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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/10 20060101AFI20230116BHJP
   G01N 35/02 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
G01N35/10 B
G01N35/02 G
G01N35/02 H
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021550531
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2020034242
(87)【国際公開番号】W WO2021070546
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2019185620
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 佳明
(72)【発明者】
【氏名】杉埜 美佑紀
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-110913(JP,A)
【文献】特開2010-060550(JP,A)
【文献】特開2010-025587(JP,A)
【文献】特開2019-090639(JP,A)
【文献】特開2008-180538(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163674(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/117045(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0082616(US,A1)
【文献】特開2011-112489(JP,A)
【文献】特開2010-133827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリーオーバの可能性が高い第1分析項目群に係る検体を分注する第1分注部と、
キャリーオーバの可能性が低い第2分析項目群に係る検体を分注する第2分注部と、
前記検体の複数の分析項目に係る分析情報の入力を受け付ける入力部と、
前記分析情報を前記第1分析項目群と前記第2分析項目群とに分類する分類部と、
前記第1分析項目群については検体単位で分注順序を決定し、前記第2分析項目群については分析項目単位で分注順位を決定する決定部と、を備える、自動分析装置。
【請求項2】
前記決定部は、前記第2分析項目群に、通常の精度が要求される一般項目よりも優先度が高い優先項目が含まれていない場合、前記第1分析項目群に含まれる分析項目の分注順序を、前記分析情報に記載されている通りの分注順序とする、請求項1記載の自動分析装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記第2分析項目群に前記優先項目が含まれていない場合、前記第2分析項目群に含まれる分析項目の分注順序を、反応時間が長い順に並び替える、請求項2記載の自動分析装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記第2分析項目群に通常の精度が要求される一般項目よりも優先度が高い優先項目が含まれている場合、該優先項目の分注順序を該第2分析項目群の中で最初に位置付けると共に、前記第1分析項目群の中に含まれ該優先項目が含まれる検体と同じ検体の分注順序を、該第1分析項目群の中で最後に位置付ける、請求項1記載の自動分析装置。
【請求項5】
前記決定部は、前記第2分析項目群に前記優先項目が複数含まれている場合、該複数の優先項目の分注順序を反応時間が長い順とし、該複数の優先項目の後に、前記一般項目の分注順序を反応時間が長い順とする、請求項4記載の自動分析装置。
【請求項6】
前記決定部は、前記入力部が緊急検体に関する情報の入力を受け付けた場合、現在分析中の検体の分析が終了した後に、該緊急検体の分析を開始するよう分注順序を決定する、請求項1記載の自動分析装置。
【請求項7】
前記決定部は、前記第1分析項目群の中で、分注順序を1検体分析時間が長い順とする、請求項1記載の自動分析装置。
【請求項8】
試薬を収容する試薬容器と、検体を収容する検体容器を、共通して保持する共通ディスクを更に備える、請求項1記載の自動分析装置。
【請求項9】
検体の複数の分析項目に関する分析情報を入力する入力部と、
前記分析情報をキャリーオーバの可能性が高い第1分析項目群とキャリーオーバの可能性が低い第2分析項目群とに分類する分類部と、
前記第1分析項目群については検体単位で分注順序を決定し、前記第2分析項目群については反応時間の長い順に分注順序を決定する決定部と、を備える、自動分析装置。
【請求項10】
前記決定部は、前記第2分析項目群に、通常の精度が要求される一般項目よりも優先度が高い優先項目が含まれていない場合、前記第1分析項目群に含まれる分析項目の分注順序を、前記分析情報に記載されている通りの分注順序とする、請求項9記載の自動分析装置。
【請求項11】
前記決定部は、前記第2分析項目群に通常の精度が要求される一般項目よりも優先度が高い優先項目が含まれている場合、該優先項目の分注順序を該第2分析項目群の中で最初に位置付けると共に、前記第1分析項目群の中に含まれ前記優先項目が含まれる検体と同じ検体の分注順序を該第1分析項目群の中で最後に位置付ける、請求項9記載の自動分析装置。
【請求項12】
前記決定部は、前記第2分析項目群に前記優先項目が複数含まれている場合、該複数の優先項目の分注順序を反応時間が長い順とし、該複数の優先項目の後に、前記一般項目の分注順序を反応時間が長い順とする、請求項11記載の自動分析装置。
【請求項13】
前記決定部は、前記入力部が緊急検体に関する情報の入力を受け付けた場合、現在分析中の検体の分析が終了した後に、該緊急検体の分析を開始するよう分注順序を決定する、請求項9記載の自動分析装置。
【請求項14】
前記決定部は、前記第1分析項目群の中で、分注順序を1検体分析時間が長い順とする、請求項9記載の自動分析装置。
【請求項15】
試薬を収容する試薬容器と、検体を収容する検体容器を、共通して保持する共通ディスクを更に備える、請求項9記載の自動分析装置。
【請求項16】
前記第1分析項目群とは生化学に係る分析項目群を示し、
前記第2分析項目群とは免疫に係る分析項目群を示す、請求項1乃至15何れか一に記載の自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動分析装置において、検体間の分析における検体持ち越し(以下、キャリーオーバ)の影響を低減するため、同一検体内で生化学及び免疫に分類して、生化学の分析項目から先に分注する技術がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-025587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献によれば、検体単位で分注順序を決定することしか考慮していないため、検体間におけるキャリーオーバの低減が不十分、という課題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、検体間のキャリーオーバをより低減可能な自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の自動分析装置は、キャリーオーバの可能性が高い第1分析項目群に係る検体を分注する第1分注部と、キャリーオーバの可能性が低い第2分析項目群に係る検体を分注する第2分注部と、検体の複数の分析項目に係る分析情報の入力を受け付ける入力部と、分析情報を第1分析項目群と第2分析項目群とに分類する分類部と、第1分析項目群については検体単位で分注順序を決定し、第2分析項目群については分析項目単位で分注順位を決定する決定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、検体間のキャリーオーバをより低減可能な自動分析装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】自動分析装置の全体構成を示す図。
図2】装置サイクルと分注サイクルの関係を示す図。
図3】分注順序を決定するフロー図。
図4A】テーブル1を示す図。
図4B】テーブル2を示す図。
図5A】分析依頼通りに分注する場合を示す図。
図5B】全検体について反応時間の長い順に分注する場合を示す図。
図6A図5Aに対応する実施例の課題を説明するためのタイミング図。
図6B図5Bに対応する実施例の課題を説明するためのタイミング図。
図7A】実施例1のS304に相当する分注順序を示す図。
図7B】実施例1のS304に相当するタイミング図。
図8A】実施例1のS305に相当する分注順序を示す図。
図8B】実施例1のS305に相当するタイミング図。
図9】実施例2のフロー図。
図10A】テーブル5を示す図。
図10B】実施例2の分析順序を示す図。
図11】実施例2のタイミング図。
図12】実施例3の分注順序を決定するフロー図。
図13A】テーブル8を示す図。
図13B】テーブル9を示す図。
図14A】第2分析項目群のみ分析順序を並び替えた例を示す図。
図14B】第1分析項目群について1検体分析時間に基づいて分注順序を並び替えた例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、自動分析装置の全体構成を示す図である。自動分析装置100は、複数の分析項目群(生化学、免疫)を1台で分析する複合型自動分析装置である。装置小型化のため、所定の機構を複数の分析項目群にて共有する構成としている。
【0010】
自動分析装置100は、インキュベータ1、反応容器2、試薬及び検体を共通して保持する共通ディスク3、試薬容器4、検体容器5、第1ノズルを用いて生化学用の検体及び試薬を分注する第1分注部8、第2ノズルを用いて免疫用の検体及び試薬を分注する第2分注部9、第1分注部8の回転・上下運動を可能にする第1ポンプ10、第2分注部9の回転・上下運動を可能にする第2ポンプ11、第1ノズルを洗浄するための第1洗浄槽12、第2ノズルを洗浄するための第2洗浄槽13、試薬攪拌部14、分光光度計15、フローセルなどの検出部16、免疫用の液体を分注する際に用いるチップ17、チップ17や反応容器2を搬送する搬送部18、チップ17用のトレイ19、反応容器2用のトレイ20、使用済のチップ17及び反応容器2を格納する廃棄ボックス21、チップ17の装着位置22、チップ17の廃棄位置23、使用済の液体を格納する廃液タンク24、生化学測定用の給水タンク25、免疫測定用の給水タンク26、洗浄液を貯蔵する洗浄液容器27、及び、自動分析装置100の種々の制御を行う制御装置30を備える。
【0011】
インキュベータ1は、その円周上に、検体と試薬の混合液を収容する反応容器2を保持し、該混合液の反応を促進するため、反応容器2を一定温度に保つ。インキュベータ1は、モータなどの駆動機構により、1サイクルで所定の反応容器2の数に相当する距離を回転駆動するよう制御される。
【0012】
反応容器2は、全ての反応で共通仕様の容器を使用し、使い捨てである。反応容器2の設置位置は、例えば、奇数位置を生化学分析用の容器、偶数位置を免疫分析用の容器とし、円周上に交互に配置されている。
【0013】
共通ディスク3は、複数の試薬容器4及び検体容器5を円周上に載置している。ここでは、試薬容器4が検体容器5の内周に配置される例を示しているが、検体容器5が試薬容器4の内周に配置されてもよいし、内周、外周の区別されずに配置されてもよい。
【0014】
第1分注部8は、回転軸を中心に円弧を描きながら試薬容器4及び検体容器5から反応容器2へ試薬分注及び検体分注を行う。第1分注部8の軌道上には、共通ディスク3上の検体吸引位置7-1、試薬吸引位置6-1、インキュベータ1上の第1分注位置、第2分注位置、及び、第1洗浄槽12が存在する。一方、第2分注部9も、回転軸を中心に円弧を描きながら試薬容器4及び検体容器5から反応容器2へ試薬分注及び検体分注を行う。第2分注部9の軌道上には、共通ディスク3上の検体吸引位置7-2、試薬吸引位置6-2、インキュベータ1上の第3分注位置、第4分注位置、及び、第2洗浄槽13が存在する。尚、免疫分析の場合、精緻な測定が要求され、検体間のキャリーオーバを防ぐ必要性が高いため、第2分注部9は、チップ17を使用して分注を行う。よって、装着位置22及び廃棄位置23も第2分注部9の軌道上に存在する。一方、生化学分析の場合、免疫分析ほどの精緻さは要求されないため、第1分注部8は、チップ17を使用せず、分注の度に第1洗浄槽12で第1ノズルを洗浄しながら分注を行う。
【0015】
第1分注部8と第2分注部9は、第1ノズル及び第2ノズルの軌道及び各々の機構間が物理的に干渉しないように配置されている。第1分注部8及び第2分注部9は、検体と試薬を吸引後、反応容器2内で吸引吐出動作により検体と試薬を攪拌し混合する。生化学、免疫の何れの分析にも使用する検体については、第1分注部8、第2分注部9共に、該検体にアクセスする。
【0016】
生化学分析には、インキュベータ1の周囲に配置された分光光度計15を用いる。分光光度計15は、不図示の光源や検出器を備えており、反応容器2内の反応液に光を照射して得られる透過光を分光して検出することにより、反応液の吸光度を測定する。
【0017】
免疫分析には、検出部16を用いる。インキュベータ1により反応が促進された反応液は検出部16に送液され、電気化学発光や化学発光等により分析される。各々に適する試薬や標識物質、検出領域の構造と物性が選択され、検出器(例えば、光電子増倍管)が該標識物質の発光反応に由来する発光量を測定する。
【0018】
搬送部18は、インキュベータ1で吸光度の測定が完了した反応容器2を廃棄ボックス21へ搬送して廃棄する。又、搬送部18は、インキュベータ1により反応が促進された反応液が入った反応容器2を検出部16へ搬送する。更に、搬送部18は、検出部16で分析済の反応容器2を廃棄ボックス21へ搬送して廃棄する。
【0019】
制御装置30は自動分析装置100の各機構と接続しており(該接続の図示は省略)、制御部31、記憶部32、入力部33、及び、表示部34を備える。制御部31は、第1分注部8と第2分注部9を並列して分注するよう制御する他、インキュベータ1の回転駆動や共通ディスク3の回転動作、ノズルの駆動、検体吸引・吐出等を制御する。記憶部32は、後述の分類部35や決定部36等のプログラムや種々のデータを格納する。入力部33は、ユーザからの指示を受け付ける。表示部(ディスプレイ)34は、分析結果から得られた結果等をユーザに表示する。入力部33と表示部34はユーザインタフェースとして一体であってもよい。制御部31は、記憶部32から分類部35や決定部36などのプログラムを読み出し実行することで、後述の実施例を実現する。尚、分類部35や決定部36は、ハードウェアにより実現してもよい。
【0020】
図2は、装置サイクルと分注サイクルの関係を示す図である。本実施例では、装置サイクルは10秒とし、生化学の1サイクルは、装置サイクルの2サイクルとする。該2サイクルのうち前半の1サイクルでは第1試薬と検体を反応容器2に分注・攪拌(生化学第1分注・攪拌)し、後半の1サイクルでは第2試薬を反応容器2に分注・攪拌(生化学第2分注・攪拌)する。又、後半1サイクルにインキュベータ1から反応容器2の設置、取り出しが行われる。
【0021】
免疫の1サイクルは、装置サイクルの6サイクルとする。免疫の反応容器2は、装置サイクルでいう1サイクル目でインキュベータ1に設置され、3サイクル目で取り出される。第1分注は、装置サイクルでいう4サイクル目で行われ、第2分注は6サイクル目で行われる。第1分注用の時間は装置サイクルでいう1サイクル目から4サイクル目であるが、1サイクル目から3サイクル目までの間はチップの装着及び試薬や検体の吸引に使われる。この際、生化学の第1分注部8も試薬や検体の吸引を行っており、共通ディスク3に生化学、免疫の試薬が搭載されているため、第1分注部8及び第2分注部9が吸引動作を行うタイミングは、重ならないように制御される。
【0022】
図2中の△印は、検体分注のタイミングを示している。一つの検体に対して生化学の分析項目と免疫の分析項目が共存する場合、生化学用の第1ノズル、免疫用の第2ノズルの双方共に、一つの検体容器にアクセスする。しかし、生化学と免疫とで△印が重複しないようにしているため、第1ノズルと第2ノズルが干渉することはない。
【0023】
ここで、特許文献1では、同一検体内で生化学の分析項目と免疫の分析項目に分類して、免疫よりも生化学を先に分注している。一つの分析項目を分注する度にノズルを洗浄するため、生化学の分析項目が複数存在する場合、その分だけノズルを洗浄してから免疫の分注に移ることになる。即ち、前検体の影響がほとんど残っておらず、分析誤差の原因となるキャリーオーバを低減できるという効果がある。一方、ある検体について、生化学の分析項目が複数存在する場合は上記効果が得られるものの、生化学の分析項目が一つしかない(数が少ない)、又は、免疫の分析項目しかない場合は、前検体の分注の後、すぐに同じノズルで免疫の分注を行うことになるため、キャリーオーバを起こす可能性が高くなる、という課題もある。尚、特許文献1は同一の検体分注部を用いて生化学及び免疫に係る分注を行う形態のため、生化学用の検体分注部と免疫用の検体分注部を別々に用いる本自動分析装置とは前提が異なることも注記しておく。
【0024】
又、WO2017/138285号公報では、分析時間の短縮を目的として、反応時間の長い分析項目から分注している。しかし、全検体について、反応時間の長い分析項目から測定すると、ある検体(前検体)を分注した後、該検体とは異なる検体(後検体)を分注する事態が頻発する可能性が高い。ひいては、第1ノズルに付着した前検体が後検体に交じりやすくなり、キャリーオーバを引き起こす可能性が高くなる。特に、試薬と検体を共通ディスク3で共有する自動分析装置の場合、全検体の分析動作が終了するまで試薬や検体を追加することできないため、分析の終了が遅くなると、次の分析に使用する試薬や検体の追加も遅くなり、分析効率が下がってしまう。
【0025】
そこで、以下、キャリーオーバをより低減可能な自動分析装置、特に、異なる分析項目毎に異なる検体分注部を用いて、検体間のキャリーオーバ低減と分析時間の短縮を両立可能な自動分析装置に係る実施例を説明する。尚、以下、プログラムが制御主体かのような記載も一部あるが、制御部31が記憶部32からプログラムを読み出して実行することを意味するのは言うまでもない。
(実施例1)
図3は、分注順序を決定するフロー図である。該フロー図は、ユーザが予め入力部33を介して、分析に必要なパラメータを記憶部32に登録し、検体及び試薬をセットし、分析開始指示を行った(分析開始ボタンを押下した)後のフローを示す。
【0026】
まず、制御部31は、検体に含まれる対象成分を分析するために必要な情報(以下、分析情報)を取得する。より具体的には、図4Aに示される検体の種類と該検体に対する分析項目を対応付けたテーブル(以下、テーブル1)を取得する(S301)。テーブル1は図4Bに示される各分析項目と反応時間を対応付けたテーブル(以下、テーブル2)と紐付いている。テーブル1の内容は、入力部33を介してユーザに入力されたものである。テーブル2の内容は、事前に記憶部32に格納されているものである。
【0027】
検体容器5には、ラベル(例えば、バーコード、二次元コード、RFID等)が付されており、該ラベルには該検体に対する分析項目が格納されている。リーダ(不図示)がラベルから分析項目を読み取り、該分析項目を制御装置30に送信する。制御部31は、該分析項目とユーザが登録したパラメータを照合し、一致する分析項目に基づいてテーブル1を生成する。
【0028】
次に、分類部35は、分析情報を第1分析項目群と第2分析項目群とに分類する。即ち、テーブル1を分析項目群毎に分割する(S302)。生化学分析の場合、ノズルは直接試薬や検体に触れるため、キャリーオーバの可能性が高い。一方、免疫分析の場合、ノズルはチップ17を装着して分注を行うため、キャリーオーバの可能性が低い。このように、キャリーオーバの可能性が高い分析項目群を第1分析項目群(生化学)、キャリーオーバの可能性が低い分析項目群を第2分析項目群(免疫)、としてテーブル1を分割する。こうして、第1分析項目群のみのテーブル(以下、テーブル3)、及び、第2分析項目群のみのテーブル(以下、テーブル4)が生成される。
【0029】
次に、決定部36は、第1分析項目群については検体単位で分注順序を決定し、第2分析項目群については分析項目単位で分注順位を決定する。より具体的には、決定部36は、テーブル4に優先項目(後述)が含まれているか否かを判断し(S303)、優先項目が含まれていない場合、テーブル3については分注順序を並び替えず、テーブル4については反応時間の長い順に分注順序を並べ替える(S304)。一方、優先項目が含まれている場合、決定部36は、該優先項目をテーブル4の最初に位置付け、テーブル3において該優先項目を有する検体と同じ検体を最後に位置付けると共に、テーブル4において一般項目(後述)の反応時間の長い順に分注順序を並び替える(S305)。テーブル3において該優先項目を有する検体と同じ検体がない場合は分注順序を並び替えない。又、テーブル4において、優先項目が複数含まれている場合は、優先項目の中で反応時間の長い順に分注順序を並び替え、優先項目の後、一般項目の中で反応時間の長い順に分注順序を並び替える。
【0030】
S304又はS305の後、制御部31は、決定した分注順序に沿って、分析依頼対象の検体に係る分注を開始する。
【0031】
ここで、優先項目(ハイプラ項目、ハイプライオリティ項目ともいう)とは、免疫項目の一種であり、免疫項目の中でも特に精緻な分析が要求される分析項目を示す。一般項目とは、通常の免疫項目(通常の精度が要求される免疫の分析項目)を示す。即ち、優先項目は、一般項目よりも優先度が高い。
【0032】
例えば、第1ノズルが検体容器Aにアクセスすると、第1ノズルに付着した不純物が検体容器A内に紛れ込む可能性がある。その後、第2ノズルが検体容器Aにアクセスすると、第2ノズルは該不純物を吸引する可能性がある。第1ノズルは分注の度に洗浄されているため、一般項目であればこの問題は些細であるが、優先項目になると些細な影響も考慮する必要がある。よって、制御部31は、優先項目を、キャリーオーバの影響がない最初に分注するよう制御する。
【0033】
又、例えば、複数の優先項目が存在し、第2ノズルが最初に検体容器Aにアクセスし、次に検体容器Bにアクセスする必要があるとする。ここで、優先項目を最初に分注するという制御しか行わなければ、第2ノズルが検体容器Aにアクセス→第1ノズルが検体容器Aにアクセス→第1ノズルが検体容器Bにアクセス→第2ノズルが検体容器Bにアクセス、という順序もあり得る。そうすると、検体容器Aにアクセスした第1ノズルに付着した不純物が検体容器Bに紛れ込み、その後、第2ノズルが検体容器Bにアクセスすることになり、優先項目に影響を及ぼすことになる。よって、制御部31は、生化学分析では、優先項目を有する検体と同じ検体を、最後に分注するよう制御する。
【0034】
図4は分析情報を示す図であり、図4Aはテーブル1を、図4Bはテーブル2を示す。以下、検体をS(Sample)と、生化学の分析項目をCC(Clinical Chemistry)と、免疫の分析項目をIA(Immunoassay)と表記し、種類の数に応じて、S1、S2…、CC1、CC2…、IA1、IA2…、のように英字の横に数字を付記する。CCの例としては、AST、GLU、CREJ、HDL-C等が、IAの例としては、hCG STAT、CEA、TSH、Folate等が挙げられる。ここでは、合計5検体の生化学分析、及び、免疫分析を実施する例を示す。
【0035】
図5は実施例の課題を説明するための分注順序を示す図であり、図5Aは分析依頼通りに分注する場合を、図5Bは全検体について反応時間の長い順に分注する場合を示す。又、図6は、実施例の課題を説明するためのタイミング図であり、図6A図5Aに、図6B図5Bに、それぞれ対応する。尚、タイミング図における処理の開始時点は、反応容器2への吐出が最初に行われる時点としている。ここでは、生化学の吐出と免疫の吐出を同時に開始する例を示しているが、これらの吐出開始時刻はずらしてもよい。又、生化学の場合、インキュベータ1に反応容器2を載置しているだけで分析が終了するが、免疫の場合、反応容器2をインキュベータ1から検出部16へ移動した後、分析を行う。即ち、生化学の場合、タイミング図で記されている時間で分析が終了するのに対し、免疫の場合、タイミング図に記されている時間はインキュベータ1上で反応促進される時間を示し、それだけで分析が終わるわけではない点、注記しておく。
【0036】
本例では、反応時間の長い順で分析した図6Bの方が、単に分析依頼通りの順序で分注した図6Aよりも、分析に要する時間が4分短い。しかし、図6Bの検体に着目すると、ある検体への分注と異なる検体への分注が代わる代わる行われていることが分かる。このような分注を繰り返すと、キャリーオーバの可能性が高くなる。
【0037】
図7は実施例1のS304に相当する処理を示す図であり、図7Aは分注順序を、図7Bはタイミング図を示す。通常、分析依頼はテーブル1の如く、検体毎に行われるため、分注順序を並び替えなければ、検体毎に並んでいることになる。即ち、生化学の場合、分析依頼通りに分注を行うことで、同じ検体への分注を集中的に行うことができ、キャリーオーバの可能性を低めることができる。一方、免疫の場合、キャリーオーバの影響を考慮しなくてよいため、検体の種類に関係なく分析項目単位で分注順位を決定すればよい。更に、免疫では反応時間の長い順に分注を行うことで、分析時間を短縮できる。
【0038】
整理すると、ある検体から他検体へ分注する回数は、図5Aでは3回、図5Bでは8回である。又、分析時間は、図5Aでは58分、図5Bでは54分である。即ち、依頼された順番通りに分注すればキャリーオーバの可能性は低くなるが、分析時間は長くなる。かといって、全検体について反応時間の長い順に分注すれば、分析時間は短縮できるが、キャリーオーバの可能性は高くなる。
【0039】
一方、実施例1の場合、ある検体から他検体へ分注する回数は3回であり、かつ、分析時間は54分である。即ち、単純に反応時間の長い順に分注した場合に比べ、ある検体から他検体への分注回数を5回も削減できると共に、単に依頼された順番通りに分注した場合に比べ、分析時間を4分削減できる。
【0040】
図8は実施例1のS305に相当する処理を示す図であり、図8Aは分注順序を、図8Bはタイミング図を示す。図8Aでは、図7Bの「S5 IA3 54分」の前に、優先項目(HP(High Priority)と表記)の処理が追加されることになる。ここでは、優先項目の反応時間が27分と18分であり、全体としては反応時間の長い順の分注順序にならないため、分析時間は56分と図7Bでの54分よりも長くなる(図8B)。しかし、優先項目の中では反応時間の長い順に分注するため、全体の反応時間に対する影響は少なくて済む。又、図8Aでは、テーブル3において、S1の順序を最後とする。尚、優先項目の例としては、HBsAgII、HBsAg quantII、TG、HIVcombiPT等が挙げられる。
【0041】
このように、実施例1では、キャリーオーバの低減、及び、分析時間の短縮の両立を実現できると共に、免疫でも優先項目のキャリーオーバを低減できる。
(実施例2)
図9は、緊急検体発生時のフロー図である。該フロー図は、ユーザが入力部33を介して、緊急検体の分析項目を記憶部32に登録し、緊急検体分析開始指示を行った(緊急検体分析開始ボタンを押下した)後のフローを示す。基本的に、試薬と検体を共通ディスク3で共有する自動分析装置の場合、全検体の分析動作が終了するまで試薬や検体を追加することはできないが、緊急の場合はやむを得ず自動分析装置を停止し、既に決定している分注順序に緊急検体を割り込ませることもあり得る。
【0042】
まず、制御部31は、新規の検体分注を中止し(S901)、図3と同様、図10Aに示される緊急検体の分析依頼に係るテーブル(以下、テーブル5)を取得し(S902)、分類部35は、テーブル5を、分析項目群が第1分析項目群のみのテーブル(以下、テーブル6)と、分析項目群が第2分析項目群のみのテーブル(以下、テーブル7)に分割する(S903)。そして、決定部36は、テーブル6については、分注順序を並び替えず、テーブル7については、反応時間の長い順に分注順序を並べ替える(S904)。
【0043】
その後、制御部31は、試薬と検体の分注が終了したか否かを判断する(S905)。ここでは、分注の最中の試薬と検体があるか否かを判断し、ある場合は処理を繰り返し、ない場合は共通ディスク3を停止して、緊急検体設置へと進む(S906)。そして、共通ディスク3への緊急検体の設置が完了すると、制御部31は、決定した分注順序に沿って、緊急検体に係る分注を開始する。
【0044】
図10は、緊急検体発生時の分析情報を示す図であり、図10Aは緊急検体の種類と分析項目を対応付けたテーブル5を、図10Bは実施例2の分析順序を示す。又、図11は、図10Bに対応するタイミング図である。
【0045】
ここでは、分注開始から2分後に緊急検体である3検体の割込みが入った場合を示している。例えば、テーブル3のNo.5、及び、テーブル4のNo.2を分析中に緊急検体分析ボタンが押下された場合、テーブル3ではNo.5とNo.6の間に、テーブル4ではNo.2とNo.3の間に、それぞれ、No.6~10、No.3~5の緊急検体が割り込まれることになる。図11に示されるように、緊急検体が発生しても、キャリーオーバの低減、及び、分析時間の短縮の両立を図ることができる。
【0046】
尚、テーブル3のNo.4を分析中に緊急検体分析ボタンが押下された場合、緊急検体を優先して、No.4の分析終了後すぐに緊急検体を分析してもよいし、キャリーオーバ防止の観点から、No.5の分析終了を待ってから緊急検体を割り込ませてもよい。
(実施例3)
実施例1及び2では、第1分析項目群が生化学、第2分析項目群が免疫の場合について説明した。ここで、図7Bに示されるように、生化学と免疫の反応時間には大きな差があるため、免疫の反応時間は生化学の反応時間を包含し、生化学について並び替えを行う必要はなかった。しかし、分析項目群を生化学、免疫に限定せず、キャリーオーバの可能性が高い第1分析項目群とキャリーオーバの可能性が低い第2分析項目群の反応時間の差が小さい場合は、第1分析項目群でも、同じ検体内で分注順序を並び替えることにより、分析時間を更に短縮できる。
【0047】
図12は、実施例3の分注順序を決定するフロー図である。
【0048】
制御部31は、図13Aに示されるテーブル(以下、テーブル8)を取得する(S1201)。テーブル8は図13Bに示されるテーブル(以下、テーブル9)と紐付いている。次に、分類部35は、テーブル8を分析項目群毎に分割する(S1202)。即ち、分析項目群が第1分析項目群のみのテーブル(以下、テーブル10)、及び、分析項目群が第2分析項目群のみのテーブル(以下、テーブル11)、を生成する。
【0049】
次に、決定部36は、テーブル8に優先項目が含まれているか否かを判断し(S1203)、優先項目が含まれていない場合、テーブル10については、1検体分析時間(後述)の長い検体順に並び替え(S1204)、テーブル11については、反応時間の長い順に分注順序を並べ替える(S1205)。尚、並び替えた結果として、1検体分析時間の長さが同じ検体が複数存在する場合は、分析依頼された順番とする。
【0050】
ここで、1検体分析時間とは、ある1検体だけの分析において、最初の分析項目の分注開始から最後の分析項目の分析が終わるまでの時間を示す。例えば、検体S1には第1分析項目群の分析項目が2つあり、それぞれの分析時間が7分、及び、10分であるとする。又、検体S2には第1分析項目群の分析項目が3つあり、3つとも分析時間が10分であるとする。そして、分析項目毎の分析開始時間に20秒のずれがあるとする。その場合、S1では、10分の分析項目を先に始め、20秒後に7分の分析項目を始めることになるが、S1全体としての分析時間は10分ですむ。一方、S2では、全ての分析項目の分析時間が10分であるため、それぞれ20秒ずつ時間をずらして分注を開始すると、S2としての分析時間は10分40秒となる。即ち、S1とS2の1検体分析時間を比較するとS2の方が長くなる。よって、第1分析項目群では、1検体分析時間が長いS2をS1よりも先に分注するのがよい。
【0051】
図14は、実施例3におけるタイミング図であり、図14Aは第2分析項目群のみ分析順序を並び替えた例を、図14Bは第1分析項目群について1検体分析時間に基づいて分注順序を並び替えた例を示す。ここでは、第1分析項目群の分析項目をXと、第2分析項目群の分析項目をYと表記し、種類の数に応じて、X1、X2…、Y1、Y2…、のように英字の横に数字を付記している。このように、第1分析項目群の中でも分注順序を調整することで、キャリーオーバの低減を図りつつも、全体の分析時間を短縮することができる。
【0052】
以上の実施例によれば、キャリーオーバの可能性が高い第1分析項目群に係る検体を分注する第1分注部とキャリーオーバの可能性が低い第2分析項目群に係る検体を分注する第2分注部を備える自動分析装置において、第1分析項目群については検体単位で分注順序を決定し、第2分析項目群については分析項目単位で分注順位を決定するため、検体単位のみで分注順序を決定する従来技術よりも確実にキャリーオーバを低減できる。更に、第2分析項目群については反応時間の長い順に分注順序を決定すれば、キャリーオーバの低減と全体の分析時間短縮の両立が可能となる。
【符号の説明】
【0053】
100…自動分析装置、1…インキュベータ、2…反応容器、3…共通ディスク、4…試薬容器、5…検体容器、6…試薬吸引位置、7…検体吸引位置、8…第1分注部、9…第2分注部、10…第1ポンプ、11…第2ポンプ、12…第1洗浄槽、13…第2洗浄槽、14…試薬攪拌部、15…分光光度計、16…検出部、17…チップ、18…搬送部、19,20…トレイ、21…廃棄ボックス、22…チップの装着位置、23…チップの廃棄位置、24…廃液タンク、25,26…給水タンク、27…洗浄液容器、30…制御装置。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B