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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-18
(45)【発行日】2023-01-26
(54)【発明の名称】農業用作業車両
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20230119BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20230119BHJP
   G05D 1/02 20200101ALI20230119BHJP
【FI】
A01B69/00 303V
A01C11/02 313C
A01C11/02 313Z
A01C11/02 322A
A01C11/02 322D
G05D1/02 N
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020192724
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2022081281
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100200942
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 高史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 学
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-028015(JP,A)
【文献】特開2012-228913(JP,A)
【文献】特開2006-007817(JP,A)
【文献】特開2012-191889(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187122(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0124819(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01C 11/02
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の走行車輪を操舵する操舵装置と、
前記操舵装置を駆動するアクチュエータと、
前後一方または両方の走行車輪において、左右の車軸への駆動力を分配する差動装置と、
車両の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
旋回外側に位置する走行車輪の空転を検知する空転検知手段とを備えた自動走行可能な農業用作業車両であって、
前記操舵装置が所定の角度を超えて操舵された場合には、機体が旋回していると判定し、
機体が旋回している際に、前記空転検知手段により走行車輪の空転を検知した場合には、左右の前記車軸の差動回転を制限するよう構成され、さらに、
前記作業車両が、圃場に苗を植え付ける苗植付部を後部に有する苗移植機として構成され、
苗移植機が前進走行する際に植え付けられる苗同士の前後方向の株間を、作業者によって段階的に設定可能な第一の株間変更機構と、
前記第一の株間変更機構よりも後方で、前記苗植付部よりも前方の位置に、苗同士の前後方向の株間を変更可能な第二の株間変更機構が設けられ、
第二の株間変更機構において、前記走行車輪の空転率に応じて株間が変更されることを特徴とする農業用作業車両。
【請求項2】
前記第二の株間変更機構は、遊星歯車機構および株間調整用のアクチュエータを備え、
前記遊星歯車機構は、前記第一の株間変更機構から延びる入力軸と一体に回転される太陽歯車と、前記太陽歯車の周りを公転する複数の遊星歯車と、複数の前記遊星歯車の外歯に噛み合う内歯を有する内歯車と、前記複数の遊星歯車の公転運動が伝達される出力軸であって、前記苗植付部に動力を伝達する植付伝動軸に動力を伝達する前記出力軸とを備え、
前記走行車輪の空転率に応じて、前記内歯車および前記出力軸の回転数が、株間調整用のアクチュエータによって増減され、株間が変更されることを特徴とする請求項に記載の農業用作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機などの農業用作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場において、自動で直進走行と旋回とを繰り返し行う田植機やコンバインなどの農業用の作業車両が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機により取得した位置情報に基づき、ステアリングハンドルを自動操舵して、圃場内を自動走行する作業車両が開示されている。
特許文献1に記載された作業車両においては、ディファレンシャル機構(差動装置)が設けられており、旋回する際に、左右の走行車輪のうち、外側に位置する方の走行車輪が多く回転され、内側に位置する方の走行車輪の回転数が抑えられるため、スムーズに旋回することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-117564
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、作業車両が旋回する際に、圃場の状態が悪く、外側に位置する走行車輪が空転(スリップ)している場合には、ディファレンシャル機構が機能し、内側に位置する走行車輪の回転数が抑えられた状態で、空転する外側の走行車輪に偏重して駆動力が伝達されるため、走行が困難になることがあった。
【0006】
また、このとき、同じ場所で外側の走行車輪が空転し続けるため、圃場が荒れてしまうという問題もあった。
【0007】
したがって、本発明は、圃場の状態が悪い場合であっても、自動走行により、安定して旋回することができる農業用作業車両を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のかかる目的は、
左右の走行車輪を操舵する操舵装置と、
前記操舵装置を駆動するアクチュエータと、
前後一方または両方の走行車輪において、左右の車軸への駆動力を分配する差動装置と、
車両の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
旋回外側に位置する走行車輪の空転を検知する空転検知手段とを備えた自動走行可能な農業用作業車両であって、
前記操舵装置が所定の角度を超えて操舵された場合には、機体が旋回していると判定し、
機体が旋回している際に、前記空転検知手段により走行車輪の空転を検知した場合には、左右の前記車軸の差動回転を制限することを特徴とする農業用作業車両によって達成される。
【0009】
本発明によれば、位置情報取得手段を有する作業車両の操舵装置が、所定の角度を超えて操舵された場合であって、空転検知手段によって、旋回外側に位置する走行車輪の空転を検知した場合には、前後一方または両方の走行車輪において、左右の車軸の差動回転を制限するように構成されているから、左右の走行車輪のうち、空転する走行車輪に偏重して駆動力が伝達され続ける事態を防止し、空転していない走行車輪にも適切な駆動力を伝達することができ、作業車両が、自動走行により、安定して旋回することができる。
【0010】
本発明の好ましい実施態様においては、
圃場内において、予め設定された自動走行経路上を自動走行可能に構成され、
前記自動走行経路上を自動走行により旋回する際に、左右の前記車軸の差動回転が制限された地点の位置情報を、記録装置に自動的に記録し、
次回以降に同一の圃場を自動走行する際には、左右の前記車軸の差動回転が制限された地点を回避するように前記自動走行経路の一部を補正した経路上を走行するように構成されている。
【0011】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、前後一方または両方の走行車輪の左右の車軸の差動回転が制限された場合には、その地点の位置情報が記録装置に自動的に記録され、次回以降に自動走行する際には、その地点を回避するように補正した経路上を走行するように構成されているから、同一の場所で、再び走行車輪が空転する事態を効果的に防止することができる。
【0012】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
圃場内において、予め設定された自動走行経路上を自動走行可能に構成され、
自動走行経路上を自動走行により旋回する際に、左右の前記車軸の差動回転が制限されている間は、所定の範囲内で、自動走行経路からそれることを許容するように構成されている。
【0013】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、自動走行により、自動走行経路上を旋回する際に、外側に位置する走行車輪が空転し、左右の車軸の差動回転が制限されている場合には、自動走行経路からそれることを許容するように構成されているから、左右の車軸の差動回転が制限された状態で、自動走行経路に沿うように急角度で旋回する必要がなく、自動走行経路からそれて大回りすることが可能になり、したがって、走行車輪や車軸に大きな負荷がかかることを防止し、かつ、自動走行により安定して旋回することができる。
【0014】
さらに、この好ましい実施態様によれば、また、作業車両が自動走行経路からそれる範囲を限定することによって、作業車両が圃場の畔に乗り上げることを防止することができる。
【0015】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
自動走行により、自動走行経路上を旋回する際に、走行車輪が空転し、左右の前記車軸の差動回転が制限された後に、走行車輪の空転が解消された場合には、左右の前記車軸の差動回転を許容し、最短の経路で自動走行経路上に復帰するように構成されている。
【0016】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、左右の車軸の差動回転が制限され、走行車輪の空転が解消されると、左右の前記車軸の差動回転を許容し、最短の経路で自動走行経路上に復帰するから、安定して旋回を行いながらも、農作業への影響を最小限に抑えることができる。
【0017】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
前記作業車両が、圃場に苗を植え付ける苗植付部を後部に有する苗移植機として構成され、
苗移植機が前進走行する際に植え付けられる苗同士の前後方向の株間を、作業者によって段階的に設定可能な第一の株間変更機構と、
前記第一の株間変更機構よりも後方で、前記苗植付部よりも前方の位置に、苗同士の前後方向の株間を変更可能な第二の株間変更機構が設けられ、
第二の株間変更機構において、前記走行車輪の空転率に応じて株間が変更される。
【0018】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、作業者によって株間を設定可能に構成された第一の株間変更機構よりも後方に設けられた第二の株間変更機構において、走行車輪の空転率に応じて株間が変更されるから、圃場内で、走行車輪の空転が多い場所と、走行車輪の空転が少ない場所のいずれにおいても、株間を一定に保つことができる。
【0019】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
前記第二の株間変更機構は、遊星歯車機構および株間調整用のアクチュエータを備え、
前記遊星歯車機構は、前記第一の株間変更機構から延びる入力軸と一体に回転される太陽歯車と、前記太陽歯車の周りを公転する複数の遊星歯車と、複数の前記遊星歯車の外歯に噛み合う内歯を有する内歯車と、前記複数の遊星歯車の公転運動が伝達される出力軸であって、前記苗植付部に動力を伝達する植付伝動軸に動力を伝達する前記出力軸とを備え、
前記走行車輪の空転率に応じて、前記内歯車および前記出力軸の回転数が、株間調整用のアクチュエータによって増減され、株間が変更される。
【0020】
本発明のこの好ましい実施態様によれば、遊星歯車機構の内歯車および出力軸の回転数を、アクチュエータによって増減し、株間を変更可能に構成されているから、第二の株間変更機構を小型化することができ、さらに、株間の変更範囲を広くすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圃場の状態が悪い場合であっても、自動で、正常に旋回走行することができる作業車両を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる苗移植機の略左側面図である。
図2図2は、図1に示された苗移植機の略平面図である。
図3図3は、図1に示された苗移植機のミッションケースの近傍の伝動機構を示す略平面図である。
図4図4は、図1に示された苗移植機の後輪の近傍の部分拡大平面図である。
図5図5は、図1に示された苗移植機の制御系、検出系、入力系、表示系および駆動系のブロックダイアグラムである。
図6図6は、左側の防波板および左側のサイドフロートを示す図面である。
図7図7は、左側の防波板から生じる波が打ち消される作用を示す説明図である。
図8図8は、圃場内において、苗移植機が自動走行する経路を示す模式的平面図である。
図9図9は、第一の経路上を自動走行する際に、自動的に左右の前輪アクスルの差動回転を制限する制御の手順を示すフローチャートである。
図10図10は、図1に示された苗植付部への伝動機構を示す模式的斜視図である。
図11図11は、ミッションケース内に設けられた植付クラッチケースの内部構造を示す部分断面図である。
図12図12は、可変株間ケース内に設けられた遊星歯車機構の近傍の略斜視図である。
図13図13は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる左側の防波板の前部の略斜視図である。
図14図14は、図13に示された実施態様にかかる苗移植機の超音波センサにカバーが取り付けられる前の状態を示す略斜視図である。
図15図15は、超音波センサにカバーが取り付けられた状態を示す略斜視図である。
図16図16は、図13に示された実施態様にかかる苗移植機1のデフロックモータの近傍の模式的斜視図である。
図17図17は、図13に示された実施態様にかかる左右の前輪アクスルの差動回転が第一の経路上で許容されてから、苗移植機が自動走行経路に復帰するまでの制御の手順を示すフローチャートである。
図18図18は、左右の前輪アクスルの差動回転が第一の経路上で許容されてから、苗移植機が自動走行経路に復帰するまでの走行経路を示す模式的平面図である。
図19図19(a)は、本発明のさらに他の好ましい実施態様にかかる左側の防波板の近傍の略斜視図であり、図19(b)は、図19(a)に示された左側の防波板の貫通孔の近傍の模式的水平断面図である。
図20図20は、図19に示された実施態様にかかる苗移植機の超音波センサが取り付けられるセンサ取付アームの近傍の略斜視図である。
図21図21は、図19に示された実施態様にかかる苗移植機の左側のサイドフロートを示す図面である。
図22図22(a)は、従来の苗移植機の後輪を示す略斜視図であり、図22(b)は、図19に示された実施態様にかかる苗移植機の後輪を示す略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
【0024】
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる苗移植機1の略左側面図であり、図2は、図1に示された苗移植機1の略平面図である。
【0025】
本明細書においては、図1および図2に矢印で示されるように、苗移植機1(本発明にかかる農業用作業車両の一例)の進行方向となる側を前方(F)とし、特に断りがない限り、苗移植機1の進行方向に向かって左側を「左」(図面においてL)といい、その反対側を「右」(図面においてR)という。
【0026】
本実施態様にかかる苗移植機1は、図1および図2に示されるように、走行車両2と、走行車両2の後部に取り付けられた苗植付部63を備えている。
【0027】
図1に示されるように、走行車両2は、走行車両2の略中央に配置されたメインフレーム3と、メインフレーム3の後端部に取り付けられ、苗移植機1の幅方向に延びる後部フレーム6と、走行車輪としての左右一対の前輪8および左右一対の後輪9(図2参照)を備えている。
【0028】
図1および図2に示されるように、メインフレーム3の上方には、フロアステップ60が設けられ、フロアステップ60の上方には、走行車両2の前部に配置されたフロントカバー47と、フロントカバー47の後方に配置された操縦部49と、フロントカバー47に覆われ、苗移植機1を制御するコントローラ87(図1の図面左側参照)と、操縦部49の後方に配置された操縦席48とが設けられている。なお、本実施態様においては、苗移植機1は、コントローラ87によって自動走行する状態と、作業者の操縦によって走行する状態(以下、「マニュアル走行」という。)との間で切り換え可能に構成されている。
【0029】
操縦部49は、左右一対の前輪8の操舵を行うステアリングハンドル56(本発明にかかる操舵装置)と、苗移植機1を操作するための操作部54を備えている。
【0030】
図1および図2に示されるように、操縦席48の後方には、圃場に肥料を供給する施肥装置26が設けられている。
【0031】
図1に示されるように、施肥装置26は、肥料を貯留する施肥ホッパ27と、施肥ホッパ27内の肥料を下方に繰り出す繰出装置34と、繰り出された肥料を圃場に供給する施肥ホース40を備えている。
【0032】
図1に示されるように、操縦席48の下方にはエンジン7が設けられており、エンジン7から出力された駆動力は、フロアステップ60の下方に設けられたベルト式動力伝達機構4および油圧式無段変速機25を介してミッションケース30に伝動された後に、ミッションケース30内の副変速機構(図1には図示せず)で変速されて、左右一対の前輪8および左右一対の後輪9への走行用の動力と、苗植付部63を駆動するための動力とに分けて伝動される。
【0033】
図3は、図1に示された苗移植機1のミッションケース30の近傍の伝動機構を示す略平面図である。
【0034】
図3に示される副変速機構20で変速された走行用の動力(トルク)は、左右の前輪8にかかる負荷の差に基づき、ディファレンシャル機構15(本発明の差動装置に相当)によって、左右の前輪アクスル17、18にそれぞれ分配され、前輪ファイナルケース13(図1参照)を介して、左右一対の前輪8に伝達される。すなわち、左右の前輪8にかかる負荷の差に基づき、左右の前輪アクスル17、18が、互いに異なる回転数で回転可能に構成されている(以下、左右の前輪アクスル17、18または左右の走行車輪8,9が、左右間で互いに異なる回転数で回転される場合に「差動回転」という。)。
【0035】
また、本実施態様においては、ディファレンシャル機構15は、デフロック機能を有し、図3に示されるデフロックモータ16が駆動されることによって、左右の前輪アクスル17、18の回転数に差が生じることを防止可能に構成されている(以下、左右の前輪アクスル17、18間の回転数の差を制限することを「差動回転を制限する」といい、左右の前輪アクスル17、18間の回転数の差が制限されないことを「差動回転を許容する」という。)。
【0036】
したがって、左右一方の前輪8が空転しているにも拘わらず、左右一対の前輪8のうち、空転する前輪8のみに駆動力が伝達され、苗移植機1の走行が困難になることを防止することができる。なお、本実施態様においては、左右の前輪アクスル17、18の差動回転が制限された場合には、左右の前輪アクスル17、18の回転数は略同一となるものとする。
【0037】
図3に示されるように、デフロックモータ16には、デフロックアーム19が取り付けられており、デフロックモータ16が駆動されるときには、デフロックアーム19に連結された入切ピン22が、デフクラッチ23に作用する。その結果、左右の前輪アクスル17、18の差動回転が制限される。
【0038】
さらに、左右一対の後輪9に伝達される動力は、ミッションケース30の後部から取り出された後に、図2に示される左右一対の後輪伝動軸14、左右一対の後輪ギアケース51および車軸82(図1参照)を介して、左右一対の後輪9に伝達される。
【0039】
以上のようにして、エンジン7から伝達された動力によって、走行車輪8,9が回転され、走行車両2が前進または後進する。
【0040】
また、後輪ギアケース51に伝動された駆動力の一部は、施肥装置26に伝達される。
【0041】
一方、駆動用の動力は、走行車両2の後部に設けられた植付クラッチ(図1ないし図3には図示せず)に伝動され、植付クラッチが入れられた際に苗植付部63へ伝動される。
【0042】
図1に示されるように、苗植付部63は、昇降リンク装置5を介して走行車両2に連結されている。昇降リンク装置5は、上部リンクアーム85および左右一対の下部リンクアーム86を備え、苗植付部63を昇降可能に構成されている。
【0043】
上部リンクアーム85および下部リンクアーム86の前側の端部は、後部フレーム6に固定されたリンクベースフレーム10に取り付けられ、他端は苗植付部63の下部に位置する上下リンクアーム11に取り付けられている。
【0044】
コントローラ87は、電子油圧バルブ(図1ないし図3には図示せず)を制御するように構成され、コントローラ87によって電子油圧バルブが制御され、昇降油圧シリンダ12(図1参照)が油圧で縮められると、上部リンクアーム85が上下に回動し、その結果、苗植付部63が非作業位置まで上昇される。また、昇降油圧シリンダ12が油圧で伸ばされると、上部リンクアーム85が上下に回動し、その結果、苗植付部63が、圃場に苗を植付けるのに好適な作業位置まで下降される。なお、苗植付部63が非作業位置にあるときには、その下端部がメインフレーム3の底部と略同一の高さに位置し、苗植付部63が作業位置にあるときには、その下端部が接地する。
【0045】
図1および図2に示されるように、苗植付部63は、土付きのマット状の苗(以下、「苗マット」という。)を立て掛ける台65と、台65の後方かつ下方に設けられた3つの植付装置64を備えている。
【0046】
図2に示されるように、3つの植付装置64は苗移植機1の幅方向に並べて設けられ、各植付装置64は、前後方向に並ぶ左右二対の植付具69を備え、図1に示される駆動軸67が回転される際に、図1および図2に示される前側の植付具69と後ろ側の植付具69が、駆動軸67まわりに回転しつつ、交互に、台65の下端部に位置する苗を取出し、圃場に植え付けるように構成されている。
【0047】
図1および図2に示されるように、苗移植機1の前部には、台65に補充する苗マットを収容する予備苗載台74が設けられており、予備苗載台74を支持するフレーム77を介して、走行車両2に取り付けられている。
【0048】
図4は、図1に示された苗移植機1の後輪9の近傍の部分拡大平面図である。
【0049】
図1および図4に示されるように、左右一対の後輪9の左右方向内側の下部には、中央整地ロータ31が設けられており、左右一対の後輪9の後方には、左右一対の整地ロータ32が設けられている。
【0050】
中央整地ロータ31および左右一対の整地ロータ32は、主に圃場の枕地において使用される整地装置であり、それぞれ、複数のロータ刃41を備え、各ロータ刃41が、左側の後輪ギアケース51から延びる駆動軸37から伝達される駆動力によって回転されて、圃場が整地される。
【0051】
図4に示されるように、中央整地ロータ31の後方には、センターフロート38が設けられており、左右一対の整地ロータ32の後方には、左右一対のサイドフロート39が設けられている。
【0052】
苗移植機1が走行するに伴って、センターフロート38および左右一対のサイドフロート39はそれぞれ、圃場上を滑走して、圃場を整地可能に構成されており、センターフロート38および左右一対のサイドフロート39によって整地された圃場に、各植付装置64を用いて、苗が植え付けられる。センターフロート38および左右一対のサイドフロート39の前部はそれぞれ、圃場の凹凸に合わせて揺動可能に構成されている。
【0053】
なお、センターフロート38および左右一対のサイドフロート39は、苗植付部63の下部において、苗移植機1の幅方向に延びる植付深さフレーム42に取り付けられている。
【0054】
図5は、図1に示された苗移植機1の制御系、検出系、入力系、表示系および駆動系、のブロックダイアグラムである。
【0055】
図5に示されるように、苗移植機1の制御系は、苗移植機1全体の動作を制御するコントローラ87を備えている。
【0056】
コントローラ87は、CPU(Central Processing Unit)を有する処理部89と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)を有する記憶部93を備え、記憶部93には、苗移植機1を制御する種々のプログラムおよびデータが格納されている。記憶部93は、本発明にかかる記録装置の一例である。
【0057】
図5に示されるように、苗移植機1の検出系は、ステアリングハンドル56(操舵装置の一例)の操舵角を検出するステアリングセンサ58と、リンクベースフレーム10に対する上部リンクアーム85の相対角度を検出するリンクセンサ90と、位置情報取得手段として機能し、人工衛星からの電波を受信するGNSS受信機130と、左右の各前輪アクスル17,18の回転数をカウントする前輪回転センサ21と、左右一対の後輪9に連結された左右の車軸82それぞれの回転数をカウントする後輪回転センサ29と、センターフロート38前部の上下位置を検出するフロートセンサ33と、方位センサ80と、一対の前輪アクスル17,18のデフロック(差動回転の制限)を検出するリミットスイッチ59と、株間レバーおよび不等速切換操作具(図1ないし図5には図示せず)の操作位置を検出する株間センサ97を備えている。
【0058】
コントローラ87は、リンクセンサ90からの出力信号に基づいて苗植付部35の現在の高さ(上下位置)を算出可能に構成されている。
【0059】
フロートセンサ33は、センターフロート38の前部に設けられており、センターフロート38の前部が圃場の凹凸に合わせて揺動される際に、センターフロート38前部の上下位置を検出し、コントローラ87に出力するように構成されている。
【0060】
図5に示されるように、苗移植機1は、入力系として機能する操作部54を備え、操作部54は、苗移植機1の前後進および車速を変更操作する前後進レバー35(図1および図2参照)の位置を検出する前後進レバーセンサ36と、コントローラ87の制御による自動走行の入切を切換える自動走行入切スイッチ79を備えている。
【0061】
図5に示されるように、苗移植機1の表示系は、種々の情報を表示するモニタ61を備えている。
【0062】
図5に示されるように、苗移植機1の駆動系は、操縦席48の下方に設けられたエンジン7と、苗植付部35が昇降される際に、昇降油圧シリンダ12を伸縮させる電子油圧バルブ88と、油圧式無段変速機25内のトラニオン軸(図示せず)の開度を調整し、苗移植機1の前後進および車速を変更するHSTサーボモータ150と、ステアリングハンドル56を回動させるステアリングモータ57(本発明にかかる操舵装置を駆動するアクチュエータ)と、デフクラッチ23(図3参照)を入切し、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を許容する状態と、制限する状態(デフロック)との間で切換えるデフロックモータ16と、遊星歯車機構(図1ないし図4には図示せず)を回転させる株間調整モータ162を備えている。
【0063】
図1に示されたコントローラ87は、フロートセンサ33からの検出信号に基づき、電子油圧バルブ88を制御して、図1に示された昇降油圧シリンダ12を伸縮させ、図1に示された苗植付部63を昇降させることにより、圃場への苗の植付深さを一定に維持することができる。
【0064】
一方、図2および図4に示されるように、本実施態様にかかる苗移植機1においては、左右一対の整地ロータ32および左右一対のサイドフロート39よりも苗移植機1の幅方向外側に、左右一対の防波板110が設けられている。
【0065】
苗移植機1が前進するに伴って、一対の整地ロータ32および一対のサイドフロート39から左右に広がる水の波は、左右一対の防波板110によって堰き止められる。なお、図1においては、左側の防波板110の右方に位置するサイドフロート39などを見易くするために、左側の防波板110を透けさせて、その奥(右方)が視認できるように図示されている。
【0066】
図6は、左側の防波板110および左側のサイドフロート39を示す図面であり、図6(a)は、左側の防波板110および左側のサイドフロート39の近傍の略斜視図であり、図6(b)は、左側の防波板110および左側のサイドフロート39の近傍の略左側面図である。
【0067】
本実施態様においては、左側の防波板110の前下部には、図6(a)および図6(b)に示されるように、前方に突出する突出部111が形成されており、左側の防波板110の側面には、防波板119を左右方向に貫通するオーバーフロー防止用の6つの貫通孔45が形成されている。6つの貫通孔45は、圃場上の水が、防波板110を乗り越えてオーバーフローすることを防止することを目的として形成されている。
【0068】
図4図6(a)および図6(b)に示されるように、突出部111の幅方向外側の面(左側の面)には、広幅部112が設けられている。
【0069】
広幅部112は、図6(a)に示されるように、円柱状をなす部材115の一方の角を面取り加工(円柱状部材115の左部を、略円錐状に面取り加工)して丸みを持たせ、突出部111の左側の面に溶接することによって形成されている。
【0070】
左側の防波板110の突出部111および広幅部112は、左側の防波板110の喫水線の近傍から生じる波の少なくとも一部を打ち消し、苗移植機1の左方に植え付けられた苗が、波によって倒れる事態を防止することを目的として設けられている。なお、広幅部112の形状は、滑らかな略半球状をなすように構成してもよいが、本実施態様のように、円柱状をなす部材115に面取り加工を施すことによって、広幅部112を安価に製作することができる。
【0071】
図7は、左側の防波板110から生じる波が打ち消される作用を示す説明図である。
【0072】
図7には、左側の防波板110の前部の左側面が示されている。
【0073】
突出部111は、圃場200上に保持された水の水面の線(喫水線、図6(a)に二点鎖線で図示、図7に破線で図示)よりも下方となる位置(水に浸かる位置)に設けられている。
【0074】
ここに、図7に示されるように、苗移植機1が前進するに伴って、左側の防波板110の突出部111によって発生する波117(図7に二点鎖線で図示)は、左側の防波板110の喫水線の近傍部分(図7に斜線で示された部分)によって発生する波116(図7に一点鎖線で図示)と略逆位相の関係になっている。換言すれば、突出部111は、苗移植機1が前進するに伴って、波116と略逆位相の波を形成するように、前方に突出している。
【0075】
その結果、苗移植機1が前進するに伴って、左側の防波板110の喫水線の近傍部分(図7に斜線で示された部分)によって発生する波116と、左側の防波板110の突出部111によって発生する波117が、図7に示されるように、互いに打ち消し合う。
【0076】
したがって、苗移植機1が前進する際に、左側の防波板110から、苗移植機1の左方に圃場上の水の波が広がることを抑制し、苗移植機1の左側に植え付けられた苗が、波によって倒されることを防止することができる。
【0077】
さらに、本実施態様においては、左側の防波板110に形成された突出部111の左方に、広幅部112が設けられており、広幅部112は、突出部111から発生する波117と略同位相の波であって、左側の防波板110の喫水線の近傍部分から発生する波116と略逆位相の波を形成可能な前後位置に位置している。
【0078】
このように構成することによって、左側の防波板110の喫水線の近傍部分によって発生する波116と略逆位相の波の量を増やし、左側の防波板110の左方での波の打ち消し効果を高めることができる。
【0079】
また、本実施態様においては、左側の防波板110は、図6(a)および図6(b)に示されるように、第一のアーム43および第二のアーム44を備えた平行リンク46に揺動可能に取り付けられている。
【0080】
そして、第一のアーム43は、昇降リンク装置5(図1参照)に固定された植付部フレーム(図示せず)に、第二のアーム44は、サイドフロート39が取り付けられた植付深さフレーム42に、それぞれ、揺動可能に取り付けられている。
【0081】
このように、第二のアーム44が、苗植付部63の植付深さフレーム42に取り付けられているから、フロートセンサ33の検出信号に基づき、苗植付部63の高さ位置が変更された場合には、左側の防波板110の高さ位置が追随して変更され、したがって、左側の防波板110の喫水位置が保持される。
【0082】
すなわち、苗の植付けが行われているときに、苗植付部63の高さ位置が変更された場合であっても、左側の防波板110の突出部111および広幅部112は、圃場200に貯留された水の水面よりも下方の位置に保持される。したがって、苗移植機1が前進するに伴って、左側の防波板110の喫水線の近傍部分(図7に斜線で示された部分)から発生する波116と略逆位相の波を、突出部111および広幅部112で形成し続けることができる。このとき、図6(b)に示されるように、左側の防波板110と左側のサイドフロート39の高さ位置が略揃う。
【0083】
一方、本実施態様においては、図4に示されるように、左側の防波板110の突出部111の右側の側面には、広幅部(突出部111から右側に延びる部分)が設けられていない。
【0084】
したがって、苗移植機1が前進するに伴って、左側の防波板110の右方においては、左側の防波板110の喫水線の近傍部分から発生する波116と略逆位相の波が、左側の防波板110の右側にも広幅部が設けられた場合ほど、多く形成されない。
【0085】
その結果、左側の防波板110の右方(苗移植機1の幅方向内側)において、前方から略後方への水の波が僅かに形成されるので、突出部111の左右両方に広幅部が設けられた場合に比して、苗移植機1の幅方向内側から外側(左方)へ水の波が広がることを、より一層抑制することができる。
【0086】
以上、左側の防波板110について詳細に説明を加えたが、図4に示される右側の防波板110も同様に構成されており、右側の防波板110の前下部に形成された突出部111の右側の面のみに、広幅部112が設けられている。
【0087】
したがって、苗移植機1が走行するに伴って、右側の防波板110の右側に波が広がることを効果的に抑制することができる。
【0088】
一方、本実施態様にかかる苗移植機1は、コントローラ87の制御に基づき、以下のようにして、圃場内を自動走行しつつ、圃場に苗を植え付けることができる。
【0089】
図8は、圃場内において、苗移植機1が自動走行する経路を示す模式的平面図である。
【0090】
図8に示されるように、本実施態様にかかる苗移植機1が自動走行する圃場200は、平面視において略矩形をなし、南北方向または東西方向に延びる4つの辺201ないし204と、各辺201ないし204に沿うように延びる4つの周縁領域211ないし214と、4つの周縁領域211ないし214に囲まれた中央領域210を備えた水田である。
【0091】
圃場200内において、苗移植機1が自動走行しつつ、圃場に苗を植え付けるには、まず、コントローラ87が、自動走行を行う圃場200の四隅に関する位置情報と、直進する際に、その基準となる基準線の位置情報を取得する。
【0092】
具体的には、本実施態様においては、作業者によって、自動走行入切スイッチ79がオンされた状態で、苗移植機1が、略矩形をなす圃場200内の3辺201ないし203に沿って、周縁領域211ないし213を、順にマニュアル走行(ティーチング)した後に、作業者によって、自動走行入切スイッチ79がオフされる。
【0093】
次いで、コントローラ87は、圃場200内の3辺を走行した際に、GNSS受信機130によって取得した位置情報に基づき、自動走行経路を算出し、そのデータを記憶部93に格納する。
【0094】
本実施態様においては、自動走行経路のデータには、中央領域210における直進走行(図8に一点鎖線で図示)と、周縁領域212および214における旋回(図8に二点鎖線で図示)とを繰り返し行う経路(以下、「第一の経路」という。)のデータと、第一の経路を走行した後に、周縁領域211ないし214を順に走行する経路(図8にグレー色の矢印で図示。以下、「第二の経路」という。)のデータと、第一の経路において、南から北へ直進走行する際に苗の植付けを開始する第一の植付開始位置205(図8に破線で図示)および北から南へ直進走行する際に苗の植付けを開始する第二の植付開始位置206(図8に破線で図示)のデータが含まれている。
【0095】
自動走行経路のデータが記憶部93に格納された後に、苗移植機1は、第一の経路の1列目を直進走行する際に、苗の植付けを開始する位置207までマニュアル走行する。
【0096】
こうして、苗の植付けを開始する位置207に到達すると、作業者によって、自動走行入切スイッチ79がオンされ、苗移植機1が、第一の経路上を自動走行しつつ、中央領域210に苗を植え付ける。
【0097】
具体的には、苗移植機1は、方位センサ80およびステアリングセンサ58から出力される検出信号と、GNSS受信機から出力される現在の苗移植機1の位置情報と、自動走行経路に基づき、HSTサーボモータ150およびステアリングモータ57を駆動させて、図8に示されるように、中央領域210の西側端部に位置する「1列目」を北へ直進走行しつつ、苗を植え付け、周縁領域212に達すると、旋回して、隣り合う列上(「2列目」)を南へ直進走行しつつ、苗を植付け、周縁領域214に達すると、旋回して、隣り合う列上(「3列目」)を北へ直進走行しつつ、苗を植え付け、以下、同様にして、苗移植機1は、中央領域210の東側端部に位置する「n列目」まで、自動走行しつつ、中央領域210に苗を植え付ける。
【0098】
最後に、苗移植機1は、第二の経路上を順に自動走行しつつ、周縁領域211ないし214に苗を植え付け、自動走行を終了する。
【0099】
一方、本実施態様においては、自動走行により第一の経路上を旋回する際(図8に二点鎖線で図示)に、圃場のぬかるみや轍などによって、前後の走行車輪8,9が空転(スリップ)している場合には、苗移植機1は、以下のようにして、その空転を検知し、自動的に旋回走行に復帰することができる。
【0100】
図9は、第一の経路上を自動走行する際に、自動的に左右の前輪アクスル17,18の差動回転を制限する制御の手順を示すフローチャートである。
【0101】
図9に示されるように、コントローラ87は、まず、ステアリングセンサ58から、ステアリングハンドル56の操舵角の検出値を取得する(ステップS1)。
【0102】
次いで、コントローラ87は、ステアリングセンサ58によって検出されたステアリングハンドル56の操舵角と、所定の角度とを比較することによって、苗移植機1が旋回しているか否かを判定する(ステップS2)。
【0103】
具体的には、ステアリングハンドル56の操舵角が、所定の角度を超えている場合には、苗移植機1が旋回していると判定し、所定の角度を超えていない場合には、苗移植機1が旋回していない(直進走行している)と判定する。
【0104】
判定の結果、苗移植機1が旋回していないと判定した場合には、コントローラ87は、ステアリングハンドル56の操舵角が、所定の角度を超えるまで、コントローラ87によるステアリングセンサ58からの検出値の取得と判定が繰り返される。
【0105】
これに対して、判定の結果、苗移植機1が旋回していると判定した場合には、コントローラ87は、GNSS受信機130から苗移植機1の位置情報を取得し、後輪回転センサ29から、旋回時に外側に位置する後輪9の車軸82(図1参照)の回転数についての検出信号を取得する(ステップS3)。
【0106】
次いで、コントローラ87は、GNSS受信機130によって取得した位置情報と、後輪回転センサ29から出力される検出信号に基づき、走行車輪8,9が空転しているか否かを判定する(ステップS4)。
【0107】
具体的には、後輪回転センサ29によって検出される旋回外側の後輪9の車軸82(図1参照)の回転数から推定される苗移植機1の移動距離が、GNSS受信機130によって取得した位置情報から算出される実際の苗移植機1の移動距離に一致しない場合には、走行車輪8.9が空転していると判定し、一致する場合には、走行車輪8.9が空転していないと判定する。すなわち、GNSS受信機130および後輪回転センサが、本発明の空転検知手段の一例である。
【0108】
なお、本実施態様においては、苗移植機1が旋回される際に、外側に位置する後輪9の車軸82と、苗移植機1の位置情報に基づき、直接的には、旋回時に外側に位置する後輪9が空転(スリップ)していることが検知される。しかしながら、苗移植機1が、後輪9の回転に対応する距離を走行できていないことから、苗移植機1が旋回される際に、他の走行車輪8,9についても、同様に空転しているか、またはディファレンシャル機構15によって、駆動力が充分に伝達されていないことが推測される。
【0109】
こうして、走行車輪8.9が空転しているか否かの判定の結果、走行車輪8.9が空転していると判定した場合には、コントローラ87は、デフロックモータ16(図3参照)を駆動させ、左右の前輪アクスル17、18の差動回転を制限し、この地点の位置情報を記憶部93に格納(記録)する(ステップS5)。
【0110】
左右の前輪アクスル17、18の差動回転が制限された結果、走行用の駆動力が、空転している左右一方の前輪8に偏重して伝達されることなく、空転していない前輪8にも充分に伝達されるため、苗移植機1は、着実に旋回走行に復帰することができる。デフロックモータ16の駆動は、前輪回転センサ21から出力される左右の前輪アクスル17,18の回転数の値が揃った時点で停止される。
【0111】
ここに、苗移植機1が旋回される際に、走行車輪8,9が空転し、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限されている間は、所定の範囲内で、苗移植機1が自動走行経路からそれることを許容するように構成されている。
【0112】
このように構成することによって、苗移植機1は、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限された状態で、自動走行経路に沿うように急角度で旋回する必要がなく、自動走行経路からそれて大回りすることが可能になる。
【0113】
したがって、左右一対の前輪8や左右一対の前輪アクスル17,18に大きな負荷がかかることを防止することができる。
【0114】
また、苗移植機1が自動走行経路からそれる範囲が、所定の範囲内に限定されているため、苗移植機1が旋回する際に、過度に大回りし、圃場の畔に乗り上げる事態を防止することができる。
【0115】
なお、デフロックアーム19の近傍にリミットスイッチ59が設けられており(図3には図示せず)、デフロックモータ16が駆動する際に、デフロックアーム19の一部がリミットスイッチ59に当接することによって、デフロック(前輪アクスル17,18の差動回転の制限)の作動が検知される。このとき、モニタ61に、デフロックが作動している旨が表示される。
【0116】
こうして、左右の前輪アクスル17、18の差動回転が制限された後に、コントローラ87は、GNSS受信機130から苗移植機1の位置情報を取得し、後輪回転センサ29から、旋回時に外側に位置する後輪9の車軸82(図1参照)の回転数についての検出信号を取得する(ステップS6)。
【0117】
次いで、コントローラ87は、取得した苗移植機1の位置情報および後輪9の車軸82の回転数から、走行車輪9,10の空転が解消されたか否かを判定する(ステップS7)。
【0118】
具体的には、後輪回転センサ29によって検出される旋回外側の後輪9の車軸82の回転数から推定される苗移植機1の移動距離が、GNSS受信機130によって取得した位置情報から算出される実際の苗移植機1の移動距離に一致しない場合には、走行車輪8.9の空転が解消されていないと判定する。
【0119】
一方、旋回外側の後輪9の車軸82の回転数から推定される苗移植機1の移動距離が、位置情報から算出される実際の苗移植機1の移動距離に一致する場合には、走行車輪8.9の空転が解消されたと判定する。
【0120】
判定の結果、走行車輪8.9の空転が解消されている場合には、圃場のぬかるみや轍などから、すでに脱していることが推定されるので、コントローラ87は、デフロックモータ16を駆動させ、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を許容し、通常の旋回動作に復帰する(ステップS8)。
【0121】
ここに、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限されていた影響によって、苗移植機1が自動走行経路上から外れていることが推定されるが、本実施態様においては、左右の前輪アクスル17,18のデフロックが解除された際には、自動走行経路にかえ、現在地から第一の植付開始位置205または第二の植付開始位置206のいずれか近い方の位置までの最短経路を自動走行するように構成されている。
【0122】
このように構成することによって、圃場200の中央領域210内で、部分的に苗が植え付けられていない事態を防止することができる。
【0123】
また、第一の植付開始位置205または第二の植付開始位置206に復帰するように構成することによって、自動走行経路上であって、デフロック地点に近接する場所に復帰する場合に比して、轍やぬかるみで再び走行車輪8,9が空転することを抑制することができる。
【0124】
一方、走行車輪9,10の空転が解消されたか否かの判定の結果、走行車輪8.9の空転が解消されていない場合には、苗移植機1が圃場のぬかるみや轍などから脱することができていないことが推定されるので、走行車輪8.9の空転が解消されたと判定されるまで、位置情報および旋回時の外側に位置する車軸82の回転数の検出値の取得と、空転が解消されたか否かの判定が繰り返される。
【0125】
このように、本実施態様にかかる苗移植機1は、圃場のぬかるみや轍などによって、前後の走行車輪8,9が空転している場合には、後輪回転センサ29およびGNSS受信機130に基づき、それを検知し、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を制限することによって、自動的に旋回走行に復帰することができる。
【0126】
さらに、本実施態様にかかる苗移植機1においては、次回以降に圃場200を自動走行する際には、初回に算出され、記憶部93に格納された自動走行経路に基づき、圃場200内を自動走行しつつ、苗を植え付けることが可能に構成されているので、圃場200をマニュアル走行し、自動走行経路を算出し直す必要がない。
【0127】
ここに、圃場200において、以前に自動走行した際に、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限された地点の位置情報が記録された場合には、次回以降に圃場200を自動走行する際に、記録された位置の5m手前より、自動走行経路から10cmだけ苗移植機1の幅方向にずらした(補正した)新たな経路上を走行し、記録された位置を5m通過した地点で、自動走行経路に復帰するように構成されている。
【0128】
したがって、前回に走行車輪8.9が空転したぬかるみや轍で、再び走行車輪8.9が空転することを防止することができる。
【0129】
一方、図10は、図1に示された苗植付部63への伝動機構を示す模式的斜視図である。
【0130】
また、図11は、ミッションケース30内に設けられた植付クラッチケースの内部構造を示す部分断面図である。
【0131】
苗植付部63を駆動するための動力は、通常、図1および図10に示される植付伝動軸95を通じて、苗植付部63の駆動軸67(図1参照)に伝達され、植付具69が回転される。
【0132】
ここに、苗移植機1が直進走行しつつ、植付具69(図1参照)を用いて圃場に苗を植え付けるにあたり、通常、植付具69を回転駆動する駆動軸67(図1参照)の回転速度と、走行車両2の車速(走行車輪8,9の回転)とは相関関係にある。
【0133】
具体的には、苗移植機1の進行方向における苗同士の間隔(以下、「株間」という。)を一定にする必要があるため、走行車輪8,9が速く回転されるほど、駆動軸67が速く回転され、植付具69の植付け速度も速くなる。
【0134】
しかしながら、実際の圃場においては、圃場200のぬかるみや轍によって、走行車輪8,9が空転(スリップ)し、株間が詰まったり、圃場200の表面が締め固められている場合には、走行車輪8,9の空転が少なく、株間が広がったりすることがある。
【0135】
通常、苗移植機には、図1および図11に示された株間レバー180と、図11に示される不等速切換操作具190が設けられており、作業者は、これらを用いて、ミッションケース30内に設けられた植付クラッチケース181内(図11参照)の内部構造(ギア類)を操作し、駆動軸67の回転速度を変更して、苗の株間を変更することができる(第一の株間変更機構に相当)。
【0136】
しかしながら、苗移植機1が走行している間に、圃場200内の各場所の状態に合わせて、都度、株間レバー180または不等速切換操作具190を操作し、株間を調整することは困難であった。
【0137】
このような状況に照らして、本実施態様にかかる苗移植機1においては、ミッションケース30の出力軸73に、可変株間ケース160が接続されており、植付クラッチケース181から出力された回転駆動力が、走行車輪8,9の空転率(スリップ率)に基づき、自動的に、図10に示される可変株間ケース160内で調整された後に、植付伝動軸95を介して、駆動軸67に伝達されるように構成されている。
【0138】
なお、走行車輪8,9の空転率は、GNSS受信機130によって取得した位置情報から算出される実際の苗移植機1の移動距離を、後輪回転センサ29によって検出される旋回外側の後輪9の車軸82(図1参照)の回転数から推定される苗移植機1の移動距離で割って算出された値を、1から引くことによって算出される。
【0139】
図1に示された株間レバー180は、図11に示されるように、前後方向に延びる棒状の株間変速シフタ182の前部に取り付けられており、株間レバー180が操作されると、株間変速シフタ182の後部が、植付クラッチケース181内に形成された筒状の空隙183内を、前後方向に移動されるように構成されている。
【0140】
図11に示されるように、株間変速シフタ182には、前後方向に並ぶ4つの溝184ないし187が形成されており、植付クラッチケース181内に設けられたスプリング188の押圧力によって、球189が、常時、株間変速シフタ182に押し付けられている。
【0141】
株間レバー180が操作され、株間変速シフタ182が前後方向に移動されると、球189がいずれかの溝184ないし187に嵌め込まれ、株間変速シフタ182の位置が仮止めされる。
【0142】
このとき、スプリング188の押圧力を超える力で、株間変速シフタ182が前後方向に押されると、嵌め込まれていた球189が、溝184ないし187から外れ、再び別の溝184ないし187に嵌め込まれる。
【0143】
本実施態様においては、株間変速シフタ182の前後方向の位置(球189がいずれの溝184ないし187に嵌め込まれているか)によって、植付クラッチ171を介し、図10に示された可変株間ケース160に伝達される回転駆動力の速度が、以下のように、4段階に調整可能に構成されている。すなわち、株間レバー180および不等速切換操作具190が操作されることによって、株間を4段階に設定することができ、可変株間ケース160に伝達される回転駆動力の速度を高く設定するほど、車速に対する駆動軸67の回転速度も高くなるため、株間が狭くなる。
【0144】
4段階のうちの最高速に設定される際には、まず、作業者によって、不等速切換操作具190が操作される。不等速切換シフタ191が図11に示される(ロ)の位置に移動され、出力軸196上のギア198のクラッチ爪170と、不等速切換クラッチ199のクラッチ爪169が係止される。
【0145】
さらに、作業者によって株間レバー180が操作され、球189が、株間変速シフタ182に形成された図11に示される第一の溝184に嵌め込まれる。
【0146】
その結果、株間変速シフタ182に固定されたギア位置規制板195およびギア192と一体的に形成されたギア194であって、植付クラッチケース181に回転動力が入力される入力軸193に対して遊びを持たせた状態で嵌め合わされた(遊嵌された)ギア194が、出力軸196に固定されたギア197に噛み合い、ギア198、不等速切換クラッチ199および出力軸196および植付クラッチ171を介して、最高速で、回転駆動力が可変株間ケース160に出力される。
【0147】
4段階のうちの2番目に速い速度に設定される際には、作業者によって、不等速切換操作具190が操作され、不等速切換シフタ191が図11に示される(ロ)の位置に移動された状態で、株間レバー180が操作され、株間変速シフタ182の溝185に球189が嵌め込まれる。
【0148】
その結果、入力軸193上のギア192と、出力軸196に固定されたギア179が噛み合い、不等速切換クラッチ199、出力軸196および植付クラッチ171を介して、2番目に速い速度で、回転駆動力が可変株間ケース160に出力される。
【0149】
4段階のうちの3番目に速い速度に設定される際には、作業者によって、不等速切換操作具190が操作され、不等速切換シフタ191が図11に示される(ロ)の位置に移動された状態で、株間レバー180が操作され、株間変速シフタ182の溝186に球189が嵌め込まれる。
【0150】
その結果、ギア192のクラッチ爪178と、入力軸193上のギア177のクラッチ爪176が噛み合い、出力軸196上のギア175が回転され、ギア179、ギア196、ギア198、不等速切換クラッチ199、出力軸196および植付クラッチ171を介して、3番目に速い速度で、回転駆動力が可変株間ケース160に出力される。
【0151】
4段階のうちの最低速に設定される際には、作業者によって、不等速切換操作具190が操作され、不等速切換シフタ191が図11に示される(イ)の位置に移動された状態で、株間レバー180が操作され、株間変速シフタ182の溝187に球189が嵌め込まれる。
【0152】
その結果、入力軸193上のギア177から出力軸196上のギア175に伝動され、さらに、入力軸193上のギア174と出力軸196上のギア198とが噛み合わされて、常時噛み合わされている入力軸上のギア173および出力軸上のギア172と、不等速切換クラッチ199から、出力軸196および植付クラッチ171を経由して、最低速で、回転駆動力が可変株間ケース160に出力される。
【0153】
以上のようにして可変株間ケース160に出力された回転駆動力は、以下のようにして、可変株間ケース160およびその近傍で増減され、または一時的に停止される。
【0154】
図12は、可変株間ケース160内に設けられた遊星歯車機構の近傍の略斜視図である。
【0155】
本実施態様においては、可変株間ケース160(図10参照)の内部に、遊星歯車機構161が設けられている。
【0156】
可変株間ケース160内の遊星歯車機構161および株間調整モータ162が、第二の株間変更機構に相当する。
【0157】
図12に示されるように、遊星歯車機構161は、外側および内側に歯158または157を有する内歯車164と、内歯車164の内側に設けられた太陽歯車163および2つの遊星歯車165と、2つの遊星歯車165の内部にそれぞれ挿入された2本の軸167を有する遊星キャリア168と、遊星キャリア168の後部に取り付けられた出力軸155(植付伝動軸95への出力軸、図10も参照)を備えている。
【0158】
2つの遊星歯車165は、太陽歯車163および内歯車164と噛み合わされている。
【0159】
一方、植付クラッチケース181(図11参照)から延びる入力軸166は、遊星歯車機構161の太陽歯車163の内部に挿入されている。
【0160】
したがって、植付クラッチ171が入れられ、入力軸166が回転されたときには、太陽歯車163が入力軸166と一体的に回転され、2つの遊星歯車165も太陽歯車163のまわりを、太陽歯車163の回転方向と逆の方向に回転される。
【0161】
その結果、内歯車164、遊星キャリア168および出力軸155が回転され、植付伝動軸95(図10参照)へ回転駆動力が伝達される。
【0162】
ここに、図12に示されるように、内歯車164の外側には、可変速モータとして構成された株間調整モータ162の駆動によって回転可能なギア159が噛み合わされている。
そして、コントローラ87は、走行車輪8,9の空転率に応じた速度で株間調整モータ162への印加電圧を変化させてギア159を回転させ、実際の株間を、株間レバー180および不等速切換操作具190の操作によって設定された長さ(株間レバー180および不等速切換操作具190の操作位置を検出する株間センサ97からの出力信号に基づく)に保つように構成されている。
【0163】
具体的には、走行車輪8,9の空転率が、所定の値よりも高い場合には、株間が設定値よりも狭まることが推定されるので、株間調整モータ162の駆動によって、ギア159が、空転率に応じた低速度で回転される。
【0164】
このとき、遊星歯車機構161が低速度(入力軸166からの回転動力で回転されるよりも低い速度)で回転されるので、駆動軸67(図1参照)が低速度で回転され、株間が設定された長さに調整される。
【0165】
一方、走行車輪8,9の空転率が、所定の値よりも低い場合には、株間が設定値よりも広がることが推定されるので、株間調整モータ162の駆動によって、ギア159が、空転率に応じた高速度で回転される。
【0166】
このとき、遊星歯車機構161が高速度(入力軸166からの回転動力で回転されるよりも高い速度)で回転されるので、駆動軸67(図1参照)が高速度で回転され、株間が設定された長さに調整される。
【0167】
さらに、走行車輪8,9の空転率が100%である(苗移植機1が移動していない)場合には、同じ場所に苗が植え続けられることを防止するため、株間調整モータ162の駆動が停止される。
【0168】
また、本実施態様においては、ギア159には双方向のラチェット機構が設けられており、株間調整モータ162の駆動が停止されると、遊星歯車機構161の回転が停止されるので、駆動軸67の回転も停止される。
【0169】
このように、株間調整モータ162への印加電圧を変化させることによって、実際に植え付けられる苗同士の前後方向の株間を、滑らかに調節することができる。なお、株間調整モータ162は、図12に示されるモータケース156(図10参照)内に位置している。
【0170】
本実施態様においては、苗移植機1の左右に設けられた防波板110の前下部に、前方に突出する突出部111が設けられており、突出部111の側面であって、苗移植機1の幅方向外側の面には、突出部111から外側に向かって広がる広幅部112が設けられている。突出部111および広幅部112は、左右一対の防波板110のそれぞれの喫水線よりも下方に位置し、苗移植機1が前進するに伴って、左右の防波板110の喫水線の近傍部分から発生する波116と略逆位相の波を形成可能に構成されている。
【0171】
したがって、防波板110の前部であって、喫水線の近傍部分(図7の斜線参照)から発生する波116に、突出部111および広幅部112によって生じる略逆位相の波を干渉させ、打ち消すことができ、したがって、左右の防波板110から、苗移植機1の左右に水の波が広がることを抑制し、苗移植機1の左右に植え付けられた苗が倒れることを防止することができる。
【0172】
また、本実施態様によれば、図4に示されるように、左右の防波板110の突出部111の内側の面(苗移植機1の幅方向内側の面)には、広幅部112が設けられておらず、苗移植機1が前進するに伴って、防波板110の右側(苗移植機1の幅方向内側)に、僅かに水の波を形成することができるから、防波板110の右側に波が広がることを、より一層抑制することができる。
【0173】
さらに、本実施態様においては、左右の防波板110が、図6に示された第二のアーム44を介して、植付深さフレーム42に取り付けられているから、圃場の凹凸に応じて、フロートセンサ33の検出信号に基づき、苗植付部63に追随して昇降するように構成されている。したがって、圃場の凹凸に伴って、左右の防波板110に設けられた突出部111および広幅部112が、圃場上に貯留された水から浮上したり、あるいは圃場200の泥内に過度に沈むことがなく、すなわち、左右の防波板110の喫水位置(図6(b)の二点鎖線参照)を保持し、波の打ち消し効果を持続させることができる。
【0174】
さらに、本実施態様においては、GNSS受信機130を有する苗移植機1のステアリングハンドル56が、所定の角度を超えて操舵された場合であって、GNSS受信機130および後輪回転センサ29によって、走行車輪9,10の空転を検知した場合には、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を制限するように構成されている。
【0175】
したがって、空転していない前輪8にも充分な回転動力を伝達することができ、コントローラ87による自動走行において、圃場のぬかるみや轍を自動的に脱し、着実に旋回することができる。
【0176】
また、本実施態様によれば、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限された場合には、その地点の位置情報が記憶部93に自動的に記録され、次回以降に自動走行する際には、その地点を回避するように補正した(ずらした)経路上を走行するように構成されているから、同一の場所で、再び走行車輪8,9が空転する事態を効果的に防止することができる。
【0177】
さらに、本実施態様においては、自動走行により、自動走行経路上を旋回する際に、走行車輪8,9が空転し、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限されている間は、所定の範囲内で、苗移植機1が自動走行経路からそれることを許容するように構成されている。
【0178】
したがって、苗移植機1は、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限された状態で、自動走行経路に沿うように急角度で旋回する必要がなく、自動走行経路からそれて大回りすることが可能になり、したがって、左右一対の前輪8や左右一対の前輪アクスル17,18に大きな負荷がかかることを防止し、かつ、自動走行によって、着実に旋回することができる。
【0179】
さらに、本実施態様によれば、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限されているときに、苗移植機1が自動走行経路からそれる範囲を限定することによって、苗移植機1が圃場200の畔に乗り上げることを防止することができる。

また、本実施態様によれば、作業者が、株間レバー180および不等速切換操作具190を操作することによって、株間を変更可能に構成された植付クラッチケース181を有するミッションケース30よりも後方に設けられた可変株間ケース160において、走行車輪8,9の空転率に応じて、株間が変更されるから、圃場200内で、走行車輪8,9の空転が多い場所と、空転が少ない場所のいずれにおいても、株間を一定に保つことができる。
【0180】
さらに、本実施態様によれば、遊星歯車機構161の内歯車164および出力軸155の回転数を、株間調整モータ162によって増減し、株間を変更可能に構成されているから、株間を自動的に変更する機構を小型化することができ、さらに、株間の変更範囲を広くすることができる。また、株間調整モータ162への印加電圧を変化させることによって、実際の苗同士の株間を滑らかに変更することができる。
【0181】
図13は、本発明の他の好ましい実施態様にかかる左側の防波板110の前部の略斜視図である。
【0182】
本実施態様においては、前下部に突出部111および広幅部112を備えた左側の防波板110が、単一の金属板を板金加工することによって、形成されている。
【0183】
具体的には、前方への突出部111を有する平板状の防波板110の前部の一部が、図13に矢印付きの一点鎖線で示されるように、苗移植機1の幅方向外側に曲げ加工されることによって、広幅部112が形成されている。
【0184】
このように、平板状の防波板110の一部を曲げ加工することによって、防波板110の喫水線の近傍部分から発生する波116(図7参照)と略逆位相の波を形成し、波の広がりを抑制する突出部111および広幅部112を備えた防波板110を、より一層安価に製作することができる。
【0185】
また、図13に示されるように、左側の防波板110の左右一方のみ(苗移植機1の幅方向外側のみ)に広幅部112が形成されているから、苗移植機1が圃場上を前進するに伴って、防波板110の機体幅方向内側には、略前方から略後方に向けて僅かに水の波が形成され、したがって、苗移植機1の幅方向外側へ水の波が広がることをより一層抑制することができる。
【0186】
以上、単一の金属板を板金加工して形成された左側の防波板110について説明を加えたが、右側の防波板110についても、左側の防波板110と同一に構成されており、右側の防波板110は、突出部111と、平板状をなす金属板の前部の一部が苗移植機1の幅方向外側(右側)に曲げ加工されて形成された広幅部112を備えている。
【0187】
したがって、苗移植機1が前進するに伴って、右側の防波板110から右方へ波が広がることを抑制し、前進する苗移植機1の右方に植え付けられた苗が倒れることを防止することができる。
【0188】
図14は、図13に示された実施態様にかかる苗移植機1の超音波センサにカバーが取り付けられる前の状態を示す略斜視図であり、図15は、超音波センサにカバーが取り付けられた状態を示す略斜視図である。
【0189】
本実施態様にかかる苗移植機1は、左右一対の超音波センサ120および土壌センサ(図示せず)を備え、苗移植機1が圃場200内を前進しつつ、苗を植え付ける間に、施肥装置26によって、圃場200内の各場所に応じて適切な量の肥料を供給可能に構成されている(可変施肥)。
【0190】
図14および図15には、苗移植機1の左側に設けられた超音波センサ120の近傍が示されている。
【0191】
また、本実施態様においては、超音波センサ120が取り付けられたセンサ取付アーム131を、左右一対の予備苗載台74(図1および図2参照)を支持するフレーム77の左右方向外側の面に固定されたステー122に取付け可能に構成されている。
【0192】
加えて、本実施態様においては、ステー122に対するセンサ取付アーム131および超音波センサ120の前後方向および左右方向の位置をそれぞれ、超音波センサ120が使用されるとき(作業時)と使用されないとき(収納時)とで二段階に切換え可能に構成されている。
【0193】
具体的には、超音波センサ120が使用されるときに、ステー122に対するセンサ取付アーム131および超音波センサ120の前後方向の位置が前方に、左右方向の位置が右側(ステー122から離間する側)に切換えられる(図15に図示された状態)。
【0194】
これに対して、超音波センサ120が使用されないときには、センサ取付アーム131および超音波センサ120の前後方向の位置が後方に、左右方向の位置が左側(ステー122に近接する側)に切換えられる。
【0195】
図14に示されるように、センサ取付アーム131は、略逆U字状の縦断面形状を有しており、その上面には、超音波センサ120を挿入する挿入孔135と、超音波センサ120から延びるケーブル(図示せず)を下方へ通す通し孔137と、ステー122への固定用の2つの前後位置決定貫通孔133および134が形成されている。2つの前後位置決定貫通孔133および134は、前後方向に並んで設けられている。
【0196】
センサ取付アーム131の後部には、後方に延びる棒状部材138が固定されている。
【0197】
一方、ステー122は、フレーム77の右側の面に固定された前後方向に延びる固定部125と、固定部125の前上部から左方へ延びるセンサ取付アーム取付部126と、固定部125の後端部から左方へ延びる左右移動規制部127を備えている。
【0198】
センサ取付アーム取付部126には、左右方向に並ぶ2つの左右位置決定貫通孔128および129が形成されている。
【0199】
左右移動規制部127の下部には、左右方向に並ぶ2つの切り欠き118および119が形成されており、センサ取付アーム131がステー122に取り付けられるときに、棒状部材138が、図14に示されるように、切り欠き118または119の内側を通されることによって、棒状部材138およびセンサ取付アーム131の水平移動が規制されるように構成されている。
【0200】
なお、センサ取付アーム131および超音波センサ120が、フレーム77に左右方向に近接する収納位置に取り付けられる場合には、棒状部材138が、切り欠き119内に通される。
【0201】
これに対して、センサ取付アーム131および超音波センサ120が、フレーム77から左右方向に離間する作業位置に取り付けられる場合には、図14に示されるように、棒状部材138が、切り欠き118内に通される。
【0202】
さらに、本実施態様においては、超音波センサ120に雨水や泥水が当たることを防止するカバー121が、センサ取付アーム131に取付け可能に構成されている。
【0203】
具体的には、センサ取付アーム131の左右の面に、カバー取付用の孔132が形成されており、カバー121の左右の面には孔123が形成されている。
【0204】
したがって、センサ取付アーム131に取り付けられた超音波センサ120に、カバー121を被せた状態で、カバー121の孔123およびカバー取付用の孔132にボルト124を挿入することによって、図15に示されるように、カバー121をセンサ取付アーム131に取り付けることができる。
【0205】
図14および図15に示されるように、カバー121の上部は、前上がりに傾斜する形状をなし、超音波センサ120の近傍に泥や水が溜まることがないので、泥や水によって、超音波センサ120によるセンシングが阻害されるという事態を防止することができる。また、本実施態様においては、ボルト124は、いじり止めのボルトで構成されており、超音波センサ120の盗難防止が図られている。
【0206】
このようにして、カバー121が取付けられたセンサ取付アーム131が、ステー122に取り付けられるときには、まず、作業者によって、棒状部材138が、左右一方の切り欠き118または119内を通された状態で、左右一方の左右位置貫通孔128または129と、センサ取付アーム131上面に設けられた前後一方の前後位置決定貫通孔133または134とが上下に位置合わせされる。
【0207】
次いで、ボルト139が、左右一方の左右位置貫通孔128または129と、前後一方の前後位置決定貫通孔133または134に挿入された状態で、ナット140に螺合され、センサ取付アーム131が、ステー122に取り付けられる。
【0208】
ここに、センサ取付アーム取付部126およびセンサ取付アーム131の上面の下方において、ボルト139がスプリング141に通されており、さらに、棒状部材138が、貫通孔ではなく、切り欠き118または119内を通されているから、上方から、センサ取付アーム131または超音波センサ120に衝撃が加えられた場合には、スプリング141によって、超音波センサ120、センサ取付アーム131および棒状部材138が一時的に下方に移動され、したがって、超音波センサ120やセンサ取付アーム131に加わる衝撃(力)を、上下方向に逃がすことができる。
【0209】
加えて、一方の左右位置貫通孔128または129および前後一方の前後位置決定貫通孔133または134内を、ボルト139が挿通され、さらに、棒状部材138が、左右一方の切り欠き118または119内を通されているから、棒状部材138の水平方向の移動が規制され、超音波センサ120の水平方向の移動も規制される。
【0210】
なお、本実施態様においては、超音波センサ120が使用されるときには、棒状部材138が、左側の切り欠き118内を通された状態で、後ろ側の前後位置決定貫通孔134と左側の左右位置決定貫通孔128とに、ボルト139が挿通される(図14参照)。
【0211】
その結果、超音波センサ120が、不使用時に比して、相対的に、前方かつ左方に設けられる。
【0212】
これに対して、超音波センサ120が使用されないときには、棒状部材138が、右側の切り欠き119内を通された状態で、前側の前後位置決定貫通孔133と右側の左右位置決定貫通孔129とに、ボルト139が挿通される。
【0213】
その結果、超音波センサ120が、使用時に比して、相対的に、後方かつ右方に設けられる。このように、超音波センサ120を、操縦席48(図1および図2参照)の方に寄せて取り付けることができるから、超音波センサ120を用いた作業が行われていないときに、超音波センサ120を保護することができる。
【0214】
さらに、本実施態様においては、以上のようにして、苗移植機1の前部に、前後方向および左右方向の位置を切換え可能に構成された超音波センサ120を用いて、昇降油圧シリンダ12による苗植付部63の昇降動作を、フロートセンサ33の検出信号を用いる場合よりも早いタイミングで実行可能に構成されている。
【0215】
具体的には、苗移植機1は、超音波センサ120および加速度センサ(図示せず)の検出信号に基づき、圃場200の凹凸を算出し、GNSS受信機130によって取得した苗移植機1の位置情報と併せてマッピングしつつ、圃場200内をマニュアル走行または自動走行し、作成された凹凸についてのマップに基づき、圃場上の凹凸を走行車輪8,9が通過するタイミングで、苗植付部63の昇降が行われる。
【0216】
具体的には、左右一対の超音波センサ120はそれぞれ、作業位置に設けられた場合(図15参照)に、左右一対の前輪9の前方に位置するように構成されており、マッピングしつつ、走行する間に、超音波センサ120による検出から、定パルス後(検出された圃場200の場所に前輪8が到達したタイミング)に、加速度センサによる検出信号に基づき、苗移植機1の姿勢を算出する。
【0217】
このとき、苗移植機1が傾いている場合には、コントローラ87は、定パルスから応答時間相当パルス分を引いた値に相当する時間が経過した後に、苗移植機1の姿勢の傾きに応じた出力値を電子油圧バルブ88に出力し、昇降油圧シリンダ12の作動によって、苗植付部63を昇降させる。
【0218】
これに対して、苗移植機1が傾いていない場合には、苗植付部63の上下位置を保持する。
【0219】
図16は、図13に示された実施態様にかかる苗移植機1のデフロックモータ16の近傍の模式的斜視図である。
【0220】
本実施態様においては、デフロックモータ16を駆動させることによって、デフロックアーム19をデフロッククラッチ23に作用させ、左右の前輪アクスル17,18(図の差動回転を許容する状態と、制限する状態との間で切換え可能に構成されている。
【0221】
さらに、図16に示されるように、本実施態様においては、デフロックペダル62が操縦部49に設けられており、さらに、デフロックモータ16の駆動によってデフロッククラッチ23に作用するデフロックアーム19に加えて、デフロックペダル62が操作されることによってデフロッククラッチ23に作用するデフロックアーム66が別途設けられている。
【0222】
したがって、作業者は、任意のタイミングで、デフロックペダル62を操作し、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を制限(デフロックを作動)し、または差動回転を許容する(デフロックを解除)ことができる。
【0223】
また、各デフロックアーム19,66の近傍には、リミットスイッチ(図示せず)が設けられており、作業者によってデフロックペダル62が操作され、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限された場合には、差動回転が許容されるまでの間は、デフロックモータ16が駆動されないように構成されている。
【0224】
さらに、デフロックペダル62が作業者により操作されることによって、またはデフロックモータ16の駆動によって、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限(デフロックの作動)されたときには、コントローラ87は、リミットスイッチからの検出信号に基づき、それを検知し、GNSS受信機130から苗移植機1の位置情報を取得し、記憶部93に格納するように構成されている。
【0225】
したがって、稲の収穫の時期に、コンバインを自動走行させる際には、苗移植機1による苗の植付けの際に格納されたデフロックにかかる位置情報を生かし、轍やぬかるみを回避する自動走行経路を生成することが可能になる。
【0226】
一方、前記実施態様にかかる苗移植機1においては、第一の経路上で、自動走行によって、ステアリングハンドル56が所定の角度を超えて操舵(すなわち旋回時)された後に、走行車輪8,9の空転が検知された場合には、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が自動的に制限されるように構成されていた。
【0227】
これに対し、本実施態様においては、苗移植機1が旋回走行する際に加えて、直進走行する際に、苗移植機1の位置情報および後輪9の車軸82の回転数に基づき、走行車輪8,9の空転が検知された場合においても、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を自動的に制限し、その地点の位置情報を記憶部93に格納するように構成されている。
【0228】
すなわち、本実施態様においては、差動回転が自動的に制限されるに際し、ステアリングハンドル56が所定の角度を超えて操舵されることが要件とされない。
【0229】
また、自動走行によって、苗移植機1が旋回走行し、または直進走行する際のいずれにおいても、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が自動的に制限されている間は、コントローラ87は、所定の範囲内で、苗移植機1が自動走行経路からそれることを許容するように構成されている。
【0230】
このように構成することによって、苗移植機1は、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限された状態で、優先して圃場上の轍やぬかるみから復帰することができる。また、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限された状態で、苗移植機1が小回りする必要がなく、前後の走行車輪8,9や車軸(前輪アクスル17,18ならびに後輪の車軸82)に大きな負荷がかかることを防止することができる。
【0231】
さらに、本実施態様にかかる苗移植機1は、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が自動的に制限され、走行車輪8,9の空転が解消された際に、以下のようにして、自動走行経路に復帰することができる。
【0232】
図17は、図13に示された実施態様にかかる左右の前輪アクスル17,18の差動回転が第一の経路上で許容されてから、苗移植機1が自動走行経路に復帰するまでの制御の手順を示すフローチャートである。
【0233】
また、図18は、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が第一の経路上で許容されてから、苗移植機1が自動走行経路に復帰するまでの走行経路を示す模式的平面図である。
【0234】
第一の経路上において、走行車輪8,9の空転が解消され、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が許容された後には、コントローラ87は、まず、GNSS受信機130から苗移植機1の位置情報を取得する(ステップSS1)。
【0235】
次いで、コントローラ87は、記憶部93から自動走行経路のデータを取得する(ステップSS2)。
【0236】
苗移植機1の位置情報および自動走行経路のデータを取得すると、コントローラ87は、これらの差を算出する(ステップSS3)。
【0237】
こうして、苗移植機1の現在地と自動走行経路との差を算出した後に、コントローラ87は、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が自動的に制限された地点が、苗移植機1が第一の経路上を走行する際に苗の植付けを行う領域内であるか否か(中央領域210内であるか否か)を判定する(ステップSS4)。
【0238】
判定の結果、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が自動的に制限された地点が、第一の経路上を走行する際に苗の植付けを行う領域内である場合(第一の経路内の中央領域210を直進走行時、図8参照)には、図18(a)に示されるように、自動走行経路にかえ、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が自動的に制限された地点から10m先にある地点までの最短経路を自動走行する(ステップSS5)。
【0239】
このように、10mにわたって自動走行経路上を走行しないように構成することによって、走行車輪8,9が空転し、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が制限された地点から、直進走行する方向(図8における南北方向)に延びていることが推定される轍を回避することができ、再び走行車輪8,9が空転することを防止することができる。
【0240】
これに対して、判定の結果、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が自動的に制限された地点が、第一の経路上を走行する際に苗の植付けを行う領域外である場合(第一の経路内の周縁領域212または214を旋回走行時、図8参照)には、図18(b)に示されるように、自動走行経路にかえ、現在地から、自動走行経路上の第一の植付開始位置205または第二の植付開始位置206のいずれか近い方の位置までの最短経路を自動走行する(ステップSS6)。
【0241】
このように、自動走行経路上の第一の植付開始位置または第二の植付開始位置に復帰するように構成することによって、圃場200の中央領域210内で、部分的に苗が植え付けられていない事態を防止することができる。
【0242】
また、植付開始位置に復帰するように構成することによって、自動走行経路上であって、よりデフロック地点に近接する場所に復帰する場合に比して、轍やぬかるみで再び走行車輪8,9が空転する事態を抑制することができる。
【0243】
図19(a)は、本発明のさらに他の好ましい実施態様にかかる左側の防波板110の近傍の略斜視図であり、図19(b)は、図19(a)に示された左側の防波板110の貫通孔45の近傍の模式的水平断面図である。
【0244】
図19(a)に示されるように、本実施態様においては、左側の防波板110は、左側の整地ロータ32のカバー28の左部に取り付けられ、中央整地ロータ31(図4参照)から左方へ広がる水の波(図19(a)に矢印付きの一点鎖線で図示)と、左側の整地ロータ32から左方へ広がる波を堰き止めることができる。
【0245】
また、本実施態様においては、左側の防波板110は、図19(a)に示されるように、その前部が左方(苗移植機1の幅方向外側)へ折り曲げられて形成された屈曲部113を備えている。
【0246】
その結果、苗移植機1が前進するに伴って、矢印付きの二点鎖線で示されるように、屈曲部113によって、左側の防波板110の前方左側から、右側(苗移植機1の幅方向内側)へ、水の流れが形成される。
【0247】
したがって、苗移植機1が走行するに伴って、泥が湧き出したときに、その泥が、苗移植機1の幅方向外側へ広がる事態を防止することができる。
【0248】
さらに、図19(b)に斜線で示されるように、左側の防波板110に設けられた3つのオーバーフロー防止用の貫通孔45の右側前方には、苗移植機1の幅方向内側から外側への水の流れを防止するガイド114が設けられている。
【0249】
各ガイド114は、各貫通孔45の前方の位置から、苗移植機1の幅方向内側(右側)に延びた後に、後方に延びる形状、すなわち、平面視において略L字状をなしており、苗移植機1が前方へ走行する際には、苗移植機1の幅方向内側前方から外側後方への圃場上の水の流れを規制するが、矢印付きの破線で示されるように、苗移植機1の幅方向外側前方から内側後方への圃場上の水の流れを許容するように構成されている。
【0250】
このように構成することによって、苗移植機1が前進するに伴って、苗移植機1の幅方向外側前方から内側後方へ、圃場上に保持された水の流れが形成されるため、左側の防波板110が前方に移動する際に発生する水の波が、苗移植機1の左方へ広がることを抑制することができる。
【0251】
なお、3つのオーバーフロー防止用の貫通孔45は、オーバーフローする圃場上の水または泥が、各貫通孔45から左方へ通ることができるよう、充分な大きさに構成されている。
【0252】
以上、本実施態様にかかる左側の防波板110について詳細に説明を加えたが、右側の防波板110も同様に構成されており、苗移植機1の幅方向外側に折り曲げられて形成された屈曲部113と、各貫通孔45の近傍に形成された略L字状のガイド114によって、苗移植機1の幅方向外側から内側への水の流れを形成することができる。
【0253】
図20は、図19に示された実施態様にかかる苗移植機1の超音波センサが取り付けられるセンサ取付アーム131の近傍の略斜視図である。
【0254】
図20には、苗移植機1の左側に設けられたセンサ取付アーム131の近傍が示されている。
【0255】
図20に示されるように、本実施態様においては、予備苗載台74(図1参照)を支持するフレーム77に固定されたステー122とセンサ取付アーム131との間に、スプリング141が設けられており、ステー122に対し、センサ取付アーム131の前部および超音波センサ120が、左右方向に僅かに揺動可能に構成されている。
【0256】
したがって、センサ取付アーム131または超音波センサ120に、苗移植機1の幅方向外側(左側)から衝撃が加えられた場合には、力を左右方向に逃がす(分散させる)ことができる。
【0257】
さらに、本実施態様においては、図20に示されるように、ステー122の後部とセンサ取付アーム131の後部とにそれぞれ設けられた貫通孔143および144に、ピン142が挿通される。
【0258】
したがって、センサ取付アーム131および超音波センサ120の前後方向の位置を保持することができる。
【0259】
図21は、図19に示された実施態様にかかる苗移植機1の左側のサイドフロート39を示す図面であり、図21(a)は、左側のサイドフロート39の略斜視図であり、図21(b)は、左側のサイドフロート39の略正面図であり、図21(c)は、左側のサイドフロート39の略左側面図である。
【0260】
図21(a)および図21(c)に示されるように、本実施態様にかかる左側のサイドフロート39の前下部かつ左側(苗移植機1の幅方向外側)の端部に、丸みを帯びた突出部52が設けられている。
【0261】
突出部52は、前方および左側(苗移植機1の幅方向外側)に向けて突出し、サイドフロート39の喫水線よりも下方に位置するように構成されている。
【0262】
ここに、本実施態様においても、図1ないし図12に示された実施態様と同様に、センターフロート38(図4参照)に設けられたフロートセンサ33の検出信号に基づき、苗植付部63の高さ位置が、圃場の凹凸に合わせて自動的に調整される。その結果、左側のサイドフロート39の喫水位置が保持され、突出部52は、水の水面よりも下方に位置し続ける。
【0263】
したがって、苗移植機1が前進するに伴って、左側のサイドフロート39が前方に移動する際に、左側のサイドフロート39における喫水線の近傍の部分で発生する波が、突出部52で発生する波によって打ち消されるため、左側のサイドフロート39の左側(苗移植機1の幅方向外側)に波が広がることを抑制することができる。
【0264】
さらに、このように、左側のサイドフロート39の左方への波の広がりを抑制することができるから、左側の整地ロータ32のロータカバー28に取り付けられた防波板110の後部を、図19に示されるように、短く構成し、左側のサイドフロート39の前後位置まで後方に延ばす必要がなく、防波板110の製造コストを低く抑えることができる。
【0265】
また、本実施態様においては、図21(b)に示されるように、突出部52が、左側のサイドフロート39の左部のみに設けられており、右部には設けられていない。
【0266】
したがって、左側のサイドフロート39の右方(苗移植機1の幅方向内側)に、前方から略後方へ向かう波が形成されるから、苗移植機1の幅方向内側に配置された中央整地ロータ31などから発生した波が、幅方向外側に広がることをより一層抑制することができる。
【0267】
以上、左側のサイドフロート39について詳細に説明を加えたが、右側のサイドフロート39も同様に構成されており、右側のサイドフロート39の前下部かつ右部(苗移植機1の幅方向外側)には、前方および右側に突出する突出部52が設けられているから、右側のサイドフロート39の右方に、圃場上に保持された水の波が広がることを抑制することができる。
【0268】
図22(a)は、従来の苗移植機1の後輪を示す略斜視図であり、図22(b)は、図19に示された実施態様にかかる苗移植機1の後輪を示す略斜視図である。
【0269】
図22(a)に示されるように、従来の後輪は、その回転中心に位置するハブと、外周部に位置するリムと、ハブとリムとを連結する複数のスポークを備え、リムが、鉄製の輪状の部材の表面に、グリップ力を持たせるため、ゴムが巻き付けられることによって形成されていたため、後輪全体の重量が過度に重くなる傾向にあった。
【0270】
また、特に、粘り気の強い土壌が堆積した圃場においては、ハブと複数のスポークとリムとの間に形成される空間に泥が詰まり、苗移植機が走行できなくなった結果、圃場内に沈没し、苗の植付け作業が中断してしまうことがあった。
【0271】
これに対して、本実施態様にかかる苗移植機1には、後輪として、バルーンタイヤ83が取り付けられているため、圃場上を走行する際に、従来の後輪のように泥を抱え込むことがない。
【0272】
さらに、バルーンタイヤ83は、樹脂によって形成されており、したがって、後輪を軽量に形成することができ、浮力を持たせることができる。
【0273】
なお、本実施態様においては、バルーンタイヤ83はハブインサートによって強度の向上が図られている。
【0274】
本発明は、以上の実施態様に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0275】
例えば、図1ないし図22に示された各実施態様においては、農業用の作業車両の一例として、苗移植機が挙げられているが、本発明にかかる農業用の作業車両は、コンバインやトラクタなどであってもよい。
【0276】
例えば、図1ないし図12に示された実施態様においては、左右一対の防波板110の前下部を前方に突出させて突出部111を形成し、さらに、突出部111の一方の側面に、円柱状部材に面取り加工を施した広幅部112を取付けているが、広幅部112を、突出部111と別体に構成することは必ずしも必要でなく、船のバルバスバウ(球状船首)のように、左右一対の防波板110の前下部に、前方および機体幅方向外側(苗移植機1の幅方向外側)に膨らむ丸みを形成することによって、突出部111および広幅部112を防波板110に設けてよい。すなわち、突出部111および広幅部112は、一体的に形成されていてもよく、この場合には、防波板の前下部に設けられた、前方に突出する部分において、防波板の他の部分よりも幅方向外側に広がる部分が広幅部である。
【0277】
また、図1ないし図12に示された実施態様においては、前輪8の回転数を検出する前輪回転センサ21は、前輪アクスル17,18の回転数を検出可能に構成されているが、前輪8の回転数が検出可能であれば、前輪アクスル17,18の回転数を検出することは必ずしも必要でない。
【0278】
さらに、図1ないし図12に示された実施態様においては、走行車輪8,9の空転が検知された場合に、前輪アクスル17,18(および前輪8)の差動回転を制限するように構成されているが、左右の後輪車軸82の差動回転を制限するように構成してもよく、前輪アクスル17,18と、後輪車軸82の両方の差動回転をそれぞれ制限するように構成してもよい。
【0279】
また、図1ないし図12に示された実施態様においては、デフロックモータ16の駆動によって、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を制限するように構成されているが、このデフロックモータ16の内部に保持機構を設け、あるいはデフロックモータ16の外部にラチェット機構を設けてもよい。
【0280】
また、図1ないし図12に示された実施態様においては、突出部111および広幅部112を備えた防波板110を、平行リンク46を介して、植付深さフレーム42および植付部フレームに取付けているが、喫水線の位置を保てるように、防波板110を、サイドフロート39の機体幅方向外側の面に直接取り付けてもよい。
【0281】
さらに、図1ないし図12に示された実施態様においては、図7に示されるように、防波板110の喫水線の近傍部分から発生する波116と、突出部111および広幅部112から発生する波とが互いに略逆位相となるように、突出部111および広幅部112が構成されているが、図7に示されるほど明確な逆位相であることは必ずしも必要でなく、波116を小さくすることができる程度に、波同士の位相が互いにずれていれば、苗移植機1の左右に波が広がることを抑制することができる。
【0282】
また、図1ないし図12に示された実施態様においては、作業者によって、自動走行入切スイッチ79がオンされることによって、自動走行を開始可能に構成されているが、作業者が苗移植機1に搭乗していることは必ずしも必要はなく、タブレット端末などを、苗移植機1と通信可能に別途設け、圃場200の畔などに待機する作業者によって、タブレット上などで、苗移植機1の自動走行の開始操作を行うことができるように構成してもよい。
【0283】
さらに、図1ないし図12に示された実施態様においては、略矩形の圃場の3辺に沿って、周縁領域211ないし213を順にマニュアル走行することによって、自動走行経路を算出するように構成されているが、自動走行経路を、苗移植機1のマニュアル走行によって算出することは必ずしも必要でなく、自動走行経路のデータをサーバーからダウンロード可能に構成してもよく、タブレット端末等を別途設け、端末に表示された地図上で、作業者によって、圃場の範囲が指定された後に、コントローラ87が、指定された範囲内で自動走行経路を算出するように構成してもよい。
【0284】
さらに、図1ないし図12に示された実施態様においては、図9に示されるように、自動走行する際に、旋回時と判定した場合で、走行車輪9,10が空転している(スリップしている)場合には、自動的に、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を制限するように構成されているが、作業者によるマニュアル走行時に、旋回時であると判定した場合であって、走行車輪8,9の空転を検知した場合にも、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を自動的に制限するように構成してもよい。
【0285】
また、図1ないし図12に示された実施態様においては、後輪回転センサ29の検出信号から推定される機体の移動距離が、GNSS受信機130によって取得した位置情報から算出される実際の機体の移動距離に一致するか否かによって、走行車輪9,10の空転を判定するように構成されているが、推定される機体の移動距離が、実際の機体の移動距離に完全に一致する場合のみに、走行車輪8,9が空転していないと判定するように構成することは必ずしも必要でなく、推定される機体の移動距離が、実際の機体の移動距離に比して著しく長い場合のみに、走行車輪8,9が空転していると判定し、そうでない場合には、走行車輪8,9が空転していないと判定するように構成してもよい。換言すれば、走行車輪8,9が空転していないと判定する範囲に、幅を持たせてもよい。さらに、推定される機体の移動距離を算出するにあたって、ステアリングハンドル56の操舵量に応じて、推定される移動距離を補正するように構成すれば、空転検知の精度を高めることができる。また、走行車輪8,9の空転の解消は、前輪アクスル17,18に設けられた前輪回転センサ21の検出信号(パルス)に基づき検知するように構成してもよい。この場合には、たとえば、デフロック(前輪アクスル17,18の差動回転の制限)の作動後に、前輪8が1/2回転したらデフロックをオフするように構成してもよい。
【0286】
さらに、図1ないし図12に示された実施態様においては、ステアリングハンドル56の操舵角が、所定の角度を超えているか否かによって、苗移植機1の旋回を判断するように構成されているが、ステアリングハンドル56の操舵角が、所定の角度以上であるか否かによって、苗移植機1の旋回を判断するように構成してもよい。
【0287】
また、図1ないし図12に示された実施態様においては、GNSS受信機130によって取得される位置情報と、後輪回転センサ29の検出信号に基づき、走行車輪8,9の空転を検知するように構成されているが、空転検知手段として、GNSS受信機130および後輪回転センサ29を用いることは必ずしも必要でなく、例えば、走行車輪8,9または車軸のトルクを検出するトルクセンサを別途設け、旋回時に、外側に位置する走行車輪8,9または車軸のトルクが、所定の値に満たない場合には、走行車輪8,9が空転していると判定するように構成してもよい。この場合には、さらに、走行車輪8,9または車軸のトルクが戻った時点で、デフロックモータ16の駆動を停止するように構成してもよい。
【0288】
さらに、図1ないし図12に示された実施態様においては、前輪回転センサ21から出力される左右の前輪アクスル17,18の回転数の値が揃った時点で、デフロックモータ16の駆動を停止させるように構成されているが、デフロックモータ16を停止させるタイミングはこれに限定されるものではなく、デフロックモータ16が、定角度あるいは定パルス分、作動した時点で停止させるように構成してもよく、トルクセンサによって、特に旋回内側の走行車輪9,10のトルクが戻った時点でデフロックモータ16を停止させるように構成してもよい。
【0289】
また、図1ないし図12に示された実施態様においては、苗移植機1が旋回される際に、走行車輪8,9が空転している場合には、自動的に、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を制限(デフロック)するように構成されているが、さらに、運転席の近傍などに、コントローラ87によるデフロックを許可するか否かを切り換えるオート入切スイッチを設けてもよく、さらに、任意のときに操作されることによって、強制的に前輪アクスル17,18の差動回転を制限するデフ差動スイッチを設けてもよい。
【0290】
また、図1ないし図12に示された実施態様においては、後輪回転センサ29の回転数に応じた距離を苗移植機1が移動したことを位置情報により確認できた時点で、デフロックを解除するように構成されているが、デフロックを解除するタイミングは、これに限定されるものではなく、位置情報に基づき、苗移植機1が移動していることを確認できた時点で、デフロックを解除するように構成してもよい。
【0291】
さらに、図1ないし図12に示された実施態様においては、走行車輪8,9のスリップ率を、GNSS受信機130によって取得した位置情報から算出される実際の苗移植機1の移動距離と、後輪回転センサ29によって検出される旋回外側の後輪9の車軸82(図1参照)の回転数から推定される苗移植機1の移動距離から算出するように構成されているが、走行車輪8,9のスリップ率の算出方法はこれに限られず、たとえば、トルクセンサを用いてスリップ率を測定し、トルクダウン量(駆動軸回転パルスとの比)によって株間調整量を決定するように構成してもよい。
【0292】
また、図1ないし図12に示された実施態様においては、走行車輪8,9の空転率に応じて、可変速モータによって構成された株間調整モータ162を駆動し、または停止させるように構成されているが、株間調整モータ162を可変速モータによって構成することは必ずしも必要でない。
【0293】
さらに、図1ないし図12に示された実施態様においては、作業者によって、図11に示された株間レバー180および不等速切換操作具190が操作されることによって、株間センサ97の検出信号に基づき、植付クラッチケース181内で段階的に株間が調整された後に、その下流側の可変株間ケース160内で自動的に株間を調整するように構成されているが、株間レバー180および不等速切換操作具190をそれぞれ駆動させるアクチュエータを別途設け、上流側(植付クラッチケース181内)と下流側(可変株間ケース160内)の2段階で、走行車輪8,9の空転率に基づき、株間を、当初株間レバー180および不等速切換操作具190で設定された長さ(あるいはモニタ61上で設定された長さ)に自動的に調整するように構成してもよい。この場合には、例えば、植付クラッチケース181内で、株間を20%ずつ段階的に変化させ、可変株間ケース160内で、プラスマイナス10%の範囲で株間を連続変化可能とし、自動的に算出された走行車輪8,9の空転率が、所定の値(例えば10%)以上である場合には、植付クラッチケース181内で調整した後に、可変株間ケース160内で微調整し、空転率が、所定の値未満である場合には、可変株間ケース160内のみで調整するように構成してもよい。このように構成することによって、苗移植機1の植付け走行中に、苗の株間を、設定された値のとおりに、正確に、無段切換えすることができる。
【0294】
さらに、ステアリングセンサ58の検出信号に基づき、苗移植機1の旋回が検知される度に、旋回前の直進走行時の走行車輪8,9の平均空転率に基づき、植付クラッチケース181内において、自動的に株間を設定値に近づけるように構成してもよく、株間は、モニタ61上などで設定可能に構成してもよい。このように構成することによって、設定された株間で、正確に苗を植付けることができる。
【0295】
また、図1ないし図22に示された各実施態様においては、防波板110の突出部111またはサイドフロート39の突出部52は、いずれも、苗植付部63の昇降に追随し、圃場200上に貯留された水(田面水)の水面下に位置するように構成されているが、突出部111および突出部52を、常に水面下に位置するように構成することは必ずしも必要でなく、喫水位置が所定の高さ位置よりも高い場合(田面水の量が多く、波が広がりやすい場合)のみに、突出部111または突出部52が、水面下に位置し、波を抑制可能に構成してもよい。このように構成することによって、圃場200上に貯留された水の水位が圃場面にひたひたの状態で、植付走行を行う場合に、防波板110またはサイドフロート39の下部が、圃場表面よりも下方に沈むことを防止し、防波板110またはサイドフロート39が移動された跡が圃場に残る事態を防ぐことができる。
【0296】
さらに、図13ないし図18に示された実施態様においては、デフロック解除後の自動走行経路への復帰経路の決定について、図17に示されるように、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が自動的に制限された地点が、苗の植付けを行う領域内であるか否かの判定結果に左右されるように構成されているが(ステップSS4)、左右の前輪アクスル17,18の差動回転が自動的に制限された後に、差動回転が自動的に許容された地点(デフロック解除地点)が、苗の植付けを行う領域内であるか否かによって、デフロック解除後の自動走行経路への復帰経路を決定するように構成してもよい。
【0297】
さらに、図13ないし図18に示された実施態様においては、図17に示されるように、左右の前輪アクスル17,18のデフロックの作動地点が、第一の経路の植付領域内(中央領域210内)であるか否かによって、復帰経路を決定するように構成されているが、左右の前輪アクスル17,18のデフロックが解消された時点で、自動走行経路上に最短の経路で復帰するように構成してもよい。このように構成することによっても、同様に、農作業(苗の植付け作業等)への影響を最小限に抑えることができる。
【0298】
また、図13ないし図18に示された実施態様においては、図16に示されるように、2つのデフロックアーム19および66が、デフクラッチ23の図面手前側に配置されているが、一方のデフロックアームを、他方のデフロックアームの図面奥側に配置し、互いに同軸上に位置するように構成してもよい。
【0299】
さらに、図13ないし図18に示された実施態様においては、後輪回転センサ29およびGNSS受信機130に基づき、走行車輪8,9の空転を検知し、左右の前輪アクスル17,18の差動回転を制限するように構成されているが、苗移植機1に、圃場の深度センサやカメラを設け、圃場上に保持された水の量や、前方のぬかるみを検知し、苗移植機1の走行が困難になることが予測される場合には、予め左右の前輪アクスル17,18の差動回転を制限するように構成してもよい。
【0300】
また、図13ないし図18に示された実施態様においては、図14および図15に示された超音波センサ120および加速度センサの検出信号に基づき、圃場200の凹凸についてのマッピングを行い、作成されたマップに基づき、苗植付部63を昇降するように構成されているが、圃場200の凹凸についてのマッピングを行うことは必ずしも必要でなく、後輪回転センサ29の検出信号に基づき、走行車輪8,9が圃場200の凹凸に差し掛かった時点で、苗植付部63を昇降させるように構成してもよい。
【0301】
さらに、図13ないし図18に示された実施態様においては、超音波センサ120の放射状の検知領域に配慮し、センサ取付アーム131およびステー122を用いて、超音波センサ120を機体から離間させるように構成されているが、超音波センサ120に代えて、指向性が高いレーザ距離計を用いる場合には、センサを機体に近接して配置することができる。
【0302】
また、図19ないし図22に示された実施態様においては、図19に示されるように、左右一対の防波板110の前部にそれぞれ、屈曲部113が形成されているが、屈曲部113を形成することは必ずしも必要でなく、図1ないし図12に示された実施態様において、図6に示されるように、突出部111および広幅部112を防波板110の前下部に設けてもよい。この場合には、広幅部112を機体幅方向外側の面のみに設けることによって、機体幅方向内側において、田面水の流れを形成し、苗移植機1の左右に田面水の波が広がることを抑制することができる。
【0303】
さらに、図19ないし図22に示された実施態様においては、図19に示されるように、左右整地ロータ32の側方を覆うように、防波板110が設けられているが、左右整地ロータ32の後方に設けられたサイドフロート39によって発生する波も同時に遮ることができるように、防波板110を後方にさらに長く構成してもよい。
【0304】
また、図19ないし図22に示された実施態様においては、図21に示されるように、左右のサイドフロート39前部の機体幅方向外側の前部、すなわち、左側のサイドフロート39左側の前部と、右のサイドフロート39右側の前部にそれぞれ、膨らみ(突出部52)が形成されているが、さらに、センターフロート38前部の左右両端部にそれぞれ、ふくらみを形成し、苗移植機1が前進するに伴って、機体の左右に波が広がることを抑制するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0305】
1 苗移植機
2 走行車体
3 メインフレーム
4 ベルト式動力伝達機構
5 昇降リンク装置
6 後部フレーム
7 エンジン
8 前輪
9 後輪
10 リンクベースフレーム
11 上下リンクアーム
12 昇降油圧シリンダ
13 前輪ファイナルケース
14 後輪伝動軸
15 ディファレンシャル機構
16 デフロックモータ
17 前輪アクスル
18 前輪アクスル
19 デフロックアーム
20 副変速機構
21 前輪回転センサ
22 入切ピン
23 デフクラッチ
24 副変速レバー
25 油圧式無段変速機
26 施肥装置
27 施肥ホッパ
28 ロータカバー
29 後輪回転センサ
30 ミッションケース
31 中央整地ロータ
32 左右の整地ロータ
33 フロートセンサ
34 繰出装置
35 前後進レバー
36 前後進レバーセンサ
37 駆動軸
38 センターフロート
39 サイドフロート
40 施肥ホース
41 ロータ刃
42 植付深さフレーム
43 第一のアーム
44 第二のアーム
45 貫通孔
46 平行リンク
47 フロントカバー
48 操縦席
49 操縦部
50 プッシュスイッチ
51 後輪ギアケース
52 突出部
53 水抜き用切り欠き
54 操作部
55 主変速レバー
56 ステアリングハンドル
57 ステアリングモータ
58 ステアリングセンサ
59 リミットスイッチ
60 フロアステップ
61 モニタ
62 デフロックペダル
63 苗植付部
64 植付装置
65 台
66 ペダル用デフロックアーム
67 駆動軸
68 伝動ケース
69 植付具
70 植付ケース
71 苗取出口
72 苗タンク
73 出力軸
74 予備苗載台
75 フロートアーム
76 フロート軸
77 フレーム
79 自動走行入切スイッチ
80 方位センサ
82 後輪車軸
83 バルーンタイヤ
85 上部リンクアーム
86 下部リンクアーム
87 コントローラ
88 電子油圧バルブ
89 処理部
90 リンクセンサ
91 RAM
92 ROM
93 記憶部
95 植付伝動軸
97 株間センサ
106 株数センサ
110 防波板
111 突出部
112 広幅部
113 屈曲部
114 ガイド
115 円柱状の部材
116 喫水線の近傍から生じる波
117 突出部から生じる波
118 切り欠き
119 切り欠き
120 超音波センサ
121 カバー
122 ステー
123 カバーの孔
124 ボルト
125 固定部
126 センサ取付アーム取付部
127 左右移動規制部
128 左右位置決定貫通孔
129 左右位置決定貫通孔
130 GNSS受信機
131 センサ取付アーム
132 カバー取付用の孔
133 前後位置決定貫通孔
134 前後位置決定貫通孔
135 挿入孔
136 ケーブル
137 通し孔
138 棒状部材
139 ボルト
140 ナット
141 スプリング
142 ピン
143 貫通孔
144 貫通孔
150 HSTサーボモータ
155 出力軸
156 モータケース
157 歯
158 歯
159 株間調整モータのギア
160 可変株間ケース
161 遊星歯車機構
162 株間調整モータ
163 太陽歯車
164 内歯車
165 遊星歯車
166 入力軸
167 軸
168 遊星キャリア
169 クラッチ爪
170 クラッチ爪
171 植付クラッチ
172 ギア
173 ギア
174 ギア
175 ギア
176 クラッチ爪
177 ギア
178 クラッチ爪
179 ギア
180 株間レバー
181 植付クラッチケース
182 株間変速シフタ
183 空隙
184 第一の溝
185 第二の溝
186 第三の溝
187 第四の溝
188 スプリング
189 球
190 不等速切換操作具
191 不等速切換シフタ
192 ギア
193 入力軸
194 ギア
195 ギア位置規制板
196 出力軸
197 ギア
198 ギア
199 不等速切換クラッチ
200 圃場
201 圃場の一辺
202 圃場の一辺
203 圃場の一辺
204 圃場の一辺
205 第一の植付開始位置
206 第二の植付開始位置
207 1列目の植付開始位置
210 中央領域
211 周縁領域
212 周縁領域
213 周縁領域
214 周縁領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22