(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20230227BHJP
H01G 9/00 20060101ALI20230227BHJP
【FI】
H01G9/028 G
H01G9/00 290H
(21)【出願番号】P 2018558860
(86)(22)【出願日】2017-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2017039498
(87)【国際公開番号】W WO2018123255
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2016256146
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 斉
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 寛
【審査官】鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-287182(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185522(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/091656(WO,A1)
【文献】特表2011-527513(JP,A)
【文献】特開2014-067949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/00
H01G 9/02-9/035
H01G 9/07-9/18
H01G 9/21-9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体と、前記陽極体上に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に形成された固体電解質層とを備え、
前記固体電解質層は、導電性高分子と、ポリアニオンと、無機アルカリ化合物と、有機アルカリ化合物とを含む
(ただし、前記導電性高分子がスルホン酸基またはカルボン酸基を有し、かつ前記有機アルカリ化合物が窒素原子を2つ以上有する場合を除く)、電解コンデンサ。
【請求項2】
前記無機アルカリ化合物は、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の電解コンデンサ。
【請求項3】
前記有機アルカリ化合物は、脂肪族アミンおよび環状アミンよりなる群から選択される少なくとも1種である
(ただし、前記有機アルカリ化合物が窒素原子を2つ以上有する場合を除く)、請求項1または2に記載の電解コンデンサ。
【請求項4】
誘電体層が形成された陽極体を準備する工程と、
導電性高分子と、ポリアニオンと、無機アルカリ化合物と、有機アルカリ化合物と、分散媒もしくは溶媒とを含む液状組成物
(ただし、前記導電性高分子がスルホン酸基またはカルボン酸基を有し、かつ前記有機アルカリ化合物が窒素原子を2つ以上有する場合を除く)を準備する工程と、
前記誘電体層上に前記液状組成物を付着させて固体電解質層を形成する工程とを含む、電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記無機アルカリ化合物は、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化カルシウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記有機アルカリ化合物は、脂肪族アミンおよび環状アミンよりなる群から選択される少なくとも1種である
(ただし、前記有機アルカリ化合物が、窒素原子を2つ以上有する場合を除く)、請求項4または5に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記液状組成物に含まれる前記無機アルカリ化合物と前記有機アルカリ化合物との総量を、前記液状組成物に含まれる前記導電性高分子と前記ポリアニオンとを含む導電性高分子複合体の中和当量の0.5倍以上1.2倍以下とする、請求項4~6のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記液状組成物に含まれる前記有機アルカリ化合物の総量を、前記導電性高分子と前記ポリアニオンとを含む導電性高分子複合体の中和当量の0.35倍以上0.6倍未満とする、請求項4~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記液状組成物のpHが8未満である、請求項4~8のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子を含む固体電解質層を備える電解コンデンサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ大容量で等価直列抵抗(ESR)の小さいコンデンサとして、陽極体と、陽極体上に形成された誘電体層と、誘電体層上に形成されるとともに導電性高分子を含む固体電解質層と、を備えた電解コンデンサが有望視されている。
【0003】
特許文献1では、静電容量が大きく、低ESRの電解コンデンサを得るため、導電性高分子およびポリアニオンを含む固体電解質層に、アルカリ化合物を所定量含ませることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アルカリ化合物の種類によっては、耐電圧特性の低下や、高温環境下におけるESRの増大が生じる虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面は、陽極体と、前記陽極体上に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に形成された固体電解質層と、を備え、前記固体電解質層は、導電性高分子と、ポリアニオンと、アルカリ成分とを含み、前記アルカリ成分は、2種以上のアルカリ化合物を含む、電解コンデンサに関する。
【0007】
また、本発明の別の一局面は、誘電体層が形成された陽極体を準備する工程と、導電性高分子と、ポリアニオンと、アルカリ成分と、分散媒もしくは溶媒とを含む液状組成物を準備する工程と、前記誘電体層上に前記液状組成物を付着させて固体電解質層を形成する工程とを含み、前記アルカリ成分は、2種以上のアルカリ化合物を含む、電解コンデンサの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐電圧特性に優れ、かつ、高温環境下でも低ESRが維持される電解コンデンサおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[電解コンデンサ]
本発明の実施形態に係る電解コンデンサは、陽極体と、陽極体上に形成された誘電体層と、誘電体層上に形成された固体電解質層とを備える。固体電解質層は、導電性高分子と、ポリアニオン(ドーパント)と、アルカリ成分とを含む。ポリアニオンは、通常、アニオン性基を含み、例えば酸性基もしくはその共役アニオン基を有する。よって、固体電解質層は酸性を呈しやすく、誘電体層が腐食しやすくなり、耐電圧特性が低下したり、ESRが増大したりすることがある。これに対し、アルカリ成分を固体電解質層に含ませることで、固体電解質層に含まれるポリアニオンによる誘電体層の腐食が抑制される。固体電解質層において、導電性高分子およびポリアニオンは導電性高分子複合体として含まれる。導電性高分子複合体とは、ポリアニオンがドープされた導電性高分子、もしくは、ポリアニオンと結合した導電性高分子をいう。
【0011】
アルカリ成分として、2種以上のアルカリ化合物を組み合わせて用いる。これにより、耐電圧特性が向上するとともに、高温環境下でも低ESRが維持される。2種以上のアルカリ化合物としては、無機アルカリ化合物と有機アルカリ化合物とを組み合わせて用いることが好ましい。この場合、無機アルカリ化合物または有機アルカリ化合物を単独で用いる場合よりも、耐電圧特性を高めることができるとともに、高温環境下でのESRの上昇を抑制することができる。
【0012】
無機アルカリ化合物を単独で用いる場合、高温環境下でのESRの上昇が抑制される傾向がある反面、耐電圧特性が低下することがある。有機アルカリ化合物を単独で用いる場合、耐電圧特性が向上する傾向がある反面、高温環境下でのESRの上昇が十分に抑制されないことがある。
【0013】
一方、無機アルカリ化合物と有機アルカリ化合物を組み合わせる場合、有機アルカリ化合物を単独で用いる場合と比べて、有機アルカリ化合物による耐電圧特性の向上効果を損なうことなく、無機アルカリ化合物による高温環境下でのESRの上昇抑制効果が得られる。場合によっては、耐電圧特性が更に向上する。
【0014】
また、有機アルカリ化合物と無機アルカリ化合物を組み合わせる場合、無機アルカリ化合物を単独で用いる場合と比べて、無機アルカリ化合物による高温環境下でのESRの上昇抑制効果を損なうことなく、有機アルカリ化合物による耐電圧特性の向上効果が得られる。場合によっては、高温環境下でのESRの上昇が更に抑制される。
【0015】
無機アルカリ化合物としては、アンモニア、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムのようなアルカリ金属を含む水酸化物、水酸化カルシウムのようなアルカリ土類金属を含む水酸化物などを用いることができる。無機アルカリ化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。耐電圧特性の向上および高温環境下でのESRの上昇抑制の観点から、なかでも、アンモニアが好ましい。
【0016】
耐電圧特性の向上および高温環境下でのESRの上昇抑制の観点から、有機アルカリ化合物としては、アミン化合物などが好ましい。アミン化合物は、1級アミン、2級アミン、3級アミンのいずれであってもよい。アミン化合物としては、脂肪族アミン、環状アミンなどが好ましい。アミン化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。耐電圧特性の向上および高温環境下でのESRの上昇抑制の観点から、アミン化合物は、N-H結合を有するアミンが好ましい。
【0017】
脂肪族アミンとしては、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N、N-ジメチルオクチルアミン、N,N-ジエチルオクチルアミンなどのアルキルアミン;エタノールアミン、2-エチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエトキシエタノールなどのアルカノールアミン;アリルアミン;N-エチルエチレンジアミン、1,8-ジアミノオクタンなどのアルキレンジアミンなどが例示できる。脂環族アミンとしては、例えば、アミノシクロヘキサン、ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミンなどが挙げられる。芳香族アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジンなどが挙げられる。耐電圧特性の向上および高温環境下でのESRの上昇抑制の観点から、なかでも、アルキルアミン、アルカノールアミンが好ましい。
【0018】
環状アミンとしては、ピロール、イミダゾリン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、トリアジンなどの5~8員(好ましくは5員または6員)の窒素含有環骨格を有する環状アミンが好ましい。環状アミンは、窒素含有環骨格を1つ有してもよく、2つ以上(例えば、2または3個)有してもよい。環状アミンが2つ以上の窒素含有環骨格を有する場合、窒素含有環骨格は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0019】
アミン化合物は、必要に応じて、置換基を有していてもよい。
【0020】
固体電解質層がアミン化合物を含むことは、例えば、ガスクロマグトラフィー(GC)により分析することができる。
【0021】
導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが好ましい。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。なお、本明細書では、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどは、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどを基本骨格とする高分子を意味する。したがって、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどには、それぞれの誘導体も含まれ得る。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などが含まれる。
【0022】
導電性高分子の重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1,000以上1,000,000以下である。
【0023】
ポリアニオンは、スルホン酸基、カルボキシ基、リン酸基、ホスホン酸基などのアニオン性基を有する。ポリアニオンは、アニオン性基を一種有してもよく、二種以上有してもよい。アニオン性基としては、スルホン酸基が好ましく、スルホン酸基とスルホン酸基以外のアニオン性基との組み合わせでもよい。
【0024】
ポリアニオンとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸などが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは単独重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。なかでも、ポリスチレンスルホン酸(PSS)が好ましい。
【0025】
ポリアニオンの重量平均分子量は、例えば、1,000以上1,000,000以下である。このような分子量を有するポリアニオンを用いると、ESRを低減し易い。
【0026】
固体電解質層に含まれるポリアニオンの量は、導電性高分子100質量部に対して、10質量部以上1,000質量部以下であることが好ましい。
【0027】
固体電解質層は、本発明の効果を損なわない範囲内で、更に他の成分を含んでもよい。
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属、弁作用金属を含む合金などを含む。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンが好ましく使用される。弁作用金属は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。陽極体は、例えば、エッチングなどにより弁作用金属を含む基材(箔状または板状の基材など)の表面を粗面化することで得られる。また、陽極体は、弁作用金属を含む粒子の成形体またはその焼結体でもよい。なお、焼結体は、多孔質構造を有する。すなわち、陽極体が焼結体である場合、陽極体の全体が多孔質となり得る。
(誘電体層)
誘電体層は、陽極体表面の弁作用金属を、化成処理などにより陽極酸化することで形成される。誘電体層は弁作用金属の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa2O5を含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl2O3を含む。尚、誘電体層はこれに限らず、誘電体として機能するものであればよい。陽極体の表面が多孔質である場合、誘電体層は、陽極体の表面(陽極体の孔やピットの内壁面を含む表面)に沿って形成される。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの構造を概略的に示す断面図である。
図1に示すように、電解コンデンサ1は、コンデンサ素子2と、コンデンサ素子2を封止する樹脂封止材3と、樹脂封止材3の外部にそれぞれ少なくともその一部が露出する陽極端子4および陰極端子5と、を備えている。陽極端子4および陰極端子5は、例えば銅または銅合金などの金属で構成することができる。樹脂封止材3は、ほぼ直方体の外形を有しており、電解コンデンサ1もほぼ直方体の外形を有している。樹脂封止材3の素材としては、例えばエポキシ樹脂を用いることができる。
【0029】
コンデンサ素子2は、陽極体6と、陽極体6を覆う誘電体層7と、誘電体層7を覆う陰極部8とを備える。陰極部8は、誘電体層7を覆う固体電解質層9と、固体電解質層9を覆う陰極引出層10とを備える。陰極引出層10は、カーボン層11および銀ペースト層12を有する。
【0030】
陽極体6は、陰極部8と対向する領域と、対向しない領域とを含む。陽極体6の陰極部8と対向しない領域のうち、陰極部8に隣接する部分には、陽極体6の表面を帯状に覆うように絶縁性の分離層13が形成され、陰極部8と陽極体6との接触が規制されている。陽極体6の陰極部8と対向しない領域のうち、他の一部は、陽極端子4と、溶接により電気的に接続されている。陰極端子5は、導電性接着剤により形成される接着層14を介して、陰極部8と電気的に接続している。
【0031】
陽極体6としては、弁作用金属を含む基材(箔状または板状の基材など)の表面が粗面化されたものが用いられる。例えば、アルミニウム箔の表面をエッチング処理により粗面化したものが用いられる。誘電体層7は、例えば、Al2O3のようなアルミニウム酸化物を含む。
【0032】
陽極端子4および陰極端子5の主面4Sおよび5Sは、樹脂封止材3の同じ面から露出している。この露出面は、電解コンデンサ1を搭載すべき基板(図示せず)との半田接続などに用いられる。
【0033】
カーボン層11は、導電性を有していればよく、例えば、黒鉛などの導電性炭素材料を用いて構成することができる。銀ペースト層12には、例えば、銀粉末とバインダ樹脂(エポキシ樹脂など)を含む組成物を用いることができる。なお、陰極引出層10の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。
【0034】
固体電解質層9は、誘電体層7を覆うように形成されている。固体電解質層9は、必ずしも誘電体層7の全体(表面全体)を覆う必要はなく、誘電体層7の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。
【0035】
誘電体層7は、陽極体6の表面(孔の内壁面を含む表面)に沿って形成される。誘電体層7の表面は、陽極体6の表面の形状に応じた凹凸形状が形成されている。固体電解質層9は、このような誘電体層7の凹凸を埋めるように形成されていることが好ましい。
【0036】
本発明の電解コンデンサは、上記構造の電解コンデンサに限定されず、様々な構造の電解コンデンサに適用することができる。具体的に、巻回型の電解コンデンサ、金属粉末の焼結体を陽極体として用いる電解コンデンサなどにも、本発明を適用できる。
[電解コンデンサの製造方法]
本発明の実施形態に係る電解コンデンサの製造方法は、誘電体層が形成された陽極体を準備する工程(第1工程)と、液状組成物を準備する工程(第2工程)と、誘電体層上に液状組成物を付着させて固体電解質層を形成する工程(第3工程)とを含む。液状組成物は、導電性高分子と、ポリアニオンと、アルカリ成分と、分散媒もしくは溶媒とを含む。アルカリ成分は2種以上のアルカリ化合物を含む。アルカリ成分は、無機アルカリ化合物と有機アルカリ化合物とを含むことが好ましい。電解コンデンサの製造方法は、第1工程に先立って、陽極体を準備する工程を含んでもよい。また、製造方法は、更に陰極引出層を形成する工程を含んでもよい。
【0037】
以下に、各工程についてより詳細に説明する。
(陽極体を準備する工程)
この工程では、陽極体の種類に応じて、公知の方法により陽極体を形成する。
【0038】
陽極体は、例えば、弁作用金属を含む箔状または板状の基材の表面を粗面化することにより準備することができる。粗面化は、基材表面に凹凸を形成できればよく、例えば、基材表面をエッチング(例えば、電解エッチング)することにより行ってもよい。
【0039】
また、弁作用金属の粉末を用意し、この粉末の中に、棒状体の陽極リードの長手方向の一端側を埋め込んだ状態で、所望の形状(例えば、ブロック状)に成形された成形体を得る。この成形体を焼結することで、陽極リードの一端が埋め込まれた多孔質構造の陽極体を形成してもよい。
(誘電体層を形成する工程)
第1工程では、陽極体上に誘電体層を形成する。誘電体層は、陽極体を化成処理などにより陽極酸化することにより形成される。陽極酸化は、公知の方法、例えば、化成処理などにより行うことができる。化成処理は、例えば、陽極体を化成液中に浸漬することにより、陽極体の表面に化成液を含浸させ、陽極体をアノードとして、化成液中に浸漬したカソードとの間に電圧を印加することにより行うことができる。化成液としては、例えば、リン酸水溶液などを用いることが好ましい。
(液状組成物を調製する工程)
第2工程では、導電性高分子と、ポリアニオン(ドーパント)と、アルカリ成分と、分散媒もしくは溶媒とを含む液状組成物(第1液状組成物)を調製する。導電性高分子、ポリアニオン、アルカリ成分としては、上記で例示したものを用いることができる。液状組成物は、必要に応じて、更に他の成分を含んでもよい。
【0040】
液状組成物において、導電性高分子およびポリアニオンは、導電性高分子が、ポリアニオンをドープした、もしくは、ポリアニオンと結合した、導電性高分子複合体として含まれる。導電性高分子複合体は、例えば、分散媒(溶媒)およびポリアニオンの存在下で、導電性高分子の前駆体を酸化重合させることにより得ることができる。導電性高分子の前駆体としては、導電性高分子を構成するモノマー、および/またはモノマーがいくつか連なったオリゴマーなどが例示できる。
【0041】
液状組成物は、例えば、導電性高分子(複合体)の分散液(溶液)である。液状組成物中の導電性高分子(複合体)の粒子の平均粒径は、例えば、5nm以上800nm以下である。導電性高分子複合体の平均粒径は、例えば、動的光散乱法による粒径分布から求めることができる。
【0042】
液状組成物に用いられる分散媒(溶媒)としては、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの1価アルコール、エチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール、または、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、ベンゾニトリルなどの非プロトン性極性溶媒が挙げられる。
【0043】
アルカリ成分の添加量は、導電性高分子およびポリアニオンを含む導電性高分子複合体の中和当量の0.5倍以上1.2倍以下であることが好ましい。この場合、耐電圧特性が更に向上するとともに、高温環境下でのESRの上昇が更に抑制される。なお、上記のアルカリ成分の添加量は、導電性高分子複合体の中和に要するアルカリ成分の量に対する割合(倍率)として表される。例えば、導電性高分子複合体の中和当量の0.5倍であるとは、導電性高分子複合体の中和に要するアルカリ成分の量の50%に相当する量(モル量)であることを意味する。導電性高分子複合体の中和当量は、アルカリ成分を用いて導電性高分子複合体を中和滴定して中和滴定曲線を得た後、その中和滴定曲線の変曲点におけるアルカリ成分の滴定量より求めることができる。
【0044】
有機アルカリ化合物の添加量は、導電性高分子およびポリアニオンを含む導電性高分子複合体の中和当量の0.6倍未満であることが好ましく、0.55倍以下であることがより好ましく、0.35倍以上0.55倍以下であることが更に好ましい。この場合、耐電圧特性が更に向上するとともに、高温環境下でのESRの上昇が更に抑制される。
【0045】
液状組成物のpHは、好ましくは8未満であり、より好ましくは3以上5未満である。この場合、耐電圧特性が更に向上するとともに、高温環境下でのESRの上昇が更に抑制される。また、誘電体層の腐食も十分に抑制される。
(固体電解質層を形成する工程)
第3工程では、固体電解質層を、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成する。第3工程では、誘電体層上に上記で調製した液状組成物(第1液状組成物)を付着させて固体電解質層(第1導電性高分子層)を形成する。固体電解質層の形成工程は、例えば、誘電体層が形成された陽極体を液状組成物に浸漬するか、または誘電体層が形成された陽極体に液状組成物を塗布や滴下した後、乾燥する工程aを含む。工程aを複数回繰り返し行ってもよい。工程aを複数回繰り返し行う場合、少なくとも1回はアルカリ成分を含む第1液状組成物を用いる工程を含んでいればよく、アルカリ成分を含まない他の液状組成物(第1液状組成物からアルカリ成分を除いたもの)を用いる工程を含んでいてもよい。工程によって、使用する液状組成物中のアルカリ成分の量を変えてもよい。
【0046】
固体電解質層の形成工程では、更に、第1導電性高分子層を形成した後、第1導電性高分子層上に第2液状組成物を付着させて第2導電性高分子層を形成してもよい。例えば、第1導電性高分子層を第2液状組成物に浸漬するか、または第1導電性高分子層に第2液状組成物を塗布や滴下した後、乾燥する工程bを含んでもよい。工程bを複数回繰り返し行ってもよい。この場合、第1導電性高分子層および第2導電性高分子層を備える固体電解質層を形成することができる。
【0047】
第2液状組成物は、導電性高分子と、ポリアニオンと、分散媒(溶媒)とを含む。第2液状組成物に用いる導電性高分子、ポリアニオン、分散媒(溶媒)は、上記で例示したものを用いることができる。また、第2液状組成物は、第1液状組成物と、使用する導電性高分子などの各材料は、同じでもよく、異なっていてもよい。第2液状組成物は、アルカリ成分を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0048】
十分な厚みの固体電解質層(第2導電性高分子層)を形成するためには、第2導電性高分子層で用いる導電性高分子(複合体)の粒子の平均粒径は、第1導電性高分子層で用いる導電性高分子(複合体)の粒子の平均粒径よりも大きいことが好ましい。また、第2液状組成物では、第1液状組成物と比べて、導電性高分子(複合体)の固形分濃度が大きいものを用いてもよく、工程bの回数を増やしてもよい。
(陰極引出層を形成する工程)
この工程では、第3工程で得られた陽極体の(好ましくは形成された固体電解質層の)表面に、カーボン層と銀ペースト層とを順次積層することにより陰極引出層が形成される。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
下記の要領で、
図1に示す電解コンデンサ1を作製し、その特性を評価した。
(1)陽極体を準備する工程
基材としてアルミニウム箔(厚み100μm)を準備し、アルミニウム箔の表面にエッチング処理を施し、陽極体6を得た。
(2)誘電体層を形成する工程
陽極体6を濃度0.3質量%のリン酸溶液(液温70℃)に浸して70Vの直流電圧を20分間印加することにより、陽極体6の表面に酸化アルミニウム(Al
2O
3)を含む誘電体層7を形成した。その後、陽極体6の所定の箇所に絶縁性のレジストテープ(分離層13)を貼り付けた。
(3)第1導電性高分子層を形成する工程
導電性高分子複合体の分散液として、PEDOT/PSS水分散液(濃度2質量%、PEDOT/PSS粒子の平均粒子径400nm)を準備した。この分散液にアルカリ成分を添加し、第1液状組成物を調製した。アルカリ成分には、無機アルカリ化合物と有機アルカリ化合物とを組み合わせて用いた。無機アルカリ化合物にアンモニアを用い、有機アルカリ化合物にジエチルアミンを用いた。
【0050】
アンモニアの添加にはアンモニア水溶液(濃度30質量%)を用い、アンモニア水溶液の添加量は、PEDOT/PSS水分散液の100質量部あたり0.11質量部とした。すなわち、アンモニアの添加量は、PEDOT/PSSの中和当量の0.41倍とした。ジエチルアミンの添加量は、PEDOT/PSS水分散液の100質量部あたり0.18質量部とした。すなわち、ジエチルアミンの添加量は、PEDOT/PSSの中和当量の0.59倍とした。
【0051】
なお、表1に示すアルカリ化合物の添加量の値は、第1導電性高分子層の形成に用いたPEDOT/PSS水分散液(濃度2質量%)の100質量部あたりの量(質量部)を示す。また、無機アルカリ化合物がアンモニアである場合は、アンモニアの添加量は、アンモニア水(濃度30質量%)の添加量として示す。
【0052】
第1液状組成物(25℃)のpHは、3.4であった。後述する実施例および比較例についても、同様に、第1液状組成物のpHを測定した。
【0053】
誘電体層7が形成された陽極体6を、第1液状組成物に浸漬した後、120℃で10~30分間乾燥する工程を2回繰り返し行い、第1導電性高分子層を形成した。
(4)第2導電性高分子層を形成する工程
第1導電性高分子層が形成された陽極体を、第2液状組成物(PEDOT/PSS水分散液、濃度4質量%、PEDOT/PSS粒子の平均粒子径600nm)に浸漬した後、120℃で10~30分間乾燥する工程を4回繰り返し行い、第2導電性高分子層を形成した。
【0054】
このようにして、第1導電性高分子層と第2導電性高分子層とで構成される固体電解質層9を形成した。
(5)陰極引出層を形成する工程
固体電解質層9の表面に、黒鉛粒子を水に分散した分散液を塗布した後、大気中で乾燥して、第3導電性高分子層の表面にカーボン層11を形成した。
【0055】
次いで、カーボン層11の表面に、銀粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを含む銀ペーストを塗布した後、加熱してバインダ樹脂を硬化させ、銀ペースト層12を形成した。このようにして、カーボン層11と銀ペースト層12とで構成される陰極引出層10を形成した。このようにして、コンデンサ素子2を得た。
(7)電解コンデンサの組み立て
コンデンサ素子2に、更に、陽極端子4、陰極端子5、接着層14を配置し、樹脂封止材3で封止することにより、電解コンデンサを製造した。
《実施例2~4》
無機アルカリ化合物および有機アルカリ化合物として、表1に示す化合物を用いた。
【0056】
無機アルカリ化合物および有機アルカリ化合物の添加量を、表1に示す値とした。すなわち、無機アルカリ化合物の添加量は、PEDOT/PSSの中和当量の0.41倍とした。有機アルカリ化合物の添加量は、PEDOT/PSSの中和当量の0.59倍とした。
【0057】
上記以外、実施例1と同様に電解コンデンサを作製した。
《比較例1》
第1液状組成物の調製において、アルカリ成分を添加しない以外、実施例1と同様に電解コンデンサを作製した。
《比較例2~9》
アルカリ成分として、表1に示す無機アルカリ化合物または有機アルカリ化合物を用いた。
【0058】
無機アルカリ化合物または有機アルカリ化合物の添加量を、表1に示す値とした。すなわち、比較例2では、有機アルカリ化合物の添加量は、PEDOT/PSSの中和当量の1.00倍とした。比較例3および4では、無機アルカリ化合物の添加量は、PEDOT/PSSの中和当量の1.00倍とした。比較例5~9では、無機アルカリ化合物または有機アルカリ化合物の添加量は、PEDOT/PSSの中和当量の0.59倍とした。
【0059】
上記以外、実施例1と同様に電解コンデンサを作製した。
【0060】
上記で作製した実施例および比較例の電解コンデンサについて、以下の評価を行った。
[評価]
(a)耐電圧特性
電解コンデンサの電圧を1V/秒で昇圧し、電流値が0.5Aを超えた時の電圧値(V)を測定した。そして、測定した電圧値を、比較例2の電圧値を100としたときの相対値として算出し、耐電圧特性の評価指標とした。この値が大きいほど、耐電圧特性が高いことを示す。
(b)ESRの測定
まず、20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、電解コンデンサの周波数100kHzにおけるESR値(mΩ)を、初期のESR値(X0)として測定した。更に、高温環境下におけるESRの安定性を評価するために、145℃の温度にて、電解コンデンサに定格電圧を125時間印加した後、上記と同様の方法でESR値(X1)(mΩ)を測定した。そして、下記式よりESR(R)を求めた。
【0061】
ESR(R)=(X1/X0)×100
評価結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
実施例1~4では、高温放置後のESRが小さく、かつ、高い耐電圧特性を示した。無機アルカリ化合物を単独で用いた比較例3~5では、耐電圧特性が低下した。
【0064】
アンモニアおよびジエチルアミンを組み合わせて用いた実施例1では、アンモニアを単独で用いた比較例3および5や、ジエチルアミンを単独で用いた比較例2および6と比べて、高温放置後のESRが小さく、かつ、高い耐電圧特性を示した。
【0065】
アンモニアおよび各種有機アルカリ化合物を組み合わせて用いた実施例2~4では、各種有機アルカリ化合物を単独で用いた比較例7~9と比べて、耐電圧特性を損なうことなく、高温放置後のESRが小さくなった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る電解コンデンサは、優れた耐電圧特性および高温環境下での低ESRの維持が求められる様々な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1:電解コンデンサ、2:コンデンサ素子、3:樹脂封止材、4:陽極端子、5:陰極端子、6:陽極体、7:誘電体層、8:陰極部、9:固体電解質層、10:陰極引出層、11:カーボン層、12:銀ペースト層 、13:分離層、14:接着層