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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-13
(45)【発行日】2023-02-21
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体、組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230214BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230214BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230214BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230214BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230214BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20230214BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230214BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230214BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
C12N5/10
C12N5/0783
A61K35/545
A61K35/17 Z
A61K38/17
A61P37/04
A61P35/00
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021034578
(22)【出願日】2021-03-04
(62)【分割の表示】P 2017540182の分割
【原出願日】2016-01-28
(65)【公開番号】P2021087452
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】62/109,281
(32)【優先日】2015-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ダン サミュエル コーフマン
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド リー ランピ ハーマンソン
(72)【発明者】
【氏名】ブランデン スコット モリアリティ
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/179759(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/153270(WO,A1)
【文献】特開2008-005722(JP,A)
【文献】Cancer Research,2013年,Vol.73, No.6,p.1777-1786
【文献】Cancer Research,2006年,Vol.66, No.11,p.5927-5933
【文献】Cancer Immunology, immunotherapy,2014年,Vol.64,p.409-418
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12P 1/00-41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードするポリヌクレオチドを含む誘導された多能性幹細胞(iPSC)、又はナチュラルキラー(NK)細胞であって、CARが、N末端からC末端の配向で、
(a)抗原認識領域を含むエクトドメイン;
(b)天然では細胞外C末端を有する天然のNKG2Dと比較して、逆配向でNKG2Dの膜貫通領域を含む膜貫通ドメイン;及び
(c)NK細胞を活性化するシグナル伝達ドメインを含むエンドドメイン
を含み、
前記エンドドメインは、
(i)2B4(CD244)細胞内ドメイン(ICD);
(ii)41BB(CD137)ICD;
(iii)DAP12 ICD;
(iv)2B4 ICD及び41BB ICD;
(v)IL21R ICD;又は
(vi)41BB ICD及び2B4 ICD
の少なくとも一部を含む、上記iPSC又はNK細胞。
【請求項2】
抗原認識領域が、疾患に関連する抗原に特異的に結合する、請求項1に記載のiPSC又はNK細胞。
【請求項3】
抗原認識領域が腫瘍抗原に特異的に結合する、請求項1に記載のiPSC又はNK細胞。
【請求項4】
エクトドメインが、シグナルペプチド又はリーダー配列をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のiPSC又はNK細胞。
【請求項5】
エクトドメインがスペーサーをさらに含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のiPSC又はNK細胞。
【請求項6】
エンドドメインが、CD3ζシグナル伝達ドメインの少なくとも一部をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のiPSC又はNK細胞。
【請求項7】
CARをコードするポリヌクレオチドをiPSC又はNK細胞に導入することを含む、請求項1~6のいずれか1項において定義されるiPSC又はNK細胞を生成する方法。
【請求項8】
CARを含むNK細胞にiPSCを分化させることをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項において定義されるiPSC又はNK細胞を含む医薬組成物。
【請求項10】
NK細胞がiPSCから分化される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
CARが、ある状態と関連した抗原に特異的に結合する抗原認識領域を含む、該状態を有する対象に免疫療法を提供するための、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
CARをコードするポリヌクレオチドであって、CARが、N末端からC末端の配向で、
(a)抗原認識領域を含むエクトドメイン;
(b)天然では細胞外C末端を有する天然のNKG2Dと比較して、逆配向でNKG2Dの膜貫通領域を含む膜貫通ドメイン;及び
(c)NK細胞を活性化するシグナル伝達ドメインを含むエンドドメイン
を含み、
前記エンドドメインは、
(i)2B4(CD244)細胞内ドメイン(ICD);
(ii)41BB(CD137)ICD;
(iii)DAP12 ICD;
(iv)2B4 ICD及び41BB ICD;
(v)IL21R ICD;又は
(vi)41BB ICD及び2B4 ICD
の少なくとも一部を含む、上記ポリヌクレオチド。
【請求項13】
抗原認識領域が、疾患に関連する抗原に特異的に結合する、請求項12に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
抗原認識領域が腫瘍抗原に特異的に結合する、請求項12に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
エクトドメインが、シグナルペプチド又はリーダー配列をさらに含む、請求項12~14のいずれか1項に記載のポリヌクレオチ
【請求項16】
エクトドメインがスペーサーをさらに含む、請求項12~15のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
エンドドメインが、CD3ζシグナル伝達ドメインの少なくとも一部をさらに含む、請求項12~16のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2015年1月29日に出願された米国仮特許出願第62/109,281号に対する優先権を主張する。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、一態様において、ナチュラルキラー(NK)細胞における発現のためのキメラ抗原受容体を記載する。一般に、キメラ抗原受容体は、抗原認識領域、エクトドメインに連結された膜貫通ドメイン、及び膜貫通ドメインに連結されたエンドドメインを含むエクトドメインを含む。エンドドメインは、NK細胞を活性化するシグナル伝達ペプチドを含むことができる。
【0003】
いくつかの実施形態では、抗原認識ドメインは、疾患に関連する抗原に特異的に結合することができる。
【0004】
いくつかの実施形態では、抗原認識ドメインは、腫瘍抗原に特異的に結合することができる。
【0005】
いくつかの実施形態において、エクトドメインは、シグナルペプチド又はリーダー配列及び/又はスペーサーをさらに含み得る。
【0006】
いくつかの実施形態では、エンドドメインは、NK細胞膜結合シグナル伝達アダプタータンパク質のシグナル伝達ドメイン、例えば、2B4、DAP10、DAP12、IL21R、CD137(41BB)又はCD3ζなどを含むことができる。
【0007】
いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、NK細胞で発現される天然の細胞傷害性受容体の膜貫通領域、例えば、CD16、NKp44、NKp46、又はNKG2Dなどを含むことができる。
【0008】
別の態様では、本開示は、上記で要約したキメラ抗原受容体の任意の実施形態を発現するように修飾されたNK細胞(及び/又はiPSC)を含む医薬組成物を記載する。
【0009】
別の態様において、本開示は、ある状態を有する対象に免疫療法を提供する方法を記載する。一般に、該方法は、キメラ抗原受容体の抗原認識領域が、該状態と関連した抗原に特異的に結合する、上記に要約した治療用組成物を対象に投与することを含む。
【0010】
上記の要約は、本発明の各開示された実施形態又はすべての実施形態を説明することを意図するものではない。以下の説明は、例示的な実施形態をより具体的に例示する。本出願全体のいくつかの場所では、様々な組み合わせで使用することができる例のリストによってガイダンスが提供される。それぞれの例において、列挙されたリストは代表的なグループとしてのみ機能し、排他的なリストとして解釈すべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(A)例示的な天然の細胞傷害性受容体、並びにNK細胞脱顆粒化及び極性化及び標的細胞殺傷に対するそれらのリガンドとの結合効果。(B)天然の細胞傷害性受容体及びそれらに対応するシグナル伝達アダプターの代表例。(C)iPSC由来NK細胞に使用される第3世代のキメラT細胞抗原受容体構築物。
図2】(A)NKを活性化するCARの一般化した模式図。(B)新規キメラ抗原受容体構築体の概略図。キメラ抗原受容体は、SB100Xトランスポゼース、mCAGプロモーター、キメラ抗原受容体(CAR)配列、内部リボソーム進入部位(IRES)、及びGFP:Zeo選択マーカーとともに使用するためのIR/DRを含むpkt2ベクターにクローニングされた。キメラ抗原受容体断片は、UniProtから得られ、gBlock合成及び従来の制限酵素クローニング(IDT)によって組み立てられた。
図3】NK92及びiPS細胞におけるキメラ抗原受容体の表面発現。NK92細胞又はiPS細胞は、SB100Xを用いたSleeping Beautyトランスポゾンシステムによりトランスフェクトされた。次に、ゼオシンを用いて細胞を選択し、フローサイトメトリーを実施して、様々なキメラ抗原受容体の細胞表面発現を評価した。発現は、マウスIgG F(ab’)2断片(Jackson ImmunoResearch Laboratories、Inc.、West Grove、PA、カタログ番号115-065-072)を認識するビオチン結合したポリクローナルヤギ抗マウス抗体を用いて評価された。結合した抗体は、蛍光色素にコンジュゲートしたストレプトアビジンを用いて検出された。
図4】NK92細胞におけるCD107A放出及びIFN-γ産生。NK92細胞脱顆粒化及びサイトカイン産生をフローサイトメトリーによって評価した。NK92細胞は、メソテリン陰性(MA148)、メソテリン陽性(A1847)卵巣癌標的細胞、又はメソテリン/Fcキメラタンパク質とコンジュゲートした又はコンジュゲートしていないProtein Aビーズと1:1で混合した。細胞をCD107aについて染色し、IFN-γ産生のために細胞内染色を行った。
図5】NK92細胞を用いたCr-51放出アッセイ。NK92、NK92/28/41BB/CD3、又はNK92/CAR4細胞は、示された比でK562、K562メソセリン+、MA148又はA1847細胞とともに4時間インキュベートされた。次に、Cr-51放出を検出して細胞殺傷を評価した。この実験は、iPSC由来のNK細胞をhESC由来のNK細胞の代わりに使用したことを除いて、Wollら、2009、Blood 113(24):6094-6101に示されるように行われた。
図6】例示的なさらなるNKを活性化するキメラ抗原レセプター。
図7】第3世代のT細胞CARと、図2に反映された例示的なNK CAR構築物とを比較する概略図。
図8】例示的なNK CAR構築物の概略図。
図9】例示的なNK CAR構築物の概略図。
図10】K562細胞に対するNK CARの細胞殺傷性を示すデータ。
図11】2つの卵巣癌細胞株に対するNK CARの細胞殺傷性を示すデータ。
図12】誘導された多能性幹細胞による例示的なNK CARの発現を示すデータ。
図13A】発現するiPSC由来NK細胞による例示的なCARの表面発現を示すデータ。
図13B】発現するiPSC由来NK細胞による例示的なCARの表面発現を示すデータ。
図14】例示的な一般化されたNK CARベクター構築物。
図15】例示的な一般化されたNK CARベクター構築物。タンデムcHS4インシュレータは、CARベクターのサイレンシングを阻害することができ、したがって、NK細胞及びiPSCにおけるCARの発現を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、NK細胞活性化ドメインを特異的に組み込むように設計されたキメラ抗原受容体を記載する。キメラ抗原受容体は、例えば、2B4(CD244)、CD137(41BB)、IL21、DAP10、DAP12及び/又はCD3ζ由来の共活性化ドメイン又はシグナル伝達ドメインに連結された、CD16、NKp44、NKp46及び/又はNKG2D由来の細胞内及び/又は膜貫通領域などの細胞内及び/又は膜貫通領域を組み込むことができる。
【0013】
キメラ抗原受容体(CAR)は、CARを発現する免疫細胞に遺伝子操作された特異性を提供し得る遺伝子操作された人工受容体である。一般に、免疫細胞集団は、特定の形態の癌を有する対象から採取することができる。採取された免疫細胞は、腫瘍細胞によって発現された抗原に特異的に結合し、次に対象に再導入されるキメラ抗原受容体を発現するように修飾することができる。キメラ抗原受容体を発現する修飾された免疫細胞は、キメラ抗原受容体によって特異的に認識される抗原(単数又は複数)を発現する腫瘍細胞をよりよく認識して殺傷することができる。
【0014】
キメラ抗原受容体は、難治性ALL(標的CD19)、膵臓癌(標的メソセリン)、及び他の悪性腫瘍の治療のためにT細胞を活性化するように設計されている。いくつかのキメラ抗原受容体構築物が存在するが、ほとんどがT細胞を活性化するように設計されている。
【0015】
対照的に、本明細書中に記載されるキメラ抗原受容体は、誘導された多能性幹細胞(iPSC)において発現されるように設計され、次に、これをNK細胞に分化させることができる。これらはまた、末梢血(PB)-NK細胞、NK-92細胞、又は別の適切なNK細胞株に直接的に発現され得る。NK-92細胞又は他のNK細胞株は、抗癌療法の臨床研究で使用されている。次に、キメラ抗原受容体を発現するNK細胞は、複数の癌を治療するための免疫療法として使用することができる。本明細書中に記載されるキメラ抗原受容体は、様々な標的抗体の抗原認識部分とともに使用され得るシグナル伝達ドメインを含み得る。具体的には、本開示は、卵巣癌を治療するためのメソセリン標的化キメラ抗原受容体を反映する例示的な実施形態を記載する。しかしながら、メソテリンは多くの腺癌で発現するため、記載された実施形態は、より広い有用性を有することができる。さらに、記載されたメソセリン標的ドメインは単なる例示であり、本質的に任意の悪性腫瘍を標的とするために、他の一本鎖可変断片(scFV)をNK特異的キメラ抗原受容体(NK-CAR)シグナル伝達構築物に遺伝子操作することができる。
【0016】
本明細書に記載されるNK細胞キメラ抗原受容体の1つの特徴は、天然の細胞殺傷性受容体がシグナル伝達を開始するために必要とするアダプター分子/アクセサリータンパク質をバイパスすることができることである。あるいは又はさらに、典型的にはアダプター分子/アクセサリータンパク質と会合する受容体の膜貫通ドメインを含むことにより、アクセサリータンパク質も同様に結合することができ、シグナル伝達が開始される可能性が高くなる。例えば、CD3ζを含むように設計されたNK細胞キメラ抗原受容体は、他の天然の細胞殺傷性受容体をバイパスすることができる。膜貫通ドメイン及び他の細胞内ドメインを組み込むことにより、これらのNK細胞キメラ抗原受容体はアダプタータンパク質と会合し、複数の経路の活性化を介してCD3ζ単独よりも改善されたシグナル伝達を提供することができる。
【0017】
いくつかのT細胞キメラ抗原受容体構築物は、共有されるシグナル伝達ドメインのために、ある程度までNK細胞を活性化することができるが、本明細書に記載されるキメラ抗原受容体は、NK細胞を活性化するように特異的に設計される。NK細胞を特異的に活性化するように設計されたキメラ抗原受容体は、例えば、難治性腫瘍の細胞媒介性殺傷などのNK細胞免疫療法におけるNK機能及び受容体の有用性を改善することができる。
【0018】
キメラ抗原受容体は、典型的には、エクトドメイン、膜貫通ドメイン及びエンドドメインを含む。エンドドメインは、典型的には、細胞の細胞質に存在する。抗原がエクトドメインによって認識されると、エンドドメインは、NK細胞を誘導して標的腫瘍細胞を破壊させるように活性化シグナルをNK細胞に伝達する。例示的なシグナル伝達エンドドメインには、膜結合シグナル伝達アダプタータンパク質のシグナル伝達ドメイン、例えば、2B4(CD244)、CD137(41BB)、IL21、DAP10、DAP12及び/又はCD3ζを含み、又はその一部、例えば、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)、YxxMモチーフ、TxYxx V/Iモチーフ、FcRγ、NKp80(非定型hemi-ITAMによるシグナル伝達)、及び/又はDNAMを含む。
【0019】
膜貫通ドメインは原形質膜を横断し、そして、エンドドメインをエクトドメインに連結する。例示的な膜貫通ドメインには、例えば、天然細胞殺傷性受容体(NCR)の細胞内及び/又は膜貫通ドメイン、例えば、CD16、NKp44、NKp46、NKG2D、NKp30、NKp80、及び/又はDNAM-1を含み、又はその一部、例えば、1つ以上の荷電アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、荷電アミノ酸は、リジン及び/又はアルギニン残基であり得る。いくつかの場合において、膜貫通領域は、膜貫通タンパク質からのものであってもよく、これは天然では細胞外N末端よりもむしろ細胞外C末端を有することを意味する。そのような場合において、膜貫通領域の向きを逆転させることができ、例えば、図6において「Rev TM」として示され、それにより、キメラ抗原受容体がNK細胞膜中で適切に配向される。
【0020】
エクトドメインは、一般に、シグナルペプチド及び抗原認識領域を含む。多くの実施形態において、エクトドメインはスペーサーを含むこともできる。シグナルペプチドは、新生ポリペプチドを小胞体に向けることにより、適切にグリコシル化され、細胞膜に固定され得る。一般に、タンパク質を小胞体に向ける限り、任意の真核生物シグナルペプチドを使用することができる。1つの例示的なシグナルペプチドは、CD8αリーダー配列を含むが、他のシグナルペプチド配列も適切であり得る。スペーサーは、存在する場合、抗原認識ドメインを膜貫通ドメインに連結する。スペーサーは、典型的には、抗原認識領域が異なる方向に自由に配向し、それによって抗原認識領域が抗原標的に結合することができるように柔軟性を提供する。1つの例示的なスペーサーは、CD8αヒンジ配列を含むが、他のIgヒンジ領域が適切であり得る。抗原認識領域は、指定された標的に特異的に結合することができる任意のペプチド配列を含むことができる。本明細書中で使用される場合、「特異的に結合する」及びそれらの変形は、特定の標的に対して、ある程度の差異又は非全般的な親和性を有することをいう。したがって、抗原認識領域は、例えば、腫瘍抗原、ウイルス抗原、修飾された自己抗原などの特定の抗原に特異的に結合するscFv又はFabなどの抗体の断片を含むことができる。いくつかの実施形態では、scFvは、モノクローナル抗体由来であり得る。キメラ抗原レセプターは、任意の指定された標的に特異的に結合することができる抗原認識領域を含むように設計することができる。このように、図2図6図7、及び図8は、メソテリンに特異的に結合するように設計された実施形態を示すが、NKを活性化するキメラ抗原レセプターは、例えば、腫瘍形成性又はウイルス感染細胞を含むNK細胞媒介性殺傷の標的となることが意図される細胞に関連する任意の抗原に特異的に結合し、したがって標的化するように設計することができる。例えば、NK細胞及び/又はCARは、限定されないが、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、B型肝炎、C型肝炎、CMV(サイトメガロウイルス)、EBV(エプスタイン-バールウイルス)、HPV(ヒトパピローマウイルス)などの多様な固形腫瘍及びウイルス感染細胞に対して活性を示した。
【0021】
したがって、例えば、メソテリンを発現する細胞(例えば、卵巣癌、膵臓癌、肺癌、結腸腺癌、中皮腫及びメソテリンを発現する他の腺癌)を含む腫瘍に対するNK細胞の細胞殺傷性をより良好に媒介するためには、図2図6図7及び図8に示されるものなどのキメラ抗原受容体を設計し、NK細胞に発現させてもよい。示されているキメラ抗原受容体構築物は、NK細胞特異的な膜貫通ドメイン及び活性化ドメインを含み、NK細胞腫瘍株であるNK92に発現させることができた。膜貫通領域及び細胞内領域は、CD16、NKp44、NKp46及び/又はNKG2Dから取り出したが、2B4、DAP10、DAP12及び/又はCD3ζの活性化ドメインは、NK細胞を最大限に活性化することが意図されるように組み合わせられた。図3は、NK92及びiPS細胞が図2に示されるキメラ抗原受容体を発現したことを示す。
【0022】
キメラ抗原受容体の機能を評価するために、キメラ抗原受容体を発現するNK細胞は、抗原被覆ビーズ及びメソテリン発現細胞系に対して試験された。図4は、図2のキメラ抗原受容体が、キメラ抗原受容体を発現するNK細胞がメソテリン陽性標的と混合された場合、NK細胞の脱顆粒化及びサイトカイン産生を増強した。
【0023】
図5は、本明細書に記載されるNK特異的キメラ抗原受容体を発現するNK92細胞が、第3世代のT細胞特異的キメラ抗原受容体(NK92/28/41BB/CD3ζ)又はトランスフェクトされていないNK92細胞と比較して、メソテリン陽性標的細胞のインビトロでの殺傷を改善したことを示す。
【0024】
図9は、K562細胞(左上のパネル)及びCARの標的であるメソテリンを発現するK562細胞(右上のパネル)に対する例示的なNK CARの細胞殺傷性を示す。これらの結果は、メソテリン特異的な様式で顕著に改善された殺傷を示し、特にCAR7及びCAR9について顕著である。下段パネルは、溶解単位で表された結果の要約である(Bryantら、1992、J Immunol Methods 146(1):91-103)。CAR 7及びCAR 9は、以前の研究で使用された第3世代のT細胞CAR(NK92 meso 3rd)よりも顕著に高い細胞殺傷性を示す。細胞毒性は、以前に記載されたようなCr-51放出アッセイ(Knorrら、2013、Stem Cells Transl Med 2(4):274-283;Wollら、2009、Blood 113(24):3094-6101 ;Wollら、2005、J Immunol 175(8):5095-5103)を用いて測定された。図10は、メソ高(A1497)及びメソ低(MA148)である2つの卵巣癌細胞株を用いた同様の結果を示す。異なるNK細胞ベースの抗メソCARを有するNK92細胞は、メソ特異的様式で殺傷する。底面パネルは、溶菌単位で表される要約を反映する。さらに、NK CARは、図9及び図10のように標的で刺激した場合、CD107a及び/又はIFN-γの発現増加を媒介する(データ示さず)。
【0025】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるNK特異的キメラ抗原受容体をiPSCで発現させることができ、次に、これをNK細胞に分化させることができる。iPSCは、Knorrら、2013、Stem Cells Transl Med.2(4):274-283、又はNiら、2014、Stem Cells 32(4):1021-1031に記載されるように分化され得る。図11は、CD45+CD56+細胞の産生により示されるように、誘導された多能性幹細胞(iPSC)による例示的なNK CARの発現を示す(上段、第5パネル)。図12は、iPSC由来NK細胞によるCAR表面発現を示す。図12の下3行は、CARを発現していないPB-NK細胞及びiPSC-NK細胞(未修飾対照細胞、第4欄、4行目及び5行目)と比較して、iPSC-CAR4v2(第4欄、下3行)の表面にのみCAR発現を示す。図11及び図12の他のパネルは、iPSC-CAR4v2上の他の典型的なNK細胞表面抗原/受容体が未修飾の対照細胞上に見られるものと類似していることを示す。これらの結果は、iPSC由来のNK細胞が、図9及び図10のメソテリン標的化CAR発現NK細胞と同じ標的特異的細胞殺傷性を示し得ることを指示する。
【0026】
NK CAR構築物をコードするポリヌクレオチドは、従来のトランスフェクション法を用いてNK細胞又はiPSCに導入することができる。したがって、CARをコードするポリヌクレオチドがSleeping Beautyトランスポゾンシステムを用いて細胞にトランスフェクトされる例示的な実施形態の文脈において本明細書に開示されているが、NK細胞(及び/又はiPSC)は、任意の適切なトランスフェクション方法を用いて修飾され得る。図14は、キメラ抗原受容体を発現するためにNK細胞(及び/又はiPSC)を修飾するために使用され得る例示的なベクター構築物を示す。図15は、CARベクターのサイレンシングを阻害することができ、したがって、NK細胞及びiPSCにおけるCARの発現を改善することができるタンデムcHS4インシュレータ(Akerら、2007、Hum Gene Ther 18(4):333-343)をさらに含む例示的なベクターの構築を示す。
【0027】
本明細書に記載されるキメラ抗原受容体を発現するように修飾されたNK細胞及び/又はiPSCは、NK細胞傷害性の標的であり得る細胞によって少なくとも部分的に特徴付けられる状態を有する対象への送達のための「担体」とともに医薬組成物に製剤化され得る。本明細書で使用するとき、「担体」は、任意の溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗菌剤及び/又は抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁液、コロイドなどを含む。医薬活性物質のためのそのような媒体及び/又は薬剤の使用は、当該技術分野において周知である。任意の従来の媒体又は薬剤が活性成分と適合しない場合を除いて、治療組成物におけるその使用が意図される。補助活性成分もまた組成物に組み込むことができる。
【0028】
「医薬として許容される」とは、生物学的又はその他の点で望ましくないものではない物質を意味する。すなわち、それらの物質は、望ましくない生物学的効果を引き起こすことなしに、又はそれが含有されている医薬組成物の他の成分のいずれかと有害なやり方で相互作用することなしに、キメラ抗原受容体を発現するように修飾されたNK細胞(及び/又はiPSC)とともに個体に投与され得る。
【0029】
医薬組成物は、好ましい投与経路に適合した様々な形態で製剤化することができる。したがって、組成物は、例えば、非経口(例えば、皮内、経皮、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内など)又は局所(例えば、気管内、肺内など)を介して投与することができる。組成物はまた、持続放出又は遅延放出を介して投与することもできる。
【0030】
製剤は、単位投薬形態で好都合に提供されてもよく、薬学の分野で周知の方法によって調製されてもよい。医薬として許容される担体を有する組成物を調製する方法には、キメラ抗原受容体を発現するように修飾されたNK細胞(及び/又はiPSC)を、1つ以上の補助成分を構成する担体と会合させる工程が含まれる。一般に、処方物は、NK細胞(及び/又はiPSC)を、例えば、液体担体と会合させるために、均一及び/又は密接に(intimately)もたらすことによって調製され得る。
【0031】
キメラ抗原受容体を発現するように修飾されたNK細胞(及び/又はiPSC)を含む医薬組成物は、限定されないが、溶液、懸濁液、エマルジョン、スプレー、エアロゾル又は任意の混合形態などの任意の適切な形態で提供され得る。組成物は、医薬として許容される任意の賦形剤、担体又はビヒクルをとともに製剤で送達することができる。
【0032】
対象に投与されるキメラ抗原受容体を発現するように修飾されたNK細胞(及び/又はiPSC)の量は、限定されないが、対象の体重、身体状態及び/又は年齢、1つ以上のキメラ抗原受容体が投与されているかどうか、及び/又は投与経路などの様々な因子に依存して変化し得る。したがって、所与の単位剤形に含まれるNK細胞(及び/又はiPSC)の絶対量は、広範に変化し得て、対象の種、年齢、体重及び身体的状態ならびに投与法などの因子に依存する。したがって、可能な適用の各々及び/又はすべてに有効なキメラ抗原受容体を発現するように修飾された一定量のNK細胞(及び/又はiPSC)を構成する量を一般的に示すことは現実的ではない。しかしながら、当業者は、このような因子を考慮して適切な量を容易に決定することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、この方法は、キメラ抗原受容体を発現するように修飾された十分な数のNK細胞(及び/又はiPSC)に、例えば約105細胞/kg~約1010細胞/kgの投薬量を対象に与えるように投与することを含み得るが、いくつかの実施形態では、該方法は、この範囲外の投薬量で一定量のNK細胞(及び/又はiPSC)を投与することによって実施することができる。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、この方法は、キメラ抗原受容体を発現するように修飾された十分なNK細胞(及び/又はiPSC)に、対象に約107細胞/kg~約108細胞/kgの用量、約1×107細胞/kg~約8×107細胞/kgの用量を与えるように投与することを含む。
【0034】
あるいは、投薬量は、治療経過の開始直前に得られた実際の体重を用いて計算することができる。このようにして計算された投薬量について、体表面積(m2)は、デュボア法を用いて処理経過の開始前に計算される:m2=(重量kg0.425×身長cm0.725)×0.007184。
【0035】
いくつかの実施形態では、キメラ抗原受容体を発現するように修飾されたNK細胞(及び/又はiPSC)を含む医薬組成物は、例えば、一回用量から一週間に複数回用量で投与され得るが、いくつかの実施態様において、この方法は、この範囲外の頻度で医薬組成物を投与することによって実施することができる。特定の実施形態では、医薬組成物は、月に約1回~週に約5回投与され得る。
【0036】
一般に、医薬組成物は、任意の程度に、状態の症状又は臨床的徴候を軽減し、進行を制限し、改善(ameliorate)又は解決するのに有効な量及び投与レジメンで対象に投与される。本明細書で使用される場合、「改善する(ameliorate)」とは、特定の状態に特徴的な症状又は臨床的徴候の程度、重症度、頻度及び/又は可能性の任意の減少を指す。「症状」は、疾患又は患者の状態の任意の主観的証拠を指す。「徴候」又は「臨床的徴候」は、患者以外の者が見つけることができる特定の状態に関する客観的な身体所見を指す。
【0037】
前述の説明では、明確にするために、特定の実施形態を単独で説明することができる。特定の実施形態の特徴が別の実施形態の特徴と互換性がないことが特に明記されていない限り、特定の実施形態は、1つ以上の実施形態に関連して本明細書で説明される互換性のある特徴の組み合わせを含むことができる。
【0038】
離散的なステップを含む本明細書に開示されている任意の方法について、ステップは任意の実行可能な順序で実行されてもよい。そして、必要に応じて、2つ以上のステップの任意の組み合わせを同時に行うことができる。
【0039】
本発明は、上記の例示的な実施形態によって説明される。特定の例、材料、量及び手順は、本明細書に記載された本発明の範囲及び精神に従って広く解釈されるべきであることを理解されたい。
【0040】
本明細書で使用される場合、「及び/又は」という用語は、列挙された要素の1つ若しくは全て、又は列挙された要素の任意の2つ以上の組み合わせを意味する。用語「含む」及びその変形は、これらの用語が明細書及び特許請求の範囲に現れる場合に限定的な意味を有さない。「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」、及び「少なくとも1つ」は、交換可能に使用され、1つ又は複数を意味する。端点による数値範囲の列挙は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0041】
全ての特許、特許出願、及び刊行物、ならびに電子的に入手可能な書面(例えば、GenBank及びRefSeqにおけるヌクレオチド配列の提出、及び例えばSwissProt、PIR、PRF、PDBにおけるアミノ酸配列の提出を含む)、ならびにGenBank及びRefSeqにおける注釈付きコード領域からの翻訳)は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本出願の開示と、参照により本明細書に組み込まれるあらゆる文献の開示との間に矛盾が存在する場合、本出願の開示が適用される。前述の詳細な説明及び実施例は、理解を明確にするためにのみ示したものである。そこから不必要な制限が理解されるべきではない。本発明は、示され説明された正確な詳細に限定されず、当業者に自明の変形が特許請求の範囲によって定義される本発明に含まれる。
【0042】
他に示さない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される成分の量、分子量などを表す全ての数字は、すべての場合において用語「約」によって修飾されると理解されるべきである。したがって、他に反対に示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、本発明によって得られることが求められる所望の特性に依存して変化し得る近似値である。非常に少なくとも、特許請求の範囲に同等物の教義を限定しようとするものではなく、各数値パラメータは少なくとも報告された有効数字の数と通常の丸め技術を適用して解釈されるべきである。
【0043】
本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータが近似値であるにもかかわらず、特定の実施例に示される数値は可能な限り正確に記載される。しかしながら、すべての数値は、それぞれの試験測定値に見られる標準偏差から必然的に生じる範囲を本質的に含む。
【0044】
すべての見出しは読者の便宜のためであり、指定されていない限り、見出しに続くテキストの意味を限定するために使用されるべきではない。
図1
図2
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