(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-27
(45)【発行日】2023-03-07
(54)【発明の名称】ポリマーセメントモルタル及び鉄筋コンクリートの補修方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20230228BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20230228BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20230228BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20230228BHJP
C04B 16/08 20060101ALI20230228BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20230228BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20230228BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20230228BHJP
C04B 16/06 20060101ALI20230228BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230228BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B22/08 Z
C04B24/26 G
C04B22/06 Z
C04B16/08
C04B18/08 Z
C04B24/06 Z
C04B24/02
C04B16/06 B
E04G23/02 B
(21)【出願番号】P 2019061962
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長井 義徳
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-281037(JP,A)
【文献】特開2015-117166(JP,A)
【文献】特開2003-306367(JP,A)
【文献】特開2005-336952(JP,A)
【文献】特開2013-129570(JP,A)
【文献】特開昭57-188443(JP,A)
【文献】特開2013-119498(JP,A)
【文献】特開2010-053301(JP,A)
【文献】特開2009-132558(JP,A)
【文献】特開2003-120041(JP,A)
【文献】特開平04-317448(JP,A)
【文献】特開平08-259294(JP,A)
【文献】特開2015-157892(JP,A)
【文献】特開2011-136887(JP,A)
【文献】特開2005-067903(JP,A)
【文献】特開2003-306370(JP,A)
【文献】特開2020-158348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)亜硝酸塩、(B)セメント、(C)ポリマーディスパージョン、(D)膨張材、(E)フライアッシュ、(F)遅延剤、(G)消泡剤、(H)有機繊維、及び(I)細骨材を含有し、(A)亜硝酸塩含有量がポリマーセメントモルタル中の亜硝酸イオン量が1~
54.5kg/m
3となる量であり、(B)セメント100質量部に対し、(C)ポリマーディスパージョンを2~20質量部、(D)膨張材を3~20質量部、(E)フライアッシュを5~50質量部、(F)遅延剤を0.05~2質量部、(G)消泡剤を0.05~0.5質量部、(H)有機繊維を0.2~2質量部含有し、ポリマーセメントモルタル中の骨材を除いたペーストの量が700~1250kg/m
3であることを特徴とするポリマーセメントモルタル。
【請求項2】
鉄筋コンクリートの劣化部分のコンクリートを当該部分に埋設されている鉄筋が露出するように除去する工程(A)と、前記工程(A)により露出した鉄筋に発生している錆を除去する工程(B)と、工程(A)で形成された断面欠損部を請求項1に記載のポリマーセメントモルタで埋め戻す工程(C)とを具備することを特徴とする鉄筋コンクリートの補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーセメントモルタル組成物に関する。詳しくは、断面修復材(断面修復用ポリマーセメントモルタル)としても用いることができ、且つ鉄筋コンクリート補修用防せい材としても用いることができるポリマーセメントモルタル組成物に関する。
また、本発明は、鉄筋コンクリートの補修方法に関する。詳しくは、少ない工程で施工できる鉄筋コンクリートの補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリートは、トンネルや橋梁等の土木構造物、ビルや一般家屋等の建築構造物に広く使用されている。しかし、これらの鉄筋コンクリート構造物は、二酸化炭素などの酸性ガスによる中性化並びに海水や凍結防止剤等による塩害で、内部の鉄筋が腐食し、補修が必要になることがある。
【0003】
鉄筋コンクリートが酷く劣化した場合は、劣化したコンクリートを除去した後、露出した鉄筋の錆を除去・防錆処理(防錆剤の塗布)した後に、コンクリートの断面欠損部分をモルタル又はコンクリートで修復することが行われ、そのような補修方法が提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)。
【0004】
しかし、従来から行われてきた上記のような鉄筋コンクリートの補修方法は、補修方法として優れているものの、より簡素で工程を省略しても、補修した部分の鉄筋を充分に防錆した上で補修できる鉄筋コンクリートの補修方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-120041号公報
【文献】特開平02-92883号公報
【文献】特開平08-260562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記問題の解決、即ち、本発明は、鉄筋コンクリート補修用防せい材及び断面修復材として使用可能なポリマーセメントモルタル組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、より簡素で、補修した部分の鉄筋を充分に防錆した上で補修できる鉄筋コンクリートの補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題解決のため鋭意検討した結果、セメントと、亜硝酸塩、ポリマーディスパージョン、膨張材、フライアッシュ、遅延剤、消泡剤、有機繊維及び細骨材を含有し、特定の亜硝酸イオン量となる亜硝酸塩を含み且つポリマーセメントモルタル中の骨材を除いたペーストの量が特定の量とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は、以下の(1)で表すポリマーセメントモルタル、並びに(3)で表す鉄筋コンクリートの補修方法である。
(1)(A)亜硝酸塩、(B)セメント、(C)ポリマーディスパージョン、(D)膨張材、(E)フライアッシュ、(F)遅延剤、(G)消泡剤、(H)有機繊維、及び(I)細骨材を含有し、(A)亜硝酸塩含有量がポリマーセメントモルタル中の亜硝酸イオン量が1~54.5kg/m3となる量であり、(B)セメント100質量部に対し、(C)ポリマーディスパージョンを2~20質量部、(D)膨張材を3~20質量部、(E)フライアッシュを5~50質量部、(F)遅延剤を0.05~2質量部、(G)消泡剤を0.05~0.5質量部、(H)有機繊維を0.2~2質量部含有し、ポリマーセメントモルタル中の骨材を除いたペーストの量が700~1250kg/m3であることを特徴とするポリマーセメントモルタル。
(2)鉄筋コンクリートの劣化部分のコンクリートを当該部分に埋設されている鉄筋が露出するように除去する工程(A)と、前記工程(A)により露出した鉄筋に発生している錆を除去する工程(B)と、工程(A)で形成された断面欠損部を上記(1)に記載のポリマーセメントモルタルで埋め戻す工程(C)とを具備することを特徴とする鉄筋コンクリートの補修方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鉄筋コンクリート補修用防せい材及び断面修復材として使用可能なポリマーセメントモルタルが得られる。また、本発明によれば、より簡素で工程が少なく、補修した部分の鉄筋を充分に防錆した上で補修できる鉄筋コンクリートの補修方法が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリマーセメントモルタルは(A)亜硝酸塩、(B)セメント、(C)ポリマーディスパージョン、(D)膨張材、(E)フライアッシュ、(F)遅延剤、(G)消泡剤、(H)有機繊維、及び(I)細骨材を含有し、(A)亜硝酸塩含有量がポリマーセメントモルタル中の亜硝酸イオン量が1~100kg/m3となる量であり、ポリマーセメントモルタル中の骨材を除いたペーストの量が700~1250kg/m3であることを特徴とする。
【0010】
本発明のポリマーセメントモルタルは、鉄筋コンクリートの補修方法に用いる。本発明のポリマーセメントモルタルは、セメント(成分(B))100質量部に対し、30~90質量部の水を含有することが好ましい。この範囲であると混練し易く、左官作業や吹付け作業が行い易い。また、寸法安定性にも優れ、壁面や天井面に塗付けても垂れ及び変形が起こり難い。セメント(成分(B))100質量部に対し、30質量部未満であると、混練し難く、混練できても左官作業やモルタル吹付け作業は行い難い。また、9 0質量部を超えると、寸法安定性が悪くなり、ひび割れの発生の虞が高まる。更に、モルタルをコン クリート壁面に塗付けた場合に、初期に垂れ又は変形が起こり易い。混練し易く、左官作業及びモル タル吹付け作業が行い易く、壁面に塗付けても垂れ及び変形が起こり難いことから、含有するセメント100質量部に対して35~60質量部の水を含有することが、より好ましい。尚、使用する水の量は、水溶液やエマルション等の水を溶媒や分散媒とする液状の混和材料に含まれる水量も考慮したものとする。本発明のポリマーセメントモルタルを混練するときは、モルタルミキサやコンクリートミキサ等のミキサで混練し製造することが好ましい。用いることのできるミキサとしては連続式ミキサでもバッチ式ミキサでも良く、例えばパン型コンクリートミキサ、パグミル型コンクリートミキサ、重力式コンクリートミキサ、グラウトミキサ、ハンドミキサ、左官ミキサ等が挙げられる。
【0011】
本発明のポリマーセメントモルタルに用いるセメント(成分(B))は、水硬性セメントであればよく、例えば普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱の各種ポルトランドセメント、エコセメント、アルミナセメント、並びにこれらの水硬性セメントに、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末等を混合した各種混合セメント等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を使用することができる。本発明に用いるセメントとしては、左官施工し易いことから、珪酸カルシウムを主成分とするセメント又はアルミナセメントを主体としたセメントが好ましい。ここで珪酸カルシウムを主成分とするとは、含まれるセメントクリンカ粉砕物中において珪酸カルシウム鉱物(C3S、C2S)を50質量%以上含むことをいい、好ましくは60質量%以上含むことをいい、より好ましくは70質量%以上含むことをいう。また、材齢1日において高い強度を得易いことから、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、エコセメント及びアルミナセメントから選ばれる一種又は二種以上を使用することが更に好ましい。
【0012】
本発明のポリマーセメントモルタルに用いる亜硝酸塩(成分(A))は、亜硝酸カルシウム、亜硝酸リチウムが好適な例として挙げられる。本発明において、亜硝酸塩含有量は、ポリマーセメントモルタル中の亜硝酸イオン量が1~100kg/m3となる量である。ポリマーセメントモルタル中の亜硝酸イオン量が1kg/m3未満となる量の亜硝酸塩含有量では、防せい性が不充分で、日本建築学会の「鉄筋コンクリート補修用防せい材の品質基準(案)」(鉄筋コンクリート造建築物の耐久性調査・診断および補修指針(案)・同解説の付録1.3)で規定される品質基準を、ポリマーセメントモルタルが満たさない。また、ポリマーセメントモルタル中の亜硝酸イオン量が100kg/m3を超える量の亜硝酸塩含有量では、亜硝酸塩が亜硝酸カルシウムの場合は、硬化が早すぎて断面欠損部への塗布ができず、亜硝酸塩が亜硝酸リチウムの場合は、硬化遅延を起こし、低温時に硬化不良を起こす虞がある。本発明における好ましい亜硝酸塩含有量は、ポリマーセメントモルタル中の亜硝酸イオン量が2~20kg/m3となる量、更にはポリマーセメントモルタル中の亜硝酸イオン量が2~10kg/m3となる量である。
【0013】
本発明に用いるポリマーディスパージョン(成分(C))としては、ポリマーセメントモルタルやポリマーセメントコンクリートの結合材として用いられるものであればよく、例えば、スチレン・ブタジエン共重合体,クロロプレンゴム,アクリロニトリル・ブタジエン共重合体又はメチルメタクリレート・ブタジエン共重合体等の合成ゴム、天然ゴム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリクロロピレン、ポリアクリル酸エステル、スチレン・アクリル共重合体、オールアクリル共重合体、ポリ酢酸ビニル,酢酸ビニル・アクリル共重合体,酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体,変性酢酸ビニル,エチレン・酢酸ビニル共重合体,エチレン・酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体,酢酸ビニルビニルバーサテート共重合体,アクリル・酢酸ビニル・ベオバ(t-デカン酸ビニルの商品名)共重合体等の酢酸ビニル系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキド樹脂及びエポキシ樹脂等の合成樹脂、アスファルト,ゴムアスファルト及びパラフィン等の瀝青質等が好ましい例として挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。下地との接着が良いという理由から、本発明に使用するポリマーディスパージョンとしては、ポリ酢酸ビニル,酢酸ビニル・アクリル共重合体,酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体,変性酢酸ビニル,エチレン・酢酸ビニル共重合体,エチレン・酢酸ビニル・塩化ビニル共重合体,酢酸ビニルビニルバーサテート共重合体,アクリル・酢酸ビニル・ベオバ(t-デカン酸ビニルの商品名)共重合体等の酢酸ビニル系樹脂;ポリアクリル酸エステル,ポリメタクリル酸エステル,アクリル酸エステル・スチレン共重合体,スチレン・アクリル共重合体,オールアクリル共重合体等のアクリル系樹脂;ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;スチレン・ブタジエン共重合体,クロロプレンゴム,アクリロニトリル・ブタジエン共重合体又はメチルメタクリレート・ブタジエン共重合体等の合成ゴムから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましい。ポリマーディスパージョンは、上記樹脂を水に乳化して安定化された液体状のもの(ポリマーエマルション)、又は水により再乳化するものであれば粉末状(再乳化型粉末樹脂)でもよく、何れか1種又は2種以上を併用してもよい。ポリマーディスパージョンの含有量は、105℃における不揮発性分(以下「固形分」という。)換算で、セメント(成分(B))100質量部に対し、2~20質量部とすることが好ましい。2質量部未満では、下地への付着強度が劣るほか、耐中性化、耐凍結融解性、耐水性などの効果が不足する。また、20質量部を超えるとポリマーセメントモルタルが高粘性となるため 、混練時の抵抗の増大や施工時の作業性の低下をもたらし、硬化遅延により塗布したポリマーセメントモルタルが垂れる虞がある。下地への付着強度が高く且つ粘性が抑えられ施工時の作業性に優れることから、ポリマーディスパージョンの含有量は、固形分換算でセメント(成分(B))100質量部に対し、5~15質量部とすることがより好ましい。
【0014】
本発明に用いる膨張材(成分(D))としては、水和反応により、エトリンガイトや水酸化カルシウムを生成するものであればよく、カルシウムサルフォアルミネート系(エトリンガイト系)膨張材、カルシウムアルミノフェライト系膨張材、(生)石灰系膨張材、エトリンガイト-石灰複合系膨張材及び石膏系膨張材等が挙げられ、これらの一種又は二種以上が使用可能であり好ましい。膨張材を含有することにより、硬化後のポリマーセメントモルタルの収縮が抑制されてひび割れが発生し難くなることに加え、高い寸法安定性 が得られるため、下地となるコンクリートや鉄筋との一体性が保たれる。膨張材の含有量はセメント (成分(B))100質量部に対し、2~20質量部とすることが好ましく、2質量部未満では、収縮抑制効果が得られ難く、20質量部を超えると過膨張を起こす虞がある。より好ましい膨張材の含有量は、セメント (成分(B))100質量部に対し、3~15質量部とし、更に好ましくは、5~10質量部とする。
【0015】
本発明のポリマーセメントモルタルは、フライアッシュ(成分(E))を含有することから、鏝伸び性、鏝切れ性、表面平滑性等の鏝作業性に優れ、鉄筋の凹凸に緻密した状態で断面欠損部に充填し易い。本発明のポリマーセメントモルタル組成物に用いるフライアッシュ(成分(E))は、フライアッシュであれば特に限定されないが、規格(JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」)に適合するものであれば、鏝伸び性、鏝切れ性、表面平滑性等の鏝作業性に安定して優れ、更にポンプ圧送性にも安定して優れることから好ましい。本発明のポリマーセメントモルタルにおけるフライアッシュ(成分(E))の配合割合は、セメント(成分(B))100質量部に対し5~50質量部とする。この範囲の配合割合でフライアッシュを含有することで、左官施工時の鏝作業性及び吹付け施工時のポンプ圧送性に優れる。5質量部未満では成分(E)を含有させた効果が小さい。また、50質量部を超えると、コンシステンシーを得るための混練水量が増すために、乾燥収縮が大きくなり寸法安定性に問題が生じ易くなる。左官施工時の鏝作業性がよく、吹付け施工時のポンプ圧送性もよい、つまり、作業性に優れることから、本発明のポリマーセメントモルタルにおけるフライアッシュ(成分(E))の配合割合は、セメント(成分(B))100質量部に対し10~30質量部とすることがより好ましく、10~20質量部とすることが更に好ましい。
【0016】
本発明に用いる遅延剤(成分(F))としては、セメントの水和反応を遅らせるものであれば、 特に限定されない。好ましくはクエン酸、酒石酸、グルコン酸、ヘプトン酸等の有機カルボン酸及びその塩、リグニンスルホン酸及びその塩、可溶性デンプンから選ばれる1種又は2種以上を用いる。本発明における遅延剤(成分(F))の含有量は、可使時間が得易く且つ高い強度を得易いことから、セメント(成分(B))100質量部に対し0.05~2質量部とする。より好ましい遅延剤(成分(F))の含有量は、可使時間及び強度の点で、セメント(成分(B))100質量部に対し0.05~1.5質量部とする。
【0017】
本発明のポリマーセメントモルタルは、消泡剤(成分(G))を含有することから、混練中に発生するエントラップエアやエントレンドエアを抜くことができ、鉄筋との付着面積が増すために、鉄筋に対する付着強度が高い。本発明に用いる消泡剤(成分(G))としては、その種類は限定されないが、例えば、市販のセメント用消泡剤、市販のセメントモルタル用消泡剤又は市販のコンクリート用消泡剤の他、他用途の鉱物油系、ポリエーテル系、シリコーン系、脂肪酸エステル系等の消泡剤、トリブチルフォスフェート、ポリジメチルシロキサン又はポリオキシアルキレンアルキルエーテル系非イオン界面活性剤が好適な例として挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、本発明に用いる消泡剤としては、液体のものでも粉末状のものでもよい。本発明における消泡剤(成分(G))の含有量は、ポリマーセメントモルタルの鉄筋に対する付着強度が高いことから、セメント(成分(B))100質量部に対し0.05~0.5質量部とする。より好ましい遅延剤(成分(F))の含有量は、可使時間及び強度の点で、セメント(成分(B))100質量部に対し0.1~0.3質量部とする
【0018】
本発明のポリマーセメントモルタルは、有機繊維(成分(H))を含有することから、寸法安定性に優れ、下地との高い接着力が得られる。本発明に用いる有機繊維(成分(H))としては、種類は限定されず、例えば、ビニロン繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、セルロース繊維、ポリエチレン繊維などが好適な例として挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。本発明における有機繊維(成分(H))を含有量は、より寸法安定性に優れ且つ下地との高い接着力が得られることから、セメント(成分(B))100質量部に対し0.2~2質量部とする。より好ましくは、0.5~1質量部とする。
【0019】
本発明に用いる細骨材(成分(I))としては、モルタルやコンクリートで使用可能なものであればよく、例えば珪砂、石灰石砕砂等の砕砂、川砂、陸砂、海砂、人工軽量細骨材、パーライトやシラスバルーン等の無機質発泡粒、ポリスチレン粒やチレン酢酸エビニル粒等の有機質軽量骨材、高炉スラグ細骨材や電気炉酸化スラグ細骨材等のスラグ細骨材等の他、セメントクリンカ粒(セメントとして市販されているセメントクリンカ粉末よりも粗い粒状のもの)が使用可能で、これらの2種以上を併用してもよい。本発明に用いる細骨材(成分(I))としては、下地に対する付着力が高いことから、無機質発泡粒及び有機質軽量骨材以外のものが好ましく、更に人工軽量細骨材を除いたものから選ばれる1種又は2種以上のものがより好ましい。
【0020】
本発明において、ポリマーセメントモルタル中の骨材を除いたペーストの量は、700~1250kg/m3であるので、異形鉄筋の凹凸に応じてポリマーセメントモルタルが鉄筋に密着することができ、防せい材としての効果を発揮できるとともに、鉄筋に対する高い付着力が得られる。ペーストの量が700kg/m3未満では、骨材が多過ぎ、異形鉄筋の凹凸に応じてポリマーセメントモルタルが鉄筋に密着することができない場合があり、防せい性能及び/又は鉄筋に対する付着力が不足することがある。また、ペーストの量が1250kg/m3を超えると、水和熱や乾燥収縮によるひび割れが発生し易くなり、下地との一体性が不足する場合、又は防せい性が低いことがある。異形鉄筋の凹凸に応じてポリマーセメントモルタルが鉄筋に密着し易く、且つひび割れが発生し難いことから、ポリマーセメントモルタル中の骨材を除いたペーストの量は、900~1200kg/m3とすることが好ましい。
【0021】
本発明のポリマーセメントモルタルには、、本発明の効果を喪失させない限り、上記の(A)亜硝酸塩、(B)セメント、(C)ポリマーディスパージョン、(D)膨張材、(E)フライアッシュ、(F)遅延剤、(G)消泡剤、(H)有機繊維、及び(I)細骨材以外の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、高性能減水剤や高性能AE減水剤等のセメント分散剤、防水材、防錆剤、収縮低減剤、顔料、上記以外の繊維、撥水剤、白華防止剤、急結剤(材)、急硬剤(材)、凝結遅延剤、発泡剤、消石灰、シリカフューム、火山灰、高炉スラグ粉末等のスラグ粉末、空気連行剤、表面硬化剤等の混和材料、並びに川砂利、陸砂利、砕石等の粗骨材が挙げられる。
【0022】
本発明の鉄筋コンクリートの補修方法は、鉄筋コンクリートの劣化部分のコンクリートを当該部分に埋設されている鉄筋が露出するように除去する工程(A)と、前記工程(A)により露出した鉄筋に発生している錆を除去する工程(B)と、工程(A)で形成された断面欠損部を上記のポリマーセメントモルタルで埋め戻す工程(C)とを具備することを特徴とする。工程(B)は、工程(A)と同時に行っても、工程(A)の後に行ってもよい。また、工程(C)は、工程(A)及び工程(B)の後に行う。
【0023】
工程(A)において、コンクリートを除去する方法は、劣化したコンクリートを鉄筋が露出する深さまで除去できれば特に限定されず、例えば、斫り取る方法、超高圧水(ウォータジェット)による方法、静的破砕剤により部分的に破砕する方法、切削機械で削り取る方法、ハンマードリルやクローラドリル等で穿孔する方法、ブラスト処理による方法或いはこれらを組み合わせた方法が好ましい例として挙げられる。この工程(A)において、劣化しているコンクリートを全て除去するときは、健全なコンクリート及び健全な鉄筋が露出するまでコンクリートを除去することが好ましい。
【0024】
工程(B)は、前記工程(A)により露出した鉄筋に発生している錆を除去する工程であるが、鉄筋に発生している錆を除去する方法は、特に限定されず、超高圧水(ウォータジェット)による方法、ブラスト処理による方法、ワイヤブラシによる方法、サンドペーパーによる方法、ヤスリによる方法、錆が発生している範囲を含む鉄筋を切断・除去する方法及びこれらを組み合わせた方法が好適な例として挙げられる。
【0025】
工程(B)で鉄筋に発生している錆を除去した後に、もしも鉄筋の強度が不足する場合、又は鉄筋を切断・除去した場合は、鉄筋を新たなものに交換するか、新たな鉄筋を増設することが好ましい。
【0026】
工程(C)は、工程(A)で形成された断面欠損部を上記のポリマーセメントモルタルで断面修復する工程である。この工程(C)は、断面欠損部が上側に開口している窪みで且つ窪みの底又は側面に穴や開口が無い場合、或いは、充填するポリマーセメントモルタルのコンシステンシーが小さく、充填するポリマーセメントモルタルが漏れ出る又は垂れる虞がない場合は、断面欠損部である当該窪みにポリマーセメントモルタルをそのまま充填してもよいが、それ以外の場合は、充填するポリマーセメントモルタルが漏れ出ないように又は垂れないように型枠等で処置した上で、断面欠損部にポリマーセメントモルタルを充填することで断面修復することが好ましい。このとき、必要により空気抜き用のホースを設置してもよい。また、工程(C)で断面欠損部にポリマーセメントモルタルを充填する方法は、特に限定されずに、鏝、刷毛、ローラー等で塗布する方法、吹付け装置により吹付ける方法、注入工法により注入する方法、又はこれらを組み合わせた方法によることが好ましい。また、ポリマーセメントモルタルを充填す前に、断面欠損部分のコンクリート表面に、水、吸水調整剤、接着増強材から選ばれる1種又は2種以上を塗布してもよい。
【実施例】
【0027】
以下に示す材料を使用し、表1に示す配合割合となるように粉末又は粒状の固形材料をミキサで1分間乾式混合することでモルタル組成物(プレミックスモルタル)を作製した。作製したモルタル組成物に表1に示す割合の水及び液状混和材料を加え、3分間ミキサで混練することでポリマーセメントモルタル(混練物)を作製した。
<使用材料>
(A)亜硝酸塩:
A1: 亜硝酸カルシウム
A2: 亜硝酸リチウム
(B)セメント: 普通ポルトランドセメント
(C)ポリマーディスパージョン:
C1:スチレン・ブタジエン共重合体系(SBR系)合成ゴムエマルション(固形分:20質量%)
C2:オールアクリル共重合体からなる再乳化型粉末樹脂
(D)膨張材: 生石灰系膨張材
(E)フライアッシュ: JISフライアッシュ(フライアッシュII種)
(F)遅延剤:
F1: クエン酸
F2: 可溶性デンプン
(G)消泡剤: ポリエーテル系消泡剤
(H)有機繊維: ビニロン繊維(繊維長5mm)
(I)細骨材: 珪砂(F.M.:2.6)
【0028】
【0029】
作製したポリマーセメントモルタルの品質試験として、以下に示す通り、施工性試験、耐アルカリ性試験、付着強さ試験及び防せい性試験を行った。これらの結果及び評価を表2に示した。
【0030】
<品質試験方法>
・施工性試験
混練後20分間静置し再度30秒撹拌後に、左官工法に使用できるか否かで可使時間を確認し、垂直面への塗り付け厚さにて塗布可能性を確認するという方法により、塗布可能性及び可使時間を測定した。20分後の塗り付けにおいて10mm以上垂れずに塗り付ることができた場合を施工性良好(記号:○)、それ以外の場合を施工性不十分(記号:×)と評価した。
・耐アルカリ性試験
日本建築学会の「鉄筋コンクリート補修用防せい材の品質基準(案)」に規定される耐アルカリ性試験に従って試験を行った。試験の結果、「アルカリに浸しても異常が認められない」との評価の場合を「良好」(記号:○)、それ以外の場合を「不十分」(記号:×)と評価した。
・付着強さ試験
日本建築学会の「鉄筋コンクリート補修用防せい材の品質基準(案)」に規定される鉄筋に対する付着強さ試験方法に従って試験を行った。試験の結果、付着強さが7.8N/mm2以上の場合を「良好」(記号:○)、それ以外の場合を「不十分」(記号:×)と評価した。
・防せい性試験
日本建築学会の「鉄筋コンクリート補修用防せい材の品質基準(案)」に規定される鉄筋に対する防せい性試験方法に準じて,露出した鉄筋の周囲を別途の防せい材を用いずに上記の作製したポリマーセメントモルタルで充填して供試体を作製し試験を行った。又、比較例の1水準として、試験No.6では、亜硝酸塩を含有しない配合No.5のポリマーセメントモルタルで充填する前に、亜硝酸塩を含有し防せい性能を有するセメントペースト(鉄筋防錆材)を塗布した供試体を作製し同様に試験を行った。試験の結果、ポリマーセメントモルタルで充填した部分(「処理部」という。)の防せい率が50%以上且つ基材モルタル部分(「未処理部」という。)の防せい率が-10%以上の場合を防せい性能「良好(有)」(記号:○)、それ以外の場合を「不十分」(記号:×)と評価した。また、合わせて、鉄筋が露出した供試体の断面修復の工程数を表2に記載した。
【0031】
【0032】
本発明の実施例に当たる配合No.1~3のポリマーセメントモルタルは、耐アルカリ性試験においいて、「アルカリに浸しても異常が認められない」との評価、鉄筋に対する付着強さ試験において付着強さが7.8N/mm2以上且つ防せい性試験において処理部の防せい率が50%以上で未処理部の防せい率が-10%以上であるから、日本建築学会の「鉄筋コンクリート補修用防せい材の品質基準(案)」に規定される「鉄筋腐食補修工法に用いる鉄筋コンクリート補修用防せい材」としての品質を満たしており、防せい性試験において断面修復材として用いることができ、断面修復材として鉄筋が露出した断面欠損部を断面修復する(埋める)だけで、鉄筋の防錆処理もでき、工程を少なくできることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、劣化した鉄筋コンクリート造の構造物の補修工事に好適に用いることができる。