(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-14
(45)【発行日】2023-02-22
(54)【発明の名称】作業機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/22 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
E02F9/22 C
(21)【出願番号】P 2019059335
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】502246528
【氏名又は名称】住友建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】湯澤 良充
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-173302(JP,A)
【文献】特許第5909029(JP,B1)
【文献】特開2000-008423(JP,A)
【文献】特開2011-202478(JP,A)
【文献】特許第3730801(JP,B2)
【文献】特開平10-037905(JP,A)
【文献】特開2012-172382(JP,A)
【文献】特開平09-273502(JP,A)
【文献】特開2014-211075(JP,A)
【文献】特許第5872363(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、
前記下部走行体に旋回可能に搭載された上部旋回体と、
前記上部旋回体に設けられた運転室と、
前記上部旋回体を旋回させる旋回アクチュエータと、
前記上部旋回体に搭載された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記旋回アクチュエータに関する操作装置の操作量が同じであっても、旋回方向における前記運転室の揺れを検出しているときと検出していないときとで、前記旋回アクチュエータに関する操作装置が生成するパイロット圧、前記旋回アクチュエータとしての旋回油圧モータを駆動する油圧ポンプの押し退け容積、又は、前記旋回アクチュエータとしての旋回電動発電機に供給される電気エネル
ギが異なるように制御することで、前記
運転室の揺れを抑制する、
作業機械。
【請求項2】
前記制御装置は、前記パイロット圧を検出する操作圧センサの出力に基づき、旋回方向における前記運転室の揺れを検出する、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項3】
前記制御装置は、前記上部旋回体又は前記運転室に取り付けられた慣性計測装置の出力に基づき、旋回方向における前記運転室の揺れを検出する、
請求項1に記載の作業機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記パイロット圧の変化を相殺するように、前記パイロット圧、前記押し退け容積、又は、前記電気エネルギを制御する、
請求項1乃至3の何れかに記載の作業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転室内に設置された運転席に着座する操作者による旋回レバーに対する操作の乱れに起因する上部旋回体の不安定な動きの発生を抑制するショベルが知られている(特許文献1参照。)。
【0003】
旋回レバーに対する操作の乱れは、典型的には、上部旋回体の旋回中に旋回速度が急変したときに発生する。例えば、上部旋回体の右旋回中に操作者が旋回レバーを左方向に倒したために旋回速度が急減すると、操作者は、身体全体が慣性によって旋回方向(右方向)に移動し続けようとするため、意図せずに旋回レバーを右方向に倒してしまう。この場合、急減中であった旋回速度は逆に急増し、操作者は、今度は身体全体が慣性によってその場に留まろうとするため、意図せずに旋回レバーを左方向に倒してしまう。その後も、操作者は、このような旋回レバーの右方向への傾倒と左方向への傾倒とを意図せずに繰り返してしまう。その結果、操作者は、所望の旋回速度を挟んで実際の旋回速度が上下する現象(旋回速度のハンチング)によってもたらされる上部旋回体の不安定な動きを発生させてしまう場合がある。
【0004】
特許文献1に開示されているショベルは、このような不安定な動きの発生を抑制するために、旋回用油圧モータの吐出側の作動油の圧力を調節するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、旋回用油圧モータの吐出側の作動油の圧力の調節は、上部旋回体の旋回の制動力に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0007】
そこで、操作レバーに対する操作の乱れに起因する上部旋回体の不安定な動きの発生をより適切に抑制できる作業機械を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る作業機械は、下部走行体と、前記下部走行体に旋回可能に搭載された上部旋回体と、前記上部旋回体に設けられた運転室と、前記上部旋回体を旋回させる旋回アクチュエータと、前記上部旋回体に搭載された制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記旋回アクチュエータに関する操作装置の操作量が同じであっても、旋回方向における前記運転室の揺れを検出しているときと検出していないときとで、前記旋回アクチュエータに関する操作装置が生成するパイロット圧、前記旋回アクチュエータとしての旋回油圧モータを駆動する油圧ポンプの押し退け容積、又は、前記旋回アクチュエータとしての旋回電動発電機に供給される電気エネルギが異なるように制御することで、前記運転室の揺れを抑制する。
【発明の効果】
【0009】
上述の作業機械は、操作レバーに対する操作の乱れに起因する上部旋回体の不安定な動きの発生をより適切に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係るショベルの側面図である。
【
図3】
図1のショベルに搭載される基本システムの構成例を示す図である。
【
図5】ハンチング抑制処理の一例のフローチャートである。
【
図6】パイロット圧、旋回加速度及び旋回油圧モータ流入量の時間的推移の一例を示す図である。
【
図7】パイロット圧及び旋回油圧モータ流入量の時間的推移の一例を示す図である。
【
図8】旋回加速度及び旋回油圧モータ流入量の時間的推移の一例を示す図である。
【
図9】パイロット圧、旋回加速度及び旋回油圧モータ流入量の時間的推移の別の一例を示す図である。
【
図10】パイロット回路の別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
最初に、
図1及び
図2を参照し、本発明の実施形態に係る作業機械としてのショベル100について説明する。
図1は、掘削機としてのショベル100の側面図であり、
図2はショベル100の上面図である。
【0012】
本実施形態では、ショベル100の下部走行体1はクローラ1Cを含む。クローラ1Cは、下部走行体1に搭載されている走行アクチュエータとしての走行油圧モータ2Mによって駆動される。具体的には、クローラ1Cは左クローラ1CL及び右クローラ1CRを含む。走行油圧モータ2Mは、左走行油圧モータ2ML及び右走行油圧モータ2MRを含む。左クローラ1CLは左走行油圧モータ2MLによって駆動され、右クローラ1CRは右走行油圧モータ2MRによって駆動される。但し、走行アクチュエータは、電動アクチュエータとしての走行電動発電機であってもよい。
【0013】
下部走行体1には旋回機構2を介して上部旋回体3が旋回可能に搭載されている。旋回機構2は、上部旋回体3に搭載されている旋回アクチュエータとしての旋回油圧モータ2Aによって駆動される。但し、旋回アクチュエータは、電動アクチュエータとしての旋回電動発電機であってもよい。
【0014】
上部旋回体3にはブーム4が取り付けられている。ブーム4の先端にはアーム5が取り付けられている。アーム5の先端にはエンドアタッチメントとしてのバケット6が取り付けられている。バケット6は、着脱可能に構成され、必要に応じてグラップル、ブレーカ、又はリフティングマグネット等と取り換えられる。ブーム4、アーム5、及びバケット6は、アタッチメントの一例である掘削アタッチメントATを構成している。ブーム4はブームシリンダ7で駆動され、アーム5はアームシリンダ8で駆動され、バケット6はバケットシリンダ9で駆動される。ブームシリンダ7、アームシリンダ8及びバケットシリンダ9は、アタッチメントアクチュエータを構成している。
【0015】
ブーム4は、上部旋回体3に対して上下に回動可能に支持されている。そして、ブーム4にはブーム角度センサS1が取り付けられている。ブーム角度センサS1は、ブーム4の回動角度であるブーム角度θ1を検出できる。ブーム角度θ1は、例えば、ブーム4を最も下降させた状態からの上昇角度である。この場合、ブーム角度θ1は、ブーム4を最も上昇させたときに最大となる。
【0016】
アーム5は、ブーム4に対して回動可能に支持されている。そして、アーム5にはアーム角度センサS2が取り付けられている。アーム角度センサS2は、アーム5の回動角度であるアーム角度θ2を検出できる。アーム角度θ2は、例えば、アーム5を最も閉じた状態からの開き角度である。この場合、アーム角度θ2は、アーム5を最も開いたときに最大となる。
【0017】
バケット6は、アーム5に対して回動可能に支持されている。そして、バケット6にはバケット角度センサS3が取り付けられている。バケット角度センサS3は、バケット6の回動角度であるバケット角度θ3を検出できる。バケット角度θ3は、バケット6を最も閉じた状態からの開き角度である。この場合、バケット角度θ3は、バケット6を最も開いたときに最大となる。
【0018】
図1の実施形態では、ブーム角度センサS1、アーム角度センサS2及びバケット角度センサS3のそれぞれは、加速度センサとジャイロセンサの組み合わせで構成されている。但し、加速度センサのみで構成されていてもよい。また、ブーム角度センサS1は、ブームシリンダ7に取り付けられたストロークセンサであってもよく、ロータリエンコーダ、ポテンショメータ又は慣性計測装置等であってもよい。アーム角度センサS2及びバケット角度センサS3についても同様である。
【0019】
上部旋回体3には、運転室としてのキャビン10が設けられ、且つ、エンジン11等の動力源が搭載されている。本実施形態では、キャビン10は、制振ダンパを介して上部旋回体3に取り付けられている。制振ダンパは、ゴムダンパであってもよく、シリコンオイル等が封入されたオイルダンパであってもよい。
【0020】
また、上部旋回体3には、空間認識装置70、向き検出装置71、測位装置73及び慣性計測装置50等が取り付けられている。本実施形態では、慣性計測装置50は、機体傾斜センサS4及び旋回角速度センサS5を含む慣性計測ユニット(Inertial Measurement Unit (IMU))である。慣性計測装置50は、加速度センサのみで構成されていてもよい。慣性計測装置50は、典型的には、キャビン10のフロアパネルの下側に取り付けられている。但し、慣性計測装置50は、操作装置26等、キャビン10の内側に設置されている他の部材に取り付けられていてもよく、キャビン10の外部にある旋回フレーム又はセンターフレーム(Aフレーム)等、上部旋回体3を構成する部材に取り付けられていてもよい。この場合、慣性計測装置50は、望ましくは、上部旋回体3の重心位置の近傍に取り付けられる。
【0021】
キャビン10の内部には、操作装置26、コントローラ30、情報入力装置72、表示装置D1及び音声出力装置D2等が設けられている。
【0022】
なお、本書では、便宜上、上部旋回体3における、掘削アタッチメントATが取り付けられている側を前方とし、カウンタウェイトが取り付けられている側を後方とする。
【0023】
空間認識装置70は、ショベル100の周囲の三次元空間に存在する物体を認識するように構成されている。また、空間認識装置70は、空間認識装置70又はショベル100から空間認識装置70によって認識された物体までの距離を算出するように構成されている。空間認識装置70は、例えば、超音波センサ、ミリ波レーダ、単眼カメラ、ステレオカメラ、LIDAR、距離画像センサ又は赤外線センサ等である。本実施形態では、空間認識装置70は、キャビン10の上面前端に取り付けられた前方センサ70F、上部旋回体3の上面後端に取り付けられた後方センサ70B、上部旋回体3の上面左端に取り付けられた左方センサ70L、及び、上部旋回体3の上面右端に取り付けられた右方センサ70Rを含む。上部旋回体3の上方の空間に存在する物体を認識する上方センサがショベル100に取り付けられていてもよい。
【0024】
向き検出装置71は、上部旋回体3の向きと下部走行体1の向きとの相対的な関係に関する情報を検出するように構成されている。向き検出装置71は、例えば、下部走行体1に取り付けられた地磁気センサと上部旋回体3に取り付けられた地磁気センサの組み合わせで構成されていてもよい。或いは、向き検出装置71は、下部走行体1に取り付けられたGNSS受信機と上部旋回体3に取り付けられたGNSS受信機の組み合わせで構成されていてもよい。向き検出装置71は、ロータリエンコーダ又はロータリポジションセンサ等であってもよい。旋回電動発電機で上部旋回体3が旋回駆動される構成では、向き検出装置71は、レゾルバで構成されていてもよい。向き検出装置71は、例えば、下部走行体1と上部旋回体3との間の相対回転を実現する旋回機構2に関連して設けられるセンタージョイントに取り付けられていてもよい。
【0025】
向き検出装置71は、上部旋回体3に取り付けられたカメラで構成されていてもよい。この場合、向き検出装置71は、上部旋回体3に取り付けられているカメラが撮像した画像(入力画像)に既知の画像処理を施して入力画像に含まれる下部走行体1の画像を検出する。そして、向き検出装置71は、既知の画像認識技術を用いて下部走行体1の画像を検出することで、下部走行体1の長手方向を特定する。また、向き検出装置71は、上部旋回体3の前後軸の方向と下部走行体1の長手方向との間に形成される角度を導き出す。上部旋回体3の前後軸の方向は、カメラの取り付け位置から導き出される。クローラ1Cは上部旋回体3から突出しているため、向き検出装置71は、クローラ1Cの画像を検出することで下部走行体1の長手方向を特定できる。向き検出装置71は、コントローラ30に統合されていてもよい。
【0026】
情報入力装置72は、ショベルの操作者がコントローラ30に対して情報を入力できるように構成されている。本実施形態では、情報入力装置72は、表示装置D1の表示部に近接して設置されるスイッチパネルである。但し、情報入力装置72は、表示装置D1の表示部の上に配置されるタッチパネルであってもよく、キャビン10内に配置されているマイクロフォン等の音声入力装置であってもよい。また、情報入力装置72は、通信装置であってもよい。この場合、操作者は、スマートフォン等の通信端末を介してコントローラ30に情報を入力できる。
【0027】
測位装置73は、現在位置を測定するように構成されている。本実施形態では、測位装置73は、GNSS受信機であり、上部旋回体3の位置を検出し、検出値をコントローラ30に対して出力する。測位装置73は、GNSSコンパスであってもよい。この場合、測位装置73は、上部旋回体3の位置及び向きを検出できる。
【0028】
機体傾斜センサS4は、所定の平面に対する上部旋回体3の傾斜を検出できるように構成されている。本実施形態では、機体傾斜センサS4は、水平面に関する上部旋回体3の前後軸回りの傾斜角(ロール角)及び左右軸回りの傾斜角(ピッチ角)を検出する加速度センサである。上部旋回体3の前後軸及び左右軸のそれぞれは、例えば、ショベル100の旋回軸上の一点であるショベル中心点を通り、且つ、互いに直交している。
【0029】
旋回角速度センサS5は、上部旋回体3の旋回角速度を検出できるように構成されている。本実施形態では、旋回角速度センサS5は、ジャイロセンサである。旋回角速度センサS5は、レゾルバ又はロータリエンコーダ等であってもよい。旋回角速度センサS5は、旋回速度を検出してもよい。旋回速度は、旋回角速度から算出されてもよい。
【0030】
以下では、ブーム角度センサS1、アーム角度センサS2、バケット角度センサS3、機体傾斜センサS4及び旋回角速度センサS5の少なくとも1つは、姿勢検出装置とも称される。掘削アタッチメントATの姿勢は、例えば、ブーム角度センサS1、アーム角度センサS2及びバケット角度センサS3のそれぞれの出力に基づいて検出される。
【0031】
表示装置D1は、情報を表示する装置である。本実施形態では、表示装置D1は、キャビン10内に設置された液晶ディスプレイである。但し、表示装置D1は、スマートフォン等の通信端末のディスプレイであってもよい。
【0032】
音声出力装置D2は、音声を出力する装置である。音声出力装置D2は、キャビン10内の操作者に向けて音声を出力する装置、及び、キャビン10外の作業者に向けて音声を出力する装置の少なくとも1つを含む。音声出力装置D2は、通信端末に付属しているスピーカであってもよい。
【0033】
コントローラ30は、ショベル100を制御するための制御装置である。本実施形態では、コントローラ30は、CPU、揮発性記憶装置及び不揮発性記憶装置等を備えたコンピュータで構成されている。そして、コントローラ30は、各機能に対応するプログラムを不揮発性記憶装置から読み出して揮発性記憶装置にロードし、対応する処理をCPUに実行させる。各機能は、例えば、操作者によるショベル100の手動操作をガイド(案内)するマシンガイダンス機能、及び、操作者によるショベル100の手動操作を支援したり或いはショベル100を自動的或いは自律的に動作させたりするマシンコントロール機能等を含む。
【0034】
次に、
図3を参照し、ショベル100に搭載される油圧システムの構成例について説明する。
図3は、ショベル100に搭載される油圧システムの構成例を示す図である。
図3は、機械的動力伝達系を二重線で示し、作動油ラインを実線で示し、パイロットラインを破線で示し、電気制御系を点線で示している。
【0035】
ショベル100の油圧システムは、主に、エンジン11、レギュレータ13、メインポンプ14、パイロットポンプ15、コントロールバルブ17、操作装置26、吐出圧センサ28、操作圧センサ29及びコントローラ30等を含む。
【0036】
図3において、油圧システムは、エンジン11によって駆動されるメインポンプ14から、センターバイパス管路40又はパラレル管路42を経て作動油タンクまで作動油を循環させることができるように構成されている。
【0037】
エンジン11は、ショベル100の駆動源である。本実施形態では、エンジン11は、例えば、所定の回転数を維持するように動作するディーゼルエンジンである。エンジン11の出力軸は、メインポンプ14及びパイロットポンプ15のそれぞれの入力軸に連結されている。
【0038】
メインポンプ14は、作動油ラインを介して作動油をコントロールバルブ17に供給できるように構成されている。本実施形態では、メインポンプ14は、斜板式可変容量型油圧ポンプである。
【0039】
レギュレータ13は、メインポンプ14の吐出量を制御できるように構成されている。本実施形態では、レギュレータ13は、コントローラ30からの制御指令に応じてメインポンプ14の斜板傾転角を調節することによってメインポンプ14の押し退け容積を制御する。
【0040】
パイロットポンプ15は、パイロットラインを介して操作装置26を含む油圧制御機器に作動油を供給できるように構成されている。本実施形態では、パイロットポンプ15は、固定容量型油圧ポンプである。但し、パイロットポンプ15は、省略されてもよい。この場合、パイロットポンプ15が担っていた機能は、メインポンプ14によって実現されてもよい。すなわち、メインポンプ14は、コントロールバルブ17に作動油を供給する機能とは別に、絞り等により作動油の圧力を低下させた後で操作装置26等に作動油を供給する機能を備えていてもよい。
【0041】
コントロールバルブ17は、ショベル100における油圧システムを制御する油圧制御装置である。本実施形態では、コントロールバルブ17は、制御弁171~176を含む。制御弁175は制御弁175L及び制御弁175Rを含み、制御弁176は制御弁176L及び制御弁176Rを含む。コントロールバルブ17は、制御弁171~176を通じ、メインポンプ14が吐出する作動油を1又は複数の油圧アクチュエータに選択的に供給できるように構成されている。制御弁171~176は、例えば、メインポンプ14から油圧アクチュエータに流れる作動油の流量、及び、油圧アクチュエータから作動油タンクに流れる作動油の流量を制御する。油圧アクチュエータは、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、左走行油圧モータ2ML、右走行油圧モータ2MR及び旋回油圧モータ2Aを含む。
【0042】
操作装置26は、操作者がアクチュエータの操作のために用いる装置である。操作装置26は、例えば、操作レバー及び操作ペダルを含む。アクチュエータは、油圧アクチュエータ及び電動アクチュエータの少なくとも1つを含む。本実施形態では、操作装置26は、パイロットラインを介して、パイロットポンプ15が吐出する作動油を、コントロールバルブ17内の対応する制御弁のパイロットポートに供給できるように構成されている。パイロットポートのそれぞれに供給される作動油の圧力(パイロット圧)は、油圧アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26の操作方向及び操作量に応じた圧力である。但し、操作装置26は、上述のようなパイロット圧式ではなく、電気制御式であってもよい。この場合、コントロールバルブ17内の制御弁は、電磁ソレノイド式スプール弁であってもよい。
【0043】
吐出圧センサ28は、メインポンプ14の吐出圧を検出できるように構成されている。本実施形態では、吐出圧センサ28は、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0044】
操作圧センサ29は、操作者による操作装置26の操作の内容を検出できるように構成されている。本実施形態では、操作圧センサ29は、アクチュエータのそれぞれに対応する操作装置26の操作方向及び操作量を圧力(操作圧)の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作装置26の操作の内容は、操作圧センサ以外の他のセンサを用いて検出されてもよい。
【0045】
メインポンプ14は、左メインポンプ14L及び右メインポンプ14Rを含む。そして、左メインポンプ14Lは、左センターバイパス管路40L又は左パラレル管路42Lを経て作動油タンクまで作動油を循環させ、右メインポンプ14Rは、右センターバイパス管路40R又は右パラレル管路42Rを経て作動油タンクまで作動油を循環させる。
【0046】
左センターバイパス管路40Lは、コントロールバルブ17内に配置された制御弁171、173、175L及び176Lを通る作動油ラインである。右センターバイパス管路40Rは、コントロールバルブ17内に配置された制御弁172、174、175R及び176Rを通る作動油ラインである。
【0047】
制御弁171は、左メインポンプ14Lが吐出する作動油を左走行油圧モータ2MLへ供給し、且つ、左走行油圧モータ2MLが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0048】
制御弁172は、右メインポンプ14Rが吐出する作動油を右走行油圧モータ2MRへ供給し、且つ、右走行油圧モータ2MRが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0049】
制御弁173は、左メインポンプ14Lが吐出する作動油を旋回油圧モータ2Aへ供給し、且つ、旋回油圧モータ2Aが吐出する作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0050】
制御弁174は、右メインポンプ14Rが吐出する作動油をバケットシリンダ9へ供給し、且つ、バケットシリンダ9内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0051】
制御弁175Lは、左メインポンプ14Lが吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。制御弁175Rは、右メインポンプ14Rが吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給し、且つ、ブームシリンダ7内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0052】
制御弁176Lは、左メインポンプ14Lが吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、且つ、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0053】
制御弁176Rは、右メインポンプ14Rが吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、且つ、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンクへ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
【0054】
左パラレル管路42Lは、左センターバイパス管路40Lに並行する作動油ラインである。左パラレル管路42Lは、制御弁171、173及び175Lの何れかによって左センターバイパス管路40Lを通る作動油の流れが制限或いは遮断された場合に、より下流の制御弁に作動油を供給できる。右パラレル管路42Rは、右センターバイパス管路40Rに並行する作動油ラインである。右パラレル管路42Rは、制御弁172、174及び175Rの何れかによって右センターバイパス管路40Rを通る作動油の流れが制限或いは遮断された場合に、より下流の制御弁に作動油を供給できる。
【0055】
レギュレータ13は、左レギュレータ13L及び右レギュレータ13Rを含む。左レギュレータ13Lは、左メインポンプ14Lの吐出圧に応じて左メインポンプ14Lの斜板傾転角を調節することによって、左メインポンプ14Lの押し退け容積を制御する。具体的には、左レギュレータ13Lは、例えば、左メインポンプ14Lの吐出圧の増大に応じて左メインポンプ14Lの斜板傾転角を調節して押し退け容積を減少させる。右レギュレータ13Rについても同様である。吐出圧と押し退け容積との積で表されるメインポンプ14の吸収パワー(吸収馬力)がエンジン11の出力パワー(出力馬力)を超えないようにするためである。
【0056】
操作装置26は、左操作レバー26L、右操作レバー26R及び走行レバー26Dを含む。走行レバー26Dは、左走行レバー26DL及び右走行レバー26DRを含む。
【0057】
左操作レバー26Lは、旋回操作とアーム5の操作に用いられる。左操作レバー26Lは、前後方向に操作されると、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じた制御圧を制御弁176のパイロットポートに導入させる。また、左操作レバー26Lは、左右方向に操作されると、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じた制御圧を制御弁173のパイロットポートに導入させる。
【0058】
具体的には、左操作レバー26Lは、アーム閉じ方向に操作された場合に、制御弁176Lの右側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁176Rの左側パイロットポートに作動油を導入させる。また、左操作レバー26Lは、アーム開き方向に操作された場合には、制御弁176Lの左側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁176Rの右側パイロットポートに作動油を導入させる。また、左操作レバー26Lは、左旋回方向に操作された場合に、制御弁173の左側パイロットポートに作動油を導入させ、右旋回方向に操作された場合に、制御弁173の右側パイロットポートに作動油を導入させる。
【0059】
右操作レバー26Rは、ブーム4の操作とバケット6の操作に用いられる。右操作レバー26Rは、前後方向に操作されると、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じた制御圧を制御弁175のパイロットポートに導入させる。また、右操作レバー26Rは、左右方向に操作されると、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じた制御圧を制御弁174のパイロットポートに導入させる。
【0060】
具体的には、右操作レバー26Rは、ブーム下げ方向に操作された場合に、制御弁175Rの左側パイロットポートに作動油を導入させる。また、右操作レバー26Rは、ブーム上げ方向に操作された場合には、制御弁175Lの右側パイロットポートに作動油を導入させ、且つ、制御弁175Rの左側パイロットポートに作動油を導入させる。また、右操作レバー26Rは、バケット閉じ方向に操作された場合に、制御弁174の右側パイロットポートに作動油を導入させ、バケット開き方向に操作された場合に、制御弁174の左側パイロットポートに作動油を導入させる。
【0061】
走行レバー26Dは、クローラ1Cの操作に用いられる。具体的には、左走行レバー26DLは、左クローラ1CLの操作に用いられる。走行レバー26Dは、左走行ペダルと連動するように構成されていてもよい。左走行レバー26DLは、前後方向に操作されると、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じた制御圧を制御弁171のパイロットポートに導入させる。右走行レバー26DRは、右クローラ1CRの操作に用いられる。右走行ペダルと連動するように構成されていてもよい。右走行レバー26DRは、前後方向に操作されると、パイロットポンプ15が吐出する作動油を利用し、レバー操作量に応じた制御圧を制御弁172のパイロットポートに導入させる。
【0062】
吐出圧センサ28は、吐出圧センサ28L及び吐出圧センサ28Rを含む。吐出圧センサ28Lは、左メインポンプ14Lの吐出圧を検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。吐出圧センサ28Rについても同様である。
【0063】
操作圧センサ29は、操作圧センサ29LA、29LB、29RA、29RB、29DL、29DRを含む。操作圧センサ29LAは、操作者による左操作レバー26Lに対する前後方向への操作の内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作の内容は、例えば、レバー操作方向及びレバー操作量(レバー操作角度)等である。
【0064】
同様に、操作圧センサ29LBは、操作者による左操作レバー26Lに対する左右方向への操作の内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作圧センサ29RAは、操作者による右操作レバー26Rに対する前後方向への操作の内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作圧センサ29RBは、操作者による右操作レバー26Rに対する左右方向への操作の内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作圧センサ29DLは、操作者による左走行レバー26DLに対する前後方向への操作の内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。操作圧センサ29DRは、操作者による右走行レバー26DRに対する前後方向への操作の内容を圧力の形で検出し、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
【0065】
コントローラ30は、操作圧センサ29の出力を受信し、必要に応じてレギュレータ13に対して制御指令を出力し、メインポンプ14の吐出量を変化させる。また、コントローラ30は、絞り18の上流に設けられた制御圧センサ19の出力を受信し、必要に応じてレギュレータ13に対して制御指令を出力し、メインポンプ14の吐出量を変化させる。絞り18は左絞り18L及び右絞り18Rを含み、制御圧センサ19は左制御圧センサ19L及び右制御圧センサ19Rを含む。
【0066】
左センターバイパス管路40Lには、最も下流にある制御弁176Lと作動油タンクとの間に左絞り18Lが配置されている。そのため、左メインポンプ14Lが吐出した作動油の流れは、左絞り18Lで制限される。そして、左絞り18Lは、左レギュレータ13Lを制御するための制御圧を発生させる。左制御圧センサ19Lは、この制御圧を検出するためのセンサであり、検出した値をコントローラ30に対して出力する。コントローラ30は、この制御圧に応じて左メインポンプ14Lの斜板傾転角を調節することによって、左メインポンプ14Lの吐出量を制御する。コントローラ30は、この制御圧が大きいほど左メインポンプ14Lの吐出量を減少させ、この制御圧が小さいほど左メインポンプ14Lの吐出量を増大させる。右メインポンプ14Rの吐出量も同様に制御される。
【0067】
具体的には、
図3で示されるようにショベル100における油圧アクチュエータが何れも操作されていない待機状態の場合、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、左センターバイパス管路40Lを通って左絞り18Lに至る。そして、左メインポンプ14Lが吐出する作動油の流れは、左絞り18Lの上流で発生する制御圧を増大させる。その結果、コントローラ30は、左メインポンプ14Lの吐出量を許容最小吐出量まで減少させ、吐出した作動油が左センターバイパス管路40Lを通過する際の圧力損失(ポンピングロス)を抑制する。一方、何れかの油圧アクチュエータが操作された場合、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、操作対象の油圧アクチュエータに対応する制御弁を介して、操作対象の油圧アクチュエータに流れ込む。そして、左メインポンプ14Lが吐出する作動油の流れは、左絞り18Lに至る量を減少或いは消失させ、左絞り18Lの上流で発生する制御圧を低下させる。その結果、コントローラ30は、左メインポンプ14Lの吐出量を増大させ、操作対象の油圧アクチュエータに十分な作動油を循環させ、操作対象の油圧アクチュエータの駆動を確かなものとする。なお、コントローラ30は、右メインポンプ14Rの吐出量も同様に制御する。
【0068】
上述のような構成により、
図3の油圧システムは、待機状態においては、メインポンプ14における無駄なエネルギ消費を抑制できる。無駄なエネルギ消費は、メインポンプ14が吐出する作動油がセンターバイパス管路40で発生させるポンピングロスを含む。また、
図3の油圧システムは、油圧アクチュエータを作動させる場合には、メインポンプ14から必要十分な作動油を作動対象の油圧アクチュエータに確実に供給できる。
【0069】
次に、
図4を参照し、操作装置26が生成するパイロット圧を制御弁のパイロットポートに伝えるためのパイロット回路の構成例について説明する。
図4は、パイロット回路の構成例を示す図である。具体的には、
図4は、左操作レバー26Lが生成するパイロット圧を制御弁173のパイロットポートに伝えるためのパイロット回路を示している。
【0070】
図4に示すように、油圧システムは、制御弁173と旋回油圧モータ2Aの第1ポート2ALとを接続する作動油ライン21Lと、制御弁173と旋回油圧モータ2Aの第2ポート2ARとを接続する作動油ライン21Rと、作動油ライン21L及び作動油ライン21Rのそれぞれと作動油タンクとを接続する作動油ライン21Tとを含む。
【0071】
作動油ライン21Lと作動油ライン21Tと間にはリリーフ弁22Lが設けられている。作動油ライン21Lにおける作動油の圧力がリリーフ弁22Lのリリーフ圧以上になると、作動油は、作動油ライン21Lからリリーフ弁22Lを介して作動油ライン21Tに流れて作動油タンクに戻される。
【0072】
また、作動油ライン21Lと作動油ライン21Tとの間にはチェック弁23Lが設けられている。作動油ライン21Lにおける作動油の圧力が、作動油タンクにおける作動油の圧力を下回ると、作動油タンクにおける作動油は、チェック弁23Lを介して作動油ライン21Tから作動油ライン21Lに流れ込む。これにより、作動油ライン21Lにおける作動油は作動油ライン21Tからの作動油により補われる。
【0073】
同様に、作動油ライン21Rと作動油ライン21Tとの間にはリリーフ弁22Rが設けられている。作動油ライン21Rにおける作動油の圧力がリリーフ弁22Rのリリーフ圧以上になると、作動油は、作動油ライン21Rからリリーフ弁22Rを介して作動油ライン21Tに流れて作動油タンクに戻される。
【0074】
また、作動油ライン21Rと作動油ライン21Tとの間にはチェック弁23Rが設けられている。作動油ライン21Rにおける作動油の圧力が、作動油タンクにおける作動油の圧力を下回ると、作動油タンクにおける作動油は、チェック弁23Rを介して作動油ライン21Tから作動油ライン21Rに流れ込む。これにより、作動油ライン21Rにおける作動油は作動油ライン21Tからの作動油により補われる。
【0075】
旋回操作が行われた場合、左メインポンプ14Lから吐出される作動油は、制御弁173を介して作動油ライン21L又は作動油ライン21Rに供給される。そして、作動油ライン21Lに作動油が供給されるように制御弁173が動かされると、作動油ライン21Rは作動油タンクに接続される。したがって、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、旋回油圧モータ2Aの第1ポート2ALに供給され、旋回油圧モータ2Aを駆動した後、作動油ライン21Rを介して作動油タンクに戻される。この場合、上部旋回体3は、旋回油圧モータ2Aが駆動されることにより旋回機構2が駆動されると左方向に旋回する。
【0076】
一方、作動油ライン21Rに作動油が供給されるように制御弁173が動かされると、作動油ライン21Lは作動油タンクに接続される。したがって、左メインポンプ14Lが吐出する作動油は、旋回油圧モータ2Aの第2ポート2ARに供給され、旋回油圧モータ2Aを駆動した後、作動油ライン21Lを介して作動油タンクに戻される。この場合、上部旋回体3は、旋回油圧モータ2Aが駆動されることにより旋回機構2が駆動されると右方向に旋回する。
【0077】
制御弁173は、左操作レバー26Lから供給されるパイロット圧により動かされる。左操作レバー26Lは、パイロットポンプ15から作動油の供給を受け、この作動油を用いて制御弁173を動かすためのパイロット圧を生成する。
【0078】
操作者が上部旋回体3を右旋回させるために左操作レバー26Lを右側に倒すと、左操作レバー26Lは、パイロットライン24Rを介して制御弁173の右側パイロットポートにパイロット圧を供給する。
図4の例では、パイロットライン24Rには減圧弁31Rが配置されている。そのため、コントローラ30は、必要に応じ、左操作レバー26Lが生成したパイロット圧を減圧弁31Rで調節し、制御弁173の右側パイロットポートに調節後のパイロット圧を作用させることができる。この調節後パイロット圧により制御弁173は左方に動かされ、作動油ライン21Lが左メインポンプ14Lに接続され且つ作動油ライン21Rが作動油タンクに接続される。
【0079】
操作者が上部旋回体3を左旋回させるために左操作レバー26Lを左側に倒すと、左操作レバー26Lは、パイロットライン24Lを介して制御弁173の左側パイロットポートにパイロット圧を供給する。
図4の例では、パイロットライン24Lには減圧弁31Lが配置されている。そのため、コントローラ30は、必要に応じ、左操作レバー26Lが生成したパイロット圧を減圧弁31Lで調節し、制御弁173の左側パイロットポートに調節後のパイロット圧を作用させることができる。この調節後パイロット圧により制御弁173は右方に動かされ、作動油ライン21Rが左メインポンプ14Lに接続され且つ作動油ライン21Lが作動油タンクに接続される。
【0080】
次に、
図5を参照し、キャビン10内に設置された運転席に着座する操作者による旋回レバーとしての左操作レバー26Lに対する操作の乱れに起因する旋回速度のハンチングの発生をコントローラ30が抑制する処理(以下、「ハンチング抑制処理」とする。)について説明する。
図5は、ハンチング抑制処理の一例のフローチャートである。コントローラ30は、例えば、旋回操作が行われているときに、所定の制御周期で繰り返しこのハンチング抑制処理を実行する。
【0081】
最初に、コントローラ30は、旋回速度のハンチングが発生しているか否かを判定する(ステップST1)。本実施形態では、コントローラ30は、慣性計測装置50の出力と、操作圧センサ29LBの出力とに基づいて旋回速度のハンチングが発生しているか否かを判定する。具体的には、コントローラ30は、例えば、上部旋回体3の加速方向と左操作レバー26Lの操作方向が互いに逆向きになっている場合に、旋回速度のハンチングが発生していると判定してもよい。より具体的には、コントローラ30は、上部旋回体3が右旋回方向に加速しているときに左操作レバー26Lが左方向に操作されていることを検知した場合に、旋回速度のハンチングが発生していると判定してもよい。
【0082】
或いは、コントローラ30は、右方向への旋回操作を表すパイロット圧の所定の増減幅以上の増減が所定回数にわたって繰り返された場合で、且つ、右方向への旋回加速度の増大と左方向への旋回加速度の増大とが所定回数にわたって繰り返された場合に、旋回速度のハンチングが発生していると判定してもよい。
【0083】
このように、コントローラ30は、慣性計測装置50の出力と、操作圧センサ29LBの出力という2つの出力に基づいて旋回速度のハンチングが発生しているか否かを判定する。そのため、それらのうちの1つの出力に基づく場合に比べ、旋回速度のハンチングが発生しているか否かをより正確に判定できる。
【0084】
但し、コントローラ30は、慣性計測装置50の出力のみに基づいて旋回速度のハンチングが発生しているか否かを判定してもよく、操作圧センサ29LBの出力のみに基づいて旋回速度のハンチングが発生しているか否かを判定してもよい。或いは、コントローラ30は、慣性計測装置50及び操作圧センサ29LB以外の別の1又は複数のセンサの出力に基づいて旋回速度のハンチングが発生しているか否かを判定してもよい。
【0085】
なお、コントローラ30は、上述のような上部旋回体3の不安定な動きが意図せず発生してしまった場合と、旋回加速度の増大と減少とを繰り返すための操作が操作者によって意図的に行われた場合とを区別できるように構成されていてもよい。この場合、コントローラ30は、上部旋回体3の不安定な動きを引き起こすおそれがある操作が行われている場合であっても、すなわち、旋回速度のハンチングが発生していると判定できる場合であっても、その操作が操作者の意図的な操作であると判定できる場合には、ハンチング抑制処理を実行しないように構成されていてもよい。
【0086】
旋回速度のハンチングが発生していると判定した場合(ステップST1のYES)、コントローラ30は、ハンチングを抑制する(ステップST2)。本実施形態では、コントローラ30は、旋回油圧モータ2Aに流入する作動油の流量を目標値に調節することでハンチングを抑制する。そして、コントローラ30は、各種装置の検出値、又は、その検出値から算出される値等の基本データに基づいて目標値を決定するように構成されている。基本データは、例えば、左メインポンプ14Lの斜板傾転角、押し退け容積及び吐出量、制御弁173に作用するパイロット圧、並びに、旋回加速度等の少なくとも1つである。本実施形態では、コントローラ30は、操作圧センサ29LBが検出した制御弁173に作用するパイロット圧に基づいて目標値を決定する。
【0087】
そして、コントローラ30は、制御弁173に作用するパイロット圧、及び、左メインポンプ14Lの押し退け容積等の少なくとも1つを調節することで、旋回油圧モータ2Aに流入する作動油の流量を目標値に調節する。
【0088】
コントローラ30は、例えば、減圧弁31Lに制御指令を与えることで、左操作レバー26Lが左方向に操作されたときに左操作レバー26Lが生成する調整前パイロット圧(一次圧)を減圧し、制御弁173の左側パイロットポートに作用する調整後パイロット圧(二次圧)を生成する。この調整後パイロット圧は、制御弁173を通過して旋回油圧モータ2Aの第1ポート2ALに流入する作動油の流量を目標値に一致させるためのパイロット圧である。
【0089】
同様に、コントローラ30は、例えば、減圧弁31Rに制御指令を与えることで、左操作レバー26Lが右方向に操作されたときに左操作レバー26Lが生成する調整前パイロット圧(一次圧)を減圧し、制御弁173の右側パイロットポートに作用する調整後パイロット圧(二次圧)を生成する。この調整後パイロット圧は、制御弁173を通過して旋回油圧モータ2Aの第2ポート2ARに流入する作動油の流量を目標値に一致させるためのパイロット圧である。
【0090】
また、コントローラ30は、左レギュレータ13Lに制御指令を与えることで、左メインポンプ14Lの押し退け容積を増減させ、制御弁173を通過して旋回油圧モータ2Aに流入する作動油の流量を目標値に一致させてもよい。
【0091】
次に、
図6を参照し、制御弁173のパイロットポートに作用するパイロット圧の調節を利用したハンチング抑制処理による効果について説明する。
図6は、上部旋回体3が右旋回しているときに旋回速度を低減させるために左操作レバー26Lが操作されたときの3つの物理量(パイロット圧、旋回加速度、及び、旋回油圧モータ流入量)の時間的推移を示す。
図6の実線は、ハンチング抑制処理が実行されたときの各物理量の時間的推移を示し、
図6の破線は、ハンチング抑制処理が実行されないときの各物理量の時間的推移を示す。
【0092】
図6の例では、パイロット圧は、左操作レバー26Lが右方向に操作されているときに制御弁173の右側パイロットポートに作用するパイロット圧を意味する。また、旋回油圧モータ流入量は、旋回油圧モータ2Aの第2ポート2ARに流入する作動油の流量を意味する。
【0093】
時刻t1において、左操作レバー26Lが右方向にフルレバー操作されると、パイロット圧は、時刻t2で最大圧力Pmaxに達する。フルレバー操作は、例えば、左操作レバー26Lを最大限倒したときの操作量を100%とし、左操作レバー26Lが中立位置にあるときの操作量を0%とした場合に、操作量が80%以上となる操作である。この場合、旋回加速度は、時刻t1から時刻t2にかけて増大し、時刻t2以降は、ほぼ一定値を維持する。
【0094】
その後、時刻t3において、実際の旋回速度が所望の旋回速度を上回っていると判断した操作者が左操作レバー26Lの操作量を低減させると、パイロット圧は減少し、旋回加速度も減少する。操作者は、例えば、上部旋回体3の右旋回を停止させたいときに、左操作レバー26Lの操作量を低減させる。
【0095】
旋回油圧モータ流入量は、時刻t1で増大し始め、時刻t3で左操作レバー26Lの操作量が低減されるまで増大し続け、時刻t3で減少に転じる。
【0096】
その後、時刻t4において、実際の旋回速度が所望の旋回速度を下回ると判断した操作者が左操作レバー26Lの操作量を増大させると、パイロット圧は増大に転じ、旋回加速度も増大に転じる。操作者は、例えば、上部旋回体3の右旋回が思ったよりも早く止まってしまうと判断した場合に、左操作レバー26Lの操作量を増大させる。
【0097】
その後、時刻t5において、旋回加速度の増大と慣性とによって操作者の身体全体が左側に揺れると、左操作レバー26Lを握る操作者の左手も左側に揺れてしまい、操作者の意思とは無関係に左操作レバー26Lの操作量が再び減少に転じ、パイロット圧も再び減少に転じる。旋回加速度は、パイロット圧の減少の開始から僅かに遅れて減少を開始する。
【0098】
その後、時刻t6において、旋回加速度の減少と慣性とによって操作者の身体全体が右側に揺れると、左操作レバー26Lを握る操作者の左手も右側に揺れてしまい、操作者の意思とは無関係に左操作レバー26Lの操作量が再び増大に転じ、パイロット圧も再び増大に転じる。旋回加速度は、パイロット圧の増大の開始から僅かに遅れて増大を開始する。
【0099】
その後、ハンチング抑制処理が実行されない場合、パイロット圧、旋回加速度及び旋回油圧モータ流入量の増減は、
図6の破線で示すように、上部旋回体3の旋回が停止するまで繰り返される。
【0100】
一方で、ハンチング抑制処理が実行される場合、コントローラ30は、時刻t6において旋回速度のハンチングが発生していると判定すると、時刻t4でのパイロット圧に対応する旋回油圧モータ流入量を目標値Qtとして決定する。
【0101】
具体的には、コントローラ30は、例えば、時刻t6において、上部旋回体3が右旋回方向に加速しているときに左操作レバー26Lが左方向に操作されていることを検知し、旋回速度のハンチングが発生していると判定する。その上で、コントローラ30は、時刻t4での旋回油圧モータ流入量によって実現される旋回速度が、操作者の望む旋回速度であると判定し、その旋回油圧モータ流入量を目標値Qtとして決定する。コントローラ30は、時刻t4で旋回速度が所望の旋回速度に達しつつあったので操作者が左操作レバー26Lの操作方向を左方から右方へ反転させたと推定できるためである。
【0102】
但し、コントローラ30は、他の方法で目標値Qtを決定するように構成されていてもよい。例えば、コントローラ30は、時刻t4以降に所定の制御周期毎に検出されたパイロット圧の平均値を算出し、その平均値に対応する旋回油圧モータ流入量を目標値Qtとして決定してもよい。
【0103】
その後、コントローラ30は、例えば、減圧弁31Rに対して制御指令を出力し、旋回油圧モータ流入量が目標値Qtになるようにパイロット圧を調節する。具体的には、コントローラ30は、制御弁173の右側パイロットポートに作用する調整後パイロット圧が、時刻t4における値Ptと同じになるように、左操作レバー26Lが生成した調整前パイロット圧が値Ptを上回る場合には、その調整前パイロット圧を減圧弁31Rで低減させる。これは、操作者の意図しない手動操作による左操作レバー26Lの往復動作に起因するパイロット圧の変動が打ち消されることを意味する。
【0104】
その結果、
図6の実線で示すように、パイロット圧は値Ptに収束し、旋回油圧モータ流入量は目標値Qtに収束し、旋回加速度はゼロに収束する。このようにして、コントローラ30は、ハンチング抑制処理を実行することで、旋回減速中に左操作レバー26Lを加速方向に操作した後に続く左操作レバー26Lに対する操作の乱れに起因する上部旋回体3の不安定な動きの発生を抑制できる。
【0105】
次に、
図7を参照し、制御弁173のパイロットポートに作用するパイロット圧の調節を利用した別のハンチング抑制処理による効果について説明する。
図7は、上部旋回体3が右旋回しているときに旋回速度を低減させるために左操作レバー26Lが操作されたときのパイロット圧及び旋回油圧モータ流入量のそれぞれの時間的推移を示す。これらの時間的推移は、
図6における実線で示すパイロット圧及び旋回油圧モータ流入量のそれぞれの時間的推移と同じである。
【0106】
図7のハンチング抑制処理は、コントローラ30がパイロット圧のみに基づいて旋回速度のハンチングが発生しているか否かを判定する点において、
図6のハンチング抑制処理と異なるが、その他の点では
図6のハンチング抑制処理と同じである。そのため、
図7のハンチング抑制処理に関する以下の記載では、判定が行われるまでのパイロット圧及び旋回油圧モータ流入量のそれぞれの推移等の共通部分の説明が省略され、相違部分が詳説される。
【0107】
コントローラ30は、時刻t6において旋回速度のハンチングが発生していると判定すると、時刻t4でのパイロット圧に対応する旋回油圧モータ流入量を目標値Qtとして決定する。
【0108】
コントローラ30は、例えば、時刻t6において、操作圧センサ29LBが検出した直近の数秒間のパイロット圧の推移に基づいて左操作レバー26Lの左方向への操作と右方向への操作が所定回数にわたって繰り返されたことを検知した場合に、旋回速度のハンチングが発生していると判定する。その上で、コントローラ30は、時刻t4での旋回油圧モータ流入量によって実現される旋回速度が、操作者の望む旋回速度であると判定し、その旋回油圧モータ流入量を目標値Qtとして決定する。
【0109】
その後、コントローラ30は、減圧弁31Rに対して制御指令を出力し、旋回油圧モータ流入量が目標値Qtになるようにパイロット圧を調節する。
【0110】
その結果、
図7の実線で示すように、パイロット圧は値Ptに収束し、旋回油圧モータ流入量は目標値Qtに収束する。このようにして、コントローラ30は、ハンチング抑制処理を実行することで、旋回減速中に左操作レバー26Lを加速方向に操作した後に続く左操作レバー26Lに対する操作の乱れに起因する上部旋回体3の不安定な動きの発生を抑制できる。
【0111】
次に、
図8を参照し、制御弁173のパイロットポートに作用するパイロット圧の調節を利用した更に別のハンチング抑制処理による効果について説明する。
図8は、上部旋回体3が右旋回しているときに旋回速度を低減させるために左操作レバー26Lが操作されたときの旋回加速度及び旋回油圧モータ流入量のそれぞれの時間的推移を示す。これらの時間的推移は、
図6における実線で示す旋回加速度及び旋回油圧モータ流入量のそれぞれの時間的推移と同じである。
【0112】
図8のハンチング抑制処理は、コントローラ30が旋回加速度のみに基づいて旋回速度のハンチングが発生しているか否かを判定する点において、
図6のハンチング抑制処理と異なるが、その他の点では
図6のハンチング抑制処理と同じである。そのため、
図8のハンチング処理に関する以下の記載では、判定が行われるまでの旋回加速度及び旋回油圧モータ流入量のそれぞれの推移等の共通部分の説明が省略され、相違部分が詳説される。
【0113】
コントローラ30は、時刻t6において旋回速度のハンチングが発生していると判定すると、時刻t4でのパイロット圧に対応する旋回油圧モータ流入量を目標値Qtとして決定する。
【0114】
コントローラ30は、例えば、時刻t6において、慣性計測装置50が検出した直近の数秒間の旋回加速度の推移に基づいて旋回加速度の増大と減少とが所定回数にわたって繰り返されたことを検知した場合に、旋回速度のハンチングが発生していると判定する。その上で、コントローラ30は、時刻t4での旋回油圧モータ流入量によって実現される旋回速度が、操作者の望む旋回速度であると判定し、その旋回油圧モータ流入量を目標値Qtとして決定する。
【0115】
その後、コントローラ30は、減圧弁31Rに対して制御指令を出力し、旋回油圧モータ流入量が目標値Qtになるようにパイロット圧を調節する。
【0116】
その結果、
図8の実線で示すように、旋回油圧モータ流入量は目標値Qtに収束し、旋回加速度はゼロに収束する。このようにして、コントローラ30は、ハンチング抑制処理を実行することで、旋回減速中に左操作レバー26Lを加速方向に操作した後に続く左操作レバー26Lに対する操作の乱れに起因する上部旋回体3の不安定な動きの発生を抑制できる。
【0117】
次に、
図9を参照し、左メインポンプ14Lの吐出量の調節を利用したハンチング抑制処理による効果について説明する。
図9は、上部旋回体3の右旋回速度を所望の旋回速度まで増大させるために左操作レバー26Lが操作されたときの3つの物理量(パイロット圧、旋回加速度、及び、旋回油圧モータ流入量)の時間的推移を示す。
図9の実線は、ハンチング抑制処理が実行されたときの各物理量の時間的推移を示し、
図9の破線は、ハンチング抑制処理が実行されないときの各物理量の時間的推移を示す。
【0118】
図9の例では、パイロット圧は、左操作レバー26Lが右方向に操作されているときに制御弁173の右側パイロットポートに作用するパイロット圧を意味する。また、旋回油圧モータ流入量は、旋回油圧モータ2Aの第2ポート2ARに流入する作動油の流量を意味する。
【0119】
時刻t1において、左操作レバー26Lが右方向にフルレバー操作されると、パイロット圧は増大し、旋回加速度も増大する。
【0120】
その後、時刻t2において、実際の旋回速度が所望の旋回速度を上回っていると判断した操作者が左操作レバー26Lの操作量を低減させると、パイロット圧は減少し、旋回加速度も減少する。
【0121】
旋回油圧モータ流入量は、時刻t1で増大し始め、時刻t2で左操作レバー26Lの操作量が低減されるまで増大し続け、時刻t2で減少に転じる。
【0122】
その後、時刻t3において、実際の旋回速度が所望の旋回速度を下回ると判断した操作者が左操作レバー26Lの操作量を増大させると、パイロット圧は増大に転じ、旋回油圧モータ流入量も増大に転じる。旋回加速度は、パイロット圧の増大の開始から僅かに遅れて増大を開始する。
【0123】
その後、時刻t4において、旋回加速度の増大と慣性とによって操作者の身体全体が左側に揺れると、左操作レバー26Lを握る操作者の左手も左側に揺れてしまい、操作者の意思とは無関係に左操作レバー26Lの操作量が再び減少に転じ、パイロット圧も再び減少に転じる。旋回加速度は、パイロット圧の減少の開始から僅かに遅れて減少を開始する。
【0124】
その後、ハンチング抑制処理が実行されない場合、パイロット圧、旋回加速度及び旋回油圧モータ流入量の増減は、
図9の破線で示すように、操作者による左操作レバー26Lの操作量の調節によって上部旋回体3の旋回加速度がゼロに収束するまで繰り返される。
【0125】
一方で、ハンチング抑制処理が実行される場合、コントローラ30は、時刻t4において旋回速度のハンチングが発生していると判定すると、時刻t2でのパイロット圧に対応する旋回油圧モータ流入量を目標値Qtとして決定する。
【0126】
具体的には、コントローラ30は、例えば、時刻t4において、上部旋回体3が右旋回方向に加速しているときに左操作レバー26Lが左方向に操作されていることを検知し、旋回速度のハンチングが発生していると判定する。その上で、コントローラ30は、時刻t2での旋回油圧モータ流入量によって実現される旋回速度が、操作者の望む旋回速度であると判定し、その旋回油圧モータ流入量を目標値Qtとして決定する。コントローラ30は、時刻t2で旋回速度が所望の旋回速度に達しつつあったので操作者が左操作レバー26Lの操作方向を右方から左方へ反転させたと推定できるためである。
【0127】
その後、コントローラ30は、左レギュレータ13Lに対して制御指令を出力し、旋回油圧モータ流入量が目標値Qtになるように、左メインポンプ14Lの押し退け容積を調節する。具体的には、コントローラ30は、制御弁173の右側パイロットポートに作用するパイロット圧が増大するにつれて左メインポンプ14Lの押し退け容積が小さくなるように、左メインポンプ14Lの押し退け容積を制御する。
【0128】
その結果、
図9の実線で示すように、旋回油圧モータ流入量は目標値Qtに収束し、旋回加速度はゼロに収束する。そして、パイロット圧も値Ptに収束する。上部旋回体3の揺れが収まると、操作者の身体全体の揺れも収まり、左操作レバー26Lを握る操作者の左手の揺れも収まるためである。このようにして、コントローラ30は、ハンチング抑制処理を実行することで、旋回加速中に左操作レバー26Lを減速方向に操作した後に続く左操作レバー26Lに対する操作の乱れに起因する上部旋回体3の不安定な動きの発生を抑制できる。
【0129】
次に、
図10を参照し、パイロット回路の別の構成例について説明する。
図10は、パイロット回路の別の構成例を示す図である。具体的には、
図10は、左操作レバー26Lが生成するパイロット圧を制御弁173のパイロットポートに伝えるためのパイロット回路の一部と、左走行レバー26DLが生成するパイロット圧を制御弁171のパイロットポートに伝えるためのパイロット回路の別の一部とを示している。なお、左操作レバー26Lが生成するパイロット圧を制御弁176のパイロットポートに伝えるためのパイロット回路の別の一部等、
図10では図示されていないパイロット回路の他の部分は、図示されている部分と同様に構成され且つ動作する。
【0130】
図10のパイロット回路は、主に、操作装置26から油圧的に分離されている点で、
図4のパイロット回路と異なるが、その他の点では
図4のパイロット回路と同じである。そのため、
図10のパイロット回路に関する以下の記載では、共通部分の説明が省略され、相違部分が詳説される。
【0131】
図10のパイロット回路が搭載されるショベルには、電気制御式の操作装置26が搭載されている。電気制御式の操作装置26は、例えば、左操作レバー26L、右操作レバー26R、左走行レバー26DL及び右走行レバー26DRを含む。
【0132】
図10のパイロット回路は、減圧弁31AL、減圧弁31AR、減圧弁31BL及び減圧弁31BR等を含む。
【0133】
減圧弁31ALは、パイロットポンプ15と制御弁173の左側パイロットポートとを接続するパイロットラインに配置される電磁弁である。減圧弁31ALは、コントローラ30からの制御指令に応じて動作し、パイロットポンプ15が吐出する作動油の圧力(一次圧)を利用し、制御弁173の左側パイロットポートに作用するパイロット圧(二次圧)を生成する。
【0134】
減圧弁31ARは、パイロットポンプ15と制御弁173の右側パイロットポートとを接続するパイロットラインに配置される電磁弁である。減圧弁31ARは、コントローラ30からの制御指令に応じて動作し、パイロットポンプ15が吐出する作動油の圧力(一次圧)を利用し、制御弁173の右側パイロットポートに作用するパイロット圧(二次圧)を生成する。
【0135】
減圧弁31BLは、パイロットポンプ15と制御弁171の左側パイロットポートとを接続するパイロットラインに配置される電磁弁である。減圧弁31BLは、コントローラ30からの制御指令に応じて動作し、パイロットポンプ15が吐出する作動油の圧力(一次圧)を利用し、制御弁171の左側パイロットポートに作用するパイロット圧(二次圧)を生成する。
【0136】
減圧弁31BRは、パイロットポンプ15と制御弁171の右側パイロットポートとを接続するパイロットラインに配置される電磁弁である。減圧弁31BRは、コントローラ30からの制御指令に応じて動作し、パイロットポンプ15が吐出する作動油の圧力(一次圧)を利用し、制御弁171の右側パイロットポートに作用するパイロット圧(二次圧)を生成する。
【0137】
図10では図示されていない他の減圧弁は、上述の減圧弁31AL、減圧弁31AR、減圧弁31BL及び減圧弁31BRと同様に配置され且つ動作する。
【0138】
コントローラ30は、例えば、左操作レバー26Lが右旋回方向に操作されると、減圧弁31ARに対して制御指令を出力する。左操作レバー26Lの右旋回方向への操作量に応じたパイロット圧が制御弁173の右側パイロットポートに作用するように減圧弁31ARを動作させるためである。
【0139】
この構成により、コントローラ30は、必要に応じ、操作者の手動操作による操作装置26の操作量に対応する調整前パイロット圧よりも低い調整後パイロット圧ばかりでなく、調整前パイロット圧よりも高い調整後パイロット圧をも、制御弁のパイロットポートに作用させることができる。すなわち、コントローラ30は、制御弁のパイロットポートに作用するパイロット圧を、
図4に示すパイロット回路を利用する場合よりも柔軟に制御できる。
【0140】
そのため、コントローラ30は、
図9の例で示すように、旋回油圧モータ流入量の目標値Qtに対応するパイロット圧の値Ptが、操作装置26の実際の操作量に対応するパイロット圧の値よりも高い場合であっても、左メインポンプ14Lの吐出量を増大させずに、調整前パイロット圧を増大させることで、旋回油圧モータ流入量を目標値Qtに近づけることができる。
【0141】
上述のように、本願の実施形態に係るショベル100は、下部走行体1と、下部走行体1に旋回可能に搭載された上部旋回体3と、上部旋回体3に設けられた運転室としてのキャビン10と、上部旋回体3を旋回させる旋回アクチュエータとしての旋回油圧モータ2Aと、上部旋回体3に搭載された制御装置としてのコントローラ30と、を備えている。そして、コントローラ30は、旋回方向におけるキャビン10の揺れに応じ、左操作レバー26Lが生成するパイロット圧、又は、旋回油圧モータ2Aを駆動する左メインポンプ14Lの押し退け容積を制御することで旋回油圧モータ2Aの動きを制御するように構成されている。
【0142】
なお、旋回アクチュエータが旋回電動発電機である場合には、コントローラ30は、旋回方向におけるキャビン10の揺れに応じ、左操作レバー26Lが生成するパイロット圧、又は、旋回電動発電機に供給される電気エネルギを制御することで、旋回電動発電機の動きを制御するように構成されていてもよい。
【0143】
また、コントローラ30は、パイロット圧を検出する操作圧センサ29の出力に基づき、旋回方向におけるキャビン10の揺れを検出するように構成されていてもよい。
【0144】
或いは、コントローラ30は、上部旋回体3又はキャビン10に取り付けられた慣性計測装置50の出力に基づき、旋回方向におけるキャビン10の揺れを検出するように構成されていてもよい。
【0145】
また、コントローラ30は、パイロット圧の変化を相殺するように、パイロット圧、押し退け容積、又は、電気エネルギを制御することで、旋回油圧モータ2A又は旋回電動発電機の動きを安定化させるように構成されていてもよい。
【0146】
上述の構成により、ショベル100は、操作装置26に対する操作の乱れに起因する上部旋回体3の不安定な動きの発生をより適切に抑制できる。例えば、ショベル100は、上部旋回体の旋回の制動力に悪影響を及ぼすことなく、上部旋回体3の不安定な動きの発生を抑制できる。
【0147】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳説した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態に制限されることはない。上述した実施形態は、本発明の範囲を逸脱することなしに、種々の変形又は置換等が適用され得る。また、別々に説明された特徴は、技術的な矛盾が生じない限り、組み合わせが可能である。
【0148】
例えば、コントローラ30は、アタッチメントの操作が行われているときに、アタッチメントの回動速度に関するハンチングが発生しているか否かを判定してもよい。例えば、コントローラ30は、ブーム上げ操作が行われているときに、ブーム回動方向におけるブーム4の加速度に基づいてブーム4の回動速度に関するハンチングが発生しているか否かを判定してもよい。そして、ブーム4の回動速度に関するハンチングが発生していると判定した場合、コントローラ30は、例えば、上部旋回体3の左右軸回りのキャビン10の揺れ(ピッチング)に応じ、右操作レバー26Rが生成する制御弁175に関するパイロット圧、又は、ブームシリンダ7に作動油を供給するメインポンプ14の押し退け容積等を制御することでブームシリンダ7の動きを制御するように構成されていてもよい。この構成により、コントローラ30は、例えば、ブーム上げ加速中に右操作レバー26Rを減速方向に操作した後に続く右操作レバー26Rに対する操作の乱れに起因する上部旋回体3の不安定な動きの発生を抑制できる。
【符号の説明】
【0149】
1・・・下部走行体 1C・・・クローラ 1CL・・・左クローラ 1CR・・・右クローラ 2・・・旋回機構 2A・・・旋回油圧モータ 2AL・・・第1ポート 2AR・・・第2ポート 2M・・・走行油圧モータ 2ML・・・左走行油圧モータ 2MR・・・右走行油圧モータ 3・・・上部旋回体 4・・・ブーム 5・・・アーム 6・・・バケット 7・・・ブームシリンダ 8・・・アームシリンダ 9・・・バケットシリンダ 10・・・キャビン 11・・・エンジン 13・・・レギュレータ 14・・・メインポンプ 15・・・パイロットポンプ 17・・・コントロールバルブ 18・・・絞り 19・・・制御圧センサ 21L、21R、21T・・・作動油ライン 22L、22R・・・リリーフ弁 23L、23R・・・チェック弁 24L、24R・・・パイロットライン 26・・・操作装置 26D・・・走行レバー 26DL・・・左走行レバー 26DR・・・右走行レバー 26L・・・左操作レバー 26R・・・右操作レバー 28・・・吐出圧センサ 29、29DL、29DR、29LA、29LB、29RA、29RB・・・操作圧センサ 30・・・コントローラ 30B・・・自律制御部 31、31AL、31AR、31BL、31BR・・・減圧弁 40・・・センターバイパス管路 42・・・パラレル管路 50・・・慣性計測装置 70・・・空間認識装置 70F・・・前方センサ 70B・・・後方センサ 70L・・・左方センサ 70R・・・右方センサ 100・・・ショベル 71・・・向き検出装置 72・・・情報入力装置 73・・・測位装置 171~176・・・制御弁 AT・・・掘削アタッチメント D1・・・表示装置 D2・・・音声出力装置 S1・・・ブーム角度センサ S2・・・アーム角度センサ S3・・・バケット角度センサ S4・・・機体傾斜センサ S5・・・旋回角速度センサ