(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】医療用バルーンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 13/00 20060101AFI20230208BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20230208BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20230208BHJP
A61L 29/02 20060101ALI20230208BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20230208BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20230208BHJP
A61L 31/02 20060101ALI20230208BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230208BHJP
C08K 5/37 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
C08L13/00
A61M25/10 502
A61L29/04 100
A61L29/02
A61L29/14
A61L31/04 110
A61L31/02
A61L31/14
C08K5/37
(21)【出願番号】P 2020539363
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2019032273
(87)【国際公開番号】W WO2020045145
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2018160653
(32)【優先日】2018-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】泊 晃平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎二
(72)【発明者】
【氏名】林 実紗
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/129547(WO,A1)
【文献】特表2013-534555(JP,A)
【文献】特開2007-229129(JP,A)
【文献】特表2016-525164(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ変性共役ジエン系重合体と、加硫剤と、キサントゲン化合物と、を含有してなる組成物を、バルーン形状に成形する工程を有することを特徴とする医療用バルーンの製造方法。
【請求項2】
前記加硫剤は硫黄系加硫剤を含む請求項1に記載の医療用バルーンの製造方法。
【請求項3】
前記組成物は、さらに活性化剤として金属酸化物または酸化物以外の典型金属化合物を含有してなる請求項1または2に記載の医療用バルーンの製造方法。
【請求項4】
前記組成物をバルーン形状に成形する工程は、ラテックスの形態である前記組成物に、バルーン形状の型を浸漬する工程であるディップ成形工程を含む、請求項1~3のいずれかに記載の医療用バルーンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用バルーンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、バルーンカテーテルやバルーン付き内視鏡などのバルーンを備えた医療用具が種々の治療や検査に用いられている。バルーンを備えた医療用具を構成するために用いられる医療用バルーンとしては、天然ゴムラテックスをディップ成形したものが広く用いられている。しかしながら、天然ゴムのラテックスは、人体に即時型アレルギー(Type I)の症状を引き起こすような蛋白質を含有するため、人体と直接接触するバルーンとしては問題がある場合があった。そのため、医療用バルーンの材料として、天然ゴムラテックスに代えて合成ゴムのラテックスを用いる検討がされてきている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、バルーンの製造にも用いることができるディップ成形用組成物として、合成ゴムである合成ポリイソプレンのラテックスに、酸化亜鉛、硫黄および加硫促進剤を配合してなるラテックス組成物が開示されている。しかしながら、この特許文献1に具体的に開示されたラテックス組成物を用いた場合には、天然ゴムに由来する蛋白質による即時型アレルギー(Type I)の発生を防止できる一方で、ディップ成形体としてのバルーンに含まれる加硫促進剤が原因で、遅延型アレルギー(Type IV)のアレルギー症状を発生させるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、即時型アレルギー(Type I)に加えて遅延型アレルギー(Type IV)の症状の発生を抑制可能である医療用バルーンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、カルボキシ変性共役ジエン系重合体と、加硫剤と、キサントゲン化合物と、を含有してなる組成物を用いて医療用バルーンを成形することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、カルボキシ変性共役ジエン系重合体と、加硫剤と、キサントゲン化合物と、を含有してなる組成物を、バルーン形状に成形する工程を有することを特徴とする医療用バルーンの製造方法が提供される。
【0008】
本発明において、前記加硫剤は硫黄系加硫剤を含むことができる。
【0009】
本発明において、前記組成物は、さらに活性化剤として金属酸化物または酸化物以外の典型金属化合物を含有していてもよい。
【0010】
本発明において、前記組成物をバルーン形状に成形する工程は、ラテックスの形態である前記組成物に、バルーン形状の型を浸漬する工程であるディップ成形工程を含むことが好ましい。
【0011】
本発明に係る医療用バルーンの製造方法で得られる医療用バルーンは、即時型アレルギー(Type I)に加えて遅延型アレルギー(Type IV)の症状の発生を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施例において医療用バルーンの成形(製造)に用いた型を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の医療用バルーンの製造方法は、カルボキシ変性共役ジエン系重合体と、加硫剤と、キサントゲン化合物と、を含有してなる組成物を、バルーン形状に成形する工程を有する。特に限定されないが、医療用バルーンの材料となる組成物を、組成物中の成分のうち、少なくともカルボキシ変性共役ジエン系重合体が分散媒としての水に分散した形態であるラテックス組成物として得て、それにバルーン形状の型を浸漬する工程であるディップ成形工程を適用することによって、目的の医療用バルーンを成形することが好適である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0014】
〔医療用バルーンの材料となる組成物〕
医療用バルーンの材料となる組成物に含有されるカルボキシ変性共役ジエン系重合体は、分子構造中にカルボキシル基を有する共役ジエン系重合体である。カルボキシ変性共役ジエン系重合体は、従来公知の手法に従って得ればよく、たとえば、共役ジエン系重合体をカルボキシル基含有化合物で変性したり、共役ジエン単量体とカルボキシル基含有単量体とを共重合したりすることによって得ることができる。
【0015】
共役ジエン系重合体
カルボキシ変性共役ジエン系重合体を得るために用いる共役ジエン系重合体としては、主たる単量体単位が共役ジエン単量体に由来する単位である重合体であれば特に限定されないが、たとえば、合成ポリイソプレン、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、ニトリル基含有共役ジエン系共重合体などが挙げられる。これらのなかでも、合成ポリイソプレン、SISなどのイソプレン単位を含有するものが好ましく、合成ポリイソプレンが特に好ましい。
【0016】
共役ジエン系重合体として合成ポリイソプレンを用いる場合には、合成ポリイソプレンは、イソプレンの単独重合体であってもよいし、イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体とを共重合したものであってもよい。合成ポリイソプレン中のイソプレン単位の含有量は、柔軟で、強度に優れる医療用バルーンが得られやすいことから、全単量体単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%(イソプレンの単独重合体)である。
【0017】
イソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、ブタジエン、クロロプレン、1,3-ペンタジエン等のイソプレン以外の共役ジエン単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;スチレン、アルキルスチレン等のビニル芳香族単量体;(メタ)アクリル酸メチル(「アクリル酸メチルおよび/またはメタクリル酸メチル」の意味であり、以下、(メタ)アクリル酸エチルなども同様。)、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;などが挙げられる。これらのイソプレンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体は、1種単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0018】
合成ポリイソプレンは、従来公知の方法、たとえばトリアルキルアルミニウム-四塩化チタンからなるチーグラー系重合触媒やn-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムなどのアルキルリチウム重合触媒を用いて、不活性重合溶媒中で、イソプレンと、必要に応じて用いられる共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体とを溶液重合して得ることができる。溶液重合により得られた合成ポリイソプレンの重合体溶液は、そのまま、合成ポリイソプレンラテックスの製造に用いてもよいが、該重合体溶液から固形の合成ポリイソプレンを取り出した後、有機溶媒に溶解して、合成ポリイソプレンラテックスの製造に用いることもできる。なお、合成ポリイソプレンラテックスは、後述するように、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスの製造に用いることができる。
上述した方法により合成ポリイソプレンの重合体溶液を得た場合には、重合体溶液中に残った重合触媒の残渣などの不純物を取り除いてもよい。また、重合中または重合後の溶液に、後述する老化防止剤を添加してもよい。また、市販の固形の合成ポリイソプレンを用いることもできる。
【0019】
合成ポリイソプレン中のイソプレン単位としては、イソプレンの結合状態により、シス結合単位、トランス結合単位、1,2-ビニル結合単位、3,4-ビニル結合単位の4種類が存在する。得られる医療用バルーンの強度向上の観点から、合成ポリイソプレンに含まれるイソプレン単位中のシス結合単位の含有割合は、全イソプレン単位に対して、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上である。
【0020】
合成ポリイソプレンの重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、好ましくは10,000~5,000,000、より好ましくは500,000~4,000,000、さらに好ましくは800,000~3,000,000である。合成ポリイソプレンの重量平均分子量を上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンの強度が向上するとともに、合成ポリイソプレンラテックスが製造しやすくなる傾向がある。
【0021】
また、合成ポリイソプレンのポリマー・ムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは50~80、より好ましくは60~80、さらに好ましくは70~80である。
【0022】
合成ポリイソプレンラテックスを得るための方法としては、たとえば、(1)有機溶媒に溶解または微分散した合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液を、アニオン性界面活性剤の存在下に、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去して、合成ポリイソプレンラテックスを製造する方法、(2)イソプレン単独、またはイソプレンとそれと共重合可能なエチレン性不飽和単量体との混合物を、アニオン性界面活性剤の存在下に、乳化重合もしくは懸濁重合して、直接、合成ポリイソプレンラテックスを製造する方法、が挙げられるが、イソプレン単位中のシス結合単位の割合が高い合成ポリイソプレンを用いることができ、強度等の機械的特性に優れる医療用バルーンが得られやすい点から、上記(1)の製造方法が好ましい。
【0023】
上記(1)の製造方法で用いる有機溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキセン等の脂環族炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素溶媒;等を挙げることができる。これらのうち、脂環族炭化水素溶媒が好ましく、シクロヘキサンが特に好ましい。
【0024】
なお、有機溶媒の使用量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは2,000重量部以下、より好ましくは20~1,500重量部、更に好ましくは500~1500重量部である。
【0025】
上記(1)の製造方法で用いるアニオン性界面活性剤としては、たとえば、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、リノレン酸ナトリウム、ロジン酸ナトリウム等の脂肪酸塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸カリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム、ジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸カリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム等のアルキル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸カリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩;ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリルリン酸カリウム等のモノアルキルリン酸塩;等が挙げられる。
【0026】
これらアニオン性界面活性剤の中でも、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩が好ましく、脂肪酸塩およびアルキルベンゼンスルホン酸塩が特に好ましい。
【0027】
また、合成ポリイソプレン由来の、微量に残留する重合触媒(特に、アルミニウムとチタニウム)をより効率的に除去でき、ラテックス組成物を製造する際における、凝集物の発生が抑制されることから、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用して用いることが好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩と、脂肪酸塩とを併用して用いることが特に好ましい。ここで、脂肪酸塩としては、ロジン酸ナトリウムおよびロジン酸カリウムが好ましく、また、アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸カリウムが好ましい。また、これらの界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
なお、上述したように、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用して用いることにより、得られるラテックスが、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを含有するものとなる。
【0029】
また、上記(1)の製造方法においては、アニオン性界面活性剤以外の界面活性剤を併用してもよく、また、反応性界面活性剤を併用することもできる。
【0030】
さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性界面活性剤も併用してもよい。ただし、医療用バルーンをディップ成形によって成形する場合において、凝固剤を使用する際には、凝固を阻害しないように調整する必要がある。
【0031】
上記(1)の製造方法で用いるアニオン性界面活性剤の使用量は、合成ポリイソプレン100重量部に対して、好ましくは0.1~50重量部、より好ましくは0.5~30重量部である。なお、2種類以上の界面活性剤を用いる場合においては、これらの合計の使用量を上記範囲とすることが好ましい。すなわち、たとえば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用する場合には、これらの使用量の合計を上記範囲とすることが好ましい。アニオン性界面活性剤の使用量が少なすぎると、乳化時に凝集物が多量に発生するおそれがあり、逆に多すぎると、発泡しやすくなり、得られる医療用バルーンにピンホールが発生する可能性がある。
【0032】
また、アニオン性界面活性剤として、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種と、脂肪酸塩とを併用する場合には、これらの使用割合を、「脂肪酸塩」:「アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の合計」の重量比で、1:1~10:1の範囲とすることが好ましく、1:1~7:1の範囲とすることがより好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩およびポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩の中から選ばれた少なくとも1種の界面活性剤の使用割合が多すぎると、合成ポリイソプレンの取り扱い時に泡立ちが激しくなるおそれがあり、これにより、長時間の静置や、消泡剤の添加などの操作が必要になり、作業性の悪化およびコストアップに繋がるおそれがある。
【0033】
上記(1)の製造方法で使用する水の量は、合成ポリイソプレンの有機溶媒溶液100重量部に対して、好ましくは10~1,000重量部、より好ましくは30~500重量部、最も好ましくは50~200重量部である。使用する水の種類としては、硬水、軟水、イオン交換水、蒸留水、ゼオライトウォーターなどが挙げられ、軟水、イオン交換水および蒸留水が好ましい。
【0034】
有機溶媒に溶解または微分散した合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液を、アニオン性界面活性剤の存在下、水中で乳化する装置は、一般に乳化機または分散機として市販されているものであれば特に限定されず使用できる。合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液に、アニオン性界面活性剤を添加する方法としては、特に限定されず、予め、水もしくは合成ポリイソプレンの溶液または微細懸濁液のいずれか、あるいは両方に添加してもよいし、乳化操作を行っている最中に、乳化液に添加してもよく、一括添加しても、分割添加してもよい。
【0035】
乳化装置としては、たとえば、商品名「ホモジナイザー」(IKA社製)、商品名「ポリトロン」(キネマティカ社製)、商品名「TKオートホモミキサー」(特殊機化工業社製)等のバッチ式乳化機;商品名「TKパイプラインホモミキサー」(特殊機化工業社製)、商品名「コロイドミル」(神鋼パンテック社製)、商品名「スラッシャー」(日本コークス工業社製)、商品名「トリゴナル湿式微粉砕機」(三井三池化工機社製)、商品名「キャビトロン」(ユーロテック社製)、商品名「マイルダー」(太平洋機工社製)、商品名「ファインフローミル」(太平洋機工社製)等の連続式乳化機;商品名「マイクロフルイダイザー」(みずほ工業社製)、商品名「ナノマイザー」(ナノマイザー社製)、商品名「APVガウリン」(ガウリン社製)等の高圧乳化機;商品名「膜乳化機」(冷化工業社製)等の膜乳化機;商品名「バイブロミキサー」(冷化工業社製)等の振動式乳化機;商品名「超音波ホモジナイザー」(ブランソン社製)等の超音波乳化機;等が挙げられる。なお、乳化装置による乳化操作の条件は、特に限定されず、所望の分散状態になるように、処理温度、処理時間などを適宜選定すればよい。
【0036】
上記(1)の製造方法においては、乳化操作を経て得られた乳化物から、有機溶媒を除去することが望ましい。
乳化物から有機溶媒を除去する方法としては、得られる合成ポリイソプレンラテックス中における、有機溶媒(好ましくは脂環族炭化水素溶媒)の含有量を500重量ppm以下とすることのできる方法が好ましく、たとえば、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0037】
上記(1)の方法においては、乳化操作を経て得られた乳化物から、有機溶媒を除去して、合成ポリイソプレンラテックスを得ることが望ましい。乳化物から有機溶媒を除去する方法は、得られる合成ポリイソプレンラテックス中における、有機溶媒の合計含有量を500重量ppm以下とすることができるような方法であれば、特に限定されず、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0038】
さらに、有機溶媒を除去した後、必要に応じ、合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよく、特に、合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度を上げるとともに、合成ポリイソプレンラテックス中の界面活性剤の残留量を低減することができるという観点より、遠心分離を行うことが好ましい。
【0039】
遠心分離は、たとえば、連続遠心分離機を用いて、遠心力を、好ましくは100~10,000G、遠心分離前の合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度を、好ましくは2~15重量%、遠心分離機に送り込む流速を、好ましくは500~1700kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)を、好ましくは0.03~1.6MPaの条件にて実施することが好ましく、遠心分離後の軽液として、合成ポリイソプレンラテックスを得ることができる。そして、これにより、合成ポリイソプレンラテックス中における、界面活性剤の残留量を低減することができる。
【0040】
合成ポリイソプレンラテックスの固形分濃度は、好ましくは30~70重量%、より好ましくは40~70重量%である。固形分濃度が低すぎると、それより得られるラテックス組成物の固形分濃度が低くなるために、得られる医療用バルーンの膜厚が薄くなり破れ易くなる。逆に固形分濃度が高すぎると、合成ポリイソプレンラテックスの粘度が高くなり、配管での移送や調合タンク内での撹拌が困難になる場合がある。
【0041】
合成ポリイソプレンラテックスの体積平均粒子径は、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.5~3μm、さらに好ましくは0.5~2.0μmである。この体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、ラテックス粘度が適度なものとなり取り扱いやすくなるとともに、合成ポリイソプレンラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成することを抑制できる。
【0042】
また、合成ポリイソプレンラテックスには、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、架橋剤、キレート剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合してもよい。
pH調整剤としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0043】
また、共役ジエン系重合体としては、上述したように、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)を用いることもできる。なお、SISにおいては、「S」はスチレンブロック、「I」はイソプレンブロックをそれぞれ表す。
【0044】
SISは、従来公知の方法、たとえばn-ブチルリチウムなどの活性有機金属を開始剤として、不活性重合溶媒中で、イソプレンとスチレンとをブロック共重合して得ることができる。そして、得られたSISの重合体溶液は、SISラテックスの製造にそのまま用いてもよいが、該重合体溶液から固形のSISを取り出した後、その固形のSISを有機溶媒に溶解して、SISラテックスの製造に用いることもできる。なお、SISラテックスは、後述するように、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスの製造に用いることができる。SISラテックスの製造方法としては、特に限定されないが、有機溶媒に溶解または微分散したSISの溶液または微細懸濁液を、界面活性剤の存在下に、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去して、SISラテックスを製造する方法が好ましい。
この際、合成した後に重合体溶液中に残った重合触媒の残渣などの不純物を取り除いてもよい。また、重合中または重合後の溶液に、後述する老化防止剤を添加してもよい。また、市販の固形のSISを用いることもできる。
【0045】
有機溶媒としては、上記合成ポリイソプレンラテックスを製造する場合と同様のものを使用することができ、芳香族炭化水素溶媒および脂環族炭化水素溶媒が好ましく、シクロヘキサンおよびトルエンが特に好ましい。
なお、有機溶媒の使用量は、SIS100重量部に対して、通常50~2,000重量部、好ましくは80~1,000重量部、より好ましくは10~500重量部、さらに好ましくは150~300重量部である。
【0046】
界面活性剤としては、上記合成ポリイソプレンラテックスを製造する場合と同様のものを例示することができ、アニオン性界面活性剤が好適であり、ロジン酸ナトリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0047】
界面活性剤の使用量は、SIS100重量部に対して、好ましくは0.1~50重量部、より好ましくは0.5~30重量部である。この量が少なすぎると、ラテックスの安定性が劣る傾向にあり、逆に多すぎると、発泡しやすくなり、医療用バルーンを得るための成形時に問題が起きる可能性がある。
【0048】
上述したSISラテックスの製造方法で使用する水の量は、SISの有機溶媒溶液100重量部に対して、好ましくは10~1,000重量部、より好ましくは30~500重量部、最も好ましくは50~100重量部である。使用する水の種類としては、硬水、軟水、イオン交換水、蒸留水、ゼオライトウォーターなどが挙げられる。また、メタノールなどのアルコールに代表される極性溶媒を水と併用してもよい。
【0049】
SISの有機溶媒溶液または微細懸濁液を、界面活性剤の存在下、水中で乳化する装置は、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを例示することができる。そして、界面活性剤の添加方法は、特に限定されず、予め水もしくはSISの有機溶媒溶液または微細懸濁液のいずれか、あるいは両方に添加してもよいし、乳化操作を行っている最中に、乳化液に添加してもよく、一括添加しても、分割添加してもよい。
【0050】
上述したSISラテックスの製造方法においては、乳化操作を経て得られた乳化物から、有機溶媒を除去して、SISラテックスを得ることが好ましい。乳化物から有機溶媒を除去する方法は、特に限定されず、減圧蒸留、常圧蒸留、水蒸気蒸留、遠心分離等の方法を採用することができる。
【0051】
また、有機溶媒を除去した後、必要に応じ、SISラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよい。
【0052】
SISラテックスの固形分濃度は、好ましくは30~70重量%、より好ましくは50~70重量%である。固形分濃度が低すぎると、それより得られるラテックス組成物の固形分濃度が低くなるため得られる医療用バルーンの膜厚が薄くなり破れ易くなる。逆に固形分濃度が高すぎると、SISラテックスの粘度が高くなり、配管での移送や調合タンク内での撹拌が難しくなる。
【0053】
また、SISラテックスには、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、架橋剤、キレート剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合しても良い。pH調整剤としては、上記合成ポリイソプレンの場合と同様のものを例示することができ、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。
【0054】
このようにして得られるSISラテックスに含まれる、SIS中のスチレンブロックにおけるスチレン単位の含有量は、スチレンブロック中の全単量体単位に対して、好ましくは70~100重量%、より好ましくは90~100重量%、さらに好ましくは100重量%である。
また、SIS中のイソプレンブロックにおけるイソプレン単位の含有量は、イソプレンブロック中の全単量体単位に対して、好ましくは70~100重量%、より好ましくは90~100重量%、さらに好ましくは100重量%である。
なお、SIS中のスチレン単位とイソプレン単位の含有割合は、「スチレン単位:イソプレン単位」の重量比で、通常1:99~90:10、好ましくは3:97~70:30、より好ましくは5:95~50:50、さらに好ましくは10:90~30:70の範囲である。
【0055】
SISの重量平均分子量は、ゲル・パーミーエーション・クロマトグラフィー分析による標準ポリスチレン換算で、好ましくは10,000~1,000,000、より好ましくは50,000~500,000、さらに好ましくは100,000~300,000である。SISの重量平均分子量を上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンの強度と柔軟性のバランスが向上するとともに、SISのラテックスが製造しやすくなる傾向がある。
【0056】
SISラテックス中のラテックス粒子(SIS粒子)の体積平均粒子径は、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.5~3μm、さらに好ましくは0.5~2.0μmである。ラテックス粒子の体積平均粒子径を上記範囲とすることにより、ラテックス粘度が適度なものとなり取り扱いやすくなるとともに、SISラテックスを貯蔵した際に、ラテックス表面に皮膜が生成することを抑制できる。
【0057】
また、共役ジエン系重合体としては、上述したように、ニトリル基含有共役ジエン系共重合体を用いることもできる。
【0058】
ニトリル基含有共役ジエン系共重合体は、共役ジエン単量体にエチレン性不飽和ニトリル単量体を共重合してなる共重合体であり、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体であってもよい。
【0059】
共役ジエン単量体としては、たとえば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどが挙げられる。これらのなかでも、1,3-ブタジエンおよびイソプレンが好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。これらの共役ジエン単量体は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。ニトリル基含有共役ジエン系共重合体中における、共役ジエン単量体により形成される共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは56~78重量%であり、より好ましくは56~73重量%、さらに好ましくは56~68重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンを、強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0060】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリルなどが挙げられる。なかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。これらのエチレン性不飽和ニトリル単量体は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。ニトリル基含有共役ジエン系共重合体中における、エチレン性不飽和ニトリル単量体により形成されるエチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、好ましくは20~40重量%であり、より好ましくは25~40重量%、さらに好ましくは30~40重量%である。エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンを、強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0061】
共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であるエチレン性不飽和カルボン酸単量体;スチレン、アルキルスチレン、ビニルナフタレン等のビニル芳香族単量体;フルオロエチルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミド単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸-2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸-1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸-2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸-3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等の架橋性単量体;などを挙げることができる。これらのエチレン性不飽和単量体は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0062】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ-2-ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステル単量体;などが挙げられる。これらのなかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体はアルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもできる。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。ニトリル基含有共役ジエン系共重合体中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~5重量%であり、より好ましくは2~4.5重量%、さらに好ましくは2.5~4.5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンを、強度を十分なものとしながら、風合いおよび伸びにより優れたものとすることができる。
【0063】
ニトリル基含有共役ジエン系共重合体中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下であり、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0064】
ニトリル基含有共役ジエン系共重合体は、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0065】
上述した単量体を含有してなる単量体混合物を乳化重合する際には、通常用いられる、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の重合副資材を使用することができる。これら重合副資材の添加方法は特に限定されず、初期一括添加法、分割添加法、連続添加法などいずれの方法でもよい。
【0066】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン性乳化剤;乳化重合用反応性乳化剤などを挙げることができる。なかでも、アニオン性乳化剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。これらの乳化剤は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。乳化剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部である。
【0067】
重合開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-α-クミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.01~2重量部である。
【0068】
また、過酸化物開始剤は還元剤との組み合わせで、レドックス系重合開始剤として使用することができる。この還元剤としては、特に限定されないが、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;などが挙げられる。これらの還元剤は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。還元剤の使用量は、過酸化物100重量部に対して3~1000重量部であることが好ましい。
【0069】
乳化重合する際に使用する水の量は、使用する全単量体100重量部に対して、80~600重量部が好ましく、100~200重量部が特に好ましい。
【0070】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0071】
さらに、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることもでき、これらは種類、使用量とも特に限定されない。
【0072】
乳化重合を行う際の重合温度は、特に限定されないが、通常、3~95℃、好ましくは5~60℃である。重合時間は5~40時間程度である。
【0073】
以上のように単量体混合物を乳化重合し、所定の重合転化率に達した時点で、重合系を冷却したり、重合停止剤を添加したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する際の重合転化率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは93重量%以上である。
【0074】
重合停止剤としては、特に限定されないが、たとえば、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ハイドロキノン誘導体、カテコール誘導体、ならびに、ヒドロキシジメチルベンゼンチオカルボン酸、ヒドロキシジエチルベンゼンジチオカルボン酸、ヒドロキシジブチルベンゼンジチオカルボン酸などの芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸およびこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。重合停止剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.05~2重量部である。
【0075】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整することで、ニトリル基含有共役ジエン系共重合体のラテックスを得ることができる。
【0076】
また、ニトリル基含有共役ジエン系共重合体のラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などを適宜添加してもよい。
【0077】
ニトリル基含有共役ジエン系共重合体のラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60~300nm、より好ましくは80~150nmである。粒子径は、乳化剤および重合開始剤の使用量を調節するなどの方法により、所望の値に調整することができる。
【0078】
カルボキシ変性共役ジエン系重合体を得るために用いる共役ジエン系重合体としては、上述したように、合成ポリイソプレン、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、ニトリル基含有共役ジエン系共重合体などを用いることができるが、これらに限定されず、ブタジエン重合体、スチレン-ブタジエン共重合体などを用いてもよい。
【0079】
ブタジエン重合体は、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエンの単独重合体であってもよいし、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエンと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体とを共重合してなる共重合体であってもよい。
【0080】
また、スチレン-ブタジエン共重合体は、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエンにスチレンを共重合してなる共重合体であり、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体であってもよい。
【0081】
カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックス
医療用バルーンの材料として用いられ得るラテックス組成物を得るために、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを用いることができる。カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを構成するカルボキシ変性共役ジエン系重合体は、上述した共役ジエン系重合体を、カルボキシル基を有する化合物により変性することにより得ることができる。あるいは、共役ジエン系重合体として、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を含有する重合体を用いる場合には、該共役ジエン系重合体に対してカルボキシル基を有する化合物による変性を行うことなく、該共役ジエン系重合体を、そのままカルボキシ変性共役ジエン系重合体として用いることができる。
【0082】
ラテックス組成物を得るためにカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを用いることにより、得られるラテックス組成物について、凝集物の発生を抑制することができ、これにより、該ラテックス組成物を用いて医療用バルーンを製造する場合における、バルーンの欠陥率を低減することができる。さらに、ラテックス組成物を得るためにカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを用いることにより、得られるラテックス組成物を用いて形成される医療用バルーンの強度がより向上する。
【0083】
共役ジエン系重合体を、カルボキシル基を有する化合物により変性する方法としては、特に限定されないが、たとえば、共役ジエン系重合体に対してカルボキシル基を有する化合物を水相中でグラフト重合する方法が挙げられる。共役ジエン系重合体に対してカルボキシル基を有する化合物を水相中でグラフト重合する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いればよいが、たとえば、共役ジエン系重合体のラテックスに、カルボキシル基を有する化合物と、グラフト重合に用いる重合触媒(グラフト重合触媒)とを添加した後、水相中で、共役ジエン系重合体に、カルボキシル基を有する化合物を反応させる方法が好ましい。
【0084】
グラフト重合触媒としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができるが、得られる医療用バルーンの強度がより向上するという観点から、有機過酸化物が好ましく、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイドが特に好ましい。これらのグラフト重合触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
グラフト重合触媒の使用量は、その種類によって異なるが、共役ジエン系重合体100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.2~5重量部である。また、グラフト重合触媒を添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。
【0086】
また、グラフト重合触媒として有機過酸化物を用いる場合には、還元剤との組み合わせで、レドックス系重合開始剤として使用することができる。還元剤としては、特に限定されないが、たとえば、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;等が挙げられる。これらの還元剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
有機過酸化物の添加量は、特に限定されないが、共役ジエン系重合体のラテックスに含まれる共役ジエン系重合体100重量部に対して、好ましくは0.01~3重量部、より好ましくは0.1~1重量部である。
【0088】
還元剤の添加量は、特に限定されないが、有機過酸化物1重量部に対して0.01~1重量部であることが好ましい。
【0089】
有機過酸化物および還元剤の添加方法は、特に限定されず、それぞれ、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を用いることができる。
【0090】
共役ジエン系重合体に、カルボキシル基を有する化合物を反応させる際には、分散剤の存在下で反応を行うことが好ましい。
【0091】
分散剤としては、特に限定されないが、芳香族スルホン酸の誘導体、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、モノアルキルリン酸塩などのアニオン性界面活性剤が好ましく、芳香族スルホン酸の誘導体がより好ましい。なお、上記分散剤は、それぞれ単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0092】
芳香族スルホン酸の誘導体としては、特に限定されないが、下記一般式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】
(上記一般式(1)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子または任意の有機基であり、R
1およびR
2は互いに結合して環構造を形成していてもよい。)
【0093】
R1およびR2が互いに結合しない場合に、R1およびR2となりうる有機基としては、特に限定されないが、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基などの炭素数1~30のアルキル基;シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの炭素数3~30のシクロアルキル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラニル基などの炭素数6~30のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、フェノキシ基などの炭素数1~30のヒドロカルビルオキシ基;などが挙げられる。なお、これらの有機基は、置換基を有していてもよく、該置換基の位置としては、任意の位置とすることができる。
【0094】
また、R1およびR2が互いに結合して環構造を形成する場合には、環構造としては、特に限定されないが、芳香族化合物が好ましく、ベンゼン、ナフタレンなどのベンゼン環を有する芳香族化合物がより好ましく、ナフタレンが特に好ましい。なお、これらの環構造は、置換基を有していてもよく、該置換基の位置としては、任意の位置とすることができる。
【0095】
芳香族スルホン酸の誘導体としては、上記一般式(1)で表される化合物の中でも、特に好ましいものとして、R
1およびR
2が互いに結合して環構造を形成して、上記一般式(1)においてベンゼン環構造を形成しているものが挙げられる。より具体的には、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を用いることが好ましい。
【化2】
(上記一般式(2)中、R
3は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基である。)
【0096】
上記一般式(2)において、R3は、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基であればよく、特に限定されないが、炭素数1~10のアルキレン基が好ましく、メチレン基が特に好ましい。
【0097】
また、芳香族スルホン酸の誘導体としては、上記一般式(2)で表される構造を繰り返して有することが好ましく、上記一般式(2)で表される構造の繰り返し単位数は、特に限定されないが、好ましくは10~100個、より好ましくは20~50個である。
【0098】
芳香族スルホン酸の誘導体の重量平均分子量は、好ましくは500~100,000、より好ましくは3,000~50,000、さらに好ましくは5,000~30,000である。
【0099】
分散剤の添加量は、特に限定されないが、共役ジエン系重合体のラテックスの固形分濃度を高くした場合においても、凝集物の発生をより有効に抑制することがでるという観点より、ラテックスに含まれる共役ジエン系重合体100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部である。
【0100】
分散剤を、共役ジエン系重合体のラテックスに添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。また、分散剤は、直接、ラテックスに添加してもよいし、予め分散剤の水溶液を調製し、調製した分散剤の水溶液をラテックスに添加してもよい。
【0101】
共役ジエン系重合体にカルボキシル基を有する化合物を反応させる際の反応温度は、特に限定されないが、好ましくは15~80℃、より好ましくは30~50℃である。カルボキシル基を有する化合物を反応させる際の反応時間は、上記反応温度に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは30~300分間、より好ましくは60~120分間である。
【0102】
カルボキシル基を有する化合物を反応させる際における、共役ジエン系重合体のラテックスの固形分濃度は、特に限定されないが、好ましくは5~60重量%、より好ましくは10~40重量%である。
【0103】
カルボキシル基を有する化合物としては、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ2-ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等の多価カルボン酸無水物;などを挙げることができるが、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、アクリル酸およびメタクリル酸が特に好ましい。なお、これらの単量体は1種単独でも、2種以上を併用して用いても良い。
また、上記カルボキシル基は、アルカリ金属やアンモニア等との塩になっているものも含まれる。
【0104】
カルボキシル基を有する化合物の使用量は、共役ジエン系重合体100重量部に対して、好ましくは0.01重量部~100重量部、より好ましくは0.01重量部~40重量部、さらに好ましくは0.5重量部~20重量部である。カルボキシル基を有する化合物の使用量を上記範囲とすることにより、得られるラテックスの粘度がより適度なものとなり、移送しやすくなるとともに、それより得られるラテックス組成物を用いて形成される医療用バルーンの強度がより向上する。
【0105】
カルボキシル基を有する化合物をラテックスに添加する方法としては、特に限定されず、一括添加、分割添加、連続添加等の公知の添加方法を採用することができる。
【0106】
グラフト重合の転化率は、好ましくは95重量%以上、より好ましくは97重量%以上である。グラフト重合の転化率を上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンの強度がより向上する。
【0107】
カルボキシ変性共役ジエン系重合体におけるカルボキシル基を有する化合物による変性率は、特に限定されないが、好ましくは0.01~10モル%、より好ましくは0.5~5モル%である。なお、変性率は、下記式(i)で表される。
変性率(モル%)=(X/Y)×100 ・・・(i)
なお、上記式(i)においては、Xは、カルボキシ変性共役ジエン系重合体中におけるカルボキシル基の数を、Yは、カルボキシ変性共役ジエン系重合体の総構造単位数をそれぞれ表す。Xは、カルボキシ変性共役ジエン系重合体を1H-NMRで測定することにより求めることができる。また、Yは、(カルボキシ変性共役ジエン系重合体の重量平均分子量(Mw))/(カルボキシ変性共役ジエン系重合体を構成する各構造単位の含有割合に応じた平均分子量)を計算することにより求めることができる。
【0108】
カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスには、ラテックスの分野で通常配合される、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、キレート化剤、酸素捕捉剤、分散剤、老化防止剤等の添加剤を配合してもよい。
【0109】
pH調整剤としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物またはアンモニアが好ましい。なお、この際におけるカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスのpHは特に限定されないが、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスに、キサントゲン化合物、活性化剤、および加硫剤を配合してラテックス組成物とし、該ラテックス組成物を所定の条件で熟成させる場合には、熟成前のラテックス組成物のpHが、10未満となっていることが好ましい。
【0110】
また、グラフト重合した後、必要に応じ、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスの固形分濃度を上げるために、減圧蒸留、常圧蒸留、遠心分離、膜濃縮等の方法で濃縮操作を施してもよいが、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックス中のアニオン性界面活性剤の残留量を調整することができるという観点より、遠心分離を行うことが好ましい。
【0111】
グラフト重合後のカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを遠心分離機にかける場合、ラテックスの機械的安定性の向上のため、予めpH調整剤を添加してラテックスのpHを7以上としておくことが好ましく、pHを9以上としておくことがより好ましい。なお、ラテックスのpHを調整した際に、変性により導入したカルボキシル基は、塩の状態になっていてもよい。
【0112】
カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスの固形分濃度は、好ましくは30~70重量%、より好ましくは40~70重量%である。固形分濃度を上記範囲とすることにより、ラテックス中における凝集物の発生をより有効に抑制することができるとともに、ラテックスを貯蔵した際における重合体粒子の分離をより有効に抑制することができる。
【0113】
また、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックス中のカルボキシル基を有する化合物由来の構造単位の含有割合(共重合により重合体中に含有されることとなるカルボキシル基を有する単量体単位の含有割合)は、全単量体単位に対して、好ましくは0.01~50重量%、より好ましくは0.5~40重量%、さらに好ましくは1~30重量%、特に好ましくは1~15重量%である。カルボキシル基を有する化合物由来の構造単位の含有割合を上記範囲とすることにより、得られるラテックス組成物の機械的安定性がより向上し、さらに、得られるラテックス組成物を用いて形成される医療用バルーンの柔軟性および強度がより向上する。
【0114】
キサントゲン化合物
医療用バルーンの材料として用いられ得るラテックス組成物は、上述したカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスに加えて、キサントゲン化合物を含有する。
【0115】
キサントゲン化合物は、後述する加硫剤と組み合わせて用いることで、加硫促進剤として作用することができる。すなわち、ラテックス組成物について、加硫剤を配合し、ラテックス組成物中のカルボキシ変性共役ジエン系重合体を加硫剤により加硫して、医療用バルーンを成形する場合に、キサントゲン化合物は、加硫促進剤として作用する。また、キサントゲン化合物は、加硫剤が配合されたラテックス組成物に対して、加硫促進剤として作用し、加硫が行われた後に、加硫時に加わる熱等により、アルコールおよび二硫化炭素等に分解されるものである。たとえば、キサントゲン化合物は、医療用バルーンを製造する際に加わる熱(カルボキシ変性共役ジエン系重合体を加硫させる際における100~130℃程度の熱)によって、アルコールおよび二硫化炭素等に分解され、さらに、分解により生成した成分(アルコールおよび二硫化炭素等)が揮発する。これにより、得られる医療用バルーンについて、キサントゲン化合物の残留量を低減することができる。本実施形態によれば、従来、遅延型アレルギー(Type IV)の症状の発生原因となっていた加硫促進剤(たとえば、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤など)を使用することなく、キサントゲン化合物を加硫促進剤として使用し、これにより、得られる医療用バルーンにおけるキサントゲン化合物の残留量を低減させることができるため、得られる医療用バルーンについて、遅延型アレルギー(Type IV)の症状の発生を抑制することが可能となる。また、ラテックス組成物において、加硫促進剤としてキサントゲン化合物を配合することによって、得られる医療用バルーンを強度に優れたものとすることもできる。しかも、本実施形態で用いるラテックス組成物においては、共役ジエン系重合体の合成ゴムを用いたカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを使用しているため、得られる医療用バルーンについて、天然ゴムに含まれる蛋白質に起因する即時型アレルギー(Type I)の症状の発生をも抑制することができる。
【0116】
キサントゲン化合物としては、特に限定されないが、たとえば、キサントゲン酸、キサントゲン酸塩、キサントゲン二硫化物(2つのキサントゲン酸が硫黄原子等を介して結合された化合物)、キサントゲン多硫化物(3以上のキサントゲン酸が硫黄原子等を介して結合された化合物)などが挙げられる。
【0117】
キサントゲン酸塩としては、キサントゲン酸構造を有するものであればよく、特に限定されないが、たとえば、一般式(ROC(=S)S)x-Z(ここで、Rは直鎖状または分岐状の炭化水素、Zは金属原子である。xはZの原子価と一致する数で、通常1~4、好ましくは2~4、特に好ましくは2である。)で表される化合物が挙げられる。
【0118】
上記一般式(ROC(=S)S)x-Zで表されるキサントゲン酸塩としては、特に限定されないが、たとえば、メチルキサントゲン酸亜鉛、エチルキサントゲン酸亜鉛、プロピルキサントゲン酸亜鉛、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ブチルキサントゲン酸亜鉛、ペンチルキサントゲン酸亜鉛、ヘキシルキサントゲン酸亜鉛、ヘプチルキサントゲン酸亜鉛、オクチルキサントゲン酸亜鉛、2-エチルヘキシルキサントゲン酸亜鉛、デシルキサントゲン酸亜鉛、ドデシルキサントゲン酸亜鉛、メチルキサントゲン酸カリウム、エチルキサントゲン酸カリウム、プロピルキサントゲン酸カリウム、イソプロピルキサントゲン酸カリウム、ブチルキサントゲン酸カリウム、ペンチルキサントゲン酸カリウム、ヘキシルキサントゲン酸カリウム、ヘプチルキサントゲン酸カリウム、オクチルキサントゲン酸カリウム、2-エチルヘキシルキサントゲン酸カリウム、デシルキサントゲン酸カリウム、ドデシルキサントゲン酸カリウム、メチルキサントゲン酸ナトリウム、エチルキサントゲン酸ナトリウム、プロピルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルキサントゲン酸ナトリウム、ブチルキサントゲン酸ナトリウム、ペンチルキサントゲン酸ナトリウム、ヘキシルキサントゲン酸ナトリウム、ヘプチルキサントゲン酸ナトリウム、オクチルキサントゲン酸ナトリウム、2-エチルヘキシルキサントゲン酸ナトリウム、デシルキサントゲン酸ナトリウム、ドデシルキサントゲン酸ナトリウム等が挙げられる。これらのなかでも、上記一般式(ROC(=S)S)x-Zにおけるxが2以上であるアルキルキサントゲン酸塩が好ましく、そのなかでもアルキルキサントゲン酸亜鉛類が好ましく用いられる。また、上記一般式(ROC(=S)S)x-ZにおけるRがイソプロピル基またはブチル基であるアルキルキサントゲン酸塩が好ましく用いられる。これらのなかでも、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、またはブチルキサントゲン酸亜鉛が特に好ましく用いられる。これらのキサントゲン酸塩は、1種単独で使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0119】
キサントゲン二硫化物は、2つのキサントゲン酸が硫黄原子等を介して結合された化合物であり、特に限定されないが、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジブチルキサントゲンジスルフィド、ジメチルキサントゲンポリスルフィド、ジエチルキサントゲンポリスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンポリスルフィド、ジブチルキサントゲンポリスルフィドなどが挙げられ、これらのなかでも、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジブチルキサントゲンジスルフィドが好ましい。
【0120】
キサントゲン多硫化物は、3以上のキサントゲン酸が硫黄原子等を介して結合された化合物であり、3つのキサントゲン酸が硫黄を介して結合されたキサントゲン三硫化物、4つのキサントゲン酸が硫黄を介して結合されたキサントゲン四硫化物、5つのキサントゲン酸が硫黄を介して結合されたキサントゲン五硫化物などが挙げられる。
【0121】
なお、これらのキサントゲン化合物は、ラテックス組成物に、1種単独で含まれていてもよいが、2種以上が含まれていることが好ましい。たとえば、ラテックス組成物にキサントゲン酸を配合した場合には、配合したキサントゲン酸の一部が、キサントゲン酸塩の形態で存在することで、結果として、ラテックス組成物に2種以上のキサントゲン化合物が含まれることになってもよい。あるいは、ラテックス組成物に配合したキサントゲン酸の一部が、ラテックス組成物に加硫剤等として硫黄が含まれる場合には、ラテックス組成物に配合したキサントゲン酸が、硫黄の作用により、キサントゲン二硫化物やキサントゲン多硫化物の形態で存在してもよい。同様に、ラテックス組成物にキサントゲン酸塩、キサントゲン二硫化物またはキサントゲン多硫化物を配合した場合においても、これらは、それぞれ、キサントゲン酸、キサントゲン酸塩、キサントゲン二硫化物、キサントゲン多硫化物のいずれかの形態で存在してもよい。
【0122】
ラテックス組成物中における、キサントゲン化合物の含有割合(ラテックス組成物中に複数のキサントゲン化合物が含まれる場合には、その合計の含有割合)は、ラテックスに含まれるカルボキシ変性共役ジエン系重合体100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.1~7重量部、さらに好ましくは0.5~5重量部である。キサントゲン化合物の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンについて、遅延型アレルギー(Type IV)の症状の発生を抑制しながら、強度をより向上させることができる。
【0123】
なお、ラテックス組成物には、キサントゲン化合物以外に、加硫促進剤として従来使用されている化合物、具体的には、遅延型アレルギー(Type IV)の症状の発生原因となる硫黄を含有する加硫促進剤(たとえば、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤など)であって、加硫促進剤として作用した後に、得られる医療用バルーンに残留してしまう化合物が、実質的に含まれていないことが好ましい。
【0124】
ラテックス組成物にキサントゲン化合物を配合する方法は、最終的にラテックス組成物中にカルボキシ変性共役ジエン系重合体とキサントゲン化合物とが混合された状態となる方法であればよく、特に限定されないが、たとえば、上述したカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを得た後、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスにキサントゲン化合物を配合する方法、有機溶媒に溶解または微分散したカルボキシ変性共役ジエン系重合体の溶液または微細懸濁液に、予めキサントゲン化合物を配合した後、キサントゲン化合物が配合されたカルボキシ変性共役ジエン系重合体の溶液または微細懸濁液を、水中で乳化し、必要により有機溶媒を除去することで、キサントゲン化合物が配合されたカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを得る方法などが挙げられる。これらのなかでも、キサントゲン化合物が溶解しやすく、キサントゲン化合物の配合がより容易であるという観点より、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを得た後、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスにキサントゲン化合物を配合する方法が好ましい。
【0125】
加硫剤
医療用バルーンの材料として用いられ得るラテックス組成物は、上述したカルボキシ変性共役ジエン系重合体およびキサントゲン化合物に加えて、加硫剤を含有する。加流剤としては、少なくとも加硫剤の一部として硫黄系加硫剤を含むものを用いることが好ましい。
【0126】
硫黄系加硫剤としては、特に限定されないが、たとえば、粉末硫黄、硫黄華、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄等の硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリン・ジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、カプロラクタムジスルフィド(N,N’-ジチオ-ビス(ヘキサヒドロ-2H-アゼピノン-2))、含りんポリスルフィド、高分子多硫化物、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等の硫黄含有化合物が挙げられる。これらのなかでも、硫黄が好ましく使用できる。硫黄系加硫剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0127】
硫黄系加硫剤の含有量は、特に限定されないが、ラテックス組成物に含まれるカルボキシ変性共役ジエン系重合体100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.2~3重量部である。硫黄系加硫剤の含有量を上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンにおいて、遅延型アレルギー(Type IV)の症状の発生を抑制しながら、強度をより高めることができる。
【0128】
活性化剤
医療用バルーンの材料として用いられ得るラテックス組成物は、上述したカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスと、加硫剤と、キサントゲン化合物とに加えて、活性化剤を含有してもよい。
【0129】
ラテックス組成物に、活性化剤を配合することにより、得られるラテックス組成物を用いて、ラテックス組成物中のカルボキシ変性共役ジエン系重合体を硫黄系加硫剤により加硫して医療用バルーンとする際に、活性化剤が、上述したキサントゲン化合物とともに加硫促進剤として作用し、しかも、活性化剤自体がカルボキシ変性共役ジエン系重合体のカルボキシル基を架橋する架橋剤として作用し、これにより、得られる医療用バルーンの強度がより向上する。
【0130】
活性化剤としては、特に限定されないが、得られる医療用バルーンの強度がより向上するという観点より、金属化合物を用いることが好ましい。金属化合物としては、特に限定されないが、たとえば、金属酸化物、酸化物以外の典型金属化合物などが挙げられる。金属化合物を構成する金属としては、特に限定されないが、典型金属(第1族元素、第2族元素、第12族元素、第13族元素、第14族元素、第15族元素、第16族元素、第17族元素、および第18族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素)が好ましく、第2族元素、第12族元素、第13族元素、第14族元素がより好ましく、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、鉛がさらに好ましく、亜鉛、マグネシウム、カルシウムが特に好ましく、亜鉛が最も好ましい。これらの金属化合物は、1種単独で使用してよいし、複数種を併用してもよい。
【0131】
金属酸化物としては、特に限定されないが、得られる医療用バルーンの強度がより向上するという観点より、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化カルシウム、鉛酸化物、酸化鉄、酸化銅、酸化錫、酸化ニッケル、酸化クロム、酸化コバルト、および酸化アルミニウムが好ましく、酸化亜鉛がより好ましい。これらの金属酸化物は、1種単独で使用してよいし、複数種を併用してもよい。
【0132】
酸化物以外の典型金属化合物としては、上記典型金属を含む化合物であって、酸化物以外のものであればよく、特に限定されないが、得られる医療用バルーンの強度がより向上するという観点より、炭素を少なくとも1つ含有する金属化合物が好ましく、得られる医療用バルーンの強度がより向上するという観点より、炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、有機金属化合物が好ましく、炭酸塩、炭酸水素塩、有機金属化合物がより好ましい。これらのなかでも、化合物自体の安定性に優れ、入手容易性にも優れるという観点より、炭酸塩、炭酸水素塩などの無機塩が特に好ましい。これらの金属化合物は、1種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0133】
ラテックス組成物中における、活性化剤の含有割合は、ラテックス組成物に含まれるカルボキシ変性共役ジエン系重合体100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部、さらに好ましくは1~3重量部である。活性化剤の含有割合を上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンの強度をより向上させることができる。
【0134】
ラテックス組成物に活性化剤を配合する方法は、最終的にカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスと活性化剤とが混合した状態となる方法であればよく、特に限定されないが、たとえば、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを得た後、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスに活性化剤を配合する方法などが挙げられる。
【0135】
加硫促進剤
医療用バルーンの材料として用いられ得るラテックス組成物は、上述したカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスと、加硫剤と、キサントゲン化合物とを含有するものであればよいが、得られる医療用バルーンにおいて、遅延型アレルギー(Type IV)の症状の発生を抑制可能な範囲であれば、さらに加硫促進剤を含有してもよい。
【0136】
加硫促進剤としては、共役ジエン系重合体の加硫促進剤として通常用いられるものを使用することができ、たとえば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ-2-エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2-(2,4-ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2-(N,N-ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2-(2,6-ジメチル-4-モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2-(4′-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール、4-モルホニリル-2-ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3-ビス(2-ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられるが、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。加硫促進剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0137】
その他の配合剤
医療用バルーンの材料として用いられ得るラテックス組成物には、さらに、老化防止剤;分散剤;カーボンブラック、シリカ、タルク等の補強剤;炭酸カルシウム、クレー等の充填剤;紫外線吸収剤;可塑剤;等の配合剤を必要に応じて配合することができる。
【0138】
老化防止剤としては、2,6-ジ-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,6-ジ-t-ブチル-α-ジメチルアミノ-p-クレゾール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、スチレン化フェノール、2,2’-メチレン-ビス(6-α-メチル-ベンジル-p-クレゾール)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、アルキル化ビスフェノール、p-クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物、などの硫黄原子を含有しないフェノール系老化防止剤;2,2’-チオビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス-(6-t-ブチル-o-クレゾール)、2,6-ジ-t-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノールなどのチオビスフェノール系老化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコール・ジホスファイトなどの亜燐酸エステル系老化防止剤;チオジプロピオン酸ジラウリルなどの硫黄エステル系老化防止剤;フェニル-α-ナフチルアミン、フェニル-β-ナフチルアミン、p-(p-トルエンスルホニルアミド)-ジフェニルアミン、4,4’―(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、ブチルアルデヒド-アニリン縮合物などのアミン系老化防止剤;6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリンなどのキノリン系老化防止剤;2,5-ジ-(t-アミル)ハイドロキノンなどのハイドロキノン系老化防止剤;などが挙げられる。これらの老化防止剤は、1種単独で使用してもよく、または2種以上を併用することもできる。
【0139】
老化防止剤の含有量は、カルボキシ変性共役ジエン系重合体100重量部に対して、好ましくは0.05~10重量部、より好ましくは0.1~5重量部である。
【0140】
ラテックス組成物に各種配合剤を混合する方法としては、特に限定されないが、たとえば、上述したようにしてカルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックス、加硫剤、キサントゲン化合物を含有するラテックス組成物を得た後、ボールミル、ニーダー、ディスパー等の分散機を用いて、ラテックス組成物に、必要に応じて配合される各種配合剤を混合する方法や、上記の分散機を用いて、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックス以外の配合成分の水性分散液を調製した後、該水性分散液を、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスに混合する方法などが挙げられる。
【0141】
なお、ラテックス組成物の固形分濃度は、好ましくは10~60重量%、より好ましくは10~55重量%である。
【0142】
熟成
医療用バルーンの材料として用いられ得るラテックス組成物は、得られる医療用バルーンの機械的特性をより高めるという観点より、成形に供する前に、熟成(前架橋)させることが好ましい。
【0143】
熟成を行う際の温度は、5~60℃であればよく、10~50℃が好ましく、10~45℃がより好ましい。熟成の温度が低すぎると、熟成を行う目的である医療用バルーンの機械的特性を高めるという効果が不十分となってしまう場合がある。一方、熟成の温度が高すぎると、得られる医療用バルーンの強度が低下してしまう場合がある。
【0144】
熟成する時間は、温度にも依存するが、半日(12時間)~14日間であればよく、半日(12時間)~10日間が好ましく、半日(12時間)~7日間がより好ましい。熟成する時間が短すぎると、熟成を行う目的である医療用バルーンの機械的特性を高めるという効果が不十分となってしまう場合がある。一方、熟成の時間が長すぎると、得られる医療用バルーンの強度が低下してしまう場合がある。
【0145】
熟成後のラテックス組成物のpHは、6以上、10未満が好ましく、6~9がより好ましい。熟成後のラテックス組成物のpHを上記範囲とすることにより、得られる医療用バルーンの強度をより向上させることができる。
【0146】
なお、ラテックス組成物においては、キサントゲン化合物が含まれていることで、熟成によってラテックス組成物のpHが低下する傾向にある。すなわち、熟成後のラテックス組成物のpHは、熟成前のラテックス組成物のpHよりも低くなる傾向にある。ここで、熟成によってラテックス組成物のpHが変動した際においては、そのまま熟成後のラテックス組成物のpHが上記範囲となっていることが好ましいが、熟成後のラテックス組成物のpHが上記範囲となっていない場合には、熟成後のラテックス組成物に対してpH調整剤を添加することで、pHを上記範囲に調整してもよい。また、熟成後のラテックス組成物のpHが上記範囲にある場合でも、pHをより適度なものとするために、熟成後のラテックス組成物に対してpH調整剤を添加してもよい。
【0147】
熟成後のラテックス組成物に添加するpH調整剤としては、特に限定されないが、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩;アンモニア;トリメチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン化合物;等が挙げられるが、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアまたは有機アミン化合物が好ましい。これらのpH調整剤は、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0148】
〔バルーン成形工程〕
医療用バルーンの成形方法は、カルボキシ変性共役ジエン系重合体と、加硫剤と、キサントゲン化合物と、を含有してなる組成物を、バルーン形状に成形するものである限りにおいて特に限定されないが、組成物をラテックスの形態であるラテックス組成物として、そのラテックス組成物にバルーン形状の型を浸漬する工程であるディップ成形工程を含むものであることが好ましい。ラテックス組成物にバルーン形状の型を浸漬させて、その型の表面に当該ラテックス組成物を付着させ、次に型を当該ラテックス組成物から引き上げ、その後、型の表面に沈着した当該ラテックス組成物を乾燥させることによって、目的とする医療用バルーンを成形することが可能である。
【0149】
ディップ成形工程において、医療用バルーンの成形に用いる型(バルーン型)としては、たとえば、ステンレス鋼等の金属で形成された、
図1に示すような形状のものを用いることができる。この型1は、バルーンカテーテルのカテーテルチューブの体内に挿入される遠位端部が通されて該カテーテルチューブの表面に密着して接合するための円筒状の一対の接合部(遠位端側接合部、近位端側接合部)を形成するための円柱部2と、カテーテルチューブの内腔(ルーメン)を介して供給される流体(たとえば空気)が充填されることにより膨張する膨張部(遠位端側接合部と近位端側接合部の間の部分)を形成するための楕円球状部3とを概略備えている。なお、医療用バルーンの成形に用いる型の形状は、得られる成形体が医療用バルーンとして用いることができる限りにおいて特に限定されず、たとえば、単なる円柱体等であってもよい。
【0150】
なお、ラテックス組成物に浸漬される前の型は予熱しておいてもよい。また、型をラテックス組成物に浸漬する前、または、型をラテックス組成物から引き上げた後、必要に応じて凝固剤を使用できる。
【0151】
凝固剤の使用方法の具体例としては、ラテックス組成物に浸漬する前の型を凝固剤の溶液に浸漬して型に凝固剤を付着させる方法(アノード凝着浸漬法)、ラテックス組成物を沈着させた型を凝固剤溶液に浸漬する方法(ティーグ凝着浸漬法)などがあるが、厚みムラの少ない医療用バルーンが得られる点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0152】
凝固剤の具体例としては、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどのハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛などの硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛など酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウムなどの硫酸塩;などの水溶性多価金属塩である。なかでも、カルシウム塩が好ましく、硝酸カルシウムがより好ましい。これらの水溶性多価金属塩は、1種単独で用いることができ、2種以上を併用することもできる。
【0153】
凝固剤は、通常、水、アルコール、またはそれらの混合物の溶液として使用することができ、好ましくは水溶液の状態で使用する。この水溶液は、さらにメタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒やノニオン性界面活性剤を含有していてもよい。凝固剤の濃度は、水溶性多価金属塩の種類によっても異なるが、好ましくは5~50重量%、より好ましくは10~30重量%である。
【0154】
型をラテックス組成物から引き上げた後、通常、加熱して型上に形成された付着物を乾燥させる。乾燥条件は適宜選択すればよい。
【0155】
次いで、加熱して、型上に形成された組成物の層を架橋させる。組成物の層の架橋は、通常、80~150℃の温度で、好ましくは10~130分の加熱処理を施すことにより行うことができる。加熱の方法としては、赤外線や加熱空気による外部加熱または高周波による内部加熱による方法が採用できる。なかでも、加熱空気による外部加熱が好ましい。なお、加熱処理を施す前に組成物を、水、好ましくは30~70℃の温水に、1~60分程度浸漬し、水溶性不純物(たとえば、余剰の乳化剤や凝固剤等)を除去してもよい。水溶性不純物の除去操作は、組成物の層を加熱処理した後に行なってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、加熱処理前に行なうことが好ましい。
【0156】
そして、このようにして型上に得られた医療用バルーンを型から離型することによって、目的の医療用バルーンが得られる。離型方法としては、手で型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。なお、離型後、更に60~120℃の温度で、10~120分の加熱処理を行なってもよい。
【0157】
本実施形態の製造方法により得られる医療用バルーンは、上述した組成物を用いて得られるものであるため、即時型アレルギー(Type I)に加えて、遅延型アレルギー(Type IV)の症状の発生を抑制することができ、しかも、強度に優れたものとなることから、膨張収縮を繰り返した後のバルーンの寸法変化率が小さく、耐久性にも優れている。
【0158】
なお、本実施形態の製造方法により製造された医療用バルーンは、体内に生じた結石(胆石)等の異物を膨張させたバルーンを利用して除去するために用いるバルーンカテーテルや体内管腔の所望の位置でカテーテルチューブを膨張させたバルーンにより固定(アンカリング)する機能を有するバルーンカテーテル等の各種バルーンカテーテルやダブルバルーン内視鏡等の各種バルーン付き内視鏡等の、各種のバルーンを有する医療用具のバルーンを構成するために、広く用いることができる。
【実施例】
【0159】
以下、実施例により本発明が詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。また、各種の物性測定および評価試験は以下のように行った。
【0160】
固形分濃度
アルミ皿(重量:X1)に試料2gを精秤し(重量:X2)、これを105℃の熱風乾燥器内で2時間乾燥させた。次いで、デシケーター内で冷却した後、アルミ皿ごと重量を測定し(重量:X3)、下記の計算式にしたがって、固形分濃度を算出した。
固形分濃度(重量%)={(X3-X1)/X2}×100
【0161】
変性率
カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスを構成するカルボキシ変性共役ジエン系重合体を1H-NMRで測定することにより、カルボキシ変性共役ジエン系重合体中におけるカルボキシル基の数を求めた。次いで、求めたカルボキシル基の数に基づいて、下記式(ii)にしたがって、カルボキシル基含有化合物による変性率を求めた。
変性率(モル%)=(X/Y)×100 ・・・(ii)
なお、上記式(ii)において、Xは、カルボキシ変性共役ジエン系重合体中におけるカルボキシル基の数を、Yは、カルボキシ変性共役ジエン系重合体の総構造単位数((カルボキシ変性共役ジエン系重合体の重量平均分子量(Mw))/(カルボキシ変性共役ジエン系重合体を構成する各構造単位の含有割合に応じた平均分子量))をそれぞれ表す。
【0162】
凝集物含有割合
ラテックス組成物を30℃で2日間静置した後、上記した方法に従って、ラテックス組成物の固形分濃度を測定し、そのラテックス組成物100gを精秤した後、重量既知の200メッシュのSUS製金網でろ過し、金網上の凝集物を数回水洗して、ラテックス組成物を除去した。これを、105℃で2時間以上乾燥させた後、その乾燥重量を測定し、下記式に基づいて凝集物含有割合(単位:重量%)を求めた。
凝集物含有割合(重量%)={(α-β)/(γ×Δ)}×10,000
ここで、αは乾燥後の金網および乾燥凝集物の重量、βは金網の重量、γはラテックス組成物の重量、Δはラテックス組成物の固形分濃度(単位:重量%)をそれぞれ示す。
【0163】
パッチテスト
成形したバルーンから10×10mmのサイズに切り出して得た試験片を、被検者10人の腕にそれぞれ貼付した。その後、48時間後に貼付部分を観察することで、遅延型アレルギー(Type IV)のアレルギー症状の発生有無を確認し、以下の基準で評価した。
A:全ての被検者について、アレルギー症状がみられなかった。
B:一部の被検者については、アレルギー症状がみられた。
【0164】
膨張収縮繰り返し後のバルーンの寸法変化率
成形したバルーンを専用治具に取付けた状態で、初期状態のバルーンの最大外径をレーザー外径測定器にて計測した。次に、シリンジにて空気を1mlずつバルーンに注入し、バルーンを膨張させる。バルーンの最大外径が30mmを越えた時点でバルーンの内部から空気を排出してバルーンを収縮させた。この膨張収縮の操作を20回繰り返した後のバルーンの最大外径を測定し、寸法変化率を下記式(iii)にしたがって求めた。
バルーン寸法変化率(%)={(Y-X)/X}×100 ・・・(iii)
なお、上記式(iii)において、Xは、バルーンの初期状態の最大外径(mm)を、Yは、膨張収縮の操作を20回繰り返した後のバルーンの最大外径(mm)をそれぞれ表す。
【0165】
バルーンの耐久性
成形したバルーンをカテーテルチューブ先端に接着剤で取り付けた状態で、水中でバルーンを最大外径が30mmとなるまで、カテーテルチューブの内腔を介してシリンジでバルーンに空気を注入しバルーンを膨張させた。次いで、バルーンを最大外径が20mmとなるまで収縮させてから、直径18mmの穴を開けたステンレス製プレートにバルーンを通過させる。最後に、バルーン内部の空気を排出させてバルーンを収縮させる。この一連の操作を繰り返し、水中でバルーンを膨張した際に、バルーンからの空気のリーク(気泡の発生にて確認)またはバルーンの破裂が起きるまでの回数を計測し、その回数をバルーン耐久性の指標とした。なお、一連の操作を100回繰り返してもバルーンからの空気のリークおよびバルーンの破裂が認められなかった場合は、その時点でバルーンの耐久性の評価試験を終了させた。
【0166】
製造例1
カルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-1)のラテックスの製造
重量平均分子量が1,300,000である合成ポリイソプレン(商品名「NIPOL IR2200L」、日本ゼオン社製、イソプレンの単独重合体、シス結合単位量98%)をシクロヘキサンと混合し、攪拌しながら温度を60℃に昇温して溶解し、B形粘度計で測定した粘度が12,000mPa・sの合成ポリイソプレンのシクロヘキサン溶液(a)を調整した(固形分濃度8重量%)。
【0167】
一方、ロジン酸ナトリウム20部を水に添加し、温度を60℃に昇温して溶解し、濃度1.5重量%のアニオン性界面活性剤水溶液(b)を調整した。
【0168】
次に、上記シクロヘキサン溶液(a)と、上記アニオン性界面活性剤水溶液(b)とを、重量比で1:1.5となるように、ミキサー(商品名「マルチラインミキサーMS26-MMR-5.5L」、佐竹化学機械工業社製)を用いて混合し、続いて、乳化装置(商品名「マイルダーMDN310」、太平洋機工社製)を用いて、回転数4100rpmで混合および乳化して、乳化液(c)を得た。なお、その際、シクロヘキサン溶液(a)とアニオン性界面活性剤水溶液(b)の合計のフィード流速は2,000kg/hr、温度は60℃、背圧(ゲージ圧)は0.5MPaとした。
【0169】
次いで、乳化液(c)を、-0.01~-0.09MPa(ゲージ圧)の減圧下で80℃に加温し、シクロヘキサンを留去し、合成ポリイソプレンの水分散液(d)を得た。その際、消泡剤(商品名「SM5515」、東レ・ダウコーニング社製)を、乳化液(c)中の合成ポリイソプレンに対して300重量ppmの量になるよう、噴霧しながら連続添加した。なお、シクロヘキサンを留去する際には、乳化液(c)がタンクの容積の70体積%以下になるように調整し、かつ、攪拌翼として3段の傾斜パドル翼を用い、60rpmでゆっくり攪拌を実施した。
【0170】
そして、シクロヘキサンの留去が完了した後、得られた合成ポリイソプレンの水分散液(d)を、連続遠心分離機(商品名「SRG510」、アルファラバル社製)を用いて、4,000~5,000Gで遠心分離し、軽液としての固形分濃度56重量%の合成ポリイソプレンのラテックス(e)を得た。なお、遠心分離の条件は、遠心分離前の水分散液(d)の固形分濃度10重量%、連続遠心分離時の流速は1300kg/hr、遠心分離機の背圧(ゲージ圧)は1.5MPaとした。得られた合成ポリイソプレンのラテックス(e)は、固形分濃度が60重量%であった。
【0171】
次いで、得られた合成ポリイソプレンのラテックス(e)中の合成ポリイソプレン100部に対して、蒸留水130部を添加して希釈した。そして、合成ポリイソプレンのラテックス(e)に、合成ポリイソプレン100部に対して、分散剤としてのβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールT-45」、花王社製)0.8部を合成ポリイソプレン100部に対し4部の蒸留水で希釈したものを5分間かけて添加した。次いで、分散剤を添加した合成ポリイソプレンのラテックス(e)を、窒素置換された攪拌機付き反応容器に仕込み、撹拌しながら温度を30℃にまで加温した。また、別の容器を用い、カルボキシル基含有化合物としてのメタクリル酸3部と蒸留水16部とを混合してメタクリル酸希釈液を調整した。このメタクリル酸希釈液を、30℃にまで加温した反応容器内に、30分間かけて添加した。
【0172】
さらに、別の容器を用い、蒸留水7部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(商品名「SFS」、三菱ガス化学社製)0.32部、硫酸第一鉄(商品名「フロストFe」、中部キレスト社製)0.01部からなる溶液(f)を調整した。この溶液(f)を反応容器内に移した後、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド(商品名「パーオクタH」、日本油脂社製)0.5部を添加して30℃で1時間反応させることで、カルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-1)のラテックスを得た。次いでカルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-1)を遠心分離機にて濃縮して固形分濃度56%の軽液を得た。そして、得られたカルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-1)のラテックスについて、上記方法にしたがって変性率を測定したところ、変性率は0.5モル%であった。
【0173】
製造例2
カルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-2)のラテックスの製造
メタクリル酸の使用量を3部から5部に変更した以外は、製造例1と同様にして、固形分濃度55%のカルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-2)のラテックスを得た。得られたカルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-2)のラテックスについて、上記方法にしたがって変性率を測定したところ、変性率は1モル%であった。
【0174】
実施例1
ラテックス組成物の調製
まず、スチレン-マレイン酸モノ-sec-ブチルエステル-マレイン酸モノメチルエステル重合体(商品名「Scripset550」、Hercules社製)を、水酸化ナトリウムを用い、重合体中のカルボキシル基を100%中和して、ナトリウム塩水溶液(濃度10重量%)を調製した。そして、このナトリウム塩水溶液を、製造例1で得られたカルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-1)のラテックスに、カルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-1)100部に対して固形分換算で0.8部になるようにして添加し、混合物を得た。
【0175】
そして、得られた混合物を攪拌しながら、混合物中のカルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-1)100部に対して、キサントゲン化合物としてのイソプロピルキサントゲン酸亜鉛2部を添加した。
【0176】
次いで、固形分換算で、活性化剤としての酸化亜鉛1.5部、硫黄1.5部、老化防止剤(商品名「Wingstay L」、グッドイヤー社製)2部となるように、各配合剤の水分散液を添加して、ラテックス組成物を得た。得られたラテックス組成物について、pH調整剤としての水酸化カリウム水溶液(濃度5.0重量%)を添加することにより、pHを8.0に調整した(熟成前のラテックス組成物のpHを8.0とした)。
【0177】
そして、得られたラテックス組成物を、30℃に調整された恒温水槽で48時間熟成した。熟成後のラテックス組成物のpHは、7.5であった。
【0178】
医療用バルーンの製造
図1に示すように、円柱部2の直径を2.5mm、楕円球状部3の直径を5.0mm、楕円球状部3の長さを7mmとしたステンレス鋼製のバルーン型1を用いた。まず、バルーン型を洗浄し、70℃のオーブン内で予備加熱した後、18重量%の硝酸カルシウムおよび0.05重量%のポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名「エマルゲン109P」、花王社製)を含有する凝固剤水溶液に5秒間浸漬し、凝固剤水溶液から取り出した。次いで、バルーン型を70℃のオーブン内で30分以上乾燥させることで、バルーン型に凝固剤を付着させて、バルーン型を凝固剤により被覆した。
【0179】
その後、凝固剤で被覆されたバルーン型を、オーブンから取り出し、上述した熟成後のラテックス組成物に15秒間浸漬した。次いで、このバルーン型を、室温で10分間風乾してから、60℃の温水中に5分間浸漬して水溶性不純物を溶出させて、バルーン型にディップ成形層を形成した。その後、バルーン型に形成したディップ成形層を、オーブンにより温度120℃、30分間の条件で加熱することにより架橋させた後、室温まで冷却し、タルクを散布してからバルーン型から剥離して、得られた成形体を、楕円球状部が中央に位置し、かつ、全長が15mmになるように切断して、膜厚が0.25mmである目的の医療用バルーンを得た。そして、得られた医療用バルーンについて、上記方法にしたがって、寸法変化率および耐久性の各評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1においては、分散剤の配合量は、カルボキシ変性を行う前の合成ポリイソプレン100部に対する量を記載した。
【0180】
実施例2
ラテックス組成物を調製する際に、製造例1で得られたカルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-1)のラテックスに代えて、製造例2で得られたカルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-2)のラテックス(カルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-2)換算で100部)を使用した以外は、実施例1と同様に医療用バルーンを製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0181】
比較例1
ラテックス組成物を調製する際に、製造例1で得られたカルボキシ変性合成ポリイソプレン(A-1)のラテックスに代えて、製造例1で得られた合成ポリイソプレンのラテックス(e)(合成ポリイソプレン換算で100部)をそのまま使用した以外は、実施例1と同様に医療用バルーンを製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0182】
比較例2
ラテックス組成物を調製する際に、キサントゲン化合物としてのイソプロピルキサントゲン酸亜鉛2部に代えて、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤およびチアゾール系加硫促進剤を合計で1.5部(ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛0.3部、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛0.5部、および2-メルカプトベンゾチアゾール亜鉛0.7部)添加した以外は、実施例1と同様に医療用バルーンを製造し、同様に評価を行った。なお、熟成前のラテックス組成物のpHは、実施例1と同様に8.0であり、得られたラテックス組成物を、30℃に調整された恒温水槽で48時間熟成した後のラテックス組成物のpHは、変化なく8.0のままであった。結果を表1に示す。
【0183】
【0184】
表1より、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスと、加硫剤と、キサントゲン化合物とを含有するラテックス組成物は、凝集物の発生が抑制されていることから安定性に優れるものであり、しかも、該ラテックス組成物を用いて製造された医療用バルーンは、人体に接触してもアレルギー症状を生じさせ難く、膨張収縮繰り返し後のバルーン寸法変化率が小さく、バルーン耐久性に優れるものであった(実施例1,2)。
【0185】
一方、カルボキシ変性共役ジエン系重合体のラテックスに代えて、カルボキシ変性をしていない合成ポリイソプレンのラテックスを用いて得られたラテックス組成物は、凝集物の発生量が多く、安定性に劣るものであり、さらに、該ラテックス組成物を用いて製造された医療用バルーンは、バルーン耐久性に劣るものであった(比較例1)。
また、キサントゲン化合物に代えて、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤およびチアゾール系加硫促進剤を配合した場合には、得られたラテックス組成物を用いて製造された医療用バルーンは、人体に接触するとアレルギー症状を生じさせ易く、膨張収縮繰り返し後のバルーン寸法変化率が大きく、バルーン耐久性に劣るものであった(比較例2)。
【符号の説明】
【0186】
1…型
2…円筒部
3…楕円球状部