(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】乗物外装用装飾フィルム
(51)【国際特許分類】
C09J 7/30 20180101AFI20230214BHJP
C09J 7/22 20180101ALI20230214BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20230214BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230214BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C09J7/30
C09J7/22
C09J133/00
B32B27/00 E
B32B27/00 M
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2018223648
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】小野 雄也
(72)【発明者】
【氏名】池田 伸二
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-328014(JP,A)
【文献】特開2011-012127(JP,A)
【文献】特開平03-045672(JP,A)
【文献】特開2014-172320(JP,A)
【文献】特開平07-018228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層及び接着層を含む、乗物外装用装飾フィルムであって、
前記樹脂層が、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも一種を含み、
前記樹脂層の引き裂き強度が、20℃において8.0N以上であり、
前記樹脂層の厚さが、150μm以上であり、
前記接着層が、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーを含む材料から得られる(メタ)アクリレートポリマー、並びに架橋剤の反応生成物を含み、
前記(メタ)アクリレートポリマーのガラス転移温度は、-58℃以上、-40℃以下であり、かつ、前記カルボキシル基を含有する不飽和モノマーは、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーの総量100質量%当たり、3質量%以上、10質量%以下含まれている、乗物外装用装飾フィルム。
【請求項2】
前記樹脂層の引き裂き強度が、-5℃において15.0N以上である、請求項1に記載の装飾フィルム。
【請求項3】
保護層及び装飾層から選択される少なくとも一種をさらに含む、請求項1
又は2に記載の装飾フィルム。
【請求項4】
鉄道車両の外装に使用される、請求項1~
3のいずれか一項に記載の装飾フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、乗物外装用の装飾フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、溶剤の低減、工期の短縮等の観点から、各種の乗物の装飾手段として、塗装に代えて装飾フィルムが使用されている。
【0003】
特許文献1(特開2001-334934号公報)には、ドアノブや窓枠等の非着色箇所を除く車両の外板全周面を、所定の色彩や模様を備えると共に、難燃機能を付与したフィルムで、模様形状に被覆してなる鉄道車両が記載されている。
【0004】
特許文献2(特許第6187632号公報)には、少なくとも白色樹脂フィルム層及び隠蔽層を有する隠蔽性基材と、粘着剤層とを有し、白色樹脂フィルム層が、二酸化チタンを5~30質量%含み、厚さ25~100μmの無延伸樹脂フィルムからなる、車両内に貼り付けられる車両ステッカー用の粘着フィルムが記載されている。
【0005】
特許文献3(特開2007-297569号公報)には、特定のポリウレタン樹脂からなるトップコート層と、このトップコート層の表面側に設けられたキャリヤフィルムとを有する、自動車等に使用される装飾層形成フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-334934号公報
【文献】特許第6187632号公報
【文献】特開2007-297569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
乗物の外装は、雨、雪、風などに晒されるとともに、移動時にはかなりの風圧を受ける。装飾フィルムをラベルなどとして乗物の外装の一部に適用した場合でも、装飾フィルムの周囲端部は常に、風雨、風圧等の影響を受ける。装飾フィルムを乗物の外側全面に適用した場合であっても、一般に、装飾フィルムのつなぎ目部分が存在するため、そのつなぎ目部分は風雨、風圧等の影響を受けやすい。その結果、装飾フィルムのめくれ、破れ等の欠陥を生じる場合があった。
【0008】
本開示は、風雨、風圧等にさらされても、めくれ等の不具合を低減又は防止し得る、乗物外装用装飾フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施態様によれば、樹脂層及び接着層を含む、乗物外装用装飾フィルムであって、樹脂層の引き裂き強度が、20℃において約8.0N以上であり、接着層が、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーを含む材料から得られる(メタ)アクリレートポリマー、並びに架橋剤の反応生成物を含み、(メタ)アクリレートポリマーのガラス転移温度は、約-58℃以上、約-40℃以下であり、かつ、カルボキシル基を含有する不飽和モノマーは、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーの総量100質量%当たり、約3質量%以上、約10質量%以下含まれている、乗物外装用装飾フィルムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、風雨、風圧等にさらされても、めくれ等の不具合を低減又は防止し得る、乗物外装用装飾フィルムを提供することができる。
【0011】
上述の記載は、本発明の全ての実施態様及び本発明に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の一実施態様による乗物外装用装飾フィルムの断面図である。
【
図2】本開示の別の実施態様による乗物外装用装飾フィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の第1の実施形態における乗物外装用装飾フィルムは、樹脂層及び接着層を含んでおり、この樹脂層の引き裂き強度は、20℃において約8.0N以上であり、接着層は、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーを含む材料から得られる(メタ)アクリレートポリマー、並びに架橋剤の反応生成物を含み、この(メタ)アクリレートポリマーのガラス転移温度は、約-58℃以上、約-40℃以下であり、カルボキシル基を含有する不飽和モノマーは、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーの総量100質量%当たり、約3質量%以上、約10質量%以下含まれている。装飾フィルムが、特定の樹脂層及び接着層を含むことから、風雨、風圧等にさらされても、めくれ等の不具合を低減することができる。これは、特定の樹脂層に基づく剛性と、特定の接着層に基づく被着体との接着力が寄与していると考えている。
【0014】
第1の実施形態における装飾フィルムの樹脂層の引き裂き強度は、-5℃において約15.0N以上にすることができる。このような引き裂き強度を有する樹脂層を備える装飾フィルムは、例えば、低温環境下を移動する乗物に対しても十分な風雨・風圧耐性を発揮させることができる。
【0015】
第1の実施形態における装飾フィルムは、樹脂層の厚さが、約100μm以上であってもよい。樹脂層の厚さが、この範囲であると剛性が増し、めくれ等の不具合をより改善することができる。
【0016】
第1の実施形態における装飾フィルムは、樹脂層が、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも一種を含むことができる。このような材料から形成される樹脂層は、めくれ等の不具合をより改善することができる。
【0017】
第1の実施形態における装飾フィルムは、保護層及び装飾層から選択される少なくとも一種をさらに含むことができる。このような層を含むことで、装飾フィルムの耐候性、耐溶剤性、装飾性をより向上させることができる。
【0018】
第1の実施形態における装飾フィルムを、鉄道車両の外装に使用することができる。本開示の装飾フィルムは、風雨、風圧等にさらされても、めくれ等の不具合を低減することができるため、高速で移動するような鉄道車両に対しても使用することができる。
【0019】
以下、本発明の代表的な実施態様を例示する目的で、図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施態様に限定されない。図面の参照番号について、異なる図面において類似する番号が付された要素は、類似又は対応する要素であることを示す。
【0020】
本開示において「フィルム」には、「シート」と呼ばれる物品も包含される。
【0021】
本開示において「低温環境」とは、例えば、冬場の環境、飛行機が移動するような高高度の環境などを意図することができる。具体的には、例えば、約0℃以下、約-5℃以下、又は約-10℃以下の環境を意図することができる。低温環境における温度の下限値については特に制限はないが、例えば、約-50℃以上、約-40℃以上、又は約-30℃以上と規定することができる。
【0022】
本開示において「高温環境」とは、例えば、夏場の環境などを意図することができる。具体的には、例えば、約35℃以上、約37℃以上、又は約40℃以上の環境を意図することができる。高温環境における温度の上限値については特に制限はないが、例えば、約60℃以下、約55℃以下、又は約50℃以下と規定することができる。
【0023】
本開示において「高速」とは、時速約100km以上、時速約150km以上、時速約200km以上、時速約250km以上、又は時速約300km以上と規定することができる。上限値については特に制限はないが、例えば、時速約1200km以下、時速約1000km以下、時速約800km以下、又は時速約700km以下と規定することができる。この速度は、最高速度を意図することができる。
【0024】
本開示において「透明」とは、可視光領域(波長約400nm~約700nm)の平均透過率が、約80%以上をいい、望ましくは約85%以上、又は約90%以上であってよい。平均透過率の上限値については特に制限はないが、例えば、約100%未満、約99%以下、又は約98%以下と規定することができる。
【0025】
本開示において「半透明」とは、可視光領域(波長約400nm~約700nm)の平均透過率が、約80%未満をいい、望ましくは約75%以下であってよく、下地を完全に隠蔽しないことを意図する。
【0026】
本開示において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0027】
以下、乗物外装用装飾フィルム(単に「装飾フィルム」という場合がある。)についてさらに説明する。
【0028】
本開示の乗物外装用装飾フィルムは、風雨、風圧等にさらされる環境下、あるいは低温環境下おいて使用することができる。
【0029】
本開示の乗物外装用装飾フィルムは、乗物の外装を構成し得る様々な部位に適用することができる。例えば、乗物の外側の、前面、後面、側面、上面、及び底面から選択される少なくともいずれかの面に適用することができる。特に、乗物の移動中に視認者から観察可能な部位に適用することが好ましい。具体的には、鉄道、自動車においては、底面以外の全ての面に対して適用することができ、飛行機においては、全面に対して適用することができる。装飾フィルムは、各面の全ての領域に適用してもよく、或いは、ロゴ等の表示物として各面の一部に適用してもよい。
【0030】
本開示の装飾フィルムは、優れた接着性を呈することができる。接着性は、例えば、後述する実施例において記載される接着力試験によって評価することができる。
【0031】
接着力としては、20℃、65%RH(相対湿度)で24時間の条件下では、約10N以上、約11N以上、又は約12N以上と規定することができる。上限値については特に限定されないが、例えば、約30N以下、約28N以下、又は約25N以下と規定することができる。
【0032】
5℃で24時間の条件下では、接着力を、約15N以上、約18N以上、又は約20N以上と規定することができる。上限値については特に限定されないが、例えば、約40N以下、約38N以下、又は約35N以下と規定することができる。
【0033】
本開示の装飾フィルムは、高い風雨・風圧耐性を呈することができる。風雨、風圧耐性は、例えば、後述する実施例において記載される、風雨・風圧を模した高圧洗浄試験によって評価することができる。本開示の装飾フィルムは、係る試験においてフィルムの変形、剥がれ等の発生を低減又は抑制することができる。
【0034】
本開示の装飾フィルムは、優れた耐衝撃性(耐チッピング性)を呈することができる。耐衝撃性は、例えば、後述する実施例において記載される、約-20℃の雰囲気下の耐衝撃性試験によって評価することができる。係る性能は、例えば、走行中にトンネル内の粉塵、氷、又は乗物自身に付着した氷等によって傷ついたフィルムの張替え、或いは、長期の使用後に新たなデザインへと変更する場合に求められる装飾フィルム特有の性能であり、耐衝撃性に優れる装飾フィルムは、張替えの作業工程を簡略化することができる。
【0035】
装飾フィルムの厚さ(但し、剥離ライナーが存在する場合には、該剥離ライナーの厚さを除く。)は、次のものに限定されないが、例えば、約120μm以上、約150μm以上、約200μm以上、又は約250μm以上とすることができ、約1mm以下、又は約500μm以下とすることができる。装飾フィルムの厚さを約120μm以上とすることで、必要な強靭性等の性能をフィルム付与できるとともに、装飾フィルムの厚みを約1mm以下とすることで、フィルムに柔軟性を付与し、曲面形状等の複雑な形状を有する被着体(乗物外側の部材)に対しても装飾フィルムを十分に追従させて、優れた外観を提供することができる。
【0036】
本開示の樹脂層としては、風雨・風圧耐性等の観点から、20℃において約8.0N以上の引き裂き強度を有することが好ましい。さらに、-5℃において約15.0N以上の引き裂き強度を有するものであれば、常温下に限らず、低温下においても十分な引き裂き強度を有しているため、特に、低温環境下を移動する乗物に対しても十分な風雨・風圧耐性を奏する外装用の装飾フィルムを提供することができる。
【0037】
本開示の樹脂層の20℃雰囲気下における引き裂き強度としては、約8.0N以上、約9.0N以上、又は約10.0N以上と規定することができる。上限値については特に限定されないが、例えば、約50.0N以下、約40.0N以下、又は約30.0N以下と規定することができる。
【0038】
本開示の樹脂層の-5℃雰囲気下における引き裂き強度としては、約15.0N以上、約18.0N以上、又は約20.0N以上と規定することができる。上限値については特に限定されないが、例えば、約70.0N以下、約60.0N以下、又は約50.0N以下と規定することができる。
【0039】
本開示の樹脂層は、5℃雰囲気下における引き裂き強度を規定することもできる。係る引き裂き強度としては、約12.0N以上、約13.0N以上、又は約15.0N以上と規定することができる。上限値については特に限定されないが、例えば、約60.0N以下、約50.0N以下、又は約40.0N以下と規定することができる。
【0040】
本開示の樹脂層の厚さとしては、特に限定されないが、例えば、約100μm以上、約110μm以上、約120μm以上、約150μm以上、約180μm以上、又は約200μm以上と規定することができる。上限値については特に限定されないが、製造コスト等の観点から、例えば、約1mm以下、約700μm以下、約500μm以下、又は約300μm以下と規定することができる。
【0041】
樹脂層の厚さが大きくなると、一般に、装飾フィルムの断面厚も増すため、風圧等の抵抗を受けやすく、めくれ等の不具合を生じやすいことが予想される。したがって、風圧の抵抗を回避するには、一般に、樹脂層の厚さを薄くすることが想定される。しかしながら、意外にも、樹脂層の厚さを薄くすると、めくれ等の不具合が逆に生じやすくなった。樹脂層の厚さが厚い方が、めくれ等の不具合が生じにくくなる理由としては定かではないが、樹脂層の厚さが増すと樹脂層の剛性も増加するため、装飾フィルムが風圧に耐えやすくなったものと考えられる。これは、上述の引き裂き強度の数値を増加させた方が、好ましいという結果とも相関している。
【0042】
本開示の樹脂層の材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも一種を採用することができる。中でも、ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリウレタン樹脂層は、風雨・風圧耐性に加えて、耐衝撃性も向上させることができる。一般の装飾フィルムに使用されている塩化ビニルは、特に、低温環境下において硬くなり、引き裂かれやすいため、本開示の樹脂層には使用しないことが好ましい。
【0043】
本開示の樹脂層は、本開示の効果を阻害しない範囲において、任意成分として、充填剤、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、界面活性剤、レベリング剤、シランカップリング剤、触媒、顔料、染料などを含むことができる。
【0044】
本開示の接着層としては、風雨・風圧耐性等の観点から、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーを含む材料から得られる(メタ)アクリレートポリマー、並びに架橋剤の反応生成物を含み、(メタ)アクリレートポリマーのガラス転移温度が、約-58℃以上、約-40℃以下であり、かつ、カルボキシル基を含有する不飽和モノマーが、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーの総量100質量%当たり、約3質量%以上、約10質量%以下含まれている。
【0045】
本開示の装飾フィルムは、接着層が、常温下に限らず、低温下においても十分な接着性を有しているため、特に、低温環境下を移動する乗物に対しても十分な風雨・風圧耐性を奏する外装を提供することができる。本開示の接着層は、接着性を損なうことなく被着体に強固に接着できる一方で、長期間の使用後においても、装飾フィルムの剥離時に被着体に糊残りなく剥離することができる(この性能を「再剥離性」という場合がある。)。
【0046】
本開示の接着層は、上記の(メタ)アクリレートポリマー及び架橋剤の反応生成物を含む接着剤、好ましくは感圧接着剤から形成される。(メタ)アクリルポリマーは、モノエチレン性不飽和モノマーと、カルボキシル基を含有する不飽和モノマーとの反応生成物である。係る(メタ)アクリルポリマーは、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等の重合開始剤を用いて、溶液重合、塊状重合により製造することができ、或いは、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の水溶性開始剤を用いて、乳化重合により製造することができる。
【0047】
(メタ)アクリレートポリマーのガラス転移温度(Tg)は、約-40℃以下であり、望ましくは約-42℃以下、約-44℃以下、約-47℃以下、約-52℃以下又は約-54℃以下であってもよい。ガラス転移温度の下限値については特に制限はないが、例えば、約-58℃以上、約-56℃以上、又は約-57℃以上であってもよい。(メタ)アクリレートポリマーのガラス転移温度がこの範囲であると、装飾フィルムは再剥離性能を有しながらも、風雨・風圧に伴うめくれ等の不具合を低減することができる。ガラス転移温度は、モノエチレン性不飽和モノマーの種類及びその配合量などを適宜選択して調整することができる。
【0048】
ここで、(メタ)アクリルポリマーのガラス転移温度は、係るポリマーがn種類のモノマーから共重合されているとして、以下のFOXの式より求めることができる:
【数1】
式中、Tg
iは成分iのホモポリマーのガラス転移温度(℃)、X
iは重合の際に添加した成分iのモノマーの質量分率をそれぞれ示し、iは1~nの自然数であり、
【数2】
である。
【0049】
モノエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、以下の化学式
HRaC=CHCOORb
[式中、Raは、H、CH3又はC2H5であり、Rbは、炭素原子数が1~14の直鎖又は分岐鎖状アルキル基である。]
で表される(メタ)アクリル酸エステルを挙げることができる。モノエチレン性不飽和モノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0050】
接着性、再剥離性等の観点から、Rbは、炭素原子数が4~14の非第三級アルキル基であることが好ましい。この(メタ)アクリル酸エステルは、そのホモポリマーが、約0℃以下のTg(ガラス転移点)を有することが好ましい。
【0051】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、n-デシル(メタ)アクリレート、4-メチル-2-ペンチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸イソアミル、s-ブチル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリル酸イソノニルが挙げられる。中でも、接着性、再剥離性等の観点から、(メタ)アクリル酸ブチル、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸イソオクチルが好ましい。
【0052】
モノエチレン性不飽和モノマーは、上記(メタ)アクリル酸エステル以外のモノマーを含んでもよい。係るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-オレフィン、ビニルエーテル、アリルエーテル、スチレン、マレイン酸エステル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、t-ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、及び(N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、及びN-エチル-N-ジヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどの)置換(メタ)アクリルアミドが挙げられる。中でも、接着性、再剥離性等の観点から、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
【0053】
モノエチレン性不飽和モノマーは、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーの総量100質量%当たり、約90.0質量%以上、約91.0質量%以上、又は約92.0質量%以上含むことができ、約97.0質量%以下、約96.5質量%以下、又は約96.0質量%以下含むことができる。
【0054】
カルボキシル基を含有する不飽和モノマーは、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。係る不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、及びフマル酸が挙げられる。
【0055】
カルボキシル基を含有する不飽和モノマーは、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーの総量100質量%当たり、約3.0質量%以上、約3.5質量%以上、又は約4.0質量%以上含むことができ、約10.0質量%以下、約9.0質量%以下、又は約8.0質量%以下含むことができる。カルボキシル基を含有する不飽和モノマーの含有量がこの範囲であると、装飾フィルムは再剥離性能を有しながらも、風雨・風圧に伴うめくれ等の不具合を低減することができる。
【0056】
本開示の接着層は、(メタ)アクリルポリマーと架橋剤との反応生成物を含む架橋型の接着剤組成物、特に感圧接着剤組成物から形成することができる。
【0057】
架橋剤は、例えば、ビスアミド系化合物及びエポキシ系化合物から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0058】
ビスアミド系化合物としては、例えば、二塩基酸のビスアジリジン誘導体等を挙げることができ、好ましくは、以下の化学式
【化1】
[式中、R
1及びR
3は、H及びC
nH
2n+1(nは1~5の範囲の整数である)からなる群から独立して選択され、R
2は、ベンゼノ(-C
6H
4-)、置換ベンゼノ、トリアジン、C
mH
2m(mは1~10の範囲の整数である)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される二価の基である。]で表される芳香族ビスアミドを挙げることができる。
【0059】
上記の化学式に当てはまる特に有用なビスアミド系化合物は、米国特許第4,418,120号(Kealyら)に記載のような、1,1’-イソフタロイル-ビス(2-メチルアジリジン)である。
【0060】
エポキシ系化合物としては、脂肪族の環状ポリエポキシド、脂肪族ポリエポキシド又は芳香族ポリエポキシドなどが利用できる。
【0061】
脂肪族の環状ポリエポキシドとしては、例えば、ビニルシクロヘキセンジオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、及び2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロパンなどが利用できる。
【0062】
脂肪族ポリエポキシドとしては、例えば、1,4-ビス(2,3-エポキシプロポキシ)ブタンの他、グリセロール、ポリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどの脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル、及びリノールダイマー酸のジグリシジルエステルなどが利用できる。
【0063】
芳香族ポリエポキシドとしては、例えば、ビスフェノールAタイプの樹脂及びその誘導体、ビスフェノールF樹脂及びその誘導体など、多価フェノールのポリグリシジルエーテル、及び芳香族カルボン酸のグリシジルエステル及びそれらの混合物などが利用できる。N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、及びp-N,N-ジグリシジルアミノフェニルグリシジルエーテルなどといったポリグリシジルアミン化合物及びその混合物も利用できる。
【0064】
架橋剤は、(メタ)アクリルポリマー中のカルボキシル基1当量に対して、約0.08当量以上又は約0.15当量以上とすることができ、約0.62当量以下又は約0.50当量以下とすることができる。
【0065】
本開示の接着層は、本開示の効果を阻害しない範囲において、任意成分として、充填剤、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、粘着付与剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、界面活性剤、レベリング剤、シランカップリング剤、触媒、顔料、染料などを含むことができる。
【0066】
本開示の接着層の厚さとしては、次のものに限定されないが、例えば、約5μm以上、約10μm以上、又は約20μm以上とすることができ、約200μm以下、約100μm以下、又は約80μm以下とすることができる。
【0067】
本開示の装飾フィルムは、次のものに限定されないが、使用環境、装飾性等に応じて、例えば、装飾層、保護層、光輝層、接合層、及び剥離ライナーからなる群から選択される少なくとも一種をさらに備えることができる。
【0068】
本開示の装飾フィルムの装飾層としては、次のものに限定されないが、塗装色、例えば、白、黄等の淡色、赤、茶、緑、青、グレー、黒などの濃色を呈するカラー層、木目、石目、幾何学模様、皮革模様などの模様、ロゴ、絵柄などを物品に付与するパターン層、表面に凹凸形状が設けられたレリーフ(浮き彫り模様)層、及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0069】
装飾層は、次のものに限定されないが、装飾フィルムを構成する層、例えば、保護層、樹脂層、接着層等の全面又は一部に、直接又は接合層等を介して適用することができる。
【0070】
カラー層の材料としては、次のものに限定されないが、例えば、カーボンブラック、黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、赤色酸化鉄などの無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料、アゾレーキ系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、キノフタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドンレッドなどのキナクリドン系顔料などの有機顔料などの顔料が、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂などのバインダー樹脂に分散された材料を使用することができる。中でも、耐衝撃性等の観点から、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0071】
カラー層は、このような材料を用い、例えば、グラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、ナイフコートなどのコーティング法により形成することができる。
【0072】
パターン層としては、次のものに限定されないが、例えば、模様、ロゴ、絵柄などのパターンを、グラビアダイレクト印刷、グラビアオフセット印刷、インクジェット印刷、レーザー印刷、スクリーン印刷などの印刷法を用いて、保護層、樹脂層、接着層等に直接適用したものを採用してもよく、或いは、グラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、ナイフコートなどのコーティング、打ち抜き、エッチングなどにより形成された模様、ロゴ、絵柄などを有するフィルム、シートなどを使用することもできる。パターン層の材料としては、例えば、カラー層で使用した材料と同様の材料を使用することができる。
【0073】
レリーフ層として、従来公知の方法、例えば、エンボス加工、スクラッチ加工、レーザー加工、ドライエッチング加工、又は熱プレス加工などによる凹凸形状を表面に有する熱可塑性樹脂フィルムを使用することができる。凹凸形状を有する剥離ライナー上に硬化性(メタ)アクリル樹脂などの熱硬化性又は放射線硬化性樹脂を塗布し、加熱又は放射線照射により硬化させて、剥離ライナーを取り除くことによりレリーフ層を形成することもできる。
【0074】
レリーフ層に用いられる熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及び放射線硬化性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フッ素系樹脂、PET、PENなどのポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、熱可塑性エラストマー、ポリカーボネート、ポリアミド、ABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン樹脂、ポリスチレン、塩化ビニル、ポリウレタンなどを使用することができる。中でも、耐衝撃性等の観点から、ポリウレタンが好ましい。レリーフ層は、カラー層で使用される顔料の少なくとも1種を含んでもよい。
【0075】
本開示の装飾層は、本開示の効果及び装飾性等を阻害しない範囲において、任意成分として、充填剤、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、界面活性剤、レベリング剤、シランカップリング剤、触媒などを含むことができる。
【0076】
装飾層の厚さとしては、要する装飾性、隠蔽性等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、例えば、約1.0μm以上、約3.0μm以上、又は約5.0μm以上とすることができ、約50μm以下、約40μm以下、又は約30μm以下とすることができる。
【0077】
耐候性、耐溶剤性等の性能を付与するために、例えば、本開示の装飾フィルムの最表面に保護層を適用することができる。保護層は、下層に位置する装飾層が視認できるように透明又は半透明であることが好ましい。
【0078】
本開示の装飾フィルムに適用し得る保護層の材料としては、次のものに限定されないが、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)及び(メタ)アクリル共重合体を含む(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、メチルメタクリレート-フッ化ビニリデン共重合体(PMMA/PVDF)などのフッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、エチレン/アクリル酸共重合体(EAA)及びそのアイオノマー、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などの共重合体を、単独で又は二種以上ブレンドして使用することができる。
【0079】
中でも、耐薬品性(耐溶剤性)及び/又は耐候性の観点から、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂及びポリ塩化ビニルの使用が好ましく、耐擦傷性、及び/又は廃棄物として焼却したり埋め立てたりする際の環境負荷の観点から、(メタ)アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂の使用がより好ましく、ポリウレタン樹脂が最も好ましい。
【0080】
ポリウレタン樹脂は、例えば、ポリイソシアネート及びポリオールを含むポリウレタン樹脂組成物から得ることができる。
【0081】
ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体、アダクト体又はこれらの両者を、全ポリイソシアネートに対して約0.5当量以上含有するものを使用することができる。このようなポリイソシアネートは、破断伸び率、特に、高温での破断伸び率を向上させることができる。
【0082】
イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体は、例えば、「デスモジュール(商標)Z4370」の商品名で住友バイエルウレタン社から、又は「IPDI」の商品名でダイセルヒュルズ社から入手することができる。イソホロンジイソシアネートのアダクト体は、イソホロンジイソシアネートとトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等とのアダクトであり、トリメチロールプロパンとのアダクトは、例えば「タケネート(商標)D-140N」として武田薬品工業社から入手することができる。
【0083】
ポリオールとしては、例えば、重量平均分子量約1000以下のポリエステルポリオールを全ポリオールに対して約0.4当量以上含有するものを使用することができる。このようなポリオールは、破断伸び率、特に、高温での破断伸び率を向上させることができる。ここで、「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定された、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0084】
好ましいポリエステルポリオールとしては、例えば、カプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。これらのポリエステルポリオールは、単独で使用してもよく、二種以上を混合して使用してもよい。
【0085】
ポリエステルポリオールの具体的としては、例えば、「TONE 0201」(ユニオンカーバイド社製;重量平均分子量530)、「プラクセル(商標)205」(ダイセル化学工業社製;重量平均分子量530)、「プラクセル(商標)205H」(ダイセル化学工業社製;重量平均分子量530)、「プラクセル(商標)208」(ダイセル化学工業社製;重量平均分子量850)、「プラクセル(商標)210」(ダイセル化学工業社製;重量平均分子量1000)などのカプロラクトンジオールを挙げることができる。
【0086】
任意に、これらのカプロラクトンジオールに代えて、或いはそれらの化合物と一緒に、例えば、「TONE 0301」(ユニオンカーバイド社製;重量平均分子量300)、「TONE 1303」(ユニオンカーバイド社製;重量平均分子量425)、「TONE 0305」(ユニオンカーバイド社製;重量平均分子量540)、「プラクセル(商標)305」(ダイセル化学工業社製;重量平均分子量550)、「プラクセル(商標)308」(ダイセル化学工業社製;重量平均分子量850)等のカプロラクトントリオールを使用してもよい。
【0087】
ポリカーボネートジオールの具体例としては、例えば、「ニッポラン(商標)981」及び「ニッポラン(商標)983」(日本ポリウレタン社製;重量平均分子量1000)、「T4671」、「T4691」及び「T5651」(いずれも旭化成社製;重量平均分子量1000)などを挙げることができる。
【0088】
ポリエステルポリオールにおいて、カプロラクトンジオール及びポリカーボネートジオールを組み合わせて使用する場合には、これらのジオールを、いろいろな量比で使用することができる。例えば、両者を約1:約9~約9:約1の当量比で使用することできる。ここで、これらのジオールをこのような比率で混合した場合、その状態での重量平均分子量は、約1000以下、約850以下、又は約750以下であってもよく、約500~約600の範囲であることが好ましい。
【0089】
カプロラクトンジオールを単独で使用する場合には、その重量平均分子量は、約700以下であってもよく、約500~約600の範囲であることが好ましい。
【0090】
ポリウレタン樹脂組成物におけるポリイソシアネートとポリオールの当量比は、所望の保護性能が得られるように適宜調整すればよく、特に制限はない。例えば、ポリイソシアネートとポリオールの当量比は、ポリイソシアネート/ポリオール=約0.7~約2.0の範囲にすることができる。ポリイソシアネートとポリオールの当量比がこの範囲であると、破断伸び率、特に、高温での破断伸び率を向上させることができる。
【0091】
ポリイソシアネート及びポリオールを含むポリウレタン樹脂組成物は、公知の手法を適宜使用して、ポリウレタン樹脂を調製することができる。例えば、ポリウレタン樹脂組成物に触媒を配合した状態で重合を実施することできる。係る触媒としては、常用の触媒を用いることができ、例えば、ジブチル錫ジラウレート(DBTDL)触媒、ナフテン酸亜鉛、オクテン酸亜鉛、トリエチレンジアミン等が用いられる。触媒の量は、樹脂組成物100重量%に対して約0.005~約0.5質量%とすることができる。ポリウレタン樹脂の形成のための重合は、通常、約60~約160℃の温度で実施することができる。
【0092】
保護層は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。多層構造の場合、例えば、保護層は、上記樹脂から形成されたフィルムの積層体であってもよく、上記樹脂の多層コーティングであってもよい。保護層はその表面の全面又は一部にエンボスパターンなどの3次元凹凸形状を有してもよい。
【0093】
保護層は、直接又は接合層等を介して装飾層の上若しくは上方に樹脂組成物を、ナイフコート、バーコート等の公知のコーティング法を用いて形成することができる。保護層のコーティングは、装飾フィルムを被着体に適用する前又は適用した後に実施することができる。或いは、剥離ライナー上に樹脂組成物をコーティングして保護層フィルムを形成し、接合層を介して装飾層上にそのフィルムをラミネートすることもできる。装飾層が、剥離ライナー上に形成された保護層フィルムに対して接着性を有する場合は、接合層を介さずに装飾層に保護層フィルムを直接ラミネートすることもできる。保護層フィルムは、例えば、硬化性(メタ)アクリル樹脂組成物、反応性ポリウレタン組成物などの樹脂材料を、ナイフコート、バーコート、ブレードコート、ドクターコート、ロールコート、キャストコートなどによって剥離ライナーなどにコーティングし、必要に応じて光又は加熱硬化することによって、形成することができる。
【0094】
保護層として、押出、延伸などによってあらかじめフィルム状に形成されたものを使用してもよい。このようなフィルムは接合層を介して装飾層にラミネートすることができる。或いは、装飾層が、このようなフィルムに対して接着性を有する場合は、接合層を介さずに装飾層にフィルムを直接ラミネートすることもできる。係るフィルムとして、平坦性の高いフィルムを使用することで、より表面平坦性の高い外観を構造物(乗物)に与えることができる。
【0095】
本開示の保護層は、本開示の効果、及び用途に応じた保護性能等を阻害しない範囲において、任意成分として、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、ハードコート材、光沢付与剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、界面活性剤、レベリング剤、シランカップリング剤、触媒、顔料、染料などを含むことができる。中でも、ベンゾトリアゾール、Tinuvin(商標)400(BASF社製)などの紫外線吸収剤、Tinuvin(商標)292(BASF社製)などのヒンダードアミン光安定化剤(HALS)などを用いることによって、下層に位置する装飾層などに含まれる着色材(特に紫外線などの光に対する感受性が比較的高い有機系の染料又は顔料)の、変色、退色、劣化などを有効に防止することができる。ハードコート材は、保護層中に含まれていてもよく、保護層上に別途コーティングしてハードコート層として適用されていてもよい。
【0096】
保護層の厚さは、要する保護性能等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、約1.0μm以上、約3.0μm以上、又は約5.0μm以上とすることができ、約50μm以下、約40μm以下、又は約30μm以下とすることができる。
【0097】
光輝層は、次のものに限定されないが、装飾フィルムを構成する層、例えば、装飾層を備える保護層の装飾層の上又は樹脂層の上の全面若しくは一部に、真空蒸着、スパッタ、イオンプレーティング、めっきなどによって形成された、アルミニウム、ニッケル、金、銀、銅、白金、クロム、鉄、スズ、インジウム、チタニウム、鉛、亜鉛、ゲルマニウムなどから選択される金属、又はこれらの合金若しくは化合物を含む層であってよい。光輝層の厚さについては、要する装飾性及び輝度等に応じて適宜選択することができる。
【0098】
装飾フィルムを構成する各層を接合するために接合層(「プライマー層」などと呼ばれる場合もある。)を用いてもよい。接合層として、例えば、一般に使用される(メタ)アクリル系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ゴム系などの、溶剤型、エマルジョン型、感圧型、感熱型、熱硬化型又は紫外線硬化型の接着剤を使用することができる。接合層は、公知のコーティング法などによって適用することができる。
【0099】
本開示の接合層は、本開示の効果、装飾性等を阻害しない範囲において、任意成分として、充填剤、補強材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、粘着付与剤、分散剤、可塑剤、フロー向上剤、界面活性剤、レベリング剤、シランカップリング剤、触媒、顔料、染料などを含むことができる。
【0100】
接合層の厚さは、例えば、約0.05μm以上、約0.5μm以上、又は約5μm以上とすることができ、約100μm以下、約50μm以下、又は約20μm以下とすることができる。
【0101】
接着層を保護するために、任意の好適な剥離ライナーを使用することができる。代表的な剥離ライナーとして、紙(例えば、クラフト紙)、ポリマー材料(例えば、ポリエチレン又はポリプロピレンなどのポリオレフィン、エチレンビニルアセテート、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルなど)などから調製されるものが挙げられる。剥離ライナーは、必要に応じてシリコーン含有材料又はフルオロカーボン含有材料などの剥離剤の層が適用されていてもよい。
【0102】
剥離ライナーの厚さは、例えば、約5μm以上、約15μm以上又は約25μm以上とすることができ、約300μm以下、約200μm以下又は約150μm以下とすることができる。
【0103】
本開示の装飾フィルムは、乗物の外装用として使用することができる。乗物としては特に限定されないが、例えば、自動車、鉄道(リニアモーターカーを含む。)などの車両、船舶、航空機等を挙げることができる。中でも、高速で移動する、特に、高速かつ低温環境下で移動する、高速車両(例えば、新幹線、リニアモーターカー等の高速鉄道車両)、航空機の外装用として、本開示の装飾フィルムを使用することが好ましい。特に、ポリウレタン樹脂層を備える装飾フィルムは、耐衝撃性(耐チッピング性)にも優れることから、走行中の砂又は小石等の影響を受けやすい高速車両(例えば、新幹線、リニアモーターカー等の高速鉄道車両)の外装用として使用することが好ましい。
【0104】
本開示の装飾フィルムは、例えば、装飾フィルムの接着層を介して、必要に応じてヘラ等を使用して、被着体(乗物の外周部材)に貼り合わせることができる。被着体の材質としては、特に制限はなく、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス等の金属若しくは金属合金、強化繊維等を含み得る樹脂材料などを挙げることができる。被着体の表面には、表面処理、塗装等が施されてもよい。
【0105】
本開示の装飾フィルムは、例えば、表面を剥離処理したPETフィルムなどの剥離ライナーの上、又は装飾フィルムを構成する、例えば、樹脂層の上に、装飾層又は接着層などをコーティング法等を用いて各々形成しておき、必要に応じて接合層を介して、これらを積層することにより製造することができる。或いは、一枚の剥離ライナーの上に、コーティング工程、並びに必要に応じて乾燥及び/又は硬化工程を繰り返して、各層を順次積層することもできる。各層の材料を多層押し出しして装飾フィルムを形成することもできる。
【0106】
本開示の装飾フィルムの製造方法の一例について、
図1、2を参照しながら例示的に説明するが、装飾フィルムの製造方法はこれらに限られない。
【0107】
図1の構成の装飾フィルムは、例えば、剥離ライナー101上に、ナイフコーターなどを用いて接着層103を適用し、必要に応じて乾燥及び/又は硬化工程を更に適用して積層体Aを形成する。係る積層体Aの接着層を、樹脂層105に適用して装飾フィルム100を形成することができる。
【0108】
図2の構成の装飾フィルムは、例えば、樹脂層205上に、グラビアインク及びグラビアコート法などを用いて装飾層207を適用し、必要に応じて乾燥及び/又は硬化工程を更に適用し、次いで、装飾層207上に、ナイフコーターなどを用いて保護層209を適用し、必要に応じて乾燥及び/又は硬化工程を更に適用して積層体Bを形成する。上述と同様に積層体Aを作製し、接着層203を、積層体Bの樹脂層205に適用して装飾フィルム200を形成することができる。
【実施例】
【0109】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施態様を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。
【0110】
本実施例で使用した商品などを以下の表1に示す。
【0111】
【0112】
表1に示す材料を表2に示す配合割合で混合し、保護層、装飾層及び接着層(感圧接着層)を作製するためのコーティング液を各々作製した。ここで、接着層用コーティング液に関しては、各モノマーを表2の割合で混合し、さらに重合開始剤であるV65を0.2質量部添加し、50℃で24時間加熱してアクリレートポリマーを調製し、それをコーティング液とした。表2における数値は全て質量部を意味する。
【0113】
【0114】
〈実施例1〉
樹脂層である約150μm厚のウレタンフィルム上に、装飾層用コーティング液C-1をナイフコーターでコーティングした後、80℃で10分間加熱して乾燥させ、厚さ約25μmの装飾層を備える積層体Aを形成した。次いで、ウレタンフィルムの装飾層上に、保護層用コーティング液P-1をナイフコーターでコーティングした後、80℃で3分間加熱して乾燥させ、厚さ約25μmの保護層を形成し、係る保護層上に剥離ライナー1を適用し、室温で3日間保持して積層体Bを形成した。
【0115】
剥離ライナー2上に、接着層用コーティング液Ad-1をナイフコーターでコーティングした後、95℃で5分間加熱して乾燥させ、厚さ約30μmの接着層を備える積層体Cを形成した。積層体Cの接着層を、積層体Bのウレタンフィルムの表面に貼り付けて装飾フィルムを形成した。
【0116】
〈実施例2〉
実施例1と同様に積層体Cを調製し、係る積層体Cの接着層を、約150μm厚のウレタンフィルムの表面に貼り付けて実施例2の装飾フィルムを形成した。
【0117】
〈実施例3〉
約100μm厚のウレタンフィルムを使用したこと以外は、実施例2と同様にして実施例3の装飾フィルムを形成した。
【0118】
〈実施例4〉
約188μm厚のPETフィルムを使用したこと以外は、実施例2と同様にして実施例4の装飾フィルムを形成した。
【0119】
〈実施例5〉
接着層用コーティング液をAd-1からAd-3に変更したこと以外は、実施例2と同様にして実施例5の装飾フィルムを形成した。
【0120】
〈実施例6〉
接着層用コーティング液をAd-1からAd-4に変更したこと以外は、実施例2と同様にして実施例6の装飾フィルムを形成した。
【0121】
〈比較例1〉
約50μm厚のウレタンフィルムを使用したこと以外は、実施例2と同様にして比較例1の装飾フィルムを形成した。
【0122】
〈比較例2〉
接着層用コーティング液をAd-1からAd-2に変更したこと以外は、実施例2と同様にして比較例2の装飾フィルムを形成した。
【0123】
〈比較例3〉
接着層用コーティング液をAd-1からAd-2に変更したこと、及び約50μm厚のウレタンフィルムを使用したこと以外は、実施例2と同様にして比較例3の装飾フィルムを形成した。
【0124】
〈比較例4〉
比較例4の装飾フィルムとして、3M(商標)スコッチカル(商標)フィルムを使用した。ここで、該フィルムは、約55μm厚の塩化ビニル(PVC)フィルムと、約30μm厚の接着層を備えており、この接着層は、接着層用コーティング液Ad-1を用いて調製されたものである。
【0125】
〈比較例5〉
接着層用コーティング液をAd-1からAd-5に変更したこと以外は、実施例2と同様にして比較例5の装飾フィルムを形成した。
【0126】
<物性評価試験>
樹脂層及び装飾フィルムの特性を、以下の方法を用いて評価した。
【0127】
(引き裂き強度試験)
JIS K-7128-3に準拠し、20℃、5℃及び-5℃の3つの温度雰囲気下において、樹脂層であるウレタンフィルム、PETフィルム及び塩化ビニルフィルムの引き裂き強度を測定した。その結果を表3に示す。
【0128】
(接着力試験)
存在する場合は、剥離ライナー1を除去し、被覆フィルム(3M社製PVCオーバーラミネートフィルム、品番:IJ4116N)で装飾フィルムをラミネートした後、約1インチ×約6インチのサイズにカットし、接着層を介して約1インチ×約3インチの塗装アルミニウム板に装飾フィルムを貼り付けて試験片を調製した。得られた試験片を、約20℃、約65%RH又は約5℃の環境下で約24時間放置した後、試験片を引張試験機(株式会社オリエンテック製:RTC-1210A)に取り付け、約300mm/分の速度でアルミニウム板に対して180度の角度で試験片を引っ張って接着力を測定した。その結果を表3に示す。
【0129】
(高圧洗浄試験:風雨・風圧耐性)
存在する場合は、剥離ライナー1を除去した後、装飾フィルムを約15mm×約100mmの大きさにカットし、接着層を介して塗装アルミニウム板に装飾フィルムを貼り付けて試験片を調製した。係る試験片を金属板に固定し、高圧洗浄機(ケルヒャー社製、HDS 8/15C)を用い、貼り付けた試験片のエッジに対して60秒間放水した。ここで、高圧洗浄機の放水条件は、以下のとおりである。試験片に対し、装飾フィルムの変形がなく、めくれ及び剥がれが観測されなかったものを「優」、装飾フィルムの変形はないが、めくれ及び剥がれのいずれかが僅かに観測されたものを「可」、装飾フィルムの変形、めくれ及び剥がれのいずれかが明らかに観測されたものを「不可」と評価した。その結果を表3に示す。
放水条件
水圧:約8.0±約2MPa
放水量:約7±約1L/分
試験片に対する放水角度:約20度
ノズル及び試験片間の距離:約100mm
水温:約5~約15℃
【0130】
(耐衝撃性試験)
存在する場合は、剥離ライナー1を除去した後、装飾フィルムを約70mm×約70mmの大きさにカットし、接着層を介してアルミニウム板に装飾フィルムを貼り付けて試験片を調製した。試験片を約-5℃の環境で、スガ試験機株式会社製の飛石試験機(JA-400)を用い、下記の条件:
砕石:6号砕石(玄武岩)
砕石重量:500g
空気圧:4kg/cm2
で耐衝撃性試験を行った。試験終了後、試験片から装飾フィルムを剥がした際に、装飾フィルムが破れることなく剥離できたものを「優」、装飾フィルムの一部は破れたが剥離できたものを「可」、装飾フィルムが破れてしまい剥離できなかったものを「不可」と評価した。この結果を表3に示す。
【0131】
【0132】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施態様及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることは当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0133】
100、200 乗物外装用装飾フィルム
101、201 剥離ライナー
103、203 接着層
105、205 樹脂層
207 装飾層
209 保護層
本開示の実施態様の一部を以下の[項目1]-[項目6]に記載する。
[項目1]
樹脂層及び接着層を含む、乗物外装用装飾フィルムであって、
前記樹脂層の引き裂き強度が、20℃において8.0N以上であり、
前記接着層が、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーを含む材料から得られる(メタ)アクリレートポリマー、並びに架橋剤の反応生成物を含み、
前記(メタ)アクリレートポリマーのガラス転移温度は、-58℃以上、-40℃以下であり、かつ、前記カルボキシル基を含有する不飽和モノマーは、モノエチレン性不飽和モノマー及びカルボキシル基を含有する不飽和モノマーの総量100質量%当たり、3質量%以上、10質量%以下含まれている、乗物外装用装飾フィルム。
[項目2]
前記樹脂層の引き裂き強度が、-5℃において15.0N以上である、項目1に記載の装飾フィルム。
[項目3]
前記樹脂層の厚さが、100μm以上である、項目1又は2に記載の装飾フィルム。
[項目4]
前記樹脂層が、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びポリエステル樹脂から選択される少なくとも一種を含む、項目1~3のいずれか一項に記載の装飾フィルム。
[項目5]
保護層及び装飾層から選択される少なくとも一種をさらに含む、項目1~4のいずれか一項に記載の装飾フィルム。
[項目6]
鉄道車両の外装に使用される、項目1~5のいずれか一項に記載の装飾フィルム。