(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-16
(45)【発行日】2023-01-24
(54)【発明の名称】トンネル掘削方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20230117BHJP
E21D 9/087 20060101ALI20230117BHJP
【FI】
E21D9/06 301E
E21D9/06 301M
E21D9/087 F
(21)【出願番号】P 2019131158
(22)【出願日】2019-07-16
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英典
(72)【発明者】
【氏名】大川 俊紀
(72)【発明者】
【氏名】川内 大輔
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-061486(JP,A)
【文献】特開平09-100696(JP,A)
【文献】特開2014-145177(JP,A)
【文献】特開昭61-221492(JP,A)
【文献】特開平10-153085(JP,A)
【文献】特開平08-074492(JP,A)
【文献】特開平10-037679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
E21D 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機の先端に設置された回転式の掘削手段で切削可能な補強材が配筋されたコンクリートからなる土留め壁を発進立坑の発進口部分に構築する構築工程と、
前記シールド掘進機のスキンプレートの外壁に設けられた突出部が当該シールド掘進機の発進時に当たる範囲の前記土留め壁を、当該土留め壁における最も地山側の前記補強材を切断し且つ地山に到達しない位置まで削孔する削孔工程と、
前記シールド掘進機を用いて前記掘削手段で前記土留め壁を切削した後に地山に進入して掘削する掘削工程と、
を有し、
前記構築工程では、前記発進口部分の外周を囲むようにして前記土留め壁の発進立坑側に突出して構築された坑口コンクリートの内周縁に、発進口と前記シールド掘進機の前記スキンプレートとの間をシールするシール部材を設置し、
前記削孔工程は、
前記掘削手段が前記シール部材よりも前方になり、且つ前記掘削手段と前記土留め壁との間に所定の空間が形成される位置まで前記シールド掘進機を前進させる工程と、
前記掘削手段と前記土留め壁とで形成された空間に仮設足場を組み立てる工程と、
前記仮設足場上からコアボーリング機により前記土留め壁に対してコア削孔をつなげる連続コアボーリングを行う工程と、
連続コアボーリングでの削孔後に前記仮設足場を解体する工程と、
を有する、
ことを特徴とするトンネル掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル掘削方法に関し、特に、シールド掘進機を用いたトンネル掘削工事における発進立坑内の発進口の掘削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤中にトンネルを構築するシールド工法では、発進立坑内でシールド掘進機を組み立てて発進させ、地中を掘進させる。そして、到達立坑に到達したならば、到達立坑内でシールド掘進機を分解して地上に搬出する。
【0003】
シールド工法における発進立坑および到達立坑の土留め壁は、立坑深さでの土圧および水圧に耐える必要がある。そのような土留め壁として、鋼製のシートパイル等が用いられ、鋼材の支保工で補強したものがある。
【0004】
ここで、発進口部分を含む土留め壁をシートパイルで形成しておき、シールド掘進機の発進の直前に、カッタ盤正面のシートパイルをシールド掘進機の外径に沿って切断し、発進口を形成する技術が知られている。この場合、シートパイルを切断する前にカッタ盤前方の地山の土砂に固化剤を注入して地盤改良して立坑内への地下水と土砂の流入を防ぐといった方法が用いられる。
【0005】
このような技術では、固化材の注入や支保工の組み立ておよび解体などの手間のかかる作業が必要になる。
【0006】
そこで、発進口部分の土留め壁を、シールド掘進機のカッタ盤で切削可能な高強度な補強材が配筋されたコンクリートで構築し、当該土留め壁をシールド掘進機で直接切削するようにした技術がある。この技術によれば、発進に伴う地盤改良や支保工の撤去作業等が不要になるので、工期短縮やコストダウンなどを図ることが可能になる。
【0007】
さて、シールド工法では、リング状のセグメントを存置しながらシールド掘進機が前進するので、シールド掘進機の後端からセグメントが露出していくことになる。また、セグメントはシールド掘進機内で組み立てられるので、その外径はシールド掘進機の内径よりも小さくなり、結果として、切削した地山とセグメントとの間には隙間ができる。そこで、シールド掘進機の後端付近から裏込め材を流し込んで、この隙間を埋める必要がある。
【0008】
シールド工法において当該隙間を埋める技術の一つとして、裏込め同時注入工法がある。これは、シールド掘進機の後方の上部外周面に複数の裏込め注入装置を設けておき、シールド掘進機の前進に合わせて裏込め材を注入していくものである。
【0009】
発進口部分の土留め壁をシールド掘進機で直接切削する技術と裏込め材同時注入の技術とを併用したシールド掘進機に関しては、特許文献1(特開平09-100696号公報)、特許文献2(特開平10-037679号公報)などに記載の技術が知られている。
【0010】
特許文献1には、裏込め注入機の前方にカッタビットを複数段設け、後方に向かうにしたがってビット高さを高くする技術が記載されている。また、特許文献2には、裏込め注入機の前方のシールド掘進機側面に回転カッタを出没自在に設け、土留め壁や土中の掘削の際に余掘りを行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平09-100696号公報
【文献】特開平10-037679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
さて、裏込め注入装置に裏込め材を供給する裏込め材供給路は、シールド掘進機を構成するスキンプレートの外壁から突出して設けられる。すなわち、裏込め材供給路は、カッタ盤(掘削手段)の切削範囲の外側に設けられた突出部となる。
【0013】
前述したように、土留め壁として繊維補強コンクリートを用いた工法では、シールド掘進機で土留め壁を直接切削している。このとき、裏込め同時注入工法によるシールド掘進機では、突出部である裏込め材供給路がカッタ盤の切削範囲の外側に出ているので、当該部分が発進時の障害になる。
【0014】
そして、このような問題は、裏込め材供給路に限らず、スキンプレートの外壁から突出して設けられた様々な突出部に妥当する。
【0015】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、補強材が配筋されたコンクリートからなる発進口部分の土留め壁をシールド掘進機の掘削手段で直接切削する際に、シールド掘進機のスキンプレート外壁に設けられた突出部が土留め壁を通過する際の障害になることを回避できるトンネル掘削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明のトンネル掘削方法は、シールド掘進機の先端に設置された回転式の掘削手段で切削可能な補強材が配筋されたコンクリートからなる土留め壁を発進立坑の発進口部分に構築する構築工程と、前記シールド掘進機のスキンプレートの外壁に設けられた突出部が当該シールド掘進機の発進時に当たる範囲の前記土留め壁を、当該土留め壁における最も地山側の前記補強材を切断し且つ地山に到達しない位置まで削孔する削孔工程と、前記シールド掘進機を用いて前記掘削手段で前記土留め壁を切削した後に地山に進入して掘削する掘削工程と、を有し、前記構築工程では、前記発進口部分の外周を囲むようにして前記土留め壁の発進立坑側に突出して構築された坑口コンクリートの内周縁に、発進口と前記シールド掘進機の前記スキンプレートとの間をシールするシール部材を設置し、前記削孔工程は、前記掘削手段が前記シール部材よりも前方になり、且つ前記掘削手段と前記土留め壁との間に所定の空間が形成される位置まで前記シールド掘進機を前進させる工程と、前記掘削手段と前記土留め壁とで形成された空間に仮設足場を組み立てる工程と、前記仮設足場上からコアボーリング機により前記土留め壁に対してコア削孔をつなげる連続コアボーリングを行う工程と、連続コアボーリングでの削孔後に前記仮設足場を解体する工程と、を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、補強材が配筋されたコンクリートの土留め壁について、スキンプレートの外壁に設けられた突出部がシールド掘進機の発進時に当たる範囲を削孔した後に、掘削手段で土留め壁を切削して地山に進入して土砂の掘削を行うようにしているので、突出部が土留め壁を通過する際の障害になることを回避することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施の形態のシールド掘進機の内部を側面から透かして見た構成図である。
【
図2】
図1のシールド掘進機のカッタヘッドの正面図である。
【
図3】
図1のシールド掘進機に設けられた裏込め材供給路と保護ビットとをスキンプレートの径方向断面で抽出して示す説明図である。
【
図4】一方の裏込め材供給路と保護ビットとを示す平面図である。
【
図6】裏込め材供給路と保護ビットとの位置関係を示す説明図である。
【
図7】本実施の形態のトンネル掘削方法における発進立坑の要部を示す側面図である。
【
図8】
図7の発進立坑の発進口部分に構築された土留め壁を示す説明図である。
【
図10】削孔工程における孔と裏込め材供給路との位置関係を示す説明図である。
【
図11】削孔工程における作業状態をシールド掘進機の側面から見た説明図である。
【
図12】削孔工程における作業状態をシールド掘進機の平面から見た説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0026】
まず、本実施の形態のトンネル掘削方法で用いられるシールド掘進機の構成について
図1および
図2を参照して説明する。ここで、
図1は本実施の形態のシールド掘進機の内部を側面から透かして見た構成図、
図2は
図1のシールド掘進機のカッタヘッドの正面図である。
【0027】
これらの図面において、本実施の形態のシールド掘進機1は、カッタ盤(掘削手段)2を切羽(掘削面)に押し当て回転させることにより地山を掘削する際に、カッタ盤2の後方のスキンプレート3内に設けられた泥水室4に送泥管5を通じて泥水を圧送し、泥水室4内の泥水圧力を切羽の土圧および地下水圧に見合う圧力にして切羽の安定を図るとともに、泥水室4内に溜められた泥水を排泥管6によってトンネルの外部に排出しながら地山にトンネルを形成する泥水式シールド掘進機である。
【0028】
シールド掘進機1を構成するカッタ盤2は、地山の切羽を掘削する正面円形状の掘削部材であり、スキンプレート3の前面にスキンプレート3の周方向に沿って正逆方向に回転自在の状態で設置されている。
【0029】
本実施の形態において、カッタ盤2には面板タイプが採用されており、
図2に示すように、中央のハブ部2-1と、ハブ部2-1から外周に向かって放射状に延びる4本のメインスポーク2-2と、各メインスポーク2-2の間に位置して前後方向にスライド可能になった格納式スポーク2-3と、メインスポーク2-2および格納式スポーク2-3の隙間を塞ぐ板状の鋼材である面板部2-4と、メインスポーク2-2および格納式スポーク2-3の先端部同士を結ぶ外周リング部2-5とを備えている。なお、ハブ部2-1、メインスポーク2-2および面板部2-4は、相互に一体となって形成されている。
【0030】
カッタ盤2のハブ部2-1、メインスポーク2-2、格納式スポーク2-3、面板部2-4および外周リング部2-5の前面(切羽に対向する面)には、玉石等の破砕や地山の掘削を行う複数のビット2aおよびスクレーパツース2bが装着されている他、カッタ盤2の回転により掘削された土砂等を泥水室4内に取り込むための土砂取込口2-6が形成されている。なお、カッタ盤2の外周面には、急曲線施工時の余掘りやシールド掘進機1の姿勢制御等を行うコピーカッタ2cが装着されている。
【0031】
カッタ盤2の後方に位置するスキンプレート3は、例えば円筒状の鋼製板により形成された前胴プレート3aおよび後胴プレート3bで構成されている。前胴プレート3aと後胴プレート3bとは、後胴プレート3bの先端側の球面軸受部が前胴プレート3aの後端側の内周面に接した状態で入り込むことで係合されている。
【0032】
前胴プレート3aの前面側において、その前面からスキンプレート3の内方に後退した位置には、スキンプレート3内を切羽側と機内側とに分ける隔壁7が設置されている。このスキンプレート3の切羽側、すなわち、上記カッタ盤2と隔壁7との間に、上記泥水室4が設けられている。泥水室4は、カッタ盤2の回転により掘削された土砂等を取り込み、送泥管5を通じて供給された泥水と混合する空間(チャンバ)である。
【0033】
一方、スキンプレート3の機内には、カッタ駆動部10と、複数本の中折れジャッキ11aと、複数本のシールドジャッキ11bと、エレクタ12と、送泥管5と、排泥管6とが設置されている。
【0034】
カッタ駆動部10は、カッタ駆動電動機9により駆動されて、カッタ盤2を正逆方向に回転させる。中折れジャッキ11aは、前胴プレート3aと後胴プレート3bとを連結するとともに、シールド掘進機1の推進方向を修正する機器である。シールドジャッキ11bは、スキンプレート3の後方のトンネルの内周に敷設されたセグメントSGに反力をとり、セグメントSGを後方に向けて押し出してスキンプレート3を含めたシールド掘進機1を前進させるための推進力を発生させる機器である。エレクタ12は、スキンプレート3内部の後端付近において複数のピースを把持して環状に組み立てることで、掘削されたトンネルの内周にセグメントSGを構築する装置である。セグメントSGは、例えば、円弧状の板材のコンクリート製セグメントや鋼製セグメント、または合成セグメント(コンクリートと鋼材との合成構造)からなり、トンネルの周方向および軸方向に沿って複数個並べられた状態で設置されている。
【0035】
送泥管5は、泥水室4内に泥水を供給する配管であり、例えば、鋼材により形成されている。送泥管5の先端部(放泥口)は、隔壁7の正面内上部を貫通して泥水室4に達している。これにより、送泥管5を通じて圧送された泥水は、シールド掘進機1の正面内上部から泥水室4内に供給される。一方、送泥管5の後端部は、トンネルの抗口に向かって延び、途中で所定の間隔毎に配置された複数の送泥ポンプ(図示せず)を介してトンネルの外部の泥水層(図示せず)に接続されている。なお、泥水槽は、トンネルの外部の泥水処理装置(図示せず)に接続されている。
【0036】
排泥管6は、泥水室4内の排泥水(掘削土砂と泥水との混合泥水)をトンネルの外部に排出する配管であり、例えば、鋼材により形成されている。排泥管6の先端部(吸泥口)は、隔壁7の正面内下部を貫通して泥水室4に達している。これにより、泥水室4内の排泥水は、シールド掘進機1の正面内下部から排出される。一方、排泥管6の後端部は、トンネルの抗口に向かって延び、途中で所定の間隔毎に配置された複数の排泥ポンプ(図示せず)を介してトンネルの外部の泥水処理装置に接続されている。すなわち、泥水室4内の排泥水は、排泥管6を通じてトンネルの外部の泥水処理装置に送られ、そこで土砂と泥水とに分離され比重や粘性等が調整された後、泥水槽に送られて再び送泥管5を通じて泥水室4へ送られる。
【0037】
なお、カッタ盤2の背面には、泥水室4内に面するようにして掻き上げ板8が取り付けられている。この掻き上げ板8は、カッタ盤2の回転により周方向に回転して、泥水室4の底に堆積した汚泥を掻き上げて泥水中に拡散させる。
【0038】
図1において、スキンプレート3を構成する後胴プレート3bの進行方向後部の内周面には、テールブラシ3cが設けられている。テールブラシ3cは、例えば鋼製のワイヤや発泡ウレタンなどで構成されており、当該進行方向に対して間隔を開けて環状に4本設けられている。テールブラシ3cは、セグメントSGの外周面と接触するような長さで内方に延びており、このようなテールブラシ3cにより、スキンプレート3の内周面とセグメントSGの外周面との間にシール室13が形成されている。
【0039】
そして、図示しないポンプから圧送されたグリスなどのシール剤をシール室13に供給するためのシール剤供給路(図示せず)が設けられている。そして、シール剤供給路からシール室13にシール剤が充填されることによりセグメントSGの外周面とスキンプレート3の内周面との隙間がシールされ、前述したテールブラシ3cと相俟って、掘進作業中にスキンプレート3の後部からスキンプレート3内に地下水等が入り込むことが防止される。
【0040】
図1および
図2に示すように、スキンプレート3の外壁には、セメント系の硬化材または固化材等からなる裏込め材をスキンプレート3の後方の掘削坑とセグメントSGとの隙間に供給するための裏込め材供給路(突出部)14が、スキンプレート3の軸方向に沿って設けられている。そして、当該隙間に裏込め材を充填することにより、地盤沈下が防止され、さらに、セグメントSGと地山とが一体構造となってセグメントSGの継手からの漏水が防止される。
【0041】
また、
図1に示すように、裏込め材供給路14におけるシールド掘進機1の進行方向前方には、後述する掘削工程において裏込め材供給路14を保護するための複数の保護ビット15が設置されている。
【0042】
ここで、裏込め材供給路14および保護ビット15について、
図1~
図6を参照して説明する。
図3は
図1のシールド掘進機に設けられた裏込め材供給路と保護ビットとをスキンプレートの径方向断面で抽出して示す説明図、
図4は一方の裏込め材供給路と保護ビットとを示す平面図、
図5は
図4のA-A線に沿った断面図、
図6は裏込め材供給路と保護ビットとの位置関係を示す説明図である。
【0043】
これらの図面に示すように、裏込め材供給路14は、スキンプレート3を構成する後胴プレート3bの外壁に設けられている。また、
図3に示すように、裏込め材供給路14は、後胴プレート3bの径方向断面で見て、後胴プレート3bの頂部近傍で且つ当該頂部を挟んだ2カ所に配置されている。これは、前述した隙間に対する裏込め材の供給位置を後胴プレート3bの頂部を挟んだ2カ所にすることにより、裏込め材がセグメントSGの外周壁の両側に沿って流れ落ちて満遍なく充填されるようにするためである。
【0044】
保護ビット15は、スキンプレート3を構成する前胴プレート3aの外壁に設けられている。裏込め材供給路14の前方に設けられたこれらの保護ビット15は、
図4に示すように、平面視で長辺を前胴プレート3aの軸方向に向けて配置されている。このような保護ビット15は、直列に重なり合って前方を向いた矢印形状の集合体をなす3つのグループG1,G2,G3を形成している。また、保護ビット15は、最も高さの低い保護ビット15a、次に高さの低い保護ビット15b、最も高さの高い保護ビット15cの、3種類の高さのものが用いられている。
【0045】
そして、前段のグループG1は保護ビット15aで構成され、中段のグループG2は両端が保護ビット15a、それ以外が保護ビット15bで構成され、後段のグループG3は両端が保護ビット15a、その隣が保護ビット15b、それ以外が保護ビット15cで構成されている。また、
図4および
図5に示すように、保護ビット15(15a,15b,15c)は、前胴プレート3aの軸方向に沿った同一直線L上では、前方から後方に向かうに従って順次高さが高くなるように配置されている。
【0046】
さらに、
図6に示すように、幅方向の両端が傾斜して低くなった裏込め材供給路14の形状に対応して、前胴プレート3aの径方向断面で見た場合に、両端に保護ビット15aが、その隣に保護ビット15bが、それ以外に保護ビット15cが配置されており、全体として裏込め材供給路14の幅方向の高さを上回る高さとなっている。
【0047】
保護ビット15をこのように配置することにより、後述する掘削工程においてカッタ盤2を回転させながら地山を掘削していくときに、カッタ盤2で掘削できない領域を保護ビット15が掘削するようになるので、この保護ビット15に続く裏込め材供給路14が保護されることになる。
【0048】
なお、地山の掘削時における土砂が非常に軟弱で裏込め材供給路14を傷つける心配がない場合には、このような裏込め材供給路14を保護するための保護ビット15は設置されていなくてもよい。
【0049】
次に、このようなシールド掘進機1を用いた本実施の形態のトンネル掘削方法について説明する。ここで、
図7は本実施の形態のトンネル掘削方法における発進立坑の要部を示す側面図、
図8は
図7の発進立坑の発進口部分に構築された土留め壁を示す説明図、
図9は
図8のB-B線に沿った断面図、
図10は削孔工程における孔と裏込め材供給路との位置関係を示す説明図である。
【0050】
本実施の形態のトンネル掘削方法では、先ず、
図7に示すように、土留め壁W2の発進立坑側に突出して構築された坑口コンクリートCで囲まれた発進口部分(シールド掘進機1が地山に進入するために土留め壁を掘削して発進口を形成する部分)に、補強材F(
図8)が配筋された補強コンクリートで土留め壁W1を構築する(構築工程)。すなわち、発進立坑は鉄筋コンクリートや鋼製の土留め壁W2で囲まれているが、発進口部分については、これとは異なる土留め壁W1を構築する。
【0051】
ここで、
図8および
図9において、土留め壁W1に配筋された補強材Fは、シールド掘進機1のカッタ盤2で切削が可能な高強度な補強材(CFRT(炭素繊維強化プラスチック)製の補強材)Fである。
図8に示すように、補強材Fは縦横に配筋されるとともに(
図8)、
図9に示すように、シールド掘進機1の進入方向に対して4段に配筋されている。すなわち、発進立坑側に2段、地山側に2段、それぞれ配筋されており、各段の補強材F同士は幅止め筋Tで締結されている。但し、補強材Fは4段に配筋されている必要はなく、任意の段数に設定することができる。
【0052】
なお、構築工程においては、発進口部分の外周を囲む坑口コンクリートCの内周縁に、止水用のエントランスパッキン(シール部材)Pを設置し、シールド掘進機1が土留め壁W1を掘削して形成された発進口Eとシールド掘進機1のスキンプレート3との間をシールする。
【0053】
このようにして構築工程が完了したならば、
図10に示すように、シールド掘進機1のスキンプレート3の外壁に設けられた裏込め材供給路14がシールド掘進機1の発進時に当たる範囲の土留め壁W1(補強材Fが配筋された補強コンクリートからなる土留め壁W1)を削孔する(削孔工程)。ここで、削孔する深さ(奥行き)は、土留め壁W1における最も地山側の補強材Fを切断するが、地山には到達しない位置(土砂が流入しない位置)である。これは、シールド掘進機1が発進したときに裏込め材供給路14に先行する保護ビット15では、補強材Fを切断することができないので、予め当該範囲の土留め壁W1の補強材Fを除去しておくためである。
【0054】
土留め壁W1の削孔は、図示しないコアボーリング機のコアビット(筒状の刃)を高速回転させて行う(コア削孔)。
図10に示すように、コア削孔で形成される孔Hは円形である。そこで、コア削孔をつなげてラインカットを行う連続コアボーリングにより、裏込め材供給路14が当たる範囲をカバーする。
【0055】
また、削孔した孔Hの部分では土留め壁W1の厚みが薄く比較的脆弱になっているので、当該孔Hにウレタン(中詰め材)を注入して塞いでおくのが望ましい。なお、中詰め材としてはウレタンに限定されるものではなく、強度が低く、止水性がある様々な材料を適用することができる。
【0056】
なお、削孔工程に先立って、削孔する範囲の前方地山に薬液(グラウト材)を注入して地盤改良するのが望ましい。地盤改良は、ボーリング等で設置した注入管を通して薬液を注入し、これを固化させて土粒子の間隙を埋めるものであり、地山の強度や遮水性を高めることができる。本実施の形態では、前述のように、削孔した孔Hの部分の土留め壁W1の厚みが薄くなっているので、土圧により当該部分が破壊されて土砂が流入しないようにするために、地盤改良が行われる。
【0057】
ここで、削孔工程について、
図11および
図12を用いて詳細に説明する。
図11は削孔工程における作業状態をシールド掘進機の側面から見た説明図、
図12は削孔工程における作業状態をシールド掘進機の平面から見た説明図である。
【0058】
これらの図面に示すように、削孔工程では、先ず、シールド掘進機1のカッタ盤2がエントランスパッキンPよりも前方になり、且つカッタ盤2と土留め壁W1との間に所定の空間(作業空間)が形成される位置までシールド掘進機1を前進させる。これは、カッタ盤2で発進口Eに蓋をすることにより、作業中に漏水が生じた場合に、発進立坑内に地下水が浸入しないようにするためである。
【0059】
次に、カッタ盤2と土留め壁W1とで形成された作業空間に仮設足場Zを組み立てる。なお、作業員Yはシールド掘進機1のマンハッチからスキンプレート3内を通って、カッタ盤2の土砂取込口2-6(
図2)から作業空間に到達することができる。
【0060】
そして、仮設足場Z上から、前述した要領で、コアボーリング機Mにより土留め壁W1に連続コアボーリングにて削孔する。削孔後、仮設足場Zを解体して機外に撤収する。
【0061】
さて、削孔工程が完了したならば、シールド掘進機1を用い、カッタ盤2を回転させて補強材Fが配筋された補強コンクリートからなる土留め壁W1を切削し、地山に進入して土砂の掘削を行う(掘削工程)。地山に浸入したシールド掘進機1は、リング状のセグメントを存置しながら前進し、これに合わせて、切削した地山とセグメントとの隙間に対して、後胴プレート3bの後端付近から裏込め材を流し込んで埋める。
【0062】
なお、保護ビット15が設けられた本実施の形態のシールド掘進機1では、当該保護ビット15が露出したままで掘削工程を実行すると、坑口コンクリートCの内周縁に設けられたエントランスパッキンPを破損させる恐れがある。そこで、掘削工程に先立って、保護ビット15を被覆材で被覆しておく。被覆材としては、樹脂モルタルやパテなど、シールド掘進機1が発進口部分から進入したときに土留め壁W1により破砕可能なものを用いる。これらの被覆材は、エントランスパッキンPに触れる程度では破砕しないので、保護ビット15でエントランスパッキンPを破損することなく通過するが、土留め壁W1や地山の土砂に当たると破砕して保護ビット15が露出するので、保護ビット15が本来の機能(裏込め材供給路14を保護するという機能)を発揮することができる。
【0063】
保護ビット15を被覆する工程は、掘削工程の実行前であればいつでもよく、例えば、前述した構築工程や削孔工程と併行して、あるいはこれらの工程の間に行うことなどができる。
【0064】
以上説明したように、本実施の形態によれば、補強材Fが配筋された補強コンクリートの土留め壁W1について、スキンプレート3の外壁に設けられた裏込め材供給路14がシールド掘進機1の発進時に当たる範囲を削孔した後に、カッタ盤2を回転させて当該土留め壁W1を切削して地山に進入して土砂の掘削を行うようにしているので、裏込め材供給路14が土留め壁W1を通過する際の障害になることを回避することが可能になる。
【0065】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0066】
例えば、本実施の形態では、突出部として裏込め材供給路14が示されているが、突出部としてはこれに限定されるものではなく、スキンプレート3の外壁から突出して設けられており、カッタ盤2で掘削できない領域に位置する様々な機構や部材を突出部とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上の説明では、本発明を泥水圧式のシールド掘進機に適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、泥土圧式のシールド掘進機等、他のシールド掘進機にも適用することができる。また、カッタ盤は面板型に限定されるものではなく、スポーク型にも適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 シールド掘進機
2 カッタ盤(掘削手段)
3 スキンプレート
3a 前胴プレート
3b 後胴プレート
3c テールブラシ
4 泥水室
5 送泥管
14 裏込め材供給路(突出部)
15,15a,15b,15c 保護ビット
C 坑口コンクリート
E 発進口
F 補強材
H 孔
M コアボーリング機
P エントランスパッキン
SG セグメント
W1 土留め壁
W2 土留め壁
Z 仮設足場