(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】気泡測定装置及び気泡測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 29/032 20060101AFI20230126BHJP
【FI】
G01N29/032
(21)【出願番号】P 2018200052
(22)【出願日】2018-10-24
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】堀内 秀樹
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-525968(JP,A)
【文献】特表2004-504600(JP,A)
【文献】特開2001-324481(JP,A)
【文献】特開2015-102416(JP,A)
【文献】特開2017-215178(JP,A)
【文献】特開2012-137468(JP,A)
【文献】特開2009-285571(JP,A)
【文献】米国特許第06457346(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第108175909(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中へと照射される超音波の周波数を複数種類に制御する超音波制御部と、
水中の気泡から反射された超音波の強度を複数種類の周波数で比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する気泡測定部と、を備え
、
前記超音波制御部は、超音波の周波数を3種類以上に制御し、
前記気泡測定部は、超音波の強度の周波数依存性が単調に変化しピークを有さないときには、3種類以上の周波数のうちの両端近傍の周波数で超音波の強度を比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する
ことを特徴とする気泡測定装置。
【請求項2】
前記気泡測定部は、(1)前記両端近傍の周波数での超音波の強度が相対的に低いとともに、高周波数側の一端近傍での超音波の強度が低周波数側の一端近傍での超音波の強度より高いときには、水中の気泡の密度が相対的に低いとともに、水中の気泡の大きさが前記高周波数側の一端近傍での超音波の波長より小さいと判定し、
(2)前記両端近傍の周波数での超音波の強度が相対的に低いとともに、前記低周波数側の一端近傍での超音波の強度が前記高周波数側の一端近傍での超音波の強度より高いときには、水中の気泡の密度が相対的に低いとともに、水中の気泡の大きさが前記低周波数側の一端近傍での超音波の波長より大きいと判定し、
(3)前記両端近傍の周波数での超音波の強度が相対的に高いとともに、前記高周波数側の一端近傍での超音波の強度が前記低周波数側の一端近傍での超音波の強度と同程度であるときには、水中の気泡の密度が相対的に高いと判定する
ことを特徴とする、請求項
1に記載の気泡測定装置。
【請求項3】
水中へと照射される超音波の周波数を複数種類に制御する超音波制御部と、
水中の気泡から反射された超音波の強度を複数種類の周波数で比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する気泡測定部と、を備え
、
前記超音波制御部は、超音波の周波数を3種類以上に制御し、
前記気泡測定部は、超音波の強度の周波数依存性が単調に変化せずピークを有するときには、3種類以上の周波数のうちの前記ピークでの周波数及び一端近傍での周波数で超音波の強度を比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する
ことを特徴とする気泡測定装置。
【請求項4】
前記気泡測定部は、前記ピークでの周波数及び前記一端近傍での周波数での超音波の強度が相対的に低いとともに、前記ピークでの周波数での超音波の強度が前記一端近傍での周波数での超音波の強度より高いときには、水中の気泡の密度が相対的に低いとともに、水中の気泡の大きさが前記ピークでの周波数での超音波の波長に応じて決まると判定する
ことを特徴とする、請求項
3に記載の気泡測定装置。
【請求項5】
水中へと照射される超音波の周波数を複数種類に制御する超音波制御ステップと、
水中の気泡から反射された超音波の強度を複数種類の周波数で比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する気泡測定ステップと、
を順にコンピュータに実行させ
、
前記超音波制御ステップは、超音波の周波数を3種類以上に制御し、
前記気泡測定ステップは、超音波の強度の周波数依存性が単調に変化しピークを有さないときには、3種類以上の周波数のうちの両端近傍の周波数で超音波の強度を比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する
ことを特徴とする気泡測定プログラム。
【請求項6】
水中へと照射される超音波の周波数を複数種類に制御する超音波制御ステップと、
水中の気泡から反射された超音波の強度を複数種類の周波数で比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する気泡測定ステップと、
を順にコンピュータに実行させ
、
前記超音波制御ステップは、超音波の周波数を3種類以上に制御し、
前記気泡測定ステップは、超音波の強度の周波数依存性が単調に変化せずピークを有するときには、3種類以上の周波数のうちの前記ピークでの周波数及び一端近傍での周波数で超音波の強度を比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する
ことを特徴とする気泡測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水中の気泡を高い精度で検出する超音波計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波計測技術を用いて、水中の物標を高い精度で検出することができる(例えば、特許文献1を参照)。例えば、プランクトン等からの反射信号のドップラーシフトに基づいて、船舶の対水速度や潮流の速度を検出することができる。そして、魚群や海底からの反射信号の伝搬遅延時間に基づいて、魚群や深度を探知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、船底が海水から受ける抵抗を低減するために、船底近傍の水中に気泡を故意に発生させている。しかし、船底近傍の水中に気泡が故意に発生されているとともに、バルバスバウ近傍の水中に気泡が自然に発生されているため、水中の気泡より遠方にある水中の物標を高い精度で検出することができないとともに、プロペラへの水中の気泡の巻き込みにより推進力を発揮することができない。そこで、船底近傍、バルバスバウ近傍及びプロペラ近傍において、水中の気泡の密度及び大きさを高い精度で測定する必要がある。
【0005】
ここで、従来技術では、水中へと照射される超音波の周波数を1種類のみに制御しているとともに、水中の気泡から反射された超音波の強度を1種類のみの周波数で測定しているため、水中の気泡の密度及び大きさを高い精度で測定することができない。例えば、水中へと照射される超音波の周波数を1種類の高周波数のみに制御しているとともに、水中の気泡から反射された超音波の高い強度を1種類の高周波数のみで測定していることを考える。しかし、当該高周波数での超音波の高い強度が、水中の気泡の大きさが当該高周波数での超音波の波長より小さいことによるレイリー散乱によるものか、水中の気泡の密度が大きいことによる多重散乱によるものか、判別することができない。
【0006】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、超音波計測技術を用いて水中の気泡を検出するときに、水中の気泡の密度及び大きさを高い精度で測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、水中へと照射される超音波の周波数を複数種類に制御するとともに、水中の気泡から反射された超音波の強度を複数種類の周波数で測定することにより、水中の気泡の密度及び大きさを測定するためのパラメータ数を増やすこととした。
【0008】
具体的には、本開示は、水中へと照射される超音波の周波数を複数種類に制御する超音波制御部と、水中の気泡から反射された超音波の強度を複数種類の周波数で比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する気泡測定部と、を備えることを特徴とする気泡測定装置である。
【0009】
また、本開示は、水中へと照射される超音波の周波数を複数種類に制御する超音波制御ステップと、水中の気泡から反射された超音波の強度を複数種類の周波数で比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する気泡測定ステップと、を順にコンピュータに実行させるための気泡測定プログラムである。
【0010】
これらの構成によれば、超音波計測技術を用いて水中の気泡を検出するときに、水中の気泡の密度及び大きさを高い精度で測定することができる。
【0011】
また、本開示は、前記超音波制御部は、超音波の周波数を3種類以上に制御し、前記気泡測定部は、超音波の強度の周波数依存性がピークを有さないときには、3種類以上の周波数のうちの両端近傍の周波数で超音波の強度を比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定することを特徴とする気泡測定装置である。
【0012】
この構成によれば、水中の気泡の密度及び大きさを測定するためのパラメータとして、互いに離れた周波数での超音波の強度のみを採用する。よって、水中の気泡の密度及び大きさを測定するためのパラメータ数をできるかぎり減らしたうえで、水中の気泡の密度及び大きさを高い精度でかつ高い速度で測定することができる。
【0013】
また、本開示は、前記気泡測定部は、(1)前記両端近傍の周波数での超音波の強度が相対的に低いとともに、高周波数側の一端近傍での超音波の強度が低周波数側の一端近傍での超音波の強度より高いときには、水中の気泡の密度が相対的に低いとともに、水中の気泡の大きさが前記高周波数側の一端近傍での超音波の波長より小さいと判定し、(2)前記両端近傍の周波数での超音波の強度が相対的に低いとともに、前記低周波数側の一端近傍での超音波の強度が前記高周波数側の一端近傍での超音波の強度より高いときには、水中の気泡の密度が相対的に低いとともに、水中の気泡の大きさが前記低周波数側の一端近傍での超音波の波長より大きいと判定し、(3)前記両端近傍の周波数での超音波の強度が相対的に高いとともに、前記高周波数側の一端近傍での超音波の強度が前記低周波数側の一端近傍での超音波の強度と同程度であるときには、水中の気泡の密度が相対的に高いと判定することを特徴とする気泡測定装置である。
【0014】
この構成によれば、測定結果が、(1)水中の気泡の大きさが当該高周波数での超音波の波長より小さいことによるレイリー散乱によるものか、(2)水中の気泡の大きさが当該低周波数での超音波の波長より大きいことによる共鳴領域以上によるものか、(3)水中の気泡の密度が大きいことによる多重散乱によるものか、判別することができる。
【0015】
また、本開示は、前記超音波制御部は、超音波の周波数を3種類以上に制御し、前記気泡測定部は、超音波の強度の周波数依存性がピークを有するときには、3種類以上の周波数のうちの前記ピークでの周波数及び一端近傍での周波数で超音波の強度を比較することにより、水中の気泡の密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定することを特徴とする気泡測定装置である。
【0016】
この構成によれば、水中の気泡の密度及び大きさを測定するためのパラメータとして、ピークでの周波数及びピークから離れた周波数での超音波の強度のみを採用する。よって、水中の気泡の密度及び大きさを測定するためのパラメータ数をできるかぎり減らしたうえで、水中の気泡の密度及び大きさを高い精度でかつ高い速度で測定することができる。
【0017】
また、本開示は、前記気泡測定部は、前記ピークでの周波数及び前記一端近傍での周波数での超音波の強度が相対的に低いとともに、前記ピークでの周波数での超音波の強度が前記一端近傍での周波数での超音波の強度より高いときには、水中の気泡の密度が相対的に低いとともに、水中の気泡の大きさが前記ピークでの周波数での超音波の波長に応じて決まると判定することを特徴とする気泡測定装置である。
【0018】
この構成によれば、測定結果が、水中の気泡の大きさが当該ピークでの周波数での超音波の波長に応じて決まることによる共鳴領域近傍によるものと、判別することができる。
【発明の効果】
【0019】
このように、本開示は、超音波計測技術を用いて水中の気泡を検出するときに、水中の気泡の密度及び大きさを高い精度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示の超音波計測システムの構成を示す図である。
【
図2】本開示の気泡測定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】本開示の気泡測定処理の第1の超音波制御方法を示す図である。
【
図4】本開示の気泡測定処理の第2の超音波制御方法を示す図である。
【
図5】本開示の気泡測定処理の積分強度算出方法を示す図である。
【
図6】本開示の気泡測定処理の積分強度の周波数依存性を示す図である。
【
図7】本開示の気泡測定処理の積分強度の周波数依存性を示す図である。
【
図8】本開示の気泡測定処理の積分強度の周波数依存性を示す図である。
【
図9】本開示の気泡測定処理で照合される格納テーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0022】
本開示の超音波計測システムの構成を
図1に示す。本開示の超音波計測システムは、超音波振動子1、気泡測定装置2(超音波制御部21及び気泡測定部22から構成される。)及び物標表示装置3から構成される。気泡測定装置2は、
図2に示す気泡測定プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0023】
超音波振動子1は、照射信号を送信し、反射信号を受信し、例えば、船舶Sの船首の船底に配置される。気泡測定装置2は、反射信号に基づいて、水中の気泡Bを検出し、例えば、船舶Sの船首の甲板下に配置される。物標表示装置3は、水中の物標の位置や速度を表示し、水中の気泡Bの密度や大きさを表示し、例えば、船舶Sの操舵室に配置される。
【0024】
例えば、プランクトンP等からの反射信号のドップラーシフトに基づいて、船舶Sの対水速度や潮流の速度を検出することができる。そして、魚群Fや海底Uからの反射信号の伝搬遅延時間に基づいて、魚群Fや深度を探知することができる。
【0025】
超音波制御部21は、水中へと照射される超音波の周波数を複数種類に制御する。気泡測定部22は、水中の気泡Bから反射された超音波の強度を複数種類の周波数で比較することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさのうちの少なくともいずれかを測定する。
【0026】
このように、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定するためのパラメータ数を増やしている。よって、超音波計測技術を用いて水中の気泡Bを検出するときに、水中の気泡Bの密度及び大きさを高い精度で測定することができる。本実施形態では、気泡測定部22は、水中の気泡Bの密度及び大きさのうちの両方ともを測定している。変形例として、気泡測定部22は、水中の気泡Bの密度及び大きさのうちの一方のみを測定してもよい。
【0027】
本開示の気泡測定処理の流れを示すフローチャートを
図2に示す。超音波制御部21は、水中へと照射される超音波の周波数を3種類以上に制御する(ステップS1)。
【0028】
本開示の気泡測定処理の第1の超音波制御方法を
図3に示す。超音波制御部21は、周波数チャープの1送信周期内で、超音波の周波数を周波数f
Lから周波数f
Mを経て周波数f
Hへとスイープする。超音波振動子1として、単数の広帯域振動子を適用することができる。気泡測定部22は、超音波の各周波数f
L、f
M、f
Hにおいて、照射信号と反射信号との間の時間差に基づいて、気泡Bの深度を測定する。本実施形態では、超音波制御部21は、超音波の周波数を下方から上方へとスイープしている。変形例として、超音波制御部21は、超音波の周波数を上方から下方へとスイープしてもよい。
【0029】
本開示の気泡測定処理の第2の超音波制御方法を
図4に示す。超音波制御部21は、送受信繰り返しの連続周期内で、超音波の周波数を周波数f
Lから周波数f
Mを経て周波数f
Hへと変化させる。超音波振動子1として、単数の広帯域振動子又は複数の狭帯域振動子を適用することができる。気泡測定部22は、超音波の各周波数f
L、f
M、f
Hにおいて、照射信号と反射信号との間の時間差に基づいて、気泡Bの深度を測定する。本実施形態では、超音波制御部21は、超音波の周波数を下方から上方へと変化させている。変形例として、超音波制御部21は、超音波の周波数を上方から下方へと変化させてもよい。
【0030】
気泡測定部22は、水中の気泡Bから反射された超音波の強度の周波数依存性を算出する(ステップS2)。本実施形態では、気泡測定部22は、水中の気泡Bから反射された超音波の積分強度の周波数依存性を算出している。変形例として、気泡測定部22は、水中の気泡Bから反射された超音波のピーク強度の周波数依存性を算出してもよい。
【0031】
本開示の気泡測定処理の積分強度算出方法を
図5に示す。気泡測定の対象深度は、気泡測定装置2の用途に応じて設定される。例えば、エコシップ等の用途においては、船舶Sの船底が海水から受ける抵抗を低減したいことから、気泡測定の対象深度は、船舶Sの船底の直下の位置に設定される。一方で、船速測定等の用途においては、海水の粘性の影響を受けずに船舶Sの対水速度を測定したいことから、気泡測定の対象深度は、船舶Sの船底から離れた位置に設定される。
図4に示した受信エンベロープ波形は、情報量の低減のためのデシメーションにより、
図5に示した受信検波波形に加工される。
【0032】
気泡測定部22は、超音波の各周波数f
L、f
M、f
Hにおいて、水中の気泡Bから反射された超音波の強度を、対象深度の対応時間の範囲内で積分する。
図5では、水中の気泡Bから反射された超音波の積分強度は、超音波の各周波数f
L、f
M、f
Hの順序で、小さい値から大きい値へと変化する。これは、水中の気泡Bの大きさが周波数f
Hでの超音波の波長より小さいことによるレイリー散乱によるものである(
図6のケース1を参照)。
【0033】
気泡測定部22は、超音波の強度の周波数依存性がピークを有さないときには(ステップS3においてNO)、3種類以上の周波数のうちの両端近傍の周波数で超音波の強度を比較することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する(ステップS4)。
【0034】
このように、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定するためのパラメータとして、互いに離れた周波数での超音波の強度のみを採用する。よって、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定するためのパラメータ数をできるかぎり減らしたうえで、水中の気泡Bの密度及び大きさを高い精度でかつ高い速度で測定することができる。
【0035】
気泡測定部22は、超音波の強度の周波数依存性がピークを有するときには(ステップS3においてYES)、3種類以上の周波数のうちのピークでの周波数及び一端近傍での周波数で超音波の強度を比較することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する(ステップS5)。
【0036】
このように、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定するためのパラメータとして、ピークでの周波数及びピークから離れた周波数での超音波の強度のみを採用する。よって、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定するためのパラメータ数をできるかぎり減らしたうえで、水中の気泡Bの密度及び大きさを高い精度でかつ高い速度で測定することができる。
【0037】
図2のステップS3からステップS5までの詳細を以下に説明する。本開示の気泡測定処理の積分強度の周波数依存性を
図6から
図8までに示す。
【0038】
図6から
図8まででは、水中の気泡Bの密度及び大きさは、気泡測定の対象深度の範囲内においてほぼ均一であると、模型実験又は実運航に基づいて考えている。
【0039】
図6では、超音波の各周波数f
L、f
M、f
Hの範囲内において、レイリー散乱を起こすような大きさの水中の気泡Bが、疎に分布する極限及び密に分布する極限を、それぞれケース1及びケース2として考える。超音波の強度の周波数依存性は、ピークを有さない。
【0040】
ケース1では、両端近傍の周波数fL、fHでの超音波の強度が、相対的に低いとともに、高周波数側の一端近傍fHでの超音波の強度が、低周波数側の一端近傍fLでの超音波の強度より高い。気泡測定部22は、水中の気泡Bの密度が相対的に低いとともに、水中の気泡Bの大きさが高周波数側の一端近傍fHでの超音波の波長λHより小さいと判定する。
【0041】
例えば、気泡測定部22は、高周波数側の一端近傍f
Hでの超音波の強度を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。なお、気泡測定部22が高周波数側の一端近傍f
Hでの超音波の強度を採用するのは、超音波の強度が高周波数では高いため、水中の気泡Bの密度及び大きさの測定精度が高くなるためである。或いは、気泡測定部22は、高周波数側の一端近傍f
Hでの超音波の強度と、低周波数側の一端近傍f
Lでの超音波の強度と、の差分を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。
【0042】
ケース2では、両端近傍の周波数fL、fHでの超音波の強度が、相対的に高いとともに、高周波数側の一端近傍fHでの超音波の強度が、低周波数側の一端近傍fLでの超音波の強度と同程度である。気泡測定部22は、水中の気泡Bの密度が相対的に高いと判定する。なお、水中の気泡Bが密に分布するため、水中の気泡Bの大きさの測定精度は低い。
【0043】
例えば、気泡測定部22は、低周波数側の一端近傍f
Lでの超音波の強度を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。なお、気泡測定部22が低周波数側の一端近傍f
Lでの超音波の強度を採用するのは、気泡Bの密度の変化に伴って超音波の強度の変化が大きいため、水中の気泡Bの密度及び大きさの測定精度が高くなるためである。或いは、気泡測定部22は、低周波数側の一端近傍f
Lでの超音波の強度と、高周波数側の一端近傍f
Hでの超音波の強度と、の差分を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。
【0044】
このように、測定結果が、(ケース1)水中の気泡Bの大きさが高周波数fHでの超音波の波長λHより小さいことによるレイリー散乱によるものか、(ケース2)水中の気泡Bの密度が大きいことによる多重散乱によるものか、判別することができる。
【0045】
図7では、超音波の各周波数f
L、f
M、f
Hの範囲内において、共鳴領域近傍となるような大きさの水中の気泡Bが、疎に分布する極限及び密に分布する極限を、それぞれケース3及びケース4として考える。ケース3では、超音波の強度の周波数依存性は、ピークを有する。ケース4では、超音波の強度の周波数依存性は、ピークを有さない。
【0046】
ケース3では、ピークでの周波数fM及び一端近傍fL又はfHでの周波数での超音波の強度が、相対的に低いとともに、ピークでの周波数fMでの超音波の強度が、一端近傍での周波数fL又はfHでの超音波の強度より高い。気泡測定部22は、水中の気泡Bの密度が相対的に低いとともに、水中の気泡Bの大きさが共鳴散乱条件(特に第1共鳴条件)及びピークでの周波数fMでの超音波の波長λMに応じて決まると判定する。
【0047】
例えば、気泡測定部22は、ピークでの周波数f
Mでの超音波の強度を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。なお、気泡測定部22がピークでの周波数f
Mでの超音波の強度を採用するのは、超音波の強度がピークでの周波数では高いため、水中の気泡Bの密度及び大きさの測定精度が高くなるためである。或いは、気泡測定部22は、ピークでの周波数f
Mでの超音波の強度と、一端近傍での周波数f
L又はf
Hでの超音波の強度と、の差分を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。
【0048】
ケース4では、両端近傍の周波数fL、fHでの超音波の強度が、相対的に高いとともに、高周波数側の一端近傍fHでの超音波の強度が、低周波数側の一端近傍fLでの超音波の強度と同程度である。気泡測定部22は、水中の気泡Bの密度が相対的に高いと判定する。なお、水中の気泡Bが密に分布するため、水中の気泡Bの大きさの測定精度は低い。
【0049】
例えば、気泡測定部22は、両端近傍の周波数f
L、f
Hでの超音波の強度を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。なお、気泡測定部22が両端近傍の周波数f
L、f
Hでの超音波の強度を採用するのは、気泡Bの密度の変化に伴って超音波の強度の変化が大きいため、水中の気泡Bの密度及び大きさの測定精度が高くなるためである。或いは、気泡測定部22は、両端近傍の周波数f
L、f
Hでの超音波の強度と、ピークでの周波数f
Mでの超音波の強度と、の差分を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。
【0050】
このように、測定結果が、(ケース3)水中の気泡Bの大きさがピークでの周波数fMでの超音波の波長λMに応じて決まることによる共鳴領域近傍によるものか、(ケース4)水中の気泡Bの密度が大きいことによる多重散乱によるものか、判別することができる。
【0051】
図8では、超音波の各周波数f
L、f
M、f
Hの範囲内において、共鳴領域以上となるような大きさの水中の気泡Bが、疎に分布する極限及び密に分布する極限を、それぞれケース5及びケース6として考える。超音波の強度の周波数依存性は、ピークを有さない。
【0052】
ケース5では、両端近傍の周波数fL、fHでの超音波の強度が、相対的に低いとともに、低周波数側の一端近傍fLでの超音波の強度が、高周波数側の一端近傍fHでの超音波の強度より高い。気泡測定部22は、水中の気泡Bの密度が相対的に低いとともに、水中の気泡Bの大きさが低周波数側の一端近傍fLでの超音波の波長λLより大きいと判定する。
【0053】
例えば、気泡測定部22は、低周波数側の一端近傍f
Lでの超音波の強度を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。なお、気泡測定部22が低周波数側の一端近傍f
Lでの超音波の強度を採用するのは、超音波の強度が低周波数では高いため、水中の気泡Bの密度及び大きさの測定精度が高くなるためである。或いは、気泡測定部22は、低周波数側の一端近傍f
Lでの超音波の強度と、高周波数側の一端近傍f
Hでの超音波の強度と、の差分を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。
【0054】
ケース6では、両端近傍の周波数fL、fHでの超音波の強度が、相対的に高いとともに、高周波数側の一端近傍fHでの超音波の強度が、低周波数側の一端近傍fLでの超音波の強度と同程度である。気泡測定部22は、水中の気泡Bの密度が相対的に高いと判定する。なお、水中の気泡Bが密に分布するため、水中の気泡Bの大きさの測定精度は低い。
【0055】
例えば、気泡測定部22は、高周波数側の一端近傍f
Hでの超音波の強度を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。なお、気泡測定部22が高周波数側の一端近傍f
Hでの超音波の強度を採用するのは、気泡Bの密度の変化に伴って超音波の強度の変化が大きいため、水中の気泡Bの密度及び大きさの測定精度が高くなるためである。或いは、気泡測定部22は、高周波数側の一端近傍f
Hでの超音波の強度と、低周波数側の一端近傍f
Lでの超音波の強度と、の差分を、
図9に示す格納テーブルと照合することにより、水中の気泡Bの密度及び大きさを測定する。
【0056】
このように、測定結果が、(ケース5)水中の気泡Bの大きさが低周波数fLでの超音波の波長λLより大きいことによる共鳴領域以上によるものか、(ケース6)水中の気泡Bの密度が大きいことによる多重散乱によるものか、判別することができる。
【0057】
図6から
図8までのケース1からケース6までの中間ケースを以下に説明する。本開示の気泡測定処理で照合される格納テーブルを
図9に示す。
【0058】
ケース1からケース6までのように、極限ケースでは、定性的な議論は容易であるが、定量的な議論は容易でない。ケース1からケース6までと異なり、中間ケースでは、定性的な議論は容易でないし、定量的な議論も容易でない。そこで、模型実験又はシミュレーションに基づいて、気泡測定部22の格納テーブルを作成する。
【0059】
格納テーブルでは、水中の気泡Bの密度及び大きさが、ρN、rN(N=1、2、3、・・・)であるときには、超音波の周波数fL、fM、fHでの積分強度は、ILN、IMN、IHNであり、超音波の周波数(fH、fL)、(fM、fH)、(fM、fL)(括弧は周波数のペア)での強度差分は、DHLN、DMHN、DMLNであることが記憶されている。
【0060】
気泡測定部22は、超音波の周波数fL、fM、fHでの積分強度が、ILN、IMN、IHN(N=1、2、3、・・・)であり、超音波の周波数(fH、fL)、(fM、fH)、(fM、fL)(括弧は周波数のペア)での強度差分が、DHLN、DMHN、DMLNであるときには、水中の気泡Bの密度及び大きさは、ρN、rNであることを測定する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示の気泡測定装置及び気泡測定プログラムは、船底が海水から受ける抵抗を低減するために、船底近傍の水中に気泡を故意に発生させるエコシップ等の用途において、水中の気泡の密度及び大きさを高い精度で測定することができる。
【符号の説明】
【0062】
1:超音波振動子
2:気泡測定装置
3:物標表示装置
21:超音波制御部
22:気泡測定部
S:船舶
B:気泡
P:プランクトン
F:魚群
U:海底