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特許7228776フッ化物イオン二次電池用活物質、及びそれを用いたフッ化物イオン二次電池
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  • 特許-フッ化物イオン二次電池用活物質、及びそれを用いたフッ化物イオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-16
(45)【発行日】2023-02-27
(54)【発明の名称】フッ化物イオン二次電池用活物質、及びそれを用いたフッ化物イオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20230217BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20230217BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20230217BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/05
H01M4/136
H01M4/36 E
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019084469
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020129531
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018097515
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019025922
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】浅野 和子
(72)【発明者】
【氏名】名倉 健祐
(72)【発明者】
【氏名】日比野 光宏
(72)【発明者】
【氏名】張 晋
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-145758(JP,A)
【文献】特表2009-529222(JP,A)
【文献】特開2016-051646(JP,A)
【文献】特開2016-103407(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05
H01M 10/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含み、
前記アルカリ金属は、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される少なくとも1種である、
フッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項2】
前記アルカリ金属はNaまたはCsである、
請求項に記載のフッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項3】
NH 4 と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含む、
フッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項4】
前記遷移金属は、3d遷移金属である、
請求項1からのいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項5】
前記3d遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項に記載のフッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項6】
アルカリ金属またはNH 4 と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含み、
前記複合フッ化物は、組成式Axyz(ここで、AはNa、K、Rb、Cs、またはNH4であり、MはMn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種であり、1≦x≦2、 1≦y≦2、かつ3<z<5)で表される、
フッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項7】
前記Aは、K、Cs、またはNH4である、
請求項に記載のフッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項8】
前記Mは、Cuである、
請求項またはに記載のフッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項9】
アルカリ金属またはNH 4 と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含むフッ化物イオン二次電池用活物質であって、
前記活物質は、前記複合フッ化物に加えて、前記遷移金属と同種の遷移金属のフッ化物をさらに含む、
フッ化物イオン二次電池用活物質。
【請求項10】
活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記活物質は、アルカリ金属と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含み、
前記アルカリ金属は、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される少なくとも1種である、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項11】
前記アルカリ金属はCsである、
請求項10に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項12】
活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記活物質は、NH 4 と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含む、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項13】
前記遷移金属は、3d遷移金属である、
請求項10から12のいずれか一項に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項14】
前記3d遷移金属は、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項13に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項15】
活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記活物質は、アルカリ金属またはNH 4 と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含み、
前記複合フッ化物は、組成式Axyz(ここで、AはNa、K、Rb、Cs、またはNH4であり、MはMn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種であり、1≦x≦2、 1≦y≦2、かつ3<z<5)で表される、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項16】
前記Aは、K、Cs、またはNH4である、
請求項15に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項17】
前記Mは、Cuである、
請求項15または16に記載のフッ化物イオン二次電池。
【請求項18】
活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記活物質は、アルカリ金属またはNH 4 と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含み、
前記活物質は、前記複合フッ化物に加えて、前記遷移金属と同種の遷移金属のフッ化物をさらに含む、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項19】
活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記活物質は、アルカリ金属またはNH 4 と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含み、
充放電に伴って、前記複合フッ化物が溶解及び析出する、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項20】
活物質を含む正極と、
負極と、
フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を備え、
前記活物質は、アルカリ金属またはNH 4 と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含み、
前記電解質は、前記複合フッ化物に含有される前記アルカリ金属と同種のアルカリ金属イオン、または、アンモニウムイオンを含有する、
フッ化物イオン二次電池。
【請求項21】
前記電解質は、さらに、前記複合フッ化物に含有される前記遷移金属と同種の遷移金属のイオンを含有する、
請求項20に記載のフッ化物イオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ化物イオン二次電池用活物質、及びそれを用いたフッ化物イオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フッ化物イオンを用いたフッ化物イオン二次電池が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、フッ化物イオン電気化学セルを開示している。この文献は、正極材料として、CFx、AgFx、CuFx、NiFx、CoFx、PbFx、及びCeFxを開示しており、負極材料として、LaFx、CaFx,AlFx、EuFx、LiC6、LixSi、SnFx、MnFxを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-145758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、フッ化物イオン二次電池に利用可能な新規の活物質、及び、それを用いたフッ化物イオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係るフッ化物イオン二次電池用活物質は、アルカリ金属またはNH4と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、フッ化物イオン二次電池に利用可能な新規の活物質、及び、それを用いたフッ化物イオン二次電池が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態に係るフッ化物イオン二次電池の構成例を模式的に示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係るフッ化物イオン二次電池の変形例を模式的に示す断面図である。
図3図3は、電池セルの放電曲線の一例を示す図である。
図4図4は、電池セルの放電曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下に示される数値、組成、形状、膜厚、電気特性、二次電池の構造、電極材料などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素は、任意の構成要素である。
【0010】
以下の説明のうち、物質の名称で表されている材料は、特に断りのない限り、化学量論組成には限定されず、非化学量論組成も包含する。
【0011】
以下の説明のうち、記号「~」を用いて示される数値範囲は、「~」の両端の数値を含むものとして解釈される。
【0012】
[1.活物質]
[1-1.活物質の組成]
本実施形態に係る活物質は、アルカリ金属またはNH4と、遷移金属と、フッ素とを含有する複合フッ化物を含む。この活物質は、正極活物質であってもよく、あるいは、負極活物質であってもよい。
【0013】
この活物質の放電曲線は、平坦なプラトー電位を示す。そのため、この活物質がフッ化物イオン二次電池に用いられた場合、この電池は安定した出力電圧を示しうる。
【0014】
上記の複合フッ化物は、アルカリ金属と遷移金属を含有する金属複合フッ化物であってもよい。アルカリ金属は、例えば、Na、K、Rb及びCsからなる群より選択される少なくとも1種である。
【0015】
あるいは、複合フッ化物は、NH4と遷移金属を含有する無機複合フッ化物であってもよい。ここで、「NH4を含有する」とは、複合フッ化物を組成式で表したときに、その組成式がNH4を含むことを意味する。「NH4を含有する無機複合フッ化物」の例は、アンモニウムイオン(NH4 +)をカチオンとして含有する塩を包含するが、アンモニア分子(NH3)を配位子とする錯体塩は包含しない。ただし、これは、活物質が上記の複合フッ化物に加えてさらに錯体塩を(例えば副成分として)含むような形態を、放棄する(disclaim)ものではない。
【0016】
遷移金属は、3d遷移金属であってもよい。3d遷移金属は、例えば、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。Mn、Fe、Co、Ni及びCuは、電極電位を高めることができる。このことは、例えば、標準生成ギブスエネルギーを用いた計算によって裏付けられる。したがって、Mn、Fe、Co、Ni及び/又はCuを含有する複合フッ化物は、例えば、正極活物質として機能しうる。
【0017】
複合フッ化物は、例えば、組成式Axyz(ここで、AはNa、K、Rb、Cs、またはNH4であり、MはMn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種であり、1≦x≦2、 1≦y≦2、かつ3<z<5)で表されてもよい。
【0018】
組成式において、1≦xが満たされることにより、アルカリ金属またはNH4のカチオン化に伴う脱フッ化反応の促進が期待できる。x≦2、及び1≦yが満たされることにより、電極反応を担う遷移金属の比率を高めることができる。y≦2が満たされることにより、比較的大きな価数(例えば+2~+4)の遷移金属の反応を利用することができる。電極反応において大きな価数の変化を利用することができる場合には、電極電位を高めることができる。3<z<5が満たされることにより、複合フッ化物の密度の低下を抑止しつつ、電極反応に関与するフッ素の比率を高めることができる。
【0019】
上記組成式において、Aは、さらに、K、Cs、またはNH4であってもよい。例えば、K+、Cs+、及びNH4 +のうち、複合フッ化物の結晶構造内の所望のサイトに配置された場合に所望のイオン半径を有するようなカチオンが選択されてもよい。
【0020】
上記組成式において、前記Mは、Cuであってもよい。Cuは、他の3d遷移金属に比べて電極電位が高い。そのため、この活物質が正極活物質として用いられた場合には、正極の電位を高めることができる。
【0021】
活物質(または複合フッ化物)の組成は、例えば、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法及びイオンクロマトグラフィーにより、決定することができる。得られた複合フッ化物の結晶構造は、粉末X線回折(XRD)分析により、決定することができる。
【0022】
複合フッ化物は、例えば、固溶体であってもよく、アモルファスであってもよい。
【0023】
活物質は、上記の複合フッ化物を主成分として含んでいてもよい。ここで、「主成分として含む」とは、活物質が上記の複合フッ化物を50体積パーセントより多く含んでいることを意味する。
【0024】
例えば、活物質が複数相を含み、それらの複数相のうちの一部が、上記の複合フッ化物に属してもよい。
【0025】
例えば、活物質は、上記の複合フッ化物に加えて、当該複合フッ化物に含有される遷移金属と同種の遷移金属のフッ化物(例えば、MFα;αは0以上の実数)を含んでもよい。
【0026】
例えば、活物質は、酸素原子を含有していなくてもよい。これにより、酸素ガスを介した発火のリスクが回避されうる。
【0027】
活物質の形状は、特に限定されないが、例えば、粒子である。活物質が粒子である場合、その平均粒径は、特に限定されないが、例えば、0.5~50μmであってもよい。ここで、平均粒径は、レーザー回折散乱法によって得られる体積基準の粒子径分布におけるメディアン径として定義される。
【0028】
[1-2.想定されるメカニズム]
これまで、フッ化物イオン二次電池用の活物質としては、主に、単一の金属を含有する金属フッ化物(例えばMFx)が報告されている。これらの金属フッ化物は、電池の充放電に伴って、脱フッ化及びフッ化に基づくコンバージョン反応を示す。具体的には、正極活物質は、放電時に金属フッ化物から金属に脱フッ化され、充電時に金属から金属フッ化物にフッ化される。負極活物質は、放電時に金属から金属フッ化物にフッ化され、充電時に金属フッ化物から金属に脱フッ化される。
【0029】
しかしながら、従来の活物質において、このようなコンバージョン反応が十分に得られないという問題があった。コンバージョン反応が理想的に発現した場合、その充放電曲線は、平坦なプラトー電位を示すことが予想される。一方で、活物質と電解液との間で不要な副反応が生じると、これが充放電特性を悪化させる原因となる。
【0030】
本実施の形態に係る活物質は、アルカリ金属またはNH4を含有することによって、主反応であるコンバージョン反応を促進する。そのため、後述するように、活物質の放電曲線が平坦なプラトー電位を示す。この理由は必ずしも明らかにはなっていないが、可能性の1つとして、本発明者らは、次のように推測している。
【0031】
アルカリ金属およびNH4は、活物質に含まれる遷移金属(例えば、Mn、Fe、Co、Ni、Cu)に比べて、イオン化傾向が高い。そのため、放電時に、アルカリ金属およびNH4は、遷移金属よりも優先的に活物質から乖離し、これによって、活物質の分解が促進されうる。その結果、主反応の反応速度が速くなり、副反応が抑制されうる。
【0032】
例えば、本実施の形態に係る活物質が上記の組成式で表され、かつ、y=1の場合、その放電反応は以下のとおりであると推測される。
xMFz + (z-x)e- → M + xA++ zF-
【0033】
以上のメカニズムはあくまでも推測であり、本開示を限定するものではない。例えば、脱フッ化の際に遷移金属の価数が多段階に変化する場合には、放電反応はより複雑となりうる。
【0034】
[1-3.活物質の製造方法]
本実施形態に係る活物質の製造方法の一例を説明する。
【0035】
まず、原料として、アルカリ金属又はNH4を含有するフッ化物と、遷移金属を含有するフッ化物とを用意する。
【0036】
アルカリ金属又はNH4を含有するフッ化物は、例えば、フッ化物AF(AはNa、K、Rb、Cs、又はNH4)である。
【0037】
遷移金属を含有するフッ化物は、例えば、遷移金属のフッ化物MFn(Mは遷移金属であり、nは遷移金属の価数である)である。遷移金属のフッ化物の例としては、MnF2、FeF3、FeF2、CoF3、CoF2、NiF2、及びCuF2が挙げられる。
【0038】
なお、活物質のための原料は、上記に限定されない。例えば、遷移金属源が、単体の金属であってもよい。例えば、複数種の金属を含む原料を用いてもよい。
【0039】
各原料の形状は、例えば、粉末状である。
【0040】
次に、用意された原料を秤量する。各原料の分量は、目標とする複合フッ化物の組成に応じて適宜調整する。
【0041】
次に、秤量された原料を混合する。
【0042】
例えば、原料を長時間混合することで、メカノケミカル反応によって複合フッ化物を得る。この場合、混合装置の例として、例えば、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、ジェットミル、及びミックスローターが挙げられる。混合方法は、例えば、乾式法であってもよく、湿式法であってもよい。湿式法の場合、原料と有機溶媒とを混合してもよい。有機溶媒は、例えば、エタノール、又はアセトンであってもよい。混合時間は、例えば、10~48時間である。
【0043】
あるいは、原料を短時間で混合した後、焼成することによって複合フッ化物を得てもよい。混合には、上記の混合装置が用いられてもよいし、乳鉢が用いられてもよい。混合方法は、例えば、乾式法であってもよく、湿式法であってもよい。混合時間は、例えば、乳鉢を用いた場合には1~30分であり、ボールミルを用いた場合には10~24時間である。混合物は、不活性雰囲気下で焼成される。不活性ガスの例としては、窒素及びアルゴンが挙げられる。温度条件は、原料の種類および/又は目標とする組成によっても異なるが、例えば、200℃~800℃に設定する。焼成時間は、例えば、3~24時間に設定する。
【0044】
活物質の製造方法は、上記の例に限定されない。活物質の製造方法の例としては、スパッタリングや化学気相堆積(CVD)などの気相法、並びに、浸漬法などの液相法が挙げられる。
【0045】
[2.フッ化物イオン二次電池]
[2-1.全体構成]
本実施形態に係る活物質は、フッ化物イオン二次電池に利用されうる。すなわち、フッ化物イオン二次電池は、正極と、負極と、フッ化物イオン伝導性を有する電解質と、を含む。
【0046】
図1は、フッ化物イオン二次電池10の構成例を模式的に示す断面図である。
【0047】
フッ化物イオン二次電池10は、正極21と、負極22と、セパレータ14と、ケース11と、封口板15と、ガスケット18と、を備えている。セパレータ14は、正極21と負極22との間に配置されている。正極21、負極22、及びセパレータ14には、電解質が含浸されており、これらがケース11の中に収められている。ケース11は、ガスケット18及び封口板15によって閉じられている。
【0048】
フッ化物イオン二次電池10の構造は、例えば、円筒型、角型、ボタン型、コイン型、又は扁平型であってもよい。
【0049】
[2-2.正極]
正極21は、正極集電体12と、正極集電体12の上に配置された正極活物質層13と、を含む。
【0050】
正極活物質層13は、上記[1-1.活物質の組成]で説明された活物質を含有してもよい。なお、活物質中のフッ素の量は充放電に伴って変化し得る。そのため、活物質は、フッ化物イオン二次電池10が特定の充電状態にある場合において、上記[1-1.活物質の組成]で説明された組成を有しうる。
【0051】
特定の充電状態は、例えば、満充電状態であってもよい。ここで、「満充電状態」とは、フッ化物イオン二次電池が、充電終止電圧に到達して、充電しきった状態を指す。満充電状態では、可逆容量に相当する量のフッ化物イオンが、すべて正極活物質中に取り込まれている。本実施形態に係る正極活物質は、例えば、充電電位がAg/AgCl基準で-0.9V以上であるとき、満充電状態にあるとみなすことができる。
【0052】
正極活物質は、上記の活物質でなくてもよく、例えば、Cu、Ag、Hg、Mo、Au、Co、V、Bi、Sb、Ni、Tl、Pb、Cd、Fe、V、Nb、Zn、Ga、及びCrからなる群より選択される少なくとも1種を含有する金属、合金、または、フッ化物であってもよい。あるいは、正極活物質は、フッ化炭素であってもよい。
【0053】
正極活物質層13は、1種類のみの活物質を含んでいてもよく、2種類以上の活物質を含んでもよい。
【0054】
正極活物質層13は、必要に応じて、導電剤、結着剤、及び/又はイオン伝導体をさらに含んでいてもよい。
【0055】
導電剤の例として、炭素材料、金属、無機化合物、及び導電性高分子が挙げられる。炭素材料の例としては、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェン、フラーレン、及び、フッ化黒鉛、酸化黒鉛が挙げられる。黒鉛の例としては、天然黒鉛、及び人造黒鉛が挙げられる。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、及びサーマルブラックが挙げられる。金属の例としては、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、及び金が挙げられる。無機化合物の例としては、炭化タングステン、炭化チタン、炭化タンタル、炭化モリブデン、ホウ化チタン、チッ化チタン、酸化チタン、酸化亜鉛、及びチタン酸カリウムが挙げられる。導電性高分子の例としては、ポリアニリン、ポリピロール、及びポリチオフェンが挙げられる。
【0056】
結着剤の例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、及びカルボキシメチルセルロースが挙げられる。あるいは、結着剤は、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ビニリデンフルオライド、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、及びヘキサジエンからなる群より選択される複数種の共重合体であってもよい。
【0057】
イオン伝導体の例としては、Pb‐K複合フッ化物、La‐Ba複合フッ化物、Ce‐Sr複合フッ化物、Cs‐Ca複合フッ化物、Ce‐Sr‐Li複合フッ化物、Pb‐Sn複合フッ化物、及びPb‐Sn‐Zr複合フッ化物が挙げられる。
【0058】
正極活物質、導電剤、及び、結着剤を分散させる溶剤の例としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、及びテトラヒドロフランが挙げられる。例えば、分散剤に増粘剤を加えてもよい。増粘剤の例としては、カルボキシメチルセルロース、及び、メチルセルロースが挙げられる。
【0059】
正極活物質層13は、例えば、次のように形成されうる。
【0060】
まず、正極活物質と導電剤と結着剤とを混合する。例えば、正極活物質と導電剤とを、ボールミル等の混合装置を用いて、乾式で長時間(例えば10~24時間)混合し、その後、それらに結着剤を加えて、さらに混合する。これにより、正極合剤が得られる。次に、正極合剤を圧延機で板状に圧延して、正極活物質層13を形成する。あるいは、得られた混合物に溶剤を加えて正極合剤ペーストを形成し、これを正極集電体12の表面に塗布してもよい。正極合剤ペーストが乾燥することにより、正極活物質層13が得られる。なお、正極活物質層13は、電極密度を高めるために、圧縮されてもよい。
【0061】
正極活物質層13の膜厚は、特に限定はされないが、1~500μmであってもよく、さらに、50~200μmであってもよい。
【0062】
正極集電体12の材料は、例えば、金属又は合金である。より具体的には、正極集電体12の材料は、銅、クロム、ニッケル、チタン、白金、金、アルミニウム、タングステン、鉄、モリブデン、及びジルコニウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む金属又は合金であってもよい。正極集電体12の材料は、例えば、ステンレス鋼であってもよい。
【0063】
正極集電体12は板状または箔状であってもよく、多孔質、メッシュ、または無孔であってもよい。正極集電体12は、積層膜であってもよい。正極集電体12は、正極活物質層13に接触する面にカーボンなどの炭素材料からなる層を有してもよい。
【0064】
ケース11が正極集電体を兼ねている場合は、正極集電体12は省略されてもよい。
【0065】
[2-3.負極]
負極22は、例えば、負極活物質を含有する負極活物質層17と、負極集電体16とを含む。
【0066】
負極活物質は、その電極電位が正極活物質の電極電位よりも低い限り、上記[1-1.活物質の組成]で説明された活物質であってもよい。なお、活物質中のフッ素の量は充放電に伴って変化し得る。そのため、活物質は、例えばフッ化物イオン二次電池10が特定の放電状態にある場合に、上記[1-1.活物質の組成]で説明された組成を有しうる。
【0067】
特定の放電状態は、例えば、完全放電状態であってもよい。ここで、「完全放電状態」とは、フッ化物イオン二次電池が、放電終止電圧に到達して、放電しきった状態を指す。完全放電状態では、可逆容量に相当する量のフッ化物イオンが、すべて負極活物質中に取り込まれている。
【0068】
負極活物質は、上記の活物質でなくてもよく、例えば、La、Ca、Al、Eu、C、Si、Ge、Sn、In、V、Cd、Cr、Fe、Zn、Ga、Ti、Nb、Mn、Yb、Zr、Sm、La、Ce、Rb、Cs、Mg、K、Na、Ba及びSrからなる群より選択される少なくとも1種を含有する金属、合金、または、フッ化物であってもよい。
【0069】
負極活物質層17は、1種類のみの活物質を含んでいてもよく、2種類以上の活物質を含んでもよい。
【0070】
負極活物質層17は、必要に応じて、導電剤、結着剤、及び/又はイオン伝導体をさらに含んでいてもよい。導電剤、結着剤、イオン伝導体、溶剤及び増粘剤は、例えば、[2-2.正極]で説明されたものを適宜利用することができる。
【0071】
負極活物質層17の膜厚は、特に限定はされないが、1~500μmであってもよく、さらに、50~200μmであってもよい。
【0072】
負極集電体16の材料は、例えば、上記[2-2.正極]で説明された正極集電体12と同様の材料を適宜利用することができる。負極集電体16は板状または箔状であってもよい。
【0073】
ケース11が負極集電体を兼ねている場合は、負極集電体16は省略されてもよい。
【0074】
[2-4.セパレータ]
セパレータ14の材料の例としては、多孔膜、織布、不織布が挙げられる。不織布の例としては、樹脂不織布、ガラス繊維不織布、及び、紙製不織布が挙げられる。セパレータ14の材料は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンであってもよい。セパレータ14の厚さは、例えば、10~300μmである。セパレータ14は、1種の材料で構成された単層膜であってもよく、2種以上の材料で構成された複合膜(または、多層膜)であってもよい。セパレータ14の空孔率は、例えば、30~70%の範囲にある。
【0075】
[2-5.電解質]
電解質は、フッ化物イオン伝導性を有する材料であればよい。
【0076】
電解質は、例えば、電解液である。電解液は、溶媒と、溶媒に溶解したフッ化物塩と、を含む。溶媒は、水であってもよく、あるいは、非水溶媒であってもよい。
【0077】
非水溶媒の例としては、アルコール、環状エーテル、鎖状エーテル、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル、及び鎖状カルボン酸エステルが挙げられる。
【0078】
アルコールの例としては、エタノール、エチレングリコール、及び、プロピレングリコールが挙げられる。
【0079】
環状エーテルの例としては、4-メチル-1,3-ジオキソラン、2-メチルテトラヒドロフラン、及びクラウンエーテルが挙げられる。鎖状エーテルの例としては、1,2-ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及びテトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。環状炭酸エステルの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、及び4,5-ジフルオロエチレンカーボネートが挙げられる。鎖状炭酸エステルの例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジエチルカーボネートが挙げられる。環状カルボン酸エステルの例としては、γ-ブチロラクトンが挙げられる。鎖状カルボン酸エステルの例としては、エチルアセテート、プロピルアセテート、及びブチルアセテートが挙げられる。
【0080】
例えば、非水溶媒はイオン液体であってもよい。
【0081】
イオン液体のカチオンの例としては、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチルピリジニウムカチオン、1-メトキシエチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、N-メチル-N-プロピルピペリジニウムカチオン、トリメチルブチルアンモニウムカチオン、N,N-ジエチル-N-メチルメトキシエチルアンモニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、トリエチル-(2-メトキシエチル)ホスホニウムカチオン、トリエチルスルホニウムカチオン、及びジエチル-(2-メトキシエチル)スルホニウムカチオンが挙げられる。
【0082】
イオン液体のアニオンの例としては、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェートアニオン、トリフルオロメタンスルホネートアニオン、及びテトラフルオロボレートアニオンが挙げられる。
【0083】
電解質は、1種類のみの溶媒を含有してもよく、2種類以上の溶媒を含有してもよい。
【0084】
フッ化物塩の例としては、無機フッ化物塩、有機フッ化物塩、及びイオン液体を挙げることができる。
【0085】
無機フッ化物塩の例としては、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ルビジウム、フッ化セシウム、及びフッ化アンモニウムが挙げられる。
【0086】
有機フッ化物塩の例としては、テトラメチルアンモニウムフルオライド、ネオペンチルトリメチルアンモニウムフルオライド、トリネオペンチルメチルアンモニウムフルオライド、テトラネオペンチルアンモニウムフルオライド、1,3,3,6,6-ヘキサメチルピペリジニウムフルオライド、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムフルオライド、テトラメチルホスホニウムフルオライド、テトラフェニルホスホニウムフルオライド、及び、トリメチルスルホニウムフルオライドが挙げられる。
【0087】
電解質は、1種類のみのフッ化物塩を含有してもよく、2種類以上のフッ化物塩を含有してもよい。
【0088】
溶媒とフッ化物塩は、例えば、密封容器に封入され、撹拌によって混合される。これにより、フッ化物塩が溶媒に溶解する。なお、フッ化物塩は、溶媒に完全に溶解していなくてもよく、一部が溶け残っていてもよい。
【0089】
電解液における溶媒に対するフッ化物塩のモル比率は、特に限定されないが、例えば1/150~1/2であってもよく、1/30~1/4であってもよく、さらに、1/10~1/5であってもよい。これにより、電解液の粘度の増大を抑制しつつ、電解液中のフッ化物イオンの濃度を高めることができる。
【0090】
正極活物質または負極活物質が上記[1.活物質]に記載の複合フッ化物を含有する場合、電解質は、上記の複合フッ化物に含有されるアルカリ金属と同種のアルカリ金属イオン、または、アンモニウムイオンを含有してもよい。加えて、電解質は、さらに、上記の複合フッ化物に含有される遷移金属と同種の遷移金属のイオンを含有してもよい。
【0091】
[2-6.変形例]
図2は、フッ化物イオン二次電池20の構成例を模式的に示す断面図である。
【0092】
フッ化物イオン二次電池20は、正極21と、負極22と、固体電解質23と、を備えている。正極21と、固体電解質23と、負極22とがこの順で積層され、積層体を成している。
【0093】
正極21は、例えば、上記[2-2.正極]で説明されたものと同様である。負極22は、例えば、上記[2-3.負極]で説明されたものと同様である。
【0094】
固体電解質23は、例えば、上記[2-2.正極]で説明されたイオン伝導体が用いられうる。
【0095】
固体電解質23の膜厚は、特に限定はされないが、1~100μmであってもよい。
【0096】
[3.実験結果]
[3-1.サンプルの作製]
以下に説明される手順により、種々のサンプルを作製した。
【0097】
[3-1-1.サンプル1~3の作製]
まず、原料として、無水フッ化セシウム(CsF)、及び無水フッ化銅(II)(CuF2)を用意した。これらの原料を、モル比がCsF:CuF2=2:1であり、総質量が7gとなるように秤量した。秤量された原料を、直径5mmのジルコニア製ボールをとともに、予めエタノールを12g入れておいた50ccのポリエチレン容器に入れ、密閉した。ここまでの作業はすべて、露点-60度以下、酸素値1ppm以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行われた。その後、容器をミックスローターの恒温槽にセットした。恒温槽の温度を60℃に設定し、回転数100rpm、10日間、容器内の原料を攪拌した。これにより、活物質のサンプル1を得た。
【0098】
質量7gのCuF2を秤量し、活物質のサンプル2を得た。
【0099】
CsFの代わりに無水フッ化アンモニウム(NH4F)を用いた点を除いて、サンプル1と同様の方法で、活物質のサンプル3を得た。
【0100】
[3-1-2.サンプル4~6の作製]
まず、原料として、無水フッ化ナトリウム(NaF)、及び無水フッ化ニッケル(II)(NiF2)を用意した。これらの原料を、モル比がNaF:NiF2=1:1であり、総質量が1.5gとなるように秤量した。秤量された原料をメノウ乳鉢に入れ、乾式で15分混合した。得られた混合物を直径15mmの金型で圧粉し、ペレットを得た。このペレットを、Pt箔を敷いた燃焼ボートに置き、このボートを小型電気炉に入れた。炉内の温度を300℃/時の割合で室温から600℃に昇温し、その後、600℃で5時間維持した。以上の作業はすべて、露点-60度以下、酸素値1ppm以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行われた。これにより、混合物が焼成され、活物質のサンプル4を得た。
【0101】
NaFの代わりに無水フッ化ルビジウム(RbF)を用いた点を除いて、サンプル4と同様の方法で、活物質のサンプル5を得た。
【0102】
NiF2を代わりに無水フッ化マンガン(II)(MnF2)を用いた点を除いて、サンプル4と同様の方法で、活物質のサンプル6を得た。
【0103】
[3-2.サンプルの分析]
XRD法を用いてサンプル1の相組成を分析した。その結果、サンプル1は、Cs2CuF4の単相構造を有していた。同様にして、サンプル3~6の相組成を分析した。サンプル3は、(NH42CuF4の単相構造を有していた。サンプル4は、NaNiF3の単相構造を有していた。サンプル5は、RbNiF3の単相構造を有していた。サンプル6は、NaMnF3の単相構造を有していた。
【0104】
[3-3.電池の作製]
[3-3-1.サンプル1~3を用いた電池セルの作製]
正極活物質のサンプル1を用いて、評価用の電池セルを作製した。電池の作成はすべて、露点-60度以下、酸素値1ppm以下のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行われた。
【0105】
まず、正極活物質のサンプル1と、アセチレンブラックと、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを、質量比7:2:1となるように秤量した。秤量された原料を、メノウ乳鉢にて混合した。これにより、正極合剤を得た。この正極合剤を、ロールプレス機で厚さ100μmになるよう圧延し、5mm×5mmの正方形に打ち抜いた。これにより、正極合剤板を得た。
【0106】
正極合剤板を8mm×30mmのPtメッシュに乗せ、これらをプレス機にセットした。正極合剤板及びPtメッシュに、20Mpaの圧力を10秒間かけて、これらを圧着した。これにより、サンプル1を含有する正極が得られた。
【0107】
対極として、8mm×30mmのPtメッシュを用意した。
【0108】
参照極として、Ag/AgCl参照極を用意した。Ag/AgCl参照極は、内部溶液で満たされたガラス管と、ガラス管に挿入された、あらかじめAgClを表面に形成していたAg線とで構成されていた。内部溶液として、塩化カリウム飽和水溶液を用いた。
【0109】
作用極としての正極と、対極と、参照極とをH型セルにセットし、H型セルを電解液で満たした。電解液として、無水フッ化セシウム(CsF)をエチレングリコール(EG)に、モル比がCsF:EG=1:10となるように溶解させた溶液を用いた。H型セルにおいて、作用極及び参照極と、対極との間はガラスフィルターで仕切られていた。
【0110】
以上により、サンプル1を用いた電池セルが得られた。
【0111】
同様にして、サンプル2及び3を用いた電池セルをそれぞれ作製した。
【0112】
[3-3-2.サンプル4~6を用いた電池セルの作製]
Ag/AgCl参照極の代わりにPb/PbF2参照極を用いた点、サンプル1の代わりにサンプル4~6を用いた点を除いて、上記の電池セルと同様の方法で、サンプル4~6を用いた電池セルをそれぞれ作製した。
【0113】
Pb/PbF2参照極は、内部溶液で満たされたガラス管と、ガラス管に挿入された、あらかじめPbF2を表面に形成していたPb線とで構成されている。内部溶液として、無水フッ化セシウム(CsF)をエチレングリコール(EG)に、モル比がCsF:EG=1:10となるように溶解させた溶液を用いた。
【0114】
[3-4.放電試験]
[3-4-1.サンプル1~3を用いた電池セルの放電試験]
サンプル1~3を用いた電池セルに対して、放電試験を行った。この試験は、25℃の恒温槽内で行われた。具体的には、正極活物質の理論容量から算出される0.01Cのレートで、作用極の電位が、第1のプラトー電位の領域から、それよりも低い第2のプラトー電位の領域に達するまで放電することによって、各電池セルの初回放電特性を評価した。具体的には、サンプル1を用いた電池セルは、作用極と参照極との電位差が-800mVに達するまで放電され、サンプル2を用いた電池セルは、電位差が-500mVに達するまで放電された。サンプル3を用いた電池セルは、電位差が-700mVに達するまで放電された。
【0115】
図3は、サンプル1~3を用いた電池セルの放電曲線を示している。図3に示されるように、サンプル1~3を用いた電池セルの放電曲線は、いずれも平坦なプラトー領域を示した。サンプル1(すなわち、Cs2CuF4)を用いた電池セルにおける第1のプラトー電位(すなわち還元電位)は、サンプル2(すなわち、CuF2)を用いた電池セルにおけるそれと同程度であった。サンプル1(すなわち、Cs2CuF4)を用いた電池セル、およびサンプル3(すなわち、(NH42CuF4)を用いた電池セルの放電曲線は、いずれも、第1のプラトー電位の領域から第2のプラトー電位の領域に達するまでに急峻な電位降下を示した。これは、サンプル1、3を用いた電池セルにおいて、活物質と電解液との間で不要な副反応が抑制されたためと推察される。
【0116】
サンプル1(すなわち、Cs2CuF4)を用いた電池セルにおける、Cu原子あたりの反応電子数は、1.8であった。一方、サンプル2(すなわち、CuF2)を用いた電池セルにおける、Cu原子あたりの反応電子数は、1.5電子であった。これにより、サンプル1に含有されるCsが、電池の反応電子数を増大させうることが示された。これは、サンプル1に含有されるCsが基点となって脱フッ化反応の反応速度が高まり、これにより、過電圧が低減されたためと推察される。
【0117】
なお、サンプル3(すなわち、(NH42CuF4)を用いた電池セルにおける、Cu原子あたりの反応電子数は、1.0であった。
【0118】
放電試験を行った後、XRDを用いてサンプル1の相組成を分析した。その結果、Cs2CuF4がCuに変化していることが確認された。同様に、放電試験後のサンプル3の相組成は、(NH42CuF4からCuに変化していた。
【0119】
さらに、サンプル1を用いた電池セルに対して充電試験を行い、XRDを用いてサンプル1の相組成を分析した。その結果、CuがCs2CuF4に変化していることが確認された。以上により、サンプル1は充放電によって次の可逆反応を示すことが示された。
Cs2CuF4 + 2e- ⇔ Cu + 2Cs+ + 4F-
【0120】
[3-4-2.サンプル4~6を用いた電池セルの放電試験]
サンプル4~6を用いた電池セルに対して、放電試験を行った。具体的には、正極活物質の理論容量から算出される0.01Cのレートで、作用極の電位が200mVに達するまで放電した。
【0121】
図4は、サンプル4を用いた電池セルの放電曲線を示している。図4に示されるように、サンプル4を用いた電池セルの放電曲線は、まず、平坦な第1のプラトー電位を示し、次いで、それよりもやや低い平坦な第2のプラトー電位を示し、それから200mVまで電位が降下した。第1のプラトー電位は、サンプル4(すなわちNaNiF3)の構造を維持したままで、Niの価数が2価から低価数へと変化する反応を示しているものと推察される。第2のプラトー電位は、NiイオンがNi金属まで還元されるコンバージョン反応を示しているものと推察される。
【0122】
サンプル4(すなわち、NaNiF3)を用いた電池セルにおける、Ni原子あたりの反応電子数は1.6であり、初期放電容量は320mAh/gであった。この結果は、サンプル4に含有されるNaが脱フッ化反応を促進し、放電容量を増大させたことを示していると考えられる。
【0123】
なお、サンプル5(すなわち、RbNiF3)を用いた電池セルも放電反応を示し、Ni原子あたりの反応電子数は1.0であった。また、サンプル6(すなわち、NaMnF3)を用いた電池セルも放電反応を示し、Mn原子あたりの反応電子数は1.2であった。
【0124】
[3-5.遷移金属の溶出]
充放電試験を実行した後、サンプル1、2を用いた電池セルにおける電解液の色を目視にて確認した。その結果、サンプル1を用いた電池セルにおける電解液は無色透明のままであり、サンプル2を用いた電池セルにおける電解液は水色に呈色していた。この結果は、サンプル1に含有されるCsが、電解液へのCu2+の溶出を抑止することができることを示している。
【0125】
同様に、充放電試験を実行した後、サンプル3を用いた電池セルにおける電解液は、無色透明のままであった。この結果は、サンプル3に含有されるNH4 +が、電解液へのCu2+の溶出を抑止することができることを示している。
【0126】
[3-6.補足]
CsFの代わりに無水フッ化カリウム(KF)を用いた点を除いて、サンプル1と同様の方法で、K2CuF4をサンプル7として作製した。サンプル7を用いた電池セルにおいて、電解液へのCu2+の溶出は見られなかった。
【0127】
高い反応電子数、大きな放電容量、及び/又は、金属の溶出抑制は、上記[1-2.想定されるメカニズム]で説明されたように、複合フッ化物が、イオン化傾向の比較的大きいアルカリ金属又はNH4を含有することによって得られていると推測される。そのため、この効果は、上記実験によって示された具体的な組成に限定されず、例えば、[1-1.活物質の組成]に記載されている他の組成においても、得られるものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本開示に係る正極活物質は、例えばフッ化物イオン二次電池に採用されうる。
【符号の説明】
【0129】
10、20 フッ化物イオン二次電池
11 ケース
12 正極集電体
13 正極活物質層
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極活物質層
18 ガスケット
21 正極
22 負極
23 固体電解質
図1
図2
図3
図4