(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-02
(45)【発行日】2023-03-10
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0587 20100101AFI20230303BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20230303BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20230303BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20230303BHJP
H01M 50/531 20210101ALI20230303BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M10/0567
H01M4/133
H01M4/587
H01M50/531
(21)【出願番号】P 2020516060
(86)(22)【出願日】2019-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2019006097
(87)【国際公開番号】W WO2019207924
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2018086828
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 正信
(72)【発明者】
【氏名】滝尻 学
(72)【発明者】
【氏名】加藤 善雄
(72)【発明者】
【氏名】白神 匡洋
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-166047(JP,A)
【文献】特開2009-004139(JP,A)
【文献】国際公開第2012/042830(WO,A1)
【文献】特開2013-026042(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0587
H01M 10/0567
H01M 4/133
H01M 4/587
H01M 50/531
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる電極体と、非水電解質と、前記電極体及び前記非水電解質を収容する金属製の外装体と、を備える非水電解質二次電池であって、
前記負極は、負極集電体と、負極活物質として黒鉛粒子を含む負極活物質層とを有し、
前記電極体の外周面には、前記負極集電体が露出して前記外装体の内周面と接触する露出部が設けられ、
前記黒鉛粒子の圧縮強度が15MPa以上
30MPa以下であ
り、
前記黒鉛粒子が、前記負極活物質の総量の75質量%以上である、
非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記黒鉛粒子の見かけの表面積S1に対する実測表面積S2の比S2/S1が10以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記非水電解質はフッ素化環状カーボネートを含む、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記フッ素化環状カーボネートがモノフルオロエチレンカーボネートである、請求項3に記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記フッ素化環状カーボネートの含有量が、前記非水電解質の総量に対して1体積%以上30体積%以下である、請求項3又は4に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオンが正負極間を移動することにより充放電を行う非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるため、携帯電話、ノートパソコン、スマートフォン等の移動情報端末の駆動電源として、或いは、電動工具、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)等の動力用電源として、広く使用されており、さらなる用途拡大が見込まれている。
【0003】
特許文献1には、負極集電体ストリップと負極ストリップからなる負極電極と、正極集電体ストリップと、第一及び第二セパレータ・ストリップとを有するコイル状電極組立体であって、負極電極が最内側に巻かれた部材となり負極集電体ストリップの延長部がコイル状電極組立体の外側壁の一部を成すように螺旋状に巻きつけられ、コイル状電極組立体が容器を電池の負極端子と成すように容器内部に配置された電池が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、巻回型の電極群が電池ケース内に収容された非水電解質二次電池であって、負極は、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された両面塗工部と、負極集電体の片面に負極合剤層が形成された片面塗工部とを有し、片面塗工部は、電極群の最外周部に位置する部位に形成され、かつ、片面塗工部における負極集電体の露出面は、電池ケースの内側面に接触している、非水電解質二次電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-82646号公報
【文献】国際公開第2012/042830号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
巻回型の電極体の外周面において負極集電体の表面を露出させ、負極端子となる金属製の外装体の内面と接触させた構造を有する二次電池が知られている。このような構造を有する二次電池において、電極体の外周面に設けた負極集電体の露出部と外装体の内周面との電気的な接触状態を向上させ、内部抵抗の上昇を抑制することができる非水電解質二次電池が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様である非水電解質二次電池は、正極及び負極がセパレータを介して巻回されてなる電極体と、非水電解質と、電極体及び非水電解質を収容する金属製の外装体と、を備え、負極は、負極集電体と、負極活物質として黒鉛粒子を含む負極活物質層とを有し、電極体の外周面には、負極集電体が露出して外装体の内周面と接触する露出部が設けられ、黒鉛粒子の圧縮強度が15MPa以上である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様である非水電解質二次電池によれば、電極体の外周面に設けた負極集電体の露出部と外装体の内周面との電気的な接触状態を向上させ、内部抵抗の上昇を抑制した非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る非水電解質二次電池の構成の一例を示す縦断面図である。
【
図2】実施形態に係る電極体の構成の一例を示す横断面図である。
【
図3】実施形態に係る負極の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特許文献1及び2には、巻回型の電極体の外周面に負極集電体の表面を露出させ、負極端子となる金属製の外装体の内面と接触させた構造を有する二次電池が開示されている。このような二次電池では、電極体の最外周において負極リードを取り付ける必要が無いため、電極体の体積を増やして高容量化を図ることができる。しかしながら、このような電極体の外周面に設けた負極集電体の露出部と外装体の内周面との電気的な接触状態を維持することは容易ではなく、負極集電体の集電性が低下して二次電池の内部抵抗が上昇するという課題があった。
【0011】
それに対して、本発明者らは、鋭意検討した結果、負極活物質として圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子を使用した場合、電池の内部抵抗を低減できることを見出した。当該黒鉛粒子の使用により内部抵抗が低減する機序としては、例えば、負極作製時の圧延により負極に残留する応力が増加し、電極体の外装体への収容後に応力の緩和に伴って生じる電極体の最外周に配置された負極を径方向外側に押し付ける力が大きくなり、その結果、電極体の外周面にある負極集電体の露出部と外装体の内周面との接触状態が向上したためと考えられる。
【0012】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、実施形態の説明で参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された構成要素の寸法比率等は、現物と異なる場合がある。具体的な寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0013】
[非水電解質二次電池]
図1を用いて、非水電解質二次電池(以下「電池」とも記載する)10の構成を説明する。
図1は、実施形態の一例である電池10の構成を示す縦断面図である。電池10は、正極30及び負極40がセパレータ50を介して渦巻き状に巻回されてなる巻回型の電極体14と、非水電解質(図示しない)と、電極体14と非水電解質とを収容する金属製の電池ケース(外装体)とを備える。非水電解質は所定量が電池ケース内に注液されて、電極体14を含浸している。
図1では、電池ケースは、有底円筒形状のケース本体15と封口体16とにより構成された円筒形の電池ケースを示すが、電池ケースは例えば角形であってもよい。
【0014】
ケース本体15は、例えば有底円筒形状の金属製容器である。ケース本体15と封口体16との間にはガスケット27が設けられ、電池ケース内部の密閉性が確保される。ケース本体15は、例えば側面部を外側からプレスして形成された、封口体16を支持する張り出し部21を有することが好適である。張り出し部21は、ケース本体15の周方向に沿って環状に形成されることが好ましく、その上面で封口体16を支持する。
【0015】
封口体16は、フィルタ開口部22aが形成されたフィルタ22と、フィルタ22上に配置された弁体とを有する。弁体は、フィルタ22のフィルタ開口部22aを塞いでおり、内部短絡等による発熱で電池10の内圧が上昇した場合に破断する。本実施形態では、弁体として下弁体23及び上弁体25が設けられており、下弁体23と上弁体25の間に配置される絶縁部材24、及びキャップ開口部26aを有するキャップ26が更に設けられている。封口体16を構成する各部材は、例えば円板形状又はリング形状を有し、絶縁部材24を除く各部材は互いに電気的に接続されている。具体的には、フィルタ22と下弁体23が各々の周縁部で互いに接合され、上弁体25とキャップ26も各々の周縁部で互いに接合されている。下弁体23と上弁体25は、各々の中央部で互いに接続され、各周縁部の間には絶縁部材24が介在している。なお、内部短絡等による発熱で内圧が上昇すると、例えば下弁体23が薄肉部で破断し、これにより上弁体25がキャップ26側に膨れて下弁体23から離れることにより両者の電気的接続が遮断される。
【0016】
電池10は、電極体14の上下にそれぞれ配置された絶縁板17,18を備える。
図1に示す例では、正極30に取り付けられた正極リード19が絶縁板17の貫通孔を通って封口体16側に延びている。例えば、正極リード19は封口体16の底板であるフィルタ22の下面に溶接等で接続され、フィルタ22と電気的に接続された封口体16の天板であるキャップ26が正極端子となる。本実施形態では、封口体16に電流遮断機構(CID)及びガス排出機構(安全弁)が設けられている。なお、ケース本体15の底部にも、ガス排出弁(図示せず)を設けることが好適である。
【0017】
図2に、電池10に収容される電極体14の一部横断面図を示す。電極体14を構成する帯状の正極30は、正極集電体31と、正極集電体31の両面側に形成された正極活物質層32と、正極リード19とを備える。正極リード19は、その一端が、正極活物質層32が形成されておらず正極集電体31が露出した領域において接合している。
【0018】
電極体14を構成する帯状の負極40は、負極集電体41と、負極集電体41上に形成された負極活物質層42とを備える。
図1及び
図2に示すように、電池ケース内に収容された電極体14の外周面には負極40が配置されており、この最外周に配置された負極40の外周面側には、負極集電体41が露出して電池ケースの内周面と接触する露出部43が設けられている。
図3に、負極40の構成の一例を模式的に示す。
図3(a)は、負極40の一主面側から観察した平面図であり、
図3(b)は、
図3(a)における線X-Xに沿った断面図である。
図3に示す通り、負極40は、負極集電体41と、負極集電体41の両面に形成された負極活物質層42とを備える。
図3(a)及び(b)に示すように、負極40に設けられた露出部43は、負極40の一方の主面であって、電極体14の最外周部に位置することになる長手方向の一方の端部に設けられている。
【0019】
電極体14の外周面に露出部43を設け、負極端子を兼ねる電池ケースの内周面に接触させることにより、負極40と電池ケースとの電気的導通が図られる。そして、負極40の露出部43が、電池ケースの内周面と広範囲に面接触するため、電池10の内部抵抗を低減できる。その結果、大電流放電特性に優れた電池が実現できるとともに、外部短絡時における電流集中を防止できるため、安全性の高い電池を実現することができる。
【0020】
本実施形態に係る負極40は、負極活物質層42に含まれる負極活物質として、圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子を含む。これにより、本実施形態に係る電池10において、電極体14の外周面に形成された負極40の露出部43と電池ケース(ケース本体15)の内周面との電気的な接触状態を向上させ、電池10の抵抗を低減させることができる。圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子を用いることにより負極40の露出部43と電池ケースの内周面との接触状態が向上する機序としては、以下のような推定が可能である。なお、負極活物質として用いる圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子については後程詳しく説明する。
【0021】
正極30及び負極40は、一般的に、集電体の表面に活物質及び結着材等を含む合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、両面に合材スラリーの乾燥塗膜が形成された集電体ごと、圧延ローラ等を用いて圧延することにより作製される。この圧延時の圧力により、正極30及び負極40には応力が残留するが、この残留応力は、電極体14及び電池10を製造する間、或いは、電池10の初回充放電サイクルの間に緩和すると考えられる。ここで、負極活物質として圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子を使用すると、圧延により負極活物質層42に残留する応力が増加し、それに伴って応力が緩和するときに生じる力も増大する。そのため、正極30、負極40及びセパレータ50で構成される電極体14が電池ケースに収容されているときに応力が緩和すると、電極体14の最外周にある負極40を電極体14の径方向外側に押し付けようとするより大きな力が働く。その結果、電極体14の外周面にある負極40の露出部43が電池ケースの内周面に対して押し付けられ、両者の電気的な接触状態が向上するという優れた作用を有する。
【0022】
ここで、電極体14を構成する正極30及び負極40の応力を緩和させる方法としては、電池ケース本体に電極体14を収容した後、例えば100℃±15℃程度の高温に曝す方法、並びに、電池10の充放電時に生じる負極活物質及び正極活物質の膨張及び収縮を利用する方法等が挙げられる。
【0023】
電池ケース内に電極体14を収容するときの電極体14の外径は、電池ケースの内径に対して、95%以上99%以下の範囲にあることが好ましく、98%以上99%以下の範囲にあることがより好ましい。電極体14の外径が上記の範囲にあるとき、電池ケースと電極体14との接触状態がより良好になり、電池の内部抵抗をより一層低減させることができる。一方、電極体14の外径が小さすぎると、均一な接触状態が得られにくく、内部抵抗の低減作用が十分得られない場合があり、電極体14の外径が大きすぎると、電極体14の電池ケース内への収容が困難になり、また、正極30及び負極40のズレ、電極体14の変形等が生じるおそれがある。なお、電極体14の外径とは、
図2に示すような電極体14の軸方向に垂直な断面(略円形状の面)における径をいう。電極体14の外径としては、例えば、ノギス等で複数箇所測定して得られた測定値のうち最大の値が用いられる。
【0024】
図1に示す電池10では、電極体14の略全外周にわたり負極40の露出部43が形成されている例を示したが、電池ケースの内周面との十分な接触面積が確保されている限り、電極体14の外周面に対する露出部43の面積の割合は限定されない。例えば、露出部43の面積は、電極体14の外周面に対して50%以上であればよく、80%以上であることが好ましい。なお、電極体14の外周面とは、電極体14の軸方向の2つの端面を除いた円筒形の側面を意味する。
【0025】
図1~
図3に示すように、負極40の最内周部には、負極集電体41の両面が露出した部位が形成され、当該部位に負極リード20が接続している。負極リード20はケース本体15の底部内面に溶接等で接続される。電池ケースの内周面と接続する露出部43とは別に負極リード20を設けて電池ケースと接続させることにより、集電効率を高め、電池の内部抵抗を更に低減することができる。また、外部短絡が発生した際にも、短絡電流が分散されることで、局部的な発熱を抑制でき、セパレータ溶融による内部短絡を防止することができる。なお、負極40において負極リード20を設ける位置は最内周部(
図3では露出部43とは反対側の長手方向端部)に限定されない。また、負極40に負極リード20を設けなくてもよい。
【0026】
また、負極40は、
図1~
図3に示すように、負極集電体41の露出部43とは反対側の主面に負極活物質層42が形成されている。これにより、正極30の正極活物質層32と対向して電池の高容量化が図られるとともに、負極40のうち露出部43が形成されている領域の強度を維持することができ、電極体14のケース本体15への収容が容易になる。
【0027】
以下、本実施形態に係る非水電解質二次電池10を構成する正極30、負極40、セパレータ50及び非水電解質について詳述する。なお、以下の説明では符号を省略する。
【0028】
[正極]
正極は、例えば金属箔等の正極集電体と、正極集電体上に形成された正極活物質層とで構成される。正極集電体には、アルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極活物質層は、例えば、正極活物質、結着材、導電材等を含む。
【0029】
正極は、例えば、正極活物質、導電材、結着材等を含む正極合材スラリーを正極集電体上に塗布・乾燥することによって、正極集電体上に正極活物質層を形成し、当該正極活物質層を圧延することにより得られる。正極集電体の厚さは、特に制限されないが、例えば10μm以上100μm以下程度である。
【0030】
正極活物質層は、リチウム遷移金属酸化物で構成される正極活物質を含む。リチウム遷移金属酸化物としては、リチウム(Li)、並びに、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びニッケル(Ni)等の遷移金属元素を含有するリチウム遷移金属酸化物が例示できる。リチウム遷移金属酸化物は、Co、Mn及びNi以外の他の添加元素を含んでいてもよく、例えば、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、鉛(Pb)、錫(Sn)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)及びケイ素(Si)等が挙げられる。
【0031】
リチウム遷移金属酸化物の具体例としては、例えばLixCoO2、LixNiO2、LixMnO2、LixCoyNi1-yO2、LixCoyM1-yOz、LixNi1-yMyOz、LixMn2O4、LixMn2-yMyO4、LiMPO4、Li2MPO4F(各化学式において、Mは、Na、Mg、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Cr、Pb、Sb及びBのうち少なくとも1種であり、0<x≦1.2、0<y≦0.9、2.0≦z≦2.3である)が挙げられる。リチウム遷移金属酸化物は、1種単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0032】
導電材としては、正極合材層の電気伝導性を高める公知の導電材が使用でき、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素粉末等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
結着材としては、正極活物質や導電材の良好な接触状態を維持し、また、正極集電体表面に対する正極活物質等の結着性を高める公知の結着材が使用でき、例えば、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。フッ素系高分子としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等が挙げられ、ゴム系高分子としては、例えば、エチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、結着材は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の増粘剤と併用されてもよい。
【0034】
[負極]
負極は、例えば金属箔等の負極集電体と、負極集電体上に形成された負極活物質層とで構成される。負極集電体には、銅などの負極の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極活物質層は、例えば、負極活物質、結着材及び増粘剤等を含み、負極活物質として上述の黒鉛粒子を含む。
【0035】
負極は、例えば負極集電体上に負極活物質、結着材及び増粘剤等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延して負極活物質層を集電体の両面に形成することにより作製できる。負極集電体の厚さは、集電性、機械的強度等の観点から、5μm以上40μm以下が好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。
【0036】
本実施形態に係る負極は、リチウムイオンを吸蔵・放出する負極活物質として、圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子を含有する。このように負極活物質として圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子を用いることにより、負極合材スラリーの乾燥塗膜の圧延により残留した応力が緩和して、電極体の外周面に設けた負極の露出部を電極体の径方向外側に押し付ける力が強く働く。その結果、当該露出部と負極端子である電池ケース本体の内周面との接触状態を良好に維持され、電池の内部抵抗が低減されると考えられる。また、黒鉛粒子の圧縮強度の上限は特に制限されないが、例えば極板の圧延に必要なプレス圧の観点から30MPa以下が好ましい。
【0037】
本開示において黒鉛粒子の圧縮強度とは、室温で黒鉛粒子の中心方向に向かって所定の荷重負荷速度で荷重を加え、黒鉛粒子a1を粒径(体積平均粒径)が10%変位するまで変形させたときの圧縮力(MPa)を意味する。黒鉛粒子の圧縮強度は、例えば微小圧縮試験機(島津製作所製、MCT-211)等の公知の圧縮試験装置を用いて測定すればよい。
【0038】
本実施形態に係る黒鉛粒子は、非水電解質二次電池の負極活物質として従来使用されている黒鉛系材料を使用すればよく、例えば塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、並びに、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛を用いることができる。
【0039】
本実施形態の圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子は、例えば、芯材となるコークスや天然黒鉛などの炭素材料をタール又はピッチに浸漬させ、それを不活性雰囲気で900~1300℃で熱処理した上で、1800℃~3000℃で黒鉛化処理をする際、揮発分を適宜コントロールすることで、目的の圧縮強度の黒鉛粒子が得られる。また、黒鉛化処理した黒鉛化物に衝撃を加えたり、剪断力を加えることにより調整することができ、具体的な方法としては、例えば黒鉛化物を不活性雰囲気下で粉砕する方法が挙げられる。粉砕方法としてはハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等を用いることができる。また、黒鉛粒子の表面を石炭系または石油系のピッチでコートすることでも粒子強度が向上する。また、これら人造黒鉛だけではなく、圧縮強度が15MPa以上である天然黒鉛を使用してもよい。
【0040】
本実施形態に係る黒鉛粒子は、見かけの表面積S1に対する実測表面積S2の比S2/S1が10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。ここで「見かけの表面積S1」とは、黒鉛粒子を球と見なしたときの、黒鉛粒子の体積平均粒径D50vから求められる球の表面積であり、S1=π×(D50v)2の式で算出される。また、「実測表面積S2」は、実際に測定して得られる黒鉛粒子の表面積であって、例えば、BET法に基づいて測定されるBET比表面積から求めることができる。
【0041】
見かけの表面積S1に対する実測表面積S2の比S2/S1が上記の範囲にある黒鉛粒子を負極活物質として使用することにより、負極合材スラリーの乾燥塗膜の圧延時にかかる応力が黒鉛粒子内の空隙に吸収される割合を低減し、負極活物質層に残留させる応力を増やすことができる。その結果、上述の通り応力緩和により、電極体の外周面に設けた負極の露出部と電池ケース本体の内周面との接触状態をより一層改善し、電池の内部抵抗を低減することができる。
【0042】
黒鉛粒子の見かけの表面積S1に対する実測表面積S2の比S2/S1は、例えば下記式に従って求めることができる。
S2/S1=η×ρ×D50v/6
上記式中、ηは黒鉛粒子のBET比表面積であり、ρは黒鉛の真密度であり、D50vは黒鉛粒子の体積平均粒径である。黒鉛粒子のBET比表面積(η)は、公知の方法で測定すればよく、例えば、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、Macsorb(登録商標)HM model-1201)を用いて測定すればよい。本実施形態では、比S2/S1の計算において、黒鉛の真密度(ρ)を2.26g/cm3とした。黒鉛粒子の体積平均粒径(D50v)は、例えば、レーザー回折散乱法で測定される黒鉛粒子の粒度分布における体積積算値50%での粒径であり、例えばレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定すればよい。
【0043】
負極活物質として使用する黒鉛粒子の見かけの表面積S1に対する実測表面積S2の比S2/S1は、例えば、黒鉛の作成過程で、芯材となるコークスや天然黒鉛などの炭素材料をタール又はピッチに浸漬させる際に芯材とタール又はピッチの比率を適宜変更することによって調整できる。
【0044】
また、本実施形態に係る黒鉛粒子の体積平均粒径(D50v)は、例えば5μm以上30μm以下であり、好ましくは10μm以上25μm以下である。
【0045】
負極合材層は、負極活物質として、本実施形態に係る黒鉛粒子以外に、例えば、金属リチウム、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-鉛合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-スズ合金等のリチウム合金、圧縮強度が15MPa未満である黒鉛、コークス、有機物焼成体等の炭素材料、SnO2、SnO、TiO2等の金属酸化物等を含有していてもよい。初回充放電サイクル時等における負極活物質の応力緩和を図る観点から、本実施形態の圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子が、負極活物質の総量の50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましい。
【0046】
結着材としては、例えば、正極の場合と同様に、フッ素系高分子、ゴム系高分子等を用いてもよく、また、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いてもよい。
【0047】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等が挙げられる。これらは、1種単独でもよし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解した電解質塩とを含む。非水電解質に用いる非水溶媒としては、例えば、エステル類、エーテル類、ニトリル類、ジメチルホルムアミド等のアミド類、及びこれらの2種以上の混合溶媒等を用いることができ、また、これら溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を用いることもできる。これらは1種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。また、非水電解質は、液体電解質(非水電解液)に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。
【0049】
本実施形態では、非水電解質がフッ素化環状カーボネートを含有することが好ましい。非水電解質としてフッ素化環状カーボネートを用いることにより、初回充放電時に、負極上にフッ素化環状カーボネートに由来する被膜(SEI被膜)が形成される。このように電池の初回充放電時における負極上での被膜形成と、上述の負極活物質の膨張収縮による応力緩和作用との相乗効果により、内部抵抗を低減する効果の製造個体毎のばらつきを抑制し、低抵抗の電池をより均一な品質で製造することができる。
【0050】
フッ素化環状カーボネートは、少なくとも1つのフッ素を含有している環状カーボネートであれば特に制限されるものではなく、例えば、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)、1,2-ジフルオロエチレンカーボネート、1,2,3-トリフルオロプロピレンカーボネート、2,3-ジフルオロ-2,3-ブチレンカーボネート、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2,3-ブチレンカーボネート等が挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上を組み合わせてもよい。これらの中では、本発明構成における抵抗の安定性の観点等から、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)が特に好ましい。この理由は定かではないが、モノフルオロエチレンカーボネートによって、黒鉛表面に生成される被膜の硬度が特に高いためではないかと考えられる。
【0051】
フッ素化環状カーボネートの含有量は、例えば非水電解質の総量に対して1体積%以上30体積%以下が好ましく、2体積%以上20体積%以下がより好ましい。フッ素化環状カーボネートの含有量が低すぎると、初回充放電時に形成されるフッ素化環状カーボネート由来の被膜の生成量が少なくなり、負極の露出部と金属ケース本体との電気的接触を改善する効果が低下する場合がある。また、フッ素化環状カーボネートの含有量が高すぎると、負極上に形成される当該被膜の熱的安定性が低下する場合がある。
【0052】
非水電解質に含まれるエステル類としては、環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、カルボン酸エステル類が例示できる。環状カーボネート類としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等が挙げられる。鎖状カーボネート類としては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられる。
【0053】
カルボン酸エステル類としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等が挙げられる。
【0054】
非水電解質に含まれる環状エーテル類としては、例えば、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、フラン、2-メチルフラン、1,8-シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0055】
非水電解質に含まれる鎖状エーテル類としては、例えば、1,2-ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o-ジメトキシベンゼン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1-ジメトキシメタン、1,1-ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0056】
非水電解質に含まれるニトリル類としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、n-ヘプタンニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、1,2,3-プロパントリカルボニトリル、1,3,5-ペンタントリカルボニトリル等が挙げられる。
【0057】
非水電解質に含まれる電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。リチウム塩は、従来の非水電解質二次電池において一般に使用されている支持塩等であればよい。リチウム塩の例としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、LiSCN、LiCF3SO3、LiC(C2F5SO2)、LiCF3CO2、Li(P(C2O4)F4)、Li(P(C2O4)F2)、LiPF6-x(CnF2n+1)x(1≦x≦6、nは1又は2)、LiB10Cl10、LiCl、LiBr、LiI、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、Li2B4O7、Li[B(C2O4)2][リチウム-ビスオキサレートボレート(LiBOB)]、Li[B(C2O4)F2]等のホウ酸塩類、Li[P(C2O4)F4]、Li[P(C2O4)2F2]、LiN(FSO2)2、LiN(ClF2l+1SO2)(CmF2m+1SO2){l、mは0以上の整数}等のイミド塩類等が挙げられる。リチウム塩は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0058】
[セパレータ]
セパレータには、例えば、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シート等が用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータは、セルロース繊維層及びオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂繊維層を有する積層体であってもよい。また、ポリエチレン層及びポリプロピレン層を含む多層セパレータであってもよく、セパレータの表面にアラミド系樹脂、セラミック等の材料が塗布されたものを用いてもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本開示を更に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
[正極の作製]
正極活物質として、一般式LiNi0.8Co0.15Al0.05O2で表されるリチウム複合酸化物を用いた。当該正極活物質が100質量%、導電材としてのアセチレンブラックが1質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンが0.9質量%となるように混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて正極合材スラリーを調製した。次いで、正極合材スラリーを厚さ15μmのアルミニウム製の正極集電体の両面にドクターブレード法により塗布した。正極合材スラリーの塗膜を乾燥させた後、これを所定の電極サイズに切り取り、圧延ローラを用いて乾燥塗膜を圧延した。これにより、正極集電体の両面に厚さ70μmの正極活物質層を有する正極を作製した。
【0061】
[負極の作製]
コークスとピッチバインダーを粉砕混合したのち、1000℃で焼成、次いで3000℃で黒鉛化処理した。これをN2雰囲気下でボールミルにより粉砕し、得られた粉末を分級することで、黒鉛粒子a1を得た。
【0062】
黒鉛粒子a1の圧縮強度を、微小圧縮試験機(島津製作所製、MCT-211)を用いて測定した。圧縮強度の測定では、室温で黒鉛粒子a1の中心方向に向かって荷重負荷速度4.46mN/秒で荷重を加え、黒鉛粒子a1の体積平均粒径が10%変位するまで粒子を変形させたときの圧縮力(MPa)を、当該黒鉛粒子a1の圧縮強度とした。この測定では体積平均粒径が40μm以上60μm以下の粒子を選び、測定を10回行った平均値を圧縮強度とした。その結果、黒鉛粒子a1の圧縮強度は17.8MPaであった。
【0063】
また、比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、Macsorb(登録商標)HM model-1201)及びレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3000)を用いて測定した結果、黒鉛粒子a1のBET比表面積は0.6m2/gであり、黒鉛粒子a1の体積平均粒径は15μmであった。黒鉛粒子a1のBET比表面積及び体積平均粒径から、黒鉛粒子a1の見かけの表面積S1に対する実測表面積S2の比S2/S1は3.4と算出された。
【0064】
黒鉛粒子a1を100質量部、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)1質量部、結着材としてのスチレン-ブタジエン共重合体(SBR)1質量部の比率で混合し、水を加えて負極合材スラリーを調製した。次いで、負極合材スラリーを厚さ10μmの銅製の負極集電体の両面にドクターブレード法により塗布した。このとき、負極集電体の片面のうち長手方向の一方の端部に、負極合材スラリーを塗布しないことにより、負極集電体が露出した露出部を形成した。負極合材スラリーの塗膜を乾燥させた後、これを所定の電極サイズに切り取り、圧延ローラを用いて乾燥塗膜を圧延した。これにより、負極集電体の両面に厚さ80μmの負極活物質層を有するとともに、負極集電体の片面に長手方向の端縁から80mmの幅で形成された露出部を有する負極を作製した。
【0065】
[非水電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、30:30:40の体積比(室温)で混合した。当該混合溶媒に、調製後の非水電解質における濃度が1.3モル/Lとなる量のLiPF6を溶解させて、非水電解質e1を調製した。
【0066】
[非水電解質二次電池の作製]
上記正極にアルミニウムリードを、上記負極にニッケルリードをそれぞれ取り付け、ポリエチレン製のセパレータを介して正極及び負極を巻回することにより、巻回型の電極体を作製した。このとき、電極体の外周面に負極の露出部が配置し、負極集電体が露出するように、正極、負極及びセパレータを巻回する。当該電極体を、外径18mm、高さ65mmの有底円筒形状の電池ケース本体に収容した。このときの電池ケース本体の内径に対する電極体の外径の比率は98%であった。次いで、鉄製の電池ケース本体に非水電解質e1を注入した後、ガスケット及び封口体により電池ケース本体の開口部を封口して、18650型の円筒形非水電解質二次電池A1を作製した。
【0067】
<実施例2>
黒鉛粒子a1と同様に圧縮強度を測定した際に、黒鉛粒子a2の圧縮強度は17.0MPaとなるように、黒鉛粒子の製造工程においてコークスとピッチバインダーを粉砕混合する時間を調整したこと以外は実施例1と同様にして、黒鉛粒子a2を作製した。黒鉛粒子a2について、BET比表面積は1.5m2/gであり、体積平均粒径は15μmであり、見かけの表面積S1に対する実測表面積S2の比S2/S1は8.8と算出された。黒鉛粒子a1に換えて黒鉛粒子a2を使用したこと以外は実施例1と同様にして、円筒形非水電解質二次電池A2を作製した。
【0068】
<比較例1>
黒鉛粒子a1と同様に圧縮強度を測定した際に、黒鉛粒子b1の圧縮強度が11.8MPaとなるように、黒鉛粒子の製造工程においてコークスとピッチバインダーの混合比率及び粉砕混合する時間を調整したこと以外は実施例1と同様にして、黒鉛粒子b1を得た。黒鉛粒子b1について、BET比表面積は1.8m2/gであり、体積平均粒径は22μmであり、見かけの表面積S1に対する実測表面積S2の比S2/S1は14.4と算出された。黒鉛粒子a1に換えて黒鉛粒子b1を使用したこと以外は実施例1と同様にして、円筒形非水電解質二次電池B1を作製した。
【0069】
<比較例2>
黒鉛粒子a1と同様に圧縮強度を測定した際に、黒鉛粒子b2の圧縮強度が2.5MPaとなるように、黒鉛粒子の製造工程においてコークスとピッチバインダーの混合比率及び粉砕混合する時間を調整したこと以外は実施例1と同様にして、黒鉛粒子b2を得た。黒鉛粒子b2について、BET比表面積は3.8m2/gであり、体積平均粒径は23.5μmであり、見かけの表面積S1に対する実測表面積S2の比S2/S1は32.5と算出された。黒鉛粒子a1に換えて黒鉛粒子b2を使用したこと以外は実施例1と同様にして、円筒形非水電解質二次電池B2を作製した。
【0070】
[抵抗測定試験]
上記で作製した実施例及び比較例の各電池を用いて、25℃の温度条件下、充放電電流1It(1Itは電池容量を1時間で放電する電流値であり、ここでは1Itを3000mAとする)、充電終止電圧4.2V、放電終止電圧3Vで充放電を1回行った。次いで、25℃の温度条件下、充放電電流1It、充電終止電圧4.2Vの条件で充電し、この2回目の充電終了時の電池の1kHzにおける交流抵抗を測定した。その結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
<実施例3>
エチレンカーボネート(EC)と、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、20:10:30:40の体積比(室温)で混合した。当該混合溶媒に、調製後の非水電解質における濃度が1.3モル/Lとなる量のLiPF6を溶解させて、非水電解質e2を調製した。非水電解質e1に換えて非水電解質e2を使用したこと以外は実施例1と同様にして、円筒形非水電解質二次電池A3を作製した。
【0073】
[ばらつき測定]
実施例1に記載の方法で製造された5個の円筒形非水電解質二次電池A1と、実施例3に記載の方法で製造された5個の円筒形非水電解質二次電池A3について、それぞれ上記の抵抗測定試験を行った。このとき、測定された内部抵抗値に基づいて標準偏差σを求め、各電池の内部抵抗の製造毎のばらつきを評価した。その結果、測定された1kHzにおける交流抵抗の平均値はいずれの電池も18.0mΩであったが、その標準偏差σは、実施例1の電池A1では8.0×10-3mΩであったのに対して、FECを含む非水電解質e2を用いた実施例3の電池A3では5.0×10-5mΩであった。
【0074】
【0075】
表1に示す通り、圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子a1及びa2を用いた実施例1及び2の電池A1及びA2では、圧縮強度が15MPa未満である黒鉛粒子b1及びb2を用いた比較例1及び2の電池B1及びB2と比較して、顕著に低下した交流抵抗値を示した。これは、巻回型の電極体の外周部に設けた負極集電体の露出部と、負極端子を兼ねる電池ケース本体の内周面との電気的な接触状態がより改善されたことを意味する。
【0076】
また、表2に示す通り、圧縮強度が15MPa以上である黒鉛粒子a1を用い、更に、モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含有する非水電解質e2を用いた実施例3の電池A3では、黒鉛粒子a1を用い、当該FECを含有しない非水電解質e1を用いた実施例1の電池A1と比較して、交流抵抗値の標準偏差σが顕著に低くなり、製造個体毎の交流抵抗値のばらつきを抑制することができた。
【符号の説明】
【0077】
10 非水電解質二次電池(電池)、14 電極体、15 ケース本体、16 封口体、17,18 絶縁板、19 正極リード、20 負極リード、21 張り出し部、22 フィルタ、22a フィルタ開口部、23 下弁体、24 絶縁部材、25 上弁体、26 キャップ、26a キャップ開口部、27 ガスケット、30 正極、31 正極集電体、32 正極活物質層、40 負極、41 負極集電体、42 負極活物質層、43 露出部、50 セパレータ。