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特許7225915標示構造、並びに、路面標示、道路付属物および建造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】標示構造、並びに、路面標示、道路付属物および建造物
(51)【国際特許分類】
   E01F 9/506 20160101AFI20230214BHJP
   E01F 9/535 20160101ALI20230214BHJP
【FI】
E01F9/506
E01F9/535
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019036474
(22)【出願日】2019-02-28
(65)【公開番号】P2020139346
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】原口 学
(72)【発明者】
【氏名】堅田 有信
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-272087(JP,A)
【文献】特開2003-283242(JP,A)
【文献】特開平11-274787(JP,A)
【文献】特開2017-129537(JP,A)
【文献】特開2018-177862(JP,A)
【文献】特開2013-174085(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208515(WO,A1)
【文献】特開平11-327642(JP,A)
【文献】特開平10-331122(JP,A)
【文献】特開平10-107540(JP,A)
【文献】特開2003-283243(JP,A)
【文献】特開2006-275973(JP,A)
【文献】特開2018-010353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 9/506
E01F 9/535
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電部材を0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置してなる繰り返し構造部と、
ミリ波または準ミリ波に対して透過性を有し、且つ、前記繰り返し構造部を覆うカバー層と、
を有し、
前記カバー層は、前記繰り返し構造部を可視光および赤外光の少なくとも一方に対して隠蔽する層であり、
前記導電部材が電気伝導性を有する有機物を含む、標示構造。
【請求項2】
前記有機物が導電性ポリマーである、請求項1に記載の標示構造。
【請求項3】
前記有機物が炭素材料である、請求項1に記載の標示構造。
【請求項4】
前記炭素材料がカーボンナノチューブを含む、請求項3に記載の標示構造。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブは、平均長さが20μm以上である、請求項4に記載の標示構造。
【請求項6】
前記導電部材は、導電率が1S/cm以上である、請求項1~5の何れかに記載の標示構造。
【請求項7】
前記導電部材は、外接球の平均直径が0.03mm以上15mm以下である、請求項1~6の何れかに記載の標示構造。
【請求項8】
請求項1~の何れかに記載の標示構造を備える、路面標示。
【請求項9】
請求項1~の何れかに記載の標示構造を備える、道路付属物。
【請求項10】
請求項1~の何れかに記載の標示構造を備える、建造物。
【請求項11】
導電部材を0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置してなる繰り返し構造部と、ミリ波または準ミリ波に対して透過性を有し、且つ、前記繰り返し構造部を覆うカバー層とを有し、前記導電部材が電気伝導性を有する有機物を含む標示構造を備え、
前記カバー層は、設置面よりも、可視光および赤外光の少なくとも一方の反射率が高い、路面標示。
【請求項12】
導電部材を0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置してなる繰り返し構造部と、ミリ波または準ミリ波に対して透過性を有し、且つ、前記繰り返し構造部を覆うカバー層とを有し、前記導電部材が電気伝導性を有する有機物を含む標示構造を備え、
前記カバー層は、設置面よりも、可視光および赤外光の少なくとも一方の反射率が高い、道路付属物。
【請求項13】
導電部材を0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置してなる繰り返し構造部と、ミリ波または準ミリ波に対して透過性を有し、且つ、前記繰り返し構造部を覆うカバー層とを有し、前記導電部材が電気伝導性を有する有機物を含む標示構造を備え、
前記カバー層は、設置面よりも、可視光および赤外光の少なくとも一方の反射率が高い、建造物。
【請求項14】
前記カバー層は、可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収する、請求項11に記載の路面標示。
【請求項15】
前記カバー層は、可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収する、請求項12に記載の道路付属物。
【請求項16】
前記カバー層は、可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収する、請求項13に記載の建造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標示構造、並びに、当該標示構造を用いた路面標示、道路付属物および建造物に関し、特には、自動運転システムや運転支援システムにおいてミリ波レーダーや準ミリ波レーダーなどのレーダーを用いたセンシングを行う際に有利に活用し得る標示構造、路面標示、道路付属物および建造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のドライバーの運転操作を支援する運転支援システムや、ドライバーが運転操作を行わなくとも自動車を自動で走行させる自動運転システムが注目されている。
【0003】
ここで、運転支援システムおよび自動運転システムにおいては、車載レーダー装置等を使用し、走行路の区画線や停止線等の路面標示;縁石、遮断機、防護柵(ガードレール、ガードパイプ等)、ラバーポール、距離標、照明灯、電柱、信号機、信号柱、道路標識および道路標識柱等の道路付属物;並びに、塀や外壁等の建造物;などを的確に検知する技術の開発が肝要である。
【0004】
そこで、例えば特許文献1では、路面との間の反射率強度の差が大きく、レーザーレーダーを用いた際の検知の誤作動を低減し得る路面ライン標示として、熱可塑性結合材と、体質材と、可塑剤と、着色顔料と、所定の屈折率および粒子径を有するガラスビーズとを必須とする溶融式の標示用塗料で形成された帯状ラインの表面に所定の屈折率および粒子径を有するガラスビーズを散布固着させてなる路面ライン標示が提案されている。
【0005】
また、例えば非特許文献1では、降雨、降雪および霧発生などの悪天候時、並びに、積雪時でも検知性能が低下し難い全天候型の白線検知技術として、ミリ波レーダーを使用し、例えば400mm程度の等間隔で金属製リブを設けたリブ式白線を検知する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-148114号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】石本幸太郎、他5名、「ミリ波レーダによるリブ式白線検知」、富士通テン技報、2017年3月、Vol.34、No.1、p.9-17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、天候等の影響を受け難い運転支援システムおよび自動運転システムを実現する観点からは、車載レーダーとしては、悪天候時および積雪時でも検知性能が低下し難いミリ波レーダーまたは準ミリ波レーダーを用いることが好ましい。しかし、上述した路面ライン標示やリブ式白線などの上記従来の標示構造では、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いた際の反射波の受信強度が低かった。
【0009】
また、路面上に所定の間隔で金属製リブを敷設した上記リブ式白線には、走行する車両がリブ式白線の上を通過するなどして繰り返し応力を受けた際に、金属疲労により断線する虞があるという点において改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明は、ミリ波または準ミリ波を用いたレーダーでセンシングを行った際に反射波の受信強度を高めることが可能であり、且つ、耐疲労性に優れる標示構造を提供することを目的とする。
また、本発明は、ミリ波または準ミリ波を用いたレーダーで長期に亘って良好にセンシングし得る路面標示、道路付属物および建造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明によれば、下記<1>~<10>の標示構造、下記<11>~<12>の路面標示、下記<13>~<14>の道路付属物および下記<15>~<16>の建造物が提供される。
<1>導電部材を0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置してなる繰り返し構造部を有し、
前記導電部材が電気伝導性を有する有機物を含む、標示構造。
<2>前記有機物が導電性ポリマーである、上記<1>に記載の標示構造。
<3>前記有機物が炭素材料である、上記<1>に記載の標示構造。
<4>前記炭素材料がカーボンナノチューブを含む、上記<3>に記載の標示構造。
<5>前記カーボンナノチューブは、平均長さが20μm以上である、上記<4>に記載の標示構造。
<6>前記導電部材は、導電率が1S/cm以上である、上記<1>~<5>の何れかに記載の標示構造。
<7>前記導電部材は、外接球の平均直径が0.03mm以上15mm以下である、上記<1>~<6>の何れかに記載の標示構造。
<8>ミリ波または準ミリ波に対して透過性を有し、且つ、前記繰り返し構造部を覆うカバー層を有する、上記<1>~<7>の何れかに記載の標示構造。
<9>前記カバー層は、前記繰り返し構造部を可視光および赤外光の少なくとも一方に対して隠蔽する層である、上記<8>に記載の標示構造。
<10>前記カバー層は、可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収する、上記<8>に記載の標示構造。
<11>上記<1>~<10>の何れかに記載の標示構造を備える、路面標示。
<12>上記<8>~<10>の何れかに記載の標示構造を備え、
前記カバー層は、設置面よりも、可視光および赤外光の少なくとも一方の反射率が高い、路面標示。
<13>上記<1>~<10>の何れかに記載の標示構造を備える、道路付属物。
<14>上記<8>~<10>の何れかに記載の標示構造を備え、
前記カバー層は、設置面よりも、可視光および赤外光の少なくとも一方の反射率が高い、道路付属物。
<15>上記<1>~<10>の何れかに記載の標示構造を備える、建造物。
<16>上記<8>~<10>の何れかに記載の標示構造を備え、
前記カバー層は、設置面よりも、可視光および赤外光の少なくとも一方の反射率が高い、建造物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ミリ波または準ミリ波を用いたレーダーでセンシングを行った際に反射波の受信強度を高めることが可能であり、且つ、耐疲労性に優れる標示構造を提供することができる。
また、本発明によれば、ミリ波または準ミリ波を用いたレーダーで長期に亘って良好にセンシングし得る路面標示、道路付属物および建造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】標示構造の一例の構成を示す平面図である。
図2】(a)および(b)は、標示構造の変形例の構成を示す平面図である。
図3】標示構造の他の例の構成を示す平面図である。
図4】(a)~(c)は、標示構造の別の例の構成を示す平面図である。
図5】標示構造の更に別の例の構成を示す平面図である。
図6】(a)および(b)は、標示構造の更に別の例の構成を示す平面図である。
図7】標示構造の更に別の例の構成を示す平面図である。
図8】標示構造の更に別の例の構成を示す平面図である
図9】標示構造の一例の構成を示す断面図である。
図10】標示用シートを用いて標示構造を施工する様子を示す説明図である。
図11】(a)~(c)は、標示用シートの構造を示す断面図である。
図12】(a)および(b)は、路面に施工された標示構造の一例の構造を示す断面図である。
図13】路面標示の一例の構成を示す断面図である。
図14】道路付属物の一例の構成を示す斜視図である。
図15】道路付属物の他の例の構成を示す斜視図である。
図16】道路付属物の別の例の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の標示構造は、ミリ波または準ミリ波を用いたレーダーで好適にセンシングし得るものであり、例えば、自動運転システムや運転支援システムにおいてミリ波レーダーや準ミリ波レーダーなどのレーダーを用いたセンシングを行う対象物に設けることができる。また、本発明の路面標示、道路付属物および建造物は、本発明の標示構造を備えており、ミリ波または準ミリ波を用いたレーダーで好適にセンシングすることができる。
【0015】
(標示構造)
本発明の標示構造は、電気伝導性を有する有機物を含む導電部材を0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置してなる繰り返し構造部を有している。このように、導電部材を0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置すれば、ミリ波または準ミリ波が導電部材で散乱・反射されてなる反射波が互いに強め合って伝搬するため、レーダーにおける反射波の受信強度を高めることができる。また、電気伝導性を有する有機物を用いて導電部材を形成すれば、導電部材として金属を使用した場合と比較し、繰り返し応力を受けた際の耐久性(耐疲労性)を高めることができる。従って、長期に亘って良好なセンシングが可能になる。
なお、標示構造は、繰り返し構造部を覆うカバー層を更に有していてもよい。
【0016】
<ミリ波・準ミリ波>
ここで、ミリ波および準ミリ波としては、周波数が20GHz以上300GHz以下であり、波長が1mm以上15mm以下である電磁波が挙げられる。具体的には、ミリ波としては、周波数が30GHz以上300GHz以下であり、波長が1mm以上10mm以下である電磁波が挙げられ、準ミリ波としては、周波数が20GHz以上30GHz未満であり、波長が10mm超15mm以下である電磁波が挙げられる。
【0017】
<繰り返し構造部>
また、繰り返し構造部は、所定の間隔で繰り返し配置された導電部材と、導電部材間に位置して導電率が導電部材とは異なる部分とを有している。具体的には、繰り返し構造部の形態としては、特に限定されることなく、例えば、設置面に導電部材を直接配設する場合には、(1)導電率が導電部材とは異なる設置面の上に複数の導電部材を所定の間隔で設置した形態、(2)導電率が導電部材とは異なる設置面の表層部に一部が表面に露出するように複数の導電部材を所定の間隔で埋設した形態、(3)設置面上に所定の間隔で配置した複数の導電部材の間に導電率が導電部材とは異なる部材を敷き詰めた形態、(4)設置面上に敷き詰めた導電部材の上に導電率が導電部材とは異なる部材を導電部材が所定の間隔で露出するように配置した形態、等が挙げられる。また、例えば、基材等を介して設置面に導電部材を設置する場合には、(5)導電率が導電部材とは異なる基材の上または内部に複数の導電部材を所定の間隔で設置した形態、等が挙げられる。
なお、「導電率が導電部材とは異なる部分」および「導電率が導電部材とは異なる基材」は、通常、ミリ波または準ミリ波の反射率も導電部材とは異なる。そして、「導電率が導電部材とは異なる部分」および「導電率が導電部材とは異なる基材」は、ミリ波または準ミリ波を吸収するものであってもよい。また、標示構造は、繰り返し構造部を1つのみ有していてもよいし、複数有していてもよい。更に、上記(1)、(3)および(4)において、導電部材、並びに、導電率が導電部材とは異なる部材は、設置面上に直接設置または配置してもよいし、設置面上に接着層等を介して間接的に設置または配置してもよい。
【0018】
そして、上述した形態を有する繰り返し構造部は、通常、導電率が上述した間隔で繰り返し変化する分布を有する。
【0019】
[導電部材]
ここで、導電部材は、電気伝導性を有する有機物を含む部材であり、通常、当該有機物によって導電性を発揮する。なお、導電部材は、電気伝導性を有する有機物のみで構成されていてもよいし、電気伝導性を有する無機物および非導電性物質の少なくとも一方と、電気伝導性を有する有機物とで構成されていてもよい。具体的には、例えば、導電部材は、電気伝導性を有する有機物で樹脂粒子または無機粒子の表面をコーティングしたものであってもよい。また、導電部材には、界面活性剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、分散剤、結着材などの添加剤が含まれていてもよい。
【0020】
そして、電気伝導性を有する有機物としては、特に限定されることなく、例えば、導電性ポリマー、炭素材料およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0021】
ここで、導電性ポリマーとしては、共役系高分子にアクセプターまたはドナーをドーピングしたものが挙げられる。そして、共役系高分子としては、例えば、ポリアセチレン等の脂肪族共役系高分子;ポリ(p-フェニレン)等の芳香族共役系高分子;ポリ(p-フェニレンビニレン)等の混合型共役系高分子;ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等の複素環共役系高分子;ポリアニリン等の含ヘテロ原子共役系高分子;ポリアセン等の複鎖型共役系高分子;などが挙げられる。また、アクセプターとしては、例えば、Br、I、ICl、ICl等のハロゲン;PF、AsF、BF、SO等のルイス酸;HCl、HSO、HClO等のプロトン酸;FeCl、FeBr、SnCl等の遷移金属ハロゲン化物;テトラシアノエチレン(TCNE)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(DDQ)、ポリスチレン(PSS)、アミノ酸等の有機化合物;ClO、BF 、PF 、AsF 等の電気化学的ドーピング;などが挙げられる。更に、ドナーとしては、例えば、Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属;Be、Mg、Ca等のアルカリ土類金属;Li、Na、K、(CH、(C、(CH、(C等の電気化学的ドーピング;などが挙げられる。
上述した中でも、導電性ポリマーとしては、PEDOTにPSSをドーピングしたPEDOT/PSSが好ましい。
【0022】
また、炭素材料としては、例えば、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛、薄片化黒鉛、球状化黒鉛、膨張黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト;グラフェン;炭素繊維;カーボンナノチューブ(CNT)などが挙げられる。なお、これらの炭素材料は、ドーピングされていてもよい。
【0023】
上述した中でも、電気伝導性を有する有機物としては、炭素材料が好ましく、カーボンナノチューブがより好ましく、平均長さが20μm以上のカーボンナノチューブが更に好ましく、平均長さが80μm以上のカーボンナノチューブが一層好ましく、平均長さが200μm以上のカーボンナノチューブが特に好ましい。カーボンナノチューブを使用すれば、高い電気伝導性および安定性が得られるからである。また、カーボンナノチューブの平均長さが上記下限値以上であれば、導電部材内でのCNT同士の接触箇所を増加させ、更に高い電気伝導性および安定性が得られるからである。なお、カーボンナノチューブの平均長さは、1000μm以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの平均長さが上記上限値以下であれば、導電部材内でカーボンナノチューブが良好に分散して、高い導電性を得ることができる。
【0024】
そして、導電部材は、導電率が1S/cm以上であることが好ましく、10S/cm以上であることがより好ましい。導電率が上記下限値以上であれば、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いてセンシングを行った際の反射波の受信強度を十分に高めることができる。
【0025】
また、繰り返し配置されている各導電部材は、通常、ミリ波または準ミリ波の波長に対して十分に長い長さを有し、ミリ波または準ミリ波の波長に対して十分に短い幅を有する。具体的には、導電部材は、例えば、長さが0.1mm以上である。また、導電部材の幅は、例えば、繰り返し構造部内における導電部材の配置間隔の平均値の1/200以上2/3以下、好ましくは1/50以上1/5以下である。
【0026】
更に、設置面上に設ける導電部材の高さは、3mm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましい。導電部材の高さが上記上限値以下であれば、標示構造を付与した構造物に過度な凹凸が形成されるのを抑制することができる。従って、例えば標示構造を用いて路面標示を形成した場合には、バイク等の車両の走行に支障をきたすのを防止することができると共に、除雪グレーダー等による除雪時に路面標示が削り取られるのを防止することができる。また、導電部材の高さが上記下限値以上であれば、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いてセンシングを行った際の反射波の受信強度を十分に高めることができる。
【0027】
なお、導電部材が粒状、球状または鱗片状である場合には特に、導電部材は、外接球の平均直径が0.03mm以上15mm以下であることが好ましい。外接球の平均直径が上記下限値以上であれば、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いてセンシングを行った際の反射波の受信強度を十分に高めることができる。また、外接球の平均直径が上記上限値以下であれば、標示構造を付与した構造物に過度な凹凸が形成されるのを抑制することができる。
【0028】
また、繰り返し配置されている各導電部材の平面視形状は、特に限定されることなく、例えば、直線状や曲線状等の線状の他、円状、楕円状、十字状、多角形状などが挙げられる。
そして、導電部材が線状の場合、導電部材の繰り返し方向は、線状の部材に交差する方向であることが好ましい。
【0029】
[導電部材の間隔]
そして、繰り返し配置されている導電部材の配置間隔は、0.2mm以上40mm以下であることが必要であり、0.5mm以上40mm以下であることが好ましく、1mm以上10mm以下であることがより好ましい。導電部材の間隔が上記範囲外の場合、反射波の受信強度を十分に高めることができない。
なお、本発明において、繰り返し方向に隣接する導電部材間で間隔が一定でない場合(例えば、隣接する導電部材同士が互いに平行に配置されておらず、導電部材の中央部同士の間と、導電部材の端部同士の間とで間隔が異なる場合など)には、導電部材の間隔とは、繰り返し方向に隣接する導電部材間の平均距離を指すものとする。
【0030】
[導電率が導電部材とは異なる部材]
任意に使用し得る、導電率が導電部材とは異なる部材としては、特に限定されることなく、導電率が導電部材とは異なる材料からなる部材を使用することができる。ここで、導電部材の導電率は、導電部材を構成する材料の混合比を変更することによっても変化させることができる。
【0031】
[設置面]
上述した部材を配置し得る設置面は、標示構造を付与する構造物の表面であってもよいし、標示構造を付与する構造物の表面に設けた下塗り層の表面であってもよい。即ち、繰り返し構造部は、構造物の表面または表層部、或いは、下塗り層の表面または表層部に上述した部材を配置して構成されている。
【0032】
ここで、下塗り層としては、特に限定されることなく、例えば、標示構造を付与する構造物の表面の凹凸を平滑化する樹脂層、上述した部材と構造物の表面との接着性を向上させる樹脂層、並びに、ミリ波または準ミリ波の不要な反射を抑制する樹脂層などが挙げられる。
【0033】
[基材]
基材は、通常、ミリ波または準ミリ波の反射率が導電部材とは異なる部材よりなり、好ましくは、ミリ波または準ミリ波の反射率が導電部材よりも低い部材よりなる。そして、基材は、導電部材を担持可能なものであり、自己支持性を有している。
具体的には、特に限定されることなく、基材としては、樹脂フィルム、不織布、紙またはそれらの積層体を用いることができる。また、基材としては、例えば、表面にシリカ粒子を突出させた樹脂フィルム、表面に凹凸を施した樹脂フィルム、織物、編物などの凹凸を有する基材も好適に使用し得る。
【0034】
[導電部材の形成]
そして、設置面や基材への導電部材の配設は、電気伝導性を有する有機物を蒸着する方法;電気伝導性を有する有機物をスパッタリングする方法;電気伝導性を有する有機物を含む塗料を塗布、噴霧または印刷する方法;電気伝導性を有する有機物を表面にコーティングした粒子を分散させた塗料を塗布、噴霧または印刷する方法;或いは、予め糸状または帯状に成形した電気伝導性を有する有機物を織り込み、編み込み、縫い込み、漉き込みまたは敷設する方法;等を用いて行い得る。
【0035】
<標示構造の例>
そして、上述した繰り返し構造部を有する標示構造としては、特に限定されることなく、例えば図1~8に示すような標示構造が挙げられる。
【0036】
ここで、図1に示す標示構造の繰り返し構造部10は、設置面S上に設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1が上述した所定の間隔で互いに平行に配置されてなる。即ち、導電部材1は、一定の周期で繰り返し配置されている。なお、各導電部材1は、繰り返し方向(図1では左右方向)に直交する方向(図1では上下方向)に延在している。
【0037】
また、図2(a)に示す標示構造の繰り返し構造部10Aは、設置面S上に設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1Aが上述した所定の間隔で互いに平行に配置されてなる。即ち、導電部材1Aは、一定の周期で繰り返し配置されている。なお、各導電部材1Aは、繰り返し方向(図1では左右方向)に直交する方向に対して傾斜して延在している。そして、導電部材1Aが繰り返し方向に対して傾斜している場合、標示構造の横を走行する車両からミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いたセンシングを行ってミリ波や準ミリ波が標示構造に斜め方向から入射しても、入射方向に向かって反射させることができる。
【0038】
更に、図2(b)に示す標示構造の繰り返し構造部10Bは、設置面S上に設置面Sとは反射率が異なる材料からなる曲線状の導電部材1Bが上述した所定の間隔で互いに平行に配置されてなる。即ち、導電部材1Bは、一定の周期で繰り返し配置されている。なお、各導電部材1Bは、中央部が繰り返し方向の一方(図1では左方向)に凸となるように湾曲して延在している。そして、導電部材1Bが曲線状である場合、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いてセンシングを行った際の反射方向を広げ、ロバスト性を高めることができる。
【0039】
また、図3に示す標示構造の繰り返し構造部10Cは、設置面S上に設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1が間隔を異ならせつつ互いに平行に配置されている。即ち、導電部材1は、上述した所定の間隔の範囲内で配設間隔が変調するように配置されており、図3では、導電部材1の配設間隔が疎になる部分と、導電部材1の配設間隔が密になる部分とが繰り返し方向に交互に存在している。なお、各導電部材1は、繰り返し方向(図1では左右方向)に直交する方向(図1では上下方向)に延在している。そして、導電部材1の配設間隔が変調している場合、広い波長帯域のミリ波または準ミリ波に対して高い反射率を得ることができる。
【0040】
ここで、図3に示す標示構造のように繰り返し構造部10C内における導電部材1の配設間隔を変調させる場合、導電部材1の配設間隔は、それぞれ、配設間隔の平均値の0.7倍以上1.3倍以下の範囲内であることが好ましい。配設間隔のバラツキが上記範囲内であれば、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いてセンシングを行った際の反射波の受信強度を十分に高めることができる。
【0041】
更に、上述した例では標示構造が繰り返し構造部を1つのみ有する場合について説明したが、標示構造は、図4に示すように、互いに離隔して配置された複数の繰り返し構造部を有していてもよい。標示構造が互いに離隔した複数の繰り返し構造部を有している場合、反射する波長帯域、ミリ波または準ミリ波の反射方向を広げ、ロバスト性を高めることができる。
【0042】
ここで、図4(a)に示す標示構造は、図4(a)では左右方向に互いに離隔して配置された複数(図示例では3つ)の繰り返し構造部10D,10E,10Fを有している。そして、各繰り返し構造部10D,10E,10Fは、設置面S上に設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1が互いに平行に配置されてなる。即ち、導電部材1は、一定の周期で繰り返し配置されている。なお、各導電部材1は、繰り返し方向(図4(a)では左右方向)に直交する方向(図4(a)では上下方向)に延在している。そして、標示構造が導電部材の繰り返し方向に互いに離隔した複数の繰り返し構造部を有している場合、広い波長帯域のミリ波または準ミリ波に対して高い反射率を得ることができる。
【0043】
また、図4(b)に示す標示構造は、図4(b)では上下方向に互いに離隔して配置された複数(図示例では3つ)の繰り返し構造部10H,10G,10Iを有している。そして、繰り返し構造部10H,10Iは、設置面S上に設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1Aが上述した所定の間隔で互いに平行に配置されてなる。具体的には、導電部材1Aは、一定の周期で繰り返し配置されており、各導電部材1Aは、繰り返し方向(図4(b)では左右方向)に直交する方向に対して傾斜して延在している。また、繰り返し構造部10H,10Iの間に位置する繰り返し構造部10Gは、設置面S上に設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1が上述した所定の間隔で互いに平行に配置されてなる。具体的には、導電部材1は、一定の周期で繰り返し配置されており、各導電部材1は、繰り返し方向(図4(b)では左右方向)に直交する方向に延在している。そして、標示構造が有する複数の繰り返し構造部間で導電部材の延在方向が異なる場合、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いてセンシングを行った際の反射方向を広げ、ロバスト性を高めることができる。
【0044】
更に、図4(c)に示す標示構造は、導電部材1の繰り返し方向が異なる複数の繰り返し構造部10Jを有している。具体的には、各繰り返し構造部10Jは、設置面S上に設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1が上述した所定の間隔で互いに平行に配置されてなり、一定の周期で繰り返し配置された各導電部材1は、繰り返し方向に直交する方向に延在している。そして、標示構造が有する複数の繰り返し構造部間で導電部材の繰り返し方向が異なる場合、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いてセンシングを行った際にあらゆる方向に高い反射率を得ることができる。
【0045】
なお、導電部材の繰り返し方向が異なる複数の繰り返し構造部を有する場合、各繰り返し構造が有する導電部材の数は、5以上20未満であることが好ましい。繰り返し構造部間で導電部材の繰り返し方向が異なる場合に、導電部材の数が5以上であれば、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーでのセンシングに必要な反射の指向性を十分に持たせることができる。また、導電部材の数が20未満であれば、反射波の波長帯域と指向性に冗長性を与えることができる。
【0046】
また、図4に示す例では、全ての繰り返し構造部において導電部材が一定の周期で配置されていたが、標示構造が導電部材の繰り返し方向が異なる複数の繰り返し構造部を有する場合、繰り返し配置された導電部材の周期は、少なくとも2つの繰り返し構造部間で異なっていてもよい。即ち、標示構造は、導電部材が第一の周期で繰り返し配置されている第一繰り返し構造部と、導電部材が第一の周期とは異なる第二の周期で繰り返し配置されている第二繰り返し構造部とを有していてもよい。導電部材が異なる周期で配置された第一繰り返し構造部および第二繰り返し構造部を有する場合、各繰り返し構造部がそれぞれの周期に応じたミリ波または準ミリ波を反射するため、広い波長帯域のミリ波または準ミリ波に対して高い反射率を得ることができる。
【0047】
更に、上述した例では、各繰り返し構造部内の導電部材が、同一の長さおよび幅を有する線状部材であったが、繰り返し構造部内の導電部材は、例えば図5~7に示すような形状であってもよい。
【0048】
ここで、図5に示す標示構造の繰り返し構造部10Kは、設置面Sとは反射率が異なる材料からなり、且つ、互いに長さが異なる直線状の導電部材1,1Cが、設置面S上に上述した所定の間隔で交互に配置されてなる。具体的には、導電部材1,1Cは、互いに平行に、且つ、長さ方向中央が同一直線上に位置するように、一定の周期で繰り返し配置されている。なお、各導電部材1,1Cは、繰り返し方向(図5では左右方向)に直交する方向(図5では上下方向)に延在している。そして、長さが異なる導電部材が交互に配置されている場合、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いてセンシングを行った際の反射波の受信強度を更に高めることができる。
なお、反射波の受信強度を高める観点からは、導電部材1と導電部材1Cとは等間隔で配置することが好ましい。また、同様の理由により、導電部材1の長さは、ミリ波または準ミリ波の波長の半分よりも長く、導電部材1Cの長さは、ミリ波または準ミリ波の波長の半分よりも短いことが好ましい。
【0049】
また、図6(a)に示す標示構造の繰り返し構造部10Lは、設置面Sとは反射率が異なる材料からなるドット状の導電部材1Dが、設置面S上に上述した所定の間隔で配置されてなる。具体的には、導電部材1Dは、図6(a)では上下方向および左右方向の双方に、一定の周期で繰り返し配置されている。そして、ドット状の導電部材1Dが一定の周期で配置されている場合、ミリ波または準ミリ波を複数の方向に対して良好に反射することができる。
【0050】
図6(b)に示す標示構造の繰り返し構造部10L’は、設置面Sとは反射率が異なる材料からなる粒状の導電部材1D’が、設置面S上に上述した所定の間隔で配置されてなる。具体的には、導電部材1D’は、複数の方向に、複数の周期で繰り返し配置されている。そして、粒状の導電部材1D’が、複数の方向に、複数の周期で繰り返し配置されている場合、ミリ波レーダーや準ミリ波レーダーを用いてセンシングを行った際にあらゆる方向に高い反射率を得ることができる。
【0051】
更に、図7に示す標示構造の繰り返し構造部10Mは、設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1Eが上述した所定の間隔で繰り返し配置されてなる。具体的には、繰り返し構造部10Mでは、図7では上下方向(繰り返し方向(図7では左右方向)に直交する方向)に並置された4つの導電部材1E(第1の導電部材列)と、図7では上下方向に並置された3つの導電部材1E(第2の導電部材列)とが、交互に、一定の周期で繰り返し配置されている。なお、図7の上下方向において、第2の導電部材列を構成する各導電部材1Eは、第1の導電部材列を構成する導電部材1Eの間に位置している。また、導電部材1Eは、図7では左右方向(繰り返し方向)に沿う方向に延在している。そして、図7に示す標示構造の繰り返し構造部10Mによれば、左右方向に振動する偏波に対して、高い反射率を得ることができる。
【0052】
更に、上述した例では、各導電部材が独立して存在している場合について示したが、繰り返し構造部内の導電部材は、例えば図8に示すように交差していてもよい。
【0053】
ここで、図8に示す標示構造では、設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1を図8では左右方向に繰り返し配置してなる繰り返し構造部10Nの導電部材1と、設置面Sとは反射率が異なる材料からなる直線状の導電部材1を図8では上下方向に繰り返し配置してなる繰り返し構造部10Pの導電部材1とが格子状に交差している。即ち、図8に示す標示構造は、導電部材1の繰り返し方向が異なる複数の(図8では2つの)繰り返し構造部10N,10Pを有している。そして、標示構造が有する複数の繰り返し構造部間で導電部材の繰り返し方向が異なり、且つ、導電部材同士が交差して格子状になっている場合、ミリ波または準ミリ波を複数の方向(図示例では2方向)に対して良好に反射することができる。
【0054】
<カバー層>
そして、本発明の標示構造において、繰り返し構造部は、ミリ波または準ミリ波に対して透過性を有するカバー層で覆われていてもよい。
【0055】
具体的には、図9に導電部材1の繰り返し方向に沿う断面の構造を示すように、導電部材1を繰り返し配置してなる繰り返し構造部は、カバー層3で覆われていてもよい。なお、図9では、標示構造を付与する構造物の表面Sの上に設けられた下塗り層2上に導電部材1が設けられている場合を示しているが、本発明は図9に示す形態に限定されるものではない。
【0056】
ここで、カバー層としては、特に限定されることなく、例えば、接着層を有するシートや、合成樹脂、顔料、体質材および可塑剤を含む塗料からなる層などが挙げられる。
中でも、カバー層は、繰り返し構造部を可視光および赤外光の少なくとも一方に対して隠蔽する層であることが好ましい。繰り返し構造部を可視光および赤外光の少なくとも一方に対して隠蔽すれば、運転者、並びに、自動車に搭載された他のセンサ(例えば、可視光カメラ、赤外線カメラ、赤外光のレーザーレーダー等)に誤認識を与えることを防ぐことができる。なお、繰り返し構造部を可視光および赤外光の少なくとも一方に対して隠蔽する層は、染料、顔料または光散乱性を有する材料を含有させることで形成することができる。
また、カバー層は、可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収する層であることが好ましい。可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収すれば、運転者、並びに、自動車に搭載された他のセンサ(例えば、可視光カメラ、赤外線カメラ、赤外光のレーザーレーダー等)に誤認識を与えることを防ぐことができる。なお、可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収する層は、染料または顔料を含有させることで形成することができる。
【0057】
(標示構造の施工方法)
上述した標示構造は、例えば、上述した態様(1)~(4)のように設置面に導電部材を直接配設することにより施工してもよいし、上述した態様(5)のように基材等を介して設置面に導電部材を設置することにより施工してもよい。
【0058】
ここで、基材を介して設置面に導電部材を設置する場合には、例えば図10に示すように、基材20と、導電部材1を0.2mm以上40mm以下の間隔で基材20上または基材20内に繰り返し配置してなる繰り返し構造部とを備える標示用シート100を用いることが好ましい。なお、施工性および保管性を向上させる観点から、図示例では、標示用シート100はロール状に巻き回されている。また、図示例では、設置面としての路面Gに敷設した標示用シート100の上には、白線(カバー層)30が形成されている。
【0059】
<標示用シート>
そして、標示構造の施工に使用し得る標示用シートの一例は、例えば、標示用シート100の、導電部材が繰り返し配置される方向(以下、「繰り返し方向」と称することがある。)に沿う断面の構造を図11(a)に示すように、基材20と、基材20上に導電部材1を0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置してなる繰り返し構造部10とを備えている。
また、標示用シートの他の例は、例えば、繰り返し方向に沿う断面の構造を図11(b)に示すように、基材20と、基材20内に導電部材1を0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置してなる繰り返し構造部10とを備えている。
更に、標示用シートの別の例は、例えば、繰り返し方向に沿う断面の構造を図11(c)に示すように、基材20と、一部が外部へと露出するように導電部材1を基材20内に0.2mm以上40mm以下の間隔で繰り返し配置してなる繰り返し構造部10とを備えている。
なお、図11(a)~(c)において、繰り返し方向は左右方向である。そして、基材に導電部材を設ける方法としては、特に限定されることなく、例えば、蒸着;スパッタリング;有機物(電気伝導性を有する有機物)含有インクを用いた印刷;並びに、糸状または帯状の有機物(電気伝導性を有する有機物)の織り込み、編み込み、縫い込みおよび漉き込み;などが挙げられる。また、標示用シートは、任意に、被覆層および/または接着層を更に備えていてもよい。
【0060】
ここで、被覆層は、基材の少なくとも一方の表面側に設けることができるが、導電部材が基材上に配置されている場合には、基材よりも導電部材が配置されている側に設けることが好ましく、導電部材を覆うように設けられることがより好ましい。被覆層を設ければ、基材や導電部材を保護することができる。なお、被覆層としては、特に限定されることなく、例えば、合成樹脂、顔料、体質材および可塑剤を含む塗料からなる層などが挙げられる。
中でも、被覆層は、繰り返し構造部を可視光および赤外光の少なくとも一方に対して隠蔽する層であることが好ましい。繰り返し構造部を可視光および赤外光の少なくとも一方に対して隠蔽すれば、標示構造を形成した際に、運転者、並びに、自動車に搭載された他のセンサ(例えば、可視光カメラ、赤外線カメラ、赤外光のレーザーレーダー等)に誤認識を与えることを防ぐことができる。なお、繰り返し構造部を可視光および赤外光の少なくとも一方に対して隠蔽する層は、染料、顔料または光散乱性を有する材料を含有させることで形成することができる。
また、被覆層は、可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収する層であることが好ましい。可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収すれば、標示構造を形成した際に、運転者、並びに、自動車に搭載された他のセンサ(例えば、可視光カメラ、赤外線カメラ、赤外光のレーザーレーダー等)に誤認識を与えることを防ぐことができる。なお、可視光および赤外光の少なくとも一方を吸収する層は、染料または顔料を含有させることで形成することができる。
【0061】
更に、接着層は、基材の一方の表面側に設けることができる。具体的には、接着層は、設置面に標示用シートを貼り付けて固定する際に設置面に貼り合わされる側に設けることができる。
【0062】
そして、標示用シートは、可視光および赤外光の少なくとも一方を反射することが好ましい。標示用シートが可視光および赤外光の少なくとも一方を反射すれば、設置面に設置した際に、可視光および/または赤外光に対する標示構造としての機能を兼ね備えることができ、運転者、並びに、可視光カメラ、赤外光カメラおよび赤外光のレーザーレーダー等でも検知が可能な冗長性の高い標示構造が得られる。
【0063】
ここで、可視光および赤外光の少なくとも一方に対する反射能は、特に限定されることなく、ガラスビーズ等の等の可視光の再帰反射材や赤外光反射材を含有させることにより、標示用シートに付与することができる。
なお、再帰反射材や赤外光反射材は、特に限定されることなく、標示用シートの表面を構成する基材または被覆層に含有させることができる。
【0064】
ここで、設置面としての路面Gへの標示用シート100の固定は、図12(a)に示すように、接着層40を路面Gと標示用シート100との間に介在させることにより行うことができる。
なお、図10および図12(a)では導電部材1が路面Gとは反対側に位置するように標示用シート100を固定する場合を示したが、図12(b)に示すように、標示用シート100は導電部材1が路面G側に位置するように固定することもできる。この場合、接着層40の厚みを導電部材1の厚みよりも厚くすればよい。
【0065】
<構造物>
そして、上述した標示構造を設ける構造物としては、特に限定されることなく、例えば、走行路の区画線や停止線等の路面標示;縁石、遮断機、防護柵(ガードレール、ガードパイプ等)、ラバーポール、距離標、照明灯、電柱、信号機、信号柱、道路標識および道路標識柱等の道路付属物;並びに、塀や外壁等の建造物;などが挙げられる。
【0066】
なお、これらの構造物に対してカバー層を有する標示構造を設ける場合、カバー層は、設置面よりも、可視光および赤外光の少なくとも一方の反射率が高いことが好ましい。カバー層の可視光および赤外光の少なくとも一方に対する反射率が設置面よりも高ければ、カバー層が可視光および/または赤外光に対する標示構造としての機能を兼ね備えることができ、運転者、並びに、可視光カメラ、赤外光カメラおよび赤外光のレーザーレーダー等でも検知が可能な冗長性の高い標示構造となる。
【0067】
また、標示構造をミリ波レーダーや準ミリ波レーダーなどのレーダーを用いたセンシングの対象として自動運転システムや運転支援システムに活用する場合には、標示構造は、導電部材の繰り返し方向が車両の走行方向と平行な繰り返し構造部を少なくとも一つ有することが好ましい。
【0068】
(路面標示)
ここで、上述した標示構造を用いた路面標示としては、例えば、図13に車両の走行方向と平行な断面を示すような路面標示が挙げられる。図13に示す路面標示は、路面20上に設けた下塗り層2の表面に導電部材1を車両の走行方向が繰り返し方向になるように繰り返し配置し、更に、カバー層となる白線4を下塗り層2および導電部材1の上に設けてなる。また、白線4の表層部には、白線4の視認性を高める観点から、ガラスビーズ5等の可視光の再帰反射材や赤外光反射材(図示せず)が設けられている。
【0069】
そして、この路面標示では、走行する車両からミリ波レーダーや準ミリ波レーダーなどのレーダーを用いてセンシングを行うことにより、強度の高い反射波を得ることができる。
【0070】
(道路付属物)
また、上述した標示構造を用いた道路付属物としては、特に限定されることなく、例えば、図14に示すようなガードレール300、図15に示すような縁石400、図16に示すような電柱500が挙げられる。
【0071】
ここで、図14に示すガードレール300は、導電部材の繰り返し方向が車両の走行方向と平行な繰り返し構造部10がビーム部分に設けられている。
そして、このガードレール300では、走行する車両からミリ波レーダーや準ミリ波レーダーなどのレーダーを用いてセンシングを行うことにより、強度の高い反射波を得ることができる。
【0072】
また、図15に示す縁石400は、導電部材の繰り返し方向が車両の走行方向と平行な繰り返し構造部10が表面および側面に設けられている。
そして、この縁石400では、走行する車両からミリ波レーダーや準ミリ波レーダーなどのレーダーを用いてセンシングを行うことにより、強度の高い反射波を得ることができる。
【0073】
更に、図16に示す電柱500は、導電部材の繰り返し方向が車両の走行方向と平行な繰り返し構造部10が周方向に沿って表面に設けられている。
そして、この電柱500では、走行する車両からミリ波レーダーや準ミリ波レーダーなどのレーダーを用いてセンシングを行うことにより、強度の高い反射波を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、ミリ波または準ミリ波を用いたレーダーでセンシングを行った際に反射波の受信強度を高めることが可能であり、且つ、耐疲労性に優れる標示構造を提供することができる。
また、本発明によれば、ミリ波または準ミリ波を用いたレーダーで長期に亘って良好にセンシングし得る路面標示、道路付属物および建造物を提供することができる。
【符号の説明】
【0075】
1,1A,1B,1C,1D,1D’,1E 導電部材
2 下塗り層
3 カバー層
5 ガラスビーズ
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G,10H,10I,10J,10K,10L,10L’,10M,10N,10P 繰り返し構造部
20 基材
30 白線(カバー層)
40 接着層
100 標示用シート
200 路面
300 ガードレール
400 縁石
500 電柱
S 設置面
G 路面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16