(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-20
(45)【発行日】2023-03-01
(54)【発明の名称】反射アノード電極及びその製造方法、薄膜トランジスタ基板、有機ELディスプレイ、並びにスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
H10K 50/818 20230101AFI20230221BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20230221BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20230221BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20230221BHJP
H10K 59/124 20230101ALI20230221BHJP
H10K 102/20 20230101ALN20230221BHJP
【FI】
H10K50/818
C23C14/14 B
C23C14/34 A
G09F9/30 338
G09F9/30 365
H10K59/124
H10K102:20
(21)【出願番号】P 2019101560
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2021-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】田内 裕基
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-079836(JP,A)
【文献】特開2004-103695(JP,A)
【文献】特開2009-175719(JP,A)
【文献】特開2005-302696(JP,A)
【文献】特開2011-108459(JP,A)
【文献】特開2012-059470(JP,A)
【文献】特開2006-236839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/00-33/28
H10K 50/00-99/00
C23C 14/14
C23C 14/34
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al合金膜及び酸化物導電膜を含み、前記Al合金膜及び前記酸化物導電膜の接触界面に酸化アルミニウムを主成分とする層を介在する積層構造からなり、
前記Al合金膜は、Si及び少なくとも一種の希土類元素を含み、前記Siの含有量をa(原子%)、前記希土類元素の合計の含有量をb(原子%)とした場合に、
0.62<{a/(a+b)}、
0.2<a<3、及び
0.1<b
の関係を満たし、かつ
前記酸化アルミニウムを主成分とする層はSiを含む、反射アノード電極。
【請求項2】
前記希土類元素がNd及びLaの少なくともいずれか一方を含む、請求項1に記載の反射アノード電極。
【請求項3】
前記酸化物導電膜の膜厚が5~30nmである、請求項1又は2に記載の反射アノード電極。
【請求項4】
前記Al合金膜が、薄膜トランジスタのソース・ドレイン電極に電気的に接続されている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の反射アノード電極。
【請求項5】
有機ELディスプレイに用いられる、請求項1~
4のいずれか1項に記載の反射アノード電極。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の反射アノード電極を製造する方法であって、
前記Al合金膜
をスパッタリング法で形成
する、反射アノード電極
の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の反射アノード電極を含む、薄膜トランジスタ基板。
【請求項8】
請求項7に記載の薄膜トランジスタ基板を含む、有機ELディスプレイ。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の反射アノード電極に含まれるAl合金膜を形成するためのスパッタリングターゲットであって、
Siの含有量をa(原子%)、希土類元素の合計の含有量をb(原子%)とした場合に、
0.62<{a/(a+b)}、
0.2<a<3、及び
0.1<b
の関係を満たす、スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ELディスプレイ(特に、トップエミッション型)において使用される反射アノード電極に関する。また、前記反射アノード電極を用いた薄膜トランジスタ基板及び有機ELディスプレイ、並びに、前記反射アノード電極に含まれるAl合金膜を形成するためのスパッタリングターゲットにも関する。
【背景技術】
【0002】
自発光型のフラットパネルディスプレイの1つである有機エレクトロルミネッセンス(以下、「有機EL」と記載する。)ディスプレイは、ガラス板などの基板上に有機EL素子をマトリックス状に配列して形成した全固体型のフラットパネルディスプレイである。有機ELディスプレイでは、陽極(アノード)と陰極(カソード)とがストライプ状に形成されており、それらが交差する部分が画素(有機EL素子)にあたる。この有機EL素子に外部から数Vの電圧を印加して電流を流すことで、発光層を構成する有機分子を励起状態に押し上げ、それが元の基底状態(安定状態)へ戻るときに余分なエネルギーを光として放出する。この発光色は有機材料に固有のものである。
【0003】
有機EL素子は、自己発光型かつ電流駆動型の素子であるが、その駆動方式にはパッシブマトリックス型(以下、単に「パッシブ型」と記載する。)とアクティブマトリックス型(以下、単に「アクティブ型」と記載する。)とがある。パッシブ型は構造が簡単であるが、フルカラー化が困難である。一方、アクティブ型は大型化が可能であり、フルカラー化にも適しているが、薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)基板が必要となる。このTFT基板には低温多結晶シリコン膜(p-Si)もしくはアモルファスシリコン膜(a-Si)などのTFTが使われている。
【0004】
アクティブ型の有機ELディスプレイの場合、複数のTFTや配線が障害となって、有機EL画素に使用できる面積が小さくなる。駆動回路が複雑となりTFTが増えてくると、さらにその影響は大きくなる。
【0005】
そこで最近では、基板の側から光を取り出すのではなく、上面側から光を取り出す構造(トップエミッション型)にすることで、開口率を改善する方法が注目されている。
【0006】
一般的にトップエミッション型では、下面の陽極(アノード電極)には正孔注入に優れるITO(酸化インジウムスズ;Indium Tin Oxide)が用いられる。また、上面の陰極(カソード電極)にも透明導電膜を使う必要があるが、ITOは、仕事関数が大きく電子注入には適さない。さらにITOは、スパッタリング法やイオンビーム蒸着法で成膜するため、成膜時のプラズマイオンや電子二次電子が電子輸送層(有機EL素子を構成する有機材料)にダメージを与えることが懸念される。そのため、陰極(カソード電極)では薄いMg層や銅フタロシアニン層を電子輸送層上に形成することで、ダメージの回避と電子注入改善が行われる。
【0007】
アクティブ型のトップエミッション型有機ELディスプレイで用いられるアノード電極は、さらに、有機EL素子から放射された光を反射する目的を兼ねて、ITOやIZO(酸化インジウム亜鉛;Indium Zinc Oxide)に代表される透明酸化物導電膜に加えて反射膜を設け、前記透明酸化物導電膜と前記反射膜との積層構造とされる(反射アノード電極)。この反射アノード電極で用いられる反射膜は、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)や銀(Ag)などの反射性金属膜であることが多い。例えば、既に量産されているトップエミッション型の有機ELディスプレイにおける反射アノード電極には、透明酸化物導電膜であるITO膜とAg基合金膜との積層構造が採用されている。
【0008】
このように、反射アノード電極の反射率を考慮すれば、AgまたはAgを主成分として含むAg基合金は反射率が高いため、反射膜として有用である。なお、Ag基合金は、耐食性に劣るという特有の課題を抱えているが、その上に積層されるITO膜で当該Ag基合金膜を被覆することにより、上記課題を解消することができる。
【0009】
しかし、Agは材料コストが高いうえ、成膜に必要なスパッタリングターゲットの大型化が難しい。そのため、Ag基合金膜を、大型テレビ向け等の大型機器用途としてアクティブマトリックス型のトップエミッション型有機ELディスプレイ反射膜に適用するのは困難である。
【0010】
これに対し、反射率のみを考慮すれば、Alも反射膜として良好である。例えば特許文献1には、反射膜としてAl膜またはAl-Nd膜が開示されており、Al-Nd膜は反射効率が優秀で望ましい旨が記載されている。
【0011】
しかし、Al膜やAl-Nd膜を反射膜としてITOやIZOなどの酸化物導電膜と直接接触させた場合、接触抵抗(コンタクト抵抗)が高くなることから、有機EL素子への正孔注入に充分な電流を供給することができない。それを回避するために、反射膜に、AlではなくMoやCrの高融点金属を採用したり、Al反射膜と酸化物導電膜との間に前記高融点金属をバリアメタルとして設ける方法が考えられるが、それら方法では、反射率が大幅に劣化し、ディスプレイ特性である発光輝度の低下を招いてしまう。
【0012】
そこで特許文献2では、バリアメタル層を介さずに、透明電極を構成する酸化物導電膜と直接接続された反射電極(反射膜)として、Niを0.1~2原子%含有するAl-Ni合金膜が提案されている。これによれば、高い反射率と低い接触抵抗を実現できる。
【0013】
また特許文献3では、Agを0.1~6原子%含有するAl基合金膜とすることによって、特許文献2と同様に、バリアメタル層を介さずに酸化物導電膜と直接接触させても低い接触抵抗と高い反射率を実現できるAl基合金反射膜が提案されている。
【0014】
さらに特許文献4では、Geを0.05~0.5原子%含有し、Gdおよび/またはLaを合計で0.05~0.45原子%含有する表示デバイス用Al合金膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2005-259695号公報
【文献】特開2008-122941号公報
【文献】特開2011-108459号公報
【文献】特開2008-160058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記に対し、トップエミッション型の有機ELディスプレイにおいて、アノード電極としてAl合金を使用した場合、酸素存在雰囲気下では不可避的にAl合金表面に絶縁性の酸化膜が生成される。この酸化膜の絶縁性に起因して電流が流れにくくなるために、所定値以上の電流を流そうとすると、必要な電圧値が高くなる。そのため、同じ発光強度を維持する場合には、消費電力が高くなる。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、反射膜であるAl合金膜を酸化物導電膜と直接接触させても低い接触抵抗と高い反射率を確保でき、また、耐熱性にも優れた有機ELディスプレイ用の反射アノード電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題に対し、本発明者は、反射膜となるAl合金膜が所定量のSi及び少なくとも一種の希土類元素を含み、反射膜と酸化物導電膜との接触界面に介在する酸化物からなる層にもSiが含まれることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明に係る有機ELディスプレイ用の反射アノード電極は、Al合金膜及び酸化物導電膜を含み、前記Al合金膜及び前記酸化物導電膜の接触界面に酸化アルミニウムを主成分とする層を介在する積層構造からなり、前記Al合金膜は、Si及び少なくとも一種の希土類元素を含み、前記Siの含有量をa(原子%)、前記希土類元素の合計の含有量をb(原子%)とした場合に、0.62<{a/(a+b)}、0.2<a<3、及び0.1<bの関係を満たし、かつ前記酸化アルミニウムを主成分とする層はSiを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、前記希土類元素はNd及びLaの少なくともいずれか一方を含む。
本発明の好ましい実施形態において、前記酸化物導電膜の膜厚は5~30nmである。
本発明の好ましい実施形態において、前記Al合金膜はスパッタリング法で形成される。
本発明の好ましい実施形態において、前記Al合金膜は、薄膜トランジスタのソース・ドレイン電極に電気的に接続されている。
【0021】
また、本発明には、上記いずれかの反射アノード電極を含む薄膜トランジスタ基板や、前記薄膜トランジスタ基板を含む有機ELディスプレイも含まれる。
【0022】
さらに、本発明には、上記いずれかの反射アノード電極に含まれるAl合金膜を形成するためのスパッタリングターゲットであって、Siの含有量をa(原子%)、希土類元素の合計の含有量をb(原子%)とした場合に、0.62<{a/(a+b)}、0.2<a<3、及び0.1<bの関係を満たす、スパッタリングターゲットも含まれる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る有機ELディスプレイ用の反射アノード電極によれば、反射膜であるAl合金膜を酸化物導電膜と直接接触させ、その間に酸化アルミニウムを主成分とする層が存在しても、低い接触抵抗と高い反射率を確保できる。また、耐熱性にも優れることから、表面荒れ(ヒロック)の無いものとすることができる。
【0024】
この反射アノード電極を薄膜トランジスタ基板、ひいては有機ELディスプレイに用いることによって、有機発光層に効率良く電流を流すことができ、更には、前記有機発光層から放射された光を反射膜によって効率良く反射できることから、発光輝度にも優れた有機ELディスプレイを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る反射アノード電極を備えた有機ELディスプレイの一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、Al合金膜と酸化物導電膜との接触抵抗測定に用いたケルビンパターンを示す図である。
【
図3】
図3は、実施例2の反射アノード電極のTEM-EDXによる断面観察のうち、酸化アルミニウムを主成分とする層のEDXスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0027】
(有機ELディスプレイ)
まず、
図1を用いて、本実施形態の反射アノード電極を用いた有機ELディスプレイの概略を説明する。なお、本実施形態に用いられるAl合金膜はAl-Si-REM合金膜(REMは1種以上の希土類元素を意味する。)であるが、以下では、当該Al-Si-REM合金膜を、単に「Al合金膜」と称する。
【0028】
基板1上にTFT2およびパシベーション膜3が形成され、さらにその上に平坦化層4が形成される。TFT2上にはコンタクトホール5が形成され、コンタクトホール5を介してTFT2のソース・ドレイン電極(図示せず)とAl合金膜6とが電気的に接続されている。
【0029】
Al合金膜6に接触するように、Al合金膜6の直上には酸化物導電膜7が形成される。しかし実際には、Al合金膜6と酸化物導電膜7との接触界面には酸化アルミニウム(Al2O3)を主成分とする層(図示せず)が形成され、介在することとなる。なお、「酸化アルミニウムを主成分とする層」における主成分とは、層中に最も多く含まれる成分を意味し、具体的には、層の全質量に対して70質量%以上含まれる成分であることを意味する。
【0030】
Alは非常に酸化されやすいことから、雰囲気中の酸素と容易に結合してAl合金膜表面に酸化アルミニウムを含む層が形成され易い。また、Al合金膜と酸化物導電膜を接触させた場合には、酸化物導電膜からAlが酸素を奪い、その接触界面に酸化アルミニウムを主成分とする層が形成され易い。この酸化アルミニウムを主成分とする層は絶縁性であるため、本来はAl合金膜と酸化物導電膜とのコンタクト抵抗(接触抵抗)の上昇を招く。
【0031】
しかしながら、本実施形態では、Al合金膜に特定量のSiを含有することにより、形成される酸化アルミニウムを主成分とする層にもSiが含まれることとなる。このとき、Siは酸化アルミニウムを主成分とする層中で金属結合の結合形態で存在しているものと推測され、このSiの存在により、Al合金膜と酸化物導電膜との低いコンタクト抵抗が確保できるものと考えられる。
【0032】
酸化アルミニウムを主成分とする層におけるSiの存在は、例えば、XPS(X線光電子分光法)や、EDX(エネルギー分散型X線分光)分析を組み合わせた透過型電子顕微鏡(TEM)(TEM-EDX)を用いた反射アノード電極の断面観察によって確認することができる。
前記層中に含まれるSiの含有量を実際に測定することは難しいが、TEM-EDXを用いた反射アノード電極の断面観察において、Siが0.8原子%以上となることが好ましい。
【0033】
Al合金膜6及び酸化物導電膜7は有機EL素子の反射電極として作用し、かつ、TFT2のソース・ドレイン電極に電気的に接続されることから、酸化アルミニウムを主成分とする層を含むAl合金膜6および酸化物導電膜7は、反射アノード電極として働く。
上記酸化物導電膜7の上に有機発光層8が形成され、さらにその上にカソード電極9が形成される。これらにより、基板、TFT、パシベーション膜、平坦化層、コンタクトホール、Al合金膜、酸化アルミニウムを主成分とする層、酸化物導電膜、有機発光層、及びカソード電極を含む有機ELディスプレイが得られる。
このような有機ELディスプレイでは、有機発光層8から放射された光が本実施形態の反射アノード電極で効率よく反射されるので、優れた発光輝度を実現できる。なお、反射アノード電極の反射率は高いほどよく、波長450nmの光に対する反射率が79%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。
【0034】
(Al合金膜)
次に、本発明の反射アノード電極に用いられるAl合金膜について説明する。
Al合金膜は、Siと少なくとも一種の希土類元素(REM)とを含有し、それらの比率はAl合金膜に対するSiの含有量をa(原子%)、REMの合計の含有量をb(原子%)とした場合に、
0.62<{a/(a+b)}
0.2<a<3、かつ
0.1<b
の関係を満たすものである。
【0035】
aを0.2原子%超とすることにより、低接触抵抗確保に必要なSiの量とすることができ、駆動電圧が高くなるのを防ぐことができる。aは0.5原子%超が好ましく、0.8原子%超がより好ましい。
また、aを3原子%未満とすることにより、高い反射率を維持することができる。aは2.5原子%未満が好ましく、1.5原子%未満がより好ましい。
【0036】
bを0.1原子%超とすることにより、プロセスで受ける熱履歴により発生する表面荒れ(ヒロック)の発生を抑制することができる。表面荒れは、画素の短絡の原因になる。bは0.2原子%以上が好ましい。
また、bの上限は、0.62<{a/(a+b)}よりaの値で制限されることとなるが、1原子%未満が好ましく、0.5原子%未満がより好ましい。
【0037】
{a/(a+b)}で表される比を0.62超とすることにより、低い接触抵抗を維持することができる。これは、Al合金膜中に含まれるSiと希土類元素とが化合物を作り、酸化アルミニウムを主成分とする層においてSiの濃化がしにくくなるのを防ぐことができるためと考えられる。{a/(a+b)}で表される比は、0.7超が好ましく、0.8超がより好ましい。
また、{a/(a+b)}で表される比は、反射率確保の点から、0.9未満が好ましい。
【0038】
Al合金膜に含まれる希土類元素としては、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb等が挙げられる。またこれらの元素は同時に複数種類の元素を添加してもよい。中でも、Nd、Laが好ましく、Nd及びLaの少なくともいずれか一方を含むことがより好ましい。
【0039】
Al合金膜には、Al、Si及びREMの他、本発明の効果を損なわない範囲内で他の元素を含んでいてもよい。
他の元素としては、例えばGe、Cu、Ni、Ta、Ti、Zr等が挙げられる。これら他の元素と不純物の合計の含有量は、Al合金膜に対して1.0原子%以下が好ましく、0.7原子%以下がより好ましい。
【0040】
Al合金膜の膜厚は、反射率確保の点から50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましい。また、Al合金膜の膜厚は配線加工性や生産性の点から300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。
【0041】
Al合金膜は、スパッタリング法または真空蒸着法で形成することが好ましく、スパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある。)を用いて形成することが、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できることからより好ましい。
【0042】
スパッタリング法によりAl合金膜を形成するには、上記ターゲットとして、前述した元素(Si及びREM)を含むものであって、所望のAl合金膜と同一組成のAl合金スパッタリングターゲットを用いればよい。かかるターゲットを用いることにより、得られるAl合金膜の組成がずれるおそれがなく、所望の成分組成のAl合金膜を形成することができる。
【0043】
従って、前記反射アノード電極に含まれるAl合金膜を形成するためのスパッタリングターゲットであって、前記Al合金膜と同じ組成のスパッタリングターゲットも本発明の範囲内に包含される。
詳細には、前記反射アノード電極に含まれるAl合金膜を形成するためのスパッタリングターゲットであって、Siの含有量をa(原子%)、希土類元素の合計の含有量をb(原子%)とした場合に、0.62<{a/(a+b)}、0.2<a<3、及び0.1<bの関係を満たす、スパッタリングターゲットである。
なお、ターゲットの組成やa及びbで表される含有量の好ましい態様は、前記Al合金膜における組成やa及びbで表される含有量の好ましい態様とそれぞれ同様である。
【0044】
ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状など)に加工したものが含まれる。
ターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法、粉末焼結法、スプレイフォーミング法等により、Al基合金からなるインゴットを製造して得る方法や、Al基合金からなるプリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
【0045】
スパッタリング法における基板温度は基板上の水分やガスの吸着抑制の点から25℃以上が好ましく、また、Al合金の表面平滑性確保の点から200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
【0046】
(酸化物導電膜)
本実施形態に用いられる酸化物導電膜は特に限定されず、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)などの通常用いられるものが挙げられるが、低抵抗や抵抗の安定性の点から、好ましくは酸化インジウム錫である。
【0047】
酸化物導電膜の膜厚は、酸化物導電膜にピンホールが発生し、ダークスポットの原因となることを防ぐ観点から5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。一方、反射アノード電極とした際の反射率の低下を防止する観点から、酸化物導電膜の膜厚は30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。
【0048】
酸化物導電膜は、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できることからスパッタリング法により成膜することが好ましい。
【0049】
(反射アノード電極)
上記で得られた反射アノード電極は、優れた反射率および低い接触抵抗に加えて、上層に位置する酸化物透明導電膜の仕事関数が、汎用のAg基合金を用いたときと同程度に制御され、耐熱性にも優れるため、有機ELディスプレイに用いられる。
【0050】
反射アノード電極の反射率は高いほどよく、波長450nmの光に対する反射率が79%以上であることが好ましく、80%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。
また、低い接触抵抗とは、後述の実施例に記載の方法、すなわちコンタクトホールサイズが80×80μmであるケルビンパターンを用いた4端子法による測定で、接触抵抗が10kΩ・mm2以下であることが好ましく、2kΩ・mm2以下がより好ましい。
【0051】
前記Al合金膜が薄膜トランジスタのソース・ドレイン電極に電気的に接続されている反射アノード電極も本実施形態の好ましい態様として挙げることができ、さらには、反射アノード電極を含む薄膜トランジスタ基板や、前記薄膜トランジスタ基板を含む有機ELディスプレイも本実施形態の好ましい態様として挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって制限されず、その趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0053】
(反射アノード電極の作製)
無アルカリ硝子板(板厚:0.7mm)を基板として、その表面に反射膜であるAl合金膜(膜厚200nm)をスパッタリング法によって成膜した。スパッタリング条件は、基板温度25℃、圧力0.26Paとし、直流電源を用いて5~20W/cm2でAl合金ターゲットを使用した。なお、スパッタリングターゲット及び形成されたAl合金膜の組成のうち、Si、Nd及びLaの含有量(原子%)は表1に示すとおりであり、残部はAl及び不純物である。この組成は、ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析により同定した。
【0054】
上記で得られたAl合金膜上に、酸化物導電膜として、In-Sn-O(Sn:10質量%)薄膜(ITO薄膜)をスパッタリング法により10nmの膜厚で積層した。スパッタリング条件は、基板温度を室温(約25℃)、圧力0.26Paとし、直流電源を用いて2~4W/cm2で行った。
その後、窒素雰囲気中において250℃で一時間保持することで熱処理(ポストアニール)を行い、反射アノード電極を作製した。
【0055】
(酸化アルミニウムを主成分とする層の同定)
得られた反射アノード電極について、XPS(X線光電子分光法)によりAl合金膜と酸化物導電膜との間に酸化アルミニウムを主成分とする層が存在し、かつ当該層中にSiが金属結合の結合状態で含まれていることを確認した。
また、エネルギー分散型X線分光分析を組み合わせた透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)(TEM観察装置:日本電子製 電界放出形透過電子顕微鏡 JEM-2010F、取得カメラ:Gatan製 CCD UltraScan、EDX分析装置:日本電子製 JED-2300T SDD(JEM-2010F付属))を用い、加速電圧200kV、ビーム径(EDX分析)直径約1nmの条件により、反射アノード電極の断面観察を行った。例えば、実施例2の反射アノード電極に対しては、電極表面(上層側)から5nm、12nm、15nm及び40nmの深さである4箇所について断面観察を行い、得られたTEM画像及びEDXスペクトルから、それぞれ酸化導電膜、酸化アルミニウムを主成分とする層、Al合金膜及びAl合金膜に該当することを確認した。
実施例2における酸化アルミニウムを主成分とする層のEDXスペクトルを
図3に示す。
図3より、Al及びOのピークと、それらの含有量(原子%、at%)から、酸化アルミニウムを主成分とする層のスペクトルであることが分かる。当該層にはSiのピークも確認され、その含有量は2.5原子%であった。
【0056】
(反射率)
反射アノード電極(熱処理後)について、日本分光株式会社製の可視・紫外分光光度計「V-570」を用い、測定波長:1000~250nmの範囲における分光反射率を測定した。具体的には、基準ミラーの反射光強度に対して、試料の反射光強度を測定した値を「反射率」とした。測定波長450nmでの反射率を表1に示すが、当該反射率は79%以上であれば良好であり、合格とした。
【0057】
(耐熱性)
反射アノード電極(熱処理後)の耐熱性の評価は光学顕微鏡で表面を観察し、倍率1000倍で凹凸(表面荒れ、ヒロック)の有無を確認することで行った。具体的には、任意の140×100μmの範囲内における、直径1μm以上のヒロックの数が5個未満のものを「ヒロック無し」と判定して良好(○)とし、5個以上のものを「ヒロック有り」と判定して不良(×)とした。
なお、反射アノード電極の耐熱性として、熱処理後の電極表面についての微分干渉顕微鏡による観察も行い、表面荒れ(ヒロック)の有無を確認した。その結果、上記光学顕微鏡の表面観察で良好(○)と判定された反射アノード電極は、いずれも平滑な表面であることが確認された。
【0058】
(接触抵抗)
Al合金膜と酸化物導電膜との接触抵抗(コンタクト抵抗)は、
図2に示すケルビンパターンを使用した。ケルビンパターンは、上記Al合金膜を成膜した後、続けて酸化物導電膜であるIn-Sn-O(Sn:10質量%)薄膜を10nm積層し、配線パターンを形成した後、その表面にパシベーション膜であるSiN膜(膜厚:200nm)をプラズマCVD(化学気相蒸着)装置によって成膜した。
成膜条件は、基板温度:280℃、ガス比:SiH
4/NH
3/N
2=125/6/185、圧力:137Pa、RFパワー:100Wとした。
成膜されたSiN膜をパターニングした後、その表面に、Mo膜(膜厚:300nm)をスパッタリング法によって成膜し、更に成膜されたMo膜をパターニングすることにより
図2のケルビンパターンを得た。
【0059】
接触抵抗の測定法は、
図2に示すケルビンパターン(コンタクトホールサイズ:80μm角)を作製し、4端子測定(Al合金\ITO積層膜に電流を流し、別の端子でAl合金\ITO積層膜間の電圧降下を測定する方法)を行なった。具体的には、
図2のI
1-I
2間に電流Iを流し、V
1-V
2間の電圧Vをモニターすることにより、コンタクト部の抵抗Rを[R=(V
1-V
2)/I
2]として求めた。抵抗Rにコンタクト部の面積を乗じて面積抵抗(Ω・mm
2)に換算した値を接触抵抗とし、10kΩ・mm
2以下(10000Ω・mm
2以下)であるものを良好であり、合格とした。
【0060】
得られた反射アノード電極のAl合金膜の組成及び評価結果を表1にまとめて示す。なお、総合評価とは、上記反射率、耐熱性、接触抵抗のいずれもが良好である場合を○とし、ひとつでも不良であるものがある場合を×とした。また、Al合金膜における{a/(a+b)}を表中では{Si/(Si+REM)}と表している。
【0061】
【0062】
以上のことから、Al合金膜にSiを含むことにより、Al合金膜と酸化物導電膜との間に介在する酸化アルミニウムを主成分とする層にもSiが含まれることが確認された。Al合金膜に含まれるSi及び希土類元素の含有量を0.62<{Si/(Si+REM)}、0.2<Si<3、及び0.1<REMとすることにより、得られる反射アノード電極について、低い接触抵抗、高反射率、及び良好な耐熱性が実現することが確認された。
【符号の説明】
【0063】
1 基板
2 TFT
3 パシベーション膜
4 平坦化層
5 コンタクトホール
6 Al合金膜
7 酸化物導電膜
8 有機発光層
9 カソード電極