(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】電気化学素子用セパレータ及び電気化学素子
(51)【国際特許分類】
H01M 50/451 20210101AFI20230123BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20230123BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20230123BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20230123BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20230123BHJP
H01M 8/0243 20160101ALI20230123BHJP
H01M 8/0239 20160101ALI20230123BHJP
H01G 9/02 20060101ALI20230123BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20230123BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20230123BHJP
H01M 8/083 20160101ALN20230123BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/446
H01M50/417
H01M50/414
H01M50/42
H01M8/0243
H01M8/0239
H01G9/02
H01G11/52
C25B13/04 301
H01M8/083
(21)【出願番号】P 2018040779
(22)【出願日】2018-03-07
【審査請求日】2020-12-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】徳島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】芥川 寛信
(72)【発明者】
【氏名】三佐和 裕二
(72)【発明者】
【氏名】高崎 進治
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082191(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083988(WO,A1)
【文献】特開2017-084663(JP,A)
【文献】国際公開第2008/029922(WO,A1)
【文献】特開2018-147738(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 8/0243
H01M 8/0239
H01G 9/02
H01G 11/52
C25B 13/04
H01M 8/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系電解液を含んで構成される電気化学素子に用いられるセパレータであって、
該セパレータは、ポリマー及び無機化合物を含む樹脂層、並びに、多孔質基材を有し、
該樹脂層は、多孔質基材にポリマー及び無機化合物を含む樹脂組成物が含浸した樹脂含浸層であり、
該ポリマーは、共役ジエン系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、及び、ポリスルホン系ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種
を含み、該ポリマーの質量割合は、該セパレータ100質量%中、
7.9質量%以下であり、
該セパレータの断面において、樹脂層の両表面それぞれについて、表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする厚さ方向3μm×平面方向3μmの領域内の1μm×1μmの範囲のポリマーの平均面積割合を下記方法で測定し、測定した各表面でのポリマーの平均面積割合が同一であるか、又は、測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合が50%以下であることを特徴とする電気化学素子用セパレータ。
ポリマーの平均面積割合の測定方法:
(1)セパレータの表面に対し、垂直に切断して得られた断面において、樹脂層の各表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする任意の3カ所の3万倍拡大写真を走査型電子顕微鏡を用いて撮影する。
(2)各撮影画像上、樹脂層の表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする任意の厚さ方向3μm×平面方向3μmの領域を、画像作成用ソフトであるScion Imageに取り込み、該樹脂層部分を白黒濃淡表示に変換する。
(3)各変換画像において、変換画像内に多孔質基材部分が無い場合は、変換画像の中心を中心とする1μm×1μmの範囲を占めるポリマー部分の合計面積を求め、該範囲の面積に対するポリマーの面積割合を算出する。変換画像内に多孔質基材部分が有る場合は、変換画像内で多孔質基材部分の面積割合が最小となる1μm×1μmの範囲を占めるポリマー部分の合計面積を求め、該範囲から多孔質基材部分を除いた部分の面積に対するポリマーの面積割合を算出する。
(4)ポリマーの面積割合の平均を表面ごとに算出し、それぞれポリマーの平均面積割合とする。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学素子用セパレータ及び水系電解液を含んで構成されることを特徴とする電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用セパレータに関する。より詳しくは、電池、コンデンサ、キャパシタ、センサ、燃料電池、電気分解装置等の電気化学素子に用いられるセパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型携帯機器から自動車等大型用途まで多くの産業において、電池の重要性が急速に高まっており、主にその容量、エネルギー密度や二次電池化の面において優位性を持つ新たな電池系が種々開発されている。また、電池以外の電気化学素子についても、各々の面において優位性を持つものが種々開発されている。
【0003】
例えば電池に用いられるセパレータについても様々な開発・改良がなされており、例えば、多孔性シートを用いたセパレータが開示されている(例えば、特許文献1~5参照)。また、セパレータの多孔性基材が熱収縮によるカソードとアノード間の短絡を防止し、過充電による電気化学素子の爆発及び発火を予防することができる、異種のセパレータを備えた電気化学素子が開示されている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-208122号公報
【文献】特開2012-124029号公報
【文献】特開2013-206846号公報
【文献】特開2014-3038号公報
【文献】国際公開第2016/093146号
【文献】特開2014-239041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、不織布等の多孔性シートを芯材として有するセパレータが開示され、このようなセパレータは強度に優れるものであるが、セパレータの更なる高性能化へのニーズは高く、セパレータの抵抗を充分に低いものとして電気化学素子の性能を優れたものとすることが望まれるところであった。また、セパレータの抵抗を充分に低いものとし、イオンの透過性を充分に高いものとしながらも、製造時(製膜時)におけるセパレータの破損は充分に抑制することが望まれるところであった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、電気化学素子用セパレータの抵抗を充分に低いものとしながら、製造時の破損を充分に抑えることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、電気化学素子用セパレータの抵抗を充分に低いものとしながら、製造時の破損を充分に抑えることができる方法について種々検討し、ポリマー及び無機化合物を含む樹脂層を有するセパレータに着目し、セパレータの断面において、セパレータの両表面それぞれで、表面近傍の所定の範囲のポリマーの平均面積割合を測定した場合に、測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合が50%以下であるセパレータを作製した。本発明者らは、このセパレータが、電気化学素子に求められる低抵抗を充分に発揮できるとともに、製造時の破損が充分に抑えられたものとなることを見出した。電気化学素子に求められる低抵抗を充分に発揮できる理由は、セパレータ中にポリマー成分の多い部分があるとその部分に起因して抵抗の増加が起こるところ、厚み方向における組成分布の変化が小さいセパレータとすることで抵抗の増加を抑えることができるためであると考えられる。また、製造時の破損が充分に抑えられる理由は、上記ポリマーの平均面積割合の差異が大きいと、セパレータの製造過程において、無機化合物粒子が多い側の面から当該粒子が脱落したり、樹脂層が部分的にちぎれてしまったりしていたところ、差異が小さいことでこれらが抑制されるためであると考えられる。本発明者らは、このようにして上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、電気化学素子に用いられるセパレータであって、該セパレータは、ポリマー及び無機化合物を含む樹脂層、並びに、所望により多孔質基材を有し、該セパレータの断面において、樹脂層の両表面それぞれについて、表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする厚さ方向3μm×平面方向3μmの領域内の1μm×1μmの範囲のポリマーの平均面積割合を下記方法で測定し、測定した各表面でのポリマーの平均面積割合が同一であるか、又は、測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合が50%以下であることを特徴とする電気化学素子用セパレータである。
ポリマーの平均面積割合の測定方法:
(1)セパレータの表面に対し、垂直に切断して得られた断面において、樹脂層の各表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする任意の3カ所の3万倍拡大写真を走査型電子顕微鏡を用いて撮影する。
(2)各撮影画像上、樹脂層の表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする任意の厚さ方向3μm×平面方向3μmの領域を、画像作成用ソフトであるScion Imageに取り込み、該樹脂層部分を白黒濃淡表示に変換する。
(3)各変換画像において、変換画像内に多孔質基材部分が無い場合は、変換画像の中心を中心とする1μm×1μmの範囲を占めるポリマー部分の合計面積を求め、該範囲の面積に対するポリマーの面積割合を算出する。変換画像内に多孔質基材部分が有る場合は、変換画像内で多孔質基材部分の面積割合が最小となる1μm×1μmの範囲を占めるポリマー部分の合計面積を求め、該範囲から多孔質基材部分を除いた部分の面積に対するポリマーの面積割合を算出する。
(4)ポリマーの面積割合の平均を表面ごとに算出し、それぞれポリマーの平均面積割合とする。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気化学素子用セパレータは、上述の構成よりなり、抵抗が充分に低いとともに、製造時の破損が充分に抑えられたものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<電気化学素子用セパレータ>
本発明の電気化学素子用セパレータは、ポリマー及び無機化合物を含む樹脂層を有し、該セパレータの断面において、樹脂層の両表面それぞれについて、表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする厚さ方向3μm×平面方向3μmの領域内の1μm×1μmの範囲のポリマーの平均面積割合を上記方法で測定し、測定した各表面でのポリマーの平均面積割合が同一であるか、又は、測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合(本明細書中、ポリマー成分変化率とも言う。)が50%以下である。これにより、セパレータの抵抗を充分に低いものとしながら、製造時の破損を充分に抑えることができる。
【0011】
上記(1)について、本発明の電気化学素子用セパレータは、セパレータの表面に対し、垂直に切断して得られる少なくとも1つの断面において、上記のように測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合が50%以下であればよいが、セパレータの表面に対し、垂直に切断して得られるいずれの断面においても、上記のように測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合が50%以下であることが好ましい。なお、層厚(樹脂層の層厚)は、実施例に記載の方法により測定されるものである。
【0012】
上記(2)について、平面方向は、撮影画像上の、厚さ方向に対して垂直な方向である。「厚さ方向3μm×平面方向3μmの領域」における3μmは、撮影画像上の長さではなく実際の長さを言う。
上記(3)について、「1μm×1μmの範囲」における1μmは、変換画像上の長さではなく実際の長さを言う。変換画像内に多孔質基材部分が有る場合は、変換画像内で多孔質基材部分の面積割合が最小(例えば、0%)となる1μm×1μmの範囲でのポリマーの面積割合を求めればよいが、その中心が変換画像の中心に最も近い1μm×1μmの範囲のポリマーの面積割合を求めることが好ましい。言い換えれば、変換画像内に多孔質基材部分が有る場合、1μm×1μmの範囲は、多孔質基材部分の面積が最小となる1μm×1μmの範囲とし、該面積が最小となる1μm×1μmの範囲が複数あるときは、その中心が変換画像の中心に最も近い1μm×1μmの範囲を選択することが好ましい。
【0013】
上記(4)について、「ポリマーの面積割合の平均を表面ごとに算出し、それぞれポリマーの平均面積割合とする」とは、撮影画像がセパレータの両表面それぞれについて3枚ずつあり、各撮影画像の一部に対応する変換画像もセパレータの両表面それぞれについて3枚ずつあるところ、セパレータの両表面それぞれについてこれら3枚の変換画像における1μm×1μmの範囲のポリマーの面積割合の平均を算出することを言う。
【0014】
本発明の電気化学素子用セパレータにおいて、上記のように測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合は、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましい。
これにより、本発明の効果をより顕著に発揮できる。また、各表面における特性の差を抑制することができる。例えば、ポリマーの平均面積割合が相対的に小さ過ぎる表面をなくすことで、無機化合物粒子の脱落をより充分に防止できる。また、ポリマーの平均面積割合が相対的に大き過ぎる表面をなくすことで、親水性により優れるものとすることができ、その結果、電池に搭載した場合の劣化を充分に抑制できるとともに、電解質溶液によるぬれが充分なためにイオン透過性がより優れたものとなる等、セパレータの性能、耐久性をより優れたものとすることができる。
上記のように測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合の下限値は特に限定されず、0%であってもよい。
【0015】
本発明の電気化学素子用セパレータにおいて、上記のように測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合は、本発明のセパレータを構成する樹脂組成物中のポリマーの量を少なくすること、原料として用いるポリマー粒子の分子量や平均粒子径を大きくすることや無機化合物粒子の平均粒子径を小さくすること、樹脂組成物の粘度を高くすること、製膜時の温度を低くすること、多孔質基材を用いる場合における多孔質基材の高密度化や薄膜化等により、低いものに調整することができる。
【0016】
各変換画像において、1μm×1μmの範囲を占める無機化合物部分や、ポリマー部分、無機化合物以外の部分を空隙部分として空隙部分の合計面積を求めることにより、1μm×1μmの範囲の無機化合物の平均面積割合や、空隙の平均面積割合を同様に測定することができる。
【0017】
例えば、本発明の電気化学素子用セパレータの断面において、樹脂層の両表面それぞれについて、表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする厚さ方向3μm×平面方向3μmの領域内の1μm×1μmの範囲の無機化合物の平均面積割合を同様の方法で測定し、測定した各表面での無機化合物の平均面積割合が同一であるか、又は、測定した各表面での無機化合物の平均面積割合の小さい方に対して、無機化合物の平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合(本明細書中、無機成分変化率とも言う。)が50%以下であることが好ましい。
上記のように測定した各表面での無機化合物の平均面積割合の小さい方に対して、無機化合物の平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合は、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましく、20%以下であることが一層好ましく、15%以下であることが更に一層好ましく、13%以下であることが特に好ましい。
上記のように測定した各表面での無機化合物の平均面積割合の小さい方に対して、無機化合物の平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合の下限値は特に限定されず、0%であってもよい。
上記のように測定した各表面での無機化合物の平均面積割合の小さい方に対して、無機化合物の平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合は、上記のように測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合と同様の方法により調整することができる。
【0018】
また本発明の電気化学素子用セパレータの断面において、樹脂層の両表面それぞれについて、表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする厚さ方向3μm×平面方向3μmの領域内の1μm×1μmの範囲の空隙部分の平均面積割合を上記方法で測定し、測定した各表面での空隙部分の平均面積割合が同一であるか、又は、測定した各表面での空隙部分の平均面積割合の小さい方に対して、空隙部分の平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合(本明細書中、空隙率変化率とも言う。)が50%以下であることが好ましい。
上記のように測定した各表面での空隙部分の平均面積割合の小さい方に対して、空隙部分の平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合は、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることが更に好ましく、20%以下であることが一層好ましく、15%以下であることが特に好ましい。
上記のように測定した各表面での空隙部分の平均面積割合の小さい方に対して、空隙部分の平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合の下限値は特に限定されず、0%であってもよい。
上記のように測定した各表面での空隙部分の平均面積割合の小さい方に対して、空隙部分の平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合は、上記のように測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合と同様の方法により調整することができる。
【0019】
以下では、本発明の電気化学素子用セパレータの構成材料について説明し、次いで、その作製方法を説明する。
【0020】
[樹脂組成物]
(ポリマー)
本発明に係る樹脂組成物は、ポリマーを含む。該ポリマーとしては、種々のものを用いることができ、熱可塑性、熱硬化性のいずれであってもよく、例えば、共役ジエン系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、含フッ素エチレン系ポリマー、ポリスルホン系ポリマー、ポリエーテルケトン等が挙げられるが、中でも、共役ジエン系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、含フッ素エチレン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、及び、ポリスルホン系ポリマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、上記ポリマーは、バインダーポリマーとして機能するものであることが好ましい。
【0021】
上記共役ジエン系ポリマーは、共役ジエン系モノマー由来のモノマー単位を有するものである。
上記共役ジエン系モノマーは、脂肪族共役ジエン系モノマーであることが好ましい。脂肪族共役ジエン系モノマーとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、クロロプレン等が挙げられ、中でも1,3-ブタジエンが好ましい。共役ジエン系モノマーは、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
上記共役ジエン系ポリマーとしては、共役ジエン系モノマー由来のモノマー単位を1種又は2種以上を用いて得ることができるが、本発明に係る組成物の均一性や得られるセパレータの機械的強度を高くし、伸び率や応力を好適に調節する観点から、例えば、芳香族ビニルモノマー由来のモノマー単位を更に有することが好ましい。
【0023】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-エトキシスチレン、m-エトキシスチレン、p-エトキシスチレン、o-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、p-フルオロスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、o-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、o-アセトキシスチレン、m-アセトキシスチレン、p-アセトキシスチレン、o-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、o-tert-ブチルスチレン、m-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。これらの中でも、セパレータの耐熱性や機械的強度を高くできる点、伸び率や応力を好適に調節する点でスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。これらの芳香族ビニルモノマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
上記共役ジエン系ポリマーは、脂肪族共役ジエン系モノマー由来のモノマー単位と、芳香族ビニルモノマー由来のモノマー単位との質量比が、例えば1/9以上、9/1以下であることが好ましく、2/8以上、8/2以下であることがより好ましく、3/7以上、7/3以下であることが更に好ましい。
【0025】
上記共役ジエン系ポリマーは、無機化合物とポリマーとの結合力が高くなり、セパレータの強度をより優れたものとする観点から、カルボキシ基及び/又はその塩であるカルボキシレート基を有するカルボキシ変性共役ジエン系ポリマーであることが好ましく、例えば、カルボキシ基及び/又はその塩であるカルボキシレート基を有する不飽和モノマー由来のモノマー単位を更に有するものがより好ましい。上記カルボキシ基及び/又はその塩であるカルボキシレート基を有する不飽和モノマーとしては、(メタ)アクリル酸(塩)等の不飽和モノカルボン酸(塩);マレイン酸(塩)、フマル酸(塩)、イタコン酸(塩)等の不飽和ジカルボン酸(塩)等が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
上記共役ジエン系ポリマーは、セパレータの強度をより優れたものとする観点からカルボキシ基及び/又はその塩であるカルボキシレート基を有する不飽和モノマー由来のモノマー単位の質量割合が、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましい。また、セパレータのイオン伝導度をより優れたものとする観点から該質量割合が、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。
【0027】
上記共役ジエン系ポリマーとしては、スチレン-ブタジエン系ポリマー、カルボキシ変性スチレン-ブタジエン系ポリマー、ポリブタジエン系ポリマー、カルボキシ変性ポリブタジエン系ポリマー、ポリイソプレン系ポリマー、カルボキシ変性ポリイソプレン系ポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン系ポリマー、カルボキシ変性アクリロニトリル-ブタジエン系ポリマー等の1種又は2種以上を好適に用いることができる。これらの中でも、スチレン-ブタジエン系ポリマー、カルボキシ変性スチレン-ブタジエン系ポリマーが好ましく、特にカルボキシ変性スチレン-ブタジエン系ポリマーが好ましい。
【0028】
上記共役ジエン系ポリマーは、脂肪族共役ジエン系モノマー由来のモノマー単位、芳香族ビニルモノマー由来のモノマー単位、カルボキシ基及び/又はその塩であるカルボキシレート基を有する不飽和モノマー由来のモノマー単位以外の、その他の不飽和モノマー由来のモノマー単位を有していてもよい。
【0029】
その他の不飽和モノマーとしては、例えば、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸塩等のスルホン酸基含有ビニルモノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の水酸基含有ビニルモノマー;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有ビニルモノマー;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-エチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系モノマー;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、イソプロピレングリコールジアクリレート、テトラメチレングリコールジメタクリレート等の二官能ビニルモノマー;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコシシラン基含有ビニルモノマーが挙げられる。
【0030】
上記共役ジエン系ポリマー100質量%中、その他の不飽和モノマー由来のモノマー単位の質量割合は、30質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましい。
【0031】
上記(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリロイル基を有するモノマー由来のモノマー単位を有するものであればよいが、代表的なものとしては(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来のモノマー単位を主体とする(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーが挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来のモノマー単位を主体とするとは、(メタ)アクリル酸エステル系ポリマー100質量%中、(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来のモノマー単位の含有量が50質量%以上であることを言う。
(メタ)アクリル酸エステルモノマーは、具体的には、カルボキシ変性共役ジエン系ポリマーにおいてその他の不飽和モノマーの1種として上述した通りである。
【0033】
上記(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸エステルモノマー由来のモノマー単位以外に、カルボキシ基及び/又はその塩であるカルボキシレート基を有する不飽和モノマー由来のモノマー単位や、その他の不飽和モノマー由来のモノマー単位を有していてもよい。無機化合物とポリマーとの結合力が高くなり、セパレータの強度をより優れたものとする観点から、上記(メタ)アクリル系ポリマーは、カルボキシ基及び/又はその塩であるカルボキシレート基を有する不飽和モノマー由来のモノマー単位を有する(メタ)アクリル系ポリマーであることが好ましい。
【0034】
なお、その他の不飽和モノマーとしては、カルボキシ変性共役ジエン系ポリマーにおいてその他の不飽和モノマーとして上述したものと同様のものを挙げることができる(ただし、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを除く。)。
【0035】
上記含フッ素エチレン系ポリマーは、ポリエチレンの水素原子の少なくとも一部がフッ素原子に置換された構造のものであり、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。
【0036】
上記ポリスルホン系ポリマーは、スルホニル基を繰り返し単位に有するポリマーを言い、例えばポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリフェニルスルホン(PSSU)が挙げられる。
上記ポリエーテルケトンは、エーテル結合及びケトン結合を有するポリマーであり、例えばポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。
【0037】
上記ポリマーは、ポリマーが含む構成単位を形成するモノマー成分をラジカル発生剤の存在下、共重合し、必要に応じてこれをグラフト変性等することにより製造することができる。
モノマー成分の重合方法としては特に限定されず、例えば、水溶液重合法、乳化重合法、逆相懸濁重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等の方法が挙げられる。
【0038】
上記ポリマーは、特に樹脂組成物を多孔質支持体に含浸させる場合、その含浸時に、無機成分との分離を抑える観点から、体積平均粒子径が0.05μm以上であるエマルション粒子であることが好ましい。該体積平均粒子径は、0.1μm以上であることがより好ましい。また、該体積平均粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましい。
体積平均粒子径は、体積基準の粒度分布における平均粒子径であり、ポリマー水分散液約10mLをガラスセルに採取し、これを動的光散乱法による粒度分布測定器(パーティクルサイジングシステムズ〔Particle Sizing Systems〕社製、商品名:NICOMP Model 380)を用いて測定されるものである。
【0039】
上記ポリマーの質量割合は、セパレータのイオン伝導性や耐久性を好適に調節する観点から、本発明の電気化学素子用セパレータ100質量%中、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることが更に好ましく、5質量%以上であることが一層好ましく、7質量%以上であることが特に好ましい。また、該質量割合は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
(無機化合物)
本発明に係る樹脂組成物は、無機化合物を含む。無機化合物は、例えば、酸化物、水酸化物、層状複水酸化物、及び、リン酸化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、本明細書中、水酸化物は、ヒドロキシ基を有する化合物であって、層状複水酸化物以外のものを言う。
【0041】
上記酸化物としては、例えば、酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタノイド、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化ルテニウム、酸化ニッケル、酸化パラジウム、酸化銅、酸化カドミウム、酸化ホウ素、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化タリウム、酸化ケイ素、酸化ゲルマニウム、酸化スズ、酸化鉛、酸化リン、酸化ビスマス等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。中でも、成膜時の組成物や電気化学素子内がアルカリ性条件下であっても安定なものが好ましく、例えば酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムが好ましく、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムがより好ましい。なお、酸化ジルコニウムは、例えば、イットリウム、スカンジウム、イッテルビウム等の元素を固溶化したものであってもよく、酸素欠陥を持つものであってもよい。
【0042】
上記水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化スカンジウム、水酸化イットリウム、水酸化ランタノイド、水酸化チタン、水酸化ジルコニウム、水酸化ニオブ、水酸化ルテニウム、水酸化ニッケル、水酸化パラジウム、水酸化銅、水酸化カドミウム、ホウ酸、水酸化アルミニウム、水酸化ガリウム、水酸化インジウム、水酸化タリウム、ケイ酸、水酸化ゲルマニウム、水酸化スズ、水酸化鉛、リン酸、水酸化ビスマス等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。中でも、アルカリ性条件下での溶解度が低いものが好ましく、例えば水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化チタン、水酸化ジルコニウムが好ましく、水酸化マグネシウムがより好ましい。
【0043】
上記層状複水酸化物は、下記一般式:
[M1
1-xM2
x(OH)2](An-)x/n・mH2O
(M1は、Mg、Fe、Zn、Ca、Li、Ni、Co、Cu、Mnのいずれかである二価金属イオンを表す。M2は、Al、Fe、Mn、Co、Cr、Inのいずれかである三価金属イオンを表す。An-は、Cl-、NO3
-、CO3
2-、COO-等の1価以上、3価以下のアニオンを表す。中でも、An-は、2価以下のアニオンを表すことが好ましい。mは0以上の数であり、nは1以上、3以下の数である。xは0.20以上、0.40以下の数である。)に代表される化合物であり、このような層状複水酸化物としては、例えば、ハイドロタルサイト、マナッセイト、モツコレアイト、スティッヒタイト、ショグレナイト、バーバートナイト、パイロアウライト、イオマイト、クロロマガルミナイト、ハイドロカルマイト、グリーン ラスト1、ベルチェリン、タコバイト、リーベサイト、ホネサイト、イヤードライト、メイキセネライト等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。中でも、工業的に利用が容易である点で、前記一般式におけるM1がMg、M2がAlであるハイドロタルサイトが好ましい。
なお、これら層状水酸化物は、例えば、150℃以上、900℃以下で焼成することにより脱水した化合物や層間内の陰イオンを分解させた化合物、層間内の陰イオンを水酸化物イオン等に交換した化合物であってもよい。
上記層状複水酸化物には、水酸基、アミノ基、カルボキシ基、シラノール基等の官能基を持つ化合物が配位していてもよい。また、上記層状複水酸化物は層間内に有機物を有していてもよい。
【0044】
上記リン酸化合物としては、例えばヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)、ヒドロキシアパタイトのカルシウムイオンの一部又は全部をマグネシウムに置換したマグネシウムヒドロキシアパタイト、ストロンチウムに置換したストロンチウムヒドロキシアパタイト、バリウムに置換したバリウムヒドロキシアパタイト等が挙げられる。中でも、ヒドロキシアパタイト、マグネシウムヒドロキシアパタイトが好ましい。
【0045】
上記無機化合物は、中でも、層状複水酸化物及び/又は水酸化物であることがより好ましい。上記無機化合物は、セパレータの強度をより優れたものとする観点からは、水酸化物であることが更に好ましく、セパレータのイオン伝導性をより優れたものとする観点からは、層状複水酸化物であることが更に好ましい。
【0046】
上記無機化合物は粒子状であり、その形状としては、微粉状、粉状、粒状、顆粒状、鱗片状、多面体状、ロッド状、曲面含有状等が挙げられる。
上記無機化合物は、体積平均粒子径が2μm以下であるものが好ましい。該体積平均粒子径は、より好ましくは1μm以下であり、更に好ましくは0.5μm以下である。また、該体積平均粒子径は、0.001μm以上であることが好ましく、0.01μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましい。
上記体積平均粒子径は、本発明の組成物を得るために他の成分と混合される前の無機化合物粉体又は無機化合物分散体の体積平均粒子径のいずれであってもよく、実施例に記載の方法に従い測定することができる。
体積平均粒子径とは、体積基準の粒度分布における平均粒子径であり、無機化合物粒子を分散媒(0.2%ヘキサメタりん酸ナトリウム含有イオン交換水)で希釈し、得られた希釈液約10mLをガラスセルに採取し、これを動的光散乱法による粒度分布測定器(パーティクルサイジングシステムズ〔Particle Sizing Systems〕社製、商品名:NICOMP Model 380)を用いて測定されるものである。
【0047】
なお、体積平均粒子径が上記のような範囲の粒子は、例えば、粒子をボールミル等により粉砕し、得られた粗粒子を分散剤に分散させて所望の粒子径にした後に乾固する方法や、該粗粒子をふるい等にかけて粒子径を選別する方法のほか、粒子を製造する段階で調製条件を最適化し、所望の粒径の(ナノ)粒子を得る方法等により製造することが可能である。
【0048】
上記無機化合物の質量割合は、セパレータの耐久性及びイオン伝導度の改善の観点から、本発明の電気化学素子用セパレータ100質量%中、30質量%以上であることが好ましい。該質量割合は、より好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは50質量%以上である。また、該質量割合は、95質量%以下であることが好ましい。該質量割合は、より好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以下であり、特に好ましくは70質量%以下である。
【0049】
[多孔質支持体]
本発明の電気化学素子用セパレータは、更に、多孔質基材を有し、上記樹脂層が、多孔質基材にポリマー及び無機化合物を含む樹脂組成物が含浸した樹脂含浸層であることが好ましい。該セパレータは、耐久性に優れるものとなり、電気化学素子が、充放電に伴って形態変化が起こる電極(例えば、亜鉛負極)を含んで構成される電池である場合は、該セパレータは、デンドライトによる短絡を抑制する効果に優れるものとなる。該セパレータは、後述するように、通常、本発明に係る樹脂組成物を剥離基材上に塗工した後、多孔質支持体に接触・含浸させ、膜を乾燥させたうえで剥離基材から剥離して得ることができる。
【0050】
上記多孔質支持体は、特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、環状ポリオレフィン系ポリマー等のポリオレフィン系ポリマー;ビニロン等のポリビニルアルコール系ポリマー;脂肪族ポリアミド;芳香族ポリアミド;スチレン系ポリマー;ポリエステル系ポリマー;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ホリフェニルスルホン等のポリスルホン系ポリマー;ポリフェニレンサルファイド系ポリマー等の樹脂材料により構成された不織布、織布、微多孔質フィルム等が好適なものとして挙げられ、中でも、ポリオレフィン系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマーがより好ましい。
上記電気化学素子用セパレータは、本発明に係る樹脂組成物を多孔質支持体に含浸させて得られる樹脂含浸層と多孔質支持体とが少なくとも部分的に一体化したものである。該電気化学素子用セパレータでは、本発明に係る樹脂組成物が多孔質支持体中の空孔の少なくとも一部を埋めている。
【0051】
上記多孔質支持体の質量割合は、本発明の電気化学素子用セパレータ100質量%中、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましい。また、該質量割合は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。
【0052】
上記多孔質支持体の密度は、塗料含浸時の観点から、0.05g/cm3以上が好ましく、0.1g/cm3以上がより好ましい。また、該密度は、2.0g/cm3以下が好ましく、1.0g/cm3以下が更に好ましい。
【0053】
上記多孔質支持体の膜厚は、電気化学素子性能(例えば、電池性能)や強度を優れたものとしたり、含浸時に無機成分との分離を抑えたりする観点から、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。また、該膜厚は、5μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。
【0054】
(その他の成分)
本発明の電気化学素子用セパレータは更に、従来公知の分散剤、増粘剤、導電性カーボン、導電性セラミックス等のその他の成分を含んでいてもよい。
本発明の電気化学素子用セパレータにおけるその他の成分の含有割合は、セパレータの強度の観点からセパレータ100質量%中、10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5質量%以下であり、更に好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。
【0055】
本発明の電気化学素子用セパレータの空隙率(体積割合)は、電気素子としての利用の観点から、セパレータの体積において、0.1%以上であることが好ましい。該体積割合は、より好ましくは1%以上であり、更に好ましくは3%以上である。また、該体積割合は、50%以下であることが好ましい。該体積割合は、より好ましくは40%以下であり、更に好ましくは30%以下である。
【0056】
本発明の電気化学素子用セパレータは、平均膜厚が10μm~1mmであることが好ましい。10μm以上であると成膜時の破損の発生を充分に防止することができる。また、1mm以下であるとコスト面から有利となる上、イオンの透過の能力も充分に優れる。該平均膜厚は、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましく、25μm以上であることが特に好ましい。また、該平均膜厚は、800μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが更に好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。
上記平均膜厚は、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて任意の10点を測定した平均値である。
【0057】
本発明の電気化学素子用セパレータは、抵抗値が0.1~5Ωcm2であることが好ましい。該抵抗値は、3Ωcm2以下であることがより好ましく、2Ωcm2以下であることが更に好ましく、1Ωcm2以下であることが特に好ましい。
上記抵抗値は、実施例に記載の方法に従い、測定することができる。
【0058】
本発明の電気化学素子用セパレータは、水系電解液を含んで構成される電気化学素子に用いられるセパレータとして使用するためのものであることが好ましい。
【0059】
(本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法)
本発明の電気化学素子用セパレータは、成膜して電気化学素子用セパレータを得るために用いられる樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物を後述する方法により成膜して製造することができる。
先ず、本発明に係る樹脂組成物の原料(本発明に係る無機化合物、ポリマー、及び、その他の成分)を混合する。混合には、ミキサー、ブレンダー、ニーダー、サンドミル、ビーズミル、レディミル、ロールミル、ボールミル等を使用することができる。混合の際、媒体として、水や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、テトラヒドロフラン、N-メチルピロリドン等の有機溶剤、又は、水と有機溶剤との混合溶剤を加えてもよい。
混合後、必要に応じてろ過、脱泡等を行い、本発明に係る樹脂組成物を得ることができる。
なお、混合前に、無機化合物の分散体を製造してもよい。例えば、無機化合物、及び、必要に応じて無機化合物の分散剤等を混合する。混合前に無機化合物分散体を製造することにより、調製の際にポリマーが不安定化することを抑制できる。混合には上述した機器や媒体を使用できる。
【0060】
本発明に係る樹脂組成物から膜を製造する方法としては、本発明に係る樹脂組成物を、鏡面仕上げされた金属ロール、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の剥離基材上に塗工した後、多孔質支持体に接触・含浸させ、膜を乾燥させたうえで剥離基材から剥離して本発明の電気化学素子用セパレータを製造することが好適なものとして挙げられる。この場合、従来のセパレータでは通常、剥離基材側が無機化合物の割合が多くなり(ポリマーの割合が少なくなり)、製膜時に無機化合物粒子が脱離し易い傾向にあったが、本発明の電気化学素子用セパレータはこのような不具合が充分に解消されたものである。
【0061】
上記膜を乾燥させる際の温度については、ポリマー分離の抑制や製膜性の観点から、水分量の急激な変化が生じないよう緩やかに温度を高めることが好ましい。
【0062】
製膜後は必要に応じ、アニール工程として、膜を追加で加熱してもよい。膜の加熱温度、加熱時間は適宜設定すればよい。
【0063】
<電気化学素子>
本発明はまた、本発明の電気化学素子用セパレータを含んで構成される電気化学素子でもある。
本発明の電気化学素子としては、例えば、電池;電解コンデンサ等のコンデンサ;電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタ;湿度センサ、ガスセンサ等のセンサ;アルカリ形燃料電池等の燃料電池;アルカリ水電解装置等の電解装置が挙げられる。
【0064】
上記水系電解液としては、電気化学素子の水系電解液として通常用いられる、水を電解液原料の主成分として使用するものであれば特に制限されず、水とともに有機溶剤を含んでいてもよい。水を電解液原料の主成分として使用するとは、水系電解液100質量%中、水の質量割合が50質量%以上であることを言う。該質量割合は80質量%以上であることが好ましい。有機溶剤としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジエトキシエタン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、イオン性液体、フッ素含有カーボネート類、フッ素含有エーテル類、ポリエチレングリコール類、フッ素含有ポリエチレングリコール類等が挙げられ、これらを1種でも2種以上でも使用することができる。
【0065】
中でも、本発明の電気化学素子は、水のみを電解液原料として使用する電解液を含んで構成される電気化学素子であることが好ましい。これにより、本発明の効果がより顕著なものとなる。また、水のみを電解液原料として使用する電解液の方が、熱安全性がより高いものである。
【0066】
上記水系電解液は、例えばアルカリ性電解液であることが好ましい。アルカリ性電解液としては、例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、硫酸亜鉛水溶液、硝酸亜鉛水溶液、リン酸亜鉛水溶液、酢酸亜鉛水溶液等が挙げられ、これらを単独でも使用することができ、これらの溶質を2種以上混合した水溶液としても使用することができる。
【0067】
(電池)
本発明の電気化学素子は、例えば電池であることが好ましい。本発明の電気化学素子が電池である場合について、以下に詳しく説明する。
電池は、通常更に正極を含んで構成される。正極の活物質としては、一次電池や二次電池の正極活物質として通常用いられるものを用いることができ、特に制限されないが、例えば、酸素(酸素が正極活物質となる場合、正極は、酸素の還元や水の酸化が可能なペロブスカイト型化合物、コバルト含有化合物、鉄含有化合物、銅含有化合物、マンガン含有化合物、バナジウム含有化合物、ニッケル含有化合物、イリジウム含有化合物、白金含有化合物;パラジウム含有化合物;金含有化合物;銀含有化合物;炭素含有化合物等より構成される空気極となる);オキシ水酸化ニッケル、水酸化ニッケル、コバルト含有水酸化ニッケル等のニッケル含有化合物;二酸化マンガン等のマンガン含有化合物;酸化銀;コバルト酸リチウム等のリチウム含有化合物;鉄含有化合物;金属亜鉛や酸化亜鉛等の亜鉛種等が挙げられる。
また、空気電池等のように、正極活物質が酸素であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0068】
上記電池は、通常更に負極を含んで構成される。負極の活物質としては、炭素、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、錫、カドミウム、水素吸蔵合金、シリコン含有材料等、電池の負極活物質として通常用いられるものを用いることができる。例えば、負極活物質として、亜鉛、リチウム、ニッケル、マグネシウム、カドミウム等の電極反応に伴ってデンドライトを発生するおそれのある活物質を用いる電池に対しても、本発明を好適に適用することができる。中でも、負極活物質が亜鉛化合物を含むことが好ましい。
【0069】
上記電池を構成する正極、負極等の電極は、集電体上に活物質層を形成することで製造することができる。
電極を構成する集電体としては、(電解)銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、(パンチング)鋼板、導電性を付与した不織布;Ni、Zn、Sn、Pb、Hg、Bi、In、Tl、真鍮等を添加した(電解)銅箔、銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、(パンチング)鋼板、不織布;Ni、Zn、Sn、Pb、Hg、Bi、In、Tl、真鍮等によりメッキされた(電解)銅箔銅メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡銅、パンチング銅、真鍮等の銅合金、真鍮箔、真鍮メッシュ(エキスパンドメタル)、発泡真鍮、パンチング真鍮、ニッケル箔、耐食性ニッケル、ニッケルメッシュ(エキスパンドメタル)、パンチングニッケル、金属亜鉛、耐食性金属亜鉛、亜鉛箔、亜鉛メッシュ(エキスパンドメタル)、(パンチング)鋼板、不織布;銀;アルカリ(蓄)電池や空気亜鉛電池に集電体や容器として使用される材料等が挙げられる。
【0070】
電池の形態は、通常は、充放電が可能な二次電池(蓄電池)である。なお、本発明の電池は、一般的な二次電池の他、メカニカルチャージ(亜鉛負極の機械的な交換)を利用するもの;第3極を利用するもの(正極として、充電に適した電極と放電に適した電極をそれぞれ用いるもの)等のいずれの形態であってもよい。
【0071】
(燃料電池又は電解装置)
本発明の電気化学素子が燃料電池又は電解装置である場合について、以下に詳しく説明する。
本発明の電気化学素子用セパレータは、アルカリ形燃料電池、アルカリ水電解装置の部材として好適に用いられる。上記アルカリ形燃料電池、アルカリ水電解装置としては、例えば、陽極、陰極、及び、陽極と陰極との間に配置された本発明の電気化学素子用セパレータを含むものが挙げられる。より具体的には、上記アルカリ形燃料電池、アルカリ水電解装置は、本発明の電気化学素子用セパレータによって隔てられた、陽極が存在する陽極室と、陰極が存在する陰極室とを有する。
上記陽極及び上記陰極としては、ニッケル又はニッケル合金等を含む導電性基体を含む、公知の電極が挙げられる。
【0072】
〔燃料電池の発電方法〕
本発明の電気化学素子用セパレータを含むアルカリ形燃料電池を用いて行う発電の方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、上述した本発明の電気化学素子用セパレータを含むアルカリ形燃料電池に、電解液を充填し、電解液中で陽極、陰極それぞれに、酸化剤(例えば酸素)、燃料(例えば水素)を供給することで発電を行うことができる。
【0073】
〔水電解装置の電解方法〕
本発明の電気化学素子用セパレータを含むアルカリ水電解装置を用いて行う水の電気分解の方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができる。例えば、上述した本発明の電気化学素子用セパレータを含むアルカリ水電解装置に、電解液を充填し、電解液中で電流を印加することにより行うことができる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0075】
(測定方法)
<厚さ>
セパレータの表面に対し、垂直に切断して得られた断面について、走査型電子顕微鏡を用いてセパレータの全厚が一視野で観察できるように、400倍の拡大写真を撮影した。得られた画像から樹脂層の層厚を算出した。
【0076】
<セパレータの膜厚>
セパレータの膜厚は、膜厚計(商品名:デジマチックインジケータ 543-394、株式会社ミツトヨ製)で測定し、測定点3カ所の平均として求めた。
【0077】
<組成比率>
(1)セパレータの表面に対し、垂直に切断して得られた断面において、樹脂層の各表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする任意の3カ所の3万倍拡大写真を走査型電子顕微鏡を用いて撮影する。
(2)各撮影画像上、樹脂層の表面から層厚の5%の深さの位置を中心とする任意の厚さ方向3μm×平面方向3μmの領域を、画像作成用ソフトであるScion Imageに取り込み、該樹脂層部分を白黒濃淡表示に変換する。
(3)樹脂層の一方の表面についての3枚の変換画像のそれぞれにおいて、変換画像内に不織布等の多孔質基材が存在しない場合は、樹脂層の表面から層厚の5%の深さの位置の点を中心とする、不織布等の多孔質基材の存在しない(断面方向に樹脂層の材料成分が過不足なく行き届いている)1μm×1μmの範囲を占めるポリマー部分の合計面積を求め、該範囲でのポリマーの面積割合を算出する。変換画像内に不織布等の多孔質基材が存在する場合は、変換画像内で多孔質基材部分の面積割合が最小となる1μm×1μmの範囲のうち、その中心が変換画像の中心に最も近い1μm×1μmの範囲を占めるポリマー部分の合計面積を求め、該範囲から多孔質基材部分を除いた部分の面積に対するポリマーの面積割合を算出する。当該3つの変換画像それぞれにおける1μm×1μmの範囲でのポリマーの面積割合の平均を算出し、ポリマーの平均面積割合とする。
【0078】
1μm×1μmの範囲でのポリマーの面積割合の計算式は下記の通りである。
(1μm×1μmの範囲でのポリマーの面積割合)
={(1μm×1μmの範囲の範囲を占めるポリマー部分の合計面積)/(1μm×1μmの範囲の面積-多孔質基材部分の面積)}×100(%)
(4)(3)における樹脂層の一方の表面の反対側の表面についても同様に、1μm×1μmの範囲でのポリマーの面積割合の平均を算出し、ポリマーの平均面積割合とする。
(5)(3)、(4)で得られたポリマーの平均面積割合について、下記計算式によりポリマー成分変化率(測定した各表面でのポリマーの平均面積割合の小さい方に対して、ポリマーの平均面積割合の大きい方から小さい方を差し引いた差の割合)を算出する。
(ポリマー成分変化率)
={(ポリマーの平均面積割合の大きい方)/(ポリマーの平均面積割合の小さい方)-1}×100
(6)同様の画像で、無機成分についても、画像処理を用いて、面積割合変化率を算出する。
(7)空隙部に関しては、例えば、下記の通り計算を行うことができる。
(空隙部分の平均面積割合)
=100-{(ポリマーの平均面積割合)+(無機成分の平均面積割合)}
(空隙部分の変化率)
={(空隙部分の平均面積割合の大きい方)/(空隙部分の平均面積割合の小さい方)-1}×100
【0079】
なお、変換画像の作成時に黒色部分と白色部分とのコントラストを明確にして各部分が明確に分別できるようにする。例えば、無機成分は、変換画像中で白色であり、粒子形状で判別可能である。ポリマー成分は、変換画像中で灰色であり、粒子の周囲に存在する淡色の部位である。空隙部は、変換画像中で黒色であり、無機成分、ポリマー成分以外の部分である。
【0080】
<抵抗値>
以下の条件で抵抗値(Ωcm2)を測定した。
・仕込みセル数:5セル(平均値を記載)
・セル構成
作用極:Ni板
対極:Ni板
電解液:酸化亜鉛を飽和させた6.7mol/L濃度のKOH水溶液
測定サンプル:上記電解液に1晩浸漬
有効面積:φ15mm
・交流インピーダンス測定を行う。25℃の恒温槽内で30分静置した後、下記条件で測定した。
印加電圧:10mV vs.開回路電圧
周波数領域:100kHz~100Hz
インピーダンスによって得られた切片成分(Ra)と測定サンプルを入れない場合の切片成分(Rb)から下記式により抵抗値(R)を算出した。
R=(Ra-Rb)×1.77
【0081】
<製膜時の剥離性>
製膜時の剥離性は、剥離した方のセパレータ表面およびPET表面を観察し下記評価基準に従って評価した。
○:PET表面に剥離痕は殆ど見られなかった。
△:PET表面におけるPET剥離部分全体に薄い白化部(粒子)が見られた。
×:PET表面の一部に樹脂成分が残り、セパレータ表面に欠陥部が見られた。
【0082】
[実施例1]
水酸化マグネシウム粒子100質量部、ポリアクリル酸塩水溶液(不揮発分40%)1質量部及びイオン交換水47質量部を計り取り、サンドミルを用いて1時間分散処理した後、ろ過を行い、水酸化マグネシウム粒子水分散液を得た。得られた水酸化マグネシウム粒子水分散液100質量部、カルボキシ変性スチレン-ブタジエン系ポリマー水分散液(不揮発分:48%)14質量部を計り取り、混合した後、ろ過及び真空脱泡を行い、成膜用組成物を得た。
得られた成膜用組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、乾燥後の成膜用組成物の秤量値が7.3mg/cm2となるようにコンマコーターにて塗工し、その上にポリオレフィン系繊維からなる不織布(秤量値:4mg/cm2、厚さ:90μm)を接触させた後、80℃で乾燥し、PETフィルムから不織布ごと塗膜を剥離することにより、不織布と塗膜が一体化したセパレータを得た。得られたセパレータの膜厚は105μmであった。抵抗は、0.68Ωcm2であった。
この時のポリマー成分変化率は8.2%、無機成分変化率は2.7%、空隙率変化率は25.4%であった。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例2]
ハイドロタルサイト粒子100質量部、ポリアクリル酸塩水溶液(不揮発分40%)3質量部及びイオン交換水47質量部を計り取り、サンドミルを用いて1時間分散処理した後、ろ過を行い、ハイドロタルサイト粒子水分散液を得た。得られたハイドロタルサイト粒子水分散液100質量部、カルボキシ変性スチレン-ブタジエン系ポリマー水分散液(不揮発分:48%)18質量部を計り取り、混合した後、ろ過及び真空脱泡を行い、成膜用組成物を得た。
得られた成膜用組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、乾燥後の成膜用組成物の秤量値が7.0mg/cm2となるようにコンマコーターにて塗工し、その上にポリオレフィン系繊維からなる不織布(秤量値:4mg/cm2、厚さ:90μm)を接触させた後、80℃で乾燥し、PETフィルムから不織布ごと塗膜を剥離することにより、不織布と塗膜が一体化したセパレータを得た。得られたセパレータの膜厚は104μmであった。抵抗は、0.28Ωcm2であった。
この時のポリマー成分変化率は25.0%、無機成分変化率は12.2%、空隙率変化率は14.8%であった。結果を表1に示す。
【0084】
[実施例3]
ハイドロタルサイト粒子100質量部、ポリアクリル酸塩水溶液(不揮発分40%)3質量部及びイオン交換水47質量部を計り取り、サンドミルを用いて1時間分散処理した後、ろ過を行い、ハイドロタルサイト粒子水分散液を得た。得られたハイドロタルサイト粒子水分散液100質量部、ポリテトラフルオロエチレン水分散液(不揮発分:60%)47.5質量部を計り取り、混合した後、ろ過及び真空脱泡を行い、成膜用組成物を得た。
得られた成膜用組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、乾燥後の成膜用組成物の秤量値が7.5mg/cm2となるようにコンマコーターにて塗工し、その上にポリオレフィン系繊維からなる不織布(秤量値:4mg/cm2、厚さ:90μm)を接触させた後、80℃で乾燥し、PETフィルムから不織布ごと塗膜を剥離することにより、不織布と塗膜が一体化したセパレータを得た。得られたセパレータの膜厚は110μmであった。抵抗は、0.68Ωcm2であった。
この時のポリマー成分変化率は12.8%、無機成分変化率は3.2%、空隙率変化率は20.0%であった。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例4]
ハイドロタルサイト粒子100質量部、ポリアクリル酸塩水溶液(不揮発分40%)3質量部及びイオン交換水47質量部を計り取り、サンドミルを用いて1時間分散処理した後、ろ過を行い、ハイドロタルサイト粒子水分散液を得た。得られたハイドロタルサイト粒子水分散液100質量部、ポリテトラフルオロエチレン水分散液(不揮発分:60%)13.5質量部、カルボキシ変性スチレン-ブタジエン系ポリマー水分散液(不揮発分:48%)8.5質量部を計り取り、混合した後、ろ過及び真空脱泡を行い、成膜用組成物を得た。
得られた成膜用組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、乾燥後の成膜用組成物の秤量値が7.5mg/cm2となるようにコンマコーターにて塗工し、その上にポリオレフィン系繊維からなる不織布(秤量値:4mg/cm2、厚さ:90μm)を接触させた後、80℃で乾燥し、PETフィルムから不織布ごと塗膜を剥離することにより、不織布と塗膜が一体化したセパレータを得た。得られたセパレータの膜厚は109μmであった。抵抗は、0.58Ωcm2であった。
この時のポリマー成分変化率は21.2%、無機成分変化率は7.8%、空隙率変化率は2.8%であった。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例1]
実施例1において、乾燥温度を125℃とする以外は実施例1と同様にして、セパレータを得た。得られたセパレータの膜厚は104μmであった。抵抗は、1.1Ωcm2であった。
この時のポリマー成分変化率は103.2%、無機成分変化率は1.9%、空隙率変化率は90.6%であった。結果を表1に示す。
【0087】
[比較例2]
実施例2において、乾燥温度を125℃とする以外は実施例2と同様にして、セパレータを得た。得られたセパレータの膜厚は106μmであった。抵抗は、0.52Ωcm2であった。
この時のポリマー成分変化率は118.1%、無機成分変化率は9.1%、空隙率変化率は123.4%であった。結果を表1に示す。
【0088】
【0089】
実施例1と比較例1との比較結果、実施例2と比較例2との比較結果から、同じ組成でも、ポリマー成分変化率を所定値以下とすることでセパレータの抵抗をより低いものとすることができることが分かった。また、各実施例、各比較例の結果から、ポリマー成分変化率を所定値以下とすることで、製膜時の剥離性が優れたものになることが分かった。