値とを比較する処理を含む方法が挙げられる。
【0084】
前記参照値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(i)刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値、(ii)幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記参照値は、本明細書に記載の事項から、例えば、以下のようにして当業者は容易に決定することができる。
【0085】
前記参照値に用いる刺激を受けていない対象又は前記刺激を受けた対象は、前記対象と同一であってもよいし、異なる対象であってもよい。前記参照値に用いる対象が前記対象と異なる場合は、前記対象と同一種類の個体であって、年齢が近しい個体が好ましい。
【0086】
前記(i)刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記(i)刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量を参考に、前記(i)刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量と同じ値又は前記(i)刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に近い値に設定するなどが挙げられる。
【0087】
前記(ii)幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記(ii)幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量を参考に、前記(ii)幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量と同じ値又は前記(ii)幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に近い値に設定するなどが挙げられる。
【0088】
前記処理では、前記参照値が(i)刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値の場合には、前記対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記(i)刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値より多い場合に、前記刺激が、幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当すると評価することができる。
【0089】
また、前記参照値が(ii)幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値の場合には、前記対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記(ii)幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値と同量以上の場合に、前記刺激が、幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当すると評価することができる。
【0090】
前記幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、後述する実施例の項目に記載したような、肩甲骨の間を手の指先を使って、左右に秒速5cmの速さ、200g重の強さで撫でる触覚刺激などが挙げられる。
【0091】
前記評価工程において、例えば、「サイトカインの濃度が高い(サイトカインの量が多い)」ということは、前記対象由来の試料におけるサイトカインの濃度が、前記参照値を上回るか否かによって判断することができ、「サイトカインの濃度が低い(サイトカインの量が少ない)」ということは、前記対象由来の試料におけるサイトカインの濃度が、前記参照値を下回るか否かによって判断することができる。
【0092】
前記参照値は、前記スクリーニング方法を実施する際に併せて測定した試料におけるサイトカインの量に基づいて設定したものを用いてもよいし、既に測定された試料におけるサイトカインの量に基づいて設定したものを用いてもよい。
【0093】
また、前記評価の方法としては、刺激が、幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを評価することが可能な評価式を用いる方法も挙げられ、上述の(幸福感の評価方法)の--評価式--の項目に記載のものと同様にして行うことができ、好ましい態様も同様とすることができる。
【0094】
<その他の工程>
前記スクリーニング方法におけるその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、刺激付与工程、測定工程、試料調製工程などが挙げられる。
【0095】
<<刺激付与工程>>
前記スクリーニング方法における刺激付与工程は、前記対象に前記刺激を付与する工程である。
前記刺激としては、上述の-刺激-の項目に記載したものなどが挙げられる。前記刺激の付与方法としては、評価する刺激に応じて適宜選択することができる。
【0096】
<<測定工程>>
前記スクリーニング方法における測定工程は、前記対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する工程であり、上述の(幸福感の評価方法)の<<測定工程>>の項目に記載のものと同様にして行うことができ、好ましい態様も同様とすることができる。
【0097】
<<試料調製工程>>
前記スクリーニング方法における試料調製工程は、前記対象由来の試料を調製する工程であり、上述の(幸福感の評価方法)の<<試料調製工程>>の項目に記載のものと同様にして行うことができ、好ましい態様も同様とすることができる。
【0098】
本発明のスクリーニング方法は、問診等の他の手段による評価と組み合わせて行うこともできる。
【0099】
本発明のスクリーニング方法によれば、前記対象由来の試料における前記サイトカインの量を指標とすることで、対象に幸福感を付与する刺激、対象に心地良さを付与する刺激、及び対象の覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激をスクリーニングすることができる。
【0100】
(刺激の評価用データの取得方法)
本発明は、刺激が、幸福感を付与する刺激、対象に心地良さを付与する刺激、及び対象の覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを評価するためのデータを取得する方法(以下、「刺激の評価用データの取得方法」と称することがある。)にも関する。
【0101】
前記刺激の評価用データの取得方法は、測定工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0102】
<測定工程>
前記刺激の評価用データの取得方法における測定工程は、対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する工程であり、上述の(刺激のスクリーニング方法)の<<測定工程>>の項目に記載のものと同様にして行うことができ、好ましい態様も同様とすることができる。
【0103】
<その他の工程>
前記刺激の評価用データの取得方法におけるその他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、試料調製工程などが挙げられる。
【0104】
<<試料調製工程>>
前記刺激の評価用データの取得方法における試料調製工程は、前記対象由来の試料を調製する工程であり、上述の(刺激のスクリーニング方法)の<その他の工程>の項目に記載した<<試料調製工程>>と同様にして行うことができる。
【0105】
前記刺激の評価用データの取得方法は、前記サイトカイン以外の物質の量の測定と組み合わせて行ってもよい。
【0106】
前記刺激の評価用データの取得方法によれば、刺激が、幸福感を付与する刺激、対象に心地良さを付与する刺激、及び対象の覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを高い精度で評価するために有用なデータを収集することができる。
【実施例
【0107】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0108】
(実施例1)
以下のようにして、女性被検者を対象に、女性施術者が自身の手を用いて触覚刺激を呈示した場合と、触覚刺激を呈示しない場合の2条件において、唾液検体を採取し、唾液中のサイトカイン濃度についてロジスティックモデルを作成した。
【0109】
<実験>
-被検者-
下記の条件を満たす40名を対象とした。
(1) 性別 : 女性。
(2) 年齢 : 33歳~37歳(平均年齢:34.68±1.37歳)。
(3) 婚姻状況 : 独身、子どもなし。
(4) 職業 : デスクワークをメインとする事務員等で、年収300万円以上。
(5) 居住地 : 首都圏。
(6) 既往歴 : 精神疾患の通院歴がない、かつ直近3ヶ月でステロイド及び経口避妊薬を使用していない。
(7) 見ず知らずの他人から背中を撫でられても不快に感じない。
【0110】
-施術者-
施術者として、親しみやすい外見の女性7名(平均年齢:36.0±3.11歳)を採用した。なお、被検者には、予め施術者の写真を見せ、被検者が不快感を覚える施術者はいないことを確認した。施術者は、全員触覚刺激未経験者である。
【0111】
-実験工程-
実験は、同一人物に「触覚刺激あり」条件と「触覚刺激なし」条件の2通りを行った。具体的な実験工程は、以下の通りとした。各条件は、別日に実施した。両条件で、唾液採取は全4回行った。
4回の唾液採取の直前には毎回、「JUMACL(日本語版UWIST気分チェックリスト)」と「気分評定」の2種類の質問紙で「気分評定」を行った。また、実験終了時に「事後調査」で施術者や触覚刺激について簡単な質問を行った。
なお、下記(2)の後、実験終了までの間、被検者は読書を行った。
(1) 気分評定(1回目)を5分間行う。
(2) 前記(1)の後に、唾液採取(1回目)を行う。
(3) 前記(2)の後に、「触覚刺激あり」又は「触覚刺激なし」を15分間行う。
(4) 前記(3)の後に、気分評定(2回目)を5分間行う。
(5) 前記(4)の後に、唾液採取(2回目:前記(3)の開始から20分間後)を行う。
(6) 気分評定(3回目)を下記(7)唾液採取(3回目)前の5分間で行う。
(7) 前記(3)の開始から40分間後に、唾液採取(3回目)を行う。
(8) 気分評定(4回目)を下記(9)唾液採取(4回目)の前の5分間で行う。
(9) 前記(3)の開始から60分間後に、唾液採取(4回目)を行う。
(10) 事後調査を行う。
【0112】
--触覚刺激方法--
被検者は、Tシャツに着替えて実験に参加した。被検者・施術者はともに座った状態で、施術者が被験者のTシャツの上から背中の上部を手で撫でた。撫で方は、肩甲骨の間を手の指先を使って、左右に秒速5cmの速さ、200g重の強さで行った。被検者に気持ち良さが感じられない場合、適宜、撫で方について希望を施術者に伝えるようにした。刺激の際に撫でる速さを秒速5cmにするため、Tシャツの上にメジャーテープを貼り、時計を見ながら一定速度でなでた。
実験は1つの部屋で行い、パーテーションで区切った空間で5名同時に行った。実験は、室温27℃、湿度40%の無音空間で行った。
【0113】
--分析検体の選定方法--
分析検体は、各条件で、1回目の唾液採取前に行った潜血試験結果をもとに選定した。潜血試験は、ペリオスクリーン「サンスター」(サンスター株式会社)を用いて行った。分析検体は、「触覚刺激あり」・「触覚刺激なし」の各条件において、最も潜血濃度が高かった検体を除外した312検体とした。
【0114】
--サイトカインの分析--
サイトカイン分析装置、サイトカイン分析キット、分析を行ったサイトカインの種類、及び分析方法の詳細を以下に示す。
・ サイトカイン分析装置 : Bio-Plex(バイオ・ラッドラボラトリーズ(株))
・ サイトカイン分析キット :
Bio-Plex Pro Human Cytokine 27 plex Kit(バイオ・ラッドラボラトリーズ(株))(8個)
・ 分析を行ったサイトカインの種類 :
IL-1ra、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12 p70、IL-13、IL-15、IL-17A、Eotaxin、FGF-2、G-CSF、GM-CSF、IFN-γ、TNF-α、IP-10、MCP-1、MIP-1α、MIP-1β、PDGF-BB、RANTES、VEGF
・ 検査方法 :
(I)唾液からの測定サンプルの採取方法
i) 採取カップ(日本メディカル:型番MS-50)を2つ用意し、IDを記入する(2つの採取カップのIDは同一とする)。
ii) 採取カップに採取量 200μLのラインを入れる。
iii) 2つのカップに必要量(およそ200μL)の唾液を入れ、冷所に保管し、検体収集機関に郵送後、-80℃で凍結保存する。
以上のようにして採取したサンプルについて、上記した分析装置及び分析キットを用いて27種類のサイトカインの濃度を測定した。
【0115】
なお、サイトカインの測定濃度値が検出限界より低い場合、LOD値(Limit of Detection;ブランクの濃度に、ブランク間で観測される濃度揺らぎを加えた濃度のことで、ブランクから求められる測定下限値を意味し、算出式はブランクの値+2×ブランクのSD値)が算出可能な場合に限り、LOD/2値を測定値として代用した。適用条件としては、LOD/2値が、サンプル濃度、LLOQ(標準液の低濃度域)の測定下限値よりも低値である場合のみ適用とした。また、LOD/2値よりLLOQ値が低値であった場合は、LLOQ/2値を測定値として用いた。
LOD値は、8個のスタンダード濃度の実測値から求めたスタンダードカーブ回帰式の係数を用いて算出した。ただし、LOD/2値がスタンダードの最も薄い濃度値(S8)よりも高い場合は、S8濃度値/2を測定値として代用した。
【0116】
<結果:サイトカイン濃度>
触覚刺激なし群において採取した唾液中のサイトカイン濃度の項目別平均値結果を表1-1、触覚刺激あり群において採取した唾液中のサイトカイン濃度の項目別平均値結果を表1-2に示した。なお、検出限界以下であった6項目のサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13、IL-15、GM-CSF、PDGF-BB)は、表中には記載していない。
【0117】
【表1-1】
【0118】
なお、表1-1中の「LOD数」は、触覚刺激なし群の全検体156検体のうち、サイトカイン濃度が検出限界以下で、かつ、LOD値が算出された検体数を示す。
【0119】
【表1-2】
【0120】
なお、表1-2中の「LOD数」は、触覚刺激あり群の全検体156検体のうち、サイトカイン濃度が検出限界以下で、かつ、LOD値が算出された検体数を示す。
【0121】
触覚刺激あり群において採取した唾液中のサイトカインの濃度は、刺激後、多数のサイトカインに変化が認められた。
【0122】
また、触覚刺激なし群において採取した唾液中のサイトカインの濃度と、触覚刺激あり群において採取した唾液中のサイトカインの濃度とを比較した。図1Aから1Dに、唾液採取時期ごとのサイトカイン濃度比較図を示した。
図1Aから1D中、「実線」は触覚刺激あり群、「点線」は触覚刺激なし群におけるサイトカインの濃度を示す。図1Aは1回目の唾液採取(刺激前、0分後)、図1Bは2回目の唾液採取(20分後)、図1Cは3回目の唾液採取(40分後)、図1Dは4回目の唾液採取(60分後)の結果を示す。
【0123】
<統計解析>
触覚刺激によって変化するサイトカインを特定し、モデル化するため、統計解析を行った。
[変数と量]
1)サイトカイン群27項目:
IL-1ra、IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12 p70、IL-13、IL-15、IL-17A、Eotaxin、FGF-2、G-CSF、GM-CSF、IFN-γ、TNF-α、IP-10、MCP-1、MIP-1α、MIP-1β、PDGF-BB、RANTES、VEGF
2)触覚刺激の有無(2カテゴリ)
3)経過時間:
触覚刺激あり群 ・・・ 刺激前、刺激20分後、刺激40分後、刺激60分後(4カテゴリ)
触覚刺激なし群 ・・・ 0分後、20分後、40分後、60分後(4カテゴリ)
【0124】
<<解析ステップ1:使用データの調整>>
濃度範囲が異なるサイトカイン群同士を比較できるデータを作成するために以下の作業を行った。
-使用したデータの選定-
分析した27種類のサイトカインのうち、検出限界以下であった6項目のサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-13、IL-15、GM-CSF、PDGF-BB)を除き、使用データとして、21項目のサイトカイン(IL-1ra、IL-1β、IL-2、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12 p70、IL-17A、Eotaxin、FGF-2、G-CSF、IFN-γ、TNF-α、IP-10、MCP-1、MIP-1α、MIP-1β、RANTES、VEGF)を選定した。
【0125】
-データの整理・調整-
サイトカインの分布に偏りが観察されたため、サイトカイン21項目を対数変換し、サイトカイン濃度のヒストグラムで正規性を確認した。
また、サイトカイン21項目で、最大で3桁の濃度差があったため、サイトカイン濃度を、サイトカイン21項目全てについて標準正規分布([X-平均]÷標準偏差)に変換した。
以後の統計解析では、対数変換し、かつ標準正規分布変換したデータを用いた。
【0126】
<<解析ステップ2:有意差検定>>
前記<<解析ステップ1>>において選定したサイトカイン21項目について、触覚刺激あり・なしの2条件において、「触覚刺激あり」のみでサイトカイン濃度が有意に変化している項目の抽出を以下のようにして行った。
【0127】
-ウィルコクソン検定(符号付順位検定)-
実験開始直後と、触覚刺激後又は触覚刺激せずに時間をおいた場合の2群間でサイトカイン濃度の有意差を検定した。
「触覚刺激あり」群のみでサイトカイン濃度が有意(有意確率p<0.05)に変化していた項目は、以下の通りであった。また、表2-1~2-2に各p値を示した。
[触覚刺激前-触覚刺激20分後]
IL-17A、IL-7、Eotaxin、MIP-1β、TNF-α、RANTES、MIP-1α、IL-9、IL-6、IL-10、VEGF、IL-12 p70、及びMCP-1の13項目(いずれのサイトカインも、「触覚刺激20分後」の濃度が「触覚刺激前」の濃度より有意に高かった。)
[触覚刺激前-触覚刺激60分後]
IL-17A、FGF-2、MIP-1β、IL-7、IL-2、MIP-1α、IL-9、IL-8、IL-10、Eotaxin、及びVEGFの11項目(いずれのサイトカインも、「触覚刺激60分後」の濃度が「触覚刺激前」の濃度より有意に高かった。)
【0128】
【表2-1】
【0129】
【表2-2】
【0130】
<<解析ステップ3:多重共線性の診断>>
前記<<解析ステップ2>>において、「触覚刺激あり群」のみが有意差を示したサイトカインについて、多重共線性を引き起こしているサイトカインの除去を単相関からの多重共線性診断方法で実施し、サイトカイン間で単相関の値が高値(相関係数R>0.7)を示す組合せを除いた。診断は、触覚刺激あり群の刺激前-刺激20分後と、刺激前-刺激60分後の2条件で行った。
【0131】
分析結果をまとめると、以下のような結果となった。
[触覚刺激前-触覚刺激20分後]
Eotaxin、TNF-α、MIP-1β、及びRANTESの4項目を除外し、以下の9項目のサイトカインが残った。
IL-6、IL-7、IL-9、IL-10、IL-12 p70、IL-17A、MCP-1、MIP-1α、及びVEGF。
[触覚刺激前-触覚刺激60分後]
IL-2、MIP-1α、Eotaxin、及びVEGFの4項目を除外し、以下の7項目のサイトカインが残った。
IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-17A、FGF-2、及びMIP-1β。
【0132】
<<解析ステップ4:ロジスティック回帰分析によるモデル化、及びROC解析によるモデルの評価>>
前記<<解析ステップ3>>で残ったサイトカインについて、更に、ステップワイズ法を用いたロジスティック回帰分析によるモデル化、及びROC解析によるモデルの判定能(AUC)を算出した。
サイトカイン単独又は組合せにおけるROC解析によるAUC(Area Under Curve)の算出値を表3に示す。
【0133】
【表3】
【0134】
表3に示したように、IL-17A単独、IL-9とIL-17Aとの組合せでは、AUCが0.9以上であった。
【0135】
<気分評定・事後調査集計結果>
<<事後調査結果>>
前記実験工程(10)の「事後調査」は、被検者にとって施術が不快な気分でないことを担保する主観調査として行った。この調査は、「触覚刺激あり群」にのみ、実験の最後に1度行った。質問及び選択肢と、回答結果を表4に示す(n=40)。
【0136】
【表4】
【0137】
<<JUMACLの有意差検定結果>>
JUMACLは触覚刺激の、2つの覚醒(緊張覚醒(Tense Arousal、以下「TA」と称することがある。)、エネルギー覚醒(Energetic Arousal、以下「EA」と称することがある。))に対する効果を調べるため、「触覚刺激あり群」、「触覚刺激なし群」ともに、4回の唾液採取の直前(前記実験工程の(1)、(4)、(6)、(8))に行った。
なお、「緊張覚醒」は、心が緊張しているなど、ネガティブな状態を表し、情動と密接な関係がある。緊張覚醒が高い状態では、注意力が狭い範囲にしか届かず、緊張覚醒が低い状態では、注意力が広い範囲に届く傾向がある。
「エネルギー覚醒」は、「活動的である」、「元気がある」など、エネルギッシュな状態を表し、知的活動と密接な関係がある。エネルギー覚醒が高い状態では、記憶力が良く、注意力が良くなる傾向がある。
【0138】
-群間有意差検定結果-
触覚刺激の有無と覚醒状態の変化との関係を明らかにするため、各得点について有意差検定(ウィルコクソン検定)を行った。その結果、触覚刺激あり群では、触覚刺激なし群よりもTA得点が低い傾向にあることが示唆された。
【0139】
<<気分評定の有意差検定結果>>
気分評定は、触覚刺激の有無に対する被検者の幸福感及び覚醒度を経時的に調べる目的で、「触覚刺激あり群」、「触覚刺激なし群」ともに、4回の唾液採取の直前(前記実験工程の(1)、(4)、(6)、(8))に行った。
表5-1に質問と点数を示す。
【0140】
【表5-1】
【0141】
-群間有意差検定結果-
--「質問1.幸福な気持ちである」--
触覚刺激の有無と幸福度との関係を明らかにするため、幸福な気持ちに基づく得点(以下、「幸福度」と称することがある。)について有意差検定(ウィルコクソン検定)を行った。図2Aに幸福度平均値を示し、表5-2に有意差検定結果を示した。
図2A中、「a」は触覚刺激あり群、「b」は触覚刺激なし群の結果を示し、「0分後」は、触覚刺激あり群における「刺激前」、触覚刺激なし群における「0分後」を示し、「20分後」は、触覚刺激あり群における「刺激20分後」、触覚刺激なし群における「20分後」を示し、「40分後」は、触覚刺激あり群における「刺激40分後」、触覚刺激なし群における「40分後」を示し、「60分後」は、触覚刺激あり群における「刺激60分後」、触覚刺激なし群における「60分後」を示す。
【0142】
【表5-2】
【0143】
図2A及び表5-2から、触覚刺激あり群では、触覚刺激なし群よりも幸福度が高い傾向にあることが示唆された。
【0144】
--「質問2.覚醒している」--
触覚刺激の有無と覚醒度との関係を明らかにするため、覚醒に基づく得点(以下、「覚醒度」と称することがある。)について有意差検定(ウィルコクソン検定)を行った。図2Bに覚醒度平均値を示し、表5-3に有意差検定結果を示した。
図2B中、「a」は触覚刺激あり群、「b」は触覚刺激なし群の結果を示し、「0分後」は、触覚刺激あり群における「刺激前」、触覚刺激なし群における「0分後」を示し、「20分後」は、触覚刺激あり群における「刺激20分後」、触覚刺激なし群における「20分後」を示し、「40分後」は、触覚刺激あり群における「刺激40分後」、触覚刺激なし群における「40分後」を示し、「60分後」は、触覚刺激あり群における「刺激60分後」、触覚刺激なし群における「60分後」を示す。
【0145】
【表5-3】
【0146】
図2B及び表5-3から、触覚刺激あり群では、触覚刺激なし群よりも覚醒度が高い傾向にあることが示唆された。
【0147】
以上に示したように、触覚刺激を受けた触覚刺激あり群では、試料中のサイトカインの濃度が変動しており、また、<<気分評定の有意差検定結果>>の項目に記載したように、触覚刺激あり群では、触覚刺激なし群よりも幸福度が高い傾向にあり、覚醒度も高い傾向にあることがわかった。
したがって、評価対象由来の試料に含まれるサイトカインの量を指標とすることで、評価対象者が幸福感、特に覚醒度の高い幸福感、を有しているか否か(幸福な気持ちであるか否か)を高い精度で評価できることが分かった。また、前記指標としては、AUCが0.9以上であったIL-17A単独、及びIL-9とIL-17Aとの組合せが好ましいことが示された。
【0148】
また、<<事後調査結果>>の項目に記載したように、触覚刺激は不快なものではなく、心地よいものであったことから、前記幸福感の評価と同様に、評価対象由来の試料に含まれるサイトカインの量を指標とすることで、評価対象者が心地良さを感じているか否かを高い精度で評価できることも分かった。
【0149】
また、<<JUMACLの有意差検定結果>>から、触覚刺激あり群では、覚醒状態に変化があったことから、前記幸福感の評価と同様に、評価対象由来の試料に含まれるサイトカインの量を指標とすることで、評価対象者の覚醒状態を高い精度で評価できることも分かった。
【0150】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、幸福感を有しているか否かを評価する評価工程を含むことを特徴とする、評価対象が幸福感を有しているか否かを評価する方法である。
<2> 前記評価工程が、前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量と、基準値とを比較する処理を含み、
前記基準値が、刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値及び刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値の少なくともいずれかであり、
前記評価対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値より多い場合、及び前記刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値と同量以上の場合の少なくともいずれかの場合に、前記評価対象が、幸福感を有していると評価する工程である前記<1>に記載の方法である。
<3> 前記評価工程が、前記サイトカインの量のデータに基づいて幸福感を有しているか否かを評価することが可能な評価式に前記サイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記サイトカインの量のデータが代入される少なくとも1つの変数が含まれている前記<1>に記載の方法である。
<4> 前記評価工程が、前記サイトカインの量のデータに基づいて幸福感を有しているか否かを評価することが可能な評価式に前記サイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記サイトカイのデータが代入される少なくとも2つの変数が含まれている前記<3>に記載の方法である。
<5> 前記サイトカインが、IL-9とIL-17Aとの組合せ及びIL-17Aからなる群から選択されるいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の方法である。
<6> 前記方法が、評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を更に含む前記<1>から<5>のいずれかに記載の方法である。
<7> 前記評価対象由来の試料が、唾液である前記<1>から<6>のいずれかに記載の方法である。
<8> 評価対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、評価対象が幸福感を有しているか否かを評価するためのデータを取得する方法である。
<9> 前記サイトカインが、IL-9とIL-17Aとの組合せ及びIL-17Aからなる群から選択されるいずれかである前記<8>に記載の方法である。
<10> 前記評価対象由来の試料が、唾液である前記<8>から<9>のいずれかに記載の方法である。
<11> 対象に幸福感を付与する刺激、対象に心地良さを付与する刺激、及び対象の覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激のスクリーニング方法であって、
刺激を付与された対象由来の試料におけるサイトカインの量を指標として、前記刺激が、幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを評価する工程を含むことを特徴とする、刺激のスクリーニング方法である。
<12> 前記評価工程が、前記対象由来の試料におけるサイトカインの量と、参照値とを比較する処理を含み、
前記参照値が、前記刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値並びに幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値の少なくともいずれかであり、
前記対象由来の試料におけるサイトカインの量が、前記刺激を受けていない対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値より多い場合、並びに前記幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当することが判明している刺激を受けた対象由来の試料におけるサイトカインの量に基づく値と同量以上の場合の少なくともいずれかの場合に、前記刺激が、幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当すると評価する工程である前記<11>に記載の方法である。
<13> 前記評価工程が、前記サイトカインの量のデータに基づいて、前記刺激が、幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを評価することが可能な評価式に前記サイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記サイトカインの量のデータが代入される少なくとも1つの変数が含まれている前記<11>に記載の方法である。
<14> 前記評価工程が、前記サイトカインの量のデータに基づいて、前記刺激が、幸福感を付与する刺激、心地良さを付与する刺激、及び覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを評価することが可能な評価式に前記サイトカインの量のデータを代入することを含み、前記評価式には、前記サイトカインのデータが代入される少なくとも2つの変数が含まれている前記<13>に記載の方法である。
<15> 前記サイトカインが、IL-9とIL-17Aとの組合せ及びIL-17Aからなる群から選択されるいずれかである前記<11>から<14>のいずれかに記載の方法である。
<16> 前記方法が、対象に刺激を付与する工程を更に含む前記<11>から<15>のいずれかに記載の方法である。
<17> 前記方法が、対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を更に含む前記<11>から<16>のいずれかに記載の方法である。
<18> 前記対象由来の試料が、唾液である前記<11>から<17>のいずれかに記載の方法である。
<19> 対象由来の試料におけるサイトカインの量を測定する測定工程を含むことを特徴とする、刺激が、幸福感を付与する刺激、対象に心地良さを付与する刺激、及び対象の覚醒状態を変化させる刺激からなる群から選択される少なくとも1つの刺激に該当するか否かを評価するためのデータを取得する方法である。
<20> 前記サイトカインが、IL-9とIL-17Aとの組合せ及びIL-17Aからなる群から選択されるいずれかである前記<19>に記載の方法である。
<21> 前記対象由来の試料が、唾液である前記<19>から<20>のいずれかに記載の方法である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B