(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】多層構造体およびその製造方法、それを用いた包装材および製品、ならびに電子デバイスの保護シート
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20230130BHJP
C08L 101/14 20060101ALI20230130BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20230130BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
C08L101/14
C08L83/06
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2019022904
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良一
(72)【発明者】
【氏名】久詰 修平
(72)【発明者】
【氏名】森原 靖
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/209107(WO,A1)
【文献】特開2005-178805(JP,A)
【文献】特開2006-056036(JP,A)
【文献】特開2016-055560(JP,A)
【文献】特開2003-191400(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128270(WO,A1)
【文献】特開2005-178802(JP,A)
【文献】特開2015-037882(JP,A)
【文献】特開2017-211082(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051287(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/200020(WO,A1)
【文献】特開平11-129384(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0012553(KR,A)
【文献】特表2014-514981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08L 101/14
C08L 83/06
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(X)と、層(Y)と、層(Z)とを備える多層構造体であって、
層(Y)が、アルミニウムを含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(B)との反応生成物(D)を含み、
層(Z)が、高分子(G)および加水分解可能な特性基を有する化合物(L)の加水分解縮合物(La)を含み、
化合物(L)が化合物(L
1)および化合物(L
2)を含み、
化合物(L
1)は、グリシジル基を有する有機基および加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物であり、
化合物(L
2)は、グリシジル基を有する有機基を有さず、加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物であり、
[高分子(G)と加水分解縮合物(La)に由来する有機成分の合計質量W
G+La]と[加水分解縮合物(La)に由来する無機成分の質量W
La]の質量比W
G+La/W
Laが0.10以上0.70以下であり、
無機リン化合物(B)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、多層構造体。
【請求項2】
化合物(L
1)が下記一般式(I)
SiX
1
pZ
qR
1
(4-p-q) (I)
[上記式(I)中、X
1は、F、Cl、Br、I、R
2O-、R
3COO-、(R
4CO)
2CH-、およびNO
3からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、Zは、グリシジル基を有する有機基を表し、R
1、R
2、R
3、およびR
4は、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、pは1~3の整数を表し、qは1~3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。複数のX
1が存在する場合、それらのX
1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のZが存在する場合、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のR
1が存在する場合、それらのR
1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
で示される少なくとも1種の化合物であり、
化合物(L
2)が、下記一般式(II)
SiX
2
rR
5
(4-r) (II)
[上記式(II)中、X
2は、F、Cl、Br、I、R
6O-、R
7COO-、(R
8CO)
2CH-、およびNO
3からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、R
5、R
6、R
7、およびR
8は、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、rは1~4の整数を表す。複数のX
2が存在する場合、それらのX
2は互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のR
5が存在する場合、それらのR
5は互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
で示される少なくとも1種の化合物である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
高分子(G)が水溶性高分子(Ga)である、請求項1または2に記載の多層構造体。
【請求項4】
水溶性高分子(Ga)が、水溶性ポリビニルアルコール、水溶性ポリアクリル酸、水溶性ポリメタクリル酸、水溶性ポリビニルピロリドン、水溶性ポリアミド、および水溶性ポリウレタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子である、請求項3に記載の多層構造体。
【請求項5】
水溶性高分子(Ga)が、水溶性ポリビニルアルコールまたは水溶性ポリアミドを少なくとも含む、請求項3または4に記載の多層構造体。
【請求項6】
水溶性高分子(Ga)が、水溶性ポリビニルアルコールおよび水溶性ポリアクリル酸を含む、請求項3~5のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項7】
少なくとも一組の層(Z)と層(Y)とが隣接して配置されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項8】
基材(X)が、熱可塑性樹脂フィルムおよび紙からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項9】
層(Z)において、[高分子(G)と加水分解縮合物(La)に由来する有機成分の合計質量W
G+La
]と[加水分解縮合物(La)に由来する無機成分の質量W
La
]の質量比W
G+La
/W
La
が、0.25以上0.45以下の範囲にある、請求項1~8のいずれか1項に記載の多層構造体。
【請求項10】
基材(X)上に、アルミニウムを含む金属酸化物(A)と、無機リン化合物(B)と、溶媒とを含むコーティング液(S)を塗工し、溶媒を除去することで層(Y)前駆体層を形成する工程(I)と、
層(Y)前駆体層上に、高分子(G)と、加水分解可能な特性基を有する化合物(L)の加水分解縮合物(La)と、溶媒とを含むコーティング液(T)を塗工し、溶媒を除去することで層(Z)前駆体層を形成する工程(II)と、
層(Y)前駆体層および層(Z)前駆体層を熱処理して層(Y)および層(Z)を形成する工程(III)とを含む、請求項1~
9のいずれか1項に記載の多層構造体の製造方法。
【請求項11】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の多層構造体を含む、包装材。
【請求項12】
縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、またはインモールドラベル容器である、請求項11に記載の包装材。
【請求項13】
請求項12に記載の包装材が真空包装袋であり、前記真空包装袋が内容物を含み、前記内容物が芯材であり、前記真空包装袋の内部が減圧されている真空断熱体。
【請求項14】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の多層構造体を含む、電子デバイスの保護シート。
【請求項15】
光電変換装置、情報表示装置、または照明装置の表面を保護する保護シートである、請求項14に記載の電子デバイスの保護シート。
【請求項16】
請求項14または15に記載の保護シートを有する、電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体およびその製造方法、それを用いた包装材および製品、ならびに電子デバイスの保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムや酸化アルミニウムを構成成分とするガスバリア層をプラスチックフィルム上に形成した多層構造体は従来からよく知られており、例えば酸素によって変質しやすい物品(例えば、食品)を保護するための包装材やガスバリア性および水蒸気バリア性が要求される電子デバイスの保護シートの構成部材として用いられる。かかるガスバリア層の多くは、物理気相成長法(PVD)や化学気相成長法(CVD)といったドライプロセスによってプラスチックフィルム上に形成される。しかしながら、これら蒸着フィルムは、ガスバリア層に用いられる無機化合物の薄膜が可撓性に欠けており、揉みや折り曲げに弱く、また基材との密着性が悪いため、取り扱いに注意を要し、特に印刷、ラミネート、製袋など包装材の後加工の際に、前記薄膜にクラックを発生しガスバリア性が著しく低下する問題があった。
【0003】
この問題に対して、特許文献1では、無機化合物の薄膜上に水溶性高分子と(a)金属アルコキシドおよび/またはその加水分解物または(b)塩化錫の少なくとも一方を含む水溶液、或いは水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を塗布し可撓性に優れるガスバリア性オーバーコート層を施すことで、ガスバリア性の向上や蒸着層の保護効果が得られる方法が記載されている。
【0004】
一方、近年コーティング液を塗工する工程を経てバリア層を構築する手法がもちいられている。特許文献2には、アルミニウムを含むガスバリア層を有する複合構造体として、例えば、酸化アルミニウム粒子とリン化合物との反応生成物によって構成される透明ガスバリア層を有する複合構造体が記載されており、該ガスバリア層を形成する方法の1つとして、プラスチックフィルム上に酸化アルミニウム粒子とリン化合物を含むコーティング液を塗工し、次いで乾燥および熱処理を行う方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、アルミニウム原子を有する層にリン原子を複数有する重合体とエーテル結合を有し、かつグリコシド結合を有しない重合体を含む層を隣接して積層することで、レトルト処理後も良好な層間接着力を有し、延伸等の物理的ストレスを受けた際のガスバリア性を高いレベルで維持することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2790054号公報
【文献】国際公開第2011/122036号
【文献】国際公開第2016/103716号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3に記載の多層構造体を包装材として用いた場合、レトルト処理等の過酷条件下に付した後の(以下、単に「レトルト処理後」と表現する場合がある)屈曲等の物理的ストレス(以下、単に「屈曲」と表現する場合がある)によりガスバリア性が不足する場合があり、レトルト処理後の屈曲後も良好な特性を有するガスバリア性多層構造体が求められている。
【0008】
本発明の目的は、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、レトルト処理後の屈曲後もガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、レトルト処理後に層間剥離等の外観不良を起こさない高い層間接着力(剥離強度)を有する新規な多層構造体、それを用いた包装材および製品を提供することにある。本発明の他の目的の1つは、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、かつ、ダンプヒート試験後も、そのバリア性を維持できる新規な多層構造体を用いた電子デバイスの保護シートを提供することにある。なお、本明細書において、レトルト処理後の屈曲後もガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できる点、並びにレトルト処理後に層間剥離等の外観不良を起こさない高い層間接着力(剥離強度)を有する点を、単に「耐レトルト性」と表現する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記目的は、以下の発明を提供することで達成される。
[1]基材(X)と、層(Y)と、層(Z)とを備える多層構造体であって、層(Y)が、アルミニウムを含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(B)との反応生成物(D)を含み、層(Z)が、高分子(G)および加水分解可能な特性基を有する化合物(L)の加水分解縮合物(La)を含み、化合物(L)が化合物(L1)および化合物(L2)を含み、化合物(L1)は、グリシジル基を有する有機基および加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物であり、化合物(L2)は、グリシジル基を有する有機基を有さず、加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物であり、[高分子(G)と加水分解縮合物(La)に由来する有機成分の合計質量WG+La]と[加水分解縮合物(La)に由来する無機成分の質量WLa]の質量比WG+La/WLaが0.10以上0.70以下であり、無機リン化合物(B)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、多層構造体;
[2]化合物(L1)が下記一般式(I)
SiX1
pZqR1
(4-p-q) (I)
[上記式(I)中、X1は、F、Cl、Br、I、R2O-、R3COO-、(R4CO)2CH-、およびNO3からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、Zは、グリシジル基を有する有機基を表し、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、pは1~3の整数を表し、qは1~3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。複数のX1が存在する場合、それらのX1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のZが存在する場合、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のR1が存在する場合、それらのR1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
で示される少なくとも1種の化合物であり、
化合物(L2)が、下記一般式(II)
SiX2
rR5
(4-r) (II)
[上記式(II)中、X2は、F、Cl、Br、I、R6O-、R7COO-、(R8CO)2CH-、およびNO3からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、rは1~4の整数を表す。複数のX2が存在する場合、それらのX2は互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のR5が存在する場合、それらのR5は互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
で示される少なくとも1種の化合物である、[1]の多層構造体;
[3]高分子(G)が水溶性高分子(Ga)である、[1]または[2]の多層構造体;
[4]水溶性高分子(Ga)が、水溶性ポリビニルアルコール、水溶性ポリアクリル酸、水溶性ポリメタクリル酸、水溶性ポリビニルピロリドン、水溶性ポリアミド、および水溶性ポリウレタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子である、[3]の多層構造体;
[5]水溶性高分子(Ga)が水溶性ポリビニルアルコールまたは水溶性ポリアミドを少なくとも含む、[3]または[4]の多層構造体;
[6]水溶性高分子(Ga)が水溶性ポリビニルアルコールおよび水溶性ポリアクリル酸を含む、[3]~[5]のいずれかの多層構造体;
[7]少なくとも一組の層(Z)と層(Y)とが隣接して配置されている、[1]~[6]のいずれかの多層構造体;
[8]基材(X)が、熱可塑性樹脂フィルムおよび紙からなる群より選ばれる少なくとも1種の層を含む、[1]~[7]のいずれかの多層構造体;
[9]高分子(G)と、加水分解可能な特性基を有する化合物(L)の加水分解縮合物(La)と、溶媒とを含み、
化合物(L)が化合物(L1)および化合物(L2)を含み、
化合物(L1)が下記一般式(I)
SiX1
pZqR1
(4-p-q) (I)
[上記式(I)中、X1は、F、Cl、Br、I、R2O-、R3COO-、(R4CO)2CH-、およびNO3からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、Zは、グリシジル基を有する有機基を表し、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、pは1~3の整数を表し、qは1~3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。複数のX1が存在する場合、それらのX1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のZが存在する場合、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のR1が存在する場合、それらのR1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
で示される少なくとも1種の化合物であり、
化合物(L2)が、下記一般式(II)
SiX2
rR5
(4-r) (II)
[上記式(II)中、X2は、F、Cl、Br、I、R6O-、R7COO-、(R8CO)2CH-、およびNO3からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、R5、R6、R7、およびR8は、アルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、rは1~4の整数を表す。複数のX2が存在する場合、それらのX2は互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のR5が存在する場合には、それらのR5は互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
で示される少なくとも1種の化合物であり、[高分子(G)と加水分解縮合物(La)に由来する有機成分の合計質量WG+La]と[加水分解縮合物(La)に由来する無機成分の質量WLa]の質量比WG+La/WLaが0.10以上0.70以下である、コーティング液;
[10]基材(X)上に、アルミニウムを含む金属酸化物(A)と、無機リン化合物(B)と、溶媒とを含むコーティング液(S)を塗工し、溶媒を除去することで層(Y)前駆体層を形成する工程(I)と、層(Y)前駆体層上に、高分子(G)と、加水分解可能な特性基を有する化合物(L)の加水分解縮合物(La)と、溶媒とを含むコーティング液(T)を塗工し、溶媒を除去することで層(Z)前駆体層を形成する工程(II)と、層(Y)前駆体層および層(Z)前駆体層を熱処理して層(Y)および層(Z)を形成する工程(III)とを含む、[1]~[8]のいずれかの多層構造体の製造方法;
[11][1]~[8]のいずれかの多層構造体を含む、包装材;
[12]縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、またはインモールドラベル容器である、[11]の包装材;
[13][12]の包装材が真空包装袋であり、前記真空包装袋が内容物を含み、前記内容物が芯材であり、前記真空包装袋の内部が減圧されている真空断熱体;
[14][1]~[8]のいずれかの多層構造体を含む、電子デバイスの保護シート;
[15]光電変換装置、情報表示装置、または照明装置の表面を保護する保護シートである、[14]の電子デバイスの保護シート;
[16][14]または[15]に記載の保護シートを有する、電子デバイス;を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、レトルト処理後の屈曲後もガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、レトルト処理後に層間剥離等の外観不良を起こさない高い層間接着力(剥離強度)を有する新規な多層構造体、それを用いた包装材および製品が得られる。また、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、かつ、ダンプヒート試験後もそのバリア性を維持できる新規な多層構造体を用いた電子デバイスの保護シートが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について、以下に例を挙げて説明する。なお、以下の説明において、物質、条件、方法、数値範囲等を例示する場合があるが、本発明はそのような例示に限定されない。また、例示される物質は、特に注釈がない限り、1種を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0012】
[多層構造体]
本発明の多層構造体は、基材(X)と、層(Y)と、層(Z)とを備える。層(Y)は、アルミニウムを含む金属酸化物(A)(以下、単に「金属酸化物(A)」ともいう)と無機リン化合物(B)との反応生成物(D)(以下、単に「反応生成物(D)」ともいう)を含む。層(Z)は、高分子(G)と加水分解可能な特性基を有する化合物(L)(以下、単に「化合物(L)」ともいう)の加水分解縮合物(La)を含み、化合物(L)が化合物(L1)および化合物(L2)を含み、化合物(L1)は、グリシジル基を有する有機基および加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物であり、化合物(L2)は、グリシジル基を有する有機基を有さず、加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物であり、[高分子(G)と加水分解縮合物(La)に由来する有機成分の合計質量WG+La]と[加水分解縮合物(La)に由来する無機成分の質量WLa]の質量比WG+La/WLaが0.10以上0.70以下であり、無機リン化合物(B)が、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸およびそれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である。ここで、WG+La/WLaはTOF-SIMS等を用いて測定できるが、本発明の実施例では、高分子(G)および加水分解縮合物(La)に由来する有機成分の合計質量WG+Laと、加水分解縮合物(La)に由来する無機成分の質量WLaは、該組成物を調製する際に使用される原料の質量から算出した値を使用する。すなわち、本発明の実施例では、化合物(L)が完全に加水分解縮合して加水分解縮合物(La)になったと仮定し、加水分解縮合物(La)由来の有機成分(グリシジル基を有する有機基等)および無機成分の質量を算出し、高分子(G)の有機成分質量を加算した値を使用する。以下の説明において特に注釈がない限り、「多層構造体」という用語は、基材(X)と層(Y)と層(Z)を含む多層構造体を意味する。
【0013】
[基材(X)]
基材(X)の材質は特に制限されず、様々な材質からなる基材を使用できる。基材(X)の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の樹脂;布帛、紙類等の繊維集合体;木材;ガラス等が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂および繊維集合体が好ましく、熱可塑性樹脂がより好ましい。基材(X)の形態は特に制限されず、フィルムまたはシート等の層状であってもよい。基材(X)としては、熱可塑性樹脂フィルムおよび紙からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが好ましく、熱可塑性樹脂フィルムを含むものがより好ましく、熱可塑性樹脂フィルムがさらに好ましい。
【0014】
基材(X)に用いられる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-12等のポリアミド系樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の水酸基含有ポリマー;ポリスチレン;ポリ(メタ)アクリル酸エステル;ポリアクリロニトリル;ポリ酢酸ビニル;ポリカーボネート;ポリアリレート;再生セルロース;ポリイミド;ポリエーテルイミド;ポリスルフォン;ポリエーテルスルフォン;ポリエーテルエーテルケトン;アイオノマー樹脂等が挙げられる。多層構造体を包装材に用いる場合、基材(X)の材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン-6、およびナイロン-66からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0015】
熱可塑性樹脂からなるフィルムを基材(X)として用いる場合、基材(X)は延伸フィルムでも無延伸フィルムでもよい。得られる多層構造体の加工適性(印刷やラミネート等)が優れることから、延伸フィルム、特に二軸延伸フィルムが好ましい。二軸延伸フィルムは、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、およびチューブラ延伸法のいずれの方法で製造された二軸延伸フィルムでもよい。
【0016】
基材(X)に用いられる紙としては、例えば、クラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙等が挙げられる。基材(X)に紙を用いると、紙容器用の多層構造体を得ることができる。
【0017】
基材(X)が層状である場合、その厚さは、得られる多層構造体の機械的強度および加工性が良好になる観点から1~1,000μmが好ましく、5~500μmがより好ましく、9~200μmがさらに好ましい。
【0018】
[層(Y)]
層(Y)は、アルミニウムを含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(B)との反応生成物(D)を含む。アルミニウムを含む金属酸化物(A)および無機リン化合物(B)について以下に説明する。
【0019】
[アルミニウムを含む金属酸化物(A)]
アルミニウムを含む金属酸化物(A)は、通常、粒子の形態で無機リン化合物(B)と反応させる。アルミニウムを含む金属酸化物(A)を構成する金属原子(これらを総称して「金属原子(M)」という場合がある)は、周期表の2~14族に属する金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であることが好ましく、少なくともアルミニウムを含む。金属原子(M)はアルミニウム単独であってもよいし、アルミニウムとそれ以外の金属原子とを含んでもよい。なお、金属酸化物(A)として、2種以上の金属酸化物(A)を併用してもよい。
【0020】
金属原子(M)に占めるアルミニウムの割合は、50モル%以上が好ましく、60~100モル%がより好ましく、80~100モル%がさらに好ましく、実質的にアルミニウムのみから構成されていてもよい。金属酸化物(A)の例には、液相合成法、気相合成法、固体粉砕法等の方法によって製造された金属酸化物が含まれる。
【0021】
金属酸化物(A)は、加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)の加水分解縮合物であることが好ましい。該特性基の例には、後述する一般式〔III〕のR9が含まれる。化合物(E)の加水分解縮合物は、実質的に金属酸化物(A)とみなすことが可能である。そのため、本明細書では、化合物(E)の加水分解縮合物を「金属酸化物(A)」という場合がある。すなわち、本明細書において、「金属酸化物(A)」は「化合物(E)の加水分解縮合物」と読み替えることができ、また、「化合物(E)の加水分解縮合物」を「金属酸化物(A)」と読み替えることもできる。
【0022】
[加水分解可能な特性基が結合した金属原子(M)を含有する化合物(E)]
無機リン化合物(B)との反応の制御が容易な金属酸化物(A)を形成しやすく、得られる多層構造体のガスバリア性が優れることから、化合物(E)は、下記一般式〔III〕で表される化合物(Ea)を少なくとも1種含むことが好ましい。
Al(R9)k(R10)3-k 〔III〕
式中、R9は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、NO3、炭素数1~9のアルコキシ基、炭素数5~9のアリールオキシ基、炭素数2~9のアシロキシ基、炭素数3~9のアルケニルオキシ基、炭素数5~15のβ-ジケトナト基、または炭素数1~9のアシル基を有するジアシルメチル基を表す。R10は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基炭素数2~9のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。上記のアルコキシ基、アリールオキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、β-ジケトナト基、ジアシルメチル基、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基およびアリール基は置換基を有していてもよい。kは1~3の整数を表す。R9が複数存在する場合、R9は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R10が複数存在する場合、R10は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0023】
化合物(E)は、化合物(Ea)に加えて、下記一般式〔IV〕で表される化合物(Eb)を少なくとも1種含んでいてもよい。
M1(R11)m(R12)n-m 〔IV〕
式中、M1は、アルミニウム原子以外の金属原子であって周期表の2~14族に属する金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子を表す。R11は、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、NO3、炭素数1~9のアルコキシ基、炭素数5~9のアリールオキシ基、炭素数2~9のアシロキシ基、炭素数3~9のアルケニルオキシ基、炭素数5~15のβ-ジケトナト基、または炭素数1~9のアシル基を有するジアシルメチル基を表す。R12は、炭素数1~9のアルキル基、炭素数7~10のアラルキル基、炭素数2~9のアルケニル基、または炭素数6~10のアリール基を表す。上記のアルコキシ基、アリールオキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基、β-ジケトナト基、ジアシルメチル基、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基およびアリール基は置換基を有していてもよい。mは1~nの整数を表す。nはM1の原子価に等しい。R11が複数存在する場合、R11は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。R12が複数存在する場合、R12は互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0024】
R9、R10、R11、およびR12が表す各基が有していてもよい置換基としては、例えば、炭素数1~6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、n-ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、シクロプロピルオキシカルボニル基、シクロブチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基等の炭素数1~6のアルコキシカルボニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;炭素数1~6のアシル基;炭素数7~10のアラルキル基;炭素数7~10のアラルキルオキシ基;炭素数1~6のアルキルアミノ基;炭素数1~6のアルキル基を有するジアルキルアミノ基等が挙げられる。
【0025】
R9およびR11としては、ハロゲン原子、NO3、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数2~6のアシロキシ基、炭素数5~10のβ-ジケトナト基、または炭素数1~6のアシル基を有するジアシルメチル基が好ましく、炭素数1~6のアルコキシ基がより好ましい。
【0026】
R10としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。式〔III〕のkは、好ましくは3である。
【0027】
R12としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましい。M1としては、周期表の4族に属する金属原子が好ましく、チタン、ジルコニウムがより好ましい。M1が周期表の4族に属する金属原子の場合、式〔IV〕のmは好ましくは4である。なお、ホウ素およびケイ素は半金属に分類される場合があるが、本明細書ではこれらを金属に含めるものとする。
【0028】
化合物(Ea)としては、例えば、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、トリス(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシアルミニウム、トリ-tert-ブトキシアルミニウム等が挙げられ、中でも、トリイソプロポキシアルミニウムおよびトリ-sec-ブトキシアルミニウムが好ましい。化合物(E)として、2種以上の化合物(Ea)を併用してもよい。
【0029】
化合物(Eb)としては、例えば、テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)チタン、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン等のチタン化合物;テトラキス(2,4-ペンタンジオナト)ジルコニウム、テトラ-n-プロポキシジルコニウム、テトラ-n-ブトキシジルコニウム等のジルコニウム化合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上の化合物(Eb)を併用してもよい。
【0030】
化合物(E)において、本発明の効果が得られる限り、化合物(E)に占める化合物(Ea)の割合は50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、95モル%以上が特に好ましく、化合物(E)は実質的に化合物(Ea)のみから構成されていてもよい。化合物(Ea)以外の化合物(例えば、化合物(Eb))が化合物(E)に占める割合は20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましく、0モル%であってもよい。
【0031】
化合物(E)が加水分解されることによって、化合物(E)が有する加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に変換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子(M)が酸素原子(O)を介して結合された化合物が形成される。この縮合が繰り返されると、実質的に金属酸化物(A)とみなしうる化合物が形成される。なお、このようにして形成された金属酸化物(A)の表面には、通常、水酸基が存在する。
【0032】
本明細書においては、[金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)のモル数]/[金属原子(M)のモル数]の比が0.8以上である化合物を金属酸化物(A)に含めるものとする。ここで、金属原子(M)のみに結合している酸素原子(O)は、M-O-Mで表される構造における酸素原子(O)であり、M-O-Hで表される構造における酸素原子(O)のように金属原子(M)と水素原子(H)に結合している酸素原子は除外される。金属酸化物(A)における前記比は、0.9以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.1以上がさらに好ましい。この比の上限は特に限定されないが、金属原子(M)の原子価をnとすると、通常、n/2で表される。
【0033】
加水分解縮合が起こるためには、化合物(E)が加水分解可能な特性基を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないか極めて緩慢となるため、目的とする金属酸化物(A)の調製が困難になる。
【0034】
化合物(E)の加水分解縮合物は、例えば、公知のゾルゲル法で採用される手法によって特定の原料から製造してもよい。該原料には、化合物(E)、化合物(E)の部分加水分解物、化合物(E)の完全加水分解物、化合物(E)が部分的に加水分解縮合してなる化合物および化合物(E)の完全加水分解物の一部が縮合してなる化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用できる。
【0035】
なお、後述の無機リン化合物(B)との混合に供される金属酸化物(A)は、リン原子を実質的に含有しないことが好ましい。
【0036】
[無機リン化合物(B)]
無機リン化合物(B)は、金属酸化物(A)と反応可能な部位を含有し、典型的には、かかる部位(原子団または官能基)を複数含有し、好適には2~20個含有する。かかる部位には、金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)と縮合反応可能な部位が含まれ、例えば、リン原子に直接結合したハロゲン原子、リン原子に直接結合した酸素原子等が挙げられる。金属酸化物(A)の表面に存在する官能基(例えば、水酸基)は、通常、金属酸化物(A)を構成する金属原子(M)に結合している。
【0037】
無機リン化合物(B)としては、例えば、リン酸、二リン酸、三リン酸、4分子以上のリン酸が縮合したポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、亜ホスホン酸、ホスフィン酸、亜ホスフィン酸等のリンのオキソ酸およびこれらの誘導体(例えば、塩(例えば、リン酸ナトリウム)、ハロゲン化物(例えば、塩化ホスホリル)、脱水物(例えば、五酸化二リン))等が挙げられる。
【0038】
これらの無機リン化合物(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、リン酸を単独で使用するか、リン酸とそれ以外の無機リン化合物(B)を併用することが好ましい。リン酸を用いると、後述するコーティング液(S)の安定性および得られる多層構造体のガスバリア性が向上する。リン酸とそれ以外の無機リン化合物(B)とを併用する場合、無機リン化合物(B)中のリン酸の割合は50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましく、無機リン化合物(B)は実質的にリン酸のみから構成されていてもよい。
【0039】
[反応生成物(D)]
反応生成物(D)は、金属酸化物(A)と無機リン化合物(B)との反応で得られる。ここで、金属酸化物(A)と無機リン化合物(B)とさらに他の化合物とが反応することで生成する化合物も反応生成物(D)に含まれる。層(Y)は、反応に関与していない金属酸化物(A)および/または無機リン化合物(B)を部分的に含んでいてもよい。良好なガスバリア性および水蒸気バリア性を発現する観点から、層(Y)に占める反応生成物(D)の割合は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、97.5質量%以上が特に好ましい。層(Y)は、実質的に反応生成物(D)のみから構成されていてもよい。なお、層(Y)には層(Z)の成分が浸透してくる場合がある。その場合、層(Y)に占める反応生成物(D)および層(Z)の成分の割合は50質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、97.5質量%以上が特に好ましい。層(Y)は、実質的に反応生成物(D)および層(Z)の成分のみから構成されていてもよい。
【0040】
反応生成物(D)において、金属酸化物(A)を構成する金属原子と無機リン化合物(B)に由来するリン原子とのモル比は、[金属酸化物(A)を構成する金属原子]:[無機リン化合物(B)に由来するリン原子]=1.0:1.0~3.6:1.0の範囲にあることが好ましく、1.1:1.0~3.0:1.0の範囲にあることがより好ましい。この範囲外ではガスバリア性能が低下する。該モル比は、反応生成物(D)を形成するためのコーティング液における金属酸化物(A)と無機リン化合物(B)との混合比率によって調整できる。該モル比は、通常、コーティング液における比と同じである。
【0041】
層(Y)の赤外吸収スペクトルにおいて、800~1,400cm-1の領域における最大吸収波数は1,080~1,130cm-1の範囲にあることが好ましい。金属酸化物(A)と無機リン化合物(B)とが反応して反応生成物(D)となる過程において、金属酸化物(A)に由来する金属原子(M)と無機リン化合物(B)に由来するリン原子(P)とが酸素原子(O)を介してM-O-Pで表される結合を形成する。その結果、反応生成物(D)の赤外吸収スペクトルにおいて該結合由来の特性吸収帯が生じる。本発明者らによる検討の結果、M-O-Pの結合に基づく特性吸収帯が1,080~1,130cm-1の領域に見られる場合には、得られた多層構造体が優れたガスバリア性を発現することが判明した。特に、該特性吸収帯が、一般に各種の原子と酸素原子との結合に由来する吸収が見られる800~1,400cm-1の領域において最も強い吸収である場合には、得られた多層構造体がさらに優れたガスバリア性を発現することが判明した。
【0042】
これに対し、金属アルコキシドや金属塩等の金属化合物と無機リン化合物(B)とを予め混合した後に加水分解縮合させた場合には、金属化合物に由来する金属原子と無機リン化合物(B)に由来するリン原子とがほぼ均一に混ざり合い反応した複合体が得られる。その場合、赤外吸収スペクトルにおいて、800~1,400cm-1の領域における最大吸収波数が1,080~1,130cm-1の範囲から外れるようになる。
【0043】
層(Y)の赤外吸収スペクトルにおいて、800~1,400cm-1の領域における最大吸収帯の半値幅は、得られる多層構造体のガスバリア性の観点から、200cm-1以下が好ましく、150cm-1以下がより好ましく、100cm-1以下がさらに好ましく、50cm-1以下が特に好ましい。
【0044】
層(Y)の赤外吸収スペクトルは、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計を用い、減衰全反射法で測定することができ、具体的にはパーキンエルマー株式会社製Spectrum Oneを用い、減衰全反射法で測定領域を800~1400cm-1として、多層構造体の層(Y)面をその他の層から剥離して測定できる。ただし、上記方法で測定できない場合には、反射吸収法、外部反射法、減衰全反射法等の反射測定、多層構造体から層(Y)をかきとり、ヌジョール法、錠剤法等の透過測定で測定してもよく、これらに限定されるものではない。
【0045】
[高分子(F)]
層(Y)は、高分子(F)を含んでいてもよい。高分子(F)は、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する重合体である。高分子(F)は、水酸基、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、およびカルボキシル基の塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する単量体の単独重合体であっても、該単量体を有する共重合体であってもよい。
【0046】
高分子(F)としては、例えば、ポリエチレングリコール;ポリビニルアルコール、炭素数4以下のα-オレフィン単位を1~50モル%含有する変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(ポリビニルブチラール等)などのポリビニルアルコール系重合体;セルロース、デンプン等の多糖類;ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリル酸、エチレン-アクリル酸共重合体等の(メタ)アクリル酸系重合体;エチレン-無水マレイン酸共重合体の加水分解物、スチレン-無水マレイン酸共重合体の加水分解物、イソブチレン-無水マレイン酸交互共重合体の加水分解物等のマレイン酸系重合体等が挙げられる。中でも、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール系重合体が好ましい。なお、高分子(F)として、2種以上の高分子(F)を混合して用いてもよい。
【0047】
高分子(F)の分子量に特に制限はないが、より優れたガスバリア性および力学的特性(落下衝撃強さ等)を有する多層構造体を得るために、高分子(F)の数平均分子量は、5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。高分子(F)の数平均分子量の上限は特に限定されず、例えば、1,500,000以下である。
【0048】
層(Y)が高分子(F)を含む場合、耐屈曲性並びにガスバリア性および水蒸気バリア性を両立する観点から、層(Y)に占める高分子(F)の割合は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、2.5質量%以下が特に好ましい。高分子(F)は層(Y)中の他の成分と反応していても、反応していなくてもよい。
【0049】
[リン原子を有する重合体(C)]
層(Y)はリン原子を有する重合体(C)(以下、「重合体(C)」と略記する場合がある)を含んでいてもよい。重合体(C)は、典型的にはリン原子を含む官能基を有する重合体である。かかる官能基としては、例えばリン酸基、亜リン酸基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、ホスフィン酸基、亜ホスフィン酸基、およびこれらから誘導される官能基(例えば、塩、(部分)エステル化合物、ハロゲン化物(例えば、塩化物)、脱水物)等が挙げられ、重合体(C)はこれらの官能基を1種単独で有していても2種以上を有していてもよい。リン原子を含む官能基としては、リン酸基およびホスホン酸基が好ましく、ホスホン酸基がより好ましい。重合体(C)としては、6-[(2-ホスホノアセチル)オキシ]ヘキシルアクリレート、2-ホスホノオキシエチルメタクリレート、ホスホノメチルメタクリレート、11-ホスホノウンデシルメタクリレート、1,1-ジホスホノエチルメタクリレート等のホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類;ビニルホスホン酸、2-プロペン-1-ホスホン酸、4-ビニルベンジルホスホン酸、4-ビニルフェニルホスホン酸等のビニルホスホン酸類;ビニルホスフィン酸、4-ビニルベンジルホスフィン酸等のビニルホスフィン酸類;等のリン原子を含む官能基を有する単量体の単独重合体または共重合体、リン酸化デンプン等が挙げられる。中でも、ホスホノ(メタ)アクリル酸エステル類、ビニルホスホン酸類の重合体が好ましく、ビニルホスホン酸類の重合体がより好ましく、ポリ(ビニルホスホン酸)がさらに好ましい。また、重合体(C)として、単一の単量体からなる重合体を2種以上混合して使用してもよい。また、重合体(C)は、ビニルホスホン酸ハロゲン化物、ビニルホスホン酸エステル等のビニルホスホン酸誘導体を単独または共重合した後、加水分解することで得ることもできる。
【0050】
層(Y)が重合体(C)を含む場合、耐屈曲性並びにガスバリア性および水蒸気バリア性を両立する観点から、層(Y)に占める重合体(C)の割合は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、2.5質量%以下が特に好ましい。
【0051】
層(Y)は、層(Z)の成分を一部含んでいてもよい。層(Y)が層(Z)の成分を含むことで、層(Z)との親和性が向上し、本発明の多層構造体の耐レトルト性をより高めることができる場合がある。
【0052】
層(Y)は他の成分をさらに含むことができる。かかる他の成分としては、例えば、炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、ホウ酸塩等の無機酸金属塩;シュウ酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、ステアリン酸塩等の有機酸金属塩;シクロペンタジエニル金属錯体(例えば、チタノセン)、シアノ金属錯体(例えば、プルシアンブルー)等の金属錯体;層状粘土化合物;架橋剤;高分子(F)以外の高分子化合物;可塑剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;難燃剤等が挙げられる。多層構造体中の層(Y)における前記の他の成分の含有量は50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましく、0質量%(他の成分を含まない)でもよい。
【0053】
層(Y)の厚さ(多層構造体が2層以上の層(Y)を有する場合には各層(Y)の厚さの合計)は0.05μm~4.0μmの範囲にあることが好ましく、0.1μm~2.0μmの範囲にあることがより好ましい。層(Y)を薄くすることによって、印刷やラミネート等の加工時における多層構造体の寸法変化を抑制できる。層(Y)の厚さは、多層構造体の断面を走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡で観察することで測定できる。
【0054】
[層(Z)]
層(Z)は高分子(G)と、化合物(L)の加水分解縮合物(La)とを含む。化合物(L)は、グリシジル基を有する有機基および加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物である化合物(L1)およびグリシジル基を有する有機基を有さず、加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物である化合物(L2)を含む。層(Z)が高分子(G)と、化合物(L)の加水分解縮合物(La)とを含むことによって、本発明の多層構造体はレトルト処理後の屈曲後もガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、レトルト処理後に層間剥離等の外観不良を起こさない高い層間接着力を備える。
【0055】
[高分子(G)]
高分子(G)は親水性を有する高分子を適用することが好ましく、水溶性高分子(Ga)または水分散性高分子(Gb)であることが好ましく、水溶性高分子(Ga)であることがより好ましい。本明細書において、水溶性高分子(Ga)は、当該高分子10gを水100mlと混合し、95℃で約1時間撹拌した後、室温(25℃)に冷却した場合に、完全に溶解するものを意味する。また、水分散性高分子(Gb)は、水溶性高分子(Ga)に該当せず、平均粒子径1~1000nmで水に分散可能な、極性基を有する高分子を意味し、前記極性基は特に限定されないが、水酸基、カルボキシル基、スルホニル基、リン酸基、アミノ基およびその塩等が好ましい。平均粒子径は、平均一次粒子径であり、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察で求められる。具体的には、100nm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、100nm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。100nmはレーザー回折散乱法により測定した値である。レーザー回折散乱法は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2300:株式会社島津製作所製)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定できる。
【0056】
高分子(G)の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が5,000以上であることが好ましく、8,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましい。重量平均分子量は7,000,000以下であることが好ましく、3,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることがさらに好ましく、100,000以下であることが特に好ましい。重量平均分子量がこの範囲外であるときは、十分な密着性が得られない場合がある。
【0057】
水溶性高分子(Ga)としては、例えば、水溶性ビニルアルコール系樹脂、水溶性アクリル系樹脂、水溶性メタクリル系樹脂、水溶性アクリルアミド樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ポリエチレングリコール樹脂、水溶性ポリエチレンオキサイド樹脂、水溶性ポリプロピレンオキサイド樹脂(ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体等)、水溶性ビニル変性樹脂(水溶性ポリビニルピロリドン等)、水溶性ポリアミド樹脂、水溶性ポリウレタン樹脂、水溶性エポキシ樹脂、水溶性オキサゾリン基含有樹脂、水溶性変性スチレン樹脂、水溶性変性シリコン樹脂および水溶性多糖類が好適に挙げられる。水溶性多糖類としては、デンプン、デキストラン、デキストリン、プルラン、寒天、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、カラヤガム、キトサン、アラビアガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガム、カードラン、ジェランガム、ゼラチン、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)等が挙げられる。また、水分散性高分子(Gb)としては水分散性ポリエステル樹脂、水分散性ポリアミド樹脂、水分散性アクリル系樹脂、水分散性ビニルアルコール樹脂、水分散性ポリエチレンオキサイド樹脂、水分散性ポリプロピレンオキサイド樹脂、水分散性エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)樹脂、水分散性ビニル変性樹脂、水分散性エポキシ樹脂、水分散性オキサゾリン基含有樹脂、水分散性変性スチレン樹脂、および水分散性変性シリコン樹脂等が好適に挙げられる。
【0058】
水溶性高分子(Ga)は、化合物(L1)のグリシジル基との反応が期待される点から、水溶性ポリビニルアルコール、水溶性ポリアクリル酸、水溶性ポリメタクリル酸、水溶性ポリエチレングリコール樹脂、水溶性ポリエチレンオキサイド樹脂、水溶性ポリビニルピロリドン、水溶性ポリアミド、水溶性ポリウレタン等を含むことが好ましく、水溶性ポリビニルアルコール、水溶性ポリアクリル酸、水溶性ポリメタクリル酸、水溶性ポリビニルピロリドン、水溶性ポリアミド、および水溶性ポリウレタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の高分子を含むことがより好ましく、水溶性ポリビニルアルコールまたは水溶性ポリアミドを含むことがさらに好ましく、水溶性ポリビニルアルコールを含むことが特に好ましい。
【0059】
水溶性ポリアミドとしては、6-ナイロンと親水性成分を含有する共重合ポリアミドや6-ナイロンを化学的に変性させた変性ポリアミドが挙げられる。また、水溶性ポリアミドは、アミド結合以外にエステル結合やウレタン結合を含有していてもよい。具体的な共重合ポリアミドとしては、側鎖にスルホン酸基またはスルホネート基を有するポリアミド、ポリエーテルセグメントを含有するポリアミド、塩基性窒素を有するポリアミド等が挙げられる。前記ポリアミドの中でも塩基性窒素を含有するポリアミドおよび/またはポリエーテルセグメントを含有するポリアミドがより好ましい。なお、塩基性窒素を有するポリアミドは、主鎖または側鎖の一部分に塩基性窒素を含有する重合体である。塩基性窒素とは、アミノ基(未置換アミノ基、一置換アミノ基、二置換アミノ基、または5~6員環の環状アミノ基が挙げられ、アミド基を構成する窒素原子を除く)を構成する窒素原子である。一置換アミノ基及び二置換アミノ基が有する置換基としては、炭素数1~6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。塩基性窒素を有するポリアミドとしては、3級アミノ基を主鎖中に有するポリアミドが好ましい。塩基性窒素を有するポリアミドは、塩基性窒素を有する単量体を単独もしくは他の単量体を用いて縮重合、重付加反応等を行うことによって得ることができる。塩基性窒素を含有するポリアミドおよび/またはポリエーテルセグメントを含有するポリアミドの単量体成分は全ポリアミド構成成分に対して、すなわちアミノカルボン酸単位(原料としてラクタムの場合を含む)、ジカルボン酸単位およびジアミン単位の和に対して、水溶性が高くなることから、10モル%以上100モル%以下であることが好ましく、20モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。
【0060】
水溶性ポリビニルアルコールのけん化度は、60モル%以上99.95モル%以下が好ましく、70モル%以上99.9モル%以下がより好ましく、80モル%以上99.9モル%以下がさらに好ましい。水溶性ポリビニルアルコールの粘度は、1~150mPa・sが好ましく、2~100mPa・sがより好ましく、3~80mPa・sがさらに好ましい。水溶性ポリビニルアルコールのけん化度および粘度は、JIS K 6726:1994に準じて測定でき、粘度はB型回転粘度計で測定できる。水溶性ポリビニルアルコールは、カルボン酸、ジカルボン酸、スルホン酸等で変性された酸変性ポリビニルアルコールであっても、エチレン等のビニルアルコール単位以外の単量体単位を15モル%以下含む変性ポリビニルアルコールであってもよい。
【0061】
水溶性ポリアクリル酸は、重合体1分子中に1個以上のカルボキシル基または1個以上のカルボン酸無水物基を有する。具体的には、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、マレイン酸単位、イタコン酸単位等の、カルボキシル基を1個以上有する構成単位を重合体1分子中に1個以上含有する重合体を用いることができる。また、無水マレイン酸単位や無水フタル酸単位等のカルボン酸無水物の構造を有する構成単位を含有する重合体を用いることもできる。カルボキシル基を1個以上有する構成単位および/またはカルボン酸無水物の構造を有する構成単位は、1種類または2種類以上が含まれていてもよい。カルボキシル基を1個以上有する構成単位および/またはカルボン酸無水物の構造を有する構成単位は、水溶性が高くなることから、10モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることが特に好ましく、100モル%であってもよい。
【0062】
より優れたバリア性および耐レトルト性を有する多層構造体を得る観点から、高分子(G)として、分子間で反応可能な官能基を有する2種の水溶性高分子(Ga)を混合して用いてもよい。水溶性高分子(Ga)としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコールおよび水溶性ポリアクリル酸等の組合せが挙げられる。
【0063】
2種の水溶性高分子(Ga)を使用する場合、層(Z)において含有量が多い方の質量をWGa1とし、もう一方の質量をWGa2とすると、質量比WGa1/WGa2は耐レトルト性が向上する観点から1.0以上20.0以下が好ましく、1.5以上10.0以下がより好ましく、3.0以上7.5以下が特に好ましい。高分子(G)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
[加水分解縮合物(La)]
化合物(L)が加水分解されることによって、化合物(L)の加水分解可能な特性基の少なくとも一部が水酸基に置換される。さらに、その加水分解物が縮合することによって、金属原子が酸素を介して結合された化合物である加水分解縮合物(La)が形成される。ここで、この加水分解縮合が起こるためには、化合物(L)が加水分解可能な特性基(官能基)を有していることが重要である。それらの基が結合していない場合、加水分解縮合反応が起こらないか極めて緩慢になるため、本発明の効果を得ることは困難になる。なお、Siは、半金属元素に分類される場合があるが、本明細書では、Siを金属として説明する。化合物(L)が有する加水分解可能な特性基としては、後述する式(I)のX1、式(II)のX2等が挙げられる。加水分解縮合物(La)は、例えば、公知のゾルゲル法で用いられる手法を用いて特定の原料から製造できる。原料には、化合物(L)、化合物(L)が部分的に加水分解したもの、化合物(L)が完全に加水分解したもの、化合物(L)が部分的に加水分解縮合したもの、化合物(L)が完全に加水分解しその一部が縮合したもの、或いはこれらを組み合わせたものを使用できる。これらの原料は、公知の方法で製造してもよいし、市販されているものを用いてもよい。特に限定はないが、例えば2~10個程度の分子が加水分解縮合することによって得られる縮合物を、原料として使用できる。
【0065】
化合物(L1)は、グリシジル基を有する有機基および加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物である。化合物(L1)は、下記一般式(I)
SiX1
pZqR1
(4-p-q) (I)
[上記式(I)中、X1は、F、Cl、Br、I、R2O-、R3COO-、(R4CO)2CH-、およびNO3からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、Zは、グリシジル基を有する有機基を表し、R1、R2、R3、およびR4は、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、pは1~3の整数を表し、qは1~3の整数を表す。2≦(p+q)≦4である。複数のX1が存在する場合、それらのX1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のZが存在する場合、それらのZは互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のR1が存在する場合、それらのR1は互いに同一であってもよいし異なってもよい。]で示される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。本発明において、化合物(L1)は、化合物(L)の加水分解縮合物(La)と、高分子(G)とを共有結合により強く結びつけることができる。化合物(L)の一部として化合物(L1)を用いることによって、得られる多層構造体がガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、レトルト処理後の屈曲後もガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、レトルト処理後であっても層間剥離等の外観不良を起こさない高い層間接着力を有する。
【0066】
R1、R2、R3、およびR4は、例えば炭素数が1~10のアルキル基、炭素数7~110のアラルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数が2~9のアルケニル基であり、好ましくは炭素数が1~6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数が1~4のアルキル基である。
【0067】
式(I)において、Zが表す「グリシジル基を有する有機基」の中のグリシジル基は、高分子(G)中の官能基との共有結合の形成に寄与する。式(I)中のZは、グリシジル基を1つのみ有していてもよいが、グリシジル基を複数有していてもよい。
【0068】
好ましい一例では、X1がハロゲン原子または炭素数が1~4のアルコキシ基(R2O-)であり、Zがグリシジル基を有する炭素数が1~4のアルキル基であり、R1が炭素数1~4のアルキル基であり、pが2または3であり、qが1または2であり、3≦(p+q)≦4である。特に好ましい一例では、X1がハロゲン原子または炭素数が1~4のアルコキシ基(R2O-)であり、Zがグリシジル基を有する炭素数1~4のアルキル基であり、pが3であり、qが1である。
【0069】
化合物(L1)の具体例には、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリクロロシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが含まれる。中でも、化合物(L1)として、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、およびγ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0070】
化合物(L2)は、グリシジル基を有する有機基を有さず、加水分解可能な特性基を有するケイ素化合物である。化合物(L2)は、反応性を有する官能基(エポキシ基、イソシアネート基、メルカプト基、水酸基、ウレイド基、オキサゾリン基、カルボジイミド基、ハロゲン原子等)を有する有機基を有しないことが好ましい。化合物(L2)は、下記一般式(II)
SiX2
rR5
(4-r) (II)
[上記式(II)中、X2は、F、Cl、Br、I、R6O-、R7COO-、(R8CO)2CH-、およびNO3からなる群より選ばれるいずれか1つを表し、R5、R6、R7、およびR8は、それぞれ独立してアルキル基、アラルキル基、アリール基、およびアルケニル基からなる群より選ばれるいずれか1つの基を表し、rは1~4の整数を表す。複数のX2が存在する場合、それらのX2は互いに同一であってもよいし異なってもよい。複数のR5が存在する場合、それらのR5は互いに同一であってもよいし異なってもよい。]
で示される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。本発明において、化合物(L)の一部として化合物(L2)を用いることによって、ガスバリア層の耐レトルト性を向上させることができる。
【0071】
R5、R6、R7、およびR8は、例えば炭素数が1~10のアルキル基、炭素数7~110のアラルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数が2~9のアルケニル基であり、好ましくは炭素数が1~6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数が1~4のアルキル基である。
【0072】
好ましい一例では、X2がハロゲン原子または炭素数が1~4のアルコキシ基(R6O-)であり、R5が炭素数1~4のアルキル基であり、rが3または4である。特に好ましい一例では、X2がハロゲン原子または炭素数1~4のアルコキシ基(R6O-)であり、rが4である。
【0073】
化合物(L2)の具体例には、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、クロロトリメトキシシラン、クロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、およびビニルトリクロロシランが含まれる。中でも、化合物(L2)として、テトラメトキシシランおよびテトラエトキシシランが好ましい。
【0074】
層(Z)において化合物(L1)に由来するケイ素原子の全モル数ML1と、化合物(L2)に由来するケイ素原子の全モル数ML2との比(ML1/ML2)は0.1/99.9以上が好ましく、0.5/99.5以上がより好ましく、1.0/99.0以上がさらに好ましく、1.5/98.5が特に好ましい。ML1/ML2は30.0/70.0以下が好ましく、20.0/80.0以下がより好ましく、8.0/92.0以下がさらに好ましく、4.0/96.0以下が特に好ましい。ML1/ML2が0.1/99.9以上であると、本発明の多層構造体は耐レトルト性により優れる。また、ML1/ML2が30.0/70.0以下であると、本発明の多層構造体はレトルト処理後の屈曲後におけるバリア性により優れる。
【0075】
本発明の効果が得られる限り、化合物(L)は化合物(L1)および化合物(L2)以外のケイ素化合物を有していてもよいが、その割合は20モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましく、5モル%以下がさらに好ましく、0モル%でもよい。すなわち、化合物(L)は実質的に化合物(L1)および化合物(L2)のみからなってもよい。
【0076】
層(Z)において、[高分子(G)と加水分解縮合物(La)に由来する有機成分の合計質量WG+La]と[加水分解縮合物(La)に由来する無機成分の質量WLa]の質量比WG+La/WLaが、0.10以上0.70以下の範囲にあることが好ましい。WG+La/WLaを0.10以上とすることで塗工性が良好となり、0.70以下とすることで、得られる多層構造体は耐レトルト性に優れることから屈曲等の物理的ストレス後においてもバリア性に優れる。塗工性および耐レトルト性をより向上させる観点から、WG+La/WLaは0.15以上0.55以下の範囲にあることがより好ましく、0.25以上0.45以下の範囲にあることが特に好ましい。
【0077】
本発明の効果が得られる限り、層(Z)は高分子(G)と加水分解縮合物(La)以外の化合物を有していてもよいが、その割合は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、0質量%でもよい。すなわち、層(Z)は実質的に高分子(G)および加水分解縮合物(La)のみからなってもよい。
【0078】
層(Z)の形成方法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、シルクスクリーン印刷法等の周知の印刷方式;ロールコート、ナイフエッジコート、グラビアコート等の周知の塗工方式を使用できる。
【0079】
層(Z)の厚さは0.1~2.0μmの範囲が好ましく、0.2~1.5μmの範囲がより好ましく、0.3~1.0μmの範囲が特に好ましい。層(Z)の厚さが0.1μm以上であると、レトルト処理後の屈曲後のバリア性が良好になる傾向にあり、層(Z)の厚さが2.0μm以下であると層(Z)の製造安定性(特に乾燥時の割れ防止)が良好になる傾向となる。層(Z)の厚さは、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0080】
層(Z)のガスバリア性および水蒸気バリア性の維持効果は、アルミニウムまたは酸化アルミニウムの蒸着層に適用する場合に比べて、層(Y)に適用する場合の方が大きい。その理由の詳細は明らかではないが、無機蒸着層よりも層(Y)の方が表面粗さや間隙が大きく層(Z)の成分が層(Y)中に浸透しやすい、または密着面積が大きいために保護効果がより顕著になると推定している。前記保護効果はレトルト処理後の屈曲後の水蒸気バリア性評価でより顕著になると推定している。
【0081】
[無機蒸着層]
本発明の多層構造体は、さらに無機蒸着層を含んでもよい。無機蒸着層は、金属(例えば、アルミニウム)、金属酸化物(例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム)、金属窒化物(例えば、窒化ケイ素)、金属窒化酸化物(例えば、酸窒化ケイ素)、または金属炭化窒化物(例えば、炭窒化ケイ素)等から形成されていてもよい。
【0082】
無機蒸着層の形成方法は、特に限定されず、真空蒸着法(例えば、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、分子線エピタキシー法等)、スパッタリング法やイオンプレーティング法等の物理気相成長法;熱化学気相成長法(例えば、触媒化学気相成長法)、光化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法(例えば、容量結合プラズマ、誘導結合プラズマ、表面波プラズマ、電子サイクロトロン共鳴、デュアルマグネトロン、原子層堆積法等)、有機金属気相成長法等の化学気相成長法を使用できる。
【0083】
無機蒸着層の厚さは、無機蒸着層を構成する成分の種類によって異なるが、0.002~0.5μmが好ましく、0.005~0.2μmがより好ましく、0.01~0.1μmがさらに好ましい。この範囲で、多層構造体のバリア性や機械的物性が良好になる厚さを選択すればよい。無機蒸着層の厚さが0.002μm未満であると、酸素や水蒸気に対する無機蒸着層のバリア性発現の再現性が低下する傾向があり、また、無機蒸着層が充分なバリア性を発現しない場合もある。また、無機蒸着層の厚さが0.5μmを超えると、多層構造体を引張ったり屈曲させたりした場合に無機蒸着層のバリア性が低下する傾向がある。
【0084】
[他の層(J)]
本発明の多層構造体は、様々な特性(例えば、ヒートシール性、バリア性、力学物性)を付与するための他の層(J)を含んでもよい。このような本発明の多層構造体は、例えば、本発明の多層構造体に、他の層(J)を直接または後述する接着層(I)を介して接着または形成することによって製造できる。他の層(J)としては、例えば、インク層;ポリオレフィン層、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂層等の熱可塑性樹脂層等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
本発明の多層構造体がインク層を備えることで、商品名または絵柄等を印刷できる。インク層としては、例えば、溶剤に顔料(例えば、二酸化チタン)を包含したポリウレタン樹脂を分散した液体を乾燥した皮膜が挙げられるが、顔料を含まないポリウレタン樹脂、その他の樹脂を主剤とするインク、または電子回路配線形成用レジストを乾燥した皮膜でもよい。インク層の塗工方法としては、グラビア印刷法のほか、ワイヤーバー、スピンコーター、ダイコーター等各種の塗工方法が挙げられる。インク層の厚さは0.5~10.0μmが好ましく、1.0~4.0μmがより好ましい。
【0086】
本発明の多層構造体がポリオレフィン層を備えることで多層構造体の力学的特性を向上させることができる。また、ポリオレフィン層を本発明の多層構造体の最外層に備えることで、ヒートシール性を付与できる。ヒートシール性および力学的特性の向上等の観点から、ポリオレフィンはポリプロピレンまたはポリエチレンであることが好ましい。また、多層構造体の力学的特性を向上させるために、ポリエステルからなるフィルム、ポリアミドからなるフィルム、および水酸基含有ポリマーからなるフィルムからなる群より選ばれる少なくとも1つのフィルムを積層することが好ましい。力学的特性の向上の観点から、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートが好ましく、ポリアミドとしてはナイロン-6が好ましく、水酸基含有ポリマーとしてはエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0087】
[接着層(I)]
本発明の多層構造体において、基材(X)、層(Y)、層(Z)および他の層(J)を積層する際に、層間に接着層(I)を設けることで、かかる層間の接着力を高められる場合がある。接着層(I)は、接着性樹脂から構成されていてもよい。接着性樹脂から構成される接着層(I)は、各層の表面に公知の接着剤を塗工することによって形成できる。該接着剤としては、ポリイソシアネート成分とポリオール成分とを混合し反応させる2液反応型ポリウレタン系接着剤が好ましい。また接着剤に、公知のシランカップリング剤等の少量の添加剤を加えることによって、さらに接着性を高めることができる場合がある。シランカップリング剤としては、例えば、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基等の反応性基を有するシランカップリング剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。接着層(I)は基材(X)と層(Y)との間に形成されていることが好ましく、基材(X)と層(Y)とを接着層(I)を介して強く接着することによって、本発明の多層構造体に対して印刷またはラミネート等の加工を施す際に、ガスバリア性または外観の悪化をより効果的に抑制でき、さらに、本発明の多層構造体を用いた包装材の落下強度を高めることができる。接着層(I)の厚さは0.01~10.0μmが好ましく、0.03~5.0μmがより好ましい。
【0088】
[多層構造体の構成]
本発明の多層構造体の構成の具体例を示す。以下の具体例として記載される多層構造体は、さらに他の部材(例えば、他の層(J))を備えていてもよい。以下では、層(Y)と層(Z)が隣接して積層された構造を層(YZ)という場合がある。層(YZ)は、層(Y)と層(Z)は、いずれの順番で積層されていてもよい。なお以下の具体例に記載される「/」は、「/」を挟む2層が直接積層されていても、接着層(I)を介して積層されていてもよいことを意味する。
(1)層(YZ)/ポリエステル層、
(2)層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)、
(3)層(YZ)/ポリアミド層、
(4)層(YZ)/ポリアミド層/層(YZ)、
(5)層(YZ)/ポリオレフィン層、
(6)層(YZ)/ポリオレフィン層/層(YZ)、
(7)層(YZ)/水酸基含有ポリマー層、
(8)層(YZ)/水酸基含有ポリマー層/層(YZ)、
(9)層(YZ)/紙層、
(10)層(YZ)/紙層/層(YZ)、
(11)層(YZ)/無機蒸着層/ポリエステル層、
(12)層(YZ)/無機蒸着層/ポリアミド層、
(13)層(YZ)/無機蒸着層/ポリオレフィン層、
(14)層(YZ)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層、
(15)層(YZ)/ポリエステル層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(16)層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(17)ポリエステル層/層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/無機蒸着層/水酸基含有ポリマー層/ポリオレフィン層、
(18)ポリエステル層/層(YZ)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(19)層(YZ)/ポリアミド層/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(20)層(YZ)/ポリアミド層/層(YZ)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(21)ポリアミド層/層(YZ)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(22)層(YZ)/ポリオレフィン層/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(23)層(YZ)/ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(24)ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(25)層(YZ)/ポリオレフィン層/ポリオレフィン層、
(26)層(YZ)/ポリオレフィン層/層(Y)/ポリオレフィン層、
(27)ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリオレフィン層、
(28)層(YZ)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(29)層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/ポリオレフィン層、
(30)ポリエステル層/層(YZ)/ポリオレフィン層、
(31)層(YZ)/ポリアミド層/ポリオレフィン層、
(32)層(YZ)/ポリアミド層/層(YZ)/ポリオレフィン層、
(33)ポリアミド層/層(YZ)/ポリオレフィン層、
(34)層(YZ)/ポリエステル層/紙層、
(35)層(YZ)/ポリアミド層/紙層、
(36)層(YZ)/ポリオレフィン層/紙層、
(37)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(38)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリアミド層/ポリ
オレフィン層、
(39)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリオレフィン層、
(40)紙層/ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(41)ポリオレフィン層/紙層/層(YZ)/ポリオレフィン層、
(42)紙層/層(YZ)/ポリエステル層/ポリオレフィン層、
(43)紙層/層(YZ)/ポリオレフィン層、
(44)層(YZ)/紙層/ポリオレフィン層、
(45)層(YZ)/ポリエステル層/紙層/ポリオレフィン層、
(46)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリオレフィン層/水酸基含有ポリマー層、
(47)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリオレフィン層/ポリアミド層、
(48)ポリオレフィン層/紙層/ポリオレフィン層/層(YZ)/ポリオレフィン層/ポリエステル層、
(49)無機蒸着層/層(YZ)/ポリエステル層、
(50)無機蒸着層/層(YZ)/ポリエステル層/層(YZ)/無機蒸着層、
(51)無機蒸着層/層(YZ)/ポリアミド層、
(52)無機蒸着層/層(YZ)/ポリアミド層/層(YZ)/無機蒸着層、
(53)無機蒸着層/層(YZ)/ポリオレフィン層、
(54)無機蒸着層/層(YZ)/ポリオレフィン層/層(YZ)/無機蒸着層 上記した例示において、無機蒸着層はアルミニウムの蒸着層および/または酸化アルミニウムの蒸着層であることが好ましい。上記した例示において、水酸基含有ポリマー層はエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。上記した例示において、ポリオレフィン層はポリエチレンフィルム、またはポリプロピレンフィルムであることが好ましい。上記した例示において、ポリエステル層はPETフィルムであることが好ましい。また、上記した例示において、ポリアミド層はナイロンフィルムであってもよい。
【0089】
本発明の多層構造体は、少なくとも一組の層(Z)と層(Y)とが隣接して配置されていることが好ましく、屈曲後のバリア性および耐レトルト性をより高める観点から層(Z)と層(Y)は直接積層されていることがより好ましい。本発明の多層構造体は、基材(X)上に層(Y)を備え、層(Y)上に層(Z)を備えることが、後述する製造方法により製造が比較的容易に行えるため好ましい。
【0090】
本発明の多層構造体を保護シートとして用いる場合、本発明の多層構造体の層構成は、上記構成のうち(1)~(8)、(11)~(33)、および(49)~(54)のいずれかの構成が好ましい。
【0091】
本発明の多層構造体としては、後述する実施例記載のレトルト処理後において、20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が2.0mL/(m2・day・atm)以下であるものが好ましく、0.50mL/(m2・day・atm)以下であるものがより好ましく、0.30mL/(m2・day・atm)以下であるものがさらに好ましい。
【0092】
本発明の多層構造体としては、後述する実施例記載のレトルト処理後において、40℃、90/0%RHの条件下における透湿度が2.0g/(m2・day)以下であるものが好ましく、1.0g/(m2・day)以下であるものがより好ましく、0.5g/(m2・day)以下であるものがさらに好ましい。
【0093】
本発明の多層構造体としては、後述する実施例記載のレトルト処理後の屈曲後において、20℃、85%RHの条件下における酸素透過度が2.0mL/(m2・day・atm)以下であるものが好ましく、1.70mL/(m2・day・atm)以下であるものがより好ましく、1.60mL/(m2・day・atm)以下であるものがさらに好ましい。
【0094】
本発明の多層構造体としては、後述する実施例記載のレトルト処理後の屈曲後において、40℃、90/0%RHの条件下における透湿度が2.5g/(m2・day)以下であるものが好ましく、1.2g/(m2・day)以下であるものがより好ましく、0.95g/(m2・day)以下であるものがさらに好ましい。
【0095】
本発明の多層構造体としては、後述する実施例記載のレトルト処理後の剥離強度が300g/15mm以上が好ましく、450g/15mm以上がより好ましく、490g/15mm以上がさらに好ましく、510以上が特に好ましい。ここで、本発明の多層構造体の剥離強度はJIS K 6854-1:1999に準じて測定でき、層(Y)と層(Z)間の剥離強度または層(Z)と接着層(I)若しくは他の層(J)(例えば、インク層)間の剥離強度の内、弱い方の剥離強度が測定される。
【0096】
[押出しコートラミネート]
本発明の多層構造体は、例えば、基材(X)に層(Y)、層(Z)を積層させた後に、さらに他の層(J)を直接または接着層を介して押出しコートラミネート法により形成させた層をさらに有してもよい。本発明で使用できる押出しコートラミネート法に特に限定はなく、公知の方法を適用できる。典型的な押出しコートラミネート法では、溶融した熱可塑性樹脂をTダイに送り、Tダイのフラットスリットから取り出した熱可塑性樹脂を冷却することによって、ラミネートフィルムが製造される。
【0097】
前記シングルラミネート法以外の押出しコートラミネート法としては、サンドイッチラミネート法、タンデムラミネート法等が挙げられる。サンドイッチラミネート法は、溶融した熱可塑性樹脂を一方の基材に押出し、別のアンワインダー(巻出し機)から第2基材を供給して貼り合わせて積層体を作製する方法である。タンデムラミネート法は、シングルラミネート機を2台つないで一度に5層構成の積層体を作製する方法である。
【0098】
上述した積層体を用いることによって、押出しコートラミネート後も高いバリア性能を維持し、かつ光の透過性の低下が小さい多層構造体が得られる。
【0099】
[多層構造体の製造方法]
本発明の多層構造体について説明した事項は本発明の製造方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、本発明の製造方法について説明した事項は、本発明の多層構造体に適用できる。
【0100】
本発明の多層構造体の製造方法は、例えば、基材(X)上における層(Y)前駆体層形成工程(I)、層(Z)前駆体層の形成工程(II)、層(Y)前駆体層と層(Z)前駆体層を熱処理して、層(Y)および層(Z)を形成する工程を含む製造方法が挙げられる。なお、アルミニウムを含む金属酸化物(A)、無機リン化合物(B)およびそれらの質量比については上述したため、製造方法においては重複する説明を省略する。
【0101】
[工程(I)]
工程(I)では、アルミニウムを含む金属酸化物(A)と無機リン化合物(B)と溶媒とを含むコーティング液(S)を基材(X)上に塗工し、溶媒除去することで、層(Y)前駆体層を形成する。コーティング液(S)は、アルミニウムを含む金属酸化物(A)、無機リン化合物(B)および溶媒を混合することによって得られる。本発明の多層構造体がさらにアルミニウムの蒸着層または酸化アルミニウムの蒸着層を含む場合には、それらの層は上述した一般的な蒸着法によって形成できる。以下、好適な実施形態として、金属酸化物(A)、無機リン化合物(B)、および溶媒を用いる態様を説明する。
【0102】
コーティング液(S)は、金属酸化物(A)と無機リン化合物(B)を溶媒中で混合して調製できる。具体的に、コーティング液(S)は、金属酸化物(A)の分散液と、無機リン化合物(B)を含む溶液とを混合する方法;金属酸化物(A)の分散液に無機リン化合物(B)を添加し、混合する方法等によって調製できる。これらの混合時の温度は、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。コーティング液(S)は、他の化合物(例えば、高分子(F)やリン原子を有する重合体(C))を含んでいてもよく、必要に応じて、酢酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、およびトリクロロ酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化合物(Q)を含んでいてもよい。
【0103】
金属酸化物(A)の分散液は、例えば、公知のゾルゲル法で採用されている手法に従い、例えば、化合物(E)、水、および必要に応じて酸触媒もしくは有機溶媒を混合し、化合物(E)を縮合または加水分解縮合することによって調製できる。化合物(E)を縮合または加水分解縮合することによって金属酸化物(A)の分散液を得た場合、必要に応じて、得られた分散液に対して特定の処理(酸化合物(Q)の存在下の解膠等)を行ってもよい。金属酸化物(A)の分散液の調製に使用する溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;水;またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0104】
無機リン化合物(B)を含む溶液は、無機リン化合物(B)を溶媒に溶解させて調製できる。溶媒としては、無機リン化合物(B)の種類に応じて適宜選択すればよいが、水を含むことが好ましい。無機リン化合物(B)の溶解の妨げにならない限り、溶媒は有機溶媒(例えば、メタノール等のアルコール類)を含んでいてもよい。
【0105】
コーティング液(S)の固形分濃度は、該コーティング液の保存安定性および基材(X)に対する塗工性の観点から、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%がさらに好ましい。前記固形分濃度は、例えば、コーティング液(S)の溶媒留去後に残存した固形分の質量を、処理に供したコーティング液(S)の質量で除して算出できる。
【0106】
コーティング液(S)は、ブルックフィールド形回転粘度計(SB型粘度計:ローターNo.3、回転速度60rpm)で測定された粘度が、塗工時の温度において3,000mPa・s以下であることが好ましく、2,500mPa・s以下であることがより好ましく、2,000mPa・s以下であることがさらに好ましい。当該粘度が3,000mPa・s以下であることによって、コーティング液(S)のレベリング性が向上し、外観により優れる多層構造体を得ることができる。また、コーティング液(S)の粘度は50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましく、200mPa・s以上がさらに好ましい。
【0107】
コーティング液(S)において、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、通常、アルミニウム原子:リン原子=1.0:1.0~3.6:1.0の範囲にあることが好ましく、1.1:1.0~3.0:1.0の範囲にあることがより好ましく、1.11:1.00~1.50:1.00であることが特に好ましい。アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、コーティング液(S)の乾固物の蛍光X線分析を行い、算出できる。
【0108】
コーティング液(S)の塗工は特に限定されず、例えば、キャスト法、ディッピング法、ロールコーティング法、グラビアコート法、スクリーン印刷法、リバースコート法、スプレーコート法、キスコート法、ダイコート法、メタリングバーコート法、チャンバードクター併用コート法、カーテンコート法、バーコート法等の公知の方法を採用できる。
【0109】
通常、工程(I)においてコーティング液(S)中の溶媒を除去することによって、層(Y)前駆体層が形成される。溶媒の除去方法に特に制限はなく、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等の公知の乾燥方法を適用できる。乾燥後の溶媒含有率および層(Y)前駆体層における反応生成物(D)の平均粒子径が特定範囲にあると、得られる多層構造体の耐レトルト性がより良好になる傾向となる。
【0110】
乾燥処理後の層(Y)前駆体層の溶媒含有率は0.4質量%以下が好ましく、レトルト処理後の屈曲後でも優れたバリア性能を示す点から0.3質量%以下がより好ましい。乾燥処理後の層(Y)前駆体層の溶媒含有率が前記範囲にあることで、層(Y)前駆体層における反応生成物(D)の粒子サイズを小さくでき、続く熱処理工程(III)において得られる層(Y)における反応生成物(D)の平均粒子径が小さくなり、より優れたバリア性能が得られる。また、溶媒含有率の下限に特に制限はないが、製造コストの観点から通常0.01質量%以上であることが好ましい。
【0111】
乾燥処理後の層(Y)前駆体層における反応生成物(D)の平均粒子径は5nm未満が好ましく、レトルト処理後の屈曲後でも優れたバリア性能を示す点から4nm未満がより好ましく、3nm未満がさらに好ましい。乾燥処理後の層(Y)前駆体層における反応生成物(D)の平均粒子径が前記範囲にあることで、後の工程を経て形成される層(Y)における反応生成物(D)の平均粒子径が小さくなり、より優れたバリア性能が得られる。また、層(Y)前駆体層における反応生成物(D)の平均粒子径の下限に特に制限はないが、例えば0.1nm以上であってもよく、1nm以上であってもよい。
【0112】
特に、前記溶媒含有率および層(Y)前駆体層における反応生成物(D)の平均粒子径を満たすことにより、後の工程を経て形成される層(Y)に含まれる反応生成物(D)の平均粒子径を50nm以下にすることができ、より優れたバリア性能が得られる。
【0113】
また、層(Y)前駆体層の赤外吸収スペクトルにおいて、1,080~1,130cm-1の範囲における吸光度の極大値ARと850~950cm-1の範囲における吸光度の極大値APとの比AR/APが2.0以下であることが好ましく、1.4以下がより好ましい。1,080~1,130cm-1の範囲における吸光度の極大値ARは上述したようにM-O-Pの結合に基づき、850~950cm-1の範囲における吸光度の極大値APはM-O-Mの結合に基づく。すなわち前記比AR/APはアルミニウムを含む金属酸化物(A)の反応生成物(D)への反応率を表す指標と考えることが可能である。本発明では、乾燥工程後の層(Y)前駆体層において、金属酸化物(A)の反応生成物(D)への反応が一定量以下に抑えられていることが、良好なバリア性能を有する多層構造体を得るために効果的であると考えられる。したがって、比AR/APが前記範囲より大きいと、得られる多層構造体のバリア性能が不十分となることがある。
【0114】
乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度より低いことが好ましい。コーティング液(S)の塗工後の乾燥温度は、例えば80~180℃程度であってもよいが、前記溶媒含有率および層(Y)前駆体層における反応生成物(D)の平均粒子径を小さくするために、コーティング液(S)の塗工後の乾燥温度は140℃未満が好ましく、60℃以上140℃未満がより好ましく、70℃以上130℃未満がさらに好ましく、80℃以上120℃未満が特に好ましい。乾燥時間は特に限定されないが、1秒以上1時間未満が好ましく、5秒以上15分未満がより好ましく、5秒以上300秒未満がさらに好ましい。特に、乾燥温度が100℃以上の場合(例えば、100~140℃)は、乾燥時間は1秒以上4分未満が好ましく、5秒以上4分未満がより好ましく、5秒以上3分未満がさらに好ましい。乾燥温度が100℃を下回る場合は(例えば、60~99℃)、乾燥時間は3分以上1時間未満が好ましく、6分以上30分未満がより好ましく、8分以上25分未満がさらに好ましい。
【0115】
[工程(II)]
工程(II)では、工程(I)で得た層(Y)前駆体層上に、高分子(G)と加水分解縮合物(La)と溶媒とを含むコーティング液(T)を塗工する。コーティング液(T)は、例えば、化合物(L2)に溶媒を加え、その後酸触媒と水を添加して公知のゾルゲル法により加水分解縮合を行い、化合物(L2)の加水分解縮合物を形成した後、高分子(G)および化合物(L1)を添加する方法により調製できる。なお、化合物(L2)の加水分解縮合物、酸および水が存在する液に化合物(L1)を添加した際、化合物(L1)の加水分解縮合が進行し、加水分解縮合物(La)が形成される。コーティング液(T)に用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;水;またはこれらの混合溶媒が好ましい。
【0116】
酸触媒としては、公知の酸を使用でき、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、p-トルエンスルホン酸、安息香酸、酢酸、乳酸、酪酸、炭酸、シュウ酸、マレイン酸等を使用できる。これらの中でも塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、乳酸、および酪酸が特に好ましい。酸触媒の好ましい使用量は、使用する酸の種類によって異なるが、工程(I)で使用される化合物(L)の金属原子1モルに対して、1×10-5~10モルの範囲にあることが好ましく、1×10-4~5モルの範囲にあることがより好ましく、5×10-4~1モルの範囲にあることがさらに好ましい。酸触媒の使用量がこの範囲にある場合、ガスバリア層が良好な微細構造を有し、ガスバリア性がより高いガスバリア層が得られる。
【0117】
水の好ましい使用量は、工程(II)で使用される化合物(L2)の種類によって異なるが、工程(II)で使用される化合物(L2)の加水分解可能な特性基1モルに対して、0.05~10モルの範囲にあることが好ましく、0.1~5モルの範囲にあることがより好ましく、0.2~3モルの範囲にあることがさらに好ましい。水の使用量がこの範囲にある場合、得られる多層構造体のバリア性が特に優れる。なお、工程(II)において、水を含有する成分(例えば塩酸)を使用する場合には、その成分によって導入される水の量も考慮して水の使用量を決定することが好ましい。
【0118】
さらに、工程(II)においては、必要に応じて有機溶媒を使用してもよい。使用される有機溶媒は、工程(II)で使用される化合物(L2)が溶解する溶媒であれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルプロパノール等のアルコール類が好適に用いられる。より好適には、工程(II)で使用される化合物(L)が有するアルコキシ基と同種の分子構造(アルコキシ成分)を有するアルコールが用いられる。具体的には、テトラメトキシシランに対してはメタノールが好ましく、テトラエトキシシランに対してはエタノールが好ましい。有機溶媒の使用量は特に限定されず、通常、工程(II)で使用される化合物(L2)の濃度が好ましくは1~90質量%、より好ましくは10~80質量%、さらに好ましくは10~60質量%となる量である。
【0119】
工程(II)の反応系中において、化合物(L)の加水分解縮合を行う際に、反応系の温度は特に限定されず、通常2~100℃の範囲内であり、好ましくは4~60℃の範囲内であり、より好ましくは5~40℃の範囲内である。反応時間は反応条件(酸触媒の量や種類等)に応じて相違するが、通常、0.01~60時間の範囲内であり、好ましくは0.1~12時間の範囲内であり、より好ましくは0.1~6時間の範囲内である。また、反応は、空気、二酸化炭素、窒素、アルゴン等の各種気体の雰囲気下で実施できる。
【0120】
コーティング液(T)を塗工した後に溶媒を除去することによって、層(Z)前駆体層が形成される。コーティング液(S)の塗工と同様に、コーティング液(T)を塗工する方法は特に限定されず、公知の方法を採用できる。
【0121】
コーティング液(T)の溶媒の除去方法は特に限定されず、公知の乾燥方法を適用できる。乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥法、熱ロール接触法、赤外線加熱法、マイクロ波加熱法等が挙げられる。乾燥温度は、基材(X)の流動開始温度より低いことが好ましく、15℃以上低いことがより好ましい。コーティング液(T)塗工後の乾燥温度は、例えば、90~240℃程度であってもよく、100~200℃が好ましい。
【0122】
[工程(III)]
工程(III)では、工程(I)および(II)で形成された層(Y)前駆体層と層(Z)前駆体層を、140℃以上の温度で熱処理することによって、層(Y)と層(Z)とを形成する。この熱処理温度は、コーティング液(T)の塗工後の乾燥温度よりも高いことが好ましい。
【0123】
工程(III)では、金属酸化物(A)の粒子同士がリン原子(無機リン化合物(B)に由来するリン原子)を介して結合される反応、すなわち、反応生成物(D)が生成する反応が進行する。また、化合物(L)の加水分解縮合反応、並びに加水分解縮合物(La)(金属酸化物部位およびグリシジル基部位)および高分子(G)の反応が進行する。該反応を充分に進行させるため、熱処理の温度は、140℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることがさらに好ましく、190℃以上であることが特に好ましい。熱処理温度が低いと、充分な反応度を得るのにかかる時間が長くなり、生産性が低下する原因となる。熱処理の温度の好ましい上限は、基材(X)の種類等によって異なる。例えば、ポリアミド系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は270℃以下であることが好ましい。また、ポリエステル系樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムを基材(X)として用いる場合には、熱処理の温度は240℃以下であることが好ましい。熱処理は、空気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等で実施してもよい。熱処理の時間は、0.1秒~1時間が好ましく、1秒~15分がより好ましく、5~300秒がさらに好ましい。
【0124】
熱処理は、前記溶媒含有率および反応生成物(D)の平均粒子径を小さくするために、処理温度を変化させて2段階以上で行うことが好ましい。すなわち、工程(III)は、第1熱処理工程(III-1)と第2熱処理工程(III-2)を含むことが好ましい。熱処理を2段階以上で行う場合、2段階目の熱処理(以下、第2熱処理)の温度は、1段階目の熱処理(以下、第1熱処理)の温度より高いことが好ましく、第1熱処理の温度より15℃以上高いことがより好ましく、25℃以上高いことがさらに好ましく、35℃以上高いことが特に好ましい。
【0125】
また、工程(III)の熱処理温度(2段階以上の熱処理の場合は、第1熱処理の温度)は、良好な特性を有する多層構造体が得られる点から、工程(II)の乾燥温度より30℃以上高いことが好ましく、50℃以上高いことがより好ましく、55℃以上高いことがさらに好ましく、60℃以上高いことが特に好ましい。
【0126】
工程(III)の熱処理を2段階以上で行う場合、第2熱処理の温度が第1熱処理の温度より高く、第1熱処理の温度が140℃以上200℃未満であり、かつ第2熱処理の温度が180℃以上270℃以下であることが好ましい。より好ましくは、第2熱処理の温度が第1熱処理の温度より15℃以上高く、第1熱処理の温度が140℃以上200℃未満であり、かつ第2熱処理の温度が180℃以上270℃以下である。さらに好ましくは、第2熱処理の温度が第1熱処理の温度より25℃以上高く、第1熱処理の温度が140℃以上200℃未満であり、かつ第2熱処理の温度が180℃以上270℃以下である。特に、各熱処理温度が200℃以上の場合、各熱処理時間は0.1秒~10分が好ましく、0.5秒~15分がより好ましく、1秒~3分がさらに好ましい。各熱処理温度が200℃を下回る場合は、各熱処理時間は1秒~15分が好ましく、5秒~10分がより好ましく、10秒~5分がさらに好ましい。
【0127】
本発明の多層構造体およびこれを用いた包装材は、耐レトルト性に優れる。そのため、本発明の多層構造体およびこれを用いた包装材は、様々な用途に適用できる。また、本発明の多層構造体を含む電子デバイスの保護シートおよび電子デバイスは、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、かつ、ダンプヒート試験後も、そのバリア性を維持できるため、広い用途の電子デバイスで使用できる。
【0128】
本発明の包装材は、基材(X)と、層(Y)と、層(Z)とを備える多層構造体を含む。包装材は多層構造体のみによって構成されてもよい。すなわち、以下の説明において、「包装材」を「多層構造体」に読み替えてもよい。包装材は、多層構造体と他の部材とによって構成されてもよい。本発明の包装材は、前述した押出コートラミネートにより形成された層を有することが好ましい。
【0129】
本発明の包装材は、無機ガス(例えば、水素、ヘリウム、窒素、酸素、二酸化炭素)、天然ガス、水蒸気および常温常圧で液体状の有機化合物(例えば、エタノール、ガソリン蒸気)に対するバリア性を有する。
【0130】
本発明の包装材が包装袋である場合、その包装袋のすべてに本発明の多層構造体が用いられていてもよいし、その包装袋の一部に本発明の多層構造体が用いられていてもよい。例えば、包装袋の面積の50%~100%が、本発明の多層構造体によって構成されていてもよい。包装材が包装袋以外のもの(例えば、容器、蓋材)である場合も同様である。
【0131】
本発明の包装材は、様々な方法で作製できる。例えば、シート状またはフィルム状の本発明の多層構造体を接合して所定の容器の形状に成形することによって、容器(包装材)を作製してもよい。成形方法は、熱成形、射出成形、押出ブロー成形等が挙げられる。また、所定の容器の形状に成形された基材(X)の上に層(Y)および層(Z)を形成することによって、容器(包装材)を作製してもよい。これらのように作製された容器を、本明細書では「包装容器」という場合がある。
【0132】
本発明の包装材は、食品用包装材として好ましく用いられる。また、本発明の包装材は、食品用包装材以外にも、農薬、医薬等の薬品;医療器材;機械部品、精密材料等の産業資材;衣料等を包装するための包装材として好ましく使用できる。
【0133】
また、本発明の包装材は、種々の成形品に二次加工して使用できる。このような成形品は、縦製袋充填シール袋、真空包装袋、パウチ、ラミネートチューブ容器、輸液バッグ、紙容器、ストリップテープ、容器用蓋材、インモールドラベル容器、真空断熱体であってもよい。これらの成形品では、ヒートシールが行われてもよい。
【0134】
本発明の電子デバイスの保護シートは、本発明の多層構造体を含み、本発明の多層構造体のみによって構成されてもよい。電子デバイスの保護シートは、電子デバイスを外部環境から保護する目的で使用されるものであり、例えば、電子デバイス本体の表面を覆うように封止する封止材の表面に、本発明の保護シートを配置することができる。すなわち、本発明の保護シートは、通常封止材を介して電子デバイス本体の表面に配置される。電子デバイス本体としては特に限定されず、例えば、光電変換装置、情報表示装置、または照明装置等が挙げられる。
【0135】
本発明の電子デバイスの保護シートは、例えば、多層構造体の一方の表面または両方の表面に配置された表面保護層を含んでもよい。表面保護層としては、傷がつきにくい樹脂からなる層が好ましい。また、太陽電池のように室外で利用されることがあるデバイスの表面保護層は、耐候性(例えば、耐光性)が高い樹脂からなることが好ましい。また、光を透過させる必要がある面を保護する場合には、透光性が高い表面保護層が好ましい。表面保護層(表面保護フィルム)の材料としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられる。保護シートの一例は、一方の表面に配置されたポリ(メタ)アクリル酸エステル層を含む。
【0136】
表面保護層の耐久性を高めるために、表面保護層に各種の添加剤(例えば、紫外線吸収剤)を添加してもよい。耐候性が高い表面保護層の好ましい一例は、紫外線吸収剤が添加されたアクリル樹脂層である。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、ニッケル系、トリアジン系の紫外線吸収剤が挙げられるが、これらに限定されない。また、他の安定剤、光安定剤、酸化防止剤等を併用してもよい。
【実施例】
【0137】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されず、多くの変形が本発明の技術的思想の範囲内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。以下の実施例および比較例における分析および評価は以下のとおり行った。
【0138】
実施例および比較例で使用した材料を示す。
PET12:二軸延伸ポリエチレンレテフタレートフィルム;東レ株式会社製、「ルミラー(商標)P60」(商品名)、厚さ12μm
ONY15:二軸延伸ナイロンフィルム;ユニチカ株式会社製、「エンブレム(商標)ONBC」(商品名)、厚さ15μm
CPP50:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-22」(商品名)、厚さ50μm
CPP70:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-22」(商品名)、厚さ70μm
CPP100:無延伸ポリプロピレンフィルム;三井化学東セロ株式会社製、「RXC-22」(商品名)、厚さ100μm
PET50:エチレン-酢酸ビニル共重合体との接着性を向上させたポリエチレンテレフタレートフィルム;東洋紡株式会社製、「シャインビーム(商標)Q1A15」(商品名)、厚さ50μm
PVA-124:ポリビニルアルコール;株式会社クラレ製「クラレポバール(商標)PVA-124(別称:クラレポバール(商標)60-98)」(商品名)
PVA-424H:ポリビニルアルコール;株式会社クラレ製「クラレポバール(商標)PVA-424H」(商品名)
P-95:水溶性ナイロン;東レ株式会社製「P-95」(商品名)
SD30:デキストリン;三和澱粉工業株式会社製「サンデック#30」(商品名)
PAA25000:水溶性ポリアクリル酸;富士フィルム和光純薬株式会社製「ポリアクリル酸25000」(商品名)
【0139】
(1)各層の厚さ測定
収束イオンビーム(FIB)を用いて実施例および比較例で得られた多層構造体を切削し、断面観察用の切片(厚さ0.3μm)を作製した。作製した切片を試料台座にカーボンテープで固定し、加速電圧30kVで30秒間白金イオンスパッタを行った。電界放出形透過型電子顕微鏡を用いて多層構造体の断面を観察し、各層の厚さを算出した。測定条件は以下の通りとした。
装置:日本電子株式会社製JEM-2100F
加速電圧:200kV
倍率:250,000倍
【0140】
(2)多層構造体の酸素透過度の測定
実施例および比較例で得られたサンプル(多層構造体)を、酸素透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くように取り付け、等圧法により酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:MOCON社製MOCON OX-TRAN2/21
温度:20℃
酸素供給側の湿度:85%RH
キャリアガス側の湿度:85%RH
キャリアガス流量:10mL/分
酸素圧:1.0atm
キャリアガス圧力:1.0atm
【0141】
(3)多層構造体の透湿度の測定
実施例および比較例で得られたサンプル(多層構造体)を、水蒸気透過量測定装置にキャリアガス側に基材の層が向くように取り付け、等圧法により透湿度(水蒸気透過度)を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:MOCON社製MOCON PERMATRAN W3/33
温度:40℃
水蒸気供給側の湿度:90%RH
キャリアガス側の湿度:0%RH
キャリアガス流量:50mL/分
【0142】
(4)屈曲処理
実施例および比較例で得られたサンプル(多層構造体)を210mm×297mm(A4サイズ)にカットし、ASTM F-392に準じて、ゲルボフレックステスター(理学工業株式会社製)により50サイクルの屈曲を施した。屈曲を施した多層構造体の中央部を酸素透過度および透湿度測定用のサンプルとして切り出した。
【0143】
(5)接着性評価
実施例および比較例で得られたサンプル(多層構造体)について、JIS K 6854-1:1999に準じて剥離強度を測定した。測定は5回行い、平均値を採用した。測定条件は以下の通りとした。
装置:株式会社島津製作所製オートグラフAGS-H
剥離速度:250mm/分
温度:23℃ 湿度:50%RH
【0144】
<コーティング液(S-1)の製造例>
蒸留水230質量部を撹拌しながら70℃に昇温した。その蒸留水に、トリイソプロポキシアルミニウム88質量部を1時間かけて滴下し、液温を徐々に95℃まで上昇させ、発生するイソプロパノールを留出させることによって加水分解縮合を行った。得られた液体に、60質量%の硝酸水溶液4.0質量部を添加し、95℃で3時間撹拌することによって加水分解縮合物の粒子の凝集体を解膠させた。その後、その液体を、固形分濃度が酸化アルミニウム換算で10質量%になるように濃縮し、溶液を得た。こうして得られた溶液22.50質量部に対して、蒸留水54.29質量部およびメタノール18.80質量部を加え、均一になるように撹拌することによって、分散液を得た。続いて、液温を15℃に維持した状態で分散液を撹拌しながら85質量%のリン酸水溶液4.41質量部を滴下して加えた。さらに、メタノール溶液18.80質量部を滴下して加え、粘度が1,500mPa・sになるまで15℃で撹拌を続け、目的のコーティング液(S-1)を得た。該コーティング液(S-1)における、アルミニウム原子とリン原子とのモル比は、アルミニウム原子:リン原子=1.15:1.00であった。
【0145】
<コーティング液(T-3)の製造例>
テトラメトキシシラン(TMOS)7.41質量部をメタノール7.41質量部に溶解しTMOSメタノール溶液を調製した。このTMOSメタノール溶液の温度を10℃以下に維持しながら、蒸留水0.49質量部と0.2規定の塩酸1.22質量部とを加え、撹拌しながら10℃で30分間、加水分解および縮合反応を行った。続いて、メタノール18.84質量部および蒸留水46.03質量部で希釈した後、撹拌しながら5%のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「PVA-124」)水溶液17.13質量部、メタノール1.18質量部で希釈したγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMOS)0.29質量部を順に添加し、室温で30分撹拌後、溶液(T-3)を得た。
【0146】
<コーティング液(T-1)、(T-2)、(T-4)~(T-14)、(CT-1)~(CT-5)の製造例>
水溶性高分子(Ga)の種類、化合物(L)の種類、WG+La/WLa、およびML1/ML2を表1のとおりに変更した以外はコーティング液(T-3)の調製と同様にして、コーティング液(T-1)、(T-2)、(T-4)~(T-14)、(CT-1)~(CT-5)を得た。
【0147】
<コーティング液(CT-6)の製造例>
撹拌機および温度計を備えた丸底フラスコ(内容積:50ml)を窒素置換し、溶媒として水2.5gを仕込み、撹拌しながらビニルホスホン酸10g、水2.5gおよび2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)2塩酸塩25mgの混合溶液を丸底フラスコに滴下した。この時から重合の全過程を通じて微量の窒素ガスを流し続けた。丸底フラスコをオイルバスに漬けて80℃で3時間反応させた後、反応混合物を15gの水で希釈し、セルロース膜(スペクトラム・ラボラトリーズ社製、「Spectra/Por」(商品名))でろ過した。次に、エバポレーターでろ液の溶媒を留去し、50℃で24時間真空乾燥することによって白色の重合体であるポリ(ビニルホスホン酸)を得た。この重合体をゲル浸透クロマトグラフ分析装置で、溶媒として1.2wt%のNaCl水溶液を用い重合体濃度0.1wt%で分子量を測定したところ、分子量はポリエチレングリコール換算で約10,000であった。精製した重合体を水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)精製した重合体を水とメタノールの混合溶媒に溶解し、固形分濃度が1質量%のコーティング液(CT-6)を得た。
【0148】
<コーティング液(CT-7)の製造例>
前記製造例で得たポリ(ビニルホスホン酸)を77質量%、数平均分子量20,000のポリエチレングリコール(三洋化成工業株式会社製「PEG-20000)を23質量%含む混合物を準備した。この混合物を、水とメタノールの混合溶媒(質量比で水:メタノール=7:3)に溶解させ、固形分濃度が1質量%のコーティング液(CT-7)を得た。
【0149】
[実施例1]
<実施例1-1>
基材(X)として、PET12(基材(X-1))を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(S-1)を塗工した。塗工後のフィルムを、120℃で3分間乾燥後、180℃で1分間熱処理して、基材上に層(Y-1)の前駆体層を形成した。次いで、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(T-1)を塗工し、120℃で3分間乾燥後、220℃で1分間熱処理した。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1)/層(Z-1)という構造を有する多層構造体(1-1-1)を得た。
【0150】
得られた多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成し、該接着層上にONY15をラミネートすることによって積層体を得た。次に、該積層体のONY15上に接着層を形成した後、該接着層上にCPP50をラミネートし、40℃で3日間静置してエージングした。このようにして、基材(X-1)/層(Y-1)/層(Z-1)/接着層/ONY15/接着層/CPP50という構造を有する多層構造体(1-1-2)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-525S」(銘柄)と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-50」(銘柄)とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。
【0151】
多層構造体(1-1-2)を21cm×29cmに切り取り、ヒートシールすることによってパウチを作製し、水800mLをパウチ内に充填した。続いて、得られたパウチに対して以下の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った。
レトルト処理装置:株式会社日阪製作所製 フレーバーエースRSC-60
温度:120℃
時間:30分間
圧力:0.15MPaG
【0152】
レトルト処理後23℃、50%RHの雰囲気下で1時間冷却後、パウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度、透湿度を前記(2)および(3)の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0153】
レトルト処理後23℃、50%RHの雰囲気下で1時間冷却後、パウチから測定用サンプルを切り出し、(4)の方法で屈曲処理を行った。該サンプルの酸素透過度、透湿度を前記(2)および(3)の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0154】
レトルト処理後、23℃、50%RHの雰囲気下でパウチを24時間乾燥後、接着性を前記(5)の方法で測定した。結果を表2に示す。
【0155】
<実施例1-2~1-14>
コーティング液(T-1)に代えてコーティング液(T-2)~(T-14)を用いたこと以外は、実施例1-1と同様の方法により多層構造体(1-2-1)~(1-14-1)および多層構造体(1-2-2)~(1-14-2)を作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。実施例1-10~1-12において、ポリビニルアルコールの質量が層(Z)における含有量が多い方の質量をWGa1に相当し、水溶性ポリアクリル酸の質量がWGa2に相当する。
【0156】
<実施例1-15>
基材(X)として、PET12(基材(X-15))を準備した。この基材上に、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(S-1)を塗工し、100℃で5分間乾燥させて、基材上に層(Y-15)の前駆体層を形成した。次いで、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いてコーティング液(T-3)を塗工し、120℃で3分間乾燥後、220℃で1分間熱処理した。このようにして、基材(X-15)/層(Y-15)/層(Z-15)という構造を有する多層構造体(1-15-1)を得た。多層構造体(1-1-1)の代わりに多層構造体(1-15-1)を用いた以外は実施例1-1の多層構造体(1-1-2)と同様の方法により多層構造体(1-15-2)作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0157】
<比較例1-1>
コーティング液(T-1)使用しなかったこと以外は実施例1-1と同様の方法により多層構造体(C1-1-1)および(C1-1-2)を作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0158】
<比較例1-2~1-5、1-8および1-9>
コーティング液(T-1)に代えてコーティング液(CT-1)~(CT-4)、(CT-6)および(CT-7)を用いたこと以外は、実施例1の多層構造体(1-1-1)と同様の方法により多層構造体(C1-2-1)~(C1-5-1)、(C1-8-1)および(C1-9-1)を作製した。多層構造体(1-1-1)の代わりに多層構造体(C1-2-1)~(C1-5-1)、(C1-8-1)および(C1-9-1)を用いた以外は実施例1の多層構造体(1-1-2)と同様の方法により多層構造体(C1-2-2)~(C1-5-2)、(C1-8-2)および(C1-9-2)を作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0159】
<比較例1-6>
層(Y)を厚み0.08μmのアルミニウム蒸着層とし、コーティング液(CT-5)を用いたこと以外は実施例1-1と同様の方法により多層構造体(C1-6-1)および(C1-6-2)を作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0160】
<比較例1-7>
層(Y)を厚み0.04μmのアルミナ蒸着層とし、コーティング液(CT-5)を用いたこと以外は実施例1-1と同様の方法により多層構造体(C1-7-1)および(C1-7-2)を作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0161】
【0162】
【0163】
[実施例2]平パウチ
<実施例2-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-2)を幅120mm×120mmに裁断し、CPP層が内側になるように2枚の多層構造体を重ね合わせ、長方形の3辺をヒートシールすることによって平パウチ(2-1-1)を形成した。その平パウチに水100mLを充填した。得られた平パウチに対して、実施例1-1と同一の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った結果、破袋および層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0164】
[実施例3]輸液バッグ
<実施例3-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-2)から、120mm×100mmの多層構造体を2枚切り出した。続いて、切り出した2枚の多層構造体を、CPP層が内側になるように重ね合わせ、周縁をヒートシールするとともに、ポリプロピレン製のスパウト(口栓部材)をヒートシールによって取り付けて、
図3と同様の構造を備えた輸液バッグ(3-1-1)を作製した。輸液バッグ(3-1-1)に水100mLを充填し、実施例1-1と同一の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った結果、破袋および層間剥離の発生無く良好な外観を保持した。
【0165】
[実施例4]容器用蓋材
<実施例4-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-2)から、直径100mmの円形の多層構造体を切り取り、容器用の蓋材とした。また、容器本体として、フランジ付きの容器(東洋製罐株式会社製、「ハイレトフレックス」(登録商標)、「HR78-84」(商品名))を準備した。この容器は、上面の直径が78mmで高さが30mmのカップ形状を有する。容器の上面は解放されており、その周縁に形成されたフランジ部の幅は6.5mmである。容器は、オレフィン層/スチール層/オレフィン層の3層の積層体によって構成されている。次に、上記容器本体に水をほぼ満杯に充填し、蓋材をフランジ部にヒートシールして、蓋付き容器(4-1-1)を得た。このとき、蓋材のCPP層がフランジ部に接触するように配置して蓋材をヒートシールした。蓋付き容器(4-1-1)を、実施例1-1と同一の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った結果、容器の破損および層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0166】
[実施例5]インモールドラベル容器
<実施例5-1>
2枚のCPP100のそれぞれに、乾燥後の厚さが3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工して乾燥させた。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-525S」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-50」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。次に、2枚のCPP100と実施例1-1の多層構造体(1-1-1)とをラミネートし、40℃で3日間静置してエージングして、CPP100/接着層/基材(X-1)/層(Y-1)/層(Z-1)/接着層/CPP100という構造を有する多層ラベル(5-1-1)を得た。
【0167】
多層ラベル(5-1-1)を容器成形型のメス型部の内壁表面の形状にあわせて切断し、メス型部の内壁表面に取り付けた。次に、オス型部をメス型部に押し込んだ。次に、溶融させたポリプロピレン(日本ポリプロ株式会社製の「ノバテック」(登録商標)の「EA7A」)をオス型部とメス型部との間のキャビティに220℃で注入して、射出成形を実施し、目的の容器(5-1-2)を成形した。容器本体の厚さは700μmであり、表面積は83cm2であった。容器の外側全体が多層ラベル(5-1-1)で覆われ、つなぎ目は多層ラベル(5-1-1)が重なり、多層ラベル(5-1-1)が容器の外側を覆わない箇所はなかった。容器(5-1-2)の外観は良好であった。
【0168】
[実施例6]押出しコートラミネート
<実施例6-1>
実施例1-1において多層構造体(1-1-1)上の層(Z-1)上に接着層を形成した後、ポリエチレン樹脂(密度;0.917g/cm3、メルトフローレート;8g/10分)を厚さが20μmになるように該接着層上に295℃で押出しコートラミネートして、基材(X―1)/層(Y-1)/層(Z-1)/接着層/ポリエチレンという構造を有するラミネート体(6-1-1)を得た。上記の接着層は、乾燥後の厚さが0.3μmとなるようにバーコーターを用いて2液型接着剤を塗工し、乾燥させることによって形成した。この2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-3210」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-3070」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。ラミネート体(6-1-1)を、実施例1-1と同一の条件でレトルト処理(熱水貯湯式)を行った結果、層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0169】
[実施例7]充填物の影響
<実施例7-1>
実施例2-1で作製した平パウチ(2-1-1)に1.5%エタノール水溶液500mLを充填し、レトルト処理装置(株式会社日阪製作所製、フレーバーエースRCS-60)を使用して、120℃、2.5atmで30分間熱水中においてレトルト処理を行った結果、層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0170】
<実施例7-2~7-9>
1.5%エタノール水溶液500mLの代わりに他の充填物500mLを平パウチ(2-1-1)に充填したことを除き、実施例7-1と同様にレトルト処理を行った。そして、レトルト処理後の平パウチから測定用サンプルを切り出し、該サンプルの酸素透過度を測定した。他の充填物としては、1.0%エタノール水溶液(実施例7-2)、食酢(実施例7-3)、pH2のクエン酸水溶液(実施例7-4)、食用油(実施例7-5)、ケチャップ(実施例7-6)、醤油(実施例7-7)、しょうがペースト(実施例7-8)を用いた。いずれの場合も、レトルト処理後のサンプルの酸素透過度は、0.2mL/(m2・day・atm)であった。さらに、実施例5-1で作製した蓋付き容器(5-1-2)にみかんシロップをほぼ満杯に充填し、実施例7-1と同様にレトルト処理を行った(実施例7-9)。レトルト処理後は層間剥離の発生がなく良好な外観を保持した。
【0171】
実施例7-1~7-9から明らかなように、本発明の包装材は、様々な食品を充填した状態でレトルト処理を行った後でも、良好な外観を保持した。
【0172】
[実施例8]真空断熱体
<実施例8-1>
CPP50上に、実施例5-1で用いた2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。このCPPと実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-1)のPET層とを貼り合せることによって積層体(8-1-1)を得た。続いて、ONYの上に、前記2液反応型ポリウレタン系接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって接着層を形成した。そして、このONYと積層体(8-1-1)とを貼り合わせることによって、CPP/接着層/基材(X-1)/層(Y-1)/層(Z-1)/接着層/ONY、という構造を有する多層構造体(8-1-2)を得た。
【0173】
多層構造体(8-1-2)を裁断し、サイズが700mm×300mmであるラミネート体を2枚得た。その2枚のラミネート体をCPP層同士が内面となるように重ね合わせ、3方を10mm幅でヒートシールして3方袋を作製した。次に、3方袋の開口部から断熱性の芯材を充填し、真空包装機を用いて20℃、内部圧力10Paの状態で3方袋を密封して、真空断熱体(8-1-3)を得た。断熱性の芯材にはシリカ微粉末を用いた。真空断熱体(8-1-3)を40℃、15%RHの条件下において360日間放置した後、ピラニー真空計を用いて真空断熱体の内部の圧力を測定した結果、37.0Paであった。
【0174】
[実施例9]保護シート
<実施例9-1>
実施例1-1で作製した多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成し、該接着層上にアクリル樹脂フィルム(厚さ50μm)をラミネートすることによって積層体を得た。続いて、該積層体の多層構造体(1-1-1)上に接着層を形成した後、PET50をラミネートして、PET/接着層/基材(X-1)/層(Y-1)/層(Z-1)/接着層/アクリル樹脂フィルム、という構成を有する保護シート(9-1-1)を得た。前記2つの接着層はそれぞれ、2液型接着剤を乾燥後の厚さが3μmとなるように塗工し、乾燥させることによって形成した。2液型接着剤には、三井化学株式会社製の「タケラック」(登録商標)の「A-1102」と三井化学株式会社製の「タケネート」(登録商標)の「A-3070」とからなる2液反応型ポリウレタン系接着剤を用いた。
【0175】
続いて、得られた保護シート(9-1-1)の耐久性試験として、恒温恒湿試験機を用いて、大気圧下、85℃、85%RHの雰囲気下に1,000時間保護シートを保管する試験(ダンプヒート試験)を行った結果、保護シート(9-1-1)は層間剥離の発生なく良好な外観を保持した。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明は、多層構造体およびそれを用いた包装材、ならびに多層構造体の製造方法に利用できる。本発明によれば、ガスバリア性および水蒸気バリア性に優れ、屈曲等の物理的ストレス後もガスバリア性および水蒸気バリア性を維持できるとともに、層間剥離等の外観不良を起こさない高い層間接着力(剥離強度)を有する多層構造体を得ることが可能である。また、本発明の多層構造体を用いることによって、優れた包装材および電子デバイスが得られる。