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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】情報処理装置、方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/20 20120101AFI20230220BHJP
【FI】
G06Q50/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019142878
(22)【出願日】2019-08-02
(65)【公開番号】P2021026433
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(72)【発明者】
【氏名】児玉 翠
(72)【発明者】
【氏名】社家 一平
(72)【発明者】
【氏名】秦 崇洋
(72)【発明者】
【氏名】武見 充晃
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 璃紗
【審査官】加内 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-111292(JP,A)
【文献】小林 嵩大,律動的運動におけるパーソナルテンポ用いたスランプ脱出システムの提案,第81回(2019年)全国大会講演論文集(1) コンピュータシステム ソフトウェア科学・工学 データとウェブ,日本,一般社団法人情報処理学会,2019年02月28日,1-431~1-432
【文献】双見 京介,Success Imprinter:条件づけ刺激を用いたメンタル制御支援システム,インタラクション2016論文集,日本,一般社団法人情報処理学会,2016年03月04日,106~115
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが第1の課題を実施した第1の結果を示す第1の成否データ系列に基づいて、失敗に応じて広げられる探索空間の変化量を示す探索変化量を推定して前記探索変化量の推定値を得る探索変化量推定部と、
記探索変化量の推定値を示す情報又は前記探索変化量の推定値に基づいて決定される前記ユーザが次に実施すべき課題を出力する情報出力部と、
を備え
前記探索変化量推定部は、前記第1の課題と同数の課題を前記ユーザが実施したというシミュレーションを前記探索変化量に対応する第1のパラメタを用いて実施して第2の成否データ系列を生成し、前記第1の成否データ系列と前記第2の成否データ系列との間の誤差を算出し、前記誤差に基づいて前記第1のパラメタを更新する処理を繰り返し行うことにより、前記探索変化量を推定し、
前記探索変化量推定部は、前記シミュレーションにおいて、前記第1のパラメタに基づいて各課題に成功するか失敗するかを決定する、
情報処理装置。
【請求項2】
前記探索変化量推定部は、前記第1の成否データ系列に基づいて、課題の実施のたびに前記探索空間を狭める度合いを示す学習率をさらに推定して前記学習率の推定値を得るものであり、
前記探索変化量推定部は、前記シミュレーションを前記第1のパラメタと前記学習率に対応する第2のパラメタとを用いて実施して前記第2の成否データ系列を生成し、前記第1の成否データ系列と前記第2の成否データ系列との間の誤差を算出し、前記誤差に基づいて前記第1のパラメタ及び前記第2のパラメタを更新する処理を繰り返し行うことにより、前記探索変化量及び前記学習率を推定し、
前記探索変化量推定部は、前記シミュレーションにおいて、前記第1のパラメタ及び前記第2のパラメタに基づいて各課題に成功するか失敗するかを決定する、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記ユーザが第2の課題を実施した第2の結果と前記探索変化量の推定値及び前記学習率の推定値とに基づいて、前記探索空間の広さを示す探索量を推定する探索量推定部
をさらに備え
前記探索量推定部は、前記ユーザが前記第2の課題に成功したことを前記第2の結果が示す場合に、前記探索空間を前記学習率の推定値に応じて狭め、前記ユーザが前記第2の課題に失敗したことを前記第2の結果が示す場合に、前記探索空間を前記探索変化量に応じて広げる、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記探索量推定部は、前記探索空間が成功により前記学習率に応じて狭まり、失敗により前記探索変化量に応じて広がるというモデルを用いて、前記探索量の推定を行う、
請求項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記推定された探索量に基づいて、複数の課題の中から前記ユーザが次に実施すべき課題を選択する課題選択部
をさらに備え、
前記情報出力部は前記選択された課題を出力する、
請求項3又は4に記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記課題選択部は、前記推定された探索量により示される前記探索空間の広さが基準よりも広い場合に、前記第2の課題のうち前記ユーザが最後に実施した第2の課題よりも簡単な課題を、前記ユーザが次に実施すべき課題として選択する、
請求項5に記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記課題選択部は、前記ユーザが最後に実施した前記第2の課題の難易度から前記推定された探索量に事前に定められたスケーリング係数を乗じたを減算したを前記ユーザが次に実施すべき課題の難易度として算出し、前記複数の課題のうち、前記算出した難易度よりも低く、且つ、前記算出した難易度に最も近い難易度の課題を、前記ユーザが次に実施すべき課題として選択する、
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記課題選択部は、前記ユーザが最後に実施した前記第2の課題の難易度から前記推定された探索量に事前に定められたスケーリング係数及び前記ユーザが最後に実施した前記第2の課題の難易度を乗じたを減算したを前記ユーザが次に実施すべき課題の難易度として算出し、前記複数の課題のうち、前記算出した難易度よりも低く、且つ、前記算出した難易度に最も近い難易度の課題を、前記ユーザが次に実施すべき課題として選択する、
請求項6に記載の情報処理装置。
【請求項9】
コンピュータによって実行される情報処理方法であって、
ユーザが第1の課題を実施した第1の結果を示す第1の成否データ系列に基づいて、失敗に応じて広げられる探索空間の変化量を示す探索変化量を推定して前記探索変化量の推定値を得る第1工程と、
記探索変化量の推定値を示す情報又は前記探索変化量の推定値に基づいて決定される前記ユーザが次に実施すべき課題を出力する第2工程と、
を備え
前記第1工程は、前記第1の課題と同数の課題を前記ユーザが実施したというシミュレーションを前記探索変化量に対応する第1のパラメタを用いて実施して第2の成否データ系列を生成し、前記第1の成否データ系列と前記第2の成否データ系列との間の誤差を算出し、前記誤差に基づいて前記第1のパラメタを更新する処理を繰り返し行うことにより、前記探索変化量を推定することを含み、
前記シミュレーションにおいて、前記第1のパラメタに基づいて各課題に成功するか失敗するかが決定される、
情報処理方法。
【請求項10】
コンピュータを、
ユーザが第1の課題を実施した第1の結果を示す第1の成否データ系列に基づいて、失敗に応じて広げられる探索空間の変化量を示す探索変化量を推定して前記探索変化量の推定値を得る探索変化量推定手段、及び
記探索変化量の推定値を示す情報又は前記探索変化量の推定値に基づいて決定される前記ユーザが次に実施すべき課題を出力する情報出力手段
として機能させ
前記探索変化量推定手段は、前記第1の課題と同数の課題を前記ユーザが実施したというシミュレーションを前記探索変化量に対応する第1のパラメタを用いて実施して第2の成否データ系列を生成し、前記第1の成否データ系列と前記第2の成否データ系列との間の誤差を算出し、前記誤差に基づいて前記第1のパラメタを更新する処理を繰り返し行うことにより、前記探索変化量を推定し、
前記探索変化量推定手段は、前記シミュレーションにおいて、前記第1のパラメタに基づいて各課題に成功するか失敗するかを決定する、
情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、情報処理装置、方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スポーツや勉強において、調子が一時的に悪化し,実力に対して達成可能な課題に対しても失敗(誤答)することを繰り返す場合がある。このようなスランプは、特にスランプが長引いた時に、自信の喪失又はモチベーション低下を引き起こす。つまり、学習の効果を効率的に上げるためには、ユーザがスランプに陥ることを回避することが望ましい。
【0003】
ところで、複数のユーザの試行や問題を解いた際のデータを用いて、ユーザのレベルを推定する手法が存在する。例えば、項目反応理論は、複数の学習者が回答した問題の特性(難易度)と学生の能力とを同時に取り扱うことで、同一のテストを受けなくとも、学習者の理解度を測定して学習者間で比較することが可能であることが知られている(非特許文献1)。また、学習者の理解度を推定し、推定した理解度に応じた難易度の問題を提示する学習システムが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】月原由紀、鈴木敬一、廣瀬英雄、「項目反応理論による評価を加味した数学テストとe-learningシステムへの実装の試み」、コンピュータ&エデュケーション 24 (2008): 70-76.
【文献】Chen, Chih-Ming, Hahn-Ming Lee, and Ya-Hui Chen. "Personalized e-learning system using item response theory." Computers & Education 44.3 (2005): 237-255.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2に開示されるような学習システムでは、学習者のレベルに応じた出題がなされるものの、失敗による後のパフォーマンスへの影響やスランプ要素を考慮していないため、学習者がスランプに陥ることを予防することはできない。
【0006】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、ユーザがスランプに陥ることを予防することを可能にする情報処理装置、方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様では、情報処理装置は、ユーザが第1の課題を実施した第1の結果に基づいて、失敗に応じて広げられる探索空間の変化量を示す探索変化量を推定する探索変化量推定部と、前記推定された探索変化量に基づく情報を出力する情報出力部と、を備える。
【0008】
本発明の第2の態様では、情報処理装置は、前記ユーザが第2の課題を実施した第2の結果と前記推定された探索変化量とに基づいて、前記探索空間の広さを示す探索量を推定する探索量推定部をさらに備える。
【0009】
本発明の第3の態様では、前記探索変化量推定部は、前記第1の結果に基づいて、課題の実施のたびに前記探索空間を狭める度合いを示す学習率をさらに推定し、前記探索量推定部は、前記第2の結果と前記推定された探索変化量と前記推定された学習率とに基づいて、前記探索量を推定する。
【0010】
本発明の第4の態様では、前記探索量推定部は、前記探索空間が成功により狭まり、失敗により広がるというモデルを用いて、前記探索量の推定を行う。
【0011】
本発明の第5の態様では、情報処理装置は、前記推定された探索量に基づいて、複数の課題の中から前記ユーザが次に実施すべき課題を選択する課題選択部をさらに備え、前記情報出力部は前記選択された課題を出力する。
【0012】
本発明の第6の態様では、前記課題選択部は、前記推定された探索量により示される前記探索空間の広さが基準よりも広い場合に、前記第2の課題のうち前記ユーザが最後に実施した第2の課題よりも簡単な課題を、前記ユーザが次に実施すべき課題として選択する。
【0013】
本発明の第7の態様では、前記選択された課題は、前記ユーザが最後に実施した前記第2の課題の難しさを表す値と前記推定された探索量に基づいて決定される値との差により示される難しさよりも低い難しさを有する。
【0014】
本発明の第8の態様では、前記選択された課題は、前記ユーザが最後に実施した前記第2の課題の難しさを表す値と前記推定された探索量及び前記ユーザが最後に実施した前記第2の課題の難しさに基づいて決定される値との差により示される難しさよりも低い難しさを有する。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様によれば、ユーザの探索変化量が算出される。例えば、算出された探索変化量はユーザやその指導者へフィードバックすることができる。これにより、ユーザや指導者は、ユーザの状況を把握することができ、ユーザがスランプに陥らないように対策を立てることができるようになる。また、例えば、算出された探索変化量は、ユーザがスランプに陥ることがないようにユーザに提示する課題を選択することを可能にする。
【0016】
第2の態様によれば、ユーザの探索量が算出される。一例として、算出された探索量はユーザやその指導者へフィードバックすることができる。これにより、ユーザや指導者は、ユーザの状況を把握することができ、ユーザがスランプに陥らないように対策を立てることができるようになる。他の例では、算出された探索量は、ユーザがスランプに陥ることがないようにユーザに提示する課題を選択することを可能にする。
【0017】
第3の態様によれば、探索量の推定精度が向上する。
【0018】
第4の態様によれば、課題成否に伴うユーザの探索空間の変化を容易に追うことが可能となる。
【0019】
第5の態様によれば、ユーザの探索空間が広がりすぎた場合に、より容易な課題をユーザに提示することが可能となる。その結果、ユーザが次の課題に成功しやすくなり、ユーザがスランプに陥ることを予防することができる。
【0020】
第6の態様によれば、ユーザの探索空間が過度に広がる前に、ユーザが最後に実施した課題より簡単な課題をユーザに提示することが可能となる。その結果、ユーザが次の課題に成功しやすくなり、ユーザがスランプに陥ることを予防することができる。
【0021】
第7及び第8の態様によれば、ユーザの状況に適した課題を提示することが可能となる。
【0022】
要するに本発明によれば、ユーザがスランプに陥ることを予防することを可能にする情報処理装置、方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一実施形態に係る課題提示装置を例示するブロック図。
図2図1に示した成否データ保存部を例示する図。
図3図1に示した課題データ保存部を例示する図。
図4図1に示した探索パラメタ保存部を例示する図。
図5図1に示した探索変化量推定部を例示するブロック図。
図6図1に示した課題提示装置のハードウェア構成例を示すブロック図。
図7】一実施形態に係るパラメタを推定する処理の一例を示すフローチャート。
図8】一実施形態に係る課題を提示する処理の一例を示すフローチャート。
図9図1に示した探索量推定部における入力データ及び出力データの例を示す図。
図10】一実施形態に係る課題提示装置を例示するブロック図。
図11】一実施形態に係る課題提示装置を例示するブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0025】
一度失敗すると何度も連続して失敗してしまう現象は成否による探索空間の広がりによって説明することができる。このことについて、ダーツ又はボールの投擲のように物体を特定のターゲット内へ到達させる動作を例に説明する。ユーザは失敗又は成功に応じて体の動かし方を調整しながら良い動作を獲得していく。投擲が成功したときには動作のポリシが正しいと考えられるため、あえて他の動作を試行するといった探索をする必要はない。ユーザは、成功を重ねるごとに動作を精緻に実行するようになる、すなわち、探索空間を狭めていく。一方、投擲が失敗したときには動作のポリシが誤っていると考えられるため、良い動作を探索するために他の動作を試行すること、すなわち、探索空間を広げることが望ましい。
【0026】
成否による探索空間の広がりは、例えば、下記の式1のようなモデルで表すことができる。
【数1】
σは時点tでの探索量を表す。探索量は探索空間の広さを示す。探索量の初期値σは課題の種類に応じて定められる。Δσは探索変化量を表す。探索変化量は失敗に応じて広げられる探索空間の変化量を示す。lrは、学習率を表す。学習率は、試行(課題の実施)のたびに探索空間を狭める度合いを示す。学習率は例えば0から1までの小数をとり、1に近いほど次の試行における探索空間の狭まり度合いが小さく、0に近いほど次の試行における探索空間の狭まり度合いが大きくなる。通常は、学習率は0.99といった1に近い値となる。rは成否を表し、r=1は成功を示し、r=0は失敗を示す。よって、このモデルは、探索空間が成功により狭まり、失敗により広がることを表現する。
【0027】
探索空間が広がると、探索空間のうちターゲットが占める割合が小さくなるため、物体がターゲット内に到達する確率が低くなり、失敗しやすくなる。すなわち、このモデルによれば、一度失敗すると、次の試行では前回の試行よりも失敗する可能性が高くなり、連続的に失敗してしまう現象を再現することが可能となる。
【0028】
上記のモデルは、課題の成否に伴うユーザの探索空間の変化を追うことを可能にする。ユーザがスランプに陥ることを回避するためには、課題の失敗に伴い探索空間が過大に拡大することを防ぐこと、すなわち、探索空間が広がりすぎた場合に成功しやすい課題を与えることが有効である。
【0029】
一実施形態によれば、ユーザが課題を実施した結果に基づいてユーザの探索変化量を推定し、推定した探索変化量に基づいて探索空間が過度に広がらないような課題を選択して提示する情報処理装置が提供される。当該情報処理装置によれば、ユーザがスランプに陥ることを予防することが可能となる。その結果、ユーザが効率的に学習を行うことができるようになる。ここで、学習は、勉強のような知識の獲得に限らず、スポーツ又は楽器の練習などを含む。
【0030】
また、なんらかの理由により情報処理装置による具体的な課題提示ができない場合には、情報処理装置は探索変化量及び探索量をユーザやその指導者へフィードバックするようにしてもよい。これにより、ユーザや指導者は、ユーザの状況を把握することが可能となり、ユーザがスランプに陥らないように対策を立てることができるようになる。例えば、指導者による指導方法を調整することが可能となる。また、ユーザ自身が練習内容や勉強内容を工夫することが可能になる。
【0031】
[構成]
図1は、一実施形態に係る課題提示装置(情報処理装置ともいう)10を概略的に例示する。図1に示すように、課題提示装置10は、成否データ保存部11、課題データ保存部12、探索パラメタ保存部13、探索変化量推定部14、探索量推定部15、課題選択部16、課題出力部17、出題ポリシ再現部18、及びパラメタ提示部19を備える。
【0032】
成否データ保存部11は、ユーザが課題を実施した結果を含む成否データを保存する。例えば、成否データ保存部11は、ユーザID、課題ID、成否情報、日時情報、及び出題ポリシ情報を保存する。ユーザIDはユーザを識別する情報である。課題IDはユーザが実施した課題を識別する情報である。成否情報は、ユーザが課題を実施した結果を示し、成功又は失敗に応じた値をとる。上記の例を参照すると、成功は物体がターゲット内に到達したことを示し、失敗は物体がターゲット内に到達しなかったことを示す。また、課題が勉強に関する問題である例では、成功は問題に対する回答が正解であったことを示し、失敗は問題に対する回答が不正解であったことを示す。日時情報はユーザが課題を実施した日時を示す。出題ポリシ情報は出題ポリシの種類を識別する情報である。出題ポリシは、ユーザの課題成否に応じた次の課題の選択ルールを示す。
【0033】
課題データ保存部12は、事前に用意された複数の課題に関するデータを保存する。例えば、課題データ保存部12は、課題ID、課題特徴量情報、及び課題難易度情報を保存する。課題特徴量情報は課題の特徴量を示す。課題難易度情報は課題の難易度を示す。課題データ保存部12は、難易度の信頼度を示す信頼度情報、難易度の算出に用いられた成否データなどの情報をさらに保存してよい。
【0034】
探索パラメタ保存部13は各ユーザの探索パラメタを保存する。探索パラメタは探索変化量及び学習率を含む。探索変化量及び学習率は探索変化量推定部14により推定される。
【0035】
探索変化量推定部14は、成否データ保存部11からユーザの成否データを取得する。探索変化量推定部14は、ユーザが課題を実施した結果に基づいて、ユーザの探索変化量及び学習率を推定する。後述するように、探索変化量推定部14は、探索変化量及び学習率の推定のために、課題データ保存部12を参照する。探索変化量推定部14は、推定したユーザの探索変化量及び学習率を探索パラメタ保存部13に保存する。
【0036】
探索量推定部15は、成否データ保存部11からユーザの成否データを取得し、探索パラメタ保存部13からこのユーザの探索変化量及び学習率を取得する。探索量推定部15は、ユーザが課題を実施した結果と、探索変化量推定部14により推定されたユーザの探索変化量及び学習率と、に基づいて、ユーザの探索量を推定する。探索量推定部15は、推定したユーザの探索量を課題選択部16に与える。
【0037】
課題選択部16は、探索量推定部15により推定されたユーザの探索量に基づいて、課題データ保存部12に用意された複数の課題の中から、ユーザが次に実施すべき課題を選択する。
【0038】
課題出力部17は、課題選択部16により選択された課題を出力する。一例として、課題出力部17は、課題提示装置10が備える出力装置(例えば表示装置)を通してユーザに課題を提示する。他の例では、課題出力部17は、パーソナルコンピュータ(PC)又はタブレットなどの端末を通してユーザに課題を提示するために、課題を示す情報を端末に送信する。なお、課題提示は、ユーザ以外の者(例えば指導者など)に対して行うようにしてもよい。
【0039】
出題ポリシ再現部18は、探索変化量推定部14の要求に応じて、ユーザの出題ポリシ情報に従ってシミュレーション上の課題を出力する。出題ポリシ再現部18は成否データ保存部11からユーザの出題ポリシ情報を取得する。
【0040】
パラメタ提示部19は、探索変化量推定部14により推定された探索変化量、探索量推定部15により推定された探索量、又はこれらの両方を示すパラメタ情報をユーザに提示する。一例として、パラメタ提示部19は、課題提示装置10が備える出力装置(例えば表示装置)を通じてユーザへパラメタ情報を提示する。他の例では、パラメタ提示部19は、PC又はタブレットなどの端末を通してユーザにパラメタ情報を提示するために、パラメタ情報を端末に送信する。なお、パラメタ情報提示は、ユーザ以外の者(例えば指導者など)に対して行うようにしてもよい。
【0041】
課題出力部17及びパラメタ提示部19は、探索変化量推定部14により推定された探索変化量に基づく情報を出力する情報出力部に相当する。探索変化量推定部14により推定された探索変化量に基づく情報は、探索変化量推定部14により推定された探索変化量そのものを示す情報、探索量推定部15により推定された探索量を示す情報、及び/又は課題選択部16により選択された課題を示す情報を含む。
【0042】
図2は、成否データ保存部11が保持するテーブルの一例を示している。図2に示すテーブルは、成否データID、ユーザID、課題ID、成否、日時、出題ポリシという6つのフィールド(カラム)を有する。成否データIDはデータレコードを識別する情報である。成否のフィールドにおいて、値“1”は成功を示し、値“0”は失敗を示す。物体をターゲット内へ到達させる例を再び参照すると、1D1Uという課題ポリシは、1度成功したらターゲットの半径を所定量(例えば1mm)小さくし、1度失敗したらターゲットの半径を所定量(例えば1mm)大きくするというルールを示す。課題ポリシ情報2D1Uは、2度成功したらターゲット半径を所定量小さくし、1度失敗したらターゲット半径を所定量大きくするというルールを示す。
【0043】
図3は、課題データ保存部12が保持するテーブルの一例を示している。図3に示すテーブルは、課題ID、課題特徴量、課題難易度、信頼度、算出に用いられた成否データIDという5つのフィールドを有する。算出に用いられた成否データIDのフィールドは、課題難易度の算出に用いられた成否データのIDを格納する。
【0044】
図4は、探索パラメタ保存部13が保持するテーブルの一例を示している。図4に示すテーブルは、ユーザID、探索変化量、学習率という3つのフィールドを有する。図4の例では、探索変化量及び学習率が探索パラメタである。
【0045】
図5は、探索変化量推定部14の構成の一例を概略的に示している。図5に示すように、探索変化量推定部14は、データ系列抽出部51、シミュレーション実行部52、誤差評価部53、及びパラメタ更新部54を備える。
【0046】
データ系列抽出部51は、成否データ保存部11から、ユーザの探索パラメタを推定するために使用する成否データ系列を抽出する。成否データ系列は、ユーザが一連の課題を実施した結果を含む。一連の課題は、例えば、連続する2つの課題間の時間間隔が所定時間間隔未満であり、同じ出題ポリシを有する。
【0047】
シミュレーション実行部52は、ユーザが上記一連の課題と同数の課題を実施したというシミュレーションを実行して成否データ系列を生成する。シミュレーションに使用する課題は出題ポリシ再現部18により供給される。
【0048】
誤差評価部53は、データ系列抽出部51により得られた成否データ系列とシミュレーション実行部52により得られた成否データ系列との間の誤差を算出する。
【0049】
パラメタ更新部54は、誤差評価部53により算出された誤差に基づいて、探索変化量及び学習率を更新する。
【0050】
シミュレーション実行部52、誤差評価部53、及びパラメタ更新部54は、最適化手法に基づいて探索パラメタを決定する。例えば、シミュレーション実行部52が、パラメタ更新部54により更新された探索変化量及び学習率を用いてシミュレーションを再度実行し、誤差評価部53が、データ系列抽出部51により得られた成否データ系列とシミュレーション実行部52により新たに得られた成否データ系列との間の誤差を算出し、パラメタ更新部54が、誤差評価部53により新たに算出された誤差に基づいて、探索変化量及び学習率を更新する。この処理を終了条件が満たされるまで繰り返す。最適化手法としては、勾配法、ニュートン法、バリア関数法、ペナルティ関数法、簡約勾配法、内点法、単体法などを使用することができる。
【0051】
なお、学習率は、推定対象とせずに、固定値としてもよい。本実施形態のように学習率が推定対象に含まれる場合、探索量推定部15における探索量の推定精度が向上し、探索空間が広がりすぎたか否かをより適切に判断することが可能になる。探索量の初期値が推定対象に含まれてもよい。
【0052】
図6は、本発明の一実施形態に係るコンピュータ装置60のハードウェア構成の一例を概略的に示している。図6に示すコンピュータ装置60は、図1に示した課題提示装置10の一例であり得る。
【0053】
図6に示すように、コンピュータ装置60は、ハードウェアとして、CPU(Central Processing Unit)61、RAM(Random Access Memory)62、プログラムメモリ63、補助記憶装置64、通信インタフェース65、及び入出力インタフェース66を備える。CPU61は、バス67を介して、RAM62、プログラムメモリ63、補助記憶装置64、通信インタフェース65、及び入出力インタフェース66と通信する。
【0054】
CPU61は汎用ハードウェアプロセッサの一例である。RAM62はワーキングメモリとしてCPU61に使用される。RAM62はSDRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリを含む。プログラムメモリ63は、課題提示プログラムを含む種々のプログラム及びプログラムを実行するために必要な設定データを非一時的に記憶する。プログラムメモリ63に記憶されている各プログラムはコンピュータ実行可能命令を含む。プログラム(コンピュータ実行可能命令)は、CPU61により実行されると、CPU61に所定の処理を実行させる。プログラムメモリ63として、例えば、ROM(Read-Only Memory)、補助記憶装置64の一部、又はその組み合わせが使用される。補助記憶装置64はデータを非一時的に記憶する。補助記憶装置64は、ハードディスクドライブ(HDD)又はソリッドステートドライブ(SSD)などの不揮発性メモリを含む。
【0055】
課題提示プログラムは、CPU61により実行されると、ここで説明される一連の処理をCPU61に実行させる。例えば、CPU61は、課題提示プログラムに従って、探索変化量推定部14、探索量推定部15、課題選択部16、課題出力部17、出題ポリシ再現部18、及びパラメタ提示部19として機能する。成否データ保存部11、課題データ保存部12、及び探索パラメタ保存部13は、例えば、補助記憶装置64により実現される。
【0056】
通信インタフェース65は、他の装置と通信するためのインタフェースである。通信インタフェース65は、無線モジュール、有線モジュール、又はその組み合わせを備える。入出力インタフェース66は、入力装置及び出力装置を接続するための複数の端子を備える。入力装置の例は、キーボード、マウス、マイクロフォンなどを含む。出力装置の例は、表示装置、スピーカなどを含む。
【0057】
プログラムは、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態でコンピュータ装置60に提供されてよい。この場合、例えば、コンピュータ装置60は、記憶媒体からデータを読み出すドライブ(図示せず)をさらに備え、記憶媒体からプログラムを取得する。記憶媒体の例は、磁気ディスク、光ディスク(CD-ROM、CD-R、DVD-ROM、DVD-Rなど)、光磁気ディスク(MOなど)、半導体メモリを含む。また、プログラムを通信ネットワーク上のサーバに格納し、コンピュータ装置60が通信インタフェース65を使用してサーバからプログラムをダウンロードするようにしてもよい。
【0058】
実施形態において説明される処理は、CPU61などの汎用プロセッサがプログラムを実行することにより行われることに限らず、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの専用ハードウェアプロセッサにより行われてもよい。ここで使用する処理回路(processing circuitry)という語は、少なくとも1つの汎用ハードウェアプロセッサ、少なくとも1つの専用ハードウェアプロセッサ、又は少なくとも1つの汎用ハードウェアプロセッサと少なくとも1つの専用ハードウェアプロセッサとの組み合わせを含む。図6に示す例では、CPU61、RAM62、及びプログラムメモリ63が処理回路に相当する。
【0059】
[動作]
上述した構成を有する課題提示装置10の動作例を説明する。
【0060】
図7は、課題提示装置10が探索パラメタを推定する手順の一例を概略的に示している。図7のステップS71において、データ系列抽出部51は、成否データ保存部11から、あるユーザのパラメタを推定するために使用する成否データ系列を抽出する。例えば、データ系列抽出部51は、成否データ保存部11からユーザの成否データを取得し、取得した成否データを時間順にソートする。このとき、一定時間T1以上成否データに間隔がある場合又は出題ポリシが変更になった場合は、成否データは区切られて複数の成否データ系列が生成される。一定時間T1はユーザにより事前に設定され得る。一定時間T1は例えば10分である。データ系列抽出部51は、成否データ系列のうちの最新のものを選択する。
【0061】
ステップS72において、データ系列抽出部51は、抽出した成否データ系列の長さMを取得する。
【0062】
ステップS73において、シミュレーション実行部52は、ユーザが課題をM回実施するというシミュレーションを実行し、M回分の成否データである成否データ系列を得る。例えば、まず、シミュレーション実行部52は、データ系列抽出部51により抽出された成否データ系列から、出題ポリシ情報、初期の成否情報r、及び初期の課題IDを取得する。シミュレーション実行部52は、下記の式1に従って、初期の成否情報rから次の試行における探索量を求める。
【数2】
ここで、tは系列中での順番を表す。
【0063】
シミュレーション実行部52は、出題ポリシ再現部18に対して課題IDと成否rを入力し、出題ポリシ再現部18から、次に出題すべき課題の課題IDを取得する。シミュレーション実行部52は、下記の式2に従って、ユーザの次の試行時のパフォーマンスの予測値xt+1を求める。
【数3】
ここで、N(0,σ)は、平均0、分散σの正規分布を仮定する。
【0064】
シミュレーション実行部52は、課題データ保存部12から、出題されている課題の難易度bt+1を取得する。シミュレーション実行部52は、下記の式3に従って、パフォーマンスxt+1と難易度bt+1を比較し、次の試行が成功するか否かを判定する。
【数4】
【0065】
シミュレーション実行部52は、上記の処理をM-1回繰り返すことでM回分の成否データを得る。
【0066】
なお、簡単すぎる課題を実施した場合には探索空間の広がりが起こらない可能性がある。この場合は、シミュレーション実行部52は、成功失敗にかかわらず、式1に代えて下記の式1′を使用することができる。
【数5】
【0067】
なお、対象とする課題の種類に依存して、ユーザの内的状態を表すθを用いることができる。その場合、シミュレーション実行部52は、式2に代えて下記の式2′を使用することができる。
【数6】
【0068】
ステップS74において、誤差評価部53は、データ系列抽出部51により抽出された成否データ系列とシミュレーション実行部52により得られた成否データ系列とを比較し、誤差を算出する。誤差を算出する方法は複数ある。
【0069】
一例では、誤差評価部53は、データ系列抽出部51及びシミュレーション実行部52からの成否データ系列の各々に対して、1回、2回、・・・、h1回連続で失敗する頻度をカウントする。それにより、誤差評価部53は、データ系列抽出部51からのデータ系列に関する連続失敗頻度Fと、シミュレーション実行部52からのデータ系列に関する連続失敗頻度Fと、を得る。同様にして、誤差評価部53は、データ系列抽出部51及びシミュレーション実行部52からのデータ系列の各々に対して、1回、2回、・・・、h2回連続で成功する頻度をカウントして、データ系列抽出部51からのデータ系列に関する連続成功頻度Sと、シミュレーション実行部52からのデータ系列に関する連続成功頻度Sと、を得る。ここで、h1は連続失敗の最大回数を示し、h2は連続成功の最大回数を示す。誤差評価部53は、連続失敗頻度Fと連続失敗頻度Fとの差及び連続成功頻度Sと連続成功頻度Sとの差に基づいて、誤差を算出する。誤差評価部53は、例えば下記の式3に従って、誤差Lを求める。
【数7】
【0070】
他の例では、誤差評価部53は、成否パタンの比較に基づいて誤差を算出してよい。データ系列抽出部51からの成否データ系列をr、シミュレーション実行部52からの成否データ系列をrと表したときに、誤差評価部53は、成否データ系列rと成否データ系列rとの間の差に基づいて誤差を算出する。誤差評価部53は、例えば下記の式4に従って、誤差Lを求める。
【数8】
【0071】
さらに他の例では、誤差評価部53は、データ系列抽出部51からの成否データ系列とシミュレーション実行部52からのデータ系列との間での成功率の差に基づいて、誤差を算出してよい。誤差評価部53は、例えば下記の式5に従って、誤差Lを求める。
【数9】
【0072】
ステップS75において、パラメタ更新部54は、パラメタである探索変化量及び学習率を更新する。
【0073】
探索変化量推定部14は、更新後のパラメタを用いてS73~S75の処理を再帰的に実行する。S73~S75の処理は、終了条件が満たされるまで、例えば、誤差の低減が収束するまで、繰り返される。
【0074】
終了条件が満たされると(ステップS76;Yes)、ステップS77において、パラメタ更新部54は、更新後のパラメタを探索パラメタ保存部13に保存する。これにより、パラメタ推定は終了する。
【0075】
図8は、課題提示装置10が課題を提示する手順の一例を概略的に示している。図8のステップS81において、探索パラメタ保存部13に存在するユーザIDについて、成否データ保存部11において新たな成否データが発生した場合に、探索量推定部15は、成否データ保存部11から、課題提示に使用する成否データを抽出する。例えば、探索量推定部15は、成否データ保存部11からユーザの成否データを取得し、取得した成否データを時間順にソートする。このとき、一定時間T1以上成否データに間隔がある場合又は出題ポリシが変更になった場合は、成否データは区切られて複数の成否データ系列が生成される。探索量推定部15は、成否データ系列のうちの最新のものを選択する。例えば、図9に示すような25回分の成否データが入力データとして得られる。
【0076】
ステップS82において、探索量推定部15は、抽出した成否データ系列に基づいて、現在の探索量を推定する。例えば、探索量推定部15は、探索パラメタ保存部13からユーザの探索変化量及び学習率を取得し、取得した探索変化量及び学習率と抽出した成否データ系列とを用いて、上記の式1に従って探索量を求める。図9に示すような25回分の成否データが探索量推定部15に入力される例では、探索量推定部15は、25個の探索量を含むデータ系列を出力し、それらのうちの最新値(この例では0.23)が現在の探索量として課題選択部16に与えられる。
【0077】
ステップS83において、課題選択部16は、探索量推定部15により推定された探索量と課題特徴量とに基づいて、事前に用意された複数の課題の中から、ユーザが次に実施すべき課題を選択する。課題を選択する方法は複数ある。
【0078】
例えば、t回目に実施した課題の難しさを表す特徴量をDtとする。特徴量Dtは課題データ保存部12に保存されている。ここでは、課題が難しいほど値が大きくなるように特徴量Dtを規定する。
【0079】
失敗がR回続いた場合、かつ、探索量σがST以上であった(探索量σにより示される探索空間の広さが基準よりも広い)場合、課題選択部16は、例えば下記の式6に従って、ユーザが次に実施すべき課題の難しさD′t+1を求める。
【数10】
ここで、Kは、課題の種類に依存して事前に定められるスケーリング係数を表し、正の小数である。また、上記STは課題に応じて定められる探索量の許容量である。上記Rは、課題に応じて事前に定められる整数であり、例えば1、2又は3であり得る。
【0080】
課題選択部16は、課題データ保存部12を参照し、得られたD′t+1より小さく、かつ、最も近い特徴量を持つ課題を選択する。
【0081】
なお、特徴量Dtに応じて難しさを下げる幅を定める方が有効な場合がある。この場合、下記の式7′を使用してもよい。
【数11】
【0082】
上記のいずれの場合においても、選択された課題はユーザが最後に実施した課題よりも簡単な課題となる。
【0083】
ユーザが最後に実施した課題の特徴量に基づいて課題選択を行うことにより、簡単すぎず、ユーザの状況に適した課題をユーザに提示することが可能になる。
【0084】
ステップS84において、課題出力部17は、課題選択部16により選択された課題を端末のディスプレイに表示するために、端末に出力する。
【0085】
図7に示した処理と図8に示した処理は、同じフェーズで実行されもよく、異なるフェーズで行われてもよい。図7の処理と図8の処理が同じフェーズで実行される場合、パラメタ推定に使用する成否データが課題提示に使用する成否データと同じであり得る。例えば、探索変化量推定部14が図9に示した入力データ(25回分の成否データ)を用いてパラメタ推定を行い、その後に探索量推定部15が同じ入力データを用いて現在の探索量を算出してもよい。また、図7の処理と図8の処理が異なるフェーズで実行される場合、パラメタ推定に使用する成否データは課題提示に使用する成否データと異なる。例えば、探索変化量推定部14は、図9に示した入力データよりも前に得られた成否データを用いてパラメタ推定を行う。
【0086】
[効果]
本実施形態に係る課題提示装置10は、ユーザが課題を実施した結果に基づいて探索変化量及び学習率を推定し、ユーザが課題を実施した結果と推定された探索パラメタ及び学習率とに基づいて探索量を推定し、推定された探索量に基づいて、複数の課題の中からユーザが次に実施すべき課題を選択し、選択された課題を出力する。これにより、ユーザの探索空間が広がりすぎた場合に、より簡単な課題をユーザに提示することが可能となる。より簡単な課題が提示されるので、ユーザが次の課題に成功する可能性が高くなる。ユーザが課題に成功すると、ユーザがスランプに陥ることが予防される。
【0087】
探索量推定は、探索空間が成功により狭まり、失敗により広がるというモデル(例えば上記の式1)を用いて行われる。これにより、課題成否に伴うユーザの探索空間の変化を容易に追うことが可能となり、探索空間が広がりすぎたか否かをより適切に判断することが可能になる。
【0088】
推定された探索量により示される探索空間の広さが基準よりも広い場合に、ユーザが最後に実施した課題よりも簡単な課題が選択される。これにより、ユーザの探索空間が過度に広がる前に、ユーザが最後に実施した課題より簡単な課題をユーザに提示することが可能となる。その結果、ユーザが次の課題に成功する可能性が高くなり、ユーザがスランプに陥ることを予防することができる。
【0089】
また、課題提示装置10は、推定した探索変化量、推定した探索量、又はこれらの両方を示すパラメタ情報をユーザに提示してよい。これにより、ユーザや指導者は、ユーザの状況を把握することができる。例えば課題提示装置10が課題を提示できない状況が生じた場合であっても、ユーザや指導者は、ユーザがスランプに陥らないように対策を立てることができるようになる。
【0090】
[変形例]
図1に示した構成要素のいくつかは削除されてもよい。例えば、成否データ保存部11、課題データ保存部12、及び探索パラメタ保存部13は、課題提示装置10の外部に設けられてもよい。また、課題提示装置10はパラメタ提示部19を備えなくてもよい。
【0091】
また、課題提示に関与する部分が削除されてもよい。一実施形態に係る情報処理装置は、探索変化量推定部14及びパラメタ提示部19を備え、探索変化量推定部14により推定された探索変化量をユーザに提示してよい。一実施形態に係る情報処理装置は、探索変化量推定部14、探索量推定部15、及びパラメタ提示部19を備え、探索変化量推定部14により推定された探索変化量及び探索量推定部15により推定された探索量を示すパラメタ情報をユーザに提示する。これらの実施形態の各々によれば、ユーザのスランプへの陥りやすさをユーザやその指導者へフィードバックすることができる。その結果、ユーザや指導者はユーザがスランプに陥らないように対策を立てることができるようになる。
【0092】
図10は、一実施形態に係る課題提示装置100を概略的に示している。図10において、図1に示した要素と同様の要素に同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0093】
図10に示すように、課題提示装置100は、成否データ保存部11、課題データ保存部12、探索パラメタ保存部13、探索変化量推定部14、探索量推定部15、課題選択部16、課題出力部17、出題ポリシ再現部18、パラメタ提示部19、課題特徴量推定部101、及び習熟度推定部102を備える。課題提示装置100は、課題提示装置10に課題特徴量推定部101及び習熟度推定部102を追加したものに相当する。
【0094】
課題特徴量推定部101は、成否データ保存部11に保存されている多数のユーザに関する成否データに基づいて、各課題の難易度を推定する。課題特徴量推定部101は、例えば項目反応理論などの手法を用いて、各課題の難易度を算出する。課題特徴量推定部101は、推定した各課題の難易度を課題データ保存部12に保存する。
【0095】
習熟度推定部102は、成否データ保存部11に保存されている多数のユーザに関する成否データと、課題データ保存部12に保存されている課題それぞれの難易度と、に基づいて、各ユーザの習熟度を推定する。習熟度推定部102は、例えば項目反応理論などの手法を用いて、各ユーザの習熟度を算出する。算出された習熟度は、上記の式2′に含まれるθとして使用することができる。
【0096】
上述した構成を有する課題提示装置100は、習熟度などのユーザの内的状態を推定することができ、ユーザのパフォーマンスがユーザの内的状態に依存する場合に、より適切な課題をユーザに提示することが可能となる。
【0097】
図11は、一実施形態に係る課題提示装置110を概略的に示している。図11において、図1又は図10に示した要素と同様の要素に同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0098】
図11に示すように、課題提示装置110は、成否データ保存部11、課題データ保存部12、探索パラメタ保存部13、探索変化量推定部14、探索量推定部15、課題選択部16、課題出力部17、出題ポリシ再現部18、パラメタ提示部19、課題特徴量推定部101、習熟度推定部102、ユーザデータ保存部111、目標データ保存部112、及び技能評価部113を備える。課題提示装置110は、課題提示装置100にユーザデータ保存部111、目標データ保存部112、及び技能評価部113を追加したものに相当する。
【0099】
ユーザデータ保存部111は、課題実施時のユーザに関するデータを含むユーザデータを保存する。ユーザデータは、例えば、課題である運動を実施しているユーザを撮影した映像データ、ユーザに取り付けられた加速度センサからの加速度データ、又はユーザが投擲したダーツ若しくはボールの着地点を示す着地点データなどを含む。
【0100】
目標データ保存部112は、課題実施時の手本ユーザに関するデータを含む目標データを保存する。手本ユーザは、例えば専門家又は先生などの手本とすべきユーザを指す。目標データは、ユーザデータ保存部111に保存されるデータの形式と同様の形式のデータを保存する。
【0101】
技能評価部113は、ユーザデータ保存部111に保存されているユーザデータと目標データ保存部112に保存されている目標データとに基づいて、課題の成否を判定する。技能評価部113は、判定結果を成否データとして成否データ保存部11に保存する。また、技能評価部113は、ユーザと手本ユーザとの乖離度合いを算出してよく、算出した乖離度合いを成否データ保存部11に保存してよい。
【0102】
上述した構成を有する課題提示装置110は、ユーザの成否データを自動で生成することが可能である。
【0103】
[実施例]
・実施例1 到達運動課題
ロボットアーム、PCのマウス、又はタブレットなどの操作に応じて動くカーソルを特定の大きさを有するターゲット内へ到達させる課題を想定する。この際、ターゲットが大きければ、カーソルをターゲット内へ到達させることは容易であり、一方、ターゲットが小さければ、カーソルをターゲット内へ到達させることは難しい。
【0104】
ユーザが課題を実施すると、各試行の成否(カーソルがターゲット内に到達したかどうか)を示す成否データが成否データ保存部11に保存される。成否データ保存部11に保存される情報は、図2に示したように、例えば、成否データID、ユーザID、課題ID、成否情報、日時情報、出題ポリシ情報を含む。
【0105】
課題データ保存部12は一連の課題で提示されるターゲットの情報を保存する。課題データ保存部12に保存される情報は、図3に示したように、例えば、課題ID、課題特徴量、課題難易度を含む。本実施例では、ターゲットの大きさが課題の難しさに大きく影響するため、課題特徴量としてターゲットの半径を用いる。課題難易度は正の小数値であり、本実施例のようにターゲットの大きさによって課題の難しさが定まる場合であれば、例えば、あらかじめ設定された値(例えば10cm)からターゲット半径を引いた値を難易度とすることができる。
【0106】
なお、例えば、視覚外乱、操作の時間遅れ、又は力学的外乱が加えられるといった、課題の難しさへ影響する要因がターゲットの大きさ以外にもある場合、課題特徴量は半径以外の値にも基づいて算出することができる。半径以外の値としては、例えば、これまでユーザが試行した際の成功率、項目反応理論を用いた場合に算出される難易度などがある。
【0107】
あるユーザの成否データが充分に溜まったら、探索変化量推定部14が探索変化量を推定する。推定の結果として得られた探索パラメタは探索パラメタ保存部13に保存される。あるユーザの探索パラメタが探索パラメタ保存部13に保存されている場合、スランプを予防するアダプティブ出題が可能となる。アダプティブ出題のためには、探索量推定部15が1試行ごとに探索量推定を行い、課題選択部16が推定された探索量に応じた課題を選択し、課題出力部17が選択された課題をユーザへ提示する。
【0108】
・実施例2 勉強
算数、国語、英語といった学校教育の教科又は趣味などを含む学習教材に対して、何かしらの課題の出題とユーザの反応に基づく正誤が判定される場合、図10に示した課題提示装置100により、ユーザがスランプに陥ることを防ぐアダプティブ出題が可能である。
【0109】
ユーザが課題を実施した際の正誤や時刻などの情報が成否データ保存部11に保存される。課題特徴量推定部101が、項目反応理論などを用いて、複数ユーザの正誤データに基づいて各課題の難易度を判定し、課題データ保存部12に保存する。課題提示処理については、実施例1で説明したものと同様であるので、説明を省略する。
【0110】
本実施例の場合、式2′を用いることが効果的である。この場合、習熟度推定部102が、成否データ保存部11に保存されているユーザの正誤、及び課題データ保存部12に保存される課題難易度を用いて、項目反応理論を用いてユーザの習熟度を算出する。算出された習熟度は式2′のθとして使用される。なお、習熟度の算出には、例えば、非特許文献1に説明されるような項目反応理論を用いることができるが、習熟度の算出方法は項目反応理論に限定されない。
【0111】
・実施例3 その他の運動課題
ダーツ、投球、跳び箱、ダンス、ゴルフといったスポーツの課題に対しても実施形態に係る課題提示装置を適用可能である。
【0112】
本実施例では、例えば、図11に示した課題提示装置110が使用される。ユーザデータ保存部111は課題実施時のユーザの動画データを保存する。目標データ保存部112は課題実施時の手本ユーザの動画データを保存する。技能評価部113は、ユーザデータ保存部111及び目標データ保存部112に保存されている動画データに基づいて課題の成否を算出する。例えば、特許第5525407号公報に開示される骨格抽出方法を用いることで、動画データから手足の動き及び関節角度を評価することが可能である。課題がダンスに関するものである場合、技能評価部113は、ユーザデータ保存部111及び目標データ保存部112に保存されている動画データそれぞれから骨格の動きを算出し、ユーザの運動が手本ユーザの運動とどれだけ近いかを評価する。この評価方法は、ユーザデータ及び目標データそれぞれから各関節角度の時系列データを生成し、時系列データに対して相関係数又は差分を求めることを含む。動画による動きの定量評価は、ダンス以外にも、器械体操、ゴルフ若しくは野球のバッティング動作、野球のピッチング、又はダーツの投擲といったあらゆる動作に適用可能である。
【0113】
ダーツの着地点の点数又は野球のバッティングの飛距離といった、動画での判定を介さずとも技能を評価できる場合が多く存在する。その場合は、技能評価部113が、ダーツの着地点の点数又は野球のバッティングの飛距離といった値を直接に取得し、取得した値に基づいて課題の成否を求めることができる。
【0114】
課題特徴量推定部101は、多数ユーザのデータに対して、どれくらいの割合のユーザがその課題を成功できたかによって課題の難易度を推定する。ここでは、項目反応理論などを使用することができる。
【0115】
上記のような前処理を行うことで、到達運動課題以外の運動課題の対しても探索量変化の推定及び探索量に応じた課題選択が可能となる。
【0116】
・実施例4 リハビリテーション
実施形態に係る課題提示装置はリハビリテーションにも適用可能である。本実施例では、例えば、図11に示した課題提示装置110が使用される。
【0117】
例えば、ユーザが脳卒中患者であってある程度の運動が可能であるとする。ユーザの動きを撮影した動画データがユーザデータ保存部111に保存され、目標とする健常者の動きを撮影した動画データが目標データ保存部112に保存される。技能評価部113は、実施例3に関して上述したものと同様にして、動画データからユーザが課題を達成できているかどうかを判定することができる。また、動画データを用いる方法以外にも、ペグなどの物体を把持し特定の場所に持っていくことができたか、上着の着脱が一人でできるかといった、人手で判定可能なものに対しては、人手での判定結果を技能評価部113に直接入力するようにしてもよい。
【0118】
麻痺の程度によっては、動作自体が困難な場合もある。その場合、筋電図及び脳波を用いてリハビリテーションが行われる場合がある。そのような場合には、患者の筋電図及び脳波などの神経生理学的計測指標をユーザデータ保存部111に保存し、同一の課題を実施する健常者のデータを目標データ保存部112に保存し、技能評価部113が、両者の波形を比較することで課題の達成具合を判定し、その結果を成否データ保存部11に保存する。
【0119】
なお、技能評価部113は、例えば、筋電図及び脳波それぞれに対してフーリエ変換又はウェーブレット変換を適用して周波数スペクトルを算出し、患者の周波数特性が健常者と同様のパタンとなるかを判定することを含み得る。特定周波数に対する閾値といった課題成否の判定基準が事前に明らかである場合、目標データ保存部112への入力なしに技能評価部113が評価を行うことも可能である。
【0120】
上記のような取得データに対する前処理を行うことで、リハビリテーションに対しても探索変化量の推定及び探索量に応じた課題選択が可能となる。
【0121】
・実施例5 音楽演奏練習
実施形態に係る課題提示装置は音楽演奏練習にも適用可能である。本実施例では、例えば、図11に示した課題提示装置110が使用される。
【0122】
例えば、カラオケ採点のように演奏された音程及びタイミングを一音ごとに判定することができれば、一音一音を1つの課題とみなして、一連の成否データを得ることができる。この際、ユーザデータ保存部111にユーザによる演奏音などのデータを保存し、目標データ保存部112は楽譜又は手本となる演奏データを保存し、技能評価部113が、一音一音が正しく演奏されているかを判定し、その結果を成否データ保存部11に保存する。このような前処理を行うことで、音楽演奏に対しても他の実施例と同様にして探索変化量の推定及び探索量の推定が可能となる。
【0123】
探索量に応じた課題選択を行う場合、一音ごとに出題することは現実的ではないため、曲又はフレーズ単位での出題が望ましい。その場合、曲又はフレーズの平均値又は最大値の難易度を用いて、課題を選択することにより、音楽演奏練習の場合でも適切に探索量に応じた課題選択が可能となる。
【0124】
・実施例6 課題提示が困難な場合、課題提示を伴わない場合
なんらかの理由により、各実施形態に係る課題提示装置による課題提示が困難な場合、探索変化量推定部14により推定された探索変化量、及び探索量推定部15により推定された探索量を示すパラメタ情報を、出力装置を通じてユーザ及び指導者へ提示することで、ユーザ又は指導者が課題の難易度や量を調整する、指導者が指導方法を調整する、ということが可能になる。また、各実施形態に係る課題提示装置によるパラメタ情報提示を用いれば、課題の出題という形式以外での学習体験に対してもスランプを回避する難易度調整が可能となる。例えば、語学学習において、実践的な会話を体験する場合には、具体的な課題を定義することは難しい。そこで、あらかじめ実施された関連する語学学習の課題のデータから推定されたパラメタを話者に提示しておくことで、しゃべるスピードや会話内容を調整し、スランプに陥りにくい学習体験を提供することが可能となる。
【0125】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は可能な限り適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要素における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。
【符号の説明】
【0126】
10…課題提示装置
11…成否データ保存部
12…課題データ保存部
13…探索パラメタ保存部
14…探索変化量推定部
15…探索量推定部
16…課題選択部
17…課題出力部
18…出題ポリシ再現部
19…パラメタ提示部
51…データ系列抽出部
52…シミュレーション実行部
53…誤差評価部
54…パラメタ更新部
60…コンピュータ装置
61…CPU
62…RAM
63…プログラムメモリ
64…補助記憶装置
65…通信インタフェース
66…入出力インタフェース
67…バス
100…課題提示装置
101…課題特徴量推定部
102…習熟度推定部
110…課題提示装置
111…ユーザデータ保存部
112…目標データ保存部
113…技能評価部
図1
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図11