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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20230213BHJP
【FI】
F16J15/34 K
F16J15/34 G
F16J15/34 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020535826
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031066
(87)【国際公開番号】W WO2020032086
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018149732
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】板谷 壮敏
(72)【発明者】
【氏名】香取 一光
(72)【発明者】
【氏名】細江 猛
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-043165(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0212503(US,A1)
【文献】米国特許第02853020(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34 - 15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに固定される固定密封環と、回転軸の高温側に設けられて前記回転軸とともに回転する回転密封環とにより、潤滑流体と高圧流体とを軸封するメカニカルシールにおいて、
前記回転軸の低温側に設けられるメカニカルシールにおける低温側の密封環よりも前記回転軸の低温側に、前記低温側の密封環同士を近接せしめるように付勢する付勢手段が配置されており、
前記高温側の回転密封環は、前記付勢手段により、前記高温側の固定密封環に向けて軸方向に付勢されているメカニカルシール。
【請求項2】
前記固定密封環には、前記固定密封環の摺動面に向け開口する流体導入路が設けられ、
前記固定密封環の摺動面または前記回転密封環の摺動面のいずれか一方には、前記流体導入路の開口に連通され周方向に延びる供給溝と、前記供給溝から前記高圧流体側に延びる動圧発生溝が形成されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記供給溝の深さは、前記動圧発生溝よりも深く形成されている請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記流体導入路、前記供給溝および前記動圧発生溝は、前記固定密封環に形成されている請求項2または3に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記供給溝は、環状に形成されている請求項2ないし4のいずれかに記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記供給溝から前記潤滑流体側に延びる動圧発生溝が形成されている請求項2ないし5のいずれかに記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記潤滑流体側に延びる前記動圧発生溝が発生させる動圧の和よりも前記高圧流体側に延びる前記動圧発生溝が発生させる動圧の和の方が大きい請求項6に記載のメカニカルシール。
【請求項8】
前記潤滑流体側に延びる前記動圧発生溝よりも前記潤滑流体側には、流体導入溝が形成されている請求項6または7に記載のメカニカルシール。
【請求項9】
前記流体導入路からは空気が導入されている請求項2ないし8のいずれかに記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を軸封するメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のメカニカルシールは、ハウジングに固定される固定密封環と、回転軸に固定され回転軸とともに回転する回転密封環とを相対回転させることにより、ハウジングと回転軸との間の隙間を軸封している。
【0003】
このようなメカニカルシールには、排気ガスや上記等の高圧流体を利用して回転する部品に用いられるものがある。例えば、自動車等のエンジンから排出される排気ガスを利用してタービンを回転させ、コンプレッサにより圧縮した空気をエンジンに過給することで出力を向上させるターボチャージャに適用されるものがある。ターボチャージャのような高速回転機器においては、回転軸を支持する軸受を潤滑油等の潤滑流体により潤滑させており、回転軸とハウジングとの間で潤滑流体を軸封するためにメカニカルシールが用いられる場合が多い。
【0004】
例えば、特許文献1に示されるメカニカルシールは、ターボチャージャにおける回転軸のタービン側、すなわち高温側に設けられ、固定密封環の摺動面および回転密封環の摺動面の内外においてエンジンから排出される高圧流体である排気ガスと潤滑流体とを軸封している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-223569号公報(第6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような高圧流体と潤滑流体とを軸封するメカニカルシールにおいては、固定密封環に向けて回転密封環を付勢する手段としてバネが用いられているが、タービン側、すなわち高温側は高圧流体である排気ガスにより高温となるため、バネが熱により劣化し、回転密封環を固定密封環に向けて付勢する付勢力を維持できず、潤滑流体側への高圧流体の侵入を長期に亘って防止することができなくなる虞があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、潤滑流体側への高圧流体の侵入を防止する効果を維持できるメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
ハウジングに固定される固定密封環と、回転軸の高温側に設けられて前記回転軸とともに回転する回転密封環とにより、潤滑流体と高圧流体とを軸封するメカニカルシールにおいて、
前記高温側の回転密封環は、前記回転軸の低温側に設けられるメカニカルシールにおける密封環同士を近接せしめるように付勢する低温側に配置された付勢手段により、前記固定密封環に向けて軸方向に付勢されている。
これによれば、高温の高圧流体が通過する高温側に配置するメカニカルシールの固定密封環に向けて回転密封環を付勢する手段として、低温側に配置された付勢手段の付勢力を利用するため、高温側に高温に耐え得るバネを配置する必要がない。そのため、回転密封環を固定密封環に向けて付勢する付勢力を維持でき、潤滑流体側への高圧流体の侵入を効果的に防止することができる。また、付勢手段は、高温側のメカニカルシールと低温側のメカニカルシールに共通となるので構造を簡素とできる。
【0009】
好適には、前記固定密封環には、前記固定密封環の摺動面に向け開口する流体導入路が設けられ、
前記固定密封環の摺動面または前記回転密封環の摺動面のいずれか一方には、前記流体導入路の開口に連通され周方向に延びる供給溝と、前記供給溝から前記高圧流体側に延びる動圧発生溝が形成されている。
これによれば、固定密封環と回転密封環の摺動面間において、固定密封環に設けられる流体導入路から導入された導入流体は、供給溝により周方向に供給された後、高圧流体側に延びる動圧発生溝に移動して動圧を発生させ、摺動面間において、供給溝よりも高圧流体側に向けて発生する流体の動圧による流体膜が形成され、潤滑流体側への高圧流体の侵入を防止することができる。
【0010】
好適には、前記供給溝の深さは、前記動圧発生溝よりも深く形成されている。
これによれば、回転軸の高速回転時において、供給溝と動圧発生溝との間の内部差圧が大きくなっても流体導入路から導入された流体が供給溝の底側に潤沢に残りやすくするため、動圧発生溝に流体を安定して供給することができる。
【0011】
好適には、前記流体導入路、前記供給溝および前記動圧発生溝は、前記固定密封環に形成されている。
これによれば、固定密封環に流体導入路、供給溝および動圧発生溝を集約して形成することで、メカニカルシールの製造が容易となる。
【0012】
好適には、前記供給溝は、環状に形成されている。
これによれば、摺動面間において、流体導入路から導入された流体が供給溝により周方向に亘り供給されやすく、かつ潤滑流体側に高圧流体が侵入し難い。
【0013】
好適には、前記供給溝から前記潤滑流体側に延びる動圧発生溝が形成されている。
これによれば、摺動面間において、供給溝よりも高圧流体側および潤滑流体側に流体により流体膜が形成されるため、高圧流体側への潤滑流体の漏れを防止するとともに、潤滑流体側への高圧流体の侵入を防止することができる。
【0014】
好適には、前記潤滑流体側に延びる前記動圧発生溝が発生させる動圧の和よりも前記高圧流体側に延びる前記動圧発生溝が発生させる動圧の和の方が大きい。
これによれば、高圧流体側への潤滑流体の漏れを防止するとともに、潤滑流体側への高圧流体の侵入を確実に防止することができる。
【0015】
好適には、前記潤滑流体側に延びる前記動圧発生溝よりも前記潤滑流体側には、流体導入溝が形成されている。
これによれば、潤滑流体側に延びる動圧発生溝と流体導入溝とが径方向に重畳しないように形成されることにより、高圧流体側への潤滑流体の漏れを防止するとともに、流体導入溝により摺動面間に潤滑流体を導入して潤滑性を高めることができる。
【0016】
好適には、前記流体導入路からは空気が導入されている。
これによれば、導入流体として空気を利用しやすいばかりか、流体導入路から導入された空気が潤滑流体と混合してもコンタミ等の影響を与え難い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1におけるメカニカルシールが使用されるターボチャージャの構造を示す断面図である。
図2】実施例1におけるメカニカルシールの構造を示す拡大断面図である。
図3】実施例1における回転密封環を摺動面側から見た図である。
図4】実施例1における固定密封環を摺動面側から見た図である。
図5】固定密封環の変形例1を示す摺動面側から見た図である。
図6】固定密封環の変形例2を示す摺動面側から見た図である。
図7】固定密封環の変形例3を示す摺動面側から見た図である。
図8】実施例2におけるメカニカルシールの構造を示す拡大断面図である。
図9】実施例2における回転密封環を摺動面側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るメカニカルシールを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0019】
実施例1に係るメカニカルシールにつき、図1から図4を参照して説明する。
【0020】
本発明のメカニカルシール1は、図示しない自動車等のエンジンに用いられるターボチャージャTに組み込まれ、潤滑流体としての潤滑油Lと高圧流体としての排気ガスGとを軸封している(図2参照)。尚、高圧流体とは、潤滑流体よりも圧力が高い流体のことを示している。
【0021】
先ず、ターボチャージャTについて説明する。図1に示されるように、ターボチャージャTは、自動車等のエンジンの排気ガスGの流れを受けて回転するタービンホイール110と、タービンホイール110の回転を伝達する回転軸としてのシャフト100と、シャフト100とともに回転し外部から取り込まれ、エンジンに吸入される空気Aを圧縮するコンプレッサホイール120と、タービンホイール110およびコンプレッサホイール120の周辺における排気ガスGおよび空気Aの流路を形成するハウジング130と、から主に構成されている。
【0022】
ハウジング130は、シャフト100が挿通される軸孔131aが形成される略円筒形状のセンタハウジング131と、センタハウジング131の軸方向左端部に接合されるタービンハウジング132と、センタハウジング131の軸方向右端部に接合されるコンプレッサハウジング133と、から構成されている。尚、タービンハウジング132およびコンプレッサハウジング133は、センタハウジング131の軸方向両端部に接合されることにより、外周側にそれぞれ排気ガスGまたは空気Aを導流するスクロール部132a,133aが形成されている。
【0023】
シャフト100には、軸方向左端にタービンホイール110、軸方向右端にコンプレッサホイール120が一体に固定されている。また、シャフト100は、センタハウジング131の軸孔131aとの間に軸方向に離間して設けられる一対のジャーナル軸受140によって、センタハウジング131に対して回転可能かつ軸方向移動可能に支持されている。さらに、シャフト100の軸方向右端部には、スラスト軸受141が固定されている。スラスト軸受141は、シャフト100が軸方向右側であるコンプレッサホイール120側に移動した場合のみ、センタハウジング131に固定される円板状のスラストプレート142の軸方向左端面に当接することにより、シャフト100の回転を阻害することなく後述するコンプレッサホイール120側のメカニカルシール2の過圧縮を防止できるようになっている。
【0024】
また、シャフト100には、一対のジャーナル軸受140およびスラスト軸受141の両側には、タービンホイール110側、すなわち高温側のメカニカルシール1(以下、単にメカニカルシール1と言うこともある。)と、コンプレッサホイール120側、すなわち低温側のメカニカルシール2(以下、単にメカニカルシール2と言うこともある。)がそれぞれ設けられている。
【0025】
このように、ターボチャージャTは、メカニカルシール1,2によって、センタハウジング131内でシャフト100を支持する一対のジャーナル軸受140およびスラスト軸受141を潤滑させる潤滑油Lを軸封し、メカニカルシール1を挟んでタービンハウジング132側でタービンホイール110を回転させるエンジンの排気ガスGを軸封し、またメカニカルシール2を挟んでコンプレッサハウジング133側で空気Aを軸封している。すなわち、メカニカルシール1,2は潤滑油Lの外周から内周方向への漏れをシールするインサイド・静止型である。尚、潤滑油LはターボチャージャTを冷却する冷却媒体としても機能している。
【0026】
次に、タービンホイール110側のメカニカルシール1について詳しく説明する。尚、コンプレッサホイール120側のメカニカルシール2は、一般的なメカニカルシールの構成であるため、詳細な説明を省略する。
【0027】
図2に示されるように、メカニカルシール1は、シャフト100に固定される円環状の回転密封環21と、センタハウジング131に固定される円環状の固定密封環31と、から主に構成され、回転密封環21の摺動面21aと固定密封環31の摺動面31aとを互いに密接摺動させることにより、センタハウジング131とシャフト100との間の隙間を軸封できるようになっている。
【0028】
回転密封環21は、メカニカルシール2を構成するバネ50(図1参照)の付勢力およびコンプレッサハウジング133内の空気Aの圧力によりシャフト100とともに固定密封環31に向けて軸方向に付勢されている。これによれば、エンジンから排出される高圧の排気ガスを吸気するタービンホイール110側で回転軸側に高圧流体の侵入を防止するメカニカルシール1を構成するにあたり、固定密封環31に向けて回転密封環21を付勢する手段として、コンプレッサホイール120側のメカニカルシール2の付勢手段としてのバネ50の付勢力を利用するため、タービンホイール110側に排気ガスに耐え得るバネを配置する必要がない。そのため、回転密封環21を固定密封環31に向けて付勢する付勢力を維持でき、潤滑流体側への高圧流体の侵入を効果的に防止することができる。尚、メカニカルシール2の付勢手段はバネに限らず、例えばゴムベローズ等であってもよい。
【0029】
回転密封環21および固定密封環31は、代表的には金属同士または金属(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0030】
回転密封環21は、軸方向左端に摺動面21aが形成されている。摺動面21aは、平坦面として構成されている。尚、本実施例において、摺動面21aとは固定密封環31の摺動面31aとの実質的な摺動部分のことを示している。また、回転密封環21の摺動面21a側には、流体導入溝14が周方向に離間して複数形成されている。図2図3に示されるように、流体導入溝14は、回転密封環21の外径側すなわち潤滑油L側と、摺動面21a側とに開口し、内径側に向けてスパイラル状に形成されており、回転密封環21の回転により、流体導入溝14の先端側、すなわち内径側に動圧を発生させ、この動圧により潤滑油Lを流体導入溝14内に引き込むように機能する。
【0031】
流体導入溝14は、その先端が固定密封環31の摺動面31aに重なるように配置されており、潤滑油Lを回転密封環21と固定密封環31の摺動面21a,31a間に導入し、摺動面21a,31a間の潤滑性を高めている。
【0032】
図2に示されるように、固定密封環31は、軸方向右端に摺動面31aが形成される基部31bと、基部31bの軸方向左端部から外径方向に延び基部31bよりも大径に形成される取付部31cと、を有する段付き円筒形状に構成され、センタハウジング131の軸孔131aの軸方向左端部に形成される取付段部131bに対して当接させた状態で固定されている。尚、センタハウジング131の取付段部131bにおいて、固定密封環31の取付部31cの外周面と当接する内周面131cには、センタハウジング131を貫通し空気Fを導入可能な貫通孔131dが設けられている。尚、貫通孔131dに導入される空気Fは、本実施例ではターボチャージャTの外側から図示しないフィルター等を通過させて清浄処理されて導入される外気であり、少なくとも排気ガスGよりも不純物の含有量が少なく、潤滑油Lと混合してもコンタミ等の影響を与え難いものである。
【0033】
また、固定密封環31には、取付部31cの外周面から摺動面31a側にかけて断面視L字状に固定密封環31を貫通する流体導入路10が形成されている。流体導入路10は、入口側の開口部10aが取付部31cの外周面に開放し前述したセンタハウジング131の貫通孔131dと連通するとともに、流体導入路の開口としての出口側の開口部10bが摺動面31a側に開放している。尚、本実施例では、開口部10bは、摺動面31aの後述する供給溝11の底部に一箇所のみ形成されている(図4参照)。
【0034】
図4に示されるように、固定密封環31には、摺動面31aの径方向略中央部に形成される環状の供給溝11と、供給溝11から内周側、すなわち高圧流体側としての高圧の排気ガスG側に延びる複数の動圧発生溝12Aと、供給溝11から外周側、すなわち潤滑流体側としての潤滑油L側に延びる複数の動圧発生溝12Bと、有している。尚、説明の便宜上、図3においては固定密封環31の摺動面31aのみを示し、取付部31cの端面の表示を省略している。
【0035】
供給溝11は、流体導入路10の開口部10bの形成位置を通るように環状に形成され、供給溝11の深さは、動圧発生溝12A,12Bの深さよりも十分に深く設定されている(図2参照)。尚、流体導入路10の開口部10bは、供給溝11の底部において動圧発生溝12A,12Bが形成されない周方向位置に形成され、動圧発生溝12A,12Bにおいて発生する動圧を阻害し難くなっている。
【0036】
動圧発生溝12A,12Bは、供給溝11の内外でそれぞれ回転密封環21の回転方向に傾いており、高圧の排気ガスG側の動圧発生溝12Aは、潤滑油L側の動圧発生溝12Bよりも周方向に幅広に形成され、径方向の長さおよび深さは略同一に設定されている。尚、本実施例に限らず、動圧発生溝12Aが動圧発生溝12Bよりも径方向に長く、或いはより深く形成してもよく、このように動圧発生溝12Aを動圧発生溝12Bよりも大型に形成することで、回転密封環21との相対回転により潤滑油L側の動圧発生溝12Bが発生させる動圧の和よりも、高圧の排気ガスG側の動圧発生溝12Aが発生させる動圧の和の方が大きくなっている。
【0037】
ターボチャージャTは、タービンの低速回転時には、流体導入溝14から導入された潤滑油Lによる摺動が主体であるのに対し、過給運転時等のタービンの高速回転時においては、流体導入溝14から導入された潤滑油に加えて流体導入路10から回転密封環21と固定密封環31の摺動面21a,31a間に導入された空気Fによる摺動となる。これによれば、タービンの高速回転時には、回転密封環21と固定密封環31の摺動面21a,31a間において、固定密封環31に設けられる流体導入路10から空気Fを導入することにより、空気Fが供給溝11により周方向に供給されるとともに、供給溝11から高圧の排気ガスG側に延びる動圧発生溝12Aに供給され内周側の端部で動圧を発生させ、摺動面21a,31a間において、流体導入路10から導入された空気Fによって供給溝11よりも高圧の排気ガスG側に流体膜が形成されるため、潤滑油L側への高圧の排気ガスGの侵入を防止することができる。また、流体導入路10から導入される空気Fは、動圧発生溝12Aに供給され内周側の端部で動圧を発生させるため、摺動面21a,31a間を離間させるとともに、流体導入溝14から導入された潤滑油Lとが混ざり合うことで、摺動面21a,31a間の潤滑性を維持することができる。
【0038】
また、供給溝11の内外にそれぞれ延びる動圧発生溝12A,12Bが形成されているため、摺動面21a,31a間において、供給溝11よりも高圧の排気ガスG側および潤滑油L側に流体導入路10から導入された流体としての空気Fにより流体膜が形成されるため、高圧の排気ガスG側への潤滑油Lの漏れを防止するとともに、潤滑油L側への高圧の排気ガスGの侵入を防止することができる。
【0039】
また、供給溝11の深さは、動圧発生溝12A,12Bよりも深く形成されているため、シャフト100の高速回転時において、供給溝11と動圧発生溝12A,12Bとの間の内部差圧が大きくなっても流体導入路10から導入された空気Fが供給溝11の底側に潤沢に残りやすくするため、動圧発生溝12A,12Bに空気Fを安定して供給することができる。
【0040】
また、固定密封環31に流体導入路10、供給溝11および動圧発生溝12A,12Bが集約して形成されるため、回転密封環21と合わせてメカニカルシール1の製造が容易となる。さらに、流体導入路10から導入される空気Fが摺動面21a,31a間を跨ぐことなく、供給溝11および動圧発生溝12A,12Bに供給されることとなるため、供給効率が高く、かつ摺動面21a,31a同士の軸合わせの精度を必要としない。
【0041】
また、供給溝11は、環状に形成されているため、摺動面21a,31a間において、流体導入路10から導入された空気Fが供給溝11により周方向に供給されやすく、かつ供給溝11が径方向に介在することにより潤滑油L側に高圧の排気ガスGが侵入し難い。
【0042】
尚、流体導入路10から導入された空気Fによって供給溝11よりも高圧の排気ガスG側に流体膜を形成することで、潤滑油L側への高圧の排気ガスGの侵入を防止する効果については達成できるため、図5の変形例1に示されるように、固定密封環31には、潤滑油L方向に延びる動圧発生溝12Bは省略してもよい。
【0043】
また、高圧の排気ガスG方向に延びる動圧発生溝22Aは、図6の変形例2に示されるように、幅狭にし、かつ周方向に配置される数を多くしてもよい。これによれば、周方向により均等に動圧を発生させることができる。
【0044】
また、動圧発生溝32Aは、図7の変形例3に示されるように、固定密封環31の内径縁部に近接させて形成されていてもよい。これによれば、流体導入路10から導入された外気により形成される流体膜を高圧の排気ガスG側に近接させ、摺動面21a,31a間に介在する潤滑油へのコンタミの影響を防止できる。
【実施例2】
【0045】
次に、実施例2に係るメカニカルシールにつき、図8図9を参照して説明する。尚、前記実施例に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0046】
図8図9に示されるように、メカニカルシールを構成する固定密封環31’には、その摺動面31a’側に開口する流体導入路10’が形成されている。一方、回転密封環21’には、摺動面21a’の径方向略中央部に形成される環状の供給溝11’と、供給溝11’から内周側、すなわち高圧流体側としての高圧の排気ガスG側に延びる複数の動圧発生溝12A’と、供給溝11’から外周側、すなわち潤滑流体側としての潤滑油L側に延びる複数の動圧発生溝12B’と、有している。そして、固定密封環31’に形成された流体導入路10’は、流体導入路の開口としての出口側の開口部10b’が摺動面31a上に開放し、且つ回転密封環21’の供給溝11’に対向し連通している。よってこのような構成であっても、流体導入路10’から供給溝11’、動圧発生溝12A’、動圧発生溝12B’に空気Fを導入することができ、実施例1と同様の効果を奏することができる。
【0047】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではない。
【0048】
例えば、前記実施例においてメカニカルシールは、インサイド・静止型のメカニカルシールを例に説明したが、摺動面の内周から外周方向へ向かって漏れようとする液体をシールする形式であるアウトサイド型のメカニカルシールにも適用可能である。
【0049】
また、前記実施例において、流体導入路10から空気F(外気)が導入される態様について説明したが、これに限らず、流体導入路10から導入される流体は、窒素ガス等の空気以外の流体であってもよい。また、流体導入路10から導入される流体は、ハウジング130の外部から取り込まれるものに限らず、例えばコンプレッサハウジング133内の空気Aが導入されてもよい。
【0050】
また、前記実施例では、流体導入路10は、摺動面31a側に一箇所のみ形成されるものとして説明したが、これに限らず、摺動面31aに複数箇所形成されていてもよく、さらに、固定密封環31には一本の流体導入路10から分岐しての複数の開口部10bが設けられる構成であってもよい。
【0051】
また、供給溝は、環状に形成されるものに限らず、周方向に分断されていてもよい。
【0052】
また、流体導入溝14は固定密封環31に形成されていてもよい。さらに、前記実施例では、流体導入溝14を備えることで、回転密封環21と固定密封環31の摺動面21a,31aに潤滑油Lを積極的に導入することで、潤滑性を向上させているが、流体導入溝14を備えずとも、流体圧力により摺動面21a,31a間に潤滑油Lを導入させることは可能であるため、流体導入溝14を省略した構成であってもよい。
【0053】
また、前記実施例においてメカニカルシールは、ターボチャージャTに組み込まれる構成で説明したが、メカニカルシールが利用される対象はターボチャージャTに限らず、排気ガスや蒸気等の高圧流体を利用して回転する部品に用いることができ、特に摺動面の内外の一方に潤滑流体を配し、固定密封環および回転密封環の摺動面間に潤滑流体を介在させることにより、潤滑性を確保しながら、摺動面の内外の他方に高圧流体が配されるような、様々な装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 メカニカルシール
10 流体導入路
10b 開口部
11 供給溝
12A 動圧発生溝
12B 動圧発生溝
14 流体導入溝
21 回転密封環
21a 摺動面
31 固定密封環
31a 摺動面
100 シャフト
F 空気
G 排気ガス(高圧流体)
L 潤滑油(潤滑流体)
T ターボチャージャ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9