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特許7210826蛍光X線装置を備えた圧延機、及び圧延機におけるロールコーティングの制御方法
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  • 特許-蛍光X線装置を備えた圧延機、及び圧延機におけるロールコーティングの制御方法 図1
  • 特許-蛍光X線装置を備えた圧延機、及び圧延機におけるロールコーティングの制御方法 図2
  • 特許-蛍光X線装置を備えた圧延機、及び圧延機におけるロールコーティングの制御方法 図3
  • 特許-蛍光X線装置を備えた圧延機、及び圧延機におけるロールコーティングの制御方法 図4
  • 特許-蛍光X線装置を備えた圧延機、及び圧延機におけるロールコーティングの制御方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】蛍光X線装置を備えた圧延機、及び圧延機におけるロールコーティングの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 51/00 20060101AFI20230117BHJP
   B21B 38/10 20060101ALI20230117BHJP
   B21B 1/00 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
B21C51/00 N
B21B38/10 Z
B21B1/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019071321
(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公開番号】P2020168646
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】中西 裕信
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-034499(JP,A)
【文献】特開平05-329516(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052741(WO,A1)
【文献】特開2001-140006(JP,A)
【文献】特開平10-094809(JP,A)
【文献】特開昭52-035739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 28/00-28/04
B21C 51/00
B21B 38/10
B21B 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のワークロールと、
前記ワークロールに押し付けられるブラシロールと、
前記一対のワークロールの間隔を調整できる圧下装置とを備え
非鉄金属板材を熱間圧延乃至は冷間圧延する圧延機であって、
前記ワークロールの側方に配備され、前記ワークロールの軸心方向に沿って往復移動可能に支持され、蛍光X線によりワークロールのロールコーティングの組成や厚みを測定する蛍光X線分析装置が設けられ
前記蛍光X線分析装置の測定結果に基づいて、潤滑条件、ブラシ条件、加工条件を変更することで、前記ワークロールのロールコーティングを適正な範囲に制御する制御装置が設けられている
ことを特徴とする蛍光X線分析装置を備えた圧延機。
【請求項2】
前記潤滑条件が、前記潤滑油の油種か、前記潤滑油の圧力、温度、前記ワークロールへの吹付け位置であり、
前記ブラシ条件が、前記ブラシロールを前記ワークロールに押し付ける圧力か、前記ブラシロールの回転数であり、
前記加工条件が、前記圧下装置にて調整される前記一対のワークロールの間隔か、圧延速度であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析装置を備えた圧延機。
【請求項3】
一対のワークロールと、
前記ワークロールに押し付けられるブラシロール
前記一対のワークロールの間隔を調整できる圧下装置と、
前記ワークロールの側方に配備され、前記ワークロールの軸心方向に沿って往復移動可能に支持され、前記ワークロールに対して蛍光X線を用いた分析を行う蛍光X線分析装置を備え
非鉄金属板材を熱間圧延乃至は冷間圧延する圧延機に対して、
蛍光X線により測定される、ワークロールのロールコーティングの組成や厚みの測定結果に基づいて、潤滑条件、ブラシ条件、加工条件を変更することで、ワークロールのロールコーティングを制御し、
前記潤滑条件が、前記潤滑油の油種か、前記潤滑油の圧力、温度、前記ワークロールへの吹付け位置であり、
前記ブラシ条件が、前記ブラシロールを前記ワークロールに押し付ける圧力か、前記ブラシロールの回転数であり、
前記加工条件が、前記圧下装置にて調整される前記一対のワークロールの間隔か、圧延速度であることを特徴とする圧延機におけるロールコーティングの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延ロールにおけるロールコーティングの状況を精確に把握し、ロールコーティングの状況を的確に制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム板材(Al熱延材)やチタン板材など非鉄金属板材の圧延においては、鋼製のロールに金属材料が移着してロール表面を覆うことが知られおり、ロールコーティングと呼ばれている。圧延を重ねる毎にロールコーティング厚さが増加すると、板材の表面を悪化させたり、圧延荷重が増加して板厚分布が不均一になり板クラウンが増大するなど、板材品質を大幅に低下させる原因となることが知られている。そのため、従来の圧延機では、ロールコーティングを抑制するために、次のような技術が用いられている。
【0003】
具体的には、圧延の際に、圧延ロールの表面を研削し、上記したロールコーティングを抑制する技術が知られている。この技術は、ワイヤーブラシや研磨剤を内包したナイロンブラシなどのブラシロールを上下作業ロールへ押し付け、ロール表面を研削するものとなっている。更に、専用の圧延油を併用してロールコーティングの付着量を減らすことも一般的に行われている。
【0004】
また、圧延ロールにおけるロールコーティングの状況を精確に予測するものとして、摩擦係数を用いた予測方法や、画像解析による予測方法が提案されている。
例えば、特許文献1は、一対の上下作業ロールと、これら上下作業ロールをそれぞれ支持する一対の上下補強ロールとを圧延スタンドに備え、前記上下作業ロールは、それらのロール軸線が前記上下補強ロールのロール軸線に対して交差可能であり、かつ作業ロール自身のロール軸線が相互に交差可能となるように構成され、前記上下作業ロールと前記上下補強ロールとの間に潤滑剤を供給して板材を圧延する圧延方法において、前記板材の圧延中に前記上下作業ロールに板材材料が移着することにより生じるロールコーティングの付着状況を検出する第1手順と、検出されたロールコーティングの付着状況に基づきロールコーティング厚さを推定し、ロールコーティング厚さが設定値を超えると、前記上下作業ロールを所定の交差角に設定し、前記ロールコーティングを研削する第2手順とを有し、前記第1手順は、圧延荷重を計測し、その圧延荷重と予め入力された圧延条件から前記上下作業ロールの摩擦係数を演算し、前記第2手順は、その摩擦係数が設定値を超えるとロールコーティング厚さが設定値を超えたと判断し、前記上下作業ロールを所定の交差角に設定する圧延方法を開示する。
【0005】
特許文献2は、金属帯の熱間圧延ラインにおける前記金属帯を圧延する圧延ワークロールのロール表面に発生するコーティング層を除去するブラシロールと、前記圧延ワークロールのロール表面の画像を読取る画像読取装置と、この画像読取装置にて読取られた画像データを数値化する画像処理手段と、この画像処理手段にて数値化された画像データをニューラルネットワーク手法を用いてパターン認識するニューロ演算処理手段と、このニューロ演算処理手段にて求められたパターンから所定の推論ルールを用いて前記ブラシロールに対する制御量を推論するファジィ推論処理手段と、このファジィ推論処理手段にて推論された制御量でもって前記ブラシロールにおける前記コーティング層に対する除去量を制御するブラシロール駆動制御手段とを備えたブラシロール自動制御装置を開示する。
【0006】
一方、ラボ的には、直接ロールコーティングを溶解除去してコーティング量を測定する方法や実験用圧延機において一部が脱着可能なロールを用い、脱着後のロール表面をSEM-EDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)などの大掛かりな装置を用いて、直接的に定量、定性評価する方法が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許3233586号公報
【文献】特開平05-329516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、実際の現場における圧延では、圧延時にロール上に生成するロールコーティングは加工条件、潤滑条件、材種、ブラシ条件などによって変化し、直接的にロールコーティングの状態を評価しながら制御することができていないのが実情である。言い換えれば、ロールコーティングの状態が表面品質や圧延潤滑性に影響を与えることは判っているものの、非破壊で定量的に評価する方法は確立されていない。
【0009】
上記した特許文献1、2の技術は、摩擦係数を用いた予測方法を開示するものであったり、画像解析による予測方法であってロールコーティングの状態を直接的に評価しながら、その結果を基に制御可能な技術とはなっていない。
なお、圧延ロール上に形成されたロールコーティングを溶解除去する方法は、アルミニウムによるコーティングにしか適用できていないのが実情である。なぜならば、アルミニウムは、容易に溶解可能な金属であるからである。
【0010】
一部が脱着可能な圧延ロールは、当該圧延ロールを抜き出した上でコーティングを除去可能かも入れない。しかしながら、この方法を採用したとしても、圧延ロールにおけるロール曲面を完全には揃えることが出来ないため、圧延板製品上に痕跡が残ってしまうため実生産の圧延機では適用が困難である(ラボレベルの評価のみで実用化可能と思われる)。
【0011】
そこで、本発明は、圧延ロールにおけるロールコーティングの状況を精確に把握する蛍光X線装置を備えた圧延機、及びロールコーティングの状況を的確に制御するロールコーティングの制御方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の蛍光X線装置を備えた圧延機は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の蛍光X線装置を備えた圧延機は、一対のワークロールと、前記ワークロールに押し付けられるブラシロールと、前記一対のワークロールの間隔を調整できる圧下装置とを備え、非鉄金属板材を熱間圧延乃至は冷間圧延する圧延機であって、前記ワークロールの側方に配備され、前記ワークロールの軸心方向に沿って往復移動可能に支持され、蛍光X線によりワークロールのロールコーティングの組成や厚みを測定する蛍光X線分析装置が設けられ、前記蛍光X線分析装置の測定結果に基づいて、潤滑条件、ブラシ条件、加工条件を変更することで、前記ワークロールのロールコーティングを適正な範囲に制御する制御装置が設けられていることを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記潤滑条件が、前記潤滑油の油種か、前記潤滑油の圧力、温度、前記ワークロールへの吹付け位置であり、前記ブラシ条件が、前記ブラシロールを前記ワークロールに押し付ける圧力か、前記ブラシロールの回転数であり、前記加工条件が、前記圧下装置にて調整される前記一対のワークロールの間隔か、圧延速度であるとよい。
また、本発明の圧延機におけるロールコーティングの制御方法は、一対のワークロールと、前記ワークロールに押し付けられるブラシロール、前記一対のワークロールの間隔を調整できる圧下装置と、前記ワークロールの側方に配備され、前記ワークロールの軸心方向に沿って往復移動可能に支持され、前記ワークロールに対して蛍光X線を用いた分析を行う蛍光X線分析装置を備え、非鉄金属板材を熱間圧延乃至は冷間圧延する圧延機に対して、蛍光X線により測定される、ワークロールのロールコーティングの組成や厚みの測定結果に基づいて、潤滑条件、ブラシ条件、加工条件を変更することで、ワークロールのロールコーティングを制御し、前記潤滑条件が、前記潤滑油の油種か、前記潤滑油の圧力、温度、前記ワークロールへの吹付け位置であり、前記ブラシ条件が、前記ブラシロールを前記ワークロールに押し付ける圧力か、前記ブラシロールの回転数であり、前記加工条件が、前記圧下装置にて調整される前記一対のワークロールの間隔か、圧延速度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の技術によれば、圧延ロールにおけるロールコーティングの状況を精確に把握し、ロールコーティングの状況を的確に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】圧延機を模式的に示した図である。
図2】圧延機に蛍光X線分析装置を配設した状況を示した図である。
図3】蛍光X線分析装置により圧延ロールの表面を計測している状況を示した模式図である(圧延チャンス間)。
図4】蛍光X線分析装置により圧延ロールの表面を計測している状況を示した模式図である(オフライン時に圧延ロールを抜き出した状況下)。
図5】ロールコーティングの制御方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の蛍光X線分析装置1(蛍光X線装置)を備えた圧延機2、及び圧延機2におけるロールコーティングの制御方法の実施形態を図面に基づき説明する。
なお、以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返さない。
図1に示す本実施形態の圧延機2は、例えば連続圧延機に備えられたものの一つである。連続圧延機2は、複数の圧延スタンド3を有するタンデム型(シングルスタンドによるリバース圧延の場合もある)である。また、本実施形態では、アルミ材を圧延材Wとして、説明を進める。
【0018】
図1に示すように、圧延材Wの圧延工程では、圧延スタンド3の入側から圧延材Wが通された後、所定の圧下率で圧延が施され、出側へと排出される。このような圧延機2を複数通過した後、各圧延スタンド3で圧下され、最終段の圧延スタンド3を出たところで所定の仕上げ板厚となり、巻き取り装置(図示せず)で巻き取られる。このように、目標の仕上げ板厚に形状が整えられた圧延材Wが最終製品となる。
【0019】
以下、連続圧延機2に備えられた圧延スタンド3の一つに着目し、この圧延スタンド3の詳細について説明を行う。
図1に示すように、圧延スタンド3は上下一対のワークロール4、4を有している。このワークロール4は、各々に設けられた電動機(主機と呼ぶこともある)で駆動され、圧延材Wを圧延する。上下一対のワークロール4、4の間隔は、油圧などで駆動される圧下装置によって、圧下量(ロールギャップ量)を調整できる構造になっている。
【0020】
上下のワークロール4はそれぞれバックアップロール5により背後(圧延材Wに接する側の反対側)から支持されるようになっており、圧延スタンド3の出側には、圧延材Wの板厚を検出する出側板厚計(図示略)が設けられている。また、圧延スタンド3の入側には、圧延材Wの板厚を検出する入側板厚計(図示略)が設けられている。
さて[背景技術]にて述べたように、上記した連続圧延機2(圧延スタンド3)を用いて、アルミニウム板材やチタン板材など非鉄金属板材を熱間圧延乃至は冷間圧延すると、鋼製の圧延ロールの表面にアルミやチタンなどの非圧延材料が移着してロール表面を覆うことが知られおり、ロールコーティング6と呼ばれている。
【0021】
ロールコーティング6の厚さは圧延を重ねる毎に増加する(厳密には増加したのち安定すると言われている。また、圧延材料、加工条件によっても変化する)が、ロールコーティング厚さが増加すると圧延材Wの表面を悪化させたり、圧延荷重が増加して板厚分布が不均一になり板クラウンが増大するなど、板材品質を大幅に低下させる原因となることが知られている。また、ロールコーティング厚さは薄すぎても表面不良になると言われており、ロールコーティング厚さは厚すぎても、薄すぎても良くないとされている。つまり、ロールコーティング厚さの最適領域が対象明細によって存在する。特に、ロールコーティング厚さが薄すぎると板表面からロールへの凝着が増えて表面品質が低下すると言われている。
【0022】
そこで、図1に示すように、ロールコーティング6を抑制する技術として、ワイヤーブラシや研磨剤を内包したナイロンブラシなどのブラシロール7を上下のワークロール4、4へ押し付け、ロール表面を研削する方法や、専用の圧延油を併用してロールコーティング6の付着量を最適な厚みにコントロールすることが行われている。
本発明では、図1に示した圧延スタンド3(ブラシロール7あり、圧延油あり)に対して、蛍光X線分析装置1を導入している。この蛍光X線分析装置1を圧延スタンド3内の適切な場所に設置することで、ワークロール4の表面にX線を照射することが可能となる。X線が照射されたワークロール4の表面からは、ロールコーティング6から励起されてきた特性X線が放出され、蛍光X線分析装置1は、この特性X線を解析することで、非破壊でロールコーティング6の性状、厚みなどを定性的かつ定量的に知ることができる。
【0023】
加えて、蛍光X線分析装置1により幅方向に連続あるいは複数のロールコーティング6のばらつきを測定することが可能となる。
図2図3は、本発明の第1実施形態を示すものであり、これらの図に示す如く、蛍光X線分析装置1がワークロール4の側方(入側)に配備されており、ワークロール4の軸心方向(幅方向)に沿って往復移動可能に支持されている。これにより、ワークロール4の一方端側から他方端側へと、ワークロール4の表面を漏れ無く探索することが可能となっている。
【0024】
この蛍光X線分析装置1を用いて、アルミ材(圧延材W)の圧延中にワークロール4に付着したコーティングの組成や厚みを計測することもできる。しかしながら、好ましいのは、圧延チャンスの間(圧延が中断されていて、ワークロール4が止まっている間)に、蛍光X線分析装置1がワークロール4の長手方向(幅方向)に往復移動し、ロールコーティング6を分析する手法が、現場の実情により対応したものとなる。
【0025】
蛍光X線分析装置1が、ワークロール4の長手方向に移動することで、ワークロール4の幅方向の品質不均一(不良)を確実に把握することが可能となる。ロールコーティング6のでき方(発生量)は、ワークロール4の長手方向に一様であることは少なく、その結果、圧延材Wに関し、そのエッジ部に表面不良が生じたり、そのセンター部に表面不良が生じたりすることが多いが、蛍光X線分析装置がワークロール4の長手方向に移動することで、事前にロールコーティング6の状況を知ることができ、圧延材Wの幅方向の不良を可及的に知見し回避することが可能となる。
【0026】
なお、蛍光X線分析装置1は設置されたワークロール4を直接測定することが望ましいが、ロール径が小さいなどスペースがない場合にはオフラインで測定してもよい。このことは、第二実施形態として述べる。
図4は、本発明の第2実施形態を示すものである。第2実施形態においては、圧延スタンド3がクラスタ型圧延機の場合を示している。クラスタ型の圧延機2の圧延スタンド3は、もっぱらチタン材や銅などの圧延に用いられ、多数の圧延ロール(ワークロール4、中間ロール8、バックアップロール5)を有しているため、非常に装置が複雑で、蛍光X線分析装置1を配備する空間が殆ど無いものとなっている。
【0027】
このような圧延スタンド3の場合、圧延タイミング間(圧延されていない間)や圧延オフライン時に、ワークロール4を圧延スタンド3の側方に抜き出し、抜き出したワークロール4に対して蛍光X線分析装置1によるロール表面の性状測定を行うことが好ましい。こうすることで、蛍光X線分析装置1を設置するスペースに影響されることなく、ロールコーティング6の評価が可能となる。
【0028】
なお、蛍光X線使用時に測定環境の影響を受けることから、未圧延時のワークロール4が停止している状態で使用することが現実的ではあるが、圧延機2内に設置し常にロールコーティング6を測定しながら制御する方法が最も望ましい。
上述した蛍光X線分析装置1は、ワークロール4の表面を計測した場合に、表面に存在する元素の種類とそれぞれの量を百分率表示などで出力するものであり、AlやTiなどの元素の量からロールコーティング6の状況(厚みなど)を評価可能となっている。なお、この蛍光X線分析装置1が、従来のSEM-EDX法やAES法などで計測された量と相関性を有していることは、出願人は確認している。
【0029】
図5は、ロールコーティング6の制御方法をフローチャートの形で示したものである。
まず、図5のS1で示すように、N本目の圧延が終了した後、蛍光X線分析装置1によりワークロール4の表面を分析する(S2)。この分析は、第一実施形態のようにリアルタイムで行ってもよいし、第二実施形態のように、圧延チャンス間にワークロール4を引き出した上で行ってもよい。
【0030】
S2の結果として、コーティングの厚みが予定よりも厚くなっていたり(あるいは薄くなっていたり)、予期しない成分のコーティングが付着していることがわかった場合には、S3に示すように、コーティングを制御する処置を行う。
例えば、ブラシ条件C1に関し、ブラシロール7をワークロール4に押し付ける圧力を変えたり、ブラシロール7の回転数を変更したりする。それでもうまくゆかない場合は、ブラシロール7を形成する材質などが異なる他のブラシに取り替えるなどの処置を行う。また、ワークロール4などを潤滑する潤滑条件C2を変更するようにする。具体的には、潤滑油の油種を変更したり、供給条件(圧力、温度、吹付け位置)などを変えるようにする。他に、圧延スタンド3の圧下率を変更したり、圧延速度を変えたり、ワークロール4の種類や表面粗さを変更するなどの加工条件C3の変更を行うようにする。このようにすることで、蛍光X線分析装置1で求めたロールコーティング6の状態に基づいて、ブラシ条件C1、潤滑条件C2、加工条件C3などを適正に調整することが可能となる。そして、圧延ロールにおけるロールコーティング6を適正な状態に制御可能となる。
【0031】
以上のことを行った後、S4に示すように、(N+1)本目の圧延を行うようにする。このように制御を行うことで、フィードバック制御(圧延中のロールコーティング6制御)が可能になる。
なお、上記制御にあたり、各条件C1~C3の変更が、ロールコーティング6に与える影響度、改善度の度合い(寄与度)は、ラボ実験などのオフライン評価を事前に行い、制御指針を作成しておくとよい。
【0032】
以上述べたように、蛍光X線によりワークロール4表面に存在するロールコーティング6を測定することで、ワークロール4におけるロールコーティング6の状況を精確に把握し、ロールコーティング6の状況を的確に制御することが可能となる。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0033】
1 蛍光X線分析装置
2 圧延機
3 圧延スタンド
4 ワークロール
5 バックアップロール
6 ロールコーティング
7 ブラシロール
8 中間ロール
W 圧延材
C1 ブラシ条件
C2 潤滑条件
C3 加工条件
図1
図2
図3
図4
図5