(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-24
(45)【発行日】2023-03-06
(54)【発明の名称】素子チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20230227BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20230227BHJP
B23K 26/351 20140101ALI20230227BHJP
【FI】
H01L21/78 L
H01L21/302 105A
H01L21/302 101C
H01L21/78 S
H01L21/78 B
B23K26/351
(21)【出願番号】P 2018107942
(22)【出願日】2018-06-05
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐崎 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】置田 尚吾
(72)【発明者】
【氏名】松原 功幸
(72)【発明者】
【氏名】針貝 篤史
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-006677(JP,A)
【文献】特開2018-085400(JP,A)
【文献】特開2006-245288(JP,A)
【文献】特開2010-270223(JP,A)
【文献】特開2017-163073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/3065
B23K 26/351
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持シートに保持された基板から、プラズマエッチングにより素子チップを製造する方法であって、
前記基板は、第1面と前記第1面とは反対側の第2面とを有し、前記第1面に形成された複数の素子領域と、前記素子領域を画定する分割領域を有しており、
前記素子チップの製造方法は、
前記保持シートに、前記第2面側から保持された前記基板を準備する準備工程と、
水溶性樹脂と溶媒とを含む混合物を、前記基板の前記第1面に塗布して前記水溶性樹脂を含む保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜の前記分割領域を覆う部分にレーザ光を照射して、前記分割領域を覆う部分を除去し、前記分割領域において前記基板の前記第1面を露出させるレーザグルービング工程と、
前記素子領域を前記保護膜で被覆した状態で、前記分割領域において、前記基板を前記第1面から前記第2面までプラズマエッチングすることにより、前記基板を複数の素子チップに個片化する個片化工程と、
前記保護膜の前記素子領域を被覆する部分を除去する除去工程と、
を備え、
前記水溶性樹脂は、融点が250℃以上または熱分解温度が450℃以上であり、
前記レーザ光の波長に対する前記保護膜の吸収係数が1abs・L/g・cm
-1
以上であり、
前記保護膜形成工程において形成される前記保護膜の膜厚は5μmより大きい、素子チップの製造方法。
【請求項2】
前記水溶性樹脂は、前記レーザグルービング工程において前記レーザ光を吸収する、請求項
1に記載の素子チップの製造方法。
【請求項3】
前記混合物は、さらに、前記レーザ光を吸収する光増感剤を含む、請求項1
または2に記載の素子チップの製造方法。
【請求項4】
前記基板は、前記第1面に電極を備え、
前記混合物のpHは、5以上8以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の素子チップの製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光の波長は、250nm以上かつ360nm以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の素子チップの製造方法。
【請求項6】
前記除去工程において、前記保護膜を水性洗浄液に接触させて除去する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の素子チップの製造方法。
【請求項7】
前記混合物の20℃における粘度が、100mPa・s以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の素子チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラズマエッチングを利用する素子チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板を複数の素子チップに個片化(ダイシング)する際には、ダイシングに先立って、レーザ光を利用するグルービング工程(レーザグルービング工程)により、ダイシングされる部分(ストリートまたは分割領域とも言う)に沿って予め加工溝が形成される。次いで、この加工溝に沿って切削ブレードやレーザ光などにより基板を切削することにダイシングが行われる。レーザグルービング工程においてレーザ光による加工くず(デブリ)が基板に付着するのを防止するために、レーザグルービング工程の前には、素子領域を保護するためにマスク(保護膜)が形成される。マスクとしては、水溶性樹脂の被膜が利用されることがある。水溶性樹脂の被膜をマスクとして利用すると、マスクを除去する際に水で除去することができるため、簡便である。水溶性樹脂としては、特許文献1のように入手が容易で安価なポリビニルアルコールが利用されることが多い。
【0003】
一方、近年、ダイシングをプラズマエッチングにより行う技術が提案されている(特許文献2)。プラズマエッチングを利用すれば、半導体基板を一度に多数の素子チップに分割することができるため、コスト的に有利である。プラズマエッチングを利用するダイシング(プラズマダイシング)でも、プラズマエッチングに先立って、保護膜の分割領域を覆う部分をレーザ光により除去するレーザグルービングが行われる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-140311号公報
【文献】特開2008-53417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマエッチングでは、切削ブレードなどによる従来のダイシングとは異なり、半導体基板が比較的高温に晒されることになるとともに、保護膜全体も高温やプラズマに晒されることになる。そのため、プラズマダイシングの際に、保護膜が劣化したり、半導体基板から保護膜が部分的に剥離(デラミネーションとも言う)したりすることがある。また、保護膜の材質や厚みによっては、レーザグルービングの際に、分割領域から保護膜をきれいに除去することができないことがある。保護膜の剥離や分割領域における保護膜の残存が起こると、個片化工程におけるプラズマエッチングの際に、プラズマが保護膜の剥離した部分に回りこんでエッチングが均一に進まず、うまく個片化できなかったり、素子チップの端面がいびつになったりする。また、分割領域に保護膜が残存するとその部分はエッチングされないため、個片化不良となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一局面は、保持シートに保持された基板から、プラズマエッチングにより素子チップを製造する方法であって、
前記基板は、第1面と前記第1面とは反対側の第2面とを有し、前記第1面に形成された複数の素子領域と、前記素子領域を画定する分割領域を有しており、
前記素子チップの製造方法は、
前記保持シートに、前記第2面側から保持された前記基板を準備する準備工程と、
水溶性樹脂と溶媒とを含む混合物を、前記基板の前記第1面に塗布して前記水溶性樹脂を含む保護膜を形成する保護膜形成工程と、
前記保護膜の前記分割領域を覆う部分にレーザ光を照射して、前記分割領域を覆う部分を除去し、前記分割領域において前記基板の前記第1面を露出させるレーザグルービング工程と、
前記素子領域を前記保護膜で被覆した状態で、前記分割領域において、前記基板を前記第1面から前記第2面までプラズマエッチングすることにより、前記基板を複数の素子チップに個片化する個片化工程と、
前記保護膜の前記素子領域を被覆する部分を除去する除去工程と、
を備え、
前記水溶性樹脂は、融点が250℃以上または熱分解温度が450℃以上であり、
前記レーザ光の波長に対する前記保護膜の吸収係数が1abs・L/g・cm-1以上である、素子チップの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、プラズマエッチングを利用するダイシングにおいて、より均一なダイシング加工が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の実施形態に係る素子チップの製造方法を示すフローチャートである。
【
図3】搬送キャリアに固着された基板を説明するための模式図である。
【
図4】本実施形態に係る製造方法の保護膜形成工程において、水溶性樹脂と溶媒とを含む混合物の塗布により形成される塗膜を説明するための断面模式図である。
【
図5】レーザグルービング工程を説明するための断面模式図である。
【
図6】個片化工程により個片化された素子チップを説明するための断面模式図である。
【
図7】保護膜が除去された状態の素子チップを説明するための断面模式図である。
【
図8】ドライエッチング装置の一例を示す模式図である。
【
図9】実施例1のレーザグルービング後の保護膜の状態を示すレーザ顕微鏡による3Dマッピングの測定結果である。
【
図10】比較例1のレーザグルービング後の保護膜の状態を示す3Dマッピングの測定結果である。
【
図11】実施例1の個片化後の保護膜の状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図12】比較例1の個片化後の保護膜の状態を示すSEM写真である。
【
図13】実施例1における保護膜除去後の素子チップの状態を上面から見たレーザ顕微鏡の観察写真である。
【
図14】比較例1における保護膜除去後の素子チップの状態を上面から見たレーザ顕微鏡の観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本開示に係る素子チップの製造方法の実施形態を以下に説明する。実施形態の説明において、理解を容易にするために方向を表す用語(たとえば「上方」等)を適宜用いるが、これは説明のためのものであって、これらの用語は本開示に係る製造方法を限定するものでない。なお各図面において、各構成部品の形状または特徴を明確にするため、これらの寸法を相対的なものとして図示し、必ずしも同一の縮尺比で表したものではない。
【0010】
本開示の一局面に係る素子チップの製造方法は、概略、
図1のフローチャートに示すように、(a)複数の素子領域、およびこれらを画定する分割領域を有し、保持シートで保持された基板を準備する工程(基板準備工程)と、(b)水溶性樹脂と溶媒とを含む混合物を用いて水溶性樹脂を含む保護膜を形成する工程(保護膜形成工程)と、(c)保護膜の分割領域を覆う部分をレーザ光の照射により除去する工程(レーザグルービング工程)と、(d)分割領域において、基板を表面から裏面までプラズマエッチングすることにより、基板を複数の素子チップに個片化する工程(個片化工程)と、(e)保護膜を除去する工程(保護膜除去工程)と、を備える。ここで、水溶性樹脂は、融点が250℃以上または熱分解温度が450℃以上であり、レーザグルービング工程において照射されるレーザ光の波長に対する保護膜の吸収係数が1abs・L/g・cm
-1以上である。
【0011】
基板を個片化する際には、基板の表面に保護膜が形成される。レーザ光による溝加工(レーザグルービング)の後に切削ブレードを用いる従来の個片化では、レーザグルービングの際に発生するデブリが基板に付着するのを防止できればよい。そのため、保護膜の厚みは小さく、通常、1μm未満である。しかし、このような保護膜を形成した基板を、プラズマエッチングにより個片化しても、プラズマエッチングを均一に行うことができないことが分かった。
【0012】
一般的な素子の表面には、パッド電極やバンプ等に起因する凹凸が設けられている場合がある。保護膜の膜厚が1μm未満の場合、素子領域の表面構造や表面の凹凸に対する保護膜形成材料の被覆性に応じて、保護膜による被覆が薄い箇所が生じる。保護膜による被覆が薄い箇所があると、プラズマエッチング中に被覆が薄い箇所の保護膜が消失し、素子領域の表面がプラズマに晒されて、ピンホール状の加工痕が生じる場合がある。また、保護膜が消失した部分に電極部が露出すると、素子に電気的なダメージが生じたり、プラズマエッチング装置の内壁が電極部を構成する金属により汚染されたりする場合がある。
【0013】
また、プラズマ処理を施すと、水溶性保護膜の表面に、硬化層や変質層が形成されたり、保護膜を構成する材料の高分子化が進行したりすることがある。その結果、水溶性保護膜の可溶性が低下する。保護膜の膜厚が1μm未満の場合、硬化層、変質層、または高分子化層は、表層だけでなく深さ方向全体に及びやすい。この場合、プラズマエッチング後に残存する保護膜を水洗等に供しても保護膜を完全に除去することが難しくなる。
【0014】
プラズマエッチングによる個片化の後に、硬化層、変質層または高分子化層を、酸素等のプラズマに晒してこれらの層を除去し、その後、水洗により保護膜を除去することは可能である。しかし、保護膜の膜厚が1μm未満の場合、酸素プラズマ処理中に、保護膜の一部もしくは全部が除去されることがある。保護膜が除去された部分では、素子領域の表面がプラズマに晒されることになり、素子がダメージを受けるため、好ましくない。従って、プラズマエッチングを行う際には、厚みの大きな保護膜を形成する必要がある。
【0015】
特許文献2では、ポリビニルアルコール(PVA)を用いて保護膜を形成している。PVAは、塗布液の粘度を高め易いため、ある程度の塗布性を確保すると、保護膜の厚みは薄くせざるを得ない。PVAを用いて厚みの大きな保護膜を形成する場合には、塗布を何度も繰り返す必要があり、保護膜の形成に要する時間が大幅に増加する。また、PVAを用いて厚みの大きな保護膜を形成しても、レーザグルービングすると、レーザにより除去された部分の周辺のPVAが加熱されて、溶融し、レーザにより除去された部分に流れ込むことがある。この場合、保護膜の分割領域を覆う部分をきれいに除去することができず、分割領域上に部分的に保護膜が残った状態になったり、加工溝の側面の形状がいびつになったりする。また、加工溝周辺のPVAが軟化して、加工溝の側面の傾斜が緩やかになったりするもある。このような状態の基板を、プラズマエッチングによる個片化工程に供すると、保護膜が除去された部分しかエッチングすることができなかったり、分割領域幅をあらかじめ加工溝の側面の傾斜を見込んで大きく設定することが必要となったりする。分割領域幅を大きく設定すると、基板に配置できる素子領域の数、すなわち基板あたりの取れ数、が減少する。また、PVAの場合、保護膜の厚みが大きいことで、プラズマにさらされることによる保護膜と基板との熱膨張係数の差が大きくなり、保護膜の部分的な剥離が起こり易くなる。よって、分割領域のエッチングをきれいに行うことができない。その結果、うまく個片化できなかったり、素子チップの形状や端面がいびつになったりする。また、PVAを用いた保護膜をプラズマエッチングに供するには、保護膜を形成するための塗布液を基板上に塗布した後に、塗膜を一旦ベークしてプラズマや熱などに対する耐性を高める必要がある。従って、製造には、ベーク加熱時間および常温に戻す冷却時間が加算され、著しく生産性が低下する。
【0016】
それに対し、本開示の上記局面によれば、保護膜として、融点が250℃以上または熱分解温度450℃以上の水溶性樹脂を用いるとともに、レーザグルービング工程において照射されるレーザ光の波長に対する保護膜の吸収係数を1abs・L/g・cm-1以上とする。レーザグルービング工程において、保護膜のレーザ光吸収性が高まることで、プラズマダイシング用の厚みが大きな保護膜でも少ないエネルギーでアブレーションされ易くなり、保護膜の除去性が向上する。また、保護膜の厚みが大きくても、少ないエネルギーでアブレーションが可能であるため、レーザにより除去された部分の周辺の保護膜が溶融または軟化することが抑制される。そのため、保護膜の厚みが大きくても、保護膜の分割領域を覆う部分をきれいに取り除くことができる。その結果、レーザグルービング工程において、加工溝の側面の傾斜が急峻(順テーパあるいは垂直)、かつ、開口幅がレーザの照射幅とほぼ同等で狭い、アスペクト比の高い溝を形成できる。また、保護膜の耐熱性が高くプラズマエッチングに供しても、保護膜の基板からの剥離を効果的に抑制できる。よって、基板上に形成した整った形状の保護膜をマスクにして、より均一にプラズマエッチングを行うことができ、整った形状の素子チップを得ることができる。このように、より均一なダイシング加工が可能となる。
【0017】
以下に、各工程についてより具体的に説明する。
(a)基板準備工程
基板準備工程で準備される基板は、プラズマエッチング技術を用いて、複数の素子チップに個片化されるものである。基板は、シリコンウエハのような半導体基板、フレキシブルプリント基板のような樹脂基板、セラミックス基板等であってもよく、半導体基板は、シリコン(Si)、ガリウム砒素(GaAs)、窒化ガリウム(GaN)、炭化ケイ素(SiC)等で形成されたものであってもよい。本開示は基板の材料等に限定されるものではない。
【0018】
図2は基板1を説明するための模式図である。
図2(a)は、基板1を上から見た平面図であり、
図2(b)は、
図2(a)のIIB-IIB線から見た断面図であり、
図2(c)は、
図2(a)の部分拡大図である。基板1は、
図2(b)に示すように、対向する第1面1aおよび第2面1b(以下、「表面1a」および「裏面1b」ともいう。)を含む。また
図2(c)に示すように、基板1は、その表面1a上に複数の素子領域R1およびこれを画定する分割領域R2を有する。基板1の各素子領域R1は、所望の電気回路を構成する集積回路を含み、プラズマエッチング工程後、素子チップを構成するものである。各分割領域R2は、ダイシングラインを構成するものである。
【0019】
素子領域R1には、通常、電気集積回路が形成されており、露出した回路や、バンプなどが存在する。各素子領域R1の表面1a上の電気回路は、半導体回路、電子部品素子、MEMS等の回路層を有してもよいが、これらに限定されない。回路層は、絶縁膜、導電層、樹脂保護層、電極パッド、端子部等を含む多層積層体として構成されてもよい。バンプは、多層積層体の端子部に接続される。
【0020】
基板1は、多層積層体を構成した後、基板1の厚みを薄くするため、裏面1bを研磨してもよい。より具体的には、回路層を具備する表面1aを、バックグラインド(BG)テープで覆って保護し、基板1の裏面1bを研磨すればよい。
【0021】
基板1は、任意の平面形状、例えば、
図3(a)に示すように、略円形の平面形状を有する。基板1の平面形状は、円形の他、矩形の平面形状であってもよく、オリエンテーションフラット(
図3(a))、およびノッチ等の切欠きを有するものであってもよい。特に制限されないが、基板1の最大径は、例えば、50mm以上300mm以下であり、厚みは、例えば、10μm以上800μm以下である。
【0022】
基板1およびフレーム2は、素子領域R1に所望の電気集積回路を形成する際、または少なくとも後述する保護膜形成工程の前に、保持シート3に保持される。フレーム2は、保持シート3に予め保持させておいてもよく、基板1を保持シート3に保持させた後に、基板1を保持シート3に保持させてもよい。
図3(a)は、保持シート3に固着させた基板1およびフレーム2を上から見た平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)のIVB-IVB線から見た断面図である。保持シート3は、粘着剤を含む上面(粘着面3a)と、粘着剤を含まない下面(非粘着面3b)とを有する。保持シート3は、その粘着面3aに基板1およびフレーム2を固着させることにより、基板1およびフレーム2を基板1の裏面1b側から保持する。フレーム2は、円形の開口部2aを含む環状形状である。フレーム2は、開口部2aと基板1とが同心円状に配置されるように保持シート3に保持され、基板1で覆われていない開口部2aにおいて粘着面3aが露出している。本明細書では、保持シート3と、これに固着されたフレーム2との組み合わせを搬送キャリア4といい、搬送キャリア4に固着された基板1をキャリア付き基板1ともいう。基板1は、それ自体が薄いものであっても、搬送キャリア4により保持されるため、後続の工程において、基板1を容易に操作および搬送することができる。
【0023】
保持シート3の基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等の熱可塑性樹脂を用いて形成される。また、後述する保護膜除去工程後、保持シート3は、フレーム2から取り外され、半径方向に拡張させることにより、個別の素子チップの間隔を広げ、粘着面3aから容易にピックアップできるように、伸縮性を有してもよい。保持シート3の基材には、伸縮性を付加するためのゴム成分(例えば、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM))、可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、導電性材料等の各種添加剤が含まれていてもよい。熱可塑性樹脂は、アクリル基等の光重合反応を示す官能基を有してもよい。保持シート3の基材の厚みは、特に限定されないが、例えば50μm以上150μm以下である。
【0024】
一方、保持シート3の粘着面3aは、粘着力を低減させることができる粘着成分からなることが好ましい。これは、後述の個片化工程の後に、紫外線(UV光)を照射することにより個片化された素子チップを粘着面3aからさらに容易にピックアップしやすくするためである。保持シート3は、例えば、フィルム状の基材の一方の粘着面3aにUV硬化型アクリル粘着剤を5μm以上20μm以下の厚みに塗布することにより形成してもよい。
【0025】
フレーム2は、基板1および保持シート3を保持した状態で搬送できる程度の剛性を有している。フレーム2の開口部2aは、上述の円形形状の他、矩形、六角形など多角形の形状を有するものであってもよい。フレーム2は、
図3に示すように、位置決めのためのノッチ2bまたはコーナーカット2cを有していてもよい。フレーム2は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属や、樹脂等を用いて形成される。
【0026】
(b)保護膜形成工程
保護膜形成工程では、水溶性樹脂と溶媒とを含む混合物が、基板1の表面1aに塗布されることで、水溶性樹脂を含む保護膜が形成される。保護膜は、通常、混合物の塗膜を乾燥させることにより形成される。
【0027】
図4は、本実施形態に係る製造方法の保護膜形成工程において、水溶性樹脂と溶媒とを含む混合物の塗布により形成される塗膜を説明するための断面模式図である。
図4では、基板1の表面1aの複数の素子領域R1に、それぞれ、突起状のバンプ32を備える回路層が形成されている例を示す。回路層の構造は、特に限定されないが、ここでは、回路層が、多層配線層30と、多層配線層30を保護する絶縁性の保護層31と、多層配線層30の端子部に接続された突起状のバンプ32とを具備する場合について説明する。多層配線層30の配置は、特に限定されず、
図4に示すように素子領域R1と分割領域R2の両方に配置されていてもよいし、素子領域R1のみに配置されていてもよい。
【0028】
なお、
図4では、スプレー塗布装置を用いて、スプレー塗布装置のノズル20から混合物26をスプレー塗布する例を示したが、この場合に限定されず、例えば、スピンコートなどの他の塗布方法を採用してもよい。また、スプレー塗布とスピンコートとを組み合わせてもよい。
【0029】
スプレー塗布には、例えば、インクジェット方式、超音波方式、2流体混合方式または静電スプレー方式などの各種スプレー塗布装置が使用できる。スピンコートでは、スピンコーティング装置を用いて、例えば、基板1を、鉛直方向の回転軸を中心に回転させながら、基板1の中心付近から混合物26を滴下することにより、混合物26を基板1の表面1aの全体に塗布することができる。
【0030】
混合物26の塗布は少なくとも一回行なえばよいが、複数回繰り返してもよい。複数回繰り返すことで、保護膜28の厚みを大きくすることができる。混合物26の塗布を複数回繰り返す場合には、1回塗布する毎に、形成される塗膜28aを乾燥させる方法が一般的である。また、例えば、スプレー塗布とスピンコートとを組み合わせる場合には、スプレー塗布(および必要により乾燥)を複数回繰り返した後に、スピンコート(および必要により乾燥)を行なってもよい。必要に応じて、さらにスピンコート(および必要により乾燥)を繰り返してもよい。塗布を複数回行う場合には、組成(成分、濃度および/または粘度など)が異なる混合物26を各回に用いてもよく、少なくとも一部について混合物26の組成を同じにしてもよい。
【0031】
水溶性樹脂としては、融点が250℃以上または熱分解温度が450℃以上の水溶性樹脂が使用される。このような特性を備える水溶性樹脂を用いることにより、レーザグルービング工程において、レーザにより除去された部分の周辺の保護膜28が過度に加熱されて軟化したり、溶融して、レーザにより形成した加工溝に流れ込んだりすることが抑制される。そのため、保護膜28の分割領域R2を覆う部分をきれいに除去することができる。また、加工溝の側面の傾斜が急峻(順テーパあるいは垂直)、かつ、開口幅がレーザの照射幅とほぼ同等で狭い、アスペクト比の高い溝を形成できる。さらに、保護膜28の耐熱性が高いことから、個片化工程における保護膜28の剥離を抑制することもできる。水溶性樹脂の融点は、250℃以上であればよく、270℃以上または300℃以上であってもよい。水溶性樹脂の融点の上限は、特に制限されない。また水溶性樹脂の熱分解温度は、450℃以上であってもよく、600℃以上であってもよい。水溶性樹脂の熱分解温度の上限は、とくに制限されない。さらに、一般的に有機化合物は高分子化すると融点と熱分解温度が上がるが、本開示に係る製造方法では、融点および熱分解温度の少なくともいずれか一方が上記の範囲を満たす水溶性樹脂を用いれば、高いレーザ加工性を確保することができる。
【0032】
水溶性樹脂は、レーザグルービング工程で照射されるレーザ光を吸収可能であることが好ましい。ここで言う水溶性樹脂は、溶媒は乾燥時に揮発させるために含まず、主材(例えば、溶媒を除くUV吸収剤を混合した混合物を含む)に対する吸収のことを言う。水溶性樹脂がレーザ光を吸収可能である場合、保護膜28の厚みが大きくても樹脂自体がレーザ光のエネルギーを受け取ることで、少ないエネルギーでもアブレーション性をより高めることができる。また、保護膜28の吸収係数の調節がより容易になる。水溶性樹脂のレーザ光吸収性が低い場合には、保護膜28の吸収係数を高めて、高いアブレーション性を確保する観点から、後述のように光増感剤を併用することが好ましい。
【0033】
水溶性樹脂としては、例えば、水溶性ポリエステル、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、オキサゾール系水溶性ポリマー(オキサゾール-2-エチル-4,5-ジヒドロホモポリマーなど)、またはこれらの塩(アルカリ金属塩、アンモニウム塩など)などが挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。水溶性樹脂の融点は、重合度や分子量などを調整することにより調整することができる。水溶性樹脂は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。個片化工程において保護膜28の過度の劣化が起こりにくく、保護膜28の剥離が抑制される効果が高い観点からは、水溶性ポリエステル、ポリスチレンスルホン酸、オキサゾール系水溶性ポリマー、またはこれらの塩などが好ましい。なお、レーザ光の波長域に吸収を有する官能基(例えば、芳香環、カルボニル基、窒素含有基、硫黄含有基など)を水溶性樹脂中に導入したり、官能基の導入量を調節したりすることで、水溶性樹脂のレーザ光吸収性を調節してもよい。
【0034】
混合物26に含まれる溶媒としては、例えば、水、有機溶媒が挙げられる。溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。例えば、水と有機溶媒とを併用してもよい。有機溶媒としては、例えば、水溶性有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、
レーザグルービング工程で照射されるレーザ光の波長における吸光度が低いものが好ましく、レーザ光を吸収しないものがより好ましい。有機溶媒としては、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、ニトリル、アミドなどが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、エチルメチルケトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、エーテルグリコール類などが挙げられる。有機溶媒は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
混合物26中での水溶性樹脂の溶解状態は、例えば、水溶性樹脂の濃度、有機溶媒の種類、溶媒全体に占める水の比率などを調節することで調節できる。一般的に、薄い保護膜を形成する場合は、混合物中の固形成分の濃度が低い。厚い保護膜を形成する場合、混合物26中の固形成分の濃度を高くすることが望ましい。混合物26中の固形成分の濃度を高くすると、1回の塗布できる膜厚が容易に制御できるだけでなく、その効果により生産性が改善する。混合物26中の固形成分の濃度は、例えば、200g/L以上であり、230g/L以上としてもよい。混合物26中の固形成分の濃度は、例えば、500g/L以下である。
【0036】
なお、混合物中の固形成分の濃度とは、混合物に含まれる溶媒以外の成分(より具体的には、混合物を乾燥した後(または混合物の溶媒を揮発させた後)に残留する成分の総重量)の、混合物1L当たりの質量(g)を意味する。固形成分は、溶媒に溶解させる前に固形であればよく、通常、混合物中では溶媒に溶解した状態である。
【0037】
混合物26は、レーザグルービング工程において照射されるレーザ光を吸収する光増感剤を含んでもよい。光増感剤を用いることで、保護膜28の吸光係数の制御が容易になる。そのため、保護膜28の厚みが大きくても、水溶性樹脂に効率よく照射エネルギーを供給できるため、少ないエネルギーでもアブレーション性を高めることができる。光増感剤としては、レーザ光の波長および水溶性樹脂の種類などに応じて選択すればよい。光増感剤としては、例えば、炭化水素(アセナフテン、ペリレンなど)、アミノ基および/またはニトロ基を有する化合物(ピクラミド、2-ニトロアセナフテンなど)、キノン(2-エチルアンスラキノンなどのアンスラキノン類など)、キサントン、アンスロン、ケトン(ベンゾフェノン類など)、色素(フタロシアニンなど)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。光増感剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
混合物26は、必要に応じて、さらに添加剤を含んでもよい。例えば、混合物26がメタル防食剤を含む場合、水による電極の腐食を抑制できるため、有利である。メタル防食剤としては、例えば、リン酸塩、アミン塩類、低級脂肪酸およびこれらの塩類が挙げられる。メタル防食剤は一種を用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
混合物26のpHは、特に制限されないが、混合物26による電極(特に、アルミニウム金属を用いた電極)の腐食を抑制する観点からは、5以上8以下が好ましく、6以上8以下であってもよい。
【0040】
混合物26の粘度は、塗布方法などに応じて決定することができる。混合物の20℃における粘度は、例えば、100mPa・s以下であり、50mPa・s以下であってもよい。粘度がこのような範囲である場合、セルフレベリング効果により形成される保護膜28の膜厚をより均等にすることができる。
なお、混合物26の粘度は、せん断速度1s-1で回転粘度計を用いて測定される。
【0041】
混合物26の塗布により形成される塗膜を乾燥する場合、乾燥は、加熱下で行なってもよいが、保持シートの耐熱温度よりも低い温度、例えば、50℃以下で行なうことが好ましく、50℃未満(例えば、40℃以下)で行なうことがさらに好ましい。水溶性樹脂は融点や熱分解温度が上記のように高いため、PVAの場合とは異なり、加熱(例えば、50℃を超える温度での加熱)を行わなくても、プラズマダイシング工程における保護膜の高い耐性を確保することができる。50℃を超える温度での加熱を行わない場合、加熱や冷却に要する時間を短縮またはなくすことができるため、生産性を高める観点からも有利である。また、生産性を高める観点からは、乾燥を、減圧下で行なってもよい。
【0042】
個片化工程でプラズマや高温に対する耐性を付与するため、保護膜28の厚みを大きく(例えば、1μm以上、好ましくは2μm以上または5μm以上に)すると、レーザグルービング工程で分割領域R2上の保護膜28を除去する際に、大きなエネルギーが必要になる。レーザグルービング工程においてレーザ光により保護膜28に大きなエネルギーが加わると、過剰な熱が周囲にも加わることになり、保護膜28の構成材料が、溶融して形成された溝に流れ混んだり、軟化して溝の側壁の傾斜が緩やかになったり、熱分解して局所的に膜厚が減少したりし易い。その結果、溝の形状がいびつになるため、均一なダイシング加工が難しくなる。また、プラズマエッチングの際に保護膜28が、基板1から剥離し易くなる。切削ブレードなどにより個片化する場合には、保護膜28を厚くする必要がなく(通常、保護膜の厚みは1μm未満であり)、上記のような問題は起こらない。従って、上記のような問題は、プラズマエッチングによりダイシング加工を行う場合に特有の問題であると言える。
【0043】
本開示において、混合物26の塗布により形成される保護膜28は、レーザグルービング工程において照射されるレーザ光の波長に対する吸収係数が1abs・L/g・cm-1以上である。保護膜28がこのような吸収係数を示す場合、保護膜28の厚みが大きくても、保護膜28のレーザ照射部におけるアブレーションが、少ないエネルギーで起こり易い。周囲に過剰な熱が伝わり難いため、保護膜28の構成材料が軟化または溶融して分割領域R2に流れ混んだり、保護膜28の構成材料が熱分解して局所的に膜厚が減少したりすることが抑制される。そのため、レーザグルービング工程において、個片化に適した整った形状の分割領域R2を形成することができる。また、レーザグルービング工程において、加工溝の側面の傾斜が急峻(順テーパあるいは垂直)、かつ、開口幅がレーザの照射幅とほぼ同等で狭い、アスペクト比の高い溝を形成できる。また、プラズマエッチングの際の保護膜28の劣化や変形が抑制されるとともに、保護膜28の基板1からの剥離が抑制される。よって、プラズマエッチングにより、より均一なダイシング加工が可能となる。
【0044】
保護膜28の吸光係数は、1abs・L/g・cm-1以上であればよく、2abs・L/g・cm-1以上または4abs・L/g・cm-1以上であってもよい。吸光係数は、水溶性樹脂、光増感剤などの混合物(または保護膜28)の構成成分の種類、および/または比率などを調節することにより調節することができる。
【0045】
保護膜28の吸光係数は、例えば、分光スペトクロメータによる測定範囲の波長の光の吸収が少ない溶媒に、保護膜28を溶かしてサンプルを調製し、ロードセル(通常は1cm角)に入れて分光スペクトルを測定することにより求められる。吸収が測定範囲から外れる場合、規定倍率で濃縮または希釈したサンプルを調製すればよい
【0046】
本工程において形成される保護膜28の厚みは、基板1の表面1aの凹凸の程度や個片化工程におけるプラズマエッチング条件などに応じて調節できる。本開示では、プラズマエッチングにより個片化を行うため、切削ブレードなどによる従来の個片化の場合に比べて、保護膜28の厚みを大きくする必要がある。保護膜28の厚みは、例えば、1μm以上であり、2μm以上が好ましく、3μm以上または5μm以上であってもよく、5μmより大きくしてもよい。素子領域を保護する観点から、保護膜28の厚みは、例えば、最低5μm以上、最大100μm以下である。
【0047】
なお、保護膜28の厚みは、基板の備える層構造と各層のエッチング特性、水溶性保護膜のエッチング特性などから、下記の手順で決定することができる。
基板の層構造は、例えば、上層側から順に、デバイス層/Si層/絶縁膜層(SiO2層など)/樹脂層(ダイアタッチフィルム層など)を備える。保護膜28は、デバイス層を覆うように形成される。基板の層構造はこの例に限らず、Si層/樹脂層/Si層のような構造の場合もある。ここでは、基板の層構造が、上層側から、デバイス層/Si層/絶縁膜層(SiO2層など)/樹脂層(ダイアタッチフィルム層など)である場合を例にとって、保護膜の厚みの決定方法を説明する。なお、基板の個片化のためには、分割領域において、保護膜28、デバイス層、Si層、絶縁膜層、および樹脂層を切断する必要がある。分割領域における保護膜28とデバイス層との切断はレーザグルービングにより行われるため、プラズマダイシング工程で切断する対象は、Si層、絶縁層、および樹脂層である。保護膜28の厚みは、これらのSi層、絶縁膜層、および樹脂層をプラズマエッチングで除去する間、素子領域を覆う保護膜28が無くならない膜厚に設定する必要がある。
【0048】
水溶性保護膜の膜厚Tは、以下の計算式から決定できる。
T=(Si層の厚み/A×α)+(絶縁膜層の厚み/B×β)+(樹脂層の厚み/C×γ)+D
(式中、Aは、Si層のプラズマエッチングを行う条件における水溶性保護膜のエッチング速度とSi層のエッチング速度との比(選択比)であり、Bは、絶縁膜層のプラズマエッチングを行う条件における水溶性保護膜のエッチング速度と絶縁膜層のエッチング速度との比(選択比)であり、樹脂層のプラズマエッチングを行う条件における水溶性保護膜のエッチング速度と樹脂層のエッチング速度との比(選択比)である。Dは、プラズマダイシング後に素子領域上に残す保護膜の残厚であり、αは、Si層をオーバーエッチング加工するためのマージン値であり、βは、絶縁膜層をオーバーエッチング加工するためのマージン値であり、γは、樹脂層をオーバーエッチング加工するためのマージン値である。)
【0049】
保護膜の残厚Dは、例えば、素子領域における表面の段差、水溶性保護膜のカバレッジ、および/または水溶性保護膜の均一性を考慮して決定される。残厚Dは、例えば、1~5μm程度に設定することが好ましい。α、β、およびγは、それぞれ、例えば、各層の厚み、および/またはエッチングの均一性を考慮して決定される。α、β、およびγは、それぞれ、例えば、1.1~1.2程度に設定される。
【0050】
各層と水溶性保護膜との選択比は、素子の構造および/または各層のプラズマエッチング条件などに応じて決定される。選択比Aは、例えば、50~100である。選択比Bは、例えば、1~5である。選択比Cは、例えば、0.5~2である。
なお、水溶性保護膜の厚みは、生産性および/またはコストの観点から、上記式と実際の加工条件から得られる選択比を鑑みて、残膜が残る範囲で設定することが好ましい。
【0051】
(c)レーザグルービング工程
図5は、レーザグルービング工程を説明するための断面模式図である。レーザグルービング工程では、保護膜28の分割領域R2を覆う部分にレーザ光を照射して、この部分の保護膜28を除去し、分割領域R2において基板1の表面1aを露出させる。基板1の分割領域R2を覆う保護膜28の下に多層配線層30や、多層配線層30を保護する絶縁性の保護層31が配置されている場合には、レーザ光の照射により多層配線層30や絶縁性の保護層31も除去し、分割領域R2において基板1の表面1aを露出させる。これにより、残存する保護膜28により、所定のパターンが形成される。本開示によれば、融点が250℃以上または熱分解温度が450℃以上の水溶性樹脂を含む混合物を用いて保護膜28を形成するとともに、レーザグルービング工程で照射されるレーザ光の波長に対する保護膜28の吸収係数を1abs・L/g・cm
-1以上とする。そのため、レーザグルービング加工の際に、保護膜28の厚みが大きくても、周囲に過度な熱が加わることが抑制され、整った形状の溝を形成することができる。
【0052】
レーザグルービングによる加工は次のようにして行うことができる。レーザ光源としては、例えば、UV波長のナノ秒レーザが用いられる。そして、保護膜28の分割領域R2を覆う部分にレーザ光を照射し、この部分の保護膜28を除去する。照射の条件は特に制限されないが、例えば、パルス周期200kHz、出力0.3W、スキャン速度400mm/秒でレーザ光を照射してもよい。分割領域R2上の保護膜28の下に多層配線層30が配置されている場合、レーザグルービングによる加工は、例えば、次のようにして行ってもよい。まず、パルス周期200kHz、出力0.3W、スキャン速度400mm/秒で、分割領域R2へのレーザ光の照射を2回実施し、保護膜28を除去する。その後、パルス周期100kHz、出力1.7W、スキャン速度400mm/秒で、分割領域R2へのレーザ光の照射を1回実施し、多層配線層30を除去する。ここでは、ナノ秒レーザの加工条件を例として示したが、レーザは、ナノ秒レーザに限定されるものではない。レーザとしては、例えば、サブピコ秒からサブナノ秒レーザを利用してもよい。この範囲のパルス幅では熱加工と呼ばれる加工現象が支配的であり、本開示に係る製造方法に採用することができる。
【0053】
照射されるレーザ光の波長は、例えば、200nm以上430nm以下である。レーザグルービングの際の溝形成の精度を高める観点からは、250nm以上360nm以下であることが好ましい。このような波長のレーザ光を用いると、幅の小さな溝も容易に形成することができる。
また、レーザグルービングの間、基板1および保持シート3の温度を50℃以下に維持することが好ましい。
【0054】
(d)個片化工程(プラズマエッチング工程)
図6は、個片化工程により個片化された素子チップを説明するための断面模式図である。個片化工程では、レーザグルービング工程で露出させた、
図5に示す基板1の分割領域R2において、
図6の状態まで、基板1の表面1aから裏面1bまでプラズマエッチングすることにより、基板1を複数の素子領域R1に対応する素子チップ11に個片化する。本工程では、パターン化された保護膜28をマスクとしてプラズマエッチングが行なわれる。
【0055】
プラズマエッチング工程およびこれに用いられるドライエッチング装置の一例について以下に説明する。
図8は、本工程で使用されるドライエッチング装置50の一例を示す模式図である。ドライエッチング装置50のチャンバ52の頂部には誘電体窓(図示せず)が設けられており、誘電体窓の上方には上部電極としてのアンテナ54が配置されている。アンテナ54は、第1高周波電源部56に電気的に接続されている。一方、チャンバ52内の処理室58の底部側には、搬送キャリア4に固着された基板1が配置されるステージ60が配置されている。ステージ60には内部に冷媒流路(図示せず)が形成されており、冷媒流路に冷媒を循環させることにより、ステージ60は冷却される。ステージ60は下部電極としても機能し、第2高周波電源部62に電気的に接続されている。また、ステージ60は図示しない静電吸着用電極(ESC電極)を備え、ステージ60に載置された搬送キャリア4に固着された基板1をステージ60に静電吸着できるようになっている。また、ステージ60には冷却用ガスを供給するための図示しない冷却用ガス孔が設けられており、冷却用ガス孔からヘリウムなどの冷却用ガスを供給することで冷却されたステージ60に静電吸着された搬送キャリア4に固着された基板1を冷却できる。チャンバ52のガス導入口64はエッチングガス源66に流体的に接続されており、排気口68はチャンバ52内を真空排気するための真空ポンプを含む真空排気部70に接続されている。
【0056】
図3に示すような搬送キャリア4および基板1が、処理チャンバ内のステージに載置された後、真空ポンプを用いて処理チャンバ内を減圧し、所定のプロセスガスが処理チャンバ内に導入される。そしてアンテナ(プラズマ源)に高周波電力を供給することで形成されたプロセスガスのプラズマにより、処理チャンバ内の基板1の分割領域R2がドライエッチングされて、基板1は、
図6に示すように、素子領域R1を含む複数の素子チップ11に分割される。
【0057】
またドライエッチング装置は、プロセスガス源、アッシングガス源、真空ポンプ、および高周波電力源を制御する制御装置を備え、最適化されたドライエッチング条件でプラズマエッチングを行うように上記構成要素を制御する。
【0058】
プラズマエッチング工程では、基板1がシリコンからなる場合、BOSCH法によりエッチングを行うことができる。BOSCH法では、パッシベーション膜を堆積させるプラズマと、シリコンをエッチングさせるプラズマを交互に発生させる。パッシベーション膜を堆積させるプラズマは、例えば、C4F8を300sccmで供給しながら、チャンバ圧力を20Paに調圧し、アンテナ54に2000~5000WのRF電力を印加して、2~10秒程度発生させればよい。また、シリコンをエッチングさせるプラズマは、例えば、SF6を600sccmで供給しながら、チャンバ圧力を20Paに調圧し、アンテナ54に2000~5000WのRF電力を印加するとともに、下部電極に50~500WのLF電力を印加して、5~20秒程度発生させればよい。なお、基板1(半導体層)の加工形状におけるノッチングを抑制する為に、下部電極に印加するRF電力をパルス状にしてもよい。このような、パッシベーション膜を堆積させるプラズマとシリコンをエッチングさせるプラズマとを例えば、20サイクル程度繰り返すことで、100μm厚の基板1をエッチングし、素子チップ11に分割することができる。なお、プラズマエッチング工程で発生させるプラズマによる熱ダメージを低減するため、プラズマエッチング工程では搬送キャリア4および基板1は冷却されることが好ましい。例えば、ステージ60の温度を20℃以下に温度調節しながら、ESC電極に3kVの直流電圧を印加するとともに、冷却用ガスとして50~200PaのHeを保持シート3とステージ60の間に供給することにより、搬送キャリア4および基板1を冷却することができる。なお、基板1が所定以下の厚み(例えば、30μm以下)である場合には、BOSCH法を使用せずに、シリコンを連続的にエッチングしてもよい。
【0059】
また、レーザグルービングで露出させた分割領域R2には、多層配線層30や絶縁性の保護層31や保護膜28に含まれる、メタル、絶縁物、およびSiなどの溶融したデブリが付着していることがある。デブリが付着した状態で上述のBOSCH法等によるシリコンのエッチングを行うと、デブリに起因して、柱状残渣やエッチングストップが発生したり、マスクの表面の荒れが発生したりする場合がある。そのため、BOSCH法等によるシリコンのエッチングを行う前に、イオン性の強い条件でのプラズマエッチングを行い、分割領域R2に付着したデブリを除去することが好ましい。これにより、BOSCH法等によるシリコンのエッチングにおいて柱状残渣やエッチングストップの発生を防止し、加工形状を良くし、プロセス安定性を改善できる。デブリを除去するために使用するプラズマは、シリコン及びシリコン酸化物層が除去できるガス種を用いることが好ましく、例えば、SF6とO2の混合ガスを200sccmで供給しながら、チャンバ圧力を5Paに調圧し、アンテナ54に1000~2000WのRF電力を印加して発生させたプラズマに、1~2分程度晒せばよい。このとき、ステージ60が備える下部電極に150W程度のLF電力を印加することで、デブリの除去効果を高くすることができる。
【0060】
(e)保護膜除去工程
図7は、保護膜が除去された状態の素子チップを説明するための断面模式図である。保護膜除去工程では、個片化工程で個片化された
図6に示すような素子チップ11において、保護膜28の素子領域R1を被覆する部分を除去する。保護膜28は水溶性樹脂を含むため、素子チップ11の保護膜28を、水性洗浄液に接触させることにより容易に除去することができる。
【0061】
水性洗浄液としては、水を用いてもよく、水と有機溶媒との混合溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、保護膜28を形成するための溶媒について例示した有機溶媒を用いてもよい。水性洗浄液は、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、酸、界面活性剤、メタル防食剤などが挙げられる。
【0062】
水性洗浄液は、保護膜28に接触させればよいが、2流体スプレーなどにより吹き付けると、保護膜28を効率よく除去することができる。また、リンス洗浄により大部分の保護膜を除去した後に2流体スプレーで洗浄し、最後に洗い流すとより効果的な洗浄が可能となる。
【0063】
除去工程においては、保護膜28を水性洗浄液に接触させる前に、保護膜28の表面を、酸素を含むプラズマに晒して(アッシング処理して)、保護膜28の一部を除去してもよい。プラズマエッチングを行なう際に、保護膜28の表面に保護膜28の構成材料が変質または硬化した層が形成されることがあるが、アッシング処理により、このような層を除去することができ、水性洗浄液による保護膜28の除去を容易に行なうことができる。
【0064】
アッシング処理は、個片化工程のプラズマエッチングを行った処理チャンバ内で引き続き行ってもよい。アッシング処理は、アッシングガス(例えば、酸素ガス)を処理チャンバ内に導入し、同様にアンテナ(プラズマ源)に高周波電力を供給することで形成されたアッシングガスのプラズマにより、処理チャンバ内の基板1の表面1aから保護膜28を除去することができる。
【0065】
アッシング処理では、
図8に示す処理室58内を真空排気部70によって真空排気するとともにエッチングガス源66から処理室58内に例えば酸素を含むエッチングガスを供給する。そして、処理室58内を所定圧力に維持し、アンテナ54に対して第1高周波電源部56から高周波電力を供給し、処理室58内にプラズマを発生させて基板1に照射し、即ち保護膜28の表面をプラズマに晒す。このとき、プラズマ中のラジカルとイオンの物理化学的作用により保護膜28の一部が除去される(ライトアッシング)。これにより、前述した水性洗浄液による保護膜28の除去を容易に行なうことができる。
【0066】
[実施例]
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
実施例1
(1)基板の準備
シリコン基板を保持した搬送キャリアを準備した。シリコン基板上には、複数の素子領域が形成されており、各素子領域は分割領域で取り囲まれている。
【0068】
(2)保護膜形成
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩を、水とアセトンとの混合溶媒(水:アセトン=1:1(質量比))に溶解させることにより、塗布液(混合物)を調製した。ここで使用したポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩は、水溶性樹脂であり、その融点は450℃、熱分解温度は約600℃、レーザの吸収係数は1.02abs・L/g・cm-1であった。混合物中の固形分濃度は、200g/Lとした。混合物の20℃における粘度は、10mPa・sであり、pHは7であった。
上記(1)で準備したシリコン基板の露出した表面全体にスプレーコートすることにより、塗膜を形成した。塗膜を、大気圧下、室温にて乾燥させた。スプレーコートと乾燥とを複数回繰り返すことにより、厚み30μmの保護膜を形成した。
【0069】
(3)レーザグルービング
355nmの波長のナノ秒レーザを用いて、シリコン基板の分割領域上の保護膜にレーザ光を照射し、この部分の保護膜を除去した。レーザ光の照射は、パルス周期200kHz、出力0.3W、スキャン速度400mm/秒で、3パス加工を行った。
【0070】
(4)プラズマエッチングによる個片化
シリコン基板を保持した搬送キャリアをプラズマ処理装置が備えるチャンバ内に搬入して、チャンバ内に設けられたステージ上に載置した。搬送キャリアは、シリコン基板を保持している面をチャンバの頂部に設けられた上部電極に向けた状態でステージ上に載置した。チャンバ内に、パッシベーション膜を堆積させるプラズマとシリコンをエッチングさせるプラズマを交互に発生させて、保護膜が除去された領域において、シリコン基板をエッチングした。より具体的には、チャンバ内にパッシベーション膜を堆積させるためのプラズマを5秒間発生させるステップAと、チャンバ内にシリコンをエッチングさせるプラズマを15秒間発生させるステップBとを20サイクル繰り返した。各ステップは、以下の条件で行った。
【0071】
ステップA:チャンバ内にC4F8を300sccmで供給しながら、チャンバ内に設置した排気バルブによりチャンバ内を排気することで、チャンバ圧力を20Paに調圧し、アンテナ54に2000WのRF電力を印加する。
ステップB:チャンバ内にSF6を流量300sccmで導入しながら、チャンバ内に設置した排気バルブによりチャンバ内を排気することで、チャンバ内の圧力を20Paに調圧し、アンテナ54に2000Wの高周波電力(RF電力)を印加するとともに、下部電極に300WのLF電圧を印加する。
このようなエッチングにより、シリコン基板の分割領域部分が表面から裏面まで除去され、複数のチップに個片化された。
【0072】
(5)保護膜除去
シリコン基板の素子領域上に残存した保護膜に対して、水性洗浄液を2流体スプレー噴霧することにより、保護膜を除去した。水性洗浄液としては、脱イオン水を用いた。
【0073】
比較例1
実施例1の(2)保護膜形成において、ポリビニルアルコール20g、フェルラ酸0.2g、および水80gを混合することにより塗布液を調製した。得られた塗布液を用いる以外は、実施例1と同様にして、シリコン基板上に厚み5μmの保護膜を形成した。ただし、5μmの厚みの保護膜を形成するのに要した時間は、実施例1の4倍以上であった。保護膜を形成した後、プラズマエッチングに対する耐性を付与するため、60℃にて10分間加熱した。加熱後の保護膜を有する基板を用いて、実施例1と同様にして、(3)レーザグルービングおよび(4)プラズマエッチングによる個片化を行った。
【0074】
実施例1と同じ処理では、保護膜を除去できなかったため、アッシングにより保護膜の表層部分を除去した後、水性洗浄液で洗浄した。より具体的には、個片化の後、チャンバ内に酸素ガスを導入しつつ、排気バルブを調節して、チャンバ内を所定圧力に維持した。次いで、上部電極に高周波電力を供給してチャンバ内に酸素プラズマを発生させ、保護膜に照射した。酸素プラズマの照射により、保護膜の表層部分を除去した。次いで、実施例1の場合と同様に、水性洗浄液で、保護膜の残りの部分を除去した。
【0075】
図9および
図10に、実施例1および比較例1におけるレーザグルービング後の保護膜の状態を示すレーザ顕微鏡による3Dマッピングの測定結果をそれぞれ示す。実施例1では、形状の整った溝が分割領域上に形成されている。それに対し、比較例1では、分割領域上において、溝は途切れ途切れに形成されており、隣接する溝の間には、保護膜がブリッジ状に残存した状態となっている。
【0076】
図11および
図12に、実施例1および比較例1における個片化後の保護膜の状態を示すSEM写真をそれぞれ示す。これらの図に示されるように、実施例1では、保護膜の剥離は見られない。これに対し、比較例1では、保護膜が大きく剥離している。
【0077】
図13および
図14に、実施例1および比較例1における保護膜除去後の素子チップの状態を上面から見たレーザ顕微鏡の観察写真をそれぞれ示す。実施例1では、形状の整ったきれいな分割領域が形成されている。これに対し、比較例1では、素子領域の形状はいびつであり、エッチングができていない部分もある。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本開示に係る製造方法は、素子チップをプラズマエッチングにより形成する際に利用するのに適している。
【符号の説明】
【0079】
1…基板、1a…第1面(表面)、1b…第2面(裏面)、R1…素子領域、R2…分割領域、2…フレーム、2a…開口部、2b…ノッチ、2c…コーナーカット、3…保持シート、3a…粘着面、3b…非粘着面、4…搬送キャリア、11…素子チップ、20…ノズル、26…混合物、28a…塗膜、28…保護膜、30…多層配線層、31…保護層、32…バンプ、50…ドライエッチング装置、52…チャンバ、54…アンテナ、56…第1高周波電源部、58…処理室、60…ステージ、62…第2高周波電源部、64…ガス導入口、66…エッチングガス源、68…排気口、70…真空排気部