(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】RAMO4基板、その製造方法、及びIII族窒化物結晶の製造方法。
(51)【国際特許分類】
C30B 29/22 20060101AFI20230303BHJP
C30B 33/10 20060101ALI20230303BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20230303BHJP
C23C 16/34 20060101ALI20230303BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20230303BHJP
H01L 21/205 20060101ALN20230303BHJP
【FI】
C30B29/22 A
C30B33/10
C30B25/18
C23C16/34
H01L21/20
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2019121718
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】大野 啓
(72)【発明者】
【氏名】山下 賢哉
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/147786(WO,A1)
【文献】特開2014-034481(JP,A)
【文献】特開2018-095545(JP,A)
【文献】特開2018-199593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0112158(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0174911(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/22
C30B 29/38
C30B 33/10
C30B 25/18
C23C 16/34
H01L 21/20
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式RAMO
4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す。)で構成される+c面を主表面として有するRAMO
4基板であって、
前記+c面に周囲を複数のV溝で覆われて構成される三角錐台を有し、
前記V溝は、斜面の水平に対する傾きとして40°~70°の範囲として、凹凸の凹部の底の面積比が溝部の50%以下であり、
前記三角錐台の三角形頂点方向の一つを六方晶系の[-1100]方向と結晶面方位を定義した時に、
前記V溝の斜面が、{11-2Z}面、(01-1Z)面、(-101Z)面、又は(1-10Z)面(但し、Zは正の整数とする)により構成されている、RAMO
4基板。
【請求項2】
前記V溝斜面が、{11-2Z}面(但し、Zは正の整数とする)により構成される、請求項1に記載のRAMO
4基板。
【請求項3】
前記+
c面上にIII族窒化物結晶が形成された、請求項1又は2に
記載のRAMO
4基板。
【請求項4】
一般式RAMO
4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)で構成される+c面を主表面として有するRAMO
4基板を準備し、
前記+c面に対してマスクを施してウェットエッチングすることで、周囲をV溝で覆われる三角錐台を形成するに際し、
前記三角錐台の三角形頂点方向の一つを六方晶系の[-1100]方向と結晶面方位を
定義した時に、
前記V溝の斜面が、{11-2Z}面、あるいは、(01-1Z)面、(-101Z)面、(1-10Z)面(但し、Zは正の整数とする)となるように前記ウェットエッチングを施す、RAMO
4基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のRAMO
4基板を準備し、
前記RAMO
4基板上にIII族窒化物結晶を成長させ、
前記III族窒化物と前記RAMO
4基板とを自然剥離させる、III族窒化物結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RAMO4基板、その製造方法、及びIII族窒化物結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、一般式RAMO4で表される単結晶基板が、GaN結晶成長用の基板として注目されている。ここで、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg,Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つはまたは複数の二価の元素を表す。
【0003】
特に、特許文献1に記載されたRAMO4の一例であるScAlMgO4単結晶(「SCAMO結晶」ともいう。)は、岩塩型構造の(111)面的なScO2層と、六方晶の(0001)面的なAlMgO2層とが交互に積層した構造となっている。六方晶(0001)面的な2層は、ウルツ鉱型構造と比較して平面的になっており、面内の結合と比較して、上下層間の結合は、0.03nmほど長く、結合力が弱い。従って、ScAlMgO4単結晶は、(0001)面で劈開することができる。
【0004】
また、六方晶(0001)面的なAlMgO2層のa軸格子定数が、3.23Å(32.3nm)であり、GaNのa軸格子定数が、3.18Å(31.8nm)であり、両者の格子不整合は1.5%程度である。一方、サファイア単結晶とGaNとの格子不整合が16%であることから、成長用の基板としてSCAM結晶の方がサファイア結晶よりも高品質なGaN結晶が得られるものとして期待できる。
【0005】
また、ScAlMgO4結晶の熱膨張係数は、6.6×10-6/Kで、GaNの5.5×10-6/Kと比べて大きい。そこで、ScAlMgO4結晶上に200μmを超える厚めのGaN結晶を成長させた後に、上記のc面劈開性、及び、結晶成長後の冷却過程での熱収縮時の応力差を利用することで、c面での剥離・自立化が可能であると期待されている。
【0006】
しかしながら、実際に劈開したScAlMgO4単結晶上に、数μm程度のGaN薄膜を形成した場合に転位密度を評価してみると5×107cm-2~1×108cm-2程度であった。サファイア基板上のGaN薄膜の転位密度が1×108cm-2~1×109cm-2程度であり、改善傾向は見られたが市販されている自立GaN基板の転位密度が3×106cm-2であることを考慮すると、近年のGaNデバイスの要求仕様からは十分に転位密度を低減できているわけではない。また、劈開したScAlMgO4単結晶上に400μmを超える厚めのGaN結晶を成長させた場合に、ScAlMgO4のc面剥離性を利用して自立化を試みてみたが密着力が強く自然剥離が困難であった。時には、ScAlMgO4結晶、GaN結晶のいずれかが割れてしまうこともあり期待されるような特性を活かし切れていない。
【0007】
なお、サファイア基板上にGaN結晶を形成する場合では、結晶成長後のGaN結晶のピット密度や転位密度を低減させるに、サファイア基板に凹凸パターンを形成し、そのパターン基板上にGaNを結晶成長させるといった手法が有効であることが知られている。
例えば、特許文献2には、円錐状又は角錐状の凸部を表面に格子状に配置して形成されたサファイア基板に対してGaN結晶を形成すれば、ピット密度、転位密度の低減が可能であると開示されている。
【0008】
また、その他にも、転位密度の低減の手法として、特許文献3には、ストライプ状の溝を形成したパターンに対してGaNを結晶成長させる転位密度を低減する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-178448号公報
【文献】特開2016-060659号公報
【文献】特開2006-114829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記特許文献1乃至3による方法では転位密度の低減は十分ではなく、より低転位密度のIII族窒化物結晶を得ることができるRAMO4基板の製造方法が課題であった。
【0011】
本開示は、上記課題を解決したRAMO4基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るRAMO4基板は、一般式RAMO4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す。)で構成される+c面を主表面として有するRAMO4基板であって、
前記+c面に周囲を複数のV溝で覆われて構成される三角錐台を有し、
前記三角錐台の三角形頂点方向の一つを六方晶系の[-1100]方向と結晶面方位を定義した時に、
前記V溝の斜面が、{11-2Z}面、(01-1Z)面、(-101Z)面、又は(1-10Z)面(但し、Zは正の整数とする)により構成されている。
【0013】
本発明に係るRAMO4基板の製造方法は、一般式RAMO4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)で構成される+c面を主表面として有するRAMO4基板を準備し、
前記+c面に対してマスクを施してウェットエッチングすることで、周囲をV溝で覆われる三角錐台を形成するに際し、
前記三角錐台の三角形頂点方向の一つを六方晶系の[-1100]方向と結晶面方位を定義した時に、
前記V溝の斜面が、{11-2Z}面、あるいは、(01-1Z)面、(-101Z)面、(1-10Z)面(但し、Zは正の整数とする)となるように前記ウェットエッチングを施す。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、優れたRAMO4基板および低転位密度のIII族窒化物結晶を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(a):実施の形態4に係る凹凸付きRAMO
4基板上の三角形エピタキシャル領域のm面近接パターンの平面図、(b):実施の形態4に係る凹凸付きRAMO
4基板の断面図、(c):実施の形態4に係るRAMO
4基板上の三角形エピタキシャル領域のa面近接パターンの平面図
【
図2(a)】実施の形態4に係るRAMO
4基板上の六角形エピタキシャル領域のm面近接パターンの平面図
【
図2(b)】実施の形態4に係るRAMO
4基板上の六角形エピタキシャル領域のa面近接パターンの平面図
【
図3(a)】ScAlMgO
4の結晶格子(正規図)
【
図3(b)】ScAlMgO
4の結晶格子(正規図から60°回転)
【
図3(c)】ScAlMgO
4の結晶格子(正規図から120°回転)
【
図3(d)】ScAlMgO
4結晶の結晶方位の定義図
【
図5】(a):ScAlMgO
4基板をウェットエッチングした後の表面顕微鏡写真、(b):凹凸付ScAlMgO
4基板上にGaN薄膜を形成した表面電子顕微鏡写真、(c):凹凸付ScAlMgO
4基板上にGaN厚膜を形成した表面電子顕微鏡写真、(d):V溝側壁([-1100]方向)に異常成長した結晶の断面顕微鏡写真、(e):V溝側壁([11-20]方向)に異常成長した結晶の断面顕微鏡写真
【
図6】RAMO
4基板のウェットエッチングプロセスフロー
【
図7(a)】ScAlMgO
4基板上に形成されたパターン
【
図7(b)】ScAlMgO
4基板上に形成されたパターンへのGaN結晶成長した表面電子顕微鏡写真
【
図8(a)】ScAlMgO
4基板上への結晶成長フロー
【
図8(b)】ScAlMgO
4基板上への結晶成長フロー
【
図8(c)】ScAlMgO
4基板上への結晶成長フロー
【
図8(d)】ScAlMgO
4基板上への結晶成長フロー
【
図8(e)】凹凸付ScAlMgO
4基板上に形成されたGaN結晶表面電子顕微鏡写真
【
図8(f)】凹凸付ScAlMgO
4基板上に形成されたGaN結晶表面電子顕微鏡写真
【
図8(g)】凹凸付ScAlMgO
4基板上に形成されたGaN結晶表面電子顕微鏡写真
【
図9(a)】実施の形態4で規定される凹凸付ScAlMgO
4基板上3角エピ領域上に形成されたGaN結晶表面の光学顕微鏡写真
【
図9(b)】実施の形態4で規定される凹凸付ScAlMgO
4基板上3角エピ領域上に形成されたGaN結晶表面のCL像(500倍)
【
図10(a)】凹凸無ScAlMgO
4基板に形成されたGaN結晶表面のCL像(2000倍)
【
図10(b)】凹凸有ScAlMgO
4基板に形成されたGaN結晶表面のCL像(2000倍)
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の態様に係るRAMO4基板は、一般式RAMO4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す。)で構成される+c面を主表面として有するRAMO4基板であって、
前記+c面に周囲を複数のV溝で覆われて構成される三角錐台を有し、
前記三角錐台の三角形頂点方向の一つを六方晶系の[-1100]方向と結晶面方位を定義した時に、
前記V溝の斜面が、{11-2Z}面、(01-1Z)面、(-101Z)面、又は(1-10Z)面(但し、Zは正の整数とする)により構成されている。
【0017】
第2の態様に係るRAMO4基板は、上記第1の態様において、前記V溝斜面が、{11-2Z}面(但し、Zは正の整数とする)により構成されていてもよい。
【0018】
第3の態様に係るRAMO4基板は、上記第1又は第2の態様において、前記+C面上にIII族窒化物結晶が形成されていてもよい。
【0019】
第4の態様に係るRAMO4基板の製造方法は、一般式RAMO4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)で構成される+c面を主表面として有するRAMO4基板を準備し、
前記+c面に対してマスクを施してウェットエッチングすることで、周囲をV溝で覆われる三角錐台を形成するに際し、
前記三角錐台の三角形頂点方向の一つを六方晶系の[-1100]方向と結晶面方位を定義した時に、
前記V溝の斜面が、{11-2Z}面、あるいは、(01-1Z)面、(-101Z)面、(1-10Z)面(但し、Zは正の整数とする)となるように前記ウェットエッチングを施す。
【0020】
第5の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、上記第1の態様のRAMO4基板を準備し、
前記RAMO4基板上にIII族窒化物結晶を成長させ、
前記III族窒化物と前記RAMO4基板とを自然剥離させる。
【0021】
以下、実施の形態に係るRAMO4基板及びその製造方法、並びにIII族窒化物結晶の製造方法について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。
【0022】
RAMO4基板の一種であるScAlMgO4基板上に低転位密度のIII族窒化物結晶の一種であるGaN結晶を形成し、自発自立・剥離化を実現する結晶の構成、及びその製造方法を以下に説明する。
【0023】
まず、最初にScAlMgO
4結晶に関する物性に関して説明しておく。ScAlMgO
4単結晶(「SCAMO結晶」ともいう。)の結晶格子を
図3に記す。Sc(スカンジウム)原子(11)とO(酸素)原子(12)からなる原子岩塩型構造(111)面的なScO
2層と、アルミニウム(Al)原子とマグネシウム(Mg)原子が同サイトに入ったAlMgサイト(13)とO(酸素)原子(12)原子からなる六方晶(0001)面的なAlMgO
2層とが交互に積層した構造となおりその六方晶(0001)面的な2層は、ウルツ鉱型構造と比較して平面的になっており、面内の結合と比較して、上下層間の結合は、0.03nmほど長く、結合力が弱い。従って、ScAlMgO
4単結晶は、(0001)面で劈開しやすい性質は先に述べたとおりである。このScAlMgO
4単結晶構造に特有な特徴として三回対称性の性質を有する。原子の並びを見ると、一見、六方晶のように見えるが、原子の結合に注目すると厳密には三回対称性の性質を有することがわかる。
図3(a)で示す結晶の原子群をc軸中心に60°回転した
図3(b)の結晶群の並びは原子同士の結合状態を考慮すると異なるものである。さらに、
図3(b)の結晶群をc軸中心に60°回転した
図3(c)の結晶の並びは原子同士の結合状態を考慮しても
図3(a)に一致することがわかる。例えば、スカンジウム(Sc)原子(11)のみの並びに着目すれば六回対称性であるが、スカンジウム(Sc)原子と酸素原子(O)の結合手に着目すれば三回対称性を持つことがわかる。又、このような見方は、AlMgサイトに関しても同様の見方が見られる。従って、この原子配列からScAlMgO
4単結晶は、三回対称性と六回対称性の性質の両方を有することが予想される。
【0024】
実際に、原子の並び方を評価するXRD(X線回折法)を用いてScAlMgO4単結晶を調べると(11-29)面の六回対称性の性質をもつことが確認された。
【0025】
また、
図5(a)に示すとおり、ScAlMgO
4単結晶をScAlMgO
4基板にしてマスクを施してウェットエッチを実施すると三回対称性のピラミッド形状の凸部が現れる。これは、結晶の持つ結合の対称性が原因で出現した結果であると言える。この三角ピラミッドの形状からScAlMgO
4結晶の方位の定義づけを行うことができる。
【0026】
このScAlMgO4結晶の三回対称性といった性質は、前述したXRD法では全く検出できないものであり、現在のところ、上述したウェットエッチといった手法を用いなければ調べることはできない。これは、ScAlMgO4結晶の原子の並びからくる性質というよりも原子の結合状態に由来する性質だからである。
【0027】
このような凹凸付ScAlMgO
4基板にMOCVDによりGaN結晶を0.5μm結晶成長させ、基板表面を電子顕微鏡により観察した結果を
図5(b)に示す。三角形ピラミッドの頂点部のc面には六角形状のGaN結晶が成長していることがわかる。XRD(X線回折法)評価により、三角形ピラミッド状の凸部の頂点方向は、ScAlMgO
4結晶、GaN結晶の、それぞれの[-1100]、[10-10]、[0-110]方向に一致することが確かめられた。
【0028】
これらの結果から、ScAlMgO4結晶の[-1100]、[10-10]、[0-110]方向に出現している面と、[01-10]、[1-100]、[-1010]方向に出現している面は異なる面であることが言える。GaN結晶のm面に相当する面の場合はGaN結晶内で等価な面としてみなしてよかったのだが、ScAlMgO4結晶では、状況が異なっているということである。
【0029】
ここで、以下の説明においてわかりやすくする為に、ScAlMgO4結晶の結晶方向、結晶面を以下のように定義しておく。
【0030】
図3(d)は、ScAlMgO
4基板にマスクを施してウェットエッチングして出現する凸部形状(14)を上から見た時の三角形頂点方向を六方晶系の[-1100]、[10-10]、[0-110]方向に合わせた際の結晶方向を示す。
【0031】
このように六方晶のミラー指数を用いて結晶方位を定義した際に、ScAlMgO
4結晶の結晶面を
図4のように定義する。a1軸、a2軸、a3軸、c軸、のミラー指数をk、l、m、Zで表記する時、面は(klmZ)面と表記するものとする。
六方晶のm面方向の斜面は、[-1100]方向の斜面を(21)(-110Z)、[10-10]方向の斜面を(25)(10-1Z)、[0-110]方向の斜面を(23)(0-11Z)で、[01-10]方向の斜面を(26)(01-1Z)、[1-100]方向の斜面を(24)(1-10Z)、[-1010]方向の斜面を(22)(-101Z)で定義する(ここでZは、正の整数とする)。
図4(a)には、Z=2の場合の面を例として記している。
【0032】
六方晶のa面方向の斜面は、[11-20]方向の斜面を(31)(11-2Z)、[-12-10]方向の斜面を(35)(-12-1Z)、[-2110]方向の斜面を(33)(-211Z)で、[-1-120]方向の斜面を(32)(-1-12Z)、[1-210]方向の斜面を(36)(1-21Z)、[2-1-10]方向の斜面を(34)(2-1-1Z)で定義する(ここでZは、正の整数とする)。
図4(b)には、Z=2の場合の面を例として記している。
【0033】
(実施の形態1)
実施の形態1に関わる凹凸付RAMO4基板の構成は、一般式RAMO4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなるc面を表面とするRAMO4基板とし、一方の主表面をエピタキシャル面とし、これを便宜上+c面と定義する。前記+c面に対してV溝を保有しており、凹凸付RAMO4基板上にIII族窒化物結晶を配置して構成する。前記凹凸付RAMO4基板の凸部と前記III族窒化物は接しており、前記凹凸付RAMO4基板の凹部には空洞が存在する。
【0034】
この凹凸付RAMO4基板の製造方法は、一般式RAMO4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなるc面を保有するRAMO4基板を準備し、一方の主表面をエピタキシャル面としてエピレディ状態に加工する。例えば、決められた基板厚になるようにc面で剥離され、決められたオフ角になるようにオフ角を形成し、エピを実施する表面をCMP加工によりRaが0.2nm程度になるように平滑化を実施し、最終洗浄を経て完了する。こうして得られたエピタキシャル面を+c面と便宜上定義する。この+c面に対してハードマスクをパターニングしRAMO4基板にエッチングを施してV溝を形成し、最後にハードマスクを除去する。このようにして完成した凹凸付RAMO4基板にしてIII族窒化物結晶の結晶成長を実施する。
【0035】
RAMO4基板の一種であるScAlMgO4基板上に低転位密度のIII族窒化物結晶の一種であるGaN結晶を結晶成長する場合には、ScAlMgO4基板のへき開面である六方晶(0001)面的なAlMgO2層のa軸格子定数が、3.23Åであり、GaNのa軸格子定数が、3.18Åであり、非常に近い。これに対して、ScAlMgO4の上記V溝の斜面では、GaNの格子定数とは全く一致していない。これらの物性の違いからV溝を保有する凹凸付ScAlMgO4基板上にGaN結晶を結晶成長させる場合、その結晶成長の選択性を生じる。選択性の強さは、ScAlMgO4基板上の凸部のc面>ScAlMgO4基板上の凹部のc面>ScAlMgO4基板上のV溝の斜面、といった関係となる。
【0036】
これらの結果、ScAlMgO4基板上の凸部のc面の面積がScAlMgO4基板上の凹部のc面の面積よりも大きくなるように設定すれば、ScAlMgO4基板上の凸部に最も選択的にGaNが成長することになり、又、V溝の側部、底面へのGaN成長が抑制されることから、凸部に成長させたGaNを横方向成長でつなげることによりV溝部を空洞状態にして転位密度を低減させることが可能になる。
【0037】
(実施の形態2)
(本発明に至った経過)
ScAlMgO4単結晶は、c面である剥離面に、六方晶(0001)面的なAlMgO2面が出ており、そのa軸格子定数が、0.323nm(3.23Å)となっており、一方、GaN結晶のa軸格子定数が、0.318nm(3.18Å)である。両者のa軸格子定数は非常に近く、ScAlMgO4基板の剥離面に転位密度の少ない高品質なGaN結晶を結晶成長させることが可能である。
【0038】
ScAlMgO4結晶とGaN結晶との格子不整合は1.5%程度であり、サファイア単結晶とGaN結晶との格子不整合が16%である。それぞれの格子不整合を比較すると、成長用の基板としてはScAlMgO4結晶の方がサファイア結晶よりもふさわしいことがわかる。実際に、それぞれの結晶に厚さ10μm程度のGaN結晶の結晶成長を実施したところ、結晶内転位密度がサファイア基板上では5×108cm-2程度であるのに対して、ScAlMgO4基板上では8×107cm-2と大幅に低減した。
【0039】
しかし、デバイス仕様からの要求として上記の転位密度では、まだ十分ではない。このことから、ScAlMgO4基板上でもGaN結晶におけるさらなる低転位化を実現する必要があり選択結晶成長技術が必要となる。求められる転位密度のスペックとしては、現在の市販の自立GaN基板で5×106cm-2程度が要求されており、これをScAlMgO4上選択結晶成長で、しかも、厚みで10μm~100μm程度で実現できれば自立GaN基板と比較した時にコスト面で有利となり市場価値が大きくなる。また、ScAlMgO4上GaN結晶の自発剥離化を促進する為にもScAlMgO4上選択結晶成長構造が必要となる。
【0040】
しかし、ScAlMgO4上GaNの選択結晶成長技術は、サファイア基板上の選択結晶成長技術とは大きく異なる。サファイア基板上の選択結晶成長技術では、凹凸付のサファイア基板全面にGaNを結晶成長させることになるが、サファイア結晶とGaN結晶界面のバッファー層に含む転位密度が108~109cm-2と大きい為に凹凸のパターンの寸法として数μm程度の小さなものになり全面に均一なGaNを結晶成長させることになる。目指す転位密度も1x108cm-2程度となる。それに対して、バッファー層に含む転位密度がサファイア基板のそれと比較して一桁低いScAlMgO4を用いて1x106cm-2台の低転位密度を実現する為の結晶成長面のパターンの寸法としては5μm~100μm程度が好ましい。このことは、ScAlMgO4上選択結晶成長で、しかも、厚みで10μm~100μm程度で1x106cm-2台の低転位密度を目指すことからくるパターンの寸法の目安である。ここでいうパターンの寸法とは繰り返し周期の寸法と考えてもよい。その際に、パターン側壁への結晶堆積が大きな問題になった。
【0041】
パターンエピの結晶成長様式としては、パターン底部から結晶成長させる方式と、パターンの上面で種結晶を3次元成長させ横方向において結合して斜面結晶成長により転位の結合を促し、転位密度の低減を実現できる方式がある。前者は転位密度の低減率としてパターン底の面積÷全体面積であり、転位密度の低減率は最大でも1/10といった程度である。後者は、3次元成長による転位の結合といった原理を用いるので、転位密度の低減率で1/100とか1/1000を実現できるので効果が大きい。そこで後者のエピ方式を今回は採用している。
【0042】
本発明者らは、実施の形態1においてScAlMgO4基板にパターン溝を形成することで、ScAlMgO4上にGaN結晶を選択結晶成長できる方式を発見したことを説明し、この原理に基づいて低転位密度のGaN結晶を実現する取り組みを実施した。その取り組みで課題となったのがパターン側壁への有害となる結晶の異常成長であった。本発明者らの鋭意検討の結果、パターン溝の側壁に結晶が堆積しない構成を実現できることを見出すことができ、本発明に至った。具体的には、RAMO4基板上には、ある結晶面方位に選択的に結晶化しやすい面があることを見出した。
【0043】
実施の形態2では、一般式RAMO4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなるc面を主表面として有するRAMO4基板に対して、一方の主表面をエピタキシャル面として構成しこれを+c面で定義し、前記+c面にV溝を保有し、前記エピタキシャル面に対してマスクを施してエッチングして出現する三角錐台の三角形頂点方向の一つを六方晶系の[-1100]方向と結晶面方位を定義した時に、前記V溝の斜面が、{11-2Z}面、あるいは、(01-1Z)面、(-101Z)面、(1-10Z)面(但し、Zは正の整数とする)で構成されていることを特徴とする凹凸付きRAMO4基板を用いる。
このようなV溝斜面の方位を限定することでV溝斜面に発生する有害なGaN結晶成長を抑制することが可能となった。
【0044】
(実施の形態3)
実施の形態3の構成を実現する為に、凹凸付RAMO4基板を形成する方法を以下に記す。まず、一般式RAMO4で表される単結晶(前記一般式において、Rは、Sc、In、Y、およびランタノイド系元素からなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Aは、Fe(III)、Ga、およびAlからなる群から選択される一つまたは複数の三価の元素を表し、Mは、Mg、Mn、Fe(II)、Co、Cu、Zn、およびCdからなる群から選択される一つまたは複数の二価の元素を表す)からなるc面を主表面として有するRAMO4基板を準備する。引き続き、一方の主表面をエピタキシャル面として加工しこの面を+c面と定義する。引き続き、前記+c面に対してマスクを施してウェットエッチングを施して出現する三角錐台の三角形頂点方向の一つを六方晶系の[-1100]方向と結晶面方位の定義づけをおこなう。引き続き、前記+c面に対して、V溝の斜面が、{11-2Z}面、あるいは、(01-1Z)面、(-101Z)面、(1-10Z)面(但し、Zは正の整数とする)となるようにV溝を形成する加工を施すことで凹凸付RAMO4基板が完成する。
【0045】
(実施の形態4)
本開示の実施の形態4として、RAMO
4基板にGaN結晶を選択結晶成長させる領域、成長させない領域を示す図を、
図1(a)、(c)に示す。以下にその考え方を以下詳細に説明する。
ScAlMgO
4結晶は、3回対称性を有している結晶であり、GaN結晶が6回対称性を有している結晶であることは上で説明したとおりである。
【0046】
図5(a)にSiO
2膜を200nm堆積し、ピッチ10μm、直径2μmの真円のマスクパターンを形成し、H
2SO
4濃度90%の硫過水を95°に保持した状態で20分エッチングして現れた凹凸を形成した基板表面を光学顕微鏡で観察した結果を示す。三角形状のパターンが出現しておりこれはScAlMgO
4単結晶の三回対称性の性質が出た結果である。マスクであるSiO
2は、フッ酸処理により除去した後の状態である。マスクパターンは真円であったが、出現したパターンの形状は略三角形になっている。ScAlMgO
4結晶がウェットエッチ速度の異方性を有していることがわかる。SiO
2を除去したあとには、三角形のピラミッドの最上点に+c面が露出している領域があり、三角ピラミッドの底部の面と同一の底面にも+c面が露出している。
【0047】
図5(b)は、このようにして凹凸をつけたパターン付ScAlMgO
4基板にMOCVDによりGaN結晶を0.5μm結晶成長させた結果の基板表面を電子顕微鏡により観察した結果である。三角形ピラミッドの頂点部の+c面には六角形状のGaN結晶が成長しており、また、三角形ピラミッドの底と面を同じにする底面にもGaNが成長しているのがわかる。一方で、側壁にはGaN結晶がまったく成長していない。
【0048】
次に、
図5(c)は、
図5(b)の基板に、HVPE法でさらにパターン無のGaN基板上で20μmの膜厚に相当する結晶を成長させた結果を示す。ScAlMgO
4結晶の、側壁斜面である(-110Z)、(10-1Z)、(0-11Z)面(Zは正の整数)に、異常なGaN結晶が成長している。このまま結晶成長していくと側壁のGaN結晶の方がより大きく成長し平坦なGaN結晶を得ることができなくなり結晶成長としては破綻する。従って、この側壁に形成されるGaN結晶は有害であり発生を抑制する対策が必要であることがわかってきた。
【0049】
この現象は、パターン形状がドットでなくともストライプの形状でも起こる。ストライプ形状V溝の(-110Z)面(Zは正の整数)に選択的に結晶成長が進んだ様子を
図5(d)に示す。ストライプ状V溝で(10-1Z)、(0-11Z)面(Zは正の整数)でも同様の現象が起こること。また、同その逆方向である(1-10Z)、(-101Z)、(01-1Z)面(Zは正の整数)には、全くGaN結晶の異常成長がないことも確認された。
【0050】
図5(e)にScAlMgO
4基板の{11-2Z}面(Zは正の整数)のストライプ構造の断面を示す。{11-2Z}面(Zは正の整数)には、GaN結晶が横方向に成長しやすいこともあり側壁へのGaN結晶は全く起こらないことが確認された。
これらの結果から、ScAlO
4基板上の選択結晶成長を実現する為には、(-110Z)、(0-11Z)、(10-1Z)面(Zは正の整数)を露出するのは好ましくないという結果になる。
【0051】
逆に、(01-1Z)、(1-10Z)、(-101Z)(Zは正の整数)、もしくは、{11-2Z}(Zは正の整数)を露出するのが好ましいという結果になる。
これらの結果から、凹凸付ScAlO
4基板上の選択結晶成長で望ましい形態として、エピ領域のパターニング構成を
図1、及び、
図2に示す。
【0052】
図1(a)は、GaN結晶のm軸方向に、種結晶領域が最充填するように配置可能な好ましいパターンとなる。エピ領域(1)が結晶成長開始する領域となり、その周囲が非エピ領域となる。
図1(a)中のX-X’で切断した断面図を
図1(b)に示す。ScAlO
4基板(3)上にV溝(4)が形成されている。
【0053】
エピ領域(1)以外の非結晶領域が、エッチングされて溝部になる非エピ領域となる。エピ領域(1)の周囲は<11-2Z>面となっている。従って、速やかに横方向成長して種結晶領域(2)になる。側壁にGaNが成長しやすい(-110Z)、(10-1Z)、(0-11Z)(Zは整数)が存在しないので結晶品質の高いGaN結晶を得ることができる。
【0054】
図1(c)は、GaN結晶のa軸方向に、種結晶領域が最充填することが可能なエピ領域の配置パターンとなる。エピ領域
(5)が結晶成長開始する領域となり、その周囲が非エピ領域となる。
エピ領域
(5)以外の非結晶領域が、エッチングされてV溝部になる非エピ領域となる。エピ領域
(5)の周囲は{11-2Z}面(Zは正の整数)となっている。従って、速やかに横方向成長して種結晶領域
(6)になる。側壁にGaNが成長しやすい斜面(-110Z)、(0-11Z)、(10-1Z)(Zは整数)が存在しないので結晶品質の高いGaN結晶を得ることができる。
【0055】
図2(a)及び
図2(b)は、GaN結晶の六角形状の種結晶領域を実現する際に側壁へのGaN堆積が起こらないようにする為の配置である。
【0056】
図2(a)は、GaN種結晶の
m軸方向に、種結晶領域が最充填するように配置可能な好ましいパターンとなる。エピ領域
(7)が結晶成長開始する領域となり、その周囲が非エピ領域となる。上で説明したとおりに、(-110Z)、(0-11Z)、(10-1Z)(Zは正の整数)を回避する為にエピ領域
(7)に示すように該当する面で内側に切れ込みを入れることで回避している。例えば、この切込みを{11-2Z}面(Zは正の整数)で構成すれば側壁堆積を回避することが可能になり結晶品質を改善することができる。この切れ込みの部分が{11-2Z}面(Zは正の整数)面で構成される為に、
エピ領域(7)は、速やかに横方向成長して種結晶領域(8)になる。図2(b)は、GaN種結晶のa軸方向に、種結晶領域が最充填するように配置可能な好ましいパターンとなる。エピ領域
(9)が結晶成長開始する領域となり、その周囲が非エピ領域となる。
【0057】
実施の形態3で説明したパターン形成方法で、実施の形態4で説明した{11-2Z}面(Zは正の整数)のみからなる三角形、もしくは、六角形で構成される場合には、ScAlMgO4基板の三回対称に特有のGaNのm面の差異に関しては気にする必要はなくScAlMgO4結晶の方位を調べる工程は含めなくてもよい。
【0058】
(実施の形態5)
非エピ領域は、ウェットエッチングにより容易に形成されるV溝で構成される。
図6に前記V溝の形成フローを記載する。まず、
図6の工程(a)で、c面を表面とするScAlMgO
4基板を準備する。続けて、
図6の工程(b)において、ScAlMgO
4基板(50)上に、少なくとも硫酸、過酸化水素水を含む薬液に対して耐性のあるハードマスク(51)を堆積する。例えば、二酸化珪素膜であればプラズマCVD法、スパッタ法により形成できる。
【0059】
(1)続けて、
図6の工程(c)において、上記ハードマスク(51)上にレジストマスク(52)を形成し露光しパターニングする。
(2)続けて、
図6の工程(d)において、このレジストマスク(52)によりハードマスク(51)に対してパターニングを実施する。例えば、フッ酸を含む薬液によるウェットエッチ、または、ドライエッチプロセスといった手法により容易に実施することが可能である。レジストマスク(52)は、ハードマスク(51)のパターニング加工後には除去する。このようなプロセスを経て、パターニングされたハードマスク(53)を形成することが可能である。
(3)次に、ScAlMgO
4基板(50)上にパターニング加工されたハードマスク(53)を形成した状態で、化学式H
2SO
4で表される硫酸、及び、化学式H
2O
2で表される過酸化水素水を少なくとも含む薬液中でScAlMgO
4結晶と化学反応させる。この薬液の温度としては、35℃以上の高温状態に保持した状態でエッチングすることで実用上問題ないエッチング速度にてScAlMgO
4基板をエッチング加工することが可能である。少なくとも硫酸、過酸化水素水を混合した薬液に浸潤させることでScAlMgO
4基板(50)をエッチング加工する。硫酸、過酸化水を混合した直後の反応熱により100℃近くまで温度が上がるのでそのような薬液でエッチング処理を行ってもよい。硫酸と過酸化水素水とを3:1の割合で混合した薬液を湯煎する際に水が沸騰するよりも低い温度95℃に調節する。この薬液に、上に記載したパターニング加工されたハードマスクを形成したScAlMgO
4基板(50)を浸潤させてもよい。ここで薬液の温度は、35℃~290℃、より好ましくは、50℃~150℃の範囲に設定されるのが望ましい。温度が高ければ高いほどエッチング速度は高速になるがV溝(パターン溝)の形状制御が困難になる。
【0060】
より好ましくは、薬液の温度が75℃~95℃の範囲で、硫酸と過酸化水素水の混合薬液で硫酸の濃度が75%~95%の割合に調節するのが好ましい。このような条件で20μm/hrを超えるエッチング速度で、斜面が滑らかなV溝を形成することを可能になる。
【0061】
図5(d)、(e)で示したV溝は、温度95℃、硫酸濃度90%の硫過水で60分エッチングした断面形状を示している。a軸方向のV溝斜面の傾斜角は45°であり、m軸方向のV溝斜面の傾斜角は、[-1100]方向斜面では、48°であり、[1-100]方向斜面では60°の傾斜を持っていた。ここでV溝の定義として以下のように定める。斜面の水平に対する傾きとして40°~70°の範囲として、凹凸の凹部の底の面積比率が溝部の50%以下の場合をV溝とする。このように設定することでScAlMgO
4基板凹部の底の面積比率を凸部での面積に対して抑えることができるので、凸部での結晶成長が主となるので溝部での横方向成長が促進されることになる。
【0062】
(実施の形態6)
実施の形態4で説明した三角形パターンの凹凸付ScAlMgO
4上に、MOCVDで0.5μmのGaNをエピタキシャル成長させた凸凹付ScAlMgO
4/GaN複合体を実施の形態6として以下に説明する。
図7(a)が、ScAlMgO
4にV溝を形成した後の表面の顕微鏡写真である。エピタキシャル領域である三角形の一辺が10μm、ピッチが12μmで設計されている。領域(61)、領域(64)が、実施の形態4で説明した{11-2Z}面(Zは正の整数)面で囲まれるエピタキシャル領域に相当する。領域(62)、領域(63)が、m面(-110Z)、(0-11Z)、(10-1Z)、(01-1Z)、(1-10Z)、(-101Z)(Zは正の整数)で囲まれるエピタキシャル領域に相当する。
図7(b)が、前記パターンを有するScAlMgO
4基板上にMOCVDで0.5μmエピタキシャル成長させた結果の基板表面を電子顕微鏡で観察した写真に相当する。a面<11-2Z>面(Zは整数)で囲まれた領域(65)と領域(68)では、種結晶が六角形状に結晶成長することがわかる。m面最近接の配置で配列した領域では結合することなく種結晶が形成されている。a面最近接の配置で配列した領域(69)では結晶が合体して一つの島となりその間の下部にはボイドが形成されている。このような構成では下面のScAlMgO
4基板からの引継ぎの影響を抑制できるので低転位密度を実現することができる。他方、領域(66)、領域(67)では、m面で囲まれる領域で横方向成長が抑制されるので種結晶の配置としては適していないことがわかる。
ここで、MOCVDで種結晶0.5μmを実現する際のプロセスに関して説明しておく。ScAlMgO
4上へのGaN成長は、ヘテロ成長である為にバッファ層を必要とする。ここでは、600℃~700℃の温度で20nm膜厚の低温バッファ層を形成後に、1100℃を超える温度に昇温し再結晶化した後に結晶成長を開始すれば形状の揃った六角形状の大きさの揃った種結晶を得ることが可能である。
【0063】
(実施の形態7)
以下、実施の形態7として、実施の形態6で説明した三角形パターンの凹凸付ScAlMgO
4上に形成された六角形状の種結晶上に低転位密度のGaN結晶を得る為の結晶成長プロセスを
図6に示す。
図8(a)で実施の形態6で説明した手法で六角形状の種結晶(72)がV溝(71)が形成されたScAlMgO
4基板(70)上に形成される。その表面の電子顕微鏡写真を
図8(e)に示す。続いて
図8(b)でHVPE法を用いてGaNを3次元成長させピラミッド状のGaN結晶(73)を得る。その表面の電子顕微鏡写真を
図8(f)に示す。続いて、
図8(c)でHVPE法を用いて平坦膜(74)を2次元成長させる。最後に高品質なGaN結晶(75)を結晶成長して低転位密度のGaN結晶を得る。その表面の電子顕微鏡委写真を
図8(g)に示す。このプロセスを経て結晶成長したチップの表面光学顕微鏡写真を
図9(a)に示す。この場合、三角パターンの寸法は、20um、ピッチが24umであった。ピットが形成されている領域もあるが、きれいな平滑膜が形成されている領域(76)があることがわかる。
図9(b)にその表面のCL(カソードルミネッセンス)法で500倍の倍率で転位密度を観察した結果を示す。転位密度の粗密がみられ転位の収束が起こっていることを確認できる。その一部を拡大し2000倍の倍率で観察した結果を
図10(b)に示す。種結晶からの引継ぎ領域(76)での転位密度は、6.0x10
7cm
-2程度である。横方向成長で結合した領域の転位密度は、1.2x10
7cm
-2程度である。エピ領域からの結晶が結合する3重点領域での転位密度は、1.3x10
8cm
-2程度である。選択結晶成長を用いずにScAlMgO
4基板上に直接MOCVDで3μm結晶成長させた試料を2000倍の倍率で観察した結果を
図10(a)に示す。選択エピ成長を利用することで転位密度が1.3×10
8cm
-2から1.2x10
7cm
-2まで約一桁程度低減できていることがわかる。種結晶引継ぎ領域(76)では、それよりもやや転位密度が高い。種結晶の結合部である3重点では、転位密度の増加がみられるがこれは配置の微調整および結晶成長条件の微調整により抑制することは可能である。転位の対消滅をより促進させるエピ構造を追及すれば、転位密度の大幅な抑制が可能であることが示された。
このように三角パターンを用いることでGaN結晶とScAlMgO
4結晶の接触面積を低減することができるので転位密度低減、そにに加えて自然剥離を促進させることができる。
【0064】
(実施の形態8)
今回は、MOCVDにて種結晶を形成し、HVPE法により厚膜化を試みた。しかし、HVPE法でも直接バッファー層を形成することは可能であり、一連のプロセスは、MOCVDのみ、あるいは、HVPE設備のどちらか一方だけでも実現することは可能になる。
さらに、HVPE法により膜厚200μm以上を堆積すればScAlMgO4基板からの自然剥離によりGaN結晶を自立化させることも可能である。
【0065】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係るRAMO4基板は、III族窒化物結晶の製造方法に用いることができる。
【符号の説明】
【0067】
1 実施の形態4におけるScAlMgO4基板上の三角形エピ領域
2 実施の形態4におけるScAlMgO4基板上種結晶成長領域
3 V溝形成されたScAlMgO4基板
4 ScAlMgO4基板に形成されたV溝
5 実施の形態4におけるScAlMgO4基板上の三角形エピ領域
6 実施の形態4におけるScAlMgO4基板上種結晶成長領域
7 実施の形態4におけるScAlMgO4基板上のエピ領域
8 実施の形態4におけるScAlMgO4基板上種結晶成長領域
9 実施の形態4におけるScAlMgO4基板上の三角形エピ領域
11 スカンジウム(Sc)原子
12 酸素(O)原子
13 Al-Mgサイト
14 ScAlMgO4のエッチング形状
21 六方晶結晶の(-110Z)面(Z=2の場合)
22 六方晶結晶の(-101Z)面(Z=2の場合)
23 六方晶結晶の(0-11Z)面(Z=2の場合)
24 六方晶結晶の(1-10Z)面(Z=2の場合)
25 六方晶結晶の(10-1Z)面(Z=2の場合)
26 六方晶結晶の(01-1Z)面(Z=2の場合)
31 六方晶結晶の(11-2Z)面(Z=2の場合)
32 六方晶結晶の(-1-12Z)面(Z=2の場合)
33 六方晶結晶の(-211Z)面(Z=2の場合)
34 六方晶結晶の(2-1-1Z)面(Z=2の場合)
35 六方晶結晶の(-12-1Z)面(Z=2の場合)
36 六方晶結晶の(1-21Z)面(Z=2の場合)
50 ScAlMgO4基板
51 ハードマスク
52 厚膜レジストマスク
53 パターニングされたハードマスク
54 パターン加工されたV溝
55 パターン加工されたScAlMgO4基板
61 エピ領域がa面で囲まれたパターン
62 エピ領域がm面で囲まれたパターン
63 エピ領域がa面で囲まれたパターン
64 エピ領域がm面で囲まれたパターン
65 領域31にGaNが結晶成長した領域
66 領域32にGaNが結晶成長した領域
67 領域33にGaNが結晶成長した領域
68 領域34にGaNが結晶成長した領域
69 GaNのa面密接に配置されたパター上のGaN結晶
70 パターン加工されたScAlMgO4基板
71 パターン加工されたScAlMgO4基板上に形成されたV溝
72 パターン加工されたScAlMgO4基板上に形成されたGaN種結晶
73 パターン加工されたScAlMgO4基板上に形成されたGaN種結晶上のピラミッド状GaN結晶
74 ピラミッド状GaN結晶上に成長された平滑GaN結晶
75 高品質GaN結晶
76 ScAlMgO4基板上GaN結晶
77 ScAlMgO4基板上から引き継がれたGaN結晶
77 横方向成長でつながったGaN結晶
78 ScAlMgO4基板上エピが結合する3重点におけるGaN結晶領域