(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-27
(45)【発行日】2023-02-06
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置用シンチレータおよび荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/244 20060101AFI20230130BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20230130BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J49/02 500
(21)【出願番号】P 2021530422
(86)(22)【出願日】2019-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2019027312
(87)【国際公開番号】W WO2021005743
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵理
(72)【発明者】
【氏名】今村 伸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
(72)【発明者】
【氏名】水谷 俊介
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-135039(JP,A)
【文献】特開2006-310819(JP,A)
【文献】特開2000-319653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/244
H01J 49/06
G01T 1/20
C09K 11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に設けられたバッファ層と、前記バッファ 層の表面に設けられた発光層および障壁層の積層体と、前記積層体の表面に設けられた導電層と、を有し、
前記発光層はInGaNを含み、前記障壁層はGaNを含み、
前記発光層の厚さaと、前記障壁層の厚さbとの比b/aが、11以上
20以下であ
り、
前記障壁層の厚さbが30nm以上100nm以下であることを特徴とする荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項2】
前記
障壁層はSiを含み、前記Siの濃度のオーダーが10
16
cm
-3
以上10
19
cm
-3
以下であることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項3】
前記障壁層はSiを含み、前記Siの濃度のオーダーが
10
17
cm
-3以上
10
18
cm
-3以下であることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項4】
前記発光層はSiを含み、前記Siの濃度のオーダーが10
16cm
-3未満であることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項5】
前記
発光層と前記障壁層とが交互に積層された積層体を有することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項6】
前記
積層体の厚さが200nm以上1000nm以下であることを特徴とする請求項
5に記載の荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項7】
前記発光層と前記障壁層
の層数が、それぞれ、5以上25以下であることを特徴とする請求項
6に記載の荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項8】
前記
導電層がAlであることを特徴とする請求項
1に記載の荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項9】
前記
バッファ層がGaNを含むことを特徴とする請求項
1に記載の荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項10】
前記
バッファ層の厚さが5μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線装置用シンチレータ。
【請求項11】
分析対象物に電子線を照射する電子源と、前記分析対象物に前記電子線が照射された際に放出される2次粒子を検出する2次粒子検出器と、を備え、
前記2次粒子検出器が、請求項1に記載の前記荷電粒子線装置用シンチレータを有することを特徴とする荷電粒子線装
置。
【請求項12】
前記
荷電粒子線装置用シンチレータが、前記2次粒子が放出される前記分析対象物の直上に設けられていることを特徴とする請求項
11に記載の荷電粒子線装
置。
【請求項13】
前記
荷電粒子線装置が、電子顕微鏡装置または質量分析装置であることを特徴とする請求項
11に記載の荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置用シンチレータおよび荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子ビーム等の荷電粒子ビームを照射することによって得られる荷電粒子を検出する荷電粒子線装置には、荷電粒子を検出するための検出器が設けられている。例えば、電子ビームを試料に走査することによって、試料から放出された電子を検出する場合、電子検出器にポスト電圧と呼ばれる8~10kV程度の正電圧を印加することによって、電子を検出器のシンチレータに導く。あるいは、電子の軌道上に検出器を設け、ポスト電圧を印加せずシンチレータに電子を入射させる方法も考えられる。電子の衝突によってシンチレータにて発生した光はライトガイドに導かれ、光電管などの受光素子によって電気信号に変換され、画像信号や波形信号となる。
【0003】
特許文献1には、GaInNとGaNを含む層が積層された量子井戸構造を含む発光部を有する荷電粒子検出器および荷電粒子線装置が開示されている。また、特許文献2には、厚さが不均一な井戸層と厚さが均一な井戸層とからなる量子井戸構造を含むGaN系化合物半導体積層物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-135039号公報
【文献】特開2006-310819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
量子井戸構造を有するシンチレータにおいては、GaNやInGaN等を含む層を交互に積層させるが、格子定数が異なるため構造に歪みが生じ、発光強度の低下や残光強度の増加が起きる可能性がある。残光が発生すると、主となる発光の検出を阻害するとともに、減衰に時間がかかることから高速での検出が難しくなる。残光は種々の要因により発生するが、波長550nm付近の発光であるイエロールミネッセンスが主要因であると考えられる。
【0006】
特許文献1および2では、量子井戸構造および組成の変更による、応答高速化や発光強度増加を特徴としている。ただし、いずれも量子井戸構造を積層した場合の残光強度の低減について考慮されていない。
【0007】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、発光強度増加と残光強度低減を両立する荷電粒子線装置用シンチレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の荷電粒子線装置用シンチレータの一態様は、基材と、基材の表面に設けられたバッファ層と、バッファ層の表面に設けられた発光層および障壁層の積層体と、積層体が表面に設けられた導電層と、を有する。そして、発光層はInGaNを含み、障壁層はGaNを含み、発光層の厚さaと、障壁層の厚さbの比b/aが、11以上20以下であり、障壁層の厚さbが30nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明の荷電粒子線装置の一態様は、被分析対象物に電子線を照射する電子源と、被分析対象物に電子線が照射された際に放出される2次粒子を検出する2次粒子検出器と、を備え、2次粒子検出器が、上述した本発明の荷電粒子線装置用シンチレータを有することを特徴とする。
【0010】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発光強度増加と残光強度低減を両立する荷電粒子線装置用シンチレータを提供できる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の荷電粒子線装置の第1の例を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の荷電粒子線装置の第2の例を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の荷電粒子線装置用シンチレータの1例を示す断面模式図である。
【
図4】発光層15の厚さaと障壁層16の厚さbの比b/aと、発光強度、残光強度との関係を示したグラフである。
【
図5】障壁層16のSi濃度と発光強度、残光強度との関係を示したグラフである。
【
図6】本発明の荷電粒子線装置の第3の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、シンチレータを検出素子とする検出器を設けた荷電粒子線装置について説明する。以下では、荷電粒子線装置として電子顕微鏡、特に走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)の例について説明する。
【0015】
まず始めに、検出器を搭載する荷電粒子線装置の構成について説明する。
図1は本発明の荷電粒子線装置の第1の例を示す断面模式図である。
図1に示すように、荷電粒子線装置(電子顕微鏡)10aは、分析対象物(試料)3と、試料3に電子線(1次電子線)2を照射する電子源1と、電子線2が照射された試料3から放出される荷電粒子(2次粒子)4を検出する検出器5とを備える。電子源1は電子光学鏡筒8に収容され、試料3は試料室9に収容される。
【0016】
検出器5は、シンチレータ50と、ライトガイド51と、受光素子52とを有する。2次粒子4は、ポスト電圧を印加して検出器5のシンチレータ50に引き込まれ、シンチレータ50で発光が起こる。シンチレータ50の発光は、ライトガイド51により導光され、受光素子52で電気信号に変換される。
【0017】
図2は本発明の荷電粒子線装置の第2の例を示す断面模式図である。
図2に示す荷電粒子線装置(電子顕微鏡)10bでは、試料3の直上部に2次粒子検出器5のシンチレータ50を配置することで、試料3から放出された2次粒子4にポスト電圧を印加せずにシンチレータ50に入射させることができる。また、シンチレータ50について、2次粒子4が入射する面を大きくすることで、広い角度範囲で放出された2次粒子4を検出することができる。そのため、2次粒子4として、2次電子よりも量が少ない反射電子についても、高効率での検出が可能となり、高精度での像観察や測定が可能となる。
【0018】
図1の荷電粒子線装置10aおよび
図2の荷電粒子線装置10bに共通して、シンチレータ50およびライトガイド51は、1次電子線2の軌道を阻害しなければ、種々の形状とすることができる。例えば、1次電子線2を中心として円環型とすることが考えられる。シンチレータ50についてはライトガイド51の全面を覆う形状としても、一部を覆う形状としても良い。また、受光素子52の数は1つでも複数でも良く、シンチレータ50の発光を入力できればどの位置に置いても良い。
図1では試料室9外に受光素子52が配置されているが、試料室9内に置いても良い。
【0019】
受光素子52は、光電子増倍管や半導体を用いた受光素子等が使用可能である。また、シンチレータ50からの受光素子52への光の入力は、
図1および
図2ではライトガイド51を用いているが、他の方法や他の配置で光を入力しても良い。
【0020】
受光素子52で得られた信号は、電子線照射位置と対応付けて画像に変換し表示する。1次電子線2を試料3に集束して照射するための電子光学系、即ち、偏向器、レンズ、絞り、対物レンズ等は図示を省略している。電子光学系は電子光学鏡筒8に設置されている。試料3は試料ステージ(図示せず)に載せることで移動可能な状態となっており、試料3と試料ステージは試料室9に配置されている。試料室9は一般的には真空状態に保たれている。また、図示を省略しているが、電子顕微鏡には全体および各部品の動作を制御する制御部や、画像を表示する表示部、使用者が電子顕微鏡の動作指示を入力する入力部等が接続されている。
【0021】
この電子顕微鏡は構成の1つの例であり、本発明の荷電粒子線装置は、後述する本発明の荷電粒子線用シンチレータを備えた電子顕微鏡であれば、他の構成でも適用が可能である。また、2次粒子4には、透過電子および走査透過電子等も含まれる。また、
図1および
図2では簡単のために2次粒子検出器5を1つのみ示しているが、反射電子検出用検出器と2次電子検出用検出器等を別々に設けても良いし、方位角または仰角を弁別して検出するために複数の検出器を設けていても良い。
【0022】
次に、本発明の荷電粒子線装置用シンチレータ(以下、単に「シンチレータ」とも称する。)50について説明する。本明細書において、シンチレータとは、荷電粒子線を入射させて発光させる素子を指すものとする。
図3は本発明の荷電粒子線装置用シンチレータの1例を示す断面模式図である。
【0023】
図3に示すように、シンチレータ50は、基材13と、バッファ層14と、発光層15および障壁層16の積層体12と、導電層17とがこの順で積層された構成を有する。バッファ層14、積層体12および導電層17とでシンチレータ発光部11を構成している。導電層17は、荷電粒子線装置内において、検出対象となる荷電粒子が入射する側に形成される。
【0024】
シンチレータ50の材料は、例えば、基材13をサファイア、バッファ層14をGaN、発光層15をInGaN、障壁層16をGaN、導電層17をAlとすることができる。バッファ層14、発光層15および障壁層16は、気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)によって成膜することができる。上述した材料で構成された積層体12は、量子井戸構造を有し、高い発光強度を得ることができる。
【0025】
基材13は、例えば2~4インチφの円盤状であり、バッファ層14、積層体12を成長させ、導電層17を形成した後に所定のサイズに切り出したものをシンチレータとして用いることができる。基材13とバッファ層14の界面は、平面でも凹凸のある構造でも良い。例えば、構造ピッチ10~10000nmかつ構造高さ10~10000nmの突起状構造が連続的に形成されている構造を用いれば、積層体12での発光を基材13側に取り出せる確率が増加し、発光出力を向上させることができる。
【0026】
バッファ層14の厚さは、5μm以上であることが好ましい。バッファ層14を5μm以上にすることで、導電層17側から入射した2次粒子4が基材13に到達しないため、基材13への荷電粒子線の入射による発光を抑制できる。
【0027】
発光層15と障壁層16を積層することで、障壁層16で2次粒子4により発生したキャリア(電子e-、ホールh+)が障壁層16の内部を移動し、発光層15に到達して再結合した際に発光する。ただし、発光層15と障壁層16は組成が異なり格子定数が異なるため、格子定数の差により構造に歪みが生じ、発光強度の低下や残光の主要因であるイエロールミネッセンス強度の増加が起きる可能性がある。
【0028】
一般的には、発光層15に対して障壁層16を厚くするため、積層体12の格子定数は主に障壁層16によるものとなるが、発光層15を積層する際に両者の格子定数がずれて歪みが生じるため、結晶性が低下し、残光が増加する原因となる。
【0029】
上述したように、発光層15と障壁層16との積層体12が量子井戸構造を有することで、高い発光強度を得ることができる。しかしながら、格子定数の異なる発光層15と障壁層16とを積層しているがゆえに歪みが生じ、結晶性が低下して残光が増加する。本発明者は、鋭意検討の結果、発光層15の厚さaに応じて障壁層16の厚さbを決定することで、歪みの発生を抑制して結晶性の低下を抑制し、残光を低減できることを見出した。本発明は、該知見に基づくものである。
【0030】
発光層15の厚さaと障壁層16の厚さbの関係は、具体的には、b/a=11以上25以下とすることが好ましい。b/aが11より小さいと、発光層15で生じた格子定数のずれが障壁層16で抑制できずに歪みが生じ、残光が増加する可能性がある。また、b/aが25より大きいと、障壁層16を移動するキャリアの発光層15への到達確率が減少し、発光強度が低下する可能性がある。また、更に発光強度向上と残光強度低下の効果を良く発現させるためには、b/aは11以上20以下であることが望ましい。
【0031】
障壁層16は、Siがドープされていることが好ましい。例えば、障壁層16中のSiの濃度のオーダーが1016以上1019cm-3以下となるよう、Siをドープすることが好ましい。Siをドープすると障壁層16でのキャリアの移動度が向上し、発光層15への到達確率が増加する。そのため、障壁層16を厚くした場合でもキャリアの再結合確率を維持し、発光強度を低下させずに残光強度を低下させることができる。
【0032】
ドープするSi濃度のオーダーが1016cm-3よりも少ないと、障壁層16を厚くした際にキャリアの移動度が不十分となり、発光強度が低下する可能性がある。また、Si濃度のオーダーが1019cm-3より多いと、Siドープによる障壁層16の格子定数変化量が増加し、積層体12に歪みが生じる可能性がある。さらに、発光強度向上と残光強度低下の効果を良く発現させるためには、障壁層16のSiの濃度は、1017~1018cm-3のオーダーであることが望ましい。
【0033】
発光層15においても、キャリアの移動度を向上させるためにSiがドープされていても良いが、発光層15のSi濃度のオーダーは、1016cm-3以下であることが好ましい。Si濃度のオーダーが1016cm-3のオーダーより多いと、発光層15と障壁層16との格子定数の差が大きくなり、積層体12に歪みが生じ、発光強度の低下や残光強度の増加が起きる可能性がある。
【0034】
発光層15および障壁層16のSi濃度については、二次イオン質量分析法(SIMS)等により測定することができる。
【0035】
障壁層16の厚さbは、30nm以上100nm以下とすることが好ましい。厚さbが30nmより薄いと、積層体12に歪みが生じて発光強度の低下や残光強度の増加が起きる可能性がある。また、厚さbが100nmより厚いと、障壁層16を移動するキャリアの発光層15への到達確率が減少し、発光強度が低下する可能性がある。
【0036】
発光層15と障壁層16は、交互に複数層積層されていることが好ましい。障壁層16が厚いとキャリアの発生数が増加するが、厚すぎると発光層15へのキャリアの到達確率が減少し、発光強度が低下する可能性がある。この時、発光層15と障壁層16を複数交互に積層することで、それぞれの障壁層16の厚さを維持したまま、積層体12に含まれる障壁層16の総厚を増加できるため、キャリア数の増加とキャリアの発光層15への到達確率向上を両立することが可能となる。
【0037】
積層体12の厚さは200nm以上1000nm以下であることが好ましい。積層体12が200nmより薄いと、障壁層16で発生するキャリア数が少ないため発光強度が低くなる。また、積層体12が1000nmより厚いと、発光してもバッファ層14側に光が到達する前に積層体12内で吸収され、シンチレータからの光取り出し量が減少する可能性がある。
【0038】
発光層15と障壁層16の層数は、それぞれ5以上25以下とすることが好ましい。層数が5より少ないと、積層体12を厚くすることができず発光強度が低くなる可能性がある。また、層数が25より多いと、格子定数の異なる層を多数積層することにより歪みが生じ、発光強度の低下や残光強度の増加が起きる可能性がある。更に、積層体12が厚くなるため、積層体12内で光が吸収されて光取り出し量が減少する可能性がある。
【0039】
導電層17の厚さは、40nm以上200nm以下とすることが好ましい。導電層17が40nmより薄いと、2次粒子4が入射する際に帯電する可能性がある。また、導電層17が200nmより厚いと、2次粒子4が導電層17を通過する際にエネルギーを損失し、積層体12への荷電粒子線の入射量が減少する可能性がある。導電層17の材質は、導電性がある材料であれば、Al以外にも他の材質や合金等を用いることができる。
【0040】
バッファ層14、発光層15、障壁層16、導電層17の層厚や層数については、透過電子顕微鏡(TEM)やX線等を用いることにより測定できる。
【0041】
LED(発光ダイオード)の場合、電流注入によりp型半導体とn型半導体の間にあるpn接合部分でキャリアが再結合し発光するのに対し、
図3に示したシンチレータでは、n型構造中で入射した荷電粒子によるキャリアの励起および再結合による発光が起こる。そのため、pn接合させずに発光させることができる。
【0042】
上記説明のシンチレータでは、シンチレータ内の上下方向(導電層17から基材13に向けた方向)だけでなく、左右方向にも光を伝播することができる。そのため、
図2のように試料3からの2次粒子4の入射面が大きなシンチレータ50について、入射面と90度の角度を付けて設けられた面を有する受光素子52にライトガイド51で導光する場合でも、シンチレータ50の内部を光が伝播することで受光素子52での光の検出効率を向上させることができる。
【0043】
図4は、発光層15の厚さaと障壁層16の厚さbの比b/aと、発光強度、残光強度との関係を示したグラフである。
図4では、発光強度のピークが415nm付近のシンチレータを用い、380~480nmの強度を積算した値を発光強度として示してある。また、残光強度については、415nm付近の発光ピーク強度に対する550nmのイエロールミネッセンスの強度の比で示した。
【0044】
図4に示すように、b/a=11~25において残光強度を十分に減少する(0.06%以下)ことが分かった。また、この時、発光強度については同程度を維持できていることがわかる。即ち、b/aを11~25とすることで、発光強度の低減を抑制し、かつ、残光強度を低減できることがわかる。
【0045】
図5は、障壁層16のSi濃度と、発光強度、残光強度との関係を示したグラフである。発光強度および残光強度については、
図4と同様の方法で評価した結果を示してある。このグラフより、Si濃度のオーダーを10
16~10
19cm
-3とすると、残光強度が発光強度に対して0.06%以下に減少することが分かる。即ち、Si濃度を10
16~10
19cm
-3のオーダーにすることで、残光強度を低減できることが分かる。
【0046】
上記測定では、発光ピーク波長が415nm付近のシンチレータを用いたが、発光層15のIn濃度等を変更することで、発光ピーク波長を450nm付近まで長波長化したところ、同様の結果が得られることが分かった。
【0047】
上記説明は、主にシンチレータを走査電子顕微鏡等の検出器に適用した例を説明したものであるが、質量分析装置の検出器として、本発明の荷電粒子線装置用シンチレータを採用しても良い。
【0048】
質量分析装置は、イオンを電磁気的作用により質量分離し、測定対象イオンの質量/電荷比を計測するものである。
図6は本発明の荷電粒子線装置の第3の例を示す断面模式図である。
図6では、荷電粒子線装置10cとして質量分析装置の構成を示している。
図6に示す質量分析装置10cは、分析対象である試料をイオン化するイオン化部60と、イオン化部60において取り出されたイオンを質量選択する質量分離部61と、質量分離部61において質量選択されたイオンを電極に衝突させて荷電粒子に変換するコンバージョンダイノード(変換電極)62と、コンバージョンダイノード62で発生した荷電粒子を検出する2次粒子検出器5を有する。
【0049】
イオン化部60のイオン化の方法として、ESI(Electrospray Ionization)、APCI(Atmospheric Pressure Chemical Ionization)、MALDI(Matrix-Assisited Laser Desorption Ionization)およびAPPI(Atmospheric Pressure Photo-Ionization)等がある。また、質量分離部61には、QMS(Quadrupole Mass Spectrometer)型、Iontrap型、時間飛行(Time-Of-Flight)型、FT-ICR(Fourier Transform Ion Cyclotron Resonance)型、Orbitrap型あるいはそれらの複合型等がある。
【0050】
2次粒子検出器5は、
図1および
図2に示した2次粒子検出器5と同様の構成を有しており、本発明の荷電粒子線装置用シンチレータ50を備えている。本発明の荷電粒子線装置用シンチレータ50を適用することによって、高速かつ高感度分析が可能な質量分析装置10cの提供が可能となる。
【0051】
以上、説明した通り、本発明によれば、発光強度増加と残光強度低減を両立する荷電粒子線装置用シンチレータを提供できることが示された。
【0052】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0053】
上述した本発明の実施形態では、本発明の荷電粒子線装置としてSEMおよび質量分析装置を例にして説明したが、本発明の荷電粒子線装置はこれらに限られるものではない。イオンビームを用いた他の装置への適用も可能である。
【0054】
また、SEMを用いた場合の用途としても、観察のみでは無く、半導体パターンの計測装置および検査装置等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
10a,10b…荷電粒子線装置(電子顕微鏡装置)、10c…荷電粒子線装置(質量分析装置)、1…電子源、2…1次電子線、3…分析対象物(試料)、4…2次粒子、5…2次粒子検出器、50…シンチレータ、51…ライトガイド、52…受光素子、8…電子光学鏡筒、9…試料室、11…シンチレータ発光部、12…発光層と障壁層の積層体、13…基材、14…バッファ層、15…発光層、16…障壁層、17…導電層、60…イオン化部、61…質量分離部、62…変換電極。