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特許7210762薄膜破損検知機能、および荷電粒子線装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-13
(45)【発行日】2023-01-23
(54)【発明の名称】薄膜破損検知機能、および荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20230116BHJP
   H01J 37/18 20060101ALI20230116BHJP
【FI】
H01J37/20 D
H01J37/18
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021551053
(86)(22)【出願日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 JP2019040080
(87)【国際公開番号】W WO2021070340
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】波田野 道夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 光宏
(72)【発明者】
【氏名】小椋 俊彦
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-72184(JP,A)
【文献】特開2004-95477(JP,A)
【文献】特開昭55-98448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
H01J 37/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子光学系と、
試料室と、
電気信号通信用の端子を備え、前記電子光学系からの電子線が照射される試料を保持する試料ホルダと、
前記試料ホルダが前記試料室に載置された状態で、前記試料ホルダの前記端子と接続される第1のコネクタと、
前記試料ホルダの周辺雰囲気を真空排気する初段真空排気系を含む真空排気系と、
主制御部とを有し、
前記試料ホルダは、液状またはゲル状である前記試料を挟み込んで保持する互いに対向する第1の絶縁性薄膜及び第2の絶縁性薄膜と、前記第1の絶縁性薄膜に積層された導電性薄膜とを有する試料チャンバと、前記試料を保持した前記試料チャンバを前記導電性薄膜が周辺雰囲気に露出した状態でその内部に固定し、前記試料の観察時に内部の空間を少なくとも前記試料室よりも低い真空度に保持する真空隔壁と、前記試料チャンバが前記真空隔壁に固定された状態で前記第2の絶縁性薄膜と対向するように設置される検出電極と、前記検出電極に接続される信号検出部とを有し、
前記初段真空排気系は前記試料室に設けられ、
前記主制御部は、前記試料ホルダが前記試料室に載置された状態で前記試料ホルダの周辺雰囲気を大気圧から真空排気するのに先立って、前記第1のコネクタを介して前記試料チャンバの前記導電性薄膜にバイアス電位を供給するとともに、前記信号検出部からの検出信号を受信し、前記検出信号に基づき前記試料チャンバの異常を検知する荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記主制御部は、前記検出信号に基づき、前記試料が前記検出電極に接触することに起因するリーク電流または前記試料チャンバが破損することに起因するパルス状電圧を検出することにより、前記試料チャンバの異常を検知する荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記電子光学系は、前記電子線を放出する電子銃と、前記電子銃近傍の真空度を維持するガンバルブとを備え、
前記主制御部は、前記検出信号に基づき前記試料チャンバの異常を検知したとき、前記ガンバルブを閉とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記電子光学系は、前記電子線の進行方向に対して垂直な静電場を発生させる静電ブランカを備え、
前記主制御部は、前記検出信号に基づき前記試料チャンバの異常を検知したとき、前記静電ブランカを動作させ、前記静電場を発生させる荷電粒子線装置。
【請求項5】
電子光学系と、
試料室と、
電気信号通信用の端子を備え、前記電子光学系からの電子線が照射される試料を保持する試料ホルダと、
前記試料ホルダが前記試料室に載置された状態で、前記試料ホルダの前記端子と接続される第1のコネクタと、
前記試料ホルダの周辺雰囲気を真空排気する初段真空排気系を含む真空排気系と、
前記試料室とゲートバルブによって仕切られ、前記初段真空排気系が設けられた試料交換室と、
前記試料ホルダが前記試料交換室に載置された状態で、前記試料ホルダの前記端子と接続される第2のコネクタと、
主制御部とを有し、
前記試料ホルダは、液状またはゲル状である前記試料を挟み込んで保持する互いに対向する第1の絶縁性薄膜及び第2の絶縁性薄膜と、前記第1の絶縁性薄膜に積層された導電性薄膜とを有する試料チャンバと、前記試料を保持した前記試料チャンバを前記導電性薄膜が周辺雰囲気に露出した状態でその内部に固定し、前記試料の観察時に内部の空間を少なくとも前記試料室よりも低い真空度に保持する真空隔壁と、前記試料チャンバが前記真空隔壁に固定された状態で前記第2の絶縁性薄膜と対向するように設置される検出電極と、前記検出電極に接続される信号検出部とを有し、
前記主制御部は、前記試料ホルダが前記試料交換室に載置された状態で前記試料ホルダの周辺雰囲気を大気圧から真空排気するのに先立って、前記第2のコネクタを介して前記試料チャンバの前記導電性薄膜にバイアス電位を供給するとともに、前記信号検出部からの検出信号を受信し、前記検出信号に基づき前記試料チャンバの異常を検知する荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記主制御部は、前記検出信号に基づき、前記試料が前記検出電極に接触することに起因するリーク電流または前記試料チャンバが破損することに起因するパルス状電圧を検出することにより、前記試料チャンバの異常を検知する荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項5において、
前記試料交換室は光学系を有し、
前記試料ホルダが前記試料交換室に載置された状態で、前記試料ホルダの周辺雰囲気を大気圧から真空排気する間、前記光学系により前記試料チャンバの状態を観察可能とされる荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項5において、
前記試料交換室は電子源を有し、
前記主制御部は、前記第2のコネクタを介して前記試料チャンバの前記導電性薄膜にバイアス電位を供給するとともに、前記電子源から電子線を前記試料チャンバの前記導電性薄膜に照射したときの前記信号検出部からの前記検出信号を受信する荷電粒子線装置。
【請求項9】
電子光学系と、
試料室と、
前記電子光学系からの電子線が照射される試料を保持する試料ホルダと、
前記試料ホルダの周辺雰囲気を真空排気する初段真空排気系を含む真空排気系と、
前記試料室とゲートバルブによって仕切られ、前記初段真空排気系が設けられた試料交換室と、
前記試料ホルダが前記試料交換室に載置された状態で、前記試料ホルダの周辺雰囲気を大気圧から真空排気する主制御部とを有し、
前記試料ホルダは、液状またはゲル状である前記試料を挟み込んで保持する互いに対向する第1の絶縁性薄膜及び第2の絶縁性薄膜を有する試料チャンバと、前記試料を保持した前記試料チャンバを前記第1の絶縁性薄膜が周辺雰囲気に露出した状態でその内部に固定し、前記試料の観察時に内部の空間を少なくとも前記試料室よりも低い真空度に保持する真空隔壁とを有し、
前記試料交換室は光学系を有し、前記試料ホルダが前記試料交換室に載置された状態で、前記試料ホルダの周辺雰囲気を大気圧から真空排気する間、前記光学系により前記試料チャンバの状態を観察可能とされる荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記光学系は光学顕微鏡または光学レンズである荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項9において、
前記光学系は光学レンズであり、
前記光学レンズは、前記試料ホルダを前記試料交換室と前記試料室との間で移動させる試料交換棒を前記試料交換室に挿入する、前記試料交換室の挿入面に設けられた荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を照射して発生する検出信号を利用し、試料の形状または材質等を観察する荷電粒子線装置に関する。より詳細には、生物化学試料や液体試料の観察に適した荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置の一つである走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、金属やセラミックスなどの材料試料だけでなく、生物試料を高分解能で観察するツールとしても広く用いられている。
【0003】
一般的に、これらの装置では筐体を真空排気し、試料を真空雰囲気中に配置して試料を撮像する。電子線は、大気などのガス分子や液体分子によって散乱されるため、電子線の通過経路は真空雰囲気に保つことが好ましい。一方、真空雰囲気中に置かれると、生物化学試料や液体試料はダメージを受け、または、状態が変化してしまうため、非侵襲の状態での観察は困難であるとされてきた。しかしながら、このような試料に対する非侵襲観察ニーズは大きく、近年、観察対象試料を、大気圧環境下や液中環境化で観察可能な電子顕微鏡が開発されている。
【0004】
特許文献1には、プローブとなる電子線を透過させ、透過後の電子を検出することで、試料を観察する透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)や走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)、ならびに従来のTEM型ホルダおよびステージを使用するSEM向けに、液体試料やガス試料を電子線が透過できる薄膜状のウィンドウを備えた2つのマイクロ電子デバイスで挟み込んで真空中に保持するサンプルホルダが開示されている。
【0005】
特許文献2には、SEM用液状サンプル容器であって、電子ビーム透過性で流体不透過性の膜(「流体不透過膜」と称する)を備えたサンプルエンクロージャが開示されている。特許文献2のサンプル容器では、流体不透過膜の電子線照射面と対向する面に液状試料を付着させ、サンプル容器を準大気圧条件で密封し、真空内に保持する。観察を行う際には、一次電子線を流体不透過膜を貫通させて試料に当て、試料と相互作用して反射された反射電子を検出することで液体中の試料を観察する。
【0006】
特許文献3、4には染色処理や固定化処理を施すことなく、走査電子顕微鏡を用いて水溶液中の生物試料を生きたままの状態で観察するための観察システム、試料ホルダが開示されている。これらの観察システムでは、強度維持等の目的で設けたフレーム部に固定された第1の絶縁性薄膜、もしくは、同様に強度維持等の目的で設けたフレーム部に固定された第2の絶縁性薄膜のどちらかに、試料を含んだ水溶液(液状試料)もしくは試料を含んだゲル(ゲル状試料)を付着させ、両者の絶縁性薄膜を向かい合わせて挟み込むように固定することで試料ホルダを作成する。もしくは、第1と第2の絶縁性薄膜をあらかじめ向かい合わせて固定し、その隙間に水溶液を潅流させる機構を設けて液状試料を絶縁性薄膜の隙間に導入する。なお、以降では、特に明示しない場合には、ゲル状試料を含めて液状試料と呼称するものとする。
【0007】
特許文献3、4開示の観察システムでは、一方主面が観察試料の保持面である第1の絶縁性薄膜の他方主面に、積層された導電性薄膜を備え、導電性薄膜をグランド電位もしくは所定のバイアス電圧を印加した状態で導電性薄膜側から電子線を照射する。照射された電子線に起因して、第1の絶縁性薄膜の一方主面には局所的な電位変化が生じる。この電位変化に基づく信号を、観察試料を挟んで反対側に配置された第2の絶縁性薄膜の下方に設けた検出電極により検出する。
【0008】
検出電極により検出される第1の絶縁性薄膜に生じた電位変化に基づく信号は、観察試料を伝搬する。このときの信号の伝搬力には観察試料に応じた違いがあり、例えば、水は比誘電率が約80と高く、信号を良く伝搬させる一方、生物試料は比誘電率が2~3程度と低く、信号の伝搬力は低い。このため、観察試料を伝搬した電位変化信号の強度差に基づき、水溶液中の生物試料を染色処理や固定化処理を施すことなく、高いコントラストで観察することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2013-535795号公報
【文献】特表2006-518534号公報
【文献】特開2014-203733号公報
【文献】特開2016-72184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~4記載の観察システムにおいては、電子線による観察を行うため、試料が保持される空間を数十~数百nmの厚さの薄膜により真空から隔離する。このため、試料を薄膜で挟み込んだ状態の試料ホルダを大気圧状態の試料室もしくは試料交換室に配置し、試料室もしくは試料交換室を真空排気させる際、真空排気開始直後に急激な負荷が一瞬で薄膜にかかることにより、薄膜が破損するおそれがあることが見いだされた。薄膜が破損してしまうと、試料の損失や電子顕微鏡において筐体の汚染を発生させる。
【0011】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、試料ホルダ破損リスクを低減しつつ、簡便かつ高い観察スループットで、染色処理や固定化処理なしに生物化学試料や液状試料を状態の変化やダメージが無い非侵襲の状態で観察することを可能とする荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施態様である荷電粒子線装置は、試料ホルダが試料室または試料交換室に載置された状態で試料ホルダの周辺雰囲気を大気圧から真空排気するのに先立って、試料ホルダの有する検出電極からの検出信号を受信し、検出信号に基づき試料チャンバの異常を検知する。
【0013】
また、本発明の他の一実施態様である荷電粒子線装置は、試料交換室に光学系を有し、試料ホルダが試料交換室に載置された状態で、試料ホルダの周辺雰囲気を大気圧から真空排気する間、光学系により前記試料チャンバの状態を観察可能とされる。
【発明の効果】
【0014】
試料ホルダの破損リスクを低減しつつ、簡便かつ高い観察スループットで、生物化学試料や液状試料を観察することを可能とする。
【0015】
その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施例にかかる走査電子顕微鏡の構成図である。
図2A】第1の実施例にかかる走査電子顕微鏡の他の構成図である。
図2B】第1の実施例にかかる走査電子顕微鏡の他の構成図である。
図2C】第1の実施例にかかる走査電子顕微鏡の他の構成図である。
図3】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡の構成図である。
図4A】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡の他の構成図である。
図4B】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡の他の構成図である。
図4C】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡の他の構成図である。
図5A】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡のさらに他の構成図である。
図5B】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡のさらに他の構成図である。
図5C】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡のさらに他の構成図である。
図6A】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡のさらに他の構成図である。
図6B】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡のさらに他の構成図である。
図6C】第2の実施例にかかる走査電子顕微鏡のさらに他の構成図である。
図7】試料交換室前部に光学レンズを設けた例である。
図8】試料交換室前部に光学レンズを設けた例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
図1に実施例1にかかる走査電子顕微鏡の構成図を示す。筐体10は、観察対象である試料に対して電子線を照射する電子光学系が内蔵されるカラム610と試料が載置される試料室600とを含む。筐体10は電子線12を試料に照射する際には高真空環境とされる必要があるため、試料室600には室内の気圧を計測するための圧力センサ1017が設けられている。電子光学系は、電子銃11と、電子銃11から放出された電子線12を集束し、微小スポットとして試料チャンバ5に向けて照射するコンデンサレンズ60及び対物レンズ62、電子線12の非点収差を補正する非点収差補正器61、電子線12を試料200上で2次元的に走査する偏向器13を含む。試料室600には、3次元的に移動可能なステージ64が設けられている。ステージ64には、試料の観察にあたって、観察対象である試料200を保持する試料チャンバ5を固定した試料ホルダ1が搭載される。
【0019】
対物レンズ62の直下には検出器2が備えられている。検出器2は、電子線12の照射により試料200との相互作用により放出される反射電子を検出するものであり、例としては、半導体検出器やシンチレータ、ライトガイド、光電子増倍管からなる検出器が挙げられる。また、試料ステージ64の下部に検出器3が備えられている。検出器3は、試料200を透過した電子を検出するものであり、同様に、半導体検出器やシンチレータ、ライトガイド、光電子増倍管からなる検出器が用いられる。なお、本実施例において、走査電子顕微鏡は検出器2、検出器3のどちらか一方を備えているだけでもよく、両者を備えていてもよい。
【0020】
試料ホルダ1は、試料200を保持する試料チャンバ5と、試料200の周辺の空間を大気圧あるいは、試料室600よりも低い真空度の準大気圧状態に維持する真空隔壁とを有する。
【0021】
試料チャンバ5(図ではその断面図を示している)は、2つの数mm~十数mm角の積層体によって上下から挟み込むことによって試料200を保持する。試料チャンバ5の第1の積層体は、電子線12の照射面側に試料室内真空から試料200を隔離する絶縁性薄膜110を有し、絶縁性薄膜110は強度維持の目的で設けられている外枠部130によって支持されている。外枠部130は、逆ピラミッド状にくぼんだウィンドウ枠部313を有しており、ウィンドウ枠部313の底面にあたるウィンドウ領域310は矩形をしており、絶縁性薄膜110が電子線12の照射面側に露出している。第1の絶縁性薄膜110の材料としては窒化シリコン(SiN)や酸化シリコン(SiO)膜を、第1の外枠部130の材料としてはシリコン(Si)基板を用いることができる。
【0022】
試料200は、絶縁性薄膜110と絶縁性薄膜110に対向する試料保持層との間で保持される。試料200は、観察対象試料を含んだ、ガス状もしくは液状もしくはゲル状をしている。試料保持層は第2の積層体として構成され、第2の絶縁性薄膜111及び第2の絶縁性薄膜111を支持する第2の外枠部911を備えている。外枠部911は、逆ピラミッド状にくぼんだウィンドウ枠部912を有しており、ウィンドウ枠部912の底面にあたるウィンドウ領域913は矩形をしており、絶縁性薄膜111がステージ64側に露出している。第2のウィンドウ領域913は、試料チャンバ5の上面から見て、第1のウィンドウ領域310と同じまたは第1のウィンドウ領域310を覆う領域に形成されていることが望ましい。なお、第1の積層体と同様に、第2の絶縁性薄膜111の材料としては窒化シリコン(SiN)や酸化シリコン(SiO)膜を、第2の外枠部911の材料としてはシリコン(Si)基板を用いることができる。試料チャンバ5を構成する第1及び第2の積層体は半導体プロセス(MEMSプロセス)を用いて形成することができる。
【0023】
試料チャンバ5は、内部が中空の真空隔壁内に固定される。真空隔壁は、真空隔壁下部品6、真空隔壁上部品7で構成される。真空隔壁下部品6、真空隔壁上部品7は、例えばアルミなどの導体である。真空隔壁下部品6と真空隔壁上部品7とは、気密のためのシール材8を介して接続され、試料200の周辺の空間を大気圧あるいは、試料室よりも低い真空度の準大気圧状態に保持する。試料ホルダ1は、真空隔壁下部品6によりステージ64に搭載されることにより、試料200はステージ64に対して電気的に絶縁された状態で、ステージ64に載置される。
【0024】
電子光学系、ステージ64、及び後述する筐体10内の空間を真空環境とするための真空排気系は主制御部14によって制御される。主制御部14は表示部16が接続されたコンピュータ15に接続されている。コンピュータ15及び表示部16上のユーザーインターフェース(GUI)を用いて、ユーザーは走査電子顕微鏡を操作する。コンピュータ15はユーザーがGUIを用いて入力した命令を主制御部14に伝達し、主制御部14はその命令にしたがって走査電子顕微鏡の各構成を制御する。さらに、コンピュータ15は主制御部14からの画像データに対する画像処理や、表示部16への表示を行う。
【0025】
図1の走査電子顕微鏡により試料の観察を行う前、ユーザーは試料室600が大気環境になった状態で、試料200を試料チャンバ5により保持した試料ホルダ1をステージ64に搭載する。このとき、試料チャンバ5の絶縁性薄膜が破損していないことを目視やその他の手段により確認しておくことが好ましい。試料ホルダ1をステージ64に搭載して試料室600を密閉して真空排気が可能な状況となった後、ユーザーはGUIを用いて主制御部14に対し、試料室600の真空排気開始を命令する。
【0026】
試料室600の真空排気が開始されると、主制御部14は、試料室600に設置した圧力センサ1017の読み値もしくは、真空排気開始からの時間経過によって試料室600の真空度を判断し、電子線照射による像観察が可能となったと判断した場合には、コンピュータ15を介して表示部16にその旨を表示させる。なお、試料室600の真空排気方法の詳細については後述する。
【0027】
その後、ユーザーはGUIを用いて観察開始の命令を入力する。主制御部14は、試料チャンバ5上への電子線12の照射位置ごとに検出器2または、検出器3の出力を受信し、その強度に応じた画素階調データに変換し、偏向速度によって1フレーム走査の完了ごと、あるいは1ライン走査の完了ごと、あるいは1画素走査の完了ごとに画像データとしてコンピュータ15に出力する。画像データはコンピュータ15によって必要に応じて画像処理を施され、表示部16に表示される。
【0028】
なお、試料ホルダ1を用いる観察においては、電子線12の加速電圧は、第1の絶縁性薄膜110を透過する程度の高加速電圧に設定されることが好ましい。これは、検出器2もしくは検出器3において、一次電子線12と試料200とが相互作用して生じた電子を検出するためである。
【0029】
試料室600の真空引きを行うにあたり、図1に示される通り、試料チャンバ5の第1の絶縁性薄膜110と第2の絶縁性薄膜111とはそのウィンドウ領域において、試料200を挟み込んだ状態で試料室600に露出されている。また、絶縁性薄膜の厚みはそれぞれ10nm~20nm程度に過ぎない。走査電子顕微鏡の観察スループットを向上させるため、試料室600の真空引きに要する時間は短い程望ましく、通常、真空排気系により試料室600内の気圧は指数関数的に低下させられる。一方で、試料200の周辺の空間は真空隔壁により大気圧あるいは準大気圧状態に維持されるよう、気密が保たれている。このため、特に真空引き開始直後において試料室600内の気圧が急激に低下し、第1の絶縁性薄膜110または第2の絶縁性薄膜111の内外の圧力差により、それぞれの絶縁性薄膜には真空側(試料室600側)におされるような負荷がかかる。これにより、第1の絶縁性薄膜110と第2の絶縁性薄膜111間の容積は瞬間的に大きく変動し、これにともない、挟み込まれている試料200が激しく絶縁性薄膜に衝突して絶縁性薄膜を破損するおそれがある。試料にスパイク状構造物を含んでいる場合は、特に瞬間的な圧力変動による絶縁性薄膜の破損が生じやすい。
【0030】
そこで、図1の走査電子顕微鏡では、試料チャンバ5の絶縁性薄膜の破損リスクを低減可能な初段真空排気系1000を備えることとした。初段真空排気系1000は、真空ポンプ1009、スロー排気経路1010、高速排気経路1011及び各排気経路用のバルブを備えている。例えば、スロー排気経路1010の配管直径は、高速排気経路1011の配管直径より小さくされることにより、排気能力が制限されている。なお、高速排気経路1011のコンダクタンスがスロー排気経路1010のコンダクタンスよりも大きくされていればよく、配管直径の違いは一例である。また、スロー排気経路1010はスロー排気経路用バルブ1014を、高速排気経路1011は高速排気経路用バルブ1015を備えている。スロー排気経路用バルブ1014及び高速排気経路用バルブ1015はともに開閉バルブである。
【0031】
真空ポンプ1009は大気圧から使用できる真空ポンプが好ましく、その例として、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ、ドライポンプが挙げられる。なお、試料室600には、高真空条件を作り出すため、図示しない次段の高速真空排気系を設けるのが好適である。次段の高速真空排気系には、高い到達真空度を持つターボ分子ポンプや油拡散ポンプやイオンポンプやクライオポンプ等を用いることが望ましい。
【0032】
以下、本実施例における初段の真空排気について説明する。初段真空排気系1000により試料室600の真空引きを開始する際、主制御部14は、高速排気経路用バルブ1015はCLOSE(閉)の状態かつ、スロー排気経路用バルブ1014はOPEN(開)の状態として、真空ポンプ1009により真空引きを開始する。主制御部14は、圧力センサ1017の読み値もしくは真空排気開始からの経過時間に基づき、スロー排気経路用バルブ1014をCLOSEにするとともに、高速排気経路用バルブ1015をOPENにする。このように試料室600の真空排気を開始する際に、スロー排気期間を設けることで、試料チャンバ5の絶縁性薄膜に急激な負荷がかかることを抑制し、絶縁性薄膜の破損リスクを低減することができる。
【0033】
真空排気開始の際に絶縁性薄膜に生じる急激な負荷をさらに低減させるため、スロー排気経路1010のスロー排気経路用バルブ1014より試料室600側に、排気流量調整バルブ1016を設けてもよい(図1は、排気流量調整バルブを設けた形態を示している)。この排気流量調整バルブ1016は、主制御部14により制御してもよく、ユーザーが手動にて制御してもよい。排気流量調整バルブ1016を用いる場合、初段真空排気系1000により試料室600の真空引きを開始する際、主制御部14は、高速排気経路用バルブ1015はCLOSEの状態、排気流量調整バルブ1016はCLOSEの状態、かつスロー排気経路用バルブ1014はOPENの状態として、真空ポンプ1009により真空引きを開始する。主制御部14は、圧力センサ1017の読み値もしくは真空排気開始からの経過時間に基づき、排気流量調整バルブ1016を操作して徐々に排気流量を増大させる。その後、主制御部14は、圧力センサ1017の読み値もしくは真空排気開始からの経過時間に基づき、スロー排気経路用バルブ1014をCLOSEにして高速排気経路用バルブ1015をOPENにする。
【0034】
なお、排気流量調整バルブ1016を用いる場合は、後述するように、スロー排気経路1010と高速排気経路1011との2系統の排気経路を設けることなく、1系統の排気経路とすることができる。この場合、主制御部14は、圧力センサ1017の読み値もしくは真空排気開始からの経過時間によって試料室600が所定の真空度に達したことを判断し、次段の高速真空排気系による試料室600の真空引きを開始させる。なお、排気流量調整バルブ1016をユーザーがマニュアルで操作する場合には、主制御部14は、次段の高速真空排気系による試料室600の真空引きの開始は、圧力センサ1017の読み値から判断を行う。
【0035】
このように、実施例1においては、スロー排気期間を設けて真空排気開始時の急激な圧力変化を緩和することで、試料チャンバの絶縁性薄膜の破損リスクを低減する。
【0036】
図2Aに実施例1にかかる走査電子顕微鏡の他の構成図を示す。なお、主制御部14、コンピュータ15、表示部16は図1の走査電子顕微鏡と同様であるため、記載を省略している。図2Aに示す走査電子顕微鏡は試料室600とゲートバルブ1107によって仕切られた試料交換室1100を備え、試料交換室1100には試料チャンバ5の絶縁性薄膜の破損リスクを低減可能な初段真空排気系1000aが設けられている。
【0037】
試料交換室1100は、試料交換室前部1101と試料交換室後部1102とを有する。試料交換室前部1101は、試料交換棒1103と、試料交換棒1103に試料ホルダ1を接続する試料ホルダアタッチメント1104とを備える。試料交換室後部1102は、初段真空排気系1000aと試料交換室用シール材1106とゲートバルブ1107とを備える。また、試料交換室後部1102には、試料交換室1100内の気圧を計測するための試料交換室用圧力センサ1108を設けてもよい。図2における初段真空排気系1000aは、1系統の排気経路を有し、真空ポンプ1009、スロー排気経路1010、スロー排気経路用バルブ1014及び排気流量調整バルブ1016を備えている。
【0038】
図2A~Cを用いて、観察までの操作を説明する。まず、図2Aに示すように、試料交換室1100内部が大気圧の状態で、あらかじめ準備した試料ホルダ1を試料ホルダアタッチメント1104により試料交換棒1103に接続し、試料交換室前部1101内に格納する。このとき、試料室600は、図示しない真空排気系により既に電子線照射が可能な程度の高真空状態に真空排気されている。
【0039】
続いて、図2Bに示すように、試料交換室前部1101を試料交換室後部1102に固定する。後述する真空引きの際、試料交換室用シール材1106によって、試料交換室1100内部は、外部の大気圧雰囲気からシールされる。この状態で、ユーザーによる排気開始命令を受けると、主制御部14は、排気流量調整バルブ1016はCLOSEの状態かつ、スロー排気経路用バルブ1014はOPENの状態として、真空ポンプ1009により試料交換室1100の真空引きを開始する。
【0040】
主制御部14は、圧力センサ1108の読み値もしくは真空排気開始からの経過時間に基づき、排気流量調整バルブ1016を操作して徐々に排気流量を増大させる。主制御部14は、圧力センサ1108の読み値もしくは真空排気開始からの経過時間によって、試料交換室1100が所定の真空度に達したと判断した場合には、ゲートバルブ1107のロックを解除し、GUIを用いてユーザーにその旨を知らせる。なお、排気流量調整バルブ1016をユーザーがマニュアルで操作した場合には、主制御部14は、試料交換室1100の真空度の判断を圧力センサ1108の読み値から行う。
【0041】
ユーザーはGUIを用いてゲートバルブ1107をOPEN(開)とする指示を出し、図2Cに示すように、試料交換棒1103を押し込んで、試料ホルダ1を試料室600内に挿入し、試料ホルダ1をステージ64に搭載する。その後、ユーザーは、試料ホルダアタッチメント1104と試料ホルダ1との接続を解除し、試料交換棒1103を試料交換室前部1101まで引き出し、GUIを用いて再度ゲートバルブ1107をCLOSE(閉)とする。主制御部14は、ゲートバルブ1107がCLOSEされたことを確認し、電子線照射による像観察が可能となった段階で、コンピュータ15を介して表示部16にその旨を表示させる。この状態でユーザーはGUIを用いて観察開始の命令を入力する。
【0042】
このように、急激な圧力変化を緩和する真空引きを、より容積の小さな試料交換室で行うことにより、試料チャンバの薄膜破損リスクを低減しつつ、迅速な試料ホルダ交換が実現でき、観察スループットを向上できる。
【0043】
なお、本実施例においても後述する図4A~Cや図7,8において示すような光学系を試料交換室に備え、試料チャンバの状態を観察可能にしてもよい。
【実施例2】
【0044】
図3に実施例2にかかる走査電子顕微鏡の構成図を示す。筐体10は、観察対象である試料に対して電子線を照射する電子光学系が内蔵されるカラム610と試料が載置される試料室600とを含む。筐体10は電子線12を試料に照射する際には高真空環境とされる必要があるため、試料室600には室内の気圧を計測するための圧力センサ1017が設けられている。電子光学系は、電子銃11と、電子銃11から放出された電子線12を集束し、微小スポットとして試料チャンバ100に向けて照射するコンデンサレンズ60及び対物レンズ62、電子線12の非点収差を補正する非点収差補正器61、電子線12を試料チャンバ100上で2次元的に走査する偏向器13を含む。また、この例では、静電ブランカ63を設けている。静電ブランカ63は、後述するように電子線12の進行方向(光軸方向)に対して垂直な静電場を発生させる。さらに、カラム610は、ガンバルブ1001を備えている。カラム610の中でも電子銃11の周囲は特に高い高真空状態が要求される。このため、電子線12を試料に向けて照射しない状態では、ガンバルブ1001は常にCLOSE(閉)の状態とされており、電子線照射を行うときにOPEN(開)とされる。ガンバルブ1001よりも電子銃11側のカラム610内は、図示しない真空系により真空排気されている。試料室600には、3次元的に移動可能なステージ64が設けられ、ステージ64には、観察対象である試料200を保持する試料チャンバ100を固定した試料ホルダ101が搭載される。
【0045】
試料ホルダ101は、試料200を保持する試料チャンバ100と、試料200の周辺の空間を大気圧あるいは、試料室600よりも低い真空度の準大気圧状態に維持する真空隔壁と、真空隔壁に設置された検出電極820と、検出電極820に接続される信号検出部50と、外部との電気信号通信用の端子1012とを有する。
【0046】
試料チャンバ100(図ではその断面図を示している)は、2つの数mm~十数mm角の積層体によって上下から挟み込むことによって試料200を保持する。試料チャンバ100の第1の積層体は、電子線12の照射面側に試料室内真空から試料200を隔離する隔膜を備えている。隔膜は、試料200側に第1の絶縁性薄膜110、電子線12が入射する側に導電性薄膜120の少なくとも2層を有している。第1の絶縁性薄膜110は強度維持の目的で設けられている外枠部130によって支持され、導電性薄膜120は、外枠部130及び第1の絶縁性薄膜110上に均一に形成されている。外枠部130は、逆ピラミッド状にくぼんだウィンドウ枠部313を有しており、ウィンドウ枠部313の底面にあたるウィンドウ領域310は矩形をしている。ウィンドウ領域310において、第1の絶縁性薄膜110と導電性薄膜120とは互いに接している。第1の絶縁性薄膜110の材料としては窒化シリコン(SiN)や酸化シリコン(SiO)膜を、第1の外枠部130の材料としてはシリコン(Si)基板を用いることができる。また、導電性薄膜120はタングステン、タンタルなどの金属薄膜を用いることができる。
【0047】
試料200は、隔膜と隔膜に対向する試料保持層との間で保持される。試料200は、観察対象試料を含んだ、液状もしくはゲル状をしている。試料保持層は、第2の積層体として構成され、第2の絶縁性薄膜111及び第2の絶縁性薄膜111を支持する第2の外枠部911を備えている。外枠部911は、逆ピラミッド状にくぼんだウィンドウ枠部912を有しており、ウィンドウ枠部912の底面にあたるウィンドウ領域913は矩形をしており、絶縁性薄膜111がステージ64側に露出している。試料チャンバ100が真空隔壁に固定されたときは、絶縁性薄膜111と真空隔膜に配置された検出電極820とは対向する位置となる。第2のウィンドウ領域913は、試料チャンバ100の上面から見て、第1のウィンドウ領域310と同じまたは第1のウィンドウ領域310を覆う領域に形成されていることが望ましい。第1の積層体と同様、第2の絶縁性薄膜111の材料としては窒化シリコン(SiN)や酸化シリコン(SiO)膜を、第2の外枠部911の材料としてはシリコン(Si)基板を用いることができる。試料チャンバ100を構成する第1の積層体及び第2の積層体は半導体プロセス(MEMSプロセス)を用いて形成することができる。
【0048】
試料チャンバ100は内部が中空の真空隔壁内に固定される。真空隔壁は、真空隔壁下部品920、真空隔壁上部品921で構成される。真空隔壁下部品920は、例えばアクリル等の絶縁体であり、真空隔壁上部品921は例えばアルミなどの導体である。真空隔壁上部品921は、試料チャンバ100の導電性薄膜120と接触されることにより、電気的に接続されている。真空隔壁下部品920には、真空隔壁上部品921、ステージ64、試料チャンバ100のそれぞれから電気的に絶縁された検出電極820が設けられている。具体的には、検出電極820は、第2の積層体の絶縁性薄膜111および外枠部911の両者と非接触の状態で、第2の積層体のウィンドウ枠部912と真空隔壁下部品920とで形成される空間に保持されている。真空隔壁下部品920と真空隔壁上部品921とは、気密のためのシール材923を介して接続され、ウィンドウ枠部912および試料200の周辺の空間を大気圧あるいは、試料室よりも低い真空度の準大気圧状態に保持する。試料ホルダ101は、真空隔壁下部品920によりステージ64に載置されることにより、試料チャンバ100はステージ64に対して電気的に絶縁された状態で、ステージ64に載置される。
【0049】
電子光学系、ステージ64、筐体10内の空間を真空環境とするための真空排気系、及び後述する検出電極820からの信号検出に必要なバイアス電位を試料チャンバ100に印加するバイアス電源部20は主制御部14によって制御される。主制御部14は表示部16が接続されたコンピュータ15に接続されている。コンピュータ15及び表示部16上のユーザーインターフェース(GUI)を用いて、ユーザーは走査電子顕微鏡を操作する。コンピュータ15はユーザーがGUIを用いて入力した命令を主制御部14に伝達し、主制御部14はその命令にしたがって走査電子顕微鏡の各構成を制御する。さらに、コンピュータ15は主制御部14からの画像データに対する画像処理や、表示部16への表示を行う。
【0050】
試料ホルダ101の備える端子1012は、ステージ64に設置されたコネクタ1013に接続される。コネクタ1013は、試料室600外に配置されたバイアス電源部20と主制御部14とに接続されている。端子1012とコネクタ1013が接続されることにより、バイアス電源部20の出力するバイアス電位が試料チャンバ100の導電性薄膜120に供給可能となる。バイアス電源部20は、主制御部14の制御により、試料チャンバ100の導電性薄膜120に、検出電極820の電位に対して同電位もしくは異なるバイアス電位を供給する。一方、検出電極820は、信号検出部50に接続されており、信号検出部50は、検出電極820が検出した電気信号を増幅し、電圧信号として出力する。信号検出部50の出力した電圧信号は、端子1012及びコネクタ1013を介して、主制御部14に送信される。
【0051】
図3の走査電子顕微鏡により試料の観察を行う前、ユーザーは試料室600が大気環境になった状態(この状態では、ガンバルブ1001はCLOSEの状態とされている)で、試料ホルダ101をステージ64に搭載し、端子1012をコネクタ1013に接続する。このとき、試料チャンバ100の絶縁性薄膜110、111、導電性薄膜120が破損していないことを目視やその他の手段により確認しておくことが好ましい。試料ホルダ101をステージ64に搭載して試料室600を密閉して真空排気が可能な状況となった後、ユーザーはGUIを用いて主制御部14に対し、試料室600の真空排気開始の命令を入力する。主制御部14は、真空排気を開始する前にバイアス電源部20を動作させ、試料チャンバ100の導電性薄膜120にバイアス電位を供給する。主制御部14は、信号検出部50からの電圧信号を受信する。これ以降、ユーザーによる観察が終了して試料室600の大気開放が開始されるまで、主制御部14は信号検出部50から出力された電気信号を受信し続けることが望ましい。これにより、後述する本実施例の試料チャンバ100の破損検出機能を、試料ホルダ101が試料室600内にある間、継続的に利用することができる。
【0052】
また、主制御部14は、バイアス電源部20から検出電極820へ過剰なリーク電流が流れているか否かを検知する機能を有する。試料チャンバ100に保持された試料200が漏れ出し、検出電極820と接触すると、バイアス電源部20から検出電極820へ大きなリーク電流が流れ、このリーク電流がノイズ源となって観察ができなくなる。これは、試料200を試料チャンバ100に保持させる際、挟み込んだ試料が多すぎると、絶縁性薄膜の間から漏れ出した試料が導電性薄膜と検出電極とに接触してしまうことで生じる。あるいは試料ホルダ1を筐体内に搭載したときは接触していなくても、真空引きの際に生じる衝撃で試料が絶縁性薄膜の間から漏れ出し、導電性薄膜と検出電極とに接触してしまう場合もある。そこで、主制御部14は、あらかじめ設けた閾値以上のリーク電流を検出すると、コンピュータ15を介して表示部16に過剰なリーク電流が流れていることを知らせるアラートを出力する。これにより、ユーザーは、試料室600の真空排気を始める前に、試料室600からの試料ホルダ101の取り出しを行うことができる。
【0053】
リーク電流異常がみられない場合には、主制御部14は、試料室600の真空排気を開始し、試料室600に設置した圧力センサ1017の読み値もしくは、真空排気開始からの時間経過によって試料室600内の真空度を判断し、電子線照射による像観察が可能となったと判断した場合には、コンピュータ15を介して表示部16にその旨を表示させる。その後、ユーザーはGUIを用いて観察開始の命令を入力する。観察開始命令を受け取った主制御部14は、ガンバルブ1001をOPENの状態とし、筐体10の各構成を制御して観察を開始する。
【0054】
主制御部14では、試料チャンバ100上への電子線12の照射位置ごとに試料ホルダ101の信号検出部50から出力された電圧信号を、その強度に応じた画素階調データに変換し、偏向速度によって1フレーム走査の完了ごと、あるいは1ライン走査の完了ごと、あるいは1画素走査の完了ごとに画像データとしてコンピュータ15に出力する。画像データはコンピュータ15によって必要に応じて画像処理を施され、表示部16に表示される。
【0055】
本実施例における信号検出原理を簡単に説明する。導電性薄膜120を検出電極820に対して同電位もしくは所定のバイアス電位に保った状態で、導電性薄膜120側から電子線12を照射する。照射された電子線に起因して、第1の絶縁性薄膜110の試料200に接する面には局所的な電位変化が生じる。この電位変化に基づく電気信号を、試料200を挟んで反対側に配置された第2の絶縁性薄膜111の下方に設けた検出電極820により検出する。前述した局所的な電位変化は、第1の絶縁性薄膜110の直下にある試料200の誘電率に依存する。このため、検出電極820では、絶縁性薄膜110直下にある試料200の誘電率分布に依存した強度の電気信号が検出される。これにより、検出電極820の検出信号に基づく画像データには観察対象試料のコントラストが反映される。
【0056】
このため、電子線12の加速電圧は、第1の絶縁性薄膜110をほぼ透過しない程度の低加速電圧に設定されることが好ましい。これは、電子線12が導電性薄膜120を貫通するようにして第1の絶縁性薄膜110へ効率的に電子を供給するためと、第1の絶縁性薄膜110を貫通した電子線12が試料にダメージを与えるリスクを低減するためである。
【0057】
ここで、実施例1の試料チャンバ5と同様、実施例2の試料チャンバ100も、試料室600の真空引きを行う際に、絶縁性薄膜が破損するリスクを有している。このため、図3に示す走査電子顕微鏡においては、試料チャンバ100の破損リスクを低減する初段真空排気系1000を備えることが望ましい。初段真空排気系1000の構成、動作については実施例1と同様であるため、重複する説明については省略する。
【0058】
さらに、本実施例の構成では、前述のように試料ホルダ101が信号検出器として機能していることから、主制御部14は、信号検出部50の出力信号から絶縁性薄膜の破損を検知することができる。
【0059】
試料チャンバ100の絶縁性薄膜が破損した場合には、導電性薄膜120も同時に破損することにより、導電性薄膜120と検出電極820とで構成されるコンデンサーの容量Cが急激に変化し、信号検出部50からパルス状の大きな電圧信号が出力される。このパルス状電圧信号は、正常な観察プロセスで信号検出部50により検出される信号波形とは容易に区別できるので、これを検知することで、主制御部14は、絶縁性薄膜が破損したことを検知できる。主制御部14は、試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損を検知すると、コンピュータ15を介して表示部16に試料チャンバ破損のアラートを出力し、試料室600の大気開放による試料ホルダ101の取り出しを行うか否かの選択をユーザーに提示する。
【0060】
これにより、例えば試料室600の真空引きの途中で絶縁性薄膜が破損した場合において、それを検知できるため、試料交換を迅速に行え、観察スループットを向上させることができる。
【0061】
さらに、電子線照射中に、前述の試料チャンバ100の破損検出機能により絶縁性薄膜の破損が検知された場合には、主制御部14は電子銃11を保護するため、以下の動作を行うことが望ましい。電子線照射中に試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損を検知した主制御部14は、ただちに、ガンバルブ1001をCLOSEの状態とし、試料チャンバ100から漏れ出した試料やガスが原因で電子銃11近傍の真空度が低下するのを抑制する。これによって電子銃11をダメージから保護する。
【0062】
加えて、破損時に発生した試料起源のイオンが吹き上がり、高速でカラム610内を逆流して電子銃11と衝突するのを防ぐため、静電ブランカ63を用いてもよい。この場合、絶縁性薄膜の破損を検知した主制御部14は、ただちに静電ブランカ63を動作させ、電子線12の進行方向に対して垂直な電場を発生させる。これにより、試料起源のイオンは光軸外に偏向される。これによって電子銃11をダメージから保護する。
【0063】
以上のように、真空引き前から試料室の大気開放に至るまで信号検出部50の出力信号をモニタすることにより、試料チャンバの絶縁性薄膜の異常を即時に検知でき、観察スループットを向上させ、さらに、試料チャンバの破損に伴う汚染から電子銃11を保護することができる。
【0064】
図4Aに実施例2にかかる走査電子顕微鏡の他の構成図を示す。なお、バイアス電源部20、主制御部14、コンピュータ15、表示部16は図3の走査電子顕微鏡と同様であるため、記載を省略している。図4Aに示す走査電子顕微鏡は、試料室600とゲートバルブ1107によって仕切られた試料交換室1100を備えている。この場合も、試料交換室1100に試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損リスクを低減する初段真空排気系1000aを有することが望ましい。なお、初段真空排気系1000aに代えて図3に示した初段真空排気系1000を備えてもよい。また、試料交換室1100内で試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損を検知するための光学顕微鏡1105を備えている。以下、実施例1の図2A~Cで説明した試料交換室1100の構成、操作について、重複する説明については省略するものとする(試料チャンバ5を試料チャンバ100、試料ホルダ1を試料ホルダ101等に読み替える)。
【0065】
図4Aに示す試料交換室前部1101には、試料交換室1100の真空引き中に試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損を検知するため、光学顕微鏡1105が備えられている。光学顕微鏡1105は、ユーザーが目視で画像を確認できる方式でもよく、CCDカメラ等を搭載してデジタル画像を主制御部14に送信できる方式でもよく、両者をユーザーが切り替えられる方式でもよい。
【0066】
図4Bの状態において、試料交換室1100の真空引きがなされる。この間、光学顕微鏡1105の画像によって、試料チャンバ100の破損を検知する。検知は、ユーザーが目視で行ってもよいし、光学顕微鏡1105の画像データが主制御部14に送信されている場合には、画像データを受信した主制御部14が画像処理によって破損を検知してもよい。
【0067】
ユーザーが目視により、試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損を検知した場合、ユーザーは、試料交換室1100の真空引きを中止し、GUIを用いて試料交換室1100の大気開放を行い、試料ホルダ101を取り出して試料チャンバ100を交換する。主制御部14が画像処理によって試料チャンバ100の破損を検知した場合、主制御部14は、コンピュータ15を介して表示部16に試料チャンバ破損のアラートを出力し、試料交換室1100を大気開放して試料ホルダ101の取り出しを行うか否かの選択をユーザーに提示する。
【0068】
主制御部14は、試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損が検知されることなく、試料交換室1100が所定の真空度に達したと判断された場合には、ゲートバルブ1107のロックを解除し、GUIを用いてユーザーにそのことを知らせる。ユーザーはGUIを用いてゲートバルブ1107をOPENとする指示を出し、図4Cに示すように、試料交換棒1103を押し込んで、試料ホルダ101を試料室600内に挿入し、試料ホルダ101をステージ64に搭載する。このとき、試料ホルダ101の端子1012が試料室600内のコネクタ1013に接続される。これにより、バイアス電源部20からのバイアス電位が導電性薄膜120に供給可能となり、信号検出部50からの電圧信号は主制御部14に送信可能となる。
【0069】
本構成によれば、急激な圧力変化を緩和する真空引きを、絶縁性薄膜の破損検知を行いつつ、容積の小さな試料交換室で行なえるため、薄膜破損リスクを低減しつつ、より迅速な試料ホルダ交換が実現でき、観察スループットを向上できる。
【0070】
図5Aに実施例2にかかる走査電子顕微鏡のさらに他の構成図を示す。図5Aでは、ゲートバルブ1107から試料室側の構造物(筐体10等)は共通であるため、記載を省略している。図5Aに示す走査電子顕微鏡は、試料交換室1100を備え、初段真空排気系1000aにより試料交換室1100を真空引きする際、試料ホルダ101の検出電極820の出力から、検出電極820に流れるリーク電流異常、及び試料チャンバ100の絶縁膜破損を検知可能とする。なお、初段真空排気系1000aに代えて図3に示した初段真空排気系1000を備えてもよい。以下、実施例1の図2A~Cまたは実施例2の図4A~Cで説明した試料交換室1100の構成、操作について、重複する説明については省略するものとする(試料チャンバ5を試料チャンバ100、試料ホルダ1を試料ホルダ101等に読み替える)。
【0071】
試料交換室1100において検出電極820の出力を検出可能とするため、図5Aに示すように、試料交換室後部1102はコネクタ固定具1225とコネクタ格納室1221とを備え、コネクタ格納室1221には、コネクタ挿入棒1222に保持されたコネクタ1223が格納されている。コネクタ1223は、バイアス電源部1224と主制御部14とに接続されている。さらに、この例では、試料交換室後部1102には光学顕微鏡1105を設けている。光学顕微鏡1105は、図4Aの構成において試料交換室前部1101に設けられたのと同様、試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損を検知するために設けられている。なお、バイアス電源部1224は、試料室600内のコネクタ1013と接続されるバイアス電源部20(図3参照)と共通に設けても、独立に設けても構わない。
【0072】
試料交換室1100の真空引きが行うため、まず、図5Aに示す試料交換室前部1101が試料交換室後部1102に固定される。続いて、試料交換室1100内の気圧は大気圧のまま、図5Bに示すように、コネクタ挿入棒1222を押し込み、コネクタ1223がコネクタ固定具1225に当たるまで試料交換室後部1102に挿入する。続いて、図5Cに示すように、試料交換棒1103を押し込んで、試料ホルダ101を試料交換室後部1102内に挿入する。このとき、試料ホルダ101の端子1012が試料交換室後部1102のコネクタ1223に接続される。端子1012とコネクタ1223とが接続されることにより、バイアス電源部1224の出力するバイアス電位が試料チャンバ100の導電性薄膜120に供給可能となる。バイアス電源部1224は、主制御部14の制御により、試料チャンバ100の導電性薄膜120に、検出電極820の電位に対して同電位もしくは異なるバイアス電位を供給する。一方、検出電極820は、信号検出部50に接続されており、信号検出部50は、検出電極820が検出した電気信号を増幅し、電圧信号として出力する。信号検出部50の出力した電圧信号は、端子1012及びコネクタ1223を介して、主制御部14に送信される。
【0073】
この状態で、ユーザーはGUIを用いて主制御部14に対し、真空排気開始の命令を入力する。主制御部14は、真空排気を開始する前にバイアス電源部1224を動作させ、試料チャンバ100の導電性薄膜120にバイアス電位を供給する。主制御部14は、信号検出部50からの電圧信号を受信する。
【0074】
主制御部14は、バイアス電源部1224から検出電極820へ過剰なリーク電流が流れているか否かを判断する。主制御部14は、あらかじめ設けた閾値以上のリーク電流を検出すると、コンピュータ15を介して表示部16に過剰なリーク電流が流れていることを知らせるアラートを出力する。これにより、ユーザーは、試料交換室1100の真空排気を始める前に、試料交換室1100からの試料ホルダ101の取り出しを行うことができる。リーク電流異常がみられない場合には、主制御部14は、試料交換室1100の真空排気を開始する。
【0075】
前述の通り、試料交換室1100の真空引きを行っている間に試料チャンバ100の絶縁性薄膜が破損するおそれがある。本構成では試料交換室1100において導電性薄膜120にバイアス電圧を印加した状態で信号検出部50からの信号を検知できるようになっていることから、主制御部14は、信号検出部50からパルス状の大きな電圧信号が出力された場合には、それを検知することによって、試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損を検知することができる。主制御部14は、試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損を検知すると、コンピュータ15を介して表示部16に試料チャンバ破損のアラートを出力し、試料交換室1100の大気開放による試料ホルダ101の取り出しを行うか否かの選択をユーザーに提示する。
【0076】
さらに、試料交換室後部1102に光学顕微鏡1105を設ける場合には、図4A~Cの構成の場合と同様に試料チャンバ100の破損を検知できる。主制御部14が画像処理によって試料チャンバ100の破損を検知した場合は、同様に主制御部14は、コンピュータ15を介して表示部16に試料チャンバ破損のアラートを出力し、試料交換室1100を大気開放して試料ホルダ101の取り出しを行うか否かの選択をユーザーに提示する。
【0077】
リーク電流異常や試料チャンバ100の絶縁性薄膜の破損の検知がされることなく、試料交換室1100が所定の真空度に達したと判断された場合には、主制御部14は、ゲートバルブ1107のロックを解除し、GUIを用いてユーザーにそのことを知らせる。ユーザーは、ゲートバルブ1107のロック解除を確認した後、試料交換棒1103を引いて試料ホルダ101を試料交換室前部1101に移動させ(図5B参照)、コネクタ挿入棒1222を引いてコネクタ1223をコネクタ格納室1221に格納する。続いて、GUIを用いてゲートバルブ1107をOPENとする指示を出し、試料交換棒1103を押し込んで、試料ホルダ101を試料室600内に挿入し、試料ホルダ101をステージ64に搭載する。このとき、図4Cと同様に、試料ホルダ101の端子1012が試料室600内のコネクタ1013に接続される。これにより、バイアス電源部20からのバイアス電位が導電性薄膜120に供給可能となり、信号検出部50からの電圧信号は主制御部14に送信可能となる。
【0078】
本構成によれば、試料交換室において真空引きを行う場合においても、リーク電流異常検知と試料チャンバの絶縁性薄膜の破損検知を行えるため、真空引き前、あるいは真空引きの途中に試料ホルダに不具合が生じた場合、迅速に試料ホルダの交換を行うことができ、観察スループットを向上できる。
【0079】
図6Aに実施例2にかかる走査電子顕微鏡のさらに他の構成図を示す。図6Aでも、ゲートバルブ1107から試料室側の構造物(筐体10等)は共通であるため、記載を省略している。図6Aに示す走査電子顕微鏡は、試料交換室1100を備え、初段真空排気系1000aにより試料交換室1100を真空引きする際、試料ホルダ101の検出電極820の出力から、検出電極820に流れるリーク電流異常、及び試料チャンバ100の絶縁膜破損を検知可能とするに加えて、本観察時の信号強度を事前に確認可能とする。なお、初段真空排気系1000aに代えて図3に示した初段真空排気系1000を備えてもよい。以下、実施例1の図2A~C、実施例2の図4A~Cまたは図5A~Cで説明した試料交換室1100の構成、操作について、重複する説明については省略するものとする(試料チャンバ5を試料チャンバ100、試料ホルダ1を試料ホルダ101等に読み替える)。
【0080】
図6Aに示す試料交換室後部1102には、電子源1301を備える。電子源1301は、例えば、タングステンフィラメントとウェネルト電極およびアノード電極からなるタングステン熱電子源である。
【0081】
図6Bに、試料ホルダ101の端子1012が試料交換室後部1102のコネクタ1223を接続させた状態を示している。端子1012とコネクタ1223とが接続されることにより、バイアス電源部1224からのバイアス電位が導電性薄膜120に供給可能となり、信号検出部50からの信号が主制御部14に送信可能となる。この状態で、電子源1301を使って本観察時の信号強度の事前確認を行うことができる。
【0082】
電子源1301を使って本観察時の信号強度の事前確認を行う場合、ユーザーは、GUIを用いて、事前確認を行うよう命令を発し、本観察時に設定する加速電圧を入力する。主制御部14は電子源1301を動作させ、設定した加速電圧で加速された電子線を試料チャンバ100に照射する。この状態において、信号検出部50で検出された信号は、本観察時に得られる信号と同じ原理で得られる信号であるため、得られる信号強度を事前に予測することができる。
【0083】
なお、電子源1301を使って得られる信号強度を定量的に評価するためには、ウィンドウ枠部313およびウィンドウ領域310と同じ形状の入射口を備えたファラデーカップホルダを用いて、試料の観察の事前もしくは事後に、電子源1301からの電子線の電流量を測定すればよい。図6Cに、試料ホルダ101に代えて、ファラデーカップホルダ1302を挿入し、電子源1301の電子線電流量を計測する様子を示している。ファラデーカップホルダ1302は、試料ホルダ101において、真空隔壁に固定された試料チャンバ100をファラデーカップに置き換えたものに相当し、ファラデーカップを構成するファラデーカップ上部材1303、ファラデーカップ下部材1304及び検出電極1305と、検出電極1305に接続される信号検出部50と、外部との電気信号通信用の端子1012とを有する。
【0084】
ファラデーカップ上部材1303は金属であり、その開口部は試料チャンバ100の電子線照射側のウィンドウ枠部313と同形状をしている。ファラデーカップ下部材1304は絶縁体であり、ファラデーカップ上部材1303と検出電極1305とを絶縁された状態で接続し保持する。ファラデーカップホルダ1302の端子1012がコネクタ1223に接続されることにより、バイアス電源部1224からのバイアス電位がファラデーカップ上部材1303に供給可能となり、信号検出部50からの信号が主制御部14に送信可能となる。バイアス電源部1224は、ファラデーカップ上部材1303に検出電極1305の電位に対して同電位もしくは異なる電位を供給する。
【0085】
この状態で電子源1301を動作させ、信号検出部50から検出される信号強度を記録する。試料チャンバ100の信号検出部50から得られる信号強度を、ファラデーカップホルダ1302で得られた信号強度で規格化することにより、定量的に評価することが可能となる。
【0086】
かかる構成によれば、試料の観察時の信号出力強度を事前に確認することが可能となる。
【0087】
また、図4A図6Aの構成において試料交換室前部1101に光学顕微鏡1105を設ける例を説明したが、これを光学レンズ1400としてもよい。この例を図7に示す。これにより、試料交換室において、比較的安価に試料チャンバの目視が可能になる。
【0088】
図8は光学レンズ1400を用いる別の例である。図8では、光学レンズ1400が試料交換棒1103の挿入面1401に設けられ、試料交換室前部1101には、試料交換棒1103を引き出したときの試料ホルダ101直上位置に、光学ミラー1402を備える。ユーザーは、試料交換棒1103を押し込む際、力のかけ方の関係上、試料交換棒挿入面1401を見ながら行う場合が多いことから、目視による破損検知の利便性が向上する。
【符号の説明】
【0089】
1:試料ホルダ、2,3:検出器、5:試料チャンバ、6:真空隔壁下部品、7:真空隔壁上部品、8:シール材、10:筐体、11:電子銃、12:電子線、13:偏向器、14:主制御部、15:コンピュータ、16:表示部、20:バイアス電源部、50:信号検出部、60:コンデンサレンズ、61:非点収差補正器、62:対物レンズ、63:静電ブランカ、64:ステージ、100:試料チャンバ、101:試料ホルダ、110:第1の絶縁性薄膜、111:第2の絶縁性薄膜、120:導電性薄膜、130,911:外枠部、200:試料、310,913:ウィンドウ領域、313,912:ウィンドウ枠部、920:真空隔壁下部品、921:真空隔壁上部品、923:シール材、820:検出電極、600:試料室、610:カラム、1000,1000a:初段真空排気系、1001:ガンバルブ、1009:真空ポンプ、1010:スロー排気経路、1011:高速排気経路、1012:端子、1013:コネクタ、1014:スロー排気経路用バルブ、1015:高速排気経路用バルブ、1016:排気流量調整バルブ、1017:圧力センサ、1100:試料交換室、1101:試料交換室前部、1102:試料交換室後部、1103:試料交換棒、1104:試料ホルダアタッチメント、1105:光学顕微鏡、1106:試料交換室用シール材、1107:ゲートバルブ、1108:試料交換室用圧力センサ、1221:コネクタ格納室、1222:コネクタ挿入棒、1223:コネクタ、1224:バイアス電源部、1225:コネクタ固定具、1301:電子源、1302:ファラデーカップホルダ、1303:ファラデーカップ上部材、1304:ファラデーカップ下部材、1305:検出電極、1400:光学レンズ、1401:試料交換棒挿入面、1402:光学ミラー。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
図8