(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】ネイティブケミカルライゲーション法による高分子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/06 20060101AFI20230221BHJP
C07K 1/02 20060101ALI20230221BHJP
【FI】
C07K1/06 ZNA
C07K1/02
(21)【出願番号】P 2019536792
(86)(22)【出願日】2018-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2018030462
(87)【国際公開番号】W WO2019035478
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2021-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2017157751
(32)【優先日】2017-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100207907
【氏名又は名称】赤羽 桃子
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晃充
(72)【発明者】
【氏名】林 剛介
(72)【発明者】
【氏名】加茂 直己
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/110536(WO,A1)
【文献】Chem. Commun.,2012年09月13日,Vol.48, No.95,p.11601-11622
【文献】Angew. Chem. Int. Ed.,2015年05月04日,Vol.54, No.19,p.5713-5717
【文献】Chem. Commun.,2013年10月18日,Vol.49, No.81,p.9254-9256
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド結合を有する高分子の製造方法であって、
(A)未保護のシステイン残基を有する高分子断片1:
【化1】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表す。)
と、保護されたシステイン残基を有し、かつ、活性化された任意のアミノ酸残基を有する高分子断片2:
【化2】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、AAは任意のアミノ酸残基を表し、Prはアミノ基の保護基を表し、Xはカルボキシル基の活性化基を表す。)
とを、ネイティブケミカルライゲーション法により連結させて保護されたシステイン残基を有する高分子断片1-2:
【化3】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、AAは任意のアミノ酸残基を表し、Prはアミノ基の保護基を表す。)
を得る工程、
(B)前記工程(A)の後に、脱保護剤を添加して、未保護のシステイン残基を有する高分子断片1-2:
【化4】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、AAは任意のアミノ酸残基を表す。)
を得る工程を含んでなり、工程(A)および(B)を脱保護剤の不活性化剤が存在する反応系で実施する、製造方法
であって、
前記脱保護剤が、リン系配位子、窒素系配位子、酸素系配位子または硫黄系配位子が配位結合した金属錯体であり、
前記保護基が、リン系配位子、窒素系配位子、酸素系配位子または硫黄系配位子が配位結合した金属錯体により脱保護される基であり、
前記不活性化剤が、チオール系化合物である、製造方法。
【請求項2】
工程(B)の後に、(C)脱保護剤を不活性化させる工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
不活性化剤を脱保護剤の添加量を上回る量で存在させる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(A)、工程(B)および工程(C)をさらに1回以上繰り返す、請求項2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(C)の後に、得られた高分子断片を精製する工程を実施せずに、次の工程(A)、工程(B)および工程(C)を実施する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(A)、工程(B)および工程(C)を4回または5回繰り返して実施した場合に、ペプチド結合を有する高分子の収率が25~35%である、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
ペプチド結合を有する高分子が、ペプチドであり、
高分子断片1が、アミノ基が未保護のシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1であり、
高分子断片2が、アミノ基が保護基により保護されたシステイン残基をN末端に有し、かつ、カルボキシル基が活性化された任意のアミノ酸残基をC末端に有するペプチド断片2であり、
保護されたシステイン残基を有する高分子断片1-2が、アミノ基が保護基により保護されたシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1-2であり、
未保護のシステイン残基を有する高分子断片1-2が、アミノ基が未保護のシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1-2である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
金属錯体が、パラジウム錯体、プラチナ錯体、ニッケル錯体、ロジウム錯体、ルテニウム錯体、銅錯体および鉄錯体からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
反応系において、工程(A)で得られた高分子断片に対する脱保護剤の1回当たりの添加量の比率(モル比)が、1~30である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本願は、先行する日本国出願である特願2017-157751(出願日:2017年8月18日)の優先権の利益を享受するものであり、その開示内容全体は引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、ネイティブケミカルライゲーション法による高分子の製造方法に関し、さらに詳細には、ネイティブケミカルライゲーション法によるペプチドおよびタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ペプチドを合成する手法としては固相法と液相法が知られている。固相法ではC末端からN末端に向かって1アミノ酸ずつ鎖長を延長するため、固相法により合成されるペプチド鎖は100アミノ酸程度が上限である。このため長鎖のペプチドを合成する場合には、生合成やペプチド鎖を連結する手法が用いられている。
【0004】
ペプチド鎖連結手法としては、これまでにネイティブケミカルライゲーション法(Native Chemical Ligation、NCL法)が広く用いられている。NCL法は、C末端にαカルボキシチオエステル部分を有するようにしたペプチドと、N末端にシステイン残基を有するペプチドとの化学選択反応であり、無保護のペプチド断片を用いて緩衝溶液中で混合するのみで、ペプチド結合を介して二つのペプチド断片を連結することができる。このためNCL法は、複数のペプチド断片を連結させて人工タンパク質を創製する手法として利用されている。
【0005】
このようにNCL法によれば、液相で比較的長鎖のタンパク質を調製することができるが、NCL法では、ペプチド断片を連結させるたびに連結したペプチド断片を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法などの精製手段により精製する必要があった。このためNCL法により比較的長鎖のタンパク質を調製する場合には、ペプチド断片の連結工程が多ければ多いほど、時間がかかり、しかも収率が低くなるという課題があった。
【0006】
これまでに複数のペプチド断片をワンポットで連結させる手法が報告されている(非特許文献1)。しかしこの手法は、脱保護工程を強塩基条件下(pH11以上)で実施するため、ペプチド鎖が分解されたりすることなど課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Tang S. et al., Angew. Chem. Int. Ed. 54:5713-5717(2015)
【発明の概要】
【0008】
本発明は、ペプチド結合を有する高分子(特に、ペプチドおよびタンパク質)を高収率かつ短時間で製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明者らは、今般、脱保護剤として使用可能なパラジウム錯体をNCL法の促進剤である4-メルカプトフェニル酢酸(MPAA)によって不活性化できること、NCL法によるペプチド断片の連結反応において、脱保護剤であるパラジウム錯体の添加とパラジウム錯体の不活性化をワンポットで連続的に実施できること、5つのペプチド断片をNCL法により順次連結させる際にパラジウム錯体の添加とMPAAによる不活性化を連続的に行うことで、約30%の収率で1日以内に目的ペプチドを製造できることを見出した。本発明者らはまた、本発明が100アミノ酸残基を超えるタンパク質の合成にも適用可能であることを確認した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0010】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]ペプチド結合を有する高分子の製造方法であって、
(A)未保護のシステイン残基を有する高分子断片1:
【化1】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表す。)
と、保護されたシステイン残基を有し、かつ、活性化された任意のアミノ酸残基を有する高分子断片2:
【化2】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、AAは任意のアミノ酸残基を表し、Prはアミノ基の保護基を表し、Xはカルボキシル基の活性化基を表す。)
とを、NCL法により連結させて保護されたシステイン残基を有する高分子断片1-2:
【化3】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、AAは任意のアミノ酸残基を表し、Prはアミノ基の保護基を表す。)
を得る工程、
(B)前記工程(A)の後に、脱保護剤を添加して、未保護のシステイン残基を有する高分子断片1-2:
【化4】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、AAは任意のアミノ酸残基を表す。)
を得る工程を含んでなり、工程(A)および(B)を脱保護剤の不活性化剤が存在する反応系で実施する、製造方法。
[2]工程(B)の後に、(C)脱保護剤を不活性化させる工程をさらに含む、上記[1]に記載の製造方法。
[3]不活性化剤を脱保護剤の添加量を上回る量で存在させる、上記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]工程(A)、工程(B)および工程(C)をさらに1回以上繰り返す、上記[2]または[3]に記載の製造方法。
[5]工程(C)の後に、得られた高分子断片を精製する工程を実施せずに、次の工程(A)、工程(B)および工程(C)を実施する、上記[4]に記載の製造方法。
[6]工程(A)、工程(B)および工程(C)を4回または5回繰り返して実施した場合に、ペプチド結合を有する高分子の収率が25~35%である、上記[4]または[5]に記載の製造方法。
[7]ペプチド結合を有する高分子が、ペプチドであり、
高分子断片1が、アミノ基が未保護のシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1であり、
高分子断片2が、アミノ基が保護基により保護されたシステイン残基をN末端に有し、かつ、カルボキシル基が活性化された任意のアミノ酸残基をC末端に有するペプチド断片2であり、
保護されたシステイン残基を有する高分子断片1-2が、アミノ基が保護基により保護されたシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1-2であり、
未保護のシステイン残基を有する高分子断片1-2が、アミノ基が未保護のシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1-2である、
上記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]脱保護剤が、リン系配位子、窒素系配位子、酸素系配位子または硫黄系配位子が配位結合した金属錯体である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]保護基が、上記[8]に記載の脱保護剤により脱保護される基である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]不活性化剤が、チオール系化合物である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
[11]反応系において、工程(A)で得られた高分子断片に対する脱保護剤の1回当たりの添加量の比率(モル比)が、1~30である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
【0011】
本発明の製造方法によれば、NCL法において、複数のペプチド断片を連続してワンポットで連結させることができ、しかも目的産物を高い収率で得ることができる。本発明の製造方法はまた、反応系を極端なpH値に調整せずに反応を実施することができることから、副反応産物の生成が低い点でも有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明によりn個の高分子断片を連結させてn-1個のペプチド結合を有する高分子を製造する手順の模式図である。
【
図2】
図2は、本発明によりn個のペプチド断片を連結させてペプチドを製造する手順の模式図である。
【発明の具体的説明】
【0013】
本発明の製造方法は、2種またはそれ以上の高分子断片を連結させてペプチド結合を有する高分子、すなわち、高分子断片がペプチド結合で連結されてなる高分子を製造する方法である。ペプチド結合を有する高分子としては、例えば、ペプチド、ペプチド結合を有する炭化水素分子、ペプチド結合を有するポリヌクレオチド分子(例えば、DNA、RNA)、ペプチド結合を有する樹脂が挙げられるが、典型的には、ペプチドである。なお、本発明においてペプチドとは、アミノ酸がペプチド結合により結合したものを意味し、ポリペプチドおよびタンパク質を含む意味で用いられるものとする。
【0014】
高分子断片1および高分子断片2は、最終生産物であるペプチド結合を有する高分子を構成する高分子断片であり、かつ、システイン残基および場合によっては任意のアミノ酸残基を有する限り特に限定されるものではない。高分子断片としては、所定のアミノ酸残基を有するペプチド断片、炭化水素断片、ポリヌクレオチド断片、樹脂断片が挙げられるが、典型的には、ペプチド断片である。
【0015】
工程(A)の連結工程を効率的に実施するためには、高分子断片1および高分子断片2の分子量並びに繰り返し工程で新たに添加される高分子断片の分子量(数平均分子量)は、1000~10000Daとすることができる。また、最終産物として得られる高分子の分子量(数平均分子量)は、4000~50000Da(好ましくは、5000~40000Da)とすることができる。さらに、ペプチド断片を連結させてペプチドを製造する場合、工程(A)の連結工程を効率的に実施するためには、ペプチド断片1およびペプチド断片2のアミノ酸数並びに繰り返し工程で新たに添加されるペプチド断片のアミノ酸数は、5~100個(好ましくは20~60個)とすることができる。また、最終産物として得られるペプチドのアミノ酸数は、20~700個、25~500個または25~400個とすることができる。
【0016】
工程(A)は、2種類の高分子断片を連結させる工程(連結工程)である。工程(A)はネイティブケミカルライゲーション法(NCL法)に基づいて実施するため、連結させる2種類の高分子断片のうち一方は、システイン残基(但し、そのC末端側(カルボキシル基)が高分子断片に結合し、そのN末端側(アミノ基)が未保護である)を有するもの(高分子断片1)である。また他方は、保護基により保護されたシステイン残基(但し、そのC末端側(カルボキシル基)が高分子断片に結合し、そのN末端側(アミノ基)が保護基により保護されている)と、任意のアミノ酸残基(但し、そのN末端側(アミノ基)が高分子断片に結合し、そのC末端側(カルボキシル基)が活性化基により活性化されている)とを有するもの(高分子断片2)である。高分子断片へのシステイン残基および任意のアミノ酸残基の導入方法並びに保護基および活性化基の導入方法は公知であり、当業者であれば市販の試薬および装置や適切な方法を選択して実施することができる。
【0017】
NCL法により高分子断片同士を連結させると、高分子断片1のシステイン残基(N末端)と、高分子断片2の活性化された任意のアミノ酸残基(C末端)とがペプチド結合した高分子断片1-2が得られる。この高分子断片1-2は、高分子断片2由来の保護されたシステイン残基を有しており、後述の通り、工程(B)によりこの保護基を脱保護することができる。
【0018】
高分子断片がペプチド断片である場合には、N末端にシステイン残基を有するペプチド断片1と、アミノ基が保護基により保護されたシステイン残基をN末端に有し、かつ、カルボキシル基が活性化基により活性化された任意のアミノ酸残基をC末端に有するペプチド断片2とをNCL法により連結させることができ、両者がペプチド結合したペプチド断片1-2が得られる。このペプチド断片1-2は、ペプチド断片2由来の保護されたシステイン残基をN末端に有しており、後述の通り、工程(B)によりこの保護基を脱保護することができる。ペプチド断片の合成方法並びにペプチド断片への保護基および活性化基の導入方法は公知であり、当業者であれば市販の試薬および装置や適切な方法を選択して実施することができる。
【0019】
高分子断片2およびペプチド断片2のシステイン残基のアミノ基の保護基Prは、工程(B)で使用する脱保護剤により脱保護される限り特に限定されるものではないが、例えば、アリルオキシカルボニル基(以下、単に「Aloc基」ということがある)、トリアルキルシリルエチルオキシカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、プロパルギルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基、イソプロピルアリルオキシカルボニル基およびトリクロロエトキシカルボニル基が挙げられ、好ましくはAloc基である。
【0020】
高分子断片2およびペプチド断片2の任意のアミノ酸残基のカルボキシル基の活性化基Xは、NCL法によるペプチド結合の形成反応が進行する限り特に限定されるものではないが、例えば、チオエステル基(-SRa)、N-アシル-ベンズイミダゾリノン基(Nbz基)が挙げられ、好ましくはチオエステル基、より好ましくはアルキルチオエステル基である。ここで、チオエステル基の基Raは、NCL法におけるチオエステル交換反応を阻害せず、カルボニル炭素上での置換反応において脱離基となる基であれば特に限定されない。Raは、例えば、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のアリール基および置換または非置換のアルキル基から選択することができ、好ましくは置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のC6-10アリール基(より好ましくは置換または非置換のフェニル基またはナフチル基)および置換または非置換のC1-8アルキル基(より好ましくはC1-6アルキル基)から選択することができる。
【0021】
工程(A)における高分子断片1と高分子断片2との連結並びにペプチド断片1とペプチド断片2との連結は、NCL法によるペプチドの連結反応に基づいて実施することができる。NCL法によるペプチドの連結反応は、チオエステル交換反応により進行するが、反応を促進するためにチオール系化合物(チオール触媒)を添加してもよい。このようなチオール系触媒としては、チオフェニル/ベンジルメルカプタン混合物、2-メルカプトエタンスルホナート(MESNa)、4-メルカプトフェニル酢酸(MPAA)、ヒドロキシチオフェノールが挙げられる。チオール系触媒以外には、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)などの還元剤をNCL法の反応促進に用いてもよい。
【0022】
工程(B)は、工程(A)において得られた高分子断片1-2およびペプチド断片1-2上のシステイン残基のアミノ基の保護基を脱保護する工程(脱保護工程)である。脱保護された高分子断片1-2およびペプチド断片1-2は、次回以降の連結工程において、アミノ基が未保護のシステインを有する高分子断片およびN末端に未保護のシステイン残基を有するペプチド断片として使用することができる。
【0023】
脱保護は脱保護剤の添加により実施することができる。本発明において使用できる脱保護剤としては、リン系配位子、窒素系配位子、酸素系配位子または硫黄系配位子が配位結合した金属錯体が挙げられる。このような金属錯体としては、パラジウム錯体、プラチナ錯体、ニッケル錯体、ロジウム錯体、ルテニウム錯体、銅錯体および鉄錯体が挙げられる。また、リン系配位子としては、トリフェニルホスフィントリホスホン酸(TPPTS)、トリス(ヒドロキシメチル)ホスフィン(THMP)、トリフェニルホスフィンモノ(3-スルホン酸ナトリウム)(TPPMS)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)が挙げられる。リン系配位子が配位結合した金属錯体の好ましい例としては、Pd/TPPTS、Pd/THMP、Pd/TPPMS、Pd/TCEPが挙げられる。
【0024】
システイン保護基の脱保護に使用可能な脱保護剤を例示すると以下の通りである。
アリルオキシカルボニル基:Pd/TPPTS
トリアルキルシリルエチルオキシカルボニル基:HF
アルキルオキシカルボニル基:Pd/C/水素
ベンジルオキシカルボニル基:Pd/TPPTS
プロパルギルオキシカルボニル基:トリフルオロメタンスルホン酸
アダマンチルオキシカルボニル基:Pd/ジベンジリデンアセトン(dba)
イソプロピルアリルオキシカルボニル基:Zn/H+
トリクロロエトキシカルボニル基:Zn/酢酸
【0025】
高分子断片1-2およびペプチド断片1-2に対する脱保護剤1回添加量の比率(モル比)は、脱保護効果が得られる限り特に限定されるものではないが、例えば、1~30とすることができ、好ましくは1~10、より好ましくは1~2である。
【0026】
本発明において、工程(A)および(B)並びに工程(C)は、脱保護剤の不活性化剤が存在する反応系で実施することができる。工程(B)で添加された脱保護剤は脱保護作用が完了した後、その場で不活性化することができる。このため、本発明においては、脱保護工程の後に、脱保護された高分子断片1-2またはペプチド断片1-2を精製する手順や、脱保護剤を分離する手順が不要になる。
【0027】
本発明に使用できる不活性化剤は、反応系において脱保護剤を不活性化状態にできるものであれば特に限定されないが、脱保護剤が金属錯体である場合には、金属錯体の配位子として機能しうる物質を用いることができる。金属錯体の配位子として機能しうる物質としては、例えば、チオール系化合物が挙げられ、チオール系化合物としては、アルキルチオール系化合物(例えば、2-メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(MESNa))、芳香族チオール系化合物(例えば、4-メルカプトフェニル酢酸(MPAA)、ヒドロキシチオフェノール)が挙げられる。なお、本発明においては高分子断片やペプチド断片の連結をNCL法により実施することから、NCL法による反応を阻害しないか、あるいは、NCL法による反応をむしろ促進する物質を不活性化剤として用いることが望ましい。このような物質としては、チオール系化合物が挙げられ、好ましくはMPAA、ヒドロキシチオフェノールである。
【0028】
工程(B)で脱保護剤を添加することによって高分子断片1-2およびペプチド断片1-2が脱保護されるが、その後、添加した脱保護剤を不活性化させる工程(工程(C))を実施することができる。工程(C)では、例えば、反応系を撹拌することにより、添加した脱保護剤を、反応系に存在する不活性化剤により不活性化することができる。本発明においては、脱保護剤を添加した後に反応系を撹拌して高分子断片1-2およびペプチド断片1-2を脱保護し、撹拌を継続することによって添加した脱保護剤を不活性化させてもよい。すなわち、本発明においては、高分子断片1-2およびペプチド断片1-2の脱保護と、脱保護剤の不活性化を連続的に実施することができる。ここで、「撹拌」とは、反応溶液を混合により溶媒および溶質を均一化させるあらゆる手段を含む意味で用いられる。
【0029】
不活性化剤は、反応系において脱保護剤の添加量を上回る量で存在させることができる。後述のように工程(A)、工程(B)および工程(C)をさらに1回以上繰り返す場合には、反応系の不活性化剤の量は、脱保護剤の添加量の合計量を上回る量とすることができる。脱保護剤1回添加量に対する反応系中の不活性化剤の比率(モル比)は、2~500とすることができ、好ましくは5~100、より好ましくは10~50とすることができる。
【0030】
本発明においては、工程(A)、工程(B)および工程(C)をさらに1回以上繰り返して3個以上の高分子断片またはペプチド断片を連結させることができる。以下、
図1および2に従って、工程(A)、工程(B)および工程(C)をn-1回繰り返してn個の高分子断片またはペプチド断片を連結した高分子を製造する態様について説明する。
【0031】
本発明においては、1回目の工程(A)、工程(B)および工程(C)(第1サイクル)の後、反応系においては脱保護剤が不活性化されている。従って、工程(C)の後に高分子断片1-2またはペプチド断片1-2を精製する工程を実施せずに(すなわち、ワンポットで連続的に)、次の工程(A)、工程(B)および工程(C)(第2サイクル)を実施することができる。第2サイクル以降についても同様にして実施することができる。
【0032】
図1の1回目の工程(A)、工程(B)および工程(C)により得られた高分子断片1-2は、システイン残基(但し、C末端側が高分子断片に結合し、N末端側が未保護である)を有するものである。第2サイクルでは、高分子断片1-2と、保護基により保護されたシステイン残基(但し、C末端側が高分子断片に結合し、N末端側が保護基により保護されている)と、任意のアミノ酸残基(但し、N末端側が高分子断片に結合し、C末端側が活性化基により活性化されている)とを有する高分子断片3とを、工程(A)に従ってNCL法により連結させて、保護基により保護されたアミノ基を有する高分子断片1-2-3を得ることができる。この高分子断片1-2-3はアミノ基が保護基により保護されたシステイン残基を有していることから、工程(B)に従って脱保護剤を添加することによって、高分子断片1-2-3上のシステイン残基のアミノ基の保護基を脱保護し、アミノ基が未保護のシステインを有する高分子断片1-2-3を得ることができる。そして、反応系に存在する脱保護剤は工程(C)に従って不活性化することができる。このようにして2回目の工程(A)、工程(B)および工程(C)(第2サイクル)を完了させることができる。3回目の工程(A)、工程(B)および工程(C)(第3サイクル)並びにそれ以降のサイクルは、上記の第2サイクルの記載に従って実施することができる。
【0033】
また、
図2の1回目の工程(A)、工程(B)および工程(C)により得られたペプチド断片1-2は、N末端に未保護のシステイン残基を有するものである。第2サイクルでは、ペプチド断片1-2と、アミノ基が保護されたシステイン残基をN末端に有し、かつ、カルボキシル基が活性化された任意のアミノ酸残基をC末端に有するペプチド断片3とを、工程(A)に従ってNCL法により連結させて、アミノ基が保護基により保護されたシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1-2-3を得ることができる。このペプチド断片1-2-3は、アミノ基が保護基により保護されたシステイン残基をN末端に有していることから、工程(B)に従って脱保護剤を添加することによって、ペプチド断片1-2-3上のシステイン残基のアミノ基の保護基を脱保護し、N末端に未保護のシステインを有する高分子断片1-2-3を得ることができる。そして、反応系に存在する脱保護剤は工程(C)に従って不活性化することができる。このようにして2回目の工程(A)、工程(B)および工程(C)(第2サイクル)を完了させることができる。3回目の工程(A)、工程(B)および工程(C)(第3サイクル)並びにそれ以降のサイクルは、上記の第2サイクルの記載に従って実施することができる。
【0034】
本発明においては、連結する高分子断片およびペプチド断片の個数に応じて、工程(A)、工程(B)および工程(C)を繰り返すことができる。すなわち、本発明において連結する高分子断片およびペプチド断片がn個(nは整数である)である場合、工程(A)、工程(B)および工程(C)はn-1回実施することとなる。
【0035】
但し、本発明の高分子の製造方法の最後の第n-1サイクルにおいては、高分子断片nは、任意のアミノ酸残基(但し、N末端側が高分子断片に結合し、C末端側が活性化基により活性化されている)を有していればよく、システイン残基を有していないものを使用することができる。このような断片を最終サイクルに用いた場合には、第n-1サイクルにおいて工程(B)および工程(C)を省略することができる。もちろん、システイン残基(但し、C末端側が高分子断片に結合し、N末端側が保護基により保護されている)を有する高分子断片nを第n-1サイクルで用いることもできるが、その場合には、工程(B)および工程(C)を実施できることはいうまでもない。
【0036】
また、本発明のペプチドの製造方法の最後の第n-1サイクルにおいては、ペプチド断片nは、C末端のカルボキシル基が活性化基により活性化されていればよく、システイン残基をN末端に有していないものを使用することができる。このような断片を最終サイクルに用いた場合には、第n-1サイクルにおいて工程(B)および工程(C)を省略することができる。もちろん、保護されたシステイン残基をN末端に有するペプチド断片nを第n-1サイクルで用いることもできるが、その場合には、工程(B)および工程(C)を実施できることはいうまでもない。
【0037】
本発明において連結できる高分子断片およびペプチド断片の個数nは、NCL法による連結工程が進行する限り特に制限はないが、例えば、nの下限は2または3とすることができ、nの上限は15、14、13、12、11、10、9、8、7、6または5とすることができる。すなわち、本発明における工程(A)、工程(B)および工程(C)の実施回数は、例えば、下限を1回または2回とすることができ、上限を14、13、12、11、10、9、8、7、6、5または4回とすることができる。
【0038】
本発明においては、最終サイクル(第n-1サイクル)の工程完了後に、得られた最終産物を精製する精製工程を実施することができる。最終産物の精製は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法などの精製手段により実施することができる。
【0039】
本発明においては、第1サイクルを実施した後、得られた中間産物(すなわち、高分子断片およびペプチド断片)を精製せずに、第2サイクル以降の工程を実施することができる。第2サイクル以降も同様に、工程(A)、工程(B)および工程(C)を実施した後、得られた中間産物を精製せずに、次のサイクルを実施することができる。中間産物の精製を行うと必然的に収率が低下するとともに、最終産物を得るまでに長期間を要することになるが、本発明では中間産物の精製を行わずに、ワンポットで連続的に高分子断片およびペプチド断片の連結を行うことができる。すなわち、本発明によれば、精製工程は、すべての高分子断片またはペプチド断片の連結の後に1回実施すればよい。従って、本発明によれば、結果として高収率かつ短時間で最終産物を製造することができる。例えば、35~45アミノ酸のペプチドを本発明により4回の連結工程(4サイクル)で製造する場合には、最終産物のペプチドを収率25~35%で1日以内に得ることができる。
【0040】
本発明においては、ペプチド合成化学(特に、NCL法によるペプチド合成方法)で使用される一般的な方法を特に制限なく採用することができる。例えば、本発明においては、工程(A)、工程(B)および工程(C)の後、あるいは、工程(A)、工程(B)および工程(C)の繰り返し工程の後に、得られた産物を脱硫処理に付すことができる。脱硫処理によって、得られた産物のシステイン残基をアラニン残基に転換することができる。例えば、ペプチド結合を有する高分子がペプチドである場合には、目的とする最終産物のアミノ酸配列を考慮して、適宜脱硫処理を施すことができる。また、脱硫処理にあたっては、アラニン残基への転換を望まないシステイン残基をアセトアミドメチル基(Acm基)等の保護基によりあらかじめ保護しておき、脱硫処理後に該保護基を脱保護することにより、所定の位置にシステイン残基を有するペプチドを得ることができる。
【0041】
本発明はまた、ペプチドの液相合成法に適用されるものである。ここで、「ペプチドの液相合成法」とは、固相合成法とは区別されることを意味し、全ての試薬が溶媒に溶解している場合のほか、試薬の一部または全部が溶媒に溶解せず、懸濁、分散等しているいわゆる不均一反応も本発明に含まれるものとする。
【0042】
本発明の好ましい態様においては、ペプチド結合を有する高分子は、ペプチドである。この場合、
・高分子断片1は、N末端に未保護のシステイン残基を有するペプチド断片であり、
・高分子断片2は、アミノ基が保護されたシステイン残基をN末端に有し、かつ、カルボキシル基が活性化された任意のアミノ酸残基をC末端に有するペプチド断片であり、
・保護されたシステイン残基を有する高分子断片1-2は、アミノ基が保護基により保護されたシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1-2であり、
・未保護のシステイン残基を有する高分子断片1-2は、アミノ基が未保護のシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1-2である。
【0043】
すなわち、本発明の好ましい態様によれば、ペプチドの製造方法であって、
(A)N末端に未保護のシステイン残基を有するペプチド断片1:
【化5】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、Cysはペプチド断片1の一部である。)
と、アミノ基が保護されたシステイン残基をN末端に有し、かつ、カルボキシル基が活性化された任意のアミノ酸残基をC末端に有するペプチド断片2:
【化6】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、Cysはペプチド断片2の一部であり、Prはアミノ基の保護基を表し、Xはカルボキシル基の活性化基を表す。)
とを、NCL法により連結させて、アミノ基が保護基により保護されたシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1-2:
【化7】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、Cysはペプチド断片1-2の一部であり、Prはアミノ基の保護基を表す。)
を得る工程、
(B)前記工程(A)の後に、脱保護剤を添加して、アミノ基が未保護のシステイン残基をN末端に有するペプチド断片1-2:
【化8】
(上記式中、Cysはシステイン残基を表し、Cysはペプチド断片1-2の一部である。)
を得る工程を含んでなり、工程(A)および(B)を脱保護剤の不活性化剤が存在する反応系で実施する、製造方法が提供される。
【0044】
本発明のペプチドの製造方法は、本発明の高分子の製造方法についての記載に従って実施することができる。なお、本明細書および図面においてペプチドおよびペプチド断片の化学式および模式図は、特に断りがない限り、向かって左側がN末端であり、右側がC末端である。
【実施例】
【0045】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0046】
例1:4-メルカプトフェニル酢酸によるPd/TPPTSの不活性化
ワンポットにおけるペプチド連結法を確立するため、Aloc基の脱保護剤として機能するパラジウム/トリフェニルホスフィン(Pd/TPPTS)を不活性化する方法について検討した。
【0047】
(1)NCL緩衝溶液におけるPd/TPPTS活性の検討
2mLチューブにおいてNCL緩衝溶液(6M 塩酸グアニジン、0.2M NaH2PO4、100mM 4-メルカプトフェニル酢酸(MPAA)、40mM トリス(2‐カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、3mM MgCl2・6H2O、pH7.0)200μLに、N末端がAloc基で保護されたペプチドを2mMとなるように溶解した。次いで、6N 塩酸で反応溶液のpHを6.0に低下させ、アルゴンガスでバブリングして酸素を脱気し、Pd/TPPTS(4mM)を添加し、反応溶液を室温で2時間攪拌して、Aloc基の脱保護反応を行った。
【0048】
Pd/TPPTSを添加してから3分後、1時間後および2時間後における反応溶液中のAloc基が脱保護されたペプチドをRP-HPLCにより分析したところ、それぞれの変換収率(原料ペプチドの消費効率に基づく値、以下同様)(conversion yield)は26%、48%および48%であった。この結果は、Aloc基の脱保護反応がPd/TPPTS添加後直ちに進行し、Pd/TPPTS添加から1~2時間後においては脱保護反応は進行していないことを示している。これは、Pd/TPPTSを添加後、反応溶液の撹拌を継続することにより、Pdの配位子であるTPPTSがMPAAによって置き換えられ、Pdが不活性化されたためと考えられた。なお、実施例を通してRP-HPLCは以下の条件で実施した。
【0049】
<RP-HPLC>
カラム:AR-II(ナカライテスク社製)
カラム温度:室温
流速:1.0mL/分
試料導入量:20μL
溶離液:水、アセトニトリル
グラジエント:5~40%(35分間)
検出器:PDA検出器
【0050】
(2)Pd/TPPTSの不活性化条件の検討
MPAAによるPd/TPPTSの不活性化の条件を検討した。具体的には、0.6mLチューブにおいてNCL緩衝溶液(6M 塩酸グアニジン、0.2M NaH2PO4、100mM 4-メルカプトフェニル酢酸(MPAA)、40mM トリス(2‐カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、3mM MgCl2・6H2O、pH7.0)25μLに、4mM、8mMまたは12mMとなるようにPd/TPPTSを添加した。Pd/TPPTSを不活性化するため、反応溶液を室温で1時間撹拌した。次いで、各反応溶液にN末端がAloc基で保護されたペプチドを2mMとなるように添加し、室温で10分間撹拌した。
【0051】
Pd/TPPTSを添加した各反応溶液中のAloc基が脱保護されたペプチドをRP-HPLCで分析したところ、それぞれの変換収率は0%、0%および0%であった。この結果は、Pd/TPPTS添加量が増えてもAloc基の脱保護反応は進行していないことを示している。すなわち、Pd/TPPTSを含む反応溶液の不活性化は、Pd/TPPTS添加量によらず、Pd/TPPTSを添加したNCL緩衝溶液を室温で1時間攪拌することにより達成されることが確認された。
【0052】
例2:ワンポットにおけるペプチド断片のNCL
(1)ペプチド断片の合成
ペプチド1:LENVWRD(配列番号1)、ペプチド2:CVTYTEH(配列番号2)、ペプチド3:CKRKTVT(配列番号3)、ペプチド4:CRDVTY(配列番号4)、ペプチド5:CLKRQGRTLYGFGG(配列番号5)をペプチド合成機ResPep SL(INTAVIS社製)を用いてFmoc法による固相合成法により合成した。N末端のシステイン残基がAloc基で保護されたペプチドは、Aloc-Cys(Trt)-OH(Cas:96865-72-4、L01807、渡辺化学工業社製)を用いて上記固相合成法を行うことにより調製した。C末端がチオエステル化されたペプチドは、上記固相合成法を行うことにより調製したペプチドに2-メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(MESNa)を反応させ、次いで、RP-HPLCにより精製することにより調製した。
【0053】
(2)ペプチド4とペプチド5との連結
NCL法によるペプチドの連結
【化9】
【0054】
2mLチューブにおいてNCL緩衝溶液(6M 塩酸グアニジン、0.2M NaH2PO4(pH3.0)、100mM 4-メルカプトフェニル酢酸(MPAA)、40mM トリス(2‐カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、6mM MgCl2・6H2O)200μLに、ペプチド5を2mMとなるように溶解した。この緩衝溶液に、N末端のシステイン残基がAloc基により保護され、C末端がチオエステル化されたペプチド4を2mMとなるように添加した。反応溶液を6N 水酸化ナトリウム溶液でpH7.0に調整した後、37℃で2時間攪拌することによりNCL法による連結反応を実施し、ペプチド4とペプチド5とが連結されたペプチドCRDVTYCLKRQGRTLYGFGG(配列番号6)(以下、ペプチド4-5という)を得た。得られたペプチドをRP-HPLCおよびMALDI-TOF MSにより分析し、変換収率が97%であることを確認した。なお、実施例を通してMALDI-TOF MSは以下の条件で実施した。
【0055】
<MALDI-TOF MS>
質量分析装置:microflex(BRUKER社製)
測定モード:リフレクター・ポジティブ
マトリックス:α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)
【0056】
【0057】
次いで、反応溶液のpHを6N 塩酸で6.0に低下させ、アルゴンガスでバブリングして酸素を脱気し、ペプチド4-5に対して2当量となるようにPd/TPPTSを添加し、反応溶液を室温で10分間攪拌することにより、N末端が脱保護(Deprotection)されたペプチド4-5を得た。また、サンプルの一部を上記と同様の条件でRP-HPLCおよびMALDI-TOF MSにより分析し、変換収率が99%であることを確認した。反応溶液を引き続いて室温で50分間撹拌することにより、添加したPd/TPPTSを不活性化した。
【0058】
(3)ペプチド3とペプチド4-5との連結
NCL法によるペプチドの連結
【化11】
【0059】
ペプチド4-5を含む上記(2)の反応溶液に、N末端のシステイン残基がAloc基により保護され、C末端がチオエステル化されたペプチド3を2mMとなるように添加した。反応溶液を6N 水酸化ナトリウム溶液でpH7.0に調整した後、37℃で2時間攪拌することによりNCL法による連結反応を実施し、ペプチド3とペプチド4-5とが連結されたペプチドCKRKTVTCRDVTYCLKRQGRTLYGFGG(配列番号7)(以下、ペプチド3-4-5という)を得た。得られたペプチドを上記と同様の条件でRP-HPLCおよびMALDI-TOF MSにより分析し、変換収率が82%であることを確認した。
【0060】
【0061】
次いで、反応溶液のpHを6N 塩酸で6.0に低下させ、溶液をアルゴンガスでバブリングして酸素を脱気し、ペプチド3-4-5に対して2当量となるようにPd/TPPTSを添加し、反応溶液を室温で10分間攪拌することにより、N末端が脱保護(Deprotection)されたペプチド3-4-5を得た。また、サンプルの一部を上記と同様の条件でRP-HPLCおよびMALDI-TOF MSにより分析し、変換収率が98%であることを確認した。反応溶液を引き続いて室温で50分間撹拌することにより、添加したPd/TPPTSを不活性化した。
【0062】
(4)ペプチド2とペプチド3-4-5との連結
NCL法によるペプチドの連結
【化13】
【0063】
ペプチド3-4-5を含む上記(3)の反応溶液に、N末端のシステイン残基がAloc基により保護され、C末端がチオエステル化されたペプチド2を2mMとなるように添加した。反応溶液を6N 水酸化ナトリウム溶液でpH7.0に調整した後、37℃で2時間攪拌することによりNCL法による連結反応を実施し、ペプチド2とペプチド3-4-5とが連結されたペプチドCVTYTEHCKRKTVTCRDVTYCLKRQGRTLYGFGG(配列番号8)(以下、ペプチド2-3-4-5という)を得た。得られたペプチドを上記と同様の条件でRP-HPLCおよびMALDI-TOF MSにより分析し、変換収率が96%であることを確認した。
【0064】
【0065】
次いで、反応溶液のpHを6N 塩酸で6.0に低下させ、溶液をアルゴンガスでバブリングして酸素を脱気し、ペプチド2-3-4-5に対して2当量となるようにPd/TPPTSを添加し、反応溶液を室温で10分間攪拌することにより、N末端が脱保護(Deprotection)されたペプチド2-3-4-5を得た。また、サンプルの一部を上記と同様の条件でRP-HPLCおよびMALDI-TOF MSにより分析し、変換収率が97%であることを確認した。反応溶液を引き続いて室温で50分間撹拌することにより、添加したPd/TPPTSを不活性化した。
【0066】
(5)ペプチド1とペプチド2-3-4-5との連結
NCL法によるペプチドの連結
【化15】
【0067】
ペプチド2-3-4-5を含む上記(4)の反応溶液に、C末端がチオエステル化されたペプチド1を2mMとなるように添加した。反応溶液を6N 水酸化ナトリウム溶液でpH7.0に調整した後、37℃で2時間攪拌することによりNCL法による連結反応を実施し、ペプチド1とペプチド2-3-4-5とが連結されたペプチドLENVWRDCVTYTEHCKRKTVTCRDVTYCLKRQGRTLYGFGG(配列番号9)(以下、ペプチド1-2-3-4-5という)を得た。得られたペプチドを上記と同様の条件でRP-HPLCおよびMALDI-TOF MSにより分析し、変換収率が98%であることを確認した。
【0068】
(6)MPAA除去および脱硫処理
ペプチド1-2-3-4-5を含む上記(5)の反応溶液を、6N 塩酸を用いてpH0.5~1.0に調整した。次いで、脱硫反応を阻害するMPAAを除去するため、ジエチルエーテルを反応溶液に添加し10秒間激しく攪拌した後、エーテル層を除去した。これらの操作を4回繰り返した後、加熱することによってエーテルを完全に除去した。
【0069】
ペプチド1-2-3-4-5を脱硫するため、反応溶液に6N 水酸化ナトリウム溶液を添加し、反応溶液のpH値を中性に調整し、500mM TCEP、5% 2-メチル-2-プロパンチオール(tBuSH)および20mM 2、2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(VA-044、和光純薬工業社製)を添加し、37℃で7時間撹拌した。生成物をRP-HPLCおよびMALDI-TOF MS(測定モード:リニアー・ポジティブとした以外は上記(2)と同様の条件)により確認した。脱硫されたペプチドLENWIRDAVTYTEHAKRKTVTAMDVTYALKRQGRTLYGFGG(配列番号10)が確認され、また、4回のNCL、3回のAloc基脱保護および脱硫処理実施後のペプチド(配列番号10)の総収率(ペプチド5に対する配列番号10のペプチドのモル比)(total yield)は約29.5%であることを確認した。
【0070】
例3:ワンポットにおけるペプチド断片の連結によるヒストンH3の化学合成
(1)ヒストンH3のリジン残基のトリメチル化
ヒストンH3のK9位置のリジン残基(K)のトリメチル化(me3)(以下、「H3K9me3」ということがある。)は、最も有名なヒストン修飾の1つであり、遺伝子サイレンシングの重要な特徴である。この修飾は、ヘテロクロマチンの形成に寄与する。ヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)は、π-カチオン相互作用によってそのクロモドメイン(CD)によってH3K9me3を認識し、クロモシャドウドメイン(CSD)を介して二量体化する。豊富なヒストンH3K9me3マーカーが存在すると、HP1はそのCDおよびCSDドメインを介してヘテロクロマチン形成を誘導する。
【0071】
最近、低温EM法によって決定されたHP1-H3K9me3ダイヌクレオソーム複合体の構造が報告されている(Machida S. et al., Mol Cell. 69(3):385-397(2018))。この報告によると、K9位置でリジン残基の代わりにシステイン残基を導入し、Kme3アナログを使用してこの複合体を再構成した。しかし、他のグループによると、このKme3類似体が元のKme3と同じ性質を有していないことが報告されている。化学的タンパク質合成は、突然変異なしにK9me3を有するヒストンH3を合成する唯一の方法である。そこで、ワンポットライゲーション法によりK9me3を有するヒストンH3を合成することにした。
【0072】
ヒストンH3の全配列は、3つのペプチド断片に分割され、ヒストンH3の元のシステイン残基はAcm(アセトアミドメチル)基によって保護される。ライゲーション部位のシステイン残基をアラニン残基に変換するための脱硫後、Acm基は除去されるべきである。最も広く使用されている方法はヨウ素による酸化であるが、この反応条件はしばしばメチオニン(Met)およびトリプトファン(Trp)の酸化を引き起こす。他の方法は、AcOH/水=1:1の条件で酢酸銀を使用する。しかしながら、過剰の銀イオンは、反応中に容易にタンパク質の凝集を引き起こす。最近、変性バッファー中におけるパラジウム錯体によるAcm基の脱保護が報告されている(Maity SK et al., Angew Chem Int Ed Engl. 55(28):8108-12(2016))。この脱保護反応は迅速に進行し、1時間以内に完了した。しかしながら、Aloc基の脱保護に用いられるPd/TPPTS複合体がシステイン(Acm)の脱保護を誘導した可能性があった。
【0073】
(2)Aloc基およびAcm基の除去の検討
N末端システイン残基の保護のためのAloc基および内部システイン残基の保護のためのAcm基が選択的に除去できるかどうかを試験した。NCL条件下で2当量のPd/TPPTS錯体でAloc基が除去されたことが確認された。一方、Acm基は同じ条件下で全く脱保護されなかった。次に、PdCl2錯体を用いてAcm基を除去した。この保護基は10当量のPdCl2錯体で20分以内に除去された。Aloc基も同じ条件下で除去されたが、反応速度はAcm基に比べて非常に遅かった。
【0074】
要約すると、Aloc基はPd/TPPTS錯体で除去され、Acm基はPdCl2錯体で選択的に除去された。Pd/TPPTS錯体は電子が豊富であり、辻-トロスト反応を含むいくつかのクロスカップリング反応に適している。さらに、その非常に立体障害のある特性は、Acm基のチオエーテルへの配位を妨げる。対照的に、PdCl2錯体は電子求引性分子によって取り囲まれ、ルイス酸として機能する。立体障害の少ない構造は、Acm基の除去を誘発するチオエーテル基への配位を可能にする。したがって、Aloc基およびAcm基は、パラジウム錯体の電子および立体特性に依存して選択的に除去された。
【0075】
(3)バリン残基-システイン残基間連結の促進
通常、バリン残基-システイン残基間のNCL法による連結は、β-分枝形成の立体障害が原因でチオエステル交換が妨げられたため非常に遅かった。従前のヒストンH3の化学合成では、この連結を完了するのに約48時間かかった。本発明では標準的なバリン残基の代わりにペニシラミンを導入した。側鎖のチオール基はC末端チオエステルを攻撃して4員環を形成することが確認された。この状態は、4員環上に2つのメチル基が存在することによるソープ・インゴールド効果(Thorpe-Ingold Effect)によって安定化される(Y. Wang et al., Chem. Sci., 9:1940-1946(2018)参照)。この歪んだチオエステル形成は、バリン残基とシステイン残基の間の連結を容易にした。
【0076】
(4)ペプチド断片の合成
下記のペプチド6、ペプチド7およびペプチド8をペプチド合成機ResPep SL(INTAVIS社製)を用いてFmoc法による固相合成法により合成した。
【0077】
ペプチド6:ARTKQTARKSTGGKAPRKQLATKAARKSAPATGGVKKPHRYRPGTX(配列番号11)
(9番目のアミノ酸残基はトリメチル化リジンである。46番目のXはペニシラミン(D-penicillamine、(2S)-2-アミノ-3-メチル-3-スルファニルブタン酸)を表す。)
ペプチド7:CLREIRRYQKSTELLIRKLPFQRLVREIAQDFKTDLRFQSS(配列番号12)
ペプチド8:CVMALQEACEAYLVGLFEDTNLCAIHAKRVTIMPKDIQLARRIRGERA(配列番号13)
(9番目および23番目のアミノ酸残基はAcm基で保護されたシステイン残基である。)
【0078】
N末端のシステイン残基がAloc基で保護されたペプチドは、Aloc-Cys(Trt)-OH(Cas:96865-72-4、L01807、渡辺化学工業社製)を用いて上記固相合成法を行うことにより調製した。C末端がチオエステル化されたペプチドは、上記固相合成法を行うことにより調製したペプチドに2-メルカプトエタンスルホン酸ナトリウム(MESNa)を反応させ、次いで、RP-HPLCにより精製することにより調製した。
【0079】
ペプチド6の9番目のアミノ酸残基は、トリメチルリジンのFmoc体(α炭素に結合したアミノ基が9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc基)により保護されたトリメチルリジン)を用いて上記固相合成法を行うことにより導入した。トリメチルリジンのFmoc体は公知の方法(R Wieneke et al., Org. Biomol. Chem., 9: 5482-5486(2011)およびR. Baba et al., J. Am. Chem. Soc., 134 (35):14310-14313( 2012)参照、市販品を利用可能)に従って合成した。ペプチド6の46番目のアミノ酸残基は、S-トリチル-L-ペニシラミンのFmoc体(α炭素に結合したアミノ基がFmoc基により保護されたS-トリチル-L-ペニシラミン)を用いて上記固相合成法を行うことにより導入した(Y. Wang et al., Chem. Sci., 9:1940-1946(2018)参照)。S-トリチル-L-ペニシラミンのFmoc体は市販品(SIGMA-ALDRICH社製)を用いた。ペプチド8の9番目および23番目のアミノ酸残基は、Acm基で保護されたシステイン残基であり、チオール基がAcm基で保護されたシステインのFmoc体(α炭素に結合したアミノ基がFmoc基により保護されたS-アセトアミドメチル-L-システイン)を用いて上記固相合成法を行うことにより導入した。S-アセトアミドメチル-L-システインのFmoc体は市販品(渡辺化学工業社製)を用いた。
【0080】
(5)ペプチド7とペプチド8との連結
NCL法によるペプチドの連結
【化16】
【0081】
2mLチューブにおいてNCL緩衝溶液(例2(2)と同様)200μLに、ペプチド8を2mMとなるように溶解した。この緩衝溶液に、N末端のシステイン残基がAloc基により保護され、C末端がチオエステル化されたペプチド7を2mMとなるように添加した。反応溶液を6N 水酸化ナトリウム溶液でpH7.0に調整した後、37℃で2時間攪拌することによりNCL法による連結反応を実施し、ペプチド7とペプチド8とが連結されたペプチドCLREIRRYQKSTELLIRKLPFQRLVREIAQDFKTDLRFQSSCVMALQEACEAYLVGLFEDTNLCAIHAKRVTIMPKDIQLARRIRGERA(配列番号14)(以下、ペプチド7-8という。50番目および64番目のアミノ酸残基はAcm基で保護されたシステイン残基である。)を得た。なお、NCL法による連結反応の開始から1時間後、2つの出発物質が完全に消失した。
【0082】
【0083】
次いで、反応溶液のpHを6N 塩酸で6.0に低下させ、アルゴンガスでバブリングして酸素を脱気し、ペプチド7-8に対して2当量となるようにPd/TPPTSを添加し、反応溶液を室温で10分間攪拌することにより、N末端が脱保護(Deprotection)されたペプチド7-8を得た。反応溶液を引き続いて室温で50分間撹拌することにより、添加したPd/TPPTSを不活性化した。
【0084】
(6)ペプチド6とペプチド7-8との連結
NCL法によるペプチドの連結
【化18】
【0085】
C末端がチオエステル化されたペプチド6は、ソープ・インゴールド効果(Y. Wang et al., Chem. Sci., 9:1940-1946(2018)参照)により、該ペプチドのC末端で4員環を安定的に形成した。
【0086】
【0087】
C末端で4員環を形成させたペプチド6をペプチド7-8を含む上記(5)の反応溶液に2mMとなるように添加した。反応溶液を6N 水酸化ナトリウム溶液でpH7.0に調整した後、37℃で2時間攪拌することによりNCL法による連結反応を実施し、ペプチド6とペプチド7-8とが連結されたARTKQTARKSTGGKAPRKQLATKAARKSAPATGGVKKPHRYRPGTXCLREIRRYQKSTELLIRKLPFQRLVREIAQDFKTDLRFQSSCVMALQEACEAYLVGLFEDTNLCAIHAKRVTIMPKDIQLARRIRGERA(配列番号15)(以下、ペプチド6-7-8という。96番目および110番目のアミノ酸残基はAcm基で保護されたシステイン残基である。Xはペニシラミン残基を表す。)を得た。
【0088】
混合物を水-アセトニトリル混合物で希釈し、RP-HPLCで精製して、所望の生成物を39%の単離収率(ペプチド7-8に対する配列番号15のペプチドのモル比)(isolated yield)で得た。ペプチドの純度はRP-HPLCで確認し、分子量をMALDI-TOF MS(測定モード:リニアー・ポジティブとした以外は例2(2)と同様の条件)によって同定した。
【0089】
【0090】
粉末化したペプチド6-7-8に、500mM TCEP、GSH(グルタチオン、ナカライテスク社製)および20mM 2、2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(VA-044、和光純薬工業社製)を変性条件下で添加して、全てのシステイン変異をアラニン残基に、またペニシラミンをバリン残基に変換した。2.5時間後、反応が完了し、反応混合物をRP-HPLCで精製して、脱硫(Desulfurization)されたペプチドARTKQTARKSTGGKAPRKQLATKAARKSAPATGGVKKPHRYRPGTVALREIRRYQKSTELLIRKLPFQRLVREIAQDFKTDLRFQSSAVMALQEACEAYLVGLFEDTNLCAIHAKRVTIMPKDIQLARRIRGERA(配列番号16)を得た。脱硫の収率(脱硫前のペプチドに対する脱硫後のペプチドのモル比)は65%であった。ペプチドの純度をRP-HPLCで確認し、分子量をMALDI-TOF MSによって同定した。
【0091】
(8)Acm基の脱保護およびMPAA除去
【化21】
【0092】
粉末化したペプチド6-7-8に対して10当量のPdCl2錯体を、pH3.0の変性条件下で加えて、内部システイン残基のAcm保護基を除去した。1時間後、反応が完了し、中性pHで反応混合物にPdCl2錯体に対して500当量のDTTを添加して、全てのパラジウムをペプチド6-7-8から分離した。次いで、反応混合物を水-アセトニトリル混合物で希釈し、RP-HPLCで精製してAcm基が脱保護された配列番号17のペプチドを得た。HPLCによりペプチド6-7-8の純度を確認し、MALDI-TOF MSにより分子量を確認した。Acm基の脱保護の収率(脱保護前のペプチドに対する脱保護後のペプチドのモル比)は82%であった。また、2回のNCL、1回のAloc基脱保護、脱硫処理およびAcm基脱保護実施後のペプチド(配列番号17)の総収率(ペプチド8に対する配列番号17のペプチドのモル比)は約21%であることを確認した。
【配列表】