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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-31
(45)【発行日】2023-02-08
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20230201BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
H01L21/30 541B
H01L21/30 541Q
H01J37/305 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019074110
(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公開番号】P2020174084
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】日名田 暢
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-127772(JP,U)
【文献】特開昭54-114978(JP,A)
【文献】特開2013-120833(JP,A)
【文献】特開平06-084492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0322190(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に照射する荷電粒子ビームを出射する照射部と、
前記試料を載置可能なステージと、
第1の開口部を有する第1の部分と、前記第1の部分の前記ステージの側に固定され第2の開口部を有する第2の部分とを有し、前記第2の部分の前記照射部の側の一部が前記第1の部分と離間し、前記第1の部分の前記第1の開口部の内端部の厚さより、前記第1の開口部の内端と前記第2の部分との間隔が大きく、前記照射部より出射された前記荷電粒子ビームを成形するアパーチャと、
を備え
前記第1の開口部の径より前記第1の部分の側の前記第2の開口部の径が大きく、前記第1の開口部の径より前記第1の部分の側と反対側の前記第2の開口部の径が大きく、前記第1の開口部の径より前記第1の部分の側と前記第1の部分の側と反対側との間の前記第2の開口部の径が大きい、荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記間隔が100μm以上である請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記第2の部分の荷電粒子ビーム透過率が前記第1の部分の荷電粒子ビーム透過率よりも小さい請求項1又は請求項2記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
前記間隔と、前記第2の開口部の端部の前記第1の開口部の端部からの後退量とのアスペクト比は50以上である、請求項1ないし請求項3いずれか一項記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
第1の開口部を有する第1の部分と、前記第1の部分に固定され第2の開口部を有する第2の部分とを有し、
前記第2の部分の前記第1の部分と対向する面の一部が前記第1の部分と離間し、前記第1の部分の前記第1の開口部の内端部の厚さより、前記第1の開口部の内端と前記第2の部分との間隔が大きく、
前記第1の開口部の径より前記第1の部分の側の前記第2の開口部の径が大きく、前記第1の開口部の径より前記第1の部分の側と反対側の前記第2の開口部の径が大きく、前記第1の開口部の径より前記第1の部分の側と前記第1の部分の側と反対側との間の前記第2の開口部の径が大きい、荷電粒子ビームを成形するアパーチャ。
【請求項6】
前記間隔と、前記第2の開口部の端部の前記第1の開口部の端部からの後退量とのアスペクト比は50以上である、請求項5記載の荷電粒子ビームを成形するアパーチャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの高集積化に伴い、半導体デバイスの回路パターンの微細化が進んでいる。回路パターンの微細化を実現する上で、半導体基板上に回路パターンを形成するリソグラフィ技術が重要となる。リソグラフィ技術を用いて微細な回路パターンを形成するためには、高精度の原画パターン(レチクル或いはマスクともいう。)が必要となる。電子ビーム描画は、本質的に優れた解像性を有しており、高精度の原画パターンの製造に用いられる。
【0003】
電子ビーム描画では、試料に照射する電子ビームを成形するために、電子ビームを部分的にさえぎるアパーチャが用いられる。電子ビームの成形精度を向上させるため、アパーチャの厚さを薄くし、アパーチャの開口部の端部の加工精度を向上させる。
【0004】
しかし、アパーチャの厚さを薄くすると、アパーチャを透過する電子の量が多くなる。アパーチャを透過した電子は散乱し、例えば、偏向器等の部材に照射され不純物の焼き付きを引き起こす。例えば、偏向器に不純物の焼き付きが生じると、不純物の焼き付きが生じた部分に電子がチャージアップする。偏向器に電子がチャージアップすると、電子ビームがドリフトし、描画の位置精度が劣化するという問題が生じる。
【0005】
特許文献1には、第1の部材に、第1の部材よりも電子ビーム遮蔽能力の高い第2の部材を積層させたアパーチャを用い、アパーチャを透過する電子の量を低減する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-120943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、アパーチャを透過する電子の量を低減することが可能な荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の荷電粒子ビーム描画装置は、試料に照射する荷電粒子ビームを出射する照射部と、前記試料を載置可能なステージと、第1の開口部を有する第1の部分と、前記第1の部分の前記ステージの側に固定され第2の開口部を有する第2の部分とを有し、前記第2の部分の前記照射部の側の一部が前記第1の部分と離間し、前記第1の部分の前記第1の開口部の内端部の厚さより、前記第1の開口部の内端と前記第2の部分との間隔が大きく、前記照射部より出射された前記荷電粒子ビームを成形するアパーチャと、を備え
前記第1の開口部の径より前記第1の部分の側の前記第2の開口部の径が大きく、前記第1の開口部の径より前記第1の部分の側と反対側の前記第2の開口部の径が大きく、前記第1の開口部の径より前記第1の部分の側と前記第1の部分の側と反対側との間の前記第2の開口部の径が大きい、
【0009】
上記態様の荷電粒子ビーム描画装置において、前記間隔が100μm以上であることが好ましい。
【0010】
上記態様の荷電粒子ビーム描画装置において、前記第2の部分の荷電粒子ビーム透過率が前記第1の部分の荷電粒子ビーム透過率よりも小さいことが好ましい。
【0011】
上記態様の荷電粒子ビーム描画装置において、前記第1の開口部の径より前記第2の開口部の径が大きいことが好ましい。
【0012】
本発明の一態様のアパーチャは、第1の開口部を有する第1の部分と、前記第1の部分に固定され第2の開口部を有する第2の部分とを有し、前記第2の部分の前記第1の部分と対向する面の一部が前記第1の部分と離間し、前記第1の部分の前記第1の開口部の内端部の厚さより、前記第1の開口部の内端と前記第2の部分との間隔が大きい、荷電粒子ビームを成形するアパーチャである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アパーチャを透過する電子の量を低減することが可能な荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態の荷電粒子ビーム描画装置の構成を示す概念図。
図2】第1の実施形態の可変成形型電子描画の動作の説明図。
図3】第1の実施形態のアパーチャの構造を示す模式図。
図4】第1の比較形態のアパーチャを用いた場合の問題点の説明図。
図5】第1の実施形態のアパーチャの作用及び効果の説明図。
図6】第2の比較形態のアパーチャを用いた場合の問題点の説明図。
図7】第1の実施形態のアパーチャの効果を示す表。
図8】第2の実施形態のアパーチャの構造を示す模式図。
図9】第3の実施形態のアパーチャの構造を示す模式図。
図10】第4の実施形態のアパーチャの構造を示す模式図。
図11】第4の実施形態のアパーチャの拡大模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。以下、実施形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。ただし、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでもかまわない。
【0016】
本明細書中、描画データとは、試料に描画するパターンの基データである。描画データはCAD等で設計者により生成された設計データを、描画装置内での演算処理が可能となるようにフォーマットを変換したデータである。図形等の描画パターンが、例えば、図形の頂点等の座標で定義されている。
【0017】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の荷電粒子ビーム描画装置は、試料に照射する荷電粒子ビームを出射する照射部と、試料を載置可能なステージと、第1の開口部を有する第1の部分と、第1の部分に対してステージの側に固定され第2の開口部を有する第2の部分とを有し、第1の部分と第2の部分との間の一部が離間し、第2の開口部の端部が第1の開口部の端部に対して後退し、第1の部分の第1の開口部の端部の厚さよりも第1の部分と第2の部分の間隔が大きく、試料に照射する荷電粒子ビームを成形するアパーチャと、を備える。
【0018】
また、第1の実施形態の荷電粒子ビームを成形するアパーチャは、第1の開口部を有する第1の部分と、第1の部分に固定され第2の開口部を有する第2の部分とを有し、第1の部分と第2の部分との間の一部が離間し、第1の部分の第2の開口部の端部が第1の開口部の端部に対して後退し、第1の開口部の端部の厚さよりも第1の部分と第2の部分の間隔が大きい。
【0019】
第1の実施形態の荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャは、上記構成を備えることにより、アパーチャを透過する電子の量を低減することが可能となる。よって、例えば、荷電粒子ビームのドリフト等、荷電粒子ビーム描画装置の特性変動が抑制される。
【0020】
以下、荷電粒子ビーム描画装置が、マスク描画装置である場合を例に説明する。
【0021】
図1は、第1の実施形態の荷電粒子ビーム描画装置の構成を示す概念図である。
【0022】
図1において、マスク描画装置100(荷電粒子ビーム描画装置)は、描画部150と制御部160を備えている。マスク描画装置100は、荷電粒子ビーム描画装置の一例となる。マスク描画装置100は、試料101に所望するパターンを描画する。
【0023】
描画部150は、電子鏡筒102、描画室103を有している。電子鏡筒102内には、電子銃201(照射部)、照明レンズ202、ブランキング偏向器212、ブランキングアパーチャ214、第1のアパーチャ203、投影レンズ204、偏向器205、第2のアパーチャ206(アパーチャ)、対物レンズ207、及び、偏向器208が配置されている。
【0024】
また、描画室103内には、移動可能に配置されたXYステージ105(ステージ)が配置されている。XYステージ105上には、試料101を載置することが可能である。試料101は、例えば、ウェハにパターンを転写する露光用のマスク基板である。マスク基板は、例えば、まだ何も描画されていないマスクブランクスである。
【0025】
制御部160は、駆動回路108、磁気ディスク装置109、偏向制御回路110、デジタルアナログ変換機112(DAC)、デジタルアナログ変換機114(DAC)、デジタルアナログ変換機116(DAC)、制御計算機120、及び、メモリ121を有している。
【0026】
制御計算機120には、磁気ディスク装置109に記憶された描画データが入力される。制御計算機120に入力される情報、演算処理中の情報、及び、演算処理後の情報は、例えば、メモリ121に記憶される。
【0027】
制御計算機120には、メモリ121、偏向制御回路110、磁気ディスク装置109が、図示していないバスを介して接続されている。偏向制御回路110は、DAC112、DAC114、DAC116に接続される。DAC112は、ブランキング偏向器212に接続されている。DAC114は、偏向器205に接続されている。DAC116は、偏向器208に接続されている。
【0028】
図1では、第1の実施形態を説明する上で必要な構成部分について記載している。マスク描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成が含まれることは言うまでもない。
【0029】
図2は、第1の実施形態の可変成形型電子描画の動作の説明図である。以下、図1図2を参照しつつ、マスク描画装置100による描画方法について説明する。
【0030】
電子銃201から電子ビーム200が出射される。電子銃201は、照射部の一例である。電子銃201から出た電子ビーム200は、照明レンズ202により、第1のアパーチャ203全体を照明する。
【0031】
第1のアパーチャ203には、電子ビーム200を成形するための、開口部411が形成されている。開口部421の形状は、例えば、図2に示すように、長方形である。第1のアパーチャ203により、電子ビーム200を長方形に成形する。
【0032】
第1のアパーチャ203を通過した第1のアパーチャ像の電子ビーム200は、投影レンズ204により第2のアパーチャ206上に投影される。
【0033】
第2のアパーチャ206には、開口部411を通過した電子ビーム200を所望の形状に成形するための開口部421が形成されている。開口部421の形状は、特に限定されるものではない。例えば、図2に示すように、長方形であっても構わない。また、例えば、長方形以外の多角形であっても構わない。また、例えば、複数の多角形を組み合わせた形状であっても構わない。
【0034】
第2のアパーチャ206上での第1のアパーチャ像の位置は、偏向器205(図1)によって偏向制御される。そして、開口部421の所定の一部を通過して、ビーム形状と寸法を変化させることができる。その結果、電子ビーム200は成形される。
【0035】
第2のアパーチャ206を通過した第2のアパーチャ像の電子ビーム200は、対物レンズ207(図1)により焦点を合わせ、偏向器208により偏向される。その結果、電子ビーム200は、連続移動するXYステージ105上の試料101の所望する位置に照射される。
【0036】
XYステージ105の移動は、駆動回路108によって駆動される。偏向器205の偏向電圧は、偏向制御回路110及びDAC114によって制御される。偏向器208の偏向電圧は、偏向制御回路110及びDAC116によって制御される。
【0037】
開口部411と開口部421との両方を通過できる電子ビームの形状が、試料101の描画領域に描画される。上記のような、開口部411と開口部421との両方を通過させ、任意形状を作成する方式を可変成形方式という。
【0038】
試料101上の電子ビーム200が、所望する照射量を試料101に入射させる照射時間tに達した場合、以下のようにブランキングする。すなわち、試料101上に必要以上に電子ビーム200が照射されないようにするため、例えば静電型のブランキング偏向器212で電子ビーム200を偏向すると共にブランキングアパーチャ214で電子ビーム200をカットする。これにより、電子ビーム200が試料101面上に到達しないようにする。ブランキング偏向器212の偏向電圧は、偏向制御回路110及びDAC112によって制御される。
【0039】
ビームON(ブランキングOFF)の場合、電子銃201から出た電子ビーム200は、図1における実線で示す軌道を進むことになる。一方、ビームOFF(ブランキングON)の場合、電子銃201から出た電子ビーム200は、図1における点線で示す軌道を進むことになる。
【0040】
また、電子鏡筒102内及び描画室103内は、図示していない真空ポンプにより真空引きされ、大気圧よりも低い圧力となっている。
【0041】
図3は、第1の実施形態のアパーチャの構造を示す模式図である。図3(a)が上面図、図3(b)が図3(a)のAA’断面図である。
【0042】
第1の実施形態では、例えば、図1図2の第2のアパーチャ206に、図3のアパーチャ10が適用される。
【0043】
アパーチャ10は、第1の部分11と第2の部分12の積層構造を有する。第1の部分11は第1の開口部21を有し、第2の部分12は第2の開口部22を有する。第1の開口部21及び第2の開口部22の形状は、長方形と六角形を組み合わせた形状である。
【0044】
第2の部分12は、第1の部分11に対し、XYステージ105の側に位置する。第2の部分12は、第1の部分11に対し、XYステージ105の側に固定される。第1の部分11は、第2の部分12に対し、電子銃201の側に位置している。
【0045】
第1の部分11の上面に、電子ビームが照射される構成となっている。第1の開口部21及び第2の開口部22を電子ビームが通過し、電子ビームが成形される。
【0046】
第2の部分12は、第1の部分11を透過した電子の一部を遮蔽する機能を有する。
【0047】
第1の部分11と第2の部分12は、例えば、同一の材料で形成される。第1の部分11と第2の部分12は、例えば、シリコンで形成されている。
【0048】
シリコンを材料として用いることにより、加工の際に既存の半導体プロセスを適用できる。また、不純物の量を低く抑えられる。しかし、例えば、シリコンナイトライド、シリコンカーバイド、シリコンジャーマナイド等の半導体や、金属又は金属化合物を、材料として用いることも可能である。
【0049】
第1の部分11と第2の部分12は、例えば、接着層を用いて貼り合わせられている。第1の部分11と第2の部分12は、一体成型されていても構わない。
【0050】
第1の部分11と第2の部分12がシリコンの場合、第1の部分11の、第1の開口部21の端部E1の厚さt1は、例えば、1μm以上10μm以下である。第2の部分12の第2の開口部22の端部E2の厚さt2は、例えば、10μm以上100μm以下である。
【0051】
第2の部分12の電子ビーム透過率は、第1の部分11の電子ビーム透過率よりも小さい。言い換えれば、同一のエネルギー、同一の量の電子を照射した場合、第2の部分12を透過する電子の量は、第1の部分11を透過する電子の量よりも少ない。第1の部分11と第2の部分12が同一の材料の場合、第2の部分12の厚さt2は、第1の部分11の厚さt1よりも厚い。
【0052】
図3に示すように、第2の部分12の第2の開口部22の端部E2の位置が、第1の部分11の第1の開口部21の端部E1の位置に対し、第1の方向に後退している。いいかえれば、第2の開口部22の径は、第1の開口部21の径よりも大きい。例えば、アパーチャ10の上面方向から見て、第2の開口部22は、第1の開口部21を囲っている。例えば、第1の開口部21の端部E1と第2の開口部22の端部E2が重ならないように、第1の部分11と第2の部分12は積層されている。
【0053】
第2の開口部22の端部E2の第1の開口部21の端部E1からの後退量d1は、例えば、0.5μm以上10μm以下である。
【0054】
図3に示すように、第1の部分11と第2の部分12との間の一部が離間している。第2の部分12の電子銃201(照射部)の側の一部が第1の部分11と離間している。第2の部分12の第1の部分11と対向する面の一部が第1の部分11と離間している。第1の部分11と第2の部分12との間に空隙が設けられる。空隙内に、第1の部分11を透過した電子の一部を閉じ込め、アパーチャ10を透過する電子の量を低減させる。
【0055】
第1の部分11の第1の開口部21の端部E1の厚さt1よりも、第1の部分11と第2の部分12の間隔d2が大きい。第1の部分11の第1の開口部21の内端部の厚さより、第1の開口部21の内端と第2の部分12との間隔d2が大きい。間隔d2は、例えば、50μm以上5mm以下である。
【0056】
なお、第1の開口部21の内端とは、第1の部分11の第1の開口部21の側の端部を意味する。第1の開口部21の内端は、第1の開口部21の端部E1に相当する。また、第1の部分11の第1の開口部21の内端部とは、第1の開口部21の内端近傍の第1の部分11を意味する。
【0057】
第2の開口部22の端部E2が第1の開口部21の端部E1に対して後退する方向を第1の方向とした場合に、第2の開口部22の端部E2から第1の部分11までの第1の方向の距離dxの最小値は、例えば、第1の部分11と第2の部分12の間隔d2の2分の1よりも大きく2倍よりも小さい。距離dxの最小値は、例えば、25μm以上1mm以下である。
【0058】
以下、第1の実施形態の荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャの作用及び効果について説明する。
【0059】
電子ビーム描画では、試料に照射する電子ビームを成形するために、電子ビームを部分的にさえぎるアパーチャが用いられる。電子ビームの成形精度を向上させるため、アパーチャの厚さを薄くし、アパーチャの開口部の端部の加工精度を向上させる。
【0060】
図4は、第1の比較形態のアパーチャを用いた場合の問題点の説明図である。第1の比較形態のアパーチャ90は、第1の実施形態のアパーチャ10と異なり、第2の部分12を有しない。
【0061】
図4は、アパーチャ90の開口部の端部近傍に、電子ビーム(図4中の矢印)が照射される場合を示している。アパーチャ90の厚さが薄い場合、電子ビームの一部がアパーチャ90を透過する。透過した電子は散乱し、散乱した電子の一部が下方に位置する偏向器50に照射される。
【0062】
透過した電子が偏向器50に照射されることで、例えば、不純物の焼き付きを引き起こす。偏向器50に不純物の焼き付きが生じると、例えば、不純物の焼き付きが生じた部分に電子がチャージアップする。偏向器50に電子がチャージアップすると、電子ビームがドリフトし、描画の位置精度が劣化するという問題が生じる。
【0063】
図5は、第1の実施形態のアパーチャの作用及び効果の説明図である。第1の実施形態のアパーチャ10は、第1の部分11の下に第2の部分12が固定されている。アパーチャ10は、第1の部分11と第2の部分12との間の一部が離間している。第1の部分11と第2の部分12との間に空隙が設けられる。
【0064】
図5に示すように、アパーチャ10を用いた場合、第1の部分11を透過した電子の内、開口部に対して外側に向かう電子の大部分は、第2の部分12の上面に衝突して反射される。反射された電子のエネルギーは、第1の部分11や第2の部分12との衝突を繰り返すことで減衰する。結果的に、電子はアパーチャ10の空隙内に、閉じ込められる。
【0065】
このため、第1の部分11を透過した電子が、下方に位置する偏向器50に照射されることが抑制される。したがって、例えば、偏向器50に不純物の焼き付きが生じることが抑制される。よって、例えば、描画の位置精度の劣化は抑制される。
【0066】
アパーチャ10では、第1の部分11の第1の開口部21の端部E1の厚さt1よりも、第1の部分11と第2の部分12の間隔d2が大きい。この構成により、アパーチャ10の空隙が十分大きくなり、第1の部分11を透過した電子の一部を、アパーチャ10の空隙内に、閉じ込めることが可能になる。
【0067】
図6は、第2の比較形態のアパーチャを用いた場合の問題点の説明図である。第1の比較形態のアパーチャ95は、第1の部分11と第2の部分12の間隔d2が、第1の部分11の第1の開口部21の端部E1の厚さt1以下である。すなわち、第1の部分11と第2の部分12の間隔d2が、第1の実施形態のアパーチャ10と比較して狭い。
【0068】
図6に示すように、第1の部分11と第2の部分12の間隔d2が狭いため、第1の部分11を透過した電子の内、開口部に対して外側に向かう電子の一部は、第2の部分12に衝突することなくアパーチャ95を通過する。また、第1の部分11を透過した電子の内、開口部に対して外側に向かう電子の一部は、第2の部分12の側面で反射される。
【0069】
このため、第1の部分11を透過した電子の内、開口部に対して外側に向かう電子の大部分は、第1の部分11と第2の部分12の間の空隙に閉じ込められることなく、アパーチャ95の下方へ向かう。アパーチャ95の下方へ向かった電子の一部は、例えば、アパーチャ95の下方に位置する偏向器50に照射される。
【0070】
したがって、例えば、偏向器50に不純物の焼き付きが生じる。よって、例えば、描画の位置精度の劣化が生じる。
【0071】
また、第1の部分11と第2の部分12とは固定されている。したがって、例えば、描画毎、又は、装置メンテナンス毎に、第1の部分11と第2の部分12との合わせを調整する手間が不要となる。したがって、マスク描画装置100のスループットが向上する。
【0072】
第1の部分11と第2の部分12の間隔d2は、50μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、200μm以上であることが更に好ましい。上記範囲を充足することで、第1の部分11を透過した電子の一部を、アパーチャ10の空隙内に、効果的に閉じ込めることが可能となる。
【0073】
間隔d2が広すぎる場合、例えば、アパーチャ10の製造時に、第1の部分11の第1の開口部21の端部E1と、第2の部分12の第2の開口部22の端部E2との合わせ精度を確保することが困難となる。したがって、第1の部分11と第2の部分12の間隔d2は、5mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましい。
【0074】
第2の開口部22の端部E2の第1の開口部21の端部E1からの後退量d1は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがより好ましい。上記範囲を充足することで、第1の部分11を透過した電子のうち、第2の部分12に衝突せずにアパーチャ10を通過して、開口部に対して外側に向かう電子の量を低減することが可能となる。
【0075】
第2の開口部22の端部E2の第1の開口部21の端部E1からの後退量d1は、0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることが更に好ましい。上記範囲を充足することで、アパーチャ10を製造する際に、第1の部分11の第1の開口部21の端部E1と、第2の部分12の第2の開口部22の端部E2とが重なることを抑制できる。
【0076】
第1の部分11と第2の部分12の間隔d2と、後退量d1とのアスペクト比(d2/d1)は、5以上であることが好ましく、10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましい。上記範囲を充足することで、第1の部分11を透過した電子の一部を、アパーチャ10の空隙内に、効果的に閉じ込めることが可能となる。
【0077】
図7は、第1の実施形態のアパーチャの効果を示す表である。アパーチャの開口部の端部近傍に、電子ビームを照射した場合に、アパーチャを透過した電子の内、アパーチャの下方に設けられた偏向器に照射される電子量を示す。偏向器に照射される電子量は、透過電子量として任意単位で示される。偏向器に照射される電子量は、シミュレーションにより求めている。
【0078】
第1の比較形態のアパーチャ90を用いた場合と、第1の実施形態のアパーチャ10を用いた場合のシミュレーション結果を示す。第1の実施形態のアパーチャ10については、後退量d1を10μmに固定し、間隔d2が(1)50μmと(2)500μmの2条件とした。
【0079】
図7から明らかなように、偏向器に照射される電子量は、第1の実施形態のアパーチャ10を用いることで、低減される。特に、間隔d2が500μm、すなわちアスペクト比が50の場合、透過電子量が第1の比較形態のアパーチャ90の100に対し16となる。すなわち、偏向器に照射される電子量が84%低減する。
【0080】
第2の開口部22の端部E2が第1の開口部21の端部E1に対して後退する方向を第1の方向とした場合に、第2の開口部22の端部E2から第1の部分11までの第1の方向の距離dxの最小値は、第1の部分11と第2の部分12の間隔d2の2分の1よりも大きいことが好ましく、3分の2よりも大きいことがより好ましい。
【0081】
上記範囲を充足することで、第1の部分11を透過した電子の一部を、アパーチャ10の空隙内に、効果的に閉じ込めることが可能となる。すなわち、電子が空隙内で、第1の部分11又は第2の部分12に衝突する回数を増加させ、電子のエネルギーを効果的に減衰させることが可能となる。
【0082】
距離dxの最小値は、第1の部分11と第2の部分12の間隔d2の2倍以下であることが好ましい。また、1mm以下であることが好ましい。上記範囲を充足することで、アパーチャ10の強度が保証できる。また、上記範囲を充足することで、アパーチャ10の加工が容易になる。
【0083】
第1の部分11の第1の開口部21の端部E1の厚さt1は、1μm以上であることが好ましい。上記範囲を充足することで、第1の部分11の強度が保証される。
【0084】
第1の部分11の第1の開口部21の端部E1の厚さt1は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましい。上記範囲を充足することで、アパーチャ10の第1の開口部21の端部E1の加工精度が向上し、電子ビームの成形精度が向上する。また、上記範囲を充足することで、第1の部分11の上面での電子の反射が抑制され、アパーチャ10の上方に存在する部材への反射電子の照射が抑制される。
【0085】
第2の部分12の第2の開口部22の端部E2の厚さt2は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。上記範囲を充足することで、電子が第2の部分12を透過することが抑制される。
【0086】
第2の部分12の第2の開口部22の端部E2の厚さt2は、100μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。上記範囲を充足することで、アパーチャ10の第2の開口部22の端部E2の加工精度が向上する。また、アパーチャ10の加工が容易になる。
【0087】
第1の実施形態の荷電粒子ビーム描画装置は、アパーチャの第1の部分の開口部端部を薄くすることで、開口部端部の加工精度を確保することができる。したがって、電子ビームの成形精度が向上する。また、アパーチャの第1の部分と第2の部分が離間した領域に、第1の部分を透過した電子を閉じ込めることで、アパーチャを透過する電子の量を低減することが可能となる。したがって、偏向器等の部材に照射される電子の量が抑制される。よって、荷電粒子ビーム描画装置の特性変動が抑制される。例えば、偏向器のチャージアップにより、電子ビームがドリフトし、描画の位置精度が劣化することを抑制できる。
【0088】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャは、アパーチャの第1の部分11と第2の部分12が、異なる材料で形成される点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
【0089】
図8は、第2の実施形態のアパーチャの構造を示す模式図である。図8(a)が上面図、図8(b)が図8(a)のBB’断面図である。
【0090】
アパーチャ20の第1の部分11と第2の部分12は、異なる材料で形成される。第2の部分12の電子ビーム透過率は、第1の部分11の電子ビーム透過率よりも小さい。
【0091】
第1の部分11は、例えば、シリコンで形成されている。第2の部分12は、シリコンよりも電子を透過しにくい材料、例えば、シリコンよりも原子量が大きい材料で形成されている。例えば、電子遮蔽能力が高く、描画装置内の汚染源となりにくい高融点金属が材料として用いられる。高融点金属は、例えば、モリブデン、タングステン、タンタルである。
【0092】
第1の部分11がシリコンの場合、第1の部分11の第1の開口部21の端部E1の厚さt1は、例えば、1μm以上10μm以下である。第2の部分12が高融点金属の場合、第2の部分12の第2の開口部22の端部E2の厚さt2は、例えば、1μm以上10μm以下である。
【0093】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用及び効果が実現される。また、第1の部分11よりも電子を透過しにくい材料を第2の部分12に適用することにより、第2の部分12の厚さを薄くすることが可能となる。
【0094】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャは、アパーチャの開口部の形状と、アパーチャの適用箇所とが異なる点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
【0095】
図9は、第3の実施形態のアパーチャの構造を示す模式図である。図9(a)が上面図、図9(b)が図9(a)のCC’断面図である。
【0096】
第3の実施形態では、例えば、図1図2の第1のアパーチャ203に、図9のアパーチャ30が適用される。
【0097】
アパーチャ30は、第1の部分11と第2の部分12の積層構造を有する。第1の部分11は第1の開口部21を有し、第2の部分12は第2の開口部22を有する。第1の開口部21及び第2の開口部22の形状は、長方形である。
【0098】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用及び効果が実現される。
【0099】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャは、アパーチャの第2の部分の上面に溝が設けられる点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
【0100】
図10は、第4の実施形態のアパーチャの構造を示す模式図である。図10(a)が上面図、図10(b)が図10(a)のDD’断面図である。
【0101】
アパーチャ10は、第2の部分12の上面に複数の溝60が形成されている。アパーチャ10は、第1の部分11と対向する面に複数の溝60が形成されている。複数の溝60は、第2の開口部22の第2の端部E2を囲むように形成されている。
【0102】
図11は、第4の実施形態のアパーチャの拡大模式断面図である。溝60の幅w2は、例えば、1μm以上5μm以下である。溝60の間隔sは、例えば、1μm以上5μm以下である。溝60の深さd4は、例えば、2μm以上20μm以下である。溝60のアスペクト比(d4/w)は、例えば、1以上10以下である。
【0103】
第4の実施形態のアパーチャ40によれば、第2の部分12の上面に複数の溝60を設けることにより、第1の部分11を透過した電子の一部を、アパーチャ40の空隙内に、効果的に閉じ込めることが可能となる。すなわち、電子を溝60の内面に衝突させることにより、電子のエネルギーを効果的に減衰させることが可能となる。
【0104】
第4の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用及び効果が実現される。そして、第2の部分12の上面に複数の溝を設けることにより、アパーチャを透過する電子の量を更に低減することが可能となる。
【0105】
以上、具体例を参照しつつ実施形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
【0106】
実施形態では、アパーチャに設けられる開口部が1個の場合を説明したが、アパーチャに複数の開口部を設けることも可能である。
【0107】
実施形態では、荷電粒子ビーム描画装置が、マスク描画装置である場合を例に説明したが、例えば、半導体ウェハ上にパターンを直描する荷電粒子ビーム描画装置に本発明を適用することも可能である。
【0108】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、荷電粒子ビーム描画装置を制御する制御部の構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部の構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての荷電粒子ビーム描画装置及びアパーチャは、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0109】
10 アパーチャ
11 第1の部分
12 第2の部分
20 アパーチャ
21 第1の開口部
22 第2の開口部
30 アパーチャ
40 アパーチャ
100 マスク描画装置(荷電粒子ビーム描画装置)
101 試料
105 XYステージ(ステージ)
200 電子ビーム(荷電粒子ビーム)
201 電子銃(照射部)
E1 第1の開口部の端部
E2 第2の開口部の端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11