(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-21
(45)【発行日】2023-03-02
(54)【発明の名称】歯科診療装置
(51)【国際特許分類】
A61C 19/00 20060101AFI20230222BHJP
A61C 1/08 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
A61C19/00 C
A61C1/08 F
A61C19/00 H
(21)【出願番号】P 2019161342
(22)【出願日】2019-09-04
【審査請求日】2021-02-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000138185
【氏名又は名称】株式会社モリタ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】古田 美一
(72)【発明者】
【氏名】木下 和也
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-196240(JP,A)
【文献】特表平04-506310(JP,A)
【文献】特開2004-318372(JP,A)
【文献】特開2007-068564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 19/00
A61C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の術者によって使用されて所定の設定流量で流体を噴射する複数の歯科用インスツルメントと、
前記複数の歯科用インスツルメントを保持するインスツルメントホルダと操作部とを含むトレーテーブルと、
前記インスツルメントホルダに設けられ、前記複数の歯科用インスツルメントのいずれか1つが取り出されたことを検出する検出センサと、
前記複数の術者のそれぞれに対応する前記流体の前記設定流量を、前記複数の歯科用インスツルメントのそれぞれに対応させて記憶する記憶部と、
前記複数の歯科用インスツルメントに接続され、前記流体の流路となる複数の流路と、
前記複数の流路へ分岐する前の分岐前流路と、
前記分岐前流路に設けられて前記流体の流量を調整可能な比例制御弁と、
前記歯科用インスツルメントのいずれか1つを使用する使用術者の顔画像を取得するカメラ
であって、視野が斜め上方を向くように前記トレーテーブルの前記操作部に搭載されるカメラと、
前記カメラが取得した前記顔画像に基づいて
、前記使用術者を識別する術者識別部と、
前記検出センサからの検出信号と前記術者識別部における前記使用術者の識別結果とに基づいて、前記記憶部に記憶された前記設定流量を読み出し、前記術者識別部によって識別された前記
使用術者に応じて前記比例制御弁を制御することで、
前記歯科用インスツルメントのいずれか1つに対応し且つ前記
使用術者に対応する前記設定流量で
当該歯科用インスツルメントから前記流体を噴射させる制御部と
、を備える、歯科診療装置。
【請求項2】
前記術者に関する情報および/または前記設定流量に関する情報を表示する表示部を備える、請求項
1に記載の歯科診療装置。
【請求項3】
前記カメラは、顔認証用カメラまたは虹彩認証用カメラである、請求項1
または2に記載の歯科診療装置。
【請求項4】
前記比例制御弁は、前記複数の歯科用インスツルメントに含まれるエアタービンハンドピースに接続された水の流路に設けられて注水量を調整可能である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の歯科診療装置。
【請求項5】
前記比例制御弁は、前記複数の歯科用インスツルメントに含まれるマイクロモータハンドピースに接続された水および空気の少なくともいずれか一方の流路に設けられて注水量および空気量の少なくともいずれか一方を調整可能である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の歯科診療装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記術者および前記複数の歯科用インスツルメントの両方に対応する前記設定流量の値の入力を受け付ける設定値受付部を有する、請求項1~
5のいずれか一項に記載の歯科診療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科診療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1に記載されるように、診療台を備える医療用診療装置において、カメラ等の撮影部を用いて患者および術者を撮影して認識し、認識された患者および術者に対応する駆動条件に設定する技術が知られている。たとえば、診療台が有する座面シートおよびヘッドレストに関する駆動条件が、設定される。駆動条件として、変位速度または位置付け条件等が設定される。また、歯科治療のための診療器具であるエアタービンハンドピースおよびマイクロモータハンドピースに関し、任意の回転速度等が設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、座面シートおよびヘッドレストに関する駆動条件が設定されたり、あるいは、エアタービンハンドピースおよびマイクロモータハンドピースに関する駆動条件が設定されたりする。エアタービンハンドピースおよびマイクロモータハンドピースに関しては、回転速度の最大値等が設定され得るが、これらの歯科用診療器具(歯科用インスツルメント)に関して、更なる検討の余地がある。
【0005】
歯科用インスツルメントの中には、流体を噴射させるタイプのものがある。この流体の流量は、術者に応じて変化し得る。すなわち、ある歯科用インスツルメントを想定した場合に、ある術者にとって最適な(又は所望の)流量が存在する。しかしながら、従来の技術では、術者自身が、歯科用インスツルメントを使用するたびに手動で流量を調整したりする必要があった。そのため、術者に応じた自動流量制御を実現することは難しかった。
【0006】
本発明は、流体を噴射させる歯科用インスツルメントに関し、術者に応じた自動流量制御を可能とする歯科診療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る歯科診療装置は、術者によって使用されて所定の設定流量で流体を噴射する1つ又は複数の歯科用インスツルメントと、歯科用インスツルメントに接続された流体の流路に設けられて流体の流量を調整可能な比例制御弁と、術者の身体の一部から識別用情報を取得するセンサと、センサが取得した識別用情報に基づいて術者を識別する術者識別部と、術者識別部によって識別された術者に応じて比例制御弁を制御することで、術者に対応する設定流量で歯科用インスツルメントから流体を噴射させる制御部と、を備える。
【0008】
この歯科診療装置によれば、センサによって、術者の身体の一部から識別用情報が取得され、術者識別部によって、術者が識別される。さらに、制御部によって、流体の流路に設けられた比例制御弁が制御され、識別された術者に対応する設定流量にて、歯科用インスツルメントから流体が噴射される。このように、センサおよび術者識別部による術者の識別と、その識別結果に基づく比例制御弁の制御との協働によって、術者にとっての最適な又は所望の流量が自動的に実現される。この歯科診療装置によれば、流体を噴射させる歯科用インスツルメントに関し、術者に応じた自動流量制御が可能となる。
【0009】
歯科診療装置は、術者に対応する流体の設定流量を記憶する記憶部を備えてもよい。この場合、記憶部に記憶された流体の設定流量を読み出すことで、術者に応じた自動流量制御が可能となる。
【0010】
記憶部が、複数の歯科用インスツルメントのそれぞれに対応する流体の設定流量を記憶してもよい。この場合、複数の歯科用インスツルメントを備える歯科診療装置において、術者に応じ、かつ、歯科用インスツルメントに応じた自動流量制御が可能となる。
【0011】
術者に関する情報および/または設定流量に関する情報を表示する表示部を備えてもよい。この場合、術者は、表示部を介して、術者の識別結果および/または設定流量が適切になっているかを確認することができる。識別結果に誤りがあることが判明した場合には、再度センサに識別用情報を取得させたり、または、設定流量を入力したりすることができ、適切な条件にて歯科診療を行うことが可能となる。
【0012】
センサは、顔認証用カメラ、虹彩認証用カメラ、指紋認証センサまたは静脈認証センサであってもよい。これらの生体認証センサによれば、術者を確実かつ容易に識別することができる。
【0013】
歯科診療装置は、術者が歯科診療に関わる作業を行うために術者の側方近傍に配置される術者用作業部を備え、センサは、術者用作業部に取り付けられていてもよい。この場合、術者は、術者用作業部に近寄ることになる。場合によっては、術者は、術者用作業部に触れることもある。術者用作業部にセンサが取り付けられているので、術者の近くに配置された(又は術者によって触れられた)センサは、術者から識別用情報を取得することができる。よって、術者を識別するために特別な操作等を行う必要がなく、診療の際の自然な行動または作業の間に、術者が識別される。したがって、煩わしい操作等を必要とせず、術者を容易に識別することができる。
【0014】
術者用作業部は、歯科用インスツルメントを保持するインスツルメントホルダを有してもよい。この場合、歯科診療を行う術者が、インスツルメントホルダから歯科用インスツルメントを取るとき、またはインスツルメントホルダに歯科用インスツルメントを保持させるときに、術者が自動的に識別される。よって、確実かつ自然に、術者を識別することができる。
【0015】
比例制御弁は、歯科用インスツルメントであるエアタービンハンドピースに接続された水の流路に設けられて注水量を調整可能であってもよい。この場合、術者がエアタービンハンドピースを使用する際における、自動注水量制御が可能となる。
【0016】
歯科用インスツルメントであるマイクロモータハンドピースに接続された水および空気の少なくともいずれか一方の流路に設けられて注水量および空気量の少なくともいずれか一方を調整可能であってもよい。この場合、術者がマイクロモータハンドピースを使用する際における、自動注水量制御および自動空気量制御の少なくとも一方が可能となる。また、比例制御弁は、スケーラハンドピースやスリーウェイシリンジにおいても注水量や空気量の制御用として使用することができる。
【0017】
制御部は、術者および歯科用インスツルメントの両方に対応する設定流量の値の入力を受け付ける設定値受付部を有してもよい。たとえば、術者の識別が適切に行われない等の理由により、術者に対応する設定流量を読み出せない場合等に、設定流量の入力が可能となる。それ以降、同じ術者が診療を行う場合に、あるいは、同じ歯科用インスツルメントを使用する場合に、歯科診療装置の利便性が高められる。
【0018】
歯科診療装置は、歯科用インスツルメントを保持するインスツルメントホルダと、インスツルメントホルダに設けられ、歯科用インスツルメントが取り出されたことを検出する検出センサと、を備え、制御部は、検出センサからの検出信号と術者識別部における術者の識別結果とに基づいて、歯科用インスツルメントから噴射させる流体の設定流量を制御してもよい。この場合、複数の歯科用インスツルメントを備える歯科診療装置において、取り出された歯科用インスツルメントの種類を検出可能である。よって、術者が特別な入力操作等を行うことなく、術者および歯科用インスツルメントの両方に応じた自動流量制御が可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、流体を噴射させる歯科用インスツルメントに関し、術者に応じた自動流量制御を可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る歯科診療装置を示す斜視図である。
【
図3】
図1の歯科診療装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図4】術者用作業部の一例としての操作テーブルを示す斜視図である。
【
図6】
図6(a)は
図5のVIA-VIA線に沿って切断した断面図、
図6(b)は
図6(a)の一部拡大図である。
【
図7】操作部の操作面が水平方向に対してなす角度を示す断面図である。
【
図8】制御部における術者識別に関する処理フローの一例を示す図である。
【
図9】
図9(a)は着座する術者と操作テーブルの位置の一例を示す平面図、
図9(b)は着座する術者と操作テーブルの位置の別の例を示す平面図である。
【
図10】術者に対する操作テーブルの位置関係を側方から見て示す図である。
【
図11】複数種類の歯科用インスツルメント、それらに接続された配管、および弁類を示す配管系統図である。
【
図12】制御部における流量制御に関する処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0022】
図1および
図2を参照して、本実施形態に係る歯科診療装置1について説明する。歯科診療装置1は、術者A(
図9(a),(b)参照)が、患者(図示せず)に対して歯科診療を行う際に使用される装置である。歯科診療装置1は、患者を支持する診療台2と、診療台2の側方に設けられ患者が口をゆすぐためのスピットン3と、診療台2の上方に配置されて患者の口腔を照らす無影灯4と、診療台2等を駆動させるために術者Aによって操作されるフットペダル8と、を備える。なお、歯科診療とは、歯科に関する診察および治療を包含する概念である。
【0023】
診療台2は、ベース部9上に設置されている。診療台2は、患者が着座する座面シート2aと、座面シート2aに対して回動自在に構成された背もたれ2bと、背もたれ2bの上端部に連結されたヘッドレスト2cとを有する。ヘッドレスト2cは、背もたれ2bに対して回動自在である。背もたれ2bおよびヘッドレスト2cは、後述する油圧サーボ71および油圧モータ72(
図3参照)によって移動させられ、所定の位置および角度で停止するように構成されている。スピットン3は、スピットン鉢およびコップ台を有する。スピットン3には、給水栓5等の機器が取り付けられている。無影灯4は、診療台2および給水栓5の側方に立設された支柱6と、支柱6に連結された複数のアーム部7とによって支持されている。無影灯4の側部を術者Aが把持して移動させることで、複数のアーム部7が自在に動き、無影灯4を所定の位置で停止させることができるようになっている。フットペダル8は、診療台2内の駆動機構に対して電気的に接続されている。
【0024】
歯科診療装置1は、術者Aが歯科診療を行うために、術者Aの側方近傍に配置されたトレーテーブル(術者用作業部)10を備える。トレーテーブル10は、診療台2の周囲における所定の範囲を移動自在に構成されている。トレーテーブル10は、たとえばベース部9に対して取付けられている。歯科診療装置1は、一例としてフロアマウント式の装置であるが、トレーテーブル10の取付け形態は、フロアマウント式に限定されない。
【0025】
トレーテーブル10は、ベース部9に水平移動可能に連結された第1アーム部12と、関節部14を介して第1アーム部12に垂直方向に移動可能に連結された第2アーム部13と、第2アーム部13に連結され水平に平衡を保って保持されたテーブル部11とを有する。テーブル部11の側部に取り付けられたハンドル16を術者Aが把持してテーブル部11を移動させ、第1アーム部12および第2アーム部13等が自在に動くことで、テーブル部11を所定の位置で停止させることができるようになっている。テーブル部11の可動範囲は、第1アーム部12および第2アーム部13のそれぞれの長さと回動範囲等によって決まる。テーブル部11の可動範囲は、術者Aの可動範囲(たとえば
図9(a),(b)参照)に十分に追随するように設定されている。テーブル部11は、術者Aが歯科診療に関わる物品を載置するために使用される。テーブル部11は、水平な姿勢を維持する載置面11aを含む。
【0026】
図2および
図4に示されるように、トレーテーブル10は、テーブル部11の筐体と一体的に設けられた操作部20と、操作部20の下方に取り付けられたインスツルメント部30とを有する。操作部20は、術者Aによって操作される部分である。操作部20の操作により、例えば、診療台2の昇降、背板の傾動及びこれらの2つの制御を組み合わせて記憶させた位置や姿勢を呼び出す診療台2の位置制御、又は無影灯の制御等を行える。本実施形態の操作部20は、術者Aによって操作される操作パネル21を含むが、この操作パネル21以外にも、たとえば歯科診療に関する情報を表示するディスプレイ(表示部)22を含む。歯科診療に関する情報は、後述する歯科用インスツルメント32における水および空気の設定流量に関する情報を含む。
【0027】
操作部20は、1つの平面からなり操作部20の表面を構成する操作面20aを有する。この操作面20aは、操作パネル21を含む。ディスプレイ22は、操作面20aに沿って設けられている。ディスプレイ22の表示面(表面)は、操作パネル21に隣接しており、操作パネル21と面一である。なお、トレーテーブル10では、操作部20の側方にハンドル16が設けられているが、ハンドル16の形態(取付け位置等)はこれに限定されない。ハンドル16が省略されてもよい。
【0028】
図4に示されるように、インスツルメント部30は、操作部20の下面に取り付けられている。インスツルメント部30は、複数の歯科用インスツルメント32と、歯科用インスツルメント32を保持する複数のインスツルメントホルダ31とを有する。より詳細には、インスツルメント部30は、1本のエアタービンハンドピース32Aと、1本のマイクロモータハンドピース32Bと、1本のスケーラハンドピース32Cと、1本のスリーウェイシリンジ32Dとを有する。各歯科用インスツルメント32の未使用時において、エアタービンハンドピース32Aは第1ホルダ31Aに保持され、マイクロモータハンドピース32Bは第2ホルダ31Bに保持され、スケーラハンドピース32Cは第3ホルダ31Cに保持され、スリーウェイシリンジ32Dは第4ホルダ31Dに保持される。本明細書において、4種類の歯科用インスツルメントを総称して歯科用インスツルメント32と呼ぶことがある。また、4つのホルダを総称してインスツルメントホルダ31と呼ぶことがある。なお、歯科用インスツルメント32の本数およびインスツルメントホルダ31の個数は、上記の例に限られない。インスツルメント部30は、1本のみの歯科用インスツルメント32および1つのみのインスツルメントホルダ31を有してもよいし、これらの組が2つ、3つ又は5つ以上備えられてもよい。
【0029】
複数の歯科用インスツルメント32とテーブル部11とは、歯科用インスツルメント32と同数のチューブによって接続されている。これらのチューブ内には、水の配管、空気の配管、および電源供給または信号のやり取りに関わる配線が収納されている。なお、トレーテーブル10に設けられた1つ又は複数の歯科用インスツルメント32は、チューブ式に限られず、その他の公知の形態をもって、テーブル部11に接続されていてもよい。
【0030】
各インスツルメントホルダ31には、各歯科用インスツルメント32が取り出されたことを検出する検出センサ33が設けられている。
図4に示す例では、第1ホルダ31Aに設けられた検出センサ33のみが示されているが、その他の第2ホルダ31B、第3ホルダ31C、および第4ホルダ31Dにも、同様の検出センサ33が設けられている。これらの図示は省略されている。各検出センサ33は、たとえば、マイクロスイッチ又はフォトセンサによって、歯科用インスツルメント32の取出しを検出できるように構成されている。
【0031】
各歯科用インスツルメント32は、術者Aによって使用されて、所定の設定流量で水(流体)を噴射するように構成されている。各歯科用インスツルメント32には、空気(エア)も供給される場合がある。
【0032】
複数の歯科用インスツルメント32に水を供給するための元の流路(上流側)には、比例制御弁62(
図3参照)が設けられている。この元の流路から分岐した複数の流路であって、複数の歯科用インスツルメント32に接続された複数の水の流路には、それぞれ注水電磁弁61(
図3参照)が設けられている。比例制御弁62は、供給される電流値を変えることによって、対応する歯科用インスツルメント32における注水量を調整(制御)可能である。注水電磁弁61は、水のON/OFF制御を行う。注水電磁弁61がONの場合にのみ、水が供給される。
【0033】
複数の歯科用インスツルメント32に空気を供給するための元の流路(上流側)には、比例制御弁が設けられてもよいが、空気管路には比例制御弁が設けられなくてもよい。この元の流路から分岐した複数の流路であって、複数の歯科用インスツルメント32に接続された複数の水の流路には、それぞれ注水電磁弁が設けられている。
【0034】
図3に示されるように、歯科診療装置1は、油圧サーボ71と、油圧モータ72と、オペライトLED73とを備える。油圧サーボ71は、座面シート2aの昇降や背もたれ2bの傾動を行う油圧管路を流れる油量を調整する。これにより、油圧サーボ71は、診療台2における各可動部の動作スピードの制御を行う。油圧モータ72は、上記の油圧管路に油を流すための動力源である。一方、オペライトLED73は、無影灯4に内蔵されている。オペライトLED73は、術者Aが歯科診療を行いやすいように、患者の口腔内を照らす。供給される電流値によって光量の調整が可能になっている。
【0035】
図5および
図6に戻り、操作部20の機能および構造について説明する。
図5に示されるように、操作パネル21には、診療台2の操作等に係る各種のスイッチ(記号)が設けられている。ディスプレイ22には、歯科診療に関する情報に対応する各種の記号が表示される。操作パネル21およびディスプレイ22の詳細な構成については、何ら限定されるものではないが、たとえば特開2018-149382号公報に記載されたのと同様の構成が適用されてもよい。
【0036】
歯科診療装置1では、術者Aの身体の一部から、術者を識別するための識別用情報を取得するカメラ(センサ)26が設けられている。カメラ26は、たとえば、広角レンズを含む顔認証用カメラであり、生体認証センサの一種である。カメラ26として、公知の顔認証技術に用いられる顔認証カメラが適用され得る。光学器械であるカメラ26は、撮影によって取得したデータを制御部50の画像処理部51に送付する。本実施形態では、カメラ26は、トレーテーブル10の操作部20に取り付けられている。より詳細には、カメラ26は、操作部20内に内蔵されている。カメラ26は、トレーテーブル10のいずれかの箇所に取り付けられていればよい。カメラ26が操作部20内に内蔵されていることで、後述する種々の利点が得られる。
【0037】
図5に示されるように、カメラ26は、例えば操作面20aを正面から見て右側の部分に取り付けられている。カメラ26は、操作パネル21およびディスプレイ22との干渉を避けた位置に設けられる。カメラ26の配置は、この例に限られない。カメラ26は、操作パネル21およびディスプレイ22の表示面(表面)の両方に隣接している。
【0038】
図6(a)および
図6(b)を参照して、操作部20の構造について詳細に説明する。操作部20の筐体20b内には、カメラ26を含むカメラモジュール28と、メンブレンスイッチ25と、液晶タッチパネル27と、制御基板29とが内蔵されている。板状のメンブレンスイッチ25は、操作パネル21とディスプレイ22の両方の領域にわたって設けられている。メンブレンスイッチ25の裏面側は、操作パネル押さえ23によって支持されている。液晶タッチパネル27の裏面側は、液晶押さえ27aによって支持されている。制御基板29は、液晶押さえ27aおよびカメラモジュール28の裏面側に配置されている。液晶タッチパネル27が配置された領域において、液晶押さえ27aと制御基板29との間には1つ又は複数のスペーサ29bが取り付けられている。またカメラモジュール28が配置された領域において、操作パネル押さえ23と制御基板29との間には、1つ又は複数のスペーサ29cが取り付けられている。制御基板29の裏面側には、複数の電子部品29aが実装されている。
【0039】
操作パネル押さえ23のうち、メンブレンスイッチ25が設けられた領域の外部に、カメラ用の円形の開口が形成されている。この開口に、カメラモジュール28のカメラ26が嵌め込まれている。メンブレンスイッチ25の表面と、メンブレンスイッチ25が設けられた領域の外部における操作パネル押さえ23の表面となる表面シート24の塗装部24aと、レンズ面26aの表面となるメンブレンスイッチ25の表面シート24の透明部24bと、液晶タッチパネル27の表面シート24の透明部24bは、面一に配置されている。これら全体を覆うようにして、たとえばハードコートポリエステル(硬質性透光部材)からなる表面シート24が設置されている。表面シート24は、カメラ26の表面および液晶タッチパネル27に対面する透明部24b(入光面)、メンブレンスイッチ25に対面する塗装部24aを有して、それらの表面領域にわたって一体で平面状に形成されている。なお、液晶タッチパネル27の表示は、表面シート24の表面の透明部24bおよび透明なメンブレンスイッチ25の一部を介して視認できる。
【0040】
図6(b)に示されるように、カメラ26のレンズ面26aおよび操作部20の一部をなすメンブレンスイッチ25の表面には、1枚の表面シート24が全面を覆って面一に形成されている。したがって、それらを覆う表面シート24は、操作面20aの全面にわたって一体で平坦な形状を有し、しかも1枚の表面シート24が全面を覆って面一に形成されているので、切れ目等はなく、段差も存在しない。このような構成になっているので、表面シート24の表面を清掃する際にも段差が障害となることなく容易に清掃できる。
【0041】
なお、メンブレンスイッチ25として、平面状の押圧スイッチ、タッチスイッチ、タッチパネル、タッチセンサであってもよい。また、上記実施例では、ディスプレイの例として液晶タッチパネル27を挙げて説明したが、ディスプレイとしては単に表示機能のみを有するフラットパネルディスプレイ(FPD)でもよい。フラットパネルディスプレイ(FPD)としては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ、発光ダイオード(LED)が並んで平板状にディスプレイを構成しているものであってもよい。
【0042】
図7に示されるように、操作面20aは、水平方向に対して鋭角である角度θをなすように、傾斜して設けられている。角度θは、たとえば、20°以上70°以下の範囲内の角度であってよい。角度θは、テーブル部11の高さ及び移動範囲と、術者用椅子Cの高さ及び位置等に基づいて、術者Aの頭部Aaが視野Bに含まれやすいように設定され得る。これにより、カメラ26は、トレーテーブル10のテーブル部11を基準として斜め上方に向けられた視野B(
図9および
図10参照)を有する。さらには、カメラ26は、その視野Bに、術者用椅子Cに着座した術者Aの頭部Aaが含まれるように設置されている。上記した角度θ、カメラ26の位置および高さ、視野角等が考慮されて、カメラ26の視野Bに、術者用椅子Cに着座した術者Aの頭部Aaが含まれる。
【0043】
なお、
図6や
図7においては、表面シート24が1枚のシートで構成され、カメラ26、メンブレンスイッチ25、液晶タッチパネル27の全ての表面を覆っているが、別々の表面シートで覆っていてもよいし、また、カメラ26のレンズ面26aは、表面シート24で覆われていなくて表面に露出していてもよい。これらの表面が面一になるように構成しておればよく、面一な表面に構成してあれば、払拭等スムーズな清掃を支障なく行える。従って、面一となるカメラ入光面とは、レンズ面26aの場合もあれば表面シート24の透明部24bである場合もある。面一となるメンブレンスイッチ25についてもメンブレンスイッチ25のみが表面に露出している場合もあれば、表面シート24がメンブレンスイッチ25の表面を覆っている場合も含まれる。さらに、面一となるディスプレイ22として液晶タッチパネル27のようなフラットパネルディスプレイのみが表面に露出している場合もあれば、表面が表面シートで覆われている場合もある。本明細書における「面一」とは、「各部の最外層が面一」であることを意味し、これらを含む概念である。
【0044】
図3に戻り、歯科診療装置1は、カメラ26によって取得された識別用情報に基づいて所定の処理を実行し、インスツルメント部30の歯科用インスツルメント32および診療台2を駆動制御する制御部50と、術者Aの顔画像情報を含む術者情報56および術者Aに対応する水および空気の設定流量を記憶する治療設定情報57を含む記憶部55とを備えている。制御部50および記憶部55は、CPU(プロセッサ)、ROM、RAM、メモリ、ハードディスク等を備えたコンピュータとして構成されている。制御部50は、カメラ26が取得した識別用情報に基づいて画像処理を実行する画像処理部51と、画像処理部51によって生成された顔画像情報と術者情報56に記憶された顔画像情報とを比較することにより、たとえばパターンマッチング等を行って術者Aを識別する術者識別部52と、術者識別部52によって識別された術者Aに応じて診療台2および/または歯科用インスツルメント32を制御する駆動制御部53と、を有する。
【0045】
画像処理部51は、撮影によって取得した画像情報(画像データ)から人データを抽出する。画像処理部51は、人データ、より詳細には顔画像情報を術者識別部52へ送付する。術者識別部52は、画像処理部51より送付された人データと、術者情報56に記憶された術者情報とを比較照合することで、術者Aの識別を行う。駆動制御部53は、識別された術者に係る情報を用いて、治療設定情報57より、治療設定情報を読み出す。駆動制御部53は、読み出した治療設定情報を用いて、アクチュエータを制御する。
【0046】
駆動制御部53は、より詳細には、術者識別部52によって識別された術者Aに応じて比例制御弁62を制御することで、術者Aに対応する設定流量で歯科用インスツルメント32から水および空気を噴射させる。
【0047】
術者情報56は、登録された複数の術者A(歯科医)の人データで構成されるライブラリである。また治療設定情報57は、たとえば、注水量設定、チェアポジション設定、チェア動作スピード設定、モータ回転数設定、スケーラパワー設定、オペライト光量設定等を含む。注水量設定は、術者A毎に、および、歯科用インスツルメント32毎に設定された注水量の設定である。チェアポジション設定は、術者A毎に設定されている診療台2の姿勢(高さや傾き)のオート位置設定である。チェア動作スピード設定は、術者A毎に設定されている診療台2の動作時のスピードの設定である。モータ回転数設定は、術者A毎に設定されているマイクロモータハンドピース32Bの回転数の設定である。スケーラパワー設定は、術者A毎に設定されているスケーラハンドピース32Cの駆動パワーの設定である。オペライト光量設定は、術者A毎に設定された、術者Aが診療しやすいような無影灯4の明るさの設定である。
【0048】
続いて、
図8を参照して、制御部50における術者識別に関する処理フローについて説明する。まず、カメラ26が撮影を実行する(ステップS01)。カメラ26は、歯科診療装置1の電源がオンされたことをトリガとして、一定時間ごとに撮影を行ってもよいが、たとえば術者Aが腰かける術者用椅子(
図10の符号C参照)への着座を検出する検出信号のトリガとしてもよいし、術者Aによるフットペダル8または操作パネル21への操作が行われたことをトリガとして、一定時間ごとに撮影を行ってもよい。次に、画像処理部51が、画像処理を実行し(ステップS02)、生成された画像データに基づいて、術者識別部52が術者Aを識別する。術者識別部52が術者Aを識別した場合であって(ステップS03:YES)、術者情報56に当該術者Aの登録情報があった場合は(ステップS04:YES)、駆動制御部53が、ディスプレイ22に術者Aの名前を表示させる(ステップS05)。
【0049】
このとき、ディスプレイ22には、術者Aに対し、ディスプレイ22の表示を確認することを促すメッセージ等が表示されてもよい。たとえば、駆動制御部53は、ディスプレイ22に、「術者名は正しいですか?」等のメッセージを表示させ、術者Aに対して「YES/NO」または「正しい/誤っている」等の入力を促す(ステップS06)。続いて、術者Aによって、術者名が正しいことを確認した旨の操作が行われる(ステップS07)。駆動制御部53は、ディスプレイ22に、術者Aに応じた治療設定情報を表示させる(ステップS08)。具体的には、水および/または空気の設定流量がディスプレイ22に表示される。
【0050】
このとき、ディスプレイ22には、術者Aに対し、ディスプレイ22の表示を確認することを促すメッセージ等が表示されてもよい。たとえば、駆動制御部53は、ディスプレイ22に、「設定流量は適切ですか?」等のメッセージを表示させ、術者Aに対して「YES/NO」または「適切/不適」等の入力を促す(ステップS09)。続いて、術者Aによって、設定流量が適切であることを確認した旨の操作が行われると(ステップS09;YES)、駆動制御部53は、術者Aに応じた設定流量(治療設定情報)を設定する(ステップS10)。一方、術者Aによって、設定流量が不適切である旨の操作が行われると(ステップS09;NO)、駆動制御部53は、術者Aに対し、ディスプレイ22を通じて設定流量(治療設定情報)の訂正を促す(ステップS11)。以上の一連のフローを経て、制御部50は、術者Aの識別を行う。
【0051】
続いて、本実施形態における歯科用インスツルメント32のピックアップ時のフローについて説明する。本実施形態では、比例制御弁62を用いることにより、歯科用インスツルメント32の注水量等の媒体の供給量を、各術者Aが希望する値に設定にすることができる。より詳細には、本実施形態では、媒体の流量や歯科用インスツルメント32における駆動速度等を制御することができる。なお、これらの制御は、媒体供給開始時点からの時間に応じて変化するように設定することも可能である。これらの術者毎に設定された値は、治療設定情報57に記憶されており、呼び出し操作によって、術者毎、かつ、歯科治療用インスツルメント毎の設定値として、ディスプレイ22に表示され得る。術者毎に設定されたこれらの値は、変更することもできる。また、患者や施術内容との組み合わせにも適応できるように、これらの設定値が治療設定情報57に記憶されていてもよい。患者や施術内容との組み合わせにも適応できるように、設定値が表示され、変更できるように、装置が構成されてもよい。
【0052】
図11は、複数種類の歯科用インスツルメント32、それらに接続された配管、および弁類を示す配管系統図である。
図12は、制御部50における流量制御に関する処理フローの一例を示す図である。
図12に示される流量制御に関する処理フローは、
図8に示される術者識別に関する処理フローとは別に実施される。なお、
図12に示される流量制御に関する処理フローが、
図8に示される術者識別に関する処理フローの後に、一連のフローとして実施されてもよい。
【0053】
図11に示されるように、歯科診療装置1は、水の流路である水ラインL1と、空気の流路である空気ラインL2とを備える。水ラインL1は、たとえばスピットン3およびトレーテーブル10の内部に設置されている。水ラインL1の上流端は、水源に接続されている。水ラインL1の上流側には、たとえば、コップ給水制御弁等を含む各種の弁類、水の温度を調整するウォーマ、および水の除菌を行うための除菌フィルタ等が設けられている。本明細書において、「ライン」とは、内部を流体が流れる配管、または流路を意味する。
【0054】
水ラインL1は、複数の分岐ラインに分岐している。水ラインL1は、たとえば、分岐点65の下流側において、エアタービンハンドピース32Aへと接続される第1分岐ラインL1A、マイクロモータハンドピース32Bへと接続される第2分岐ラインL1B、スケーラハンドピース32Cへと接続される第3分岐ラインL1C、および、スリーウェイシリンジ32Dへと接続される第4分岐ラインL1Dに分岐している。第1分岐ラインL1A、第2分岐ラインL1B、および第3分岐ラインL1Cの上流側であって、分岐点65とこれらの分岐ラインとの間の流路には、エアタービンハンドピース32A、マイクロモータハンドピース32B、およびスケーラハンドピース32Cへと供給される水の流量を調整可能な比例制御弁62が設けられている。さらに、第1分岐ラインL1A、第2分岐ラインL1B、および第3分岐ラインL1Cには、これらの流路を流れる水のON/OFF制御を行う第1注水電磁弁61A、第2注水電磁弁61B、および第3注水電磁弁61Cが設けられている。本明細書において、複数の注水電磁弁を総称して注水電磁弁61と呼ぶことがある。
【0055】
第1分岐ラインL1A、第2分岐ラインL1B、第3分岐ラインL1C、および第4分岐ラインL1Dは、各歯科用インスツルメント32に接続される第1チューブ34A、第2チューブ34B、第3チューブ34C、および第4チューブ34Dの内部をそれぞれ通っている。第1チューブ34A、第2チューブ34B、第3チューブ34C、および第4チューブ34Dの上流側には、第1接続部35A、第2接続部35B、第3接続部35C、および第4接続部35Dが設けられている。比例制御弁62は、分岐点65と接続部35A,35B,35Cとの間に設けられている。各注水電磁弁61は、比例制御弁62と各接続部との間に設けられている。
【0056】
空気ラインL2は、複数の分岐ラインに分岐している。空気ラインL2は、たとえば、分岐点66の下流側において、エアタービンハンドピース32Aへと接続される第1分岐ラインL2A、マイクロモータハンドピース32Bへと接続される第2分岐ラインL2B、および、スリーウェイシリンジ32Dへと接続される第4分岐ラインL2Dに分岐している。スケーラハンドピース32Cへは、空気ラインは接続されていない。第1分岐ラインL2Aおよび第2分岐ラインL2Bには、これらの流路を流れる空気のON/OFF制御を行う第1空気供給電磁弁63Aおよび第2空気供給電磁弁63Bが設けられている。本明細書において、複数の空気供給電磁弁を総称して空気供給電磁弁63と呼ぶことがある。なお、第1分岐ラインL2Aおよび第2分岐ラインL2Bの上流側であって、分岐点66とこれらの分岐ラインとの間の流路に、エアタービンハンドピース32Aおよびマイクロモータハンドピース32Bへと供給される空気の流量を調整可能な比例制御弁が設けられてもよい。
【0057】
第1分岐ラインL2A、第2分岐ラインL2B、および第4分岐ラインL2Dは、各歯科用インスツルメント32に接続される第1チューブ34A、第2チューブ34B、および第4チューブ34Dの内部をそれぞれ通っている。各空気供給電磁弁63は、分岐点66と接続部35A,35Bとの間に設けられている。
【0058】
上記したように、1つの特定の歯科用インスツルメント32に対し、水の流量調整が必要な場合には、1つの注水電磁弁61が設けられている。1つの特定の歯科用インスツルメント32に対し、空気の流量調整が必要な場合には、1つの空気供給電磁弁63が設けられている。水の流量を調整可能な1つの比例制御弁62が、水の流量調整を必要とする複数の歯科用インスツルメント32に対して共通に設けられている。空気の流量を調整可能な1つの比例制御弁が、空気の流量調整を必要とする複数の歯科用インスツルメント32に対して共通に設けられていてもよい。注水電磁弁61(詳細には第1注水電磁弁61A、第2注水電磁弁61B、および第3注水電磁弁61C)と、比例制御弁62と、空気供給電磁弁63(詳細には第1空気供給電磁弁63Aおよび第2空気供給電磁弁63B)とによって、複数の(この例では4つの)歯科用インスツルメント32に対する水の流量(注水量)および空気の流量(空気供給量)を制御する水エア制御部60が構成されている。
【0059】
制御部50の駆動制御部53は、インスツルメントホルダ31に内蔵された検出センサ33によって特定の歯科用インスツルメント32の取出しが検出されると、その歯科用インスツルメント32に接続された流路上の注水電磁弁61および空気供給電磁弁63をONにする(すなわち開く)よう、注水電磁弁61および空気供給電磁弁63を制御する。制御部50の駆動制御部53は、取出しが検出されない歯科用インスツルメント32に接続された流路上の注水電磁弁61および空気供給電磁弁63をOFFにする(すなわち閉じる)よう、注水電磁弁61および空気供給電磁弁63を制御する。
【0060】
図12を参照して、制御部50における流量制御に関する処理フローについて説明する。この処理フローが実行される際には、
図8に示される術者識別に関する処理フローは終了しており、特定の術者Aが識別された状態になっている。以下、その術者Aを「診療を行っている術者A」という。まず、駆動制御部53は、インスツルメントホルダ31の検出センサ33から受け取った検出信号に基づき、いずれかの歯科用インスツルメント32が取り出されたか否か、すなわちピックアップされたか否かを判断する(ステップS21)。駆動制御部53は、いずれの歯科用インスツルメント32も取り出されていないと判断すると(ステップS21;NO)、駆動制御部53は、ステップS21の判断を繰り返す。駆動制御部53は、いずれかの歯科用インスツルメント32が取り出されたと判断すると(ステップS21;YES)、その特定の歯科用インスツルメント32(以下、「使用されている歯科用インスツルメント32」という)の制御内容が表示されているか否かを判断する(ステップS22)。ここで、「制御内容」とは、歯科用インスツルメント32の種類と、その歯科用インスツルメント32に対する注水量および空気供給量とを含む。
【0061】
使用されている歯科用インスツルメント32の制御内容が表示されていないと判断すると(ステップS22;NO)、駆動制御部53は、治療設定情報57に記憶された注水量に関する設定情報を参照し、診療を行っている術者Aに対応し、かつ、使用されている歯科用インスツルメント32に対応する注水量を読み出し(ステップS23)、その注水量をディスプレイ22に表示させる(ステップS24)。その後、処理はステップS25に移行する。
【0062】
使用されている歯科用インスツルメント32の制御内容が表示されていると判断すると(ステップS22;YES)、駆動制御部53は、フットペダル8から受け取った検出信号に基づき、フットペダル8がONであるか否かを判断する(ステップS25)。フットペダル8がOFFであると判断すると(ステップS25;NO)、駆動制御部53は、ステップS25の判断を繰り返す。この処理は、術者Aがフットペダル8をONにしたことを示す操作信号を駆動制御部53が待つフローである。フットペダル8がONであると判断すると(ステップS25;YES)、駆動制御部53は、使用されている歯科用インスツルメント32に対応する比例制御弁62を開く(ステップS26)と共に、使用されている歯科用インスツルメント32に対応する注水電磁弁61をONにする(ステップS27)。駆動制御部53は、空気供給電磁弁63に対しても、ステップS27と同様の制御を実行する。
【0063】
ステップS26,S27において、駆動制御部53は、比例制御弁62に供給する電流値を所定値に合わせることにより、使用されている歯科用インスツルメント32に対応した注水量で水が噴射されるように制御を行う。この所定値は、治療設定情報57に記憶された、診療を行っている術者Aに対応し、かつ、使用されている歯科用インスツルメント32に対応する値である。なお、使用されている歯科用インスツルメント32が、水および/または空気の流量制御を必要としない種類のものである場合は、駆動制御部53は、比例制御弁の制御を行わない。
【0064】
駆動制御部53は、フットペダル8から受け取った検出信号に基づき、フットペダル8がOFFであるか否かを判断する(ステップS28)。フットペダル8がONであると判断すると(ステップS28;NO)、駆動制御部53は、ステップS28の判断を繰り返す。この処理は、術者Aがフットペダル8をOFFにしたことを示す操作信号を駆動制御部53が待つフローである。フットペダル8がOFFであると判断すると(ステップS28;YES)、駆動制御部53は、使用されている歯科用インスツルメント32に対応する注水電磁弁61をOFFにする(ステップS29)と共に、使用されている歯科用インスツルメント32に対応する注水電磁弁61を閉じる(ステップS30)。駆動制御部53は、空気供給電磁弁63に対しても、ステップS29と同様の制御を実行する。以上の一連のフローを経て、制御部50は、注水量および空気供給量の制御を行う。
【0065】
本実施形態の歯科診療装置1によれば、カメラ26によって、術者Aの頭部Aaから識別用情報が取得され、術者識別部52によって、術者Aが識別される。さらに、制御部50の駆動制御部53によって、流体の流路に設けられた比例制御弁62が制御され、識別された術者Aに対応する設定流量にて、歯科用インスツルメント32から流体が噴射される。このように、センサおよび術者識別部52による術者の識別と、その識別結果に基づく比例制御弁62の制御との協働によって、術者Aにとっての最適な又は所望の流量が自動的に実現される。この歯科診療装置1によれば、流体を噴射させる歯科用インスツルメント32に関し、術者に応じた自動流量制御が可能となる。歯科用インスツルメント32から噴射される流体の流量に関しては、術者ひとりひとりによって、適切とされる流量が異なり得る。しかも、所定の設定流量は、術者に応じて微妙に相違するので、これを逐一手動で調整することは手間を要する。本実施形態の歯科診療装置1によれば、術者の自動的な識別とそれに連動した流量設定が行われるので、利便性が向上している。
【0066】
歯科診療装置1は、術者Aに対応する流体の設定流量を記憶する記憶部55を備える。記憶部55に記憶された流体の設定流量を読み出すことで、術者Aに応じた自動流量制御が可能となる。
【0067】
記憶部55が、複数の歯科用インスツルメント32のそれぞれに対応する流体の設定流量を記憶している。複数の歯科用インスツルメント32を備える歯科診療装置1において、術者Aに応じ、かつ、歯科用インスツルメント32に応じた自動流量制御が可能となる。
【0068】
歯科診療装置1は、術者Aに関する情報および/または設定流量に関する情報を表示するディスプレイ22を備える。術者Aは、ディスプレイ22を介して、術者Aの識別結果および/または設定流量が適切になっているかを確認することができる。識別結果に誤りがあることが判明した場合には、再度センサに識別用情報を取得させたり、または、設定流量を入力したりすることができ、適切な条件にて歯科診療を行うことが可能となる。
【0069】
カメラ26等の生体認証センサによれば、術者Aを確実かつ容易に識別することができる。
【0070】
歯科診療装置1は、術者Aが歯科診療に関わる作業を行うために術者Aの側方近傍に配置されるトレーテーブル10(術者用作業部)を備え、カメラ26は、術者用作業部に取り付けられている。テーブル部11の位置は、人間光学を考慮して、術者A(歯科医)の利き腕が自然にストレスなく延びる位置に配置される。術者Aは、術者用作業部に近寄ることになる。術者用作業部にカメラ26が取り付けられているので、術者Aの近くに配置されたカメラ26は、術者Aから識別用情報を取得することができる。よって、術者Aを識別するために特別な操作等を行う必要がなく、診療の際の自然な行動または作業の間に、術者Aが識別される。したがって、煩わしい操作等を必要とせず、術者を容易に識別することができる。
【0071】
術者用作業部は、歯科用インスツルメント32を保持するインスツルメントホルダ31を有する。歯科診療を行う術者Aが、インスツルメントホルダ31から歯科用インスツルメント32を取り出すとき、またはインスツルメントホルダに歯科用インスツルメントを保持させるときに、術者Aが自動的に識別される。よって、確実かつ自然に、術者Aを識別することができる。
【0072】
比例制御弁62は、エアタービンハンドピース32Aに接続された水の流路に設けられて注水量を調整可能である。術者Aがエアタービンハンドピース32Aを使用する際における、自動注水量制御が可能となる。
【0073】
比例制御弁62は、マイクロモータハンドピース32Bに接続された水および空気の少なくともいずれか一方の流路に設けられて注水量および空気量の少なくともいずれか一方を調整可能である。術者Aがマイクロモータハンドピース32Bを使用する際における、自動注水量制御および自動空気量制御の少なくとも一方が可能となる。
【0074】
歯科診療装置1は、歯科用インスツルメント32を保持するインスツルメントホルダ31と、インスツルメントホルダ31に設けられ、歯科用インスツルメントが取り出されたことを検出する検出センサ33と、を備える。制御部50は、検出センサ33からの検出信号と術者識別部52における術者の識別結果とに基づいて、歯科用インスツルメント32から噴射させる流体の設定流量を制御する。複数の歯科用インスツルメント32を備える歯科診療装置1において、取り出された歯科用インスツルメント32の種類を検出可能である。よって、術者Aが特別な入力操作等を行うことなく、術者Aおよび歯科用インスツルメント32の両方に応じた自動流量制御が可能となる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。たとえば、制御部は、術者および歯科用インスツルメントの両方に対応する設定流量の値の入力を受け付ける設定値受付部を有してもよい。この構成によれば、たとえば、術者の識別が適切に行われない等の理由により、術者に対応する設定流量を読み出せない場合等に、設定流量の入力が可能となる。それ以降、同じ術者が診療を行う場合に、あるいは、同じ歯科用インスツルメントを使用する場合に、歯科診療装置の利便性が高められる。
【0076】
センサは、虹彩認証用カメラであってもよい。虹彩認証用カメラが適用される場合も、操作面20aは、水平方向に対して鋭角である角度をなすように、傾斜して設けられる。虹彩認証用カメラは、トレーテーブル10のテーブル部11を基準として斜め上方に向けられた視野を有する。さらには、虹彩認証用カメラは、その視野に、術者用椅子Cに着座した術者Aの頭部Aaが含まれるように設置されている。上記した角度、虹彩認証用カメラの位置および高さ、視野角等が考慮されて、虹彩認証用カメラの視野に、術者用椅子Cに着座した術者Aの頭部Aaが含まれる。センサは、そのセンサ面が術者用作業部の表面に露出するように設けられた指紋認証センサまたは静脈認証センサであってもよい。この場合、術者が、術者用作業部の表面に露出するセンサ面に触れることで、指紋または静脈といった識別用情報を取得することができる。センサとして、上述した各種のカメラまたはセンサを含め、あらゆる生体認証センサが適用され得る。指紋認証センサにおいては、顔認証用カメラ26と同様に指紋認証センサ用カメラの入光面(不図示)が操作部20の操作面20aに露出して構成されていてもよいし、表面シート24を介して備えられていてもよい。また、静脈認証用センサにおいては、操作部20に指を入れる指挿入部(不図示)を設けて指挿入部に設けた赤外光照射部(不図示)から指に赤外光を照射して操作部内部に設けた静脈認証センサ用カメラで指を透過した静脈像を検出する検出部(不図示)を備えるので、指を置くまたは挿入する箇所にこれらのカメラの入光面が設けられる。これらセンサの入光面はメンブレンスイッチと面一となって構成することができる。
【0077】
センサは、歯科診療装置1のどの部分に設けられてもよい。センサは、歯科診療装置1の主要部分(診療台2の近傍に設置されたスピットン3、無影灯4、支柱6、アーム部7、またはトレーテーブル10等)に設けられる場合に限られず、別の箇所に設けられてもよい。歯科診療装置1は、操作部を保持するアーム部が診療台2の基部から延びるフロアマウント式の診療装置である形態に限られず、たとえば、操作部を保持するアーム部が診療台2の上方に延びるオーバーアーム式の診療装置であってもよいし、操作部を保持するアーム部が診療台2の座部から延びるチェアマウント式の診療装置であってもよい。あるいは、歯科診療装置1は、診療台2からは独立して配置されて台車の下部にキャスターが設けられた可動式すなわちモービル式の歯科診療装置であってもよい。往診または訪問診療等に用いられるポータブルユニットに、本発明が適用されてもよい。その場合、操作面上または操作部内に、センサが取り付けられてもよい。
【0078】
表示部は、上記実施形態のような操作部20に一体化されたディスプレイ22である形態に限られない。表示部は、たとえば、操作部20から独立して設けられた液晶ディスプレイ等であってもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…歯科診療装置、2…診療台、10…トレーテーブル(術者用作業部)、11…テーブル部、20…操作部、20a…操作面、21…操作パネル、22…ディスプレイ(表示部)、24…表面シート、24b…透明部(入光面)、25…メンブレンスイッチ、26…カメラ(センサ)、26a…レンズ面(入光面)、28…カメラモジュール、31…インスツルメントホルダ、50…制御部、51…画像処理部、52…術者識別部、53…駆動制御部、55…記憶部、56…術者情報、57…治療設定情報、61…注水電磁弁、62…比例制御弁、A…術者、B…視野、C…術者用椅子。