(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】原子炉圧力容器のサーマルスリーブの超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/04 20060101AFI20230213BHJP
G21C 17/003 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
G01N29/04
G21C17/003 100
(21)【出願番号】P 2019035983
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145816
【氏名又は名称】鹿股 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100195718
【氏名又は名称】市橋 俊規
(72)【発明者】
【氏名】市毛 夏実
(72)【発明者】
【氏名】山本 摂
(72)【発明者】
【氏名】秋元 恵
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-100852(JP,A)
【文献】特開平11-023540(JP,A)
【文献】特開2011-027423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0284972(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
G21C 17/003
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物の表面に移動可能に設置される複数の振動子を有するフェーズドアレイ探触子と、前記フェーズドアレイ探触子に接続され検査対象領域に超音波ビームを送受信する超音波探傷部と、を備え、
前記超音波ビームを前記検査対象領域に直接到達させるように、及び前記表面と平行でない面に1回反射させて前記検査対象領域に到達させるように、前記超音波ビームの前記表面に対する探傷屈折角を順次変化させていき、当該フェーズドアレイ探触子が受信した前記検査対象領域からの反射波を解析処理することにより前記検査対象領域内の欠陥部の位置及び大きさを判別する
原子炉圧力容器のサーマルスリーブの超音波探傷方法。
【請求項2】
前記検査対象物は前記フェーズドアレイ探触子が設置される第1の面と、前記超音波ビームを反射させる第2の面と、前記検査対象領域が存在する第3の面からなり、前記第1の面は、当該第1の面から入射した超音波ビームが前記第3の面に直接到達することができる角度をW0としたとき、W0とのなす角が0度未満の面であることを特徴とする請求項1記載の
原子炉圧力容器のサーマルスリーブの超音波探傷方法。
【請求項3】
前記第1の面と第2の面との相対角度及び第1乃至第3の面の形状情報に基づいて、前記検査対象領域に所定の探傷屈折角で超音波ビームを集束させるように前記フェーズドアレイ探触子の複数の振動子の遅延時間を演算することを特徴とする請求項2記載の
原子炉圧力容器のサーマルスリーブの超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、原子炉圧力容器の給水ノズル等、狭隘部を有する構造物の超音波探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉において、原子炉圧力容器10の給水ノズル11のサーマルスリーブ12(
図7参照)は、熱応力による亀裂や腐食が発生する可能性があるため、定期的に探傷検査を行う必要がある。
炉外から超音波探傷を行う場合、例えば、単体型の超音波探触子を用いるか、又はフェーズドアレイ探触子を用いてサーマルスリーブ12の探傷試験を行っている。
【0003】
フェーズドアレイ探触子を用いた超音波探傷試験では、超音波入射面と反射面が平行な検査対象部に対し、直射又は1回反射による超音波探傷検査を行っている例がある。また、直射可能な位置からの直射及び複数回反射による超音波探傷検査も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-25676号公報
【文献】特開2006-105906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の超音波探傷方法を用いてサーマルスリーブ12の付根部Rのような狭隘部の超音波探傷を行う場合、亀裂等の欠陥部の進展角度によっては、欠陥部を検出することができない場合があり、探傷検査が不十分となるという課題があった。
【0006】
本発明の実施形態は上述した課題を解決するためになされたもので、欠陥部の進展角度にかかわらず、検査対象物の欠陥部を的確に検出することができる超音波探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本実施形態に係る原子炉圧力容器のサーマルスリーブの超音波探傷方法は、検査対象物の表面に移動可能に設置される複数の振動子を有するフェーズドアレイ探触子と、前記フェーズドアレイ探触子に接続され検査対象領域に超音波ビームを送受信する超音波探傷部と、を備え、前記超音波ビームを前記検査対象領域に直接到達させるように、及び前記表面と平行でない面に1回反射させて前記検査対象領域に到達させるように、前記超音波ビームの前記表面に対する探傷屈折角を順次変化させていき、当該フェーズドアレイ探触子が受信した前記検査対象領域からの反射波を解析処理することにより前記検査対象領域内の欠陥部の位置及び大きさを判別することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、原子炉圧力容器の給水ノズル部等の狭隘部における亀裂等の欠陥部を、欠陥部の進展角度にかかわらず的確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】本実施形態に係る超音波探傷方法の探傷フロー図。
【
図4】(a)、(b)はS1面からの超音波直射及び1回反射の場合の超音波路程を示す図、(c)、(d)はS2面からの超音波直射及び1回反射の場合の超音波路程を示す図。
【
図5】(a)は反射エコー信号を示す図、(b)は超音波路程を示す図、(c)は欠陥部を判別する際の模式図。
【
図6】フェーズドアレイ探触子から超音波ビームを検査対象領域に集束する例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る超音波探傷方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
以下の説明では、原子炉圧力容器10の給水ノズル11のサーマルスリーブ12(以下、「検査対象物」ともいう。)の付根部R(以下、「検査対象領域」ともいう。)を探傷検査する例について説明するが、同様な狭隘部を有する他の構造物に適用できることはもちろんである。
【0011】
[超音波探傷装置]
(全体構成)
本実施形態に係る超音波探傷装置は、
図1に示すように、複数の振動子2を有するフェーズドアレイ探触子1と、フェーズドアレイ探触子1との間で信号の送受信を行う超音波探傷部3と、探傷条件等の信号が入力される条件入力部6と、探傷結果を表示する表示部7と、から構成される。
【0012】
また、超音波探傷部3はフェーズドアレイ探触子1へ走査信号を出力する探触子制御部4とフェーズドアレイ探触子1からの信号が入力され、検査対象領域Rにおける欠陥部dの大きさや位置を判別する欠陥部検出部5を有する。
【0013】
本実施形態では、フェーズドアレイ探触子1は、サーマルスリーブ12の原子炉圧力容器10側の略水平状の炉外側表面(以下、「S1面」という。)及びS1面から給水ノズル11側に傾斜して延在する炉外側傾斜面(以下、「S2面」という。)に対向した状態で移動しながら探傷検査を行う。なお、フェーズドアレイ探触子1は保持部及び駆動機構を備えているが、簡略化のため図示及び説明を省略している。
【0014】
探触子制御部4は、複数個の振動子2の超音波発信タイミングを順次遅延させる、いわゆるリニア走査やセクタ走査、等の電子走査制御を行い、欠陥部検出部5は、探触子制御部4による超音波発信タイミングに対応する同様のタイミングで超音波の反射波を受信し、その反射エコーのレベルを解析することにより欠陥部dの大きさ及び位置を判別する。
【0015】
条件入力部6は、超音波探傷部3に対して種々の探傷条件(例えば、探傷屈折角を変化させる場合の変化範囲やピッチ角度等)がオペレータにより入力される。
また、表示部7は、条件入力部6に入力された探傷条件や、欠陥部検出部5による判別結果等をディスプレイに表示する。
【0016】
(サーマルスリーブの構成)
本実施形態において探傷対象物となるサーマルスリーブ12の構成について、
図2を用いて説明する。
【0017】
サーマルスリーブ12は、フェーズドアレイ探触子1が移動可能に設置される第1の面と、超音波を反射させる第2の面と、亀裂等の欠陥部dが存在する可能性がある検査対象領域Rを含む第3の面と、を有する。
【0018】
ここで、第1の面は、第1の面から入射した超音波が反射することなく第3の面に超音波直射することが可能な超音波路程W0を基準として、当該超音波路程W0とのなす角θaが0度未満の面で定義される。
したがって、
図2に示す例では、S1面全てとS2面の一部が第1の面となり、B1面は第2の面となる。
【0019】
また、本実施形態のサーマルスリーブ12は、第1の面と第2の面は平行ではなく、所定の相対角度βを有しているとともに、第1の面は複数の傾きを持つ平面から構成される。なお、第1の面は平面及び曲面から構成されてもよい。
【0020】
(探傷フロー)
次に、本発明の実施形態に係る超音波探傷方法について、
図3の探傷フロー図を用いて説明する。
【0021】
まず、ステップ1(S1)では、サーマルスリーブ12の材質、形状等を考慮して適切なフェーズドアレイ探触子1を選定し、この選定したフェーズドアレイ探触子1をS1面又はS2面に対向する位置に、保持部や駆動機構を介して各表面に対して平行に取り付ける。
【0022】
ステップ2(S2)では、条件入力部6を用いて、探傷屈折角θiを変化させる場合の変化範囲やピッチ角度等の各種探傷条件を設定する。
その際、第1の面と第2の面との相対角度β及び第1の面~第3の面の形状情報等を考慮して、検査対象領域Rの所定の位置に超音波ビームが集束するように、フェーズドアレイ探触子1の複数の振動子2の遅延時間を演算する(
図6参照)。
【0023】
ステップ3(S3)では、フェーズドアレイ探触子1の複数個の振動子2のリニア走査およびセクタ走査による超音波の発信・受信動作すなわち超音波探傷を、検査対象領域Rに対し実施する。この超音波探傷により得られた多数の波形データは欠陥部検出部5に出力される。
ステップ4(S4)では、欠陥部検出部5が波形データから検査対象領域Rに存在する亀裂等の欠陥部dの検出を行う。
【0024】
ステップ5(S5)では、欠陥部検出部5が、さらに、ビーム路程W及び探傷屈折角θi等を用いて欠陥部dの位置及び大きさを演算し欠陥部の判別・評価を行い、表示部7に表示する。
その際、表示部7では、第1の面~第3の面の形状情報を用いて、検査対象物(サーマルスリーブ12)の検査対象領域Rと欠陥部dを表示する。
【0025】
(探傷方法)
次に、上述したステップ3の動作例について具体的に説明する。
図4(a)~(d)は、ステップ3におけるフェーズドアレイ探触子1のセクタ走査の動作例であり、
図4(a)は、ビーム路程がS1面からの超音波直射の場合、
図4(b)は、ビーム路程がS1面から超音波1回反射の場合、
図4(c)は、ビーム路程がS2面からの超音波直射の場合、
図4(d)は、ビーム路程がS2面から超音波1回反射の場合をそれぞれ示している。
【0026】
まず、
図4(a)では、フェーズドアレイ探触子1が、各振動子2からの超音波ビームが検査対象領域Rを直射し得るような探傷屈折角θiでセクタ走査を行う。
次に、
図4(b)では、フェーズドアレイ探触子1が、各振動子2からの超音波ビームが検査対象領域Rに、B1面で1回反射した後に到達し得るような探傷屈折角θiでセクタ走査を行う。
【0027】
次に、
図4(c)では、フェーズドアレイ探触子1が、各振動子2からの超音波ビームが検査対象領域Rを直射し得るような探傷屈折角θiでセクタ走査を行う。
そして、
図4(d)では、フェーズドアレイ探触子1が、各振動子2からの超音波ビームが検査対象領域Rに、B1面で1回反射した後に到達し得るような探傷屈折角θiで上記と同様のセクタ走査を行う。
【0028】
すると、検査対象領域Rに欠陥部dがある場合には、セクタ走査を行っていくにつれて超音波ビームが欠陥部dを捉え、ある1つの振動子2からの超音波ビームが欠陥部dの一端側(亀裂開口位置)で反射する。
この反射波は発射波と同一の経路を逆向きに辿って同一の振動子2により受信され、反射エコー信号として欠陥部検出部5に出力される。
【0029】
(亀裂開口位置d1及び亀裂先端位置d2の演算例)
次に、
図4(c)に示すビーム路程の例に基づいて、欠陥部dの位置及び大きさを求める手法を
図5(a)~(c)を参照しつつ説明する。
【0030】
本実施形態では、欠陥部dは、亀裂開口位置がd1、亀裂先端位置がd2、亀裂の進展角度がθdとし、欠陥部dの位置及び大きさ、すなわち亀裂開口位置d1及び亀裂先端位置d2の座標を、ビーム路程W2及び探傷屈折角θiを用いて、以下のように演算する。
ここで、
図5(a)は反射エコー信号を示す図、
図5(b)は超音波路程を示す図、
図5(c)は欠陥部dの位置及び大きさを判別する際の模式図である。
【0031】
欠陥部検出部5は、反射エコー信号を収集すると、この信号波形のピーク点を亀裂開口位置d1と特定して超音波ビームの入射位置P0から亀裂開口位置d1までのビーム路程W2を演算する。
【0032】
次に、本実施形態では、欠陥部dの位置及び大きさを判別評価するために、
図5(b)、(c)に示すように、水平方向(Y方向)及び垂直方向(Z方向)の座標系を設定し、特定の基準位置からの距離Y、Zを演算する。
【0033】
この基準位置は特に限定する必要はないが、本実施形態では、Y方向の基準位置Y0を、サーマルスリーブ12のS1面とS2面の境界位置とし、Z方向の基準位置Z0をS1面の位置とする。すると、亀裂開口位置d1の位置座標は、これらY、Z方向の各基準位置からの距離により特定される。
【0034】
本実施形態において、亀裂開口位置d1の座標をd1(Yc,Zc)とし、亀裂開口位置d1に到達した超音波ビームのS2面上の入射位置をP0、探傷屈折角をθiとすると、亀裂開口位置d1の座標d1(Yc,Zc)は以下の式から求められる。
【0035】
Yc=W2・sinθi-yc ……… (1)
Zc=W2・cosθi+yc・tanα ……… (2)
【0036】
ここで、W2は入射位置P0と亀裂開口位置d1との間のビーム路程、ycは基準位置Y0と入射位置P0間の水平距離、αはS2面のS1面に対する傾斜角である。
なお、ycはフェーズドアレイ探触子1の位置及び走査駆動される振動子2の位置とS1面に対するS2面の傾斜角αから直ちに求めることができる。
また、亀裂先端位置d2についても、上述した亀裂開口位置d1と同様な手法で求めることができる。
【0037】
図5(c)は、上述した演算手法で求めた亀裂開口位置d1の位置座標(Yc,Zc)と亀裂先端位置d2の位置座標(Yt,Zt)を示すとともに、それらの位置座標から欠陥部dの位置及び大きさを特定した例を示す説明図である。
ここで、欠陥部dの傾斜角θdは下記の(3)式により求めることができる。
β=tan-1{(Zt-Zc)/(Yc-Yt)} ……… (3)
【0038】
これにより、本発明の実施形態に係る超音波探傷方法が終了し、評価結果を表示部7に表示する。
なお、上述した実施形態では、
図4(c)に示す超音波直射のビーム路程の例について説明したが、
図4(a)、
図4(b)、
図4(d)に示す超音波直射のビーム路程の例についても、探傷屈折角θi、外側テーパ角度α及び内側テーパ角度β等のパラメータを用いて欠陥部dの位置及び大きさを求めることができる。
【0039】
(効果)
以上説明したように、本実施形態に係る超音波探傷方法によれば、複数個の振動子2によるリニア走査が可能であり、また、複数個の振動子2の超音波発信タイミングを遅延させる制御のみによって探傷屈折角を容易に変化させることが可能であるというフェーズドアレイ探触子の特質を活用し、検査対象領域Rに対する超音波直射方法だけでなく、超音波が直達できない面について、超音波入射面と平行でない面での超音波1回反射方法も併用するようにしているので、サーマルスリーブ12に存在する欠陥部dを容易にかつ高精度で検出することができるようになる。
【0040】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0041】
1…フェーズドアレイ探触子、2…振動子、3…超音波探傷部、4…探触子制御部、5…欠陥部検出部、6…条件入力部、7…表示部、10…原子炉圧力容器、11…給水ノズル、12…サーマルスリーブ(検査対象物)、R…検査対象領域、d…欠陥部