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特許7214827液晶ポリエステルマルチフィラメント及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-20
(45)【発行日】2023-01-30
(54)【発明の名称】液晶ポリエステルマルチフィラメント及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20230123BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20230123BHJP
   D02J 1/22 20060101ALI20230123BHJP
【FI】
D01F6/62 308
D01F6/84 311
D02J1/22 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021501987
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020006104
(87)【国際公開番号】W WO2020175216
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2019033067
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池端 桂一
(72)【発明者】
【氏名】井出 潤也
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-260114(JP,A)
【文献】特表昭58-502227(JP,A)
【文献】特開昭57-159816(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107938014(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F6/62-6/64
6/84
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期弾性率バラつきが3.0%以下であり、引張強度が18cN/dtex以上であることを特徴とする、液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項2】
強度バラつきが3.0%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントを少なくとも一部に用いた高次加工製品。
【請求項4】
液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸を熱処理する工程を少なくとも含み、
前記熱処理において、前記紡糸原糸を伸長倍率1.001~1.200倍で搬送して処理を行うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
【請求項5】
前記液晶ポリエステルマルチフィラメントの熱処理前後の強度比が1.5倍以上となることを特徴とする、請求項4に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
【請求項6】
前記液晶ポリエステルマルチフィラメントをロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら熱処理を行うことを特徴とする、請求項4または請求項5に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルマルチフィラメント及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルマルチフィラメントは、剛直な分子鎖が高度に配向した分子構造に由来して高い力学物性(高強度、低伸度、高弾性率)を有する繊維である。そのため、強度の高さや弾性率の高さ(負荷に対する寸法変化の小ささ)が求められる用途として、テンションメンバー(電線、光ファイバー、ヒーター線芯糸、イヤホンコード等の各種電気製品のコード等)、セールクロス、ロープ、ザイル、陸上ネット、命綱、釣糸、漁網、延縄等の高次加工製品等に使用されている。
【0003】
これらの用途に用いられるマルチフィラメントは、力学物性(強度、弾性率)の平均値が高いマルチフィラメントであっても、局所的に力学物性の低い部分が存在すると、高次加工製品全体としての力学物性は低いものになってしまう。従って、平均値が高いだけでなく、最低値も高いこと、すなわち力学物性のバラつきが小さいことが重要である。
【0004】
液晶ポリエステルマルチフィラメントの力学物性のバラつき低減に関する従来技術には、例えば、特許文献1(特開2016-176161号公報)がある。この文献では、固相重合の昇温条件を多段ステップかつ低速昇温にすることで、単繊維間融着を減らし、強度バラつき及び伸度バラつきを低減する方法が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-176161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特に、マルチフィラメントの初期弾性率のバラつきが小さいと、マルチフィラメント同士を引き揃えながら合糸してテンションメンバー等の高次加工製品を作製する際の相互の弛みが小さく、また、マルチフィラメント間で空隙の少ない高密度な高次加工製品を作製できるため、高次加工製品としての力学物性のバラつきを小さく抑えられる。すなわち、品質が安定しており、力学物性利用率が高いコンパクトな高次加工製品を作製するためには、マルチフィラメントの初期弾性率のバラつきが小さいことが重要である。
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の方法における固相重合はバッチ方式であり、以下に述べる二つの理由から、バッチ方式で固相重合を行うことは、均一な力学物性のマルチフィラメントを得るには不向きな方法である。
【0008】
一つは、バッチ方式で固相重合を行う際に、ボビン状パッケージの内外層の違いや幅方向の位置の違いが存在するために、熱処理環境が繊維長手方向に亘って不均一となるためである。
【0009】
もう一つは、マルチフィラメントを構成する単繊維同士に、平行ではなく、弛んでいる部分が生じてしまうためである。
【0010】
上記特許文献1のようにマルチフィラメントをボビンに巻き取ったパッケージ形状にして、バッチ方式で固相重合を行う方法では、巻き取り工程の端面折り返し部分において、マルチフィラメントを構成する単繊維同士の間で折り返しの内外差による経路長差が存在するため、全ての単繊維が平行に引き揃えられておらず、一部の単繊維が弛んだ箇所が形成されてしまう。
【0011】
また、公知の溶融紡糸方法で製造された液晶ポリエステルマルチフィラメントは、紡糸巻き取り工程において、上記と同様の理由で形成された同様の弛んだ箇所を有する。そして、これら弛んだ箇所を含むマルチフィラメントのボビンパッケージを固相重合する方法では、液晶ポリエステルマルチフィラメントの固相重合中に、一般的に生じる単繊維間の融着現象により、弛んだ箇所が固相重合を経て融着固定されてしまい、引き揃えの悪い部分が固相重合工程後も残存する。
【0012】
マルチフィラメントの初期弾性率バラつきを低減するためには、マルチフィラメントを構成する単繊維同士が、繊維長手方向の全ての箇所において、弛みなく平行に引き揃えられていることが重要である。従って、特許文献1に記載の方法で強度バラつきや伸度バラつきを抑えることができたとしても、初期弾性率バラつきをもたらす因子である、一部の繊維が弛んだ箇所を減らすことはできない。
【0013】
以上より、繊維長手方向に亘って均一な環境で熱処理を行い、かつ、製造工程において生じたマルチフィラメント内の弛みを熱処理中に解消することが、マルチフィラメントの初期弾性率バラつきを低減するためには重要である。
【0014】
なお、特許文献1において、強度バラつきから想定される強度の範囲と伸度バラつきから想定される伸度の範囲から、概算の弾性率のバラつきを計算できるが、この弾性率はマルチフィラメントが破断するまでの平均弾性率であり、産業資材用途において重視される初期弾性率(破断伸度に対して伸び率の小さい領域の弾性率;本発明では伸び率0.25%と1.00%の2点を通る直線の傾きとしている)とは必ずしも一致しない。加えて、マルチフィラメントが破断するまでの弾性率のバラつきを小さくするには、フィラメント内に存在する分子末端等の欠陥の頻度を均一にすることが重要であるが、初期弾性率バラつきを小さくするには、後述の様に繊維同士の収束性や並行性を高めることが重要であり、繊維構造的にも異なる対策が必要である。
【0015】
また、弛みを解消するために、例えば、特開昭62-45726号公報のような融着を防ぐ公知の方法を用いて固相重合を行った後に、微延伸等の公知の引き揃え処理を行う方法も考えられる。しかし、この方法では、融着防止剤が後の工程で糸を傷つける原因になり、固相重合後の巻き返し工程が増えることで通過するローラーやガイドの数が増え、擦過等によりマルチフィラメントの力学物性や品質が低下するという問題がある。
【0016】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、初期弾性率バラつきが小さい液晶ポリエステルマルチフィラメント及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、以下の好適な態様を提供するものである。
【0018】
[1]初期弾性率バラつきが3.0%以下であり、引張強度が18cN/dtex以上であることを特徴とする、液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【0019】
[2]強度バラつきが3.0%以下であることを特徴とする、前記[1]に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメント。
【0020】
[3]前記[1]または[2]に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントを少なくとも一部に用いた高次加工製品。
【0021】
[4]液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸を熱処理する工程を少なくとも含み、前記熱処理において、前記紡糸原糸を伸長倍率1.001~1.200倍で搬送して処理を行うことを特徴とする、前記[1]または[2]に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
【0022】
[5]前記液晶ポリエステルマルチフィラメントの熱処理前後の強度比が1.5倍以上となることを特徴とする、前記[4]に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
【0023】
[6]前記液晶ポリエステルマルチフィラメントをロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら熱処理を行うことを特徴とする、前記[4]または[5]に記載の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、テンションメンバー等の高次加工製品に好適に用いることが可能な、初期弾性率バラつきが小さく、高強度の液晶ポリエステルマルチフィラメントを得ることができる。
【0025】
なお、本発明における高次加工製品とは、マルチフィラメントに対して撚り、編み、開繊、製織、コーティング、樹脂含侵、液晶ポリエステルマルチフィラメント及びその他のフィラメントとの合糸などの加工を少なくとも1つ以上施した加工製品であって、液晶ポリエステルマルチフィラメントを少なくとも一部に用いる製品であり、特に種類を制限するものではないが、テンションメンバー(例えば、電線、光ファイバー、ヒーター線芯糸、イヤホンコード等の各種電気製品のコード等)、セールクロス、ロープ、ザイル、陸上ネット、命綱、釣糸、漁網、延縄等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例1~5、比較例2におけるロール・トゥ・ロール方式による搬送熱処理工程を説明するための概略図である。
図2】実施例6におけるロール・トゥ・ロール方式による搬送熱処理工程を説明するための概略図である。
図3】実施例7におけるロール・トゥ・ロール方式による搬送熱処理工程を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントとその製造方法について、詳細に説明する。
【0028】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高次加工製品全体としての力学物性を向上させる観点から、初期弾性率バラつきが小さいことが重要である。本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントにおいては、初期弾性率バラつきが、3.0%以下である。初期弾性率バラつきは、2.5%以下であることが好ましく、2.0%以下であることがより好ましい。初期弾性率バラつきの下限値は特に制限されるものではないが、本発明により達し得る値としては0.1%程度である。
【0029】
また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、寸法安定性(負荷に対する寸法変化の小ささ)の観点から、初期弾性率が100cN/dtex以上であることが好ましい。初期弾性率は、より好ましくは300cN/dtex以上、さらに好ましくは500cN/dtex以上である。初期弾性率の上限値は特に制限されるものではないが、本発明により達し得る値としては1000cN/dtex程度である。
【0030】
なお、初期弾性率、及び初期弾性率バラつきは、後述する実施例に記載の測定方法により算出されるものである。
【0031】
また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高強度であることが重要である。本発明における「高強度」とは、熱処理後の引張強度が18cN/dtex以上であることを指す。引張強度は、好ましくは20cN/dtex以上、より好ましくは23cN/dtex以上である。引張強度の上限値は特に制限されるものではないが、本発明により達し得る値としては30cN/dtex程度である。
【0032】
また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、高次加工製品全体としての力学物性を向上させる観点から、強度バラつきが3.0%以下であることが好ましい。強度バラつきは2.5%以下であることがより好ましく、2.0%以下であることがさらに好ましい。強度バラつきの下限値は特に制限されるものではないが、本発明により達し得る値としては0.1%程度である。
【0033】
なお、引張強度、及び強度バラつきは、後述する実施例に記載の測定方法により算出されるものである。
【0034】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、液晶ポリエステルを溶融紡糸することにより得ることができる。液晶ポリエステルとしては、例えば、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する反復構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位は、その化学的構成については特に限定されるものではない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、液晶ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含んでいてもよい。例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
【0035】
【表1】
【0036】
表1の構成単位において、mは0~2の整数であり、式中のYは、1~置換可能な最大数の範囲において、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1から4のアルキル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基(ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)、アルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等)等が挙げられる。
【0037】
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3及び表4に示す例(1)~(18)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示し得る構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
表2、表3及び表4の構成単位において、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基等の炭素数1から4のアルキル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アラルキル基(ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基等)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基等)等であってもよい。これらのうち、水素原子、塩素原子、臭素原子、またはメチル基が好ましい。
【0042】
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
【0043】
[化1]
【0044】
液晶ポリエステルは、好ましくは、ナフタレン骨格を構成単位として有する組み合わせであってもよい。なお、ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位(A)と、ヒドロキシナフトエ酸由来の構成単位(B)の両方を含むことが、特に好ましい。例えば、構成単位(A)としては下記式(A)が挙げられ、構成単位(B)としては下記式(B)が挙げられる。溶融成形性を向上する観点から、構成単位(A)と構成単位(B)の比率は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、さらに好ましくは5/1~1/1の範囲であってもよい。
【0045】
[化2]
【0046】
[化3]
【0047】
また、(A)の構成単位と(B)の構成単位の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってもよく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であってもよい。ポリマー中、特に(B)の構成単位が4~45モル%である液晶ポリエステルが好ましい。
【0048】
本発明で好適に用いられる液晶ポリエステルマルチフィラメントの融点(以下、Mpと称することがある)は220~380℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは260~340℃である。なお、ここでいう融点とは、JIS K 7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(DSC;株式会社島津製作所製「DSC-60A」)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、前記DSC装置に、サンプルを1~10mgとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとして窒素を100cc/分流し、20℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定する。ポリマーの種類によってDSC測定において1st runで明確なピークが現れない場合は、50℃/分の昇温速度で予想される流れ温度よりも50℃高い温度まで昇温し、その温度で3分間完全に溶融した後、80℃/分の降温速度で50℃まで降温し、しかる後に20℃/分の昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
【0049】
なお、上記液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。また、酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0050】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、溶融紡糸により得られる繊維を用いることができる。溶融紡糸は公知または慣用の方法により行うことができ、例えば、押出機においてマルチフィラメントを得るための繊維形成樹脂を溶融させた後、所定の紡糸温度でノズルから吐出して得ることができる。
【0051】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの単繊維繊度は、好ましくは0.5dtex以上、50dtex以下である。単繊維繊度が上記下限値を下回ると、搬送熱処理を行う際に、炉前後の室温の領域において、張力が掛かった際に単糸切れが生じやすくなる場合がある。また、単繊維繊度が上記上限値を上回ると、単糸の内部まで熱が伝わりにくく、固相重合に時間が掛かったり強度が低いものになったりする場合がある。単繊維繊度の下限値は、1dtex以上であることがより好ましく、1.5dtex以上であることがさらに好ましい。単繊維繊度の上限値は、15dtex以下であることがより好ましく、10dtex以下であることがさらに好ましい。
【0052】
また、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントでの総繊度は、好ましくは10dtex以上、50000dtex以下である。総繊度が上記下限値を下回ると、搬送熱処理を行う際に、炉内において、張力が掛かった際にマルチフィラメントが断糸しやすくなり、固相重合の進行に必要な温度まで昇温することが難しくなる場合がある。総繊度が上記上限値を上回ると、マルチフィラメントの内層の繊維まで熱が伝わりにくく、固相重合に時間が掛かったり強度が低いものになったりする場合がある。総繊度の下限値は、15dtex以上であることがより好ましく、25dtex以上であることがさらに好ましい。総繊度の上限値は、30000dtex以下であることがより好ましく、10000dtex以下であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、引き揃えてトウとして使用してもよい。トウ厚みは好ましくは0.1mm以上、10mm以下である。トウ厚みの下限値は、0.2mm以上であることがより好ましく、0.3mm以上であることがさらに好ましい。トウ厚みの上限値は、5mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることがさらに好ましい。
【0054】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、例えば、液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸を連続して搬送しながら熱処理することで、固相重合を行うことにより得られる。液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸の強度は一般的に12cN/dtex以下であるため、熱処理前後の強度比が1.5倍以上となるよう適当な条件で固相重合を行うことで、液晶ポリエステルマルチフィラメントの強度を向上させることができる。
【0055】
なお、ここで言う熱処理前後の強度比とは、熱処理後の液晶ポリエステルマルチフィラメントの引張強度を熱処理前の液晶ポリエステルマルチフィラメントの引張強度で除した値のことをいう。
【0056】
熱処理における搬送方法は、接触搬送(例えば、コンベア方式、サポートロール方式、加熱されたローラー状での熱処理方式)、非接触搬送(ロール・トゥ・ロール方式)のいずれでも構わない。また、処理経路は一直線でなくてもよく、装置内に折り返しローラーやガイドを配置して、処理経路の長さ、角度、曲率等を適宜変更して熱処理してもよい。
【0057】
また、熱処理温度は、融解を防ぐために熱処理に供する液晶ポリエステルマルチフィラメントの融点以下である必要がある。ただし、固相重合の進行と共に液晶ポリエステルマルチフィラメントの融点は上昇するため、熱処理温度を固相重合の進行状態に応じて段階的に高めることで、一定の温度で熱処理を行う場合に比し、高温で行うことができる。なお、熱処理温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができる点で好ましい。
【0058】
また、熱処理の方法は、公知の方法を用いることができ、例えば、雰囲気加熱、接触加熱等の手段が挙げられる。雰囲気としては空気、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)あるいはそれらを組み合わせた雰囲気等が好適に用いられる。また、熱処理を減圧下で行っても何等差し支えない。
【0059】
ここで、上述のごとく、ボビンに巻き取った繊維パッケージをバッチオーブンで熱処理する公知の固相重合方法では、パッケージの内外層の違いや幅方向の位置の違いから熱処理ムラが生じ、得られる液晶ポリエステルマルチフィラメントの長さ方向において、力学物性のバラつきが発生する。
【0060】
そこで、液晶ポリエステルマルチフィラメントの長さ方向にムラの無い熱処理方法を検討したところ、所定の伸長倍率で連続的に搬送しながら、融点以下の温度で、熱処理前後の強度比が一定以上となるように、液晶ポリエステルマルチフィラメントの紡糸原糸を熱処理することで、マルチフィラメントの長さ方向の全ての部分において、熱処理温度や雰囲気置換効率が同一の熱処理となり、得られる液晶ポリエステルマルチフィラメントの力学物性のバラつきが低減されることを見出した。
【0061】
また、熱処理においては、液晶ポリエステルマルチフィラメントを構成する単繊維同士が、繊維長手方向の全ての箇所において、弛みなく平行に引き揃えられるように、伸長を行いながら搬送熱処理を行うことが重要である。
【0062】
この伸長の方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、ロール・トゥ・ロール方式で熱処理を行う際に、後側の駆動ローラーの回転速度を前側の搬送ローラーの回転速度より大きくする方法や、搬送途中にダンサーローラーを使用して一定の荷重を掛けながら熱処理を行う方法、加熱されたネルソンローラーを通過させる方法、糸をピンで固定して搬送熱処理することにより、繊維が繊維軸方向に対して負の熱膨張係数を有することを利用して伸長を行う方法等が挙げられる。
【0063】
また、伸長倍率とは、伸長前後で液晶ポリエステルマルチフィラメントが何倍に伸びたかを表す数値である。伸長を速度差のついた2個のローラーで行う場合は、その速度比から算出する。ダンサーローラーの荷重による延伸等、速度比で表せない装置で伸長を行う場合は、伸長前後(熱処理前後)のマルチフィラメントの総繊度比から算出する。伸長倍率は、伸長によって強度が大きく低下しない限りは範囲を限定されるものではないが、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントの製造方法においては、1.001~1.200倍の伸長倍率で連続的に搬送しながら熱処理を行う。好ましくは1.001~1.100倍であり、さらに好ましくは1.003~1.050倍である。1.001倍未満の場合は伸長が充分ではなく単繊維同士を引き揃えることができない。1.200倍より大きい場合は、強度の大幅な低下を招きやすい。
【0064】
なお、繊維を伸長させながら熱処理を行う技術として広く延伸技術が知られているが、この延伸技術は、糸の強度や弾性率を向上させることを目的として分子配向性の低い繊維の配向を高める技術であり、本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントのように、元々高度に配向した高次構造を持つ繊維に適用することを想定した技術ではない。また、好適な処理条件も異なり、延伸技術ではできるだけ配向性を高めるために延伸倍率を1.200倍より大きく設定することが多いが、本発明では単繊維同士が引き揃えられるだけの伸長がなされればよいため、伸長倍率は1.001~1.200倍の範囲が好適であり、それ以上の倍率で処理を行うと、配向性が高まる余地が無いため、分子鎖の滑り等を経て高次構造に欠陥が発生し、強度の大幅な低下を招きやすい。以上のように、本発明の伸長技術は延伸技術とは異なる技術であるため、本発明では延伸倍率ではなく伸長倍率という用語を用いている。
【0065】
なお、熱処理時の張力に関しては、0.001~0.06cN/dtexが好ましい。0.001cN/dtexを下回る場合は糸道が安定せず、熱処理が不均一になる。また、0.06cN/dtexを上回る場合は、熱処理中に繊維が断糸しやすくなる。
【0066】
また、非接触連続熱処理が可能なオーブンの構造については、特に制限されるものではない。オーブン入口から出口まで接触体の無い、繊維搬送経路が一直線になる構造のものであってもよいし、炉内あるいは炉の側面にローラーを配した、二段以上の折り返しの繊維搬送経路を有するものであってもよい。折り返し用ローラーは自ら回転駆動するものであっても構わないし、搬送される繊維に従属して回転するものであっても構わない。
【0067】
この場合、フィブリルの発生を防ぎ、かつ均一な処理を行うため、繊維搬送経路の折り返しのために配するローラーの繊維と接触する部分の温度は、熱処理前の液晶ポリエステルマルチフィラメントの(融点-50)℃以下であることが好ましく、室温(40℃以下)であることがより好ましい。
【0068】
また、熱処理時に要する時間に関しては、発明上の観点からは特に制限されるものではなく、必要な物性の液晶ポリエステルマルチフィラメントが得られるように行えばよい。ただし、産業上の観点からは、熱処理にむやみに長い時間を課すのは製造コストの上昇を招き望ましくないため、20時間以下になるよう温度等の条件を適宜設定することが好ましく、12時間以下がより好ましく、3時間以下がさらに好ましい。
【0069】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、初期弾性率のバラつきが少ないことから、従来の液晶ポリエステルマルチフィラメントに比べて、加工工程での寸法や張力の変動を小さくすることができ、優れた品質安定性や高次加工性を発揮する。従って、テンションメンバー(例えば、電線、光ファイバー、ヒーター線芯糸、イヤホンコード等の各種電気製品のコード等)、セールクロス、ロープ、ザイル、陸上ネット、命綱、釣糸、漁網、延縄等の高次加工製品等に好適に使用できる。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明の各種特性の評価は次の方法で行った。
【0071】
<総繊度・単繊維繊度>
JIS L 1013:2010 8.3.1 A法に準拠し、大栄科学精器製作所社製検尺器を用いて液晶ポリエステルマルチフィラメントを100mカセ取りし、その重量(g)を100倍して1水準当たり2回の測定を行い、その平均値を、得られた液晶ポリエステルマルチフィラメントの総繊度(dtex)とした。また、この値を単繊維数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。
【0072】
<引張強度、初期弾性率>
JIS L 1013:2010 8.5.1に準拠し、(株)島津製作所製オートグラフ「AGS-100B」を用いて、糸長200mm、初荷重0.09cN/dtex、引張速度100mm/分の定速伸長条件にて、連続した50mの試料を用意し、1m間隔で計50回の引張試験を実施した。
【0073】
そして、破断時の応力を総繊度で除した値を引張強度(cN/dtex)、破断時の伸び率を伸度(%)とし、伸び率0.25%と1.00%の2点を通る直線の傾きを初期弾性率(cN/dtex)とした。本発明では、引張強度、伸度、初期弾性率は、上記50回の引張試験における平均値からそれぞれ算出した。
【0074】
<強度バラつき>
上述の引張強度と同じ測定条件及び計算方法で、液晶ポリエステルマルチフィラメントの連続した50mを1サンプルとして50回の測定を行い、50回の各々の強度を総繊度で除した商の標準偏差(σ)を、上記50回の引張強度の測定値の平均値(A)で除した商に、100を掛けたものを強度バラつき(%)とした。
【0075】
[数1]
強度バラつき(%)=(σ/A)×100 (1)
【0076】
<初期弾性バラつき>
上述の初期弾性率と同じ測定条件及び計算方法で、液晶ポリエステルマルチフィラメントの連続した50mを1サンプルとして50回の測定を行い、50回の各々の初期弾性率の標準偏差(σ)を、上記50回の初期弾性率の測定値の平均値(A)で除した商に、100を掛けたものを初期弾性率バラつき(%)とした。
【0077】
[数2]
初期弾性率バラつき(%)=(σ/A)×100 (2)
【0078】
<テンションメンバーとしての力学物性バラつき>
得られた液晶ポリエステルマルチフィラメントを用いた高次加工製品の例として、テンションメンバーとしての力学物性バラつきを、撚り紐を作製して評価した。具体的には、三つ打ちの撚り紐を作製し、その撚り紐の強度バラつきと初期弾性率バラつきの数値で評価した。すなわち、実施例毎に液晶ポリエステルマルチフィラメントを3糸条用意し、各々テンサーガイドを通して50Nの張力を付与後、合糸しながら撚り係数20で片撚を行い、三つ打ちの撚り紐を作製し、この撚り紐の強度バラつき及び弾性率バラつきを測定した(測定方法はフィラメントと同じ。)。
【0079】
[実施例1]
熱処理に用いる紡糸原糸として、総繊度1670dtex、フィラメント本数300本の液晶ポリエステルマルチフィラメント((株)クラレ製、商品名:ベクトランNT、融点:281℃)を用意した。
【0080】
次に、図1の工程概略図に示すように、この紡糸原糸9を巻出機1から巻き出し、以下のa~dの順に装置を通して巻き返すことで、ロール・トゥ・ロール方式で搬送熱処理を行い、本実施例の熱処理糸12を得た。
【0081】
a.第一ローラー2
b.熱処理炉3(炉管として1本のセラミック管10と、その内部を雰囲気加熱するためのヒーター部を有する制御部11を有する。炉管は3つの加熱ゾーン6~8を有しており、各加熱ゾーン6~8は、別々の温度制御が可能である。)
c.第二ローラー4
d.巻取機5
【0082】
ここで、熱処理時間(熱処理炉3の加熱ゾーン6~8を糸試料が通過する距離÷第一ローラー2の回転速度)が1時間になるように第一ローラー2の回転速度を設定した。また、伸長倍率(第二ローラー4の回転速度÷第一ローラー2の回転速度)が1.005倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定した。また、熱処理炉内は窒素雰囲気で、3つの加熱ゾーン6~8の温度は通過する順に230℃、260℃、290℃とした。なお、糸道の高さ等の調整のため、適宜、表面梨地処理のセラミックローラーやセラミックガイド(いずれも不図示)も用いた。熱処理糸の分析結果を表5に示す。
【0083】
[実施例2]
実施例1と同じ紡糸原糸、装置を用い、伸長倍率が1.050倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定したこと以外は、実施例1と同じ条件で熱処理糸12を得た。熱処理糸の分析結果を表5に示す。
【0084】
[実施例3]
実施例1と同じ紡糸原糸、装置を用い、伸長倍率が1.100倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定したこと以外は、実施例1と同じ条件で熱処理糸12を得た。熱処理糸の分析結果を表5に示す。
【0085】
[実施例4]
実施例1と同じ紡糸原糸、装置を用い、熱処理炉3の3つの加熱ゾーン6~8の温度を全て230℃にし、さらに熱処理時間が10時間、伸長倍率が1.005倍になるように第一ローラー2と第二ローラー4の回転速度を設定したこと以外は、実施例1と同じ条件で熱処理糸を得た。熱処理糸の分析結果を表5に示す。
【0086】
[実施例5]
実施例1と同じ紡糸原糸、装置を用い、熱処理時間が16時間、伸長倍率が1.005倍になるように第一ローラー2と第二ローラー4の回転速度を設定した以外は、実施例1と同じ条件で熱処理糸を得た。熱処理糸の分析結果を表5に示す。
【0087】
[実施例6]
実施例1と同じ紡糸原糸を用い、図2の工程概略図に示すように、この紡糸原糸9を巻出機1から巻き出し、以下のe~hの順に装置を通して巻き返すことで、ロール・トゥ・ロール方式で搬送熱処理を行い、本実施例の熱処理糸12を得た。
【0088】
e.第一ローラー2
f.熱処理炉3
g.ダンサーローラー13
h.巻取機5
【0089】
ここで、ダンサーローラー13の張力は50gとした。また、熱処理時間(熱処理炉3の加熱ゾーン6~8を糸試料が通過する距離÷第一ローラー2の回転速度)が1時間になるように第一ローラー2の回転速度を設定した。また、熱処理炉内は窒素雰囲気で、3つの加熱ゾーン6~8の温度は通過する順に230℃、260℃、290℃とした。なお、糸道の高さ等の調整のため、適宜、表面梨地処理のセラミックローラーやセラミックガイド(いずれも不図示)も用いた。また、熱処理糸の繊度と熱処理前の糸の繊度の比から算出した伸長倍率は1.003倍であった。熱処理糸の分析結果を表5に示す。
【0090】
[実施例7]
実施例1と同じ紡糸原糸を用い、図3の工程概略図に示すように、この紡糸原糸9を巻出機1から巻き出し、以下のi~pの順に装置を通して巻き返すことで、ロール・トゥ・ロール方式で搬送熱処理を行い、本実施例の熱処理糸12を得た。
【0091】
i.第一ローラー2
j.第一熱処理炉14(炉管として1本のセラミック管15と、その内部を雰囲気加熱するためのヒーター部16を有する。なお、加熱ゾーンは1ゾーンである。)
k.第二ローラー17
l.第二熱処理炉18(炉管として1本のセラミック管19と、その内部を雰囲気加熱するためのヒーター部20を有する。なお、加熱ゾーンは1ゾーンである。)
m.第三ローラー21
n.第三熱処理炉22(炉管として1本のセラミック管23と、その内部を雰囲気加熱するためのヒーター部24を有する。なお、加熱ゾーンは1ゾーンである。)
o.第四ローラー25
p.巻取機5
【0092】
ここで、熱処理時間(第一熱処理炉14の炉管15を糸試料が通過する距離÷第一ローラー2の回転速度と、第二熱処理炉18の炉管19を糸試料が通過する距離÷第二ローラー17の回転速度と、第三熱処理炉22の炉管23を糸試料が通過する距離÷第三ローラー21の回転速度の合計)が1時間になり、かつ第一熱処理炉14、第二熱処理炉18、及び第三熱処理炉22の伸長倍率(各熱処理炉の直後のローラーの回転速度÷直前のローラーの回転速度)がそれぞれ1.015倍になるように第1~第4ローラー2,17,21,25の回転速度を設定した(この際の総伸長倍率は1.046倍である)。また、熱処理炉内は窒素雰囲気で、第一熱処理炉14の温度を230℃、第二熱処理炉18の温度を260℃、及び第三熱処理炉22の温度を290℃とした。なお、糸道の高さ等の調整のため、適宜、表面梨地処理のセラミックローラーやセラミックガイド(いずれも不図示)も用いた。熱処理糸の分析結果を表5に示す。
【0093】
[比較例1]
実施例1と同じ紡糸原糸を、巻密度0.6g/cmになるようアルミニウム製ボビンに巻き返し、密閉型オーブンを用いて窒素雰囲気下230~290℃で16時間熱処理を行い、バッチ方式により、本比較例の熱処理糸を得た。熱処理糸の分析結果を表5に示す。
【0094】
[比較例2]
実施例1と同じ紡糸原糸、装置を用い、伸長倍率が1.000倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定した以外は、実施例1と同じ条件で熱処理糸を得た。熱処理糸の分析結果を表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
表5に示すように、初期弾性率バラつきが3.0%以下であり、引張強度が18cN/dtex以上である実施例1~7の液晶ポリエステルマルチフィラメントにおいては、比較例1~2に比し、三つ打ちの撚り紐の強度バラつき及び初期弾性率バラつきが小さいため、品質が安定しており、力学物性利用率が高いコンパクトな高次加工製品が作製できることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の液晶ポリエステルマルチフィラメントは、テンションメンバー(電線、光ファイバー、ヒーター線芯糸、イヤホンコード等の各種電気製品のコード等)、セールクロス、ロープ、ザイル、陸上ネット、命綱、釣糸、漁網、延縄等の高次加工製品等に用いられる繊維として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0098】
1 巻出機
2 第一ローラー
3 熱処理炉
4 第二ローラー
5 巻取機
6~8 熱処理炉3の加熱ゾーン
9 紡糸原糸
10 熱処理炉3の炉管(セラミック管)
11 熱処理炉3のヒーター部を有する制御部
12 熱処理糸
13 ダンサーローラー
14 第一熱処理炉
15 第一熱処理炉14の炉管(セラミック管)
16 第一熱処理炉14のヒーター部
17 第二ローラー
18 第二熱処理炉
19 第二熱処理炉18の炉管(セラミック管)
20 第二熱処理炉18のヒーター部
21 第三ローラー
22 第三熱処理炉
23 第三熱処理炉22の炉管(セラミック管)
24 第三熱処理炉22のヒーター部
25 第四ローラー
図1
図2
図3