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  • 特許-自動車用排ガス浄化触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-15
(45)【発行日】2023-02-24
(54)【発明の名称】自動車用排ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/58 20060101AFI20230216BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20230216BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
B01J23/58 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019069681
(22)【出願日】2019-04-01
(65)【公開番号】P2020168587
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-02-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】間生 敬太
(72)【発明者】
【氏名】藤本 美咲
(72)【発明者】
【氏名】辻 みのり
(72)【発明者】
【氏名】山下 桂
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-286769(JP,A)
【文献】特開2004-313972(JP,A)
【文献】特開2010-106799(JP,A)
【文献】特開2011-183316(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0175773(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/58
B01D 53/94
F01N 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体構造型担体上に触媒層を備える自動車用排ガス浄化触媒であって、
上記触媒層が、
触媒成分がロジウムである浄化層と、
窒素酸化物吸着成分が、塩基性アルカリ金属酸化物、塩基性アルカリ金属酸化物の炭酸塩、塩基性アルカリ金属酸化物の水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の炭酸塩、アルカリ土類金属酸化物の水酸化物及び酸化バリウムから成る群から選ばれた少なくとも1種であるNOx吸脱着層と、を有し、
上記一体構造型担体側から順に、第1浄化層、NOx吸脱着層、第2浄化層が積層されて構成され、
上記一体構造型担体の単位容積当たりの上記触媒層の付着量(g/L)が、下記式(1)及び下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする自動車用排ガス浄化触媒。

第1浄化層:第2浄化層=0.428:1~1.5:1 ・・・式(1)
NOx吸脱着層:(第1浄化層+第2浄化層)=1.9:1~2.45:1 ・・・式(2)
【請求項2】
上記第1浄化層と上記第2浄化層とが、同一の触媒成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の自動車用排ガス浄化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用排ガス浄化触媒に係り、更に詳細には、自動車用の内燃機関(ガソリン、ディーゼル)などから排出される排ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、及び窒素酸化物(NOx)を浄化する自動車用排気ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の枯渇問題、地球温暖化問題などから、低燃費自動車の要求が高まっており、ディーゼル自動車や、希薄燃焼のガソリン自動車の開発が注目されている。
【0003】
このような自動車においては、排ガス雰囲気が理論空燃状態に比べリーン(酸素過剰雰囲気)となるが、リーン域で通常の三元触媒を適用させた場合、過剰な酸素の影響からNOx浄化作用が不十分となるという問題がある。このため酸素が過剰となってもNOxを浄化できる自動車用排ガス浄化触媒の開発が望まれる。
【0004】
このような、リーン域のNOxを浄化する触媒としては、例えば、窒素酸化物吸着成分(塩基性金属)と白金とを組み合わせ、上記窒素酸化物吸着成分にNOxを吸着させ、ストイキ~リッチ雰囲気でNOを放出させて浄化する自動車用排ガス浄化触媒が提案されている。
【0005】
特許文献1の特開2003-320252号公報には、触媒層をNOx吸脱着層と浄化層との2層構造とし、触媒機能を吸着と浄化とに分けることでNOx触媒の性能を向上させた自動車用排ガス浄化触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-320252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のものにあっては、下層にNOx吸脱着層、上層に浄化層という構造であるため、上層の浄化層で下層のNOx吸脱着層に吸着したNOxを脱離させるHCやCO等の還元剤が酸化され、NOx吸脱着層に届き難いため、NOxの吸着・脱離が効率よく行われずNOx吸脱着層にNOxが蓄積され易い。
【0008】
一方、還元剤を下層のNOx吸脱着層に届き易くするために上層の浄化層を薄くすると、脱離したNOxや、HC、CO等の浄化能力が低下してしまう。
【0009】
このように、NOx吸脱着層でのNOxの脱離効率の向上と、浄化層でのNOx、HC等の浄化率の向上とを、両立させることは困難であり、近年の排ガス規制に対応するには、排ガス浄化触媒が大型化してしまう。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ストイキ~リッチ雰囲気でNOをNOx吸脱着層から脱離させ易くすると共に、脱離したNOxやHC等の浄化率を向上できる自動車用排ガス浄化触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、2層の浄化層でNOx吸脱着層を挟み、これらの付着量を所定の範囲にすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明の自動車用排ガス浄化触媒は、一体構造型担体上に触媒層を備える。
そして、上記触媒層が、
触媒成分がロジウムである浄化層と、
窒素酸化物吸着成分が、塩基性アルカリ金属酸化物、塩基性アルカリ金属酸化物の炭酸塩、塩基性アルカリ金属酸化物の水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の炭酸塩、アルカリ土類金属酸化物の水酸化物及び酸化バリウムから成る群から選ばれた少なくとも1種であるNOx吸脱着層と、を有し、
上記一体構造型担体側から順に、第1浄化層、NOx吸脱着層、第2浄化層が積層されて構成され、
上記一体構造型担体の単位容積当たりの上記触媒層の付着量(g/L)が、下記式(1)及び下記式(2)の関係を満たすことを特徴とする;

第1浄化層:第2浄化層=0.428:1~1.5:1 ・・・式(1)
NOx吸脱着層:(第1浄化層+第2浄化層)=1.9:1~2.45:1 ・・・式(2)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、浄化層を2層に分け、該2層の浄化層でNOx吸脱着層を挟むことしたため、ストイキ~リッチ雰囲気でNOx吸脱着層からNOxが脱離し易く、かつ浄化率が高い自動車用排ガス浄化触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の触媒層の層構造を示す図である。
図2】2層構造の触媒層を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の自動車用排ガス浄化触媒について詳細に説明する。
上記自動車用排ガス浄化触媒は、図1に示すように、 セラミックや金属ハニカム等の一体構造型担体上に、貴金属などの触媒成分を含む触媒層を備え、上記触媒層は、上記一体構造型担体側から順に、第1浄化層、NOx吸脱着層、第2浄化層が積層されて成る。
【0016】
NOx吸脱着層は、酸化性雰囲気下においてNOxを吸蔵し、還元性雰囲気下においてNOxを還元してNOを放出する層であり、触媒成分と窒素酸化物吸着成分とを含む。
【0017】
また、浄化層は、NOxを還元すると共にCOやHCを酸化して排ガスを浄化する層であり、触媒成分を含み、必要に応じて窒素酸化物吸着成分をさらに含んで成る。
【0018】
排ガス中のNOxは、例えば、硝酸バリウムとなってNOx吸脱着層に吸着され、エンジンからの雰囲気変動(リッチスパイク等)によって、雰囲気中のHCやCO等の還元剤が増加すると硝酸バリウムが還元されてNOx吸脱着層からNOが放出される。
【0019】
そして、NOx吸脱着層から放出されたNOは浄化層で浄化されてNとなる。
浄化層における、還元剤(R)による窒素酸化物の浄化反応を下記反応式に示す。

NOx + R → 1/2N + ROx ・・・反応式
【0020】
しかし、NOx吸脱着層からNOが放出されても、浄化層と接触せずに浄化されなかったNOは、硝酸バリウムとなって再びNOx吸脱着層に吸着されてしまう。
【0021】
図2に示すようなNOx吸脱着層と浄化層とが1層ずつである2層構成の触媒層では、浄化層の浄化能力を充分発揮させるために、浄化層の厚さが厚くなる。すると、還元剤が浄化層で酸化され易くなりNOx吸脱着層に達する還元剤が少なくなって、NOx吸脱着層からNOが放出され難くなる。
【0022】
また、NOx吸脱着層の下側(一体構造型担体側)で放出されたNOは浄化層と接触し難く、特にNOx吸脱着層の下側で吸着されたNOxはNOx吸脱着層に吸着され続け、NOx吸脱着層の下側ではNOxの入れ替えが行われ難く、吸着・脱離効率が低下する。
【0023】
本発明の自動車用排ガス浄化触媒は、上記のように浄化層を2層に分け、NOx吸脱着層を2層の浄化層で挟んだ層構造であるため、上側の第2浄化層の厚さを薄くすることができ、第2浄化層で酸化されずにNOx吸脱着層に達する還元剤が増加してNOx吸脱着層からNOが効率よく放出される。
【0024】
さらに、NOx吸脱着層の下側(一体構造型担体側)にも第1浄化層を有するため、NOがNOx吸脱着層の下側で放出されても第1浄化層と接触し易く浄化され易いため、再びNOx吸脱着層に吸着されることが抑制され、NOの浄化率が向上する。
【0025】
本発明の自動車用排ガス浄化触媒は、一体構造型担体の単位容積当たりの触媒層の付着量(g/L)が、下記式(1)式(2)を満たす。

第1浄化層:第2浄化層=0.428:1~1.5:1 ・・・式(1)

NOx吸脱着層:(第1浄化層+第2浄化層)=1.9:1~2.45:1 ・・・式(2)
【0026】
触媒層が式(1)と式(2)とを同時に満たすことで、NOx吸脱着層からのNOの放出促進と、放出されたNOの浄化率の向上とを両立できる。
【0027】
<NOx吸脱着層>
NOx吸脱着層の触媒成分としては、PtやPd等の白金族の貴金属が用いられ、窒素酸化物吸着成分と共に一緒に無機酸化物基材上に担持される。
【0028】
NOx吸脱着層中の白金族の貴金属の含有量は、一体構造型担体1Lあたり、0.05~10g/Lであることが好ましい。上記貴金属の量が上記範囲内であると、十分な触媒性能を発揮させることができる。
【0029】
上記無機酸化物基材としては、アルミナ(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(CeO)、酸化ジルコニウム(ジルコニア、ZrO)、酸化ネオジム(Nd)、酸化イットリウム(Y)などの無機酸化物が挙げられ、アルミナ(Al)は大きな表面積を有するため、好ましく使用できる。
【0030】
上記無機酸化物基材の平均粒子径は、2.0~60μmであることが好ましく、5.0~40μmであることがより好ましい。また、上記無機酸化物基材のBET比表面積は、50~750m/gであることが好ましく、150~750m/gであることがより好ましい。このような無機酸化物基材は、触媒成分を十分に担持することができる。
【0031】
上記窒素酸化物吸着成分としては、塩基性アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化バリウム、またはこれらの炭酸塩および水酸化物が挙げられ、上記無機酸化物基材に分散された状態で堆積される。窒素酸化物吸着成分は、二酸化窒素と反応して、対応する硝酸塩を形成して窒素酸化物を吸着する。
【0032】
触媒層中の窒素酸化物吸着成分の含有量は、一体構造型担体1Lあたり30~50(g/L)であることが好ましい。
【0033】
<浄化層>
【0034】
浄化層の触媒成分は、ロジウム(Rh)であり、触媒成分は、それ単独又は窒素酸化物吸着成分と一緒に無機酸化物基材に担持される。
【0035】
触媒成分としてロジウム(Rh)以外の貴金属を含んでいてもよいが、ロジウム以外の貴金属を含有すると、ロジウムとロジウム以外の貴金属とが合金化して触媒性能が低下することがあるため、浄化層の触媒成分はロジウムのみであることが好ましい。
【0036】
浄化層中のロジウムの含有量は、一体構造型担体1Lあたり、0.05~10g/Lであることが好ましい。ロジウムの量が上記範囲内であると、十分な触媒性能を発揮させることができる。
【0037】
第1浄化層と上記第2浄化層の触媒成分は、同一組成の触媒であっても異なる組成の触媒であっていてもよいが、同一組成の触媒であると異なる触媒を用意する必要がなく簡便に作製できる。
【0038】
浄化層に用いられる窒素酸化物吸着成分及び無機酸化物基材は、上記NOx吸脱着層と同様のものを使用できる。
【0039】
<自動車用排ガス浄化触媒の作製>
本発明の排ガス浄化触媒は、ハニカム等の一体構造型担体上に、前記触媒成分を担持させることができればよく、公知の製造方法により作製することができる。
【0040】
例えば、触媒成分となる貴金属塩の溶液と無機酸化物基材とを混合・焼成して触媒成分が無機酸化物基材に担持された粉末を得、これにバインダ及び溶媒を加えてスラリーとし、当該スラリーに一体構造型担体を浸し、乾燥、焼成して触媒を得る方法。また、貴金属塩と無機酸化物基材とを溶媒に入れ、ボールミルなどの湿式粉砕機を用いてスラリーとし、このスラリーに一体構造型担体を浸し、乾燥、焼成して触媒を得る方法等を挙げることができる。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0042】
(浄化層塗工用スラリーの作製)
ジルコニア(平均粒子径25μm、BET比表面積約180m/g)と硝酸ロジウムとを混合し、水分減量がなくなるまで乾燥した後、耐久炉500℃で1時間焼成し、ロジウム担持ジルコニア粉末を得た。
このロジウム担持ジルコニア粉末とアルミナゾルとを混合し、水を加えて浄化層塗工用スラリー得た。
【0043】
(NOx吸脱着層塗工用スラリーの作製)
アルミナ(平均粒子径15μm、BET比表面積約60m/g)とテトラアンミン白金水酸塩溶液とを混合し、水分減量がなくなるまで乾燥した後、耐久炉850℃で1時間焼成し、白金担持アルミナ粉末を得た。
この白金担持アルミナ粉末とアルミナゾルとを混合し、水を加えてNOx吸脱着層塗工用スラリー得た。
【0044】
[実施例1]
容量が2.1Lの一体構造型担体(ハニカム)に、焼成後の付着量が44g/Lになるように浄化層塗工用スラリーを塗布・乾燥した後、耐久炉850℃で1時間焼成して第1浄化層を形成した。
【0045】
第1浄化層を形成した一体構造型担体に、焼成後の付着量が210g/LになるようにNOx吸脱着層塗工用スラリーを塗布・乾燥した後、耐久炉850℃で1時間焼成してNOx吸脱着層を形成した。
【0046】
第1浄化層及びNOx吸脱着層を形成した一体構造型担体に、酸化バリウム(BaO)として付着量が43g/Lになるように酢酸バリウム水溶液を含浸し、乾燥した後、耐久炉850℃で1時間焼成して窒素酸化物吸着成分を担持させた。
【0047】
さらに、第1浄化層及びNOx吸脱着層を形成した一体構造型担体に、焼成後の付着量が66g/Lになるように浄化層塗工用スラリーを塗布・乾燥した後、耐久炉850℃で1時間焼成して第2浄化層を形成し、排ガス浄化触媒を得た。
【0048】
[実施例2~実施例6、比較例1~4]
第1浄化層、NOx吸脱着層、第2浄化層を、表1に示す付着量に替える他は実施例1と同様にして、排ガス浄化触媒を得た。
【0049】
<評価>
排ガス浄化触媒をコンバータに挿入して2,2Lディーゼルエンジンの実車に搭載し、JCO8モード ホット及びコールドコンバインでのトータル残存率評価を行った。
評価結果を表1に示す。

残存率=未反応量/発生量×100
浄化率=100-残存率
【0050】
【表1】
【0051】
実施例と比較例との比較から、式(1)、式(2)を満たす実施例は、NOx、THC(トータルハイドロカーボン)共に残存率が低下し、浄化率が高いことがわかる。
【符号の説明】
【0052】
1 一体構造型担体
2 触媒層
21 第1浄化層
22 第2浄化層
23 NOx吸脱着層
図1
図2