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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-07
(45)【発行日】2023-02-15
(54)【発明の名称】時計用調速装置
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/00 20060101AFI20230208BHJP
   G04C 3/00 20060101ALI20230208BHJP
   G04C 10/00 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
G04B17/00 Z
G04C3/00 L
G04C10/00 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019181422
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2021056159
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 俊成
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-61175(JP,A)
【文献】国際公開第2015/029697(WO,A1)
【文献】特許第3908387(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
G04C 1/00 - 99/00
H02N 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ぜんまいの力によって回転し、指針を回転させる香箱と、
輪列を介して前記香箱と連結されており、前記香箱から伝達される力によって周期的な運動をする運動体と、
帯電膜および前記帯電膜と対向する電極を有し、かつ前記帯電膜および前記電極のうち何れか一方が前記運動体に配置されて前記運動体と共に運動し、前記帯電膜および前記電極のうち他方が固定されている静電誘導部と、
前記帯電膜と前記電極との間で作用する静電気力によって前記運動体の運動周期を制御する制御部と、
を備える
ことを特徴とする時計用調速装置。
【請求項2】
前記帯電膜は、前記運動体に配置されており、
前記電極は、前記運動体の運動経路に沿って配置された複数の電極であり、
前記制御部は、前記電極と前記帯電膜との間で作用する静電気力によって前記運動体の運動周期を制御する
請求項1に記載の時計用調速装置。
【請求項3】
複数の前記電極を備え、
複数の前記電極は、第一電極と、第二電極とを有し、
前記制御部は、前記第一電極と前記第二電極とを電気的に遮断することにより前記運動体に対する制動力を調整する
請求項1または2に記載の時計用調速装置。
【請求項4】
複数の前記電極を備え、
複数の前記電極は、第一電極と、第二電極とを有し、
前記制御部は、前記第一電極と前記第二電極とを電気的に接続することにより前記運動体に対する制動力を調整する
請求項1から3の何れか1項に記載の時計用調速装置。
【請求項5】
複数の前記電極と、充電部と、を備え、
前記制御部は、複数の前記電極を前記充電部を介して蓄電部に接続することにより前記運動体に対する制動力を調整する
請求項1から4の何れか1項に記載の時計用調速装置。
【請求項6】
更に、蓄電部を備え、
前記制御部は、前記蓄電部から一部の前記電極に対して電圧を印加することにより前記運動体に対する制動力を調整する
請求項1から5の何れか1項に記載の時計用調速装置。
【請求項7】
前記運動体は、回転軸に固定されており、前記回転軸を回転中心として回転する板状の回転体であり、
前記帯電膜は、前記回転体の回転方向に沿って前記回転体の一面に配置されたエレクトレット膜であり、
前記電極は、前記回転体の前記一面と対向する位置に前記回転体の回転方向に沿って配置されている複数の固定電極である
請求項1から6の何れか1項に記載の時計用調速装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記運動体に対して制動力を作用させる期間と、前記運動体に対して実質的に制動力を作用させない期間と、の割合を調節することにより前記運動体の運動周期を制御する
請求項1から7の何れか1項に記載の時計用調速装置。
【請求項9】
更に、前記運動体の運動周期を検出する検出手段を備え、
前記制御部は、前記検出手段の検出結果に応じて前記運動体に対して制動力を作用させる期間と、前記運動体に対して実質的に制動力を作用させない期間と、の割合を変化させる
請求項8に記載の時計用調速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計用調速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、時計において調速を行なう技術がある。特許文献1には、ゼンマイから輪列を介して伝達される機械的エネルギを変換して電気的エネルギを供給する発電機と、輪列に結合された指針と、電気的エネルギにより駆動されて発電機の回転周期を制御する回転制御手段とを備える電子制御式機械時計が開示されている。特許文献1の発電機は、ロータ、ステータ、コイルブロックから構成される電磁式の発電機である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3908387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁式の発電機は、大きな部材であるコイルブロックを有する。このため、電磁式の発電機を用いる場合、時計において部品を配置する自由度が低下し、サイズ的に厚く、大型な時計になりやすい。
【0005】
本発明の目的は、従来の電磁式の発電機と比較して薄型、小型であり、部品の配置における自由度を向上させることができる時計用調速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の時計用調速装置は、ぜんまいの力によって回転し、指針を回転させる香箱と、輪列を介して前記香箱と連結されており、前記香箱から伝達される力によって周期的な運動をする運動体と、帯電膜および前記帯電膜と対向する電極を有し、かつ前記帯電膜および前記電極のうち何れか一方が前記運動体に配置されて前記運動体と共に運動し、前記帯電膜および前記電極のうち他方が固定されている静電誘導部と、前記帯電膜と前記電極との間で作用する静電気力によって前記運動体の運動周期を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る時計用調速装置は、帯電膜および電極を含む静電誘導部と、制御部と、を有する。帯電膜および電極のうち何れか一方が運動体に配置されて運動体と共に運動し、帯電膜および電極のうち他方が固定されている。制御部は、帯電膜と電極との間で作用する静電気力によって運動体の運動周期を制御する。本発明に係る時計用調速装置は、大きな部材である電磁式の発電機を用いず、薄型で小型な設計自由度の高い静電誘導変換機を用いて発電および運動体の運動周期を制御する。よって、本発明に係る時計用調速装置を用いた時計は、部品の配置における自由度を向上させることができ、小型、薄型化を実現できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係る時計の概略構成を示す図である。
図2図2は、実施形態に係る時計の動力伝達部を示す図である。
図3図3は、実施形態に係る静電誘導部の断面図である。
図4図4は、実施形態に係る静電誘導部の概略構成図である。
図5図5は、実施形態に係る時計のブロック図である。
図6図6は、実施形態に係る制御部の詳細を示すブロック図である。
図7図7は、実施形態に係る制御回路の詳細を示す図である。
図8図8は、実施形態の回転検出回路を説明する図である。
図9図9は、実施形態の静電誘導部を説明する図である。
図10図10は、オープン状態の静電誘導部による制動を説明する図である。
図11図11は、実施形態に係る静電誘導部の発電状態を示す図である。
図12図12は、発電状態の静電誘導部による制動を説明する図である。
図13図13は、実施形態に係る静電誘導部の短絡状態を示す図である。
図14図14は、静電誘導部が短絡状態である場合の回転体の回転を示す図である。
図15図15は、電圧印加状態の静電誘導部による制動を説明する図である。
図16図16は、実施形態に係る時計用調速装置の動作を示すフローチャートである。
図17図17は、実施形態に係る調速制御の一例を示す図である。
図18図18は、実施形態に係る調速制御の他の例を示す図である。
図19図19は、実施形態に係る調速制御の更に他の例を示す図である。
図20図20は、制動期間における静電誘導部の状態の選択方法を説明する図である。
図21図21は、実施形態に係る調速設定の一例を示すフローチャートである。
図22図22は、実施形態の第1変形例に係る加速制御を説明する図である。
図23図23は、実施形態の第2変形例に係る回路構成を示す図である。
図24図24は、実施形態の第2変形例に係る調速制御を示す図である。
図25図25は、実施形態の第3変形例に係る時計の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係る時計用調速装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
[実施形態]
図1から図21を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、時計用調速装置に関する。図1は、実施形態に係る時計の概略構成を示す図、図2は、実施形態に係る時計の動力伝達部を示す図、図3は、実施形態に係る静電誘導部の断面図、図4は、実施形態に係る静電誘導部の概略構成図、図5は、実施形態に係る時計のブロック図、図6は、実施形態に係る時計用調速装置のブロック図、図7は、実施形態に係る時計用調速装置の回路構成例を示す図、図8は、実施形態の回転検出回路を説明する図、図9は、実施形態の静電誘導部を説明する図、図10は、オープン状態の静電誘導部による制動を説明する図、図11は、実施形態に係る静電誘導部の発電状態を示す図、図12は、発電状態の静電誘導部による制動を説明する図、図13は、実施形態に係る静電誘導部の短絡状態を示す図、図14は、静電誘導部が短絡状態である場合の回転体の回転を示す図、図15は、電圧印加状態の静電誘導部による制動を説明する図、図16は、実施形態に係る時計用調速装置の動作を示すフローチャート、図17は、実施形態に係る調速制御の一例を示す図、図18は、実施形態に係る調速制御の他の例を示す図、図19は、実施形態に係る調速制御の更に他の例を示す図、図20は、制動期間における静電誘導部の状態の選択方法を説明する図、図21は、実施形態に係る調速設定の一例を示すフローチャートである。
【0011】
図1および図2に示すように、実施形態に係る時計100は、ぜんまい15を運針の動力源とする機械式時計である。時計100は、香箱2、指針10、増速輪列20、および静電誘導部3を有する。指針10は、秒針11、分針12、および時針13を有する。秒針11、分針12、および時針13は、増速輪列20を介して香箱2と連結されており、香箱2の回転と連動して回転する。
【0012】
図2に示すように、香箱2の内部には、ぜんまい15が収容されている。ぜんまい15は、指針10を回転させる動力源である。ぜんまい15の一端は香箱真14に接続され、ぜんまい15の他端は香箱2に接続されている。香箱真14は、時計100の筐体によって回転不能に支持されている。香箱2は、香箱真14を回転中心として香箱真14に対して相対回転する。香箱2は、巻き上げられたぜんまい15が発生する動力によって回転する。香箱2の外周面には、歯車が設けられ、増速輪列20に動力が伝達されている。
【0013】
増速輪列20は、第一回転軸21、第二回転軸22、および第三回転軸23を有する。第一回転軸21には、二番車24が固定されている。第二回転軸22には、カナ25および三番車26が固定されている。第三回転軸23には、カナ27および四番車28が固定されている。増速輪列20には、増速輪列20との間で動力を伝達する回転軸31が連結されている。回転軸31には、カナ32および回転体33が固定されている。
【0014】
第一回転軸21の二番車24は、香箱2の歯車およびカナ25と噛み合っている。二番車24およびカナ25によって、第一回転軸21の回転が増速されて第二回転軸22に伝達される。第二回転軸22の三番車26は、カナ27と噛み合っている。三番車26およびカナ27によって、第二回転軸22の回転が増速されて第三回転軸23に伝達される。第三回転軸23の四番車28は、カナ32と噛み合っている。四番車28およびカナ32によって、第三回転軸23の回転が増速されて回転軸31に伝達される。
【0015】
分針12は、第一回転軸21に連結されている。分針12は、例えば、第一回転軸21に固定されており、第一回転軸21の回転速度と同じ速度で回転する。秒針11は、第三回転軸23に連結されている。秒針11は、例えば、第三回転軸23に固定されており、第三回転軸23の回転速度と同じ速度で回転する。なお、時針13は、減速輪列を介して第一回転軸21と連結されている。
【0016】
図3および図4に示すように、時計用調速装置1に含まれる静電誘導部3は、回転体33および固定子34を有する。固定子34は、回転不能なように筐体等に対して固定されている。本実施形態の回転体33および固定子34の形状は、円盤形状である。ただし、固定子34の形状は、円盤形状以外の形状であってもよく、例えば、矩形などの形状でもよいし、固定子34自体が、他の部品が固定されている基板そのものであってもよい。固定子34は、回転軸31の軸方向において回転体33と対向している。固定子34は、回転体33に対して隙間をあけて配置されている。
【0017】
静電誘導部3は、回転体33に配置されたエレクトレット膜35、固定子34に配置された第一電極37、および固定子34に配置された第二電極38を有する。回転体33は、シリコン基板、電極面が設けられたガラスエポキシ基板、あるいはアルミ板などの基板材料により形成された円盤形状の部材である。
図4aに示すように、回転体33において、固定子34と対向する面には、複数のエレクトレット膜35が形成されている。エレクトレット膜35は、帯電膜であり、回転軸31を中心とする回転方向に沿って等間隔で配置されている。エレクトレット膜35は、エレクトレット材料で構成されている薄膜である。本実施形態のエレクトレット膜35は、マイナスの電位に帯電している。回転体33には、隣接するエレクトレット膜35の間に貫通孔36が形成されている。
【0018】
本実施形態の時計100は、ユーザが回転体33を視認できるように構成されている。例えば、文字板における回転体33と対向する位置に開口部が設けられている。本実施形態の時計100は、回転体33が回転している様子をユーザに見せることで、装飾的な効果を奏することができる。また、時計100は、調速がなされていることをユーザに視覚的に感じさせることができる。
【0019】
図4bに示すように、固定子34には、複数の第一電極37および複数の第二電極38が配置されている。第一電極37および第二電極38は、回転体33の回転方向、つまり運動経路に沿って交互に配置されている。複数の第一電極37は、第一配線G1によって相互に電気的に接続されている。複数の第二電極38は、第二配線G2によって相互に電気的に接続されている。
【0020】
図5に示すように、本実施形態の時計用調速装置1は、香箱2と、蓄電部5と、制御部9と、増速輪列20と、静電誘導部3と、回転検出回路7と、整流回路8と、降圧回路54と、を有する。蓄電部5は、蓄電および放電が可能な二次電池である。香箱2は、発生する動力を増速輪列20、静電誘導部3、指針10へと伝達する。回転体33は、香箱2から伝達された動力によって回転する運動体である。制御部9は、回転体33の回転速度を制御する調速制御を行なう回路である。静電誘導部3は、調速機能および発電機能を有する。回転検出回路7は、回転体33の回転速度や回転周期を検出する回路である。整流回路8および降圧回路54は、静電誘導部3において発電された電力を蓄電部5に充電する充電部19を構成している。
【0021】
図6に示すように、静電誘導部3は、制御部9の制御回路6を介して、回転検出回路7、および整流回路8と接続可能である。制御部9は、制御回路6と、水晶振動子51aと、分周/発振回路51と、起動設定回路53と、初期化回路52と、を有する。分周発振回路51は、水晶振動子51aを発振させてクロック信号CKおよび基準信号fsを出力する。制御回路6には、分周発振回路51からクロック信号CKおよび基準信号fsが入力される。
【0022】
回転検出回路7は、第一電極37と第二電極38の間に発生する電位の変化に基づいて回転体33の回転速度や回転周期を検出する。回転検出回路7は、回転体33の回転速度や回転周期を示す周波数信号FG1を制御回路6に出力する。本実施形態の周波数信号FG1は、1秒間における回転体33の回転数[Hz]を把握するための信号である。整流回路8は、第一電極37の電位と第二電極38の電位との電位差によって発生する交流電圧を直流電圧に整流する。降圧回路54は整流回路8から出力される高電圧の電力を蓄電部5に充電する上で適正な電圧まで降圧し、蓄電部5へ充電する。
【0023】
蓄電部5は、回転検出回路7、制御部9、降圧回路54等に対して電力を供給する。分周/発振回路51は水晶振動子51aの振動によって源信を作成する発振回路と発振回路から出力される基準信号fsを分周する分周回路を有する。分周/発振回路51は、基準信号fsと、基準信号fsを分周したクロック信号CKを制御回路9と起動設定回路53に出力する。
【0024】
初期化回路52は、電源復帰信号SRを出力する回路である。初期化回路52は、例えば、蓄電部5の電圧Vが低下した状態から、電圧Vがシステム起動電圧V1以上に変化すると起動設定回路53、制御回路6に対して電源復帰信号SRを出力する。
【0025】
制御回路6は、電源復帰信号SRが入力され時、図7に図示する切替回路62を切り替えて静電誘導部3の出力を充電部19から回転検出回路7に設定し、回転検出回路7から周波数信号FG1を出力させる。
起動設定回路53は、電源復帰信号SRおよび周波数信号FG1に基づいて起動信号を出力する。例えば、起動設定回路53は、電源復帰信号SRおよび周波数信号FG1のうち少なくとも一方が入力されていない場合、起動信号を出力しない。一方、起動設定回路53は、電源復帰信号SRおよびクロック信号CKの両方が入力されている場合に、起動信号を出力する。制御回路6は、起動信号が入力されると起動し、制御動作を開始する。
【0026】
図7に示すように制御回路6は、ブレーキ量判定部61と、切替回路62と、コントロール回路65と、を有する。切替回路62は、第一切替手段62a、第二切替手段62b、第一接点63a、第二接点63b、第三接点63c、第四接点63d、第五接点63e、第六接点64a、第七接点64b、および第八接点64cを有する。第一切替手段62aは、第一配線G1を複数の接点63a,63b,63c,63d,63eのいずれかと接続する。第二切替手段62bは、第二配線G2を複数の接点64a,64b,64cのいずれかと接続する。
【0027】
第一接点63aは、回転検出回路7に接続されている。第二接点63bは、蓄電部5の正極に接続されている。第三接点63cは、整流回路8に接続されている。第四接点63dは、蓄電部5の負極に接続され、第五接点63eはどの電位とも接続しない接点である。第六接点64aは、整流回路8に接続されている。第七接点64bは、蓄電部5の負極に接続され、第八接点64cは、どの電位とも接続しない接点である。
【0028】
第一切替手段62aが第一接点63aに接続され、第二切替手段62bが第七接点64bに接続されている場合、第一配線G1が回転検出回路7に接続され、第二配線G2が蓄電部5の負極に接続される。つまり、図8に示すように、第一電極37が回転検出回路7に接続され、第二電極38が接地された状態となる。回転検出回路7は、波形整形回路71および周波数計測回路72を有する。
【0029】
波形整形回路71は、第一電極37の電位波形を整形して出力する回路である。波形整形回路71は、例えば、容量性カップリングを行うフィルタと、アンプおよびコンパレータを有し、第一電極37と蓄電部5の負極に発生する交流波形を矩形波にして出力する。周波数計測回路72は、第一電極37の電位の変動周期を計測する回路である。周波数計測回路72は、バンドパスフィルタを通過したパルス波のパルス数をカウントして周波数信号FG1を生成する。周波数信号FG1は、回転体33の現在の回転速度や回転周期に対応する値である。周波数計測回路72は、周波数信号FG1を制御回路6等に出力する。以下の説明では、第一切替手段62aが第一接点63aに接続され、第二切替手段62bが第七接点64bに接続されているときの状態を「回転検出状態」と称する。
【0030】
図9を参照して、本実施形態について更に説明する。図9に示すように、切替回路62において、第一切替手段62aが第五接点63eに接続され、第二切替手段62bが第八接点64cに接続されている場合、図9に示すように、第一電極37と第二電極38とが遮断され、静電誘導部3が開回路となる。以下の説明では、第一切替手段62aが第五接点63eに接続され、第二切替手段62bが第八接点64cに接続されているときの静電誘導部3の状態を「オープン状態」と称する。
【0031】
オープン状態では、図10に示すように、エレクトレット膜35が第一電極37上にある場合、第一電極37はプラスに帯電し、エレクトレット膜35に対して吸引力F1を作用させる。第二電極38は、例えば、マイナスに帯電してエレクトレット膜35に対して反発力F2を作用させる。このように第一電極37とエレクトレット膜35との間で作用する静電気力の大きさや向きと、第二電極38とエレクトレット膜35との間で作用する静電気力の大きさや向きとが異なることで、コギングが発生し、回転体33が加減速される。この加減速による変動の影響が主に軸摩擦負荷として増加することで回転体33に対して制動力が作用する。
【0032】
第一切替手段62aが第三接点63cに接続され、第二切替手段62bが第六接点64aに接続されている場合、図11に示すように、第一電極37および第二電極38が整流回路8を介して接続される。整流回路8は、第一電極37と第二電極38との間に流れる電流を整流して降圧回路54に出力する。降圧回路54は、整流回路8側の電圧を降圧して蓄電部5側に出力し、蓄電部5に蓄電する。つまり、第一切替手段62aが第三接点63cに接続され、第二切替手段62bが第六接点64aに接続されている場合、静電誘導部3で発電した電力は整流回路8、降圧回路54を介して蓄電部5に充電される。以下の説明では、第一切替手段62aが第三接点63cに接続され、第二切替手段62bが第六接点64aに接続されているときの静電誘導部3の状態を「発電状態」と称する。
【0033】
図12に示すように、発電状態では、切替回路62を介して第一電極37、第二電極38が整流回路8と接続される。エレクトレット膜35が第一電極37上にある場合、第一電極37は、エレクトレット膜35に対して吸引力F1を作用させる。第二電極38は、例えば、マイナスに帯電してエレクトレット膜35に対して反発力F2を作用させる。従って、整流回路8による発電時に、回転体33に対して制動力が作用する。発電状態において回転体33に作用する制動力の大きさは、発電した電力が蓄電部5に蓄積されるため、オープン状態で第一電極37、第二電極38間に発生する電位差よりも発電状態の第一電極37、第二電極38間に発生する電位差の方が小さくなるため、オープン状態において回転体33に作用する制動力の大きさと比較して小さい。
【0034】
第一切替手段62aが第四接点63dに接続され、第二切替手段62bが第七接点64bに接続されている場合、図13に示すように、第一配線G1と第二配線G2とが短絡される。すなわち、第一電極37と第二電極38とが等電位となる。以下の説明では、第一切替手段62aが第四接点63dに接続され、第二切替手段62bが第七接点64bに接続されているときの静電誘導部3の状態を「短絡状態」と称する。図14に示すように、短絡状態では、第一電極37と第二電極38との間に電位差が生じないことで、コギングが発生せず、回転体33に対して実質的に制動力が作用しない。また、エレクトレット膜35に対して静電気力による回転方向への吸引力F1も反発力F2も実質的に作用しない。なお、本実施形態では短絡したときの第一電極37および第二電極38の電位は蓄電部5の負極の電位になっているが、第一配線G1と第二配線G2とが短絡されていれば、どのような電位でもよい。本実施形態では、周波数信号FG1を生成する回転検出状態や後述の「電圧印加状態」を共用できることから、第一電極37の接続先である第四接点63dと第二電極38の接続先である第七接点64bを蓄電部5の負極の電位としている。
【0035】
第一切替手段62aが第二接点63bに接続され、第二切替手段62bが第七接点64bに接続されている場合、図15に示すように、第一電極37が蓄電部5の正極と接続され、第二電極38が蓄電部5の負極と接続される。従って、第一電極37に対して、蓄電部5から電圧が印加される。第一電極37がエレクトレット膜35に対して作用させる吸引力F1の大きさは、蓄電部5から第一電極37に対して印加される電圧の大きさに比例する。以下の説明では、第一切替手段62aが第二接点63bに接続されているときの静電誘導部3の状態を「電圧印加状態」と称する。電圧印加状態において回転体33に作用する制動力の大きさは、オープン状態における制動力の大きさと比較して大きくなる。
【0036】
このように、本実施形態の静電誘導部3は、回転体33に作用させる制動力の大きさを四段階に切り替えることが可能である。短絡状態では、制動力の大きさが最も小さく、回転体33に対して実質的に制動力が作用しない。また、発電状態、オープン状態、電圧印加状態の順に回転体33に作用する制動力の大きさが大きくなる。
【0037】
本実施形態の時計用調速装置1の動作について、図16および図17を参照して説明する。図16に示すフローチャートは、時計用調速装置1の動作の流れを示すものである。時計用調速装置1の各回路は、図16のフローチャートに示す動作を実行するように構成されている。本実施形態の時計用調速装置1は、制御回路6からの指令がない場合に発電状態となるように構成されている。すなわち、制御回路6が起動する前は、第一切替手段62aが第三接点63cに接続され、整流回路8において発電される電力が蓄電部5に充電される。
【0038】
図16のフローチャートは、例えば、ぜんまい15が巻き上げられ、発電が開始されたときに行なわれる動作である。ステップS10において、時計用調速装置1は、蓄電部5の電圧Vがシステム起動電圧V1以上であるか否かを初期化回路52によって判定する。ステップS10の判定は、例えば、初期化回路52から電源復帰信号SRが出力されているか否かの判定である。電源復帰信号SRが出力されている場合、起動設定回路53が動作し、コントロール回路65が起動し、肯定判定となってステップS20に進み、電源復帰信号SRが出力されていない場合、ステップS10の判定が繰り返される。
【0039】
ステップS20において、コントロール回路65は切替回路62を図8の回転検出状態に設定し、ブレーキ量判定部61は回転検出回路7から出力される周波数信号FG1から回転体33の回転周期を測定し、ステップ30に移行する。
【0040】
ステップS30において、ブレーキ量判定部61は、回転体33の回転周期として一定周期以上の回転数が得られているか判定を行い、回転体33の回転周期として一定周期以上の回転数が得られている場合はステップS40に移行し、ブレーキ量判定部61は、回転体33の回転周期として一定周期以上の回転数が得られていない場合はステップS20の前に移行し、再び、回転体33の回転周期を測定する。上記の一定周期は、例えば、回転体33の回転周期を調速する必要がある下限の速度に対応する周期である。
【0041】
ブレーキ量判定部61は、回転検出回路7から取得する周波数信号FG1と、基準信号fsとの比較によってステップS30の判定を行なう。本実施形態の基準信号fsは、分周発振回路51が生成する信号であり、基準回転周期に対応する周波数[Hz]の信号である。基準回転周期は、例えば、秒針11が一分間に一回転するときの回転体33の回転周期である。ステップS30の判定は、例えば、起動設定回路53が有する比較回路によってなされる。
【0042】
ステップS40において、コントロール回路65は、ブレーキ量判定部61に対して回転検出回路7から周波数信号FG1を取得、測定する指示を与える。ステップS40が実行されると、ステップS50に進む。なお、ステップS40において回転周期が測定されるごとにステップS30の判定がなされてもよい。
【0043】
ステップS50において、コントロール回路65は、ブレーキ量判定部61に対して調速設定の計算を行なう指示を与える。調速設定の計算は、ブレーキ量判定部61によって実行される。ブレーキ量判定部61は、周波数信号FG1と基準信号fsとの比較結果に基づいて調速設定の設定値を決定する。調速設定の設定値は、例えば、回転体33の回転速度を発電状態やオープン状態、電圧印加状態にすることによって遅くする制動期間PBと、回転体33の回転速度をオープン状態にすることによって遅くさせない非制動期間PNとの割合である。図17に示すように、制御回路6は、一回の制御期間PSにおいて、制動期間PBおよび非制動期間PNを設定する。制御期間PSは、例えば、一定である。制動期間PBおよび非制動期間PNは、可変である。
【0044】
制御期間PSにおいて、制動期間PBの割合が大きくなるほど回転体33に対する実効制動力が大きくなる。実効制動力は、制御期間PSにおいて回転体33に対して作用した制動力の大きさの平均値である。一方、制御期間PSにおいて、非制動期間PNの割合が大きくなるほど回転体33に対する実効制動力が小さくなる。ブレーキ量判定部61は、下記式(1)で示す差分ΔFに基づいて調速設定の設定値を決定する。
ΔF=FG1-fs…(1)
【0045】
ブレーキ量判定部61は、差分ΔFが大きいほど制御期間PSにおける制動期間PBの割合を大きくする。つまり、ブレーキ量判定部61は、回転体33の回転速度が速いほど下記式(2)の比率P1を大きくする。一方、ブレーキ量判定部61は、差分ΔFが小さいほど制御期間PSにおける制動期間PBの割合を小さくする。つまり、回転体33の回転速度が小さいほど比率P1が小さくされる。ステップS50が実行されると、ステップS60に進む。
P1=PB/PS…(2)
【0046】
ステップS60において、コントロール回路65は、ブレーキ量判定部61から比率P1を取得し、調速を実行する。コントロール回路65は、決定した比率P1に応じて切替回路62を制御する。コントロール回路65は、制動期間PBにおいて、切替回路62をオープン状態とする。これにより、回転体33に対して制動力を作用させる。一方、コントロール回路65は、非制動期間PNにおいて、切替回路62を短絡状態とする。これにより、回転体33に対して実質的に制動力を作用させない状態となる。ステップS60が実行されると、ステップS40に進む。
【0047】
なお、ブレーキ量判定部61は、図18に示すように、制動期間PBにおいて静電誘導部3をオープン状態としてもよい。ブレーキ量判定部61は、図19に示すように、制動期間PBにおいて静電誘導部3を電圧印加状態としてもよい。
【0048】
制動期間PBにおいて静電誘導部3を発電状態、オープン状態、および電圧印加状態の何れとするかは、適宜決定される。例えば、ブレーキ量判定部61は、差分ΔFの大きさに応じて制動期間PBにおける静電誘導部3の状態を決定してもよい。この場合、ブレーキ量判定部61は、図20に示すように、差分ΔFが大きい場合に静電誘導部3を電圧印加状態とし、差分ΔFが小さい場合に静電誘導部3を発電状態としてもよい。また、ブレーキ量判定部61は、差分ΔFの大きさが中程度である場合に静電誘導部3をオープン状態としてもよい。
【0049】
この場合、例えば、図21のフローチャートで示すように比率P1が決定されてもよい。図21に示すフローチャートは、例えば、図16のステップS50に代えて実行される。ステップS110において、ブレーキ量判定部61は、差分ΔFが大きいか否かを判定する。例えば、差分ΔFが閾値Ft1以上である場合にステップS110で肯定判定がなされる。ステップS110で肯定判定がなされるとステップS120に進み、否定判定がなされるとステップS130に進む。
【0050】
ステップS120において、ブレーキ量判定部61は、制動期間PBにおける静電誘導部3の状態として、電圧印加状態を選択する。ステップS120が実行されると、ステップS160に進む。
【0051】
ステップS130において、ブレーキ量判定部61は、差分ΔFが小さいか否かを判定する。例えば、差分ΔFが閾値Ft2以下である場合にステップS130で肯定判定がなされる。閾値Ft2は、閾値Ft1よりも小さな値である。ステップS130で肯定判定がなされるとステップS140に進み、否定判定がなされるとステップS150に進む。
【0052】
ステップS140において、ブレーキ量判定部61は、制動期間PBにおける静電誘導部3の状態として、発電状態を選択する。ステップS140が実行されると、ステップS160に進む。
【0053】
ステップS150において、ブレーキ量判定部61は、制動期間PBにおける静電誘導部3の状態として、オープン状態を選択する。ステップS150が実行されると、ステップS160に進む。
【0054】
ステップS160において、ブレーキ量判定部61は、比率P1を決定する。ブレーキ量判定部61は、差分ΔFが大きい場合、差分ΔFが小さい場合よりも比率P1を大きくする。例えば、ステップS110で肯定判定がなされて電圧印加状態が選択された場合、閾値Ft1に対して差分ΔFが大きいほど比率P1が大きくされる。
【0055】
ブレーキ量判定部61は、蓄電部5の電圧Vに応じて制動期間PBにおける静電誘導部3の状態を決定してもよい。例えば、ブレーキ量判定部61は、蓄電部5の電圧Vが低い場合、制動期間PBにおける静電誘導部3の状態として、発電状態を選択してもよい。この場合、例えば、静電誘導部3を発電状態とすることを前提に比率P1が決定される。ブレーキ量判定部61は、蓄電部5の電圧Vが低下していない場合、差分ΔFの大きさに基づいて制動期間PBにおける静電誘導部3の状態を選択してもよい。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の時計用調速装置1は、香箱2と、静電誘導部3と、制御部9と、を有する。香箱2は、ぜんまい15の力によって回転し、指針10を回転させる。静電誘導部3は、回転体33および固定子34を有する。回転体33は、運動体の一例である。回転体33は、増速輪列20を介して香箱2と連結されている。回転体33は、香箱2から伝達される力によって周期的な運動をする。静電誘導部3は、エレクトレット膜35と、エレクトレット膜35と対向する第一電極37および第二電極38と、を有する。エレクトレット膜35は、帯電膜の一例である。エレクトレット膜35および第一、第二電極37,38のうち、一方が回転体33に配置されて回転体33と共に運動し、他方が固定子34に固定されている。本実施形態では、エレクトレット膜35が回転体33に配置されており、第一、第二電極37,38が固定されている。
制御部9は、エレクトレット膜35と第一、第二電極37,38との間で作用する静電気力によって回転体33の運動周期を制御する。実施形態の制御部9は、エレクトレット膜35と第一、第二電極37,38との間で作用する吸引力F1や反発力F2によって回転体33の回転周期を制御するものである。
【0057】
回転体33及び固定子34が備えるエレクトレット膜35、および第一、第二電極37,38は、従来の電磁式の発電機と比較して薄型、小型であり、回転体33の大きさも変更が容易であり、他の部品と干渉しにくいため、設計自由度が高い。よって、本実施形態の時計用調速装置1は、時計100の部品の配置における自由度を向上させることができ、薄く、小型な時計用調速装置を用いた時計を提供することできる。
【0058】
本実施形態の時計用調速装置1において、エレクトレット膜35は、回転体33に配置されている。複数の第一、第二電極37,38は、回転体33の移動経路に沿って固定子34に配置された固定電極である。制御部9は、第一、第二電極37,38とエレクトレット膜35との間で作用する静電気力によって回転体33の回転周期を制御する。このような構成とすることで、第一、第二電極37,38と制御回路6や整流回路8との間の配線が簡素化される上、作用する静電気力による効率の良い制動制御が可能となる。
【0059】
本実施形態の複数の電極は、第一電極37と第二電極38とを有する。制御部9は、第一電極37と第二電極38との導通を電気的に遮断することにより回転体33に対する制動力を調整する。第一電極37と第二電極38とが電気的に遮断されることで、第一電極37と第二電極38との間に電位差が生じ、回転体33に対して制動力が作用する。
【0060】
本実施形態の制御部9は、第一電極37と第二電極38とを電気的に接続することにより回転体33に対する制動力を調整する。第一電極37と第二電極38とが電気的に接続されることで、第一電極37と第二電極38との間に電位差が生じないため、回転体33に対して実質的に制動力が作用しない状態が実現される。
【0061】
本実施形態の時計用調速装置1は、更に、充電部19としての整流回路8および降圧回路54と、蓄電部5とを有する。制御部9は、第一電極37および第二電極38を充電部19を介して蓄電部5に接続し、静電誘導部3に発生した電力を整流回路8、降圧回路54を介して蓄電部5に充電することにより回転体33に対する制動力を調整する。第一電極37および第二電極38が整流回路8を介して接続されることにより、第一電極37と第二電極38との間に電位差が生じ、回転体33に対して制動力が作用するため、充電しながら回転体33に制動力をかけることが出来る。
【0062】
本実施形態の時計用調速装置1は、更に、蓄電部5から第一電極37に対して電圧を印加することにより回転体33に対する制動力を調整する。第一電極37および第二電極38のうち第一電極37に対して電圧が印加されることで、回転体33に対して制動力が作用する。
【0063】
本実施形態の運動体は、回転軸31に固定されており、回転軸31を回転中心として回転する板状の回転体33である。また、帯電膜は、回転体33の回転方向に沿って回転体33の一面に配置されたエレクトレット膜35である。複数の電極37,38は、回転体33の一面と対向する位置に回転体33の回転方向に沿って配置されている固定電極である。
【0064】
本実施形態の制御部9は、回転体33に対して制動力を作用させる制動期間PBと、回転体33に対して実質的に制動力を作用させない非制動期間PNと、の割合を調節することにより回転体33の回転周期を制御する。制動期間PBおよび非制動期間PNを調節することで、所望の制動力が実現される。
【0065】
本実施形態の時計用調速装置1は、更に、回転体33の運動周期を検出する回転検出回路7を有する。制御部9は、回転検出回路7の検出結果に応じて制動期間PBと、非制動期間PNと、の割合を変化させる。従って、回転体33の回転周期を精度よく制御することが可能となる。
【0066】
[実施形態の第1変形例]
実施形態の第1変形例について説明する。図22は、実施形態の第1変形例に係る加速制御を説明する図である。静電誘導部3は、回転体33に対して、静電気力による加速力を作用させてもよい。この場合、静電誘導部3は、エレクトレット膜35の回転位置を検出する位置検出部を有することが望ましい。静電誘導部3は、検出された回転位置に応じて、第一電極37をプラスに帯電させ、エレクトレット膜35に対して加速方向の吸引力を作用させる。例えば、図22に示すように、エレクトレット膜35が第一電極37に近づいているときに蓄電部5が第一電極37に接続される。これにより、第一電極37は、回転体33を加速させる向きの吸引力F3をエレクトレット膜35に作用させることができ、香箱2のぜんまい15がほどけて香箱2から伝達される力が弱くなった時に本変形例を実施することによって時計の歩進時間を延長できる。
【0067】
[実施形態の第2変形例]
実施形態の第2変形例について説明する。上記実施形態では回転周期を測定する期間(図16のステップS20)と制動期間PB、非制動期間PNが別の期間であった。これに対して、実施形態の第2変形例では、図23のように整流回路8からの出力を波形整形回路71に入力することによって、発電された電力を蓄電部5に充電しながら、回転体33の回転周期検出が可能となっている。つまり、回転周期の測定と発電とを同時に行なうことができる。図24は、図23の構成を用いた場合に係る調速制御の一例を示す図であり、回転周期を測定する期間(ステップS20)が制動期間PBと同期間にできるため、充電効率を高めることが出来る。
なお、第1実施形態では図16に示すフローチャートではステップS10において蓄電部5の電圧Vがシステム起動電圧V1以上であるか否かを初期化回路52によって判断していたが、実施形態の第2変形例の場合、発電された電力を蓄電部5に充電しながら、回転体33の回転周期検出が可能なことからステップS10の判断を行わず、ステップS20、S30の回転体33の回転周期が一定周期以上であるかの判断だけ行って、ステップS40へ移行することによってシステム起動電圧判断回路の削減を行うことによって時計の小型化を図っても良い。
【0068】
[実施形態の第3変形例]
実施形態の第3変形例について説明する。図25は、実施形態の第3変形例に係る時計の概略構成を示す図である。静電誘導部3の配置は、上記実施形態で例示した配置には限定されない。静電誘導部3の回転体33は、輪列を介して香箱2と連結されていればよい。回転体33は、例えば、図25に示すように指針10と香箱2との間に連結されてもよい。図25に示す時計100は、第一増速輪列20Aおよび第二増速輪列20Bを有する。回転体33は、第一増速輪列20Aを介して香箱2と連結され、第二増速輪列20Bを介して指針10と連結されている。香箱2と回転体33との間の増速比は、所望の制動力、所望の発電量、所望の発電電圧等を実現できるように、適宜定められる。
【0069】
[実施形態の第4変形例]
実施形態の第4変形例について説明する。回転体33の回転周期を検出する手段は、回転検出回路7には限定されない。例えば、回転検出回路7に代えて、増速輪列20の回転周期を検出する検出回路が設けられてもよい。あるいは、整流回路8における発電電圧に基づいて回転体33の回転周期が検出されてもよい。
【0070】
ブレーキ量判定部61は、調速制御において、短絡状態、発電状態、オープン状態、および電圧印加状態を任意に組み合わせることができる。例えば、連続する複数の制御期間PSにおいて、制動期間PBにおける静電誘導部3の状態を異ならせてもよい。一例として、一回目の制御期間PSの制動期間PBにおいて静電誘導部3を発電状態とし、二回目の制御期間PSの制動期間PBにおいて静電誘導部3をオープン状態としてもよい。また、ブレーキ量判定部61は、一回の制御期間PSに複数の制動期間PBを設けてもよい。この場合に、複数の制動期間PBにおいて、静電誘導部3の状態を互いに異ならせてもよい。
【0071】
上記実施形態において、第一電極37および第二電極38が回転体33に配置され、エレクトレット膜35が筐体の側に固定されてもよい。つまり、帯電膜および電極のうち一方が運動体に配置され、他方が筐体の側に固定されていればよい。
【0072】
静電誘導部3によって調速される運動体は、回転体33には限定されず、周期的な運動をするものであればよい。例えば、運動体は、回転方向に沿って周期的な反復運動をするものであってもよい。運動体は、直線方向に沿って周期的な反復運動をするものであってもよい。
【0073】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 時計用調速装置
2 香箱
3 静電誘導部
5 蓄電部
6 制御回路
7 回転検出回路
8 整流回路
9 制御部
10 指針
11:秒針、 12:分針、 13:時針
14 香箱真
15 ぜんまい
20 増速輪列
21:第一回転軸、 22:第二回転軸、 23:第三回転軸 24:二番車、
25:カナ、 26:三番車、 27:カナ、 28:四番車
31 回転軸
32 カナ
33 回転体
34 固定子
35 エレクトレット膜
36 貫通孔
37 第一電極
38 第二電極
51 分周発振回路
51a 水晶振動子
52 初期化回路
53 起動設定回路
54 降圧回路
61 ブレーキ量判定部
62 切替回路
62a:第一切替手段、 62b:第二切替手段
63a:第一接点、 63b:第二接点、 63c:第三接点、 63d:第四接点、 63e:第五接点
64a:第六接点、 64b:第七接点、 64c:第八接点
68 配線
100 時計
fs 基準信号
FG1 周波数信号
ΔF 差分
G1 第一配線
G2 第二配線
P1 比率
PS 制御期間
PB 制動期間
PN 非制動期間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25