(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20230217BHJP
B25F 5/00 20060101ALI20230217BHJP
B25B 23/14 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
B25B21/00 510C
B25F5/00 C
B25B23/14 610E
(21)【出願番号】P 2019122446
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 雅之
(72)【発明者】
【氏名】草川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】植田 尊大
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-328952(JP,A)
【文献】特開平08-141928(JP,A)
【文献】特開平07-060656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00
B25F 5/00
B25B 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
先端工具を保持し、前記電動機により駆動される出力軸と、
前記電動機に供給されるトルク電流の値を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記トルク電流の値であるトルク電流取得値に基づいて、前記先端工具による作業の進行状況を検知する検知部と、を備え
、
前記出力軸は、ねじを締めるためのドライバビットを前記先端工具として保持し、
前記検知部は、前記ねじがねじ締め対象の部材に着座したか否かを検知し、
前記検知部は、前記トルク電流取得値が増加した後、前記トルク電流取得値の変化量が所定量以下になることをもって、前記ねじが前記部材に着座したことを検知する、
電動工具。
【請求項2】
電動機と、
先端工具を保持し、前記電動機により駆動される出力軸と、
前記電動機に供給されるトルク電流の値を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記トルク電流の値であるトルク電流取得値に基づいて、前記先端工具による作業の進行状況を検知する検知部と、を備え、
前記出力軸は、ねじを締めるためのドライバビットを前記先端工具として保持し、
前記検知部は、前記ねじがねじ締め対象の部材に着座したか否かを検知し、
前記検知部は、前記トルク電流取得値の増加後の大きさに基づいて、前記ねじが前記部材に着座したか否かを検知する、
電動工具。
【請求項3】
前記検知部は、前記トルク電流取得値の増加速度及び増加後の大きさのうち少なくとも一方に基づいて、前記ねじが前記部材に着座したか否かを検知する、
請求項1に記載の電動工具。
【請求項4】
前記検知部の検知結果に基づいて前記電動機の動作を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記ねじが前記部材に着座したことを前記検知部が検知すると、前記電動機の動作を停止させる、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記検知部の検知結果に基づいて前記電動機の動作を制御する制御部を更に備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に電動工具に関し、より詳細には、トルク電流が供給される電動機を備える電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載の電動工具は、モータと、モータの回転動力を減速して出力軸に伝達する動力伝達部と、出力軸に加わる負荷トルクを検出するトルク検出部と、検出した負荷トルクに応じて動力伝達部の減速比を変更する制御部とを備える。制御部は、動力伝達部に対して減速比を大きくする制御を行ってから所定時間内に、ロック条件の閾値に検出した負荷トルクが達すると、モータの駆動を停止させる。制御部は、所定のサンプリング時間毎に電流検出部からの検出信号に基づいてモータに供給される負荷電流を検出し、検出した負荷電流と負荷電流の検出時における動力伝達部の減速段とに基づいて出力軸に加わる負荷トルクを検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の電動工具は、作業中にモータ(電動機)のロック条件を満たしたか否かを検知するために、トルク検出部(トルクセンサ)を備えている必要があった。
【0005】
本開示は、電動工具がトルクセンサを備えていなくても作業の進行状況を検知することができる電動工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る電動工具は、電動機と、出力軸と、取得部と、検知部と、を備える。前記出力軸は、先端工具を保持する。前記出力軸は、前記電動機により駆動される。前記取得部は、前記電動機に供給されるトルク電流の値を取得する。前記検知部は、前記取得部で取得されたトルク電流の値であるトルク電流取得値に基づいて、前記先端工具による作業の進行状況を検知する。前記出力軸は、ねじを締めるためのドライバビットを前記先端工具として保持する。前記検知部は、前記ねじがねじ締め対象の部材に着座したか否かを検知する。前記検知部は、前記トルク電流取得値が増加した後、前記トルク電流取得値の変化量が所定量以下になることをもって、前記ねじが前記部材に着座したことを検知する。
本開示の別の一態様に係る電動工具は、電動機と、出力軸と、取得部と、検知部と、を備える。前記出力軸は、先端工具を保持する。前記出力軸は、前記電動機により駆動される。前記取得部は、前記電動機に供給されるトルク電流の値を取得する。前記検知部は、前記取得部で取得されたトルク電流の値であるトルク電流取得値に基づいて、前記先端工具による作業の進行状況を検知する。前記出力軸は、ねじを締めるためのドライバビットを前記先端工具として保持する。前記検知部は、前記ねじがねじ締め対象の部材に着座したか否かを検知する。前記検知部は、前記トルク電流取得値の増加後の大きさに基づいて、前記ねじが前記部材に着座したか否かを検知する。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、電動工具がトルクセンサを備えていなくても作業の進行状況を検知することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る電動工具のブロック図である。
【
図3】
図3は、同上の電動工具の動作例を示すグラフである。
【
図4】
図4A~
図4Eは、同上の電動工具により木ねじを木材にねじ込む作業の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る電動工具1について、図面を用いて説明する。ただし、下記の実施形態は、本開示の様々な実施形態の1つに過ぎない。下記の実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、下記の実施形態において説明する各図は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0010】
(1)概要
本実施形態の電動工具1は、インパクト工具である。電動工具1は、例えば、インパクトドライバ、ハンマドリル、インパクトドリル、インパクトドリルドライバ又はインパクトレンチとして用いられる。本実施形態では、代表例として、電動工具1がねじをねじ締めするためのインパクトドライバとして用いられる場合について説明する。電動工具1は、
図1、
図2に示すように、電動機15(交流電動機)と、出力軸21と、取得部60と、着座検知部53(検知部)と、を備えている。
【0011】
出力軸21は、先端工具28を保持する。出力軸21は、電動機15により駆動される。取得部60は、電動機15に供給されるトルク電流の値を取得する。着座検知部53は、取得部60で取得されたトルク電流の値であるトルク電流取得値(電流測定値iq1)に基づいて、先端工具28による作業の進行状況を検知する。
【0012】
以上により、本実施形態の電動工具1では、電動工具1がトルクセンサを備えていなくても作業の進行状況を検知することができる。
【0013】
着座検知部53により検知される作業の進行状況の一例は、作業の完了の状態である。ねじが着座することで作業が完了する。そのため、着座検知部53は、ねじの着座の有無を検知する。
【0014】
ここで言うトルクセンサは、電動機15の動作トルクを測定する。トルクセンサは、例えば、ねじり歪みの検出が可能な磁歪式歪センサである。磁歪式歪センサは、電動機15の後述の回転軸16にトルクが加わることにより発生する歪みに応じた透磁率の変化を、電動機15の非回転部分に設置したコイルで検出し、歪みに比例した電圧信号を出力する。
【0015】
電動機15は、例えばブラシレスモータである。特に、本実施形態の電動機15は、同期電動機であり、より詳細には、永久磁石同期電動機(PMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor))である。電動機15は、永久磁石131を有する回転子13と、コイル141を有する固定子14と、を含んでいる。回転子13は、回転軸16を含む。コイル141と永久磁石131との電磁的相互作用により、回転子13は、固定子14に対して回転する。制御部4は、d軸電流(励磁電流)及びq軸電流(トルク電流)の電流測定値id1、iq1に基づいて、コイル141に供給されるd軸電流とq軸電流とを独立に制御するベクトル制御を行う。
【0016】
電流測定値iq1は、ベクトル制御と、先端工具28による作業の進行状況の検知と、の両方に用いられる。そのため、ベクトル制御のための回路の一部と先端工具28による作業の進行状況の検知のための回路の一部とを共有することができる。これにより、電動工具1に備えられる回路の面積及び寸法の低減、並びに、回路に要するコストの低減を図ることができる。
【0017】
また、電動工具1がトルクセンサを備えている場合に、電動工具1に生じる振動によりトルクセンサの固定が緩む可能性がある。トルクセンサの固定が緩むと、作業の進行状況の検知精度が低下する可能性がある。これに対して、本実施形態では、ベクトル制御のためにそもそも必要なセンサ(取得部60の後述の電流センサ61、62)とは別にトルクセンサを備えていなくてもよい。そのため、電動工具1が電流センサ61、62とトルクセンサとを共に備えている場合と比較すると、センサ数が少ないため、電動工具1に生じる振動により不具合が発生する可能性を低減できる。また、電動工具1の部材点数の増加を抑制できる。
【0018】
ただし、電動工具1は、ベクトル制御のための回路と先端工具28による作業の進行状況の検知のための回路とで個別に電流測定値iq1を取得するように構成されていてもよい。
【0019】
(2)電動工具
図2に示すように、電動工具1は、電動機15と、電源32と、駆動伝達部18と、インパクト機構17と、ソケット23と、トリガボリューム29と、制御部4と、モータ回転測定部27と、を備えている。また、電動工具1は、先端工具28を更に備えている。
【0020】
インパクト機構17は、電動機15から動力を得て打撃力を発生させる打撃動作を行う。インパクト機構17は、出力軸21を有している。出力軸21は、電動機15から伝達された駆動力により回転する部分である。ソケット23は、出力軸21に固定されており、先端工具28が着脱自在に取り付けられる部分である。電動工具1は、先端工具28を電動機15の駆動力で駆動する工具である。先端工具28(ビットとも言う)は、例えば、ドライバビット又はドリルビット等である。各種の先端工具28のうち用途に応じた先端工具28が、ソケット23に取り付けられて用いられる。なお、出力軸21に直接に先端工具28が装着されてもよい。
【0021】
本実施形態の先端工具28は、ねじを締めるためのドライバビットである。すなわち、インパクト機構17の出力軸21は、ねじを締めるためのドライバビットを保持し、電動機15から動力を得て回転する。ねじの種類は特に限定されず、例えば、ボルト、ビス又はナットであってよい。
図2には、ねじとしての木ねじ30を図示している。木ねじ30は、頭部301と、円筒部302と、ねじ部303と、を有している。円筒部302の両端に、頭部301とねじ部303とがつながっている。頭部301には、先端工具28に適合するねじ穴(例えば、十字穴)が形成されている。ねじ部303には、ねじ山が形成されている。
【0022】
先端工具28が木ねじ30の頭部301のねじ穴に挿入された状態で、先端工具28は、電動機15に駆動されて回転し、木ねじ30を回転させる。木ねじ30は、ねじ締め対象の部材(例えば木材700(
図4A参照))に穴とねじ溝とを形成しながら、ねじ締め対象の部材に埋め込まれる。円筒部302の全体がねじ締め対象の部材に埋め込まれると、頭部301がねじ締め対象の部材に接する、言い換えると、木ねじ30がねじ締め対象の部材に着座する(
図4C参照)。
【0023】
電動機15は、先端工具28を駆動する駆動源である。電動機15は、回転動力を出力する回転軸16を有している。電源32は、電動機15を駆動する電流を供給する。電源32は、例えば、1又は複数の2次電池を含む。駆動伝達部18は、電動機15の回転動力を調整して所望のトルクを出力する。駆動伝達部18は、出力部である駆動軸22を備えている。
【0024】
駆動伝達部18の駆動軸22は、インパクト機構17に接続されている。インパクト機構17は、駆動伝達部18を介して受け取った電動機15の回転動力をパルス状のトルクに変換してインパクト力を発生する。インパクト機構17は、ハンマ19と、アンビル20と、出力軸21と、ばね24と、を備えている。ハンマ19は、駆動伝達部18の駆動軸22にカム機構を介して取り付けられている。アンビル20はハンマ19に結合されており、ハンマ19と一体に回転する。ばね24は、ハンマ19をアンビル20側に押している。アンビル20は、出力軸21と一体に形成されている。なお、アンビル20は、出力軸21とは別体に形成されて出力軸21に固定されていてもよい。
【0025】
出力軸21に所定の大きさ以上の負荷(トルク)がかかっていないときには、カム機構により連結された駆動軸22とハンマ19とが一体に回転し、さらにハンマ19とアンビル20とが一体に回転するので、アンビル20と一体に形成された出力軸21が回転する。一方で、出力軸21に所定の大きさ以上の負荷がかかった時には、ハンマ19がカム機構による規制を受けながらばね24に抗して後退する(つまり、アンビル20から離れる)。ハンマ19の後退によりハンマ19とアンビル20との結合が外れた時点で、ハンマ19は回転しながら前進してアンビル20に回転方向の打撃力を与え、出力軸21を回転させる。インパクト機構17の打撃動作では、ハンマ19がアンビル20に回転方向の打撃力を与える動作が繰り返される。インパクト機構17の動作が正常な場合には、ハンマ19が前進と後退とを1回ずつ行う間に、打撃動作が1回行われる。
【0026】
トリガボリューム29は、電動機15の回転を制御するための操作を受け付ける操作部である。トリガボリューム29を引く操作により、電動機15のオンオフを切替可能である。また、トリガボリューム29を引く操作の引込み量で、出力軸21の回転速度、つまり電動機15の回転速度を調整可能である。上記引込み量が大きいほど、電動機15の回転速度が速くなる。制御部4は、トリガボリューム29を引く操作の引込み量に応じて、電動機15を回転又は停止させ、また、電動機15の回転速度を制御する。この電動工具1では、先端工具28がソケット23に取り付けられる。そして、トリガボリューム29への操作によって電動機15の回転速度が制御されることで、先端工具28の回転速度が制御される。
【0027】
なお、本実施形態の電動工具1はソケット23を備えることで、先端工具28を用途に応じて交換可能であるが、先端工具28が交換可能であることは必須ではない。例えば、電動工具1は、特定の先端工具28のみ用いることができる電動工具であってもよい。
【0028】
モータ回転測定部27は、電動機15の回転角を測定する。モータ回転測定部27としては、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを採用することができる。
【0029】
電動工具1は、インバータ回路部51(
図1参照)を備えている。インバータ回路部51は、電動機15に電流を供給する。制御部4は、インバータ回路部51と共に用いられ、フィードバック制御により電動機15の動作を制御する。
【0030】
(3)制御部
制御部4は、1以上のプロセッサ及びメモリを有するコンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムを、コンピュータシステムのプロセッサが実行することにより、制御部4の少なくとも一部の機能が実現される。プログラムは、メモリに記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0031】
制御部4は、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する打撃検知部49を有している。制御部4の制御は、ベクトル制御による弱め磁束制御を含む。弱め磁束制御では、制御部4は、インバータ回路部51から電動機15のコイル141に弱め磁束電流(マイナスの励磁電流)を流させる。弱め磁束電流は、永久磁石131の磁束を弱める磁束(弱め磁束)をコイル141に発生させる。これにより、電動機15の回転数(回転軸16の回転数)が増加する。
【0032】
「永久磁石131の磁束を弱める磁束をコイル141に発生させる」とは、言い換えると、コイル141で発生する磁束により、永久磁石131の周囲の磁束密度を弱めることである。
【0033】
また、制御部4の制御は、通常制御を含む。通常制御では、制御部4は、インバータ回路部51からコイル141に弱め磁束電流を流させない。つまり、通常制御においてコイル141に流れる電流は、トルク電流(q軸電流)のみとなる。
【0034】
通常制御は、励磁電流の指令値cid1を0にし、励磁電流の電流測定値id1がこの指令値cid1に収束するように行う制御と言える。弱め磁束制御は、励磁電流の指令値cid1を0より小さくし、電流測定値id1がこの指令値cid1に収束するように行う制御と言える。励磁電流の指令値cid1が0より小さくなると、電動機15にマイナスの励磁電流が流れ、弱め磁束により、永久磁石131の磁束が弱まる。
【0035】
また、制御部4は、着座検知部53の検知結果に基づいて電動機15の動作を制御する。より詳細には、制御部4は、着座検知部53がねじの着座を検知すると、電動機15を停止させる。これにより、ねじの締め過ぎを抑制できる。
【0036】
図1に示すように、制御部4は、指令値生成部41と、速度制御部42と、電流制御部43と、第1の座標変換器44と、第2の座標変換器45と、磁束制御部46と、推定部47と、脱調検出部48と、打撃検知部49と、着座検知部53と、を有している。また、電動工具1は、複数(
図1では2つ)の電流センサ61、62を備えている。
【0037】
複数の電流センサ61、62はそれぞれ、例えば、ホール素子電流センサ又はシャント抵抗素子を含んでいる。複数の電流センサ61、62は、電源32からインバータ回路部51を介して電動機15に供給される電流を測定する。ここで、電動機15には、3相電流(U相電流、V相電流及びW相電流)が供給されており、複数の電流センサ61、62は、少なくとも2相の電流を測定する。
図1では、電流センサ61がU相電流を測定して電流測定値i
u1を出力し、電流センサ62がV相電流を測定して電流測定値i
v1を出力する。
【0038】
推定部47は、モータ回転測定部27で測定された電動機15の回転角θ1を時間微分して、電動機15の角速度ω1(回転軸16の角速度)を算出する。
【0039】
取得部60は、2つの電流センサ61、62と、第2の座標変換器45と、を有している。取得部60は、電動機15に供給されるd軸電流及びq軸電流を取得する。すなわち、2つの電流センサ61、62で測定された2相の電流が第2の座標変換器45で変換されることで、d軸電流の電流測定値id1及びq軸電流の電流測定値iq1が算出される。
【0040】
第2の座標変換器45は、複数の電流センサ61、62で測定された電流測定値iu1、iv1を、モータ回転測定部27で測定された電動機15の回転角θ1に基づいて座標変換し、電流測定値id1、iq1を算出する。すなわち、第2の座標変換器45は、3相電流に対応する電流測定値iu1、iv1を、磁界成分(d軸電流)に対応する電流測定値id1と、トルク成分(q軸電流)に対応する電流測定値iq1とに変換する。
【0041】
指令値生成部41は、電動機15の角速度の指令値cω1を生成する。指令値生成部41は、例えば、トリガボリューム29(
図2参照)を引く操作の引込み量に応じた指令値cω1を生成する。すなわち、指令値生成部41は、上記引込み量が大きいほど、角速度の指令値cω1を大きくする。
【0042】
速度制御部42は、指令値生成部41で生成された指令値cω1と推定部47で算出された角速度ω1との差分に基づいて、指令値ciq1を生成する。指令値ciq1は、電動機15のトルク電流(q軸電流)の大きさを指定する指令値である。速度制御部42は、指令値cω1と角速度ω1との差分を小さくするように指令値ciq1を決定する。
【0043】
磁束制御部46は、推定部47で算出された角速度ω1と、電流制御部43で生成される指令値cvq1(後述する)と、電流測定値iq1(q軸電流)と、打撃検知部49の検知結果とに基づいて、指令値cid1を生成する。指令値cid1は、電動機15の励磁電流(d軸電流)の大きさを指定する指令値である。制御部4の制御が通常制御の場合は、磁束制御部46で生成される指令値cid1は、励磁電流の大きさを0にするための指令値となる。制御部4の制御が弱め磁束制御の場合は、磁束制御部46は、指令値cid1を0より小さい値にする。
【0044】
電流制御部43は、磁束制御部46で生成された指令値cid1と第2の座標変換器45で算出された電流測定値id1との差分に基づいて、指令値cvd1を生成する。指令値cvd1は、電動機15のd軸電圧の大きさを指定する指令値である。電流制御部43は、指令値cid1と電流測定値id1との差分を小さくするように指令値cvd1を決定する。
【0045】
また、電流制御部43は、速度制御部42で生成された指令値ciq1と第2の座標変換器45で算出された電流測定値iq1との差分に基づいて、指令値cvq1を生成する。指令値cvq1は、電動機15のq軸電圧の大きさを指定する指令値である。電流制御部43は、指令値ciq1と電流測定値iq1との差分を小さくするように指令値cvq1を生成する。
【0046】
第1の座標変換器44は、指令値cvd1、cvq1を、モータ回転測定部27で測定された電動機15の回転角θ1に基づいて座標変換し、指令値cvu1、cvv1、cvw1を算出する。すなわち、第1の座標変換器44は、磁界成分(d軸電圧)に対応する指令値cvd1と、トルク成分(q軸電圧)に対応する指令値cvq1とを、3相電圧に対応する指令値cvu1、cvv1、cvw1に変換する。指令値cvu1はU相電圧に、指令値cvv1はV相電圧に、指令値cvw1はW相電圧に対応する。
【0047】
インバータ回路部51は、指令値cvu1、cvv1、cvw1に応じた3相電圧を電動機15に供給する。制御部4は、インバータ回路部51をPWM(Pulse Width Modulation)制御することにより、電動機15に供給される電力を制御する。
【0048】
電動機15は、インバータ回路部51から供給された電力(3相電圧)により駆動され、回転動力を発生させる。
【0049】
この結果、制御部4は、電動機15のコイル141に流れる励磁電流が、磁束制御部46で生成された指令値cid1に対応した大きさとなるように励磁電流を制御する。また、制御部4は、電動機15の角速度が、指令値生成部41で生成された指令値cω1に対応した角速度となるように電動機15の角速度を制御する。
【0050】
脱調検出部48は、第2の座標変換器45から取得した電流測定値id1、iq1と、電流制御部43から取得した指令値cvd1、cvq1と、に基づいて、電動機15の脱調を検出する。脱調が検出された場合は、脱調検出部48は、インバータ回路部51に停止信号cs1を送信して、インバータ回路部51から電動機15への電力供給を停止させる。
【0051】
打撃検知部49は、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する。より詳細には、打撃検知部49は、コイル141に供給されるトルク電流及び励磁電流のうち少なくとも一方に基づいて、インパクト機構17の打撃動作の有無を検知する。
【0052】
打撃検知部49は、例えば、d軸電流の電流測定値id1の交流成分の振幅とq軸電流の電流測定値iq1の交流成分の振幅とのうち少なくとも一方が、対応する閾値よりも大きい場合に、打撃動作が行われていることを検知する。この場合に、打撃検知部49は、インパクト機構17が打撃動作をしているという検知結果(打撃検知信号b1)を出力する。
【0053】
(4)着座検知部
先端工具28により、ねじがねじ締めされる。着座検知部53は、ねじがねじ締め対象の部材に着座したか否かを検知する。より詳細には、着座検知部53は、トルク電流取得値(電流測定値iq1)が増加した後、トルク電流取得値(電流測定値iq1)の変化量が所定量以下になることをもって、ねじがねじ締め対象の部材に着座したことを検知する。ねじ締め対象の部材は、例えば、木材700(
図4A参照)である。
【0054】
ここで、着座検知部53は、電流測定値iq1を平滑化し、平滑化後の電流測定値iq1に基づいて着座を検知する。
図3では、時点T3~T6において、平滑化後の電流測定値iq1を破線L1で図示している。平滑化後の電流測定値iq1は、時点T4~T5において増加した後、時点T5~T6において、その変化量が所定量以下となる。これをもって、着座検知部53はねじの着座を検知する。より具体的には、着座検知部53は、平滑化後の電流測定値iq1が所定時間(例えば、100ミリ秒)に所定量(例えば、10%)以上増加した後、その変化量がある範囲内(例えば、変化量の絶対値が電流測定値iq1の5%以下)の状態がある時間(例えば、100ミリ秒)継続することをもって、ねじの着座を検知する。
【0055】
図4A~
図4Eは、電動工具1により木ねじ30をねじ締め対象の部材(ここでは、木材700)にねじ込む際の木ねじ30の位置を時系列順に示した図である。
図4Aは
図3の時点T1に対応する。
図4Bは時点T3に、
図4Cは時点T4に、
図4Dは時点T5に、
図4Eは時点T6に対応する。
【0056】
図4Aは、木ねじ30が木材700に穴をあける前の状態を示す。
図4Bは、木ねじ30が木材700に穴をあけて木ねじ30の一部が木材700に埋め込まれた状態を示す。
【0057】
図4Cは、木ねじ30の頭部301が木材700に接した状態を示す。言い換えると、
図4Cにおいて木ねじ30が木材700に着座している。
図4Dは、木ねじ30の頭部301が木材700に埋め込まれ、頭部301の先端と木材700の座面701(表面)とが略面一である状態を示す。
図4Eは、木ねじ30が木材700に更に埋め込まれ、頭部301の先端が木材700の座面701よりも奥に位置している状態を示す。
【0058】
着座を検知するとは、着座した直後の
図4Cの状態を検知することと、
図4Cよりも後の状態(例えば、
図4D又は
図4Eの状態)を検知することと、のうち少なくとも一方を行うことを言う。
【0059】
制御部4は、ねじがねじ締め対象の部材に着座したことを着座検知部53が検知すると、電動機15の動作を停止させる(時点T6参照)。
【0060】
(5)動作例
次に、電動工具1の動作例について、
図3、
図4A~
図4Eを参照して説明する。
図3において、「電池電圧」は、電源32の電池電圧を指し、「電池電流」は、電源32の電池電流を指す。
図3では図示していないが、
図3の動作例では、励磁電流の指令値cid1は常に0である。つまり、
図3の動作例では、制御部4は、常に通常モードにて動作する。
【0061】
まず、ユーザが先端工具28を木ねじ30に差し込み、木ねじ30の先端をねじ締め対象の部材(ここでは、木材700)に当てる(
図4A参照)。時点T1においてユーザが電動工具1のトリガボリューム29を引く操作をすることで、電動機15が回転を開始する。その後、トリガボリューム29に対する引込み量に応じて、角速度ω1は徐々に変化する。時点T2付近において、トリガボリューム29に対する引込み量は最大にされる。そのため、角速度ω1の指令値cω1が上限値R1まで徐々に増加し、これに応じて角速度ω1が徐々に増加する。また、出力軸21にかかっているトルクが増加することにより、時点T3において、インパクト機構17が打撃動作を開始する(
図4B参照)。
【0062】
その後、時点T4に(
図4C参照)、木ねじ30の頭部301が木材700に接する(着座する)。時点T4以降に、木ねじ30の頭部301が木材700に埋め込まれる。時点T6において、着座検知部53が木ねじ30の着座を検知する。着座検知部53が着座を検知すると、制御部4は、電動機15の動作を停止させる。すなわち、制御部4は、電動機15の角速度ω1の指令値cω1を0にする。これにより、電動機15の角速度ω1は0となる。
【0063】
(実施形態の変形例)
以下、実施形態の変形例を列挙する。以下の変形例は、適宜組み合わせて実現されてもよい。
【0064】
着座検知部53は、トルク電流取得値(電流測定値iq1)の増加速度及び増加後の大きさのうち少なくとも一方に基づいて、ねじがねじ締め対象の部材に着座したか否かを検知してもよい。例えば、着座検知部53は、電流測定値iq1を平滑化し、平滑化後の電流測定値iq1に基づいて着座を検知してもよい。着座検知部53は、平滑化後の電流測定値iq1が所定時間(例えば、100ミリ秒)に所定量(例えば、10%)以上増加した後、平滑化後の電流測定値iq1がある範囲内の状態(例えば、所定の閾値より大きい状態)がある時間(例えば、100ミリ秒)継続することをもって、ねじの着座を検知してもよい。
【0065】
着座検知部53は、打撃検知部49がインパクト機構17の打撃動作を検知してから、所定のマスク期間が経過した後に、着座の有無の検知を開始してもよい。
【0066】
取得部60は、トルク電流取得値としての電流測定値iq1を取得する構成に限定されない。取得部60は、トルク電流取得値としてのトルク電流の指令値ciq1を取得する構成であってもよい。この場合、取得部60は、少なくとも速度制御部42を含む。
【0067】
また、取得部60は、取得部60自身により電流測定値iq1を算出することで、電流測定値iq1を取得する構成に限定されない。取得部60は、取得部60以外の構成から電流測定値iq1を取得してもよい。
【0068】
電動工具1は、インパクト工具に限らず、インパクト機構17を備えていない電動工具に適用されてもよい。電動工具1の構成は、例えば、インパクト工具に代えて、電動のドライバ、ドリル、ドリルドライバ、フライス、グラインダ、クリーナ、ジグソー又はホールソーに適用されてもよい。
【0069】
先端工具28を用いた特定の作業時には、電流測定値iq1が増加し、その後、作業が完了した場合(例えば、ねじが着座した場合)、及び、不具合の発生時等には、電流測定値iq1の増加速度の減少、又は、電流測定値iq1の減少等が起きる。そこで、検知部(着座検知部53)は、電流測定値iq1の増加を検知した後、電流測定値iq1の増加速度の減少、又は、電流測定値iq1の減少等を検知することで、作業の進行状況を検知してもよい。例えば、電流測定値iq1の変化速度又は電流測定値iq1の瞬時値を対応する閾値と比較することで、電流測定値iq1又はその増加速度の、増加又は減少を検知することができる。
【0070】
本開示の内容がドリル、フライス、ジグソー又はホールソーに適用される場合に、着座検知部53に相当する検知部は、例えば、作業が完了したか否かを検知してもよい。本開示の内容がドリルに適用される場合は、作業の完了とは、先端工具としてのドリルビットが穴あけ対象の部材(木材等)を貫通することである。本開示の内容がフライス、ジグソー又はホールソーに適用される場合は、作業の完了とは、先端工具が切断対象の部材(木材等)を切断することである。検知部は、例えば、トルク電流の電流測定値iq1が第1の閾値よりも大きい状態から、所定時間以内に、第2の閾値以上低下することをもって、作業の完了を検知してもよい。検知部が作業の完了を検知すると、制御部4は、電動機15の動作を停止させてもよい。
【0071】
また、着座検知部53に相当する検知部は、作業の進行中に発生する不具合を検知してもよい。不具合の一例は、先端工具28が破損すること、又は、ねじのねじ穴が潰れること等である。検知部は、例えば、トルク電流の電流測定値iq1が第3の閾値よりも大きい状態から、所定時間以内に、第4の閾値以上低下することをもって、不具合を検知してもよい。検知部が不具合を検知すると、制御部4は、電動機15の動作を停止させてもよい。
【0072】
また、着座検知部53は、先端工具28により駆動されるナットが着座したか否かを検知してもよい。ナットが着座するとは、ナットが回転しながら直線的に移動して、移動方向に配置された部材の座面又は座面に配置された座金等に接することを言う。ナットの着座の有無の検知には、例えば、ねじの着座の有無の検知と同様の判定条件が用いられればよい。着座検知部53がナットの着座を検知すると、制御部4は、電動機15の動作を停止させてもよい。
【0073】
検知部(着座検知部53)は、作業の進行状況を検知するための判定条件を、先端工具28の種類等に応じて、複数の条件の中から自動で切り替えてもよい。電動工具1は、例えば、先端工具28の種類を先端工具28に付された識別符号を読み取ることで判定し、先端工具28の種類に応じて、作業の進行状況を検知するための判定条件を切り替えてもよい。
【0074】
電動工具1は、着座検知部53(検知部)の検知結果を報知する報知部を備えていてもよい。報知部は、例えば、ブザー又は光源を有し、着座検知部53が着座を検知すると、音又は光を発することにより着座を報知する。
【0075】
電動機15は、交流電動機に限定されず、直流電動機であってもよい。また、回転式の電動機15に代えて、リニアモータが用いられてもよい。
【0076】
電動機15において、回転子13がコイル141を有しており、かつ、永久磁石131が固定子14を有していてもよい。
【0077】
打撃検知部49は、ショックセンサを備えていてもよい。ショックセンサは、ショックセンサに加えられた振動の大きさに応じた大きさの電圧又は電流を出力する。打撃検知部49は、ショックセンサの出力に基づいてインパクト機構17の打撃動作の有無を検知してもよい。ショックセンサは、インパクト機構17で発生する振動が伝わる位置に配置されていればよい。例えば、インパクト機構17の付近に配置されてもよいし、制御部4の付近に配置されてもよい。
【0078】
先端工具28は、電動工具1の構成に含まれていなくてもよい。
【0079】
電動工具1は、ビット回転測定部を備えていてもよい。ビット回転測定部は、出力軸21の回転角を測定する。ここでは、出力軸21の回転角は、先端工具28(ビット)の回転角に等しい。ビット回転測定部としては、例えば、光電式エンコーダ又は磁気式エンコーダを採用することができる。
【0080】
(まとめ)
以上説明した実施形態等から、以下の態様が開示されている。
【0081】
第1の態様に係る電動工具1は、電動機15と、出力軸21と、取得部60と、検知部(着座検知部53)と、を備える。出力軸21は、先端工具28を保持する。出力軸21は、電動機15により駆動される。取得部60は、電動機15に供給されるトルク電流の値を取得する。検知部は、取得部60で取得されたトルク電流の値であるトルク電流取得値(電流測定値iq1)に基づいて、先端工具28による作業の進行状況を検知する。
【0082】
上記の構成によれば、電動工具1がトルクセンサを備えていなくても、作業の進行状況を検知することができる。
【0083】
また、第2の態様に係る電動工具1では、第1の態様において、出力軸21は、ねじを締めるためのドライバビットを先端工具28として保持する。検知部(着座検知部53)は、ねじがねじ締め対象の部材に着座したか否かを検知する。
【0084】
上記の構成によれば、ねじの着座を検知できるので、着座後にねじを締め過ぎることを抑制するための対策等を実施することが可能となる。
【0085】
また、第3の態様に係る電動工具1では、第2の態様において、検知部(着座検知部53)は、トルク電流取得値(電流測定値iq1)が増加した後、トルク電流取得値の変化量が所定量以下になることをもって、ねじが部材に着座したことを検知する。
【0086】
上記の構成によれば、簡素な処理によりねじの着座を検知できる。
【0087】
また、第4の態様に係る電動工具1では、第2又は3の態様において、検知部(着座検知部53)は、トルク電流取得値(電流測定値iq1)の増加速度及び増加後の大きさのうち少なくとも一方に基づいて、ねじが部材に着座したか否かを検知する。
【0088】
上記の構成によれば、簡素な処理によりねじの着座を検知できる。
【0089】
また、第5の態様に係る電動工具1は、第2~4の態様のいずれか1つにおいて、制御部4を更に備える。制御部4は、検知部(着座検知部53)の検知結果に基づいて電動機15の動作を制御する。制御部4は、ねじが部材に着座したことを検知部が検知すると、電動機15の動作を停止させる。
【0090】
上記の構成によれば、ねじの締め過ぎを抑制できる。
【0091】
また、第6の態様に係る電動工具1は、第1~4の態様のいずれか1つにおいて、制御部4を更に備える。制御部4は、検知部(着座検知部53)の検知結果に基づいて電動機15の動作を制御する。
【0092】
上記の構成によれば、作業の進行状況に応じて電動機15を制御することができる。
【0093】
第1の態様以外の構成については、電動工具1に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 電動工具
4 制御部
15 電動機
21出力軸
28 先端工具
53 着座検知部(検知部)
60 取得部
iq1 電流測定値(トルク電流取得値)