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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-23
(45)【発行日】2023-01-31
(54)【発明の名称】粒子、浄化処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20230124BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230124BHJP
   C02F 3/10 20230101ALI20230124BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20230124BHJP
【FI】
C02F1/28 A
B01J20/28 Z
C02F3/10 A
B01J20/24 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018092235
(22)【出願日】2018-05-11
(65)【公開番号】P2019195792
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2021-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】518166520
【氏名又は名称】三原 義広
(73)【特許権者】
【識別番号】000146445
【氏名又は名称】株式会社常光
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(72)【発明者】
【氏名】三原 義広
(72)【発明者】
【氏名】佐野 恵一
(72)【発明者】
【氏名】薬袋 博信
(72)【発明者】
【氏名】羽田 典久
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-078911(JP,A)
【文献】特開2016-137442(JP,A)
【文献】特開2014-032107(JP,A)
【文献】特開2013-173863(JP,A)
【文献】特開昭60-030684(JP,A)
【文献】特開平06-276961(JP,A)
【文献】特開2013-171017(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0229930(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
B01J 20/00 - 20/34
G21F 9/12
C02F 3/10
A23K 40/30 - 40/35
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、前記コア部を被覆するシェル部とを含む粒子であり、
前記コア部は、生体活動により気体を生成する微生物と、前記微生物に資化される資化物質と、マトリックス成分とを含み、
前記シェル部は、前記コア部には実質的に含まれない成分を含み、
前記シェル部における前記コア部には実質的に含まれない成分の含有量は、前記シェル部の全質量に対して30~100質量%であり、
前記微生物が、酵母菌、腸内菌、乳酸菌、好気性芽胞菌、カビ、藻類、及びプランクトンからなる群より選ばれる1種以上である、粒子。
【請求項2】
前記気体が、二酸化炭素、酸素、水素、窒素、及びメタンからなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記微生物が酵母菌であり、前記資化物質が糖類である、請求項1又は2に記載の粒子。
【請求項4】
前記マトリックス成分は、物理ゲル、化学ゲル、及び高分子化合物からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の粒子を用いて、前記粒子よりもその比重が小さく、且つ、被除去成分を含む水性媒体を浄化する浄化処理方法であって、
前記粒子を前記水性媒体中に投与する工程と、
前記粒子が、前記微生物の生体活動により生成した気体の作用によって前記水性媒体内において自律して沈降と浮上を繰り返しながら、前記被除去成分を吸着する工程と、
前記水性媒体の液面に浮上した前記粒子を回収する工程と、を含む浄化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子、及び、それを用いた浄化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境浄化(例えば、水質浄化)を目的として、環境汚染物質を吸着除去可能な吸着剤が使用されている。
例えば、特許文献1では、生体活動により気体を生成する微生物と、微生物の資化物質を含む自律浮沈型のゲルビーズを開示している。
特許文献1のゲルビーズは、水性媒体中に投与されると一旦沈降するものの、暫くすると、ゲルビーズ内の微生物の生体活動の過程により生成する気体が浮きとして作用することで、水性媒体-空気界面(以下「液面」ともいう。)に浮上する。一方、液面付近は、水底と比べると水圧が小さいため、ゲルビーズが液面に浮上するにつれて、ゲルビーズ内の気体はゲルビーズ外に放出される。この結果、浮きを失ったゲルビーズは自重により、再度沈降する。ゲルビーズは、水性媒体内で上述した浮沈を繰り返し、微生物の資化により資化物質が消尽されて水性媒体よりも比重が小さくなった後、液面に浮上し、その後回収される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-137442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、環境洗浄用途以外のその他の用途への粒子の応用が求められている。
そこで、本発明は、多層構成の粒子を提供することを課題とする。
また、本発明は、上記粒子を用いた浄化処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0006】
〔1〕 コア部と、上記コア部を被覆するシェル部とを含み、
上記コア部は、生体活動により気体を生成する微生物と、上記微生物に資化される資化物質と、マトリックス成分とを含み、
上記シェル部は、上記コア部には実質的に含まれない成分を含む、粒子。
〔2〕 上記微生物が、酵母菌、腸内菌、乳酸菌、好気性芽胞菌、嫌気性菌、カビ、藻類、及びプランクトンからなる群より選ばれる1種以上である、〔1〕に記載の粒子。
〔3〕 上記気体が、二酸化炭素、酸素、水素、窒素、及びメタンからなる群より選ばれる1種以上である、〔1〕又は〔2〕に記載の粒子。
〔4〕 上記微生物が酵母菌であり、上記資化物質が糖類である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の粒子。
〔5〕 上記マトリックス成分は、物理ゲル、化学ゲル、及び高分子化合物からなる群より選ばれる1種以上である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の粒子。
〔6〕 〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の粒子を用いて、上記粒子よりもその比重が小さく、且つ、被除去成分を含む水性媒体を浄化する浄化処理方法であって、
上記粒子を前記水性媒体中に投与する工程と、
上記粒子が、上記微生物の生体活動により生成した気体の作用によって水性媒体内において自律して沈降と浮上を繰り返しながら、被除去成分を吸着する工程と、
水性媒体の液面に浮上した粒子を回収する工程と、を含む浄化処理方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、多層構成の粒子を提供できる。
また、本発明によれば、上記粒子を用いた浄化処理方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の粒子及び浄化処理方法について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。例えば、本発明の一態様としては、自律浮沈機能を持つコアシェル型高分子ゲル粒子及びそれを用いた浄化処理技術が挙げられる。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0009】
[粒子]
本発明の粒子は、
コア部と、上記コア部を被覆するシェル部とを含み、
上記コア部は、生体活動により気体を生成する微生物と、上記微生物に資化される資化物質と、マトリックス成分とを含み、
上記シェル部は、上記コア部には実質的に含まれない成分を含む。
つまり、粒子は、いわゆるコア-シェル型構造を有する。
【0010】
〔粒子の作用〕
本発明の粒子は、撹拌等の外部からの助力を必要とせず、溶液内を自律的に浮き沈みすることが可能な粒子(自律浮沈粒子)である。
【0011】
粒子のコア部は、生体活動により気体を生成する微生物と、上記微生物に資化される資化物質と、マトリックス成分とを含む。
粒子は、粒子よりも比重の小さい水性媒体中に投与されると一旦沈降するが、暫くすると、コア部内において、微生物の生体活動の過程によって気体が生成し(なお、例えば、微生物が酵母菌であり、且つ資化物質が糖類(例えばグルコース)である場合、二酸化炭素が気体として発生する。)、この気体が浮きとして作用することで、水性媒体-空気界面(液面)に浮上する。液面付近は水底と比べると水圧が小さいため、浮上に伴う水圧の低下により、コア部内に発生した気体は、体積が徐々に増大してその一部が粒子から放出され、粒子に付着する。粒子に付着した気体が浮きとして作用すると考えられる。
粒子が液面に浮上すると、粒子内の気体及び粒子に付着した気体は、粒子から離脱する。この結果、浮きを失った粒子は自重により、再度沈降する。粒子は、水性媒体内で上述した浮沈を繰り返し(以下において、粒子が浮沈を繰り返す挙動を「鉛直回遊挙動」ともいう。)、微生物の資化により資化物質が消尽され水性媒体よりも比重が小さくなった後、液面に浮く。
【0012】
上述した通り、本発明の粒子は、自律浮沈に寄与する機能を有するだけでなく、各用途に応じて要求される機能をシェル部に付与することで、様々な用途への応用が可能となる。
例えば、シェル部がプルシアンブルーを含む場合、プルシアンブルーは選択的にセシウムを吸着するため、上記粒子は、セシウム吸着用自律浮沈粒子として機能し得る。つまり、上記構成の粒子は、鉛直回遊挙動により、水性媒体内に存在する被除去成分であるセシウムを効率よく吸着し、最終的に液面に浮くことで回収可能となる。
【0013】
以下、本発明の粒子の構成について説明する。
上記粒子は、コア部と、上記コア部を被覆するシェル部とを含む。
上記シェル部は、単層であっても、複層であってもよい。また、シェル部は、コア部の表面の少なくとも一部を覆っていればよく、コア部の表面の全周囲を覆っていることが好ましい。
上記粒子の形状は特に制限されず、球状、板状、及び針状等が挙げられる。なお、ここでいう「球状」とは、真球状だけでなく、回転楕円体、及び卵形等の形状も含む。
上記粒子の平均粒径は特に制限されないが、例えば、1cm以下が好ましく、0.6cm以下がより好ましく、0.1cm以下が更に好ましく、500μm以下が特に好ましく、200μm以下が最も好ましい。なお、下限値は、例えば、50μm以上である。
なお、平均粒径とは、10個以上の粒子の長径を測定し、それらを算術平均して得られる値である。
【0014】
〔コア部〕
コア部は、生体活動により気体を生成する微生物と、上記微生物に資化される資化物質と、マトリックス成分とを含む。
以下、コア部が含む各成分について詳述する。
【0015】
<微生物>
コア部は、生体活動により気体を生成する微生物を含む。
微生物による生体活動としては特に制限されず、例えば、微生物による代謝、分解、及び光合成が挙げられる。
微生物の生体活動により生成される気体の種類は特に制限されず、例えば、二酸化炭素、酸素、水素、窒素、及びメタン等が挙げられる。
【0016】
微生物としては特に制限されないが、例えば、酵母菌、腸内菌、乳酸菌、好気性芽胞菌、嫌気性菌、カビ(例えば、麹カビ)、藻類、及びプランクトン等が挙げられる。
上記微生物のうち、酵母菌、腸内菌、及び乳酸菌は、発酵により、主に、二酸化炭素を生成し得る。
また、一部の好気性芽胞菌及び嫌気性菌は、発酵により、主に、二酸化炭素、及び/又は水素を生成し得る。
麹カビは、糖化により澱粉(澱粉は、後述する資化物質又は後述する重り材となり得る。)を分解して二酸化炭素を生成し得る。
【0017】
藻類は、光合成又は呼吸により酸素を生成し得る。特に、藻類の一種であるラン藻は、水素も生成し得る。
【0018】
プランクトンは、光合成又は摂食により二酸化炭素を生成し得る。
【0019】
微生物としては、なかでも、サッカロミケス属に属する微生物が好ましい。
サッカロミケス属に属する微生物としては、Saccharomyces bayanus、Saccharomyces boulardii、Saccharomyces bulderi、Saccharomyces cariocanus、Saccharomyces cariocus、Saccharomyces cerevisiae、Saccharomyces chevalieri、Saccharomyces dairenensis、Saccharomyces ellipsoideus、Saccharomyces florentinusSaccharomyces kluyveri、Saccharomyces martiniae、Saccharomyces monacensis、Saccharomyces norbensis、Saccharomyces paradoxus、Saccharomyces pastorianus、Saccharomyces spencerorum、Saccharomyces turicensis、Saccharomyces unisporus、Saccharomyces uvarum、又はSaccharomyces zonatusがより好ましい。
比較的入手が容易であり、二酸化炭素の生成能力がより優れる点で、Saccharomyces cerevisiaeが更に好ましい。
【0020】
上記微生物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記粒子中、微生物の含有量(微生物が複数種含まれる場合にはその合計量)は特に制限されないが、上記コア部に含まれるマトリックス成分の全質量に対して、1~1,000質量%が好ましい。
【0021】
<資化物質>
コア部は、微生物に資化される資化物質を含む。
資化物質は、微生物の種類に応じて適宜選択される。微生物は、資化により、気体を生成する。
微生物が酵母菌である場合、資化物質としては、例えば、グルコース等の糖類、及び、グルコース等の糖類の原料となる澱粉と澱粉を分解して糖類を生成する酵素との混合物を使用できる。
微生物が乳酸菌である場合、資化物質としては、例えば、グルコース、及び澱粉等が挙げられる。
微生物が麹カビである場合、資化物質としては、例えば、澱粉、及びセルロース等固体有機物が挙げられる。なお、微生物がカビである場合、カビは固体の有機物に担持されていることが好ましい。
微生物が藻類である場合、資化物質としては、例えば、有機酸、アルコール類、ビタミン、及び栄養塩が挙げられる。
微生物がプランクトンである場合、資化物質としては、例えば、植物プランクトン、及び栄養塩等が挙げられる。
【0022】
上記資化物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記粒子中、資化物質の含有量(資化物質が複数種含まれる場合にはその合計量)は特に制限されないが、上記コア部に含まれるマトリックス成分の全質量に対して、10~100,000質量%が好ましい。
なお、上記粒子中の微生物は、外界に存在する物質を資化物質として利用することもできる。このため、上記粒子は、資化物質を最小限の含有量で含む構成であってもよい。
【0023】
<マトリックス成分>
マトリックス成分は、上記微生物と上記資化物質とを保持可能な成分であれば特に制限されず、例えば、ゲル状物質及び高分子化合物等が挙げられる。なお、ここでいう高分子化合物は、ゲル状物質を含まない。
上記ゲル状物質の形態としては、物理ゲル又は化学ゲルが好ましい。
なお、ここでいう「物理ゲル」とは、水素結合、イオン結合、及びキレート形成等により高分子が架橋されることにより形成されるゲルを意味する。また、ここでいう「化学ゲル」とは、共有結合によって高分子が架橋されることにより形成されるゲルを意味する。
【0024】
上記ゲル状物質(物理ゲル、化学ゲル)としては、例えば、脂肪酸、天然油脂系脂肪酸、12-ヒドロキシステアリン酸、β-ラクトグロブリン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサン、カルボキシメチルセルロース、ポリ乳酸、及びポリエチレングリコールからなる群より選ばれるゲル前駆体成分をゲル化したもの;イオン液体/ポリジメチルシロキサン(IL/PDMS)ゲル;シリカゲル;シリコーンゲル;ポリメタクリル酸、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリビニルメチルエーテル、ポリロタキサン、及びゼラチンからなる群より選ばれるゲル前駆体成分をゲル化したもの;等が挙げられる。
【0025】
上述したゲル前駆体成分をゲル化する方法は、使用する各ゲル前駆体成分に応じて適宜選択できる。
例えば、アルギン酸のゲル化は、アルギン酸及び/又はアルギン酸塩を溶解した水溶液と金属塩とを混合することにより実施できる。
なお、ゲル化に用いる金属塩の金属種としては特に制限されないが、例えば、カルシウム、鉄、マンガン、又は亜鉛が好ましく、カルシウム又は鉄がより好ましく、カルシウムが更に好ましい。
【0026】
また、上記高分子化合物としては、例えば、高吸水性樹脂、及びイオン交換樹脂等が挙げられる。
上記高吸水性樹脂としては、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN-ビニルピロリドン等の親水性モノマーに由来する繰り返し単位を含む樹脂が挙げられる。
上記イオン交換樹脂としては、スチレン又はジビニルベンゼンに由来する繰り返し単位を含む樹脂が挙げられる。
【0027】
上記マトリックス成分としては、なかでも、微生物により生成された気体をコア部外へ放出しやすい材料であることが好ましく、物理ゲル又は化学ゲルがより好ましい。
【0028】
上記マトリックス成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
<溶媒>
コア部は、溶媒を含んでいてもよい。
溶媒としては、水及び有機溶媒が挙げられ、水が好ましい。
水は、微生物の生体活動に用いられたり、微生物が生成した気体を溶解してコア部から気体を排出させる機能を有する。また、水は、コア内の資化物質を保持しつつ、外界からコア部内へ取り込まれる物質(資化物質も含む)の輸送機能も有する。
【0030】
上記粒子中、溶媒の含有量(溶媒が複数種含まれる場合にはその合計量)は特に制限されないが、上記コア部に含まれるマトリックス成分の全質量に対して、10~100,000質量%が好ましい。
【0031】
<その他の成分>
上記コア部は、更に他の成分を含んでいてもよく、例えば、重り材及び浮き材が挙げられる。
重り材とは、粒子を水性媒体へ投与した直後においては重りとして寄与し、粒子が鉛直回遊挙動を示す間に水性媒体へ溶解され得る成分、又は、微生物により資化される成分を意図する。
重り材としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、グルコース、澱粉、グリセロール、及び麦芽糖等が挙げられる。
また、浮き材とは、粒子の溶液内での浮沈過程において浮きとして寄与し得る成分であり、例えば、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0032】
〔シェル部〕
シェル部は、上記コア部には実質的に含まれない成分(以下「コア部非含有成分」ともいう。)を含む。
ここで「コア部非含有成分」とは、コア部において、コア部の全質量に対して3質量%以下の成分を意図する。言い換えると、コア部非含有成分とは、コア部には含まれない成分(つまり、コア部の全質量に対して0質量%の成分)と、コア部に含まれる成分であるが、コア部の全質量に対して3質量%以下の成分と、からなる。コア部非含有成分は、なかでも、コア部には含まれない成分であることが好ましい。
【0033】
コア部非含有成分としては、粒子を適用する各用途に応じた機能を発揮する成分が挙げられる。例えば、上記粒子をセシウム吸着用自律浮沈粒子として用いる場合、コア部非含有成分としてはプルシアンブルー(Fe[Fe(CN))が好ましい。
【0034】
シェル部におけるコア部非含有成分の含有量は、シェル部の全質量に対して30~100質量%が好ましく、50~100質量%がより好ましく、80~100質量%が更に好ましい。
【0035】
シェル部には、コア部に含まれる微生物、資化物質、及び、マトリックス成分の少なくとも1つが含まれていてもよい。
シェル部には、コア部に含まれてもよい溶媒が含まれていてもよい。
【0036】
〔粒子の製造方法〕
以下に、粒子の製造方法について説明する。
粒子の製造方法は特に制限されず、微生物、資化物質、及びマトリックス成分を含む前駆体粒子を形成した後、前駆体粒子の外側領域のみにコア部非含有成分を導入し、粒子を形成する方法(方法A)や、コア部を形成した後、コア部非含有成分を含むシェル部をコア部上に形成する方法(方法B)が挙げられる。
なお、方法Aにおいては、前駆体粒子の外側領域のみに、コア部非含有成分を形成し得る成分を導入して、前駆体粒子の外側領域においてコア部非含有成分を形成してもよい。例えば、コア部非含有成分がプルシアンブルー(Fe[Fe(CN))である場合、まず、微生物、資化物質、及びマトリックス成分を含む前駆体粒子と鉄イオンを含む溶液とを接触させて、前駆体粒子の外側領域のみに鉄イオンを浸透させる。次に、更に、得られた前駆体粒子とヘキサシアノ鉄(III)酸塩を含む溶液とを接触させて、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩を外側領域に浸透させて、鉄イオンとヘキサシアノ鉄(III)酸塩とを外側領域において作用させて、プルシアンブルーを形成してもよい。
また、微生物、資化物質、マトリックス成分、及び、ヘキサシアノ鉄(III)酸塩を含む前駆体粒子を用意し、次に、上記前駆体粒子と鉄イオンを含む溶液とを接触させて、鉄イオンを前駆体粒子の外側領域に浸透させて、鉄イオンとヘキサシアノ鉄(III)酸塩とを外側領域において作用させて、プルシアンブルーを形成してもよい。
【0037】
[粒子の用途]
上述した粒子の用途は特に制限されないが、例えば、被除去成分を含む溶液の浄化処理方法に適用できる。
以下に、本発明の浄化処理方法について説明する。
【0038】
〔浄化処理方法〕
本発明の浄化処理方法は、上述した粒子を用いて、粒子よりもその比重が小さく、且つ、被除去成分を含む水性媒体を浄化する浄化処理方法であって、
上記粒子を上記水性媒体中に投与する工程と、
上記粒子が、上記微生物の生体活動により生成した気体の作用によって上記水性媒体内において自律して沈降と浮上を繰り返しながら、上記被除去成分を吸着する工程と、
水性媒体の液面に浮上した上記粒子を回収する工程と、を含む。
【0039】
水性媒体としては特に制限されず、例えば、水、溶質を含む水溶液、分散質を含む分散水溶液、及び溶質と分散質とを含む分散水溶液等が挙げられる。
また、上記水性媒体の比重は、上記粒子の比重よりも小さい。水性媒体の比重は、上記粒子中のコア部に含まれる微生物の種類及び含有量、並びに自律浮沈の周期等を考慮して適宜決定できる。上記水性媒体の比重は、なかでも、上記粒子の比重に対して、0.55倍以上が好ましく、0.65倍以上がより好ましく、0.75倍以上が更に好ましく、0.80倍以上が特に好ましく、0.95倍以下が好ましく、0.94倍以下がより好ましく、0.93倍以下が更に好ましく、0.91倍以下が特に好ましい。
【0040】
上記粒子は、浄化処理方法に供されるまで、微生物の生体活動を抑制する観点から、冷蔵、冷凍、又は凍結乾燥で保存されることが好ましい。
【0041】
被除去成分としては特に制限されず、例えば、セシウム等が挙げられる。
【実施例
【0042】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0043】
[粒子Aの作製]
以下に示す手順により、コア部と、コア部の周囲に配置されたプルシアンブルーの被覆層(シェル部)とを含む粒子Aを作製した。
【0044】
試験管内に、炭酸水素ナトリウム0.75g、ドライイースト0.30g、及びグルコース1.25gを入れて撹拌混合し、混合物1Aを調製した。
次に、アルギン酸ナトリウム粉末1.00gを蒸留水100mLに加えて、1質量%アルギン酸水溶液を調製し、得られた上記アルギン酸水溶液25gを、氷冷した試験管内の上記混合物1Aに添加した後、攪拌し、混合物2Aを調製した。そして、得られた混合物2Aをペリスタポンプで送液して、0.1mol/L硝酸カルシウム水溶100mL(pH5.0、5℃)に滴下し、粒状物1Aを作製した。
【0045】
次に、塩化鉄(III)2.50gを蒸留水100mLに加えて、2.5質量%塩化鉄(III)水溶液を調製し、この水溶液中に上記粒状物1Aを1時間浸漬させて、粒状物2Aを得た。
更に、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム0.5gを蒸留水100mLに加えて、0.5質量%ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム水溶液を調製し、この水溶液中に上記粒状物2Aを10分間浸漬させ、粒子A(平均粒径:約3mm)を得た。
【0046】
得られた粒子Aを輪切りにして拡大鏡で観察したところ、粒子Aは、コア部と、コア部の周囲に配置されたプルシアンブルーを含む被覆層(シェル部に該当する。被膜層の厚みは、約0.8mmである。)とからなる構成であることを確認した。なお、プルシアンブルー(Fe[Fe(CN))は、コア部には実質的に含まれていない成分に該当する。
【0047】
[粒子Bの作製]
以下に示す手順により、コア部と、コア部の周囲に配置されたプルシアンブルーの被覆層(シェル部)とを含む粒子Bを作製した。
【0048】
試験管内に、炭酸水素ナトリウム0.75g、ドライイースト0.3g、グルコース1.25g、及びヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム0.1gを入れて撹拌混合し、混合物1Bを調製した。
次に、アルギン酸ナトリウム粉末1.00gを蒸留水100mLに加えて、1質量%アルギン酸水溶液を調製し、得られた上記アルギン酸水溶液25gを、氷冷した試験管内の混合物1Bに添加して、混合物2Bを調製した。そして、得られた混合物2Bをペリスタポンプで送液して、0.1mol/L硝酸カルシウム水溶100mL(pH5.0、5℃)に滴下し、粒状物Bを作製した。
【0049】
次に、塩化鉄(III)2.50gを蒸留水100mLに加えて、2.5質量%塩化鉄(III)水溶液を調製し、この水溶液中に上記粒状物Bを10分間浸漬させて、粒子B(平均粒径:約3mm)を得た。
【0050】
得られた粒子Bを輪切りにして拡大鏡で観察したところ、粒子Bは、コア部と、コア部の周囲に配置されたプルシアンブルーの被覆層(シェル部に該当する。被膜層の厚みは、約0.8mmである。)とからなる構成であることを確認した。なお、プルシアンブルー(Fe[Fe(CN))は、コア部には実質的に含まれていない成分に該当する。
【0051】
〔浄化処理試験〕
また、上記粒子A及び上記粒子Bを用いて、セシウムイオンの濃度が100ppmに調製された汚染水の洗浄処理試験を実施した。なお、汚染水は、セシウムイオンと水とを含む溶液に該当する。
上記粒子A及び上記粒子Bは、その比重が汚染水よりも大きいため汚染水に添加した直後には沈降したが、いずれの粒子についても複数回の浮沈を繰り返し(鉛直回遊挙動を示し)、その後、液面に浮上した。
液面に浮上した粒子A及び上記自粒子Bを回収した後、汚染水中のセシウムイオンの濃度を原子吸光光度法にて求めたところ、粒子A及び粒子Bを汚染水に添加する前と比べて、セシウム濃度が大幅に低減していることが確認された。