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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】正極活物質、および、電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20230217BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230217BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230217BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230217BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230217BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20230217BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230217BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230217BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M4/525
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0525
H01M10/0562
H01M10/0565
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2018230264
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2019125574
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2021-06-11
(31)【優先権主張番号】P 2018005268
(32)【優先日】2018-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】夏井 竜一
(72)【発明者】
【氏名】池内 一成
(72)【発明者】
【氏名】名倉 健祐
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-300734(JP,A)
【文献】特開2002-128526(JP,A)
【文献】特開2008-258160(JP,A)
【文献】特開2011-129269(JP,A)
【文献】特表2013-503449(JP,A)
【文献】国際公開第2005/028371(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/004590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36 - 62
H01M 10/05 - 0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
F、Cl、N、S、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種を含有するリチウム複合酸化物と、
前記リチウム複合酸化物の表面を被覆し、106S/m以下の電子伝導率を有する被覆材と、を含み、
前記リチウム複合酸化物の結晶構造は空間群R-3mに属し、
前記リチウム複合酸化物のXRDパターンにおける、(104)面のピークに対する(003)面のピークの積分強度比I(003)/I(104)が、0.62≦I(003)/I(104)≦0.90、を満た
前記被覆材は、酸化物であり、
前記酸化物は、組成式Li a b c (ここで、Aは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、Ce、及びHからなる群より選択される少なくとも1種であり、0≦a≦3、 0.5≦b≦4、かつ、1≦c≦4)で表される、
正極活物質。
【請求項2】
前記被覆材は、無機材料である、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム複合酸化物に対する前記被覆材の質量比が、0.2以下である、
請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム複合酸化物に対する前記被覆材の質量比が、0.01以上、かつ、0.1以下である、
請求項3に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記被覆材の厚みは、0.1nm以上、かつ、2.0nm以下である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記被覆材は、前記リチウム複合酸化物の前記表面の少なくとも一部と、固溶体を形成している、
請求項1から5のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記酸化物は、Al23、ZrO2、ZnO、TiO2、及びSiO2からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項に記載の正極活物質。
【請求項8】
0.67≦I(003)/I(104)≦0.85、を満たす、
請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記リチウム複合酸化物は、Mnを含有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記リチウム複合酸化物は、Fを含有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記リチウム複合酸化物は、組成式LixMeyαβ(ここで、前記Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、及びPからなる群より選択される少なくとも1種であり、前記Xは、F、Cl、N、S、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種であり、0.5≦x≦1.5、 0.5≦y≦1.0、 1≦α<2、かつ、0<β≦1)で表される、
請求項1から10のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項12】
1.67≦α≦1.95、を満たす、
請求項11に記載の正極活物質。
【請求項13】
0.05≦β≦0.33、を満たす、
請求項11または12に記載の正極活物質。
【請求項14】
0.5≦x/y≦3.0、を満たす、
請求項11から13のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項15】
5≦α/β≦39、を満たす、
請求項11から14のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項16】
9≦α/β≦19、を満たす、
請求項15に記載の正極活物質。
【請求項17】
0.75≦(x+y)/(α+β)≦1.15、を満たす、
請求項11から16のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項18】
前記リチウム複合酸化物を、主成分として含む、
請求項1から17のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極と、
負極と、
電解質と、を備える、
電池。
【請求項20】
前記負極は、リチウムイオンを吸蔵および放出しうる負極活物質、または、リチウム金属を負極活物質として溶解および析出させうる材料を含み、
前記電解質は、非水電解液である、
請求項19に記載の電池。
【請求項21】
前記負極は、リチウムイオンを吸蔵および放出しうる負極活物質、または、リチウム金属を負極活物質として溶解および析出させうる材料を含み、
前記電解質は、固体電解質である、
請求項19に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池用の正極活物質、および、電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Li、Ni、CoおよびMnを必須として含むリチウム含有複合酸化物であり、空間群R-3mで、c軸格子定数が14.208~14.228Å、a軸格子定数とc軸格子定数が3a+5.615≦c≦3a+5.655の関係を満たす結晶構造を有し、XRDパターンにおける(003)のピークと(104)のピークとの積分強度比(I003/I104)が1.21~1.39であることを特徴とするリチウム含有複合酸化物が、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-26981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、サイクル特性の高い電池の実現が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一様態における正極活物質は、F、Cl、N、S、Br、及びIからなる群より選択される少なくとも1種を含有するリチウム複合酸化物と、前記リチウム複合酸化物の表面を被覆し、106S/m以下の電子伝導率を有する被覆材と、を含む。また、前記リチウム複合酸化物の結晶構造は空間群R-3mに属し、前記リチウム複合酸化物のXRDパターンにおける、(104)面のピークに対する(003)面のピークの積分強度比I(003)/I(104)が、0.62≦I(003)/I(104)≦0.90、を満たす。
【0006】
本開示の包括的または具体的な態様は、電池用正極活物質、電池、方法、または、これらの任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、サイクル特性の高い電池を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態2における電池の一例である電池10の概略構成を示す断面図である。
図2図2は、実施例1のリチウム複合酸化物のXRDパターンを示す図である。
図3図3は、実施例1および実施例2および比較例1の電池の初回充放電試験の結果を示す図である。
図4図4は、実施例1および実施例2および比較例1の電池の充放電サイクル試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態が、説明される。
【0010】
(実施の形態1)
実施の形態1における正極活物質は、リチウム複合酸化物と、リチウム複合酸化物の表面を被覆し、電子伝導率が106S/m以下である被覆材と、を含む正極活物質である。当該リチウム複合酸化物は、F、Cl、N、S、Br、Iからなる群より選択される一種または二種以上の元素を含む。また、当該リチウム複合酸化物は、空間群R-3mに属する結晶構造を有し、XRDパターンにおける(003)面のピークと(104)面のピークとの積分強度比I(003)/I(104)が、0.62≦I(003)/I(104)≦0.90、を満たす。
【0011】
以上の構成によれば、サイクル特性の高い電池を実現できる。
【0012】
ここで、「サイクル特性の高い電池」とは、充放電サイクルを複数回繰り返した後でも、容量維持率が高い電池のことである。言い換えれば、充放電サイクルを複数回繰り返した後でも、容量が大きく低下しない電池のことである。
【0013】
上述の正極活物質を用いて、例えばリチウムイオン電池を構成する場合、当該リチウムイオン電池は3.6V程度の酸化還元電位(Li/Li+基準)を有する。また、当該リチウムイオン電池は、概ね、充放電試験を20サイクル行った後の容量維持率が80%以上である。
【0014】
上述のリチウム複合酸化物は、F、Cl、N、S、Br、Iからなる群より選択される一種または二種以上の元素を含む。これらの電気化学的に不活性なアニオンによって酸素の一部を置換することで、結晶構造が安定化すると考えられる。このため、電池の放電容量または作動電圧が向上し、エネルギー密度が高くなると考えられる。
【0015】
上述のリチウム複合酸化物は、X線回折(X-ray diffraction:XRD)パターンにおける(003)面と(104)面のピークの積分強度比I(003)/I(104)が、0.62≦I(003)/I(104)≦0.90、を満たす。
【0016】
ここで、I(003)/I(104)は、空間群R-3mに属する結晶構造を有するリチウム複合酸化物における、カチオンミキシングの指標となり得るパラメータである。本開示における「カチオンミキシング」とは、リチウム複合酸化物の結晶構造において、リチウム原子と遷移金属等のカチオン原子とが置換されている状態を示す。カチオンミキシングが少なくなると、I(003)/I(104)が大きくなる。また、カチオンミキシングが多くなると、I(003)/I(104)が小さくなる。
【0017】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物において、I(003)/I(104)が0.90よりも大きい場合、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が減少する。このため、リチウムの拡散が阻害され、エネルギー密度が減少する。
【0018】
また、I(003)/I(104)が0.62よりも小さい場合、結晶構造が不安定となる。このため、充電時のLi脱離に伴い、結晶構造が崩壊し、エネルギー密度が減少する。
【0019】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、I(003)/I(104)が0.62≦I(003)/I(104)≦0.90を満たすため、リチウム原子と遷移金属等のカチオン原子とが、十分にカチオンミキシングしていると考えられる。このため、実施の形態1のリチウム複合酸化物は、リチウムの三次元的な拡散経路が増大していると考えられる。このため、実施の形態1のリチウム複合酸化物は、従来の正極活物質よりも、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能である。
【0020】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、空間群R-3mに属する結晶構造を有し、かつ、0.62≦I(003)/I(104)≦0.90、を満たすため、Liを多く引き抜いた際にも、ピラーとなる遷移金属-アニオン八面体が三次元的にネットワークを形成するため、結晶構造を安定に維持できる。このため、実施の形態1における正極活物質は、高容量の電池を実現するのに適している。さらに、同様の理由で、サイクル特性に優れた電池を実現するのにも適していると考えられる。
【0021】
ここで、比較例として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1は、空間群R-3mに属する結晶構造を有し、リチウム原子と遷移金属等のカチオン原子とが十分にカチオンミキシングしていないリチウム複合酸化物を含む正極活物質を、開示している。従来は、特許文献1のように、リチウム複合酸化物においてカチオンミキシングは抑制するべきであると考えられていた。
【0022】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、F、Cl、N、S、Br、Iからなる群より選択される一種または二種以上の元素を含む。また、当該リチウム複合酸化物は、空間群R-3mに属する結晶構造を有し、XRDパターンにおける(003)面のピークと(104)面のピークとの積分強度比I(003)/I(104)が、0.62≦I(003)/I(104)≦0.90、を満たす。これにより、本発明者等は、従来の予想を遥かに超えて、高いエネルギー密度を有する電池を実現した。
【0023】
なお、一般的な正極活物質を高電位で使用した場合、電解質の分解(例えば、副反応)が促進され、抵抗層が生成される。さらに、一般的な正極活物質を高電位で使用した場合、当該正極活物質に含まれるアニオン種がガスとして脱離する。このため、サイクル特性が低下する恐れがある。
【0024】
ここで、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物に加えて、さらに被覆材を含む。被覆材は、上述のリチウム複合酸化物の表面を被覆している。また、被覆材は、電子伝導率が106S/m以下であって、上述のリチウム複合酸化物と同一ではない材料である。当該被覆材が、上述のリチウム複合酸化物の表面を被覆することで、上述のリチウム複合酸化物と電解質との接触が抑制される。また、被覆材の電子伝導率が低いことにより、リチウム複合酸化物と電解質との間の電子の授受が抑制され、これに起因する副反応を抑止できる。これにより、抵抗層の生成またはガスの脱離が抑制される。このため、サイクル特性の高い電池を実現できる。
【0025】
すなわち、実施の形態1における正極活物質は、高電位で使用された場合でも、サイクル特性に優れた電池を実現できる。
【0026】
なお、本開示において、「表面を被覆している」とは、表面を完全に被覆していることと、表面を部分的に被覆していることとを包含する。
【0027】
また、実施の形態1において、上述のリチウム複合酸化物に対する被覆材の質量比は、0.2以下であってもよい。
【0028】
以上の構成によれば、実施の形態1における正極活物質の表面が電気化学的に不活性化することを抑制できる。このため、抵抗の増加を抑制できる。このため、より高容量かつサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0029】
また、実施の形態1において、上述のリチウム複合酸化物に対する被覆材の質量比は、0.01以上、かつ、0.1以下であってもよい。
【0030】
以上の構成によれば、より高容量かつサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0031】
また、実施の形態1における被覆材は、上述のリチウム複合酸化物の表面を、0.1nm以上かつ2.0nm以下の厚みで被覆していてもよい。
【0032】
以上の構成によれば、より高容量かつサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0033】
なお、被覆材の厚みが0.1nm以上の場合、厚みの均一性を高めることができる。また、被覆材の厚みが0.1nm以上の場合、絶縁破壊を抑制できる。
【0034】
なお、被覆材の厚みが2.0nm以下の場合、当該被覆材によってLi伝導が阻害されることを抑制できる。
【0035】
また、実施の形態1における被覆材は、上述のリチウム複合酸化物の表面を化学的に修飾していてもよい。
【0036】
また、実施の形態1における被覆材は、上述のリチウム複合酸化物の表面の少なくとも一部と、固溶体を形成していてもよい。
【0037】
以上の構成によれば、金属元素の溶出(例えば、脱離)をより抑制できるため、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0038】
また、実施の形態1における被覆材は、例えば、無機材料である。
【0039】
また、実施の形態1における被覆材は、酸化物、ハロゲン化合物、硫化物、及びリン化合物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0040】
例えば、ハロゲン化合物として、AlF3等が用いられてもよい。
【0041】
また、実施の形態1における被覆材は、リチウムイオン導電体であってもよい。
【0042】
例えば、リチウムイオン導電体として、LiBO2、Li3PO4、LiNbO3、LiNbO2、LiAlO2、Li2SO4、Li2MoO4、Li4SiO4、Li4FeO4、Li4ZrO4、Li2CO3、LiW27、Li3VO4、LiCl、LiBr、LiI、Li2Se、および各種のリチウムイオン伝導ガラス(例えば、Li2O-B23、Li2O-Al23、Li2O-SiO4、Li2O-P25、LiF-BF3、LiF-AlF3、LiF-VF3)からなる群より選択される一種または二種以上が用いられてもよい。
【0043】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0044】
また、実施の形態1における被覆材は、酸化物であってもよい。
【0045】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。酸化物は化学的に安定であり、電解質との反応性が低い。このため、酸化物は、電気化学反応において結晶構造を維持しやすいと考えられる。
【0046】
また、実施の形態1における被覆材は、下記の組成式(1)で表される酸化物であってもよい。
【0047】
Liabc ・・・式(1)
ここで、Aは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、Nb、Mo、Ti、Al、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、B、P、Eu、Sm、Ce、及びHからなる群より選択される一種または二種以上の元素であってもよい。
【0048】
かつ、下記の条件、
0≦a≦3、
0.5≦b≦4、
1≦c≦4、
を満たしてもよい。
【0049】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0050】
また、実施の形態1における被覆材は、Li伝導性の高いLi含有酸化物であってもよい。
【0051】
例えば、Li含有酸化物として、ホウ酸リチウム、ニオブ酸リチウム、コバルト酸リチウム、チタン酸リチウム、リチウムアルミネートからなる群より選択される一種または二種以上が用いられてもよい。
【0052】
以上の構成によれば、Liイオンの拡散性が向上するため、より高容量の電池を実現できる。
【0053】
また、実施の形態1における被覆材が充放電反応時にLiを吸蔵可能である場合、より高容量の電池を実現できる。この場合、被覆材は充放電容量を有する。このため、被覆材を含むことによって正極活物質全体に占めるリチウム複合酸化物の質量比率が低下しても、電池の容量は高く保たれる。
【0054】
また、実施の形態1における被覆材は、例えば、MnO2、Al23、MgO、ZrO2、ZnO、TiO2、H3BO3、Mn23、Fe23、CuO、NiO、Co34、Eu23、Sm23、CeO2、及びSiO2からなる群より選択される一種または二種以上の酸化物であってもよい。
【0055】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0056】
また、実施の形態1における被覆材は、Al23、ZrO2、ZnO、TiO2、及びSiO2からなる群より選択される一種または二種以上の酸化物であってもよい。
【0057】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0058】
また、実施の形態1における被覆材は、遷移金属酸化物であってもよい。
【0059】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0060】
また、実施の形態1における被覆材は、上述のリチウム複合酸化物に含まれる金属元素と同じ金属元素を有していてもよい。
【0061】
以上の構成によれば、上述のリチウム複合酸化物および被覆材の界面において、当該金属元素が、例えば固溶体を形成し、強固に結合する。このため、当該金属元素の溶出(例えば、脱離)が抑制される。これにより、サイクル特性の高い電池を実現できる。
【0062】
また、実施の形態1における被覆材は、グラファイト、カーボンブラック、およびフッ化黒鉛からなる群より選択される一種または二種以上であってもよい。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、等が挙げられる。
【0063】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0064】
被覆材は、絶縁性化合物であってもよい。被覆材は、電気化学反応に寄与しなくてもよい。
【0065】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、0.67≦I(003)/I(104)≦0.85、を満たしてもよい。
【0066】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0067】
なお、一般的には、CuKα線を使用したXRDパターンにおける(003)面および(104)面のピークは、それぞれ回折角2θが18~20°および44~46°である範囲内に存在する。
【0068】
また、各回折ピークの積分強度は、例えば、XRD装置に付属のソフトウエア(例えば、株式会社リガク社製、粉末X線回折装置に付属のPDXL)を用いて算出することができる。その場合、各回折ピークの積分強度は、例えば、各回折ピークの頂点の角度に対して±3°の範囲の面積を算出することで得られる。
【0069】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、F、Cl、N、Sからなる群より選択される一種または二種以上の元素を含んでもよい。
【0070】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0071】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Fを含んでもよい。
【0072】
以上の構成によれば、電気陰性度が高いFによって酸素の一部を置換することで、カチオン-アニオンの相互作用が増加し、電池の放電容量または作動電圧が向上する。また、イオン半径の大きなFによって酸素の一部を置換することで、結晶格子が広がり、構造が安定化する。このため、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0073】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、例えば、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、P、Alからなる群より選択される一種または二種以上の元素を含んでもよい。
【0074】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0075】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、及びZnからなる群より選択される少なくとも一種、すなわち、少なくとも一種の3d遷移金属元素を含んでもよい。
【0076】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0077】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Mn、Co、Niからなる群より選択される一種または二種以上の元素を含んでもよい。
【0078】
以上の構成によれば、酸素と軌道混成しやすい遷移金属を用いることで、充電時における酸素脱離が抑制される。このため、結晶構造が安定化し、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0079】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Mnを含んでもよい。
【0080】
以上の構成によれば、酸素と軌道混成しやすいMnを用いることで、充電時における酸素脱離が抑制される。このため、結晶構造が安定化し、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0081】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、Pからなる群より選択される一種または二種以上の元素と、Mnとを、含んでもよい。
【0082】
以上の構成によれば、Li以外のカチオン元素としてMnのみを用いた場合と比べ、充電時における酸素脱離が抑制される。このため、結晶構造が安定化し、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0083】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、CoおよびNiからなる群より選択される一種または二種の元素と、Mnとを、含んでもよい。
【0084】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0085】
次に、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物の化学組成の一例を説明する。
【0086】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、下記の組成式(2)で表される化合物であってもよい。
【0087】
LixMeyαβ ・・・式(2)
ここで、Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、Pからなる群より選択される一種または二種以上の元素であってもよい。
【0088】
また、Meは、Mn、Co、Ni、Fe、Cu、V、Ti、Cr、及びZnからなる群より選択される少なくとも一種、すなわち、少なくとも一種の3d遷移金属元素を含んでもよい。
【0089】
また、Xは、F、Cl、N、S、Br、Iからなる群より選択される一種または二種以上の元素であってもよい。
【0090】
かつ、組成式(2)において、下記の条件、
0.5≦x≦1.5、
0.5≦y≦1.0、
1≦α<2、
0<β≦1、
を満たしてもよい。
【0091】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0092】
なお、実施の形態1においては、Meが二種以上の元素(例えば、Me’、Me”)からなり、かつ、組成比が「Me’y1Me”y2」である場合には、「y=y1+y2」である。例えば、Meが二種の元素(MnおよびCo)からなり、かつ、組成比が「Mn0.4Co0.4」である場合には、「y=0.4+0.4=0.8」である。また、Xが二種以上の元素からなる場合についても、Meと同様に計算される。
【0093】
なお、組成式(2)で表される化合物は、xが0.5以上の場合、利用できるLi量が多くなる。このため、エネルギー密度が向上する。
【0094】
また、組成式(2)で表される化合物は、xが1.5以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、エネルギー密度が向上する。
【0095】
また、組成式(2)で表される化合物は、yが0.5以上の場合、利用できるMeの酸化還元反応が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。これにより、結晶構造が安定化する。このため、エネルギー密度が向上する。
【0096】
また、組成式(2)で表される化合物は、yが1.0以下の場合、利用できるLi量が多くなる。このため、エネルギー密度が向上する。
【0097】
また、組成式(2)で表される化合物は、αが1以上の場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することを防ぐことができる。このため、エネルギー密度が向上する。
【0098】
また、組成式(2)で表される化合物は、αが2よりも小さい場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に構造が安定化する。このため、エネルギー密度が向上する。
【0099】
また、組成式(2)で表される化合物は、βが0よりも大きい場合、電気化学的に不活性なXの影響により、Liが脱離した際に構造が安定化する。このため、エネルギー密度が向上する。
【0100】
また、組成式(2)で表される化合物は、βが1以下の場合、電気化学的に不活性なXの影響が大きくなることを防ぐことができるため、電子伝導性が向上する。このため、エネルギー密度が向上する。
【0101】
また、組成式(2)で表される化合物は、1.67≦α≦1.95、を満たしてもよい。
【0102】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0103】
また、組成式(2)で表される化合物は、0.05≦β≦0.33、を満たしてもよい。
【0104】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0105】
また、組成式(2)で表される化合物は、0.5≦x/y≦3.0、を満たしてもよい。
【0106】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0107】
なお、x/yが0.5以上の場合、利用できるLi量が多くなる。また、Liの拡散パスが阻害されることを防ぐことができる。このため、エネルギー密度が向上する。また、x/yが3.0以下の場合、利用できるMeの酸化還元反応が多くなる。この結果、酸素の酸化還元反応を多く利用する必要がなくなる。また、充電時におけるLi脱離時に結晶構造が安定化し、放電時のLi挿入効率が向上する。このため、エネルギー密度が向上する。
【0108】
また、組成式(2)で表される化合物は、1.5≦x/y≦2.0、を満たしてもよい。
【0109】
以上の構成によれば、従来の正極活物質(例えば、LiMnO2)以上に、Liが位置するサイトにおけるLi原子数の割合が高い。このため、より多くのLiを挿入および脱離させることが可能となり、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0110】
また、組成式(2)で表される化合物は、5≦α/β≦39、を満たしてもよい。
【0111】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0112】
なお、α/βが5以上の場合、酸素の酸化還元による電荷補償量が向上する。また、電気化学的に不活性なXの影響が大きくなることを防ぐことができ、電子伝導性が向上する。このため、エネルギー密度が向上する。また、α/βが39以下の場合、酸素の酸化還元による容量が過剰となることを防ぐことができ、Liが脱離した際に構造が安定化する。また、電気化学的に不活性なXの影響により、Liが脱離した際に構造が安定化する。このため、エネルギー密度が向上する。
【0113】
また、組成式(2)で表される化合物は、9≦α/β≦19、を満たしてもよい。
【0114】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0115】
また、組成式(2)で表される化合物は、0.75≦(x+y)/(α+β)≦1.15、を満たしてもよい。
【0116】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0117】
なお、(x+y)/(α+β)が0.75以上の場合、合成時に分相し、不純物が多く生成することを防ぐことができる。このため、エネルギー密度が向上する。また、(x+y)/(α+β)が1.15以下の場合、アニオンの欠損量が少ない構造となり、充電時におけるLi脱離時に結晶構造が安定化し、放電時のLi挿入効率が向上する。このため、エネルギー密度が向上する。
【0118】
また、組成式(2)で表される化合物において、Xは、F、Cl、N、Sからなる群より選択される一種または二種以上の元素を含んでもよい。
【0119】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0120】
また、組成式(2)で表される化合物において、Xは、Fを含んでもよい。
【0121】
すなわち、Xは、Fであってもよい。
【0122】
もしくは、Xは、Cl、N、S、Br、Iからなる群より選択される一種または二種以上の元素と、Fとを、含んでもよい。
【0123】
以上の構成によれば、電気陰性度が高いFによって酸素の一部を置換することで、カチオン-アニオンの相互作用が増加し、電池の放電容量または作動電圧が向上する。また、イオン半径の大きなFによって酸素の一部を置換することで、結晶格子が広がり、構造が安定化する。このため、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0124】
また、組成式(2)で表される化合物において、Meは、Mn、Co、Niからなる群より選択される一種または二種以上の元素を含んでもよい。
【0125】
以上の構成によれば、酸素と軌道混成しやすい遷移金属を用いることで、充電時における酸素脱離が抑制される。このため、結晶構造が安定化し、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0126】
また、組成式(2)で表される化合物において、Meは、Mnを含んでもよい。
【0127】
すなわち、Meは、Mnであってもよい。
【0128】
以上の構成によれば、酸素と軌道混成しやすいMnを用いることで、充電時における酸素脱離が抑制される。このため、結晶構造が安定化し、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0129】
もしくは、Meは、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si、Pからなる群より選択される一種または二種以上の元素と、Mnとを、含んでもよい。
【0130】
以上の構成によれば、Li以外のカチオン元素としてMnのみを用いた場合と比べ、充電時における酸素脱離がさらに抑制される。このため、結晶構造が安定化し、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0131】
また、Meは、CoおよびNiからなる群より選択される一種または二種の元素と、Mnとを、含んでもよい。
【0132】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0133】
また、Meは、Mnを、Meに対して40モル%以上含んでもよい。すなわち、Mnを含むMe全体に対する、Mnのmol比(Mn/Me比)が、0.4~1.0の関係を満たしてもよい。
【0134】
以上の構成によれば、酸素と軌道混成しやすいMnを十分に含むことで、充電時における酸素脱離が抑制される。このため、結晶構造が安定化し、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0135】
また、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、Liの一部が、NaあるいはKなどのアルカリ金属で置換されていてもよい。
【0136】
また、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を、主成分として(すなわち、正極活物質の全体に対する質量割合で50%以上(50質量%以上))、含んでもよい。
【0137】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0138】
また、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を、正極活物質の全体に対する質量割合で70%以上(70質量%以上)、含んでもよい。
【0139】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0140】
また、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物を、正極活物質の全体に対する質量割合で90%以上(90質量%以上)、含んでもよい。
【0141】
以上の構成によれば、より高いエネルギー密度を有する電池を実現できる。
【0142】
なお、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物および被覆材を含みながら、さらに、不可避的な不純物を含んでもよい。
【0143】
また、実施の形態1における正極活物質は、上述のリチウム複合酸化物および被覆材を含みながら、さらに、正極活物質を合成する際に用いられる出発原料および副生成物および分解生成物からなる群より選択される少なくとも一つを含んでもよい。
【0144】
また、実施の形態1における正極活物質は、例えば、混入が不可避的な不純物を除いて、上述のリチウム複合酸化物および被覆材のみを、含んでもよい。
【0145】
以上の構成によれば、よりサイクル特性およびエネルギー密度が高い電池を実現できる。
【0146】
<正極活物質の作製方法>
以下に、実施の形態1の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物の製造方法の一例が、説明される。
【0147】
実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、例えば、次の方法により、作製されうる。
【0148】
Liを含む原料、Meを含む原料、および、Xを含む原料を用意する。
【0149】
Liを含む原料としては、例えば、Li2O、Li22等の酸化物、Li2CO3、LiOH等の塩類、LiMeO2、LiMe24等のリチウム複合酸化物、など、が挙げられる。
【0150】
また、Meを含む原料としては、例えば、Me23等の各種の酸化状態の酸化物、MeCO3、MeNO3等の塩類、Me(OH)2、MeOOH等の水酸化物、LiMeO2、LiMe24等のリチウム複合酸化物、など、が挙げられる。
【0151】
例えば、MeがMnの場合には、Mnを含む原料としては、例えば、MnO2、Mn23等の各種の酸化状態の酸化マンガン、MnCO3、MnNO3等の塩類、Mn(OH)2、MnOOH等の水酸化物、LiMnO2、LiMn24等のリチウム複合酸化物、など、が挙げられる。
【0152】
また、Xを含む原料としては、例えば、ハロゲン化リチウム、遷移金属ハロゲン化物、遷移金属硫化物、遷移金属窒化物など、が挙げられる。
【0153】
例えば、XがFの場合には、Fを含む原料としては、例えば、LiF、遷移金属フッ化物、など、が挙げられる。
【0154】
これらの原料を、例えば、上述の組成式(2)に示したモル比となるように、原料を秤量する。
【0155】
これにより、組成式(2)における「x、y、α、および、β」を、組成式(2)で示す範囲において、変化させることができる。
【0156】
秤量した原料を、例えば、乾式法または湿式法で混合し、10時間以上メカノケミカルに反応させることで、化合物が得られる。例えば、ボールミルなどの混合装置を使用することができる。
【0157】
その後、得られた化合物を、さらに空気中で焼成することで、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物を得ることができる。
【0158】
このときの熱処理の条件は、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物が得られるように適宜設定される。熱処理の最適な条件は、他の製造条件および目標とする組成に依存して異なるが、本発明者らは、熱処理の温度が高いほど、また、熱処理に要する時間が長いほど、I(003)/I(104)が大きくなる傾向を見出している。そのため、製造者は、この傾向を指針として、熱処理の条件を定めることができる。熱処理の温度および時間は、例えば、300~700℃の範囲、及び、1~5時間の範囲からそれぞれ選択されてもよい。
【0159】
以上のように、用いる原料、および、原料の混合条件および焼成条件を調整することにより、実質的に、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物を得ることができる。
【0160】
例えば、前駆体にリチウム遷移金属複合酸化物を用いることで、各種元素のミキシングのエネルギーを、より低下させることができる。これにより、より純度の高い、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物が、得られる。
【0161】
得られたリチウム複合酸化物の組成は、例えば、ICP発光分光分析法、不活性ガス溶融-赤外線吸収法、イオンクロマトグラフィー、またはそれらの組み合わせにより、決定することができる。
【0162】
また、得られたリチウム複合酸化物における結晶構造の空間群は、粉末X線分析により、決定することができる。
【0163】
以上のように、実施の形態1のリチウム複合酸化物の製造方法は、原料を用意する工程(a)と、原料をメカノケミカルに反応させ、さらに空気中で焼成することにより、リチウム複合酸化物を得る工程(b)と、を包含する。
【0164】
また、上述の工程(a)は、上述の原料を、Meに対して、Liが0.5以上3.0以下のモル比となる割合で混合し、混合原料を調整する工程を、包含してもよい。
【0165】
このとき、上述の工程(a)は、原料となるリチウム複合酸化物を、公知の方法で作製する工程を、包含してもよい。
【0166】
また、上述の工程(a)は、上述の原料を、Meに対して、Liが1.5以上2.0以下のモル比となる割合で混合し、混合原料を調整する工程を、包含してもよい。
【0167】
また、上述の工程(b)は、ボールミルを用いてメカノケミカルに原料を反応させる工程を、包含してもよい。
【0168】
以上のように、実施の形態1におけるリチウム複合酸化物は、前駆体(例えば、Li2O、酸化遷移金属、リチウム複合酸化物、など)を、遊星型ボールミルを用いて、メカノケミカルの反応をさせ、その後空気中で焼成することによって、合成され得る。
【0169】
以下に、実施の形態1の正極活物質に含まれる被覆材の処理方法の一例が、説明される。
【0170】
上述のように得られたリチウム複合酸化物に対して、実施の形態1の被覆材をさらに含ませる処理方法は、任意の方法を用いてもよい。例えば、原子層堆積法、中和反応、シランカップリング反応、ゾル-ゲル法、遊星型ボールミル、などを用いてもよい。
【0171】
なお、実施の形態1における被覆材として、例えば、金属酸化物が用いられる。金属酸化物を処理する方法として、例えば、中和反応を用いてもよい。例えば、上述のリチウム複合酸化物を溶かしたアルカリ性の水溶液中に、酸性の金属酸化物の塩を加えてもよい。これにより、中和反応が生じるため、上述のリチウム複合酸化物の表面に金属酸化物の皮膜を形成できる。酸性の金属酸化物の塩として、例えば、硝酸マンガン、硝酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸チタン、等を用いることができる。
【0172】
また、被覆材を処理する方法として、例えば、原子層堆積法を用いてもよい。これにより、上述のリチウム複合酸化物の表面に被覆材を製膜することができる。被覆材として、例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化タンタル、等を用いることができる。
【0173】
なお、実施の形態1における正極活物質が上述のリチウム複合酸化物と被覆材を含む(例えば、上述のリチウム複合酸化物の表面を被覆材が被覆している)ことは、例えば、X線電子分光法または走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡により観察することができる。
【0174】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2が説明される。なお、上述の実施の形態1と重複する説明は、適宜、省略される。
【0175】
実施の形態2における電池は、上述の実施の形態1における正極活物質を含む正極と、負極と、電解質と、を備える。
【0176】
以上の構成によれば、サイクル特性の高い電池を実現できる。
【0177】
また、実施の形態2における電池において、正極は、正極活物質層を備えてもよい。このとき、正極活物質層は、上述の実施の形態1における正極活物質を、主成分として(すなわち、正極活物質層の全体に対する質量割合で50%以上(50質量%以上))、含んでもよい。
【0178】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0179】
もしくは、実施の形態2における電池において、正極活物質層は、上述の実施の形態1における正極活物質を、正極活物質層の全体に対する質量割合で70%以上(70質量%以上)、含んでもよい。
【0180】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0181】
もしくは、実施の形態2における電池において、正極活物質層は、上述の実施の形態1における正極活物質を、正極活物質層の全体に対する質量割合で90%以上(90質量%以上)、含んでもよい。
【0182】
以上の構成によれば、よりサイクル特性の高い電池を実現できる。
【0183】
実施の形態2における電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、非水電解質二次電池、全固体電池、など、として、構成されうる。
【0184】
実施の形態2における電池において、負極は、例えば、リチウムイオンを吸蔵および放出しうる負極活物質を含んでもよい。あるいは、負極は、例えば、リチウム金属を負極活物質として溶解および析出させうる材料を含んでもよい。
【0185】
また、実施の形態2における電池において、電解質は、例えば、非水電解質(例えば、非水電解液)であってもよい。
【0186】
また、実施の形態2における電池において、電解質は、例えば、固体電解質であってもよい。
【0187】
図1は、実施の形態2における電池の一例である電池10の概略構成を示す断面図である。
【0188】
図1に示されるように、電池10は、正極21と、負極22と、セパレータ14と、ケース11と、封口板15と、ガスケット18と、を備えている。
【0189】
セパレータ14は、正極21と負極22との間に、配置されている。
【0190】
正極21と負極22とセパレータ14とには、例えば、非水電解質(例えば、非水電解液)が含浸されている。
【0191】
正極21と負極22とセパレータ14とによって、電極群が形成されている。
【0192】
電極群は、ケース11の中に収められている。
【0193】
ガスケット18と封口板15とにより、ケース11が閉じられている。
【0194】
正極21は、正極集電体12と、正極集電体12の上に配置された正極活物質層13と、を備えている。
【0195】
正極集電体12は、例えば、金属材料(アルミニウム、ステンレス、アルミニウム合金、など)で作られている。
【0196】
なお、正極集電体12を省略し、ケース11を正極集電体として使用することも可能である。
【0197】
正極活物質層13は、上述の実施の形態1における正極活物質を含む。
【0198】
正極活物質層13は、必要に応じて、例えば、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、結着剤、など)を含んでいてもよい。
【0199】
負極22は、負極集電体16と、負極集電体16の上に配置された負極活物質層17と、を備えている。
【0200】
負極集電体16は、例えば、金属材料(アルミニウム、ステンレス、アルミニウム合金、など)で作られている。
【0201】
なお、負極集電体16を省略し、封口板15を負極集電体として使用することも可能である。
【0202】
負極活物質層17は、負極活物質を含んでいる。
【0203】
負極活物質層17は、必要に応じて、例えば、添加剤(導電剤、イオン伝導補助剤、結着剤、など)を含んでいてもよい。
【0204】
負極活物質として、金属材料、炭素材料、酸化物、窒化物、錫化合物、珪素化合物、など、が使用されうる。
【0205】
金属材料は、単体の金属であってもよい。もしくは、金属材料は、合金であってもよい。金属材料の例として、リチウム金属、リチウム合金、など、が挙げられる。
【0206】
炭素材料の例として、天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、人造黒鉛、非晶質炭素、など、が挙げられる。
【0207】
容量密度の観点から、負極活物質として、珪素(Si)、錫(Sn)、珪素化合物、錫化合物、を使用できる。珪素化合物および錫化合物は、それぞれ、合金または固溶体であってもよい。
【0208】
珪素化合物の例として、SiOx(ここで、0.05<x<1.95)が挙げられる。また、SiOxの一部の珪素を他の元素で置換することによって得られた化合物(合金又は固溶体)も使用できる。ここで、他の元素とは、ホウ素、マグネシウム、ニッケル、チタン、モリブデン、コバルト、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、ニオブ、タンタル、バナジウム、タングステン、亜鉛、炭素、窒素及び錫からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0209】
錫化合物の例として、Ni2Sn4、Mg2Sn、SnOx(ここで、0<x<2)、SnO2、SnSiO3、など、が挙げられる。これらから選択される1種の錫化合物が、単独で使用されてもよい。もしくは、これらから選択される2種以上の錫化合物の組み合わせが、使用されてもよい。
【0210】
また、負極活物質の形状は特に限定されない。負極活物質としては、公知の形状(粒子状、繊維状、など)を有する負極活物質が使用されうる。
【0211】
また、リチウムを負極活物質層17に補填する(吸蔵させる)ための方法は、特に限定されない。この方法としては、具体的には、(a)真空蒸着法などの気相法によってリチウムを負極活物質層17に堆積させる方法、(b)リチウム金属箔と負極活物質層17とを接触させて両者を加熱する方法がある。いずれの方法においても、熱によってリチウムを負極活物質層17に拡散させることができる。また、リチウムを電気化学的に負極活物質層17に吸蔵させる方法もある。具体的には、リチウムを有さない負極22およびリチウム金属箔(正極)を用いて電池を組み立てる。その後、負極22にリチウムが吸蔵されるように、その電池を充電する。
【0212】
正極21および負極22の結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、など、が使用されうる。または、結着剤として、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエタン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエン、からなる群より選択される2種以上の材料の共重合体が、使用されてもよい。さらに、上述の材料から選択される2種以上の材料の混合物が、結着剤として、使用されてもよい。
【0213】
正極21および負極22の導電剤としては、グラファイト、カーボンブラック、導電性繊維、フッ化黒鉛、金属粉末、導電性ウィスカー、導電性金属酸化物、有機導電性材料、など、が使用されうる。グラファイトの例としては、天然黒鉛および人造黒鉛が挙げられる。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックが挙げられる。金属粉末の例としては、アルミニウム粉末が挙げられる。導電性ウィスカーの例としては、酸化亜鉛ウィスカーおよびチタン酸カリウムウィスカーが挙げられる。導電性金属酸化物の例としては、酸化チタンが挙げられる。有機導電性材料の例としては、フェニレン誘導体が挙げられる。
【0214】
なお、上述の導電剤として使用されうる材料を用いて、上述の結着剤の表面を被覆してもよい。例えば、上述の結着剤は、カーボンブラックにより表面を被覆されてもよい。これにより、電池の容量を向上させることができる。
【0215】
セパレータ14としては、大きいイオン透過度および十分な機械的強度を有する材料が使用されうる。このような材料の例としては、微多孔性薄膜、織布、不織布、など、が挙げられる。具体的に、セパレータ14は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンで作られていることが望ましい。ポリオレフィンで作られたセパレータ14は、優れた耐久性を有するだけでなく、過度に加熱されたときにシャットダウン機能を発揮できる。セパレータ14の厚さは、例えば、10~300μm(又は10~40μm)の範囲にある。セパレータ14は、1種の材料で構成された単層膜であってもよい。もしくは、セパレータ14は、2種以上の材料で構成された複合膜(または、多層膜)であってもよい。セパレータ14の空孔率は、例えば、30~70%(又は35~60%)の範囲にある。「空孔率」とは、セパレータ14の全体の体積に占める空孔の体積の割合を意味する。「空孔率」は、例えば、水銀圧入法によって測定される。
【0216】
非水電解液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶けたリチウム塩と、を含む。
【0217】
非水溶媒としては、環状炭酸エステル溶媒、鎖状炭酸エステル溶媒、環状エーテル溶媒、鎖状エーテル溶媒、環状エステル溶媒、鎖状エステル溶媒、フッ素溶媒、など、が使用されうる。
【0218】
環状炭酸エステル溶媒の例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、など、が挙げられる。
【0219】
鎖状炭酸エステル溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、など、が挙げられる。
【0220】
環状エーテル溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン、1、3-ジオキソラン、など、が挙げられる。
【0221】
鎖状エーテル溶媒としては、1、2-ジメトキシエタン、1、2-ジエトキシエタン、など、が挙げられる。
【0222】
環状エステル溶媒の例としては、γ-ブチロラクトン、など、が挙げられる。
【0223】
鎖状エステル溶媒の例としては、酢酸メチル、など、が挙げられる。
【0224】
フッ素溶媒の例としては、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネート、など、が挙げられる。
【0225】
非水溶媒として、これらから選択される1種の非水溶媒が、単独で、使用されうる。もしくは、非水溶媒として、これらから選択される2種以上の非水溶媒の組み合わせが、使用されうる。
【0226】
非水電解液には、フルオロエチレンカーボネート、フルオロプロピオン酸メチル、フルオロベンゼン、フルオロエチルメチルカーボネート、フルオロジメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素溶媒が含まれていてもよい。
【0227】
これらのフッ素溶媒が非水電解液に含まれていると、非水電解液の耐酸化性が向上する。
【0228】
その結果、高い電圧で電池10を充電する場合にも、電池10を安定して動作させることが可能となる。
【0229】
また、実施の形態2における電池において、電解質は、固体電解質であってもよい。
【0230】
固体電解質としては、有機ポリマー固体電解質、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質、など、が用いられる。
【0231】
有機ポリマー固体電解質としては、例えば高分子化合物と、リチウム塩との化合物が用いられうる。
【0232】
高分子化合物はエチレンオキシド構造を有していてもよい。エチレンオキシド構造を有することで、リチウム塩を多く含有することができ、イオン導電率をより高めることができる。
【0233】
酸化物固体電解質としては、例えば、LiTi2(PO43およびその元素置換体を代表とするNASICON型固体電解質、(LaLi)TiO3系のペロブスカイト型固体電解質、Li14ZnGe416、Li4SiO4、LiGeO4およびその元素置換体を代表とするLISICON型固体電解質、Li7La3Zr212およびその元素置換体を代表とするガーネット型固体電解質、Li3NおよびそのH置換体、Li3PO4およびそのN置換体、など、が用いられうる。
【0234】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li2S-P25、Li2S-SiS2、Li2S-B23、Li2S-GeS2、Li3.25Ge0.250.754、Li10GeP212、など、が用いられうる。また、これらに、LiX(X:F、Cl、Br、I)、MOy、LixMOy(M:P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか)(x、y:自然数)などが、添加されてもよい。
【0235】
これらの中でも、特に、硫化物固体電解質は、成形性に富み、イオン伝導性が高い。このため、固体電解質として、硫化物固体電解質を用いることで、より高エネルギー密度の電池を実現できる。
【0236】
また、硫化物固体電解質の中でも、Li2S-P25は、電気化学的安定性が高く、よりイオン伝導性が高い。このため、固体電解質として、Li2S-P25を用いれば、より高エネルギー密度の電池を実現できる。
【0237】
なお、固体電解質層は、上述の非水電解液を含んでもよい。
【0238】
固体電解質層が非水電解液を含むことで、活物質と固体電解質との間でのリチウムイオン授受が容易になる。その結果、より高エネルギー密度の電池を実現できる。
【0239】
なお、固体電解質層は、固体電解質に加えて、ゲル電解質、イオン液体、など、を含んでもよい。
【0240】
ゲル電解質は、ポリマー材料に非水電解液を含ませたものを用いることができる。ポリマー材料として、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、およびポリメチルメタクリレート、もしくはエチレンオキシド結合を有するポリマーが用いられてもよい。
【0241】
イオン液体を構成するカチオンは、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムなどの脂肪族鎖状4級塩類、ピロリジニウム類、モルホリニウム類、イミダゾリニウム類、テトラヒドロピリミジニウム類、ピペラジニウム類、ピペリジニウム類などの脂肪族環状アンモニウム、ピリジニウム類、イミダゾリウム類などの含窒ヘテロ環芳香族カチオンなどであってもよい。イオン液体を構成するアニオンは、PF6 -、BF4 -、SbF6 -、AsF6 -、SO3CF3 -、N(SO2CF32 -、N(SO2252 -、N(SO2CF3)(SO249-、C(SO2CF33 -などであってもよい。また、イオン液体はリチウム塩を含有してもよい。
【0242】
リチウム塩としては、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF33、など、が使用されうる。リチウム塩として、これらから選択される1種のリチウム塩が、単独で、使用されうる。もしくは、リチウム塩として、これらから選択される2種以上のリチウム塩の混合物が、使用されうる。リチウム塩の濃度は、例えば、0.5~2mol/リットルの範囲にある。
【0243】
なお、実施の形態2における電池は、コイン型、円筒型、角型、シート型、ボタン型、扁平型、積層型、など、種々の形状の電池として、構成されうる。
【実施例
【0244】
<実施例1>
[正極活物質の作製]
公知の方法でリチウム複合マンガン酸化物(Li2MnO3、LiMnO2)及びコバルト酸リチウム(LiCoO2)を得た。得られたLi2MnO3、LiMnO2、LiCoO2、及びLiFを、Li2MnO3/LiMnO2/LiCoO2/LiF=3/1/4/1のモル比でそれぞれ秤量した。
【0245】
得られた原料を、適量のφ5mmのジルコニア製ボールと共に、45ccジルコニア製容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。
【0246】
次に、上述の原料をアルゴングローブボックスから取り出し、遊星型ボールミルで、600rpmで35時間処理した。
【0247】
次に、得られた化合物を、空気中において700℃で1時間、焼成することで、リチウム複合酸化物を得た。
【0248】
得られたリチウム複合酸化物に対して、粉末X線回折測定を実施した。測定の結果が、図2に示される。
【0249】
得られたリチウム複合酸化物の空間群は、R-3mであった。
【0250】
また、得られたリチウム複合酸化物における(003)面のピークと(104)面のピークとの積分強度比I(003)/I(104)は、0.76であった。
【0251】
次に、得られたリチウム複合酸化物に対して、原子層堆積法により表面処理を実施した。なお、150℃の真空雰囲気中において、トリメチルアルミニウムおよびオゾンを交互に積層することにより、アルミナ(Al23)の被膜を当該リチウム複合酸化物の表面に形成した。
【0252】
また、得られた正極活物質をX線光電分光法で観察したところ、Li1.2Mn0.4Co0.41.90.1で表されるリチウム複合酸化物の表面に、Al23が存在することを確認した。
【0253】
また、Al23の被膜の厚さは、0.5nmであった。
【0254】
[電池の作製]
次に、70質量部の上述の正極活物質と、20質量部の導電剤と、10質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、適量の2-メチルピロリドン(NMP)とを、混合した。これにより、正極合剤スラリーを得た。
【0255】
20μmの厚さのアルミニウム箔で形成された正極集電体の片面に、正極合剤スラリーを塗布した。
【0256】
正極合剤スラリーを乾燥および圧延することによって、正極活物質層を備えた厚さ60μmの正極板を得た。
【0257】
得られた正極板を、直径12.5mmの円形状に打ち抜くことによって、正極を得た。
【0258】
また、厚さ300μmのリチウム金属箔を、直径14.0mmの円形状に打ち抜くことによって、負極を得た。
【0259】
また、フルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを、1:1:6の体積比で混合して、非水溶媒を得た。
【0260】
この非水溶媒に、LiPF6を、1.0mol/リットルの濃度で、溶解させることによって、非水電解液を得た。
【0261】
得られた非水電解液を、セパレータ(セルガード社製、品番2320、厚さ25μm)に、染み込ませた。当該セパレータは、ポリプロピレン層とポリエチレン層とポリプロピレン層とで形成された、3層セパレータである。
【0262】
上述の正極と負極とセパレータとを用いて、露点が-50℃に管理されたドライボックスの中で、CR2032規格のコイン型電池を、作製した。
【0263】
<実施例2>
上述の実施例1から、Al23の被膜の厚さを変えた。
【0264】
表1に、実施例2におけるAl23の被膜の厚さが示される。Al23の被膜の厚さは、実施例2においては、1.0nmであった。
【0265】
これ以外は、上述の実施例1と同様にして、実施例2の正極活物質を合成した。
【0266】
また、実施例2の正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、実施例2のコイン型電池を作製した。
【0267】
<実施例3~6>
上述の実施例1から、添加する被覆材を、それぞれ変えた。
【0268】
表1に、実施例3~6において用いた被覆材の組成が示される。実施例3においてはZnOを、実施例4においてはZrO2を、実施例5においてはTiO2を、実施例6においてはSiO2を、それぞれ用いた。
【0269】
これ以外は、上述の実施例1と同様にして、実施例3~6の正極活物質を合成した。
【0270】
また、実施例3~6の正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、実施例3~6のコイン型電池を作製した。
【0271】
<実施例7~8>
上述の実施例1から、リチウム複合酸化物の組成を、それぞれ変えた。
【0272】
表1に、実施例7~8において用いたリチウム複合酸化物の組成が示される。実施例7においてはLi1.2Mn0.4Co0.41.950.05を、実施例8においてはLi1.2Mn0.4Co0.41.80.2を、それぞれ用いた。
【0273】
これ以外は、上述の実施例1と同様にして、実施例7~8の正極活物質を合成した。
【0274】
また、実施例7~8の正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、実施例7~8のコイン型電池を作製した。
【0275】
<比較例1~3>
上述の実施例1~8と同様にして、比較例1~3のリチウム複合酸化物を得た。
【0276】
表1に、比較例1~3のリチウム複合酸化物の組成が示される。
【0277】
ただし、被覆材は添加しなかった。
【0278】
これ以外は、上述の実施例1と同様にして、比較例1~3の正極活物質を合成した。
【0279】
得られた正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、比較例1~3のコイン型電池を作製した。
【0280】
<電池の評価>
正極に対する電流密度を0.5mA/cm2に設定し、4.5Vの電圧に達するまで、実施例1~8および比較例1~3の電池を充電した。
【0281】
その後、放電終止電圧を2.5Vに設定し、0.5mA/cm2の電流密度で、実施例1~8および比較例1~3の電池を放電させた。
【0282】
さらに、上述の充放電試験を20サイクル繰り返し、実施例1~8および比較例1~3の電池の容量維持率を測定した。
【0283】
図3は、実施例1および実施例2および比較例1の電池の初回充放電試験の結果を示す図である。
【0284】
図4は、実施例1および実施例2および比較例1の電池の充放電サイクル試験の結果を示す図である。
【0285】
実施例1の電池の初回放電容量は、243mAh/gであった。また、実施例2の電池の初回放電容量は、236mAh/gであった。一方、比較例1の電池の初回放電容量は、249mAh/gであった。
【0286】
また、実施例1の電池の20サイクル後容量維持率は、97%であった。また、実施例2の電池の20サイクル後容量維持率は、98%であった。一方、比較例1の電池の20サイクル後容量維持率は、95%であった。
【0287】
以上の結果が、表1に示される。
【0288】
【表1】
【0289】
表1に示されるように、実施例1~6の電池は、比較例1の電池よりも、20サイクル後容量維持率が高い。
【0290】
この理由としては、実施例1~6の電池では、被覆材を含むことが考えられる。すなわち、被覆材によって、リチウム複合酸化物の表面と電解液との直接の接触を抑制したことが考えられる。これにより、例えば、リチウム複合酸化物と電解液との副反応に伴うガス発生、および、酸素の脱離、および、正極活物質表面への副反応生成物の発生、が抑制されたことが考えられる。このため、20サイクル後容量維持率が向上したと考えられる。
【0291】
また、表1に示されるように、実施例1~6の電池は、比較例1の電池よりも、初回放電容量が低い。
【0292】
この理由としては、実施例1~6の電池では、被覆材の被膜により、リチウム複合酸化物の表面が電気化学的に不活性化し、抵抗が増加したと考えられる。これにより、Li伝導性が低下したと考えられる。このため、初回放電容量が低下したと考えられる。
【0293】
しかしながら、実施例1~6の電池は、初期の数サイクルにおいては放電容量が増加することが分かった。例として、実施例1および実施例2および比較例1の電池の充放電サイクル試験の結果が、図4に示される。この理由としては、被覆材の被膜により充放電に寄与できていなかったLiが、初期の数サイクル後に反応可能となるためと考えられる。
【0294】
また、表1に示されるように、実施例2の電池は、実施例1の電池よりも、初回放電容量が低い。
【0295】
一方、表1に示されるように、実施例2の電池は、実施例1の電池よりも、20サイクル後容量維持率が高い。
【0296】
これらの理由としては、実施例2の電池では、実施例1の電池と比較して、被覆材の被膜が厚いことが考えられる。これにより、リチウム複合酸化物の表面が電気化学的に不活性化し、抵抗が増加したと考えられる。これにより、Li伝導性が低下し、初回放電容量が低下したと考えられる。一方、リチウム複合酸化物と電解液との副反応に伴うガス発生、および、酸素の脱離、および、正極活物質表面への副反応生成物の発生、等が、より抑制されたと考えられる。このため、20サイクル後容量維持率が向上したと考えられる。
【0297】
また、表1に示されるように、実施例1の電池は、実施例3~6の電池よりも、初回放電容量が高い。
【0298】
この理由としては、実施例1の電池では、被覆材としてAl23を用いたことが考えられる。これにより、Al23がリチウム複合酸化物の表面のLiと反応し、LiAlO2を形成したと考えられる。これにより、Li伝導性が向上したと考えられる。このため、初回放電容量が向上したと考えられる。
【0299】
また、表1に示されるように、実施例7の電池は、比較例2の電池よりも、20サイクル後容量維持率が高い。
【0300】
また、表1に示されるように、実施例8の電池は、比較例3の電池よりも、20サイクル後容量維持率が高い。
【0301】
この理由としては、実施例7~8の電池では、被覆材を含むことが考えられる。すなわち、実施例1~8で示したリチウム複合酸化物の化学組成に限定されず、本開示における正極活物質はサイクル特性が向上すると考えられる。
【0302】
以下に、参考例を記載する。なお、以下の参考例における正極活物質は、リチウム複合酸化物は含んでいるが、本開示における被覆材は含んでいない。
【0303】
<参考例1>
公知の方法でリチウム複合マンガン酸化物(Li2MnO3、LiMnO2)及びコバルト酸リチウム(LiCoO2)を得た。得られたLi2MnO3、LiMnO2、LiCoO2、及びLiFを、Li2MnO3/LiMnO2/LiCoO2/LiF=3/1/4/1のモル比でそれぞれ秤量した。
【0304】
得られた原料を、適量のφ5mmのジルコニア製ボールと共に、45ccジルコニア製容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。
【0305】
次に、上述の原料をアルゴングローブボックスから取り出し、遊星型ボールミルで、600rpmで35時間処理した。
【0306】
次に、得られた化合物を、空気中において700℃で1時間、焼成した。
【0307】
得られた正極活物質に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0308】
得られた正極活物質の空間群は、R-3mであった。
【0309】
また、得られた正極活物質における(003)面のピークと(104)面のピークとの積分強度比I(003)/I(104)は、0.75であった。
【0310】
また、得られた正極活物質の組成を、ICP発光分光分析法および不活性ガス溶融-赤外線吸収法およびイオンクロマトグラフィーにより求めた。
【0311】
その結果、得られた正極活物質の組成は、Li1.2Mn0.4Co0.41.90.1であった。
【0312】
得られた正極活物質を用いて、上述の実施例1と同様にして、参考例1のコイン型電池を作製した。
【0313】
<参考例2~19>
上述の参考例1から、前駆体および混合比率を、それぞれ変えた。
【0314】
表2に、参考例2~19の正極活物質の組成が示される。
【0315】
また、上述の参考例1から、焼成の条件を、300~700℃かつ1~5時間の範囲内で、それぞれ変えた。
【0316】
これ以外は、上述の参考例1と同様にして、参考例2~19の正極活物質を合成した。
【0317】
なお、参考例2~19の各前駆体は、参考例1と同様に、化学量論比で秤量して混合した。
【0318】
例えば、参考例9であれば、各前駆体をLi2MnO3/LiMnO2/LiNiO2/LiF=3/1/4/1のモル比でそれぞれ秤量して混合した。
【0319】
また、参考例2~19の正極活物質として得られた化合物の空間群は、いずれも、R-3mであった。
【0320】
参考例2~19のそれぞれの正極活物質を用いて、上述の参考例1と同様にして、コイン型電池を作製した。
【0321】
<参考例20>
公知の手法を用いてコバルト酸リチウム(LiCoO2)を得た。
【0322】
得られたコバルト酸リチウムに対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0323】
得られたコバルト酸リチウムの空間群は、R-3mであった。
【0324】
また、得られたコバルト酸リチウムにおける(003)面のピークと(104)面のピークとの積分強度比I(003)/I(104)は、1.20であった。
【0325】
得られたコバルト酸リチウムを正極活物質として用いて、上述の参考例1と同様にして、参考例20のコイン型電池を作製した。
【0326】
<参考例21>
Li2MnO3、LiMnO2、LiCoO2、及びLiFを、Li2MnO3/LiMnO2/LiCoO2/LiF=3/1/4/1のモル比でそれぞれ秤量した。
【0327】
得られた原料を、適量のφ5mmのジルコニア製ボールと共に、45ccジルコニア製容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。
【0328】
次に、上述の原料をアルゴングローブボックスから取り出し、遊星型ボールミルで、600rpmで35時間処理した。
【0329】
次に、得られた化合物を、空気中において800℃で1時間、焼成した。
【0330】
得られた化合物に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0331】
得られた化合物の空間群は、R-3mであった。
【0332】
また、得られた化合物における(003)面のピークと(104)面のピークとの積分強度比I(003)/I(104)は、0.92であった。
【0333】
また、得られた化合物の組成を、ICP発光分光分析法および不活性ガス溶融-赤外線吸収法およびイオンクロマトグラフィーにより求めた。
【0334】
その結果、得られた化合物の組成は、Li1.2Mn0.4Co0.41.90.1であった。
【0335】
得られた化合物を正極活物質として用いて、上述の参考例1と同様にして、参考例21のコイン型電池を作製した。
【0336】
<参考例22>
Li2MnO3とLiCoO2を、Li2MnO3/LiCoO2=1/1のモル比でそれぞれ秤量した。
【0337】
得られた原料を、適量のφ5mmのジルコニア製ボールと共に、45ccジルコニア製容器に入れ、アルゴングローブボックス内で密閉した。
【0338】
次に、上述の原料をアルゴングローブボックスから取り出し、遊星型ボールミルで、600rpmで35時間処理した。
【0339】
次に、得られた化合物を、空気中において700℃で1時間、焼成した。
【0340】
得られた化合物に対して、粉末X線回折測定を実施した。
【0341】
得られた化合物の空間群は、R-3mであった。
【0342】
また、得られた化合物における(003)面のピークと(104)面のピークとの積分強度比I(003)/I(104)は、0.75であった。
【0343】
また、得られた化合物の組成を、ICP発光分光分析法および不活性ガス溶融-赤外線吸収法およびイオンクロマトグラフィーにより求めた。
【0344】
その結果、得られた化合物の組成は、Li1.2Mn0.4Co0.42であった。
【0345】
得られた化合物を正極活物質として用いて、上述の参考例1と同様にして、参考例22のコイン型電池を作製した。
【0346】
<電池の評価>
正極に対する電流密度を0.5mA/cm2に設定し、4.5Vの電圧に達するまで、参考例1の電池を充電した。
【0347】
その後、放電終止電圧を2.5Vに設定し、0.5mA/cm2の電流密度で、参考例1の電池を放電させた。
【0348】
参考例1の電池の初回エネルギー密度は、4000Wh/Lであった。
【0349】
また、正極に対する電流密度を0.5mA/cm2に設定し、4.3Vの電圧に達するまで、参考例20の電池を充電した。
【0350】
その後、放電終止電圧を3.0Vに設定し、0.5mA/cm2の電流密度で、参考例20の電池を放電させた。
【0351】
参考例20の電池の初回エネルギー密度は、2500Wh/Lであった。
【0352】
また、同様にして、参考例2~19および参考例21および参考例22のコイン型電池の初回エネルギー密度を測定した。
【0353】
以上の結果が、表2に示される。
【0354】
【表2】
【0355】
表2に示されるように、参考例1~19の電池の初回エネルギー密度は、参考例20~22の電池の初回エネルギー密度よりも、極めて高い値を有する。
【0356】
この理由としては、参考例1~19では、正極活物質におけるリチウム複合酸化物が、F、Cl、N、S、Br、Iからなる群より選択される一種または二種以上の元素を含み、空間群R-3mに属する結晶構造を有し、XRDパターンにおける(003)面のピークと(104)面のピークとの積分強度比I(003)/I(104)が、0.62≦I(003)/I(104)≦0.90、を満たすことが考えられる。これにより、エネルギー密度が向上したと考えられる。
【0357】
なお、参考例21では、I(003)/I(104)が0.92である。このため、カチオンミキシングが抑制されることにより、リチウムの三次元的な拡散経路が減少したと考えられる。このため、リチウムの拡散が阻害され、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0358】
また、参考例22では、F、Cl、N、Sなどの電気化学的に不活性なアニオンを含まないため、結晶構造が不安定化したと考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0359】
また、表2に示されるように、参考例2~3の電池の初回エネルギー密度は、参考例1の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。この理由としては、参考例2では、参考例1と比較して、I(003)/I(104)が小さいことが考えられる。すなわち、カチオンミキシングの割合が多く、結晶構造が比較的不安定になったことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。また、参考例3では、参考例1と比較して、I(003)/I(104)が大きいことが考えられる。すなわち、カチオンミキシング量が不十分であり、Liの三次元的な拡散経路が阻害されたことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0360】
また、表2に示されるように、参考例5~6の電池の初回エネルギー密度は、参考例1の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0361】
この理由としては、参考例5では、参考例1と比較して、α/βの値が大きいことが考えられる。すなわち、酸素の酸化還元による容量が過剰となることや、電気化学的に不活性なアニオンの影響が小さくなり、Liが脱離した際に構造が不安定化したことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。また、参考例6では、参考例1と比較して、α/βの値が小さいことが考えられる。すなわち、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することや、電気化学的に不活性なアニオンの影響が大きくなり、電子伝導性が低下したことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0362】
また、表2に示されるように、参考例7の電池の初回エネルギー密度は、参考例6の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0363】
この理由としては、参考例7では、参考例6と比較して、α/βの値がさらに小さいことが考えられる。すなわち、酸素の酸化還元による電荷補償量が低下することや、電気化学的に不活性なアニオンの影響が大きくなり、電子伝導性が低下したことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0364】
また、表2に示されるように、参考例8~9の電池の初回エネルギー密度は、参考例1の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0365】
この理由としては、参考例8では、Li以外のカチオン元素がMnのみであるため、酸素の脱離が進行しやすく、結晶構造が不安定化したことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。また、参考例9では、カチオン元素として、Coの代わりに、Coよりも酸素との軌道の重なりが少ないNiを用いたため、酸素の酸化還元反応による容量が十分に得られなかったことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0366】
また、表2に示されるように、参考例10~13の電池の初回エネルギー密度は、参考例5の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0367】
この理由としては、参考例10~13では、Fの代わりに、Fよりも電気陰性度の低いアニオンを用いたため、カチオン-アニオンの相互作用が弱くなったことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0368】
また、表2に示されるように、参考例14の電池の初回エネルギー密度は、参考例1の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0369】
この理由としては、参考例14では、参考例1と比較して、x/yの値が小さい(x/y=1)ため、Liのパーコレーションパスが適切に確保されず、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0370】
また、表2に示されるように、参考例15の電池の初回エネルギー密度は、参考例1の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0371】
この理由としては、参考例15では、参考例1と比較して、x/yの値が大きい(x/y=3)ことが考えられる。このため、電池の初回充電において、結晶構造内のLiが過剰に引き抜かれ、結晶構造が不安定化したことが考えられる。このため、放電で挿入されるLi量が低下したと考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0372】
また、表2に示されるように、参考例16の電池の初回エネルギー密度は、参考例1の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0373】
この理由としては、参考例16では、参考例1と比較して、x/yの値が小さく(x/y=0.5)、(x+y)/(α+β)の値が小さい((x+y)/(α+β)=0.75)ことが考えられる。すなわち、合成時のLi欠損により、Mn及びCoが規則配列することで、Liイオンのパーコレーションパスが十分に確保できず、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0374】
また、表2に示されるように、参考例17の電池の初回エネルギー密度は、参考例1の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0375】
この理由としては、参考例17では、参考例1と比較して、(x+y)/(α+β)の値が大きい((x+y)/(α+β)=1.15)ことが考えられる。すなわち、初期構造のアニオン欠損により、充電時における酸素脱離が進行し、結晶構造が不安定化したことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0376】
また、表2に示されるように、参考例18の電池の初回エネルギー密度は、参考例1の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0377】
この理由としては、参考例18では、参考例1と比較して、x/yの値が大きい(x/y=1.99)ことが考えられる。このため、電池の初回充電において、結晶構造内のLiが過剰に引き抜かれ、結晶構造が不安定化したことにより、放電で挿入されるLi量が低下したことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【0378】
また、表2に示されるように、参考例19の電池の初回エネルギー密度は、参考例1の電池の初回エネルギー密度よりも、低い。
【0379】
この理由としては、参考例19では、参考例1と比較して、(x+y)/(α+β)の値が小さい((x+y)/(α+β)=0.95)ことが考えられる。このため、合成時のわずかなLi欠損により、Mn及びCoが規則配列することで、Liイオンのパーコレーションパスが十分に確保できず、Liイオンの拡散性が低下したことが考えられる。また、参考例19では、参考例1と比較して、I(003)/I(104)が小さいことが考えられる。すなわち、カチオンミキシングの割合が多く、結晶構造が比較的不安定になったことが考えられる。このため、エネルギー密度が低下したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0380】
本開示の正極活物質は、二次電池などの電池の正極活物質として、利用されうる。
【符号の説明】
【0381】
10 電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極活物質層
18 ガスケット
21 正極
22 負極
図1
図2
図3
図4