(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-30
(45)【発行日】2023-02-07
(54)【発明の名称】感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物、感熱紙および感熱記録ラベルシ-ト
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20230131BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20230131BHJP
D21H 19/32 20060101ALI20230131BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C09K3/00 R
C08L83/04
D21H19/32
D21H27/00 A
(21)【出願番号】P 2019557224
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2018043500
(87)【国際公開番号】W WO2019107334
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2017231351
(32)【優先日】2017-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 修司
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-532311(JP,A)
【文献】特表2015-532312(JP,A)
【文献】特開2011-026582(JP,A)
【文献】特開2013-160957(JP,A)
【文献】特開2013-028015(JP,A)
【文献】特開平10-237398(JP,A)
【文献】特開昭61-228064(JP,A)
【文献】特開2008-231171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C08L 83/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)炭素原子数4~12のアルケニル基を有し、前記アルケニル基中のビニル(CH
2=CH-)部分の含有量が0.5~3.0質量%である1種類以上のオルガノポリシロキサン、
(B)一分子中に2以上のケイ素結合水素原子(Si-H)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン
であって、(B1)25℃における粘度が2.5~50mPa・sの範囲にあるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、および(B2)25℃における粘度が100~500mPa・sの範囲にあるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを質量比で75:25~85:15の範囲で混合してなるオルガノハイドロジェンポリシロキサン混合物、
(C)ヒドロシリル化反応触媒、および
(D)ヒドロシリル化反応抑制剤
を含有してなり、成分(A)中の炭素-炭素二重結合1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が、1.0~4.0モルとなる範囲の量である、感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物。
【請求項2】
成分(A)中の炭素-炭素二重結合1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が、1.5~3.0モルとなる範囲の量である、請求項1に記載の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物。
【請求項3】
成分(A)が、前記炭素原子数4~12のアルケニル基としてヘキセニル基を含むオルガノポリシロキサンであり、組成物中の炭素原子数4未満のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンの含有量が成分(A)の5.0質量%以下であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物。
【請求項4】
さらに、(E)光重合開始剤を含有する、請求項1~
3のいずれか1項に記載の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物。
【請求項5】
25℃における組成物全体の粘度が100~50,000mPa・sである、請求項1~
4のいずれか1項に記載の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物。
【請求項6】
無溶剤型の組成物である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を硬化させてなる剥離層を有する感熱紙。
【請求項8】
剥離層が感熱発色層上または感熱発色層上に形成した中間層上に形成されていることを特徴とする、請求項
7の感熱紙。
【請求項9】
請求項
7または請求項
8に記載の感熱紙を含む感熱記録ラベルシ-ト。
【請求項10】
請求項
7または請求項
8に記載の感熱紙を含み、接着層が感熱紙上の剥離層と対向した構造を有するライナーレス感熱記録ラベルシ-ト。
【請求項11】
工程(I):感熱発色層を備えた基材上に、請求項1~
6のいずれか一項に記載の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を塗布する工程、および
工程(II):基材上で、感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を上記の感熱発色層が実質的に発色または変色しない温度で硬化させ、剥離層を形成する工程
を含む、感熱紙またはそれを含むラベルの製造方法。
【請求項12】
工程(I´):感熱発色層を備えた基材上に、請求項
4に記載の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を塗布する工程、および
工程(II´):基材上で、感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を、加熱およびエネルギー線の組み合わせにより硬化させ、剥離層を形成する工程
を含む、感熱紙またはそれを含むラベルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温下でゲル化しにくく、取扱作業性に優れ、かつ、感熱発色層上に塗布した場合に低温短時間で硬化不良を起こさずに硬化して良好な剥離力と高い密着性を有する剥離層を形成可能な感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物、それを用いた感熱紙、感熱記録ラベルシ-トおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感熱紙は、電車等の切符、レジ用紙、感熱FAX用用紙、電気やガス等の検針用紙、コンビニやスーパー等で値段等を表示するラベル等の様々な用途で使用されている。このような感熱紙は、通常、ロール状に巻き取られて格納されており、必要に応じて、基材上の全面全面または一部に形成された感熱発色層に対して、加熱発色させるサーマルヘッドを有するプリンターにより印字される。ここで、ラベル等に用いられる感熱紙は、ロールからの滑らかな送紙および印字が求められるため、印字前の感熱発色層を保護し、かつ、ロール状に巻かれた感熱紙等を滑らかに送紙する目的で、感熱発色層上にさらにトップコート層を設けることが望ましい。このようなトップコート層は、印字性の保つために薄層である必要があり、かつ、特にライナーレスラベルにおいては、剥離性を有することが特に好ましいことから、特に、ヒドロシリル化反応により高温かつ短時間で硬化するシリコーン系の剥離剤または紫外線硬化性のシリコーン系剥離剤を感熱紙等に使用すること等が提案されている(特許文献1または特許文献2等)。
【0003】
しかしながら、従来のヒドロシリル化反応性シリコーン系剥離剤を感熱紙のトップコート層/剥離層に用いる場合、通常のヒドロシリル化反応に不可欠な100℃以上の高温加熱により、感熱発色層が反応して感熱紙全体が発色ないし変色したり、サーマルヘッドによる印字が不鮮明になるという問題がある。これを回避するためには、感熱発色層が加熱反応しないように、シリコーン系剥離剤のヒドロシリル化反応温度を90℃以下の低温にし、かつ、加熱時間を可能な限り低減することが考えられる。しかしながら、従来広く提案されているビニル基を用いたシリコーン系の剥離剤は低温硬化させた場合、硬化不良に伴う剥離層の劣化や密着性の低下による脱落を引き起こす場合がある。さらに、硬化不良を抑制するために、反応時間を長く取ると、生産時のサイクルタイムが伸び、感熱紙の生産効率が著しく悪化するため、工業的生産上、不適当である。この問題は、特許文献1のように白金含有量の低い組成を選択した場合に特に顕著である。
【0004】
一方、感熱発色層上でのシリコーン系剥離剤のヒドロシリル化反応性を改善するために、ヒドロシリル化反応触媒の添加量を増やすことも可能である。しかしながら、白金等の貴金属を用いるヒドロシリル化反応触媒を増量することは一般に不経済であり、消耗品として設計、生産される感熱紙において工業生産上採用可能な量には自ずから限界がある。これに加えて、シリコーン系剥離剤組成物中のヒドロシリル化反応触媒の添加量が増えると、室温で塗布浴を調整した場合、予定している可使時間(ポットライフ)が著しく減少し、短時間でゲル化して取り扱い作業性が低下する問題がある。通常のシリコーン系剥離剤においてポットライフの延長が必要な場合、組成中のヒドロシリル化反応抑制剤の増量又は最適化という解決手段があるが、上記のとおり、感熱紙においては高い加熱温度を採用することができず、かつ、サイクルタイムの増加が好まれないので、ヒドロシリル化反応抑制剤の種類又は量の調整では感熱紙に適したシリコーン系剥離剤を設計することは困難である。
【0005】
また、感熱発色層は発色剤として窒素/硫黄含有化合物を多く含むものであるが、これらは白金等の貴金属を用いるヒドロシリル化反応触媒に対する触媒被毒の原因となり、単純にヒドロシリル化反応触媒量を増やしても、硬化不良に伴う剥離層の密着性の低下が生じやすいという問題がある。このため、感熱発色層の種類や発色剤の含有量が変わると、シリコーン系剥離剤の硬化条件や触媒量を最適化しないと工業的に利用できないという不便を生じる場合がある。
【0006】
以上のように、感熱紙は、従来のヒドロシリル化反応性シリコーン系剥離剤を適用しようとした場合、相互の解決策が矛盾した結果となりやすい課題を複数抱えており、感熱紙用途におけるシリコーン系剥離剤の工業的な普及を妨げる要因となっている。このため、感熱紙特有の一連の課題を平易な手段で包括的に解決することが強く求められている。
【0007】
一方、特許文献3および特許文献4には、ヘキセニル基等のアルケニル基を含むヒドロシリル化反応性シリコーン系剥離剤が開示されているが、これらを感熱紙に適用することおよびその有用性について何ら記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2005-512796号公報(国際公開第03/054059号)
【文献】特開平06-072024号公報
【文献】特開平05-171047号公報
【文献】米国特許公報5264499号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、室温下で浴調整した場合でもゲル化等の問題を生じず、十分なポットライフを有し、取扱作業性に優れ、かつ、感熱紙の感熱発色層上に塗布して100℃以下の低温かつ短時間で硬化させた場合であっても、実質的に硬化不良を起こさずに、良好な剥離力と高い密着性を有する剥離層を形成可能な感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物、それを用いた感熱紙、ラベルおよびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鋭意検討の結果、本発明者らは、(A)炭素原子数4~12のアルケニル基を有し、前記アルケニル基中のビニル(CH2=CH-)部分の含有量が0.5~3.0質量%である1種類以上のオルガノポリシロキサン、(B)一分子中に2以上のケイ素結合水素原子(Si-H)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)ヒドロシリル化反応触媒、および(D)ヒドロシリル化反応抑制剤を含有してなり、成分(A)中の炭素-炭素二重結合1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が、1.0~4.0モルとなる範囲の量である、感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を用いることで、上記課題を解決できる事を見出し、本発明に到達した。
【0011】
上記の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物は、感熱発色層上への密着性をさらに向上させるために、架橋剤として、重合度の異なる2種以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを併用することが好ましい。具体的には、上記組成物における成分(B)が、(B1)25℃における粘度が2.5~50mPa・sの範囲にあるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、および(B2)25℃における粘度が100~500mPa・sの範囲にあるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを質量比で50:50~90:10の範囲で混合してなるオルガノハイドロジェンポリシロキサン混合物であってもよい。
【0012】
特に、本発明の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物は、上記課題をより好適に解決するために、さらに、(E)光重合開始剤を含有してもよく、加熱および紫外線等のエネルギー線の組み合わせにより硬化する、熱・エネルギー線硬化性の組成物であってもよい。また、上記組成物は、無溶剤型の組成物であることがより好ましい。
【0013】
本発明の課題は、さらに、上記の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を硬化させてなる剥離層を有する感熱紙、特に、当該剥離層が感熱発色層上または感熱発色層上に形成した中間層上に形成されていることを特徴とする感熱紙により、好適に解決される。また、これらの感熱紙を含むラベル等であってもよい。これらのラベルは、感熱記録ラベルシ-ト、とくにライナーレス感熱記録ラベルシートとして用いることができる。
【0014】
本発明の課題は、以下の工程(I)および(II)を含む感熱紙またはそれを含むラベルの製造方法により解決される。
工程(I):感熱発色層を備えた基材上に、上記の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を塗布する工程、および
工程(II):基材上で、感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を上記の感熱発色層が実質的に発色または変色しない温度、好適には、70~100℃で硬化させ、剥離層を形成する工程
【0015】
特に、本発明の課題は、上記の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物が、(E)光重合開始剤を含有し、加熱および紫外線等のエネルギー線の組み合わせにより硬化する場合に、以下の工程(I´)および(II´´)を含む感熱紙またはそれを含むラベルの製造方法により解決される。このとき、加熱温度は上記の感熱発色層が実質的に発色または変色しない温度(好適には70~100℃)の範囲であることが好ましく、エネルギー線は紫外線であることが好ましい。
工程(I´):感熱発色層を備えた基材上に、(E)光重合開始剤を含有する上記の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を塗布する工程、および
工程(II´):基材上で、感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を、加熱およびエネルギー線の組み合わせにより硬化させ、剥離層を形成する工程
【発明の効果】
【0016】
本発明の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物は、室温下で浴調整した場合でもゲル化等の問題を生じず、十分なポットライフを有し、取扱作業性に優れ、かつ、感熱紙の感熱発色層上に塗布して100℃以下の低温かつ短時間で硬化させた場合であっても、実質的に硬化不良を起こさずに、良好な剥離力と高い密着性を有する剥離層を形成可能である。さらに、上記の剥離剤組成物を用いることで、剥離性および密着性に優れた剥離層を備え、かつ、工業生産性および製造時の感熱発色層の発色ないし変色の問題を生じない感熱紙、ラベルおよびそれらの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物]
まず、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物について説明する。上記の課題を解決すべく、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、主として紙または樹脂フィルムであるシート状の基材上の全面または一部に感熱発色層を備え、サーマルヘッドを有するプリンターにより印字可能な感熱紙について、その表面にトップコート層として剥離層を形成させる目的で使用される、その用途および機能が限定された硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。本発明にかかる組成物は、感熱紙特有の課題解決を目的として選択的に設計されており、課題の項で指摘したとおり、組成上または製造上の他の手段では感熱紙特有の課題に対する平易かつ包括的な解決手段とならないためである。
【0018】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、(A)炭素原子数4~12のアルケニル基を有し、前記アルケニル基中のビニル(CH2=CH-)部分の含有量が0.5~3.0質量%である1種類以上のオルガノポリシロキサン、(B)一分子中に2以上のケイ素結合水素原子(Si-H)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)ヒドロシリル化反応触媒、および
(D)ヒドロシリル化反応抑制剤を含有してなり、好適には、さらに、(E)光重合開始剤およびその他の任意成分を含む。また、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は溶剤型でも無溶剤型であってもよいが、無溶剤型の組成物であることが好ましい。
【0019】
成分(A)は、炭素原子数4~12のアルケニル基を有し、前記アルケニル基中のビニル(CH2=CH-)部分の含有量が0.5~3.0質量%である1種類以上のオルガノポリシロキサンであり、ケイ素原子に結合した炭素原子数4未満のアルケニル基を実質的に含有しないか、まったく含有しないオルガノポリシロキサンであることが必要である。成分(A)のケイ素原子に結合した炭素原子数4~12のアルケニル基は、ヘキセニル基を含み、かつヘキセニル基中のビニル(CH2=CH-)部分の含有量が0.5~3.0質量%、好ましくは1.0~2.0質量%の範囲にあることがより好ましい。成分(A)中の他の有機基は特に限定されるものではないが、水酸基(シラノール基)、フッ素原子で置換されてもよい炭素原子数1~20のアルキル基、フェニル基等が例示される。工業生産上の見地から、他の有機基は、メチル基またはフェニル基であることが好ましいが、剥離性の改善等の見地から、フッ素原子で置換された炭素原子数3以上のアルキル基を特に含むものであってもよい。
【0020】
成分(A)の重合度および粘度は特に制限されるものではないが、25℃における粘度は20mPa・s以上であることが好ましい。これ以下の粘度であると、上述した炭素原子数4~12のアルケニル基の含有量の範囲を満たすことが困難になる場合がある。一方、その粘度が20mPa・s以上であれば、25℃において、液状乃至ガム状(通常、粘度10,000,000mPa・s以上であり、可塑性を有する半固体状の高重合度シリコーンポリマー)であってもよい、塗工性の見地から、粘度が50~1000mPa・sの範囲が好ましく、100~500mPa・sの範囲が特に好ましい。
【0021】
上記の(A)成分は、直鎖状オルガノポリシロキサン、分岐鎖状オルガノポリシロキサン、および一部環状構造を含む直鎖状または分岐鎖状オルガノポリシロキサンから選択することができるが、工業的な観点からは、下記化学式(1)で表わされる直鎖状のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【化1】
【0022】
式(1)中、R11は、各々独立に、非置換またはハロゲン原子により置換された炭素原子数1~20のアルキル基(例えば、メチル基等)、炭素原子数6~22のアリール基(例えば、フェニル基等)または水酸基であり、メチル基またはフェニル基であることが好ましい。Raは、炭素原子数4~12のアルケニル基であり、ヘキセニル基であることが特に好ましい。Rは、R11またはRaで表わされる基である。mは0以上の数であり、nは1以上の数である。ただし、m、n、およびRは、上記式(1)で表わされるオルガノポリシロキサン分子中の炭素原子数4~12のアルケニル基中のビニル(CH2=CH-)部分の含有量が0.5~3.0質量%となる数である。
【0023】
例えば、式(1)の両末端のRが共に炭素原子数4~12のアルケニル基(Ra)であるとき、当該アルケニル基中のビニル(CH2=CH-)部分の含有量は下記式:
{(Raのビニル部分の分子量:約27)×(m+2)}/全体の分子量 ×100 (質量%)
で表わされ、a1)成分は、上記式(1)において、炭素原子数4~12のアルケニル基中のビニル(CH2=CH-)部分の含有量が0.5~3.0質量%の範囲、より好適には1.0~2.0質量%の範囲となる条件を満たすオルガノポリシロキサンである。
【0024】
成分(A)は、下記化学式(2)で表される、分子鎖両末端および側鎖にヘキセニル基を有するオルガノポリシロキサンであることが特に好ましい。
【化2】
(式(2)中、m1は0以上の数でありn1は各々正の数であり、m1は式(2)で表される分子中のヘキセニル基(-(CH
2)
4CH=CH
2)中のビニル(CH
2=CH-)部分の含有量が0.5~3.0質量%の範囲、より好ましくは1.0~2.0質量%の範囲となる数である。また、m1+n1は、式(2)で表されるオルガノポリシロキサンの25℃における粘度が20mPa・s以上となる範囲の数であり、より好適には、100~500mPa・s以上となる数である。)
【0025】
本発明組成物は、ヒドロシリル化反応を含む硬化反応により硬化するものであるが、加熱温度が70~100℃の範囲における低温かつ短時間での良好な硬化性を実現するためには、ケイ素原子に結合した炭素原子数4未満のアルケニル基、より具体的には、ビニル基またはアリル基を有するオルガノポリシロキサンを実質的に含有しないことが好ましい。これらのアルケニル基を含む組成は、低温硬化に適さず、感熱紙用のシリコーン剥離剤として本発明の課題解決を阻害するためである。ここで、ケイ素原子に結合した炭素原子数4未満のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン実質的に含有しないとは、組成物中の当該成分の含有量が成分(A)に対して5.0質量%以下、好適には3.0質量%以下であることを意味し、好適には、組成物全体に対して当該成分の含有量が5.0質量%以下、好適には3.0質量%以下、0~1.0質量%の範囲であることを意味する。
【0026】
成分(B)は、一分子中に2以上のケイ素結合水素原子(Si-H)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、本組成物の架橋剤である。上記成分(A)の架橋剤である。成分(B)は、1分子中に少なくとも3個のケイ素原子結合水素原子を有することが好ましく、その水素原子の分子中における結合位置は特に限定されない。
【0027】
ケイ素原子結合水素原子の含有量は、硬化性オルガノポリシロキサン組成物全体の0.1~2.0質量%となる量であることが好ましく、0.5~1.8質量%となる量であることがより好ましい。また、水素原子以外で、成分(B)が含有するケイ素原子に結合する有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、およびオクチル基等のアルキル基が例示され、メチル基であることが好ましい。また、成分(B)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造としては、直鎖状、分岐鎖状、および分岐状環状のいずれか又はそれらの1つ以上の組み合わせが例示される。なお、ケイ素結合水素原子の一分子中の数は全分子の平均値である。
【0028】
成分(B)の25℃における粘度は1~1,000mPa・sであり、好ましくは5~500mPa・sである。これは、25℃における成分(B)の粘度が1mPa・s未満であると、成分(B)がそれを含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物中から揮発し易くなり、1,000mPa・sを超えると、そのような成分(B)を含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化時間が長くなるからである。このような成分(B)は、特に限定されないが、例えば、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、環状メチルハイドロジェンポリシロキサン、および環状メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体が例示される。
【0029】
ここで、本発明組成物の感熱発色層上における硬化性および密着性の向上の見地から、成分(B)は、重合度の異なる2種以上のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを併用することが好ましい。具体的には、上記組成物における成分(B)が、(B1)25℃における粘度が2.5~50mPa・sの範囲にあるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、および(B2)25℃における粘度が100~500mPa・sの範囲にあるオルガノハイドロジェンポリシロキサンを質量比で50:50~90:10の範囲、より好適には75:25~85:15の範囲で混合してなるオルガノハイドロジェンポリシロキサン混合物であってもよい。低重合度の成分(B1)に対して、これより重合度の高い成分(B2)を少量併用することで、経時で感熱紙の感熱発色層から剥離層が脱落しやすくなる現象を効果的に抑制でき、ロール状に巻かれて長期間保管される感熱紙用途に使用する場合、実用上、極めて有用である。
【0030】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物における成分(B)の配合量は、成分(A)中の炭素-炭素二重結合1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が、1.0~4.0モルとなる量であり、好ましくは1.0~3.0となる量である。このモル比が前記の下限値よりも小さいと、得られる硬化性組成物の硬化性が低下し、前記の上限を超えると、得られる感熱紙のトップコート層であり剥離層の剥離抵抗が大きくなり、実用的な剥離性が得られなくなるおそれがある。
【0031】
成分(C)はヒドロシリル化反応触媒であり、硬化性オルガノポリシロキサン組成物中に存在するケイ素原子結合アルケニル基と、ケイ素原子結合水素原子との付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進する触媒である。好ましいヒドロシリル化反応触媒は、白金系金属を含むヒドロシリル化反応触媒であり、具体的には、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、塩化白金酸とケトン類との錯体、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯体、四塩化白金、白金微粉末、アルミナまたはシリカの担体に固体状白金を担持させたもの、白金黒、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒を含むメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂粉末の白金系触媒が例示される。特に、塩化白金酸とジビニルテトラメチルジシロキサンとの錯体、塩化白金酸とテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンとの錯体、白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、及び白金テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン錯体等の白金アルケニルシロキサン錯体が好ましく使用できる。
【0032】
硬化性オルガノポリシロキサン組成物への成分(C)の添加量は触媒量であればよく、通常、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の全質量に対して、成分(C)が含有する白金系金属量が1~1,000ppmの範囲となる量が好ましく、5~500ppmの範囲となる量がさらに好ましい。
【0033】
成分(D)はヒドロシリル化反応抑制剤であり、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、常温下でのゲル化および硬化を抑制して保存安定性を向上させるとともに、70℃以上の加熱時には硬化性を発現させる成分である。ヒドロシリル化反応抑制剤としては、アセチレン系化合物、エンイン化合物、有機窒素化合物、有機燐化合物、およびオキシム化合物が例示される。具体的な化合物としては、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール、および1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ETCH)等のアルキンアルコール;3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、3-メチル-3-ペンテン-1-イン、および3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、メチル(トリス(1,1-ジメチル-2-プロピニロキシ))シラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、および1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のアルケニルシロキサンが例示できる。
【0034】
硬化性オルガノポリシロキサン組成物への(D)ヒドロシリル化反応抑制剤の添加量は、通常、成分(A)100質量部当り成分(D)0.001~5質量部の範囲内であるが、成分(D)の種類、用いるヒドロシリル化反応触媒の特性と使用量、成分(A)中のC4~C12アルケニル基の含有量、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子量、および硬化性組成物に対する所望の可使時間および作業環境に応じて適宜、成分(D)の好ましい使用量を容易に決めることができる。また、目的とする可使時間を実現するために、上記の(D)ヒドロシリル化反応抑制剤を単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、成分(A)~(D)を含むものであるが、さらに、(E)光重合開始剤を含んでよく、かつ、好ましい。成分(E)は、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物に紫外線等のエネルギー線硬化性を与える成分であり、付加反応による熱硬化とエネルギー線硬化を併用することにより、より低温かつ短時間で硬化反応を行うことが可能になり、熱により発色乃至変色する感熱紙の感熱発色層への熱によるダメージが低減され、本発明にかかる剥離層の感熱紙上、特に、トップコート層として感熱発色層上への密着性が向上するという利点がある。さらに、本発明にかかる剥離層の硬化皮膜表面からシリコーン成分が移行し、感熱紙がシリコーン成分により汚染される(これをシリコーンの移行性という)ことを防ぎ、シリコーンの移行性をさらに低減することができるという利点がある。ここで、(E)光重合開始剤を含む硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、加熱硬化反応を行った後に、エネルギー線を照射して硬化させる硬化方式であってもよく、エネルギー線照射を行った後に加熱硬化反応を行う硬化方式であってもよく、加熱/エネルギー線照射を同時に行う硬化方式であってもよい。
【0036】
このような成分(E)は、紫外線等のエネルギー線の照射によりラジカルを発生する化合物として公知のもの、例えば、有機過酸化物、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、およびアゾ化合物などの中から適宜選択して用いることができる。具体的な化合物としては、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、キサントール、フルオレイン、ベンズアルデヒド、アンスラキノン、トリフェニルアミン、4-メチルアセトフェノン、3-ペンチルアセトフェノン、4-メトキシアセトフェノン、3-ブロモアセトフェノン、4-アリルアセトフェノン、p-ジアセチルベンゼン、3-メトキシベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、4-クロロベンゾフェノン、4,4-ジメトキシベンゾフェノン、4-クロロ-4-ベンジルベンゾフェノン、3-クロロキサントーン、3,9-ジクロロキサントーン、3-クロロ-8-ノニルキサントーン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、ベンジルメトキシケタール、2-クロロチオキサントーン、ジエチルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル〔4-(メチルチオ)フェニル〕2-モルフォリノ-1-プロパノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、およびジエトキシアセトフェノンなどがあげられる。本発明の組成物を紫外線で硬化させる場合、成分(E)としては、ベンゾフェノン、4-メトキシアセトフェノン、4-メチルベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、および1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。特に好ましい成分(E)としては、ジエトキシアセトフェノンおよび1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。
【0037】
上記(E)光重合開始剤は、一種を単独で用いても二種以上を併用してもよい。その配合量は、特に限定されないが、成分(A)100質量部に対して、0.01~10質量部の範囲であり、好ましくは0.01~2.5質量部の範囲である。成分(E)の配合量が前述の範囲内であれば、本発明の組成物を硬化させて得られる剥離性硬化皮膜は、低温かつ短時間で硬化させることができ、シリコーンの移行性が改善され、強度等の物理特性に優れたものとなる。
【0038】
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物は有機溶剤を任意で含むことができる。たとえば、取り扱い作業性および塗工性を良好にするために、公知の有機溶剤に、成分(A)~(E)を含む組成物を分散ないし溶解させて使用してもよい。ただし、本発明の目的に反しない限り、任意の有機溶剤以外の低粘度の液状オルガノポリシロキサン(例えば、25℃において、0.5~10mPas程度の低粘度である鎖状または環状のオルガノポリシロキサン)に、前記の成分(A)~(E)を分散ないし溶解させて使用することも可能である。有機溶剤は、トルエンおよびキシレン等の芳香族系炭化水素溶剤、ヘキサン、オクタン、およびイソパラフィンなどの脂肪族系炭化水素溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、およびメチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチルおよび酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテルおよび1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶剤、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、およびデカメチルシクロペンタシロキサンなどの重合度3~6の環状ポリシロキサン類、並びに、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、トリフルオロメチルベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン及びメチルペンタフルオロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素を例示することができる。
【0039】
しかしながら、本発明においては、組成物を塗布すべき対象が主として基材が紙である感熱紙であり、感熱発色層には有機溶剤に対して反応乃至溶出する可能性がある発色剤等の成分が含まれることから、有機溶剤を実質的に含まない無溶剤型の組成物を選択することが好ましい。
【0040】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、本発明の目的に反しない範囲で、上記成分に加えてそれ以外の任意成分をさらに添加することができる。その他の任意成分としては、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよび3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物からなる接着促進剤;フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、およびチオエーテル系などの酸化防止剤;トリアゾール系およびベンゾフェノン系などの光安定剤;リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、およびアンチモン系などの難燃剤;カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、および非イオン系界面活性剤などから選択される1種類以上の界面活性剤;帯電防止剤、耐熱剤、染料、および顔料等の公知の添加剤が挙げられ、これらから選択される成分を1種または2種以上組み合わせて、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物に添加することができる。なお、帯電防止剤は公知のイオン性または非イオン性の帯電防止剤を特に制限なく用いることができ、帯電防止の見地から、前記の帯電防止剤の添加剤としての使用だけでなく、感熱紙を構成する各成分に対して界面活性剤系、シリコーン系、有機ホウ素系、導電性高分子系、金属酸化物系、蒸着金属系などの帯電防止剤による処理を行ってもよい。
【0041】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上述した成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、および任意で成分(E)を含み、さらに、任意選択により他の成分を含んでいてもよい。本発明の硬化性組成物は、本発明の課題解決手段として無溶液型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物として用いることが好ましい。実用上、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、感熱紙の感熱発色層上への良好なコーティング特性を得るために、25℃における組成物全体の粘度が100~100,000mPa・sの範囲にあることが好ましく、組成物全体の粘度が100~50,000mPa・sであることがより好ましく、組成物全体の粘度が100~20,000mPa・sであることが実用上特に好ましい。
【0042】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記の感熱発色層が実質的に発色または変色しない温度、好適には、70~100℃の条件下において成分(C)の存在下で付加反応を行わせることにより、感熱紙の発色ないし変色等の問題を生じることなく、優れた剥離特性を有する硬化皮膜を形成できる。さらに、低温かつより短い時間で硬化反応を進行させ、得られる硬化皮膜の感熱発色層上への密着性、物理特性および剥離性をさらに改善する目的で、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、加熱だけでなくエネルギー線(化学作用線ともいう)、例えば、紫外線または電子線、特に紫外線照射を併用して硬化させてもよい。硬化性組成物の硬化時間は、用いる硬化条件に応じて適宜調節できる。なお、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物に良好な紫外線硬化性を付与するためには、上記の(E)光重合開始剤を組成物にさらに配合することが必要である。
【0043】
本発明の組成物は、前記成分(A)~成分(D)、任意選択および硬化系の選択により成分(E)、さらにその他の任意成分を用いる場合はそれらを均一に混合することにより製造することができる。各成分の添加順序は特に限定されるものではないが、混合後、得られた組成物を直ちに使用しない場合は、成分(A)および成分(B)を混合したものと、成分(C)を別々に保存しておき、使用直前に両者を混合することが好ましい。また、上記の各成分からなる組成物において、成分(D)の配合量を調整することにより、常温では架橋せず、予定している硬化温度に加熱すると速やかに架橋して硬化するように設計された組成物が特に好ましい。
【0044】
上記の本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を感熱紙の表面にトップコート層/剥離層として均一に塗工し、成分(A)と成分(B)がヒドロシリル化反応して架橋するのに十分な条件下で加熱、エネルギー線(例えば、紫外線、電子線など)の照射、あるいはこれらの併用をすると、その表面に硬化したシリコーン被膜(すなわち硬化したオルガノポリシロキサン)被膜を有する感熱紙が得られる。上記のとおり、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、70~100℃の低温かつ短時間で容易に硬化することができ、かつ、硬化性および密着性に優れることから、感熱紙の感熱発色層の発色ないし変色の問題を生じることなく、ロール状に巻いた場合でも使用時には滑らかに展開して印字することができ、かつ、サーマルヘッド等により熱印字性に優れる感熱紙を工業的なスケールで簡便に提供することに特に適している。
【0045】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる硬化皮膜(剥離性皮膜)は感熱紙の表面に形成されるものであり、感熱紙表面に存在することから、トップコート層と呼ばれることがあり、その機能に着目して剥離層/保護層と呼ばれることもある。本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は剥離層の形成を目的として設計されているので、感熱紙表面の一部又は全部について剥離性の表面層を形成することが好ましい。このような構成だと、感熱紙をロール状に巻き取った場合、巻き取られた感熱紙の基材層底面(ライナーレスラベルにおいては接着層)に対して、上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる剥離層が対向し、ロールを引っ張ることで滑らかに展開されて印字乃至ラベルとして利用できるためである。
【0046】
本発明にかかる感熱紙の構成は特に限定されるものではないが、シート状基材、その上に形成された感熱発色層、任意でその上に形成された中間層および上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる剥離層(=トップコート層)を備えるものである。本発明の感熱紙は、さらに、任意で、各層間の接着層を備えてもよく、シート状基材の他面に接着層を設けてもよい。特に、シート状基材の他面にシリコーン系接着剤、アクリル系接着剤等からなる感圧接着層を設け、さらに当該感圧接着層と対抗する他の剥離層を有するシート状基材は、本発明にかかる感熱紙を含む接着性ラベルシートとして利用することができ、本発明の好適な利用形態に包含される。特に好適には、ロール状に巻き取られた際に接着層が感熱紙上の剥離層と対向した構造を有するライナーレス感熱記録ラベルシ-トとして利用できる。
【0047】
感熱紙を構成するシート状基材は、従来公知のものでよく、上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙等各種の紙、合成紙、そしてポリエチレンテレフタレート、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチックシート等を用いることができる。上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は低温硬化に適するため、薄手の合成紙やプラスティックシートであっても加熱による損傷を殆ど起こさず、比較的耐熱性の低い基材であっても所望の感熱紙を形成可能であるという利点を有する。これらのシート状基材の厚さは、一般に、10~300μmであり、好ましくは15~200μmであり、特に好ましくは20~125μmである。
【0048】
感熱紙を構成する感熱発色層は、従来公知の感熱発色層を特段の制限なく用いることができる。感熱発色層は、発色剤、顕色剤及び結着剤を主成分として含有する塗工液を、上記基材の表面に塗工し、乾燥させることにより形成することができる。また、感熱発色層の材料となる混合物には、必要に応じて、顔料、ワックス類、消泡剤などの添加剤や、感熱発色層の熱に対する感度を高めるための増感剤や、保存性を向上させるための安定剤などを添加してもよい。さらに、感熱発色層の材料となる混合物には、その混合物中の結着剤を架橋させるための架橋剤や、滑剤などを添加してもよい。感熱発色層は、上記の材料を含有する塗工液を、従来公知の方法、すなわち、グラビアコート、グラビアリバースコート、ロールコート、バーコート、ダイコート、スライドコート、およびカーテンコート等の方法で、塗工して形成することができる。その感熱発色層の塗工量は、特に限定はないが、固形分で2.0~30.0g/m2程度が好ましい。
【0049】
上記の発色剤としては、公知の無色または淡色のロイコ染料などが用いられ、例えば、(1)3,3-ビス(p-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(p-ジメチルアミノフェニル)-3-(2-フェニル-3-インドリル)フタリド、3-(p-ジメチルアミノフェニル)-3-(1,2-ジメチル-3-インドリル)フタリド、3,3-ビス(9-エチル-3-カルバゾリル)-5-ジメチルアミノフタリド、3,3-ビス(2-フェニル-3-インドリル)-5-ジメチルアミノフタリドなどのトリアリールメタン系化合物;
(2)4,4-ビス(ジメチルアミノ)ベンズヒドリンベンジルエーテル、N-2,4,5-トリクロロフェニルロイコオーラミンなどのジフェニルメタン系化合物;
(3)ローダミン-β-アニリノラクタム、3-(N-メチル-N-シクロヘキシルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-オクチルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(2-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル- 7-(2,4-ジメチルアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-7-ジベンジルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-クロロ-7-(β-エトキシエチルアミノ) フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-クロロ-7-(γ-クロロプロピルアミノ)フルオラン、3-(N-エチル-N-イソアミルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-エトキシエチルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-テトラヒドロフルフリルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-トリルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-7-(2-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジペンチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ピペリジノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3- (4-アニリノ)アニリノ-6-メチル-7-クロロフルオランなどのキサンテン系化合物;
(4)ベンゾイルロイコメチレンブル-、p-ニトロベンゾイルロイコメチレンブル-などのチアジン系化合物;
(5)3-メチルスピロジナフトピラン、3-エチルスピロジナフトピラン、3-ベンジルスピロジナフトピラン、3-メチルナフト-(3-メトキシベンゾ)スピロピランなどのスピロ系化合物;
(6)その他、3,5’,6-トリス(ジメチルアミノ)-スピロ〔9H-フルオレン-9,1’(3’H)-イソベンゾフラン〕-3’-オン、1,1-ビス〔2-(4-ジメチルアミノフェニル)-2-(4-メトキシフェニル)エテニル〕-4,5,6,7-テ
トラクロロ(3H)イソベンゾフラン-3-オンなどが挙げられ、これらの染料は1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
また、前記顕色剤としては、たとえば、p-オクチルフェノ-ル、p-第三ブチルフェノール、p-フェニルフェノール、p-ヒドロキシアセトフェノン、α-ナフトール、β-ナフトール、p-第三オクチルカテコール、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノール-A、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス-(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3-アリル-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,4-ジヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシフェニルスルホン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス〔2-(4-ヒドロキシフェニルチオ)エトキシ〕メタン、4-(4-イソプロポキシベンゼンスルホニル)フェノ-ル、4-ヒドロキシフタル酸ジメチル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)酢酸ブチル、p-ヒドロキシ安息香酸ベンジル、3,5-ジ第三ブチルサリチル酸などのフェノール系;安息香酸などの有機カルボン酸系;サリチル酸亜鉛などの金属系;2,4-ジヒドロキシ-N-2’-メトキシベンズアニリドなどのアニリド誘導体系などの顕色剤があげられ、これらの顕色剤は1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0051】
さらに、結着剤としては、例えば、アクリルエマルジョン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、メトキシセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、でんぷん類、ポリビニルピロリドン、アクリル酸エステル、ポリアクリルアミド重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体あるいはこれらの変性物などが選択できる。
【0052】
また、前記顔料としては、例えば、水酸化アルミニウム、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、シリカゲル、活性白土、タルク、クレー、カオリナイト、ケイソウ土、炭酸マグネシウム、アルミナ、酸化アルミニウムなど無機顔料や、たとえば、ポリスチレン樹脂粒子、尿素- ホルマリン樹脂粒子、ポリオレフィン粒子などの有機顔料などが選択できる。
【0053】
また、前記増感剤としては、例えば、酢酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、ベヘニン酸亜鉛、安息香酸亜鉛、サリチル酸ドデシルエステル亜鉛塩、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウムなどの有機酸の金属塩;ステアリン酸アミド,ステアリン酸メチロールアミド,ステアロイル尿素、アセトアニリド、アセトトルイジド、安息香酸ステアリルアミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオクチル酸アミドなどのアミド化合物;1,2-ビス(3,4-ジメチルフェニル)エタン、m-ターフェニル、1,2-ジフェノキシエタン、1,2-ビス(3-メチルフェノキシ)エタン、p-ベンジルビフェニル、p-ベンジロキシビフェニル、ジフェニルカーボネート、ビス(4-メチルフェニル)カーボネート、ジベンジルオキザレート、ビス(4-メチルベンジル)オキザレート、ビス(4-クロロベンジル)オキサレート、1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸フェニル、1-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸ベンジル、3-ヒドロキシ-2-ナフタレンカルボン酸フェニル、メチレンジベンゾエート、1,4-ビス(2 -ビニロキシエトキシ)ベンゼン、2-ベンジロキシナフタレン、4-ベンジロキシ安息香酸ベンジル、ジメチルフタレート、テレフタル酸ジベンジル、ジベンゾイルメタン、4-メチルフェノキシ-p-ビフェニルなどがあげられ、これらの増感剤は1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0054】
また、保存安定剤としては、たとえば、1,1,3-トリス(2-メチル-4ヒドロキシ-5-第三ブチルフェニル)ブタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-シクロヘキシルフェニル)ブタン、4,4’-ブチリデンビス(2-第三ブチル-5-メチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-第三ブチル-5-メチルフェノール)、2,2’-チオビス(6-第三ブチル-4-メチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(6-第三ブチル-4-メチルフェノール)などのヒンダードフェノール化合物、4-ベンジルオキシ-4’-(2-メチルグリシジルオキシ)ジフェニルスルホン、ナトリウム-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスフェートなどがあげられ、これらの保存安定剤は1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0055】
これらの成分を含む感熱発色層は、窒素化合物、燐化合物、硫黄化合物等を含むため、一般にヒドロシリル化反応触媒に対する被毒の原因となり、その硬化性を低下させる場合があるが、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、主剤であるオルガノポリシロキサンおよび架橋剤を含む組成が感熱紙に最適化されているので、これらの感熱発色層上でも、低温かつ短時間で硬化し、感熱発色層の発色ないし変色を起こしにくいという利点を有する。
【0056】
上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる剥離層は、上記の感熱発色層上に形成してよいが、感熱発色層上にさらに、任意の中間層を設け、その上に上記の剥離層を形成してもよい。本発明の感熱紙における中間層は、剥離層の構成成分などの浸透性を防止して、感熱発色層の意図しない発色を防止し、さらに最表面である剥離層の光沢性を高める機能を有するものであってもよい。また、感熱発色層の発色/印字を見易くするために、中間層は透明性の高いものが使用される。この中間層は、上記の感熱発色層で説明した塗工方法と同様の方法で、形成することができる。この中間層の塗工量は、固形分で1.0~10.0g/m2、望ましくは2.0~7.0g/m2で形成することができる。
【0057】
本発明の感熱紙における任意の中間層は、水溶性樹脂を主成分として構成してもよい。その水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、澱粉、変性澱粉、アラビアゴム、ゼラチン、カゼイン、キトサン、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアマイド、ポリエステル樹脂、スチレン-アクリル酸エステル共重合樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合樹脂、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合樹脂、イソプロピレン-無水マレイン酸共重合樹脂等が挙げられる。
【0058】
また、感熱発色層を有する基材として、市販品を用いてもよい。このような基材紙として、例えば、日本製紙社製の「サーマル」「NPiサーマル」シリーズ(例えば、TP50KSシリーズ、TP55KJシリーズ、TP60KSシリーズ、TP77KSシリーズ、TP78KSシリーズ、TF50KSシリーズ、TF58KSシリーズ、TF77KSシリーズなど)、王子製紙社製のPDシリーズ、KLTシリーズなど、リコー株式会社のサーマルラベル/サーマルペーパー150LAシリーズ、135LAシリーズ、PDシリーズ、150LHBシリーズ、150LCSシリーズ、150TABシリーズ等が挙げられる。これらの表面に本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる剥離層を形成した感熱紙および感熱記録ラベルは、本発明の範囲に包含される。
【0059】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の感熱紙上(具体的には、感熱発色層上または感熱発色層上に形成された中間層上)への塗工方法は、公知の任意の方法を用いて行うことができるが、例えば、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、およびダイコート法などを用いることができる。
【0060】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を感熱紙上に塗工して硬化させる場合、硬化したオルガノポリシロキサン組成物の層の厚さは特に限定されないが、0.01~3μmであることが好ましく、0.03~1μmであることがさらに好ましい。感熱紙の硬化したオルガノポリシロキサン組成物の層の厚さが0.01μm未満の場合、感熱紙の剥離層として十分な機能を示さないおそれがある。一方、感熱紙の上の硬化したオルガノポリシロキサン組成物の層の厚さが3μmを超える場合、得られる感熱紙をロール状に巻き取ったときにブロッキングが発生するおそれがある。
【0061】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を感熱紙上に塗工して硬化させる場合、感熱紙の感熱発色層の発色ないし変色を防止するために、硬化温度は60~120℃で範囲であることが好ましく、上記の感熱発色層が実質的に発色または変色しない温度、65~110℃、70~100℃の範囲で選択することが特に好ましい。また、硬化時間についても適宜選択可能であるが、上記の温度範囲において、15~90秒の範囲で選択することが好ましく、20~75秒の範囲であることが特に好ましい。なお、高エネルギー線硬化、例えば紫外線硬化を併用することで、より低温かつ短時間の硬化条件を選択可能であり、感熱紙の製造上、より好ましい。一方、120℃を超える高温または90秒以上の長時間の加熱時間を選択すると、感熱発色層の発色ないし変色が発生しやすくなり、感熱紙の品質が劣化する。さらに、生産コストやサイクルタイムの増加に繋がるため、工業生産上、好ましくない。
【0062】
好適には、本発明にかかる感熱紙またはそれを含むラベルは、
工程(I):感熱発色層を備えた基材上に、本発明の感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を塗布する工程、および
工程(II):基材上で、感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を上記の感熱発色層が実質的に発色または変色しない温度、好適には、70~100℃で硬化させ、剥離層を形成する工程
を備えた製造法により得ることができる。ここで、塗布方法、感熱発色層を備えた基材である感熱紙の構成等は上記の通りであり、工程(II)における硬化条件は前記の範囲でさらに好ましい範囲を設計することが可能である。
【0063】
同様に、本発明にかかる感熱紙またはそれを含むラベルは、
工程(I´):感熱発色層を備えた基材上に、上記の成分(E)を含む感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を塗布する工程、および
工程(II´):基材上で、感熱紙用硬化性オルガノポリシロキサン剥離剤組成物を、加熱およびエネルギー線の組み合わせにより硬化させ、剥離層を形成する工程
を備えた製造法により得ることができる。ここで、塗布方法、感熱発色層を備えた基材である感熱紙の構成等は上記の通りであり、工程(II)における硬化条件は前記の範囲でさらに好ましい範囲を設計することが可能である。
【0064】
本発明にかかる感熱紙またはそれを含むラベルは、感熱記録ラベルシ-ト、とくにライナーレス感熱記録ラベルシートとして用いることができる。これらのラベルは、感熱紙を構成するシート状基材の一方の面に感熱発色層およびその上層に形成された本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる剥離層を備え、他方の面にシリコーン系接着剤、アクリル系接着剤等の任意の接着剤からなる感圧接着層を備えることが好ましく、さらに、前記の感圧接着層に対向する他の剥離面を有する積層体の形態を有することが好ましい。このような感熱記録ラベルシ-トは、感熱紙表面に本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる剥離層を備えることでロール状に巻き取った場合に滑らかに引き出して展開し、サーマルヘッドにより印字/記録を行うことができ、印字後に当該感圧接着層を備えた感熱記録ラベルを積層体の基材テープから引き剥がして所望の箇所に貼付してもよく、感圧接着層を備えたライナーレスのラベルであって、感熱紙表面の剥離面から直接引き剥がされて所望の箇所に貼付してもよい。本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる剥離層を用いることで、感熱記録ラベルシ-トの感熱発色層の発色ないし変色の問題を生じることなく、ロール状に巻き取り、使用時には滑らかに引き出して印字・記録が可能なライナーレス感熱記録ラベルシートを提供できる。
【0065】
本発明にかかる感熱紙は、感熱紙を構成するシート状基材に粘着層や感圧接着層を設けることなく、通常の感熱記録紙として用いてもよいことは言うまでもない。
【0066】
上記の感熱紙またはそれを含むラベルは、特に小型のサーマルヘッドを用いることでコンパクト化が容易であり、安価であり保守および運用が容易であることなどの理由から、プリンタ、ファクシミリ、自動券売機、科学計測機等の記録媒体/印刷媒体として用いてもよく、POSラベル、CAD、CRT医療画像用等の各種プリンターの出力媒体、ガス検針や検品、食品用ラベル等に用いるハンディターミナル記録機の媒体として好適に用いることができる。
【実施例】
【0067】
以下に本発明の実施例を比較例とともに示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の例において、量を示す「部」は質量部を意味する。また、ビニル(CH2=CH-)部分とは、ケイ素原子に結合したアルケニル基中の炭素-炭素二重結合を含む部位であるビニル(CH2=CH-)基部分を表し、分子量全体に占める当該ビニル部分の含有量を質量%で表わし、当該アルケニル基がビニル基である場合、単に「ビニル基含有量」という。粘度は25℃において測定した値である。可塑度の測定方法は上述したとおりであり、粘度の測定は、デジタル表示B型回転粘度計(芝浦システム株式会社製のビスメトロンVDA2型)を使用して行った。また、硬化性オルガノポリシロキサン組成物からなる硬化物の層の剥離抵抗値(剥離力)は以下に示す方法によって測定した。
【0068】
[硬化層の形成方法]
硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、印刷適正試験機[テスター産業株式会社;RI-2]を用いて市販の感熱紙(株式会社リコー製、サーマルペーパー135LA-1)表面に、固形分換算量で1.00g/m2となる量で塗工した。塗工後に、上記組成物が塗工された基材を、熱風循環式オーブン中で各表に示す条件で加熱処理または加熱後に紫外線照射することにより、感熱紙表面にオルガノポリシロキサンの硬化層を形成させた。
【0069】
[硬化性評価]
各組成物を上記同様に市販の感熱紙(株式会社リコー製、サーマルペーパー135LA-1)上に印刷適正試験機[テスター産業株式会社;RI-2]を用いて塗工し、80℃、90℃、100℃および110℃の各温度で30秒間加熱処理を行い、実施例2についてはさらに、紫外線照射を行った後、各硬化層皮膜形成の判定は、皮膜表面を指で強く5回(5往復)こすり、以下の基準によりくもり(スミヤー)の有無を目視により判定した。
○:皮膜表面を指で擦った後も、皮膜表面にくもり(スミヤー)が認められない
△:皮膜表面を指で擦った後、皮膜表面に僅かなくもり(スミヤー)が認める
×:皮膜表面を指で擦った後、皮膜表面にくもり(スミヤー)が認める
[ポットライフ:40℃における可使時間]
混合後の各組成物を40℃で放置し、組成物全体がゲル化するまでの時間を測定した。4時間以上の組成物がゲル化しなければ、可使時間として実用上十分として○とし、組成物がゲル化するまで1時間以下の場合は可使時間が不十分として、×と評価した。
[剥離力評価:初期剥離力(1日養生)および経時剥離力(1週間養生)]
実施例又は比較例の無溶剤型剥離性硬化皮膜形成性シリコーン組成物を、印刷適正試験機[テスター産業株式会社;RI-2]を用いて市販の感熱紙(株式会社リコー製、サーマルペーパー135LA-1)にシロキサン換算で1.0g/m2となる量塗工した後、100℃で30秒硬化させて硬化皮膜を得た。これをさらに25℃、湿度60%の条件下で1日養生させた後、硬化皮膜面にアクリル系エマルジョン型粘着剤[東洋インキ(株)製、商品名オリバインBPW6116A]をウェット厚が100μmとなるようにアプリケーターを用いて均一に塗布し、100℃で2分乾燥した。次いでこれに貼り合せ紙を貼り合せた後、20g/cm2の荷重をかけて、25℃、湿度60%の条件下で1日放置した。次に引張り試験機を用いて、貼り合せ紙を180°方向に0.3m/分の速度で引っ張ったときの剥離力を測定した結果を初期剥離力として評価した。
一方、上記同様に硬化皮膜を得て、これをさらに25℃、湿度60%の条件下で1週間養生させた後、上記同様に引張り試験機を用いて剥離力を測定した結果を経時剥離力として評価した。なお、試料幅はすべて5cmとし、上記の硬化性評価において硬化不良と評価される場合は剥離力の測定を行わないものとした。
[感熱紙の表面発色性評価]
市販の感熱紙(株式会社リコー製、サーマルペーパー135LA-1)表面に、上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を塗工した後、各硬化条件で一定時間(30秒間)加熱した後の感熱紙の発色の有無を以下の基準で評価した。
発色無し(○):加熱後に感熱紙の発色が確認できなかった(白色)
発色有り(●):加熱後に感熱紙表面が薄く黒色に発色し、白色紙がグレーになった
なお、結果は実施例/比較例に用いた組成物で共通であり、感熱紙の加熱温度および加熱時間のみに依存する結果であったので、表1の左側にまとめて示した。本試験条件においては、110℃-30秒の加熱では、感熱紙の発色が発生するので、硬化条件として好ましくない。
[剥離層の密着性評価]
上記の[硬化性評価]同様にして、感熱紙表面にオルガノポリシロキサンの硬化層(=剥離層)を形成させ、表2に示す各条件において、剥離層の感熱紙への密着性を評価した。密着性は、皮膜表面を指で強く5回(5往復)こすり、皮膜の脱落(ラブオフ)の有無を目視で判定した。
○:感熱紙からの剥離層の脱落なし
Δ:感熱紙からの剥離層の脱落が僅かに生じる
×:感熱紙からの剥離層の脱落が生じる
【0070】
[実施例1] 組成物1
(A)分子鎖両末端および側鎖にヘキセニル基を有するポリジメチルシロキサン(粘度200mPa・s、ヘキセニル基中のビニル(CH2=CH-)部分の含有量 1.15質量%) 93.76部、(B1-1)粘度25mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルメチルハイドロジェンポリシロキサン 3.00部、(B1-2)粘度20mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルメチルハイドロジェンポリシロキサン 3.00部、(C)塩化白金酸・1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体(白金金属含有率0.6質量%)を白金金属量が全組成物中195、260ppmとなる量、(D1)1-エチニル-1-シクロヘキサノール(ETCH) 0.23部およびメチル(トリス(1,1-ジメチル-2-プロピニロキシ))シラン 0.01部を均一に混合し、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。各白金量の組成物について、熱風循環式オーブン中で表1に示す硬化温度および硬化時間で感熱紙上に硬化層を形成させ、その硬化性等を評価した結果を表1に示した。なお、組成物1において(A)成分中のビニル部分に対する(B1-1)および(B1-2)成分中のケイ素原子結合水素原子の物質量比(=SiH/Vi比)は、1.95である。
【0071】
[実施例2] 組成物2
上記の組成物1に、さらに、(E)ジエトキシアセトフェノン 0.01部を添加配合したほかは実施例1と同様にして、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。各白金量の組成物について、表1に示す硬化温度および硬化時間で感熱紙上に硬化層を形成させ、その硬化性、表1に示した。ただし、組成物2については、紫外線硬化性を有するため、熱風循環式オーブン中で表1に示す硬化温度および硬化時間で感熱紙上に硬化層を形成させ、さらに、紫外線照射(アイグラフィックス(株)アイグランデ、照射エネルギー全量:110mJ/cm2)することにより、感熱紙上に硬化層を形成させ、その硬化性等を評価した結果を表1に示した。組成物2のSiH/Vi比は組成物1と同様に、1.95である。
【0072】
[比較例1] 比較組成物1
成分(A)に代えて、(AX)分子鎖両末端および側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン(粘度200mPa・s、ビニル(CH2=CH-)基の含有量 1.20質量%) 93.76部を用い、かつ、成分(C)について白金金属量が全組成物中195、260、325ppmとなる量を配合した他は実施例1と同様にして、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。各白金量の組成物について、熱風循環式オーブン中で表1に示す硬化温度および硬化時間で感熱紙上に硬化層を形成させ、その硬化性等を評価した結果を表1に示した。なお、比較組成物1において(AX)成分中のビニル部分に対する(B1-1)および(B1-2)成分中のケイ素原子結合水素原子の物質量比(=SiH/Vi比)は、1.96である。
【0073】
[比較例2] 比較組成物2
成分(A)に代えて、(AX)分子鎖両末端および側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン(粘度200mPa・s、ビニル(CH2=CH-)基の含有量 1.20質量%) 90.76部を用い、(B1-1)粘度25mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルメチルハイドロジェンポリシロキサン 4.50部、(B1-2)粘度20mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルメチルハイドロジェンポリシロキサン 4.50部を配合し、かつ、成分(C)について白金金属量が全組成物中195、260、325ppmとなる量を配合した他は実施例1と同様にして、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得た。各白金量の組成物について、熱風循環式オーブン中で表1に示す硬化温度および硬化時間で感熱紙上に硬化層を形成させ、その硬化性等を評価した結果を表1に示した。なお、比較組成物2において(AX)成分中のビニル部分に対する(B1-1)および(B1-2)成分中のケイ素原子結合水素原子の物質量比(=SiH/Vi比)は、3.00である。
【0074】
【0075】
[実施例1~2および比較例1~2の総括]
感熱紙の発色の有無から、感熱紙上に硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いて剥離層を形成する場合、硬化時間30秒において、110℃未満の温度を採用する必要があり、これ以上の温度で硬化しても本発明の課題を有効に解決することができない。ここで、実施例1および実施例2においては、白金(Pt)触媒量195ppm, 260ppmのいずれにおいても、100℃以下の低温で感熱紙上に剥離層を形成することができ、かつ、剥離力が260~360mN/5cmの範囲にあり、比較的軽い剥離力を呈し、かつた。また、当該組成物は、40℃において4時間以上ゲル化せず、実用上十分なポットライフを有する。
【0076】
一方、比較例1においては、100℃以下の低温で感熱紙上に剥離層を形成することができなかった。また、比較例2においては、白金(Pt)触媒量を325ppmに設計することで100℃以下の低温で感熱紙上に剥離層を形成することができたが、初期剥離力が950mN/5cmと非常に重い剥離力を呈し、経時で剥離力が大きく変化してしまうものであった。さらに、当該組成物は、40℃において1時間以内にゲル化してしまうため、工業生産過程における取扱作業性に著しく劣る。以上の理由から、比較例2の組成物は、白金(Pt)触媒量を325ppmに設計したとしても、感熱紙に用いる剥離剤組成物として不適当であった。
【0077】
[実施例3-1] 組成物3-1
上記の組成物1に、さらに、(B2)粘度200mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルメチルハイドロジェンポリシロキサン 0.50部を加えたものを組成物3-1とした。なお、組成物1において(A)成分中のビニル部分に対する(B1)~(B3)成分中のケイ素原子結合水素原子の物質量比(=SiH/Vi比)は、2.16である。
【0078】
[実施例3-2] 組成物3-2
上記の組成物1に、さらに、(B2)粘度200mPa・sの分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルメチルハイドロジェンポリシロキサン 1.0部を加えたものを組成物3-1とした。なお、組成物1において(A)成分中のビニル部分に対する(B1)~(B3)成分中のケイ素原子結合水素原子の物質量比(=SiH/Vi比)は、2.36である。
【0079】
上記の組成物1、組成物3-1、組成物3-2を印刷適正試験機[テスター産業株式会社;RI-2]を用いて市販の感熱紙(株式会社リコー製、サーマルペーパー135LA-1)にシロキサン換算で1.0g/m2となる量塗工し、熱風循環式オーブン中で100℃で30秒間加熱して、感熱紙上に当該組成物を硬化させてなる剥離層を備えた感熱紙を得た。なお、当該感熱紙に発色/変色は見られなかった。これらの剥離層を備えた感熱紙について、各条件において剥離層の密着性評価を行った結果を表2に示す。
【0080】
【0081】
[実施例1、実施例3-1、3-2の総括]
実施例1により得られた剥離層を備えた感熱紙は、23℃、湿度80%の条件では十分な密着性を備えていたが、より過酷な40℃、湿度90%の条件では日数の経過に従い、密着不良を生じる場合がある。しかしながら、(B2)成分を更に含む実施例3-1、3-2においては、40℃、湿度90%で10日間経過しても良好な密着性を有しており、(B2)成分の使用により、より優れた密着性が実現可能であることを確認した。