(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-09
(45)【発行日】2023-02-17
(54)【発明の名称】低減された硬化温度を有するクロムを含まないシリケート系セラミック組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 1/02 20060101AFI20230210BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230210BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20230210BHJP
C23C 22/74 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
C09D1/02
C09D7/61
C09D5/08
C23C22/74
(21)【出願番号】P 2021517248
(86)(22)【出願日】2018-10-19
(86)【国際出願番号】 US2018056615
(87)【国際公開番号】W WO2020081093
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-03-26
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500092413
【氏名又は名称】プラクスエア エス.ティ.テクノロジー、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベロヴ、イリナ
(72)【発明者】
【氏名】コペランド、デリル
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-512484(JP,A)
【文献】特開昭50-121326(JP,A)
【文献】特表2007-516309(JP,A)
【文献】特開2014-095069(JP,A)
【文献】特開2011-084677(JP,A)
【文献】特開2007-327001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,C23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上にコーティングを生成するための水性スラリー組成物であって、
リチウムがドープされた珪酸カリウムの水溶液を含む結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、前記結合剤と、
前記結合剤に組み込まれたアルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末と、
ナノサイズの酸化セリウムコロイド溶液を含む硬化触媒と、を含む、水性スラリー組成物。
【請求項2】
前記アルミニウム粉末及び前記結合剤、又は前記アルミニウム合金粉末及び前記結合剤が、一液型組成物として含有される、請求項1に記載の水性スラリー組成物。
【請求項3】
前記ナノサイズの酸化セリウムコロイド溶液が、前記結合剤と前記アルミニウム粉末との前記混合物とは別
個に保存され
ている、請求項1に記載の水性スラリー組成物。
【請求項4】
前記スラリー中の前記リチウムがドープされた珪酸カリウム、及びアルミニウム又はアルミニウム合金粉末が、約0.12:1~0.50:1のシリケートと前記アルミニウム又は前記アルミニウム合金粉末との重量比で含有される、請求項1に記載の水性スラリー組成物。
【請求項5】
基材上にコーティングを生成するための水性スラリー組成物であって、
リチウムがドープされた珪酸カリウムの水溶液を含む結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、前記結合剤と、
アルミニウム又はアルミニウム合金粉末と組み合わせた亜鉛粉末と、
ナノサイズの酸化セリウムコロイド溶液を含む硬化触
媒と、を含む、水性スラリー組成物。
【請求項6】
前記スラリー中の前記アルミニウム又はアルミニウム合金粉末が、粒子径分布の50パーセンタイルが約4~7マイクロメートルの直径を有し、粒子径分布の90パーセンタイルが約11.5~15.5マイクロメートル以下の直径を有することを特徴とする、前記粒子径分布を含む、請求項5に記載の水性スラリー組成物。
【請求項7】
前記ナノサイズの酸化セリウムコロイド溶液が、前記アルミニウム粉末又は前記アルミニウム合金粉末と組み合わせた前記亜鉛粉末を有する前記結合剤とは別
個に保存され
ている、請求項5に記載の水性スラリー組成物。
【請求項8】
前記リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤が、前記スラリー中で、前記アルミニウム又は前記アルミニウム合金粉末と組み合わせた前記亜鉛粉末を含み、Al/Znの重量比が、約8:1~1:1である、請求項5に記載の水性スラリー組成物。
【請求項9】
前記亜鉛粉末が、Al/Znの所定の重量比で前記結合剤に組み込まれ、前記アルミニウム又は前記アルミニウム合金粉末が、前記結合剤と前記アルミニウム又は前記アルミニウム合金粉末との所定の重量比で前記結合剤に組み込まれる、請求項5に記載の水性スラリー組成物。
【請求項10】
基材用コーティン
グであって、
クロムを含有しないセラミックマトリックスであって、前記マトリックスが、シリケート結合剤によって形成され、前記シリケート結合剤が、リチウムでドープされたケイ酸カリウムである、前記マトリックスと、
前記マトリックス内に埋め込まれた複数のアルミニウム含有粒子と、
セリウム含有化合物であって、前記セリウム含有化合物が、前記セラミックマトリックスにセリウム含有相として含浸された、前記セリウム含有化合物と、を含む、コーティン
グ。
【請求項11】
前記セリウム含有相の少なくとも一部分が、前記アルミニウム含有粒子の表面に沿って分布する、請求項10に記載のコーティン
グ。
【請求項12】
前記セリウム含有相が、前記コーティングの深さの実質的な部分に沿って延在する、請求項10に記載のコーティン
グ。
【請求項13】
前記セリウムが、エネルギー分散型X線分光法(EDS)分析によって決定される場合、硬化した前記コーティングの約4~約7原子重量%の量の範囲である、請求項10に記載のコーティン
グ。
【請求項14】
前記セリウムが、EDS分析によって決定される場合、バニシングされた前記コーティングの約3~約8原子重量%の量の範囲である、請求項10に記載のコーティン
グ。
【請求項15】
基材用コーティン
グであって、
クロムを含有しないセラミックマトリックスであって、前記マトリックスがシリケート結合剤によって形成され、前記シリケート結合剤が、リチウムでドープされたケイ酸カリウムである、前記マトリックスと、
前記マトリックス内に埋め込まれた複数のアルミニウム含有及び亜鉛含有粒子と、
セリウム含有化合物であって、前記セリウム含有化合物が前記セラミックマトリックスにセリウム含有相として含浸された、前記セリウム含有化合物と、を含む、コーティン
グ。
【請求項16】
前記セリウム含有相の少なくとも一部分が、前記アルミニウム含有及び/又は前記亜鉛含有粒子の表面に沿って分布する、請求項15に記載のコーティン
グ。
【請求項17】
前記セリウム含有相が、前記コーティングの深さの実質的な部分に沿って延在する、請求項15に記載のコーティン
グ。
【請求項18】
基材上にコーティングを
形成するための方法であって、
リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、前記結合剤と、
前記結合剤と前記アルミニウム含有粉末との所定の重量比で前記結合剤中に組み込まれたアルミニウム含有粉末と、を含む、水性一液型スラリーを提供することと、
前記水性一液型スラリーを、前記基材の表面上に塗布することと、
前記水性一液型スラリーの前記塗布層を、ナノサイズの酸化セリウムのコロイド溶液で処理して、ベースコート層を形成することと、
前記ベースコート層を硬化させることと、を含む、方法。
【請求項19】
前記ベースコート層の前記硬化が、約
260℃未満で生じる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記水性一液型スラリーを、前記ナノサイズの酸化セリウムの前記コロイド溶液で処理する前に、前記水性一液型スラリーを乾燥させる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
基材上にコーティングを
形成するための方法であって、
リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、前記結合剤と、
前記結合剤とアルミニウム含有粉末との所定の重量比で前記結合剤中に組み込まれた前記アルミニウム含有粉末と、
前記アルミニウム含有粉末と亜鉛含有粉末との所定の重量比で前記結合剤中に組み込まれた前記亜鉛含有粉末と、を含む、水性一液型スラリーを提供することと、
前記水性一液型スラリーを、前記基材の表面上に塗布することと、
前記水性一液型スラリーの前記塗布層を、ナノサイズの酸化セリウムのコロイド溶液で処理して、ベースコート層を形成することと、
前記ベースコート層を硬化させることと、を含む、方法。
【請求項22】
前記ベースコート層の前記硬化が、約
204℃未満で生じる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
基材上にコーティングを
形成するための方法であって、
リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、前記結合剤と、
アルミニウム含有粉末であって、前記結合剤と前記アルミニウム含有粉末との所定の重量比で前記結合剤中に組み込まれた前記アルミニウム含有粉末と、を含む、水性一液型スラリーを提供することと、
ナノサイズの酸化セリウムのコロイド溶液を、前記水性一液型スラリーに導入して、混合物を形成することと、
前記混合物を、前記基材の表面上に塗布して、ベースコート層を形成することと、
前記ベースコート層を硬化させることと、を含む、方法。
【請求項24】
前記水性一液型スラリーが、亜鉛含有粉末を更に含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロムを含まない新規なシリケート系スラリー配合物、並びに優れた耐食性及び耐熱性を示し、従来のクロメート含有コーティングに取って代わることが可能である新規な保護コーティングの生成に好適である方法に関する。本発明のコーティングは、350~450°Fの低い温度で完全な硬化を達成することが可能であり、したがって、コーティングを、温度感受性ベース材料、例えば、超高強度鋼、チタン、及びアルミニウム合金上に塗布するのに特に好適にする。
【背景技術】
【0002】
クロム系アルミニウム-セラミックコーティング組成物は周知であり、非常に耐食性で耐熱性であるコーティングを形成する業界標準として、数十年にわたって検討されている。40年以上前に発行されたAllenによる米国特許第3,248,251号(「Allen特許」)は、接着性及び可撓性を保持しながら、腐食、熱、及び磨耗に対する耐性を示すアルミニウム-セラミッククロム系コーティングの能力を認識及び記載している。そのような属性は、様々な用途で広く使用されているアルミニウム-セラミックコーティングを作製し続けている。今日、これらのコーティングは、様々な航空機エンジン、着陸ギア、及び高温及び腐食環境に供される他の構成要素を保護するために、航空機産業における、他社製部品組み込み製品製造販売会社(OEM)によって信頼されている。国防総省(DoD)デポ施設はまた、アルミニウム-セラミックコーティングを、それらの製造の一部として、非常に必要とされる品目に使用している。加えて、産業用発電、自動車、及び様々な他の産業は、高性能保護コーティングとしてアルミニウム-セラミックコーティングを日常的に使用している。
【0003】
従来のアルミニウム-セラミックコーティングは、金属アルミニウム粉末で充填されるクロメート-ホスフェート結合剤からなる。硬化すると、結合剤は、アルミニウム粉末粒子が埋め込まれるマトリックスを形成する。マトリックスは、コーティングに機械的一体性を提供すると同時に、クロメート不動態化アルミニウム顔料網目構造は、効率的な腐食保護を付与する。乾燥グリット又はガラスビーズブラストによるAl-充填コーティングのバニシングによって、コーティングが圧縮されて、全ての鋼に対して、導電性、ガルバニック活性、及び犠牲(すなわち、カソード保護)にする。SermeTel W(登録商標)は、これらの種類のコーティングの性能標準として、一般的に業界で認識されている。特定の用途及び使用条件に応じて、コーティングを単独で使用して、適切な腐食保護を提供し得る。代替的に、コーティングは、トップコーティング及び/又はシーラーで封止されるベースコートとして機能するオーバーレイシステムの一部として利用され得る。
【0004】
アルミニウム-セラミックコーティングの最適な性能を達成するために、500°F以上、好ましくは600°F~650°Fの温度でコーティングを硬化させることが推奨される。完全に硬化していないコーティングは、機能性能の欠陥、例えば、基材への概して不十分な接着性、及び概して不十分な層間接着性、耐食性の低下、湿潤環境及び腐食環境におけるコーティングブリスタなどを示す傾向がある。
【0005】
しかしながら、場合によっては、適用可能な基準を満たし得るコーティングを形成するために、コーティングが比較的高い硬化温度で完全に硬化することを防止する、化学的性質及び/又は利用される基材の材料の種類によって主に課される温度処理限界が存在する。例としては、SermeTel(登録商標)コーティングに必要な通常の硬化温度に曝露することができない材料から構成される構成要素が挙げられる。機械的特性を維持し、そのような温度感応性ベース材料の機能特性の損傷及び劣化を回避するために、様々な用途において、多くの高強度鋼、チタン合金、及び熱処理アルミニウム合金には、より低い硬化温度が必要である。
【0006】
超高強度マルテンサイト鋼は、鋼熱処理プロセスによって、それらの意図される部品使用条件に最適である機械的特性の必要な組み合わせを達成するために、主にこれらの鋼に使用される焼き戻しレジームによって、課される硬化温度制限を有することが周知である。焼き戻しは、合金の硬度を減少させることによって、より強靭性を達成するために、鉄合金に適用される熱処理技術である。硬度の低減は、通常、延性の増加を伴い、それによって、金属の脆性を減少させる。これらの合金の場合、より低い焼き戻し温度によって、より硬く、より高い引張強度部品が生成される。しかしながら、これによって、延性、衝撃強度が低減され、使用温度限界、及びおそらくより低い疲労寿命ももたらされる。
【0007】
超高強度、低合金鋼の最適な引張特性、靭性特性、及び疲労特性を達成するための熱処理プロセスは、合金の化学組成に応じた正確な温度で、845~900℃の範囲の急冷、及び約200~300℃の範囲の焼き戻しからなる。特に、航空機着陸ギア、エアフレーム部品、及び極端な負荷条件下で機能する他の構成要素に優先的に使用される300M高強度鋼の場合、約300℃(すなわち、約570°F)の焼き戻し温度が推奨される。例えば、この合金を310℃(すなわち、590°F)で焼き戻しすることによって、(「Ultrahigh strength steels for aerospace applications」by W.M.Garrison,JOM,v.42,1990,pp.20-25に記載されるように、かつ「Influence of tempering temperature on mechanical properties of ultra-high strength low-alloy steels」by J.Hornikova et.al.at www.phase-trans.msm.cam.ac.uk,2005に記載されるように)55HRCの公称ロックウェル硬度が得られる。
【0008】
しかしながら、基材材料に使用される焼き戻し温度は、合金の熱曝露耐性を厳格に制限する。焼き戻しを通して達成される最適な機械的特性を維持するために、焼き戻し温度を超えることはできない。したがって、300Mから作製された構成要素上の保護コーティングの塗布及び硬化などのいかなる更なる処理も、300~310℃(すなわち、570~590°F)未満の温度で安全に実施されるべきである。OEM仕様は、275~288℃(すなわち、525~550°F)で、300M構成要素上に塗布される硬化性SermeTel(登録商標)コーティングを必要とする。他の超高強度鋼の場合、焼き戻し温度は、200~240℃(すなわち、390~460°F)まで低くし得、したがって、熱曝露耐性を約350~450°Fに制限する。
【0009】
アルミニウム合金構成要素は、ベース材料の温度耐性によって課される硬化温度制限の別の事例を表す。航空機部品で使用される航空宇宙用アルミニウム合金(例えば、ジェットエンジン用のナセルのリップスキン、翼及び尾部の前縁部など)は、概して銅を含有し、これは熱処理された場合、強度を提供する。しかしながら、アルミニウム-銅合金であるAA2219でさえ、熱耐性とみなされ、232℃(すなわち、450°F)より高い温度で強度及び歪みが失われる。したがって、そのようなアルミニウム-銅合金から作製された航空機部品の環境保護のために塗布されるいかなるコーティングシステムも、450°F未満で完全に硬化することが可能である必要がある。
【0010】
特定の化学添加剤化合物の、クロメート-ホスフェート系Al含有コーティングスラリーへの添加によって、これらのスラリーに由来する保護コーティングの完全な硬化を達成し得る、より低い硬化温度がもたらされることは、当該分野で既知である。いくつかの特許が存在し、この目的のために様々な添加剤化合物の使用を記載する、これらのうちのいくつかは、早くも1966年に付与された。
【0011】
Collins,Jr.による米国特許第3,248,249号は、上記のAllen特許に記載されているクロメート-ホスフェート系コーティング組成物の硬化温度が、コロイダルシリカ又はコロイダルアルミナ粒子などの、0.1マイクロメートル以下の粒子径を有する固体微粒子材料の添加によって、250~500°Fに低減され得ることを開示している。
【0012】
Collins,Jr.による別の米国特許第3,248,250号は、クロメート-ホスフェート系コーティング組成物の硬化温度が、アルカリ金属ケイ酸塩をこの組成物に添加することによって、低減され得ることを開示している。
【0013】
米国特許第4,319,924号において、Collins,Jr.及びKlotz,J.M.によって記載及び特許請求されているように、ジエタノールアミンの、溶解したホスフェート、溶解したジクロメート、溶解したアルミニウム、及び無機固体微粒子材料を含有する酸性水性コーティングスラリー組成物への添加によって、その水性コーティング組成物を、約180°F~約225°Fの範囲内の温度で、水不溶性コーティングに熱硬化することが可能であるようにする。硬化コーティングは、鋼に対する許容可能な接着性及び許容可能な耐食特性を示す。
【0014】
また、Lowe,J.C.et al.による米国特許第4,381,323号は、クロメート-ホスフェート系アルミニウムセラミックスラリーコーティング用の硬化温度低減構成要素として、ジエタノールアミンを用いることを記載している。
【0015】
市販のSermeTel(登録商標)984/985コーティングシステムは、開発され、いくつかのOEMによって用いられて、SermeTel(登録商標)コーティング用の通常の硬化温度に曝露することができない材料から構成される構成要素に対するガルバニック犠牲腐食保護を提供する。このシステムにおけるベースコート層はまた、第四級アンモニウム水酸化物の種類から硬化促進剤を用いるクロメート-ホスフェート系アルミニウムセラミックス組成物である。硬化促進剤は、完全な硬化温度を、最低335°F(168℃)まで低減する。この腐食防止コーティングシステムは、様々な用途において、多くの高強度鋼、チタン、及び熱処理アルミニウム合金のために、比較的長期間にわたって、当該分野において首尾よく用いられてきた。
【0016】
ShorCoat(商標)コーティングシステムは、低減した硬化温度で、SermeTel(登録商標)アルミニウムサーメットベースコートを用いる、別の市販の耐食性、耐浸食性コーティングである。このベースコートは、アルミニウム-シリコーン塗料トップコートと組み合わせて用いられる。このコーティングシステムは、腐食、浸食、及び航空機の着氷防止条件(すなわち、循環熱)で動作する、アルミニウム合金リップスキン及び他のナセル構成要素を保護するために開発されてきた。Mosser M.F.による対応する米国特許第6,171,704号は、このコーティングシステムを開示している。
【0017】
低減した硬化温度でアルミニウム-セラミックコーティングを用いることの全ての開発努力及び長年の歴史にもかかわらず、これらのコーティングの主な欠点は、コーティングスラリーが六価クロムCr(VI)を含有することである。六価クロムCr(VI)は、環境に有害な懸念材料質として特定されている。その結果、六価クロムは、EU REACH規制の最近の変更、並びにDoD、空軍、及び様々なOEMのそれぞれのポリシーに従って、撤廃の対象となっている。
【0018】
環境に有害な材料として六価クロムCr(VI)の特定に応じて、様々なCrを含まないコーティングが、潜在的な代替コーティングとして調査されてきた。しかしながら、Cr(VI)を含まない代替物の開発は、主に、500°Fより高い、好ましくは600~650°Fの硬化温度でのアルミニウム-セラミックコーティングに焦点が当てられてきた。
【0019】
例えば、Mosser et al.による米国特許第7,993,438号に開示されている1つの代替のCrを含まないコーティングは、ホスフェート系結合剤組成物を有するアルミニウムセラミックベースコート層である。Cr(VI)を含まないトップコーティングと併せて用いられる場合、コーティングは、SermeTel W(登録商標)ベースコートを有するベンチマークコーティングシステムと同等の用途特性(例えば、厚さ、粗さ、ガルバニック活性)、及び性能(例えば、塩水噴霧耐食性、耐高温熱酸化性、耐浸食性、物理的特性)を提供する。しかしながら、スタンドアローンのベースコートとして使用される場合、これらのコーティングは、ASTM B117による塩水噴霧試験において最大1000時間の試験に供される場合、スクライブ及びフィールド内に赤錆を発現させる。この手法の別の欠点は、アルミニウム金属に対する不動態化効果を有するCr(VI)種の不在下で、アルミニウム粒子とホスフェート結合剤との水系スラリー中での有意な相互作用に起因する。この有害な相互作用の結果として、ベースコートスラリーは、「一液型」組成物として維持することができず、その中で全ての構成成分は、単一の配合物に共に混合され得る。むしろ、スラリーは、結合剤及びAlが混合され得る場合、使用点まで、アルミニウム粉末が水性結合剤から分離して維持される二液型スラリーとして保管中に維持されなければならない。しかしながら、混合されたスラリーの可使時間は、わずか約8~20時間であり、それを超えると混合物の急速な劣化が観察され、これは、Al粒子の凝集に現れ、粒子径の有意な増加をもたらす。したがって、アルミニウム粒子とホスフェート結合剤との有害な相互作用を回避するために、米国特許第7,993,438号に開示されているスラリーは、あいにく、コーティング塗布の直前に共に混合され、短時間で使用されることが意図される二液型組成物のままである必要がある。これらの制限は、生産型環境において有意な欠点である。
【0020】
別の代替として、シリケート系結合剤を有するアルミニウムセラミックコーティングが検討されている。Crを含まないシリケート系結合剤の1つの種類は、概して、Klotz et al.による米国特許出願公開第2006/0166014号に記載されている。しかしながら、ベースコートの性能は、層の厚さに依存し、十分な耐食特性のためには、コーティングの厚さを少なくとも2ミルに増加させる必要がある。
【0021】
耐食性及び耐熱性を含む有利な機械的特性及び機能特性を提供し得る改善された一液型のCrを含まないコーティングの必要性は、Belov,I.らによる米国特許第9,017,464号、同第9,322,101号、及び同第9,394,448号に開示されている発明(「Belov」特許)によって首尾よく取り組まれ、それらの各々は、それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。Belov特許の各々に開示されている発明は、部分的に、航空宇宙用途にとって特に有利であるが、これらに限定されない優れた機能特性を有するコーティングを生成するために使用されるスラリー配合物に関する。
【0022】
Belov特許に開示されているスラリー配合物は、アルミニウム粉末と組み合わせて、クロムを含まないリチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤を用いる。アルミニウム又はアルミニウム合金粉末及び結合剤は、一液型組成物として含有され、その中で全ての構成成分は、所定の重量比で単一の配合物に予備混合される。一液型組成物は、先行技術の代替物と比較して、比較的長い貯蔵寿命を示すように十分に安定したままである。Belov特許に開示されているプロセスに従って基材に塗布される場合、スラリーは、連続的で、高密度であり、欠陥を含まないセラミックコーティング層を生成し、得られた組成物は、リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤、及びマトリックス内に埋め込まれた複数のアルミニウム粒子によって形成されたCr(VI)を含まないセラミックマトリックスを含む。セラミックコーティングは、改善された機能特性、特に、接着性及び可撓性を保持しながら、腐食及び熱曝露に対する耐性を示す。
【0023】
しかしながら、米国特許第9,322,101号に記載されているように、Belov特許に開示されているコーティングを、基材上に塗布するための方法は、500°Fより高い、好ましくは600~650°Fの硬化温度を利用することを含み、その硬化温度は、上記スラリーから完全に硬化したCr(VI)を含まないコーティングを生成するために用いられるべきである。これらのコーティングが低温で硬化する場合、以下でより詳細に実証されるように、不完全な硬化プロセスによって、コーティングの劣った接着性及び機能特性、例えば、塩水噴霧試験への比較的短い曝露下でさえ、高湿度に対する不十分な耐性、ブリスタ、及び層間剥離がもたらされることが、出願人らによって観察された。
【0024】
したがって、Cr系結合剤を有するアルミニウム-セラミックコーティングの特性と少なくとも同じ特性を示し得るが、500°F未満の温度で完全に硬化し得る、Crを含まない高性能コーティングに対する必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0025】
本発明は、一部では、特殊な特性を有するコーティングを生成するために使用されるスラリー配合物に関する。本発明のコーティングは、シリケート系結合剤に由来する六価クロムを含まないアルミニウム-セラミックマトリックス複合材料であり、500°F未満の温度で完全な硬化を達成し得、熱曝露温度に制限を有する材料から作製された航空宇宙部品にとって特に有益であるコーティングされた製品をもたらす。
【0026】
硬化触媒として、そのコロイド溶液の形態でのナノサイズの酸化セリウムの添加を利用することによって、スラリーに由来するセラミックコーティングを完全に硬化させることが可能となることが見出された。スラリーは、500°F未満の低温でアルミニウム粉末と組み合わせた、クロムを含まないリチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤を含む。本発明のスラリー組成物は、350~450°Fで硬化した場合、改善された機能特性、特に、接着性及び可撓性を保持しながら、腐食及び高湿度に対する耐性を示すセラミックコーティングを生成する。コーティング層は、連続的で、高密度であり、欠陥を含まない。
【0027】
第1の態様では、基材上でのコーティングの生成のための水性スラリー組成物であって、リチウムがドープされた珪酸カリウムの水溶液を含む結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、結合剤と、結合剤に組み込まれたアルミニウム粉末又はアルミニウム合金粉末と、ナノサイズの酸化セリウムコロイド溶液を含む硬化触媒と、を含む、水性スラリー組成物。
【0028】
第2の態様では、基材上でのコーティングの生成のための水性スラリー組成物であって、リチウムがドープされた珪酸カリウムの水溶液を含む結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、結合剤と、アルミニウム又はアルミニウム合金粉末と組み合わせた亜鉛粉末と、ナノサイズの酸化セリウムコロイド溶液を含む硬化触媒促進剤と、を含む、水性スラリー組成物。
【0029】
第3の態様では、基材用コーティング組成物であって、クロムを含有しないセラミックマトリックスであって、シリケート結合剤によって形成され、当該シリケート結合剤が、リチウムでドープされたケイ酸カリウムである、当該マトリックスと、当該マトリックス内に埋め込まれた複数のアルミニウム含有粒子と、セリウム含有化合物であって、セラミックマトリックスにセリウム含有相として含浸された、当該セリウム含有化合物と、を含む、コーティング組成物。
【0030】
第4の態様では、基材用コーティング組成物であって、クロムを含有しないセラミックマトリックスであって、シリケート結合剤によって形成され、当該シリケート結合剤が、リチウムでドープされたケイ酸カリウムである、当該マトリックスと、当該マトリックス内に埋め込まれた複数のアルミニウム含有及び亜鉛含有粒子と、セリウム含有化合物であって、セラミックマトリックスにセリウム含有相として含浸された、当該セリウム含有化合物と、を含む、コーティング組成物。
【0031】
第5の態様では、基材上にコーティングを塗布するための方法であって、リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、結合剤と、結合剤とアルミニウム含有粉末との所定の重量比で結合剤中に組み込まれたアルミニウム含有粉末と、を含む、水性一液型スラリーを提供することと、水性一液型スラリーを、基材の表面上に塗布することと、水性一液型スラリーの塗布層を、ナノサイズの酸化セリウムのコロイド溶液で処理して、ベースコート層を形成することと、ベースコート層を硬化させることと、を含む、方法。
【0032】
第6の態様では、基材上にコーティングを塗布するための方法であって、リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、結合剤と、結合剤とアルミニウム含有粉末との所定の重量比で結合剤中に組み込まれたアルミニウム含有粉末と、アルミニウム含有粉末と亜鉛含有粉末との所定の重量比で結合剤中に組み込まれた亜鉛含有粉末と、を含む、水性一液型スラリーを提供することと、水性一液型スラリーを、基材の表面上に塗布することと、水性一液型スラリーの塗布層を、ナノサイズの酸化セリウムのコロイド溶液で処理して、ベースコート層を形成することと、ベースコート層を硬化させることと、を含む、方法。
第7の態様では、基材上にコーティングを塗布するための方法であって、リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤であって、クロムが不在であることを特徴とする、結合剤と、アルミニウム含有粉末であって、結合剤とアルミニウム含有粉末との所定の重量比で結合剤中に組み込まれた当該アルミニウム含有粉末と、を含む、水性一液型スラリーを提供することと、ナノサイズの酸化セリウムのコロイド溶液を、水性一液型スラリーに導入して、混合物を形成することと、混合物を、基材の表面上に塗布して、ベースコート層を形成することと、ベースコート層を硬化させることと、を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本明細書は、カラーで製作された少なくとも1つの写真を含む。カラー写真(複数可)を有するこの特許又は特許公開のコピーは、必要な料金の要求及び支払いの際にオフィスによって提供される。
【0034】
本発明の目的及び利点は、全体を通して同じ番号が同じ特徴を示す添付図面と関連して、その好ましい実施形態の以下の詳細な説明からより良く理解される。
【0035】
【
図1】(a)及び(b)は、それぞれ、450°Fで2時間、及び650°Fで0.5時間硬化した、米国特許第9,017,464号に開示されているコーティング組成物の塩水噴霧性能の比較を示す写真である。
【0036】
【
図2】(a)~(d)は、各々、450°Fで2時間硬化した、シリケート硬化触媒として既知の異なる硬化促進剤を有する、米国特許第9,017,464号のリチウムがドープされた珪酸カリウム系結合剤の好ましくない結果を実証する写真である。
【0037】
【
図3】(a)及び(b)は、本発明による、450°F/2時間で硬化した、コロイダルナノセリア硬化促進剤の添加を用いた、Liがドープされた珪酸カリウム結合剤系コーティングの、それぞれ、480時間(a)及び1,720時間(b)の塩水噴霧曝露後に観察される好ましい耐食性試験結果を示す写真である。
【0038】
【
図4】(a)は、酸化Ce硬化促進剤を用いず、650°Fで30分間硬化したベースラインコーティングのデータを示す写真及びグラフであり、比較として(b)は、酸化Ce硬化促進剤を含み、450°Fで2時間硬化した本発明のコーティングのデータを示す写真及びグラフである。
【
図5】(a)及び(b)は、酸化Ce硬化促進剤を含み、450°Fで2時間硬化し、コーティング後、酸化アルミニウムグリット(220メッシュ径等級)でバニシングされた本発明のコーティング試料の、それぞれ、500倍及び1000倍の倍率での上面SEM画像である。
【0039】
【
図6】(a)及び(b)は、酸化Ce硬化促進剤を含み、450°Fで2時間硬化し、酸化アルミニウムグリット(220メッシュ径等級)でバニシングされる前(a)及びされた後(b)の本発明のコーティング試料の1000倍の倍率での断面SEM画像及びEDS分析データである。
【0040】
【
図7】酸化Ce硬化促進剤を含み、450°Fで2時間硬化し、第1のコーティング層のみが、酸化アルミニウムグリット(220メッシュ径等級)でバニシングされた後の本発明のLiがドープされた珪酸カリウム結合剤系コーティングの2000倍の倍率での断面SEM画像及びEDS分析データである。
【0041】
【
図8】(a)、(b)、(c)及び(d)は、450°Fで硬化し、塩水噴霧及び沸騰水に対する耐性を有しないコーティングの結果として、ナノサイズの二酸化チタンのコロイド溶液も、硝酸Ceの溶液のいずれも、Liがドープされた珪酸カリウム結合剤系コーティングの硬化を加速し得ないことを実証する写真である。
【0042】
【
図9】(a)及び(b)は、コロイダルナノセリア硬化促進剤の添加を用いて処理され、450°Fで2時間硬化した、本発明の実施例1のLiがドープされた珪酸カリウム結合剤系コーティング上で実施された、クロス-ハッチ及び曲げ接着性試験の結果を実証する写真である。
【0043】
【
図10】(a)、(b)、(c)、(d)は、最大1720時間にわたって塩水噴霧試験に曝露された、本発明の実施例2のコーティングを示す写真である。
【0044】
【
図11】(a)、(b)及び(c)は、本発明の実施例1のコーティング上で、沸騰水への曝露後に実施された形態、クロス-ハッチ、及び曲げ接着性試験をそれぞれ実証する写真である。
【0045】
【
図12】(a)、(b)及び(c)は、発明実施例2のコーティング上で、沸騰水への曝露後に実施された形態、クロス-ハッチ、及び曲げ接着性試験を実証する写真である。
【0046】
【
図13】(a)及び(b)は、本発明の実施例1のコーティング上で、熱曝露試験後に実施されたクロス-ハッチ、及び曲げ接着性試験の結果を示す写真である。
【0047】
【
図14】(a)及び(b)は、本発明の実施例2のコーティング上で、熱曝露試験後に実施されたクロス-ハッチ、及び曲げ接着性試験の結果を示す写真である。
【0048】
【
図15】(a)及び(b)は、本発明の実施例1のコーティング上で、エンジン燃料B試験流体中での浸漬後に実施されたクロス-ハッチ、及び曲げ接着性試験の結果を示す写真である。
【0049】
【
図16】(a)及び(b)は、本発明の実施例2のコーティング上で、エンジン燃料B試験流体中での浸漬後に実施されたクロス-ハッチ、及び曲げ接着性試験の結果を示す写真である。
【0050】
【
図17】(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の実施例4のコーティングの、沸騰水試験実施後のクロス-ハッチ接着性の結果を示す写真である。
【0051】
【
図18】(a)、(b)、(c)、(d)は、本発明の実施例4のコーティングの、1100時間の塩水噴霧曝露後の結果を示す写真である。
【0052】
【
図19】(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)は、本発明のスラリーCから生成されたコーティングを、塩水霧への異なる曝露時間で示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明の様々な要素の関連性及び機能は、以下の「発明を実施するための形態」によってより良好に理解される。しかしながら、以下に記載されるように、本発明の実施形態は、単なる例としてのものである。
【0054】
「発明を実施するための形態」は、本開示の範囲内のものとして様々な置換及び組み合わせの特徴、態様、及び実施形態を想到している。したがって、本開示は、これらの特定の特徴、態様、及び実施形態のそのような組み合わせ及び置換のうちのいずれか、又はそれらのうちの選択された1つ以上を含むように、それらからなるように、又はそれらから本質的になるように指定され得る。
【0055】
本開示全体を通して、本発明の種々の態様を範囲形式にて提示することができる。範囲形式の記載は、単に便宜上及び簡潔さのためのものであり、かつ本発明の範囲を限定するものとみなされるべきではないと理解すべきである。したがって、範囲の記載は、その範囲内の個々の数値の全てだけでなく、全ての可能な部分範囲を具体的に開示しているとみなされるべきである。例えば、1~6などの範囲の記載は、例えば1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示された部分範囲、並びにその範囲内の個々の数、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、6、並びにそれらの間の任意の全体的増分及び部分的増分を有するとみなされるべきである。これは、範囲の広さにかかわらず適用される。
【0056】
本発明の水性スラリー組成物は、例として、鉄合金、ニッケル合金、ニッケル-コバルト合金、及び他の金属(例えば、アルミニウム合金、コバルト合金など)及び非金属(例えば、セラミック)熱安定表面を含む、様々な固体基材上に保護コーティングを塗布するために使用され得る。金属基材が好ましいが、任意の固体基材が、本発明のコーティングの塗布に好適であり得、ただし、固体基材が、対応するコーティング処理温度に耐えることが可能であることを条件とする。
【0057】
本発明の一態様によるコーティングの生成のための水性スラリー組成物は、シリケート結合剤、及び所定の重量比で結合剤に組み込まれたアルミニウム、アルミニウム合金、又はアルミニウムと亜鉛粉末との組み合わせを含む。シリケート結合剤は、Crを含有せず、したがって、環境的に安全な材料である。Crを含まないシリケート結合剤は、リチウムがドープされた珪酸カリウムの水溶液である。本明細書で使用される場合、「リチウムがドープされた珪酸カリウム」とは、所定量のリチウムイオンが、シリケート構造並びに硬化シリケートマトリックス中のカリウムイオンを置換することを意味する。スラリー組成物は、ナノサイズの酸化セリウムのコロイド溶液と組み合わせて利用される。
【0058】
硬化触媒として、そのコロイド溶液の形態でのナノサイズの酸化セリウムの添加を利用することによって、500°F未満の低温でスラリーに由来するセラミックコーティングを完全に硬化させることが可能となることが、本発明において驚くべきことに見出された。本発明のスラリー組成物は、350~450°Fで硬化した場合、改善された機能特性を示すセラミックコーティングを生成する。改善された機能特性としては、接着性及び可撓性を保持しながら、腐食及び高湿度に対する耐性が挙げられる。コーティング層は、連続的で、高密度であり、欠陥を含まない。
【0059】
米国特許第9,017,464号及び同第9,322,101号に開示されているように、その中にアルミニウム粉末が組み込まれたリチウムがドープされた珪酸カリウム系結合剤を用いることによって、他のシリケート系結合剤と比較して、コーティングの機能特性(例えば、耐食性、耐食-耐熱性)、並びに構造及び接着特性の改善の相乗効果が提供される。しかしながら、完全に硬化したCr(VI)を含まないコーティングを生成するためには、500°Fより高い、好ましくは600~650°Fの温度が用いられる必要がある。
図1は、ASTM B117試験(以下、「塩水噴霧」と称される)による塩水噴霧曝露下でのこれらのコーティングの比較を示す。
図1に示されるコーティングの組成は、上記のBelov特許の好ましい実施形態に従ったものであった。650°Fで硬化したコーティングは、1,000時間超の腐食性及び湿潤試験環境に耐え得るが、450°Fで硬化した同じコーティングは、わずか24時間後にブリスタを発現させる。データは、有意に長い硬化時間であっても、450°Fの低温では、上記コーティングの完全な硬化が達成されなかったことを明確に実証しており、したがって、塩水噴霧キャビネットの湿度、塩化物含有環境において不十分な耐性をもたらす、すなわち、非常に短い曝露時間下でさえブリスタ及び層間剥離を発現させる。
【0060】
硬化プロセスが完全に完了し、不可逆である場合に、基材に許容可能な結合及び水分に対する耐性を有する固体連続フィルムにおけるシリケート系結合剤の変換が起こることは、当該技術分野において周知である。不完全な硬化プロセスは、湿気の吸収を引き起こし、それによってコーティング特性の劣化をもたらすため、不利である。
【0061】
シリケート(例えば、珪酸アルカリ)の硬化は、物理的及び化学的プロセスの同時発生であり、以下のように説明され得る2段階プロセスとして進行する。第1の工程では、非化学的に結合した水の蒸発が起こり、連続層の形成をもたらす。この層の表面は、物理的に結合した水を喪失した後に触れると乾燥しているが、湿気に敏感なままであり、より高い湿度に曝露された場合、再湿潤する傾向にある。第2の工程では、連続高分子シロキサン鎖(-Si-O-Si-)を形成する珪酸アルカリ結合剤の完全な中和及び重合が起こり、したがって、結合剤の完全な硬化を達成し、湿気に対して不透過性のシリケート系マトリックスを作製する。
【0062】
転移の第2の工程は、熱処理を通して、かつ/又は硬化促進化合物との化学反応によって達成され得る。現在、シリケート用の様々な異なる硬化促進剤が提案され、使用されている。当該技術分野において用いられる硬化促進剤は、異なる種類の無機及び有機化合物に属する。シリケートの異なる種類の硬化促進剤及びそれらの反応機構の詳細なレビューが、Voitovich V.A.によって、Polymer Science,Series D,2010,vol.3,No.3,pp.174-176,2010に提供されている。
【0063】
例えば、液体珪酸アルカリは、珪酸アルカリを中和し、したがってシリカを重合する様々な酸性又は可溶性金属化合物と反応し得る。この群の硬化触媒としては、珪酸よりも強い鉱酸及び有機酸(例えば、炭酸、ホウ酸、リン酸、硫酸、及び酢酸を含む)、無機塩、例えば、無機リン酸塩(例えば、NaH2PO4、AlPO4、ポリホスフェート)、及びアルミネートが挙げられる。
【0064】
金属酸化物(例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)は、広く使用されている珪酸アルカリ用の硬化促進化合物の別の群を構成し、その中でも、ZnOは、白色顔料としても作用するため、珪酸アルカリ系塗料に最も利用される。
【0065】
硬化促進剤としてのマイクロ及びナノサイズのシリカの使用もまた、当該技術分野において周知である。例えば、Bahri,et.al(Surface&Coatings Technology,v.254,2014,pp.305-312)に記載されているように、AA2024アルミニウム合金上のケイ酸カリウムコーティング中のコロイダルナノシリカの添加によって、形成された層の連続性及び均一性が改善され、したがってコーティングの耐食性が改善される。
【0066】
また、リチウムポリシリケート硬化の促進剤としての有機シリカネート(例えば、ナトリウムメチルシリコネートなど)は、Sear G.W.らによって、米国特許第3,549,395号に開示されている。
【0067】
更に別の種類のシリケート硬化促進剤は、当該技術分野において既知である。エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及びブチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネート(以下、それぞれ「EC」、「PC」、及び「BC」と称される)は、水性珪酸ナトリウムの硬化速度を高めることが知られている。珪酸ナトリウムが結合剤として用いられる場合、米国特許第4,416,694号に開示されているように、硬化反応の速度は、特定のアルキレンカーボネートの種類及び/又は比によって制御される。また、Clements et al.による、米国特許出願公開第2007/0079731 A1号は、最適な硬化条件を達成するために、好ましい混合物及び異なるアルキレンカーボネートの比を開示している。JEFFSOL(登録商標)ブチレンカーボネート、JEFFSOL(登録商標)プロピレンカーボネート、及び非置換JEFFSOL(登録商標)エチレンカーボネートなどの様々なアルキレンカーボネート硬化促進剤が市販されている。
【0068】
本発明のコーティング組成物を開発する過程で、出願人らは、リチウムがドープされた珪酸カリウム系結合剤の硬化温度を低減するためのその有効性について、当該技術分野において記載されている、上記の多くを含む、かなりの数の異なる硬化剤促進剤化合物をスクリーニング及び試験した。しかしながら、これらの化合物はいずれも、500°F未満の硬化温度で完全に硬化したコーティングを生成するのに有用であると、出願人らによって判定されなかった。
図2は、出願人らが試験した硬化剤促進剤のうちのいくつかの不十分な塩水噴霧結果を示す。
図2aは、いくつかの市販の供給源(Cabot Corp.のCab-O-Sil(登録商標)及びHeubachのHeucoSil(商標)CTFなど)のシリカのナノサイズ粒子の添加を示す。
図2bは、アルミナ(Evonic IndustriesのAeroxide(登録商標)Alu C&Alu 130の商標名)を利用する結果を示す。
図2cは、ヒドロキシルジルコニウムキレートを生成する水溶液中で加水分解を受けることが知られているジルコニウムトリエタノールアミン錯体(市販名称Tytan(商標)AQZ30で入手可能)を利用する結果を示し、これは、-OH基と容易に架橋して、強いゲルを形成する。
【0069】
出願人らはまた、シリケート結合剤のpHを中性付近に下げて、シリケートマトリックスのより速い架橋及び硬化を促進するために、緩衝剤として作用することが知られているアルカノールアミン、特にアミノメチルプロパノールの添加も試験したが、成功しなかった。しかしながら、観察された結果は好ましくなかった。特に、アルカノールアミン添加剤が、様々な濃度(1.0重量%~3.0重量%の範囲)で、アルミニウム粒子で充填されたリチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤のスラリー中に添加され、スラリーが、基材に塗布され、450°Fで最大16時間硬化した場合、この添加剤は、わずか48時間の塩水噴霧曝露後に、コーティングにブリスタ及び基材からの完全な層間剥離をもたらした。
【0070】
同様に、珪酸アルカリの硬化促進のために当該技術分野において既知で広く用いられているアルケン炭酸塩の試験も不成功に終わった。例えば、市販のJEFFSOL(登録商標)GCプロピレンカーボネートは、本発明のリチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤の硬化に触媒作用を及ぼすのに効率的ではなかった。本発明のスラリー中へのこの化合物の添加は、コーティングの層間接着特性に有害であることが見出された。
図2(d)に見られるように、コーティングは、沸騰水への曝露後にチョーキングし、わずか24時間の塩水噴霧への曝露後にブリスタを発現させた。
【0071】
出願人らによって実施された非常に多くの不成功に終わった全ての実験の後、出願人らは、ナノサイズの酸化セリウム粒子のコロイド溶液が、アルミニウム粒子で充填されたリチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤を含むスラリーから生成されたコーティング用の効率的な硬化促進剤として作用し、したがって、当該コーティングの硬化温度の500°F未満、例えば、400°F~450°Fの範囲への低減を可能にすることを見出して驚いた。実施例において更に実証されるように、この硬化促進剤の使用によって生成されたコーティングは、許容可能な基材への接着性、及び許容可能な層間接着性、並びに1,000時間にわたる塩水噴霧及び高湿度曝露に対する高い耐食性、沸騰水及びエンジン流体への耐性を実証した。
【0072】
図3(a)及び
図3(b)に示されるように、本発明のコーティングは、ナノセリアのコロイド溶液で処理され、450°Fで2時間硬化した場合、塩水噴霧環境において腐食に対して耐性を有した。加えて、
図3(b)は、1,720時間の塩水噴霧曝露の後に、ブリスタ及び赤錆が観察されなかったことを示す。
【0073】
上記のナノサイズの酸化セリウム硬化促進剤(すなわち、硬化触媒)を用いる本発明のスラリー組成物は、噴霧、ブラッシング、浸漬、浸漬スピニングなどによって、当該技術分野において既知の任意の数の従来の塗布技術によって基材に塗布され得る。
【0074】
本発明のシリケート結合剤は、カリウム及びリチウムを、20:1~3:1の範囲のK2O:Li2Oの比、より好ましくは15:1~4:1の範囲のK2O:Li2Oの比、最も好ましくは11:1~7:1の範囲のK2O:Li2Oの比で含有し得、全ての比は、本明細書では重量で表される。シリケートとカリウムの比、Si2O:K2Oは、2:1~6:1、より好ましくは2:1~3:1、最も好ましくは2.4:1~2.8:1の範囲であり得る。最も好ましいシリケート組成物は、2.1:1~2.6:1の範囲のSi2O:Me2Oの重量比で表され得、式中、Me2O=K2O+Li2Oである。好ましい実施形態では、アルミニウム粉末は、スラリーの総重量に対して、約20~60重量%、より好ましくは30~50重量%、最も好ましくは35~45重量%の範囲内でスラリー中に含有される。本発明のスラリー中のリチウムがドープされた珪酸カリウムとアルミニウム粉末との比、Liがドープされた珪酸K:Alは、約0.12:1~0.50:1、より好ましくは0.18:1~0.46:1、最も好ましくは0.22:1~0.37:1の範囲である。
【0075】
米国特許第9,017,464号に非常に詳細に記載されているように、本発明のスラリーに用いられるアルミニウム粒子は、球状の不活性ガス噴霧、空気噴霧、フレーク、又はこれらの混合物であり得る。アルミニウム粒子は、好ましくは、シリケート系結合剤内で相互分散するのに好適である径を有する。一実施形態では、アルミニウム粉末は、空気噴霧され、粒子径分布の50パーセンタイルが、約4~7マイクロメートルの直径を有し、粒子径分布の90パーセンタイルが、約11.5~15.5マイクロメートル以下の直径を有することを特徴とする粒子径分布を含む。別の実施形態では、球状の不活性ガス噴霧アルミニウム粉末は、粒子径分布の50パーセンタイルが、約3.9~4.5マイクロメートルの直径を有し、粒子径分布の90パーセンタイルが、約9.0マイクロメートル以下の直径を有することを特徴とする、粒子径分布を含む。本明細書に開示されるように、本発明の粒子径D50及びD90数は、粒子測定装置として、MicroTrac SRA Particle Analyzerを用いるレーザー回折技術を介して得られた。本明細書で使用される場合、「D50」は、粒子の50パーセントが中央値粒子径より小さく、50パーセントが中央値粒子径より大きい中央値粒子径を指し、「D90」は、粒子の90パーセントが90パーセンタイル粒子径より小さい90パーセンタイル粒子径を指す。
【0076】
ナノサイズのセリア粒子のコロイド溶液は、本発明のスラリーに添加される場合、500°F未満、例えば、400~450°Fの温度で完全に硬化するスラリー由来のコーティングの形成をもたらす。コロイド溶液は、様々な手段、例えば、スラリー中で直接混合することによって、又は好ましくは、最初にスラリーの層を基材上に噴霧し、層をコロイド溶液で処理し(例えば、初期スラリー層の上にコロイド溶液を噴霧することによって)、次いで、乾燥させ、最終的に得られたコーティングを硬化させることによって添加され得る。結合剤溶液は、乾燥及び低温硬化サイクル下で重合及び固化して、許容可能な機械的強度、可撓性、及び耐薬品性を有する連続マトリックスを形成する。
【0077】
ここで、本発明のコーティングの表面形態及び微細構造について説明される。走査型電子顕微鏡検査(SEM)及びエネルギー分散型X線分光法(「EDS」)分析を、本明細書で考察されるLiがドープされた珪酸K系のCrを含まないコーティングの全てについて、硬化した状態で、表面形態、微細構造、及び元素組成の調査のために実施した。
図4(a)及び4(b)は、1000倍の倍率でのコーティング表面の上面SEM画像及びEDS分析を示す。SEM画像上のマークは、元素組成データが収集された区域を示す。両方のコーティングは、Al粒子で充填されたLiがドープされた珪酸カリウムマトリックスを有する。酸化Ce硬化促進剤を含み、450°Fで2時間硬化した本発明のコーティングを示す
図4(b)の比較として、
図4(a)は、酸化Ce硬化促進剤を用いず、650°Fで30分間硬化したベースラインコーティングのデータを示す。データから見られるように、
図4bにおいて、両方のコーティングが、埋め込まれたAl粒子を有するシリケートマトリックスによって形成されるように、コーティングの全体形態は同じである一方、酸化セリウムのコロイド溶液は、その塗布中にマトリックスに含浸し、低温硬化下で、Ce含有コーティングを形成し、Ce含有相は、SEM画像上で白色として現れ、それは、コーティング全体にわたって分布するが、Al粒子の表面上に実質的に濃縮される。
【0078】
本発明の硬化したCrを含まないベースコートは、米国特許第9,017,464号に開示されているクロメート含有SermeTel W(登録商標)ベンチマークコーティング及びCrを含まないベースコーティングと同様に、導電性ではなく、したがって、バリア保護のみを提供することが可能であるが、基材へのガルバニック腐食保護を提供することは可能ではない。しかしながら、本発明のコーティングは、この目的のために当該技術分野で広く使用されている処理のうちのいずれか、例えば、低い処理圧力で、ガラスビーズを用いる、又は研磨媒体、例えば、酸化アルミニウム研磨剤を使用するバニシングなどによって導電性にされ得る。したがって、処理によって、本発明のコーティングを、下層にある基材への腐食に対してガルバニック保護をすることができる。これに関して、本発明のバニシングされたコーティングの抵抗率は、典型的には5Ω未満を測定し、これは、概して、OEM仕様によって必要とされる15Ω未満の値をはるかに下回る。バニシングされたコーティングの電気抵抗は、概して、プローブが1インチ離れてコーティングの表面上に配置された標準抵抗率計によって測定される。
【0079】
本発明のバニシングされたコーティングの微細構造はまた、バニシングプロセスによって生成されることが、当該技術分野において既知であるものにも典型的である。
図5(a)及び
図5(b)は、Al
2O
3研磨媒体を用いてバニシングされたコーティングについて、それぞれ500倍の倍率及び1000倍の倍率での上面SEM顕微鏡写真を示す。一般的に言えば、バニシング中に加圧された媒体粒子からコーティングに付与されるエネルギーは、アルミニウム粒子の形状を変化させ、それによってコーティングの緻密化を引き起こす。
図5(a、b)から見られるように、バニシングは、硬化したコーティングを圧縮し、改質コーティング層を形成する。具体的には、圧縮は、コーティング表面微細構造の実質的な変化を付与する。アルミニウム粒子は平坦化され、それによって、コーティングの緻密化及び細孔の閉鎖がもたらされる。これらの変化によって、アルミニウム粒子間の連続的な接触が提供され、それによって、コーティングを導電性にする。
【0080】
硬化し、バニシング状態のコーティング断面のSEMデータ(それぞれ、
図6(a)及び6(b))から見られるように、衝撃下でのコーティング微細構造の変化は、表面のみならず、約15~20μmの有意な深さにも生じる。
図6bのバニシングされたコーティングの高密度で、多孔性のより低い層は、基材に対する追加的なバリア保護の有益性を提供し得る。
【0081】
本発明のコーティングは、概して、0.5~3.0ミルの厚さ、好ましくは0.8~1.6ミルの厚さに塗布される。そのようなコーティングの厚さは、必要に応じて、1つの硬化サイクル又は2つ以上の硬化サイクルを有する複数の層で構成され得る。好ましくは、各層は、上記のナノセリア硬化触媒の添加を受ける。最小厚さは、基材を被覆する連続層を提供する必要性によって決定される。ベースコート層の最大厚さは、概して、多層オーバーレイシステム全体の目標又は指定された厚さによって決定される。特定の用途のための機能要件を超えるコーティングを塗布しないことは、通例であり、望ましい。例えば、タービン圧縮機用途の典型的なコーティングの厚さは、3ミル(75μm)未満であるが、一部の構成要素(例えば、圧縮機ブレード及び羽根など)上では、コーティングの厚さは、典型的には、2ミル未満であるべきである。
【0082】
研磨媒体を用いるバニシングを介する本発明のベースコートの活性化は、塗布プロセスの最終工程としてだけでなく、コーティングの第1の層を硬化させ、次いで、コーティングの第2の層を塗布して硬化させた後など、コーティング層の間でも行われ得ることを理解されたい。この場合、コーティングの第1の層は、導電性になり、したがって、ガルバニック腐食保護を提供することが可能であり、一方、コーィングの第2の層は、非導電性のままであるに留まる。結果として、全体的な犠牲活動が低減され、より長く続く。
【0083】
第1の層の塗布後にバニシングされたコーティングの微細構造の例は、コーティング断面のSEMデータ(
図7)から見られ得る。第1の層は、バニシングの結果としてはるかに高密度であり、一方、上層はより多孔質のままである。
【0084】
図6及び7のSEM断面データから見られるように、本発明の硬化コーティングでは、ナノサイズのCeO
2のコロイド溶液を用いる処理に由来するCe含有相は、コーティング深さ全体にわたって分布し、コーティングマトリックス中に埋め込まれたAl粒子の表面上で実質的に濃縮される。これは、ナノサイズの酸化セリウムのコロイド溶液の硬化促進作用の可能なメカニズムの指標となり得る。
【0085】
実際に、酸化セリウムナノ粒子含有材料は、触媒として、並びに不均質触媒反応の構造的及び電子的促進剤として、非常に注目されている。このナノセリアの高い触媒活性は、Ce
4+からCe
3+の酸化状態へのセリウム原子の容易な遷移、及びその結晶格子内の酸素空孔の形成から生じ、したがって、酸化還元反応中にCeO
2からCeO
2-x(式中、0≦x≧1)に遷移する。最近、この独自の触媒能力の多くの実験的確認及びメカニズム調査が報告されている(例えば、RSC Advances,2015,v.5,pp.97512-97519におけるPan Ni,et.al.)。水溶液中のナノセリアの自己触媒挙動も、以下のように提示されている(Can Xu,et.al,NPG Asia Materials,2014,v.6,pp.1-16によるレビュー紙を参照)。
【化1】
【0086】
本発明のコーティングの硬化促進剤としてのコロイダルナノセリアの独自の役割を確認するために、出願人らは以下の実験を実施した。最初に、ナノセリアのコロイド溶液を用いる代わりに、出願人らは実験を行い、セリアと同様の粒子径を有するチタニアTiO
2のナノサイズの粒子のコロイド溶液を使用した。別の実験では、出願人らは、ナノセリアのコロイド溶液の代わりに、硝酸Ce、Ce(NO
3)
3の溶液を用いた。両方の場合の結果は好ましくなかった。450°Fで硬化したコーティングは、比較的短い曝露時間の塩水噴霧試験後に不合格であり(
図8(a)及び8(c))、沸騰水への曝露下でも不合格であった(
図8(b)及び8(d))。したがって、出願人らは、本発明のアルミニウムが充填され、リチウムがドープされた珪酸カリウムスラリー組成物に対して硬化触媒活性を具体的に有することから、コロイダルナノセリアが独特であることを確認した。
【0087】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、出願人らは、酸化セリウムナノ粒子の上記の固有の酸化特性が、Al粒子の表面上の薄い活性酸化物-水酸化物層の可能性のあるインサイチュ形成、並びにセリア粒子とシリケート種との表面相互作用を介するシリケートマトリックスとの-Si-O-Ce-結合形成の役割を果たし、したがって、金属粒子とシリケート系高分子マトリックスとの強固な結合の形成に触媒作用を及ぼし、次に、より低温で完全に硬化するコーティングの能力をもたらすことを示唆している。
【0088】
好ましい実施形態では、本発明のスラリー組成物は、アルミニウム微粒子と組み合わされる場合、ベースコート組成物を形成するのに特に有用であるが、本発明は、任意の好適な金属微粒子の使用を企図することが認識されるべきである。例えば、様々なアルミニウム合金(例えば、アルミニウム-ケイ素、アルミニウム-銅、又はアルミニウム-マグネシウム)の微粒子は、本発明のリチウムがドープされた珪酸カリウム系結合剤と共に使用され得る。スラリー及びコーティング組成物に使用され得る他の例示的な金属粉末は、亜鉛、ニッケル、及びケイ素である。特定の種類の金属粉末の選択は、最終用途において所望される機能特性、及びこれらの金属粉末のいずれかを利用することから得られる特性を含む、多数の要因に依存し得る。
【0089】
更に、本発明において見出され、実施例によって実証されるように、亜鉛金属粒子を、Al金属粒子の代わりに部分的に使用した場合、リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤系スラリーから得られたコーティングの完全な硬化は、更に低い温度、例えば、350°Fで達成された。いかなる特定の理論に束縛されるものではないが、この発見は、活性表面酸化物層が形成され、次に、シリケートマトリックスと容易に結合するナノセリアのコロイド溶液によって容易に酸化されるZn粒子の能力によって説明され得る。
【0090】
以下に実施例において示され、考察されるように、本発明者らは、本発明のCr(VI)を含まないスラリー組成物が、ナノサイズのセリアのコロイド溶液を用いて処理される場合、500°F未満の低温で完全に硬化したコーティングを生成し、コーティングは、現在フィールドで用いられる低温硬化レガシーCr(VI)含有SermeTel(登録商標)コーティング用のOEM仕様によって定められた性能要件、例えば、500°Fを超える通常のSermeTel(登録商標)硬化温度に曝露することができない材料から構成される構成要素に対するガルバニック犠牲腐食保護を満たす。
【0091】
特に、本発明のコーティングの保護特性を評価するために、電池の特定のかなり過酷な試験を実施した。典型的には、OEM要件としては、比較的高い耐食性、ベース金属に対する犠牲(すなわち、コーティング及びスクライブされた「X」パネルは、ASTM B117塩水噴霧試験において、最大1,000時間の間、金属基材の錆を示してはならない)、並びに熱水及びエンジン流体への曝露に対する耐性が挙げられる。
【0092】
以下の実施例におけるコーティングの各々を、それぞれの基材上に塗布し、500°F未満の低温で硬化させた。具体的には、低炭素1008/1010鋼又は4130低合金鋼のパネルを、最初に、100メッシュグリットを有するグリットブラストによって表面処理した。次いで、試験されるスラリーを、パネル上に噴霧した。その後、好ましい実施形態によれば、スラリーを175°Fで15分間乾燥させ、ナノサイズのセリアのコロイド溶液で処理し、次いで、350~450°Fで硬化させて、コーティング層を形成した。
【0093】
調製されたコーティングの機械的特性及び機能特性を以下のように試験した。基材へのコーティング接着性及び層間接着性を、クロス-ハッチテープ(ASTM D3359による)、及び曲げ試験によって試験した。ASTM D3359試験方法では、1mm離れたスクライブラインのクロスカットグリッドを、基材までコーティングに切り込んだ。次いで、ASTM D3359によって定義される標準的な接着テープを、グリッドに適用し、180°角度で剥離させた。接着性を、テープによって除去されたコーティングの量によって決定した。また、クロス-ハッチ領域の光学顕微鏡評価(6倍)を実施し、非常に有益であることが分かった。曲げ試験では、0.22インチ直径のマンドレルの周囲のコーティングされたパネルの90°曲げを実施し、続いて、クラック、剥離、又は層間剥離などの任意の欠陥について屈曲部周囲の区域を評価した。
【0094】
バニシングされた(220メッシュグリット)及びスクライブされた、1010パネル上のコーティングの塩水噴霧試験を、少なくとも1000時間、場合によっては1,500時間を超えて、ASTM B117によって実施した。
【0095】
4130パネル上のコーティングの耐熱性を、850°Fで168時間試験した。
【0096】
耐熱水性試験に関しては、1010パネル上のコーティングを、沸騰H2O中に10分間配置し、次いで、冷却し、3時間風乾し、続いて、上記のようにクロス-ハッチ及び曲げ接着性試験を、上記のように実施した。
【0097】
耐燃料性試験を、燃料B流体に室温で4時間浸漬した、コーティングされた1010パネルで実施した。
【0098】
また、作動流体への耐性を、Skydrol 500中に160°Fの試験温度で100時間浸漬することによって、コーティングされたパネル上で試験した。
【0099】
本発明のスラリー及びコーティング配合物の好ましい実施形態が上記に示されたが、以下の実施例は、本発明のスラリー及びコーティングの特性及び機能をより良好に理解するための基礎を提供すること、並びにベンチマークCr(VI)を含有する低温硬化したベースコート、例えば、SermeTel(登録商標)984及びSermeTel(登録商標)1460と同等の性能を発揮する当該コーティングを実証することを意図している。しかしながら、以下の実施例は、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0100】
本発明の原理によれば、ナノサイズのセリアのコロイド溶液を、Liがドープされた珪酸カリウム結合剤系の、アルミニウム顔料充填コーティング用の硬化触媒として用いた。コロイド溶液は、約9のpH、及び20重量%のセリア粒子含有率を有し、セリア粒子の平均径は、5ナノメートル未満であった。ナノサイズの酸化セリウムコロイド溶液は、本明細書では「NCeOC」と更に称される。最初に、Liがドープされた珪酸カリウム系のCrを含まないスラリーを調製した。スラリーは、2.4:1のSi2O:Me2O重量比を有するLiがドープされた珪酸Kの水溶液を含み、ここで、Me2O=K2O+Li2Oであり、K2O:Li2Oの比=8.2:1(重量)である。スラリー中に用いられるアルミニウム粉末は、粒子径分布の50パーセンタイルが、約3.9~4.5マイクロメートルの直径を有し、粒子径分布の90パーセンタイルが、約9.0マイクロメートル以下の直径を有することを特徴とする、粒子径分布を構成する球状の不活性ガス噴霧Al粒子の形状であった。Al含有率は、スラリーの総重量に対して44重量%であり、その結果、シリケート:Alの比は、0.25:1に等しかった。スラリーを、上記のように鋼1008/1010パネル上に塗布して、コーティング層を形成した。この層を、175°Fで15分間乾燥させ、次いで、NCeOCのコロイド溶液を、この乾燥層の上に噴霧し、再度175°Fで乾燥させ、次いで、コーティングを450°Fで2時間硬化させた。上記のプロセスを繰り返して、1.3~1.6ミルの総コーティング厚さを得た。生成されたコーティングは、約22~24マイクロインチの粗さRaを有する平滑で均一な表面を示した。その後、コーティングを試験した。
【0101】
実施例1のコーティングの化学組成をEDS分析によって試験し、
図1に示されるように、同じ正確だが、NCeOCを用いないスラリーから塗布されたコーティングと比較した。
図1のコーティングは、450°Fで完全に硬化することが可能ではなかった。結果として、それらは、塩水噴霧試験への比較的短い曝露下でブリスタが発生した。
図4(a)及び
図4(b)のEDSスペクトルから見られるように、
図1のコーティングの組成は、硬化促進剤で処理された実施例1のコーティングとは異なり、それによって、実施例1のコーティングは、
図4aでは不在である追加のセリウム含有相(
図4b)を含む。
【0102】
450°Fで2時間硬化したNCeOCで処理されたコーティングの断面SEMから収集されたEDSデータによると(
図6aを参照)、異なる断面位置で測定された硬化したコーティングの組成は、約4~約7原子パーセントの量の範囲であるセリウム含有相を含む。完全な表形式の結果を、以下の表1に示す。
【表1】
【0103】
実施例1のコーティングは、クロス-ハッチ、及び曲げ接着性試験(
図9)の両方において、鋼基材への許容可能な接着性を実証し、これは、NCeOCを用いなかった
図1のコーティングよりも優れていた。
【0104】
実施例1のコーティングを、第2の層の塗布及び硬化後に、研磨媒体(220メッシュ径のAl
2O
3)を用いてバニシングした(
図6bを参照)。バニシング後の組成は、約3~約8原子パーセントの量の範囲であったセリウム含有相の含有率とかなり類似していた。完全な表形式の結果を、表2に示す。
【表2】
【0105】
耐食性試験の性能は、NCeOCで処理され、次いで低温硬化温度で硬化した本発明のコーティングについて、許容可能であることが観察された。性能結果は、同じ正確だが、NCeOCを用いないスラリーから塗布されたコーティングの性能よりも優れていた。
図3(a)及び3(b)に示されるように、実施例1のコーティングは、1,700時間を超えて塩水霧に曝露された後に、スクライブ又はフィールド内に赤錆が不在であることを実証した。コーティングのブリスタが観察されなかったため、シリケートマトリックスの完全な硬化が、450°Fの温度で達成されたことを確認した。
【実施例2】
【0106】
実施例2のコーティングを、実施例1にあるように同じLiがドープされた珪酸カリウム系のCrを含まないスラリーから塗布し、次いで、同様にNCeOCで処理し、450°Fで2時間硬化させた。この実施例では、コーティングの第1の層を硬化させた後に研磨媒体を用いてバニシングを実施し、次いで、第1の層と同様にコーティングの第2の層を塗布し、硬化させた。このコーティングの微細構造は、
図7に示される通りであった。EDS分析によれば、セリウム含有相の含有率は、コーティングの断面全体にわたって約5~約19原子パーセントの範囲であった。完全な表形式の結果を、以下の表3に示す。
【0107】
実施例2のコーティングは、基材への許容可能な接着性、及び層間接着性、並びに1700時間にわたる曝露後のブリスタ又は赤錆の発現がない、塩水霧に対する許容可能な耐性(
図10(a)、10(b)、10(c)、10(d))を実証した。表面上の犠牲腐食生成物の形成は、不良であるとみなされなかったコーティングのいくらかのより暗い変色を引き起こした。
【表3】
【実施例3】
【0108】
コーティングの機能性能が、市販のSermeTel(登録商標)984ベースコートなどのオーバーレイコーティングを含有する、低温硬化レガシーCr(VI)に関する様々なOEM仕様によって定められた要件を満たすことを検証する目的で、本発明のコーティングを更に試験した。熱水浸漬試験を実施し、そこで、実施例1及び2のコーティングを沸騰水に10分間入れ、次いで冷却し、3時間風乾し、続いてクロス-ハッチ及び曲げ接着性試験を実施した。温水浸漬試験は、コーティング硬化の完全性、並びに基材へのコーティングの接着性、及び層間接着性のいかなる欠陥も明らかにする過酷試験である。
図11(a)、11(b)、及び11(c)は、熱水浸漬試験後の実施例1のコーティングの、表面形態(40倍の倍率の光学顕微鏡)、並びにクロス-ハッチ(6倍の倍率の光学顕微鏡)、及び曲げ接着性試験の結果を示す。
図12(a)、12(b)、及び12(c)は、実施例2のコーティングに関するデータを示す。これらのデータから見られるように、本発明のコーティングは、沸騰水曝露によって影響を受けず、ブリスタ及び層間剥離は観察されず、したがって、NCeOCに使用に起因して、450°Fの低温で完全な硬化が達成されたことを確認した。
【0109】
本発明の全てのコーティングは、850°Fで168時間の熱曝露後に、コーティング色変化、ブリスタ、又は基材からの層間剥離が観察されないことを特徴とする、優れた耐熱酸化性を示したことも確認した。試験の条件を、これらの浸漬試験のベンチマークとしても使用された同じ低温で硬化させた、レガシーのCr(VI)を含有するSermeTel(登録商標)984コーティングのOEM仕様に従って設定した。本発明のコーティングを、ベンチマークと同様に実施した。
【0110】
図13(a)、13(b)、14(a)、及び14(b)は、それぞれ、実施例1及び実施例2のコーティングの熱曝露後に実施されたクロス-ハッチ(6倍の倍率の光学顕微鏡)、及び曲げ接着性試験の結果を示す。
【0111】
航空機用途におけるコーティング使用には、標準エンジン燃料に対する耐性が必要である。したがって、実施例1及び実施例2のコーティングで燃料B浸漬試験を実施した。コーティングされたパネルを、エンジン燃料B試験流体中に室温で4時間浸漬し、次いで、接着性試験に供した。
図15(a)、15(b)、16(a)、及び16(b)に示されるように、ブリスタ、破砕、又は接着性のいかなる劣化も観察されなかった。重ねて、本発明のコーティングを、上記のベンチマークコーティングと同様に実施した。
【実施例4】
【0112】
本発明において驚くべきことに見出されたように、亜鉛金属粒子を、Al金属粒子の代わりに部分的に使用した場合、リチウムがドープされた珪酸カリウム結合剤系スラリーから得られ、NCeOCで処理されたコーティングの完全な硬化を、350°F/などの更に低い温度で達成した。この発見は、以下の実施例4によって例示される。
【0113】
実施例4のコーティングを、以下のように調製した。最初に、「A」、「B」、「C」、及び「D」と呼称された、Liがドープされた珪酸カリウム系のCrを含まないスラリーを調製した。スラリーの各々は、2.4:1のSi
2O:Me
2O重量比を有するLiがドープされた珪酸Kの水溶液を含み、ここで、Me
2O=K
2O+Li
2Oであり、K
2O:Li2Oの比=8.2:1(重量)である。先の実施例1~3にあるように、同じアルミニウム粉末を、これらのスラリーに用いた。しかしながら、亜鉛粉末も、4.9~6.4マイクロメートルの範囲の径、典型的には5.5マイクロメートルの径で、スラリーに用いられた。Zn粒子を、様々なAl:Zn重量比で、Al粒子の代わりに部分的に使用した(表4を参照)。スラリーA~D中の金属粒子M=Al+Znの総含有率を、スラリーの総重量に対して約44重量%で一定に維持し、その結果、水性スラリー中のシリケート:Mの比は、約0.25:1に等しかった。
【表4】
【0114】
スラリー「A」、「B」、「C」、及び「D」の各々を、上記のように鋼1008/1010パネル上に塗布して、同様の呼称「A」、「B」、「C」、及び「D」を有する対応するコーティング層を形成した。対応するコーティング層の各々を、175°Fで15分間乾燥させ、次いで、NCeOCのコロイド溶液を、対応する乾燥層の各々の上に噴霧し、175°Fで再度乾燥させ、次いで、対応するコーティングを、350°Fで4時間硬化させた。上記のプロセスを繰り返して、各対応するコーティングについて、1.1~1.5ミルの総コーティング厚さを得た。生成されたコーティングの各々は、約30~40マイクロインチの粗さRaを有する平滑で均一な表面を示した。
【0115】
それらの対応するスラリー「A」、「B」、「C」、及び「D」から生成されたコーティング「A」、「B」、「C」、及び「D」を、続いて、沸騰水試験(すなわち、上記のような水浸漬試験)への曝露によって硬化の完全性について試験し、続いて、クロス-ハッチ及び曲げ接着性試験を行った。コーティング「A」、「B」、「C」、及び「D」の全ては、試験を合格した。コーティングの損失がない、許容可能なクロス-ハッチ接着性、屈曲部に破砕がないことによって、完全な硬化が、350°Fの低い温度で達成されたことが確認された。17(a)~(d)は、6倍の倍率の光学顕微鏡下で検査されたように、クロス-ハッチされたコーティングの結果を示す。
【実施例5】
【0116】
それらの対応するスラリーから生成された実施例4のコーティング「A」、「B」、「C」、「D」を、コーティングの各々の第2の層を硬化させた後に、実施されたAl
2O
3研磨媒体を用いたバニシングによって活性化した。次に、コーティングを、ASTM B117による耐食性について試験した。
図18(a)~(d)で実証されるように、1,100時間の曝露時間後、コーティングのいずれも、フィールド又はスクライブにおいてブリスタ又は赤錆を発現させなかった。この場合、白色の犠牲腐食生成物が、不良であるとみなされなかったコーティングの各々の表面上に形成された。
【0117】
実施例4において記載されているように、スラリーCから生成されたコーティングCを、漸増的に2,550時間までの間、塩水霧に曝露した。2,550時間の曝露は、この試験のOEM仕様の大部分によって必要とされる、概して、認識される標準曝露時間の2倍を超える。
図19(a)~(f)は、異なる曝露時間でのコーティングCを示す。データから見られるように、本発明のコーティングCは、350°F、4時間で完全に硬化し、塩水霧に対する許容可能な耐性を示し、2,550時間の曝露後であっても、フィールド又はスクライブにおいてブリスタ又は赤錆を発現させなかった。表面上で白色の犠牲腐食生成物の形成が観察されたが、全てのSermeTel(登録商標)ベースコート(レガシーCr(VI)含有ベースコートを含む)について典型的であり、Al
2O
3研磨媒体を用いたバニシングによるコーティングの活性化が、コーティングの第2の層を硬化させた後に実施される。当該技術分野において周知であり、上述したように、これらの白色の犠牲腐食生成物の形成は、不良であるとはみなされず、犠牲コーティングの塩水霧環境への曝露時間が長くなるほど、形成される犠牲腐食生成物の量が多くなる。
【0118】
本発明の特定の実施形態とみなされるものを示し、記載してきたが、当然ながら、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態又は詳細の様々な修正及び変更を容易に行うことができることが理解されるであろう。したがって、本発明は、本明細書において示され、説明される正確な形態及び詳細に限定されず、本明細書において開示され、以下に特許請求される本発明の全範囲に満たないいかなるものにも限定されないことを意図する。