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特許7228767センサシステム、空気調和システム、物体検知方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】センサシステム、空気調和システム、物体検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01V 8/10 20060101AFI20230217BHJP
【FI】
G01V8/10 S
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020519923
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2019019569
(87)【国際公開番号】W WO2019221244
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2018094769
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 延亮
(72)【発明者】
【氏名】山中 浩
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-148354(JP,A)
【文献】特開2017-053603(JP,A)
【文献】特開2015-055384(JP,A)
【文献】特開2005-017184(JP,A)
【文献】特開2014-089164(JP,A)
【文献】特開平08-271645(JP,A)
【文献】特開平05-118916(JP,A)
【文献】特開2018-131071(JP,A)
【文献】特開平8-94400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 5/00-15/00;99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体検知システムと、温度センサと、を備えるセンサシステムであって、
前記温度センサは、回転可能に構成されており、
前記物体検知システムは、
前記温度センサを回転させて、少なくとも特定エリアを含む複数のエリア間で検知エリアを切り替える切替部と、
前記検知エリアの温度を検知する前記温度センサの出力データと前記複数のエリアの各々に対応する背景データとの比較結果に基づいて、前記検知エリア内の対象物の有無を判断する判断部と、
前記特定エリアに対応する前記背景データを、前記検知エリアが前記特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正する背景補正部と、を備える、
センサシステム。
【請求項2】
前記出力データ及び前記背景データの各々は、それぞれ温度値を画素値とする複数の画素を含む画像データである、
請求項1に記載のセンサシステム。
【請求項3】
前記温度変化量は、前記検知エリアが前記特定エリア以外のエリアである期間における前記背景データの前記複数の画素についての前記温度値の変化量の代表値である、
請求項2に記載のセンサシステム。
【請求項4】
前記温度変化量は、前記検知エリアが、前記特定エリア以外のエリアであって、前記特定エリアの一部である重複領域において前記特定エリアと重複するエリアである期間における、前記背景データの前記複数の画素のうち前記重複領域の画素についての前記温度値の変化量の代表値である、
請求項2に記載のセンサシステム。
【請求項5】
前記温度変化量は、前記検知エリアが前記特定エリア以外のエリアである期間における前記背景データ中の前記温度値の分布を反映した値である、
請求項2に記載のセンサシステム。
【請求項6】
前記温度変化量は、前記検知エリアが前記特定エリア以外のエリアである期間における前記背景データの前記複数の画素のうち、特定画素を除いた画素についての前記温度値の変化量の代表値である、
請求項2に記載のセンサシステム。
【請求項7】
前記判断部は、前記検知エリアが同一のエリアにある期間に前記対象物の有無を複数回判断する、
請求項1~6のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項8】
前記判断部が前記対象物の有無を判断する度に前記背景データを更新する背景更新部を更に備える、
請求項7に記載のセンサシステム。
【請求項9】
前記対象物は、動体である、
請求項1~8のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項10】
前記検知エリアが前記複数のエリアの各々に固定される時間はエリアによって異なる、
請求項1~9のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項11】
前記複数のエリアは、3つ以上のエリアを含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載のセンサシステム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載のセンサシステムと、
前記判断部の出力に基づいて動作する空気調和機と、を備える、
空気調和システム。
【請求項13】
温度センサを回転させて、少なくとも特定エリアを含む複数のエリア間で検知エリアを切り替える切替処理と、
前記検知エリアの温度を検知する前記温度センサの出力データと前記複数のエリアの各々に対応する背景データとの比較結果に基づいて、前記検知エリア内の対象物の有無を判断する判断処理と、
前記特定エリアに対応する前記背景データを、前記検知エリアが前記特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正する背景補正処理と、を有する、
物体検知方法。
【請求項14】
請求項13に記載の物体検知方法を、コンピュータシステムに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般にセンサシステム、空気調和システム、物体検知方法及びプログラムに関し、より詳細には、温度センサの出力から対象物を検知するセンサシステム、空気調和システム、物体検知方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、在室者の存在及び在室者の位置を検知する人感センサを備える空気調和機が記載されている。この空気調和機は、人感センサの検知結果(検知信号)で特定される在室者の存在及び在室者の位置を参照して、ファンユニット等の制御を実行する。
【0003】
例えば、空気調和機は、人感センサの検知結果に基づき、左右風向板の向きを決定し、気流を高い精度で在室者に向けることができる。また、人感センサの働きによれば、気流は在室者の移動に追従することもでき、在室者が移動しても、気流は的確に在室者に到達することができる。これにより、在室者は確実に気流の冷却効果に基づく涼感を得ることができる。
【0004】
このような人感センサとしては、検知エリアの温度を検知する温度センサの出力に基づいて、検知エリア内の対象物(在室者)を検知する物体検知システムを利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-126295号公報
【発明の概要】
【0006】
しかし、上述した物体検知システムでは、対象物を検知可能なエリアは温度センサの視野角内に制限されてしまい、例えば、室内であっても温度センサの視野角の外側に存在する対象物(在室者)については検知できない可能性がある。
【0007】
本開示は上記事由に鑑みてなされており、対象物を検知可能なエリアを広げることができるセンサシステム、空気調和システム、物体検知方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【0008】
本開示の一態様に係るセンサシステムは、物体検知システムと、温度センサと、を備える。前記温度センサは、回転可能に構成されている。前記物体検知システムは、切替部と、判断部と、背景補正部と、を備える。前記切替部は、前記温度センサを回転させて、少なくとも特定エリアを含む複数のエリア間で検知エリアを切り替える。前記判断部は、前記検知エリアの温度を検知する前記温度センサの出力データと前記複数のエリアの各々に対応する背景データとの比較結果に基づいて、前記検知エリア内の対象物の有無を判断する。前記背景補正部は、前記特定エリアに対応する前記背景データを、前記検知エリアが前記特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正する。
【0010】
本開示の一態様に係る空気調和システムは、前記センサシステムと、前記判断部の出力に基づいて動作する空気調和機と、を備える。
【0011】
本開示の一態様に係る物体検知方法は、切替処理と、判断処理と、背景補正処理と、を有する。前記切替処理は、温度センサを回転させて、少なくとも特定エリアを含む複数のエリア間で検知エリアを切り替える処理である。前記判断処理は、前記検知エリアの温度を検知する前記温度センサの出力データと前記複数のエリアの各々に対応する背景データとの比較結果に基づいて、前記検知エリア内の対象物の有無を判断する処理である。前記背景補正処理は、前記特定エリアに対応する前記背景データを、前記検知エリアが前記特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正する処理である。
【0012】
本開示の一態様に係るプログラムは、前記物体検知方法を、コンピュータシステムに実行させるためのプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態1に係る物体検知システム、センサシステム及び空気調和システムの構成を示すブロック図である。
図2図2A及び図2Bは、同上の物体検知システムにおける対象物が有るときの動作の説明図である。
図3図3A及び図3Bは、同上の物体検知システムにおける対象物が無いときの動作の説明図である。
図4図4A及び図4Bは、同上の物体検知システムにおける判断処理の説明図である。
図5図5は、同上の物体検知システムの動作例を示すフローチャートである。
図6図6は、同上の物体検知システムの動作例を示すフローチャートである。
図7図7は、同上の物体検知システムの判断処理に係る動作例を示すフローチャートである。
図8図8は、同上の物体検知システムの動作の説明図である。
図9図9は、比較例に係る物体検知システムの動作例を示すフローチャートである。
図10図10A及び図10Bは、同上の物体検知システムの動作の説明図である。
図11図11A図11Cは、実施形態1の変形例に係る物体検知システムの動作の説明図である。
図12図12は、実施形態2の第1の構成例に係る物体検知システムの動作の説明図である。
図13図13Aは、実施形態2の第2の構成例に係る物体検知システムの動作の説明図である。図13Bは、実施形態2の第3の構成例に係る物体検知システムの動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
(1)概要
本実施形態に係る物体検知システム1は、図1に示すように、温度センサ2と共にセンサシステム20を構成する。言い換えれば、本実施形態に係るセンサシステム20は、物体検知システム1と、温度センサ2と、を備えている。また、センサシステム20は、空気調和機3と共に、空気調和システム30を構成する。言い換えれば、本実施形態に係る空気調和システム30は、センサシステム20と、空気調和機3と、を備えている。
【0015】
この物体検知システム1は、温度センサ2の出力に基づいて、検知エリア4(図2A参照)内の対象物5(図2A参照)を検知するシステムである。この物体検知システム1では、温度センサ2の出力データD1(図4B参照)と背景データD2(図4B参照)との比較結果に基づいて、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。つまり、物体検知システム1では、対象物5を熱源として捉え、対象物5が検知エリア4に存在することによる検知エリア4の温度変化に基づいて、対象物5の存在を検知する。
【0016】
空気調和システム30においては、例えば、空気調和機3は、センサシステム20の検知結果に基づいて動作する。一例として、空気調和システム30に用いられるセンサシステム20は、空気調和機3が設置された室内に存在する「人」を対象物5として、室内に人(対象物5)が存在するか否かを判断する。そして、室内に人(対象物5)が存在しないとセンサシステム20が判断した場合には、空気調和機3は、例えば、動作モードを省電力モードに切り替える又は動作を停止する等の制御を実行する。
【0017】
本実施形態に係る物体検知システム1は、図1に示すように、切替部12と、判断部11と、背景補正部13と、を備えている。切替部12は、少なくとも特定エリアを含む複数のエリアA1~A3(図2A参照)間で検知エリア4を切り替える。判断部11は、温度センサ2の出力データD1と背景データD2との比較結果に基づいて、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。温度センサ2は、検知エリア4の温度を検知する。背景データD2は、複数のエリアA1~A3の各々に対応する。背景補正部13は、特定エリアに対応する背景データD2を、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正する。
【0018】
この構成によれば、温度センサ2にて温度が検知される検知エリア4が切替部12により、複数のエリアA1~A3間で切り替えられるので、検知エリア4が固定されている場合に比べて、対象物5を検知可能なエリアを広げることができる。すなわち、上記構成の物体検知システム1では、対象物5を検知可能なエリアは温度センサ2の視野角内に制限されず、温度センサ2の視野角の外側に存在する対象物5についても検知可能となる。
【0019】
しかも、本実施形態に係る物体検知システム1においては、背景補正部13が、特定エリアに対応する背景データD2を、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正する。これにより、検知エリア4が複数のエリアA1~A3間で切り替えられるにもかかわらず、物体検知システム1における対象物5の検知の信頼性(検知確度)は低下しにくい。この点について、詳しくは「(2.3)動作」の欄で説明する。
【0020】
(2)詳細
以下、本実施形態に係る物体検知システム1、センサシステム20及び空気調和システム30について、より詳細に説明する。
【0021】
(2.1)全体構成
本実施形態に係る空気調和システム30は、上述したように、センサシステム20と、空気調和機3と、を備えている。本実施形態では一例として、空気調和システム30は空気調和機3を1台のみ備えていることとするが、この例に限らず、空気調和システム30は空気調和機3を複数台備えていてもよい。
【0022】
また、本実施形態に係るセンサシステム20は、上述したように、物体検知システム1と、温度センサ2と、を備えている。本実施形態では、センサシステム20は、駆動部21を更に備えている。そして、本実施形態では、センサシステム20の全ての構成要素が空気調和機3と一体化されている。言い換えれば、空気調和システム30の構成要素は全て、1つの空気調和機3の筐体31(図2A参照)に設けられている。
【0023】
本実施形態では一例として、空気調和システム30が、戸建住宅又は集合住宅等の住宅施設に導入される場合について説明する。具体的には、空気調和機3の筐体31は、住宅施設における1つの居室40(図2A参照)の壁又は天井に取り付けられている。この場合において、空気調和機3は、居室40内の温度、湿度、空気清浄度及び気流等を調整する。
【0024】
空気調和システム30に用いられるセンサシステム20は、空気調和機3が設置された居室40内に存在する「人」を対象物5として、居室40内に人(対象物5)が存在するか否かを判断する。つまり、センサシステム20による対象物5の検知の対象となるエリアと、空気調和機3による空気調和の対象となるエリアと、は同一の空間(居室40内)に設定される。そこで、居室40内に人(対象物5)が存在しないとセンサシステム20が判断した場合には、空気調和機3は、例えば、動作モードを省電力モードに切り替える又は動作を停止する等の制御を実行する。
【0025】
さらに、本実施形態に係るセンサシステム20は、人(対象物5)の存否だけでなく、居室40内に存在する人の位置、及び居室40内に存在する人の数(人数)についても認識可能である。そこで、空気調和機3は、居室40内での人の位置と人数との少なくとも一方に応じて、例えば、気流の向き(風向き)又は風量を変化させる等の制御を実行する。
【0026】
また、本実施形態では、温度センサ2は、それぞれ赤外線を検知する複数のセンサ素子を、二次元に配置した赤外線アレイセンサである。本開示でいう「赤外線」は、少なくとも人体から放射される光線(熱線)であって、例えば、10〔μm〕付近の波長を有する光である。この種の温度センサ2は、所定の視野角内に設定される検知エリアの温度分布を表す熱画像を出力する。本開示でいう「熱画像」は、複数個のセンサ素子の各々の検知温度を画素値として、複数の画素を二次元に配置して構成される画像である。ここでは一例として、温度センサ2は、64個のセンサ素子が、X軸方向に8個、Y軸方向に8個並ぶように二次元配置された赤外線アレイセンサである。そのため、温度センサ2は、X軸方向及びY軸方向の各々の画素数が8画素となる熱画像を、出力データD1として出力する。言い換えれば、出力データD1は、それぞれ温度値を画素値とする複数の画素を含む画像データである。
【0027】
また、駆動部21は、温度センサ2を移動させるための動力を発生する。本実施形態は、駆動部21は、回転軸を中心に温度センサ2が回転するように、温度センサ2を駆動する。温度センサ2の回転軸は、例えば、鉛直方向に沿うか、又は鉛直方向に対して所定の角度傾斜した軸である。ここで、駆動部21は、温度センサ2を回転させて、温度センサ2の向きを変化させることにより、複数のエリアA1~A3(図2A参照)間での検知エリア4の切替えを実現する。すなわち、温度センサ2は、駆動部21によって水平方向(パン方向)に回転可能に構成されており、水平方向における温度センサ2の向きによって、検知エリア4が切り替わることになる。
【0028】
詳しくは「(2.2)物体検知システムの構成」の欄で説明するが、本実施形態では、検知エリア4が、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3の3つのエリアで切り替わることを前提とする。そこで、駆動部21は、図2Aに示すように、温度センサ2を所定の回転角度の範囲内で往復移動させ、温度センサ2を首振り動作(スイング動作)させることにより、検知エリア4を、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3間で切り替える。具体的には、駆動部21は、電動機を含み、後述する切替部12からの駆動信号に従って温度センサ2を首振り動作させる。
【0029】
(2.2)物体検知システムの構成
次に、物体検知システム1の構成について説明する。
【0030】
本実施形態に係る物体検知システム1は、図1に示すように、判断部11、切替部12及び背景補正部13に加えて、背景更新部14、取得部15及び背景記憶部16を更に備えている。
【0031】
ここで、判断部11、切替部12、背景補正部13及び背景更新部14は、例えば、マイクロコンピュータ等のコンピュータシステムを主構成とする処理部10にて実現されている。処理部10は、プロセッサ及びメモリを含むコンピュータシステムを主構成とし、メモリに記録されたプログラムを、プロセッサで実行することにより、判断部11、切替部12、背景補正部13及び背景更新部14の機能を実現する。プログラムはメモリに予め記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0032】
処理部10には、取得部15及び背景記憶部16が接続されている。さらに、処理部10には、駆動部21及び空気調和機3が接続されている。ここで、処理部10と、駆動部21又は空気調和機3とは、情報を伝達可能な状態で接続されていればよく、互いに直接的に接続されている構成に限らず、例えば、通信インタフェースを用いて接続されていてもよい。
【0033】
判断部11は、上述したように、温度センサ2の出力データD1と背景データD2との比較結果に基づいて、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。本開示でいう「背景データ」は、判断部11での対象物5の有無の判断に際して出力データD1の基準となるデータであって、対象物5が存在しない場合の検知エリア4の温度(本実施形態では熱画像)を表すデータである。本実施形態において、基本的には、対象物5が存在しない場合の温度センサ2の出力データD1が、背景データD2として用いられる。
【0034】
ここで、本実施形態では、上述したように、出力データD1は、それぞれ温度値を画素値とする複数の画素を含む画像データである。そのため、出力データD1の基準となる背景データD2についても、出力データD1と同様に、それぞれ温度値を画素値とする複数の画素を含む画像データである。具体的には、背景データD2は、X軸方向及びY軸方向の各々の画素数が8画素となる熱画像である。
【0035】
また、本開示でいう「比較結果に基づいて」は、出力データD1と背景データD2とを直接的に比較した結果(差分)に基づくケースだけでなく、実質的に出力データD1と背景データD2との比較結果に基づくケースも含む。つまり、判断部11における対象物5の有無の判断は、一例として、下記第1~3のいずれかの手法で実現される。第1の手法は、出力データD1と背景データD2とを直接的に比較した結果(差分)に基づいて対象物5の有無を判断する手法であって、第2及び第3の手法は、出力データD1と背景データD2とを直接的に比較せずに対象物5の有無を判断する手法である。
【0036】
すなわち、第1の手法では、判断部11は、出力データD1と背景データD2との差分をとることで差分データを算出し、算出した差分データと閾値とを比較することにより、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。この場合、判断部11は、差分データが閾値を超えることをもって、対象物5が「有り」と判断する。本実施形態では、判断部11は、第1の手法を採用することと仮定する。判断部11における対象物5の有無の判断に係る処理について詳しくは「(2.3)動作」の欄で説明する。
【0037】
第2の手法では、判断部11は、差分データを求めずに、出力データD1と、背景データD2に閾値を加算した合成データと、を比較することにより、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。この場合、判断部11は、出力データD1が合成データを超えることをもって、対象物5が「有り」と判断する。第3の手法では、判断部11は、差分データを求めずに、出力データD1から閾値を減算した合成データと、背景データD2と、を比較することにより、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。この場合、判断部11は、合成データが背景データD2を超えることをもって、対象物5が「有り」と判断する。
【0038】
また、本実施形態では、検知エリア4は、切替部12によって複数のエリアA1~A3間で切り替えられるため、背景データD2は、これら複数のエリアA1~A3の各々に対応付けて設定される。つまり、検知エリア4の候補としてのエリア(第1エリアA1、第2エリアA2又は第3エリアA3)ごとに、背景データD2が設定される。そして、判断部11は、複数のエリアA1~A3のうち、検知エリア4としてのエリアに対応する背景データD2と温度センサ2の出力データD1との比較結果に基づいて、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。つまり、検知エリア4が複数のエリアA1~A3のうちエリアA1である場合には、判断部11は、このエリアA1に対応する背景データD2と温度センサ2の出力データD1との比較結果に基づいて、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。
【0039】
本実施形態に係る物体検知システム1では、対象物5は、動体である。より厳密には、対象物5は、居室40に存在する「人」である。そのため、判断部11は、検知エリア4内に対象物5(人)が存在しない状態では、対象物5が「無し」と判断し、この状態から、動体である対象物5(人)が検知エリア4内に侵入すると、対象物5が「有り」と判断する。対象物5は、動体であればよく、人に限らず、例えば、小動物等であってもよい。
【0040】
ここで、判断部11は、検知エリア4が同一のエリアにある期間に対象物5の有無を複数回判断する。すなわち、本実施形態では、検知エリア4は、切替部12によって複数のエリアA1~A3間で切り替えられる。検知エリア4が複数のエリアA1~A3のいずれか1つのエリアに止まっている間に、判断部11は、対象物5の有無の判断を複数回実行する。言い換えれば、検知エリア4が切り替わってから、次に検知エリア4が切り替わるまでの期間において、判断部11は、対象物5の有無の判断を複数回実行する。
【0041】
切替部12は、上述したように、少なくとも特定エリアを含む複数のエリアA1~A3間で検知エリア4を切り替える。つまり、温度センサ2の検知対象となる検知エリア4は、固定的ではなく、切替部12によって切り替えられる。検知エリア4の候補となる複数のエリアは、3つ以上のエリアを含んでいる。本実施形態では、検知エリア4が、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3の3つのエリアで切り替わることを前提とする。つまり、検知エリア4の候補となる複数のエリアは、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3の3つのエリアを含んでいる。
【0042】
具体的には、図2Aに示すように、居室40内の空間を、平面視において3分割して得られる3つのエリアのうち、温度センサ2から見て、中央のエリアが第1エリアA1、右側のエリアが第2エリアA2、左側のエリアが第3エリアA3となる。ここでは一例として、平面視における温度センサ2の視野角は略60度であって、空気調和機3の正面を中心とする略180度の範囲が3等分されて、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3の3つのエリアが形成される。
【0043】
本実施形態では、上述したように、駆動部21が温度センサ2を首振り動作させることによって、複数のエリアA1~A3間での検知エリア4の切替えを実現する。そのため、切替部12は、駆動部21に駆動信号を出力し、駆動信号にて駆動部21を制御することによって、複数(ここでは3つ)のエリアA1~A3間で検知エリア4を切り替える。
【0044】
また、本開示でいう「特定エリア」は、複数のエリアA1~A3に含まれており、着目する任意の1つのエリアである。本実施形態では、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3のいずれもが「特定エリア」となり得ることと仮定する。すなわち、特定エリアは固定的ではなく、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3のいずれに着目するかによって、特定エリアは変化する。例えば、第1エリアA1が「特定エリア」であるときには、第2エリアA2及び第3エリアA3が「特定エリア以外のエリア」となる。同様に、第2エリアA2が「特定エリア」であるときには、第1エリアA1及び第3エリアA3が「特定エリア以外のエリア」となり、第3エリアA3が「特定エリア」であるときには、第1エリアA1及び第2エリアA2が「特定エリア以外のエリア」となる。
【0045】
また、本実施形態では、切替部12は、検知エリア4の切替えを、所定時間(例えば、数十秒~数分程度)の間隔を空けて実行する。つまり、切替部12による検知エリア4の切替えは、連続的に行われるのではなく間欠的に実行される。具体的には、切替部12は、例えば、駆動部21を作動させて検知エリア4を第1エリアA1から第2エリアA2に切り替えると、駆動部21を一旦停止し、検知エリア4を第2エリアA2に一時的に固定する。第2エリアA2が検知エリア4になって所定時間が経過すると、切替部12は、駆動部21を作動させて検知エリア4を第2エリアA2から第1エリアA1に切り替える。ここでも、切替部12は、駆動部21を一旦停止することで、検知エリア4を第1エリアA1に一時的に固定する。これにより、駆動部21は常に作動するのではなく、検知エリア4を切り替える際にのみ、間欠的に作動することになる。よって、駆動部21が連続的に作動する構成に比較すると、駆動部21での消費電力量を小さく抑え、かつ駆動部21の劣化を低減することも可能である。さらに、温度センサ2と物体検知システム1とがケーブルで接続されている場合には、ケーブルに掛かる負荷も小さく抑えることが可能である。
【0046】
背景補正部13は、特定エリアに対応する背景データD2を、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正する。ここで、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間を「第1期間」とし、検知エリア4が特定エリアである期間を「第2期間」とする。すなわち、第1期間においては、特定エリア以外のエリアに検知エリア4が設定され、第2期間においては、特定エリアに検知エリア4が設定される。つまり、背景補正部13は、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである第1期間、及び検知エリア4が特定エリアである第2期間が、この順で切り替わる場合において、第1期間に生じる温度変化量に基づいて、第2期間で使用する背景データD2を補正する。この場合、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである第1期間には、特定エリアに対応する背景データD2の更新は行われないため、第1期間中に生じた温度変化によって、第2期間で使用する背景データD2にずれが生じることがある。背景補正部13は、このようなずれを低減すべく、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである第1期間中の温度変化量から、検知エリア4が特定エリアである第2期間の背景データD2を補正する。
【0047】
また、本開示でいう「温度変化量」は、ある期間において温度が変化した場合のその変化量を意味し、例えば、第1期間中の温度変化量は、第1期間の始点での温度と第1期間の終点での温度との差分である。
【0048】
ここにおいて、上述したように、特定エリアは固定的ではなく、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3のいずれに着目するかによって、特定エリアは変化する。そのため、例えば、第1エリアA1が「特定エリア」であるときには、検知エリア4が第2エリアA2である期間及び検知エリア4が第3エリアA3である期間の両方が、第1期間となり、検知エリア4が第1エリアA1である期間が第2期間となる。同様に、第2エリアA2が「特定エリア」であるときには、検知エリア4が第1エリアA1である期間及び検知エリア4が第3エリアA3である期間の両方が、第1期間となり、検知エリア4が第2エリアA2である期間が第2期間となる。第3エリアA3が「特定エリア」であるときには、検知エリア4が第1エリアA1である期間及び検知エリア4が第2エリアA2である期間の両方が、第1期間となり、検知エリア4が第3エリアA3である期間が第2期間となる。
【0049】
ここで、背景補正部13で用いられる温度変化量は、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間における背景データD2の複数の画素についての温度値の変化量の代表値である。本開示でいう「代表値」には、平均値、最頻値及び中央値等を含み、本実施形態では一例として、代表値は平均値であることと仮定する。すなわち、上述したように、出力データD1及び背景データD2の各々は、それぞれ温度値を画素値とする複数の画素を含む画像データである。そこで、本実施形態では、背景補正部13は、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間(第1期間)における背景データD2を構成する全画素についての温度値の変化量の平均値を、この期間(第1期間)に生じた温度変化量として使用する。
【0050】
背景更新部14は、背景データD2を更新する。背景更新部14は、検知エリア4が同一のエリアにある期間に、このエリアに対応する背景データD2を、随時更新する。すなわち、検知エリア4が複数のエリアA1~A3のいずれか1つのエリアに止まっている間に、背景更新部14は、このエリアに対応する背景データD2を、随時更新する。背景更新部14における背景データD2の更新に係る処理について詳しくは「(2.3)動作」の欄で説明する。
【0051】
本実施形態では、判断部11は、検知エリア4が同一のエリアにある期間に対象物5の有無を複数回判断しており、背景更新部14は、判断部11が対象物の有無を判断する度に背景データD2を更新する。つまり、検知エリア4が同一のエリアにある期間において、判断部11が対象物5の有無を判断する回数と、背景更新部14が、背景データD2を更新する回数と、は同数になる。
【0052】
取得部15は、温度センサ2に接続されており、温度センサ2から出力データD1を取得する。本実施形態では、温度センサ2は出力データD1として熱画像を出力するので、取得部15は、熱画像からなる出力データD1を取得する。ここで、取得部15が出力データD1を取得する頻度は、例えば、温度センサ2のフレームレートによって規定される。つまり、温度センサ2のフレームレートが、一例として10〔fps〕であれば、取得部15は0.1〔s〕間隔で出力データD1を取得する。
【0053】
背景記憶部16は、例えば、不揮発性メモリからなり、背景データD2を記憶する。背景記憶部16は、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3の各々に対応付けて背景データD2を記憶する。つまり、本実施形態では、検知エリア4の候補としてのエリア(第1エリアA1、第2エリアA2又は第3エリアA3)ごとに、背景データD2が背景記憶部16に記憶される。
【0054】
背景補正部13により背景データD2が補正された場合には、背景記憶部16に記憶されている背景データD2は、補正後の背景データD2に書き換えられる。例えば、第1エリアA1に対応する背景データD2が背景補正部13により補正された場合、背景記憶部16に記憶されている第1エリアA1に対応する背景データD2が、補正後の背景データD2に書き換えられる。
【0055】
同様に、背景更新部14により背景データD2が更新された場合には、背景記憶部16に記憶されている背景データD2は、更新後の背景データD2に書き換えられる。例えば、第1エリアA1に対応する背景データD2が背景更新部14により更新された場合、背景記憶部16に記憶されている第1エリアA1に対応する背景データD2が、更新後の背景データD2に書き換えられる。
【0056】
したがって、背景記憶部16には、常に最新の背景データD2、つまり補正後又は更新後の背景データD2が記憶されることになる。
【0057】
ところで、温度センサ2の出力データD1、つまり取得部15が取得した熱画像からは、対象物5の有無の判断だけでなく、例えば、検知エリア4の空間、床、壁及び天井等の温度を推定可能である。そのため、物体検知システム1は、対象物5の有無に加えて、又は対象物5の有無に代えて、検知エリア4の空間、床、壁及び天井等の温度に関する情報を、空気調和機3に出力してもよい。この場合、空気調和機3は、検知エリア4の空間、床、壁及び天井等の温度に基づいて動作可能となる。
【0058】
(2.3)動作
次に、物体検知システム1の動作について、図2A図4Bを参照して説明する。ここでは、空気調和システム30に用いられるセンサシステム20(物体検知システム1を含む)にて、図2Aに示すように、空気調和機3が設置された居室40内に存在する「人」を対象物5として検知する場合について説明する。
【0059】
物体検知システム1は、取得部15にて取得した温度センサ2の出力データD1と背景データD2との比較結果に基づいて、判断部11にて、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。ここで、物体検知システム1は、切替部12にて、検知エリア4を複数のエリア(第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3)間で切り替えながら、これら複数のエリアA1~A3の各々について、判断部11にて、対象物5の有無が判断される。つまり、図2Aは、検知エリア4が第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3間で切り替わる様子を表す概略平面図であって、特に、検知エリア4が第1エリアA1にある状態を示している。ここで、一例として、物体検知システム1は、第1エリアA1、第2エリアA2、第1エリアA1、第3エリアA3、第2エリアA2、第1エリアA1…の順に検知エリア4を切り替えながら、対象物5の有無を判断する。
【0060】
物体検知システム1は、検知エリア4が複数のエリアA1~A3のいずれかに固定されている間に、取得部15にて、温度センサ2は出力データD1として熱画像を取得し、この出力データD1と背景画像D2との比較を行う。図2Bは、図2Aの例において、検知エリア4が第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3の各々にあるときに、取得部15にて出力データD1として取得される熱画像を示している。図2Bでは、第1エリアA1で取得される出力データD1には「中央」と表記し、第2エリアA2で取得される出力データD1には「右」と表記し、第3エリアA3で取得される出力データD1には「左」と表記する。つまり、図2Bに示すように、検知エリア4が第1エリアA1にあるときの出力データD1においては、第1エリアA1内の対象物5(人)に対応する画素P1の温度値(画素値)が大きくなる。図2Bでは、温度値が所定値を超える画素を網掛領域で示している。同様に、図2Bに示すように、検知エリア4が第2エリアA2にあるときの出力データD1においては、第2エリアA2内の対象物5(人)に対応する画素P1の温度値(画素値)が大きくなる。
【0061】
上述したような対象物5(人)に対応する画素P1を抽出するために、物体検知システム1では、出力データD1と背景データD2との比較を行う。物体検知システム1は、基本的には、上述したように対象物5が存在しない場合の温度センサ2の出力データD1を、背景データD2として用いている。そこで、物体検知システム1は、図3A及び図3Bに示すように、対象物5が存在しない状態での温度センサ2の出力データD1を、取得部15にて、背景データD2として取得する。図3Aは、検知エリア4が第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3間で切り替わる様子を表す概略平面図であって、特に、検知エリア4が第1エリアA1にある状態を示している。図3Bは、図3Aの例において、検知エリア4が第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3の各々にあるときに、取得部15にて背景データD2として取得される熱画像を示している。
【0062】
そして、物体検知システム1は、出力データD1と背景データD2との差分をとることで差分データを算出し、算出した差分データと閾値とを比較することにより、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。本実施形態では、出力データD1及び背景データD2はいずれも熱画像であるので、判断部11は、画素ごとに差分をとることで、差分データを生成する。つまり、差分データは、出力データD1と背景データD2との同一画素間の差分値を画素値とする、画像データからなる。判断部11は、差分データが閾値を超えることをもって、対象物5が「有り」と判断する。
【0063】
一例として、図4Bは、図4Aに示す出力データD1におけるY1線断面を模式的に表している。つまり、図4Aに示す出力データD1の水平軸(X軸)に沿った1行分の画素P1を抽出することで、図4Bに示すような、温度分布が得られたと仮定する。この場合において、物体検知システム1は、図4Bに示すように、出力データD1と背景データD2との差分をとることで差分データを算出し、算出した差分データと閾値Vth1とを比較することにより、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する。ここで、判断部11は、差分データが閾値Vth1を超えることをもって、対象物5が「有り」と判断する。つまり、図4Bの例では、出力データD1のうち背景データD2に閾値Vth1を加えたデータ(破線で示す)を超える網掛領域において、差分データが閾値Vth1を超えることになる。判断部11では、この網掛領域について、対象物5有り、つまり「人」が存在すると判断する。
【0064】
ここにおいて、対象物5と、対象物5以外の熱源と、を区別するために、判断部11は、差分データが閾値Vth1を超える画素(網掛領域)の大きさ、形状及び画素値(温度値)の少なくとも1つを用いて、対象物5(人)か否かを判断してもよい。
【0065】
図5図7は、本実施形態に係る物体検知システム1の動作例を示すフローチャートである。特に、図5及び図6では、検知エリア4が複数のエリアA1~A3のいずれにあるかによって、処理を区別して表記している。図5及び図6では、検知エリア4が第1エリアA1であるときの処理は「中央」列に記し、検知エリア4が第2エリアA2であるときの処理は「右」列に記し、検知エリア4が第3エリアA3であるときの処理は「左」列に記している。
【0066】
図5に示すように、物体検知システム1は、起動後、まず第3エリアA3に対応する背景データD2の取得を行う(S1)。次に、物体検知システム1は、検知エリア4を第3エリアA3から第1エリアA1に切り替える切替処理を実行し(S2)、第1エリアA1に対応する背景データD2の取得を行う(S3)。次に、物体検知システム1は、検知エリア4を第1エリアA1から第2エリアA2に切り替える切替処理を実行し(S4)、第2エリアA2に対応する背景データD2の取得を行う(S5)。これにより、物体検知システム1では、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3に対応する背景データD2の取得が完了する。取得された背景データD2は、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3の各々に対応付けて背景記憶部16に記憶される。
【0067】
その後、物体検知システム1は、検知エリア4を第2エリアA2から第1エリアA1に切り替える切替処理を実行し(S6)、第1エリアA1に対応する背景データD2を背景記憶部16から読み出す(S7)。そして、物体検知システム1は、第1エリアA1について、後述の判断処理(S8)を実行する。次に、物体検知システム1は、検知エリア4が第1エリアA1である期間に生じた温度変化量を、背景補正部13にて算出する(S9)。このとき、背景補正部13は、検知エリア4が第1エリアA1である期間における背景データD2の複数の画素についての温度値の変化量の平均値(代表値)を、「温度変化量」として算出する。
【0068】
その後、物体検知システム1は、検知エリア4を第1エリアA1から第2エリアA2に切り替える切替処理を実行し(S10)、第2エリアA2に対応する背景データD2を背景記憶部16から読み出す(S11)。そして、物体検知システム1は、背景補正部13にて、背景データD2を補正する背景補正処理(S12)を実行する。このとき、特定エリアは第2エリアA2であるので、検知エリア4が特定エリア以外のエリア(第1エリアA1)である期間に生じた温度変化量、つまり処理S9で求めた温度変化量に基づいて、第2エリアA2に対応する背景データD2を補正する。そして、物体検知システム1は、第2エリアA2について、補正後の背景データD2を用いて判断処理(S13)を実行する。次に、物体検知システム1は、検知エリア4が第2エリアA2である期間に生じた温度変化量を、背景補正部13にて算出する(S14)。このとき、背景補正部13は、検知エリア4が第2エリアA2である期間における背景データD2の複数の画素についての温度値の変化量の平均値(代表値)を、「温度変化量」として算出する。
【0069】
その後、物体検知システム1は、検知エリア4を第2エリアA2から第1エリアA1に切り替える切替処理を実行し(S15)、図6に示すように、第1エリアA1に対応する背景データD2を背景記憶部16から読み出す(S16)。そして、物体検知システム1は、背景補正部13にて、背景データD2を補正する背景補正処理(S17)を実行する。このとき、特定エリアは第1エリアA1であるので、検知エリア4が特定エリア以外のエリア(第2エリアA2)である期間に生じた温度変化量、つまり処理S14で求めた温度変化量に基づいて、第1エリアA1に対応する背景データD2を補正する。そして、物体検知システム1は、第1エリアA1について、補正後の背景データD2を用いて判断処理(S18)を実行する。次に、物体検知システム1は、検知エリア4が第1エリアA1である期間に生じた温度変化量を、背景補正部13にて算出する(S19)。このとき、背景補正部13は、検知エリア4が第1エリアA1である期間における背景データD2の複数の画素についての温度値の変化量の平均値(代表値)を、「温度変化量」として算出する。
【0070】
その後、物体検知システム1は、検知エリア4を第1エリアA1から第3エリアA3に切り替える切替処理を実行し(S20)、第3エリアA3に対応する背景データD2を背景記憶部16から読み出す(S21)。そして、物体検知システム1は、背景補正部13にて、背景データD2を補正する背景補正処理(S22)を実行する。このとき、特定エリアは第3エリアA3であるので、検知エリア4が特定エリア以外のエリア(第1エリアA1)である期間に生じた温度変化量、つまり処理S19で求めた温度変化量に基づいて、第3エリアA3に対応する背景データD2を補正する。そして、物体検知システム1は、第3エリアA3について、補正後の背景データD2を用いて判断処理(S23)を実行する。
【0071】
以降、同様の処理を繰り返すことにより、物体検知システム1は、検知エリア4を複数のエリアA1~A3間で切り替えながら、これら複数のエリアA1~A3の各々について対象物5の有無を判断する。
【0072】
図7は、各判断処理(S8,S13,S18,S23)の概要を示している。すなわち、判断処理においては、物体検知システム1は、まず最新の熱画像を出力データD1として温度センサ2から取得する(S101)。次に、物体検知システム1は、出力データD1と背景データD2との差分をとることで差分データを算出する(S102)。次に、物体検知システム1は、算出した差分データと閾値とを比較することにより、検知エリア4内の対象物5(人)の有無を判断する(S103)。
【0073】
その後、物体検知システム1は、背景更新部14にて背景データD2の更新を実行する(S104)。このとき、背景更新部14は、背景データD2を出力データD1に近づけるように更新する。具体的には、背景更新部14は、出力データD1及び背景データD2について画素ごとに差分をとることで差分データを生成し、この差分データに所定の割合(例えば、数%)を掛けた更新用データを背景データD2に加算することにより、背景データD2を更新する。ただし、処理S103にて対象物5が有ると判断された場合には、出力データD1は、対象物5が存在する領域を除いて、背景データD2の更新に使用される。言い換えれば、出力データD1のうち対象物5が存在しない領域の画素のみが背景データD2の更新に使用される。これにより、居室40の温度が徐々に変化した場合等においては、背景データD2がこの温度変化を追従するように更新されることになる。
【0074】
次に、物体検知システム1は、判断処理の開始から所定時間が経過したか否かを判定する(S105)。このとき、所定時間が経過していなければ(S105:No)、処理S101に戻り、所定時間が経過していれば(S105:Yes)、判断処理を終了する。これにより、上述した処理S101~S104は、所定時間が経過するまで繰り返される。
【0075】
以上説明した物体検知システム1の動作によれば、背景補正部13が、特定エリアに対応する背景データD2を、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正する。そのため、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間に、例えば、空気調和機3により居室40の温度が上昇したような場合でも、物体検知システム1における対象物5の検知の信頼性(検知確度)は低下しにくい。
【0076】
すなわち、図8に示すように、背景データD2が温度変化量ΔT1に基づいて補正されることにより、対象物5の誤検知又は対象物5の検知漏れが起こりにくくなる。図8は、図4Bと同様に、図4Aに示す出力データD1におけるY1線断面を模式的に表している。要するに、例えば、特定エリアが第1エリアA1である場合には、検知エリア4が特定エリア(第1エリアA1)以外のエリアである期間に生じた温度変化量ΔT1の分だけ、第1エリアA1に対応する背景データD2が補正される。図8の例では、補正前の背景データD2’を想像線(二点鎖線)で示し、補正後の背景データD2を実線で示している。判断処理は、補正後の背景データD2に基づいて行われるので、対象物5の誤検知又は対象物5の検知漏れが起こりにくくなる。
【0077】
図9は、比較例に係る物体検知システムの動作を示すフローチャートである。ここでいう比較例に係る物体検知システムは、本実施形態に係る物体検知システム1から背景補正部13を省略した構成であると仮定する。つまり、比較例に係る物体検知システムは、背景補正部13が無い点を除き、本実施形態に係る物体検知システム1と同様の構成である。
【0078】
図9に示すように、比較例においては、温度変化量の算出処理(図5及び図6のS9,S14,S19)及び背景補正処理(図5及び図6のS12,S17,S22)が無い点を除き、本実施形態に係る物体検知システム1と同様の動作が実現される。つまり、図9における処理「Sc(α)」(αは1~23)は、図5及び図6の処理「S(α)」(αは1~23)に対応する。
【0079】
比較例に係る物体検知システムによれば、検知エリア4が複数のエリアA1~A3間で切り替えられるので、特定エリア以外のエリアが検知エリア4に設定されている期間には、特定エリアに対応する背景データD2の更新は行われない。そのため、例えば、特定エリアが第1エリアA1である場合、特定エリア以外のエリア(第2エリアA2)が検知エリア4に設定されている期間には、特定エリアに対応する背景データD2の更新は行われない。したがって、例えば、図10Aに示すように、特定エリア以外のエリア(第2エリアA2)が検知エリア4に設定されている期間に温度上昇が生じた結果、対象物5の有無にかかわらず、出力データD1と背景データD2との差分データが閾値を超える可能性がある。その結果、対象物5が無くても、対象物5が「有り」と判断され、誤検知が生じることになる。
【0080】
また、比較例に係る物体検知システムにおいて、背景データD2を読み出す処理(Sc11,Sc16,Sc21)に代えて、背景データD2を新たに取得することも可能である。この場合、検知エリア4が複数のエリアA1~A3間で切り替えられる度に背景データD2が新たに取得されるので、特定エリア以外のエリアが検知エリア4に設定されている期間に、特定エリアに侵入した対象物5(人)の検知漏れが生じ得る。すなわち、例えば、図10Bに示すように、特定エリア以外のエリア(第2エリアA2)が検知エリア4に設定されている期間に特定エリア(第1エリアA1)に侵入した対象物5(人)については、検知できない可能性がある。
【0081】
これに対して、本実施形態に係る物体検知システム1では、背景補正部13が、特定エリアに対応する背景データD2を、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正するため、誤検知及び検知漏れが生じにくい。よって、本実施形態では、検知エリア4が複数のエリアA1~A3間で切り替えられるにもかかわらず、物体検知システム1における対象物5の検知の信頼性(検知確度)が低下しにくい、という利点がある。
【0082】
(3)変形例
実施形態1は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態1は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、実施形態1に係る物体検知システム1と同様の機能は、物体検知方法、プログラム、又はプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。一態様に係る物体検知方法は、切替処理(図5及び図6のS2,S4,S6,S10,S15,S20参照)と、判断処理(図5及び図6のS8,S13,S18,S23参照)と、背景補正処理(図5及び図6のS12,S17,S22参照)と、を有する。切替処理は、少なくとも特定エリアを含む複数のエリアA1~A3間で検知エリア4を切り替える処理である。判断処理は、温度センサ2の出力データD1と背景データD2との差分データに基づいて、検知エリア4内の対象物5の有無を判断する処理である。温度センサ2は、検知エリア4の温度を検知する。背景データD2は、複数のエリアA1~A3の各々に対応する。背景補正処理は、特定エリアに対応する背景データD2を、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量に基づいて補正する処理である。また、一態様に係るプログラムは、上記物体検知方法を、コンピュータシステムに実行させるためのプログラムである。
【0083】
以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0084】
物体検知システム1において、図11A図11Cに示すように、検知エリア4となり得るエリアA1~A3が調整可能であってもよい。具体的には、図11Aでは、居室40内の空間を、平面視において3分割して得られる3つのエリアのうち、温度センサ2から見て、中央のエリアが第1エリアA1、右側のエリアが第2エリアA2、左側のエリアが第3エリアA3となる。これに対して、図11Bに示すように、空気調和機3が平面視において居室40の左側の角部に設置される場合には、中央の第1エリアA1が空気調和機3の正面に対して右方に傾くように調整される。図11Cに示すように、空気調和機3が平面視において居室40の右側の角部に設置される場合には、中央の第1エリアA1が空気調和機3の正面に対して左方に傾くように調整される。これにより、物体検知システム1では、空気調和機3の位置によらず、第1エリアA1を居室40の中央に向けることができ、居室40の大部分を、検知エリア4とすることが可能である。
【0085】
また、図11A図11Cの変形例においては、検知エリア4が複数のエリアA1~A3の各々に固定される時間はエリアA1~A3によって異なる。要するに、切替部12は、検知エリア4の切替えを、所定時間の間隔を空けて実行するので、検知エリア4は、個々のエリアA1~A3に所定時間ずつ固定されることになる。ここで、所定時間が、第1エリアA1、第2エリアA2及び第3エリアA3によって個別に設定されることで、検知エリア4が複数のエリアA1~A3の各々に固定される時間はエリアA1~A3によって異なることになる。特に、居室40の中央に対応する第1エリアA1については、第2エリアA2及び第3エリアA3に比較して、所定時間が長く設定されることが好ましい。これにより、物体検知システム1は、対象物5(人)が存在する可能性が高い第1エリアA1について重点的に対象物5の有無を検知することが可能になる。
【0086】
本開示における物体検知システム1は、例えば、処理部10等に、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における物体検知システム1としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。コンピュータシステムのプロセッサは、半導体集積回路(IC)又は大規模集積回路(LSI)を含む1ないし複数の電子回路で構成される。ここでいうIC又はLSI等の集積回路は、集積の度合いによって呼び方が異なっており、システムLSI、VLSI(Very Large Scale Integration)、又はULSI(Ultra Large Scale Integration)と呼ばれる集積回路を含む。さらに、LSIの製造後にプログラムされる、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又はLSI内部の接合関係の再構成若しくはLSI内部の回路区画の再構成が可能な論理デバイスについても、プロセッサとして採用することができる。複数の電子回路は、1つのチップに集約されていてもよいし、複数のチップに分散して設けられていてもよい。複数のチップは、1つの装置に集約されていてもよいし、複数の装置に分散して設けられていてもよい。
【0087】
また、物体検知システム1における複数の機能が、1つの筐体内に集約されていることは物体検知システム1に必須の構成ではなく、物体検知システム1の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。さらに、物体検知システム1の少なくとも一部の機能、例えば、処理部10の一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0088】
また、物体検知システム1、センサシステム20及び空気調和システム30は、住宅施設に限らず、例えば、事務所、店舗、病院、学校又は介護施設等の非住宅施設に導入されてもよい。
【0089】
また、物体検知システム1及びセンサシステム20は、空気調和システム30に限らず、例えば、照明制御システム又は入退室管理システム等に用いられてもよい。
【0090】
また、駆動部21は、センサシステム20に必須の構成要素ではなく、適宜省略されてもよい。駆動部21が省略される場合、切替部12は、例えば、複数のエリアA1~A3に対応付けて設置された複数の温度センサ2の出力を択一的に選択して使用することにより、複数のエリアA1~A3間で検知エリア4を切り替えてもよい。
【0091】
また、検知エリア4の候補となる複数のエリアは、3つのエリアA1~A3に限らず、4つ以上のエリアを含んでいてもよい。又は、検知エリア4の候補となる複数のエリアは、2つのエリアであってもよい。検知エリア4が、第1エリアA1及び第2エリアA2の2つのエリア間でのみ切り替わる場合において、例えば、第1エリアA1が「特定エリア」であるときには、第2エリアA2が「特定エリア以外のエリア」となる。同様に、第2エリアA2が「特定エリア」であるときには、第1エリアA1が「特定エリア以外のエリア」となる。この場合において、第1エリアA1が「特定エリア」であるときには、検知エリア4が第1エリアA1である期間が第1期間及び第3期間となり、検知エリア4が第2エリアA2である期間が第2期間となる。同様に、第2エリアA2が「特定エリア」であるときには、検知エリア4が第2エリアA2である期間が第1期間及び第3期間となり、検知エリア4が第1エリアA1である期間が第2期間となる。
【0092】
また、判断部11が対象物の有無を判断する度に背景更新部14が背景データD2を更新することは、物体検知システム1に必須の構成ではない。つまり、検知エリア4が同一のエリアにある期間において、判断部11が対象物5の有無を判断する回数と、背景更新部14が、背景データD2を更新する回数と、は互いに異なっていてもよい。
【0093】
(実施形態2)
本実施形態に係る物体検知システム1は、背景補正部13で用いられる温度変化量の算出方法が、実施形態1に係る物体検知システム1と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
【0094】
本実施形態の第1の構成例では、図12に示すように、第1エリアA1と第2エリアA2又は第3エリアA3とが、重複領域A10において重複することを前提とする。すなわち、第1エリアA1と第2エリアA2とでは、重複領域A10において互いの一部が重複している。同様に、第1エリアA1と第3エリアA3とでは、重複領域A10において互いの一部が重複している。
【0095】
この場合において、背景補正部13で用いられる温度変化量は、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間における背景データD2の複数の画素のうち、重複領域A10に対応する画素についての温度値の変化量の代表値(例えば平均値)である。すなわち、温度変化量は、検知エリア4が、特定エリア以外のエリアであって、重複領域A10において特定エリアと重複するエリアである期間における、背景データD2の複数の画素のうち重複領域A10の画素についての温度値の変化量の代表値である。例えば、特定エリアが第2エリアA2であれば、検知エリア4が第1エリアA1である期間における、背景データD2の複数の画素のうち重複領域A10の画素についての温度値の変化量の代表値が、温度変化量として用いられる。また、特定エリアが第3エリアA3であれば、検知エリア4が第1エリアA1である期間における、背景データD2の複数の画素のうち重複領域A10の画素についての温度値の変化量の代表値が、温度変化量として用いられる。
【0096】
上記第1の構成例によれば、特定エリアの一部である重複領域A10で生じた温度変化が、特定エリアに対応する背景データD2の補正に反映されるため、背景データD2の補正の精度が向上する。
【0097】
また、本実施形態に係る第2の構成例では、背景補正部13で用いられる温度変化量は、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間における背景データD2中の温度値の分布を反映した値である。すなわち、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間に、背景データD2が、特定の分布を持って変化した場合には、この分布が温度変化量に反映される。
【0098】
一例として、検知エリア4が第1エリアA1である期間に、居室40内の温度上昇が生じ、かつ第3エリアA3よりも第2エリアA2で温度が大きく上昇した場合を想定する。この場合において、特定エリアが第2エリアA2又は第3エリアA3であると仮定すると、検知エリア4が特定エリア以外のエリア(第1エリアA1)である期間に、背景データD2が、図13Aに示すように変化する。図13Aでは、検知エリア4が第1エリアA1である期間における変化前の背景データD2を想像線(2点鎖線)で示し、変化後の背景データD2を実線で示している。検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間における背景データD2中の温度値の分布から、第1エリアA1の右側のエリア(第2エリアA2)の温度上昇が、第1エリアA1の左側のエリア(第3エリアA3)よりも大きいことが分かる。そのため、背景補正部13は、第2エリアA2に対応する背景データD2の補正には、温度変化量ΔT1を用い、第3エリアA3に対応する背景データD2の補正には、温度変化量ΔT2(<ΔT1)を用いる。
【0099】
上記第2の構成例によれば、特定エリア以外のエリアの温度分布が、特定エリアに対応する背景データD2の補正に反映されるため、背景データD2の補正の精度が向上する。
【0100】
また、本実施形態に係る第3の構成例では、背景補正部13で用いられる温度変化量は、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間における背景データD2の複数の画素のうち、特定画素を除いた画素についての温度値の変化量の代表値である。すなわち、検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間における、背景データD2の全画素の温度値の変化が温度変化量に反映されるのではなく、一部の画素(特定画素)を除いた温度値の変化が温度変化量に反映される。
【0101】
一例として、検知エリア4が第1エリアA1である期間に、例えば、テレビ受像機401(図2A参照)が起動し、テレビ受像機401が固定熱源となることで、居室40内で局所的に温度上昇が生じた場合を想定する。この場合において、特定エリアが第2エリアA2又は第3エリアA3であると仮定すると、検知エリア4が特定エリア以外のエリア(第1エリアA1)である期間に、背景データD2が、図13Bに示すように変化する。図13Bでは、検知エリア4が第1エリアA1である期間における変化前の背景データD2を想像線(2点鎖線)で示し、変化後の背景データD2を実線で示している。検知エリア4が特定エリア以外のエリアである期間における背景データD2において、固定熱源の影響で局所的な温度上昇が生じていることが分かる。そのため、背景補正部13は、第2エリアA2に対応する背景データD2の補正には、特定画素(図13BのZ1で示す範囲の画素)を除いた画素についての温度値の変化量の代表値(例えば平均値)である、温度変化量ΔT1を用いる。ここでは一例として、背景データD2を構成する複数画素のうち一部の画素と、他の画素との間に、規定値以上の温度値の差が生じることをもって、一部の画素にて局所的な温度変化が生じている、つまり一部の画素が特定画素であると判断される。
【0102】
上記第3の構成例によれば、特定エリアにおける固定熱源の影響が、特定エリアに対応する背景データD2の補正に反映されないため、背景データD2の補正の精度が向上する。
【0103】
実施形態2で説明した構成は、実施形態1で説明した種々の構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて採用可能である。
【0104】
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係る物体検知システム(1)は、切替部(12)と、判断部(11)と、背景補正部(13)と、を備える。切替部(12)は、少なくとも特定エリアを含む複数のエリア(A1~A3)間で検知エリア(4)を切り替える。判断部(11)は、検知エリア(4)の温度を検知する温度センサ(2)の出力データ(D1)と複数のエリア(A1~A3)の各々に対応する背景データ(D2)との比較結果に基づいて、検知エリア(4)内の対象物(5)の有無を判断する。背景補正部(13)は、特定エリアに対応する背景データ(D2)を、検知エリア(4)が特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量(ΔT1)に基づいて補正する。
【0105】
この態様によれば、温度センサ(2)にて温度が検知される検知エリア(4)が切替部(12)により、複数のエリア(A1~A3)間で切り替えられるので、検知エリア(4)が固定されている場合に比べて、対象物(5)を検知可能なエリアを広げることができる。すなわち、物体検知システム(1)では、対象物(5)を検知可能なエリアは温度センサ(2)の視野角内に制限されず、温度センサ(2)の視野角の外側に存在する対象物(5)についても検知可能となる。しかも、物体検知システム(1)においては、背景補正部(13)が、特定エリアに対応する背景データ(D2)を、検知エリア(4)が特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量(ΔT1)に基づいて補正する。これにより、検知エリア(4)が複数のエリア(A1~A3)間で切り替えられるにもかかわらず、物体検知システム(1)における対象物(5)の検知の信頼性は低下しにくい。
【0106】
第2の態様に係る物体検知システム(1)では、第1の態様において、出力データ(D1)及び背景データ(D2)の各々は、それぞれ温度値を画素値とする複数の画素(P1)を含む画像データである。
【0107】
この態様によれば、画像データから対象物(5)の有無が判断されるので、対象物(5)の検知の信頼性が向上する。
【0108】
第3の態様に係る物体検知システム(1)では、第2の態様において、温度変化量(ΔT1)は、検知エリア(4)が特定エリア以外のエリアである期間における背景データ(D2)の複数の画素(P1)についての温度値の変化量の代表値である。
【0109】
この態様によれば、特定エリアに対応する背景データ(D2)の補正の精度の向上を図ることができる。
【0110】
第4の態様に係る物体検知システム(1)では、第2の態様において、温度変化量(ΔT1)は、検知エリア(4)が、下記期間における、背景データ(D2)の複数の画素(P1)のうち重複領域(A10)の画素についての温度値の変化量の代表値である。上記期間は、特定エリア以外のエリアであって、特定エリアの一部である重複領域(A10)において特定エリアと重複するエリアである期間である。
【0111】
この態様によれば、特定エリアに対応する背景データ(D2)の補正の精度の向上を図ることができる。
【0112】
第5の態様に係る物体検知システム(1)では、第2の態様において、温度変化量(ΔT1)は、検知エリア(4)が特定エリア以外のエリアである期間における背景データ(D2)中の温度値の分布を反映した値である。
【0113】
この態様によれば、特定エリアに対応する背景データ(D2)の補正の精度の向上を図ることができる。
【0114】
第6の態様に係る物体検知システム(1)では、第2の態様において、温度変化量(ΔT1)は、検知エリア(4)が特定エリア以外のエリアである期間における背景データ(D2)の複数の画素(P1)のうち、特定画素を除いた画素についての温度値の変化量の代表値である。
【0115】
この態様によれば、特定エリアに対応する背景データ(D2)の補正の精度の向上を図ることができる。
【0116】
第7の態様に係る物体検知システム(1)では、第1~6のいずれかの態様において、判断部(11)は、検知エリア(4)が同一のエリアにある期間に対象物(5)の有無を複数回判断する。
【0117】
この態様によれば、対象物(5)の検知精度の向上を図ることができる。
【0118】
第8の態様に係る物体検知システム(1)は、第7の態様において、判断部(11)が対象物(5)の有無を判断する度に背景データ(D2)を更新する背景更新部(14)を更に備える。
【0119】
この態様によれば、対象物(5)の検知精度の向上を図ることができる。
【0120】
第9の態様に係る物体検知システム(1)では、第1~8のいずれかの態様において、対象物(5)は、動体である。
【0121】
この態様によれば、動体である対象物(5)の移動を検知することができる。
【0122】
第10の態様に係る物体検知システム(1)では、第1~9のいずれかの態様において、検知エリア(4)が複数のエリア(A1~A3)の各々に固定される時間はエリアによって異なる。
【0123】
この態様によれば、複数のエリア(A1~A3)のいずれかについて、重点的に対象物(5)の検知が可能になる。
【0124】
第11の態様に係る物体検知システム(1)では、第1~10のいずれかの態様において、複数のエリア(A1~A3)は、3つ以上のエリアを含む。
【0125】
この態様によれば、対象物(5)を検知可能なエリアをより広げることができる。
【0126】
第12の態様に係るセンサシステム(20)は、第1~11のいずれかの態様に係る物体検知システム(1)と、温度センサ(2)と、を備える。
【0127】
この態様によれば、温度センサ(2)にて温度が検知される検知エリア(4)が切替部(12)により、複数のエリア(A1~A3)間で切り替えられるので、検知エリア(4)が固定されている場合に比べ、対象物(5)を検知可能なエリアを広げることができる。すなわち、センサシステム(20)では、対象物(5)を検知可能なエリアは温度センサ(2)の視野角内に制限されず、温度センサ(2)の視野角の外側に存在する対象物(5)についても検知可能となる。
【0128】
第13の態様に係る空気調和システム(30)は、第12の態様に係るセンサシステム(20)と、判断部(11)の出力に基づいて動作する空気調和機(3)と、を備える。
【0129】
この態様によれば、温度センサ(2)にて温度が検知される検知エリア(4)が切替部(12)により、複数のエリア(A1~A3)間で切り替えられるので、検知エリア(4)が固定されている場合に比べ、対象物(5)を検知可能なエリアを広げることができる。すなわち、空気調和システム(30)では、対象物(5)を検知可能なエリアは温度センサ(2)の視野角内に制限されず、温度センサ(2)の視野角の外側に存在する対象物(5)についても検知可能となる。
【0130】
第14の態様に係る物体検知方法は、切替処理と、判断処理と、背景補正処理と、を有する。切替処理は、少なくとも特定エリアを含む複数のエリア(A1~A3)間で検知エリア(4)を切り替える処理である。判断処理は、検知エリア(4)の温度を検知する温度センサ(2)の出力データ(D1)と複数のエリア(A1~A3)の各々に対応する背景データ(D2)との比較結果に基づいて、検知エリア(4)内の対象物(5)の有無を判断する処理である。背景補正処理は、特定エリアに対応する背景データ(D2)を、検知エリア(4)が特定エリア以外のエリアである期間の温度変化量(ΔT1)に基づいて補正する処理である。
【0131】
この態様によれば、温度センサ(2)にて温度が検知される検知エリア(4)が切替処理により、複数のエリア(A1~A3)間で切り替えられるので、検知エリア(4)が固定されている場合に比べて、対象物(5)を検知可能なエリアを広げることができる。すなわち、上記物体検知方法では、対象物(5)を検知可能なエリアは温度センサ(2)の視野角内に制限されず、温度センサ(2)の視野角の外側に存在する対象物(5)についても検知可能となる。
【0132】
第15の態様に係るプログラムは、第14の態様に係る物体検知方法を、コンピュータシステムに実行させるためのプログラムである。
【0133】
この態様によれば、温度センサ(2)にて温度が検知される検知エリア(4)が切替処理により、複数のエリア(A1~A3)間で切り替えられるので、検知エリア(4)が固定されている場合に比べて、対象物(5)を検知可能なエリアを広げることができる。すなわち、上記プログラムでは、対象物(5)を検知可能なエリアは温度センサ(2)の視野角内に制限されず、温度センサ(2)の視野角の外側に存在する対象物(5)についても検知可能となる。
【0134】
上記態様に限らず、実施形態1及び実施形態2に係る物体検知システム(1)の種々の構成(変形例を含む)は、物体検知方法及びプログラムにて具現化可能である。
【0135】
第2~11の態様に係る構成については、物体検知システム(1)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。
【符号の説明】
【0136】
1 物体検知システム
2 温度センサ
3 空気調和機
4 検知エリア
5 対象物
11 判断部
12 切替部
13 背景補正部
14 背景更新部
20 センサシステム
30 空気調和システム
A1~A3 エリア
D1 出力データ
D2 背景データ
ΔT1 温度変化量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13