(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-17
(45)【発行日】2023-01-25
(54)【発明の名称】チタン部材、チタン部材の製造方法およびチタン部材を含む装飾品
(51)【国際特許分類】
C22F 1/18 20060101AFI20230118BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230118BHJP
【FI】
C22F1/18 H
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 671
C22F1/00 691A
C22F1/00 692B
C22F1/00 692Z
C22F1/00 606
C22F1/00 613
C22F1/00 620
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 626
C22F1/00 673
C22F1/00 692A
(21)【出願番号】P 2020506614
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010316
(87)【国際公開番号】W WO2019177039
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2018048109
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】高崎 康太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅浩
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-120443(JP,A)
【文献】特開2015-181077(JP,A)
【文献】特開2006-100150(JP,A)
【文献】特開平08-060336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/18
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が前記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、
前記第一凸部構造体は、前記第一凸部構造体の上面に、前記第一方向に沿って
300nm以上500nm以下の間隔で並んでいる第一凸部を有し、
前記第一凸部の高さは、
40nm以上70nm以下であ
り、
前記第一領域は、RGB測定値において、R値とG値との差が30以内であり、B値がR値よりも70以上大きく、かつB値がG値よりも70以上大きい(ここで、R値、G値およびB値は、それぞれ0以上255以下の整数である。)チタン部材。
【請求項2】
チタンの含有量が99質量%以上である、請求項1に記載のチタン部材。
【請求項3】
チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が前記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、
前記第一凸部構造体は、前記第一凸部構造体の上面に、前記第一方向に沿って300nm以上500nm以下の間隔で並んでいる第一凸部を有し、
前記第一凸部の高さは、40nm以上70nm以下であり、
β合金またはα+β合金を含む、チタン部材。
【請求項4】
前記第二方向に隣り合う前記第一凸部構造体は、前記第一凸部が並んでいる間隔よりも広い間隔で並んでおり、
前記第一凸部構造体は、前記第一凸部を含む高さが前記第一凸部の高さよりも高い、請求項1~3のいずれか1項に記載のチタン部材。
【請求項5】
前記第一領域は、稠密六方晶であるα相に帰属される(102)、(110)および(103)面に優先配向した結晶構造を含むか、あるいは、稠密六方晶であるα相に帰属される(102)、(110)および(103)面に優先配向した結晶構造と、体心立方晶であるβ相に帰属される(200)面に優先配向した結晶構造とを含む、請求項2に記載のチタン部材。
【請求項6】
前記第一領域は、領域の大きさが100μm以上2500μm以下である、請求項1~
5のいずれか1項に記載のチタン部材。
【請求項7】
前記チタン部材は、前記チタン部材の表面に、第一方向に延在する第二凸部構造体が前記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第二領域をさらに有し、
前記第二凸部構造体は、前記第二凸部構造体の上面に、前記第一方向に沿って、前記第一凸部が並んでいる間隔よりも狭い間隔で並んでいる第二凸部を有し、
前記第二凸部の高さは、前記第一凸部の高さよりも低い、請求項1~
6のいずれか1項に記載のチタン部材。
【請求項8】
チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が前記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、前記第一凸部構造体は、前記第一凸部構造体の上面に、前記第一方向に沿って
300nm以上500nm以下の間隔で並んでいる第一凸部を有し、前記第一凸部の高さは、
40nm以上70nm以下であるチタン部材の製造方法であって、
原料チタン部材を、減圧下で、室温から730℃以上950℃以下の温度T1まで昇温させて加熱する第一加熱工程と、
第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T1から、温度T1よりも大きく、かつ900℃以上1150℃以下の温度T2まで、0.5時間以上8時間以下かけて昇温させて加熱する第二加熱工程と、
第二加熱工程を経た原料チタン部材を、温度T2から、温度T2よりも低い温度まで降温させて冷却し、チタン部材を得る冷却工程とを含む、チタン部材の製造方法。
【請求項9】
前記チタン部材は、チタンの含有量が99質量%以上であり、前記原料チタン部材は、チタンの含有量が99質量%以上である、請求項
8に記載のチタン部材の製造方法。
【請求項10】
前記チタン部材は、β合金またはα+β合金を含み、前記原料チタン部材は、β合金またはα+β合金を含む、請求項
8に記載のチタン部材の製造方法。
【請求項11】
さらに、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T1で0.5時間以上3時間以下保持する第一保持工程を含み、
前記第二加熱工程は、第一保持工程を経た原料チタン部材を加熱する、請求項
8~
10のいずれか1項に記載のチタン部材の製造方法。
【請求項12】
さらに、第二加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T2で0.5時間以上6時間以下保持する第二保持工程を含み、
前記冷却工程は、第二保持工程を経た原料チタン部材を冷却し、チタン部材を得る、請求項
8~
11のいずれか1項に記載のチタン部材の製造方法。
【請求項13】
前記第二加熱工程は、昇温および降温を繰り返して加熱する、請求項
8~
12のいずれか1項に記載のチタン部材の製造方法。
【請求項14】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のチタン部材を含む装飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン部材、チタン部材の製造方法およびチタン部材を含む装飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、螺でん様地肌のチタン合金製品が記載されている。上記チタン合金製品の製造においては、一次時効硬化処理、結晶析出処理および二次時効硬化処理が行われる。具体的には、一次時効硬化処理では、チタン合金の成型物を、大気、真空または不活性ガス雰囲気中において350~600℃の温度に一定時間保持する。結晶析出処理では、上記一次時効硬化処理を経た上記成型物に対し、真空炉中において1000~1400℃に加熱することにより、上記成型物の表面にチタン結晶を析出させる。二次時効硬化処理では、上記結晶析出処理を経た上記成型物を、大気、真空または不活性ガス雰囲気中において放冷する過程において、350~600℃に一定時間保持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記チタン合金製品は、装飾性に優れた青色を示せない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、装飾性に優れた青色を示すチタン部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るチタン部材は、チタンの含有量が99質量%以上であるチタン部材であって、チタン部材は、チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、第一凸部構造体は、第一凸部構造体の上面に、第一方向に沿って数100nmの間隔で並んでいる第一凸部を有し、第一凸部の高さは、数10nmである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のチタン部材は、装飾性に優れた青色を示す。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、チタン部材の表面構造を説明するための図である。
【
図2】
図2は、チタン部材の製造方法を説明するための図である。
【
図3】
図3は、チタン部材の製造方法を説明するための図である。
【
図4A】
図4Aは、実施例1、サンプル3の顕微鏡写真である。
【
図4B】
図4Bは、実施例1、サンプル6の顕微鏡写真である。
【
図4C】
図4Cは、実施例1、サンプル8の顕微鏡写真である。
【
図4D】
図4Dは、実施例1、サンプル10の顕微鏡写真である。
【
図5A】
図5Aは、実施例1、サンプル8の第一領域のEDSスペクトルである。
【
図5B】
図5Bは、実施例1、サンプル8の第三領域のEDSスペクトルである。
【
図6A】
図6Aは、実施例2、サンプル12の顕微鏡写真である。
【
図6B】
図6Bは、実施例2、サンプル15の顕微鏡写真である。
【
図6C】
図6Cは、実施例2、サンプル23の顕微鏡写真である。
【
図6D】
図6Dは、実施例2、サンプル24の顕微鏡写真である。
【
図6E】
図6Eは、実施例2、サンプル28の顕微鏡写真である。
【
図6F】
図6Fは、実施例2、サンプル34の顕微鏡写真である。
【
図6G】
図6Gは、実施例2、サンプル41の顕微鏡写真である。
【
図6H】
図6Hは、実施例2、サンプル45の顕微鏡写真である。
【
図6I】
図6Iは、実施例2、サンプル49の顕微鏡写真である。
【
図6J】
図6Jは、実施例2、サンプル50の顕微鏡写真である。
【
図7A】
図7Aは、実施例2、サンプル24の第一領域-1の走査型電子顕微鏡像である。
【
図7B】
図7Bは、実施例2、サンプル24の第二領域の走査型電子顕微鏡像である。
【
図7C】
図7Cは、実施例2、サンプル24の第三領域の走査型電子顕微鏡像である。
【
図8A】
図8Aは、実施例2、サンプル24の第一領域-1のAFM写真である。
【
図8B】
図8Bは、実施例2、サンプル24の第一領域-1のAFM断面プロファイルである。
【
図9A】
図9Aは、実施例2、サンプル24の第一領域-1のAFM写真である。
【
図9B】
図9Bは、実施例2、サンプル24の第一領域-1のAFM断面プロファイルである。
【
図10B】
図10Bは、実施例2、サンプル24の第二領域のAFM断面プロファイルである。
【
図11B】
図11Bは、実施例2、サンプル24の第二領域のAFM断面プロファイルである。
【
図12B】
図12Bは、実施例2、サンプル24の第三領域のAFM断面プロファイルである。
【
図13B】
図13Bは、実施例2、サンプル24の第三領域のAFM断面プロファイルである。
【
図14】
図14は、実施例2、サンプル24のXRDスペクトルである。
【
図15】
図15は、実施例3、サンプル51の顕微鏡写真である。
【
図16】
図16は、反射率測定に用いた微小部光強度測定器を示す図である。
【
図17】
図17は、実施例2、サンプル24の第一領域について反射率測定の結果を示す図である。
【
図18】
図18は、実施例4、サンプル59の顕微鏡写真である。
【
図19】
図19は、実施例4、サンプル60の顕微鏡写真である。
【
図20】
図20は、実施例4、サンプル61の顕微鏡写真である。
【
図21】
図21は、実施例5、サンプル62の顕微鏡写真である。
【
図22】
図22は、実施例5、サンプル63の顕微鏡写真である。
【
図23】
図23は、実施例5、サンプル64の顕微鏡写真である。
【
図24】
図24は、実施例5、サンプル62のXRDスペクトルである。
【
図25】
図25は、実施例5、サンプル62の原料チタン(15-3-3-3βチタンを含むチタン板材)のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0010】
<チタン部材>
実施形態のチタン部材は、チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が上記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、上記第一凸部構造体は、上記第一凸部構造体の上面に、上記第一方向に沿って数100nmの間隔で並んでいる第一凸部を有し、上記第一凸部の高さは、数10nmである。以下に、より具体的に、実施形態1および実施形態2について説明する。
【0011】
〔実施形態1〕
実施形態1に係るチタン部材は、チタンの含有量が99質量%以上である。チタンの含有量が上記範囲にあると、軽く、低コストの部材が得られる。残部は、炭素、酸素、窒素、水素、鉄などである。チタン部材に含まれる元素の種類は、エネルギー分散型X線分光法(EDX)により調べることができる。また、酸素は、通常酸化チタンとして含まれる。具体的には、チタン部材の原料として、JIS1種、JIS2種、JIS3種またはJIS4種に相当する工業用純チタンを使用できる。
【0012】
上記チタン部材は、板状であり、その上面(主面)は、第一領域、第二領域および第三領域の小片に覆われている。第一領域、第二領域および第三領域の小片はモザイク状に並んでいる。第一領域は青色を示し、第二領域は白色を示し、第三領域はグレー色、黒色などのその他の色(青色および白色以外の色)を示す。第一領域の青色および第二領域の白色は、装飾性に優れる。本明細書において、装飾性に優れるとは、キラキラと螺鈿調に、美しく輝いて見えることをいう。第一領域、第二領域および第三領域について、以下に説明する。
【0013】
〔第一領域〕
上記チタン部材は、該チタン部材の表面に第一領域を有する。第一領域は、原子間力顕微鏡(AFM)により、JISB0601およびJISR1683に準拠して測定し、第一方向に切り出して得られた断面プロファイルにおいて、後述する第一凸部構造体の上面に第一方向に沿って配列している第一凸部に対応する要素の長さが数百nmであり、要素の高さが数10nmである。好ましくは、要素の長さが300nm以上500nm以下の範囲にあり、要素の高さが40nm以上70nm以下の範囲にある。具体的には、まず、実表面の測定断面曲線から、カットオフ値λsの位相補償形フィルタを適用してうねり成分を除去する。その後、最大高さ(最も高い山の高さ+最も深い谷の深さ)、最小高さ(最も低い山の高さ+最も浅い谷の深さ)を計測する。これらの値から上記要素の高さの範囲が得られる。また、一つの輪郭線要素長さの最大長さおよび最小長さを測定する。これらの値から上記要素の長さの範囲が得られる。ここで、第一方向は、走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡(AFM))に搭載されたマイクロスコープで観察される、規則的に入っている細い線に沿った方向である。したがって、表面に存在する複数の第一領域では、それぞれの実際の第一方向は、通常異なっている。なお、AFMによる測定条件については実施例において詳述する。
【0014】
すなわち、AFMの上記測定結果は、上記チタン部材の表面が、下記のような特定の構造を有する第一領域を含むことに対応すると考えられる。
図1は、チタン部材の表面構造を説明するための図である。上記チタン部材の第一領域10では、第一方向に延在する第一凸部構造体11が第一方向と直交する第二方向に複数配列されている。第一凸部構造体11は、第一凸部構造体11の上面に、第一方向に沿って数百nm(好ましくは300nm以上500nm以下)の間隔Iで並んでいる第一凸部12(前述した要素に対応)を有する。第一凸部12の高さHは、数10nm(好ましくは40nm以上70nm以下)である。
【0015】
また、第一領域は、AFMにより、上記のように測定し、第一方向と直交する第二方向に切り出して得られた断面プロファイルにおいて、要素の長さは、第一方向に切り出して得られた断面プロファイルの要素の長さよりも大きい。また、要素の高さは、第一方向に切り出して得られた断面プロファイルの要素の高さよりも大きい。好ましくは、要素の長さが650nm以上780nm以下の範囲にあり、要素の高さが75nm以上120nm以下の範囲にある。要素の長さおよび要素の高さは、第一方向に切り出して得られた断面プロファイルの場合と同様に求められる。
【0016】
すなわち、AFMの上記測定結果は、第一領域が、下記のような特定の構造をさらに有することに対応すると考えられる。第二方向に隣り合う第一凸部構造体11は、第一凸部12が並んでいる間隔よりも広い間隔I’(好ましくは650nm以上780nm以下の間隔I’)で並んでいる。第一凸部構造体11は、第一凸部12の高さを含む高さH’が、第一凸部12の高さHよりも高い(好ましくは75nm以上120nm以下である)。
【0017】
第一領域は、第一方向に沿って上記断面プロファイルを示す(すなわち、第一方向に沿って上記特定の構造を有する)ため、装飾性に優れる青色を示すと考えられる。また、第一領域が、第二方向に沿って上記断面プロファイルを示す(すなわち、第二方向に沿って上記特定の構造をさらに有する)ことも、上記青色の発色に関係があると考えられる。
【0018】
要素の長さ(間隔I、I’)、要素の高さ(高さH、H’)は、上記のように、特定の数値範囲に広がっている。また、第一方向および第二方向に沿った上記断面プロファイルにおいて、大きな周期の波が通常見られる。このように、第一領域は、第一領域が広がっている平面方向と、この平面方向に垂直な高さ方向との両方に乱雑さを有する。このため、凹凸同士の光干渉による回折格子において一般的に生ずる虹色干渉が抑えられていると考えられる。これにより、装飾性に優れる青色を示すと考えられる。
【0019】
なお、
図1では、第一凸部構造体11は直方体として表し、第一凸部12は潰れた球の一部として表したが、これらは模式的に表したに過ぎない。第一凸部構造体11および第一凸部12の形はこれに限らない。
【0020】
第一領域は、通常、稠密六方晶であるα相に帰属される(102)、(110)および(103)面に優先配向した結晶構造を含むか、あるいは、稠密六方晶であるα相に帰属される(102)、(110)および(103)面に優先配向した結晶構造と、体心立方晶であるβ相に帰属される(200)面に優先配向した結晶構造とを含み、いずれの場合も、特に(103)面に強く優先配向した結晶構造を含む。これら結晶構造については、X線回折法により調べることができる。なお、X線回折法の測定方法については実施例において詳述する。
【0021】
また、第一領域は、通常、微量の炭素および酸素を含む。第一領域に含まれる元素の種類は、EDXにより調べることができる。なお、EDXの測定方法については実施例において詳述する。
【0022】
また、第一領域は、上述のように青色を示す。本明細書において、青色は、たとえば、RGB測定値において、下記の条件を満たす場合をいう。したがって、第一領域についてR値、G値およびB値を測定した場合、通常この条件を満たす。なお、R値、G値およびB値の測定方法については実施例において詳述する。
【0023】
青色の条件:R値とG値との差が30以内であり、B値がR値よりも70以上大きく、かつB値がG値よりも70以上大きい。ここで、R値、G値およびB値は、それぞれ0以上255以下の整数である。
【0024】
さらに、第一領域が青色を示すことは、反射率測定を行って確認することができる。すなわち、反射率測定を行うと、第一領域では、青色を示す波長(通常340~500nm)の反射率が高い。
【0025】
また、第一領域は、領域の大きさが100μm以上2500μm以下であることが好ましい。なお、上記領域の大きさの測定方法については実施例において詳述する。第一領域の形状は、たとえば多角形である。多角形の辺の少なくとも一部が曲線である形状であってもよい。
【0026】
〔第二領域〕
上記チタン部材は、該チタン部材の表面に第二領域をさらに有する。第二領域は、AFMにより、JISB0601およびJISR1683に準拠して測定し、第一方向に切り出して得られた断面プロファイルにおいて、後述する第二凸部構造体の上面に第一方向に沿って配列している第二凸部に対応する要素の長さが、第一領域について第一方向に切り出して得られた断面プロファイルにおける要素の長さよりも小さい。また、要素の高さが、第一領域について第一方向に切り出して得られた断面プロファイルにおける要素の高さよりも小さい。好ましくは、要素の長さが100nm以上200nm以下の範囲にあり、要素の高さが5nm以上13nm以下の範囲にある。具体的には、まず、実表面の測定断面曲線から、カットオフ値λsの位相補償形フィルタを適用してうねり成分を除去する。その後、最大高さ(最も高い山の高さ+最も深い谷の深さ)、最小高さ(最も低い山の高さ+最も浅い谷の深さ)を計測する。これらの値から上記要素の高さの範囲が得られる。また、一つの輪郭線要素長さの最大長さおよび最小長さを測定する。これらの値から上記要素の長さの範囲が得られる。ここで、第一方向は、走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡(AFM))に搭載されたマイクロスコープで観察される、規則的に入っている細い線に沿った方向である。したがって、表面に存在する複数の第二領域では、それぞれの実際の第一方向は、通常異なっている。なお、AFMによる測定条件については実施例において詳述する。
【0027】
すなわち、AFMの上記測定結果は、上記チタン部材の表面が、下記のような特定の構造を有する第二領域を含むことに対応すると考えられる。
図1は、チタン部材の表面構造を説明するための図である。上記チタン部材の第二領域20では、第一方向に延在する第二凸部構造体21が第一方向と直交する第二方向に複数配列されている。第二凸部構造体21は、第二凸部構造体21の上面に、第一方向に沿って、第一凸部12が並んでいる間隔よりも狭い間隔I(好ましくは100nm以上200nm以下の間隔I)で並んでいる第二凸部22を有する。第二凸部の高さHは、第一凸部の高さよりも低い(好ましくは5nm以上13nm以下である)。
【0028】
また、第二領域は、AFMにより、上記のように測定し、第一方向と直交する第二方向に切り出して得られた断面プロファイルにおいて、要素の長さが数100nm以上数1000nm以下(好ましくは820nm以上1100nm以下)の範囲にあり、要素の高さが数10nm以上数100nm以下(好ましくは70nm以上120nm以下)の範囲にある。要素の長さおよび要素の高さは、第一方向に切り出して得られた断面プロファイルの場合と同様に求められる。
【0029】
すなわち、AFMの上記測定結果は、第二領域が、下記のような特定の構造をさらに有することに対応すると考えられる。第二方向に隣り合う第二凸部構造体21は、数100nm以上数1000nm以下(好ましくは820nm以上1100nm以下)の間隔I’で並んでいる。第二凸部構造体21は、第二凸部22の高さを含む高さH’が、数10nm以上数100nm以下(好ましくは75nm以上120nm以下)である。
【0030】
第二領域は、第一方向に沿って上記断面プロファイルを示す(すなわち、第一方向に沿って上記特定の構造を有する)ため、装飾性に優れる白色を示すと考えられる。
【0031】
なお、
図1では、第二凸部構造体21は直方体として表し、第二凸部22は潰れた球の一部として表したが、これらは模式的に表したに過ぎない。第二凸部構造体21および第二凸部22の形はこれに限らない。
【0032】
第二領域は、通常、稠密六方晶であるα相に帰属される(102)、(110)および(103)面に優先配向した結晶構造を含むか、あるいは、稠密六方晶であるα相に帰属される(102)、(110)および(103)面に優先配向した結晶構造と、体心立方晶であるβ相に帰属される(200)面に優先配向した結晶構造とを含む。これら結晶構造については、X線回折法により調べることができる。なお、X線回折法の測定方法については実施例において詳述する。
【0033】
また、第二領域は、上述のように白色を示す。本明細書において、白色は、たとえば、RGB測定値において、下記の条件を満たす場合をいう。したがって、第二領域についてR値、G値およびB値を測定した場合、通常この条件を満たす。なお、R値、G値およびB値の測定方法については実施例において詳述する。
【0034】
白色の条件:R値、G値およびB値は、それぞれ170以上であり、R値とG値との差が50以内であり、G値とB値との差が50以内であり、B値とR値との差が50以内である。ここで、R値、G値およびB値は、それぞれ0以上255以下の整数である。
【0035】
また、第二領域は、領域の大きさは、第一領域と同程度であることが好ましい。なお、上記領域の大きさの測定方法については実施例において詳述する。第二領域の形状は、たとえば多角形である。多角形の辺の少なくとも一部が曲線である形状であってもよい。
【0036】
〔第三領域〕
上記チタン部材は、該チタン部材の表面に第三領域をさらに有する。第三領域は、ほぼ平坦な表面構造を有する。これは、AFMを用いて、JISB0601およびJISR1683に準拠して測定を行うことにより確認できる。なお、AFMによる測定条件については実施例において詳述する。また、上記表面構造を有するため、グレー色、黒色などのその他の色(青色および白色以外の色)を示す。なお、本明細書において、その他の色をまとめて黒色ということがある。
【0037】
第三領域は、通常、稠密六方晶であるα相に帰属される(102)、(110)および(103)面に優先配向した結晶構造を含む。これら結晶構造については、X線回折法により調べることができる。なお、X線回折法の測定方法については実施例において詳述する。
【0038】
また、第三領域は、微量の炭素および酸素を含む。第三領域に含まれる元素の種類は、EDXにより調べることができる。なお、EDXの測定方法については実施例において詳述する。
【0039】
また、第三領域は、上述のようにグレー色、黒色などのその他の色を示す。したがって、第三領域についてR値、G値およびB値を測定した場合、通常上記青色の条件および上記白色の条件を満たさない。なお、R値、G値およびB値の測定方法については実施例において詳述する。
【0040】
また、第三領域は、領域の大きさは、第一領域と同程度であることが好ましい。なお、上記領域の大きさの測定方法については実施例において詳述する。第三領域の形状は、たとえば多角形である。多角形の辺の少なくとも一部が曲線である形状であってもよい。
【0041】
チタン部材の上面(主面)において、第一領域、第二領域および第三領域の面積の割合は、特に限定されない。たとえば、第一領域、第二領域および第三領域の合計面積を100%として、第一領域の面積割合は1%以上48%以下、第二領域の面積割合は1%以上48%以下、第三領域の面積割合は4%以上98%以下である。
【0042】
ここで、チタン部材の発色の原理について、さらに詳しく説明する。まず、第一領域が青色に発色する原理について説明する。第一領域は、AFM測定より、特定の高さ(たとえば40~70nm)の凹凸が特定のピッチ(たとえば300~500nm)で規則的に並んでいる。この凹凸構造およびピッチ間隔が青色を強く反射する要因となっていると推察される。
【0043】
凹凸構造のピッチは、青い光の波長と同程度である。ホイヘンスの原理より、ピッチよりも波長の長い光は回折を起こさなくなるため、相対的に青色反射が強くなる。このような回折格子の原理に基づく。光(白色光)の入射角度が大きくなると凹凸構造は光にとって平面とみなされるため、青色の反射は低下していく。
【0044】
また、凹凸一つの幅は光波長よりも小さいため、回折広がりを生じ広い角度範囲で青く見える。
【0045】
また、凹凸の配列は高さ方向、平面方向ともに乱雑さを含むので、凹凸同士の光干渉による回折格子において一般的に生ずる虹色干渉が起こらない。
【0046】
次に、第二領域が白色に発色する原理について説明する。第二領域は、AFM測定より、特定の高さ(たとえば5~13nmの凹凸)が特定のピッチ(たとえば100~200nm)で規則的に並んでいる。凹凸構造のピッチは、可視光の波長(380~780nm)よりも短い。そのため、可視光領域全てにおいて回折は発生せずに全て乱反射されると考えられる。この乱反射により、チタンが本来有する屈折率および消衰係数による反射率よりも、高い反射が得られ、白く輝いて見える。可視光領域全てが乱反射するため白色の高い反射率が得られると推察される。
【0047】
また、チタン部材の表面構造(微細構造)の形成について、さらに詳しく説明する。青色を相対的に強く反射する微細構造(特定の高さの凹凸が特定のピッチで並んでいる構造)は、チタンのα相からβ相への相転移時に形成されると推察される。純チタンは室温でα相、稠密六法最密構造(HCP)である。880℃以上ではβ相、面心立法格子構造(FCC)へ相転移する。純チタンはこの相転移温度以上に加熱されると、昇温中に稠密六法最密構造(HCP)から面心立法格子構造(FCC)へ金属結晶のすべりが発生し、針状結晶が成長する。この滑り過程によって青色を相対的に強く反射する微細構造が形成されると推察される。そのため、単純に相転移温度以上に加熱しても上記のような微細構造を得ることは難しい。なお、微細構造を形成させる方法については後述する。
【0048】
白色結晶(第二領域)は、青色結晶(第一領域)がさらに熱量を吸収し、成長することで発生する。白色を強く反射する微細構造(特定の高さの凹凸が特定のピッチで規則的に並んでいる構造)は、最初に青色結晶相が形成されないと発現できない。また、白色結晶相がさらに成長すると、完全なβ相へ相転移して黒色結晶(第三領域)になると推察される。なお、黒色結晶は、反射の低い領域であり、チタン本来の色を示している。
【0049】
上記実施形態1に係るチタン部材は、第一領域、第二領域および第三領域を有しているが、これに限らない。チタン部材は、少なくとも第一領域を有していればよい。たとえば、チタン部材は、第一領域のみを有していてもよく、第一領域および第二領域のみを有していてもよく、第一領域および第三領域のみを有していてもよい。
【0050】
また、上記実施形態1に係るチタン部材の第一領域において、第一方向と直交する第二方向に切り出して得られた断面プロファイルにおいて、要素の長さおよび要素の高さが特定の数値範囲にある。すなわち、間隔I’および高さH’が特定の数値範囲にある。しかしながら、要素の長さおよび要素の高さの数値範囲は、上記数値範囲と異なっていてもよい。すなわち、間隔I’および高さH’の数値範囲は、上記数値範囲と異なっていてもよい。いいかえると、これらの数値範囲は、青色を示す範囲であればよい。
【0051】
また、上記実施形態1に係るチタン部材の第二領域において、第一方向と直交する第二方向に切り出して得られた断面プロファイルにおいて、要素の長さおよび要素の高さが特定の数値範囲にある。すなわち、間隔I’および高さH’が特定の数値範囲にある。しかしながら、要素の長さおよび要素の高さの数値範囲は、上記数値範囲と異なっていてもよい。すなわち、間隔I’および高さH’の数値範囲は、上記数値範囲と異なっていてもよい。いいかえると、これらの数値範囲は、白色を示す範囲であればよい。
【0052】
〔実施形態2〕
実施形態2に係るチタン部材について、実施形態1に係るチタン部材と同じ点については説明を省略し、異なる点について、以下に説明する。
【0053】
実施形態2に係るチタン部材は、β合金またはα+β合金を含む。
【0054】
チタン部材がβ合金またはα+β合金を含む場合は、第一領域は、通常、体心立方晶であるβ相に帰属される(200)面に優先配向した結晶構造を含む。
【0055】
チタン部材の上面(主面)において、第一領域、第二領域および第三領域の面積の割合は、特に限定されない。たとえば、第一領域、第二領域および第三領域の合計面積を100%として、第一領域の面積割合は1%以上62%以下、第二領域の面積割合は1%以上48%以下、第三領域の面積割合は4%以上68%以下である。
【0056】
<チタン部材の製造方法>
実施形態に係るチタン部材の製造方法は、チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が上記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、上記第一凸部構造体は、上記第一凸部構造体の上面に、上記第一方向に沿って数100nmの間隔で並んでいる第一凸部を有し、上記第一凸部の高さは、数10nmであるチタン部材の製造方法である。実施形態に係るチタン部材の製造方法は、たとえば、原料チタン部材を、減圧下で、室温から730℃以上950℃以下の温度T1まで昇温させて加熱する第一加熱工程と、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T1から、温度T1よりも大きく、かつ900℃以上1150℃以下の温度T2まで、0.5時間以上8時間以下かけて昇温させて加熱する第二加熱工程と、第二加熱工程を経た原料チタン部材を、温度T2から、温度T2よりも低い温度まで降温させて冷却し、チタン部材を得る冷却工程とを含む。実施形態に係るチタン部材の製造方法としては、より具体的には、上述した実施形態1に係るチタン部材を製造する製造方法(実施形態1の製造方法)および上述した実施形態2に係るチタン部材を製造する製造方法(実施形態2の製造方法)が挙げられる。以下に、実施形態1の製造方法および実施形態2の製造方法について説明する。
【0057】
〔実施形態1の製造方法〕
上記実施形態1に係るチタン部材の製造方法は、第一加熱工程、第二加熱工程および冷却工程を含む。
【0058】
図2は、チタン部材の製造方法を説明するための図である。具体的には、実線で示すように温度を制御する。第一加熱工程は、チタンの含有量が99質量%以上である原料チタン部材を、減圧下で、室温(たとえば10℃以上30℃以下)から800℃以上950℃以下の温度T1まで昇温させて加熱する。このように、温度T1(昇温開始温度、第一到達温度)はα相からβ相へ相転移する800℃以上950℃以下が望ましい。温度T1が800℃未満であると、結晶成長にあまり効果が見られないことがある。また、温度T1が950℃を超えると、青色結晶および白色結晶の量が減る傾向にある。ここで、原料チタン部材は、板状である。チタンの含有量が上記範囲にあると、軽く、低コストの部材が得られる。残部は、炭素、酸素、窒素、水素、鉄などである。原料チタン部材に含まれる元素の種類は、EDXにより調べることができる。また、酸素は、通常酸化チタンとして含まれる。具体的には、原料チタン部材として、JIS1種、JIS2種、JIS3種またはJIS4種に相当する工業用純チタンを使用できる。
【0059】
また、第一加熱工程は減圧下で行うが、圧力は8.0×10-3Pa以下であることが好ましい。
【0060】
第二加熱工程は、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T1から、温度T1よりも大きく、かつ950℃以上1150℃以下の温度T2まで、0.5時間以上15時間以下かけて、好ましくは0.5時間以上8時間以下かけて昇温させて加熱する。このように、温度T2(第二到達温度)は青色結晶のサイズをコントロールする上で重要な条件であり、950℃以上1150℃以下が望ましい。青色結晶のサイズを小さくしたい場合は、温度T2を950℃付近とすることが好ましく、青色結晶および白色結晶のサイズを大きくしたい場合は、温度T2を1150℃付近とすることが好ましい。950℃より低いと、結晶のサイズ全体が過度に小さくなることがある。また、1150℃より高いと、結晶が過度に成長し肥大化して、青色結晶および白色結晶ともに消失することがある。すなわち、反射の低い領域であり、チタン本来の色を示す黒色結晶になることがある。
【0061】
また、第二加熱工程は減圧下で行うが、圧力は8.0×10-3Pa以下であることが好ましい。
【0062】
また、第一加熱工程での加熱時間HT1(第一昇温時間)は、具体的には室温から温度T1になるまでにかかる時間であり、たとえば1時間以上3時間以下である。第二加熱工程での加熱時間HT2(第二昇温時間)は、具体的には温度T1から温度T2になるまでにかかる時間であり、たとえば0.5時間以上15時間、好ましくは0.5時間以上8時間以下である。加熱時間HT2は、青色結晶および白色結晶を作製する上で最も重要な条件である。加熱時間HT2が小さすぎると、相転移によるすべりが急激に起こるため微細な凹凸構造を形成することが難しい。また、加熱時間HT2が8時間を超えても、得られる結晶に大きな差は見られない。
【0063】
具体的には、第二加熱工程での昇温速度S2は、第一加熱工程での昇温速度S1よりも小さい。なお、昇温速度S1(℃/時間)は、(温度T1-室温)/加熱時間HT1で求められ、昇温速度S2(℃/時間)は、(温度T2-温度T1)/加熱時間HT2で求められる。昇温速度S2が大きすぎると、相転移によるすべりが急激に起こるため微細な凹凸構造を形成することが難しい。
【0064】
冷却工程は、第二加熱工程を経た原料チタン部材を、温度T2から、温度T2よりも低い温度まで降温させて冷却する。好ましくは室温以上150℃以下の温度まで、たとえば150℃まで冷却する。このようにして、上記チタン部材が得られる。冷却工程における冷却速度は、β相に転移した結晶がα相に戻るための条件であり、できるだけ低速が望ましい。ゆっくり冷却しても急冷しても、青色結晶および白色結晶の形態に大きな変化は見られない。しかしながら、急冷した場合は、結晶の界面に鋸歯状(きょしじょう)の組織が現れる場合がある。このような組織が形成されても機械的性質はほとんど変化しないが、延性は低下するおそれがある。
【0065】
また、冷却工程は大気圧下で行うか、または減圧下で行う。減圧下で行う場合は、圧力は8.0×10-3Pa以下であることが好ましい。
【0066】
なお、ここで、チタン部材の製造方法は、チタンの含有量が99質量%以上である原料チタン部材を、減圧下で、室温から800℃以上950℃以下の温度T1まで加熱する第一加熱工程と、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、温度T1から1150℃を超え1200℃以下の温度T2まで、0.5時間以上5時間未満かけて加熱する第二加熱工程と、第二加熱工程を経た原料チタン部材を、温度T2から、温度T2よりも低い温度まで降温させて冷却し、チタン部材を得る冷却工程とを含んでいてもよい。
【0067】
温度T2が高い場合であっても、加熱時間HT2を短く調整することにより、青色を示すチタン部材が提供できる。
【0068】
上記実施形態1に係るチタン部材の製造方法は、第一加熱工程、第二加熱工程および冷却工程を含む。しかしながら、チタン部材の製造方法は、さらに、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T1で0.5時間以上3時間以下保持する第一保持工程と、第二加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T2で0.5時間以上6時間以下保持する第二保持工程とを含んでもよい。この場合、第二加熱工程は、第一保持工程を経た原料チタン部材を加熱する。また、冷却工程は、第二保持工程を経た原料チタン部材を冷却し、チタン部材を得る。具体的には、
図2において破線で示すように温度を制御してもよい。
【0069】
第二保持工程における保持時間KT2(第二保持時間)は、青色結晶および白色結晶のサイズ、相対比率ならびに表面全体の面状態を制御し得る条件である。保持時間を長くすると青色結晶から白色結晶への変化が起こり、保持時間を長くするほど白色結晶の割合が増加する傾向にある。保持時間をさらに長くすると、白色結晶から黒色結晶(βチタン)への相転移が起こる傾向にある。すなわち、チタン本来の反射色を示す傾向にある。また、第一保持工程における保持時間KT1(第一保持時間)も、青色結晶の量を多くするために適宜調整することができる。
【0070】
また、第一保持工程および第二保持工程は減圧下で行うが、圧力は8.0×10-3Pa以下であることが好ましい。
【0071】
上記実施形態1に係るチタン部材の製造方法は、第一保持工程および第二保持工程のいずれかを含んでいる製造方法であってもよい。
【0072】
以上のように、青色結晶および白色結晶の量は、昇温速度S2と温度T2(第二到達温度)との兼ね合いで制御できる。たとえば、加熱時間HT2が長い(昇温速度S2が小さい)場合は、第二保持工程での保持時間KT2を短くすることが好ましい。このように、求める結晶割合によって条件を適宜設定することが好ましい。
【0073】
上記実施形態1に係るチタン部材の製造方法は、さらに、以下のような製造方法であってもよい。なお、上述した製造方法と同様の条件については説明を省略する。これらの製造方法を採用した場合も、青色を示すチタン部材が提供できる。
【0074】
上記チタン部材の製造方法は、加熱工程、保持工程および冷却工程を含んでいてもよい。
図3は、チタン部材の製造方法を説明するための図である。具体的には、実線で示すように温度を制御する。加熱工程は、チタンの含有量が99質量%以上である原料チタン部材を、減圧下で、室温から900℃以上1050℃以下の温度Tまで加熱する。保持工程は、加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度Tで1時間以上8時間以下保持する。冷却工程は、保持工程を経た原料チタン部材を、温度Tから、温度Tよりも低い温度まで降温させて冷却する。好ましくは室温以上150℃以下の温度まで、たとえば150℃まで冷却する。このようにして、上記チタン部材が得られる。
【0075】
なお、ここで、チタン部材の製造方法は、チタンの含有量が99質量%以上である原料チタン部材を、減圧下で、室温から1050℃を超え1100℃以下の温度Tまで加熱する第一加熱工程と、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度Tで1時間以上3時間未満保持する第一保持工程を含んでいてもよい。
【0076】
温度Tが高い場合であっても、保持時間を短く調整することにより、青色を示すチタン部材が提供できる。
【0077】
上述した到達温度、加熱時間および保持時間などの条件は、青色を相対的に強く反射する微細構造または白色を強く反射する微細構造を作製するための一例である。たとえば、第一到達温度から第二到達温度までを直線ではなく、昇温および降温を繰り返しながら第二到達温度に到達するようないわゆるギザギザ昇温パターンであってもよい。また、第二到達温度についても、たとえば1050℃まで昇温し、その後850℃まで温度を下げて保持するなどのパターンであってもよい。
【0078】
すなわち、上記チタン部材の製造方法は、チタンの含有量が99質量%以上である原料チタン部材を、減圧下で、室温から850℃まで昇温させて加熱する第一加熱工程と、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、850℃以上1100℃以下の温度範囲で昇温および降温を繰り返して加熱する第二加熱工程とを含んでいてもよい。ここで、第二加熱工程での昇温速度および降温速度は、第一加熱工程での昇温速度よりも小さいことが好ましい。第二加熱工程において、1050℃を超える保持時間は3時間未満であることが好ましい。
【0079】
〔実施形態2の製造方法〕
実施形態2に係るチタン部材の製造方法について、実施形態1に係るチタン部材の製造方法と同じ点については説明を省略し、異なる点について、以下に説明する。
実施形態2の製造方法では、原料チタン部材として、β合金またはα+β合金を含む原料チタン部材を用いる。また、第一加熱工程において、温度T1は、730℃以上950℃以下であり、第二加熱工程において、温度T2は、温度T1よりも大きく、かつ900℃以上1150℃以下である。このように、温度T1および温度T2の下限値が、実施形態1の製造方法よりも低い。これは、原料チタン部材がβ合金またはα+β合金を含み、これらは、実施形態1の製造方法に用いる原料チタン部材よりも、転移温度が低いためである。
【0080】
実施形態2の製造方法においても、実施形態1の製造方法と同様に、たとえば、第一到達温度(温度T1)から第二到達温度(温度T2)までを直線ではなく、昇温および降温を繰り返しながら第二到達温度(温度T2)に到達するようないわゆるギザギザ昇温パターンであってもよい。この場合、実施形態2の製造方法においては、さらに、上記チタン部材の製造方法は、原料チタン部材を、減圧下で、室温から730℃以上950℃以下の間の温度T1まで昇温させて加熱する第一加熱工程と、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、730℃以上1100℃以下の温度範囲で昇温および降温を繰り返し、温度T2まで加熱する第二加熱工程とを含んでいてもよい。
【0081】
上記実施形態に係るチタン部材は、板状であり、その上面(主面)に第一領域を有している。しかしながら、チタン部材は、たとえば、棒状、多面体状、筒状、球状など他の形状であってもよい。また、チタン部材は、チタン部材の表面の少なくとも一部に第一領域を有していればよい。
【0082】
上記実施形態に係るチタン部材は、さらに、第一領域を有する面に、被膜が設けられていてもよい。被膜としては、高い明度を有するPt、Pd、Rh等の白色貴金属膜、金色を呈するTiN、ZrN、HfN等の金属窒化物膜、ピンク色からブラウン色を呈するTiCN、ZrCN、HfCN、TiON、ZrON、HfON等の金属炭窒化物膜および金属酸窒化物膜、黒色を呈するダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜などが挙げられる。被膜の厚さは、青色がより美しく見えるため、0.02μm以上2.0μm以下であることが好ましい。なお、上記チタン部材では、上述した原理によって青色が発色するため、被膜が設けられていても、キラキラとした青色が視認できる。また、被膜は、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法などによって形成することができる。
【0083】
<装飾品>
実施形態に係る装飾品は、上記チタン部材を含む。装飾品としては、時計;眼鏡、アクセサリーなどの装身具;スポーツ用品などの装飾部材が挙げられる。より具体的には、時計の構成部品の一部、たとえば外装部品が挙げられる。時計は、光発電時計、熱発電時計、標準時電波受信型自己修正時計、機械式時計、一般の電子式時計のいずれであってもよい。このような時計は、上記チタン部材を用いて公知の方法により製造される。
【0084】
以上より、本発明は以下に関する。
[1] チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が前記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、前記第一凸部構造体は、前記第一凸部構造体の上面に、前記第一方向に沿って数100nmの間隔で並んでいる第一凸部を有し、前記第一凸部の高さは、数10nmである、チタン部材。
[2] チタンの含有量が99質量%以上であるチタン部材であって、上記チタン部材は、上記チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が上記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、上記第一凸部構造体は、上記第一凸部構造体の上面に、上記第一方向に沿って数100nmの間隔で並んでいる第一凸部を有し、上記第一凸部の高さは、数10nmである、チタン部材。
[3] β合金またはα+β合金を含む、[1]に記載のチタン部材。
[4] 上記第二方向に隣り合う上記第一凸部構造体は、上記第一凸部が並んでいる間隔よりも広い間隔で並んでおり、上記第一凸部構造体は、上記第一凸部を含む高さが上記第一凸部の高さよりも高い、[1]~[3]のいずれか一つに記載のチタン部材。
[5] 上記第一領域は、稠密六方晶であるα相に帰属される(102)、(110)および(103)面に優先配向した結晶構造を含むか、あるいは、稠密六方晶であるα相に帰属される(102)、(110)および(103)面に優先配向した結晶構造と、体心立方晶であるβ相に帰属される(200)面に優先配向した結晶構造とを含む、[2]に記載のチタン部材。
[6] 上記第一領域は、RGB測定値において、R値とG値との差が30以内であり、B値がR値よりも70以上大きく、かつB値がG値よりも70以上大きい(ここで、R値、G値およびB値は、それぞれ0以上255以下の整数である。)、[1]~[5]のいずれか一つに記載のチタン部材。
[7] 上記第一領域は、領域の大きさが100μm以上2500μm以下である、[1]~[6]のいずれか一つに記載のチタン部材。
上記[1]~[7]のチタン部材は、装飾性に優れた青色を示す。
[8] 上記チタン部材は、上記チタン部材の表面に、第一方向に延在する第二凸部構造体が上記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第二領域をさらに有し、上記第二凸部構造体は、上記第二凸部構造体の上面に、上記第一方向に沿って、上記第一凸部が並んでいる間隔よりも狭い間隔で並んでいる第二凸部を有し、上記第二凸部の高さは、上記第一凸部の高さよりも低い、[1]~[7]のいずれか一つに記載のチタン部材。
上記[8]のチタン部材は、装飾性に優れた青色とともに、装飾性に優れた白色を示す。
[9] チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が上記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、上記第一凸部構造体は、上記第一凸部構造体の上面に、上記第一方向に沿って数100nmの間隔で並んでいる第一凸部を有し、上記第一凸部の高さは、数10nmであるチタン部材の製造方法であって、原料チタン部材を、減圧下で、室温から730℃以上950℃以下の温度T1まで昇温させて加熱する第一加熱工程と、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T1から、温度T1よりも大きく、かつ900℃以上1150℃以下の温度T2まで、0.5時間以上8時間以下かけて昇温させて加熱する第二加熱工程と、第二加熱工程を経た原料チタン部材を、温度T2から、温度T2よりも低い温度まで降温させて冷却し、チタン部材を得る冷却工程とを含む、チタン部材の製造方法。
[10] チタンの含有量が99質量%以上であるチタン部材であり、上記チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が上記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、上記第一凸部構造体は、上記第一凸部構造体の上面に、上記第一方向に沿って数100nmの間隔で並んでいる第一凸部を有し、上記第一凸部の高さは、数10nmであるチタン部材の製造方法であって、チタンの含有量が99質量%以上である原料チタン部材を、減圧下で、室温から800℃以上950℃以下の温度T1まで昇温させて加熱する第一加熱工程と、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T1から、温度T1よりも大きく、かつ950℃以上1150℃以下の温度T2まで、0.5時間以上8時間以下かけて昇温させて加熱する第二加熱工程と、第二加熱工程を経た原料チタン部材を、温度T2から、温度T2よりも低い温度まで降温させて冷却し、チタン部材を得る冷却工程とを含む、チタン部材の製造方法。
[11] 上記チタン部材は、β合金またはα+β合金を含み、上記原料チタン部材は、β合金またはα+β合金を含む、[9]に記載のチタン部材の製造方法。
[12] さらに、第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T1で0.5時間以上3時間以下保持する第一保持工程を含み、上記第二加熱工程は、第一保持工程を経た原料チタン部材を加熱する、[9]~[11]のいずれか一つに記載のチタン部材の製造方法。
[13] さらに、第二加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度T2で0.5時間以上6時間以下保持する第二保持工程を含み、上記冷却工程は、第二保持工程を経た原料チタン部材を冷却し、チタン部材を得る、[9]~[12]のいずれか一つに記載のチタン部材の製造方法。
[14] 上記第二加熱工程は、昇温および降温を繰り返して加熱する、[9]~[113]のいずれか一つのいずれか一つに記載のチタン部材の製造方法。
[15] チタンの含有量が99質量%以上であるチタン部材であり、上記チタン部材の表面に、第一方向に延在する第一凸部構造体が上記第一方向と直交する第二方向に複数配列されている第一領域を有し、上記第一凸部構造体は、上記第一凸部構造体の上面に、上記第一方向に沿って数100nmの間隔で並んでいる第一凸部を有し、上記第一凸部の高さは、数10nmであるチタン部材の製造方法であって、チタンの含有量が99質量%以上である原料チタン部材を、減圧下で、室温から900℃以上1100℃以下の温度Tまで昇温させて加熱する第一加熱工程第一加熱工程を経た原料チタン部材を、減圧下で、温度Tで1時間以上8時間以下保持する第一保持工程を含み、第一保持工程を経た原料チタン部材を、温度Tから、温度Tよりも低い温度まで降温させて冷却し、チタン部材を得る冷却工程とを含む、チタン部材の製造方法。
上記[9]~[15]のチタン部材の製造方法によれば、装飾性に優れた青色を示すチタン部材が得られる。
[16] [1]~[8]のいずれか一つに記載のチタン部材を含む装飾品。
上記[16]の装飾品は、装飾性に優れた青色を示す。
【0085】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例]
<分析方法および評価方法>
〔色調、領域のサイズおよび領域の面積割合〕
色調、領域のサイズ(結晶のサイズ)ならびに第一領域および第二領域の面積割合について、評価にはマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、製品名VHX-5000)を用いた。測定は、白色光リング照明の落射方式を用いて、倍率20倍にて実施し、画像を得た。
【0087】
上記画像について、閾値を明度100~255に設定した。こうすることで第一領域および第二領域のみが抽出された。具体的には、黒色部以外(白色および青色)の結晶領域のみが抽出された。これより、第一領域および第二領域の合計の面積割合(%)を求めた。
さらに、閾値に彩度25~255、色相130~185を追加設定した。こうすることで第一領域(青色の結晶領域)のみが抽出された。これより、第一領域の面積割合(%)を求めた。また、第一領域および第二領域の合計の面積割合(%)から、第一領域の面積割合(%)を引いて、第二領域の面積割合(%)を求めた。
【0088】
また、抽出された第一領域(青色の結晶領域)を任意に10点以上測定し、それぞれのRGB値を得た後、これらRGB値の平均値を求めた。得られたRGB値の平均値は、下記の条件を満たしていた。
青色の条件:R値とG値との差が30以内であり、B値がR値よりも70以上大きく、かつB値がG値よりも70以上大きい。ここで、R値、G値およびB値は、それぞれ0以上255以下の整数である。
さらに、抽出された第二領域(白色の結晶領域)を任意に10点以上測定し、それぞれのRGB値を得た後、これらRGB値の平均値を求めた。得られたRGB値の平均値は、下記の条件を満たしていた。
白色の条件:R値、G値およびB値がそれぞれ170以上であり、R値とG値との差、G値とB値との差およびB値とR値との差がそれぞれ50以内である。ここで、R値、G値およびB値は、それぞれ0以上255以下の整数である。
【0089】
領域のサイズは、マイクロスコープ画像を用いて測定した。具体的には、一つの第一領域又は第二領域において、長手方向(最大径)、短手方向(最小径)の2点を測定し、その平均値を求めた。10ヶ所以上の第一領域又は第二領域について同様にして平均値を求め、これらの平均値をさらに平均して、領域のサイズとした。なお、第一領域が得られないサンプルについては、第二領域のみについて上記と同様にして領域のサイズを求めた。
【0090】
評価基準を以下のように定め、サンプルの評価を行った。
0:青色結晶(第一領域)、白色結晶(第二領域)ともに全く得られない。
1:青色結晶または白色結晶が得られ、領域のサイズが1mm(1000μm)未満。
2:青色結晶または白色結晶が得られ、領域のサイズが1mm(1000μm)以上1.5mm(1500μm) 未満。
3:青色結晶または白色結晶が得られ、領域のサイズが1.5mm(1500μm)以上であり、かつ第一領域および第二領域の合計の面積割合が10%未満。
4:青色結晶または白色結晶が得られ、領域のサイズが1.5mm(1500μm)以上であり、かつ第一領域および第二領域の合計の面積割合が10%以上20%未満。
5:青色結晶または白色結晶が得られ、領域のサイズが1.5mm(1500μm)以上であり、かつ第一領域および第二領域の合計の面積割合が20%以上。
【0091】
〔表面形状観察および元素分析〕
表面形状観察は、走査型電子顕微鏡(SEM)(カールツァイスマイクロスコピー株式会社製、製品名Gemini300)を用いて行った。SEM分析条件は、加速電圧15kV、SEM倍率1万倍とした。また、走査型電子顕微鏡で特定した箇所の元素分析についてはエネルギー分散型X線分光器(EDS)(BRUKER社製)を用いた。分析条件は、加速電圧3kVとした。
【0092】
〔微細形状測定〕
微細形状測定は、走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡、AFM)(BRUKER社製、製品名Dimension Icon)を用いて行った。測定位置は、マイクロスコープ像およびSEM像で特定した位置とした。測定は以下の条件で行った。
モード:大気中、タッピングモード(ダイナミックモード)、カンチレバー:RTESP300kHz、バネ定数40N/m、走査周波数:1Hz、0.5Hz。
第一領域について、得られた実表面の測定断面曲線(第一方向に切り出して得られた断面プロファイル)から、カットオフ値λsの位相補償形フィルタを適用してうねり成分を除去した。その後、最大高さ(最も高い山の高さ+最も深い谷の深さ)、最小高さ(最も低い山の高さ+最も浅い谷の深さ)を計測した。これらの値から要素の高さの範囲を得た。また、一つの輪郭線要素長さの最大長さおよび最小長さを測定した。これらの値から要素の長さの範囲を得た。ここで、第一方向は、走査型プローブ顕微鏡(原子間力顕微鏡(AFM))に搭載されたマイクロスコープで観察される、規則的に入っている細い線に沿った方向とした。また、第一方向と直交する第二方向に切り出して得られた断面プロファイルにおいても、要素の長さの範囲および要素の高さの範囲を同様に求めた。
また、第二領域についても、得られた実表面の測定断面曲線(第一方向に切り出して得られた断面プロファイル)から、要素の長さの範囲および要素の高さの範囲を同様に求めた。
【0093】
〔結晶性測定〕
結晶性測定(色調違いによる結晶の配向性測定)は、X線回折装置(RIGAKU製、製品名SmartLab)を用いて行った。測定は以下の条件で行った。
全体定性分析条件 X線出力:40kV、30mA、スキャン軸:2θ/θ、スキャン範囲:5~120°、0.02ステップ、ソーラースリット:5deg、長手制限スリット:15mm。
微小部定性分析条件 X線出力:40kV、30mA、スキャン軸:2θ/θ、スキャン範囲:5~120°、0.02ステップ、ソーラースリット:2.5deg、長手制限スリット:15mm。
【0094】
[実施例1]
真空熱処理装置として、1.0×10-5Pa以下の高真空まで排気できる拡散ポンプを備えており、装置内のヒーターにて処理物を加熱できる装置を用いた。
【0095】
サンプル1の製造では、まず、#800研磨したJIS2種の原料チタン部材である純チタン板材を真空熱処理装置の炉内にセットし、2.0E-4Paまで排気した。その後、
図3および表1に示す条件で、加熱工程、保持工程および冷却工程を行った。具体的には、室温から880℃まで1時間かけて昇温し、880℃で3時間保持し、150℃まで3時間かけて降温した。このようにして、サンプル1を得た。
【0096】
サンプル2~11の製造では、表1に示すように、加熱時間HT(昇温時間)、温度T(到達温度)、保持時間KTおよび冷却時間(温度Tから150℃まで降温にかかった時間)を変化させた。
【0097】
【0098】
代表的な写真を
図4A~
図4Dに示す。すなわち、
図4Aは、実施例1、サンプル3の顕微鏡写真である。
図4Bは、実施例1、サンプル6の顕微鏡写真である。
図4Cは、実施例1、サンプル8の顕微鏡写真である。
図4Dは、実施例1、サンプル10の顕微鏡写真である。
【0099】
表1には、サンプル1~11の評価結果も合わせて示した。サンプル1~10より、結晶のサイズは、高温になるほど、また、保持時間が長くなるほど明らかに大きくなることが理解される。
【0100】
900℃の低温では、青色および白色に見える結晶が基板全体に満遍なく広がっているが、サイズが小さく目視ではほとんど視認できない。温度を上げていくほど結晶のサイズは大きくなったが、1100℃で3時間保持すると結晶全体が黒色化し(チタン本来の色となり)、青色結晶および白色結晶は全く得られなかった。また、高温になるほど基板全体でまばらに結晶が出現した。
【0101】
サンプル6は、サンプル1~10の間で最も高い結晶量が得られた。結晶のサイズは1250μm程度であったが、チタン板材上に比較的万遍なく結晶が得られた。青く反射している結晶の色調は、平均でR129G145B231であり、白く反射している結晶の色調は平均でR212G207B207であった。
【0102】
また、サンプル8について、青色および黒色を呈する結晶部のEDSによる元素分析を実施した。すなわち、
図5Aは、実施例1、サンプル8の第一領域のEDSスペクトルである。
図5Bは、実施例1、サンプル8の第三領域のEDSスペクトルである。
図5Aおよび
図5Bより、検出された元素はTi、C、Oであり、元素量に違いは見られず、Oは、チタンの酸化物として存在していることが分かった。
【0103】
実施例1のような単純な熱処理条件下では、比較的サイズの小さな青色結晶および白色結晶が得られた。
【0104】
[実施例2]
サンプル12の製造では、まず、#800研磨したJIS2種の原料チタン部材である純チタン板材を真空熱処理炉内にセットし、2.0E-4Paまで排気した。その後、
図2および表2に示す条件で、第一加熱工程、第二加熱工程および冷却工程を行った。具体的には、室温から850℃まで1時間かけて昇温し、850℃から1200℃まで5時間かけて昇温し、1200℃から150℃まで3時間かけて降温した。このようにして、サンプル12を得た。
【0105】
サンプル13~50の製造では、表2に示すように、適宜、第一保持工程および第二保持工程も行った。具体的には、サンプル13~50の製造では、
図2および表2に示すように、加熱時間HT1(第一昇温時間)、温度T1(昇温開始温度、第一到達温度)、保持時間KT1(第一保持時間)、加熱時間HT2(第二昇温時間)、温度T2(第二到達温度)、保持時間KT2(第二保持時間)、および冷却時間(温度T2から150℃まで降温にかかった時間)を変化させた。
【0106】
【0107】
【0108】
代表的な写真を
図6A~
図6Jに示す。すなわち、
図6Aは、実施例2、サンプル12の顕微鏡写真である。
図6Bは、実施例2、サンプル15の顕微鏡写真である。
図6Cは、実施例2、サンプル23の顕微鏡写真である。
図6Dは、実施例2、サンプル24の顕微鏡写真である。
図6Eは、実施例2、サンプル28の顕微鏡写真である。
図6Fは、実施例2、サンプル34の顕微鏡写真である。
図6Gは、実施例2、サンプル41の顕微鏡写真である。
図6Hは、実施例2、サンプル45の顕微鏡写真である。
図6Iは、実施例2、サンプル49の顕微鏡写真である。
図6Jは、実施例2、サンプル50の顕微鏡写真である。
【0109】
表2には、サンプル12~50の評価結果も合わせて示した。サンプル12、13のように、第二到達温度1200℃まで加熱を行うと、青色結晶、白色結晶を通り抜けて結晶全体が大きくなり、黒色(チタン本来の色)となった。1200℃までを3時間で昇温した場合は、α相からβ相に転移するときに発生する針状結晶が僅かに残り青色結晶が残ったと考えられた。
【0110】
サンプル14~18のように、第二到達温度1150℃まで加熱を行うと、第二到達温度1200℃までと同様に、黒色優位の状態であった。しかしながら、サンプル17のように、第二昇温時間が1時間と短い場合は、青色結晶が8%まで上昇し、全体の結晶量は10%となった。サンプル18は、第二保持時間を0時間から1時間とした以外はサンプル17と同条件であるが、結晶量が大幅に低下し黒色優位であった。この結果から、第二昇温時間により青色結晶が成長し、また、第二到達温度での第二保持時間により青色結晶から白色結晶、黒色へと変化するため、第二昇温時間、第二到達温度および第二保持時間の兼ね合いが重要な要因であることが理解された。
【0111】
サンプル19~31は、第二到達温度を1100℃とした場合である。第二到達温度を1100℃にした場合は、1200℃、1150℃と比較して結晶量の合計が明らかに増加した。サンプル19、20、25は、第一昇温時間および第一到達温度の違いである。サンプル20は、サンプル19よりも結晶量の合計が少なくなっている。これは、第一到達温度が900℃であり、チタンの相転移温度885℃を超えた温度になっていることが要因と考えられる。また、サンプル20は、885℃を超えた温度での滞在時間が長かったことで結晶量が低下したと考えられる。サンプル25は、第一到達温度が850℃であり、相転移温度885℃よりも低いため、850℃から1100℃に昇温する際に青色結晶が安定的に増加したと考えられる。
【0112】
サンプル20、27、28は、第二保持時間の違いである。1100℃の温度条件では、第二保持時間が長くなるほど結晶量は減少した。
【0113】
サンプル19、23、24は、第二昇温時間の違いである。第二到達温度が1100℃では、第二昇温時間が2時間のときに結晶量が27%と最も大きい。第二昇温時間が長くなるにつれて結晶量は低下傾向にある。
【0114】
サンプル30、31は、第一到達温度が800℃で、第一保持時間が0時間および3時間の違いである。相転移温度885℃よりも低い温度条件であるため、結晶量に変化は見られなかった。第一到達温度は、相転移温度885℃以下が望ましい。
【0115】
サンプル25、26は、急冷の有無による差である。結晶量に大きな差は見られなかった。
【0116】
第二到達温度が1150℃の場合、第二昇温時間を2時間程度にすることで青色結晶を増やすことができる。一方、青色結晶から変化して現れる白色結晶の量はあまり増加しない。
【0117】
サンプル35~48は、第二到達温度を1050℃とした場合である。1050℃では全体的に結晶量が増える結果となった。結晶量を安定的に確保するためには、1050℃前後が最適であると考えられる。
【0118】
サンプル35~38では、第二昇温時間を3~15時間まで変化させた。第二昇温時間を長くしていくと青色結晶量は低下していき、白色結晶が僅かに増加する傾向が見られた。8時間および15時間で大きな差が見られないことから、8時間以内が適当と考えられる。
【0119】
サンプル35、44、45は、第二昇温時間を3時間として第二保持時間を変化させた場合である。第二保持時間を長くしていくと青色結晶から白色結晶への転移が発生し白色結晶量が増加した。
【0120】
サンプル46、47は、第一到達温度が850℃で、第一保持時間が0時間および3時間の違いである。チタンの相転移温度885℃以下であるため、結晶量に大きな変化は見られなかった。
【0121】
サンプル46、48は、冷却時間が3時間および0.5時間(急冷)の違いである。結晶量に大きな変化は見られなかった。
【0122】
サンプル50は、第二到達温度を1020℃とした場合である。第二昇温時間を8時間とすることで青色結晶が23%となった。しかしながら、第二到達温度が1020℃と低いことから、結晶のサイズは1271μmと比較的小さくなった。
【0123】
代表的な走査型電子顕微鏡像を
図7A~
図7Cに示す。すなわち、
図7Aは、実施例2、サンプル24の第一領域-1の走査型電子顕微鏡像である。
図7Bは、実施例2、サンプル24の第二領域の走査型電子顕微鏡像である。
図7Cは、実施例2、サンプル24の第三領域の走査型電子顕微鏡像である。
図7A~
図7Cは、
図6Dにおける第一領域-1、第二領域および第三領域の走査型電子顕微鏡像にそれぞれ対応する。青色結晶部(第一領域-1)は非常に細かい鱗のような棚が規則的に階段状に配列した微細構造が確認された。白色結晶部(第二領域)は青色結晶部よりも棚の形状が大きくなり同じように階段状に配列した構造が確認された。黒色部(第三領域)では棚の名残は見えるものの、明確な結晶構造は確認されず、ほぼ平面であった。
【0124】
この棚構造をさらに詳しく調べるため、走査型プローブ顕微鏡を用いた微細形状分析を実施した。走査型電子顕微鏡像と走査型プローブ顕微鏡像とは、完全に同じ位置を測定できているわけではないが、おおよそ同位置を測定している。すなわち、
図8A、
図9Aは、実施例2、サンプル24の第一領域-1のAFM写真である。
図8B、
図9Bは、実施例2、サンプル24の第一領域-1のAFM断面プロファイルである。具体的には、
図8Bは、
図8A中の白線(第一方向)に沿って切り出して得られた断面プロファイルである。また、
図9Bは、
図9A中の白線(第一方向と直交する第二方向)に沿って切り出して得られた断面プロファイルである。
図10A、
図11Aは、実施例2、サンプル24の第二領域のAFM写真である。
図10B、
図11Bは、実施例2、サンプル24の第二領域のAFM断面プロファイルである。具体的には、
図10Bは、
図10A中の白線(第一方向)に沿って切り出して得られた断面プロファイルである。また、
図11Bは、
図11A中の白線(第一方向と直交する第二方向)に沿って切り出して得られた断面プロファイルである。
図12A、
図13Aは、実施例2、サンプル24の第三領域のAFM写真である。
図12B、
図13Bは、実施例2、サンプル24の第三領域のAFM断面プロファイルである。具体的には、
図12Bは、
図12A中の白線(第一方向)に沿って切り出して得られた断面プロファイルである。また、
図13A中の白線(第一方向と直交する第二方向)に沿って切り出して得られた断面プロファイルである。
【0125】
青色結晶部における第一凸部に対応する要素の高さは、
図8Bに図示するように各ピークの高さに相当し、第一凸部に対応する要素の長さは、ピーク間の距離に相当する。すなわち、各ピークの高さは、
図1の第一凸部12の高さHに対応し、ピーク間の長さは、第一凸部12の間隔Iに対応する。各ピークの高さは、おおよそ数10nm(10nm以上、100nm以下)の範囲であり、ピーク間の距離は、数100nm(100nm以上、1000nm以下)の範囲で規則的に並んでいた(第一方向に切り出して得られた断面プロファイルより)。青色結晶部の高さは、40nm以上~70nm以下の範囲に含まれるものが多く、ピッチは、300nm以上~500nm以下の範囲に含まれるものが多い。この凹凸構造およびピッチ間隔が青色を強く反射する要因となっていると推察された。凹凸構造のピッチ(300~500nm)と青い光の波長とは同程度である。ホイヘンスの原理より、ピッチよりも波長の長い光は回折を起こさなくなるため、相対的に青色反射が強くなる回折格子の原理に基づくと考えられる。また、凹凸一つの幅が光波長よりも小さいため、回折広がりを生じ広い角度範囲で青く見える。さらに凹凸の配列が高さ方向、平面方向ともに乱雑さを含むので、異なる凹凸同士の光干渉による一般的な回折格子のような虹色干渉を防いでいると考えられる。
また、第二方向に切り出して得られた断面プロファイルは、青色結晶部における第一凸部構造体に対応する要素の高さと間隔の長さを示し、第一凸部を含む第一凸部構造体に対応する要素の高さが、
図9Bのピークの高さに相当し、要素の長さが、ピーク間の距離に相当する。すなわち、各ピークの高さは、
図1の第一凸部を含む第一凸部構造体11の高さH’に対応し、ピーク間の長さは、第一凸部構造体11の間隔I’に対応する。
図9Bに示すように、第一凸部を含む第一凸部構造体の高さに対応する要素の高さが、
図8Bで示した第一凸部に対応する要素の高さよりも高く、ピッチ(第一凸部構造体の間隔に対応する要素の長さ)が第一凸部に対応する要素の間隔よりも広い間隔で並んでいる。
図9Bに示されるように、要素の長さは650nm以上780nm以下の範囲に含まれるものが多く、要素の高さは75nm以上120nm以下の範囲に含まれるものが多い。
【0126】
図10Bに図示するように、白色結晶部は、第二凸部の高さ(要素の高さ)5~13nmの凹凸が100~200nmのピッチ(第二凸部である要素の長さ)で規則的に並んでいた。凹凸構造が100~200nmのピッチ構造は可視光(380~780nm)よりも短い。そのため、可視光領域全てにおいて回折は発生せずに全て乱反射される。この乱反射によりチタンが本来持つ屈折率および消衰係数による反射率よりも高い反射が得られ、白く輝いて見える。可視光領域全てが乱反射するため、白色の高い反射率が得られると推察される。
なお、
図11Bより、白色結晶部では、第二方向に隣り合う第二凸部構造体は、数100nm以上数1000nm以下(多くは820nm以上1100nm以下)の間隔Iで並んでいた。第二凸部構造体は、第二凸部の高さを含む高さが、数10nm以上数100nm以下(多くは75nm以上120nm以下)であった。
【0127】
黒色部は、どの領域を測定してもほぼ平坦な表面構造となっており、光による回折や散乱は起こさず、チタンが本来持っている反射色になっていると考えられる。上記に示す青色結晶部および白色結晶部が、チタン本来の反射色よりも明るく光を反射するため、黒く観察されたと考えられる。
【0128】
このように青色の反射および白色の反射が観察されるのは、上記微細構造がチタン表面上に形成されたことが主因である。この微細構造は、第一到達温度、第二昇温時間、第二到達温度、第二保持時間等のコントロールによって生成される。
【0129】
サンプル24について、X線回折測定によって、青色結晶部(第一領域-1、第一領域-2、
図6D参照)、白色結晶部(第二領域)および黒色結晶部(第三領域)それぞれの結晶配向性を調べた。すなわち、
図14は、実施例2、サンプル24のXRDスペクトルである。
図14には、比較として熱処理前のブランクチタンの測定結果も合わせて示した。
【0130】
青色結晶部(第一領域-1)は、稠密六方晶であるα相に帰属される(103)面、(102)面、(110)面、(100)面の順に優先配向していた。白色がかった青色結晶部(第一領域-2)は、稠密六方晶であるα相に帰属される(103)面、(102)面、体心立方晶であるβ相に帰属される(200)面の順に優先配向していた。白色結晶部(第二領域)は、α相に帰属される(102)面、β相に帰属される(200)面、α相に帰属される(103)面、(110)面の順に優先配向しており、青色結晶部の配向パターンによく似ていた。黒色結晶部(第三領域)は、α相に帰属される(102)面、(110)面、(103)面、(203)面の順に優先配向していた。結晶の配向性から、純チタンのα相から温度を上げていくと青色を示す結晶が得られ、保持時間または到達温度を上げることによって、青色結晶から白色結晶および黒色結晶へと変化していくと考えられる。
【0131】
[実施例3]
サンプル51~56の製造では、まず、#800研磨したJIS2種の原料チタン部材である純チタン板材を真空熱処理炉内にセットし、2.0E-4Paまで排気した。その後、以下の熱処理条件を行った。すなわち、サンプル51~56の製造では、昇温および降温を繰り返す熱処理パターンを用いた。次いで、150℃まで冷却を行った。
【0132】
サンプル51:室温から850℃まで85minかけて昇温→850℃から950℃まで1hかけて昇温→950℃から900℃まで0.5hかけて降温→900℃から1000℃まで1hかけて昇温→1000℃から950℃まで0.5hかけて降温→950℃から1050℃まで1hかけて昇温→1050℃から1000℃まで0.5hかけて降温→1000℃から1100℃まで1hかけて昇温。
【0133】
サンプル52:室温から850℃まで85minかけて昇温→850℃から950℃まで1hかけて昇温→950℃から900℃まで0.5hかけて降温→900℃から1000℃まで1hかけて昇温→1000℃から950℃まで0.5hかけて降温→950℃から1050℃まで1hかけて昇温→1050℃から1000℃まで0.5hかけて降温→1000℃から1100℃まで1hかけて昇温→1100℃から1050℃まで0.5hかけて降温→1050℃で0.5h保持。
【0134】
サンプル53:室温から850℃まで85minかけて昇温→850℃から950℃まで1hかけて昇温→950℃から900℃まで0.5hかけて降温→900℃から1000℃まで1hかけて昇温→1000℃から950℃まで0.5hかけて降温→950℃から1050℃まで1hかけて昇温→1050℃から1000℃まで0.5hかけて降温→1000℃から1100℃まで1hかけて昇温→1100℃から1050℃まで0.5hかけて降温→1050℃で1h保持。
【0135】
サンプル54:室温から850℃まで85minかけて昇温→850℃から950℃まで1hかけて昇温→950℃から850℃まで0.5hかけて降温→850℃から1000℃まで1hかけて昇温→1000℃から850℃まで0.5hかけて降温→850℃から1050℃まで1hかけて昇温→1050℃から850℃まで0.5hかけて降温→850℃から1100℃まで1hかけて昇温。
【0136】
サンプル55:室温から850℃まで85minかけて昇温→850℃から950℃まで1hかけて昇温→950℃から900℃まで0.5hかけて降温→900℃から1000℃まで1hかけて昇温→1000℃から950℃まで0.5hかけて降温→950℃から1050℃まで1hかけて昇温→1050℃で1h保持。
【0137】
サンプル56:室温から850℃まで85minかけて昇温→850℃から950℃まで1hかけて昇温→950℃から900℃まで0.5hかけて降温→900℃から1000℃まで1hかけて昇温→1000℃から950℃まで0.5hかけて降温→950℃から1050℃まで1hかけて昇温→1050℃で0.5h保持。
【0138】
代表的な写真を
図15に示す。すなわち、
図15は、実施例3、サンプル51の顕微鏡写真である。
【0139】
表3には、サンプル51~56の評価結果を示した。
【0140】
【0141】
昇温をギザギザに繰り返すことで青色結晶が飛躍的に増加した。青色結晶は昇温時に起こる相転移によって形成されると考えられる。このため、温度が一定でなく常に変動しているような条件下により、結晶量がさらに増加すると考えられる。
【0142】
[参考例1]
サンプル57、58の製造では、まず、#800研磨したJIS2種の純チタン板材を真空熱処理炉内にセットし、2.0E-4Paまで排気した。その後、以下の熱処理条件を行った。次いで、150℃まで冷却を行った。
【0143】
サンプル57:室温から200℃まで昇温→200℃から1000℃まで0.5hかけて昇温→1000℃で1h保持→1000℃から500℃まで0.5hかけて降温→500℃で16h保持。
【0144】
サンプル58:室温から200℃まで昇温→200℃から1200℃まで0.5hかけて昇温→1200℃で2h保持→1200℃から500℃まで0.7かけて降温→500℃で16h保持。
【0145】
表4には、サンプル57、58の評価結果を示した。
【0146】
【0147】
サンプル57は、青色結晶、白色結晶ともに確認されたが、結晶のサイズは1108μmと小さく、結晶量も少ない。この熱処理条件は、実施例1のサンプル7の条件と近く、結果もほぼ同じであった。500℃での保持は、結晶量の増加にほとんど効果がないと考えられる。
【0148】
サンプル58は、1200℃まで温度を上げているため、青色結晶、白色結晶どちらも完全に消失した。この熱処理条件は、実施例2のサンプル12の条件と近く、結果も同じであった。500℃での保持は結晶量の増加にほとんど効果がないと考えられる。
【0149】
<分析方法およびその結果>
〔反射率測定〕
第一領域(青色結晶部)の反射率測定は、
図16に示す反射率測定に用いた微小部光強度測定器を用いて実施した。この微小部光強度測定器は、試料を保持するとともに固定板に設けられた回転ステージと、ファイバを保持する回転ステージとを有している。試料で反射した光はファイバを経由して積分球及び分光器に導波される。本測定においては、レンズを用いてφ1mmに絞った光源からの入射光を試料(青色結晶部)に照射し、試料から反射した光を積分球にて積算、分光器によって波長毎の強度を測定した。次いで標準白色板を同様の方法にて測定し、青色結晶部の光強度を標準白色板で得られた光強度で除して反射率とした。
【0150】
図17は、実施例2、サンプル24の第一領域について反射率測定の結果を示す図である。得られた反射率より、青色を示す340~500nmが強く反射していることが理解される。また同第一領域(青色結晶部)について、キーエンス製VHX-5000マイクロスコープによる色の測定を実施したところ、R103、G122、B236の値が得られた。
【0151】
[実施例4]
真空熱処理装置として、1.0×10-5Pa以下の高真空まで排気できる拡散ポンプを備えており、装置内のヒーターにて処理物を加熱できる装置を用いた。
【0152】
サンプル59の製造では、まず、#800研磨したβ合金である原料チタン部材の15-3-3-3βチタン(Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al合金)を含むチタン板材を真空熱処理装置の炉内にセットし、2.0E-4Paまで排気した。その後、以下の昇温および降温を繰り返す熱処理条件を行った。なお、サンプル55と同じ熱処理条件である。次いで、150℃まで冷却を行った。このようにして、サンプル59を得た。
【0153】
サンプル59:室温から850℃まで85minかけて昇温→850℃から950℃まで1hかけて昇温→950℃から900℃まで0.5hかけて降温→900℃から1000℃まで1hかけて昇温→1000℃から950℃まで0.5hかけて降温→950℃から1050℃まで1hかけて昇温→1050℃で1h保持。
【0154】
サンプル60の製造では、β合金であるDAT51βチタン(Ti-22V-4al合金)を含むチタン板材を用いた以外は、サンプル59と同様にして、サンプル60を得た。また、サンプル61の製造では、α+β合金であるSP-700α+βチタン(Ti-4.5Al-3V-2Mo-2Fe合金)を含むチタン板材を用いた以外は、サンプル59と同様にして、サンプル61を得た。
【0155】
図18は、実施例4、サンプル59の顕微鏡写真である。
図19は、実施例4、サンプル60の顕微鏡写真である。
図20は、実施例4、サンプル61の顕微鏡写真である。何れの合金においても青色結晶が得られ、純チタンと比較し、青色結晶が多い。結晶サイズは全体的に小さく、1500μmまで到達しなかったが、青色結晶の割合は非常に高かった。さらにチタンの含有量が99質量%以上である純チタンのチタン部材の場合は表面全体にシワのような結晶界面が生成するが、β合金、α+β合金のチタン部材の場合は、そのような結晶界面のシワがほとんど発生せず、研磨されたミラー状態のまま青色が形成され、より綺麗な青色結晶を呈した。このような結晶界面のシワが抑制される原因は不明だが、純チタンのようにα相からβ相へ転移するときに発生するすべりによる結晶界面が、β合金やα+β合金では元々β相があることですべりが少なくなったからではないかと推察する。あるいはβ相安定型金属であるVやMoの存在が高温での変形能を抑制した可能性も考えられる。表5に結晶サイズ、結晶割合および評価結果を示した。
【0156】
【0157】
[実施例5]
β合金、α+β合金のチタンは添加元素の影響で総じて相転移温度が純チタンよりも低い。たとえばβ合金の15-3-3-3βチタンの相転移温度は760℃である。そこで熱処理工程の温度T1を730℃とし、到達温度を1100℃に変更した以下の熱処理条件を行った。すなわち、以下の熱処理条件を行った以外は、サンプル59~61と同様にして、それぞれサンプル62~64を得た。
【0158】
サンプル62~64:室温から730℃まで85minかけて昇温→730℃から850℃まで1hかけて昇温→850℃から800℃まで0.5hかけて降温→800℃から900℃まで1hかけて昇温→900℃から850℃まで0.5hかけて降温→850℃から950℃まで1hかけて昇温→950℃から900℃まで0.5hかけて降温→900℃から1000℃まで1hかけて昇温→1000℃から950℃まで0.5hかけて降温→950℃から1050℃まで1hかけて昇温→1050℃から1000℃まで0.5hかけて降温→1000℃から1100℃まで1hかけて昇温。
【0159】
図21は、実施例5、サンプル62の顕微鏡写真である。
図22は、実施例5、サンプル63の顕微鏡写真である。
図23は、実施例5、サンプル64の顕微鏡写真である。サンプル59~61の熱処理条件と比較し、明らかに結晶サイズが増大し青色結晶量も上昇した。結晶面のシワも少なく、青色結晶に関しては純チタンよりもさらに綺麗な表面を呈した。表6に結晶サイズ、結晶割合および評価結果を示した。
【0160】
【0161】
図24は、実施例5、サンプル62のXRDスペクトルである。
図25は、実施例5、サンプル62のβ合金の原料チタン部材(15-3-3-3βチタンを含むチタン板材)のXRDスペクトルである。熱処理前のβチタンは39°付近の〈110〉面、56°付近の〈200〉面、70°付近の〈211〉面に配向した結晶構造を示す。一方、熱処理後は56°付近の〈200〉面のみに優先配向した結晶構造を示す。このような〈200〉面に優先配向する構造が青色結晶構造を示す結晶パターンであると考えられる。
【0162】
以上の結果より、純チタン以外でも結晶模様を作成できることが分った。
【符号の説明】
【0163】
10 第一領域
11 第一凸部構造体
12 第一凸部
20 第二領域
21 第二凸部構造体
22 第二凸部