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特許7228775フッ化物イオン二次電池用活物質、及びそれを用いたフッ化物イオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】フッ化物イオン二次電池用活物質、及びそれを用いたフッ化物イオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20230217BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20230217BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/05
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019080814
(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公開番号】P2019204775
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018097516
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】浅野 和子
(72)【発明者】
【氏名】名倉 健祐
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-145758(JP,A)
【文献】特開2017-143044(JP,A)
【文献】特開2017-220301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 10/36
H01M 10/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属複合フッ化物を含有するフッ化物イオン二次電池用活物質であって、
前記金属複合フッ化物は、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、
第1の遷移金属と、
前記第1の遷移金属とは異なる第2の遷移金属と、
フッ素と、を含有し、
前記第1の遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される1種である、
フッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項2】
前記第2の遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される1種である、
請求項に記載のフッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項3】
金属複合フッ化物を含有するフッ化物イオン二次電池用活物質であって、
前記金属複合フッ化物は、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、
第1の遷移金属と、
前記第1の遷移金属とは異なる第2の遷移金属と、
フッ素と、を含有し、
前記金属複合フッ化物において、前記第1の遷移金属の酸化数は+2であり、かつ、前記第2の遷移金属の酸化数は+3である、
フッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項4】
前記第1の遷移金属は、Cuであり、
前記第2の遷移金属は、Feである、
請求項1から3のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項5】
金属複合フッ化物を含有するフッ化物イオン二次電池用活物質であって、
前記金属複合フッ化物は、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、
第1の遷移金属と、
前記第1の遷移金属とは異なる第2の遷移金属と、
フッ素と、を含有し、
前記少なくとも1種の金属は、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、及びSmからなる群より選択される少なくとも1種である、
フッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項6】
前記少なくとも1種の金属は、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項に記載のフッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項7】
前記少なくとも1種の金属は、Baである、
請求項に記載のフッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項8】
金属複合フッ化物を含有するフッ化物イオン二次電池用活物質であって、
前記金属複合フッ化物は、組成式AxM1y1M2y2z(ここで、AはMg、Ca、Sr又はBaであり、M1及びM2はMn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される異なる2種であり、0.7≦x≦1、 1<y1+y2≦2、かつ6<z<8)で表される、
フッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項9】
金属複合フッ化物を含有するフッ化物イオン二次電池用活物質であって、
前記金属複合フッ化物は、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、
第1の遷移金属と、
前記第1の遷移金属とは異なる第2の遷移金属と、
フッ素と、を含有し、
前記金属複合フッ化物の結晶構造が、空間群C12/c1に属する、
フッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項10】
金属複合フッ化物を含有する活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記金属複合フッ化物は、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、
第1の遷移金属と、
前記第1の遷移金属とは異なる第2の遷移金属と、
フッ素と、を含有し、
前記第1の遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される1種である、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項11】
前記第2の遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される1種である、
請求項10に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項12】
前記第1の遷移金属は、Cuであり、
前記第2の遷移金属は、Feである、
請求項10又は11に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項13】
金属複合フッ化物を含有する活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記金属複合フッ化物は、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、
第1の遷移金属と、
前記第1の遷移金属とは異なる第2の遷移金属と、
フッ素と、を含有し、
前記少なくとも1種の金属は、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、及びSmからなる群より選択される少なくとも1種である、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項14】
前記少なくとも1種の金属は、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項13に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項15】
前記少なくとも1種の金属は、Baである、
請求項14に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項16】
金属複合フッ化物を含有する活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記金属複合フッ化物は、組成式AxM1y1M2y2z(ここで、AはMg、Ca、Sr、又はBaであり、M1及びM2はMn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される異なる2種であり、0.7≦x≦1、 1<y1+y2≦2、かつ6<z<8)で表される、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項17】
金属複合フッ化物を含有する活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記金属複合フッ化物は、
アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、
第1の遷移金属と、
前記第1の遷移金属とは異なる第2の遷移金属と、
フッ素と、を含有し、
前記金属複合フッ化物の結晶構造が、空間群C12/c1に属する、
フッ化物イオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化物イオン二次電池用活物質、及びそれを用いたフッ化物イオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フッ化物イオンを用いたフッ化物イオン二次電池が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、フッ化物イオン電気化学セルを開示している。この文献は、正極材料として、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、及びCeFxを開示しており、負極材料として、LaFx、CaFx,AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、SnFx、MnFxを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-145758
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、フッ化物イオン二次電池に利用可能な新規の活物質、及び、それを用いたフッ化物イオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るフッ化物イオン二次電池用活物質は、金属複合フッ化物を含有する。前記金属複合フッ化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種と、第1の遷移金属と、前記第1の遷移金属とは異なる第2の遷移金属と、フッ素とを含有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、フッ化物イオン二次電池に利用可能な新規の活物質、及び、それを用いたフッ化物イオン二次電池が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るフッ化物イオン二次電池の構成例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係るフッ化物イオン二次電池の変形例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下に示される数値、組成、形状、膜厚、電気特性、二次電池の構造、電極材料などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素は、任意の構成要素である。
【0010】
以下の説明のうち、物質の名称で表されている材料は、特に断りのない限り、化学量論組成には限定されず、非化学量論組成も包含する。
【0011】
以下の説明のうち、記号「~」を用いて示される数値範囲は、「~」の両端の数値を含むものとして解釈される。
【0012】
[1.活物質]
[1-1.活物質の組成]
本実施形態に係る活物質は、金属複合フッ化物を含有する。この金属複合フッ化物は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と、第1の遷移金属と、前記第1の遷移金属とは異なる第2の遷移金属と、フッ素とを含有する。
【0013】
例えば、第1の遷移金属及び第2の遷移金属は、3d遷移金属からなる群より選択される異なる2種であってもよい。
【0014】
この活物質は、正極活物質であってもよく、あるいは、負極活物質であってもよい。
【0015】
この活物質は、フッ化物イオン二次電池に用いられることにより、既存の材料(例えば、特許文献1に記載の材料)に比べて、大きい容量を示しうる。
【0016】
上記の金属複合フッ化物において、第1の遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される1種であってもよく、かつ/又は、第2の遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される1種であってもよい。Mn、Fe、Co、Ni及びCuは、金属複合フッ化物の電極電位を高めることができる。そのため、例えば、金属複合フッ化物を正極活物質として機能させることができる。
【0017】
上記の金属複合フッ化物において、第1の遷移金属の酸化数は+2であり、かつ、第2の遷移金属の酸化数は+3であってもよい。例えば、第1の遷移金属はCuであってもよく、第2の遷移金属はFeであってもよい。ただし、上述の通り、第1の遷移金属の酸化数、及び/又は、第2の遷移金属の酸化数は、充放電反応によって変動しうる。
【0018】
上記の金属複合フッ化物において、上記少なくとも1種の金属は、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、La、Ce、及びSmからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。例えば、金属複合フッ化物の結晶構造内の所望のサイトに配置された場合に所望のイオン半径を有するような金属が選択されてもよい。
【0019】
上記の金属複合フッ化物において、上記少なくとも1種の金属は、さらに、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群より選択される少なくとも1種であってもよく、例えば、Baであってもよい。
【0020】
上記の金属複合フッ化物は、組成式AxM1y1M2y2z(ここで、AはMg、Ca、Sr、又は、Baであり、M1及びM2はMn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される異なる2種であり、0.7≦x≦1、 1<y1+y2≦2、かつ6<z<8)で表されてもよい。
【0021】
組成式において、0.7≦xが満たされることにより、金属複合フッ化物の構造を安定化させることができる。x≦1、及び1<y1+y2が満たされることにより、遷移金属の比率を高めることができ、容量を向上させることができる。y1+y2≦2が満たされることにより、比較的大きな価数(例えば+3)の遷移金属の反応を利用することができる。電極反応において大きな価数の変化を利用することができる場合には、電極電位を高めることができる。6<z<8が満たされることにより、金属複合フッ化物の密度の低下を抑止しつつ、電極反応に関与するフッ素の比率を高めることができ、容量を向上させることができる。zは、さらに、6.5≦z≦7.0を満たしてもよい。
【0022】
活物質(または金属複合フッ化物)の組成は、例えば、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法及びイオンクロマトグラフィーにより、決定することができる。得られた金属複合フッ化物の結晶構造は、粉末X線回折(XRD)分析により、決定することができる。
【0023】
金属複合フッ化物は、例えば、固溶体であってもよく、アモルファスであってもよい。金属複合フッ化物は、例えば、多結晶構造を有する活物質の一部であってもよい。
【0024】
金属複合フッ化物は、例えば、層状構造を有する。金属複合フッ化物の結晶構造は、例えば、空間群C12/c1、またはP4/nmmに属してもよい。ここで、「結晶構造」は、金属複合フッ化物が結晶であることを限定するものではなく、アモルファス(例えば、潜晶質)に含まれる微視的な結晶構造をも包含する。「微視的な結晶構造」とは、例えば、XRD分析または透過型電子顕微鏡によって検出可能となる短距離秩序を意味する。
【0025】
活物質は、上記の金属複合フッ化物を主成分として含んでいてもよい。ここで、「主成分として含む」とは、活物質が上記の金属複合フッ化物を50体積パーセントより多く含んでいることを意味する。
【0026】
活物質の形状は、特に限定されないが、例えば、粒子である。活物質が粒子である場合、その平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.5~50μmであってもよい。ここで、平均粒径は、レーザー回折散乱法によって得られる体積基準の粒子径分布におけるメディアン径として定義される。
【0027】
[1-2.想定されるメカニズム]
これまで、フッ化物イオン二次電池用の活物質としては、主に、単一の金属を含有する金属フッ化物が報告されている。これらの金属フッ化物は、電池の充放電に伴って、脱フッ化及びフッ化に基づくコンバージョン反応を示す。具体的には、正極活物質は、放電時に金属フッ化物から金属に脱フッ化され、充電時に金属から金属フッ化物にフッ化される。負極活物質は、放電時に金属から金属フッ化物にフッ化され、充電時に金属フッ化物から金属に脱フッ化される。
【0028】
しかしながら、フッ化反応及び脱フッ化反応を利用する活物質は、十分な容量が得られないという課題があった。この活物質では、フッ化と脱フッ化の反応速度を適切に制御することによって、安定した充放電が得られる。しかし、フッ化物は安定性が低いため、フッ化反応と脱フッ化反応の均衡が意図しない方向に崩れやすい。例えば、活物質中の金属が電解液に過剰に溶解すると、溶解した金属が電解液と副反応を引き起こしたり、意図しない位置に溶出したりする。これらの不可逆な変化が、容量を低下させうる。
【0029】
これに対して、本実施形態に係る活物質は、大きい容量を示しうる。この理由は必ずしも明らかにはなっていないが、可能性の1つとして、本発明者らは、本実施形態に係る活物質が、フッ化物イオンを挿入及び脱離させることができているためと考えている。本実施形態に係る活物質の構造と、フッ化物イオンの挿入及び脱離との関係について、本発明者らは、次のように推測している。
【0030】
第1に、金属複合フッ化物が、複数種の金属を含有する。金属複合フッ化物は、例えば金属フッ化物MFxに比べて、単位セルあたりに多くのフッ化物イオンを有することができる。そのため、金属複合フッ化物の結晶構造は、フッ化物イオンが脱離しても、崩壊しにくい。また、金属複合フッ化物は、金属イオンとフッ化物イオンが交互に配置されている金属フッ化物MFxに比べて、多くの互いに隣接したフッ化物イオンサイトを有する。そのため、フッ化物イオンが、これらのサイトの連なり(すなわち伝導パス)を通って、移動しやすくなる。
【0031】
第2に、金属複合フッ化物が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含有する。これらの金属は、電極の動作電圧の領域においてその価数が変化しないため、安定した電子状態を維持できる。これにより、これらの金属は、フッ化物イオンが金属複合フッ化物に脱挿入された際に、金属複合フッ化物の結晶構造を安定して支持することができ、金属複合フッ化物の崩壊を抑制することができる。加えて、これらの金属の中から最適なイオン半径を有する金属が選択された場合には、フッ化物イオンの脱挿入に伴って遷移金属のイオン半径が変化することによる結晶構造への影響を低減することができる。
【0032】
第3に、金属複合フッ化物が、2種類の遷移金属を含有する。2種類の遷移金属がそれぞれ異なるイオン半径を有することにより、遷移金属毎に異なる局所構造を形成することができる。これにより、金属複合フッ化物の結晶構造が全体として安定化される。加えて、フッ化物イオンの脱挿入に伴って2種類の遷移金属の価数がそれぞれ変化する場合には、それぞれの価数変化に応じたレドックス電位を利用することができる。これにより、所望の電圧領域で動作させることができる。
【0033】
以上のメカニズムはあくまでも推測であり、本開示を限定するものではない。
【0034】
なお、リチウムイオン電池においてはインサーション型の活物質が広く知られており、この活物質はホスト構造を大きく変化させることなくリチウムイオンを挿入及び脱離させることができる。しかしながら、フッ化物イオン二次電池においては、インサーション型の活物質の報告例はほとんどない。この理由としては、フッ化物イオン二次電池の報告例がそもそも少ないことと、フッ化物イオンのイオン半径がリチウムイオンに比べて大きいために、ホスト構造を維持したままでフッ化物イオンを挿入及び脱離させることが難しいことが挙げられる。
【0035】
[1-3.活物質の製造方法]
本実施形態に係る活物質の製造方法の一例を説明する。
【0036】
まず、原料として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含有するフッ化物と、第1の遷移金属を含有するフッ化物と、第2の遷移金属を含有するフッ化物とを用意する。
【0037】
アルカリ金属を含有するフッ化物は、例えば、アルカリ金属のフッ化物AF(AはNa、K、Rb、Sc)である。アルカリ土類金属を含有するフッ化物は、例えば、アルカリ土類金属のフッ化物AF2(AはMg、Ca、Sr又はBa)である。スカンジウムを含有するフッ化物は、例えば、フッ化スカンジウム(III)である。イットリウムを含有するフッ化物は、例えば、フッ化イットリウム(III)である。ランタノイドを含有するフッ化物は、例えば、ランタノイドのフッ化物AF3(AはLa、Ce、Sm)である。
【0038】
第1の遷移金属を含有するフッ化物は、例えば、第1の遷移金属のフッ化物M1Fn(M1は第1の遷移金属であり、nは第1の遷移金属の価数である)である。第1の遷移金属のフッ化物の例としては、MnF2、FeF3、FeF2、CoF3、CoF2、NiF2、及びCuF2が挙げられる。
【0039】
第2の遷移金属を含有するフッ化物は、例えば、第2の遷移金属のフッ化物M2Fm(M2は第2の遷移金属であり、mは第2の遷移金属の価数である)である。第2の遷移金属のフッ化物の例としては、MnF2、FeF3、FeF2、CoF3、CoF2、NiF2、及びCuF2が挙げられる。
【0040】
なお、活物質のための原料は、上記に限定されない。例えば、上記の金属源のうちのいくつかが、単体の金属であってもよい。例えば、複数種の金属を含む原料を用いてもよい。
【0041】
各原料の形状は、例えば、粉末状である。
【0042】
次に、用意された原料を秤量する。各原料の分量は、目標とする金属複合フッ化物の組成に応じて適宜調整する。
【0043】
次に、秤量された原料を混合する。
【0044】
例えば、原料を長時間混合することで、メカノケミカル反応によって金属複合フッ化物を得る。この場合、混合装置の例として、例えば、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、ジェットミル、及びミックスローターが挙げられる。混合方法は、例えば、乾式法であってもよく、湿式法であってもよい。湿式法の場合、原料と有機溶媒とを混合してもよい。有機溶媒は、例えば、エタノール、又はアセトンであってもよい。混合時間は、例えば、10~48時間である。
【0045】
あるいは、原料を短時間で混合した後、焼成することによって金属複合フッ化物を得てもよい。混合には、上記の混合装置が用いられてもよいし、乳鉢が用いられてもよい。混合方法は、例えば、乾式法であってもよく、湿式法であってもよい。混合時間は、例えば、乳鉢を使用する場合15分~1時間であり、ボールミルを使用する場合は12~24時間である。混合物は、不活性雰囲気下で焼成される。不活性ガスの例としては、窒素及びアルゴンが挙げられる。温度条件は、原料の種類および/又は目標とする組成によっても異なるが、例えば、300℃~800℃に設定する。焼成時間は、例えば、3~48時間に設定する。
【0046】
以上の方法により、本実施形態に係る活物質が得られる。
【0047】
[2.フッ化物イオン二次電池]
[2-1.全体構成]
本実施形態に係る活物質は、フッ化物イオン二次電池に利用されうる。すなわち、フッ化物イオン二次電池は、正極と、負極と、フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を含む。
【0048】
図1は、フッ化物イオン二次電池10の構成例を模式的に示す断面図である。
【0049】
フッ化物イオン二次電池10は、正極21と、負極22と、セパレータ14と、ケース11と、封口板15と、ガスケット18と、を備えている。セパレータ14は、正極21と負極22との間に配置されている。正極21、負極22、及びセパレータ14には、電解質が含浸されており、これらがケース11の中に収められている。ケース11は、ガスケット18及び封口板15によって閉じられている。
【0050】
フッ化物イオン二次電池10の構造は、例えば、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、又は扁平型であってもよい。
【0051】
[2-2.正極]
正極21は、正極集電体12と、正極集電体12の上に配置された正極活物質層13と、を含む。
【0052】
正極活物質層13は、上記[1-1.活物質の組成]で説明された活物質を含んでもよい。なお、活物質中のフッ素の量は充放電に伴って変化し得る。そのため、活物質は、例えばフッ化物イオン二次電池10が特定の充電状態にある場合において、上記[1-1.活物質の組成]で説明された組成を有しうる。
【0053】
特定の充電状態は、例えば、満充電状態であってもよい。ここで、「満充電状態」とは、フッ化物イオン二次電池が、充電終止電圧に到達して、充電しきった状態を指す。満充電状態では、可逆容量に相当する量のフッ化物イオンが、すべて正極活物質中に取り込まれている。本実施形態に係る正極活物質は、例えば、充電電位がAg/Ag+基準で0.6V以上であるとき、満充電状態にあるとみなすことができる。
【0054】
正極活物質は、上記の活物質でなくてもよく、例えば、Cu、Ag、Hg、Mo、Au、Co、V、Bi、Sb、Ni、Tl、Pb、Cd、Fe、V、Nb、Zn、Ga、及びCrからなる群より選択される少なくとも1種を含有する金属、合金、または、フッ化物であってもよい。あるいは、正極活物質は、フッ化炭素であってもよい。
【0055】
正極活物質層13は、1種類のみの活物質を含んでもよく、2種類以上の活物質を含んでもよい。
【0056】
正極活物質層13は、必要に応じて、導電剤、結着剤、及び/又はイオン伝導体をさらに含んでいてもよい。
【0057】
導電剤の例として、炭素材料、金属、無機化合物、及び導電性高分子が挙げられる。炭素材料の例としては、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェン、フラーレン、及び、フッ化黒鉛、酸化黒鉛が挙げられる。黒鉛の例としては、天然黒鉛、及び人造黒鉛が挙げられる。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックが挙げられる。金属の例としては、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、及び金が挙げられる。無機化合物の例としては、炭化タングステン、炭化チタン、炭化タンタル、炭化モリブデン、ホウ化チタン、チッ化チタン、酸化チタン、酸化亜鉛、及びチタン酸カリウムが挙げられる。導電性高分子の例としては、ポリアニリン、ポリピロール、及びポリチオフェンが挙げられる。
【0058】
結着剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、及びカルボキシメチルセルロースが挙げられる。あるいは、結着剤は、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ビニリデンフルオライド、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、及びヘキサジエンからなる群より選択される複数種の共重合体であってもよい。
【0059】
イオン伝導体の例としては、Pb‐K複合フッ化物、La‐Ba複合フッ化物、Ce‐Sr複合フッ化物、Cs‐Ca複合フッ化物、Ce‐Sr‐Li複合フッ化物、Pb‐Sn複合フッ化物、及びPb‐Sn‐Zr複合フッ化物が挙げられる。
【0060】
正極活物質、導電剤、及び、結着剤を分散させる溶剤の例としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、及びテトラヒドロフランが挙げられる。例えば、分散剤に増粘剤を加えてもよい。増粘剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、及び、メチルセルロースが挙げられる。
【0061】
正極活物質層13は、例えば、次のように形成されうる。
【0062】
まず、正極活物質と導電剤と結着剤とを混合する。例えば、正極活物質と導電剤とを、ボールミル等の混合装置を用いて、乾式で長時間(例えば10~24時間)混合し、その後、それらに結着剤を加えて、さらに混合する。これにより、正極合剤が得られる。次に、正極合剤を圧延機で板状に圧延して、正極活物質層13を形成する。あるいは、得られた混合物に溶剤を加えて正極合剤ペーストを形成し、これを正極集電体12の表面に塗布してもよい。正極合剤ペーストが乾燥することにより、正極活物質層13が得られる。なお、正極活物質層13は、電極密度を高めるために、圧縮されてもよい。
【0063】
正極活物質層13の膜厚は、特に限定はされないが、1~500μmであってもよく、さらに、50~200μmであってもよい。
【0064】
正極集電体12の材料は、例えば、金属又は合金である。より具体的には、正極集電体12の材料は、銅、クロム、ニッケル、チタン、白金、金、アルミニウム、タングステン、鉄、モリブデン、及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属又は合金であってもよい。正極集電体12の材料は、例えば、ステンレス鋼であってもよい。
【0065】
正極集電体12は板状または箔状であってもよく、多孔質、メッシュ、または無孔であってもよい。正極集電体12は、積層膜であってもよい。正極集電体12は、正極活物質層13に接触する面にカーボンなどの炭素材料からなる層を有してもよい。
【0066】
ケース11が正極集電体を兼ねている場合は、正極集電体12は省略されてもよい。
【0067】
[2-3.負極]
負極22は、例えば、負極活物質を含有する負極活物質層17と、負極集電体16とを含む。
【0068】
負極活物質は、その電極電位が正極活物質の電極電位よりも低い限り、上記[1-1.活物質の組成]で説明された活物質であってもよい。なお、活物質中のフッ素の量は充放電に伴って変化し得る。そのため、活物質は、例えばフッ化物イオン二次電池10の特定の放電状態において、上記[1-1.活物質の組成]で説明された組成を有しうる。
【0069】
特定の放電状態は、例えば、完全放電状態であってもよい。ここで、「完全放電状態」とは、フッ化物イオン二次電池が、放電終止電圧に到達して、放電しきった状態を指す。完全放電状態では、可逆容量に相当する量のフッ化物イオンが、すべて負極活物質中に取り込まれている。
【0070】
負極活物質は、上記の活物質でなくてもよく、例えば、La、Ca、Al、Eu、C、Si、Ge、Sn、In、V、Cd、Cr、Fe、Zn、Ga、Ti、Nb、Mn、Yb、Zr、Sm、La、Ce、Rb、Cs、Mg、K、Na、Ba及びSrからなる群より選択される少なくとも1種を含有する金属、合金、または、フッ化物であってもよい。
【0071】
負極活物質層17は、1種類のみの活物質を含んでもよく、2種類以上の活物質を含んでもよい。
【0072】
負極活物質層17は、必要に応じて、導電剤、結着剤、及び/又はイオン伝導体をさらに含んでいてもよい。導電剤、結着剤、イオン伝導体、溶剤及び増粘剤は、例えば、[2-2.正極]で説明されたものを適宜利用することができる。
【0073】
負極活物質層17の膜厚は、特に限定はされないが、1~500μmであってもよく、さらに、50~200μmであってもよい。
【0074】
負極集電体16の材料は、例えば、上記[2-2.正極]で説明された正極集電体12と同様の材料を適宜利用することができる。負極集電体16は板状または箔状であってもよい。
【0075】
ケース11が負極集電体を兼ねている場合は、負極集電体16は省略されてもよい。
【0076】
[2-4.セパレータ]
セパレータ14の材料の例としては、多孔膜、織布、不織布が挙げられる。不織布の例としては、樹脂不織布、ガラス繊維不織布、及び、紙製不織布が挙げられる。セパレータ14の材料は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンであってもよい。セパレータ14の厚さは、例えば、10~300μmである。セパレータ14は、1種の材料で構成された単層膜であってもよく、2種以上の材料で構成された複合膜(または、多層膜)であってもよい。セパレータ14の空孔率は、例えば、30~70%の範囲にある。
【0077】
[2-5.電解質]
電解質は、フッ化物イオン伝導性を有する材料であればよい。
【0078】
電解質は、例えば、電解液である。電解液は、溶媒と、溶媒に溶解したフッ化物塩と、を含む。溶媒は、水であってもよく、あるいは、非水溶媒であってもよい。
【0079】
非水溶媒の例としては、アルコール、環状エーテル、鎖状エーテル、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、及び鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。
【0080】
アルコールの例としては、エタノール、エチレングリコール、及び、プロピレングリコールが挙げられる。
【0081】
環状エーテルの例としては、4-メチル-1,3-ジオキソラン、2-メチルテトラヒドロフラン、及びクラウンエーテルが挙げられる。鎖状エーテルの例としては、1,2-ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。環状炭酸エステルの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、及び4,5-ジフルオロエチレンカーボネートが挙げられる。鎖状炭酸エステルの例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートが挙げられる。環状カルボン酸エステルの例としては、γ-ブチロラクトンが挙げられる。鎖状カルボン酸エステルの例としては、エチルアセテート、プロピルアセテート、及びブチルアセテートが挙げられる。
【0082】
例えば、非水溶媒はイオン液体であってもよい。
【0083】
イオン液体のカチオンの例としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチルピリジニウムカチオン、1-メトキシエチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムカチオン、トリメチルブチルアンモニウムカチオン、N,N-ジエチル-N-メチルメトキシエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、トリエチル-(2-メトキシエチル)ホスホニウムカチオン、トリエチルスルホニウムカチオン、及びジエチル-(2-メトキシエチル)スルホニウムカチオンが挙げられる。
【0084】
イオン液体のアニオンの例としては、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートアニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、及びテトラフルオロボレートアニオンが挙げられる。
【0085】
電解質は、1種類のみの溶媒を含有してもよく、2種類以上の溶媒を含有してもよい。
【0086】
フッ化物塩の例としては、無機フッ化物塩、有機フッ化物塩、及びイオン液体を挙げることができる。
【0087】
無機フッ化物塩の例としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、及びフッ化アンモニウムが挙げられる。
【0088】
有機フッ化物塩の例としては、テトラメチルアンモニウムフルオライド、ネオペンチルトリメチルアンモニウムフルオライド、トリネオペンチルメチルアンモニウムフルオライド、テトラネオペンチルアンモニウムフルオライド、1,3,3,6,6-ヘキサメチルピペリジニウムフルオライド、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムフルオライド、テトラメチルホスホニウムフルオライド、テトラフェニルホスホニウムフルオライド、及び、トリメチルスルホニウムフルオライドが挙げられる。
【0089】
電解質は、1種類のみのフッ化物塩を含有してもよく、2種類以上のフッ化物塩を含有してもよい。
【0090】
溶媒とフッ化物塩は、例えば、密封容器に封入され、撹拌によって混合される。これにより、フッ化物塩が溶媒に溶解する。なお、フッ化物塩は、溶媒に完全に溶解していなくてもよく、一部が溶け残っていてもよい。
【0091】
電解液における溶媒に対するフッ化物塩のモル比率は、特に限定されないが、例えば1/150~1/2であってもよく、さらに、1/100~1/5であってもよい。これにより、電解液の粘度の増大を抑制しつつ、電解液中のフッ化物イオンの濃度を高めることができる。
【0092】
[2-6.変形例]
図2は、フッ化物イオン二次電池20の構成例を模式的に示す断面図である。
【0093】
フッ化物イオン二次電池20は、正極21と、負極22と、固体電解質23と、を備えている。正極21と、固体電解質23と、負極22とがこの順で積層され、積層体を成している。
【0094】
正極21は、例えば、上記[2-2.正極]で説明されたものと同様である。負極22は、例えば、上記[2-3.負極]で説明されたものと同様である。
【0095】
固体電解質23は、例えば、上記[2-2.正極]で説明されたイオン伝導体が用いられうる。
【0096】
固体電解質23の膜厚は、特に限定はされないが、1~100μmであってもよい。
【0097】
[3.実験結果]
[3-1.サンプルの作製]
以下に説明される手順により、種々のサンプルを作製した。以下の作業はすべてグローブボックス内のアルゴン雰囲気下で行った。
【0098】
まず、原料として、無水フッ化バリウム(BaF2)、無水フッ化銅(II)(CuF2)、及び無水フッ化鉄(III)(FeF3)を用意した。これらの原料を、モル比がBaF2:CuF2:FeF3=1:1:1であり、総質量が2gとなるように秤量した。秤量された原料をメノウ乳鉢に入れ、乾式で15分混合した。得られた混合物をφ15mmの金型で圧粉し、ペレットを得た。このペレットを、Pt箔を敷いた燃焼ボートに置き、このボートをグローブボックス内の小型電気炉に入れ、炉内の温度を300℃/時の割合で室温から600℃に昇温し、その後、600℃で5時間維持した。これにより、混合物が焼成され、活物質のサンプル1を得た。
【0099】
モル比がBaF2:CuF2:FeF3=0.95:1:1である点を除いて、サンプル1と同様の方法で、活物質のサンプル2を得た。
【0100】
モル比がBaF2:CuF2:FeF3=0.9:1:1である点を除いて、サンプル1と同様の方法で、活物質のサンプル3を得た。
【0101】
モル比がBaF2:CuF2:FeF3=0.8:1:1である点を除いて、サンプル1と同様の方法で、活物質のサンプル4を得た。
【0102】
モル比がBaF2:CuF2:FeF3=0.7:1:1である点を除いて、サンプル1と同様の方法で、活物質のサンプル5を得た。
【0103】
CuF2の代わりにFeF2を用いた点、及び、モル比がBaF2:FeF2:FeF3=1:1:1である点を除いて、サンプル1と同様の方法で、活物質のサンプル6を得た。
【0104】
質量2gのCuF2を秤量し、活物質のサンプル7を得た。
【0105】
質量2gのFeF3を秤量し、活物質のサンプル8を得た。
【0106】
[3-2.サンプルの分析(合成時)]
XRD法を用いてサンプル1の相組成を分析した。その結果、空間群C12/c1に属する結晶構造が確認された。
【0107】
この結晶構造の組成を、ICP発光分光分析法及びイオンクロマトグラフィーにより分析した。具体的には、ICP発光分光分析法で金属を分析し、イオンクロマトグラフフィーでフッ素を分析した。サンプル1の組成は、BaCuFeF6.6であった。サンプル1の原料から予測される目標組成BaCuFeF7に比べてフッ素の量が若干減少しているが、これは焼成時にフッ素の一部が揮発したものと推測される。なお、フッ素の揮発については、例えば、燃焼ボートの代わりに密閉式のアンプルを用いること、及び/又は、焼成時の条件を調整することによって、抑制できる。
【0108】
XRD分析により、サンプル6の結晶構造を分析した。その結果、サンプル6の結晶構造は多数の相に分かれており、目標とする結晶構造を有する相は確認できなかった。言い換えると、目標組成BaFe27及びこれに類する固溶体は得られなかった。
【0109】
[3-3.電池の作製]
正極活物質のサンプル1~5、7および8を用いて、評価用の電池セルを作製した。電池の作成はすべて、露点-60度以下、酸素値5ppm以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行われた。
【0110】
まず、正極活物質のサンプル1と、アセチレンブラックとを、質量比7:2となるように秤量した。
【0111】
秤量されたサンプル1とアセチレンブラックとを、直径3mmのジルコニア製ボールをとともに、45ccのジルコニア製の容器に入れ、密閉した。この容器を、遊星型ボールミルにセットして、サンプル1とアセチレンブラックを、150rpmで、12時間、乾式で混合した。
【0112】
容器から混合粉を取り出し、それらの混合粉にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を加えて、メノウ乳鉢にて混合した。混合粉とPTFEの質量比は、9:1とした。これにより、正極合剤を得た。この正極合剤を、ロールプレス機で厚さ100μmになるよう圧延し、5mm×5mmの正方形に打ち抜いた。これにより、正極合剤板を得た。
【0113】
正極合剤板を8mm×30mmのPtメッシュに乗せ、これらをプレス機にセットした。正極合剤板及びPtメッシュに、20Mpaの圧力を10秒間かけて、これらを圧着した。これにより、サンプル1を含有する正極が得られた。
【0114】
対極として、8mm×30mmのPb板を用意した。
【0115】
参照極として、Ag/Ag+参照極を用意した。Ag/Ag+参照極は、フィルター付きのガラス管と、ガラス管に挿入されたAg線とで構成されており、ガラス管の内部を内部溶液で満たした。内部溶液として、アセトニトリルに、硝酸銀とテトラブチルアンモニウムパークロレートがそれぞれ濃度0.1Mで溶解された溶液を用いた。
【0116】
作用極としての正極と、対極と、参照極とをガラスセルにセットし、ガラスセルを電解液で満たした。電解液として、1-メチル1-プロピルピペリジウムフロライド(MPPF)(ナード研究所製)と、N,N,N-トリメチル-N-プロピルアンモニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TMPA-TFSA)(関東化学製)を、モル比率でMPPF:TMPA-TFSA=1:50となるように混合したものを用いた。
【0117】
以上により、サンプル1を用いた電池セルが得られた。
【0118】
同様にして、サンプル2~5、7および8を用いた電池セルをそれぞれ作製した。
【0119】
[3-4.放電試験]
各電池セルに対して、放電試験を行った。この試験は、25℃の恒温槽内で行われた。具体的には、正極活物質の理論容量から算出される0.01Cのレートで、作用極と参照極との電位差が-1.8Vになるまで放電することによって、各電池セルの初回放電容量を評価した。
【0120】
表1に、各サンプルにおける正極活物質の組成(目標組成)、初回放電容量、及び反応電子数を示す。
【0121】
【表1】
【0122】
表1に示されるように、サンプル1~5の電池セルは、サンプル7及び8に比べて、大きな初回放電容量を示した。また、サンプル1~5の正極活物質における反応電子数は、いずれも1を超えていた。一方、サンプル7の正極活物質は、脱フッ化反応が十分に起こっておらず、サンプル8の正極活物質は、脱フッ化反応が十分に起こらなかった。
【0123】
[3-5.サンプルの分析(放電後)]
放電後のサンプル1の組成を、上記[3-2.サンプルの分析(合成時)]と同様の方法で分析した。放電後のサンプル1の組成は、BaCuFeF4.95であった。放電によるフッ素量の変化から放電容量を計算したところ、165mAh/gであり、上記表1に示された測定結果と概ね一致した。
【0124】
[3-6.補足]
放電容量の増大は、上記[1-2.想定されるメカニズム]で説明されたように、アルカリ金属、アルカリ土類金属、スカンジウム、イットリウム、及びランタノイドからなる群より選択される少なくとも1種の金属と複数種の遷移金属とを含有する金属複合フッ化物が、フッ化物イオンの脱離を可能にすることによって得られていると推測される。そのため、この効果は、実験によって示されたサンプル1~5の組成に限定されず、例えば、[1-1.活物質の組成]に記載されている他の組成においても、得られるものと推測される。特に、上記少なくとも1種の金属がアルカリ土類金属である場合、実験によって示されたサンプル1~5に近しい構造を有することが予測される。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本開示に係る正極活物質は、例えばフッ化物イオン二次電池に採用されうる。
【符号の説明】
【0126】
10、20 フッ化物イオン二次電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極活物質層
18 ガスケット
21 正極
22 負極
23 固体電解質
図1
図2