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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-10
(45)【発行日】2023-02-20
(54)【発明の名称】アクリル系樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230213BHJP
   C08F 265/06 20060101ALI20230213BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20230213BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20230213BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
C08J5/18 CEY
C08F265/06
C08L33/10
C08L51/06
C08K5/3492
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020550536
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2019039085
(87)【国際公開番号】W WO2020071477
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018189326
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】小寺 純平
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 透
(72)【発明者】
【氏名】坂本 滋
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074550(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/157908(WO,A1)
【文献】特開2011-032328(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188290(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/041803(WO,A1)
【文献】特開2002-275341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08F 265/06
C08L 33/10
C08L 51/06
C08K 5/3492
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性重合体(III)からなる外層および該外層に接して覆われた架橋弾性体の層からなるアクリル系多層重合体(A)と、
99質量%以上のメタクリル酸メチル単位を含み且つ重量平均分子量が50000以上200000以下であるメタクリル系樹脂(B)と、
ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する紫外線吸収剤(C)とを含有して成り、
アクリル系多層重合体(A)、メタクリル系樹脂(B)および紫外線吸収剤(C)の合計量がフィルム100質量部に対して96~100質量部であり、
紫外線吸収剤(C)の量がアクリル系多層重合体(A)とメタクリル系樹脂(B)との合計量に対して0.1~1.5質量%であり、
アクリル系多層重合体(A)に対するメタクリル系樹脂(B)の質量比が10/90~50/50であり、
架橋弾性体の層が、架橋ゴム重合体(II)からなる中間層と、架橋重合体(I)からなり且つ中間層に接して覆われた内層とを有し、
架橋重合体(I)が、メタクリル酸メチルに由来する構造単位40~98.5質量%、メタクリル酸メチル以外の単官能単量体に由来する構造単位1~59.5質量%、および多官能単量体に由来する構造単位0.05~0.4質量%からなり、
架橋ゴム重合体(II)が、炭素原子数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位90~98.9質量%、アクリル酸アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位0.1~8.3質量%、および多官能単量体に由来する構造単位1~1.7質量%からなり、
熱可塑性重合体(III)が、炭素原子数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位80~100質量%、および該メタクリル酸アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位0~20質量%からなり、
架橋弾性体の層の平均直径が120nm以下であり、
架橋ゴム重合体(II)の量が架橋重合体(I)および架橋ゴム重合体(II)の合計量に対して80~90質量%であり、且つ
アセトン不溶分の質量がフィルムの質量に対して35~55質量%である、
フィルム。
【請求項2】
引張試験における破断伸び(EL)がMD方向について50%以上である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
一軸伸長粘度測定にて計測される、測定時間(秒)と一軸伸長粘度(Pa・s)との関係を、測定開始から0.03秒間経過時から測定開始から0.1秒間経過時までの範囲について、最小二乗法による一次関数で近似したときの傾きが1.0×104Pa以上である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
ブラックパネル温度83℃、相対湿度50%、照射エネルギー100mW/cm2の条件で紫外線を500時間照射した後に計測された波長350nm透過率が5%以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
フィルム厚が20μm以上100μm以下である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項6】
つや消し剤をさらに含有してなる、請求項1~5のいずれかひとつに記載のフィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかひとつに記載のフィルムと機能層とを積層して有する、フィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかひとつに記載のフィルムと他の熱可塑性樹脂フィルムとを積層して有する、フィルム。
【請求項9】
加飾用である、請求項1~8のいずれかひとつに記載のフィルム。
【請求項10】
建材用である、請求項1~9のいずれかひとつに記載のフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル系樹脂フィルムに関する。より詳細に、本発明は、耐候性、加工性、および成形安定性に優れる、加飾用または建材用に好適なアクリル系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
加飾用や建材用の樹脂フィルムとして、例えば、表面に艶のある光沢調の外観を有する熱可塑性樹脂フィルム、表面に艶のないマット調(艶消し)の外観を有する熱可塑性樹脂フィルムが用いられている。また、樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、印刷を施したり、異なる種類の熱可塑性樹脂フィルムや熱硬化性樹脂フィルムを積層したり、接着剤層を介して金属鋼板などを貼りあわせたりすることがある。加飾用や建材用の樹脂フィルムは、被加飾物や建物において、十数年乃至数十年の長い期間、使い続けられることが多い。その間に、樹脂フィルムは、変色、ひび割れ、白濁、表面傷、剥離などが発生する。そのため、加飾用や建材用の樹脂フィルムには、高い耐候性が求められる。
【0003】
アクリル系樹脂フィルムとして種々なものが提案されている。例えば、特許文献1は、第1面及び前記第1面に対向する第2面を有する可視光領域で透明なフィルム層と、前記第2面上に配置された可視光領域で透明な感圧接着層とを含む、金属基材への接着に適合した装飾フィルムであって、前記フィルム層は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤、及びベンゾフェノン系紫外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも1つの紫外線吸収剤を含み、前記フィルム層の波長280nm~380nmにおける平均透過率は1.5%以下であり、前記感圧接着層は、前記金属基材から生じる金属イオンと金属錯体を形成しうるアミノ基を有する(メタ)アクリル系ポリマーを含む、装飾フィルムを開示している。
【0004】
特許文献2は、110℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物からなり、前記熱可塑性樹脂組成物が、熱可塑性アクリル樹脂と、分子量が700以上の紫外線吸収剤とを含む、偏光子保護フィルムを開示している。前記紫外線吸収剤として、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するものが開示されている。
【0005】
特許文献3は、第1層がメタクリル酸メチル単位30~98.99質量%、炭素原子数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位1~70質量%、および多官能性単量体単位0.01~2質量%からなる架橋重合体層であり、第2層が炭素原子数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位70~99.9質量%、メタクリル酸メチル単位0~30質量%、および多官能性単量体単位0.1~5質量%からなる架橋弾性重合体層であり、第3層がメタクリル酸メチル単位80~99質量%、および炭素原子数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル単位1~20質量%からなる硬質熱可塑性重合体層から構成される三層構造重合体であって且つ粒子径が0.05~0.25μmであるアクリル系多層重合体粒子(A)100質量部に対し、メタクリル酸メチル単位80質量%以上およびこれと共重合可能なビニル系単量体単位20質量%以下からなり、極限粘度が0.3~1.0dl/gであるアクリル系熱可塑性重合体(B)1~600質量部;を配合してなるアクリル系熱可塑性樹脂を、加熱溶融させた後に、Tダイより吐出し、第一のゴムロールと第二のゴムロールとで挟み込んで加圧する工程を含むフィルムの製造方法を開示している。特許文献3は、任意成分として、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を例示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-8222号公報
【文献】特開2011-227530号公報
【文献】特開2017-213815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
樹脂フィルムの耐候性を向上させるために、樹脂フィルムの原料である樹脂に紫外線吸収剤を添加して、フィルム成形することがある。長期間の耐候性を担保するためには、紫外線吸収剤を多量に添加しなければならない。しかし、多量に紫外線吸収剤を添加すると、ブリードアウトによる外観不良、製造コストの増大、成形性や成形安定性の低下などを招くことになる。
【0008】
本発明の課題は、耐候性、加工性、および成形安定性に優れる、加飾用または建材用に好適な、アクリル系樹脂フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0010】
〔1〕 熱可塑性重合体(III)からなる外層および該外層に接して覆われた架橋弾性体の層からなるアクリル系多層重合体(A)と、
99質量%以上のメタクリル酸メチル単位を含み且つ重量平均分子量が50000以上200000以下であるメタクリル系樹脂(B)と、
ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する紫外線吸収剤(C)と、を含有して成り、

紫外線吸収剤(C)の量がアクリル系多層重合体(A)とメタクリル系樹脂(B)との合計量に対して0.1~1.5質量%であり、
アクリル系多層重合体(A)に対するメタクリル系樹脂(B)の質量比が10/90~50/50であり、
架橋弾性体の層が、架橋ゴム重合体(II)からなる中間層と、架橋重合体(I)からなり且つ中間層に接して覆われた内層とを有し、
架橋重合体(I)が、メタクリル酸メチルに由来する構造単位40~98.5質量%、メタクリル酸メチル以外の単官能単量体に由来する構造単位1~59.5質量%、および多官能単量体に由来する構造単位0.05~0.4質量%からなり、
架橋ゴム重合体(II)が、炭素原子数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位90~98.9質量%、アクリル酸アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位0.1~8.3質量%、および多官能単量体に由来する構造単位1~1.7質量%からなり、
熱可塑性重合体(III)が、炭素原子数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位80~100質量%、および該メタクリル酸アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位0~20質量%からなり、
架橋弾性体の層の平均直径が120nm以下であり、
架橋ゴム重合体(II)の量が架橋重合体(I)および架橋ゴム重合体(II)の合計量に対して80~90質量%であり、且つ
アセトン不溶分の質量がフィルムの質量に対して35~55質量%である、
フィルム。
【0011】
〔2〕 引張試験における破断伸び(EL)がMD方向について50%以上である、〔1〕に記載のフィルム。
〔3〕 一軸伸長粘度測定にて計測される、測定時間t(単位:秒またはs)と一軸伸長粘度η(単位:Pa・s)との関係を、測定開始から0.03秒間経過した時から測定開始から0.1秒間経過した時までの範囲について、最小二乗法により一次関数η=at+bで近似したときの傾きaが1.0×104Pa以上である、〔1〕に記載のフィルム。
〔4〕 ブラックパネル温度83℃、相対湿度50%、および照射エネルギー100mW/cm2の条件で紫外線を500時間照射した後に計測された波長350nm透過率が5%以下である、〔1〕に記載のフィルム。
【0012】
〔5〕 フィルム厚が20μm以上100μm以下である、〔1〕に記載のフィルム。
〔6〕 つや消し剤をさらに含有してなる、〔1〕~〔5〕のいずれかひとつに記載のフィルム。
【0013】
〔7〕 前記〔1〕~〔6〕のいずれかひとつに記載のフィルムと機能層とを積層して有する、フィルム。
〔8〕 前記〔1〕~〔7〕のいずれかひとつに記載のフィルムと他の熱可塑性樹脂フィルムとを積層して有する、フィルム。
〔9〕 加飾用である、〔1〕~〔8〕のいずれかひとつに記載のフィルム。
〔10〕 建材用である、〔1〕~〔9〕のいずれかひとつに記載のフィルム。
【発明の効果】
【0014】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、耐候性、加工性、および成形安定性に優れる。本発明のアクリル系樹脂フィルムは、加飾用または建材用に好適である。
本発明のアクリル系樹脂フィルムにおいては、添加された紫外線吸収剤の分解が抑制されるので、耐候性を高めるために必要な紫外線吸収剤の量が少なくて済む。本発明のアクリル系樹脂フィルムは、印刷、積層、接着などの加工に対する耐性が高い。本発明のひずみ硬化性が高いアクリル系樹脂フィルムは、成形および加工の速度を高めても、良好な成形および加工ができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、アクリル系多層重合体(A)と、メタクリル系樹脂(B)と、紫外線吸収剤(C)とを含有してなるものである。アクリル系多層重合体(A)と、メタクリル系樹脂(B)と、紫外線吸収剤(C)との合計量は、本発明のアクリル系樹脂フィルム100質量部に対して、好ましくは90~100質量部、より好ましくは96~100質量部、さらに好ましくは97.5~99.5質量部、よりさらに好ましくは98~99.1質量部、特に好ましくは98~99質量部である。
【0017】
本発明に用いられるアクリル系多層重合体(A)は、熱可塑性重合体(III)からなる外層と、該外層に接して覆われた架橋弾性体の層とからなる。
【0018】
熱可塑性重合体(III)は、炭素原子数1~8のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル(本明細書において、メタクリル酸C1-8アルキルエステルということがある。)に由来する構造単位および必要に応じてメタクリル酸C1-8アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位からなる重合体である。熱可塑性重合体(III)は、多官能単量体に由来する構造単位を含まない方が好ましい。
【0019】
熱可塑性重合体(III)を構成するメタクリル酸C1-8アルキルエステルに由来する構造単位の量は、熱可塑性重合体(III)を構成する全構造単位の量に対して、80~100質量%、好ましくは85~95質量%である。
【0020】
メタクリル酸C1-8アルキルエステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシルなどを挙げることができる。これらのうちメタクリル酸メチルが好ましい。
【0021】
熱可塑性重合体(III)を構成するメタクリル酸C1-8アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位の量は、熱可塑性重合体(III)を構成する全構造単位の量に対して、0~20質量%、好ましくは5~15質量%である。
メタクリル酸C1-8アルキルエステル以外の単官能単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸プロピルなどのアクリル酸エステル;スチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミドなどのマレイミド化合物を挙げることができる。これらのうち、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸C1-8アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸ブチルがさらに好ましい。
【0022】
熱可塑性重合体(III)は、メタクリル酸C1-8アルキルエステルに由来する構造単位とメタクリル酸C1-8アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位との合計が100質量%であることが好ましい。
【0023】
外層は1種の熱可塑性重合体(III)からなる単層であってもよいし、2種以上の熱可塑性重合体(III)からなる複層であってもよい。
【0024】
熱可塑性重合体(III)の量は、アクリル系多層重合体の量に対して、好ましくは60~70質量%、より好ましくは62~68質量%、さらに好ましくは64~66質量%である。
【0025】
架橋弾性体の層は、架橋ゴム重合体(II)からなる中間層と、架橋重合体(I)からなり且つ前記中間層に接して覆われた内層とを有する。架橋弾性体の層は、内層と中間層がコアとシェルを成していることが好ましい。
架橋重合体(I)および架橋ゴム重合体(II)の合計量は、アクリル系多層重合体(A)の量に対して、好ましくは30~40質量%、より好ましくは32~38質量%、さらに好ましくは34~36質量%である。
【0026】
架橋重合体(I)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位、メタクリル酸メチル以外の単官能単量体に由来する構造単位、および多官能単量体に由来する構造単位からなる。
【0027】
架橋重合体(I)を構成するメタクリル酸メチルに由来する構造単位の量は、架橋重合体(I)を構成する全構造単位の量に対して、40~98.5質量%、好ましくは45~95質量%である。
【0028】
架橋重合体(I)を構成するメタクリル酸メチル以外の単官能単量体に由来する構造単位の量は、架橋重合体(I)を構成する全構造単位の量に対して、1~59.5質量%、好ましくは5~55質量%である。
メタクリル酸メチル以外の単官能単量体としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸プロピルなどのアクリル酸エステル;スチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミドなどのマレイミド化合物を挙げることができる。これらのうち、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸C1-8アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸ブチルがさらに好ましい。
【0029】
架橋重合体(I)を構成する多官能単量体に由来する構造単位の量は、架橋重合体(I)を構成する全構造単位の量に対して、0.05~0.4質量%、好ましくは0.1~0.3質量%である。
多官能単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0030】
架橋重合体(I)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位とメタクリル酸メチル以外の単官能単量体に由来する構造単位と多官能単量体に由来する構造単位との合計が100質量%であることが好ましい。
【0031】
内層は1種の架橋重合体(I)からなる単層であってもよいし、2種以上の架橋重合体(I)からなる複層であってもよい。
【0032】
架橋重合体(I)からなる内層は、架橋弾性体の層の柔軟性を制御したり、紫外線吸収剤などのような低分子量の添加剤を蓄えるなどの機能を付与したりするために、2種以上の架橋重合体(I)からなる複層であることが好ましい。
【0033】
架橋ゴム重合体(II)は、炭素原子数1~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル(本明細書において、アクリル酸C1-8アルキルエステルということがある。)に由来する構造単位、アクリル酸アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位、および多官能単量体に由来する構造単位からなる。
【0034】
架橋ゴム重合体(II)を構成するアクリル酸C1-8アルキルエステルに由来する構造単位の量は、架橋ゴム重合体(II)を構成する全構造単位の量に対して、90~98.9質量%、好ましくは91~97質量%である。
【0035】
アクリル酸C1-8アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸プロピルなどを挙げることができる。
【0036】
アクリル酸アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位の量は、架橋重合体(II)を構成する全構造単位の量に対して、0.1~8.3質量%、好ましくは1.3~7.3質量%である。
アクリル酸アルキルエステル以外の単官能単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのメタクリル酸エステル;スチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;N-プロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-o-クロロフェニルマレイミドなどのマレイミド化合物;1,3-ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンを挙げることができる。これらのうち、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸C1-8アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸メチルがさらに好ましい。
【0037】
架橋ゴム重合体(II)を構成する多官能単量体に由来する構造単位の量は、架橋ゴム重合体(II)を構成する全構造単位の量に対して、1~1.7質量%、好ましくは1.2~1.6質量%、より好ましくは1.3~1.5質量%である。
多官能単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレートなどを挙げることができる。
【0038】
耐屈曲性の向上の観点から、架橋ゴム重合体(II)中の多官能単量体に由来する構造単位の量に対する、架橋重合体(I)中の多官能単量体に由来する構造単位の量が、質量比で、好ましくは0.05~0.25、より好ましくは0.1~0.2である。架橋ゴム重合体(II)のガラス転移温度は、架橋重合体(I)のガラス転移温度より低いことが好ましい。
【0039】
架橋ゴム重合体(II)は、アクリル酸C1-8アルキルエステルに由来する構造単位とアクリル酸アルキルエステル以外の単官能単量体に由来する構造単位と多官能単量体に由来する構造単位との合計が100質量%であることが好ましい。
【0040】
中間層は1種の架橋ゴム重合体(II)からなる単層であってもよいし、2種以上の架橋ゴム重合体(II)からなる複層であってもよい。
【0041】
架橋ゴム重合体(II)の量は、架橋重合体(I)および架橋ゴム重合体(II)の合計量に対して、80~90質量%、好ましくは82~88質量%である。
【0042】
架橋ゴム重合体(II)からなる中間層は、本発明のメタクリル樹脂組成物に柔軟性を付与する役割を主に有する。
【0043】
内層を構成する架橋重合体(I)と中間層を構成する架橋ゴム重合体(II)は分子鎖がグラフト結合によってつながっていることが好ましい。また、中間層を構成する架橋ゴム重合体(II)と外層を構成する熱可塑性重合体(III)は分子鎖がグラフト結合によってつながっていることが好ましい。なお、グラフト結合は、すでに完成している高分子の主鎖に結合した置換基を反応活性点とし、そこから新たに枝部分を伸張させることを含む重合法(グラフト重合法)によって、生成する主鎖と枝部分とを繋ぐ結合である。
【0044】
本発明に用いられるアクリル系多層重合体(A)は、架橋弾性体の層の平均直径が、120nm以下、好ましくは60~110nm、より好ましくは65~105nm、更に好ましくは70~100nmである。本発明における架橋弾性体の層の平均直径は次のようにして測定できる。油圧式プレス成形機を用いて、アクリル系多層重合体(A)を含んでなるメタクリル樹脂組成物を、金型サイズ50mm×120mm、プレス温度250℃、予熱時間3分間、プレス圧力50kg/cm2、プレス時間30秒間、冷却温度20℃、冷却時の圧力50kg/cm2、および冷却時間10分間の条件にて3mmの平板に成形する。ミクロトームを用いて、得られた平板を-100℃にて長辺に平行な方向に切削して、厚さ40nmの薄片を得、この薄片をルテニウムで染色処理する。染色処理された薄片を走査型透過電子顕微鏡(日本電子製JSM7600F)にて加速電圧25kVにて観察し写真を撮影する。ルテニウム染色された部分(架橋弾性体の層の切片露出部)の短径と長径を測定し、(短径+長径)/2を架橋弾性体の層の直径とし、20個以上計測した後、その数平均値(平均直径)を算出する。
【0045】
本発明に用いられるアクリル系多層重合体(A)は、グラフト率が、好ましくは33~50質量%、より好ましくは35~48質量%、さらに好ましくは40~45質量%である。グラフト率が小さくなるほど、架橋弾性体の層の柔軟性が向上し、引張伸びや耐屈曲性が向上する傾向がある。グラフト率が大きくなるほど、架橋弾性体の層の弾性が向上し、透明性が向上する傾向がある。
【0046】
グラフト率は、架橋ゴム重合体(II)中の多官能単量体に由来する構造単位を制御することで調整できる。例えば、二重結合当量が好ましくは50~250、より好ましくは60~200である多官能単量体を架橋ゴム重合体(II)に採用し、架橋ゴム重合体(II)を構成する該多官能単量体に由来する構造単位の量を、架橋ゴム重合体(II)を構成する全構造単位の量に対して、好ましくは1~2質量%、より好ましくは1.2~1.8質量%、さらに好ましくは1.3~1.7質量%にする。なお、二重結合当量は、多官能単量体の分子量を多官能単量体一分子中に在る二重結合の数で除した値である。
【0047】
グラフト率は、アクリル系多層重合体(A)中のアセトン不溶分の質量w1と、アクリル系多層重合体(A)の質量w0に対する架橋重合体(I)および架橋ゴム重合体(II)の合計質量の比Rから、次式によって算出する。
グラフト率=100×〔w1-w0×R〕/〔w0×R〕
【0048】
アクリル系多層重合体(A)は、その製造方法によって、特に限定されない。例えば、乳化重合などを挙げることができる。
乳化重合による場合は、例えば、架橋重合体(I)を構成するための単量体(i)を乳化重合して架橋重合体(I)を含有するラテックスを得、これに架橋ゴム重合体(II)を構成するための単量体(ii)を添加して、単量体(ii)をシード乳化重合して架橋重合体(I)と架橋ゴム重合体(II)を含有するラテックスを得、これに熱可塑性重合体(III)を構成するための単量体(iii)を加えて、単量体(iii)をシード乳化重合してアクリル系多層重合体を含有するラテックスを得ることができる。なお、乳化重合は重合体を含有するラテックスを得るために用いられる公知の方法である。シード乳化重合はシード粒子の表面で単量体の重合反応を行わせる方法である。シード乳化重合はコアシェル構造重合体粒子を得るために好ましく用いられる。
【0049】
乳化重合およびシード乳化重合において使用される重合開始剤は、特に制限されない。重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性の無機系開始剤;無機系開始剤に亜硫酸塩またはチオ硫酸塩などを併用してなるレドックス開始剤;有機過酸化物に第一鉄塩またはナトリウムスルホキシレートなどを併用してなるレドックス開始剤などを挙げることができる。重合開始剤は重合開始時に一括して反応系に添加してもよいし、反応速度などを勘案して重合開始時と重合途中とに分割して反応系に添加してもよい。
【0050】
乳化重合およびシード乳化重合において使用される乳化剤は、特に制限されない。乳化剤としては、例えば、アニオン系乳化剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ノニオン系乳化剤である、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等;ノニオン・アニオン系乳化剤である、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウムなどのアルキルエーテルカルボン酸塩等を挙げることができる。ノニオン系乳化剤およびノニオン・アニオン系乳化剤におけるオキシエチレン構造単位の付加モル数は、乳化剤の発泡性が極端に大きくならないようにするために、好ましくは30モル以下、より好ましくは20モル以下、最も好ましくは10モル以下である。これらの乳化剤は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
重合開始剤および乳化剤の使用量は、ラテックスに含まれるアクリル系多層重合体(A)の平均粒子径が所望の範囲になるように適宜設定できる。乳化剤の使用量は、乳化剤の種類によって変わるが、例えば、アクリル系多層重合体を製造するための単量体の合計量100質量部に対して、好ましくは0.5~3質量部、より好ましくは1~2質量部である。
【0052】
ラテックスに含まれるアクリル系多層重合体(A)の平均粒子径は、好ましくは80nm以上150nm以下、より好ましくは90nm以上120nm以下である。アクリル系多層重合体の平均粒子径が小さすぎる場合、ラテックスの粘度が高くなる傾向がある。アクリル系多層重合体(A)の平均粒子径が大きすぎる場合、耐応力白化性が低下する傾向がある。
ラテックスに含まれるアクリル系多層重合体(A)の平均粒子径は、次のようにして決定できる。アクリル系多層重合体(A)を含むラテックスを0.05質量%の濃度になるようイオン交換水で希釈し、得られた希釈液を支持板に薄く流延し、乾燥させる。乾燥物に金-パラジウム合金を蒸着させ、それを走査型透過電子顕微鏡(日本電子製、JSM7600F)で観察し、数平均粒子径を決定する。
【0053】
本発明においては、単量体(i)の乳化重合、単量体(ii)のシード乳化重合および単量体(iii)のシード乳化重合を一つの重合槽中で順次行ってもよいし、単量体(i)の乳化重合、単量体(ii)のシード乳化重合および単量体(iii)のシード乳化重合の度に重合槽を変えて順次行ってもよい。本発明においては各重合を一つの重合槽中で順次行うことが好ましい。また、重合を行っている間の反応系の温度は、好ましくは30~120℃、より好ましくは50~100℃である。
【0054】
また、単量体(i)の乳化重合、単量体(ii)のシード乳化重合および単量体(iii)のシード乳化重合のいずれかにおいて、必要に応じて、反応性紫外線吸収剤、例えば、2-[2-ヒドロキシ-5-(2-メタクリロイルオキシエチル)フェニル]-2H-1,2,3-ベンゾトリアゾールなどを添加することができる。反応性紫外線吸収剤がアクリル系多層重合体(A)の分子鎖に導入され、アクリル系多層重合体(A)の耐紫外線性が向上する。反応性紫外線吸収剤の添加量は、アクリル系多層重合体(A)の製造に使用される単量体の合計量100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部である。
【0055】
連鎖移動剤は、分子量の調節のために、各重合において使用することができる。各重合に使用される連鎖移動剤は、特に限定されない。連鎖移動剤としては、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類; ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィドなどのキサントゲンジスルフィド類; テトラチウラムジスルフィドなどのチウラムジスルフィド類; 四塩化炭素、臭化エチレンなどのハロゲン化炭化水素などを挙げることができる。連鎖移動剤の使用量は、重合体(I)、(II)、および(III)のそれぞれを所定の分子量に調節できる範囲で適宜設定できる。単量体(iii)のシード乳化重合において使用される連鎖移動剤の量は、アクリル系多層重合体が所望のメルトフローレートを持つように、適宜設定できる。各重合において使用される連鎖移動剤の好適な量は、その重合において使用される重合開始剤の量などによって変わる。単量体(iii)のシード乳化重合において使用される連鎖移動剤の量は、単量体(iii)100質量部に対して、好ましくは0.05~2質量部、より好ましくは0.08~1質量部である。
【0056】
次に、上記のような重合によって得られたラテックスを凝固させる。ラテックスの凝固は、公知の方法で行うことができる。凝固法としては、凍結凝固法、塩析凝固法、酸析凝固法などを挙げることができる。これらのうち、不純物となる凝固剤の添加を要しない凍結凝固法、または洗浄が可能な塩析凝固法は、不純物が少ない凝固物が得られるという点から好ましい。ラテックスの凝固に代えてラテックスの噴霧乾燥を採用することもできる。ラテックスの凝固または噴霧乾燥する前に、異物の除去のために、目開き50μm以下の金網等でラテックスを濾過することが好ましい。
【0057】
凝固によって得られたスラリーは、必要に応じて水などで洗浄し、次いで脱水する。アクリル系多層重合体(A)の特性が所望の範囲になるように洗浄と脱水を繰り返し行うことが好ましい。スラリーの洗浄および脱水によって、乳化剤や触媒などの水溶性成分をスラリーから除去できる。スラリーの洗浄および脱水は、例えば、フィルタープレス、ベルトプレス、ギナ型遠心分離機、スクリューデカンタ型遠心分離機などで行うことができる。生産性、洗浄効率の観点からデカンタ式遠心脱水機を用いることが好ましい。スラリーの洗浄および脱水は、少なくとも2回行うことが好ましい。洗浄および脱水の回数が多いほど水溶性成分の残存量が下がる。しかし、生産性の観点から、洗浄および脱水の回数は、3回以下が好ましい。
【0058】
脱水は、スラリーの含水率が、好ましくは0.3質量%未満、より好ましくは0.2質量%未満になるように行う。脱水されたスラリーの乾燥は、重合体の劣化を防ぎつつ含水率をさらに下げるために、好ましくは40~80℃の温度で行う。また、脱水されたスラリーの乾燥は、平均滞留時間で、好ましくは0.5~5時間、より好ましくは1~3時間かけて行う。脱水および乾燥後の含水率が低いほど、耐温水白化性および耐沸水白化性が向上する傾向がある。
【0059】
本発明に用いられるメタクリル系樹脂(B)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位、および必要に応じてメタクリル酸メチル以外の単官能単量体に由来する構造単位からなる。メタクリル系樹脂(B)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位とメタクリル酸メチル以外の単官能単量体に由来する構造単位との合計量が100質量%であることが好ましい。
【0060】
メタクリル系樹脂(B)におけるメタクリル酸メチルに由来する構造単位の量は、メタクリル系樹脂(B)の全構造単位の量に対して、99質量%以上、好ましくは99質量%超過、より好ましくは99.5質量%超過、さらに好ましくは100質量%である。メタクリル系樹脂(B)におけるメタクリル酸メチル以外の単官能単量体に由来する構造単位の量は、メタクリル系樹脂(B)の全構造単位の量に対して、1質量%以下、好ましくは1質量%未満、より好ましくは0.5質量%未満、さらに好ましくは0質量%である。
【0061】
メタクリル酸メチル以外の単官能単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル単量体;メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル;酢酸ビニル、スチレン、p-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のα,β-不飽和カルボン酸;N-エチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物などを挙げることができる。これらのうち、アクリル酸C1-6アルキルエステルが好ましい。単官能単量体は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。メタクリル系樹脂(B)は多官能単量体に由来する構造単位を含まない方が好ましい。
【0062】
メタクリル系樹脂(B)は、ガラス転移温度が、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは105℃以上である。メタクリル系樹脂(B)は、230℃、3.8kg荷重下でのメルトフローレートが、好ましくは0.5~20g/10分、より好ましくは0.8~10g/10分である。
【0063】
メタクリル系樹脂(B)は、重量平均分子量(Mw)が、好ましくは6万~15万、より好ましくは7万~14万である。メタクリル系樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は、アクリル系樹脂フィルムに含まれるアセトン可溶分の数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比Mw/Mnが、所望の範囲になるように設定することが好ましい。
【0064】
メタクリル系樹脂(B)は、その製造方法によって特に制限されない。例えば、ラジカル重合反応、アニオン重合反応などの公知の重合反応を、塊状重合法、溶液重合法などの公知の重合方法によって行うことで、得ることができる。メタクリル系樹脂(B)として市販のものを用いることができる。例えば、(株)クラレ製パラペットTM、三菱レイヨン(株)製アクリペットTM、住友化学工業(株)製スミペックスTM、旭化成ケミカルズ(株)製デルペットTM、DOW CHEMICAL社製パラグラスTMおよびオログラスTMなどのメタクリル樹脂を挙げることができる。また、ISO 8257-1に規定されているメタクリル樹脂を用いてもよい。
アクリル系多層重合体(A)に対するメタクリル系樹脂(B)の質量比が、10/90~50/50、好ましくは15/85~35/65、より好ましくは18/82~32/68である。
【0065】
本発明に用いられる紫外線吸収剤(C)は、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する化合物である。本発明に用いられる紫外線吸収剤(C)としては、例えば、式(X)で表される化合物などを挙げることができる。式(X)中、R1は、有機基、好ましくは置換若しくは無置換のアルコキシ基、より好ましくは炭素原子数6~10の分岐鎖のアルコキシ基である。式(X)中、nは1~5のいずれかの整数、好ましくは1または2である。nが1であるとき、OH基はフェニル基の2位に結合することが好ましい。式(X)中、mは5-n、好ましくは1または2である。mが2以上であるときR1は、同じであってよいし、異なってもよいが、同じであることが好ましい。式(X)中、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または有機基、好ましくは水素原子または置換若しくは無置換のアリール基、より好ましくは置換若しくは無置換のビフェニリル基、さらに好ましくは1,1’-ビフェニル-4-イル基である。トリアジン環に結合するヒドロキシフェニル基は炭素原子数6~12のアルコキシ基で置換されているのが好ましい。該トリアジン環に結合するアルコキシ基で置換されたヒドロキシフェニル基の数は3であることができ、2が好ましく、1がより好ましい。
【0066】
【0067】
ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有する化合物としては、例えば、
2-(2-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-プロピルオキシフェニル)-6-(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-4,6-ビス(4-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-(2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-(2-ヒドロキシ-4-トリデシルオキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-[2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-ブチルオキシ-プロポキシ)フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-[2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-オクチルオキシ-プロピルオキシ)フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-[4-(ドデシルオキシ/トリデシルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ヒドロキシ-フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-[2-ヒドロキシ-4-(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシ-プロポキシ)フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、
2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン、
2,4,6-トリス[2-ヒドロキシ-4-(3-ブトキシ-2-ヒドロキシ-プロポキシ)フェニル]-1,3,5-トリアジン、
2-(2-ヒドロキシフェニル)-4-(4-メトキシフェニル)-6-フェニル-1,3,5-トリアジン、
2-{2-ヒドロキシ-4-[3-(2-エチルヘキシル-1-オキシ)-2-ヒドロキシプロピルオキシ]フェニル}-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-[4,6-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-[(2‐エチルヘキシル)オキシ]フェノール、
2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル)-6-(2,4-ビス(ブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、
2-[4-(4,6-ビス(ビフェニル-4-イル)-[1,3,5]トリアジン-2-イル)-3-ヒドロキシ-フェノキシ)-プロピオン酸6-メチルへプチルエステル、
5-[2-ヒドロキシ-3-(ドデシルオキシ)プロポキシ]-2-(4-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-[1,3,5]トリアジン-2-イル)フェノール、
5-[2-ヒドロキシ-3-(トリデシルオキシ)プロポキシ]-2-(4-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-[1,3,5]トリアジン-2-イル)フェノール、
5-[2-ヒドロキシ-3-(2-エチルヘキシルオキシ)プロポキシ]-2-(4-(4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-[1,3,5]トリアジン-2-イル)フェノール、
2-[4-(4,6-ビス{2-ヒドロキシ-4[1-(6-メチル-へプチルオキシカルボニル)-エトキシ]-フェニル}-[1,3,5]トリアジン-2-イル)-3-ヒドロキシ-フェノキシ]-プロピオン酸6-メチルへプチルエステル
などを挙げることができる。
【0068】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、必要に応じて、他の重合体若しくは樹脂、または樹脂用添加剤を含有していてもよい。樹脂用添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤(C)以外の紫外線吸収剤、光拡散剤、艶消し剤、フィラー、酸化防止剤、熱劣化防止剤、光安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、難燃剤、染顔料、有機色素、耐衝撃性改質剤、発泡剤、蛍光体などを挙げることができる。樹脂用添加剤の総含有量は、アクリル系樹脂フィルム100質量部に対して、好ましくは0~10質量部、より好ましくは0~5質量部、さらに好ましくは0~2質量部である。他の重合体若しくは樹脂または樹脂用添加剤は、樹脂溶融時に添加してもよいし、樹脂ペレットにドライブレンドしてもよいし、マスターバッチ法によって添加してもよい。
【0069】
他の重合体または樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、およびポリノルボルネン等のオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、およびMBS樹脂等のスチレン系樹脂;メチルメタクリレート-スチレン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート等のエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、およびポリアミドエラストマー等のポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、およびシリコーン変性樹脂;アクリルゴム、アクリル系熱可塑性エラストマー、およびシリコーンゴム;SEPS、SEBS、およびSIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、およびEPDM等のオレフィン系ゴム等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
光拡散剤または艶消し剤としては、ガラス微粒子、ポリシロキサン系架橋微粒子、架橋ポリマー微粒子、タルク、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム等の無機微粒子、無機若しくは有機バルーン、有機微粒子等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
アクリル系樹脂フィルムに配合される光拡散剤または艶消し剤は、アクリル系樹脂フィルムの厚さに対して、平均粒径が、好ましくは67%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは13%以下であることが好ましい。
【0071】
フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、シリカ、マイカ、クレー、硫酸バリウム、および炭酸マグネシウム等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0072】
酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、およびチオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。着色による光学特性の劣化防止効果の観点から、リン-ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤およびヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤との併用がより好ましい。リン系酸化防止剤とヒンダードフェノール系酸化防止剤とを併用する場合、リン系酸化防止剤の使用量:ヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用量は、質量比で、1:5~2:1が好ましく、1:2~1:1がより好ましい。
【0073】
リン系酸化防止剤としては、2,2-メチレンビス(4,6-ジt-ブチルフェニル)オクチルホスファイト(ADEKA社製;商品名:アデカスタブHP-10)、トリス(2,4-ジt-ブチルフェニル)ホスファイト(BASF社製;商品名:IRGAFOS168)、および3,9-ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサー3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン(ADEKA社製;商品名:アデカスタブPEP-36)等が好ましい。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕(BASF社製;商品名IRGANOX1010)、およびオクタデシル-3-(3,5-ジt-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート(BASF社製;商品名IRGANOX1076)等が好ましい。
リン-ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンズ[d,f][1,3,2]-ジオキサスホスフェピン(住友化学工業社製;商品名:Sumilizer GP)等が好ましい。これらの酸化防止剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0074】
熱劣化防止剤としては、2-t-ブチル-6-(3’-t-ブチル-5’-メチル-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGM)、および2,4-ジt-アミル-6-(3’,5’-ジt-アミル-2’-ヒドロキシ-α-メチルベンジル)フェニルアクリレート(住友化学社製;商品名スミライザーGS)等が好ましい。
【0075】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類(紫外線吸収剤(C)を除く)、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、およびホルムアミジン類等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ベンゾトリアゾール類、または波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤が好ましい。
【0076】
ベンゾトリアゾール類としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2,2’-メチレンビス〔6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-tert-オクチルフェノール〕、2-(5-オクチルチオ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェノールなどを挙げることができる。
【0077】
波長380~450nmにおけるモル吸光係数の最大値εmaxが1200dm3mol-1cm-1以下である紫外線吸収剤としては、2-エチル-2’-エトキシ-オキサルアニリド(クラリアントジャパン社製;商品名サンデユボアVSU)などを挙げることができる。
【0078】
光安定剤としては、2,2,6,6-テトラアルキルピペリジン骨格を持つ化合物などのヒンダードアミン類等が挙げられる。
【0079】
滑剤としては、ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアロアミド酸、メチレンビスステアロアミド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、パラフィンワックス、ケトンワックス、オクチルアルコール、および硬化油等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
離型剤としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;およびステアリン酸モノグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。離型剤として、高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用することが好ましい。高級アルコール類とグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、その割合は特に制限されないが、高級アルコール類の使用量:グリセリン脂肪酸モノエステルの使用量は、質量比で、2.5:1~3.5:1が好ましく、2.8:1~3.2:1がより好ましい。
【0081】
有機色素としては、紫外線を可視光線に変換する機能を有する化合物等が好ましく用いられる。
蛍光体としては、蛍光顔料、蛍光染料、蛍光白色染料、蛍光増白剤、および蛍光漂白剤等が挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0082】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、公知の製膜法によって得ることができる。製膜法としては、例えば、押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、溶融キャスト法、溶液キャスト法などを挙げることができる。これらのうち、押出成形法が好ましい。押出成形法によれば、改善された靭性を持ち、取扱い性に優れ、靭性と表面硬度および剛性とのバランスに優れたフィルムを得ることができる。押出機から吐出される樹脂の温度は好ましくは160~270℃、より好ましくは220~260℃に設定する。
【0083】
押出成形法のうち、良好な表面平滑性、良好な鏡面光沢、低ヘイズのフィルムが得られるという観点から、本発明のメタクリル樹脂組成物を溶融状態でTダイから押出し、次いでそれを二つ以上の鏡面ロールまたは鏡面ベルトで挟持してフィルムを形成することを含む方法が好ましい。鏡面ロールまたは鏡面ベルトは、金属製であることが好ましい。一対の鏡面ロールまたは鏡面ベルトの間の線圧は、好ましくは2N/mm以上、より好ましくは10N/mm以上、さらにより好ましくは30N/mm以上である。
【0084】
また、鏡面ロールまたは鏡面ベルトの表面温度は共に130℃以下であることが好ましい。また、一対の鏡面ロール若しくは鏡面ベルトは、少なくとも一方の表面温度が60℃以上であることが好ましい。このような表面温度に設定すると、押出機から吐出される樹脂を自然放冷よりも速い速度で冷却することができ、表面平滑性に優れ且つヘイズの低いフィルムを製造し易い。
【0085】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは延伸処理を施したものであってもよい。延伸処理によって、機械的強度が高まり、ひび割れし難いフィルムを得ることができる。延伸方法は特に限定されず、一軸延伸法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法などを挙げることができる。延伸時の温度は、均一に延伸でき、高い強度のフィルムが得られるという観点から、100~200℃が好ましく、120℃~160℃がより好ましい。延伸は、通常長さ基準で100~5000%/分で行われる。延伸は、面積比で1.5~8倍になるように行うことが好ましい。延伸の後、熱固定を行うことによって、熱収縮の少ないフィルムを得ることができる。
【0086】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの厚さは、特に制限されないが、好ましくは20μm以上100μm以下、より好ましくは30μm以上80μm以下、さらに好ましくは45μm以上70μm以下、よりさらに好ましくは50μm以上60μm以下である。一般に、フィルムの厚さが薄くなるほど紫外線吸収能が低くなる。
本発明のアクリル系樹脂フィルムは紫外線吸収剤などの添加剤のブリードアウトが発生しにくい。本発明のアクリル系樹脂フィルムは、薄い厚さにおいても厚さムラが小さい。また本発明のアクリル系樹脂フィルムは、耐応力白化性に優れ、折り曲げても白化しない。
【0087】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、アセトン不溶分の質量が、フィルムの質量に対して35~55質量%、好ましくは38~52質量%である。アセトン不溶分の質量は、つぎのようにして決定する。所定量のアクリル系樹脂フィルムをアセトンに一晩漬けて溶液を得、溶液を遠心分離してアセトン不溶分とアセトン可溶分とに分け、分離されたアセトン不溶分をアセトン洗浄し、次いでアセトンを室温下にて蒸散させて、乾燥アセトン不溶分を得、それの質量を測定する。
【0088】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、液晶保護板、携帯型情報端末の表面材、携帯型情報端末の表示窓保護フィルム、導光フィルム、銀ナノワイヤーやカーボンナノチューブを表面に塗布した透明導電フィルム、各種ディスプレイの前面板用途など;建材用フィルム、再帰反射フィルム、IRカットフィルム、防犯フィルム、飛散防止フィルム、加飾用フィルム、金属加飾フィルム、太陽電池のバックシート、フレキシブル太陽電池用フロントシート、シュリンクフィルム、インモールドラベル用フィルム、ガスバリアフィルム用基材フィルム、太陽電池表面保護フィルム、太陽電池用封止フィルム、太陽電池用裏面保護フィルム、太陽電池用基盤フィルム、ガスバリアフィルム用保護フィルムなどに用いることができる。
【0089】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に機能層を設けることができる。機能層としては、ハードコート層、アンチグレア層、反射防止層、スティッキング防止層、光拡散層、艶消し層、静電気防止層、防汚層、易滑性層、ガスバリア層、印刷層などを挙げることができる。
【0090】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂などとの接着性に優れているので、本発明のアクリル系樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に、他の熱可塑性樹脂フィルムを積層させることができる。本発明のアクリル系樹脂フィルムと他の熱可塑性樹脂フィルムとを積層して有する積層フィルムは、それの製造方法によって特に制限されない。例えば、共押出成形、プレス成形、被覆押出成形、インサート成形、インモールド成形、溶着、接着、圧着などの方法を用いて製造することができる。なお、積層フィルムに使用し得る他の熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート系重合体、塩化ビニル系重合体、フッ化ビニリデン系重合体、メタクリル樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂、前述の熱可塑性樹脂などを挙げることができる。
【0091】
次に本発明の効果を実施例および比較例を示して説明する。なお、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。また、以下の記載において、特に明記しない限り、「部」は「質量部」を表し、「%」は「質量%」を表す。
【0092】
樹脂フィルムの評価は、以下の方法により行った。
(加工性)
樹脂フィルム(厚さ200μm)を、引張試験における引張方向がMD方向と平行になるように、打ち抜いて、JIS K 7127(ISO572-3)のタイプ1Bの試験片を得た。該試験片を200mm/分で引張り、破断伸び(EL)を測定した。なお、破断伸び(EL)は、試験片装着時のチャック間距離l0に対する破断直前のチャック間距離lの増加量l-l0の比:(l-l0)/l×100で表す。破断伸びが大きいほど成形性が良好であることを示す。本発明においては当該破断伸びが50%以上であることが好ましい。
【0093】
(成形性)
樹脂フィルム(厚さ200μm)を裁断して18mm×10mmの試験片を得た。回転型レオメーター(TAインストルメント社製 DHR)を用いて、200℃(待機時間30秒間)、歪み速度6.0s-1の条件で、試験片を伸長変形させ、各時間tにおける試験片の断面積と荷重とを測定し、その測定値から一軸伸長粘度を算出した。なお、試験片の断面積S(t)は、初期断面積S0と歪み速度εとから、式:S0×exp(-εt)で算出することもできる。
測定開始から0.03秒間経過した時から、測定開始から0.1秒間経過したときまでの範囲における、時間t(単位:秒またはs)と一軸伸長粘度η(単位:Pa・s)との一組のデータを、最小二乗法によって一次関数η=at+bに近似し、その一次関数の傾きa(ひずみ硬化性)を算出した。ひずみ硬化性が大きいほど成形性が良好であることを示す。本発明においては当該傾きが1.0×104Pa以上であることが好ましい。
【0094】
(耐候性)
樹脂フィルムを裁断して50mm×50mmの試験片を得た。スーパーUV試験機(岩崎電気社製;SUV-W161)を用いて、試験片に、ブラックパネル温度83℃、相対湿度50%、照射エネルギー100mW/cm2の条件で、紫外線を500時間照射した。その後、試験片を試験機から取り出し、分光光度計(島津製作所社製 UV3600)にて200~800nmの波長範囲における透過率を測定した。波長350nmの透過率が低いほど耐候性が良好であることを示す。本発明においては当該透過率が5%以下であることが好ましい。
【0095】
(アセトン不溶分)
所定量のアクリル系樹脂フィルムをアセトンに一晩漬けて溶液を得た。溶液を遠心分離してアセトン不溶分とアセトン可溶分とに分けた。分離されたアセトン不溶分をアセトン洗浄し、次いでアセトンを室温下にて蒸散させて、乾燥アセトン不溶分を得、それの質量を測定した。
【0096】
(製造例1)アクリル系多層重合体(A1)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を具備した反応器に、脱イオン水1050部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部および炭酸ナトリウム0.05部を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換して実質的に酸素がない状態にした。反応器内の温度を80℃にした。それに、過硫酸カリウム3%水溶液0.1部を投入し、5分間攪拌した。その後、メタクリル酸メチル(MMA)49.9%、アクリル酸ブチル(BA)49.9%、およびメタクリル酸アリル(ALMA)0.2%からなる混合物(i)26.2部を20分間かけて連続的に添加した。添加終了後、重合率が98%以上になるように、少なくとも30分間重合反応さらに行った。
【0097】
次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム3%水溶液0.05部を添加して5分間攪拌した。その後、MMA5%、BA93.5%、およびALMA1.5%からなる混合物(ii)157.4質量部を40分間かけて連続的に添加した。添加終了後、重合率が98%以上になるように、少なくとも30分間重合反応をさらに行った。
【0098】
次に、同反応器内に、過硫酸カリウム3%水溶液0.5部を添加して5分間攪拌した。その後、MMA87.2%、BA12.5%、およびn-オクチルメルカプタン(n-OM)0.3%からなる混合物(iii)341.1部を100分間かけて連続的に添加した。添加終了後、重合率が98%以上になるように、少なくとも60分間重合反応をさらに行って、数平均粒子径100nmのアクリル系多層重合体(A1)を含むラテックスを得た。
【0099】
続いて、アクリル系多層重合体(A1)を含むエマルジョンを-30℃で4時間かけて凍結させた。凍結エマルジョンの2倍量の80℃温水に凍結エマルジョンを投入して溶解させ、次いで20分間80℃に保持してスラリーを得た。その後、スラリーに脱水処理を施し、さらに70℃で乾燥させて、アクリル系多層重合体(A1)の粉末を得た。この粉末をペレット化した。
【0100】
(製造例2)アクリル系多層重合体(A2)
混合物(ii)において、MMAの量を4.9%に、BAの量を92.2%に、ALMAの量を2.9%にそれぞれ変えた以外は製造例1と同じ方法でアクリル系多層重合体(A2)の粉末を得た。この粉末をペレット化した。
【0101】
(製造例3)アクリル系多層重合体(A3)
混合物(ii)において、MMAの量を5%に、BAの量を94.4%に、ALMAの量を0.6%にそれぞれ変えた以外は製造例1と同じ方法でアクリル系多層重合体(A3)の粉末を得た。この粉末をペレット化した。
【0102】
(実施例1)
アクリル系多層重合体(A1)のペレット80部、メタクリル系樹脂(B1)(MMA由来構造単位100%、重量平均分子量8.0万)20部、2-[4,6-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-[(2‐エチルヘキシル)オキシ]フェノール(BASF社製;商品名Tinuvin1600)(下式X1)1部を、二軸押出機を用いて混練し、ペレタイザ-を用いてペレット化して、熱可塑性樹脂 (R1)を得た。
【0103】
【0104】
スクリュー径50mmの単軸ベント押出機と、幅500mmおよびリップ開度0.8mmのTダイとを用いて、吐出速度10kg/hおよび樹脂温度260℃にて、熱可塑性樹脂(R1)を溶融押出して、フィルム状の溶融物を得、次いで該溶融物を64℃に温度調整された鏡面仕上げの金属弾性ロールと79℃に温度調整された鏡面仕上げの金属剛体ロールとからなる間隔50μmの第1ニップロールで線圧30kg/cmで挟圧し、次いで65℃に温度調整された鏡面仕上げの金属剛体ロールと60℃に温度調整された鏡面仕上げの金属剛体ロールとからなる間隔50μmの第2ニップロールで線圧30kg/cmで挟圧して、厚さ53μmの単層の樹脂フィルム(1)を得た。
得られた樹脂フィルム(1)について、各種評価を行った。評価結果を表1に示す。樹脂
フィルム(1)は、加工性、成形性および耐候性に優れていた。
【0105】
(実施例2)
2-[4,6-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-[(2‐エチルヘキシル)オキシ]フェノールを、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン(ADEKA社製;商品名アデカスタブLA-F70)(下式X2)に変えた以外は実施例1と同じ方法で樹脂フィルム(2)を得た。評価結果を表1に示す。樹脂フィルム(2)は、加工性、成形性および耐候性に優れていた。
【0106】
【0107】
(実施例3)
アクリル系多層重合体(A1)のペレットの量を70部に変え、メタクリル系樹脂(B1)の量を30部に変えた以外は実施例1と同じ方法で樹脂フィルム(3)を得た。評価結果を表1に示す。樹脂フィルム(3)は、加工性、成形性および耐候性に優れていた。
【0108】
(実施例4)
メタクリル系樹脂(B1)をメタクリル系樹脂(B2)(MMA由来構造単位100%、重量平均分子量11.0万)に変えた以外は実施例3と同じ方法で樹脂フィルム(4)を得た。評価結果を表1に示す。樹脂フィルム(4)は、加工性、成形性および耐候性に優れていた。
【0109】
(比較例1)
アクリル系多層重合体(A1)をアクリル系多層重合体(A2)に変えた以外は実施例3と同じ方法で樹脂フィルム(5)を得た。評価結果を表1に示す。樹脂フィルム(5)は、加工性が劣り、加工時に破断しやすいことが予測された。
【0110】
(比較例2)
アクリル系多層重合体(A1)のペレットの量を100部に変え、メタクリル系樹脂(B1)の量を0部に変えた以外は実施例1と同じ方法で樹脂フィルム(6)を得た。評価結果を表1に示す。樹脂フィルム(6)はひずみ硬化性が低く、成形時に破断しやすいことが予測された。
【0111】
(比較例3)
メタクリル系樹脂(B1)をメタクリル系樹脂(B3)(MMA由来構造単位94%、アクリル酸メチル由来構造単位6%、重量平均分子量12.0万)に変えた以外は実施例1と同じ方法で樹脂フィルム(7)を得た。評価結果を表1に示す。樹脂フィルム(7)は、耐候性が劣っていた。
【0112】
(比較例4)
2-[4,6-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-[(2‐エチルヘキシル)オキシ]フェノールを2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-t-オクチルフェノール](ADEKA社製;商品名アデカスタブLA-31RG)(下式X3)に変えた以外は実施例1と同じ方法で樹脂フィルム(8)を得た。評価結果を表1に示す。樹脂フィルム(8)は、耐候性が劣っていた。
【0113】
【0114】
(比較例5)
アクリル系多層重合体(A1)をアクリル系多層重合体(A3)に変えた以外は実施例3と同じ方法で樹脂フィルム(9)を得た。評価結果を表1に示す。樹脂フィルム(9)は、加工性が劣り、加工時に破断しやすいことが予測された。
【0115】
【表1】
【0116】
以上の結果は、本発明のアクリル系樹脂フィルムが、耐候性、加工性、および成形安定性に優れ、加飾用または建材用に好適であることを実証している。