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特許7210969粘着剤組成物およびラベル用粘着剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】粘着剤組成物およびラベル用粘着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 153/02 20060101AFI20230117BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
C09J153/02
C09J11/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018181382
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020050762
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯部 浩輔
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貞治
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/171025(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052310(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/113883(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/020825(WO,A1)
【文献】特開2014-198806(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057500(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロック共重合体組成物および非水添の炭化水素樹脂を含有する粘着剤組成物であって、
前記ブロック共重合体組成物が、芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック共重合体、および、芳香族ビニル-イソプレンジブロック共重合体を含有し、前記ブロック共重合体組成物中の重合体成分全体に占める芳香族ビニル単量体単位の含有量が10~30質量%であり、
前記炭化水素樹脂が、脂肪族単量体単位、または、脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位を含有し、
前記炭化水素樹脂が、前記脂肪族単量体単位として1,3-ペンタジエン単位を含有し、
前記炭化水素樹脂中の前記芳香族単量体単位の含有量が全単量体単位に対して40質量%以下であり、前記炭化水素樹脂のZ平均分子量が5,000以上であり、
破断強度が6.0MPa未満、かつ破断伸びが1,300%未満である
粘着剤組成物。
【請求項2】
前記炭化水素樹脂の重量平均分子量が2,500以上であり、軟化点が90℃以上である請求項1に記載の粘着剤組成物。
【請求項3】
前記トリブロック共重合体が、
一般式(A):Ar1-D-Ar2
(式中、Ar1は、重量平均分子量が5,000~20,000のポリ芳香族ビニルブロック、Ar2は、重量平均分子量が25,000~400,000のポリ芳香族ビニルブロック、Dは、ポリイソプレンブロックを表す)で表される請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
前記炭化水素樹脂の含有量が、前記ブロック共重合体組成物100質量部に対して、10~500質量部である請求項1~3のいずれかに記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の粘着剤組成物からなるラベル用粘着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物およびラベル用粘着剤組成物に関し、さらに詳しくは、ラベルに用いた際に、ダイカット性能に優れる粘着剤組成物およびラベル用粘着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題、省エネルギー、省資源等の観点から、溶剤を使用せず、ホットメルト加工できる粘着剤組成物が推奨されており、このような粘着剤組成物に使用するエラストマーとしてスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体が広く用いられている。
【0003】
粘着剤組成物には、初期接着力、剥離接着強さおよび保持力等の粘着性能が要求されている。そして、これらの粘着性能を向上させる目的で、様々な検討が行われてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック共重合体(A)と、芳香族ビニル-イソプレンジブロック共重合体(B)と、を含有してなるブロック共重合体組成物であって、
(i)前記トリブロック共重合体(A)のポリイソプレンブロックの重量平均分子量MwDaと前記ジブロック共重合体(B)のポリイソプレンブロックの重量平均分子量MwDbとの比(MwDa/MwDb)が0.5以上1未満であり、
(ii)含まれる重合体成分全体に占める芳香族ビニル単量体単位の割合が10~30質量%であり、
(iii)破断強度が8MPa未満、かつ破断伸びが1100%未満である
ことを特徴とするブロック共重合体組成物と粘着付与樹脂とを含有する粘着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/052310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の粘着剤組成物には、ダイカット性能について、未だ改善の余地がある。
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、その目的は、ラベルに用いた際に、ダイカット性能に優れる粘着剤組成物およびラベル用粘着剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、トリブロック共重合体およびジブロック共重合体を含有するブロック共重合体組成物と炭化水素樹脂とを含有する組成物において、ブロック共重合体組成物中の芳香族ビニル単量体単位の含有量、炭化水素樹脂中の脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位の含有量、ならびに、炭化水素樹脂のZ平均分子量を適切に調整し、なおかつ、破断強度および破断伸びを適切に調整すると、このような組成物を用いて得られるラベルがダイカット性能に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、ブロック共重合体組成物および炭化水素樹脂を含有する粘着剤組成物であって、前記ブロック共重合体組成物が、芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック共重合体、および、芳香族ビニル-イソプレンジブロック共重合体を含有し、前記ブロック共重合体組成物中の重合体成分全体に占める芳香族ビニル単量体単位の含有量が10~30質量%であり、前記炭化水素樹脂が、脂肪族単量体単位、または、脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位を含有し、前記炭化水素樹脂中の前記芳香族単量体単位の含有量が全単量体単位に対して40質量%以下であり、前記炭化水素樹脂のZ平均分子量が5,000以上であり、破断強度が6.0MPa未満、かつ破断伸びが1,300%未満である粘着剤組成物が提供される。
【0010】
本発明の粘着剤組成物において、前記炭化水素樹脂の重量平均分子量が2,500以上であり、軟化点が90℃以上であることが好ましい。
本発明の粘着剤組成物において、前記トリブロック共重合体が、
一般式(A):Ar1-D-Ar2
(式中、Ar1は、重量平均分子量が5,000~20,000のポリ芳香族ビニルブロック、Ar2は、重量平均分子量が25,000~400,000のポリ芳香族ビニルブロック、Dは、ポリイソプレンブロックを表す)で表されることが好ましい。
本発明の粘着剤組成物において、前記炭化水素樹脂の含有量が、前記ブロック共重合体組成物100質量部に対して、10~500質量部であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、上記の粘着剤組成物からなるラベル用粘着剤組成物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ラベルに用いた際に、ダイカット性能に優れる粘着剤組成物およびラベル用粘着剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の粘着剤組成物は、特定のブロック共重合体組成物および特定の炭化水素樹脂を含有し、破断強度が6.0MPa未満、かつ破断伸びが1300%未満である。本発明の粘着剤組成物は、このような構成を備えることから、ラベルの粘着剤層を形成することができ、得られるラベルは、初期接着力、剥離接着強さおよび保持力等の粘着性能に優れており、しかも、ダイカット性能に優れている。すなわち、本発明の粘着剤組成物を用いて得られるラベルは、ダイカッターにより切断しても、粘着剤層が糸を引いたり、ダイカッターが備える刀に粘着剤組成物が付着したりせず、容易に切断することができる。
【0014】
本発明の粘着剤組成物の破断強度は、6.0MPa未満であり、一層優れたダイカット性能が得られることから、好ましくは5.5MPa未満であり、より好ましくは5.0MPa未満であり、下限は特に限定されない。
【0015】
本発明において、破断強度は、粘着剤組成物から得られる1mm厚のシートを用い、JIS K 6251に準じた方法で測定する。
【0016】
本発明の粘着剤組成物の破断伸びは、1,300%未満であり、一層優れたダイカット性能が得られることから、好ましくは1,200%未満であり、より好ましくは1,100%未満であり、下限は特に限定されないが、100%以上であってよい。
【0017】
本発明において、破断伸びは、粘着剤組成物から得られる1mm厚のシートを用い、JIS K 6251に準じた方法で測定する。
【0018】
<ブロック共重合体組成物>
本発明の粘着剤組成物に含有されるブロック共重合体組成物は、芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック共重合体(以下、単に「トリブロック共重合体」ということがある)、および、芳香族ビニル-イソプレンジブロック共重合体(以下、単に「ジブロック共重合体」ということがある)を含有する。
【0019】
ブロック共重合体組成物において、トリブロック共重合体とジブロック共重合体との質量比(トリブロック共重合体/ジブロック共重合体)は、より優れたダイカット性能が得られることから、好ましくは10/90~70/30、より好ましくは15/85~60/40である。
【0020】
ブロック共重合体組成物中の重合体成分全体に占める芳香族ビニル単量体単位の含有量は、10~30質量%であり、より優れたダイカット性能が得られることから、好ましくは12~30質量%であり、より好ましくは15~28質量%である。
【0021】
ブロック共重合体組成物の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、より優れたダイカット性能が得られることから、好ましくは70,000~300,000であり、より好ましくは85,000~270,000であり、さらに好ましくは100,000~250,000である。
【0022】
また、ブロック共重合体組成物の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表わされる分子量分布は、特に限定されるものではないが、好ましくは1.01~10であり、より好ましくは1.01~5であり、さらに好ましくは1.01~3である。
【0023】
芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック共重合体は、〔ポリ芳香族ビニルブロック〕-〔ポリイソプレンブロック〕-[ポリ芳香族ビニルブロック]からなるトリブロック共重合体である。
【0024】
トリブロック共重合体が有するポリ芳香族ビニルブロック(以下、「ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)」ということがある)は、トリブロック共重合体の重合体鎖において、芳香族ビニル単量体単位を主たる構成単位として含有する部分をいう。
【0025】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)においては、芳香族ビニル単量体単位の含有量が、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは100質量%である。ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)における芳香族ビニル単量体単位含有量が少なすぎると、得られる粘着剤組成物の粘着性能が劣る場合がある。
【0026】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)を得るための芳香族ビニル単量体としては、スチレン;α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン等のアルキル置換スチレン類;4-クロロスチレン、2-ブロモスチレン、3,5-ジフルオロスチレン等のハロゲン置換スチレン類;4-メトキシスチレン、3,5-ジメトキシスチレン等のアルコキシ置換スチレン類;等が挙げられる。これらの中でも、優れた粘着性能とダイカット性能、及び入手容易性の観点から、スチレン、アルキル置換スチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0027】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)は、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲であれば、芳香族ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合して得られるものであってもよい。
芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体の具体例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン,1,3-ペンタジエン等の共役ジエン単量体が挙げられる。
【0028】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)の重量平均分子量は、好ましくは5,000~390,000、より好ましくは6,000~380,000、特に好ましくは7,000~370,000である。ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)の重量平均分子量が小さすぎると、得られる粘着剤組成物の粘着性能が劣る場合があり、逆に大きすぎると、粘着剤組成物の溶融粘度が高くなり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0029】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.5以下である。この比が小さいと、粘着性能により優れる粘着剤組成物が得られる。
【0030】
トリブロック共重合体全体における芳香族ビニル単量体単位の含有量は、通常、15~75質量%、好ましくは17~60質量%、より好ましくは20~50質量%である。芳香族ビニル単量体単位の含有量がこのような範囲にあると、優れた粘着性能とダイカット性能を有する粘着剤組成物を効率よく得ることができる。
【0031】
なお、トリブロック共重合体は、ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)として2つのポリ芳香族ビニルブロックを有するものであるが、それらは同一のものであっても、相異なるものであってもよい。
【0032】
トリブロック共重合体が有するポリイソプレンブロック(以下、「ポリイソプレンブロック(D)」ということがある。)は、トリブロック共重合体の重合体鎖において、イソプレン単位を主たる構成単位として含有する部分をいう。ポリイソプレンブロックにおいては、好ましくはイソプレン単位の含有量が80質量%以上であり、より好ましくは100質量%である。イソプレン単位の含有量が少なすぎると、得られる粘着剤組成物の粘着性能が劣る場合がある。
【0033】
ポリイソプレンブロック(D)は、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲であれば、イソプレンと、イソプレンと共重合可能な他の単量体とを共重合して得られるものであってもよい。イソプレンと共重合可能な他の単量体の具体例としては、前記の芳香族ビニル単量体;1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン,1,3-ペンタジエン等のイソプレン以外の共役ジエン単量体;等が挙げられる。
【0034】
ポリイソプレンブロック(D)の重量平均分子量は、好ましくは20,000~400,000、より好ましくは30,000~270,000、特に好ましくは35,000~250,000である。ポリイソプレンブロック(D)の重量平均分子量が小さすぎると、得られる粘着剤組成物の粘着性能が劣る場合があり、逆に大きすぎると、粘着剤組成物の溶融粘度が高くなり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0035】
ポリイソプレンブロック(D)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.5以下である。この比が小さいと、粘着性能により優れる粘着剤組成物が得られる。
【0036】
ポリイソプレンブロック(D)中の、イソプレン単位の中でビニル結合(-CH=CH)を有するものの割合(ビニル結合含有量)は、特に限定されない。通常、50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは5~10質量%である。この範囲にあると、粘着性能により優れた粘着剤組成物が得られる。
【0037】
トリブロック共重合体の重量平均分子量は、通常80,000~450,000、好ましくは100,000~250,000、より好ましくは110,000~230,000、特に好ましくは120,000~220,000である。この重量平均分子量が小さすぎると、得られる粘着剤組成物が粘着性能に劣る場合があり、大きすぎるとその溶融粘度が高くなり取り扱いが困難となるおそれがある。
【0038】
トリブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.5以下である。この比が小さいと、粘着性能がより優れた粘着剤組成物が得られる。
【0039】
トリブロック共重合体としては、より優れたダイカット性能が得られることから、下記の一般式(A)で表されるトリブロック共重合体Aおよび下記の一般式(B)で表されるトリブロック共重合体Bが好ましく、トリブロック共重合体Aがより好ましい。
【0040】
一般式(A):Ar1-D-Ar2
(式中、Ar1は、重量平均分子量が5,000~20,000のポリ芳香族ビニルブロック、Ar2は、重量平均分子量が25,000~400,000のポリ芳香族ビニルブロック、Dは、ポリイソプレンブロックを表す)
【0041】
一般式(B):(Ar-D-X
(Arは、重量平均分子量が5,000~100,000のポリ芳香族ビニルブロック、Dは、ポリイソプレンブロック、Xは単結合またはカップリング剤の残基を表す)
【0042】
トリブロック共重合体Aにおいて、ポリ芳香族ビニルブロック(Ar1)およびポリ芳香族ビニルブロック(Ar2)は、芳香族ビニル単量体を重合して得られる芳香族ビニル単量体単位を主たる繰り返し単位として構成される重合体ブロックである。
【0043】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar1)およびポリ芳香族ビニルブロック(Ar2)の芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル単量体は、芳香族ビニル化合物であれば特に限定されないが、たとえば、上述したポリ芳香族ビニルブロック(Ar)と同様のものが挙げられる。
【0044】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar1)およびポリ芳香族ビニルブロック(Ar2)は、芳香族ビニル単量体単位が主たる繰り返し単位となる限りにおいて、それ以外の単量体単位を含んでいてもよく、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、たとえば、上述したポリ芳香族ビニルブロック(Ar)と同様のものが挙げられ、その含有量も、同様とすればよい。また、ポリ芳香族ビニルブロック(Ar1)およびポリ芳香族ビニルブロック(Ar2)は、実質的に、1種または2種以上の芳香族ビニル単量体単位のみからなるものであることが好ましく、スチレン単位のみからなるものであることが特に好ましい。
【0045】
ブロック共重合体Aにおいて、ポリ芳香族ビニルブロック(Ar1)とポリ芳香族ビニルブロック(Ar2)とは、重量平均分子量が異なる。本発明の粘着剤組成物が、このような非対称のブロック共重合体Aを含有する場合、本発明の粘着剤組成物は、ダイカット性能により一層優れる。
【0046】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar1)の重量平均分子量は、5,000~20,000であり、より好ましくは10,000~20,000であり、さらに好ましくは11,000~18,000である。
【0047】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar2)の重量平均分子量は、25,000~400,000であり、より好ましくは25,000~300,000であり、さらに好ましくは27,000~200,000である。
【0048】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar1)とポリ芳香族ビニルブロック(Ar2)との重量平均分子量の比((Ar1):(Ar2))は、好ましくは1:1~1:15であり、より好ましくは1:2~1:10である。
【0049】
ポリイソプレンブロック(D)は、イソプレンを重合して得られるイソプレン単位を主たる繰り返し単位として構成される重合体ブロックである。
【0050】
また、ポリイソプレンブロック(D)は、イソプレン単位が主たる繰り返し単位となる限りにおいて、それ以外の単量体単位を含んでいてもよく、イソプレン単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、たとえば、ポリイソプレンブロック(D)と同様のものが挙げられ、その含有量およびビニル結合含有量も同様とすればよい。また、ポリイソプレンブロック(D)は、イソプレン単位のみからなるものであることが特に好ましい。
【0051】
ポリイソプレンブロック(D)の重量平均分子量は、好ましくは20,000~400,000であり、より好ましくは30,000~170,000であり、さらに好ましくは35,000~150,000である。
【0052】
ブロック共重合体Aの重量平均分子量(すなわち、ブロック共重合体A全体の重量平均分子量)は、好ましくは80,000~300,000であり、より好ましくは100,000~270,000であり、さらに好ましくは120,000~250,000である。
【0053】
ブロック共重合体Aの芳香族ビニル単量体単位の含有量は、ブロック共重合体Aを構成する全単量体単位に対して、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~60質量%であり、さらに好ましくは30~50質量%である。
【0054】
ブロック共重合体Aは、芳香族ビニル単量体、イソプレン、次いで芳香族ビニル単量体の順に逐次的に重合して重合体ブロックを形成する製造方法により得られたものであることが好ましい。したがって、ブロック共重合体Aは、カップリング剤の残基を含まないことが好ましい。このような製造方法の詳細は後述する。
【0055】
トリブロック共重合体Bは、下記の一般式(B)で表される共重合体である。
一般式(B):(Ar-D-X
(Arは、重量平均分子量が5,000~100,000のポリ芳香族ビニルブロック、Dは、ポリイソプレンブロック、Xは単結合またはカップリング剤の残基を表す)
【0056】
ブロック共重合体Bは、直接単結合で、または、カップリング剤の残基(X)を介して、2個のジブロック体(Ar-D)がお互いに結合した構造を有する。カップリング剤の残基(X)は、カップリング剤の2価の残基であれば特に限定されないが、ケイ素原子含有カップリング剤の残基であることが好ましく、ハロゲン化シランまたはアルコキシシランの残基であることがより好ましい。カップリング剤の残基を構成するカップリング剤の例としては、後述するものが挙げられる。
【0057】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)は、芳香族ビニル単量体を重合して得られる芳香族ビニル単量体単位を主たる繰り返し単位として構成される重合体ブロックである。
【0058】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)の芳香族ビニル単量体単位を構成するために用いられる芳香族ビニル単量体は、芳香族ビニル化合物であれば特に限定されないが、たとえば、上述したポリ芳香族ビニルブロック(Ar)と同様のものが挙げられる。
【0059】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)は、芳香族ビニル単量体単位が主たる繰り返し単位となる限りにおいて、それ以外の単量体単位を含んでいてもよく、芳香族ビニル単量体単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、たとえば、上述したポリ芳香族ビニルブロック(Ar)と同様のものが挙げられ、その含有量も、同様とすればよい。また、ブロック共重合体Bにおける各々のポリ芳香族ビニルブロックは、同じ芳香族ビニル単量体単位により構成されていてもよいし、異なる芳香族ビニル単量体単位により構成されていてもよい。また、ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)も、実質的に、1種または2種以上の芳香族ビニル単量体単位のみからなるものであることが好ましく、スチレン単位のみからなるものであることが特に好ましい。
【0060】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)の重量平均分子量は、好ましくは5,000~100,000、より好ましくは6,000~80,000、さらに好ましくは7,000~70,000、特に好ましくは7,000~20,000の範囲である。
【0061】
ブロック共重合体Bが有する2個のポリ芳香族ビニルブロック(Ar)の重量平均分子量は、上記の範囲内であれば、それぞれ等しいものであっても、互いに異なるものであってもよいが、実質的に等しいものであることが好ましい。
【0062】
ポリイソプレンブロック(D)は、ポリイソプレンを重合して得られるイソプレン単位を主たる繰り返し単位として構成される重合体ブロックである。
【0063】
また、ポリイソプレンブロック(D)は、イソプレン単位が主たる繰り返し単位となる限りにおいて、それ以外の単量体単位を含んでいてもよく、イソプレン単位以外の単量体単位を構成する単量体としては、たとえば、ポリイソプレンブロック(D)と同様のものが挙げられ、その含有量およびビニル結合含有量も同様とすればよい。また、ポリイソプレンブロック(D)は、イソプレン単位のみからなるものであることが特に好ましい。
【0064】
ポリイソプレンブロック(D)の重量平均分子量は、好ましくは20,000~400,000であり、より好ましくは30,000~170,000であり、さらに好ましくは35,000~150,000である。
【0065】
ブロック共重合体Bが有する2個のポリイソプレンブロック(D)の重量平均分子量は、上記の範囲内であれば、それぞれ等しいものであっても、互いに異なるものであってもよいが、実質的に等しいものであることが好ましい。
【0066】
ブロック共重合体Bの重量平均分子量(すなわち、ブロック共重合体B全体の重量平均分子量)は、好ましくは80,000~450,000であり、より好ましくは100,000~270,000であり、さらに好ましくは120,000~250,000である。
【0067】
ブロック共重合体Bの芳香族ビニル単量体単位の含有量は、ブロック共重合体Bを構成する全単量体単位に対して、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは25~60質量%であり、さらに好ましくは30~50質量%である。
【0068】
ブロック共重合体組成物中のトリブロック共重合体の含有量は、通常 10~90質量%、好ましくは15~85量%、より好ましくは20~80質量%である。この割合が少なすぎると、得られる粘着剤組成物の粘着性能が劣り、逆に多すぎると粘着剤組成物の初期接着力やダイカット性能が劣る傾向にある。
【0069】
本発明の粘着剤組成物に含有される芳香族ビニル-イソプレンジブロック共重合体は、〔ポリ芳香族ビニルブロック〕-〔ポリイソプレンブロック〕からなるジブロック共重合体である。
【0070】
ジブロック共重合体が有するポリ芳香族ビニルブロック(以下「ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)」ということがある。)は、ジブロック共重合体の重合体鎖において、芳香族ビニル単量体単位を主たる構成単位として含有する部分をいう。
【0071】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)においては、芳香族ビニル単量体単位含有量が80質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。ポリ芳香族ビニルブロックにおける芳香族ビニル単量体単位含有量が少なすぎると、得られる粘着剤組成物の粘着性能が劣る場合がある。
【0072】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)を得るための芳香族ビニル単量体としては、前記ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)を得るための芳香族ビニル単量体として、列記したものと同様のものが挙げられる。なかでも、スチレン、アルキル置換スチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0073】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)は、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲であれば、芳香族ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体とを共重合して得られるものであってもよい。
芳香族ビニル単量体と共重合可能な他の単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等の共役ジエン単量体が挙げられる。
【0074】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)の重量平均分子量は、5,000~20,000であり、より好ましくは10,000~20,000であり、さらに好ましくは11,000~18,000である。ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)の重量平均分子量が小さすぎると、得られる粘着剤組成物の粘着性能が劣る場合があり、逆に大きすぎると粘着剤組成物の溶融粘度が高くなり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0075】
ポリ芳香族ビニルブロック(Ar)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。この比が小さいと、粘着性能により優れる粘着剤組成物が得られる。
【0076】
ジブロック共重合体のポリイソプレンブロック(以下、「ポリイソプレンブロック(D)」ということがある。)は、ジブロック共重合体の重合体鎖において、イソプレン単位を主たる構成単位として含有する部分をいう。
ポリイソプレンブロック(D)においては、イソプレン単位の含有量が80質量%以上であることが好ましく、100質量%であることがより好ましい。このイソプレン単位含有量が少なすぎると、得られる粘着剤組成物の低温での初期接着力が劣る場合がある。
【0077】
ポリイソプレンブロック(D)は、本発明の効果を実質的に阻害しない範囲であれば、イソプレンと、イソプレンと共重合可能な他の単量体とを共重合したものであってもよい。イソプレンと共重合可能な他の単量体としては、前記の芳香族ビニル単量体;1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等のイソプレン以外の共役ジエン単量体;が挙げられる。
【0078】
ポリイソプレンブロック(D)の重量平均分子量は、好ましくは20,000~400,000であり、より好ましくは30,000~170,000であり、さらに好ましくは35,000~150,000である。ポリイソプレンブロック(D)の重量平均分子量が小さすぎると、得られる粘着剤組成物の粘着性能が劣る場合があり、逆に大きすぎると、粘着剤組成物の溶融粘度が高くなり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0079】
ポリイソプレンブロック(D)の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。この比が小さいと、粘着性能により優れる粘着剤組成物が得られる。
【0080】
ジブロック共重合体全体における芳香族ビニル単量体単位の含有量は、通常、8~50質量%、好ましくは10~40質量%、より好ましくは12~30質量%である。この芳香族ビニル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られる粘着剤組成物の粘着性能が劣る場合があり、逆に多すぎると、粘着剤組成物の低温での初期接着力が劣る場合がある。
【0081】
ジブロック共重合体中のイソプレン単位の中で、ビニル結合(-CH=CH)を有するものの割合(ビニル結合含有量)は、特に限定されず、通常、50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは5~10質量%である。この範囲にあると、低温時の初期接着力により優れた粘着剤組成物が得られる。
【0082】
ジブロック共重合体の重量平均分子量は、通常、80,000~200,000、好ましくは90,000~180,000、より好ましくは100,000~160,000、特に好ましくは110,000~140,000である。この重量平均分子量が小さすぎると、得られる粘着剤組成物が粘着性能に劣る傾向があり、逆に大きすぎると粘着剤組成物の溶融粘度が高くなり、取り扱いが困難となるおそれがある。
【0083】
ジブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。この比が小さいと、粘着性能に優れる粘着剤組成物が効率よく得られる。
【0084】
ブロック共重合体組成物中のジブロック共重合体の含有量は、通常10~90質量%、好ましくは15~85質量%、より好ましくは20~80質量%である。
ジブロック共重合体の含有量がこのような範囲にあると、粘着性能とダイカット性能により優れる粘着剤組成物が得られる。
【0085】
また、ブロック共重合体組成物においては、本発明の効果がバランスよく良好に発現することから、トリブロック共重合体の重量平均分子量が120,000~250,000であり、かつジブロック共重合体の重量平均分子量が80,000~140,000であるのが好ましい。
【0086】
ブロック共重合体組成物においては、トリブロック共重合体の芳香族ビニル単量体単位の含有量と、ジブロック共重合体の芳香族ビニル単量体単位の含有量との比が、1.5以上であることが好ましく、1.6以上であることがより好ましく、1.7~4.0であることがさらに好ましい。
【0087】
トリブロック共重合体の製造方法は特に限定されず、従来公知の製造方法が採用できる。例えば、アニオンリビング重合法により、ポリ芳香族ビニルブロックおよびポリイソプレンブロックを、それぞれ逐次的に重合する方法や、リビング性の活性末端を有するブロック共重合体をそれぞれ製造した後、それらと、後述するカップリング剤とを反応させてカップリングにより製造する方法が採用できる。
【0088】
ジブロック共重合体の製造方法は特に限定されず、従来公知の製造方法が採用できる。例えば、アニオンリビング重合法により、ポリ芳香族ビニルブロック及びポリイソプレンブロックを、逐次的に重合する方法が採用できる。
【0089】
また、トリブロック共重合体とジブロック共重合体は、上記のようにそれぞれ別々に製造してもよいが、以下のように、それぞれの重合工程を1つにまとめて、アニオンリビング重合法により、トリブロック共重合体とジブロック共重合体の混合物として製造することもできる。このような製造方法として、第1の製造方法および第2の製造方法を例示する。
【0090】
第1の製造方法は、以下の第1~第5の5つの工程からなる。
(第1の工程)重合溶媒中で、アニオン重合開始剤を用いて芳香族ビニル単量体を重合して、リビング性の活性末端を有するポリ芳香族ビニルブロック鎖を生成させる。
(第2の工程)ポリ芳香族ビニルブロック鎖のリビング性の活性末端からイソプレンを重合して、リビング性の活性末端を有する芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖を得る。
(第3の工程)芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖のリビング性の活性末端の一部を重合停止剤で失活させて、芳香族ビニル-イソプレンジブロック共重合体を得る。このとき、芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖の活性末端に対して、重合停止剤の量を1モル当量未満となるように調整する。
(第4の工程)上記(第3の工程)で得られる溶液に芳香族ビニル単量体を添加し、リビング性の活性末端を有する芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖の残部のリビング性の活性末端と芳香族ビニル単量体とを反応させて、リビング性の活性末端を有する芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック鎖を得る。
(第5の工程)芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック鎖のリビング性の活性末端を重合停止剤で失活させて、芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック共重合体を得る。
【0091】
第2の製造方法は、以下の第1および第2の工程と、第6および第7の工程との、合計4つの工程からなる。
(第1の工程)重合溶媒中で、アニオン重合開始剤を用いて芳香族ビニル単量体を重合して、リビング性の活性末端を有するポリ芳香族ビニルブロック鎖を生成させる。
(第2の工程)ポリ芳香族ビニルブロック鎖のリビング性の活性末端からイソプレンを重合して、リビング性の活性末端を有する芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖を得る。
(第6の工程)リビング性の活性末端を有する芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖の一部と、カップリング剤とを反応し、カップリングした芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック共重合体を得る。このとき、芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖の活性末端に対して、カップリング剤反応基の量を1モル当量未満となるように調整する。
(第7の工程)芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖のリビング性の活性末端を重合停止剤で失活させて、芳香族ビニル-イソプレンジブロック共重合体を得る。
【0092】
以下、これらの各工程を順に説明する。
第1の製造方法における第1の工程は、重合溶媒中で、アニオン重合開始剤を用いて芳香族ビニル単量体を重合して、リビング性の活性末端を有するポリ芳香族ビニルブロック鎖を生成させる工程である。
【0093】
用いる重合溶媒としては、重合開始剤に不活性なものであれば特に限定されず、例えば、鎖状炭化水素溶剤、環式炭化水素溶剤またはこれらの混合溶剤が使用できる。
鎖状炭化水素溶剤としては、n-ブタン、イソブタン、n-ヘキサン、1-ブテン、イソブチレン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ペンテン、トランス-2-ペンテン、シス-2-ペンテン、n-ペンタン、トランス-2-ペンタン、ネオペンタン及びこれらの混合物等が例示される。
環式炭化水素溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等が例示される。
これらの中でも、重合温度の制御及び重合体の分子量の制御が行ない易いことから、鎖状炭化水素溶剤と環式炭化水素溶剤とを混合して用いることが好ましい。
鎖状炭化水素溶剤と環式炭化水素溶剤とを混合して用いる場合、その混合比率は、(鎖状炭化水素溶剤):(環式炭化水素溶剤)の質量比で、好ましくは5:95~50:50、より好ましくは10:90~40:60である。
【0094】
重合溶媒の使用量は、第1~第4の工程の合計で、使用する全単量体100質量部あたり、通常、100~1000質量部、好ましくは150~400質量部である。
【0095】
アニオン重合開始剤は、特に限定されず、芳香族ビニル単量体及びイソプレンのアニオン重合に用いられるものであれば、特に制限されず、公知のものを使用できる。その具体例としては、メチルリチウム、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム等の有機モノリチウム開始剤が挙げられる。これらの中でも、n-ブチルリチウムが好ましい。重合開始剤の使用量は、常法に基づき、所望の重量平均分子量を有する重合体が得られるよう、適宜決定すればよい。
【0096】
また、重合速度を調整し、分子量分布の狭い重合体を製造し易いことから、極性化合物の存在下に重合を行うことが好ましい。
極性化合物は、分子が電気的極性をもつ化合物であり、具体的には、25℃で測定した比誘電率が、好ましくは2.5~5.0の化合物である。
極性化合物としては、ジフェニルエーテル、アニソール等の芳香族エーテル;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等の脂肪族エーテル;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン等の第3級モノアミン類;N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン等の第3級ポリアミン類;等が挙げられる。これらの中、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンが好ましい。
【0097】
極性化合物の使用量は、アニオン重合開始剤1モルに対して、好ましくは0.05~0.5モル、より好ましくは0.01~0.1モルの範囲である。
【0098】
第2の工程は、ポリ芳香族ビニルブロック鎖のリビング性の活性末端からイソプレンを重合して、リビング性の活性末端を有する芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖を得る工程である。
第2の工程においては、イソプレンは急激な反応熱の発生を抑制するために、連続的に添加しながら反応させることが好ましい。
【0099】
第3の工程は、芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖のリビング性の活性末端の一部を重合停止剤で失活させて、芳香族ビニル-イソプレンジブロック共重合体を得る工程である。
【0100】
重合停止剤は、活性末端と反応して活性末端を失活させることができ、1つの活性末端と反応した後は別の活性末端と反応しないものであれば特に限定されないが、得られる組成物の吸湿を抑制する観点からは、ハロゲン原子を含有しない化合物である重合停止剤であることが好ましく、なかでも、活性末端と反応した際に金属アルコキシド、金属アリールオキシド、または金属水酸化物を生じさせる重合停止剤が特に好ましい。重合停止剤として特に好ましく用いられる化合物としては、水、メタノールやエタノールなどの1価アルコール、フェノールやクレゾールなどの1価フェノール類が挙げられる。
【0101】
重合停止剤の使用量は、トリブロック共重合体とジブロック共重合体との質量比に応じて決定され、トリブロック鎖が有する活性末端に対して1モル当量未満となる量であれば特に限定されないが、通常、活性末端に対して重合停止剤が0.18~0.91モル当量となる範囲であり、0.35~0.80モル当量となる範囲であることが好ましい。
【0102】
第4の工程は、上記(第3の工程)で得られる溶液に芳香族ビニル単量体を添加し、リビング性の活性末端を有する芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖の残部のリビング性の活性末端と芳香族ビニル単量体とを反応させる工程である。
芳香族ビニル単量体を添加すると、重合停止剤と反応せずに残っていた活性末端を有する芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖の末端から、芳香族ビニル鎖が伸長する。この際、芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖中の芳香族ビニル鎖よりも大きい重量平均分子量を有する芳香族ビニル鎖を形成させると、第5の工程において、最終的に、上述したトリブロック共重合体Aが得られる。また、芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖中の芳香族ビニル鎖と同等の重量平均分子量を有する芳香族ビニル鎖を形成させると、第5の工程において、最終的に、上述したトリブロック共重合体Bが得られる。
【0103】
次に第2の製造方法について説明する。第2の製造方法における第1および第2の工程は、第1の製造方法において説明したとおりである。
【0104】
第2の製造方法では、第2の工程の後、第6の工程を行う。第6の工程は、リビング性の活性末端を有する芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖の一部と、カップリング剤とを反応し、カップリングした芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルトリブロック共重合体を得る工程である。
【0105】
カップリング剤は、重合体分子のリビング性の活性末端と反応して、該重合体分子と結合する部位を2つ有する化合物である。
【0106】
反応部位が2つある2官能性カップリング剤としては、ジクロロシラン、モノメチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン等の2官能性ハロゲン化シラン;ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等の2官能性アルコキシシラン;ジクロロエタン、ジブロモエタン、メチレンクロライド、ジブロモメタン等の2官能性ハロゲン化アルカン;ジクロロスズ、モノメチルジクロロスズ、ジメチルジクロロスズ、モノエチルジクロロスズ、ジエチルジクロロスズ、モノブチルジクロロスズ、ジブチルジクロロスズ等の2官能性ハロゲン化スズ;安息香酸、CO、2-クロロプロペン等が挙げられる。中でも、ジメチルジクロロシランが好ましい。カップリング剤の使用量は、カップリングして得られる芳香族ビニル-イソプレン-芳香族ビニルブロック共重合体(トリブロック共重合体(A)に相当する。)の量が所望の範囲になるよう、適宜決定すればよい。
【0107】
第7の工程は、芳香族ビニル-イソプレンジブロック鎖のリビング性の活性末端を重合停止剤で失活させて、芳香族ビニル-イソプレンジブロック共重合体を得る工程である。
【0108】
重合停止剤としては、アニオンリビング重合において通常使用されるものが使用できる。具体的には、水;メチルアルコールやエチルアルコール等のアルコール類;塩酸等の無機酸;及び酢酸等の有機酸;クロロトリメチルシラン等の1官能性のシラン化合物;等が挙げられる。
【0109】
以上の方法により、トリブロック共重合体とジブロック共重合体との混合物を含む溶液が得られる。この溶液に、必要に応じて酸化防止剤を添加してもよい。
その後、スチームストリッピングのような公知の重合体分離法によりその溶液から重合体を分離し、得られた重合体を乾燥して、トリブロック共重合体とジブロック共重合体の混合物が得られる。
【0110】
上記の方法により、トリブロック共重合体とジブロック共重合体の混合物を製造する場合、トリブロック共重合体とジブロック共重合体の合計量に対するトリブロック共重合体の存在割合は、通常10~70質量%、好ましくは15~60質量%である。この割合をこの範囲にあるようにすれば、ブロック共重合体組成物を製造する際に、別途製造したトリブロック共重合体を追加することなく、好ましい組成のブロック共重合体組成物とすることができる。
トリブロック共重合体とジブロック共重合体の合計量に対するトリブロック共重合体の存在割合は、第3の工程で用いる重合停止剤または第6の工程で用いるカップリング剤の使用量によって調整できる。
【0111】
ブロック共重合体組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、それぞれ別個に製造または入手した、トリブロック共重合体、ジブロック共重合体を所定の割合で混練して製造する方法、トリブロック共重合体とジブロック共重合体をそれぞれ所定の割合で溶液の状態で混合し、公知の方法により重合体を分離し、乾燥して製造する方法、上述した方法により得られたトリブロック共重合体とジブロック共重合体の混合物をそのまま重合体成分として用いる方法等を採用できる。
【0112】
<炭化水素樹脂>
本発明の粘着剤組成物は、ブロック共重合体組成物に加えて、炭化水素樹脂を含有する。本発明で用いる炭化水素樹脂は、脂肪族単量体単位を含有するか、あるいは、脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位を含有する。本発明で用いる炭化水素樹脂としては、脂肪族単量体単位のみを含有する炭化水素樹脂、および、脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位を含有し、芳香族単量体単位の含有量が全単量体単位に対して40質量%以下である炭化水素樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0113】
本発明の粘着剤組成物においては、炭化水素樹脂として、脂肪族単量体単位を含有するか、あるいは、脂肪族単量体単位および所定の割合の芳香族単量体単位を含有し、かつ、極めて限定されたZ平均分子量(Mz)を有するものを用いる。そして、このような特徴によって、本発明の粘着剤組成物は、初期接着力、剥離接着強さおよび保持力等の粘着性能に優れており、しかも、ダイカット性能に優れる。
【0114】
脂肪族単量体単位としては、芳香族環を含まないものであればよく、例えば、1,3-ペンタジエン単量体単位、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位、脂環式ジオレフィン単量体単位等が挙げられる。
【0115】
炭化水素樹脂中における、1,3-ペンタジエン(ピペリレン)単量体単位の含有割合は、好ましくは1~80質量%、より好ましくは20~75質量%、さらに好ましくは30~70質量%である。1,3-ペンタジエン単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる粘着剤組成物を、粘着性能により優れたものとすることができる。なお、1,3-ペンタジエンにおけるシス/トランス異性体比は任意の比でよく、特に限定されない。
【0116】
炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位を形成するための、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合を1つと非芳香族性の環構造とを有する炭素数が4~6の炭化水素化合物であればよく、特に限定されないが、その具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、メチルシクロブテン、メチルシクロペンテンなどが挙げられる。炭素数が4~6の炭化水素化合物は、1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよいが、少なくともシクロペンテンが含まれることが好ましく、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン中におけるシクロペンテンの占める割合を50質量%以上とすることが好ましい。
【0117】
炭化水素樹脂中における、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位の含有割合は、好ましくは1~30質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。炭素数4~6の脂環式モノオレフィン単量体単位の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる粘着剤組成物を、粘着性能により優れたものとすることができる。
【0118】
炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位を形成するための、炭素数4~8の非環式モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有し、環構造を有さない炭素数が4~8の鎖状炭化水素化合物であればよく、特に限定されないが、その具体例としては、1-ブテン、2-ブテン、イソブチレン(2-メチルプロペン)などのブテン類;1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンなどのペンテン類;1-ヘキセン、2-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテンなどのヘキセン類;1-ヘプテン、2-ヘプテン、2-メチル-1-ヘキセンなどのヘプテン類;1-オクテン、2-オクテン、2-メチル-1-ヘプテン、ジイソブチレン(2,4,4-トリメチルペンテン-1および2,4,4-トリメチルペンテン-1)などのオクテン類;などが挙げられる。炭素数4~8の非環式モノオレフィンは、1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよいが、少なくとも2-メチル-2-ブテン、イソブチレンおよびジイソブチレンからなる群から選択される少なくとも一種が含まれることが好ましく、炭素数4~6の脂環式モノオレフィン中における2-メチル-2-ブテン、イソブチレンおよびジイソブチレンの合計量が占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0119】
炭化水素樹脂中における、炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位の含有割合は、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~40質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。炭素数4~8の非環式モノオレフィン単量体単位を上記割合にて含有させることにより、得られる粘着剤組成物を、粘着性能により優れたものとすることができる。
【0120】
脂環式ジオレフィン単量体単位を形成するための、脂環式ジオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合を2つ以上と非芳香族性の環構造とを有する炭化水素化合物であればよく、特に限定されないが、その具体例としては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエンの多量体、メチルシクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエンの多量体などが挙げられる。脂環式ジオレフィンは、1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよいが、少なくともジシクロペンタジエンが含まれることが好ましく、脂環式ジオレフィン中におけるジシクロペンタジエンが占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0121】
上記脂肪族単量体単位の炭化水素樹脂中の含有量としては、一層優れたダイカット性能が得られることから、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、上限は特に限定されないが、100質量%以下であってよく、99質量%以下であってもよい。
【0122】
芳香族単量体単位としては、芳香族モノオレフィン単量体単位、2以上の環状構造が結合した構造を有する芳香族単量体単位等を好ましく含むことができる。
【0123】
上記芳香族単量体単位の炭化水素樹脂中の含有量としては、一層優れたダイカット性能が得られることから、40質量%以下であり、35質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることが好ましく、0質量%以上であってよく、1質量%以上であってもよい。
【0124】
芳香族モノオレフィン単量体単位を形成するための、芳香族モノオレフィンは、その分子構造中にエチレン性不飽和結合1つを有し、芳香族性の環構造を有する炭化水素化合物であればよく、特に限定されないが、その具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられる。芳香族モノオレフィンは、1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよいが、少なくともスチレンが含まれることが好ましく、芳香族モノオレフィン中におけるスチレンが占める割合が50質量%以上であることがより好ましい。
【0125】
炭化水素樹脂中における、芳香族モノオレフィン単量体単位の含有割合は、好ましくは0~40質量%、より好ましくは0~35質量%、さらに好ましくは0~30質量%である。芳香族モノオレフィン単量体単位を上記割合にて含有させることにより、得られる粘着剤組成物を、粘着性能により優れたものとすることができる。
【0126】
2以上の環状構造が結合した構造を有する芳香族単量体単位を形成するための、2以上の環状構造が結合した構造を有する芳香族単量体は、芳香族性の環構造を含む、2以上の環構造を有する炭化水素化合物であればよく、特に限定されないが、その具体例としては、ナフタレンなどのナフタレン骨格を有する化合物、フルオレンなどのフルオレン骨格を有する化合物、ビフェニルなどのビフェニル骨格を有する化合物、アントラセンなどのアントラセン骨格を有する化合物、フェナントレンなどのフェナントレン骨格を有する化合物、インデンなどのインデン骨格を有する化合物、ベンゾチオフェンなどのベンゾチオフェン骨格を有する化合物などが挙げられる。2以上の環状構造が結合した構造を有する芳香族単量体は、1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0127】
炭化水素樹脂中における、2以上の環状構造が結合した構造を有する芳香族単量体単位の含有割合は、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~40質量%、さらに好ましくは0~30質量%である。2以上の環状構造が結合した構造を有する芳香族単量体単位を上記割合にて含有させることにより、得られる粘着剤組成物を、粘着性能により優れたものとすることができる。
【0128】
また、炭化水素樹脂は、上述した単量体単位以外のその他の単量体の単位を含有するものであってもよい。その他の単量体としては、特に限定されないが、たとえば、1,3-ブタジエン、1,2-ブタジエン、イソプレン、1,3-ヘキサジエン、1,4-ペンタジエンなどの1,3-ペンタジエン以外の非環式ポリエン;シクロヘプテンなどの炭素数7以上の脂環式モノオレフィン;エチレン、プロピレン、ノネンなどの炭素数4~8以外の非環式モノオレフィン;などが挙げられる。これらは、1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。炭化水素樹脂中における、その他の単量体の単位の含有割合は、好ましくは0~30質量%、より好ましくは0~25質量%、さらに好ましくは0~20質量%である。
【0129】
炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)は、一層優れたダイカット性能が得られることから、好ましくは2,500以上であり、より好ましくは2,500~10,000の範囲であり、さらに好ましくは2,500~8,500の範囲であり、さらに好ましくは2,700~8,000の範囲である。
【0130】
炭化水素樹脂のZ平均分子量(Mz)は、5,000以上の範囲であり、一層優れたダイカット性能が得られることから、より好ましくは6,000~100,000の範囲であり、特に好ましくは7,000~50,000の範囲である。
【0131】
また、炭化水素樹脂は、一層優れたダイカット性能が得られることから、重量平均分子量に対するZ平均分子量の比(Mz/Mw)が、好ましくは1.0~6.0の範囲であり、より好ましくは1.2~5.5の範囲であり、さらに好ましくは1.4~5.0の範囲である。
【0132】
炭化水素樹脂の数平均分子量(Mn)は、一層優れたダイカット性能が得られることから、好ましくは500~4,000の範囲であり、より好ましくは750~3,500の範囲であり、さらに好ましくは1,000~3,000の範囲である。
【0133】
また、炭化水素樹脂は、一層優れたダイカット性能が得られることから、重量平均分子量に対する数平均分子量の比(Mw/Mn)が、好ましくは1.0~5.0の範囲であり、より好ましくは1.2~4.5の範囲であり、さらに好ましくは1.4~4.0の範囲である。
【0134】
なお、本発明において、炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、数平均分子量(Mn)は、高速液体クロマトグラフィの測定による、ポリスチレン換算の値として求めるものとする。また、炭化水素樹脂の重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、数平均分子量(Mn)は、炭素数4~8の非環式モノオレフィンの量を調整するなどの、各単量体組成を調整することや、後述する炭化水素樹脂の製造方法において、ルイス酸触媒の量を調整するなど、製造条件を調整することで、制御することができる。
【0135】
炭化水素樹脂の軟化点は、一層優れたダイカット性能が得られることから、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは90~170℃、さらに好ましくは90~160℃、特に好ましくは95~150℃である。なお、炭化水素樹脂の軟化点は、各単量体組成を調整することや、後述する炭化水素樹脂の製造方法において、製造条件を調整することで、制御することができる。
【0136】
炭化水素樹脂を製造する方法としては、上述した各単量体を含む単量体混合物を付加重合して、脂肪族単量体単位および芳香族単量体単位の含有量ならびにZ平均分子量(Mz)が上記範囲にあるような炭化水素樹脂を得ることができるものである限りにおいて、特に限定されないが、たとえば、フリーデルクラフツ型のカチオン重合触媒を用いた付加重合により製造することができ、特に、ルイス酸触媒(A)を用いた、付加重合による方法が好ましい。
【0137】
ルイス酸触媒(A)としては、限定されないが、ハロゲン化金属からなるものが好ましく、良好な反応活性を有する点から、周期律表第III族に属する元素のハロゲン化物またはその錯体であることが好ましい。このようなルイス酸触媒の具体例としては、三塩化アルミニウム(AlCl)、三臭化アルミニウム(AlBr)、三塩化ガリウム(GaCl)、三弗化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF・EtO)などを挙げることができる。なかでも汎用性などの観点から、AlClまたはBF・EtOが好適に用いられる。ルイス酸触媒(A)は、1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0138】
ルイス酸触媒(A)の使用量は、特に限定されないが、重合に使用する単量体混合物100質量部に対し、好ましくは0.05~10質量部、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0139】
また、ルイス酸触媒(A)は、その重合活性をより高めることができるという点より、3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)、および炭素-炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)から選択される少なくとも一種のハロゲン化炭化水素(B)と組み合わせて用いてもよい。
【0140】
3級炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B1)の具体例としては、t-ブチルクロライド、t-ブチルブロマイド、2-クロロ-2-メチルブタン、トリフェニルメチルクロライドが挙げられる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、t-ブチルクロライドが特に好適に用いられる。炭素-炭素不飽和結合に隣接する炭素原子にハロゲン原子が結合したハロゲン化炭化水素(B2)の具体例としては、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイド、(1-クロロエチル)ベンゼン、アリルクロライド、3-クロロ-1-プロピン、3-クロロ-1-ブテン、3-クロロ-1-ブチン、ケイ皮酸クロライドが挙げられる。これらのなかでも、活性と取り扱いやすさとのバランスに優れる点で、ベンジルクロライドが好適に用いられる。なお、ハロゲン化炭化水素(B)は、1種類のみ使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0141】
ハロゲン化炭化水素(B)の使用量は、特に限定されないが、ルイス酸触媒(A)に対するモル比で、好ましくは0.05~50の範囲、より好ましくは0.1~10の範囲である。
【0142】
重合反応を行うに当たり、単量体混合物や重合触媒のそれぞれの成分を重合反応器に添加する順序は特に限定されず、任意の順で添加すればよいが、重合反応を良好に制御するという観点から、単量体混合物を構成する単量体成分の一部と、ルイス酸触媒(A)とを予め重合反応器に添加し、単量体混合物を構成する単量体成分の一部と、ルイス酸触媒(A)とを予め接触させた後に、単量体混合物を構成する単量体成分の残部を重合反応器に添加して、重合反応を開始することが好ましい。この際においては、単量体混合物を構成する単量体成分の一部として、少なくとも、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンを用い、ルイス酸触媒(A)と予め重合反応器に添加し、炭素数4~6の脂環式モノオレフィンと、ルイス酸触媒(A)とを予め接触させた後に、単量体混合物を構成する単量体成分の残部を重合反応器に添加して、重合反応を開始することがより好ましい。
【0143】
また、ルイス酸触媒(A)に加えて、ハロゲン化炭化水素(B)を使用する場合には、単量体混合物とルイス酸触媒(A)とを重合反応器に添加して、重合反応を開始した後に、ハロゲン化炭化水素(B)を重合反応器に添加することが好ましい。あるいは、単量体混合物とルイス酸触媒(A)と、ハロゲン化炭化水素(B)の一部と重合反応器に添加して、重合反応を開始した後に、ハロゲン化炭化水素(B)の残部を重合反応器に添加する態様も好適である。
【0144】
重合反応をより良好に制御する観点からは、重合反応系に溶媒を添加して、重合反応を行うことが好ましい。溶媒の種類は、重合反応を阻害しないものであれば特に制限はないが、飽和脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素が好適である。溶媒として用いられる飽和脂肪族炭化水素としては、たとえば、n-ペンタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、2,2,3-トリメチルブタン、2,2,4-トリメチルペンタンなどの炭素数5~10の鎖状飽和脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの炭素数5~10の環状飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。溶媒として用いられる芳香族炭化水素としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭素数6~10の芳香族炭化水素などが挙げられる。溶媒は1種を単独で使用してもよいし、2種以上の混合溶媒として用いてもよい。溶媒の使用量は、特に限定されないが、重合反応に用いる単量体混合物100質量部に対して、10~1000質量部であることが好ましく、50~500質量部であることがより好ましい。なお、たとえば、C5留分に由来するシクロペンタンとシクロペンテンとの混合物のような、付加重合性成分と非付加重合性成分との混合物を重合反応系に添加して、付加重合性成分は単量体混合物の成分として用い、非付加重合性成分は溶媒として用いるような態様とすることもできる。
【0145】
重合反応を行う際の重合温度は、特に限定されないが、好ましくは85℃以下であり、より好ましくは-20~85℃、さらに好ましくは0~75℃である。重合温度が低すぎると重合活性が低下して生産性が劣る可能性があり、重合温度が高すぎると得られる炭化水素樹脂の色相に劣るおそれがある。重合反応を行う際の圧力は、大気圧下でも加圧下でもよい。重合反応時間は、適宜選択できるが、通常10分間~12時間、好ましくは30分間~6時間の範囲で選択される。
【0146】
重合反応は、所望の重合転化率が得られた時点で、メタノール、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水溶液などの重合停止剤を重合反応系に添加することにより停止することができる。なお、重合停止剤を添加して、重合触媒を不活性化した際に生成する、溶媒に不溶な触媒残渣は濾過などにより除去してもよい。重合反応停止後、未反応の単量体と溶媒を除去し、さらに水蒸気蒸留などにより低分子量のオリゴマー成分を除去し、冷却することにより、固体状の炭化水素樹脂を得ることができる。
【0147】
また、このようにして得られる炭化水素樹脂について、必要に応じて、炭化水素樹脂の重合体分子構造中に残存する不飽和結合の一部または全部を水素添加反応(水添)により飽和化して、水素化物としてもよい。
【0148】
炭化水素樹脂について水素添加反応を行う際における、水素添加反応方法としては、特に限定されず、公知の方法を制限なく用いることができるが、たとえば、ニッケル触媒の存在下に水素と接触させる方法などが挙げられる。ニッケル触媒としては、特に限定されないが、反応性が高いという観点より、担体としての担持無機化合物に、金属としてのニッケルを担持してなる化合物を主成分として含む触媒が好ましい。担体としての担持無機化合物の具体例としては、シリカ、アルミナ、ボリア、シリカ-アルミナ、珪藻土、白土、粘土、マグネシア、マグネシア-シリカ(シリカ-酸化マグネシウム)、チタニア、ジルコニアなどが挙げられる。
【0149】
本発明の粘着剤組成物において、炭化水素樹脂の含有量としては、一層優れたダイカット性能が得られることから、ブロック共重合体組成物100質量部に対して、好ましくは10~500質量部であり、より好ましくは30~400質量部であり、さらに好ましくは50~300質量部である。
【0150】
本発明の粘着剤組成物は、さらに、他の成分を含有するものであってもよい。本発明の粘着剤組成物に含有され得る他の成分としては、ワックス、酸化防止剤、軟化剤、上述した炭化水素樹脂および水素化物以外の粘着付与樹脂、上述したブロック共重合体以外の重合体、熱安定剤、紫外線吸収剤、充填剤など、その他の配合剤を添加することができる。なお、本発明の粘着剤組成物は、溶剤を含まない、無溶剤の組成物であることが好ましい。
【0151】
本発明の粘着剤組成物に配合され得るワックスは、特に限定されず、たとえば、ポリエチレンワックス、エチレン酢酸ビニル共重合体ワックス、酸化ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、Fischer-Tropshワックス、酸化Fischer-Tropshワックス、水素添加ひまし油ワックス、ポリプロピレンワックス、副産ポリエチレンワックス、水酸化ステアラミドワックスなどを用いることができる。ワックスは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。粘着剤組成物におけるワックスの含有量は、特に限定されないが、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、好ましくは10~200質量部であり、より好ましくは20~150質量部である。ワックスの含有量がこの範囲であることにより、得られる粘着剤組成物が、塗工容易性に特に優れたものとなる。
【0152】
本発明の粘着剤組成物に配合され得る酸化防止剤は、特に限定されず、たとえば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールなどのヒンダードフェノール系化合物;ジラウリルチオプロピオネートなどのチオジカルボキシレートエステル類;トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどの亜燐酸塩類;などが挙げられる。酸化防止剤の使用量は、特に限定されないが、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、通常10質量部以下であり、好ましくは0.5~5質量部である。なお、酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0153】
本発明の粘着剤組成物に配合され得る軟化剤は、特に限定されず、たとえば、芳香族系、パラフィン系またはナフテン系のプロセスオイル;ポリブテン、ポリイソブチレンなどの液状重合体などを使用することができる。軟化剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0154】
本発明の粘着剤組成物に配合され得る炭化水素樹脂以外の粘着付与樹脂としては従来公知の粘着付与樹脂が使用できる。具体的には、ロジン;不均化ロジン、二量化ロジンなどの変性ロジン類;グリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールとロジンまたは変性ロジン類とのエステル化物;テルペン系樹脂;脂肪族系、芳香族系、脂環族系または脂肪族-芳香族共重合系の炭化水素樹脂またはこれらの水素化物;フェノール樹脂;クマロン-インデン樹脂などが挙げられる。これらの粘着付与樹脂は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0155】
本発明の粘着剤組成物に配合され得る、他の重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの共役ジエン単独重合体、(スチレン-ブタジエン)ランダム共重合体、(スチレン-イソプレン)ランダム共重合体などの芳香族ビニル-共役ジエンランダム共重合体、(スチレン-ブタジエン)ブロック共重合体などの芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体、ポリスチレンなどの芳香族ビニル単独重合体、イソブチレン系重合体、アクリル系重合体、エステル系重合体、エーテル系重合体、ウレタン系重合体、ポリ塩化ビニルなどの室温(23℃)で弾性を有する重合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の粘着剤組成物において、これらの重合体の含有量は、粘着剤組成物の全量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0156】
本発明の粘着剤組成物を調製するにあたり、炭化水素樹脂および/または水素化物、熱可塑性エラストマー、ならびに、さらに必要に応じて添加されるその他の成分を混合する方法は特に限定されず、たとえば、それぞれの成分を溶剤に溶解し均一に混合した後、溶剤を加熱などにより除去する方法、各成分をニーダーなどで溶融混合する方法などを挙げることができる。混合をより効率的に行う観点からは、これらの方法のなかでも溶融混合が好適である。なお、溶融混合を行う際の温度は、特に限定されるものではないが、通常100~200℃の範囲である。
【0157】
本発明の粘着剤組成物は、種々の部材の接着に適用することが可能である。また、本発明の粘着剤組成物は、種々の用途に適用することが可能であり、その用途は限定されるものではないが、たとえば、ラベルの粘着剤層を形成するために用いることができる。すなわち、本発明の粘着剤組成物は、ラベル用粘着剤組成物として好適に使用することができ、ラベル用粘着剤組成物から得られるラベルは、粘着性能に優れると同時に、ダイカット性能に優れる。
【0158】
本発明の粘着剤組成物は、常法に従った、ラベルの製造に適用できる。ラベルは、本発明の粘着剤組成物からなる粘着剤層と支持体とを備えることが好ましい。粘着剤層は、通常、本発明の粘着剤組成物を支持体上に塗布し、乾燥して形成することができる。
【0159】
用いる支持体としては、特に限定されず、例えば、クラフト紙、和紙、上質紙及び合成紙等の紙類;綿布、スフ布及びポリエステル布等の布類;セロハンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム及びポリエチレンフィルム等の樹脂フィルム;アルミニウム箔及び銅箔等の金属箔;ポリエステル製不織布及びレーヨン製不織布等の不織布等が挙げられる。
【0160】
これらの支持体は、予め、その表面をコロナ放電処理したり、プライマリーコーティング剤を塗布したりしたものであってもよい。
【0161】
塗布方法は、特に限定されず、従来公知の方法が採用できる。例えば、本発明の粘着剤組成物を適当な有機溶媒に溶解して粘度調整を行い、得られた塗布液を塗布する方法、粘着剤組成物を加熱溶融して直接塗布する方法、乳化剤を用いて、粘着剤組成物を水に分散させて、エマルジョンを調製し、このエマルジョンを塗布する方法等が採用できる。
【0162】
粘着剤組成物を溶解させる有機溶媒としては、例えば、n-ヘキサン及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素;これらのハロゲン化物等を挙げることができる。
【0163】
ラベルは、粘着剤組成物を含む塗布液を支持体上に塗布し、乾燥することで、粘着剤層を形成し、製造することができる。また、ラベルは、粘着剤組成物を、加熱することにより溶融させ、得られた溶融物を、剥離シートの剥離剤層上に塗布し、必要に応じて乾燥させ、粘着剤層を形成し、その後、支持体と貼り合わせる方法(転写塗工法)により製造してもよい。または、ラベルは、粘着剤組成物を、加熱することにより溶融させ、得られた溶融物を、支持体に直接塗布し、必要に応じて乾燥させて粘着剤層を形成し、その後、粘着剤層と、剥離シートの剥離剤層とを貼り合わせる方法(直接塗工法)により製造してもよい。
【0164】
得られる粘着剤層は、本発明の粘着剤組成物を用いて形成されたものであるため、粘着性能に優れ、且つ、ダイカット性能にも優れる。
粘着剤層の厚みは、通常10μm~100μm、好ましくは20μm~70μmである。
【0165】
本発明の粘着剤組成物を用いて得られるラベルは、その使用用途に応じ、適宜な形状に切断、打ち抜き加工等されたものであってもよい。さらに、本発明の粘着剤組成物を用いたラベルが有する粘着剤層は連続的に形成されたものに限定されない。例えば、点状、ストライプ状等の、規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。
【実施例
【0166】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、特記しない限り「部」は質量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0167】
〔数平均分子量、重量平均分子量、Z平均分子量および分子量分布〕
試料となる炭化水素樹脂について、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算値の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)およびZ平均分子量(Mz)を求め、分子量分布は、Mw/Mnの比またはMz/Mwの比で示した。なお、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー分析は、測定装置として、東ソー社製「HLC-8320GPC」を使用し、カラムは東ソー社製「TSKgel SuperMultiporeHZ」を3本連結したものを用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃、1.0ml/minの流量で測定した。
【0168】
〔軟化点(℃)〕
試料となる炭化水素樹脂について、JIS K2207に準拠して、環球法により測定した。
【0169】
〔ブロック共重合体組成物およびブロック共重合体組成物中の各ブロック共重合体の重量平均分子量〕
流速0.35mL/分のテトラヒドロフランをキャリアとする高速液体クロマトグラフィによりポリスチレン換算分子量として求めた。装置はHLC8220(東ソー社製)、カラムはShodex(登録商標)〔昭和電工社製、KF-404HQ〕を3本連結したもの(カラム温度40℃)、検出器は示差屈折計および紫外検出器を用い、分子量の較正はポリマーラボラトリー社製の標準ポリスチレン(500から300万)の12点で実施した。
【0170】
〔ブロック共重合体組成物中の各ブロック共重合体の含有量〕
上記の高速液体クロマトグラフィにより得られたチャートの各ブロック共重合体に対応するピークの面積比から求めた。
【0171】
〔ブロック共重合体のポリ芳香族ビニルブロックの重量平均分子量〕
Rubber Chem. Technol.,45,1295(1972)に記載された方法に従い、ブロック共重合体をオゾンと反応させ、水素化リチウムアルミニウムで還元することにより、ブロック共重合体のポリイソプレンブロックを分解した。具体的には、以下の手順で行なった。すなわち、モレキュラーシーブで処理したジクロロメタン100mLを入れた反応容器に、試料を300mg溶解させた。この反応容器を冷却槽に入れ-25℃としてから、反応容器に170mL/分の流量で酸素を流しながら、オゾン発生器により発生させたオゾンを導入した。反応開始から30分経過後、反応容器から流出する気体をヨウ化カリウム水溶液に導入することにより、反応が完了したことを確認した。得られた反応液を反応液1とする。
次いで、内部を窒素置換した別の反応容器に、ジエチルエーテル50mLと水素化リチウムアルミニウム470mgを仕込み、氷水で反応容器を冷却しながら、この反応容器に、反応液1をゆっくり滴下した。そして、反応容器を水浴に入れ、徐々に昇温して、40℃で30分間還流させた。反応終了後、溶液を攪拌しながら、反応容器に希塩酸を少量ずつ滴下し、水素の発生がほとんど認められなくなるまで滴下を続けた。得られた反応液を反応液2とする。反応液2中に生じた固形の生成物を濾別し、濾別した固形の生成物に100mLのジエチルエーテルを加え、全容を10分間撹拌した後、濾過することにより、抽出液を得た。この抽出液と、濾別した際の濾液とを合わせ、合わせた溶液から溶媒を留去することにより、固形の試料を得た。
このようにして得られた試料につき、上記の重量平均分子量の測定法に従い、重量平均分子量を測定し、その値をポリ芳香族ビニルブロックの重量平均分子量とした。
【0172】
〔ブロック共重合体のポリイソプレンブロックの重量平均分子量〕
それぞれ上記のようにして求められた、ブロック共重合体の重量平均分子量から、対応するポリ芳香族ビニルブロックの重量平均分子量を差し引き、その計算値に基づいて、ポリイソプレンブロックの重量平均分子量を求めた。
【0173】
〔ブロック共重合体の芳香族ビニル単量体単位含有量〕
上記の高速液体クロマトグラフィの測定における、示差屈折計と紫外検出器との検出強度比に基づいて求めた。なお、予め、異なる芳香族ビニル単量体単位含有量を有する共重合体を用意し、それらを用いて、検量線を作成した。
【0174】
〔ブロック共重合体組成物(全体)の芳香族ビニル単量体単位含有量〕
H-NMRの測定に基づき求めた。
【0175】
〔破断強度および破断伸び〕
170℃でプレス成形した粘着剤組成物の1mm厚シートを用い、JIS K 6251に準じた方法で、破断強度及び破断伸びを測定した。ダンベル形状は、JIS-7113-2(1/2サイズ)を用いた。
【0176】
〔ダイカット性能〕
厚さ55μmのポリエステルフィルムに、粘着剤組成物を塗工し、A4サイズの粘着フィルムを作製した。粘着フィルムを、剥離紙に貼り付け、ラベルを作製し、得られたラベルを10枚重ねて、サンプルとした。サンプルを、ギロチンカッターを使用して切断して、ギロチンカッターの刃の汚れの有無、および、粘着剤組成物の糸引きの有無を、目視により観察して、以下の基準で評価した。
カッティング後の刃の様子
〇:汚れが観察されなかった
×:汚れが観察された
カッティング後の糸引きの有無
〇:糸引きが観察されなかった
×:糸引きが観察された
【0177】
〔製造例1〕
重合反応器にシクロペンタン36.9部、シクロペンテン15.2部およびトルエン2.1部の混合物を仕込み、55℃に昇温した後、三塩化アルミニウム0.75部を添加した。引き続き、1,3-ペンタジエン68.7部、シクロペンテン12.2部およびイソブチレン2.4部からなる混合物を、60分間に亘り温度70℃を維持して、重合反応器に連続的に添加しながら重合を行なった。その後、水酸化ナトリウム水溶液を重合反応器に添加して、重合反応を停止した。この時の重合転化率は、85%であった。なお、重合反応時の重合反応器中の成分の種類および量は、単量体混合物を構成する成分(付加重合性成分)、溶媒に相当する成分(非付加重合性成分)、および重合触媒に区分して、表1にまとめて示した。重合停止により生成した沈殿物をろ過により除去した後、得られた重合体溶液を蒸留釜に仕込み、窒素雰囲気下で加熱し、重合溶媒と未反応単量体を除去した。次いで、240℃以上で、飽和水蒸気を吹き込みながら、低分子量のオリゴマー成分を留去した。溶融状態の樹脂100部に対して、老化防止剤としてペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名「イルガノックス(登録商標)1010」、BASF社製)0.2部を添加し、混合した後、蒸留釜から溶融樹脂を取り出し、室温まで放冷して、炭化水素樹脂を得た。得られた炭化水素樹脂の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0178】
〔製造例2~7〕
重合反応器に添加する成分の種類および量を表1に示すとおりに変更した以外は、製造例1と同様にして、炭化水素樹脂を得て、製造例1と同様に物性を測定した。結果を表1に示す。
【0179】
【表1】
【0180】
〔ブロック共重合体組成物の製造例〕
耐圧反応器に、シクロヘキサン23.3kg、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(以下、TMEDAと称する)2.8ミリモルおよびスチレン1.31kgを添加し、40℃で攪拌しているところに、n-ブチルリチウム92.10ミリモルを添加し、50℃に昇温しながら1時間重合した。スチレンの重合転化率は100%であった。
引き続き、50~60℃を保つように温度制御しながら、反応器にイソプレン6.61kgを1時間にわたり連続的に添加した。
イソプレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、この後、反応器に重合停止剤としてメタノールを64.3ミリモル添加して1時間重合停止反応を行い、活性末端を有するジブロック鎖の一部の活性末端を失活させることにより、スチレン-イソプレンジブロック共重合体を形成させた。
この後、50~60℃を保つように温度制御しながら、スチレン0.80kgを1時間にわたり連続的に添加した。スチレンの添加を完了した後、さらに1時間重合し、トリブロック鎖を形成させた。スチレンの重合転化率は100%であった。この後、重合停止剤としてメタノール300ミリモルを添加して、混合することにより、トリブロック鎖の活性末端を全て失活させて、スチレン-イソプレン-スチレントリブロック共重合体を形成させた。
以上のようにして得られたブロック共重合体組成物を含む反応液の一部を取り出し、上記測定方法に従ってブロック共重合体組成物を評価した。結果を表2に示す。
【0181】
以上のようにして得られた反応液100部(重合体成分を30部含有)に、酸化防止剤として、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール0.3部を加えて混合し、混合溶液を少量ずつ85~95℃に加熱された温水中に滴下して溶媒を揮発させて析出物を得て、この析出物を粉砕し、85℃で熱風乾燥することにより、ブロック共重合体組成物を回収した。
【0182】
【表2】
【0183】
〔実施例1〕
上記の製造例で得られたブロック共重合体組成物100部を攪拌翼型混練機に投入し、これに製造例1で得られた炭化水素樹脂150部、軟化剤(商品名「サンピュアN90」、ナフテン系プロセスオイル、日本サン石油社製)50部および酸化防止剤(商品名「イルガノックス1010」、BASF社製)1.5部を添加して系内を窒素ガスで置換したのち、160~180℃で1時間混練することにより、粘着剤組成物を調製した。
【0184】
得られた粘着剤組成物を用いて、上記した方法により、破断強度および破断伸びを測定し、ダイカット性能を評価した。結果を表3に示す。
【0185】
〔実施例2~6,比較例1~3〕
表3に記載の配合に変更した以外は、実施例1と同様にして、粘着剤組成物を調製し、実施例1と同様に評価した。結果を表3に示す。なお、実施例5などにおいて用いた軟化剤は、「ナイフレックス222B」(商品名)、ナフテン系プロセスオイル、ナイナス社製である。
【0186】
【表3】
【0187】
表3より、以下の点が確認できる。
すなわち、トリブロック共重合体およびジブロック共重合体を含有し、重合体成分全体に占める芳香族ビニル単量体単位の含有割合が10~30質量%であるブロック共重合体組成物と、芳香族単量体単位が全単量体単位に対して40質量%以下であって、Z平均分子量が5,000以上の炭化水素樹脂とを含有し、破断強度が6.0MPa未満、かつ破断伸びが1,300%未満である粘着剤組成物を用いて得られるラベルは、刀を汚すことなく、また、粘着剤組成物が糸を引くことなく、ギロチンカッターにより切断することができた。したがって、上記粘着剤組成物は、ダイカット性能に優れることが分かった(実施例1~6)。
一方、ブロック共重合体組成物とZ平均分子量が小さすぎる炭化水素樹脂とを含有し、破断強度および破断伸びが大きすぎる粘着剤組成物を用いて得られるラベルは、ギロチンカッターにより切断すると、刀が汚れてしまい、粘着剤組成物が糸を引いた(比較例1~3)。