(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】故障診断装置及び故障診断方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20230126BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20230126BHJP
F02D 41/22 20060101ALI20230126BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20230126BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20230126BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
G01M17/007 H
E02F9/26 Z
F02D41/22
F02D45/00 345
F02D45/00 360Z
F02D43/00 301Y
F02D43/00 301Z
G01H17/00 C
(21)【出願番号】P 2019194718
(22)【出願日】2019-10-25
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國岡 昭吾
(72)【発明者】
【氏名】レ ティエンチエン
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 聡志
(72)【発明者】
【氏名】奥 信一
(72)【発明者】
【氏名】高見 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】眞保 友彰
(72)【発明者】
【氏名】宗像 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】相樂 恭宏
(72)【発明者】
【氏名】横山 尚
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-331884(JP,A)
【文献】特開2017-058351(JP,A)
【文献】国際公開第2002/044671(WO,A1)
【文献】特公昭47-039841(JP,B1)
【文献】国際公開第2014/013911(WO,A1)
【文献】特開2004-362347(JP,A)
【文献】国際公開第2011/048661(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0261879(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
G01H 1/00 - 17/00
G01M 13/00 - 13/045
G01M 99/00
E02F 9/26
F02D 41/22
F02D 43/00
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の作動音を取得する音取得部と、
前記音取得部で取得した
車両部位の作動音に基づいて
、前記作動音を発生する車両部位の異常の有無を診断する一次診断部と、
前記一次診断部で異常があると診断されたときに、異常と診断された
前記作動音を発生する車両部位の情報を取得し、取得した情報に基づいて異常の原因を特定する二次診断部と、
を備えることを特徴とする故障診断装置。
【請求項2】
前記二次診断部は、車両に備え付けられ
て前記作動音を発生する車両部位の稼動情報を検出する各センサによって検出された結果を取得し、取得した検出結果に基づいて異常の原因を特定する請求項1に記載の故障診断装置。
【請求項3】
前記二次診断部は、車両操作指示部を介して異常の原因を特定するための情報を前記車両に要求
し、前記車両は、前記要求に基づいて
前記作動音を発生する車両部位の稼動状況を制御する車両制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の故障診断装置。
【請求項4】
前記一次診断部は、
前記作動音を発生する車両部位を選択可能に形成されている請求項1~3のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項5】
車両は作業機械であり、
車両の作動音は作業機械の稼動音である請求項1~4のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項6】
前記一次診断部の診断結果と、前記二次診断部の診断結果とを表示する診断結果表示部を更に備える請求項1~5のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項7】
前記音取得部、前記一次診断部、及び前記二次診断部は、携帯端末に設けられている請求項1~6のいずれか一項に記載の故障診断装置。
【請求項8】
車両の作動音を取得する音取得工程と、
前記音取得工程で取得した
車両部位の作動音に基づいて
、前記作動音を発生する車両部位の異常の有無を診断する一次診断工程と、
前記一次診断工程で異常があると診断されたときに、異常と診断された
前記作動音を発生する車両部位の情報を取得し、取得した情報に基づいて異常の原因を特定する二次診断工程と、
を含むことを特徴とする故障診断方法。
【請求項9】
前記二次診断工程において、車両に備え付けられ
て前記作動音を発生する車両部位の稼動情報を検出する各センサによって検出された結果を取得し、取得した検出結果に基づいて異常の原因を特定する請求項8に記載の故障診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両部位の故障を診断する故障診断装置及び故障診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ショベル等の車両の部位故障を診断する方法として、保守点検員が音や目視で各部位を順にチェックし、故障した部位を特定する方法が挙げられる。しかし、この方法では、保守点検員の豊富な経験や高度の知識に依存するだけではなく、診断する部位が多岐に亘るので診断に要する時間がかかる問題もあった。
【0003】
そこで、特許文献1及び特許文献2に記載されるような方法が提案されている。すなわち、特許文献1には、車両に備え付けられた多気筒内燃機関の各インジェクタが一巡する1サイクルにおいて、この1サイクル周期の回転変動のうねりを用いて故障インジェクタを特定する方法が開示されている。特許文献2には、故障インジェクタが燃料噴射しないことを利用して、インジェクタを2つずつ同時に停止させ、指示燃料噴射量の変化で故障インジェクタを特定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-122037号公報
【文献】特開2016-014375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの特許文献に記載の方法によれば、保守点検員等やユーザ等(以下、「保守点検員等」という)の経験や知識に依存せずにインジェクタの故障の有無を高精度に診断できるが、インジェクタごと又は2つのインジェクタを順にチェックしていく必要があるので、依然として診断に多くの時間を要する問題がある。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明は、診断時間を短縮することができる故障診断装置及び故障診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る故障診断装置は、車両の作動音を取得する音取得部と、前記音取得部で取得した作動音に基づいて車両部位の異常の有無を診断する一次診断部と、前記一次診断部で異常があると診断されたときに、異常と診断された部位の情報を取得し、取得した情報に基づいて異常の原因を特定する二次診断部と、を備えることを特徴としている。
【0008】
本発明に係る故障診断装置では、一次診断部で作動音に基づいて車両部位の異常の有無を診断し、異常があると診断されたときに二次診断部で部位の情報に基づいて異常の原因を特定する。このように、比較的に時間を要する異常原因の特定診断に先立って、車両の作動音に基づいて車両部位の異常の有無を比較的に短時間で診断し、異常がないと診断された場合に診断を終了し、異常があると診断された場合のみ、二次診断部による原因特定の診断を行う。その結果、診断時間を短縮することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、診断時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。
【
図2】故障診断方法を説明するためのフローチャートである。
【
図3】スマートフォンによる操作を説明するための模式図である。
【
図4】スマートフォンによる操作を説明するための模式図である。
【
図5】スマートフォンによる操作を説明するための模式図である。
【
図6】第2実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。
【
図7】第3実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。
【
図8】第4実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。
【
図9】第5実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係る故障診断装置及び故障診断方法の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複説明は省略する。また、以下の説明では、診断対象である車両として油圧ショベルの例を挙げるが、本発明は油圧ショベルに限定されずに、ホイールローダ、ブルドーザ、ダンプトラック、乗用車、バス、自動二輪車などの車両にも適用される。
【0012】
[第1実施形態]
本実施形態に係る故障診断装置1は、油圧ショベル2の部位の故障を診断するための装置であり、スマートフォン、タブレット端末、携帯電話、PDA(Personal Data Assistant)などの携帯端末に設けられている。ここでは、故障診断装置1がスマートフォン3に設けられる例を説明するが、タブレット端末、携帯電話、PDAなどの携帯端末に設けられても良い。
【0013】
このスマートフォン3に設けられた故障診断装置1は、油圧ショベル2と通信可能に構成されている。例えば、油圧ショベル2にはシリアル・WIFI変換機(図示せず)が取り付けられており、故障診断装置1は、該シリアル・WIFI変換機を介して油圧ショベル2との通信を行う。また、シリアル・WIFI変換機に代えて、Bluetooth(登録商標)や無線LAN(Local Area Network)などを用いても良い。
【0014】
図1は実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。
図1に示すように、故障診断装置1は、音取得部11と、一次診断部12と、二次診断部13と、診断結果表示部14と、車両操作指示部15とを備えている。
【0015】
音取得部11は、例えばスマートフォン3に内蔵されたマイクであり、油圧ショベル2の稼動音を取得する。音取得部11は、取得した油圧ショベル2の稼動音を一次診断部12に出力する。なお、ここでの油圧ショベル2の稼動音は、特許請求の範囲に記載の「車両の作動音」に相当するものである。
【0016】
一次診断部12は、音取得部11で取得した稼動音に基づいて油圧ショベル2の部位の異常の有無を診断するものである。具体的には、一次診断部12は、音取得部11から油圧ショベル2の稼動音を取得し、取得した稼動音を予め記憶された基準モデルと比較することで油圧ショベル2の部位(より詳細的には、稼動音を発生するエンジン、メインポンプ、走行装置など)が異常か否かを判定する。そして、一次診断部12は、診断した結果(すなわち、一次診断結果)を二次診断部13及び診断結果表示部14にそれぞれ出力する。
【0017】
なお、一次診断部12は、油圧ショベル2における稼動音を発生する全ての部位について診断しても良く、又は稼動音を発生する部位のうち特定の部位(例えばエンジン、メインポンプ等)を選択して診断するように形成しても良い。特定の部位を選択して診断する場合、例えば、保守点検員等がある特定の部位を選択すると、その選択された部位だけの診断が実施される。このようにすれば、特定の部位だけの診断が必要なニーズに応えることができるとともに、全ての部位の診断と比べて診断時間を短縮することができる。
【0018】
更に好適には、一次診断部12は、稼動音を発生する全ての部位についての診断モード、選択される特定の部位だけの診断モードを備えるように形成されている(
図3(a)参照)。このようにすれば、保守点検員等は状況に応じて全ての部位についての診断や、特定の部位だけの診断を選択することができるので、故障診断装置1の汎用性を高めることができる。
【0019】
二次診断部13は、一次診断部12の診断結果に基づいて二次診断を行うものである。より具体的には、二次診断部13は、一次診断部12で異常があると診断されたとき、異常と診断された部位の情報を取得し、取得した情報に基づいて異常の原因を特定する。例えば、一次診断でインジェクタに異常があると診断されたときに、二次診断部13は、インジェクタが備え付けられたエンジンに関する情報を車両操作指示部15を介して油圧ショベル2に要求して取得する。一方、例えば一次診断でメインポンプに異常があると診断されたときに、二次診断部13は、メインポンプに関する情報を車両操作指示部15を介して油圧ショベル2に要求して取得する。
【0020】
そして、二次診断部13は、油圧ショベル2から取得した情報を予め記憶された各閾値、各基準値又は各基準モデル等と比較することにより、異常の原因を特定し、特定結果(すなわち、二次診断結果)を診断結果表示部14に出力する。
【0021】
診断結果表示部14は、一次診断部12と二次診断部13とそれぞれ電気的に接続され、これらの診断部から診断結果を表示することで保守点検員等に知らせる。例えば、診断結果表示部14は、一次診断部12から出力された異常有りの結果を受信し、スマートフォン3のディスプレイに「異常有り」を表示しつつ、「要確認」等のメッセージを表示して保守点検員等に注意を喚起する。
【0022】
なお、診断結果表示部14は、診断結果のほかに、診断に関する他の操作情報などを表示しても良い。例えば、一次診断部12で異常があると診断された場合、診断結果表示部14は、上述の「異常有り」の一次診断結果を表示するとともに、「二次診断に進む」のようなメッセージを表示して保守点検員等に二次診断を実施するように注意を促す。
【0023】
車両操作指示部15は、二次診断部13からの指示に従い、二次診断部13の診断に必要な情報を油圧ショベル2のメインコントローラ21(後述する)に要求する。例えば、一次診断部12でインジェクタに異常有りと診断された場合、車両操作指示部15は、二次診断部13の指示に基づいて、メインコントローラ21にインジェクタの異常原因を特定するための情報を要求する。また、例えば一次診断部12でメインポンプに異常有りと診断された場合、車両操作指示部15は二次診断部13の指示に基づいて、メインコントローラ21にメインポンプの異常原因を特定するための情報を要求する。
【0024】
油圧ショベル2は、エンジン、メインポンプ、走行装置のほか、油圧ショベル2全体の制御を行うメインコントローラ21を備えている。メインコントローラ21は、例えば、演算を実行するCPU(Central Processing Unit)と、演算のためのプログラムを記録した二次記憶装置としてのROM(Read Only Memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random Access Memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されており、記憶されたプログラムの実行によって油圧ショベル2全体の制御を行う。
【0025】
また、油圧ショベル2には複数の車載センサ22が取り付けられている。車載センサ22として、例えばエンジンの回転数を検出するエンジン回転数センサ221、ポンプの吐出圧力を検出するポンプ吐出圧センサ222などがある。これらのセンサは、検出した結果をメインコントローラ21に出力する。
【0026】
また、油圧ショベル2は車両制御部23を備えている。車両制御部23は、メインコントローラ21の指示に基づいて、二次診断のために必要な情報を得るためにエンジンやメインポンプ等の稼動状況を制御する。二次診断を行う場合は、異常の部位毎に診断に必要な情報を取得するための特定の測定条件(油圧ショベルの動作状態や動作条件など)を設定する必要がある。例えば、車両制御部23は、例えばメインコントローラ21の指示に従い、エンジンに備え付けられた複数のインジェクタの作動又は停止を制御する。
【0027】
本実施形態に係る故障診断装置1では、一次診断部12が稼動音に基づいて油圧ショベル2の部位の異常の有無を診断し、異常があると診断されたときに、二次診断部13が異常と診断された部位の情報を取得し、その取得した情報に基づいて異常の原因を特定する。このように、比較的に時間を要する異常原因の特定診断に先立って、稼動音に基づいて油圧ショベル2の部位の異常の有無を比較的に短時間で診断し、異常がないと診断された場合に診断を終了し、異常があると診断された場合のみ二次診断部13による原因特定診断を行う。その結果、診断時間を短縮することができる。
【0028】
以下、
図2~
図5を参照して故障診断装置1を用いた故障診断方法を説明する。
図2は故障診断方法を説明するためのフローチャートであり、
図3~
図5はスマートフォンによる操作を説明するための模式図である。
【0029】
本実施形態の故障診断方法は、油圧ショベル2の稼動音を取得する音取得工程と、音取得工程で取得した稼動音に基づいて油圧ショベル2の部位の異常の有無を診断する一次診断工程と、一次診断工程で異常があると診断されたときに、異常と診断された部位の情報を取得し、取得した情報に基づいて異常の原因を特定する二次診断工程と、を含む。なお、音取得工程及び一次診断工程では、スマートフォン3(すなわち、故障診断装置1)単体で各処理が行われるので、スマートフォン3と油圧ショベル2との通信を確立する必要はない。一方、二次診断工程では、油圧ショベル2から二次診断に関する情報を取得する必要があるので、スマートフォン3と油圧ショベル2との通信を確立する必要がある。以下、それぞれの工程を詳細に説明する。
【0030】
まず、保守点検員等は、スマートフォン3にインストールされた故障診断装置1のアプリケーションソフトを起動し、スマートフォン3のディスプレイに表示される「全部位診断」、「インジェクタ診断」、「メインポンプ診断」を選択する(
図3(a)参照)。ここでは、例えば保守点検員等は「全部位診断」を選択する。次に、保守点検員等は油圧ショベル2の機種を選択する(
図3(b)参照)。
【0031】
続いて、
図2に示すステップS10では、保守点検員等は、音取得部11を利用して油圧ショベル2の稼動音を取得する。例えば、保守点検員等は、スマートフォン3のディスプレイに表示された手順に従い、定められた録音位置までスマートフォン3を油圧ショベル2に接近させ(
図3(c)及び
図4(a)参照)、スマートフォン3に内蔵されたマイクで油圧ショベル2の稼動音を一定時間(例えば5秒程度)録音する(
図4(b)参照)。録音終了後、音取得部11は、その録音したものを一次診断部12に出力する。
【0032】
なお、このステップS10は、上述の「音取得工程」に対応するものである。
【0033】
ステップS10に続くステップS11では、一次診断部12は音分析処理を行う。例えば、一次診断部12は、音取得部11から出力された油圧ショベル2の稼動音を取得し、取得した稼動音の周波数領域に現れる周波数のピークを算出する。ステップS11に続くステップS12では、取得した稼動音に基づいてインジェクタが異常か否かを判定する。このとき、一次診断部12は、例えばステップS11で算出した稼動音の周波数のピークを予め記憶された基準モデルの周波数のピークと比較し、両者のピーク値が同一又は類似であれば異常無し、そうでなければ異常有りと判定する。
【0034】
なお、このステップS11及びステップS12は、上述の「一次診断工程」に対応するものである。
【0035】
ステップS12において、異常無しと判定された場合、制御処理はステップS19に進み、診断結果表示部14に「異常無し」の診断結果(すなわち、一次診断結果)を表示させて保守点検員等に知らせる。一方、異常有りと判定された場合、制御処理はステップS13に進み、診断結果表示部14に一次診断結果を表示させて保守点検員等に知らせる。例えば
図4(c)に示すように、一次診断部12でインジェクタに異常有りと診断された場合、スマートフォン3のディスプレイには、「インジェクタに異常が認められます」が表示されるとともに、更に「要確認」及び「二次診断に進む」というメッセージが表示されて保守点検員等に注意を喚起する。
【0036】
ステップS13に続くステップS14では、車両操作要求が行われる。このとき、スマートフォン3と油圧ショベル2との通信が確立され、二次診断部13は、異常の原因を特定するために、車両操作指示部15を介して油圧ショベル2のメインコントローラ21に、一次診断で異常有りと診断された部位の情報(言い換えれば、二次診断に必要な情報)を要求する。例えば、ステップS12でインジェクタに異常有りと診断された場合、二次診断部13は、複数のインジェクタのうちどれが故障しているかを特定するために、車両操作指示部15を介してメインコントローラ21にインジェクタの関連情報を要求する。
【0037】
ステップS14に続くステップS15では、車両制御が行われる。このとき、メインコントローラ21は、故障診断装置1の車両操作指示部15の指示に基づいて、診断に適した車両状態に油圧ショベル2を制御するために、車両制御部23に指示を送り、異常有りと診断された部位に関連する情報を車載センサ22から収集する。
【0038】
例えば、インジェクタの関連情報が要求された場合、メインコントローラ21は、まず、車両制御部23を介してエンジン回転数を最低回転Lo Idleに設定しつつ、エンジン回転数センサ221に検出指令を送信する。次に、メインコントローラ21は、車両制御部23を介して例えば複数のインジェクタを一台ずつ順次停止させる制御を送信しつつ、スマートフォン3のディスプレイにインジェクタ停止順番と稼動音録音タイミング等の手順を表示させて保守点検員等に案内する(
図5(a)参照)。
【0039】
保守点検員等は、スマートフォン3のディスプレイに表示された手順に従い、音取得部11を利用しインジェクタの停止順番に沿ってそれぞれの稼動音を録音する。
図5(b)に示すのは、例えば複数のインジェクタのうち、1番目のインジェクタを停止した場合における音取得部11の録音の様子である。録音終了後、音取得部11は、録音した(すなわち取得した)稼動音を一次診断部12を介して二次診断部13に出力する。
【0040】
また、例えばステップS12でメインポンプに異常有りと診断された場合、メインコントローラ21は、車両制御部23を介してメインポンプの負荷掛けの制御を行いつつ、ポンプ吐出圧センサ222に負荷掛け時におけるポンプの吐出圧力を検出するように指示する。
【0041】
ステップS15に続くステップS16では、二次診断部13は、油圧ショベル2のメインコントローラ21にセンサ検出結果の取得要求を行う。
【0042】
ステップS16に続くステップS17では、二次診断部13は、メインコントローラ21からセンサ検出結果を取得する。例えば、インジェクタに異常有りと診断された場合、メインコントローラ21からエンジン回転数センサ221の検出結果を取得する。一方、メインポンプに異常有りと診断された場合、メインコントローラ21からポンプ吐出圧センサ222の検出結果を取得する。
【0043】
ステップS17に続くステップS18では、二次診断部13は、異常原因の特定を行う。例えば、一次診断でインジェクタに異常有りと診断された場合、二次診断部13は、メインコントローラ21から取得したエンジン回転数センサ221の検出結果、及びインジェクタ順次停止した時に音取得部11で取得したエンジンの稼動音等に基づいて、例えば予め記憶された基準モデルと比較することにより、複数のインジェクタのうちの故障したインジェクタを特定する。
【0044】
一方、一次診断でメインポンプに異常有りと診断された場合、二次診断部13は、メインコントローラ21から取得したポンプ吐出圧センサ222の検出結果等に基づいて、例えば予め記憶された基準値と比較することにより、メインポンプの異常原因を特定する。メインポンプの異常原因としては、例えばポンプ内部リーク、ベアリングの摩耗等が挙げられる。
【0045】
なお、ステップS14~ステップS18は、上述の「二次診断工程」に対応するものである。
【0046】
ステップS18に続くステップS19では、二次診断部13は、ステップS18で特定した異常原因(すなわち、二次診断結果)を診断結果表示部14に送信し、その結果を診断結果表示部14に表示させることで保守点検員等に知らせる。診断結果表示部14に表示される二次診断結果の一例として、例えば
図5(c)に示すように、インジェクタの状態、異常箇所、実エンジン回転数、エンジン出力が表示されるとともに、「インジェクタの交換をお勧めします」といったメッセージも表示される。
【0047】
保守点検員等は、診断結果表示部14(ここでは、スマートフォン3のディスプレイ)を介して異常の原因を容易に把握することができる。そして、部位の交換又はメンテナンスが必要の場合、保守点検員等は迅速に部位の交換又はメンテナンスを行うことができるので、油圧ショベル2の安定した稼動を実現することが可能になる。
【0048】
本実施形態に係る故障診断方法では、稼動音に基づいて油圧ショベル2の部位の異常の有無を診断する一次診断工程と、一次診断工程で異常があると診断されたときに、異常と診断された部位の情報を取得し、その取得した情報に基づいて異常の原因を特定する二次診断工程とを含む。このように、比較的に時間を要する異常原因の特定診断(すなわち、二次診断)に先立って、稼動音に基づいて油圧ショベル2の部位の異常の有無を比較的に短時間で診断し、異常がないと診断された場合に診断が終了し、異常があると診断された場合のみ二次診断が行われる。その結果、診断時間を短縮することができる。また、音取得工程及び一次診断工程では、スマートフォン3単体で各処理が行われるので、スマートフォン3と油圧ショベル2との通信を確立する必要はない。このため、スマートフォン3(すなわち、故障診断装置1)だけがあれば、一次診断を簡単に行うことができる。
【0049】
[第2実施形態]
図6は第2実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。本実施形態の故障診断装置1Aは、二次診断部13及び車両操作指示部15がサーバ4に設けられる点において上述の第1実施形態と異なるが、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0050】
図6に示すように、本実施形態の故障診断装置1Aでは、音取得部11、一次診断部12及び診断結果表示部14はスマートフォン3に設けられているが、二次診断部13及び車両操作指示部15はサーバ4に設けられている。サーバ4は、例えば管理センターに配置されており、スマートフォン3及び油圧ショベル2との間でそれぞれ通信可能に構成されている。
【0051】
このような構造を有する故障診断装置1Aでは、一次診断部12は診断結果を診断結果表示部14に表示させるとともに、異常と判定した場合にその結果を二次診断部13に送信する。二次診断部13は一次診断部12からの結果を受信し、車両操作指示部15を介して油圧ショベル2のメインコントローラ21に要求することで車載センサ22により検出された結果を取得し、取得した結果に基づいて異常の原因を特定する。更に、二次診断部13は、特定した結果をスマートフォン3側の診断結果表示部14に送信して表示させる。
【0052】
本実施形態の故障診断装置1Aによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、二次診断部13及び車両操作指示部15がサーバ4に設けられるので、第1実施形態の故障診断装置1と比べて二次診断を処理する速度が速くなる。
【0053】
なお、故障診断装置1Aを用いた故障診断方法は、上述の第1実施形態で述べた内容と同様であるので、重複説明を省略する。
【0054】
[第3実施形態]
図7は第3実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。本実施形態の故障診断装置1Bは、一次診断部12、二次診断部13及び車両操作指示部15がサーバ4に設けられる点において上述の第1実施形態と異なるが、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0055】
図7に示すように、本実施形態の故障診断装置1Bでは、音取得部11及び診断結果表示部14はスマートフォン3に設けられているが、一次診断部12、二次診断部13及び車両操作指示部15はサーバ4に設けられている。サーバ4は、例えば管理センターに配置されており、スマートフォン3及び油圧ショベル2との間でそれぞれ通信可能に構成されている。
【0056】
このような構造を有する故障診断装置1Bでは、音取得部11は取得した油圧ショベル2の稼動音を一次診断部12に送信し、一次診断部12は診断結果を診断結果表示部14に送信して表示させる。そして、異常と判定した場合に二次診断部13は更に二次診断を行い、その診断結果を診断結果表示部14に送信して表示させる。
【0057】
本実施形態の故障診断装置1Bによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、一次診断部12、二次診断部13及び車両操作指示部15がサーバ4に設けられるので、第1実施形態の故障診断装置1と比べて一次診断及び二次診断を処理する速度が速くなる。
【0058】
なお、故障診断装置1Bを用いた故障診断方法は、上述の第1実施形態で述べた内容と同様であるので、重複説明を省略する。
【0059】
[第4実施形態]
図8は第4実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。本実施形態の故障診断装置1Cは、スマートフォンを用いず、音取得部11及び診断結果表示部14が油圧ショベル2に設けられ、一次診断部12、二次診断部13及び車両操作指示部15がサーバ4に設けられる点において上述の第1実施形態と異なるが、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0060】
図8に示すように、本実施形態の故障診断装置1Cでは、一次診断部12、二次診断部13及び車両操作指示部15はサーバ4に設けられている。サーバ4は、油圧ショベル2との間で通信可能に構成されている。
【0061】
一方、音取得部11及び診断結果表示部14は、油圧ショベル2に設けられ、それぞれメインコントローラ21によって制御されている。音取得部11は、例えばエンジンルームルームに配置されたエンジン録音マイク111などを有する。
【0062】
このような構造を有する故障診断装置1Cでは、音取得部11は、メインコントローラ21の制御指令を受け、エンジン録音マイク111を作動させ、録音した稼動音をメインコントローラ21を介してサーバ4の一次診断部12を送信する。そして、一次診断部12及び二次診断部13は、それぞれの診断結果をメインコントローラ21を介して診断結果表示部14に表示させ、保守点検員等を知らせる。
【0063】
本実施形態の故障診断装置1Cによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、音取得部11及び診断結果表示部14が油圧ショベル2に設けられ、一次診断部12、二次診断部13及び車両操作指示部15がサーバ4に設けられるので、保守点検員等が現場に行かなくても故障の診断を容易に行うことができる。
【0064】
そして、故障診断装置1Cを用いた故障診断方法は、例えば予め設定された条件(例えば油圧ショベル2の稼動時間が所定時間を超えたとき)で自動的に実施されるようになっている。例えば、エンジンが500時間稼動すると、メインコントローラ21は音取得部11を作動させ、音取得部11が取得した稼動音を一次診断部12に送信することにより一連の故障診断が行われる。なお、故障診断方法に関する具体的な処理は、スマートフォンを使用しない点を除き、上述の第1実施形態で述べた内容と同様であるので、重複説明を省略する。
【0065】
[第5実施形態]
図9は第5実施形態に係る故障診断装置を示す概略構成図である。本実施形態の故障診断装置1Dは、スマートフォンを用いず、音取得部11、一次診断部12、二次診断部13、診断結果表示部14及び車両操作指示部15が全て油圧ショベル2に設けられる点において上述の第1実施形態と異なるが、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0066】
音取得部11は、例えばエンジンルームルームに配置されたエンジン録音マイク111などを有する。この音取得部11は、メインコントローラ21及び一次診断部12とそれぞれ電気的に接続されている。
【0067】
このような構造を有する故障診断装置1Dでは、音取得部11は、メインコントローラ21の制御指令を受け、エンジン録音マイク111を作動させ、録音した稼動音を一次診断部12に出力する。一次診断部12及び二次診断部13は、それぞれの診断結果を診断結果表示部14に表示させ、保守点検員等を知らせる。
【0068】
本実施形態の故障診断装置1Dによれば、上述の第1実施形態と同様な作用効果を得られるほか、音取得部11、一次診断部12、二次診断部13、診断結果表示部14及び車両操作指示部15が全て油圧ショベル2に設けられるので、保守点検員等が現場に行かなくても故障の診断を容易に行うことができる。
【0069】
そして、故障診断装置1Dを用いた故障診断方法は、例えば予め設定された条件(例えば油圧ショベル2の稼動時間が所定時間を超えたとき)で自動的に実施されるようになっている。例えば、エンジンが500時間稼動すると、メインコントローラ21は音取得部11を作動させることで、一連の故障診断が行われる。なお、故障診断方法に関する具体的な処理は、スマートフォンを使用しない点を除き、上述の第1実施形態で述べた内容と同様であるので、重複説明を省略する。
【0070】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0071】
例えば、上述の実施例において、車両の例として油圧ショベル2、車両の作動音として油圧ショベル2の稼動音を挙げて説明したが、本発明は、乗用車の運転音、バスの走行音等に基づく部位の診断にも適用される。また、上述の実施形態では、油圧ショベル2の稼動音に基づいてインジェクタやメインポンプの異常原因を特定する例を説明したが、本発明はこれらに限られるものではない。
【0072】
更に、異常原因を特定するための情報の取得は、車載センサに限定されず、例えば二次診断部13と接続可能な外部センサを複数用意し、これらの外部センサを油圧ショベル2に取り付けて異常原因の特定に必要な情報を取得するようにしても良い。この場合、車載センサ22と比べて油圧ショベル2に外部センサを取り付ける自由度が高いので、外部センサによる検出範囲を拡げることができ、診断精度の向上を図ることができる。また、二次診断にあたり、車両制御部23によってインジェクタの動作制御やメインポンプの負荷掛けを行って、異常と診断された部位の情報を取得するようにしたが、車両操作指示部15が二次診断に必要な情報を要求するときに、二次診断に必要な情報を取得する上で必要な油圧ショベルの動作状態、動作条件(例えば、所定のエンジン回転数や、所定の動作、姿勢などの測定条件)を診断結果表示部14に表示させて、保守点検員等に油圧ショベルを操作させて、そのような動作状態、動作条件を再現させるように促しても良い。
【符号の説明】
【0073】
1,1A,1B,1C,1D 故障診断装置
2 油圧ショベル(車両)
3 スマートフォン
4 サーバ
11 音取得部
12 一次診断部
13 二次診断部
14 診断結果表示部
15 車両操作指示部
21 メインコントローラ
22 車載センサ
23 車両制御部
111 エンジン録音マイク
221 エンジン回転数センサ
222 ポンプ吐出圧センサ