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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-17
(45)【発行日】2023-02-28
(54)【発明の名称】CADM1v9認識抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20230220BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230220BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230220BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230220BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
G01N33/574 A
C12P21/08
C12N15/13
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018049435
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2019156809
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-03-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 次世代がん研究シーズ戦略的育成プログラム(01)「がん微小環境を標的とした革新的治療法の実現」、平成28年度 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 次世代がん医療創生研究事業、「細胞接着分子CADM1による小細胞肺がん等の診断マーカー確立と治療を目指した研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100199679
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲尾 透
(72)【発明者】
【氏名】村上 善則
(72)【発明者】
【氏名】伊東 剛
(72)【発明者】
【氏名】浜窪 隆雄
(72)【発明者】
【氏名】岩成 宏子
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】Cancer Science,2012年,vol.103, no.6,p.1051-1057
【文献】Gene,2002年,vol.295,p.7-12
【文献】PLoS one,2010年,vol.5, issue 9, e12892,p.1-7
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1995年,vol.270, no.15,p.8397-8400
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12P 21/00-21/08
A61K 39/00-39/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
配列番号:11で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1と、
配列番号:12で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2と、
配列番号:13で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、
配列番号:14で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1と、
配列番号:15で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2と、
配列番号:16で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3と、
(b)
配列番号:19で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1と、
配列番号:20で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2と、
配列番号:21で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、
配列番号:22で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1と、
配列番号:23で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2と、
配列番号:24で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3と、又は
(c)
配列番号:3で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1と、
配列番号:4で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2と、
配列番号:5で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、
配列番号:6で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1と、
配列番号:7で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2と、
配列番号:8で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3と、を含む、抗CADM1抗体。
【請求項2】
(a)
配列番号:17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖と、
(b)
配列番号:25で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖と、又は
(c)
配列番号:9で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:10で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む、抗CADM1抗体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載される抗CADM1抗体を含む、腫瘍検出
【請求項4】
CADM1のv9断片に関連する腫瘍の検出に用いられる、請求項3に記載の腫瘍検出
【請求項5】
CADM1のv9断片に関連する腫瘍が、小細胞肺がんである、請求項3又は4に記載の腫瘍検出
【請求項6】
血清、血漿、胸水のいずれかを生体試料とする、請求項3~5のいずれか一項に記載される腫瘍検出
【請求項7】
請求項1又は2に記載される抗体、又は請求項3~6のいずれか一項に記載される腫瘍検出、を含む、腫瘍検出用キット。
【請求項8】
前記抗体又は前記腫瘍検出を、ELISA法、CLEIA法、蛍光抗体法、酵素抗体法、ウエスタンブロット法、免疫沈降法のいずれかに用いる、請求項7に記載の腫瘍検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CADM1v9認識抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
小細胞肺がん(small cell lung cancer: SCLC) は日本の肺がんの約15%を占め、年間1万人以上が死亡する難治がんの代表である。小細胞肺がんは、初回化学療法である抗がん剤への反応が良好であるが、その後の抗がん剤耐性腫瘍の出現が必発である。また、早期から全身へ転移すること、鋭敏な病勢マーカーとしての腫瘍検出用マーカーが少ないことから、小細胞肺がんの5年生存率は10%未満と低く、予後不良である。
【0003】
小細胞肺がんの治療には、抗がん剤の効果判定や再発の診断に用いる腫瘍検出用マーカーが必須であるため、Neuron-specific enolase (NSE)、及びPro-gastrin-releasing peptide (ProGRP) が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Kikuchi et al, Cancer Science, 2012, 103(6): 1051-1057.
【文献】Shirakabe et al, Scientific Reports, 2017, 7: 46714.
【文献】Nagara et al, Biochemical and Biophysical Research Communications, 2012, 417(1): 462-467.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、その検出方法において感度を最適化したとしても、NSEの感度は約30%以下、ProGRPの感度は45%程度であり、両マーカーを用いても検出不能なSCLCが全体の半数程度存在し、SCLC診断、治療の盲点になっている。特に早期のSCLCにおいてNSEは腫瘍を全く検出できず、ProGRPは腫瘍をわずかにしか検出できない。したがって、既存腫瘍マーカーで検出できないSCLCを検出し、さらに早期のSCLCをも検出できる新規腫瘍マーカーの開発が強く望まれている。
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、SCLCの新規腫瘍マーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
まず、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、細胞接着分子CADM1が、SCLCで高発現し、しかも正常組織では精巣に発現するスプライスバリアント v8/9を発現すること、CADM1v8/9 の発現がSCLC細胞の浮遊性増殖やマウスでの腫瘍原性を促進し、一方、その発現抑制によりスフェロイド形成能や生存、増殖が抑制されることを見出した (非特許文献1)。
【0008】
次に、CADM1v8/9はADAM17による切断を受けて細胞外領域が断片として遊離するが (非特許文献2)、CADM1 v8/9に特徴的なexon 9 のコードするアミノ酸配列は細胞膜直上にあり遊離断片に含まれる。一方、精巣以外の正常組織、例えば上皮細胞ではCADM1はADAM10による切断を受けて細胞外領域が断片として遊離するが(非特許文献3)、CADM1v8/9は全く発現しないことから、CADM1v 8/9に特徴的なexon 9 のコードするアミノ酸配列は細胞膜直上になく遊離断片に含まれない。また、精巣から遊離し得るCADM1v9断片は、血液等に移行しにくいところ、本発明者らは、CADM1のv9断片はSCLCの診断における特異的分子標的として有望であることを見出した。
【0009】
しかしながら、哺乳動物を用いた抗CADM1抗体の作製は困難を極めた。ヒトのCADM1タンパク質と哺乳類の実験動物(マウス、ウサギ等)のCADM1タンパク質の相同性が高く、また、CADM1断片が正常個体の血中に存在することから、ヒトのCADM1タンパク質を哺乳類の実験動物に免疫しても抗体が得られなかった。したがって、CADM1のv9断片を特異的に認識する抗体を作製することが長年困難とされてきた。
本発明者らは、CADM1遺伝子欠損マウスをBalb/c系統へ2年間以上戻し交配を行って得たマウスを準備し、そのマウスをCADM1のv9断片で免疫することでCADM1のv9断片に特異的な抗体を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示す通りである。
[1]
CADM1のv9断片を認識する、抗体。
[2]
CADM1のv9断片が、ヒトCADM1のv9断片である、[1]に記載の抗体。
[3]
DTTATTEPAVHのCADM1のエクソン9由来の配列番号:2で表されるアミノ酸配列を認識する、[1]又は[2]に記載の抗体。
[4]
配列番号:3で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1と、
配列番号:4で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2と、
配列番号:5で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、
配列番号:6で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1と、
配列番号:7で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2と、
配列番号:8で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3と、を含む、抗体。
[5]
配列番号:9で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と、
配列番号:10で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む、抗体。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載される抗体を含む、腫瘍検出用マーカー。
[7]
CADM1のv9断片に関連する腫瘍の検出に用いられる、[6]に記載の腫瘍検出用マーカー。
[8]
CADM1のv9断片に関連する腫瘍が、小細胞肺がんである、[6]又は[7]に記載の腫瘍検出用マーカー。
[9]
血清、血漿、胸水のいずれかを生体試料とする、[6]~[8]のいずれかに記載される腫瘍検出用マーカー。
[10]
[1]~[5]のいずれかに記載される抗体、又は[6]~[9]のいずれかに記載される腫瘍検出用マーカー、を含む、腫瘍検出用キット。
[11]
前記抗体又は前記腫瘍検出用マーカーを、ELISA法、CLEIA法、蛍光抗体法、酵素抗体法、ウエスタンブロット法、免疫沈降法のいずれかに用いる、[10]に記載の腫瘍検出用キット。
[12]
[1]~[5]のいずれかに記載される抗体、[6]~[9]のいずれかに記載される腫瘍検出用マーカー、又は[10]又は[11]に記載の腫瘍検出用キットを用い、腫瘍を検出する、腫瘍検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、SCLCの新規腫瘍マーカーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】CADM1のスプライスバリアントv8/9のmRNA及びタンパク質の構造の模式図を示す。
図2】細胞培養上清におけるCADM1のv9断片の検出結果を示す。
図3】肺がん及び炎症性肺疾患患者血清におけるCADM1のv9断片の検出結果を示す。
図4】SCLC患者血清におけるProGRPとCADM1のv9断片との比較を示す。
図5】SCLCの治療効果とCADM1のv9断片量との相関を示す。
図6】CADM1のエクソン8及び9のコードするアミノ酸配列とプロテアーゼによる切断部位を示す。
図7】SCLC患者の胸水におけるCADM1のv9断片の検出結果を示す。
図8】CADM1のv9断片の精製タンパク質の取得結果を示す。
図9】抗CADM1v9抗体のエピトープの絞り込みの結果を示す。
図10】F1222抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列及び塩基配列を示す。
図11】E9919抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を示す。
図12】E9935抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を、発明を実施するための形態により具体的に説明するが、本発明は、以下の発明を実施するための形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができる。
本発明において参照される文献に開示されている内容は、本発明に参照として取り込まれる。
【0014】
〔CADM1v9認識抗体〕
CADM1のv9断片に特異的な抗体は、長年作製が困難とされてきたところ、本発明に係る抗体は、CADM1のv9断片を認識する。特に、本発明に係る抗体は、CADM1の細胞外領域がプロテアーゼ (ADAM10やADAM17) により切断を受けて遊離したCADM1のv9断片を認識し得る。ここで、「CADM1のv9断片」とは、細胞接着分子CADM1の細胞外領域のうち、エクソン9に対応する領域(配列番号:1)を含むCADM1v8/9が、プロテアーゼにより切断等されて断片として細胞から遊離しているものを意味し、「CADM1v8/9」とは、細胞接着分子CADM1が、腫瘍、正常組織における精巣に発現するスプライスバリアント v8/9を意味する。本発明に係る抗体は、「CADM1v9認識抗体」、「v9認識抗体」、「抗CADM1v9抗体」又は「抗v9抗体」ともいい、また、「CADM1のv9断片」は、「CADM1のv9断片」、「CADM1v9断片」又は「v9断片」ともいう。
【0015】
CADM1v9認識抗体は、CADM1のv9断片に関連する腫瘍(以下、「v9断片関連腫瘍」ともいう。)の検出に用いられる。ここで、「CADM1のv9断片に関連する腫瘍」とは、v9断片を遊離させる腫瘍組織を意味する。SCLCでは、正常組織ではほぼ精巣にのみ発現するCADM1v8/9を腫瘍組織において発現し、精巣以外の組織においてCADM1v8/9を発現しないところ、CADM1v9認識抗体を用いることにより、CADM1のv9断片を特異的に認識し、腫瘍組織を検出することができる。ここで、「CADM1のv9断片を特異的に認識」とは、細胞接着分子CADM1の細胞外領域のうち、エクソン9に対応する領域を含まないCADM1の断片を認識するよりも、CADM1のv9断片をより強く認識することを意味する。
【0016】
CADM1v9認識抗体を用いることにより、従来の抗体を用いることと比較して、高特異度及び高感度で腫瘍組織の存在を検出することができる。よって、CADM1v9認識抗体は、小細胞肺がんを含む癌の疑いのある被験者のスクリーニング、及び、癌と診断された患者の腫瘍再発の監視に、より有効に使用することができる。例えば、後述する実施例に示すように、早期のSCLCである限局型 (病変が同側胸郭内、対側縦隔、対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており、悪性胸水及び心嚢水を有さないもの) の患者においても、CADM1v9認識抗体を用いることにより、高特異度及び高感度で腫瘍組織を検出することができる。
【0017】
CADM1v9認識抗体は、具体的に、以下の少なくとも1つのアミノ酸配列を認識する:
(1)DTTATTEPAVHのCADM1のエクソン9由来の配列番号:2で表されるアミノ酸配列;
(2)DTTATTEPAVHのCADM1のエクソン9由来の配列番号:2で表されるアミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列;及び
(3)DTTATTEPAVHのCADM1のエクソン9由来の配列番号:2で表されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列。
【0018】
CADM1v9認識抗体の認識部位は、CADM1のv9断片におけるエクソン9に対応する領域であれば特に限定されない。例えば、CADM1v9認識抗体が認識するCADM1のv9断片は、実施例に示すヒトCADM1のv9断片、中でも、エクソン9に対応する領域である。
【0019】
本明細書において、「アミノ酸」は、その最も広い意味で用いられ、天然のアミノ酸のみならずアミノ酸変異体及び誘導体といったような非天然アミノ酸を含むものを意味する。アミノ酸の例としては、天然タンパク原性L-アミノ酸;D-アミノ酸;アミノ酸変異体及び誘導体等の化学修飾されたアミノ酸;ノルロイシン、β-アラニン、オルニチン等の天然非タンパク原性アミノ酸;アミノ酸の特徴である当業界で公知の特性を有する化学的に合成された化合物等が挙げられるがこれらに限定されない。非天然アミノ酸の例としては、α-メチルアミノ酸(α-メチルアラニン等)、D-アミノ酸、ヒスチジン様アミノ酸(2-アミノ-ヒスチジン、β-ヒドロキシ-ヒスチジン、ホモヒスチジン、α-フルオロメチル-ヒスチジン、α-メチル-ヒスチジン等)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸)及び側鎖中のカルボン酸官能基アミノ酸がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸等)が挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
本明細書において、「1又は複数のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有する」という場合、欠失、置換等されるアミノ酸の個数は、結果として得られるCDRのセットが抗原認識機能を保持する限り特に限定されない。また、ここでの「複数」は、2以上の整数を意味し、好ましくは、数個例えば2~5個、より好ましくは2個、3個、4個である。各CDRにおける欠失、置換又は付加の位置は、結果として得られるCDRのセットが抗原認識機能を保持する限り、各CDRにおけるN末端でも、C末端でも、その中間であってもよい。
【0021】
本明細書において、「配列番号:Xで表されるアミノ酸配列とY%以上の同一性を有する」とは、2つのポリペプチドのアミノ酸配列の一致が最大になるように整列(アライメント)させたときに、共通するアミノ酸残基数の、配列番号:Xに示す全アミノ酸数に対する割合が、Y%以上であることを意味する。
【0022】
CADM1v9認識抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。また、本発明に係る抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD及びIgEのいずれのアイソタイプであってもよい。
【0023】
CADM1v9認識抗体は、細胞から遊離しているCADM1のv9断片を認識する限り、マウス抗体、ヒト型CDR移植抗体、ヒト型キメラ抗体、ヒト化抗体、又は完全ヒト抗体であってもよく、低分子抗体であってもよいが、これらに限定されない。
【0024】
ヒト型CDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体のCDRを、ヒト抗体のCDRで置換した抗体である。ヒト型キメラ抗体は、ヒト以外の動物の抗体に由来する可変領域と、ヒト抗体に由来する定常領域からなる抗体である。また、ヒト化抗体とは、ヒト以外の動物の抗体において、安全性の高い一部の領域を残して、ヒトの抗体に由来する部分を組み込んだものをいい、ヒト型キメラ抗体、及びヒト型CDR移植抗体を含む概念である。
【0025】
本明細書において「低分子抗体」とは、抗体の断片又は抗体の断片に任意の分子を結合させたものであって、もとの抗体と同一のエピトープを認識するものを意味する。具体的には、VL、VH、CL及びCH1領域からなるFab;2つのFabがヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されているF(ab')2;VL及びVHからなるFv;VL及びVHを人工のポリペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体であるscFvのほか、sdFv、Diabody、sc(Fv)2が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
CADM1v9認識抗体は、特に限定されないが、例えば、(a)配列番号:3で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1と、(b)配列番号:4で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2と、(c)配列番号:5で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3と、(d)配列番号:6で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1と、(e)配列番号:7で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2と、(f)配列番号:8で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3とを含む抗体が挙げられる。
【0027】
CADM1v9認識抗体は、また例えば、以下のいずれかの抗体が挙げられる:
(1)配列番号:9で表されるアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号:10で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む抗体;
(2)配列番号:9で表されるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号:10で表されるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において、1又は複数のアミノ酸の欠失、置換又は付加を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む抗体;
(3)配列番号:9で表されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号:10で表されるアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む抗体。
【0028】
〔CADM1v9認識抗体の作製方法〕
CADM1v9認識抗体の作製方法は限定されないが、例えば、モノクローナル抗体は、CADM1のv9断片で免疫した非ヒト哺乳動物から抗体産生細胞を単離し、これを骨髄腫細胞等と融合させてハイブリドーマを作製し、このハイブリドーマが産生した抗体を精製することによって得ることができる。また、ポリクローナル抗体は、CADM1のv9断片で免疫した動物の血清から得ることができる。免疫に用いるCADM1のv9断片は、得られる抗体がCADM1のv9断片を認識する限り特に限定されない。
【0029】
市販されているCADM1モノクローナル抗体は実用的にはトリの抗体(トリ抗ヒトCADM1抗体)のみであり(非特許文献2参照)、トリ、哺乳類に関わらずCADM1のv9断片を認識できない。また、哺乳類のCADM1のv9断片を認識できる抗体は、世界中の研究者が挑戦しつつも成功例は報告されておらず、本発明者らが後述する実施例に示すように長期間に及んでCadm1-/- マウスをBalb/c系統へ2年間戻し交配を行って得たBalb/c, Cadm1-/- マウスを、CADM1v9断片で免疫したことにより、初めて得られた。
【0030】
特定のアミノ酸配列を有する抗体を作製する場合は、例えば、抗体をコードする核酸を含む発現ベクターで適当な宿主を形質転換し、この形質転換体を適当な条件で培養して抗体を発現させ、公知の方法に従って単離精製することによって、抗体を作製することができる。単離精製方法としては、例えば、プロテインA等を用いたアフィニティカラム、その他のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析等が挙げられ、これらを適宜組み合わせることができる。
【0031】
また、「ある抗体Xと同一のエピトープに特異的に結合する抗体Y」は、下記のようにエピトープの配列を決定してから作製することができる。
【0032】
例えば、多数のランダムな配列のペプチドを固相担体に固定してアレイ化し、抗体Xと反応させ、酵素標識2次抗体で結合を検出して、抗体Xが特異的に結合するペプチドのアミノ酸配列を調べ、このアミノ酸配列と抗原タンパク質のアミノ酸配列の相同性を検索することによって、抗原タンパク質上のエピトープを決定することが可能である。固相担体に固定するペプチドを、予め、抗原タンパク質の部分ペプチド群としてもよい。また、抗原タンパク質の種々の部分ペプチドの存在下で、抗体Xと抗原タンパク質との結合をELISA法で検出し、競合活性の有無を調べることによっても、抗原タンパク質上のエピトープを決定することが可能である。
【0033】
エピトープの配列を決定することができれば、これに特異的に結合する抗体Yは、公知の方法にしたがって当業者が作製することができる。例えば、エピトープ配列を含むペプチドを固相担体に固定し、当該ペプチドと種々の抗体の結合を検出することにより、同エピトープに特異的に結合する抗体を得ることができる。
【0034】
ここで、「種々の抗体」としては、動物を抗原タンパク質又はその部分ペプチドで免疫することによって得たものを用いてもよいし、ファージディスプレイ法によって作製した抗体ライブラリ又は抗体フラグメントライブラリを用いてもよい。ファージディスプレイ法によるライブラリを用いる場合、エピトープ配列を含むペプチドを固相担体に固定しパニングを繰り返すことによって、同エピトープに特異的に結合する抗体Yを得ることもできる。
【0035】
また、ヒトキメラ抗体及びヒトCDR移植抗体は、ヒト以外の動物の抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから抗体遺伝子をクローン化し、これをヒト抗体遺伝子の一部と遺伝子組換え技術で連結することによって作製することができる。
【0036】
例えば、ヒト型キメラ抗体の場合、マウス抗体を産生するハイブリドーマのmRNAから逆転写酵素によりcDNAを合成し、重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(LH)をPCRでクローニングして配列を解析する。次に、一致率の高い抗体塩基配列から、リーダー配列を含む5’プライマーを作製し、5’プライマーと可変部3’プライマーによって上記cDNAから、シグナル配列から可変領域の3’末端までをPCRでクローニングする。一方で、ヒトIgG1の重鎖及び軽鎖の定常領域をクローニングし、重鎖と軽鎖それぞれについて、マウス抗体由来可変領域と、ヒト抗体由来定常領域とをPCRによるOverlapping Hanging法で連結し、増幅する。得られたDNAを適当なベクターに挿入し、これを形質転換して、ヒト型キメラ抗体を得ることができる。
【0037】
CDR移植抗体の場合、使用するマウス抗体可変部と最も相同性の高いヒト抗体可変部を選択してクローン化し、メガプライマー法を用いた部位選択的突然変異導入により、CDRの塩基配列を改変する。なお、フレームワーク領域を構成するアミノ酸配列をヒト化すると抗原との特異的な結合ができなくなる場合には、フレームワークの一部のアミノ酸をヒト型からラット型に変換してもよい。
【0038】
その他の抗体の製造方法として、トリコスタチンA処理ニワトリB細胞由来DT40細胞株から抗体産生株を取得するAdlib法(Seo, H. et al., Nat. Biotechnol., 6:731-736, 2002)、マウス抗体遺伝子が破壊されヒト抗体遺伝子が導入されたマウスであるKMマウスを免疫してヒト抗体を作製する方法(Itoh,K. et al., Jpn. J. Cancer Res., 92:1313-1321, 2001;Koide, A. et al., J. Mol. Biol., 284:1141-1151, 1998)等があり、これらもCADM1v9認識抗体の産生に応用することができる。
【0039】
CADM1v9認識抗体が低分子抗体である場合、該低分子抗体をコードするDNAを用いて上記方法で発現させてもよいし、また、全長の抗体をパパイン、ペプシン等の酵素で処理して作製してもよい。
【0040】
CADM1v9認識抗体は、作製方法や精製方法により、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、形態などが異なり得る。しかしながら、得られた抗体が、CADM1v9認識抗体と同等の機能を有している限り、その抗体は本発明に含まれる。例えば、CADM1v9認識抗体を、大腸菌等の原核細胞で発現させた場合、元の抗体のアミノ酸配列のN末端にメチオニン残基が付加される。しかし、本発明は、かかる抗体も包含する。
【0041】
〔腫瘍検出用マーカー〕
本発明に係る腫瘍検出用マーカーは、CADM1v9認識抗体を含み、担体や添加物をさらに含んでいてもよい。担体及び添加物の例として、水、食塩水、リン酸緩衝液、デキストロース、グリセロール、エタノール等の薬学的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ぺクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、界面活性剤等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0042】
本発明に係る腫瘍検出用マーカーは、CADM1v9認識抗体を含むことにより、NSEやProGRPの従来のマーカーでは認識できないCADM1のv9断片を検出できる。また、本発明に係る腫瘍検出用マーカーは、CADM1のv9断片を検出できるため、腫瘍検出における感度及び特異度等の検出率の向上が図れる。すなわち、腫瘍の中でも、特に早期のSCLCにおいて、従来の代表的なマーカーであるNSEは腫瘍を全く検出できず、ProGRPは腫瘍をわずかにしか検出できないということに対して、本発明に係る腫瘍検出用マーカーを用いることにより、腫瘍の検出率を向上させることができる。
【0043】
〔腫瘍検出用キット〕
本発明に係る腫瘍検出用キットは、CADM1v9認識抗体又は腫瘍検出用マーカーを含む。用途は特に限定されず、CADM1のv9断片の検出や、CADM1のv9断片に関連する腫瘍の検出に用いられる。
【0044】
腫瘍検出用キットは、その用途に応じて試薬や、腫瘍検出用マーカーと同様に担体や添加物を含んでいてもよく、更には緩衝液、容器、使用説明書等を含んでいてもよい。
【0045】
CADM1v9認識抗体、腫瘍検出用マーカー及びキットは、CADM1のv9断片に関連する腫瘍(v9断片関連腫瘍)、特にがんの検出に用いられる。また、がんの中でも、特にCADM1のv9断片の細胞からの遊離に基づく、神経内分泌腫瘍や、神経芽細胞腫等の神経原性の腫瘍の検出に用いられる。神経内分泌腫瘍は、神経内分泌細胞(ホルモン産生細胞)から発生する腫瘍であれば特に限定されないが、肺(肺カルチノイド、肺大細胞神経内分泌がん)、膵臓、消化管、甲状腺等における神経内分泌細胞で発生し得る。肺で発生する腫瘍としては、小細胞肺がん(SCLC)、肺カルチノイド、及び肺大細胞神経内分泌が挙げられる。CADM1v9認識抗体、腫瘍検出用マーカー及びキットは、特に小細胞肺がん(SCLC)の検出に好適に用いられる。CADM1v9認識抗体は、腫瘍検出における特異度及び感度に優れるため、SCLCの検出に好適に利用できる。
【0046】
〔腫瘍検出方法〕
本発明に係る腫瘍検出方法は、CADM1v9認識抗体、腫瘍検出用マーカー、又は腫瘍検出用キットを用い、腫瘍を検出する。検出方法としては、抗体を用いた検出方法であれば特に限定されないが、例えば、CADM1v9認識抗体、腫瘍検出用マーカー、又は腫瘍検出用キットを、ELISA (Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay) 法、CLEIA(化学発光酵素免疫測定)法、蛍光抗体法、酵素抗体法、ウエスタンブロット法、免疫沈降法のいずれかに用いて腫瘍を検出することができる。
【0047】
本発明に係る腫瘍検出方法は、具体的にELISA法のうちサンドイッチELISA法を例に挙げれば、被検体由来のサンプルに対する捕捉抗体を固相に吸着させる工程と、スキムミルク等で固相のブロッキングする工程と、固相に被検体由来のサンプル及びCADM1v9認識抗体を添加する工程とを含み、反応しなかった被検体由来のサンプル及びCADM1v9認識抗体を洗い流す工程をさらに含んでもよい。より詳細には、実施例に記載する方法が挙げられる。
【0048】
本明細書において「被検体由来のサンプル」とは、細胞から遊離しているCADM1のv9断片が含まれ得るサンプルを意味する。被検体由来のサンプルの具体例としては、血清、血漿、胸水、尿、喀痰、腹膜液、膀胱洗浄物、分泌物(例えば、乳房分泌物)、口腔洗浄物、及び吸引液が挙げられるが、血清、血漿、及び胸水が、腫瘍検出の特異度及び感度により優れるため好ましい。
【0049】
本発明に係る腫瘍検出方法は、腫瘍を検出するための迅速で、高特異度及び高感度の方法である。この方法は、例えば、小細胞肺がんを含む癌の疑いのある被験者のスクリーニング、及び、癌と診断された患者の腫瘍再発の監視に使用することができる。
【0050】
〔治療剤又は予防剤〕
本発明に係る治療剤又は予防剤は、CADM1v9認識抗体を含み、上述した腫瘍検出用マーカーと同様の担体や添加物をさらに含んでいてもよい。
【0051】
〔治療方法〕
本発明に係る治療方法又は予防方法は、CADM1v9認識抗体を用い、腫瘍を治療又は予防する。
【実施例
【0052】
以下、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでない。
【0053】
<材料と方法>
マウスと細胞
野生型Balb/cマウスは日本クレアより購入した。Cadm1欠損マウス (Cadm1-/-) は公知の方法 (Yamada D et al, Mol Cell Biol, 2006) で作製し、Balb/cマウスへ10回戻し交配を行った。Balb/c系統のgp64-tg (トランスジェニック) マウスは公知の方法 (Saitoh R et al, J Immunol Methods, 2007) で作製した。これらのマウスを交配してBalb/c系統のCadm1-/-/gp64-tgマウスを作製した。
【0054】
SBC5細胞はJCRB 細胞バンク、293FT細胞はThermo Fisher Scientific、ATN-1細胞は理化学研究所バイオリソースセンター、NCI-H69及びNCI-H446細胞はAmerican Type Culture Collectionより購入した。SBC5細胞はEMEM (和光純薬工業)、293FT細胞はDMEM (ナカライテスク)、ATN-1、NCI-H69、NCI-H446細胞はRPMI1640 (ナカライテスク) に10% FBS (BioWest)、100 units/mLペニシリン及び100 mg/mLストレプトマイシン (Sigma-Aldrich) を加えて培養した。SBC5細胞のCADM1v8 (exon 7+8+11型) 及びCADM1v8/9 (exon 7+8+9+11型) の安定発現株は、それぞれのcDNAをpBactSTneoベクター (理化学研究所より供与) のSalIサイトにクローニングし、Lipofectamine LTX (Invitrogen) を用いて一過性にトランスフェクションした後に500 mg/mLのG418 (ナカライテスク) で選択することにより得た。
【0055】
抗CADM1モノクローナル抗体の作製
抗CADM1抗体E9919 (配列番号:11~18)、E9935 (配列番号:19~26)は以下のように作製した。
免疫動物にはBalb/c系統のCadm1-/-/gp64-tgマウスを用いた。抗原にはCADM1v8/9を発現するバキュロウイルスを用いた。CADM1v8/9 のcDNAをpBlueBac4.5 (Invitrogen) にクローニングした後、組換えバキュロウイルスを公知の方法 (Masuda K et al, J Biol Chem, 2003) で作製した。ハイブリドーマは、免疫後に摘出した脾臓より得られた抗体産生細胞をマウスミエローマ由来のSP2/O細胞と細胞融合させることにより得た。CADM1を特異的に認識する抗体を培養上清中に産生するハイブリドーマのクローンは、CADM1の細胞外領域のC末端側にマウスIgGのFc領域を付加したCADM1 EC-Fc (Murakami S et al, PLoS One, 2014) に対する反応性をELISA法で評価し、選別した。
【0056】
抗CADM1v9抗体の作製
抗CADM1v9抗体F1222 (配列番号:3~10, 31-38)、F1315は以下のように作製した。
免疫動物にはBalb/c系統のCadm1-/- マウスを用いた。抗原にはCADM1v8/9断片のC末端から12アミノ酸を含むペプチドCDTTATTEPAVHD (配列番号:2)のシステイン残基にKLHを付加したものを使用した。ペプチド合成及びKLH付加は株式会社蛋白精製工業に依頼して行った。免疫は腹腔内に抗原を注射することにより行い、ハイブリドーマは脾臓細胞をマウスミエローマ由来のSP2/O細胞と細胞融合させることにより得た。CADM1v9断片を認識する抗体を産生するクローンの選択は、SBC5細胞のCADM1v8/9安定発現株の培養上清より精製したCADM1v8/9断片タンパク質に対する反応性をELISA 法で評価し、選別した。
【0057】
CADM1v9断片の精製
CADM1v9断片精製タンパク質は以下の方法によって得た。SBC5細胞のCADM1v8/9安定発現株を15 cm dish (TPP) に培養し、セミコンフルエントに達した時点で無血清培地に交換して一晩培養し、上清を回収した。次に、Protein A sepharose (Thermo Fisher Scientific) と抗CADM1抗体E9935のクロスリンクを行った。Protein AとE9935を混合して一晩4°Cで反応させた後、0.15 M sodium borate (MP biomedicals) に溶解した40 mM DMP (Thermo Fisher Scientific) と室温で30分反応させクロスリンクした。0.2 M Glycine (pH8) と室温で2時間反応させることによりクロスリンクを停止させ、PBSで洗浄した。培養上清にE9935をクロスリンクしたProtein A sepharoseを添加し、4°Cで一晩反応させた。PBSで4回洗浄した後、Protein A sepharoseに0.1M Glycine (pH2) を添加し、氷上で1時間反応させることによりCADM1v9断片を溶出し、1M Tris-HCl (pH9) を添加することにより中和した。得られたCADM1v9断片の収量及び純度は、ポリアクリルアミド電気泳動を行った後にSilver Stain MS Kit (和光純薬工業) を用いて銀染色を行うことにより確認した。
【0058】
サンドイッチELISAのプロトコル
CADM1v9断片の検出はサンドイッチELISA法により行った。捕捉抗体には抗CADM1抗体E9935を、検出抗体はCADM1v8/9断片の検出には抗CADM1v9抗体F1222を用い、全てのCADM1断片の検出には抗CADM1抗体E9919を用いた。検出抗体はPeroxidase Labeling Kit-NH2 (同仁化学研究所) を用いてHRP標識を行った。
【0059】
まずNunc MaxiSorp 96-wellプレート (Thermo Fisher Scientific) へ1 mg/mLに炭酸バッファー (15 mM Na2CO3、35 mM NaHCO3、0.2% NaN3) で希釈した捕捉抗体を100 mL添加し、4°Cで一晩静置することにより固相化した。PBS-T (137 mM NaCl、8.1 mM Na2PO4、2.68 mM KCl、1.47 mM KH2PO4、0.05% Tween20) を用いて2回洗浄し、1%/ BSA (和光純薬工業) /PBS-Tを200 mL添加して室温で1時間静置することによりブロッキングを行った。PBS-Tで2回洗浄後、検量線作成用のスタンダードと培養上清、血清、または胸水を添加し、室温で1時間インキュベーションした。PBS-Tで4回洗浄し、100 ng/mLに1% BSA/PBS-Tで希釈した検出抗体を100 mL添加し、室温で1時間インキュベーションした。PBS-Tで6回洗浄した後、TMB Soluble Reagent (ScyTek Laboratories) を100 mL添加して発色させ、さらにTMB Stop Buffer (ScyTek Laboratories) を100 mL添加し反応を停止した。最後に、Ensightプレートリーダー (PerkinElmer) を用いて450 nmの波長を測定した。
【0060】
検量線作成用のスタンダードには、SBC5細胞のCADM1v8/9安定発現株の培養上清より精製したCADM1v9 断片タンパク質を用いた。血清におけるCADM1v9断片を測定する場合においては、Normal human serum (Jackson ImmunoResearch Laboratories) の値を0として補正した。
【0061】
血清及び胸水の取得
ある患者における血液および胸水を研究材料とした。診断・治療のために必要と判断されて採血検査を行う際に、研究に用いる血液10 mLも併せて採取した。胸水穿刺検査を行う際には、臨床判断にて採取した胸水のうち10 mLを研究用として利用した。血液・胸水は遠心分離にかけ、細胞成分を除去し、血液の場合は血清を研究材料として用いた。
【0062】
抗CADM1v9抗体のエピトープの決定法
抗CADM1v9抗体F1222、F1315はあらかじめPeroxidase Labeling Kit-NH2 (同仁化学研究所) を用いてHRP標識を行い、ELISA法によりエピトープの絞り込みを行った。ペプチド合成は東レリサーチセンターに依頼した。ペプチドは10% DMSO/PBSに溶解させ、1 mg/mLに調製した。Nunc MaxiSorp 96-wellプレート (Thermo Fisher Scientific) へ10 mg/mLに炭酸バッファーで希釈したペプチドを100 mL添加し、4°Cで一晩静置することにより固相化した。PBS-Tを用いて2回洗浄し、1%/ BSA/PBS-Tを200 mL添加して室温で1時間静置することによりブロッキングを行った。PBS-Tで2回洗浄し、100 ng/mLに1% BSA/PBS-Tで希釈したHRP標識抗体を100 mL添加し、室温で1時間インキュベーションした。PBS-Tで4回洗浄した後、TMB Soluble Reagent (ScyTek Laboratories) を100 mL添加して発色させ、さらにTMB Stop Buffer (ScyTek Laboratories) を100 mL添加し反応を停止した。最後に、Ensightプレートリーダー(PerkinElmer) を用いて450 nmの波長を測定した。
【0063】
図1は、CADM1スプライスバリアントv8/9のmRNA及びタンパク質の構造を示す。(A) CADM1遺伝子は12個のエクソンから成り、脳に発現するv(-)、上皮に発現するv8、精巣及びSCLCに発現するv8/9の3つの主たるスプライスバリアントが存在する。CADM1v8/9にのみエクソン9 が含まれている。(B) CADM1v8/9に特異的なアミノ酸配列は細胞膜直上にあり、ADAM17による切断を受けて遊離する。この部位の周辺はスレオニン残基に富み、O型糖鎖による修飾を受ける。Ig-V及びIg-C2は免疫グロブリン様ループ構造を指す。
【0064】
<結果>
図2は、細胞培養上清におけるCADM1v9断片の検出結果を示す。SCLCその他の細胞の培養上清に分泌される全てのCADM1断片量 (A) 及びCADM1v9断片量 (B) をサンドイッチELISA法により測定した。捕捉抗体には抗CADM1マウスモノクローナル抗体 E9935を用いた。検出抗体には、抗CADM1抗体E9919及び抗CADM1v8/9抗体F1222をHRP標識したものを使用した。CADM1を発現しないSBC5細胞にCADM1v8 (上皮型) とCADM1v8/9 (SCLC・精巣型) を安定発現させた細胞をそれぞれ作製したところ、CADM1v8/9発現細胞において培養上清にCADM1v9断片の分泌が認められた。また、内在性にCADM1v8を発現するヒト胎児腎細胞由来の293FT及び成人T細胞白血病由来のATN-1の培養上清からはCADM1v9断片はほとんど検出されないが、SCLC細胞であるNCI-H69及びNCI-H446細胞の培養上清からはCADM1v9断片が検出された。したがって、CADM1v8/9を発現する細胞の培養上清にのみCADM1v9断片を検出したことから、CADM1v8/9は確かに切断を受けて断片が遊離すること、またCADM1v9断片を検出するサンドイッチELISAの特異性が高いことが示された。
【0065】
図3は、肺がん及び炎症性肺疾患患者血清におけるCADM1v9断片の検出結果を示す。上述した患者より採血した血液を遠心分離し、細胞成分を除いて得られた血清を用いてCADM1v8/9断片の検出を行った。小細胞肺がん (SCLC) 患者30名、非小細胞肺がん (NSCLC) 患者32名 (うち腺がん20名、扁平上皮がん12名)、炎症性肺疾患 (Inflammatory lung diseases) 患者18名について検討した結果、SCLC患者においてのみCADM1v9断片量が高い症例が認められた。閾値を3 ng/mLとすると、特異度92% (46/50) における感度は47% (14/30) であり、CADM1v9断片の腫瘍マーカーとしての有用性が示された。
【0066】
下記表は、SCLC患者血清におけるCADM1v9断片 (配列番号:27) の検出率を示す。閾値を3 ng/mLとすると、CADM1v8/9陽性の症例はSCLC全体で47% (14/30) であり、限局型 (病変が同側胸郭内、対側縦隔、対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており、悪性胸水及び心嚢水を有さないもの) では3/12 (25%)、進展型 (病変が同側胸郭内、対側縦隔、対側鎖骨上窩リンパ節までに限られないものか、悪性胸水又は心嚢水を有すもの) では10/13 (77%) であり、比較的早期の限局型SCLCにおいてもCADM1v9断片の検出が可能であることが示された。
【表1】
【0067】
図4は、SCLC患者血清におけるProGRPとCADM1v9断片との比較を示す。SCLC患者血清30例におけるProGRPをHuman Pro-Gastrin-releasing Peptide DuoSet Kit (R&D Systems) を用いて測定し、CADM1v9断片と比較を行った。ProGRPは閾値を46 pg/mLとすると14例 (47%) で陽性であり、CADM1v9断片は閾値を3 ng/mLとすると同様に14例 (47%) で陽性であった。ProGRP陽性かつCADM1v8/9陰性、またProGRP陰性かつCADM1v8/9陽性の症例がそれぞれ5例 (17%) ずつ存在したことから、ProGRPとCADM1v8/9断片を腫瘍マーカーとして併用することにより、検出率の向上が見込まれる。なお、図中ではProGRPが300 pg/mL以上、CADM1v8/9断片が20 ng/mL以上の値を省略して表示している。
【0068】
図5は、SCLCの治療効果とCADM1v9断片量との相関を示す。治療の前後に複数回採血を行ったSCLC症例に関し、治療効果とCADM1v8/9断片量との相関について検討した。(A) Partial Response (PR; 腫瘍の大きさが30%以上減少した状態) と判定された6症例のうち4症例においてはCADM1v9断片量の著名な低下を認め、残り2症例においても微減であった。 (B) Progressive Disease (PD; 腫瘍の大きさが20%以上かつ5 mm以上増加、あるいは新病変が出現した状態) と判定された2症例の両方においてCADM1v9断片量の増加を認めた。 (C) 再発を認めた1症例に関して、治療によりPRとなった場合にはCADM1v9断片量が減少し、再発時にはCADM1v9断片量の増加が認められた。以上のことから、腫瘍の大きさの変化と血清中のCADM1v9断片量は相関し、CADM1v9断片は病勢を反映するマーカーとして有用であることが示された。
【0069】
図6は、CADM1のエクソン8及び9のコードするアミノ酸配列とプロテアーゼによる切断部位を示す。CADM1のスプライスバリアントv8 及びv8/9のコードするアミノ酸の一部を図示した。CADM1v8はADAM10、CADM1v8/9はADAM17によってそれぞれ切断される (Nagara et al, Biochem Biophys Res Commun, 2012; Shirakabe et al, Sci Rep, 2017)。
【0070】
図7は、SCLC患者の胸水におけるCADM1v9断片の検出結果を示す。SCLC患者9名より採取した胸水におけるCADM1v9断片を測定したところ、血清と同様にCADM1v9断片量の高い症例が認められた。血液だけでなく胸水を用いてもSCLCに由来するCADM1v9断片を検出することができ、胸水を用いた診断が可能であることを示している。
【0071】
図8は、CADM1v9断片の精製タンパク質の取得結果を示す。SBC5細胞のCADM1v8/9安定発現株の培養上清より、抗CADM1抗体を用いてCADM1v9断片を精製した。精製タンパク質の収量及び純度はSDS-PAGEの後に銀染色を行うことにより測定した。矢頭で示す位置 (約80 kDa) にCADM1v9断片の精製タンパク質が認められた。BSAは濃度測定の標準タンパク質として用いた。
【0072】
図9は、抗CADM1v9抗体のエピトープの絞り込みの結果を示す。抗CADM1v9抗体のエピトープを絞り込むために、免疫原として用いた全長13アミノ酸のペプチド(配列番号:2)と、これを短く区切ったペプチド(配列番号:28~30)を合成し、ELISA法を用いて抗CADM1v9抗体との反応性を検討した。その結果、F1222及びF1315抗体はともに全長のペプチドに反応したが、7アミノ酸ずつに区切ったペプチドとは反応せず、7アミノ酸より長いエピトープを有することが示された。
【0073】
図10~12は、それぞれ実施例で作製して用いた抗体について、F1222抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列及び塩基配列、E9919抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列、E9935抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列、を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0074】
配列番号:1は、CADM1のエクソン9のアミノ酸配列を表す。
配列番号:2は、F1222抗体及びF1315抗体の作製に用いた抗原のアミノ酸配列を表す。
配列番号:3は、F1222抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列を表す。
配列番号:4は、F1222抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列を表す。
配列番号:5は、F1222抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列を表す。
配列番号:6は、F1222抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列を表す。
配列番号:7は、F1222抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列を表す。
配列番号:8は、F1222抗体の軽鎖CDR3のアミノ酸配列を表す。
配列番号:9は、F1222抗体の重鎖に含まれるアミノ酸配列を表す。
配列番号:10は、F1222抗体の軽鎖に含まれるアミノ酸配列を表す。
配列番号:11は、E9919抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列を表す。
配列番号:12は、E9919抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列を表す。
配列番号:13は、E9919抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列を表す。
配列番号:14は、E9919抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列を表す。
配列番号:15は、E9919抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列を表す。
配列番号:16は、E9919抗体の軽鎖CDR3のアミノ酸配列を表す。
配列番号:17は、E9919抗体の重鎖に含まれるアミノ酸配列を表す。
配列番号:18は、E9919抗体の軽鎖に含まれるアミノ酸配列を表す。
配列番号:19は、E9935抗体の重鎖CDR1のアミノ酸配列を表す。
配列番号:20は、E9935抗体の重鎖CDR2のアミノ酸配列を表す。
配列番号:21は、E9935抗体の重鎖CDR3のアミノ酸配列を表す。
配列番号:22は、E9935抗体の軽鎖CDR1のアミノ酸配列を表す。
配列番号:23は、E9935抗体の軽鎖CDR2のアミノ酸配列を表す。
配列番号:24は、E9935抗体の軽鎖CDR3のアミノ酸配列を表す。
配列番号:25は、E9935抗体の重鎖に含まれるアミノ酸配列を表す。
配列番号:26は、E9935抗体の軽鎖に含まれるアミノ酸配列を表す。
配列番号:27は、ヒトCADM1v9断片のアミノ酸配列を表す。
配列番号:28は、7アミノ酸のペプチドのアミノ酸配列を表す。
配列番号:29は、7アミノ酸のペプチドのアミノ酸配列を表す。
配列番号:30は、7アミノ酸のペプチドのアミノ酸配列を表す。
配列番号:31は、F1222抗体の重鎖CDR1の塩基配列を表す。
配列番号:32は、F1222抗体の重鎖CDR2の塩基配列を表す。
配列番号:33は、F1222抗体の重鎖CDR3の塩基配列を表す。
配列番号:34は、F1222抗体の軽鎖CDR1の塩基酸配列を表す。
配列番号:35は、F1222抗体の軽鎖CDR2の塩基配列を表す。
配列番号:36は、F1222抗体の軽鎖CDR3の塩基配列を表す。
配列番号:37は、F1222抗体の重鎖に含まれる塩基配列を表す。
配列番号:38は、F1222抗体の軽鎖に含まれる塩基配列を表す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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