(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】鋼材の温度予測方法
(51)【国際特許分類】
C21D 11/00 20060101AFI20230213BHJP
C21D 1/52 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
C21D11/00 102
C21D1/52 K
(21)【出願番号】P 2019168356
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】佃 岳洋
【審査官】岡田 眞理
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-188781(JP,A)
【文献】特開昭61-199018(JP,A)
【文献】特開平01-092322(JP,A)
【文献】特開昭57-082426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 11/00
C21D 1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱炉内を搬送される鋼材の温度予測方法であって、上記加熱炉が上記鋼材の搬送方向
の上流に配置され
ている第1バーナー
と、上記鋼材の搬送方向の下流に配置されている第2バーナーとを備えており、
上記搬送方向における上記
第1バーナーより上流側の第1位置
N1における上記加熱炉内の温度T1、及び
上記搬送方向における上記第2バーナーより下流側の第2位置
N6での上記加熱炉の炉内温度
T2を測定する工程と、
上記
第1バーナー及び
上記第2バーナーの燃料流量
Fを測定する工程と、
上記第1位置
N1及び上記第2位置
N6での測定炉内温度
T1、T2並びに上記
第1バーナー及び
上記第2バーナーの測定燃料流量
Fに基づいて、上記第1位置
N1と上記
第1バーナーとの間の第3位置
N2及び上記
第2バーナーと上記第2位置
N6との間の第4位置
N5での
補正用炉内温度
K1、K2を算出する工程と、
上記第1位置
N1及び上記第2位置
N6での
上記測定炉内温度
T1、T2、並びに上記第3位置
N2及び上記第4位置
N5での
上記補正用炉内温度に基づいて上記加熱炉内における上記搬送方向の各位置での炉内温度を予測する工程と、
上記予測炉内温度に基づいて上記各位置での熱流束を算出する工程と、
上記算出熱流束に基づいて上記各位置での上記鋼材の温度を算出する工程と
を備え、
上記補正用炉内温度算出工程が、
上記第3位置N2での補正用炉内温度K1を下記式(1)に基づいて算出し、かつ上記第4位置N5での補正用炉内温度K2を下記式(2)に基づいて算出し、
上記炉内温度予測工程が、
上記第1位置
N1での上記測定炉内温度T1及び上記第2位置
N6での
上記測定炉内温度
T2を通る直線を、上記各位置での基準炉内温度の集合として上記各位置での基準炉内温度を算出する工程と、
上記第3位置
N2及び上記第4位置
N5での
上記補正用炉内温度K1、K2を用いて上記基準炉内温度を補正した補正炉内温度を算出する工程と
を含む鋼材の温度予測方法。
K1=T1+(F-Fmin)×(K2-T1)/(Fmax-Fmin)・・・(1)
K2={(T2-T1)/(D6-D1)}×(D5-D1)+T1 ・・・(2)
ただし、上記式(1)において、「Fmin」は、上記燃料流量Fの最小値[Nm
3
/h]、「Fmax」は、上記燃料流量Fの最大値[Nm
3
/h]を意味し、上記式(2)において、「D1」は、上記加熱炉内における上記鋼材の装入側の第1開口の位置Nsから上記第1位置N1までの距離、「D5」は、上記位置Nsから上記第4位置N5までの距離、「D6」は、上記位置Nsから上記第2位置N6までの距離を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の温度予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材を例えば連続加熱炉等で加熱する際、加熱炉内での鋼材の温度履歴は鋼材の品質に大きく影響する。目標とする温度履歴からの偏差が大きいと、脱炭と呼ばれる現象が発生し、所望の機械特性が得られなくなる可能性がある。そのため、製品の品質を担保するためには、加熱炉内における鋼材の温度履歴をオペレータが適切に制御する必要がある。
【0003】
オペレータが温度履歴を適切に制御するには、高精度の鋼材の温度予測が必要である。一方、生産性の観点からは温度予測の時間とコストを抑制する必要もある。そこで、バーナーの使用数量に基づいて総括熱吸収率(炉から鋼材への熱伝達効率)を補正することで鋼材の温度を予測する方法が提案されている(特開2018-3084号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
加熱炉においては、操業条件によってはバーナーの使用数量が同じであっても、バーナーに供給される燃料の流量が異なる場合がある。この場合、バーナーの使用数量に基づく補正を行う上記特許文献1の方法では、鋼材の温度の予測精度を十分に向上させることが困難となる。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、加熱炉内の鋼材の温度を精度良く予測することができる鋼材の温度予測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく本発明者らは以下のように鋭意研究を行った。すなわち、例えば加熱炉内の鋼材の温度を予測する方法として、バーナーよりも鋼材の搬送方向上流側及び下流側の位置で加熱炉内の温度をそれぞれ測定し、この2つの位置の温度(
図5のT1、T2)を直線で結ぶことによって加熱炉内の各位置での温度を算出し(
図5に破線で示す直線Ls)、この各温度に基づいて鋼材の温度を予測することが考えられる。
【0008】
しかし、上記2つの位置の間では、バーナーからの熱の影響によって加熱炉内の温度が上記直線よりも増大し、しかもその増大の程度がバーナーの燃焼負荷、すなわちバーナーに供給する燃料の流量によって変動する。このため、上記方法では上記直線に基づく予測温度の精度が十分とはいえない。そこで、上記2つの位置とバーナーとの間にてバーナーの燃料流量に基づいて加熱炉内の温度を算出し、上記2つの位置での温度(T1、T2)に加え、算出した温度(
図5のK1、K2)にも基づいて上記各位置での炉内温度を予測することで、上記各位置での鋼材の温度を精度良く予測できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、加熱炉内を搬送される鋼材の温度予測方法であって、上記加熱炉が上記鋼材の搬送方向に沿って配置された1又は複数のバーナーを備えており、上記搬送方向における上記バーナーより上流側の第1位置及び下流側の第2位置での上記加熱炉の炉内温度を測定する工程と、上記バーナーの燃料流量を測定する工程と、上記第1位置及び上記第2位置での測定炉内温度並びに上記バーナーの測定燃料流量に基づいて、上記第1位置と上記のバーナーとの間の第3位置及び上記バーナーと上記第2位置との間の第4位置での炉内温度を算出する工程と、上記第1位置及び上記第2位置での測定炉内温度、並びに上記第3位置及び上記第4位置での算出炉内温度に基づいて上記加熱炉内における上記搬送方向の各位置での炉内温度を予測する工程と、上記予測炉内温度に基づいて上記各位置での熱流束を算出する工程と、上記算出熱流束に基づいて上記各位置での上記鋼材の温度を算出する工程とを備え、上記炉内温度予測工程が、上記第1位置及び上記第2位置での測定炉内温度に基づいて上記各位置での基準炉内温度を算出する工程と、上記第3位置及び上記第4位置での算出炉内温度を用いて上記基準炉内温度を補正した補正炉内温度を算出する工程とを含む鋼材の温度予測方法である。
【0010】
当該鋼材の温度予測方法は、上記第1位置及び第2位置での上記測定炉内温度に加え、上記第3位置及び第4位置での上記算出炉内温度に基づいて加熱炉内における搬送方向の各位置での炉内温度を予測することで、バーナーの燃料流量に応じて上記各位置での炉内温度を予測することができる。この炉内温度の予測にて上記第1位置及び上記第2位置での上記測定温度に基づく上記基準炉内温度を、上記第3位置及び上記第4位置での上記算出炉内温度を用いて補正することで、上記各位置での炉内温度を精度良く予測することができる。このようにして得られた補正炉内温度に基づいて上記熱流束を算出し、この熱流束に基づいて上記鋼材の温度を算出することで、加熱炉内の鋼材の温度を精度良く予測することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鋼材の温度予測方法によれば、加熱炉内の鋼材の温度を精度良く予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の鋼材の温度予測方法の手順を示すフロー図である。
【
図2】バーナー及び温度計の配置を示す加熱炉内の平面図であって、搬送面の上方から視た平面図である。
【
図3】バーナー及び温度計の配置を示す加熱炉内の側面図である。
【
図4】鋼材の搬送方向における温度取得位置を示す加熱炉内の平面図であって、搬送面の上方から視た平面図である。
【
図5】鋼材の搬送方向における加熱炉内の各位置と、この各位置での炉内温度との関係を模式的に示す平面図である。
【
図6】試験例1での搬送方向における加熱炉内の位置N1から位置N6までの各位置と、この各位置での鋼材直上の予測炉内温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0014】
[鋼材の温度予測方法]
当該鋼材の温度予測方法は、加熱炉内を搬送される鋼材の温度予測方法であって、上記加熱炉が上記鋼材の搬送方向に沿って配置された1又は複数のバーナーを備える鋼材の温度予測方法である。
【0015】
当該鋼材の温度予測方法は、
図1に示すように、上記搬送方向における上記バーナーより上流側の第1位置及び下流側の第2位置での上記加熱炉の炉内温度を測定する工程(炉内温度測定工程)S1と、上記バーナーの燃料流量を測定する工程(燃料流量測定工程)S2と、上記第1位置及び上記第2位置での測定炉内温度並びに上記バーナーの測定燃料流量に基づいて、上記第1位置と上記のバーナーとの間の第3位置及び上記バーナーと上記第2位置との間の第4位置での炉内温度(補正用炉内温度)を算出する工程(補正用炉内温度算出工程)S3と、上記第1位置及び上記第2位置での測定炉内温度、並びに上記第3位置及び上記第4位置での算出炉内温度(補正用炉内温度)に基づいて上記加熱炉内における上記搬送方向の各位置での炉内温度を予測する工程(炉内温度予測工程)S4と、上記予測炉内温度に基づいて上記各位置での熱流束を算出する工程(熱流束算出工程)S5と、上記算出熱流束に基づいて上記各位置での上記鋼材の温度を算出する工程(鋼材温度算出工程)S6とを備える。なお、「加熱炉内における搬送方向の各位置」とは、加熱炉内の搬送方向の任意の位置をいう。また、
図1には、炉内温度予測工程S4を図示する代わりに、以下の工程を図示する。
【0016】
具体的に本実施形態では、当該鋼材の温度予測方法は、
図1に示すように、上記炉内温度予測工程S4として、上記第1位置及び上記第2位置での測定炉内温度に基づいて上記各位置での基準炉内温度を算出する工程(基準炉内温度算出工程)S41と、上記第3位置及び上記第4位置での補正用炉内温度を用いて基準炉内温度を補正した補正炉内温度を算出する工程(補正炉内温度算出工程)S42とを含む。
【0017】
当該鋼材の温度予測方法が適用される加熱炉は、
図2及び
図3に示すように、上記1又は複数のバーナー1a、1b、1c、1dを備える。バーナー1a~1dは、鋼材の搬送方向(図中白抜き矢印方向)Dに沿って配置される。バーナー1a~1dは、火炎を噴出するノズルを有する。このノズルには、火炎を噴射するための燃料が供給される。このノズルの向きは特に限定されない。ノズルの向きとしては、例えば鋼材の搬送方向に交差する向きが好まく、
図2及び
図3に示すように、鋼材の搬送方向に直交する向きがより好ましい。このようなノズルを有するバーナーとして、いわゆるサイドバーナーが挙げられる。また、このバーナーとしては例えば軸流バーナーが使用できる。
【0018】
図2及び
図3に示す態様では、鋼材Aの搬送面10の上側及び下側に上記サイドバーナーを設けた加熱炉が用いられる。なお、搬送面10は、鋼材Aをウォーキングビームにより搬送する面である。また、
図2及び
図3では、搬送面10の上方かつ搬送方向上流側に1対のバーナー1a、搬送面10の下方かつ搬送方向上流側に1対のバーナー1b、搬送面10の上方かつ搬送方向下流側に1対のバーナー1c、搬送面10の下方かつ搬送方向下流側に1対のバーナー1dを配設しているが、バーナーの数や位置はこれに限定されない。また、加熱炉は
図2及び
図3に示す構成を1つの加熱ゾーンとし、複数の加熱ゾーンを有する構成としてもよい。
【0019】
上流側のバーナー1a及びバーナー1bは、鋼材Aの搬送方向Dにおいて同じ位置(
図4の位置N3)に配置される。下流側のバーナー1c及び1dは、鋼材Aの搬送方向において同じ位置(
図4の位置N4)に配置される。
【0020】
当該鋼材の温度予測方法が対象とする鋼材の形状は特に限定されず、棒鋼、鋼板等に適用が可能である。なお、鋼材の最終加熱温度は例えば1000℃以上1200℃以下である。
【0021】
加熱炉内における上流側のバーナー1a及びバーナー1bよりも搬送方向上流側の第1位置(
図4の位置N1)には、炉内温度を測定する第1温度計7aが配置される。具体的には、この第1温度計7aは、加熱炉内における鋼材Aの装入側の第1開口の位置(
図4の位置Ns)と上流側のバーナー1a及びバーナー1bの位置N3との間に配置される。加熱炉内における下流側のバーナー1c及びバーナー1dよりも搬送方向下流側の第2位置(
図4の位置N6)には、炉内温度を測定する第2温度計7bが配置される。具体的には、この第2温度計7bは、加熱炉内における鋼材Aの抽出側の第2開口の位置(
図4の位置Nf)と下流側のバーナー1c及びバーナー1dの位置N4との間に配置される。第1温度計7a及び第2温度計7bとしては、例えば従来公知の熱電対等が挙げられる。これら第1温度計7a及び第2温度計7bは、加熱炉内に挿入されて使用される。
図2及び
図3では、第1温度計7a及び第2温度計7bの先端に配された温度測定部のみを示す。
【0022】
<炉内温度測定工程>
炉内温度測定工程S1では、第1温度計7a及び第2温度計7bによって位置N1及び位置N6での測定炉内温度T1、T2を測定する(
図4及び
図5参照)。
図5に示すように、搬送方向Dを横軸、温度Tを縦軸とし、縦軸と横軸とが位置Nsで交差する座標において、位置N1での炉内測定温度T1と位置N6での炉内測定温度T2とを通る直線は、後述する基準温度直線Ls(
図5の破線)となる。
【0023】
<燃料流量測定工程>
燃料流量測定工程S2では、バーナー1a、バーナー1b、バーナー1c及びバーナー1dでの燃料流量(合計燃料流量)Fを測定する。この測定には、従来公知の流量計を用いることができる。加熱炉の操業時、バーナー1a~1bの各燃料流量が変動すると、それに応じてこれらの合計である燃料流量Fが変動する。
【0024】
<補正用炉内温度算出工程>
補正用炉内温度算出工程S3では、位置N1及び位置N6での測定炉内温度T1、T2、並びに上記バーナーの燃料流量Fに基づいて、位置N1と位置N3との間の第3位置(
図4の位置N2)及び位置N4と位置N6との間の第4位置(
図4の位置N5)での補正用炉内温度K1、K2を算出する。
【0025】
位置N2については、バーナー1a~1d(特に上流側のバーナー1a及びバーナー1b)からの熱がこれらよりも搬送方向上流側にて炉内温度に及ぼす影響を予め調べておき、上記バーナー1a~1dの熱が炉内温度に対して影響を及ぼす限界となる、すなわち影響を及ぼさない位置(加熱炉内の搬送方向の位置)を、補正用炉内温度K1を算出するための位置N2として決定する。例えばこの位置N2については、位置N1と位置N3との間で少しずつ位置をずらして後述する炉内温度算出工程S1~鋼材温度算出工程S6を行い、予測温度の精度が高くなる位置を位置N2として決定することができる。
【0026】
一方、位置N5については、バーナー1a~1d(特に下流側のバーナー1c及びバーナー1d)からの熱がこれらよりも搬送方向下流側にて炉内温度に及ぼす影響を予め調べておき、上記バーナー1a~1dが炉内温度に対して影響を及ぼす限界となる、すなわち影響を及ぼさない位置(加熱炉内の搬送方向の位置)を、補正用炉内温度度K2を算出するための位置N5として決定する。例えばこの位置N5については、位置N4と位置N6との間で少しずつ位置をずらして後述する炉内温度算出工程S1~鋼材温度算出工程S6を行い、予測温度の精度が高くなる位置を位置N5として決定することができる。
【0027】
具体的には、例えば上記バーナーよりも上流側の位置N2では、上記バーナーから放出される熱の炉内温度に及ぼす影響が比較的大きいと考えられる。このことを考慮し、位置N2での補正用炉内温度K1は、例えば下記式(1)に基づいて算出することができる。なお、下記式(1)に用いられる上記バーナーの燃料流量Fの最小値Fmin及び最大値Fmaxは、例えば鋼材の種類、幅、厚み、長さ、搬送速度等の加熱炉の操業実績に基づいて決定され得る。
K1=T1+(F-Fmin)×(K2-T1)/(Fmax-Fmin)・・・(1)
K2:位置N5での補正用炉内温度[℃]
T1:位置N1での測定炉内温度[℃]
F:燃料流量の測定値[Nm3/h]
Fmin:燃料流量の最小値[Nm3/h]
Fmax:燃料流量の最大値[Nm3/h]
【0028】
一方、例えば上記バーナーよりも下流側の位置N5では、上記バーナーから放出される熱の影響が比較的小さいと考えられる。このことを考慮し、位置N5での補正用炉内温度K2は、
図5に示すように、後述する基準温度直線Ls上に位置すると仮定し得る。この位置N5での補正用炉内温度K2は、例えば下記式(2)に基づいて算出することができる。
K2={(T2-T1)/(D6-D1)}×(D5-D1)+T1 ・・・(2)
T1:位置N1での測定炉内温度[℃]
T2:位置N6での測定炉内温度[℃]
D1:位置Nsから位置N1までの距離
D5:位置Nsから位置N5までの距離
D6:位置Nsから位置N6までの距離
【0029】
このように、上記2つの式(1)、(2)によって位置N2での補正用炉内温度K1と、位置N5での補正用炉内温度K2とを算出することができる。これら温度K1、K2は、後述する補正炉内温度算出工程S42で使用される。
【0030】
なお、燃料流量Fが最大値(Fmax)となる場合には、上記式(1)にて、K1=K2となる(
図5の位置N2と位置N5との間の領域における二点鎖線Lc2)。一方、燃料流量Fが最小値(Fmin)となる場合には、上記式(1)にて、K1=T1となる(
図5の位置N1と位置N2との間の領域における二点鎖線Lc1)。
【0031】
<炉内温度予測工程>
炉内温度予測工程S4では、位置N1及び位置N6での測定炉内温度T1、T2、並びに位置N2及び位置N5での補正用炉内温度K1、K2に基づいて、上記加熱炉内における上記搬送方向Dの各位置での炉内温度を予測する。具体的には、炉内温度予測工程S4として、以下の工程を行う。
【0032】
(基準炉内温度算出工程)
基準炉内温度算出工程S41では、位置N1及び位置N6での測定炉内温度T1、T2に基づいて上記搬送方向Dの各位置での基準炉内温度を算出する。この基準炉内温度は、後述する補正用炉内温度を算出するために使用される温度であって、この補正用炉内温度によって補正される基準となる温度である。具体的には、上述した
図5に示す座標(横軸:搬送方向D、縦軸:温度T)において、位置N1(位置Nsからの距離D1)での炉内測定温度T1と、位置N6(位置Nsからの距離D6)での測定炉内温度T2とを通る直線を、各位置での基準炉内温度の集合(
図5に破線で示す基準炉内温度直線Ls)として算出する。この基準炉内温度直線Lsは、位置Nsからの任意の位置Nの距離と、この位置Nでの炉内温度とが直線関係にあることを示す。
【0033】
(補正炉内温度算出工程)
補正炉内温度算出工程S42では、位置N2及び位置N5での補正用炉内温度K1、K2を用いて上記基準炉内温度を補正した補正炉内温度を算出する。
【0034】
具体的には、上記
図5に示す座標において位置N1と位置N2との間の領域では、位置N1での測定炉内温度T1と位置N2での補正用炉内温度K1とを結ぶ直線を、上記各位置での補正炉内温度の集合(
図5に実線で示される補正炉内温度直線Lc1)として算出する。この補正炉内温度直線Lc1は、位置N1と位置N2との間の領域では、位置Nsからの任意の位置Nの距離と、この位置Nでの炉内温度とが直線関係にあることを示す。すなわち、この領域では、任意の位置Nの温度T(D)は、下記式のように算出される。
T(D)={(K1-T1)/(D2-D1)}×(D-D1)+T1
D1:位置Nsから位置N1までの距離
D2:位置Nsから位置N2までの距離
D:位置Nsから任意の位置Nまでの距離
【0035】
位置N2と位置N5との間の領域では、位置N2での補正用炉内温度K1と位置N5での補正用炉内温度K2とを結ぶ直線を、各位置での補正炉内温度の集合(
図5に実線として示される補正炉内温度直線Lc2)として算出する。この補正炉内温度直線Lc2は、位置N2と位置N5との間の領域では、位置Nsからの任意の位置Nの距離と、この位置Nでの炉内温度とが直線関係にあることを示す。すなわち、この領域では、任意の位置Nの温度T(D)は、下記式のように算出される。
T(D)={(K2-K1)/(D5-D2)}×(D-D2)+K1
D2:位置Nsから位置N2までの距離
D5:位置Nsから位置N5までの距離
D:位置Nsから任意の位置Nまでの距離
【0036】
位置N5と位置N6との間の領域では、位置N5での補正用炉内温度K2と位置N6での測定炉内温度T2とを直線(
図5の直線Ls)で結ぶ。この直線は、基準炉内温度直線Lsと一致する。すなわち、この領域では、任意の位置Dの温度T(D)は、下記式のように算出される。
T(D)={(T2-K2)/(D6-D5)}×(D-D5)+K2
D5:位置Nsから位置N5までの距離
D6:位置Nsから位置N6までの距離
D:位置Nsから任意の位置Nまでの距離
【0037】
それ以外の領域では、任意の位置Dの温度T(D)は、基準炉内温度直線Ls上に存在する。すなわち、位置Nsと位置N1との間では、任意の位置Nの温度T(D)は、下記式のように算出される。
T(D)=T1+{(T2-T1)/(D6-D1)}×(D-D1)
D1:位置Nsから位置N1までの距離
D6:位置Nsから位置N6までの距離
D:位置Nsから任意の位置Nまでの距離
【0038】
一方、位置N6と位置Nf(
図5では不図示)との間では、任意の位置Dの温度T(D)は、下記式のように算出される。
T(D)={(T2-T1)/(D6-D1)}×(D-D6)+T2
D1:位置Nsから位置N1までの距離
D6:位置Nsから位置N6までの距離
D:位置Nsから任意の位置Nまでの距離
【0039】
そして、搬送方向Dにおける任意の位置Nでの補正炉内温度T(D)は、各位置での補正炉内温度の集合(補正炉内温度曲線)として算出される。すなわち、位置Nsから位置Nfまでの全領域において任意の位置Nでの補正炉内温度T(D)は、上記複数の直線(Ls、Lc1、Lc2)が繋がった線で表される。
【0040】
なお、上述したように、上記バーナーの燃料流量Fが最大値Fmaxである場合には、補正用炉内温度K1が補正用炉内温度K2と等しくなる。よって、位置N1から位置N5までの間の領域での補正炉内温度曲線は、
図5に実線で示される補正炉内温度直線Lc1及び補正炉内温度直線Lc2よりも上方に示された2つの二点鎖線(
図5に二点鎖線で表されるLc1及びLc2)を繋げた線となる。一方、上記バーナーの燃料流量Fが最小値Fminとなる場合には、補正用炉内温度K1が測定炉内温度T1と等しくなる。よって、位置N1から位置N5までの間の領域での補正炉内温度曲線は、上記補正炉内温度直線Lc1及び補正炉内温度直線Lc2よりも下方に示された2つの二点鎖線(
図5の二点鎖線で表されるLc1及びLc2)を繋げた線となる。
【0041】
(熱流束算出工程)
熱流束算出工程S5では、上記補正炉内温度に基づいて上記搬送方向Dの各位置での上記加熱炉内の熱流束を算出する。具体的には、下記式(3)に基づいて、上記各位置での上記加熱炉内の熱流束を算出する。すなわち、下記式(3)に、上記で算出した補正炉内温度曲線で示される各位置での補正炉内温度を代入することで、上記各位置での上記加熱炉内の熱流束を算出する。この算出により、上記各位置での上記熱流束と鋼材温度(すなわち、鋼材の表面における炉内温度)との関係が得られる。この関係は、後述する鋼材温度算出工程S6にて境界条件として用いられる。
【0042】
【0043】
上記式(3)中、q[W/m2]は鋼材への熱流束、δ[W/m2/K4]はステファンボルツマン定数、Tf[K]は炉内温度、Ts[K]は鋼材表面温度である。
【0044】
(鋼材温度算出工程)
鋼材温度算出工程S6では、上記算出熱流束に基づいて上記加熱炉内における上記搬送方向の各位置での上記鋼材の温度を算出する。具体的には、上記式(3)を境界条件とし、下記式(4)に示す従来公知の二次元熱伝導方程式を用いて、上記搬送方向における各位置での鋼材の表面から内部までの温度分布を算出する。
【0045】
【数2】
上記式(4)中、ρ[g/m3]は鋼材の密度、c[J/g/K]は鋼材の比熱、T[K]は鋼材の温度、δt[s]は微小時間、δx[m]及びδy[m]はそれぞれ微小区間、λx[W/m/K]及びλy[W/m/K]はそれぞれx方向及びy方向の熱伝導率である。x方向は搬送面10に垂直な方向である。y方向は、搬送方向Dである。
【0046】
このような温度予測を加熱炉内の複数点においてその搬送方向Dの位置毎に行うことで、加熱炉内での鋼材の温度を予測することができる。また、加熱炉内の各位置での鋼材の温度を予測することで、例えば加熱炉の第2開口(位置Nf)での鋼材の予測温度を得ることができる。この予測温度は、加熱炉から抽出直後の鋼材の温度とみなすことができるため、この予測温度を加熱炉の操業管理に使用することができる。
【0047】
[利点]
当該鋼材の温度予測方法は、上記第1位置及び第2位置での上記測定炉内温度に加え、上記第3位置及び第4位置での上記算出炉内温度(補正用炉内温度)に基づいて加熱炉内における搬送方向の各位置での炉内温度を予測することで、バーナーの燃料流量に応じて上記各位置での炉内温度を予測することができる。この炉内温度の予測にて上記第1位置及び上記第2位置での上記測定温度に基づく上記基準炉内温度を、上記第3位置及び上記第4位置での上記算出炉内温度を用いて補正することで、上記各位置での炉内温度を精度良く予測することができる。このようにして得られた補正炉内温度に基づいて上記熱流束を算出し、この熱流束に基づいて上記鋼材の温度を算出することで、加熱炉内の鋼材の温度を精度良く予測することができる。
【0048】
[その他の実施形態]
本発明の鋼材の温度予測方法は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、当該鋼材の温度予測方法は必要に応じて上述以外の工程を備えてもよい。
【0049】
例えば上記実施形態では、位置N5での補正用炉内温度K2が基準炉内温度直線Ls上に存在する場合を示すが、その他、位置N5においても位置N2のように基準炉内温度Ls上に存在しない補正用炉内温度K2を算出してもよい。
【0050】
例えば上記実施形態では、バーナー1a~1dの上流側及び下流側にそれぞれ第1温度計7a及び第2温度計7bを配置する場合を示すが、温度計の配置及び数量は上記実施形態に特に限定されない。例えば、
図2及び
図3において、上流側のバーナー1a、1bと下流側のバーナー1c、1dとの距離によっては、上流側のバーナー1a、1bと下流側のバーナー1c、1dとの間にさらに第3温度計を配置してもよい。この場合、第1温度計7aと上記第3温度計との間、及び上記第3温度計と第2温度計7bとの間でそれぞれ、上記炉内温度測定工程S1~鋼材温度算出工程S6を行ってもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0052】
厚さ(搬送面に垂直な方向の寸法)、幅(搬送方向の寸法)及び長さ(搬送方向及び搬送面に垂直な方向の寸法)が互いに等しいが、成分が互いに異なる2種類の鋼材X及び鋼材Yを用い、下記のように、
図2及び
図3に示すような加熱炉に対して試験例1及び試験例2を行った。
【0053】
(試験例1)
・実施例1
472本の鋼材Xについて、上述した
図5に示すように、位置N1及び位置N6での炉内温度を測定し、バーナーの合計燃料流量Fを測定し、位置N1での測定炉内温度T1及び位置N6での測定炉内温度T2を結んだ直線で表される基準炉内温度直線Lsを、位置N2での補正用炉内温度K1及び位置N5での補正用炉内温度K2で補正して補正炉内温度曲線(
図5に示す直線Ls、直線Lc1及び直線Lc2)を作成した。この補正炉内温度曲線を用い、搬送方向の各位置(位置Nsから位置Nfまでの間の各位置)での炉内温度を算出した。算出した各温度を用いて上述した数式(3)及び数式(4)によって上記各位置での鋼材Xの表面から内部までの温度分布をそれぞれ予測した。
【0054】
一方、鋼材Xが加熱炉の第2開口から抽出された直後(位置Nfに相当)の鋼材Xの表面温度を、放射温度計で実測した。そして、上記で得られた位置Nfにおける鋼材表面の予測温度と比較した。具体的には、実測温度に対する予測温度の偏差(実測温度-予測温度)のバラツキを標準偏差(1σ)として算出した。
【0055】
・比較例1
472本の鋼材Xについて、上記した
図5に示すように、位置N1及び位置N6での炉内温度を測定し、位置N1での測定炉内温度T1及び位置N6での測定炉内測定T2を結んだ直線で表される基準炉内温度直線Ls(
図5に示す直線Ls)を作成した。この基準炉内温度直線Lsに基づいて算出した搬送方向の各位置(位置Nsから位置Nfまでの間の各位置)での炉内温度を用い、上記式(3)及び(4)によって上記各位置での鋼材Xの表面から内部までの温度分布をそれぞれ予測した。それ以外は実施例1と同様にして、上記実測温度と、位置Nfでの上記鋼材表面の予測温度とを比較し、実測温度に対する予測温度の偏差(実測温度-予測温度)のバラツキを、標準偏差(1σ)として算出した。
【0056】
・実施例1と比較例1との比較
比較例1で得られた標準偏差を100%とし、この比較例1の標準偏差に対する実施例1で得られた標準偏差の比率(百分率)を算出したところ、99%であった。よって、鋼材Xについては、基準炉内温度(基準炉内温度直線Ls)を上記のように補正することで、バラツキが1%改善されることがわかった。
【0057】
なお、実施例1と同様の工程を行って算出した予測炉内温度を、位置N1から位置N6までの間の領域について、比較例1と同様の工程を行って算出した予測炉内温度と比較した結果の一例を、
図6に示す。
図6において、予測炉内温度を「炉温」と示す。
図6では、横軸を搬送方向Dとし、位置N1から位置N6までの距離を数値1.0とし、これら位置N1と位置N6との間における任意の位置Nの位置N1からの距離を、位置N1から位置N6までの距離に対する比率として示す。一方、
図6では、縦軸を上記炉温とし、位置Nfでの上記炉温を数値1.0とし、上記任意の位置Nでの上記炉温を、位置Nfでの上記炉温に対する比率として示す。
【0058】
(試験例2)
・実施例2
鋼材Xに代えて438本の鋼材Yを用いること以外は実施例1と同様にして、位置Nfでの予測温度を、実測温度と比較した。
【0059】
・比較例2
鋼材Xに代えて438本の鋼材Yを用いること以外は比較例1と同様にして、位置Nfでの予測温度を、実測温度と比較した。
【0060】
・実施例2と比較例2との比較
比較例2で得られた標準偏差を100%とし、この比較例2の標準偏差に対する実施例2で得られた標準偏差の比率(百分率)を算出したところ、88%であった。よって、鋼材Yについては、基準炉内温度(基準炉内温度直線Ls)を上記のように補正することで、バラツキが12%改善されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
当該鋼材の温度予測方法は、加熱炉内の鋼材の温度を精度良く予測することができるので、加熱工程を伴う種々の鋼材の製造に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0062】
1a、1b 上流側のバーナー
1c、1d 下流側のバーナー
7a 上流側の温度計
7b 下流側の温度計
10 搬送面
A 鋼材
D 搬送方向
Ls 基準炉内温度直線
Lc1 位置N1及び位置N2の間での補正炉内温度直線
Lc2 位置N2及び位置N5の間での補正炉内温度直線
T1 位置N1での測定炉内温度
T2 位置N6での測定炉内温度
K1 位置N2での補正用炉内温度
K2 位置N5での補正用炉内温度
S1 炉内温度測定工程
S2 燃料流量測定工程
S3 補正用炉内温度算出工程
S41 基準炉内温度算出工程(S4 炉内温度予測工程)
S42 補正炉内温度算出工程(S4 炉内温度予測工程)
S5 熱流束算出工程
S6 鋼材温度算出工程