(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】金属構造部材
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20230214BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20230214BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20230214BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20230214BHJP
F16B 5/08 20060101ALI20230214BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B62D25/04 B
B62D25/04 A
B62D25/06 A
B62D25/20 F
F16B5/08 Z
F16B5/08 A
F16B11/00 B
F16B11/00 D
(21)【出願番号】P 2019081097
(22)【出願日】2019-04-22
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】赤崎 圭輔
【審査官】梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-000754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00-11/12
B62D 25/00-25/24
F16B 5/08
F16B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属構造部材であって、
第1の金属板と、
当該第1の金属板に重なる第2の金属板と、
前記第1の金属板の内面と前記第2の金属板の内面との間に配置された接着剤層と、
前記第1の金属板と前記第2の金属板との溶接部分である少なくとも一つのナゲット部と、を備え、
前記第1の金属板は、前記少なくとも一つのナゲット部の周りを囲むように形成された溝形成部を有し、
前記溝形成部は、前記第1の金属板の前記内面の一部を構成するとともに当該第1の金属板の厚み方向の一方に凹む凹面と、前記内面の裏面である前記第1の金属板の外面の一部を構成するとともに前記凹面に対応する領域において前記厚み方向の一方に突出する凸面と、を有し、
前記接着剤層は、前記溝形成部及び当該溝形成部に囲まれる部分に対応する領域以外の外側領域と、前記溝形成部に対応する領域と、前記溝形成部と前記ナゲット部との間の領域と、に配置されている、金属構造部材。
【請求項2】
請求項
1に記載の金属構造部材であって、
前記溝形成部は、前記ナゲット部の周りを全周にわたって連続して囲む、金属構造部材。
【請求項3】
請求項
1又は
2に記載の金属構造部材であって、
前記第2の金属板は、前記少なくとも一つのナゲット部の周りを囲むように形成された溝形成部を有し、
前記第2の金属板の前記溝形成部は、前記第2の金属板の前記内面の一部を構成するとともに当該第2の金属板の厚み方向の一方に凹む凹面と、前記第2の金属板の前記内面の裏面である前記第2の金属板の外面の一部を構成するとともに前記第2の金属板の前記凹面に対応する領域において前記厚み方向の一方に突出する凸面と、を有する、金属構造部材。
【請求項4】
請求項
3に記載の金属構造部材であって、
前記第2の金属板における前記溝形成部は、前記第1の金属板における前記溝形成部に対して当該第2の金属板の厚み方向に対向する位置に形成されている、金属構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属構造部材の製造方法及び金属構造部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1,2に開示されているように、車体などを構成する構造部材の剛性を向上させる目的で、金属板同士を接着剤により接着するとともに当該金属板同士をスポット溶接により接合するウェルドボンド工法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-172528号公報
【文献】特開2016-084010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1,2に開示されているウェルドボンド工法では、2枚の金属板の間に接着剤が介在した状態でこれらの金属板がスポット溶接され、これにより、金属板同士が接合された金属構造部材が作製される。すなわち、金属板間の隙間領域のうち、溶接が行われる領域(溶接領域)には接着剤が存在する。このように前記溶接領域に接着剤が存在する状態で良好なナゲットを形成して前記金属構造部材の剛性を確保するためには、前記溶接領域に接着剤が存在しない場合に比べて、許容される溶接条件の範囲が狭くなると考えられる。
【0005】
本発明の目的は、接着剤と溶接により金属板同士を接合する接合工法(例えばウェルドボンド工法)を用いて金属板同士を接合する場合において、許容される溶接条件の範囲が狭くなるのを抑制しつつ、金属構造部材の剛性の低下も抑制できる金属構造部材の製造方法及び金属構造部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するための手段として、溶接領域として予め設定された特定領域の周りにおける金属板の形状に着目した。具体的に、金属板の内面に接着剤が配置された状態で2枚の金属板が重ねられると、当該接着剤は、前記2枚の金属板から圧力を受けて金属板間の隙間領域の全体に広がり、前記特定領域にも到達する。そこで、前記金属板の内面において前記特定領域の周りに溝を形成することにより、当該溝は、金属板同士が接着剤を介して重ねられたときに当該特定領域に向かって広がる接着剤を収容することができる。このことは、当該接着剤が前記特定領域に進入するのを抑制することを可能にする。しかも、当該溝が、前記金属板の内面が凹みその裏面である外面が突出するような構造を有するものである場合には、当該溝の構造は、当該金属板自体の剛性を高めることを可能にする。このことは、金属構造部材全体の剛性の低下を抑制することを可能にする。
【0007】
本発明はこのような観点からなされたものである。提供されるのは、金属構造部材の製造方法であって、第1の金属板を準備する第1の準備工程と、第2の金属板を準備する第2の準備工程と、前記第1の金属板の内面及び前記第2の金属板の内面の少なくとも一方の金属板の内面に接着剤を配置する配置工程と、前記第1の金属板と前記第2の金属板とを重ねる積層工程と、重ねられた前記第1の金属板と前記第2の金属板を、予め設定された少なくとも一つの特定領域において溶接する溶接工程と、を含む。前記第1の準備工程
において準備される前記第1の金属板は、溝形成部を備える。前記溝形成部は、前記第1の金属板の内面の一部を構成するとともに当該第1の金属板の厚み方向の一方に凹む凹面と、前記内面の裏面である前記第1の金属板の外面の一部を構成するとともに前記凹面に対応する領域において前記厚み方向の一方に突出する凸面とを有する。当該溝形成部は、前記少なくとも1つの特定領域の周りを囲むように形成される。前記配置工程において前記金属板の前記内面に前記接着剤が配置される領域は、前記溝形成部及び当該溝形成部に囲まれる部分に対応する領域以外の外側領域のみである。前記配置工程の後に行われる前記積層工程において前記第1の金属板と前記第2の金属板とが重ねられたときに前記特定領域に向かって広がる前記接着剤の一部を、前記溝形成部の前記凹面により画定される溝が収容する。
【0008】
この金属構造部材の製造方法によれば、前記積層工程において前記第1の金属板と前記第2の金属板が重ねられたときに前記接着剤が2枚の金属板から圧力を受けて前記隙間領域において前記特定領域に向かって広がったとしても、前記第1の金属板において当該特定領域の周りを囲むように形成された前記溝形成部は、当該接着剤を収容することができる。このことは、当該接着剤が前記特定領域に進入するのを抑制することを可能にする。したがって、本発明では、従来のように溶接条件の範囲を狭くしなくても、前記特定領域において溶接品質の良好なナゲット部を形成することができる。上記のように前記接着剤の前記特定領域への進入が抑制されると、当該接着剤による金属板同士の接合面積が減少するので、金属構造部材全体の剛性が低下する可能性があるが、本発明の金属構造部材の製造方法では、当該金属構造部材の剛性の低下は、前記第1の金属板自体の剛性を高めることにより抑制する。すなわち、前記溝形成部は、前記第1の金属板の内面の一部が当該第1の金属板の厚み方向に凹む凹面と当該凹面の裏面である前記第1の金属板の外面の一部が前記厚み方向に突出する凸面とを有する。このような溝形成部の構造は、第1の金属板に溝形成部が設けられていない場合に比べて、前記第1の金属板自体の剛性を高めることを可能にし、金属構造部材全体の剛性の低下を抑制することを可能にする。よって、本発明では、接着剤と溶接により金属板同士を接合する接合工法(例えばウェルドボンド工法)を用いて金属板同士を接合する場合において、許容される溶接条件の範囲が狭くなるのを抑制しつつ、金属構造部材の剛性の低下も抑制できる。
【0009】
前記第1の準備工程において、前記溝形成部は、前記少なくとも1つの特定領域の周りを全周にわたって連続して囲むように前記第1の金属板に形成されることが好ましい。
【0010】
この態様では、前記溝形成部は、当該溝形成部よりも外側の領域にある接着剤が何れの方向から前記特定領域に向かって広がる場合であっても、前記接着剤を収容して当該接着剤が前記特定領域に進入するのを抑制できる。
【0011】
本発明の金属構造部材は、第1の金属板と、当該第1の金属板に重なる第2の金属板と、前記第1の金属板の内面と前記第2の金属板の内面との間に配置された接着剤層と、前記第1の金属板と前記第2の金属板との溶接部分である少なくとも一つのナゲット部と、を備える。前記第1の金属板は、前記少なくとも一つのナゲット部の周りを囲むように形成された溝形成部を有する。前記溝形成部は、前記第1の金属板の前記内面の一部を構成するとともに当該第1の金属板の厚み方向の一方に凹む凹面と、前記内面の裏面である前記第1の金属板の外面の一部を構成するとともに前記厚み方向の一方に突出する凸面と、を有する。前記接着剤層は、前記溝形成部及び当該溝形成部に囲まれる部分に対応する領域以外の外側領域と、前記溝形成部に対応する領域と、前記溝形成部と前記ナゲット部との間の領域と、に配置されている。
【0012】
この金属構造部材では、前記凹面と前記凸面とを有する前記溝形成部の構造は前記第1の金属板自体の剛性を高める。また、この溝形成部は、当該金属構造部材を製造するときに、前記ナゲット部に対応する領域である前記特定領域に向かって広がる前記接着剤を収容することができる。このため、当該特定領域に形成される前記ナゲット部の溶接品質の低下が抑制される。
【0015】
前記金属構造部材において、前記溝形成部は、前記ナゲット部の周りを全周にわたって連続して囲んでいることが好ましい。
【0016】
この態様では、前記ナゲット部の周りを全周にわたって連続して囲むように形成された前記溝形成部は、前記ナゲット部の周りを断続的に囲む溝形成部に比べて、前記第1の金属板自体の剛性をより高める。このことは、前記金属構造部材全体の剛性をさらに高めることを可能にする。
前記金属構造部材において、前記第2の金属板は、前記少なくとも一つのナゲット部の周りを囲むように形成された溝形成部を有し、前記第2の金属板の前記溝形成部は、前記第2の金属板の前記内面の一部を構成するとともに当該第2の金属板の厚み方向の一方に凹む凹面と、前記第2の金属板の前記内面の裏面である前記第2の金属板の外面の一部を構成するとともに前記第2の金属板の前記凹面に対応する領域において前記厚み方向の一方に突出する凸面と、を有していてもよい。
前記金属構造部材において、前記第2の金属板における前記溝形成部は、前記第1の金属板における前記溝形成部に対して当該第2の金属板の厚み方向に対向する位置に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、接着剤と溶接により金属板同士を接合する接合工法(例えばウェルドボンド工法)を用いて金属板同士を接合する場合において、許容される溶接条件の範囲が狭くなるのを抑制しつつ、金属構造部材の剛性の低下も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る金属構造部材を模式的に示す側面図である。
【
図2】前記実施形態に係る金属構造部材を模式的に示す底面図である。
【
図3】
図2のIII-III線における断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る金属構造部材の製造方法における工程の一部を模式的に示す斜視図である。
【
図5】前記実施形態に係る金属構造部材の製造方法における工程の一部を模式的に示す断面図である。
【
図6】比較例に係る金属構造部材の製造方法における工程の一部を模式的に示す斜視図である。
【
図7】前記比較例に係る金属構造部材の製造方法における工程の一部を模式的に示す断面図である。
【
図8】前記実施形態に係る金属構造部材を備えるサイドドアを示す側面図である。
【
図9】
図8に示すサイドドアのインナパネルにおける枠線IXで囲まれた領域の裏面を拡大した斜視図である。
【
図10】
図8に示すサイドドアのインナパネルにおける枠線Xで囲まれた領域の裏面を拡大した斜視図である。
【
図11】前記実施形態に係る金属構造部材を備える車体のフレームを示す斜視図である。
【
図13】
図11のXIII-XIII線における断面図である。
【
図14】
図12に示すBピラーの一部を示す模式図であり、
図12においてBピラーを矢印D1の方向に見たときの側面図である。
【
図15】
図13に示すルーフサイドレールの一部を示す模式図であり、
図13においてルーフサイドレールを矢印D2の方向に見たときの側面図である。
【
図16】金属構造部材の剛性を比較する計算に用いた供試材を示す概略図である。
【
図18】溝形成部の半径、溝形成部の径及び溝形成部の深さについて説明するための概略図である。
【
図19】前記剛性を比較する計算において供試材に対して荷重を与える方法を説明するための概略図である。
【
図20】各供試材の剛性を計算した結果を示すグラフである。
【
図21】溝形成部の深さと剛性との関係を示すグラフである。
【
図22】溝形成部の径と剛性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0020】
本発明の実施形態に係る金属構造部材は、接着剤と溶接により金属板同士を接合する接合工法(例えばウェルドボンド工法)を用いて第1の金属板と第2の金属板とが接合された構造部材である。したがって、本発明の金属構造部材は、前記ウェルドボンド工法などの前記接合工法を用いて作製可能な種々の構造部材に広く適用される。当該構造部材には、例えば自動車などの車両における車体のフレーム、パネル部品などを構成する部材が含まれる。前記車体のフレームには、例えばロッカー、ピラー、サイドメンバ、ルーフサイドレールなどが含まれる。前記パネル部品には、サイドドア、フード、トランクなどが含まれる。
【0021】
[金属構造部材]
以下では、
図1~
図3に示す金属構造部材の模式図及び
図4~
図7に示す金属構造部材の製造方法における工程の一部を示す模式図を参照して当該金属構造部材及びその製造方法の主要な特徴について説明した後、
図8~
図15を参照して具体的な実施形態について説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係る金属構造部材100を模式的に示す側面図であり、
図2は、その底面図であり、
図3は、
図2のIII-III線における断面図である。
【0023】
図1~
図3に示すように、前記金属構造部材100は、第1の金属板M1と、第2の金属板M2と、接着剤層30と、複数のナゲット部40と、を備える。前記第1の金属板M1と前記第2の金属板M2は重ねられた状態で前記接着剤層30及び前記複数のナゲット部40により互いに接合されている。
【0024】
前記複数のナゲット部40のそれぞれは、前記第1の金属板M1と前記第2の金属板M2が互いにスポット溶接されることにより形成される溶融金属部分である。前記複数のナゲット部40は、前記金属構造部材100において互いに間隔をおいて形成されている。
【0025】
図3に示すように、前記第1の金属板M1は、板状の平行部11と、複数の溝形成部12と、を有する。前記第2の金属板M2は、板状の平行部21を有する。
【0026】
前記第1の金属板M1の前記平行部11及び前記第2の金属板M2の前記平行部21は互いに平行な姿勢で対向する板状の部分である。ここでいう平行な姿勢は、前記平行部11と前記平行部21とが厳密に平行に配置される場合だけでなく、接着剤層30の厚みのばらつき、金属板M1,M2のそれぞれの成形精度に起因する寸法のばらつきや形状のばらつきなどに応じて前記平行部11と前記平行部21とが傾斜して配置される場合も含む。これらの平行部11,21の間の隙間の多くの部分には、前記接着剤層30が介在する。
【0027】
図2は金属構造部材100を第1金属板M1の厚み方向に見たときの図であり、
図3は金属構造部材100の断面を前記厚み方向Tに直交する方向(以下、直交方向とも称される。)に見たときの図である。
図2に示すように、前記第1の金属板M1の前記複数の溝形成部12のそれぞれは、当該第1の金属板M1をその厚み方向Tに見たときに前記ナゲット部40の周りを囲むように形成されている。
図3に示すように、各溝形成部12の一部分は、前記第1の金属板M1を前記直交方向に見たときに、前記ナゲット部40に対して前記厚み方向Tの一方(
図3では下方)にずれた位置に形成されている。すなわち、
図3に示すように、各溝形成部12の一部分は、前記ナゲット部40に対して前記厚み方向Tの一方(
図3では下方)に突出している。
【0028】
前記第1の金属板M1の前記複数の溝形成部12のそれぞれは、前記ナゲット部40の周りを全周にわたって連続して囲むように設けられている。各溝形成部12は、前記金属構造部材100を金属板の厚み方向Tに見たときに、前記ナゲット部40の周りを囲む環形状を有する。
図2に示す模式図では、各溝形成部12は円環形状を有するが、溝形成部12の形状は後述する種々の実施形態に示されるように円環形状に限られない。各溝形成部12は、
図2に示すように単一のナゲット部40を囲むように設けられていてもよく、後述する種々の実施形態に示すように複数のナゲット部40を囲むように設けられていてもよい。各溝形成部12は、当該溝形成部12が囲む前記ナゲット部40と間隔をおいて設けられている。
【0029】
図3に示すように、各溝形成部12は、前記第1の金属板M1の前記内面S11の一部を構成するとともに当該第1の金属板M1の厚み方向Tの一方(
図3では下方)に凹む凹面SAと、前記内面S11の裏面である前記第1の金属板M1の外面S12の一部を構成するとともに前記凹面SAに対応する領域において前記厚み方向Tの一方(
図3では下方)に突出する凸面SBと、を有する。
図3に示す具体例では、前記凹面SA及び前記凸面SBのそれぞれは、
図3に示す断面図において半円によって構成されているが、凹面SA及び凸面SBの断面形状は半円に限られない。凹面SA及び凸面SBのそれぞれは、曲面のみによって構成されていてもよく、複数の平面のみによって構成されていてもよく、曲面と平面の組み合わせによって構成されていてもよい。
【0030】
前記凹面SAは、前記溝形成部12の溝を画定している。前記凹面SAにより画定される溝は、前記ナゲット部40の周りを囲む堀のような形状を有する。当該溝形成部12の溝は、前記金属構造部材100の製造時に接着剤の一部が収容されることが可能な空間である。前記凸面SBは、前記平行部11に対して前記厚み方向Tの一方(
図3では下方)に突出する溝形成部12の外面を構成する。
【0031】
前記接着剤層30は、前記第1の金属板M1の前記内面S11と前記第2の金属板M2の内面S21との間の隙間領域Rに配置されている。
【0032】
ここで、前記隙間領域Rは、前記ナゲット部40及び前記溝形成部12を基準にして次の複数の領域に分類することができる。すなわち、
図3に示すように、前記隙間領域Rは、ナゲット領域R1と、内側領域R2と、溝領域R3と、外側領域R4と、に分類される。前記ナゲット領域R1は、前記ナゲット部40が形成されている部分に対応する領域である。前記溝領域R3は、前記溝形成部12が形成されている部分に対応する領域である。前記内側領域R2は、前記溝領域R3よりも内側の領域であり、前記ナゲット領域R1と前記溝領域R3との間の領域である。前記外側領域R4は、前記溝領域R3よりも外側の領域である。当該外側は、前記溝形成部12に対して前記ナゲット部40とは反対側である。
【0033】
図3に示す実施形態では、前記接着剤層30は、前記隙間領域Rのうち、前記外側領域R4と前記溝領域R3とに配置されており、前記内側領域R2には配置されていない。したがって、前記接着剤層30は、前記ナゲット部40と間隔をおいて配置されている。ただし、前記接着剤層30は、必ずしも上記のような配置でなくてもよい。例えば、前記接着剤層30は、前記外側領域R4と前記溝領域R3と前記内側領域R2とに配置されていてもよい。また、前記接着剤層30は、前記外側領域R4のみに配置されていてもよい。
【0034】
前記接着剤層30を形成するための接着剤は、特に限定されるものではないが、例えば構造用接着剤であってもよい。当該構造用接着剤としては、例えばエポキシ系樹脂を主成分とするものを挙げることができる。
【0035】
前記第1の金属板M1及び前記第2の金属板M2は、同種の金属により構成されていてもよく、異種の金属により構成されていてもよい。具体的に、第1の金属板M1と第2の金属板M2の組み合わせとしては、両方の金属板が鋼板である場合、両方の金属板がアルミニウム板である場合、一方の金属板が鋼板で他方の金属板がアルミニウム板である場合などを例示できるが、これらに限られない。
【0036】
また、前記アルミニウム板は、例えば、アルミニウム押出材であってもよく、アルミニウムダイキャストであってもよく、他の成形手段を用いて形成されたものであってもよい。具体的には、一方の金属板がアルミニウム押出材で他方の金属板が他の成形手段を用いて成形された板材(鋼板、アルミニウム板など)であってもよい。また、一方の金属板がアルミニウムダイキャストで他方の金属板が他の成形手段を用いて成形された板材(鋼板、アルミニウム板など)であってもよい。前記アルミニウム板は、例えばアルミニウム合金により構成される。当該アルミニウム合金としては、例えば5000系アルミニウム合金、6000系アルミニウム合金、7000系アルミニウム合金などが用いられる。
【0037】
[金属構造部材の製造方法]
次に、前記金属構造部材100の製造方法について説明する。
図4は、前記実施形態に係る金属構造部材100の製造方法における工程の一部を模式的に示す斜視図であり、
図5は、その断面図である。
図6は、比較例に係る金属構造部材の製造方法における工程の一部を模式的に示す斜視図であり、
図7は、その断面図である。
【0038】
前記金属構造部材100の製造方法は、第1の準備工程と、第2の準備工程と、配置工程と、積層工程と、溶接工程と、を備える。
【0039】
前記第1の準備工程は、前記第1の金属板M1を準備する工程であり、前記第2の準備工程は、前記第2の金属板M2を準備する工程である。前記第1の準備工程では、前記複数の溝形成部12を備える前記第1の金属板M1が成形され、前記第2の準備工程では、前記第2の金属板M2が成形される。前記第1の金属板M1及び前記第2の金属板M2のそれぞれは、例えばプレス加工、ダイキャストなどの手段を用いて成形される。前記第1の準備工程において、前記複数の溝形成部12のそれぞれは、前記第1の金属板M1を前記厚み方向Tに見たときに前記第1の金属板M1における予め設定された少なくとも1つの特定領域RSの周りを囲むように形成される。
図5に示すように、各溝形成部12の一部分は、前記直交方向に見たときに、前記特定領域RSに対して前記厚み方向Tの一方(
図5では下方)にずれた位置に形成されている。すなわち、
図5に示すように、各溝形成部12の一部分は、前記特定領域RSに対して前記厚み方向Tの一方(
図5では下方)に突出している。
【0040】
前記特定領域RSは、後述する溶接工程において、前記第1の金属板M1と前記第2の金属板M2とが溶接される領域である。
図4及び
図5に示す模式図では、各溝形成部12が単一の特定領域RSの周りを囲むように設けられるが、これに限られず、一つの溝形成部12が複数の特定領域RSを囲むように設けられてもよい。前記第1の金属板M1をその厚み方向Tに見たときに、前記特定領域RSは、前記溝形成部12よりも内側に位置する領域であり、当該溝形成部12により囲まれる領域の面積よりも小さな面積(厚み方向Tに見たときの面積)を有する領域である。当該特定領域RSは、前記溝形成部12と間隔をあけて当該溝形成部12よりも内側に位置する領域である。なお、前記特定領域RSは、前述したナゲット部40が形成されている部分に対応する領域R1とほぼ一致する領域であるが、必ずしも厳密に一致していなくてもよい。なぜなら、各スポット溶接は前記特定領域RSを目標にして行われるが、製造上の種々の要因によって溶接位置は多少ばらつくことがあるからである。
【0041】
前記配置工程は、前記第1の金属板M1及び前記第2の金属板M2の少なくとも一方の金属板の内面に接着剤を配置する工程である。本実施形態では、
図4及び
図5に示すように、接着剤30Aは、一方の金属板の内面に配置される。具体的に、例えば、第1の金属板M1の内面S11において、前記接着剤30Aが互いに間隔をあけた複数列からなる列状(線状)に塗布される。このとき、前記接着剤30Aが配置される領域は、前記第1の金属板M1の内面S11のうち、外側領域R4Aのみである。第1の金属板M1における当該外側領域R4Aは、
図3に示した前記金属構造部材100における前記外側領域R4に対応する領域である。すなわち、当該外側領域R4Aは、第1の金属板M1の内面S11のうち、前記溝形成部12が形成されている領域よりも外側の領域である。当該外側は、前記溝形成部12に対して前記特定領域RSとは反対側である。
【0042】
また、前記接着剤30Aが第2の金属板M2の内面S21に配置される場合においても同様に、当該接着剤30Aが配置される領域は、第2の金属板M2の前記内面S21のうち、外側領域R4Aのみである。前記第2の金属板M2における当該外側領域R4Aは、
図3に示した前記金属構造部材100における前記外側領域R4に対応する領域である。すなわち、第2の金属板M2における当該外側領域R4Aは、第2の金属板M2の内面S21のうち、金属板M1,M2を重ねた状態における第1の金属板M1の前記溝形成部12が形成されている領域よりも外側の領域に対応する領域である。
【0043】
前記積層工程は、
図4及び
図5に示すように、前記第1の金属板M1と前記第2の金属板M2とを重ねる工程である。当該積層工程において、これらの金属板M1,M2が重なると、前記第1の金属板M1の前記内面S11と前記第2の金属板M2の内面S21との間の隙間領域Rに接着剤30Aが配置される。
【0044】
この積層工程の初期段階、すなわち、前記隙間領域Rに配置された前記接着剤30Aが金属板M1,M2により加圧される前の段階では、
図4の上図及び
図5の上図に示すように、接着剤30Aは、前記配置工程において金属板の内面に塗布されたときの線状の形状を保持している。
【0045】
次に、当該積層工程において、金属板M1,M2同士が互いに近づく方向に押圧される。これにより、
図4の中央の図及び
図5の中央の図に示すように、接着剤30Aは、金属板M1,M2によって加圧され、前記隙間領域Rにおいて広がる。本実施形態では、前記第1の金属板M1には、前記特定領域RSの周りを囲む溝形成部12が形成されているので、前記隙間領域Rにおいて前記特定領域RSに向かって進行する接着剤30Aは、前記溝形成部12に到達すると、当該溝形成部12の凹面SAにより画定される溝内に収容される。これにより、前記接着剤30Aが特定領域RSに到達することが抑制される。
【0046】
一方、
図6及び
図7に示す比較例に係る金属構造部材の製造方法においては、第1の金属板M11及び第2の金属板M12の何れにも前記溝形成部が形成されていないので、第1の金属板M11と第2の金属板M12の隙間領域において溶接領域である特定領域に向かって進行する接着剤30Aは、当該特定領域に到達する。
【0047】
前記溶接工程は、重ねられた前記第1の金属板と前記第2の金属板を前記特定領域RSにおいてスポット溶接する工程である。
図4及び
図5に示すように、本実施形態に係る製造方法では、前記積層工程において、前記特定領域RSに接着剤30Aが進入することが抑制されるので、当該溶接工程では、特定領域RSに接着剤30Aが存在しない状態で金属板M1,M2が互いにスポット溶接される。これにより、前記特定領域RSにおいて、溶接品質の良好なナゲット部40が形成される。
【0048】
以上、前記金属構造部材100及びその製造方法の主要な特徴について説明したが、以下では、
図8~
図15を参照して、本発明の金属構造部材の一例として、サイドドア60の一部を構成する金属構造部材101,102、及び車体のフレームの一部を構成する金属構造部材103,104を例に挙げて説明する。
【0049】
[サイドドア]
図8は、前記実施形態に係る金属構造部材101,102を備えるサイドドア60を示す側面図である。
図9は、
図8に示すサイドドア60のインナパネル63における枠線IXで囲まれた領域の裏面を拡大した斜視図であり、
図10は、
図8に示すサイドドア60のインナパネル63における枠線Xで囲まれた領域の裏面を拡大した斜視図である。
【0050】
当該サイドドア60は、車体のフレームに対して2つのヒンジ部61,62により回動可能に取り付けられる部材である。当該2つのヒンジ部61,62は、前記サイドドア60の前端部において上下に間隔をおいて設けられている。
【0051】
前記サイドドア60は、インナパネル63と、当該インナパネル63の外側(車幅方向の外側)に設けられるアウタパネル(図示省略)と、複数のリインフォースメントと、を含む。当該複数のリインフォースメントのそれぞれは、サイドドアを補強するために設けられている。
図9及び
図10に示すように、前記複数のリインフォースメントは、前記2つのヒンジ部61,62を補強するための2つのヒンジリインフォースメント64,65を含む。前記インナパネル63及び前記ヒンジリインフォースメント64のそれぞれは、例えば一枚のパネルをプレス成形することによって作製することができる。
【0052】
前記サイドドア60は、
図9に示す金属構造部材101と、
図10に示す金属構造部材102と、を備える。
【0053】
図9に示すように、上方のヒンジ部61を補強するヒンジリインフォースメント64は、
図1~
図3に示した第1の金属板M1に相当し、当該ヒンジリインフォースメント64に重なるインナパネル63の一部分は、
図1~
図3に示した第2の金属板M2に相当する。前記金属構造部材101は、ヒンジリインフォースメント64(前記第1の金属板M1)と、インナパネル63の一部分(前記第2の金属板M2)と、接着剤層30と、複数のナゲット部40と、を備える。
【0054】
また、
図10に示すように、下方のヒンジ部62を補強するヒンジリインフォースメント65は、
図1~
図3に示した第1の金属板M1に相当し、当該ヒンジリインフォースメント65に重なるインナパネル63の一部分は、
図1~
図3に示した第2の金属板M2に相当する。前記金属構造部材102は、ヒンジリインフォースメント65(前記第1の金属板M1)と、インナパネル63の一部分(前記第2の金属板M2)と、接着剤層30と、複数のナゲット部40と、を備える。
【0055】
これらの金属構造部材101,102のそれぞれにおいて、前記第1の金属板M1は、平行部11と、複数の溝形成部12と、を有し、前記第2の金属板M2は、平行部21を有する。前記第1の金属板M1の平行部11及び複数の溝形成部12と、前記第2の金属板M2の平行部21の主な特徴は、
図1~
図3を参照して説明した前記金属構造部材100と同様である。したがって、
図1~
図3と同様の構成については、
図9及び
図10において同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0056】
図9に示す前記金属構造部材101では、ヒンジリインフォースメント64は、これに対向するインナパネル63の一部分の凹凸形状に沿う凹凸形状を有する。当該ヒンジリインフォースメント64における前記複数の溝形成部12のうち、溝形成部121~124のそれぞれは、複数のナゲット部40の周りを囲むようにヒンジリインフォースメント64に形成されており、溝形成部125は、単一のナゲット部40の周りを囲むようにヒンジリインフォースメント64に形成されている。前記溝形成部121~124のそれぞれは、ほぼ上下方向に延びる形状を有し、当該溝形成部に囲まれる複数のナゲット部40はほぼ上下方向に間隔をおいて並んでいる。
【0057】
図10に示す前記金属構造部材102では、ヒンジリインフォースメント65は、これに対向するインナパネル63の一部分の凹凸形状に沿う凹凸形状を有する。当該ヒンジリインフォースメント65における前記複数の溝形成部12のうち、溝形成部121,122のそれぞれは、複数のナゲット部40の周りを囲むようにヒンジリインフォースメント65に形成されており、溝形成部123~129のそれぞれは、単一のナゲット部40の周りを囲むようにヒンジリインフォースメント65に形成されている。前記溝形成部121は、ほぼ上下方向に延びる形状を有し、当該溝形成部121に囲まれる複数のナゲット部40はほぼ上下方向に間隔をおいて並んでいる。前記溝形成部122は、ほぼ前後方向に延びる形状を有し、当該溝形成部122に囲まれる複数のナゲット部40はほぼ前後方向に間隔をおいて並んでいる。
【0058】
[車体のフレーム]
図11は、車体のフレーム200を示す斜視図であり、
図12は、
図11のXII-XII線における断面図であり、
図13は、
図11のXIII-XIII線における断面図である。
【0059】
図11に示す自動車のフレーム200は、金属構造部材103と、金属構造部材104と、を備える。前記金属構造部材103は、いわゆるBピラーの一部又は全部を構成する構造部材である。当該金属構造部材103は、車体のフレーム200の側部に位置し、前後方向のほぼ中央部に位置し、上下方向に延びる長尺状の構造部材であり、フレーム200の下部と前記ルーフサイドレール104とを接続している。前記金属構造部材104は、ルーフサイドレール(Aピラー)である。当該ルーフサイドレール104は、自動車のフレーム200のうち当該自動車のルーフおよびフロントウインドウの側面に沿って延びる長尺状の構造部材であり、車体の前部と後部とを接続している。
【0060】
図12及び
図13に示すように、前記金属構造部材103,104のそれぞれは、閉断面構造を有する。
【0061】
図12に示す前記金属構造部材103は、第1部材71と、第2部材72と、第3部材73と、を有する。これらの部材71~73のそれぞれは、前記金属構造部材103の長手方向に沿って延びる金属板である。これらの部材71,72,73は、接着剤と溶接によるウェルドボンド工法により接合されている。具体的には次の通りである。
【0062】
前記第1部材71は、本体部71Aと、当該本体部71Aの幅方向の両側に位置する一対のフランジ部71B,71Cとを有する。前記第2部材72は、本体部72Aと、当該本体部72Aの幅方向の両側に位置する一対のフランジ部72B,72Cとを有する。前記第3部材73は、本体部73Aと、当該本体部73Aの幅方向の両側に位置する一対のフランジ部73B,73Cとを有する。前記第1部材71の本体部71Aは、両サイドのフランジ部71B,71Cとほぼ同一平面に位置している。前記第2部材72の本体部72Aは、一対のフランジ部72B,72Cに対して側方に突出するような形状を有する。前記第3部材73の本体部73Aは、一対のフランジ部73B,73Cに対して側方に突出するような形状を有し、前記第2部材72の本体部72Aの外側に覆い被さるように配置されている。
【0063】
前記第1部材71の一対のフランジ部71B,71Cは、前記第2部材72の一対のフランジ部72B,72Cに対して接着剤と溶接によるウェルドボンド工法により接合され、これにより、前記第1部材71の本体部71Aと前記第2部材72の本体部72Aとが閉断面を構成している。前記第2部材72の本体部72Aは、前記第3部材73の本体部73Aに対して接着剤と溶接によるウェルドボンド工法により接合されている。
【0064】
また、
図13に示す前記金属構造部材104は、第1部材81と、第2部材82と、第3部材83と、を有する。これらの部材81~83のそれぞれは、前記金属構造部材104の長手方向に沿って延びる金属板である。これらの部材81,82,83は、接着剤と溶接によるウェルドボンド工法により接合されている。具体的には次の通りである。
【0065】
前記第1部材81は、本体部81Aと、当該本体部81Aの幅方向の両側に位置する一対のフランジ部81B,81Cとを有する。前記第2部材82は、本体部82Aと、当該本体部82Aの幅方向の両側に位置する一対のフランジ部82B,82Cとを有する。前記第3部材83は、本体部83Aと、当該本体部83Aの幅方向の両側に位置する一対のフランジ部83B,83Cとを有する。前記第1部材81の本体部81Aは、両サイドのフランジ部81B,81Cに対して側方に突出するような形状を有する。前記第2部材82の本体部82Aは、一対のフランジ部82B,82Cに対して側方(前記本体部81Aの突出方向とは反対側)に突出するような形状を有する。前記第3部材83の本体部83Aは、一対のフランジ部83B,83Cに対して側方(前記本体部81Aの突出方向とは反対側)に突出するような形状を有する。第2部材82は、前記第1部材81と前記第3部材83の間に配置されている。
【0066】
前記第1部材81の一対のフランジ部81B,81Cは、前記第2部材82の一対のフランジ部82B,82Cに対して接着剤と溶接によるウェルドボンド工法により接合され、これにより、前記第1部材81の本体部81Aと前記第2部材82の本体部82Aとが閉断面を構成している。前記第2部材82の一対のフランジ部82B,82Cは、前記第3部材83の一対のフランジ部83B,83Cに対して接着剤と溶接によるウェルドボンド工法により接合され、これにより、前記第2部材82の本体部82Aと前記第3部材83の本体部83Aとが閉断面を構成している。
【0067】
以上のような
図12及び
図13に示す複数の接合部分におけるウェルドボンド工法による接合は、
図1~
図3を参照して説明した接合構造と同様である。例えば、
図12の金属構造部材103におけるフランジ部71Bとフランジ部72Bとの接合部分を例に挙げて説明すると次の通りである。
【0068】
図12に示すように、前記金属構造部材103におけるフランジ部71Bとフランジ部72Bとの接合部分(
図12の左下部分)では、前記フランジ部71Bは、
図1~
図3における前記第1の金属板M1に対応する金属板であり、前記フランジ部71Bに重なる前記フランジ部72Bは、
図1~
図3における前記第2の金属板M2に対応する金属板である。そして、前記金属構造部材103におけるフランジ部71Bとフランジ部72Bとの接合部分は、フランジ部71Bの内面とフランジ部72Bの内面との間に配置された接着剤層30と、フランジ部71Bとフランジ部72Bとの溶接部分である複数のナゲット部40と、を備える。前記第1の金属板としての前記フランジ部71Bは、前記ナゲット部40の周りを囲むように形成された溝形成部12を有する。当該溝形成部12は、前記第1の金属板としての前記フランジ部71Bの内面の一部を構成するとともに当該フランジ部71Bの厚み方向の一方に凹む凹面SAと、前記内面の裏面である前記フランジ部71Bの外面の一部を構成するとともに前記凹面SAに対応する領域において前記厚み方向の一方に突出する凸面SBと、を有する。前記接着剤層30は、フランジ部71Bの内面とフランジ部72Bの内面との間の隙間領域Rのうち、外側領域R4及び溝領域R3(
図3参照)とに配置されており、前記内側領域R2(
図3参照)には配置されていない。したがって、前記接着剤層30は、前記ナゲット部40と間隔をおいて配置されている。
【0069】
図14は、前記金属構造部材103を
図12に示す矢印D1の方向に見たときの模式図であり、
図15は、前記金属構造部材104を
図13に示す矢印D2の方向に見たときの模式図である。
図14の模式図に示されているように、前記金属構造部材103では、前記第1金属板M1としての前記フランジ部71B,71Cのそれぞれは、複数のナゲット部40の周りを囲むように形成された溝形成部12を有し、当該溝形成部12はおおよそ上下方向に延びている。また、
図15の模式図に示されているように、前記金属構造部材104では、前記第1金属板M1としての前記フランジ部81B,81Cのそれぞれは、複数の溝形成部12を有し、各溝形成部12は、単一のナゲット部40の周りを囲むように形成されている。
【0070】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように、前記実施形態に係る金属構造部材の製造方法によれば、前記積層工程において前記第1の金属板M1と前記第2の金属板M2が重ねられたときに前記接着剤30が2枚の金属板から圧力を受けて前記隙間領域Rにおいて前記特定領域RSに向かって広がったとしても、前記第1の金属板M1において当該特定領域RSの周りを囲むように形成された前記溝形成部12は、当該接着剤を収容することができる。このことは、当該接着剤が前記特定領域RSに進入するのを抑制することを可能にする。したがって、従来のように溶接条件の範囲を狭くしなくても、前記特定領域RSにおいて溶接品質の良好なナゲット部40を形成することができる。上記のように前記接着剤の前記特定領域RSへの進入が抑制されると、当該接着剤による金属板同士の接合面積が減少するので、金属構造部材全体の剛性が低下する可能性があるが、前記実施形態に係る金属構造部材の製造方法では、当該金属構造部材の剛性の低下は、前記第1の金属板M1自体の剛性を高めることにより抑制する。すなわち、前記溝形成部12は、前記第1の金属板M1の内面の一部を構成するとともに当該第1の金属板M1の厚み方向Tの一方に凹む凹面SAと前記内面の裏面である前記第1の金属板M1の外面の一部を構成するとともに前記厚み方向Tの一方に突出する凸面SBとを有する。このような溝形成部12の構造は、第1の金属板M1に溝形成部12が設けられていない場合に比べて、前記第1の金属板M1自体の剛性を高めることを可能し、金属構造部材全体の剛性の低下を抑制することを可能にする。よって、前記実施形態では、ウェルドボンド工法のように接着剤と溶接により金属板同士を接合する接合工法を用いて金属板同士を接合する場合において、許容される溶接条件の範囲が狭くなるのを抑制しつつ、金属構造部材の剛性の低下も抑制できる。
【0071】
前記実施形態では、前記第1の準備工程において、前記溝形成部12は、前記少なくとも1つの特定領域RSの周りを全周にわたって連続して囲むように前記第1の金属板M1に形成される。したがって、前記溝形成部12は、当該溝形成部12よりも外側の領域にある接着剤が何れの方向から前記特定領域RSに向かって広がる場合であっても、前記接着剤を収容して当該接着剤が前記特定領域RSに進入するのを抑制できる。
【0072】
前記実施形態に係る金属構造部材では、前記溝形成部12は、前記第1の金属板M1の前記内面S11の一部を構成するとともに当該第1の金属板M1の厚み方向Tの一方に凹む凹面SAと、前記内面S11の裏面である前記第1の金属板M1の外面S12の一部を構成するとともに前記厚み方向の一方に突出する凸面SBと、を有する。前記凹面と前記凸面とを有する前記溝形成部12の構造は前記第1の金属板M1自体の剛性を高める。また、この溝形成部12は、当該金属構造部材を製造するときに、前記ナゲット部40に対応する領域である前記特定領域RSに向かって広がる前記接着剤を収容することができる。このため、当該特定領域RSに形成される前記ナゲット部40の溶接品質の低下が抑制される。
【0073】
前記金属構造部材において、前記接着剤層30は、前記第1の金属板M1の前記内面S11と前記第2の金属板M2の前記内面S21との間の隙間領域Rにおいて前記ナゲット部40と間隔をおいて配置され、かつ、前記接着剤層30の一部が前記溝形成部12の前記凹面SAにより画定される溝内に配置されている。このように前記接着剤層30の一部が前記溝形成部12の溝内に配置されているので、前記接着剤30による前記第1の金属板M1と前記第2の金属板M2との接合が前記溝形成部12においても確保されている。これにより、接着剤による金属板同士の接合面積が前記溝形成部12を設けることに起因して減少することが抑制される。また、前記実施形態では、前記接着剤層30が前記ナゲット部40と間隔をおいて配置されている。すなわち、この金属構造部材の製造時には、前記接着剤が前記溝形成部12に収容されることにより当該接着剤の広がりが抑制されて前記接着剤が前記特定領域RSに進入していない状態で金属板同士の溶接が行われる。したがって、この金属構造部材の前記ナゲット部40は、接着剤による影響を受けずに形成されるため、当該ナゲット部40の溶接品質の低下が抑制される。
【0074】
[特性評価]
次に、本発明の実施形態に係る金属構造部材の特性をCAE解析により評価した結果について説明する。
図16は、当該評価に用いた本発明の実施形態に係る金属構造部材(供試材A~D)を示す概略図である。これらの供試材A~Dのそれぞれは、第1の金属板M1に溝形成部12が設けられている。なお、
図16における数値の単位はmmである(符号12を除く)。
【0075】
図17は、供試材の寸法等の評価条件を示す表である。
図17の表に示すように、「Case0-0」、「Case0-1」及び「Case0-2」という名称の供試材は、比較例として用いられたものである。これらの比較例に係る供試材は、前記溝形成部が設けられていない。表中の左端列の「Case」の名称において、4段目から8段目までの供試材は、供試材Aであり、これらは溝形成部の深さ及び溝形成部の径を異ならせたものである。
【0076】
図18は、評価条件のうちの溝形成部の半径、溝形成部の深さ及び溝形成部の径について説明するための模式図である。前記溝形成部の半径Rは、
図18に示す断面模式図において溝形成部12の外面を示す円弧の曲率半径である。
図17及び
図18における前記溝形成部の径φは、
図16において矢印で示される距離である。
図19は、当該評価において供試材に対して荷重を付与する方法について説明するための概略図である。
図19に示すように、この評価では、溝形成部12を設けた第1の金属板M1と、溝形成部12を設けていない第2の金属板M2(平板)とを重ね合わせて接合し、第1の金属板M1が下方を向くように(背面側となるように)設置して行われる3点曲げ試験を模擬したCAE解析により剛性を計算した。
【0077】
上記の評価条件で各供試材の剛性を計算した結果を
図20のグラフに示す。
図20に示すように、溝形成部12を有する供試材A~Dは、溝形成部を有していない供試材(Case0-2)に比べて、剛性の低下が抑制されている。特に供試材C,Dは、供試材(Case0-2)に比べて剛性が著しく向上している。具体的には次の通りである。
【0078】
スポット溶接のみの供試材(Case0-1)と比べて、接着剤を付与した供試材(Case0-0,Case0-2)では、変形荷重が大幅に増加している。しかし,供試材(Case0-0)と供試材(Case0-2)とを比較すると、接着剤とスポット溶接の併用による剛性向上効果は小さいことがわかる。
【0079】
溝形成部12を設けた供試材A~Dは、3つの比較例の供試材(Case0-0,Case0-1,Case0-2)と同等以上の剛性を確保できることがわかる。
【0080】
溝形成部12が3点曲げ方向に対して直交する方向に配置されている供試材C,Dの剛性が特に高いことがわかる。これは、溝形成部12を供試材C,Dのように設けることにより荷重載荷点近傍の断面二次モーメントが増加しているためである。
【0081】
溝形成部12を設けた供試材A~Dのうち、供試材Bの剛性が最も低い結果となった。これは、供試材Bでは、2つの溝形成部12が曲げ方向に平行に配置され、前記2つの溝形成部12の間の部分が変形時の折れ起点になっているためと推測される。
【0082】
供試材Cと供試材Dとを比較すると,供試材Cの剛性が高い。これは供試材Dの内側の小さい溝形成部12の端部が変形時の折れ起点になっているためと推測される。
【0083】
溝形成部12の深さを異ならせた3つの供試材A(CaseA-d1-φ25,CaseA-d3-φ25,CaseA-d5-φ25)の荷重-変位曲線を
図21に示す。
図21に示すように、溝形成部12の深さが大きくなることで剛性が向上している。ただし、溝形成部12の深さが3mm以上では、剛性向上効果が小さいことがわかる。したがって、溝形成部12の深さは3mm以上あれば十分であることがわかる。
【0084】
溝形成部12の径を異ならせた3つの供試材A(CaseA-d3-φ20,CaseA-d3-φ25,CaseA-d3-φ30)の荷重-変位曲線を
図22に示す。
図22に示すように、溝形成部12の径が剛性に与える影響は小さい結果となった。
【0085】
[変形例]
本発明は、以上説明した実施形態に限定されない。本発明は、例えば次のような形態を含む。
【0086】
(A)溶接について
前記実施形態では、前記第1の金属板M1と前記第2の金属板M2を接合する溶接は、スポット溶接であったが、スポット溶接以外の他の溶接手段であってもよい。すなわち、本発明の金属構造部材の製造方法は、接着剤とスポット溶接により金属板同士を接合するウェルドボンド工法を用いる実施形態だけでなく、接着剤と他の溶接手段(スポット溶接以外の溶接手段)により金属板同士を接合する接合工法を用いる実施形態も含む。
【0087】
(B)溝形成部について
前記実施形態では、前記溝形成部12は、第1の金属板M1のみに形成されていたが、これに限られない。少なくとも1つの溝形成部12が第2の金属板M2にも形成されていてもよい。また、第1の金属板M1及び第2の金属板M2のそれぞれに少なくとも1つの溝形成部12が形成されていてもよい。かかる場合、第1の金属板M1に形成される溝形成部が第2の金属板に形成される溝形成部に対して金属板の厚み方向Tに対向する位置に設けられていてもよい。
【0088】
また、前記実施形態では、前記溝形成部12は、前記特定領域RS(ナゲット部40)の周りを全周にわたって連続して囲むように前記第1の金属板M1に形成されるものであったが、これに限られない。前記溝形成部12は、前記特定領域RS(ナゲット部40)の周りを全周にわたって連続して囲むように前記第1の金属板M1に形成されるものではなく、前記特定領域RS(ナゲット部40)の周りを断続的に囲むように前記第1の金属板M1に形成されるものであってもよい。
【0089】
(C)接着剤層について
本発明の金属構造部材は、前記接着剤層が前記溝形成部に囲まれる領域に存在するものも含む。具体的には次の通りである。本発明の金属構造部材の製造時において、前記第1の金属板と前記第2の金属板との間の領域に介在する接着剤の量が適量よりも多く、前記溝形成部の容積を超える接着剤が前記溝形成部に到達すると、前記容積を超えた分の接着剤が前記溝形成部に囲まれる領域に進入することは有り得る。かかる場合であっても、本発明の金属構造部材の製造時には、前記接着剤の一部が前記溝形成部に収容されるので、前記特定領域への接着剤の進入量が低減される。したがって、前記金属構造部材において前記接着剤層が前記溝形成部に囲まれる部分に対応する領域、具体的には、前記溝形成部と前記ナゲット部との間の領域に存在する場合であっても、当該金属構造部材は、前記溝形成部を有しない金属構造部材に比べて溶接品質の低下が抑制される。
【0090】
(D)配置工程について
前記実施形態では、前記配置工程において前記金属板の前記内面に前記接着剤が配置される領域は、前記溝形成部及び当該溝形成部に囲まれる部分に対応する領域以外の外側領域のみであ
る。参考例の金属構造部材の製造方法
では、前記配置工程において、前記金属板の前記内面のうち、前記溝形成部及び当該溝形成部に囲まれる部分に対応する領域に前記接着剤が配置され
てもよい。
参考例の金属構造部材の製造方法では、前記配置工程において、前記溝形成部に対応する領域や当該溝形成部に囲まれる部分に対応する領域(具体的には、例えば
図3に示す内側領域R2に対応する領域)に多少の接着剤が配置される場合であっても、前記金属板が前記溝形成部を備えているので、前記積層工程において前記溝形成部よりも外側の領域から前記特定領域に進入する接着剤の進入量は、溝形成部を備えていない金属板が用いられる従来の製造方法に比べて減少する。したがって、かかる場合であっても、
参考例の金属構造部材の製造方法は、従来の製造方法に比べて、許容される溶接条件の範囲が狭くなるのを抑制しつつ、金属構造部材の剛性の低下を抑制するという効果を奏する。ただし、当該効果をより高めるという観点では、前記配置工程において前記金属板の前記内面に前記接着剤が配置される領域は、好ましくは、前記金属板の前記内面のうち、前記特定領域に対応する領域以外の領域のみであり、より好ましくは、前記金属板の前記内面のうち、前記溝形成部及び当該溝形成部に囲まれる部分に対応する領域以外の外側領域のみである。
【符号の説明】
【0091】
M1 第1の金属板
M2 第2の金属板
R 第1の金属板の内面と第2の金属板の内面との間の隙間領域
R4 前記隙間領域のうちの外側領域
RS 特定領域
S11 第1の金属板の内面
S12 第1の金属板の外面
S21 第2の金属板の内面
SA 第1の金属板の溝形成部における凹面
SB 第1の金属板の溝形成部における凸面
12 溝形成部
30 接着剤層
30A 接着剤
40 ナゲット部
100~104 金属構造部材